説明

耐熱性に優れたポリエステル共重合体組成物の製造法

【課題】 リン系難燃剤が共重合されたボリエステルの融点低下を抑制し、繊維、フィルム、樹脂などの用途に好適に使用することのできる、優れた耐熱性を有するポリエステル共重合体組成物の製造方法の提供。
【解決手段】 エステル化反応もしくはエステル交換反応せしめて反応生成物を生成させる第1段階の反応および該反応生成物を重縮合させる第2段階の反応とを有するポリエステルの製造方法であって、第2段階の反応が完了するまでに、(i)特定のカルボキシホスフィン酸系リン化合物を、得られるポリエステルを構成する酸成分に対して0.1〜10モル%の範囲で添加すること、および(ii)層状化合物を、得られるポリエステル共重合体に対して、0.05〜5重量%の範囲で添加するポリエステル共重合体組成物の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル共重合体組成物の製造法に関するものである。さらに詳しくは融点が高く、耐熱性に優れたポリエステル共重合体組成物の製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種有機高分子材料に対して難燃性の付与が要求され、種々の技術が開発されている。ポリエステルは多くの優れた特性を有するがゆえに繊維、フィルム、樹脂として広く用いられているが、燃焼性が「可燃性」に分類され、空気中で燃焼する。このため従来からポリエステルの難燃性を高める方法が種々開発されている。例えばポリエチレンテレフタレートを主とするポリエステル繊維について説明すると、その難燃性を高める方法として(1)後加工法、(2)ブレンド法、(3)共重合法の3つの方法が知られている。
(1)の後加工法は糸や織編物で処理する方法であり、ハロゲン系難燃剤を浴中法またはパディング法により繊維に吸尽もしくは付着させる方法(特許文献1参照)や、地球環境保全に対する意識の高まりから、より環境負荷の少ない難燃加工技術としてリン系難燃剤を浴中法またはパディング法により繊維に吸尽もしくは付着させる方法(特許文献2参照)が提案されているが、難燃性およびその耐久性が不充分となる傾向がある。(2)のブレンド法は難燃剤をポリエステルの製造段階もしくは紡糸段階でポリマーに練り込む方法は機能の耐久性が共重合法に比較して劣り、無機系改質剤の場合は紡糸フィルター詰りなどの工程通過性の低下、有機改質剤の場合は重合・紡糸時の熱履歴による劣化が問題になるなど技術的に種々の困難性があり、実用化された例は少ない。(3)の共重合法としてはリンを含む共重合性のモノマー(難燃剤)をポリエステル製造段階で反応系に添加してポリエステルにランダムに共重合する方法が実用化されており、この方法によればリンを含む共重合性のモノマーがポリエステル主鎖に直接結合するため、共重合ポリエステルの難燃性が半永久的に持続する利点がある。このようなモノマーとしてはカルボキシホスフィン酸系化合物(特許文献3参照)やホスファフェナンスレン系化合物(特許文献4参照)が提案されている。
【0003】
しかしながら、工業的に実用化されているとはいえ、上記した(3)の共重合法では共重合量の増大に伴って融点が不可避的に低下し、そのためリン系難燃剤共重合ポリエステルの耐熱性が劣ったものになるという問題点があり、改善が望まれていた。
【0004】
一方、ポリエーテルおよび/またはシラン化合物で処理された層状化合物と熱可塑性ポリエステル樹脂とを含有するポリエステル組成物もしくは該層状化合物とリン系難燃剤が共重合されてなる熱可塑性ポリエステル樹脂とを含有するポリエステル組成物より形成されてなる難燃性ポリエステル系繊維が提案されている(特許文献5参照)。しかしながら、特許文献5の層状化合物を用いる方法によってもリン系難燃剤が共重合されたポリエステルでは融点が低下し、その耐熱性は劣ったものであった。
【0005】
【特許文献1】特開昭62−57985号公報
【特許文献2】特開2001−11775号公報
【特許文献3】特公昭53−13479号公報
【特許文献4】特公昭55−41610号公報
【特許文献5】WO2002−086209号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記背景に鑑みなされたもので、その目的は、リン系難燃剤が共重合されたボリエステルの融点低下を抑制し、繊維、フィルム、樹脂などの用途に好適に使用することのできる、優れた耐熱性を有するポリエステル共重合体組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく、上記したカルボキシホスフィン酸系化合物やホスファフェナンスレン系化合物などのリン化合物を共重合したポリエステルに着目して種々検討を行った。その結果、驚くべきことに、ポリエステルの合成反応過程において、共重合性リン化合物として上記カルボキシホスフィン酸系化合物を添加共重合すると共に層状化合物を添加分散させ、しかる後にポリエステルの合成反応を完了することによって、高融点のポリエステル共重合体が初めて得られ、リン系難燃剤共重合ポリエステルの耐熱性を向上させるという本発明の目的が達成できること見出した。かかる高融点化効果は共重合性リン系難燃剤としてホスファフェナンスレン系化合物を用いた場合には得られなかった。さらに、層状化合物を溶融混練法やマスターバッチ法でカルボキシホスフィン酸系化合物共重合体に溶融混練した場合にも該共重合体の融点上昇は認められず、層状化合物をポリエステル共重合体の合成反応過程で添加する場合にのみ高融点化現象が発現することを知見した。本発明はこれらの知見に基づきさらに検討を繰り返した結果完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の耐熱性に優れたポリエステル共重合体組成物の製造法に関するものである。
【0009】
かくして本発明によれば、テレフタル酸もしくはそのエステル形成性誘導体と炭素数2〜4のアルキレングリコールとをエステル化反応もしくはエステル交換反応せしめて反応生成物を生成させる第1段階の反応および該反応生成物を重縮合させる第2段階の反応とを有するポリエステルの製造方法であって、第2段階の反応が完了するまでに、(i)下記一般式(1)
【0010】
【化1】

(上記一般式(1)中、RおよびRはそれぞれ炭素原子数が1〜18のアルキル基、アリール基または水素原子であり、R2は炭素原子数が1〜6のアルキル基またはアリール基であり、Rは飽和、開鎖状または環状のアルキレン基またはアリーレン基である。)
で表わされるカルボキシホスフィン酸系リン化合物を、得られるポリエステルを構成する酸成分に対して0.1〜10モル%の範囲で添加すること、および(ii)層状化合物を、得られるポリエステル共重合体に対して、0.05〜5重量%の範囲で添加するポリエステル共重合体組成物の製造法が提供される。
【0011】
また、本発明の好ましい態様として、カルボキシホスフィン酸系リン化合物の添加時期が、第1段階の反応が実質的に終了してから第2段階の反応を開始するまでの間であること、および層状化合物の添加時期が第1段階の反応開始前から第2段階の反応における反応混合物の固有粘度が0.3dl/gに到達するまでの間であること、層状化合物は、その平均粒径が5〜100nmの範囲にあること、層状化合物が層状ケイ酸塩であることの少なくともいずれかひとつを具備するポリエステル共重合体組成物の製造法も提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高融点を有するがゆえに耐熱性に優れたリン化合物共重合ポリエステル組成物を製造することができ、繊維、フィルム、樹脂などの成形体になした時に、優れた難燃性を有し、かつ良好な物性と耐熱性をもつ成形体を得ることができる。このため、カーテン、インテリア、椅子張りなどのホーム・リビングテキスタイル用途、衣料用途、産業用途などで好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明でいうポリエステルとは、テレフタル酸を主たる二官能性カルボン酸成分とし、炭素数2〜4のアルキレングリコール、すなわちエチレングリコール、ブチレングリコール、トリメテレングリコールなどを主たるグリコール成分とするポリアルキレンテレフタレート系ポリエステルを主たる対象とする。
【0014】
かかるポリエステルは任意の方法によって合成される。通常テレフタル酸とアルキレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如き炭素数1〜4のアルキル基とのテレフタル酸の低級アルキルエステル、すなわちエステル形成性誘導体とアルキレングリコールとをエステル交換反応させるか、又はテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるかしてテレフタル酸のグリコールエステルおよび/又はその低重合体を反応生成物として生成させる第一段階の反応と、第一段階の反応生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第二段階の反応によって製造される。
【0015】
本発明のポリエステル共重合体組成物の製造方法では、下記一般式(1)で表わされるカルボキシホスフィン酸系のリン化合物を第2段階の反応が完了するまでに添加して、ポリエステルにリン化合物を共重合する。
【0016】
【化2】

【0017】
上記一般式(1)中、RおよびRはそれぞれ炭素原子数が1〜18のアルキル基、アリール基または水素原子であり、Rは炭素原子数が1〜6のアルキル基またはアリール基であり、Rは飽和、開鎖状または環状のアルキレン基またはアリーレン基を表わす。なお、RおよびRが水素原子のときには、カルボキシホスフィン酸が無水物となっていても差し支えない。
【0018】
かかるカルボキシホスフィン酸系リン化合物の好ましい具体例としては下記式(a)〜(e)で表わされる化合物があげられる。
【0019】
【化3】

【0020】
上記例示化合物のうち(a)および(b)はRがアルキル基であって、カルボキシフォスフィン酸が環状無水物となったものであり、(c)、(d)および(e)はRがアリール基のものである。
【0021】
上記のカルボキシホスフィン酸系リン化合物の共重合量は、ポリエステルを構成する酸成分に対して0.1〜10モル%の範囲であり、好ましく0.5〜7モル%の範囲、より好ましくは1.0〜5.0モル%の範囲である。このカルボキシホスフィン酸系リン化合物の共重合量があまりに少ないと得られるポリエステル共重合体組成物の難燃性などの特性が不充分なものになり、逆にリン化合物の共重合量が多すぎると強度などの物性や耐熱性が不足するようになる。
【0022】
本発明のポリエステル共重合体組成物の製造方法では、さらに層状化合物を前述の第2段階の反応が終了するまでの間にポリエステルの反応系に添加することが必要である。層状化合物とは、二次元的に強く結合した原子が板状の層を作り、この層が積み重なって、結晶になった化合物であり、層と層の結びつきが弱いために、層間にイオンや分子を取り込み易く、また層間の剥離が可能であるという特徴を持っている。
【0023】
本発明において使用される層状化合物としては、ケイ酸塩、リン酸ジルコニウムなどのリン酸塩、チタン酸カリウムなどのチタン酸塩、タングステン酸ナトリウムなどのタングステン酸塩、ウラン酸ナトリウムなどのウラン酸塩、バナジウム酸カリウムなどのバナジウム酸塩、モリブデン酸マグネシウムなどのモリブデン酸塩、ニオブ酸カリウムなどのニオブ酸塩、黒鉛からなる群より選択される1種以上の化合物があげられる。なかでも、入手の容易性、取り扱い性の点から層状ケイ酸塩が好ましい。
【0024】
上記の層状ケイ酸塩としては、主として酸化ケイ素の四面体シートと主として金属水酸
化物の八面体シートから形成され、たとえば、スメクタイト族粘土および膨潤性雲母などがあげられる。
【0025】
上記スメクタイト族粘土は下記一般式(2)で表わされる、天然または合成されたものである。
【0026】
0.20.610(OH)・nHO ・・・(2)
【0027】
上記一般式(2)中、XはK、Na、1/2Caおよび1/2Mgからなる群より選ばれる1種以上であり、YはMg、Fe、Mn、Ni、Zn、Li、AlおよびCrからなる群より選ばれる1種以上であり、ZはSiおよびAlからなる群より選ばれる1種以上(但し、ZがAlだけの場合を除く)である。なお、HOは層間イオンと結合している水分子を表わすが、nは層間イオンおよび相対湿度に応じて著しく変動する。
【0028】
かかるスメクタイト族粘土の具体例としては、たとえば、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、鉄サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイト、ベントナイトなど、またはこれらの置換体、誘導体あるいはこれらの混合物があげられる。なかでも、層状化合物の層間の剥離性、ポリエステル共重合体組成物中における微分散性の点でモンモリロナイト、ヘクトライト、ベントナイトが好ましい。
【0029】
また、膨潤性雲母は下記一般式(3)で表わされる、天然または合成されたものである。
【0030】
0.51.0(Z10)(F、OH) ・・・(3)
【0031】
上記一般式(3)中、XはLi、Na、K、Rb、Ca、BaおよびSrからなる群より選ばれる1種以上であり、YはMg、Fe、Mn、Ni、LiおよびAlからなる群より選ばれる1種以上であり、ZはSi、Ge、Fe、BおよびAlからなる群より選ばれる1種以上(但し、ZがGe、Fe、BおよびAlだけの場合を除く)である。これらは、水、水と任意の割合で相溶する極性溶媒または水と前記極性溶媒の混合溶媒中で膨潤する性質を有する。たとえば、リチウム型テニオライト、ナトリウム型テニオライト、リチウム型四ケイ素雲母、ナトリウム型四ケイ素雲母など、またはこれらの置換体、誘導体あるいはこれらの混合物があげられる。なかでも、層状化合物の層間の剥離性、ポリエステル共重合体組成物中における微分散性の点でリチウム型四ケイ素雲母、ナトリウム型四ケイ素雲母が好ましい。
【0032】
上記の膨潤性雲母の中には、バーミキュライト類と似通った構造を有するものもあり、このようなバーミキュライト類相当品なども使用し得る。前記バーミキュライト類相当品には3八面体型と2八面体型がある。ここで、3八面体型とは、金属イオンを6つのOHまたはO2−が囲んだ八面体が稜を共有して2次元的に広がった八面体シートのうち、2価の金属イオンを含む八面体の金属イオン位置すべてが満席になっているものをいい、2八面体型とは3価の金属イオンを含む八面体のように八面体の金属イオン位置の3分の1が空席になっているものをいう。
【0033】
上記の層状ケイ酸塩の結晶構造は、板状の結晶構造を有しており、板状結晶の面内の相互に直交する二軸をそれぞれa軸およびb軸といい、板状結晶面に垂直に交差する軸をc軸という。本発明においては、c軸方向に規則正しく積み重なった純粋度が高いものが好ましいが、結晶周期が乱れ、複数種の結晶構造が交じり合った、いわゆる混合層鉱物も使用され得る。
【0034】
上記の層状ケイ酸塩は1種のみを単独で用いても、2種以上併用してもよい。なかでも、モンモリロナイト、ベントナイト、ヘクトライトまたは層間にナトリウムイオンを有する膨潤性雲母を好ましいものとして挙げることができる。
【0035】
上記のカルボキシホスフィン酸系リン化合物および層状化合物の添加は、それぞれ前述したポリエステルの合成が完了するまでの任意の段階において、任意の順序で行われる。上記リン化合物は、例えば第1段階の反応開始前、反応中、反応終了後、第2段階の反応中等の任意の段階で添加し、添加後重縮合反応を完結することによってポリエステルに共重合される。しかし、該リン化合物はポリエステル合成の第1段階や第2段階の反応を阻害する傾向があるので、該リン化合物の添加時期は第1段階の反応におけるジカルボン酸のグリコールエステルの生成反応が実質的に終了した段階以降、第2段階の反応を開始する段階以前の任意の時期にするのが好ましい。
【0036】
また、本発明における上記層状化合物の添加時期は、ポリエステルの合成反応が完了するまでの任意の段階である必要がある。層状化合物をポリエステル共重合体に混練機を用いて溶融混練する溶融混合法や層状化合物を高濃度に含有するマスターバッチをポリエステル共重合体に溶融混練するマスターバッチ法では、本発明のようなポリエステル共重合体の融点上昇効果は得られず、ポリエステル共重合体の耐熱性は改善されない。該層状化合物の添加方法としては、層状化合物と分散媒とを予め公知の湿式攪拌機を用いて攪拌混合して分散液となし、前述したポリエステルの合成が完了する以前の任意の段階で添加すればよい。好ましくは第2段階の反応があまりに進行した段階で添加すると、層状化合物粒子の凝集、粗大化が生じ易くなる傾向があるので、第2段階の反応における反応混合物の固有粘度が0.3dl/gに到達するまでの間に添加するのが好ましい。この際、分散媒としてはエチレングリコールなどの極性溶媒が好ましく採用される。また該湿式攪拌機としては、攪拌翼が高速回転して攪拌する高速攪拌機、高剪断断速度がかかっているローターとステーター間の間隙で試料を湿式粉砕する湿式ミル類、硬質媒体を利用した機械的湿式粉砕機類、ジェットノズルなどで試料を高速度で衝突させる湿式衝突粉砕機類、超音波を用いる湿式超音波粉砕機などが好ましく採用される。
【0037】
上記の層状化合物の添加量はポリエステル共重合体に対して0.03〜5重量%の範囲であり、好ましくは0.05〜3重量%の範囲、さらに好ましくは0.1〜2重量%の範囲である。層状化合物の含有量が0.03重量%より少ないと得られるポリエステル共重合体の高融点化効果が不充分となって耐熱性の改善効果が不足するようになり、逆に5重量%を超えると最終的に得られる繊維などの成形体の物性や成形性が低下するようになる。
【0038】
かかる層状化合物はポリエステル共重合体組成物中において、後述の透過型電子顕微鏡観察で1000個の層状化合物の面積円相当径を求めた、それらの平均値である平均粒径が5〜100nm、さらに7〜60nm、特に10〜30nmの範囲にあることが好ましい。この平均粒径が上限を超えると、高融点化効果が不充分になったり、得られる繊維などの成形体の物性や成形性が低下する傾向がみられ、他方下限未満であるとポリエステル共重合体組成物の溶融粘度が過大となるため、ポリエステル共重合体の固有粘度を高めることが困難となり、得られる繊維などの成形体の物性や成形性が低下しやすい。
【0039】
本発明のポリエステルの製造方法では、さらに必要に応じて任意の添加剤、たとえば着色防止剤、耐熱剤、艶消剤、着色剤等を添加してもよい。
【0040】
本発明のポリエステルの製造方法で得られたポリエステル共重合体組成物は、TGA熱重量測定装置を用いた分析において窒素雰囲気下において室温から10℃/分の昇温速度で加熱したときの600℃到達時点における加熱残分量が15重量%以上、かつ空気雰囲気下において室温から10℃/分の昇温速度で加熱したときの減量開始温度が405℃以上であることが耐ドリップ型の難燃性を得る上で好ましい。
【0041】
本発明のポリエステルの製造方法で得られたポリエステル共重合体組成物を成形するには、格別の方法を採用する必要はなく、通常のポリエステルの溶融成形法が任意に採用される。たとえば、繊維になす場合、紡出する繊維は中空部を有しない中実繊維であっても、中空部を有する中空繊維であってもよい。また紡出する繊維の横断面における外形や中空部の形状は、円形であっても異形であってもよい。製糸方法としては、500〜2500m/分の速度で紡糸し、延伸,熱処理する方法、1500〜5000m/分の速度で紡糸し、延伸,仮撚加工を同時に又は続いて行う方法、5000m/分以上の高速で紡糸し、用途によっては延伸工程を省略する方法等の製糸条件を任意に採用すればよい。その際、繊維繊度は特に限定する必要はない。
【0042】
本発明のポリエステル共重合体組成物の製造方法で得られるポリエステル共重合体組成物は、フィルムやシート等の成形物にすることもでき、その際任意の成形条件を採用することができる。例えば製膜後一方向のみに張力をかけて異方性を持たせる方法、同時に又は任意の順序で二方向に延伸する方法、二段以上の多段延伸する方法等任意の条件が採用される。
【0043】
かくして本発明によれば、高融点を有するがゆえに耐熱性に優れたリン化合物共重合ポリエステル組成物を製造することができ、繊維、フィルム、樹脂などの成形体になした時に、リン化合物による優れた難燃性を有しつつも、良好な物性と耐熱性をもつ成形体とすることができる。このため、カーテン、インテリア、椅子張りなどのホーム・リビングテキスタイル用途、衣料用途、産業用途などで好適に用いることができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例および比較例をあげて本発明を具体的に説明する、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の部および%はそれぞれ重量部および重量%を示す。また、各測定値は以下の方法で測定される値である。
(1)ポリエステル共重合体の固有粘度:
ポリエステル共重合体の固有粘度は35℃のオルソクロロフェノール溶液で測定した値から求めた。
(2)融点
示差走査熱量計(TA Instruments社製DSC2200Differential Scanning Calorimeter)を用いて、20℃/分の昇温速度で280℃まで昇温した試料を0℃に冷却した試験管中で急冷し、非晶状態にした試料をさらに20℃/分の昇温速度で昇温し、JIS K7121に準じて融解ピーク温度を測定して融点とした。
(3)減量開始温度:
TGA熱重量測定装置(メトラートレド社製熱重量測定装置TGA851e)を用い、乾燥ポリマー試料を空気雰囲気下で室温から10℃/分の昇温速度で加熱したときの熱重量曲線を測定し、JIS K 7120に従って減量開始温度を求めた。
(4)600℃到達時点における加熱残分量:
TGA熱重量測定装置(メトラートレド社製熱重量測定装置TGA851e)を用いた分析において、乾燥ポリマー試料を窒素雰囲気下で室温から10℃/分の昇温速度で加熱したときの600℃到達時点における加熱残分量を室温における測定開始時の試料重量に対する値で表示した。
(5)層状化合物の平均粒径:
チップ状態の樹脂組成物は、そのチップ状に成形する際の樹脂組成物の押出方向に直交する方向に、それぞれ存在する層状化合物の平均粒径より大きく、その平均粒径の数倍程度の厚さ以内、すなわち数十nmないし数百nmの厚みにウルトラミクロトームでスライスする。なお、樹脂組成物が繊維の場合は繊維軸方向に直交する方向、また樹脂組成物がフィルムや中空成形体などの場合は、製膜もしくは成形するときの押出方向に直交する方向にウルトラミクロトームでスライスする。そのスライスした超薄切片を透過型電子顕微鏡で数千倍〜10万倍程度に拡大して、層状化合物1000個について個々の面積円相当径を求め、それらの平均値を層状化合物の平均粒径とした。
【0045】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100部、エチレングリコール60部、酢酸マンガン4水塩0.06部(テレフタル酸ジメチルに対して0.03モル%)および整色剤として酢酸コバルト4水塩0.004部(テレフタル酸ジメチルに対して0.003モル%)をエステル交換缶に仕込み、窒素ガス雰囲気下4時間かけて140℃から220℃まで昇温して生成するメタノールを系外に留去しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応終了後、安定剤としてリン酸トリメチル0.026部(テレフタル酸ジメチルに対して0.036モル%)を加えた。次いで10分後に三酸化アンチモン0.04部(テレフタル酸ジメチルに対して0.027モル%)を添加し、さらにその10分後に、予めビーズ式湿式微粒分散粉砕機を用いて攪拌速度1700rpm下3時間循環処理して調製した層状化合物(コープケミカル株式会社製、商品名:スメクタイトSWN)の2%エチレングリコール分散液25部(ポリエステル共重合体に対して層状化合物の固形分の重量が0.49%)を添加した。同時に過剰のエチレングリコールを追出しながら240℃まで昇温した後重合缶に移した。
【0046】
重合缶に上記式(a)で示されるリン化合物の50%エチレングリコール溶液6.0部(テレフタル酸ジメチルに対して4.3モル%)を添加した後、1時間かけて760Torrから1Torrまで減圧し、同時に1時間30分かけて240℃から280℃まで昇温した。1Torr以下の減圧下、重合温度280℃で更に2時間重合を行った。得られたポリマーを常法に従ってチップ化した。
【0047】
このチップの固有粘度、融点、減量開始温度および600℃到達時点における加熱残分量を測定した。結果は表1に示した通りであった。
【0048】
また、このチップを常法に従って乾燥後、孔径0.3mmの円形紡糸孔を24個穿設した紡糸口金を使用して285℃で溶融紡糸し、紡糸速度1400m/分で引取り、未延伸糸を得た。次いで得られた未延伸糸を、最終的に得られる延伸糸の伸度が30%になるような延伸倍率にて84℃の加熱ローラーと180℃のプレートヒーターを使って延伸熱処理して84デシテックス/24フィラメントで強度は4.2cN/dtexの延伸糸を得た。得られた延伸糸を試料として繊維中のスメクタイトSWNの分散状態を透過型電子顕微鏡で観察した。層状化合物の粒径は6nm〜60nmの範囲で板状に分散しており、平均粒径は28.3nmあった。
【0049】
[実施例2〜6および比較例1〜3]
実施例1において使用した層状化合物の使用量を表1記載の量とする以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0050】
[実施例7]
実施例1において使用したカルボキシホスフィン酸系リン化合物の添加量を50%エチレングリコール溶液として2.0部(テレフタル酸ジメチルに対して1.4モル%)とする以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示した。
【0051】
[比較例4]
比較例1において使用したリン化合物の添加量を50%エチレングリコール溶液として2.0部(テレフタル酸ジメチルに対して1.4モル%)とする以外は比較例1と同様に行った。結果を表1に示した。
【0052】
[比較例5]
実施例1において使用したカルボキシホスフィン酸系のリン化合物に代えて下記式で表わされるホスファフェナンスレン系リン化合物の63%エチレングリコール溶液15.4部(テレフタル酸ジメチルに対して4.3モル%)を添加する以外はそれぞれ実施例1と同様に行った。結果は表1に示した通りであった。
【0053】
【化4】

【0054】
[比較例6]
比較例5において層状化合物を添加しない以外は比較例5と同様に行った。結果を表1に示した。比較例6のポリエステル共重合体の融点は比較例3よりもむしろ高く、比較例5のホスファフェナンスレン系リン化合物を使用する場合には、スメクタイトSWNを添加することによる高融点化現象は認められなかったことが分かる。
【0055】
[比較例7]
比較例1のチップ99.8部と有限会社 昭和窯材製のナノクレイ(商品名:PK―805)0.2部とを二軸押し出し機を使用して285℃の温度で溶融混練を行い、上記リン化合物が4.3モル%共重合されかつナノクレイを0.2%含むチップを作製した。結果は表1に示した通りであり、実施例4のチップと同一組成であるにも係わらず、高融点化現象は起こらなかった。
【0056】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、高融点を有するがゆえに耐熱性に優れたリン化合物共重合ポリエステルを製造することができ、繊維、フィルム、樹脂などの成形体になした時に、優れた難燃性を有し、かつ良好な物性と耐熱性をもつ成形体を得ることができる。このため、カーテン、インテリア、椅子張りなどのホーム・リビングテキスタイル用途、衣料用途、産業用途などで好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸もしくはそのエステル形成性誘導体と炭素数2〜4のアルキレングリコールとをエステル化反応もしくはエステル交換反応せしめて反応生成物を生成させる第1段階の反応および該反応生成物を重縮合させる第2段階の反応とを有するポリエステルの製造方法であって、第2段階の反応が完了するまでに、(i)下記一般式(1)で表わされるカルボキシホスフィン酸系リン化合物を、得られるポリエステルを構成する酸成分に対して0.1〜10モル%の範囲で添加すること、および(ii)層状化合物を、得られるポリエステル共重合体に対して、0.05〜5重量%の範囲で添加することを特徴とするポリエステル共重合体組成物の製造法。
【化1】

(上記一般式(1)中、RおよびRはそれぞれ炭素原子数が1〜18のアルキル基、アリール基または水素原子であり、R2は炭素原子数が1〜6のアルキル基またはアリール基であり、Rは飽和、開鎖状または環状のアルキレン基またはアリーレン基である。)
【請求項2】
カルボキシホスフィン酸系リン化合物の添加時期が、第1段階の反応が実質的に終了してから第2段階の反応を開始するまでの間であること、および層状化合物の添加時期が第1段階の反応開始前から第2段階の反応における反応混合物の固有粘度が0.3dl/gに到達するまでの間である請求項1記載のポリエステル共重合体組成物の製造法。
【請求項3】
層状化合物は、その平均粒径が5〜100nmの範囲にある請求項1または2に記載のポリエステル共重合体組成物の製造法。
【請求項4】
層状化合物が層状ケイ酸塩である請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリエステル共重合体組成物の製造法。

【公開番号】特開2008−308600(P2008−308600A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158526(P2007−158526)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】