説明

耐熱性プラスチック光ファイバー

【課題】自動車のエンジンルーム内等の高温環境下においても十分な伝送性能を維持することのできる耐熱性を有し、透明性、機械的特性に優れた、プラスチック光ファイバーを提供する。
【解決手段】耐熱性プラスチック光ファイバーであって、芯部と鞘部とを有する。芯部は、荷重たわみ温度またはガラス転移温度が150℃以上である非晶性芳香族ポリエステル樹脂と、ポリカーボネート樹脂とを含む樹脂にて構成されている。鞘部は、芯部を構成する樹脂よりも屈折率の低い樹脂にて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐熱性プラスチック光ファイバーに関し、特に、車載用配線、移動体配線、FA機器配線等の光信号伝送の用途や、光電センサーの用途などに供される、耐熱性プラスチック光ファイバーに関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性プラスチック光ファイバーとして、ポリメタクリル酸メチル系樹脂、ポリスチレン系樹脂の全フッ素化物、ポリカーボネート樹脂をコアとするプラスチック光ファイバーが良く知られている。しかし、その耐熱性として、ポリメタクリル酸メチル系樹脂やポリスチレン系樹脂をプラスチック光ファイバーのコアに用いた場合は約80℃、ポリカーボネート樹脂でも約120〜130℃が使用限界と言われている。例えば、自動車のエンジンルーム内での配線用プラスチック光ファイバーは、150℃を超えるような高温環境下での耐熱性が要求される。したがって、上記した公知のプラスチック光ファイバーでは耐熱性が不十分である。
【0003】
自動車のエンジンルーム内のような過酷な使用環境において要求される性能として、150℃程度の温度に耐えうる耐熱性や、高温下での寸法安定性や<十分な伝送性能などが挙げられる。自動車のエンジンルーム内などで使用するにあたっては、プラスチック光ファイバーは、数メートルレベルの長さで十分対応可能であり、このため耐熱性を満足させることが最も求められている。
【0004】
そこで、耐熱温度150℃をクリアするプラスチック光ファイバーとして、変性ポリカーボネート、熱硬化性樹脂、耐熱温度170℃の架橋ポリメタクリル酸メチル系樹脂、耐熱温度180℃のシリコーン系樹脂が提案されている。しかし、架橋ポリメタクリル酸メチル系樹脂は、操作性が著しく悪く、基本的にアリファティックなポリマーであり、長期使用における耐熱性が低いという欠点がある。
【0005】
車載用途の光ファイバーは、狭い空間で用いられるため、柔軟性を備えていることも必要である。さらに、繰り返し屈曲や振動の作用を受けるため、コア(芯部)−クラッド(鞘部)間での剥離が発生して、光損失が大きくなる恐れがある。このため、耐熱性に優れ、かつ柔軟性と芯鞘間の密着性とが良好であるプラスチック光ファイバーが求められている。
【0006】
耐熱性を克服するために、例えば特許文献1では、芯部に非晶質ポリアリレート樹脂を用い、鞘部にポリフッ化ビニリデンを用いたプラスチック光ファイバーが記載されている。しかし、この特許文献1の光ファイバーは、高い荷重たわみ温度を有し耐熱性には優れているものの、元来、非晶質ポリアリレート樹脂は、高温での加工が必要で溶融曳糸性が著しく悪く、このため生産性を期待できず、また、糸条は硬く柔軟性に欠けるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭59−171904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
自動車のエンジンルーム内等で使用されるプラスチック光ファイバーに望まれる物性としては、耐熱性、耐湿性、透明性、適切な屈折率、鞘との密着性、柔軟性、生産性が重要となる。しかし、これらのすべてを満足するものは未だ無い。
【0009】
本発明は、上記のような問題を解決し、自動車のエンジンルーム内等の高温環境下においても十分な伝送性能を維持することのできる耐熱性を有し、透明性、機械的特性に優れた、プラスチック光ファイバーを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記のような課題を解決するために鋭意検討した結果、プラスチック光ファイバーの芯部に非晶性芳香族ポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂とを配することで、優れた耐熱性、透明性、機械的性質を損なうことなく、要求物性であるところの、十分な伝送性能と優れた耐熱性と安定した生産性とを発揮することが可能であることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち本発明は、以下を要旨とするものである。
(1)芯部と鞘部とを有し、前記芯部は、荷重たわみ温度またはガラス転移温度が150℃以上である非晶性芳香族ポリエステル樹脂と、ポリカーボネート樹脂とを含む樹脂にて構成され、前記鞘部は、前記芯部を構成する樹脂よりも屈折率の低い樹脂にて構成されていることを特徴とする耐熱性プラスチック光ファイバー。
【0012】
(2)芯部は、非晶性芳香族ポリエステルが100質量%未満かつ50質量%以上であるとともに、ポリカーボネートが0質量%を超えかつ50質量%以下であることを特徴とする(1)の耐熱性プラスチック光ファイバー。
【発明の効果】
【0013】
本発明の耐熱性プラスチック光ファイバーは、優れた耐熱性を有し、透明性、機械的特性に優れ、自動車のエンジンルーム内のような高温環境下でも使用可能であり、十分な伝送性能を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の耐熱性プラスチック光ファイバーは、上述のとおり、芯部と鞘部とを有し、前記芯部は、荷重たわみ温度またはガラス転移温度が150℃以上である非晶性芳香族ポリエステル樹脂と、ポリカーボネート樹脂とを含む樹脂にて構成され、前記鞘部は、前記芯部を構成する樹脂よりも屈折率の低い樹脂にて構成されている。
【0015】
上記のように、芯部は、荷重たわみ温度もしくはガラス転移温度が150℃以上、好ましくは160℃以上の非晶性芳香族ポリエステル樹脂を含む。このような非晶性芳香族ポリエステル樹脂として、具体的には、ユニチカ社製の非晶性ポリアリレート樹脂である「Uポリマー(商品名)」が好適に用いられる。なお、非晶性ポリアリレート樹脂と結晶性のポリアリレート樹脂とをあわせて使用すると、結晶部と非晶部との屈折特性の違いから、不均質であるばかりでなく、製造条件によるバラツキもでてくる。
【0016】
非晶性ポリアリレート樹脂として、たとえばビスフェノールと芳香族ジカルボン酸とよりなるものを挙げることができる。
芯部に用いられるポリカーボネート樹脂としては、一般に市販されているところの、たとえば帝人化成社製「パンライト」、出光興産社製「タフロン」などを好ましく用いることができる。
【0017】
芯部を構成する樹脂は、非晶性芳香族ポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂とをドライブレンドしたものでも良く、またコンパウンド品でも良い。さらにマスターチップを作製する方法もあるが、特に限定されない。
【0018】
芯部における非晶性芳香族ポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂との割合は、非晶性芳香族ポリエステル樹脂が100質量%未満かつ50質量%以上であるとともに、ポリカーボネート樹脂が0質量%を超えかつ50質量%以下であることが好ましい。非晶性芳香族ポリエステル樹脂が90質量%以下かつ70質量%以上であるとともに、ポリカーボネート樹脂が10質量%以上かつ30質量%以下であることがより好ましい。
【0019】
非晶性芳香族ポリエステル系樹脂とポリカーボネート樹脂とを含む樹脂を芯部とする本発明のプラスチック光ファイバーの鞘部の樹脂には、芯部に用いられる樹脂よりも屈折率が低い樹脂が用いられる。たとえば、芯部に用いられる樹脂よりも屈折率が低く、しかも耐熱性や機械的強度が優れているフッ素系樹脂を挙げることができる。
【0020】
しかし、フッ素系樹脂には、非晶性芳香族ポリエステル系樹脂との密着性が乏しいものもある。そのようなものを用いる場合には、フッ素系樹脂中に、所要の接着性を付与するための添加剤を含有させてもよい。そのような添加剤として、たとえば、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等を挙げることができる。あるいは、これに代えて、芯部と鞘部との間に、これら芯部および鞘部どうしの接着力を向上させるためのプライマ層を設けてもよい。
【0021】
鞘部に用いることができる他の樹脂として、フッ素樹脂以外のプラスチック、たとえばジエチレングリコールビスアリルカーボネートポリマー、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル共重合体等を挙げることができる。
【0022】
本発明の耐熱性プラスチック光ファイバーは、公知の方法で製造することができる。例えば、ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂とをブレンドした芯成分樹脂を加熱溶融して捲取ローラーでファイバー化することで芯部を形成したのち、この芯部に鞘部の樹脂を付着させる方法で製造することができる。あるいは、芯部の樹脂と鞘部の樹脂とを2層複合紡糸ダイを用いて複合紡糸して、芯部と鞘部とを同時に形成する方法等を挙げることもできる。複合紡糸による製法の方が、溶融状態で芯部と鞘部とが密着するため、接着性の点を考慮すると、より好ましい。
【0023】
本発明の耐熱性プラスチック光ファイバーは、芯部の外径が、通常20μm〜10mm、好ましくは60μm〜5mmである。鞘部の厚さは、通常5μm〜1mm、好ましくは10μm〜0.5mmである。
【0024】
本発明の耐熱性プラスチック光ファイバーは、そのまま使用されることもあるし、その外周にさらに、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ナイロン、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂の外被覆(ジャケット)を施してケーブルとして使用されることもある。
【0025】
本発明の耐熱性プラスチック光ファイバーは、情報伝達、光伝送などの目的に使用することができ、具体的には、ライトガイド、ライトケーブル、ファイバースコープ、ファイバープレート、マイクロチャンネルプレート、光ファイバーケーブル、光ファイバーコード、イメージセンサー、センサーヘッドなどの各種用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。
(実施例1)
芯部に用いる樹脂として、非晶性ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂とが、非晶性ポリアリレート樹脂90質量%/ポリカーボネート樹脂10質量%の割合でコンパウンドされている、ユニチカ社製「U−ポリマー A1」(荷重たわみ温度175℃)を用いた。鞘部にはソルベー社製ポリフッ化ビニリデン樹脂を用いて、耐熱性プラスチック光ファイバーを試作した。
【0027】
詳細には、芯部を構成する樹脂と鞘部を構成する樹脂とを、それぞれ単軸押出機、2軸押出機にて溶融させたのち、2層複合紡糸ダイを用いて、芯部の樹脂の外周に鞘部の樹脂を押出した。そして、これを水冷により固化させ、捲取機にて捲取ることにより、耐熱性プラスチック光ファイバーを試作した。
【0028】
光ファイバーの外径は、芯部と鞘部との吐出量と捲取速度により決定することができるが、試作した光ファイバーは、ファイバー径が約1mm、鞘部の厚さが約20μmであった。
【0029】
この耐熱性プラスチック光ファイバーは、所要の特性を有するものであった。
【0030】
(実施例2)
芯部に用いる樹脂として、非晶性ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂とが、非晶性ポリアリレート樹脂70質量%/ポリカーボネート樹脂30質量%の割合でコンパウンドされている、ユニチカ社製「U−ポリマー A2」(荷重たわみ温度160℃)を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、耐熱性プラスチック光ファイバーを試作した。
【0031】
この耐熱性プラスチック光ファイバーは、所要の特性を有するものであった。
【0032】
(比較例1)
芯部に用いる樹脂は、非晶性ポリアリレート樹脂100%とした。具体的には、ユニチカ社製「U−ポリマー A3」(荷重たわみ温度 150℃未満)を用いた。それ以外は実施例1と同様として、プラスチック光ファイバーを試作した。しかし、溶融紡糸温度が高く、得られた糸条は、繊径斑が大きくプラスチック光ファイバーとして採用することが難しいものであった。
【0033】
(比較例2)
芯部に用いる樹脂は、非晶性ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂とが、非晶性ポリアリレート樹脂40質量%/ポリカーボネート樹脂60質量%の割合となるように調製した。それ以外は実施例1と同様にして、プラスチック光ファイバーを試作しようとした。
【0034】
しかし、ポリカーボネート樹脂の割合が高すぎたため、高温での溶融紡糸を行っていることから熱分解が起こって、目的とする耐熱性プラスチック光ファイバーは得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部と鞘部とを有し、前記芯部は、荷重たわみ温度またはガラス転移温度が150℃以上である非晶性芳香族ポリエステル樹脂と、ポリカーボネート樹脂とを含む樹脂にて構成され、前記鞘部は、前記芯部を構成する樹脂よりも屈折率の低い樹脂にて構成されていることを特徴とする耐熱性プラスチック光ファイバー。
【請求項2】
芯部は、非晶性芳香族ポリエステルが100質量%未満かつ50質量%以上であるとともに、ポリカーボネートが0質量%を超えかつ50質量%以下であることを特徴とする請求項1記載の耐熱性プラスチック光ファイバー。

【公開番号】特開2011−75736(P2011−75736A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225672(P2009−225672)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】