説明

耐熱性スチレン系樹脂組成物及びその製造方法

【課題】アニオン重合法により生ずるフラッシュタンク等の脱揮設備への触媒残渣由来の異物の付着を防止するとともに、触媒残渣に起因する樹脂の濁りや熱水白化、スチーム白化のない耐熱性スチレン系樹脂組成物及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】スチレン単位(A)及びα−メチルスチレン単位(B)を含み、該α−メチルスチレン単位(B)の含有比率が1.8〜60モル%である共重合体を主体とする耐熱性スチレン系樹脂組成物の製造方法であって、アニオン重合反応により前記共重合体を製造する工程と、炭素数4〜20のアルコール及び/又は炭素数5〜20のカルボン酸を用いて前記アニオン重合反応を停止させる工程と、を含む耐熱性スチレン系樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のアルコール及び/又は特定のカルボン酸を含有する耐熱性スチレン系樹脂組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂は、透明性、剛性、寸法安定性等の材料性能に優れ、射出成形、延伸シート、フィルム、発泡シート、発泡ボード、ブロー成形等の様々な成形加工が可能である。また、スチレン系樹脂の多くは、ラジカル重合法による塊状重合、高い単量体濃度による溶液重合、懸濁重合、乳化重合により大量に安価に製造ができることから非常に多種多様な用途に利用されている。スチレン系樹脂としては、スチレンの単独重合体(ポリスチレン、PS)が最も多く汎用的に利用されている樹脂である。
【0003】
しかし、ポリスチレンの耐熱性(ガラス転移温度)は約100℃であるため、これ以上の温度条件、例えば煮沸消毒のため加熱した水蒸気に接する用途、電子レンジ加熱を要する食品包装用途、夏場高温雰囲気下に曝されやすい車搭載用の成形品用途等においては、いずれも成形品の変形を起こす可能性がある。そのため、上述したような用途で使用するには、ガラス転移温度を高くするなどしてポリスチレンの耐熱性を高める必要があった。
【0004】
ポリスチレンの耐熱性を高める手法として、極性官能基を含有する単量体をスチレンと共重合する方法が知られている。例えば、スチレンとメタクリル酸との共重合体(SMAA)、スチレンと無水マレイン酸との共重合体(SMA)、スチレンと無水マレイミドとの共重合体等があり、極性官能基含有の単量体の共重合組成量を制御することによって耐熱性を任意に変えることができる。例えば、耐熱性スチレン系樹脂として代表的なスチレンとメタクリル酸との共重合体(SMAA)はガラス転移点が105〜125℃である。
しかし、これら耐熱性を高めたスチレンとメタアクリル酸との共重合体(SMAA)、スチレンと無水マレイン酸との共重合体(SMA)、スチレンと無水マレイミドとの共重合体等の極性官能基を含有するスチレン系共重合体は、高温下に曝されると極性基の副反応により高分子鎖の架橋反応が起こるため、1)架橋反応に起因するゲル様物質が生成し、樹脂の品質の低下が生ずることがある、2)架橋反応により樹脂の高粘度化がおこり成形加工性の低下を伴うため、生産性が低下する、3)上述したような架橋反応のため、樹脂の成形加工時に樹脂が変性しやすく、樹脂のリサイクル化、リユース化が難しいということがある等の問題点を有する。
【0005】
また、樹脂の耐熱性を向上させるためには、通常、極性単量体を共重合することにより樹脂のガラス転移温度を上昇させる必要がある。一方、ガラス転移温度は高分子鎖の流動開始する温度であるため、成形加工時にポリスチレンと同じ流動特性を得ようとするならば、耐熱性が向上した分すなわちガラス転移温度が上昇した分と同程度、加工温度を高める必要がある。
しかし、極性官能基含有のスチレン系共重合体では、ガラス転移温度が上昇した分に見合うだけ、分解開始温度が上昇しないため成形加工温度範囲が狭くなり、その結果、生産性、品質の低下を招くという問題がある。
【0006】
ポリスチレンの耐熱性を高める手法として、極性官能基を含有しない単量体を使ってスチレン系樹脂の耐熱性を向上させる方法が知られている。例えば、スチレンとα−メチルスチレンとの共重合体は、α−メチルスチレンの含有量に従ってガラス転移温度が上昇することが知られている(例えば、非特許文献1を参照)。
しかし、スチレンとα−メチルスチレンとの工業的製法の代表例であるラジカル溶液重合法により共重合を試みた場合、1)スチレンとα−メチルスチレンとの共重合体の高分子量化が困難である、2)α−メチルスチレンの共重合体中の含有量を多くすることができず目的の耐熱性を得ることができない、3)溶融時の熱安定性が悪く成形加工条件によっては共重合体の熱分解が起こり、単量体成分の発生や分子量の低下を引き起こしやすい等多くの問題点があり、未だに工業的に利用された例は知られていない。
【0007】
特許文献1には、アルキルリチウム重合開始剤を用いて、スチレンとα−メチルスチレンとの共重合体をアニオン重合により製造することが開示されている。
また、特許文献2には、スチレン、α−メチルスチレン、アニオン共重合体の濃度が常に一定となる様な連続式の反応器を使って重合する方法である連続アニオンリビング重合法により、スチレンとα−メチルスチレンとの共重合体を製造する方法が開示されている。
連続アニオンリビング重合法は、1)高分子量化が可能である、2)反応系内の濃度を一定に保つことができるため、共重合体中のα−メチルスチレンの含有量を多くすることができる、3)共重合体の主鎖に頭−頭結合や尾−尾結合等の不安定な結合が少なく、溶融時の熱安定性が向上するという利点を有する。
【0008】
アニオンリビング重合法においては、重合終了後にアニオンリビング末端の重合反応を停止させないと透明性の良好な重合体が得られないばかりか、最終製品が黄着色するという問題があるため、種々の解決方法が提案されている。
例えば、特許文献3には、活性金属含有のリビング重合体を含む重合溶液に、水、炭酸ガス、次いでフェノール系酸化防止剤の順でこれらの添加剤を加えた後に150〜250℃の範囲の温度で処理して溶媒を脱溶媒する方法が開示されている。
また、特許文献4には、活性リビング重合体を含む重合体溶液に、有機酸、安定剤又は安定剤と水などの重合停止剤とを添加した後に重合体溶液から溶媒を除去する方法が開示されている。
さらに、特許文献5には、活性リビング重合体の溶液に、重合停止剤として水、アルコール、無機酸又は有機酸を添加して反応を停止させてから、安定剤、非イオン性界面活性剤の順に添加しスチームストリッピングする方法が開示されている。
またさらに、特許文献6には、アニオンリビング重合体の重合体溶液に、アルコールと非イオン性界面活性剤とを加えた後に、安定剤を添加し、次いでスチームストリッピングにより脱溶媒する方法が開示されている。
【0009】
【特許文献1】:特公平6−10219号公報
【特許文献2】:国際公開第2005/044864号パンフレット
【特許文献3】:特公昭54−2679号公報
【特許文献4】:特開昭62−232402号公報
【特許文献5】:特公平3−60844号公報
【特許文献6】:特開平7−70265号公報
【非特許文献1】:Journal of Applied polymer Science, vol.41, p.383(1990)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1及び2に開示された方法では、フラッシュタンクによる脱溶媒工程において触媒残渣がフラッシュタンク内面に付着するため、さらなる改良が望まれている。
【0011】
また、特許文献3−6に開示された方法は、重合停止剤として大量の水を用いるため、脱溶媒工程はいずれもスチームストリッピング方式で行われている。スチームストリッピング方式では、回収溶媒、回収未反応単量体中に大量の水分が混入するため、水を分離する工程が必要になる。アニオン重合プロセスにおいては原料中の水分を極力除去することが必要であり、前記回収溶媒や回収未反応単量体をリサイクルする場合には、回収、精製プロセスが複雑になるという欠点を有している。
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、アニオン重合法により生ずるフラッシュタンク等の脱揮設備への触媒残渣由来の異物の付着を防止するとともに、触媒残渣に起因する樹脂の濁りや熱水白化、スチーム白化のない耐熱性のスチレン系樹脂組成物及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、炭素数4〜20のアルコール及び/又は炭素数5〜20のカルボン酸を含む樹脂組成物及びその製造方法が前記課題を解決しうることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の耐熱性スチレン系樹脂組成物の製造方法及び耐熱性スチレン系樹脂組成物に関するものである。
[1]
下記重合単位(A)及び重合単位(B)を含み、前記重合単位(B)の含有比率が1.8〜60モル%である共重合体を主体とする耐熱性スチレン系樹脂組成物の製造方法であって、
【化1】

【化2】

アニオン重合反応により前記共重合体を製造する工程と、
炭素数4〜20のアルコール及び/又は炭素数5〜20のカルボン酸を用いて前記アニオン重合反応を停止させる工程と、を含む耐熱性スチレン系樹脂組成物の製造方法。
[2]
有機アルカリ金属化合物をアニオン重合開始剤として前記アニオン重合反応を行う、前記[1]に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物の製造方法。
[3]
脱揮工程をさらに含む、前記[1]又は[2]に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物の製造方法。
[4]
下記aとbのモル比がa/b=1/10〜1/1である前記アルコール及び/又は前記カルボン酸を用いる、
a:重合反応開始時に使用したアニオン重合開始剤量
b:重合反応停止時に使用した炭素数4〜20のアルコール及び/又は炭素数5〜20のカルボン酸の合計使用量
前記[1]〜[3]のいずれかに記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物の製造方法。
[5]
前記アニオン重合反応を脂肪族炭化水素系溶媒及び芳香族炭化水素系溶媒から選択される重合溶媒中で行う、前記[1]〜[4]の何れかに記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物の製造方法。
[6]
前記重合溶媒がシクロヘキサン及び/又はエチルベンゼンである、前記[5]に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物の製造方法。
[7]
下記重合単位(A)及び重合単位(B)を含み、前記重合単位(B)の含有比率が1.8〜60モル%である共重合体を主体とする耐熱性スチレン系樹脂組成物であって、
【化3】

【化4】

炭素数4〜20のアルコール及び炭素数5〜20のカルボン酸から選択される化合物を0.005〜2質量%含み、かつアルカリ金属化合物をアルカリ金属元素として1〜1000ppm含む耐熱性スチレン系樹脂組成物。
[8]
DSCにより測定したガラス転移温度(Tg)が105℃〜140℃である、前記[7]に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物。
[9]
重量平均分子量Mwが13〜30万である、前記[7]又は[8]に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物。
[10]
前記アルカリ金属元素がリチウム金属元素を主体とする、前記[7]〜[9]のいずれかに記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物。
[11]
前記アルコールがオクタノール及び/又は2−エチルヘキサノールである、前記[7]〜[10]のいずれかに記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物。
[12]
前記カルボン酸がオクタデカン酸である、前記[7]〜[11]のいずれかに記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明の耐熱性スチレン系樹脂組成物の製造方法により、アニオン重合反応により生ずるフラッシュタンク等の脱揮設備への触媒残渣由来の異物の付着を防止することができる。また、触媒残渣由来の異物の付着を防止することにより、触媒残渣に起因する濁り、着色、異物混入による強度低下のない耐熱性スチレン系樹脂組成物を得ることができる。さらに、熱水白化、スチーム白化の少ない耐熱性スチレン系樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0017】
(耐熱性スチレン系樹脂組成物の製造方法)
本実施の形態の耐熱性スチレン系樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」という場合もある。)の製造方法は、下記重合単位(A)及び重合単位(B)を含み、前記重合単位(B)の含有比率が1.8〜60モル%である共重合体(以下、単に「共重合体」という場合もある。)を主体とする耐熱性スチレン系樹脂組成物の製造方法であって、
【化5】

【化6】

前記重合単位(A)及び前記重合単位(B)を含む共重合体をアニオン重合反応によって製造する工程と、炭素数4〜20のアルコール及び/又は炭素数5〜20のカルボン酸を用いて該アニオン重合反応を停止させる工程と、を含む耐熱性スチレン系樹脂組成物の製造方法である。
本実施の形態において、共重合体を主体とする樹脂組成物とは、重合単位(A)及び重合単位(B)を含む共重合体の樹脂組成物における含有比率が50質量%以上である樹脂組成物であることを意味する。
本実施の形態において、重合単位(A)とは、式(A)で示される重合単位を意味し、重合単位(B)とは、式(B)で示される重合単位を意味する。
【0018】
本実施の形態における共重合体を製造する方法は、スチレンとα−メチルスチレンとをアニオン重合反応により共重合させて製造する方法である。アニオン重合反応は、バッチ重合又は連続重合によるアニオン重合法により行うことができる。
アニオン重合法における重合開始剤として、例えば、有機アルカリ金属化合物が用いられる。有機アルカリ金属化合物としては、例えば、アルキルリチウム、アリールリチウム、アルキルナトリウム、アリールナトリウム等があげられる。具体的なアニオン重合開始剤としては、例えば、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム等の有機リチウム化合物や、ナフタレンナトリウム等の有機ナトリウム化合物などが用いられる。この中で好ましいアニオン重合開始剤はn−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム等の有機リチウム化合物である。
また、共重合体を分岐させる目的で多官能重合開始剤を使用することもできる。多官能重合開始剤としては、例えば、有機ジリチウム金属化合物等があげられる。
【0019】
アニオン重合反応を行う際の重合溶媒としては、有機アルカリ金属化合物と反応を起こすような官能基、例えば、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、1級若しくは2級アミノ基、イミノ基、スルホニル基、エステル基及び不飽和結合や活性水素を有する酸素や窒素等のヘテロ原子を含有しない溶媒が好ましいが、溶媒に対する樹脂の溶解性の面からみて脂肪族炭化水素系溶媒又は芳香族炭化水素系溶媒がより好ましい。具体的には、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、エチルベンゼン、クメン、t−ブチルベンゼン等があげられる。よりさらに好ましい重合溶媒としては、シクロヘキサン、エチルベンゼンがあげられる。
重合溶媒は、前記脂肪族炭化水素系溶媒又は芳香族炭化水素系溶媒を主成分として用いることもでき、1種類の単独溶媒又は2種類以上の混合溶媒として用いてもよい。ここでいう重合溶媒の主成分とは、全重合溶媒量に対して、脂肪族炭化水素系溶媒又は芳香族系炭化水素系溶媒が50質量%以上を占める場合である。
【0020】
本実施の形態における共重合体をアニオン重合反応により製造する際に用いる原料溶液は、重合単位(A)及び重合単位(B)を構成する単量体であるスチレン及びα−メチルスチレンと重合溶媒とを含むが、この原料溶液に含まれる単量体の濃度は、特に制限はなく、重合反応器の構造、重合速度、重合温度を考慮して決めればよい。例えば、本実施の形態におけるアニオン重合反応においては、反応速度、除熱等を考慮すると、好ましい単量体の濃度領域は15質量%〜80質量%であり、より好ましくは20質量%〜80質量%である。15質量%以上であれば、十分な重合速度を得ることができ、溶媒回収量も適切なレベルである。80質量%以下であれば、重合制御が可能である。
【0021】
前記原料溶液の組成は、アニオン重合反応を行って得られる共重合体において重合単位(A)及び重合単位(B)中における重合単位(B)の含有比率が1.8〜60モル%の範囲内になるように調整することが必要である。
共重合体中の重合単位(B)の含有比率を1.8〜60モル%の範囲内にすることできれば、原料溶液における単量体の比率は制限されるものではないが、例えば、スチレンとα−メチルスチレンとをスチレン/α−メチルスチレン=95/5〜5/95の比で用いることが好ましく、より好ましくはスチレン/α−メチルスチレン=90/10〜10/90である。
また、単量体と重合溶媒は、反応器の手前であらかじめ混合して反応器に導入してもよく、別々に反応器に導入し反応器内で混合してもよい。
【0022】
共重合体をアニオン重合反応により製造する際の重合温度は、60℃〜110℃の範囲であることが好ましい。より好ましくは、65℃〜100℃の範囲、さらに好ましくは65℃〜95℃の範囲である。重合温度が60℃以上でアニオン重合反応を行うことにより工業的生産の実用性上十分な反応速度を得ることができる。重合温度が110℃以下でアニオン重合反応を行うことにより、得られる共重合体の黄色化が少なく、また、耐熱性の低下を減少することができ、溶融時の共重合体の熱安定性も維持することができる。
【0023】
本実施の形態における共重合体をアニオン重合反応により製造する際の反応器として、例えば、ベッセル型の重合反応器、又は循環装置を備え付けたチューブ型の重合反応器を用いることができる。特に、ランダム性の高い共重合体を得るためには、混合の良好な重合反応器である、完全混合型の重合反応器が好ましい。具体的にはアニオン重合の反応系内に存在するスチレン及びα−メチルスチレンと、共重合体の濃度が常に一定となる様な連続式の重合反応器を使って連続アニオン重合法によって製造する方法等が好ましい。ベッセル型の場合、攪拌機の構造は特に限定はないが、上下流が起こりやすい構造であることが好ましい。
反応器の内部構造も特に限定はされないが、混合性をよくするためにバッフルを備え付けていることが好ましい。反応器内に満たされる重合溶液量は、攪拌機による攪拌効果が発現する液量があればよく、反応器容積の5%〜100%の充填量が好ましい。
【0024】
また、必要に応じて、本実施の形態における樹脂組成物の性質を損なわない範囲で、原料溶液にスチレン及びα−メチルスチレンと共重合する他の単量体成分を添加して、共重合体を製造することができる。
スチレン及びα−メチルスチレンと共重合する他の単量体としては、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン等のスチレン系単量体、ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、メタクリル酸、アクリル酸等のアクリル系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等があげられる。
さらに、本実施の形態における樹脂組成物の性質を損なわない範囲で、末端に官能基を導入した共重合体を製造することができる。また、共重合体の末端をカップリングさせ分岐共重合体として製造することもできる。このような操作は、必要と目的に応じて、重合反応と同時に、重合反応後又は重合停止反応の前に行うこともでき、重合停止反応と同時に行うこともできる。
共重合可能な単量体や末端の官能基の共重合体における含有比率としては、重合後の共重合体に対して10質量%以下が好ましい。
【0025】
本実施の形態における共重合体のアニオン重合反応を停止させる方法は、アルコール及び/又はカルボン酸を重合停止剤として用いてアニオン重合反応を停止させる方法である。重合溶液中へ該重合停止剤を添加することにより、共重合体のアニオン末端のアルカリ金属元素をアルカリ金属アルコキサイド、又はカルボン酸のアルカリ金属塩として失活させることとなる。従来行われている重合停止剤の主成分として水を用いる場合、有機アルカリ金属化合物を失活させることに由来するアルカリ金属化合物が共重合体中で凝集し、共重合体、ひいては共重合体を主体とする樹脂組成物の濁りの原因となるため好ましくない。一方、炭素数4以上のアルコールや炭素数5以上のカルボン酸を重合停止剤の主成分として用いることにより、重合停止後の脱揮工程で、重合停止反応により生成するアルカリ金属アルコキサイド又はカルボン酸のアルカリ金属塩の脱揮装置への付着を防止することができ、脱揮装置が汚染されるのを防ぐことができる。これにより脱揮装置に付着したアルカリ金属アルコキサイド又はカルボン酸のアルカリ金属塩が、共重合体中に混入することもなく、共重合体、ひいては共重合体を主体とする樹脂組成物中の異物の原因となることを防止することができ、共重合体を主体とする樹脂組成物の物性及び品質を低下させることがないため好ましい。
【0026】
本実施の形態における共重合体のアニオン重合反応を停止させる方法において、炭素数4〜20のアルコール及び/又は炭素数5〜20のカルボン酸を用いて共重合体のアニオン重合反応を停止させることが必要である。この場合、アルコールとカルボン酸は一方だけ用いてもよいし、両者を併用して用いてもよい。
【0027】
本実施の形態における重合停止剤としてのアルコールは、炭素数4〜20のアルコールであり、炭素骨格部分が飽和の、直鎖若しくは分岐鎖アルキル、シクロアルキル又はシクロアルキルアルキルである炭素数4〜20の1級又は2級アルコールである。好ましくは炭素数6〜20のアルコール、より好ましくは炭素数6〜18のアルコール、さらに好ましくは炭素数8〜18のアルコールである。
炭素数4以上のアルコールを重合停止剤として用いる場合は、重合停止後の脱揮工程で、アルカリ金属アルコキサイドが、脱揮装置に付着しにくくなるため、脱揮装置の汚染を防止することができる。また、樹脂組成物を熱水又はスチームで処理した場合の樹脂組成物の白化現象を防ぐことができる。
炭素数20以下のアルコールを用いる場合は、アルコールの分子量が過大ではないため、適切な質量のアルコールで重合反応を停止させることができる。また、過剰のアルコールが樹脂内に残留しても樹脂組成物の強度、流動性等の物性に影響を与えることが少ない。
【0028】
本実施の形態に用いる炭素数4〜20のアルコールの具体例としては、ブタノール、ペンタノール、ネオペンチルアルコール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、ノニルアルコール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール等があげられる。好ましくは、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、ノニルアルコール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール等があげられ、より好ましくは、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、ノニルアルコール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール等があげられる。さらに好ましくは、オクタノール、2−エチルヘキサノール、ノニルアルコール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール等があげられ、特に好ましくはオクタノール、2−エチルヘキサノールがあげられる。
【0029】
本実施の形態における重合停止剤としてのカルボン酸は、炭素数5〜20のカルボン酸であり、炭素骨格部分が飽和の、直鎖若しくは分岐鎖アルキル、シクロアルキル又は(シクロアルキル)アルキル、又はベンゼン環等の芳香族環である炭素数5〜20のカルボン酸である。好ましくは炭素数6〜20のカルボン酸であり、より好ましくは炭素数8〜18のカルボン酸である。
炭素数5以上のカルボン酸を重合停止剤として用いる場合は、重合停止後の脱揮工程で、カルボン酸のアルカリ金属塩が、脱揮装置に付着しにくくなるため、脱揮装置の汚染を防止することができる。また、樹脂組成物を熱水、又はスチームで処理する場合の樹脂組成物の白化現象を防ぐことができる。
炭素数20以下のカルボン酸を用いる場合は、カルボン酸の分子量が過大ではないため、適切な質量のカルボン酸で重合を停止させることができる。また、過剰のカルボン酸が樹脂内に残留して樹脂組成物の強度、流動性等の物性に影響を与えることが少ない。
【0030】
本実施の形態に用いる炭素数5〜20のカルボン酸の具体例としては、ペンタン酸、ピバリン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、安息香酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸等があげられる。好ましくは、ヘキサン酸、ヘプタン酸、安息香酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸等があげられる。より好ましくは、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸等があげられ、特に好ましくはオクタデカン酸があげられる。
【0031】
重合停止剤の使用量は、下記aとbのモル比がa/b=1/10〜1/1であることが好ましい。ここで、aは、重合反応開始時に使用したアニオン重合開始剤量であり、bは、重合反応停止時に使用した炭素数4〜20のアルコール及び/又は炭素数5〜20のカルボン酸の合計使用量である。
重合停止剤の添加量がa/b=1/1以下であれば、アニオン重合反応の停止に十分な量であり、共重合体のリビング末端由来の着色を防止することができる。この結果、共重合体ひいては共重合体を主体とする樹脂組成物の著しい着色や、着色した共重合体に由来する装置の汚染等も防止することができる。
また、添加量がa/b=1/10以上の場合は、残存する重合停止剤の樹脂組成物の強度、流動性等の物性への影響は起こりにくい。
【0032】
本実施の形態の製造方法によれば、アニオン重合反応の停止によって生じるアルカリ金属アルコキサイド及び/又はカルボン酸のアルカリ金属塩並びに過剰の重合停止剤である炭素数4〜20のアルコール及び/又は炭素数5〜20のカルボン酸が共重合体中に残存する。よって、製造プロセスから得られる樹脂組成物は、重合停止剤である前記アルコール及び/又はカルボン酸とアルカリ金属化合物(アルカリ金属アルコキサイド及び/又はカルボン酸のアルカリ金属塩)とを含み、共重合体を主体とする樹脂組成物として得られる。
【0033】
前記重合停止剤である炭素数4〜20のアルコール及び/又は炭素数5〜20のカルボン酸の添加方法は、重合工程後の共重合体溶液に添加する方法により行うことができる。添加方法は前記アルコールやカルボン酸を直接添加することができる。また、重合溶媒で希釈して添加することもでき、前記アルコールやカルボン酸が常温で固体である場合は、加熱し溶融させた状態で添加することもできる。
【0034】
共重合体のアニオン重合反応を、重合停止剤を用いて停止させた後、未反応の単量体及び重合溶媒を除去し樹脂組成物のみを得る必要がある。そのためには、共重合体の重合反応終了後に脱揮工程を行うことが好ましい。具体的な方法として、例えば、減圧加熱脱揮法があげられる。減圧加熱脱揮法は共重合体の重合完了後重合停止剤を加え、共重合体と未反応単量体、重合溶媒、重合停止剤であるアルコール、カルボン酸と、アルカリ金属化合物を含んだ樹脂組成物溶液を加熱し減圧雰囲気下で未反応の単量体と重合溶媒等を除去し樹脂組成物を得る方法である。除去された未反応の単量体や溶媒は回収し、再生使用することが可能である。
減圧加熱脱揮法として具体的には、例えば、減圧下のタンクにフラッシュさせる方法及び/又は押出機やニーダーを用いて減圧下のベント口から加熱蒸発脱揮させる方法等が好ましく利用できる。溶媒の揮発性にもよるが、一般には温度を180〜300℃、減圧度を0.1MPa以下に制御して残存する単量体や溶媒等の揮発性成分を脱揮除去させる。
また、減圧加熱脱揮装置を直列に接続し、2段以上に並べる方法も効果的である。また、1段目と2段目の間に水を添加して2段目の単量体及び溶媒の揮発能力を高める方法も利用できる。フラッシュタンクで揮発成分の除去後、残余の揮発成分を除去するため、さらにベント付き押出機又はニーダーを用いることもできる。単量体及び溶媒を除去された樹脂組成物は公知の方法でペレット状に仕上げることができる。
【0035】
(耐熱性スチレン系樹脂組成物)
本実施の形態の耐熱性スチレン系樹脂組成物は、下記重合単位(A)及び重合単位(B)を含み、前記重合単位(B)の含有比率が1.8〜60モル%である共重合体を主体とする耐熱性スチレン系樹脂組成物であって、
【化7】

【化8】

炭素数4〜20のアルコール及び炭素数5〜20のカルボン酸から選択される化合物を0.005〜2質量%含み、かつアルカリ金属化合物をアルカリ金属元素として1〜1000ppm含む耐熱性スチレン系樹脂組成物である。
【0036】
本実施の形態の樹脂組成物は、前記耐熱性スチレン系樹脂組成物の製造方法により製造されるものを含む。共重合体のアニオン重合反応の停止によって生じるアルカリ金属化合物であるアルカリ金属アルコキサイド及び/又はアルカリ金属のカルボン酸塩、並びに過剰の重合停止剤であるアルコール及び/又はカルボン酸は共重合体中に残存するため、該製造プロセスから得られる樹脂組成物は、前記重合停止剤であるアルコール、カルボン酸とアルカリ金属化合物を含み、共重合体を主体とする樹脂組成物として得られる。
【0037】
本実施の形態の樹脂組成物中の主体となる成分である共重合体は、樹脂組成物中の含有比率が50質量%以上であれば特に制限はされないが、該含有比率が51質量%以上であることが好ましい。より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0038】
本実施の形態における共重合体は、重合単位(A)及び重合単位(B)中における重合単位(B)の含有比率が1.8モル%から60モル%の範囲内にあることが必要である。重合単位(B)の含有比率が1.8モル%以上であれば、樹脂組成物における耐熱性を十分に発現することができる。また、重合単位(B)の含有比率が60モル%以下であれば、溶融時の熱安定性が良好である。
【0039】
本実施の形態における重合単位(B)の含有比率は、以下の計算式により求めることができる。
重合単位(B)の含有比率(モル%)=重合単位(B)のモル数/[重合単位(A)のモル数+重合単位(B)のモル数]X100
具体的には、共重合体のH−NMRを測定し、重合単位(B)のメチル基と重合単位(A)のメチレン、メチンのピーク面積比から計算でモル比を求めることができる。
【0040】
本実施の形態における共重合体は、直鎖状共重合体であっても、星型のように分岐状共重合体であっても、直鎖状共重合体と分岐状共重合体の混合物であってもよい。分岐は、重合後、末端のカップリングによって得ることもできるし、2官能以上の多官能重合開始剤を用いることによっても得ることができる。
また、共重合体の性質を損なわない範囲で、スチレン及びα−メチルスチレンと共重合可能な他の単量体を共重合させてもよく、共重合体末端に官能基を導入してもよい。共重合可能な単量体としては、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン等のスチレン系単量体、ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、メタクリル酸、アクリル酸等のアクリル系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等があげられる。共重合体の末端に導入できる官能基としては、水酸基、カルボキシル基、シリル基、カルボニル基等があげられる。
共重合可能な単量体や末端の官能基の含有比率としては、重合後の共重合体において10質量%以下であることが好ましい。
【0041】
本実施の形態における共重合体の重合単位(B)の結合様式は、特に制限はされないが、ランダム結合様式が多いことが好ましい。一般に、重合単位(B)が連続して重合すると熱分解しやすくなる傾向にある。重合単位(A)は連続して重合しても特に熱安定性を損なう恐れがないので、長鎖の連鎖構造をとっていてもよい。
【0042】
本実施の形態の樹脂組成物中のアルコールは、反応器内における異物の発生原因を防止し、かつ、熱水白化、スチーム白化が起こらないものとしては、炭素数4〜20の1級又は2級アルコールであることが必要である。好ましくは炭素数6〜20のアルコールであり、より好ましくは炭素数6〜18のアルコール、さらに好ましくは炭素数8〜18のアルコールである。
炭素数4以上のアルコールであれば、脱揮の汚染や樹脂組成物内への異物の混入が防止でき、また、熱水白化やスチーム白化の防止効果が十分に発揮される。炭素数20以下のアルコールであれば、樹脂組成物の強度、流動性等の物性へ与える影響を抑制できる。
【0043】
本実施の形態の樹脂組成物に用いる炭素数4〜20のアルコールの具体例としては、ブタノール、ペンタノール、ネオペンチルアルコール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、ノニルアルコール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール等があげられる。好ましくは、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、ノニルアルコール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール等があげられ、より好ましくは、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、ノニルアルコール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール等があげられる。さらに好ましくは、オクタノール、2−エチルヘキサノール、ノニルアルコール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール等があげられ、特に好ましくはオクタノール、2−エチルヘキサノールがあげられるが、炭素数が4〜20の範囲に入るアルコールであれば、ここに記したアルコール以外でもよい。
【0044】
本実施の形態の樹脂組成物中のカルボン酸は、反応器内における異物の発生原因を防止し、かつ、熱水白化、スチーム白化が起こらないものとしては、炭素数5〜20のカルボン酸であることが必要である。好ましくは炭素数6〜20のカルボン酸であり、炭素数6〜18のカルボン酸がより好ましい。
炭素数5以上のカルボン酸であれば、脱揮の汚染や樹脂組成物内への異物の混入を防ぎ、また、熱水白化やスチーム白化を防止することができる。炭素数20以下のカルボン酸であれば、樹脂組成物の強度、流動性等の物性に与える影響を抑制できる。
【0045】
本実施の形態の樹脂組成物に用いる炭素数5〜20のカルボン酸の具体例としては、ペンタン酸、ピバリン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、安息香酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸等があげられる。好ましくは、ヘキサン酸、ヘプタン酸、安息香酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸等があげられ、より好ましくはヘキサン酸、ヘプタン酸、安息香酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸等があげられる。炭素数が5〜20の範囲に入るカルボン酸であれば、ここに記したカルボン酸以外でもよい。
【0046】
本実施の形態の樹脂組成物は、炭素数4〜20のアルコールと炭素数5〜20のカルボン酸から選択される化合物を1種含んでいてもよく、前記アルコールの2種以上の混合物、前記カルボン酸の2種以上の混合物又は前記アルコールと前記カルボン酸の混合物として含んでいてもよい。
【0047】
本実施の形態の樹脂組成物中に含まれる炭素数4〜20のアルコールはガスクロマトグラフィーで、炭素数5〜20のカルボン酸は液体クロマトグラフィーにより分析が可能である。
本実施の形態における樹脂組成物中のアルコール及び/又はカルボン酸の含有量は、樹脂組成物に対して炭素数4〜20のアルコール及び/又は炭素数5〜20のカルボン酸の合計量として0.005〜2質量%である。好ましくは0.005〜1質量%であり、より好ましくは0.005〜0.8質量%であり、さらに好ましくは0.005〜0.6質量%である。樹脂組成物中の含有量が0.005質量%以上であれば、樹脂組成物を成形体とする際に成形体に悪影響を与えることが少なく、また、樹脂組成物中の含有量が2質量%以下であれば、樹脂組成物の流動性等の影響を抑制することができる。
【0048】
本実施の形態の樹脂組成物中のアルカリ金属化合物は、1種又は2種以上の混合物として含んでいてもよい。また、例えば、リチウム、ナトリウムのアルコキサイド、カルボン酸塩、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩等があげられる。具体的には、リチウムブトキシド、リチウムイソブトキシド、リチウムペントキシド、リチウムヘキソキシド、リチウムネオペントキシド、リチウムシクロヘキソキシド、リチウムヘプトキシド、リチウムオクトキシド、リチウム−2−エチルヘキソキシド、リチウムノノキシド、リチウムデコキシド、リチウムウンデコキシド、リチウムドデコキシド、リチウムトリデコキシド、リチウムテトラデコキシド、リチウムペンタデコキシド、リチウムヘキサデコキシド、リチウムヘプタデコキシド、リチウムオクタデコキシド、リチウムノナデコキシド、リチウムエイコキシド、ペンタン酸リチウム、ピバリン酸リチウム、ヘキサン酸リチウム、ヘプタン酸リチウム、安息香酸リチウム、オクタン酸リチウム、2−エチルヘキサン酸リチウム、ノナン酸リチウム、デカン酸リチウム、ウンデカン酸リチウム、ドデカン酸リチウム、トリデカン酸リチウム、テトラデカン酸リチウム、ペンタデカン酸リチウム、ヘキサデカン酸リチウム、ヘプタデカン酸リチウム、オクタデカン酸リチウム、ノナデカン酸リチウム、エイコサン酸リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、ナトリウムブトキシド、ナトリウムイソブトキシド、ナトリウムペントキシド、ナトリウムヘキソキシド、ナトリウムネオペントキシド、ナトリウムシクロヘキソキシド、ナトリウムヘプトキシド、ナトリウムオクトキシド、ナトリウム−2−エチルヘキソキシド、ナトリウムノノキシド、ナトリウムデコキシド、ナトリウムウンデコキシド、ナトリウムドデコキシド、ナトリウムトリデコキシド、ナトリウムテトラデコキシド、ナトリウムペンタデコキシド、ナトリウムヘキサデコキシド、ナトリウムヘプタデコキシド、ナトリウムオクタデコキシド、ナトリウムノナデコキシド、ナトリウムエイコキシド、ペンタン酸ナトリウム、ピバリン酸ナトリウム、ヘキサン酸ナトリウム、ヘプタン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、オクタン酸ナトリウム、2−エチルヘキサン酸ナトリウム、ノナン酸ナトリウム、デカン酸ナトリウム、ウンデカン酸ナトリウム、ドデカン酸ナトリウム、トリデカン酸ナトリウム、テトラデカン酸ナトリウム、ペンタデカン酸ナトリウム、ヘキサデカン酸ナトリウム、ヘプタデカン酸ナトリウム、オクタデカン酸ナトリウム、ノナデカン酸ナトリウム、エイコサン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等があげられる。
【0049】
好ましくは、リチウムヘキソキシド、リチウムネオペントキシド、リチウムシクロヘキソキシド、リチウムヘプトキシド、リチウムオクトキシド、リチウム−2−エチルヘキソキシド、リチウムノノキシド、リチウムデコキシド、リチウムウンデコキシド、リチウムドデコキシド、リチウムトリデコキシド、リチウムテトラデコキシド、リチウムペンタデコキシド、リチウムヘキサデコキシド、リチウムヘプタデコキシド、リチウムオクタデコキシド、リチウムノナデコキシド、リチウムエイコキシド、ヘキサン酸リチウム、ヘプタン酸リチウム、安息香酸リチウム、オクタン酸リチウム、2−エチルヘキサン酸リチウム、ノナン酸リチウム、デカン酸リチウム、ウンデカン酸リチウム、ドデカン酸リチウム、トリデカン酸リチウム、テトラデカン酸リチウム、ペンタデカン酸リチウム、ヘキサデカン酸リチウム、ヘプタデカン酸リチウム、オクタデカン酸リチウム、ノナデカン酸リチウム、エイコサン酸リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、ナトリウムヘキソキシド、ナトリウムネオペントキシド、ナトリウムシクロヘキソキシド、ナトリウムヘプトキシド、ナトリウムオクトキシド、ナトリウム−2−エチルヘキソキシド、ナトリウムノノキシド、ナトリウムデコキシド、ナトリウムウンデコキシド、ナトリウムドデコキシド、ナトリウムトリデコキシド、ナトリウムテトラデコキシド、ナトリウムペンタデコキシド、ナトリウムヘキサデコキシド、ナトリウムヘプタデコキシド、ナトリウムオクタデコキシド、ナトリウムノナデコキシド、ナトリウムエイコキシド、ヘキサン酸ナトリウム、ヘプタン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、オクタン酸ナトリウム、2−エチルヘキサン酸ナトリウム、ノナン酸ナトリウム、デカン酸ナトリウム、ウンデカン酸ナトリウム、ドデカン酸ナトリウム、トリデカン酸ナトリウム、テトラデカン酸ナトリウム、ペンタデカン酸ナトリウム、ヘキサデカン酸ナトリウム、ヘプタデカン酸ナトリウム、オクタデカン酸ナトリウム、ノナデカン酸ナトリウム、エイコサン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等があげられ、より好ましくは、リチウムオクトキシド、リチウム−2−エチルヘキソキシド、リチウムノノキシド、リチウムデコキシド、リチウムウンデコキシド、リチウムドデコキシド、リチウムトリデコキシド、リチウムテトラデコキシド、リチウムペンタデコキシド、リチウムヘキサデコキシド、リチウムヘプタデコキシド、リチウムオクタデコキシド、リチウムノナデコキシド、リチウムエイコキシド、オクタン酸リチウム、2−エチルヘキサン酸リチウム、ノナン酸リチウム、デカン酸リチウム、ウンデカン酸リチウム、ドデカン酸リチウム、トリデカン酸リチウム、テトラデカン酸リチウム、ペンタデカン酸リチウム、ヘキサデカン酸リチウム、ヘプタデカン酸リチウム、オクタデカン酸リチウム、ノナデカン酸リチウム、エイコサン酸リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウムが等あげられる。
さらに好ましくは、リチウムオクトキシド、リチウム−2−エチルヘキソキシド、リチウムノノキシド、リチウムデコキシド、リチウムウンデコキシド、リチウムドデコキシド、リチウムトリデコキシド、リチウムテトラデコキシド、リチウムペンタデコキシド、リチウムヘキサデコキシド、リチウムヘプタデコキシド、リチウムオクタデコキシド、オクタン酸リチウム、2−エチルヘキサン酸リチウム、ノナン酸リチウム、デカン酸リチウム、ウンデカン酸リチウム、ドデカン酸リチウム、トリデカン酸リチウム、テトラデカン酸リチウム、ペンタデカン酸リチウム、ヘキサデカン酸リチウム、ヘプタデカン酸リチウム、オクタデカン酸リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウムが、特に好ましくはリチウムオクトキシド、リチウム−2−エチルヘキソキシド、オクタデカン酸リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム等があげられる。
【0050】
本実施の形態におけるアルカリ金属化合物は、例えば、リチウムアルコキシドとナトリウムアルコキシドの混合物のように、複数のアルカリ金属元素からなるアルカリ金属化合物であってもよいが、より好ましくはリチウム金属元素を主体とするアルカリ金属化合物である。リチウム金属元素を主体とするアルカリ金属化合物とは、アルカリ金属元素中のリチウム金属元素が51質量%以上のものである。好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。
【0051】
これらアルカリ金属化合物は、樹脂組成物中では前記化合物の形で存在しても、分析時の操作中に、空気中の二酸化炭素と反応し炭酸塩に変化する可能性があり、アルカリ金属化合物そのものとして正確に分析することは不可能である。従って、通常前記のようなアルカリ金属化合物は、ICP−MS等を用いて、アルカリ金属元素として分析を行う。本実施の形態における樹脂組成物中のアルカリ金属化合物も同様に、ICP−MSを用いてアルカリ金属元素として分析を行っている。
【0052】
本実施の形態の樹脂組成物が含有するアルカリ金属化合物は、樹脂組成物に対してアルカリ金属元素として1〜1000ppmの範囲であることが必要である。アルカリ金属元素が1ppm以上の場合、成形体への悪影響が少なく、また1000ppm以下の場合樹脂組成物の着色等を抑制できる。
【0053】
本実施の形態におけるDSCにより測定した樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは105℃〜140℃である。Tgが105℃以上であれば、ポリスチレンの耐熱性との差別化ができる。また、Tgが140℃以下ではあれば、樹脂組成物の分解温度と可塑化温度とのあいだの加工領域を十分にとることができ、加工時にスチレン系共重合体の分解による単量体の生成を抑制し、モールドデポジット、シルバーの発生や成形体の耐熱性の低下を防止することができる。
【0054】
本実施の形態における樹脂組成物の重量平均分子量(Mw)は、好ましくはMwが13万〜30万である。
本実施の形態における重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算によって求めた値のことである。
本実施の形態におけるMwが13万以上であれば構造材料として利用する場合の十分な強度を得ることができ、Mwが30万以下では樹脂組成物の成形時に必要な流動性を保つことができる。
重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は好ましくは、Mw/Mnが1.8〜2.5、より好ましくは、Mw/Mnが1.9〜2.3である。
本実施の形態における重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算によって求めた値のことである。
Mw/Mnが1.8以上であれば、樹脂組成物の流動性と機械物性のバランスを保つことができ、成形体として十分な性能を出すことができる。Mw/Mnが2.5以下であれば、樹脂組成物の成形時に必要な流動特性を得ることができる。
【0055】
本実施の形態の樹脂組成物は、必要により熱的、機械的安定性、流動性、着色性を改良する目的で、スチレン系樹脂で用いられている公知の添加物を添加することができる。
前記添加物としては、一次酸化防止剤、二次酸化防止剤、耐候剤、UV吸収剤などがあげられる。
具体的には、一次酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、トリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリストールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドキシフェニル)プロピオネート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ3,5−ジ−t―ペンチルフェニル)]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、3,9−ビス[2−{3−(t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサ[5,5]ウンデカン、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−s−トリアジン−2,4,6(1H,2H,3H)−トリオン、1,1,4−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)等の2,4,5−又は2,4,6−3置換フェノール類があげられる。
また、二次酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などがあげられ、耐候剤としてはヒンダードアミン系安定剤などがあげられる。
また、その他、ミネラルオイル等の可塑剤、長鎖脂肪族カルボン酸及び/又はその金属塩等の滑剤、着色性改良としての有機染料、有機顔料を添加することも可能である。着色性改良用のアンスラキノン系の有機染料は、共重合体の熱安定性を損なうことが少ないためより好ましい。シリコーン系、フッ素系の離型剤、帯電防止剤などもスチレン系樹脂で利用されている公知の技術をそのまま応用して添加することができる。
これらの添加物は、重合が完結した後の共重合体溶液の中に添加して混合するか又は樹脂組成物を回収後、押出機を使って溶融混合することができる。
【0056】
本実施の形態の樹脂組成物は、必要によりその特長が損なわれない範囲で、他の公知の樹脂を混合して含むことができる。その具体例としては、ポリスチレン(PS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS)とゴム粒子含有のスチレン−アクリロニトリル共重合体(ABS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体(MS)、スチレン−アルキルアクリレート共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体(SMAA)、スチレン−無水マレイン酸共重合体(SMA)、スチレン−共役ジエンブロック共重合体及びその水素添加物、スチレン−共役ジエンのランダム共重合体及びその水素添加物等のスチレン系共重合体、ポリフェニレンエーテル等があげられる。
【0057】
本実施の形態の樹脂組成物を用いることによって、特に、精密部品、光学部品、シート状の押出成形品、シート状の射出成形品、大型射出成形品などを得る場合において、機械物性や品質の低下を起こさずに安定生産が可能となる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例、比較例をあげて本実施の形態の態様を具体的に説明する。しかし、これらは一例であって、本発明の技術範囲を何ら限定するものではない。
実施例、比較例で用いた分析方法及び評価方法は以下のとおりである。
【0059】
[分析方法]
(1)分子量(Mn、Mw、Mw/Mn)
カラム(TSKgel GMHXL、40℃)を2本接続し、RI検出器が取り付けてあるGPC装置(東ソー社製HLC−8020)で測定した。2%のエタノールを含有したクロロホルムを移動相に用いた。分子量の計算は、ポリスチレンスタンダード(東ソー社製)を使って検量線を作成し、ポリスチレン換算にて行った。
(2)ガラス転移温度(Tg)
0.1gの樹脂組成物を5gのトルエンに溶解し、その溶液を20mlのメタノール中に0.2ml/secの速度で滴下した。沈殿物をろ過して回収した。この操作を2回繰り返し、得られた樹脂組成物を風乾後、160℃、真空下で1時間乾燥した。得られた樹脂組成物のTgをパーキンエルマー社製のDSC−7を使って、JIS K7121に準拠して求めた。
具体的には、窒素下、10℃/minで室温から200℃まで昇温し、その後10℃/minで室温まで戻し、再び10℃/minで200℃まで昇温した。2度目の昇温過程で測定されるガラス転移温度をTgとした。
(3)共重合体中の重合単位(B)の含有比率
BRUKER社製のNMR(DPX−400)を使って求めた。共重合体のH−NMRを測定し、メチル、メチレン、メチンのピーク面積比から計算で求めた。
(4)樹脂組成物中のリチウムの定量
樹脂組成物をHSOで処理し灰化した後、ICP−MSを用いて測定を行った。
(5)樹脂組成物中のアルコールの定量
島津製作所社製のGC−MSを使って以下の条件で測定した。
機器:GC−2010、MS−QP2010、ヘッドスペースサンプラー付き
カラム:Rtx−1、0.25mm、1.00μm、60m(島津ジーエルシー社製)
温度条件:60℃で2分保持後10℃/分で145℃まで昇温、その後3℃/分で160℃まで昇温した。
測定サンプルの作製:樹脂組成物0.4gを専用バイアル瓶に入れ、DMF10mlと内部標準(n−ノナン)の入ったクロロホルムを1ml加えて密栓して試料を溶解後測定した。
(6)樹脂組成物中のカルボン酸の定量
樹脂組成物を、所定量のトルエンに溶解後、所定量のメタノール中で再沈した。再沈したメタノール中のカルボン酸を液体クロマトグラフィーで定量した。
【0060】
[実施例1]
〈原料〉
スチレン(St:旭化成ケミカルズ社製)とα−メチルスチレン(αMeSt:三井化学社製)とエチルベンゼン(EB:丸善石油化学社製)をSt/αMeSt/EB=22.5/30/47.5(質量%)の比率で混合した溶液を貯蔵タンクに溜め、窒素バブリングした。その後、溶液を、活性アルミナ(住友化学社製KHD−24)を充填した5L容積の精製塔内を通過させて、重合禁止剤であるt−ブチルカテコールを除去した。
〈重合開始剤〉
n−ブチルリチウム(15質量%のn−ヘキサン溶液、和光純薬社製)を1/26倍にエチルベンゼンで希釈した。
〈重合停止剤〉
2−エチル−1−ヘキサノール(特級、和光純薬社製)を3質量%の濃度になる様にエチルベンゼンで希釈した溶液を作製した。
〈樹脂組成物の製造方法〉
重合反応器は、攪拌翼と原料導入ノズル、重合開始剤導入ノズルと重合溶液排出ノズルが付いたジャケット付11Lの反応器(R1)を用いた。重合反応器内の重合溶液の容量は、常に10Lとなる様に制御した。内温を反応器出口で75℃に制御した。攪拌翼の回転数は310rpmとした。重合反応器の原料導入ノズルと重合溶液排出ノズルにはギアポンプを取り付け、原料及び重合溶液を6.2L/Hrの一定流量で流せる様に制御した。また、重合開始剤の溶液は、0.196L/Hrで重合反応器内へ導入した。重合反応器から排出されたリビングポリマーの溶液は、さらにギアポンプで10mm径の配管を通じて重合停止剤の溶液の導入口まで導いた。反応器から重合停止剤混合点までの配管の長さは約2m、配管は80℃で保温した。重合停止剤溶液は、0.18kg/Hrでの流速で重合反応液内に導入し(a/b=1/4)、その後は、1.2L容量のスタティックミキサーを経て完全に重合反応を停止させた。次いで、樹脂組成物溶液は予熱器で260℃まで加熱し、その後50kPaの減圧下、設定260℃に加温した約70Lの1段目のフラッシュタンク内へフラッシングし、溶媒と未反応単量体を樹脂組成物から分離、回収した。この時点での樹脂組成物中の残存揮発分(未反応単量体のStとαMeSt及び重合溶媒のEB)は0.5〜2%であった。さらにこの樹脂組成物を0.5kPaの減圧下、設定260℃に加温した約70Lの2段目のフラッシュタンクへフラッシングし、樹脂組成物中の揮発分が300ppm未満になるまで、重合溶媒と未反応単量体を除去した。樹脂組成物のタンク内の滞留時間は、1基あたり約20〜30分であった。十分に揮発成分が除去された樹脂組成物は、その後、ストランド状に排出し水中下で冷却後、カッターでペレタイズ化し樹脂組成物を回収した。
得られた樹脂組成物の重量平均分子量Mwは18.5万、Mw/Mnは2.0、Tgは130℃であった。H−NMRによる共重合体中の重合単位の組成は、重合単位(A)が54モル%、重合単位(B)が46モル%であった。
樹脂組成物中の2−エチルヘキサノールは0.10質量%、リチウム金属元素量は27ppmであった。
重合装置(重合反応器、フラッシュタンク)における運転は、前記条件で2週間おこなった。運転中、フラッシュタンク側面のガラス製ののぞき窓を確認したが、窓に曇り及び付着物等は確認できなかった。運転後フラッシュタンク内をオープンし、目視及びファイバースコープで内部を確認したところ、フラッシュタンク内に付着物は確認できなかった。
【0061】
[実施例2]
実施例1と同様の条件でアニオン重合反応を行い、重合反応を停止させた。その後、1段目のフラッシュタンクの圧力を130kPaに代えた以外は実施例1と同様の条件で溶媒と未反応単量体を樹脂組成物から分離・回収した。
得られた樹脂組成物の重量平均分子量Mwは18.5万、Mw/Mnは2.0、Tgは130℃であった。H−NMRによる共重合体中の重合単位の組成は、重合単位(A)が54モル%、重合単位(B)が46モル%であった。
樹脂組成物中の2−エチルヘキサノールは0.15質量%、リチウム金属元素量は27ppmであった。
フラッシュタンクの曇り度やフラッシュタンク内面は実施例1と同じように観察したが、曇り等は確認できなかった。
【0062】
[実施例3]
実施例1と同じ条件でアニオン重合反応を行い、重合停止剤をオクタデカン酸(a/b=1/4)に代えて、それ以外は実施例1と同様の条件で重合反応を停止させた。オクタデカン酸(特級、和光純薬社製)は1質量%の濃度になる様にエチルベンゼンで希釈した溶液を作製した。得られた樹脂組成物の重量平均分子量Mwは18.5万、Mw/Mnは2.0、Tgは130℃であった。H−NMRによる共重合体中の重合単位の組成は、重合単位(A)が54モル%、重合単位(B)が46モル%であった。樹脂組成物中のオクタデカン酸は0.2質量%、リチウム金属元素量は27ppmであった。
フラッシュタンクの曇り度やフラッシュタンク内面は実施例1と同じように観察したが、曇り等は確認できなかった。
【0063】
[実施例4]
実施例1の樹脂組成物を射出成形機(東芝機械 IS−55EPN)にて板状の成形体(厚さ1mm/2mm/2.5mmの3段)に成形した。射出条件は、シリンダ温度はホッパー下から順に、210℃,230℃,250℃,250℃、金型温度60℃、射出圧47kg/cm、保圧44kg/cm、背圧10kg/cm、成形サイクルは、充填1.2秒、保圧10秒、冷却15秒で行った。この成形体を蒸気滅菌器にいれ、120℃で60分処理した、処理後、成形体を目視で曇りがあるかどうか確認したところ、厚み2.5mmの部分において曇り、濁り等は確認できなかった。さらに成形体を背景紙の上に置き、背景紙の文字が明確に見えるかどうか目視で確認したところ厚み2.5mmの部分において背景紙の文字は明確に見えることを確認した。
【0064】
[実施例5]
実施例3の樹脂組成物を射出成形機(東芝機械 IS−55EPN)にて板状の成形体(厚さ1mm/2mm/2.5mmの3段)に成形した。射出条件は、シリンダ温度はホッパー下から順に、210℃,230℃,250℃,250℃、金型温度60℃、射出圧47kg/cm、保圧44kg/cm、背圧10kg/cm、成形サイクルは、充填1.2秒、保圧10秒、冷却15秒で行った。この成形体を蒸気滅菌器にいれ、120℃で60分処理した、処理後、成形体を目視で曇りがあるかどうか確認したところ、厚み2.5mmの部分において曇り、濁り等は確認できなかった。さらに成形体を背景紙の上に置き、背景紙の文字が明確に見えるかどうか目視で確認したところ厚み2.5mmの部分において背景紙の文字は明確に見えることを確認した。
【0065】
[比較例1]
実施例1と同様の条件でアニオン重合反応を行い、重合停止剤をエタノールに代えて、それ以外は実施例1と同様の条件で重合反応を停止させた。エタノール(特級、和光純薬社製)は6質量%の濃度になる様にエチルベンゼンで希釈した溶液を用いた(a/b=1/20)。重合後の樹脂組成物液をフラッシュタンクにフラッシング直後からフラッシュタンク側面のガラス製ののぞき窓が曇り始め、30分後にはフラッシュタンク側面のガラス製ののぞき窓は完全に白色物に覆われフラッシュタンク内部の確認は不可能となった。得られた樹脂組成物の重量平均分子量Mwは18.5万、Mw/Mnは2.0、Tgは130℃であった。
1週間運転後フラッシュタンク内部を開け、目視で確認を行ったところ、フラッシュタンク上面及び側面全体に白色の異物が付着していることが確認できた。
【0066】
[比較例2]
実施例1と同様の条件でアニオン重合反応を行い、重合停止剤をイソプロパノールに代えて、それ以外は実施例1と同様の条件で重合反応を停止させた。イソプロパノール(特級、和光純薬社製)は6質量%の濃度になる様にエチルベンゼンで希釈した溶液を用いた(a/b=1/10)。重合後の樹脂組成物液をフラッシュタンクにフラッシング直後からフラッシュタンク側面のガラス製ののぞき窓が曇り始め、30分後にはフラッシュタンク側面のガラス製ののぞき窓は完全に白色物に覆われフラッシュタンク内部の確認は不可能となった。得られた樹脂組成物の重量平均分子量Mwは18.5万、Mw/Mnは2.0、Tgは130℃であった。
1週間運転後フラッシュタンク内部を開け、目視で確認を行ったところ、フラッシュタンク上面及び側面全体に白色の異物が付着していることが確認できた。
【0067】
[比較例3]
実施例1と同様の条件でアニオン重合反応を行い、重合停止剤をグリセリンに代えて、それ以外は実施例1と同様の条件で重合反応を停止させた。グリセリン(特級、和光純薬社製)は6質量%の濃度になる様にエチルベンゼンで希釈した溶液を用いた(a/b=1/4)。重合後の樹脂組成物液をフラッシュタンクにフラッシング直後からフラッシュタンク側面のガラス製ののぞき窓が曇り始め、30分後にはフラッシュタンク側面のガラス製ののぞき窓は完全に白色物に覆われフラッシュタンク内部の確認は不可能となった。得られた樹脂組成物の重量平均分子量Mwは18.5万、Mw/Mnは2.0、Tgは130℃であった。
1週間運転後フラッシュタンク内部を開け、目視で確認を行ったところ、フラッシュタンク上面及び側面全体に白色の異物が付着していることが確認できた。
【0068】
[比較例4]
比較例1の樹脂組成物を実施例4と同様の条件で成形した。この成形体を蒸気滅菌器にいれ、120℃で60分処理した、処理後、成形体を目視で確認したところ、すべての厚みの部分で表面全体が白色に濁っていることが確認された。さらに成形体を背景紙の上に置き、背景紙の文字が明確に見えるかどうか目視で確認したところ、文字として読み取れはするものの、厚み1mmの部分においても濁りのため背景紙の文字は明確には見えなかった。
【0069】
[比較例5]
比較例2の樹脂組成物を実施例4と同様の条件で成形した。この成形体を蒸気滅菌器にいれ、120℃で60分処理した、処理後、成形体を目視で確認したところ、すべての厚みの部分で表面全体が白色に濁っていることが確認された。さらに成形体を背景紙の上に置き、背景紙の文字が明確に見えるかどうか目視で確認したところ、文字として読み取れはするものの、厚み1mmの部分においても濁りのため背景紙の文字は明確には見えなかった。
【0070】
[比較例6]
比較例3の樹脂組成物を実施例4と同様の条件で成形した。この成形体を蒸気滅菌器にいれ、120℃で60分処理した、処理後、成形体を目視で確認したところ、すべての厚みの部分で表面全体が白色に濁っていることが確認された。さらに成形体を背景紙の上に置き、背景紙の文字が明確に見えるかどうか目視で確認したところ、文字として読み取れはするものの、厚み1mmの部分においても濁りのため背景紙の文字は明確には見えなかった。
【0071】
以上のとおり、実施例1〜3の耐熱性樹脂組成物の製造方法は、炭素数4未満のアルコールを用いてアニオン重合反応を停止させた比較例1〜3の製造方法と比較して、炭素数4〜20のアルコール及び/又は炭素数5〜20のカルボン酸を用いてアニオン重合反応を停止させているため、フラッシュタンク内への付着物の発生を防止することができ、フラッシュタンク内の曇りを防止することができるものであった。また、炭素数4〜20のアルコール及び/又は炭素数5〜20のカルボン酸を用いてアニオン重合反応を停止させる製造方法により得られた実施例1及び3の耐熱性樹脂組成物を用いて成形体とした際に、曇りや濁りのない成形体を得ることができた。比較例4〜6で得られた成形体は、アニオン重合反応の停止反応においてフラッシュタンク内に付着物が発生し、耐熱性樹脂組成物に該付着物が混入するため、曇りや濁りのため成形体の透明性の点で不十分なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、製造時におけるフラッシュタンク等の脱揮設備への触媒残渣由来の異物の付着を防止するとともに、触媒残渣に起因する樹脂組成物の濁りや熱水白化、スチーム白化のない樹脂組成物及びその製造方法を提供することができる。この樹脂組成物は従来のスチレン系樹脂と同様の分野でとくに耐熱性を要求される分野で好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記重合単位(A)及び重合単位(B)を含み、前記重合単位(B)の含有比率が1.8〜60モル%である共重合体を主体とする耐熱性スチレン系樹脂組成物の製造方法であって、
【化1】

【化2】

アニオン重合反応により前記共重合体を製造する工程と、
炭素数4〜20のアルコール及び/又は炭素数5〜20のカルボン酸を用いて前記アニオン重合反応を停止させる工程と、を含む耐熱性スチレン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
有機アルカリ金属化合物をアニオン重合開始剤として前記アニオン重合反応を行う、請求項1に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
脱揮工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
下記aとbのモル比がa/b=1/10〜1/1である前記アルコール及び/又は前記カルボン酸を用いる、
a:重合反応開始時に使用したアニオン重合開始剤量
b:重合反応停止時に使用した炭素数4〜20のアルコール及び/又は炭素数5〜20のカルボン酸の合計使用量
請求項1〜3のいずれか一項に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記アニオン重合反応を脂肪族炭化水素系溶媒及び芳香族炭化水素系溶媒から選択される重合溶媒中で行う、請求項1〜4のいずれか一項に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記重合溶媒がシクロヘキサン及び/又はエチルベンゼンである、請求項5に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
下記重合単位(A)及び重合単位(B)を含み、前記重合単位(B)の含有比率が1.8〜60モル%である共重合体を主体とする耐熱性スチレン系樹脂組成物であって、
【化3】

【化4】

炭素数4〜20のアルコール及び炭素数5〜20のカルボン酸から選択される化合物を0.005〜2質量%含み、かつアルカリ金属化合物をアルカリ金属元素として1〜1000ppm含む耐熱性スチレン系樹脂組成物。
【請求項8】
DSCにより測定したガラス転移温度(Tg)が105℃〜140℃である、請求項7に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物。
【請求項9】
重量平均分子量Mwが13〜30万である、請求項7又は8に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物。
【請求項10】
前記アルカリ金属元素がリチウム金属元素を主体とする、請求項7〜9のいずれか一項に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物。
【請求項11】
前記アルコールがオクタノール及び/又は2−エチルヘキサノールである、請求項7〜10のいずれか一項に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物。
【請求項12】
前記カルボン酸がオクタデカン酸である、請求項7〜11のいずれか一項に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物。

【公開番号】特開2009−179668(P2009−179668A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18328(P2008−18328)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【出願人】(500199479)PSジャパン株式会社 (45)
【Fターム(参考)】