説明

耐熱性を提供する防護服

本質的に耐炎性の繊維の組成物と、空気の断熱ポケットを有する間隙とを含み、空気の少なくとも一部が機械加工工程を通じて間隙内に組み込まれる、耐熱性防護布帛(22)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概略的に防護服および防護布帛に関し、特に耐熱性防護服および布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
いくつかの職業では、労働者が熱および火炎にさらされることを必要とする。このような条件で作業する間に負傷することを避けるために、労働者は特殊な耐炎性材料から構成される防護服を着用するとよい。防護服は、つなぎ服、ズボン、またはジャケットをはじめとする様々な衣料品であってもよい。
【0003】
例えば消防士は、通常、出動装具と一般に称される防護服を着用する。出動装具は、例えば極端な熱から断熱するサーマルライナー、服内への水の侵入を防止する中間水分バリア、および火炎および摩耗から保護するアウターシェルを含むいくつかの層を有することができる。
【0004】
他の事例では、防護服は、耐炎性材料の単層を含んでなってもよい。単層防護服は、石油産業労働者および作業員、鋳物産業労働者、溶接工、およびレーサーなどの産業労働者によって着用されてもよい。さらに、このような防護服は、軍隊職務または都市部捜索救助職務を果たす個人によって着用されてもよい。
【0005】
防護服の耐熱性は、服中に提供される断熱材の量を増大させることで改善されてもよい。しかし、断熱材の増加は、通常、服重量の増大に等しい。あいにくこのような重量増大は、服が高温環境で着用される際に、着用者の疲労および熱中症の危険性を増大させるかもしれない。さらに、より嵩高い防護服は、着用者の可動性を低下させるかもしれない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した考察から、比較的耐熱性であり、また比較的軽量およびフレキシブルでもある防護服に対する明らかな必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
耐熱性防護布帛は、本質的に耐炎性の繊維の組成物と、空気の断熱ポケットを有する間隙とを含み、空気の少なくとも一部は機械加工工程を通じて間隙内に組み込まれる。
【0008】
別の実施形態では、耐熱性防護布帛は、1つ以上の層、本質的に耐炎性の繊維の組成物を有する少なくとも1つの層、および空気の断熱ポケットを有する間隙を含み、空気の少なくとも一部は機械加工工程を通じて間隙内に組み込まれる。
【0009】
別の実施形態では、耐熱性防護布帛によって提供される耐熱性を向上させる方法は、布帛を機械加工して布帛内の間隙内に空気を組み込むステップと、布帛を含む耐熱性防護服を構成するステップを含み、耐熱性防護服は向上した耐熱性を有する。
【0010】
別の実施形態では、耐熱性防護服の曲げ剛性を低下させる方法は、布帛を機械加工して布帛内の間隙内に空気を組み込むステップと、布帛を含む耐熱性防護服を構成するステップを含み、耐熱性防護服は向上した耐熱性を有する。
【0011】
以下の図面および詳細な説明を検討することで、開示される布帛および服のその他のシステム、装置、特徴、および利点は、当業者には明らかであろう、または明らかになるであろう。このような全ての追加的システム、装置、特徴、および利点は、この説明内に含まれることが意図され、本発明の範囲内に含まれることが意図され、添付の特許請求の範囲によって保護されることが意図される。
【0012】
開示される防護服および布帛は、以下の図面を参照してより良く理解することができる。図面中の構成要素は、必ずしも縮尺通りではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
上述したように、耐熱性でありながら比較的軽量でフレキシブルな防護服を提供することが望ましい。後述するように、このような服は、防護服の少なくともいくつかの布帛を機械加工することで製造することができる。このような機械加工は、空気の断熱ポケットを有する追加的な、および/または拡大された組織内空隙を布帛中に作り出す。空気の断熱ポケットは、対応する重量または布帛嵩の増大なしに向上した耐熱性を提供する。
【0014】
図1は、防護服の実施例を示す。より詳しくは、図1は、コートの形をした消防士出動装具10を示す。しかし、本開示は、消防士出動装具またはコートに限定されるものではなく、むしろ、全般に防護服および防護服が含む布帛に関する。出動装具コートが例示の目的で図示されているが、本明細書に記載される原理は、耐熱性を提供することが意図されるその他の防護服の布帛に適用することができる。
【0015】
防護服は、複数層から構成されてもよい。防護服が出動装具10である実施形態では、複数層は、図2に示されるようにアウターシェル12、水分バリア14、およびサーマルライナー16を含んでもよい。アウターシェル12は、通常、例えばアラミド(メタ−アラミドまたはパラ−アラミド)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリピリドビスイミダゾール(PIPD)、FRレーヨン、またはメラミンからできた、本質的に耐炎性の繊維を含む耐炎性および耐摩耗性材料から構成される。FRレーヨンは、繊維が形成される間に難燃剤が繊維中に組み込まれ、したがって難燃剤は洗浄などの工程を通じて繊維から除去することができないため、本質的に耐炎性の繊維と見なされる。
【0016】
水分バリア14は、通常、水不透過性材料層にラミネートされた不織布または織布の耐炎性布帛から構成される。耐炎性布帛は、例えばアラミドまたはメラミンからできた、本質的に耐炎性の繊維を含むことができる。水不透過性材料層は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリウレタン、またはPTFE/ポリウレタン二成分膜であることができる。不透過性層は、サーマルライナー16の方を向くように水分バリア14上に提供されてもよい。
【0017】
サーマルライナー16は、通常、共にキルティングされた、1つ以上の耐熱性材料層を含んでもよい。例えば、サーマルライナー16は、断熱層18および表布帛層20を含んでもよい。断熱層18は、例えばアラミド、メラミン、耐炎性(flame resistant(FR))レーヨン、モダクリル、または炭素繊維からできた、複数の本質的に耐炎性の繊維を含むバットなどの不織材料であってもよい。いくつかの実施形態では、複数の断熱層18を使用してもよい。表布帛層20は、例えばアラミド、メラミン、FRレーヨン、モダクリル、または炭素からできた、本質的に耐炎性の繊維を含む織布材料から構成されてもよい。
【0018】
図1および2は、防護服が複数層を有するように示しているが、防護服は単層を含んでもよい。例えば、産業労働者は、図3に示すような単層22である防護服21を着用してもよい。単層22は、少なくともいくつかの繊維が本質的に耐炎性である、繊維の配合物を有する布帛であってもよい。配合物中に存在してもよい本質的に耐炎性の繊維の例としては、アラミド、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリピリドビスイミダゾール(PIPD)、FRレーヨン、FRモダクリル、炭素、またはメラミンからできた繊維を含む。いくつかの実施形態では、布帛は本質的に耐炎性の繊維のみを含んでもよく、別の実施形態では、布帛は、FRモダクリルと綿の配合物などの本質的に耐炎性の繊維と耐炎性でない繊維との配合物であってもよい。
【0019】
一実施形態では単層22は、アラミド、またはアラミドとFRレーヨンとの配合物からできた繊維を有する布帛であってもよい。例えば、布帛は約100%のメタ−アラミドを有してもよい。あるいは、布帛は約65%のメタ−アラミドおよび約35%のFRレーヨンを有してもよい。他の事例では、布帛は約40%のパラ−アラミドおよび約60%のFRレーヨンを有してもよい。
【0020】
別の実施形態では、単層は、パラ−アラミドと、メタ−アラミド、PBI、PBO、PIPD、またはメラミンのうち1つとからできた繊維を有してもよい。例えば、布帛は、約60%のパラ−アラミド繊維と、約40%のメタ−アラミド、PBI、PBO、PIPD、またはメラミンのうち1つとを有してもよい。なおも別の実施形態では、単層はメタ−アラミドおよびFRモダクリルからできた繊維を有してもよい。例えば、布帛は約50%のメタ−アラミド繊維および約50%のFRモダクリルを有してもよい。
【0021】
パラ−アラミド繊維の例としては、デュポン(DuPont)からのケブラー(KEVLAR)(登録商標)、および帝人からのテクノーラ(TECHNORA)(登録商標)およびトワロン(TWARON)(登録商標)の商標の下に現在入手できるものを含む。メタ−アラミド繊維の例としては、いずれもデュポン(DuPont)によって製造される、ノーメックス(NOMEX)T−450(登録商標)(100%メタ−アラミド)、ノーメックス(NOMEX)T−455(登録商標)(95%ノーメックス(NOMEX)(登録商標)および5%ケブラー(KEVLAR)(登録商標)の配合物)、およびノーメックス(NOMEX)T−462(登録商標)(93%ノーメックス(NOMEX)(登録商標)、5%ケブラー(KEVLAR)(登録商標)、および2%帯電防止炭素/ナイロンの配合物)の商品名の下に販売されるものを含む。メタ−アラミド繊維の例としてはまた、帝人によって製造されるコネックス(CONEX)(登録商標)の登録商標の下に現在入手できる繊維も含む。メラミン繊維の例としては、マッキノン−ランド−モラン有限会社(McKinnon−Land−Moran,LLC)によって製造されるバソフィル(Basofil)(登録商標)繊維を含む。PBO繊維の例としては、東洋紡によって製造されるザイロン(Zylon)(登録商標)繊維を含む。PIPD繊維の例としては、マジェラン・システムズ・インターナショナル・インコーポレーテッド(Magellan Systems International,Inc.)によって製造されるM5(登録商標)繊維を含む。
【0022】
本開示の目的では、ここで材料名が使用される場合、言及される材料は主として指名された材料を含んでなってもよいが、指名された材料に限定されなくてもよい。例えば「メタ−アラミド繊維」という用語は、上述したように、メタ−アラミド材料から構成される繊維に加えて、比較的少量のパラ−アラミド繊維および帯電防止繊維を含む、ノーメックス(NOMEX)(登録商標)T−462繊維を含むことが意図される。
【0023】
上述のように、防護服が形成される前に、服の1つ以上の層が機械加工工程を受けてもよい。機械加工工程は、布帛層に、より「開放性」の構造体を生じるように、布帛層中に組織内空隙を付加し、および/または拡大することで、耐熱性を向上させてもよい。本開示の目的では、「機械加工」工程は、物理的操作を通じて布帛内で繊維の形状または配置を変化させる工程である。具体的には、機械加工は、材料をそれ自体にこすりつけることで、または機械加工機械の構成要素との接触(例えば衝撃)を通じ、屈曲させて広げる。このような機械的操作は繊維間の糸寄りを引き起こし、これは、空気の断熱ポケットを有する布帛の間隙を付加し、および/または拡大することによって特徴づけられる開放構造を有する布帛に衝撃を与えると考えられる。機械加工工程を通じて、追加的な、および/または拡大された間隙内に組み込まれる空気は、布帛の重量または嵩を増大させることなく布帛の厚さを増大させ、熱からの追加的断熱を提供する。
【0024】
布帛構造を開放するために使用してもよい機械加工工程の1つのタイプは、図4に示すような空気圧式推進機械23である。このような機械23内では、送風機などの循環機構24が空気圧式推進チャンバー26を通して圧縮空気の流れを駆動する。チャンバー26内に提供される布帛の連続ロープ28は、圧縮空気の流れによって空気圧式に搬送される。布帛がチャンバー26を出ると、圧縮空気の流れは、機械23の上部に配置された衝撃面30に向けて布帛を進ませる。布帛28は衝撃面30に衝突して、衝撃面から機械底部のチャンバー32内に落ちる。布帛28は、空気圧式推進チャンバー26に布帛28を引き上げるタンブラー36によってチャンバー32から引っ張られる。このようにして、空気圧式推進機械23は、布帛を衝撃面30に向けて繰り返し進ませるように、布帛28を循環する。このようにして布帛28を加工することで、得られた布帛が増大した厚さまたは「綿毛状」を有するように布帛の構造を改変する。
【0025】
適切な空気圧式推進機械の一例は、ビアンカラーニ(Biancalani)からのアイロ(Airo)(登録商標)マシンである。アイロ(Airo)(登録商標)マシンの実施形態は、参照によって本開示に援用する米国特許第4,766,743号明細書に開示される。アイロ(Airo)(登録商標)マシンは、通常、布帛を機械的に軟化するために使用され、弾力性およびドレープ性を改善する。繊維産業では、特性が改善されるときに、布帛を触るとより柔らかく感じられるため、このような特性は一般に「手触り」と称される。
【0026】
図4に関して記載される空気圧式推進工程は機械加工工程のほんの一例であり、その他の機械加工工程を利用して、開放構造を製造してもよい。例えば、機械的操作と化学処理剤浴などの化学処理を組み合わせた工程、または例えば熱および圧力を使用した熱−機械加工を選択してもよい。さらに、タンブル式洗濯乾燥機を使用して布帛を加工してもよく、または噴射水を使用して布帛を加工する機械、またはタンブル動作と組み合わせて空気または水を使用する機械を選択してもよい。
【0027】
上述した空気圧式推進機械およびタンブル式洗濯乾燥機に加えて、その他の機械を使用して、布帛を機械加工してもよい。例えば、使用してもよいバッチ加工機械としては、フライノックス・マルチフィニッシュ(Flainox Multifinish)、マット・コンビソフト(Mat Combisoft)、マット・ローターマット(Mat Rotormat)、およびゾンコ・エオロ(Zonco Eolo)を含む。使用してもよい連続機械としては、マット・テクノプラス(Mat Tecnoplus)、マット・バイブロコンパクト(Mat Vibrocompact)、およびビアンカラーニ・スピラ(Biancalani Spyra)を含む。これらの機械は例として列挙され、その他の機械を使用して機械加工を実施してもよい。
【0028】
布帛の機械加工に必要とされる機械設定は、選択される工程および/または加工する布帛によって変動する。設定は、布帛が洗濯耐久性を失うほどに布帛がすり減ることなく、布帛構造が所望の程度に開放するように選択してもよい。一例として布帛は、約5分〜約120分の範囲の時間にわたり、約20℃〜約170℃の範囲の温度で、約10yd/分〜約1000yd/分の範囲の速度で、空気圧式推進機械を使用して機械加工してもよい。いくつかの実施形態では、布帛は、約30分〜60分の範囲の時間にわたり、約70℃〜約100℃の範囲の温度で、約500yd/分〜約800yd/分の範囲の速度で機械加工してもよい。
【0029】
ビアンカラーニ・アイロ(Biancalani Airo)(登録商標)マシンのように、上記した機械は、布帛によって提供される耐熱性を改善することに加えて、布帛の感触または「手触り」を改善してもよい。機械加工は布帛の硬さまたは剛性を低下させてもよく、布帛の柔軟性を増大させてもよい。したがって、機械加工布帛を有する防護服は、服を着用する個人にとってより快適であってもよい。
【0030】
さらに、上記した機械は、改善された手触りを有し、かつピリングを示しにくい布帛を製造してもよい。例えば、一実施形態では、布帛はピリングを示しにくいムラタ(Murata)紡績糸を有してもよく、布帛を機械加工することで改善された手触りを有し、ピリングを示しにくい布帛を製造してもよい。
【0031】
布帛を機械加工した後、あらゆる所望の布帛仕上げ工程を使用してそれを仕上げてもよい。例えば布帛を染色し、および/またはウィッキング仕上げを施してもよい。次に、布帛を防護服に組み込むのに適した形に切断してもよい。
【0032】
防護服は、服が形成される前に機械加工工程を施された布帛を有する、少なくとも1つの層から構成されてもよい。図3などのように防護服が単層の実施形態では、単層を形成するために使用される布帛は、防護服が構成される前に機械加工してもよい。機械加工の結果として、防護服はより重くなることなく、改善された耐熱性を示すことができ、剛性が少なく着用者にとってより快適とすることもできる。一例として防護服は、約3.0oz/yd〜約15.0oz/ydの範囲内の面積あたりの重量を有する布帛の単層であってもよい。いくつかの実施形態では、防護服は、約4.0oz/yd〜約10.0oz/ydの範囲内の面積あたりの重量を有する布帛の単層であってもよい。
【0033】
防護服が複数層を有する実施形態では、服を構成する前に、少なくとも1つの層を機械加工してもよい。例えば図1のような防護服が出動装具である実施形態では、アウターシェル14およびサーマルライナー16の一方または両方を機械加工してもよい。アウターシェル14が機械加工される実施形態では、出動装具10は、改善された複合材重量あたりの耐熱性、および改善された外側の柔軟性を示す。一例としてアウターシェルは、約4.0oz/yd〜約15oz/ydの範囲内の重量を有してもよい。サーマルライナー16が機械加工される実施形態では、出動装具10は、改善された複合材重量あたりの耐熱性、および改善された内側の柔軟性を示す。一例としてサーマルライナーは、約0.010インチ〜約1.00インチの範囲内の厚さを有してもよく、約1.0oz/yd〜約20oz/ydの範囲内の面積あたりの重量を有してもよい。場合によってはサーマルライナーは、約0.050インチ〜約0.50インチの範囲内の厚さを有してもよく、および約4.0oz/yd〜約10oz/ydの範囲内の重量を有してもよい。
【0034】
いくつかの実施形態では、出動装具10の層は、層内に組み込まれる前に独立して機械加工された構成布帛層を有してもよい。例えば、上述のように、サーマルライナー16は、断熱層18および表布帛層20を有してもよい。断熱層18および/または表布帛層20は、サーマルライナー16を構成する前に個々に機械加工してもよい。あるいは、層18および20を例えばキルティングによって共にアセンブルしてもよく、次にアセンブルされたサーマルライナー16を機械加工してもよい。
【0035】
ひとたび防護服が構成されると、服はその重量と比べて改善された耐熱性を示す。耐熱性を測定するために、製造業者は試験室環境において熱伝達試験を実施してもよい。防護服がNFPA準拠であると標識してもよいように、製造業者はこのような試験をどのように実施するか、およびどのタイプの性能が許容可能であるかに関する指針として、米国防火協会(National Fire Protection Association(NFPA))により公表される試験法を参照してもよい。
【0036】
出動装具10では、このような一試験法は、NFPA 1971:建築物火災消火のための消防服基準(Standard on Protective Ensemble for Structural Fire Fighting)、2000年版で公表される耐熱性性能(TPP)試験法である。NFPA 1971 TPP試験法は、フラッシュ火災条件に曝露した際の出動装具を通じた熱伝達を測定するために使用することができる、試験室卓上試験について概説する。出動装具がNFPA 1971準拠であるための最小TPP評価は、35cal/cmであり、これは装備を着用した消防士が、第2度熱傷を生じる前に、2cal/cmのフラッシュ火災に17.5秒間曝露することができるようにすると考えられる。
【0037】
NFPA 1971に従ったTPP試験を様々な出動装具サンプル(複合材)に対して実施して、上記に従って出動装具の少なくとも1つの層を機械加工する効果を評価した。このような複合材について後述する。サーマルライナー、水分バリア、およびアウターシェルを含む対照複合材を構成した。試験複合材もまた、試験複合材を構成する前に複合材の1層を機械加工したこと以外は、対照複合材と同一材料から同一方法で形成した。第1の複合材である複合材Aは、複合材を構成する前に、空気圧式推進機械を使用してアセンブルしたサーマルライナー層を機械加工したこと以外は、対照複合材と同一材料および同一方法で形成した。第2の複合材である複合材Bは、複合材を構成する前に、空気圧式推進機械を使用してアウターシェル層を機械加工したこと以外は、対照複合材と同一材料から同一方法で形成した。第3の複合材である複合材Cもまた、複合材を構成する前に、空気圧式推進機械を使用してアセンブルしたサーマルライナー層およびアウターシェル層を独立して機械加工したこと以外は、対照複合材と同一材料から同一様式で形成した。
【0038】
NFPA 1971、2000年版、セクション6−10耐熱性性能(Thermal Protective Performance:TPP)試験に従って、各サンプル(すなわち対照複合材、複合材A、複合材B、および複合材C)を試験した。下記の表1から明らかなように、機械加工層の少なくとも1つを含む試験複合材は、対照複合材に比べて改善されたTPP評価を示す。具体的には、機械加工サーマルライナーが含まれるように対照複合材が改変される場合(複合材A)、複合材のTPP評価は7.2%増大する。機械加工アウターシェルが含まれるように対照複合材が改変される場合(複合材B)、複合材のTPP評価は9.0%増大する。サーマルライナーおよびアウターシェルの両方が独立して機械加工されるように対照複合材が改変される場合(複合材C)、複合材のTPP評価は10.8%増大する。したがって、表1の結果は防護服のTPP評価、ひいては耐熱性が、複合材中に少なくとも1つの機械加工層を含むことで向上することができることを裏付ける。
【0039】
NFPA 1971TPP評価を改善することは、複合材の服の平方ヤードあたりの重量の相当量の増大を必要としない。平方ヤードあたりの重量のわずかな増大は、表1に示されるが、この増大は機械加工層の長さおよび幅の緩やかな減少に起因する。したがって、NFPA 1971 TPP評価の改善を、対応する重量増大なしに達成することができ、複合材の服は、実質的に同一重量で改善された耐熱性を、またはより軽量で同一の耐熱性を提供することができる。
【0040】
【表1】

【0041】
層を機械加工することは、層の厚さを増大させることによって耐熱性を向上させる。表2は、このような機械加工サーマルライナーが、機械加工されていない同一のサーマルライナーよりも20.3%厚いことを示す。表2は、機械加工サーマルライナーを含む複合材をNFPA 1971 TPP試験すると、TPP評価は7.2%の増大を示すことをさらに示す。したがって、層を機械加工することは、対応する重量増大なしに厚さが増大することによって明らかであるように、層によって提供される断熱を増大させる。これは厚さ増大が断熱空隙の増大に起因して材料増大に起因しないため、より拘束的になったりまたは熱中症を引き起こしやすくなったりすることなく、服の耐熱性を高めることを可能にする。
【0042】
【表2】

【0043】
単層防護服については、NFPA基準が、NFPA 2112:フラッシュ火災に対する産業労働者保護のための耐炎性服の基準(Standard on Flame−Resistant Garments for Protection of Industrial Personnel Against Flash Fire)、2001年版で公表される。NFPA 1971と同様、NFPA 2112 TPP試験法は、フラッシュ火災条件に曝露した際の単層の服の布帛を通じた熱伝達を測定するために使用することができる、試験室卓上試験について概説する。NFPA 2112試験法は単層の服の布帛に適用されるため、試験法は、TPP試験をスペーサーありまたはなしで実施することを求める。
【0044】
NFPA 2112 TPP試験をサンプル単層保護布帛に対して実施し、上記に従って保護布帛を機械加工する効果を評価した。93%のメタ−アラミド、5%のパラ−アラミド、および2%の帯電防止繊維の配合物を有する繊維である、ノーメックス(NOMEX)IIIA布帛の単層である対照布帛を構成した。対照布帛は機械加工しなかった。機械加工したこと以外は、対照布帛と同一構成要素を有し、同一方法で形成された試験布帛もまた構成した。
【0045】
NFPA 2112、2001年版TPP試験に従って、各布帛を試験した。これらの試験結果を表3に提供する。機械加工された試験布帛は、対照布帛に比べて改善されたNFPA 2112 TPP評価を示した。スペーサーなしでは、試験布帛は対照布帛に比べて11.8%のTPP性能増大を示した。スペーサーありでは、試験布帛は対照布帛に比べて5.6%のTPP性能増大を示した。表3の結果は、TPP評価、ひいては単層防護服によって提供される耐熱性を、防護服の布帛を機械加工することで向上させることができることを示す。
【0046】
表3はまた、対照および試験布帛の平方ヤードあたりの重量を列挙する。表3からわかるように、NFPA 2112 TPP性能を改善するために、平方ヤードあたりの重量の相当量の増大を必要としない。ここでも布帛をわずかに収縮させる機械加工工程のために、布帛の平方ヤードあたりの重量はわずかに増大している。したがって、相当量の重量増大なしにTPP評価の改善を達成することができ、単層防護服は、同一重量で改善された耐熱性を、またはより軽量で同一の耐熱性を提供することができる。
【0047】
【表3】

【0048】
上述のように、機械加工はまた、防護服に付随する硬さも低下させる。硬さは通常、曲げ剛性の観点から測定される。曲げ剛性を定量化する一方法は、参照によってその内容全体を本明細書に援用する、ASTM D 1388−96(2002年)、「布帛の硬さのための標準試験法(Standard Test Method for Stiffness of Fabrics)」ASTMインターナショナル、である。ASTM試験法は、カンチレバー試験機上でカンチレバー試験を実施することを必要とする。カンチレバー試験機は水平面を有し、布帛検体をその前端が規定の角度で水平面の縁から張り出すまで水平面に沿ってスライドさせる。次に、次の式を使用して検体の屈曲長を計算するために、オーバーハング長を測定し、使用する。
c=o/2 [式1]
式中、c=屈曲長(cm)、およびo=オーバーハング長(cm)である。次に検体の単位面積あたりの質量と共に屈曲長を使用して、次の式を使用して検体の曲げ剛性を計算してもよい。
G=W・c [式2]
式中、G=曲げ剛性(mg・cm)、W=単位面積あたりの質量(mg/cm)、およびc=屈曲長(cm)である。
【0049】
ASTM D 1388−96に従って防護服のサンプル層に対して試験を実施して、上記に従って層を機械加工する効果を評価した。防護服の標準アウターシェルおよび標準サーマルバリアの両方を試験した。アウターシェル検体は、機械加工されていない対照アウターシェル検体、および機械加工されているがそのほかの点では対照アウターシェル検体と実質的に同一の試験アウターシェル検体を含んだ。サーマルバリア検体は、機械加工されていない対照サーマルバリア検体、および機械加工されているがそのほかの点では対照サーマルバリア検体と実質的に同一の試験サーマルバリア検体を含んだ。ASTM D 1388−96に従って、シャーリー(Shirley)硬さ試験機を使用して、各検体にカンチレバー試験を実施した。各検体についてオーバーハング長および単位面積あたりの質量を測定し、曲げ剛性を計算した。
【0050】
試験結果を表4に示す。表4で示されるように、機械加工されたアウターシェル検体は、対照アウターシェル検体と比較して80%の曲げ剛性の平均値の低下を示した。
【0051】
【表4】

【0052】
サーマルバリア試験および計算の結果を表5に示す。機械加工されたサーマルバリア検体は、対照サーマルバリア検体と比較して57%の曲げ剛性の平均値の低下を示した。
【0053】
【表5】

【0054】
したがって、防護服の少なくとも1つの層を機械加工することで、服によって提供される耐熱性を向上させ、服の硬さを低下させることができる。
【0055】
例示の目的で、前述の説明および図面において防護服の特定の実施形態について詳細に開示したが、開示の範囲を逸脱することなく、その変形および変更を行うことができることは当業者には理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】防護服の実施形態の一部切り欠き図を示す。
【図2】図1で示される服の一部の分解組立斜視図を示す。
【図3】防護服の実施形態の正面図を示す。
【図4】機械加工布帛のための実施例の機械である、空気圧式推進機械を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本質的に耐炎性の繊維と、
空気の断熱ポケットを有する間隙と
を含み、前記空気の少なくとも一部が機械加工工程を通じて前記間隙内に組み込まれる、耐熱性防護布帛。
【請求項2】
前記機械加工工程を通じて前記間隙内に組み込まれる前記空気が、空気圧式推進機械を使用して組み込まれる、請求項1に記載の耐熱性防護布帛。
【請求項3】
前記間隙内に空気圧式推進機械を使用して組み込まれる前記空気が、前記布帛を約5分〜約120分の範囲の時間にわたり、約20℃〜約170℃の範囲の温度で、約10yd/分〜約1000yd/分の範囲の速度で加工することにより前記間隙内に組み込まれる、請求項2に記載の耐熱性防護布帛。
【請求項4】
前記間隙内に空気圧式推進機械を使用して組み込まれる前記空気が、前記布帛を約30分〜約60分の範囲の時間にわたり、約70℃〜約100℃の範囲の温度で、約500yd/分〜約800yd/分の範囲の速度で加工することにより前記間隙内に組み込まれる、請求項3に記載の耐熱性防護布帛。
【請求項5】
前記耐熱性防護布帛が、出動装具中のサーマルライナーとして使用するために構成され、前記本質的に耐炎性の繊維が、アラミド、メラミン、FRレーヨン、モダクリル、および炭素の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の耐熱性防護布帛。
【請求項6】
前記耐熱性防護布帛が、出動装具中のアウターシェルとして使用するために構成され、前記本質的に耐炎性の繊維が、アラミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリピリドビスイミダゾール、およびメラミンの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の耐熱性防護布帛。
【請求項7】
前記耐熱性防護布帛が単層防護服として使用するために構成され、前記本質的に耐炎性の繊維が、アラミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリピリドビスイミダゾール、FRレーヨン、およびメラミンの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の耐熱性防護布帛。
【請求項8】
前記本質的に耐炎性の繊維を含み形成されたムラタ(Murata)紡績糸をさらに含む、請求項1に記載の耐熱性防護布帛。
【請求項9】
少なくとも1つの層が本質的に耐炎性の繊維を含む複数層と、
空気の断熱ポケットを有する間隙と
を含み、前記空気の少なくとも一部が機械加工工程を通じて前記間隙内に組み込まれる、耐熱性防護服。
【請求項10】
前記複数層が、
前記服の着用者を熱から断熱するように構成されるサーマルライナー、
前記服の内部への水の侵入を制限するように構成される水分バリア、および
前記着用者を火炎から遮蔽するように構成されるアウターシェル
を含み、前記少なくとも1つの層が前記サーマルライナーである、請求項9に記載の耐熱性防護服。
【請求項11】
前記耐熱性防護服が、機械加工工程を通じて前記間隙内に組み込まれる空気を含まないサーマルライナーを含む同様の服よりも大きな耐熱性を提供する、請求項10に記載の耐熱性防護服。
【請求項12】
前記耐熱性防護服が、機械加工工程を通じて前記間隙内に組み込まれる空気を含まないサーマルライナーを含む同様の服よりも硬さが少ない、請求項10に記載の耐熱性防護服。
【請求項13】
前記本質的に耐炎性の繊維が、アラミド、メラミン、FRレーヨン、モダクリル、および炭素の少なくとも1つを含む、請求項10に記載の耐熱性防護服。
【請求項14】
前記サーマルライナーが約0.010インチ〜約1.00インチの厚さを有する、請求項10に記載の耐熱性防護服。
【請求項15】
前記サーマルライナーが約0.050インチ〜約0.50インチの厚さを有する、請求項10に記載の耐熱性防護服。
【請求項16】
前記サーマルライナーが約1.0oz/yd〜約20oz/ydの重量を有する、請求項10に記載の耐熱性防護服。
【請求項17】
前記サーマルライナーが約4.0oz/yd〜約10oz/ydの重量を有する、請求項10に記載の耐熱性防護服。
【請求項18】
前記複数層が、
前記服の着用者を熱から断熱するように構成されるサーマルライナー、
前記服の内部への水の侵入を制限するように構成される水分バリア、および
前記着用者を火炎から遮蔽するように構成されるアウターシェル
を含み、前記少なくとも1つの層が前記アウターシェルである、請求項9に記載の耐熱性防護服。
【請求項19】
前記耐熱性防護服が、機械加工工程を通じて前記間隙内に組み込まれる空気を有さないアウターシェルを含む同様の服よりも大きな耐熱性を提供する、請求項18に記載の耐熱性防護服。
【請求項20】
前記耐熱性防護服が、機械加工工程を通じて前記間隙内に組み込まれる空気を有さないアウターシェルを含む同様の服よりも硬さが少ない、請求項18に記載の耐熱性防護服。
【請求項21】
前記本質的に耐炎性の繊維が、アラミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリピリドビスイミダゾール、およびメラミンの少なくとも1つを含む、請求項18に記載の耐熱性防護服。
【請求項22】
前記アウターシェルが約4.0oz/yd〜約15oz/ydの重量を有する、請求項17に記載の耐熱性防護服。
【請求項23】
本質的に耐炎性の繊維を含む1つの層と、
空気の断熱ポケットを有する間隙と
を含み、前記空気の少なくとも一部が機械加工工程を通じて前記間隙内に組み込まれる、耐熱性防護服。
【請求項24】
前記本質的に耐炎性の繊維が、約65%のメタ−アラミドおよび約35%のFRレーヨンを含む、請求項23に記載の耐熱性防護服。
【請求項25】
前記本質的に耐炎性の繊維が、約60%のパラ−アラミド繊維と、約40%のメタ−アラミド、PBI、PBO、PIPD、またはメラミンのうち1つとを含む、請求項23に記載の耐熱性防護服。
【請求項26】
前記本質的に耐炎性の繊維が約100%のメタ−アラミド繊維を含む、請求項23に記載の耐熱性防護服。
【請求項27】
前記本質的に耐炎性の繊維が、約50%のメタ−アラミド繊維および約50%のFRモダクリル繊維を含む、請求項23に記載の耐熱性防護服。
【請求項28】
前記本質的に耐炎性の繊維が、約60%のFRレーヨンおよび約40%のパラ−アラミドを含む、請求項23に記載の耐熱性防護服。
【請求項29】
前記1つの層が約3.0oz/yd〜約15.0oz/ydの重量を有する、請求項23に記載の耐熱性防護服。
【請求項30】
前記1つの層が約4.0oz/yd〜約10.0oz/ydの重量を有する、請求項23に記載の耐熱性防護服。
【請求項31】
前記耐熱性防護服が、機械加工工程を通じて前記間隙内に組み込まれる空気を含まない層を含む同様の服よりも大きな耐熱性を提供する、請求項23に記載の耐熱性防護服。
【請求項32】
前記耐熱性防護服が、機械加工工程を通じて前記間隙内に組み込まれる空気を含まない層を含む同様の服よりも硬さが少ない、請求項23に記載の耐熱性防護服。
【請求項33】
布帛を機械加工して前記布帛内の間隙内に空気を組み込むステップと、
前記布帛を含む耐熱性防護服を構成するステップと
を含み、前記耐熱性防護服が向上した耐熱性を有する、耐熱性防護服によって提供される耐熱性を向上させる方法。
【請求項34】
前記布帛を機械加工するステップが、前記布帛を空気圧式推進機械で加工するステップを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記布帛を空気圧式推進機械で加工するステップが、前記布帛を約5分〜約120分の範囲の時間にわたり、約20℃〜約17O℃範囲の温度で、約10yd/分〜約1000yd/分の範囲の速度で加工するステップを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記布帛を加工するステップが、前記布帛をタンブル式洗濯乾燥機で加工するステップを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
布帛を機械加工して空気を前記布帛内の間隙内に組み込むステップと、
前記布帛を含む耐熱性防護服を構成するステップと
を含み、前記耐熱性防護服が低下した曲げ剛性を有する、耐熱性防護服の曲げ剛性を低下させる方法。
【請求項38】
前記布帛を機械加工するステップが、前記布帛を空気圧式推進機械で加工するステップを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記布帛を空気圧式推進機械で加工するステップが、前記布帛を約5分〜約120分の範囲の時間にわたり、約20℃〜約170℃の範囲の温度で、約10yd/分〜約1000yd/分の範囲の速度で加工するステップを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記布帛を加工するステップが、前記布帛をタンブル式洗濯乾燥機で加工するステップを含む、請求項37に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−520116(P2009−520116A)
【公表日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−545563(P2008−545563)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【国際出願番号】PCT/US2006/015801
【国際公開番号】WO2007/070079
【国際公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(505451040)サザンミルズ インコーポレイテッド (11)
【氏名又は名称原語表記】Southern Mills,Inc.
【Fターム(参考)】