説明

耐熱性ポリエステル樹脂

【課題】耐熱性、耐衝撃性に優れるポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】ジオール成分(I)と該ジオール成分(I)中の下記のビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(A)中の含有量が5〜99モル%であることを特徴とする耐熱性ポリエステル樹脂(III)。
ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(A):
ビスフェノールAエチレンオキサイド1モル付加物(A1)が0〜1モル%、ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物(A2)が92〜100モル%、ビスフェノールAエチレンオキサイド3モル以上の付加物(A3)が0〜7モル%である反応混合物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスフェノールAのアルキレンキシド付加物をジオール成分の原料として使用したポリエステル樹脂に関し、さらに詳しくは耐熱性、耐衝撃性に優れたポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル樹脂、例えばポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート、ポリアリレートは、機械強度、耐熱性等に優れ、例えばフィルム、繊維、成型品等、産業上様々な分野で利用されている。
【0003】
優れた特長を有するこれらの熱可塑性ポリエステル樹脂ではあるが、産業上の様々な要求性能に応えるためには、その樹脂単独での性能には限界があり、改質を目的として他の成分を共重合させるなどの試みがなされている。
【0004】
例えば、ポリエチレンテレフタレートは、その高結晶性により、硬くて脆くなるため、耐衝撃性に劣ったり、他の部材との接着性に乏しいという欠点がある。
その解決方法として、ビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物をジオール成分として共重合させことが知られている。
これにより、非晶性の向上、樹脂への柔軟性が付与がなされ、耐衝撃性、伸長性には有利な変化が現れたり、また、水分散性に効果がある等様々な有用な効果が報告されている(例えば特許文献1〜5)。
【0005】
しかしながら、上記共重合に用いられるビスフェノールAのアルキレンキシド付加物は、耐衝撃性を発現するまで共重合比率を高めると、ガラス転移点が低下して耐熱性に悪影響を及ぼす。また、共重合比率を下げた場合は、耐衝撃性に充分な効果を発現しないなどの問題がある。
【特許文献1】特開2004−155187号公報
【特許文献2】特開平11−200154号公報
【特許文献3】特開平9−110973号公報
【特許文献4】特開平6−116487号公報
【特許文献5】特開平5−147180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、ビスフェノールAのアルキレンキシド付加物を共重合しても耐熱性、耐衝撃性に優れるポリエステル樹脂およびそれを用いたフィルム、繊維、成型品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、ジオール成分(I)とジカルボン酸成分(II)から構成されるポリエステル樹脂(III)であって、該ジオール成分(I)の5〜99モル%が下記のビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(A)であることを特徴とする耐熱性ポリエステル樹脂(III)である。
ただし、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(A)は、(i)ビスフェノールAエチレンオキサイド1モル付加物(A1)の含有量が0〜1モル%、(ii)ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物(A2)の含有量がが92〜100モル%、かつ(iii)ビスフェノールAエチレンオキサイド3モル以上の付加物(A3)の含有量がが0〜7モル%である反応混合物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の耐熱性ポリエステル樹脂は、従来のポリエステル樹脂に比べ、耐熱性、耐衝撃性に優れる効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の耐熱性ポリエステル樹脂(III)を構成するジオール成分(I)として必須であるビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(A)は、以下の付加モル分布であることを特徴とする反応混合物である。
(i)ビスフェノールAエチレンオキサイド1モル付加物(A1)が0〜1モル%、
(ii)ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物(A2)が92〜100モル%、
(iii)ビスフェノールAエチレンオキサイド3モル以上の付加物(A3)が0〜7モル%
【0010】
反応混合物である(A)を構成する(A1)、(A2)、(A3)のそれぞれの比率は特定の範囲である必要がある。
特に主成分の2モル付加物(A2)が耐熱性および耐衝撃性を向上させるために、(A2)の含有量は通常は92〜100モル%である。好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%、特に好ましくは99〜100モル%である。
【0011】
1モル付加物(A1)のフェノール性の水酸基は、カルボン酸とのエステル化反応性が低く、(A1)の含有量は通常0〜1モル%である。好ましくは、0〜0.5モル%、さらに好ましくは、0〜0.2モル%、特に好ましくは0.1モル%以下である。
【0012】
3モル以上の付加物(A3)はエーテル結合濃度が高く、その比率が高いとポリエステル樹脂に導入した場合、樹脂のガラス転移点が下がり、性能として耐熱性が悪化すため、(A3)の含有量は通常は0〜7モル%である。好ましくは、0〜5モル%、さらに好ましくは、0〜2モル%、特に好ましくは1モル%以下である。
【0013】
ジオール成分(I)中のビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(A)の含有量は、通常5〜99モル%である。下限未満ではポリエステル樹脂の耐熱性、耐衝撃性の効果が現れず、上限を超えるとポリエステル樹脂の重合度が上がりにくい。好ましくは、10〜99モル%、さらに好ましくは15〜75モル%、特に好ましくは20〜99モル%である。
【0014】
ジオール成分(I)中のビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(A)の含有量は、得られたポリエステル樹脂をアルカリ水中で加水分解し、その分解物を液体クロマトグラフィーおよびガスクロマトグラフィーで分析することによって定量できる。
【0015】
ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(A)をポリエステル樹脂に導入する方法としては、
(i)ジオール成分(I)としての(A)と他のジオール(例えばエチレングリコール)を、ジカルボン酸成分(II)(例えばテレフタル酸)に重縮合させる方法、
(ii)ジカルボン酸成分(II)としてのジカルボン酸低分子アルキルエステル(テレフタル酸の両末端ジメチルエステルや両末端エチレングリコールエステル)を、ジオール成分(I)としての(A)と他のジオール(例えばエチレングリコール)をエステル交換させる方法、
(iii)ポリエチレングリコールテレフタレート(PET)やポリブチレングリコールテレフタレート(PBT)などの既存のポリエステル樹脂に(A)そのものを溶融混合してエステル交換させる方法、
(iv)市販のポリエステル樹脂と、別途(A)を重合したポリエステル樹脂同士を溶融混合させ、エステル交換させる方法などがある。
これらのうち、(i)と(ii)の方法が好ましく、さらに高分子量体を得る必要がある場合は(ii)の方法が好ましい。
【0016】
本発明の耐熱性ポリエステル(III)を構成するジオール成分(I)で、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(A)以外のジオール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,3−ヘキサンジオール、3,4−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等のアルカンジオール;ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレンエーテルグリコール;上記炭素数2〜36の脂肪族ジオールの炭素数2〜4のアルキレンオキシド(以下AOと略記する)付加物(付加モル数2〜30);1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールAなどの炭素数6〜36の脂環式ジオール;前記の脂環式ジオールの炭素数2〜4のAO付加物(付加モル数2〜30);ビスフェノールFおよびビスフェノールSなどのビスフェノール類;前記ビスフェノール類の炭素数2〜4のAO付加物(付加モル数2〜30)等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
これらの(A)以外のジオール成分のうち、好ましいのは、エチレングリコール、1,3−プロピレンジオール、1,4−ブタンジオールであり、より好ましいのは、エチレングリコール、1,4−ブタンジオールである。
【0017】
本発明の耐熱性ポリエステル(III)には、必要に応じて3価以上の多価アルコールを一部併用してもよい。
多価アルコールのうち、3〜8価またはそれ以上のアルコールとしては、グリセリン、トリエチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールおよびソルビトール等の炭素数3〜36の3〜8価またはそれ以上の脂肪族多価アルコール;前記の脂肪族多価アルコールの炭素数2〜4のAO付加物(付加モル数2〜30);トリスフェノールPA等のトリスフェノール類の炭素数2〜4のAO付加物(付加モル数2〜30);フェノールノボラック、クレゾールノボラック等のノボラック樹脂(平均重合度3〜60)の炭素数2〜4のAO付加物(付加モル数2〜30)等が挙げられる。
【0018】
本発明の耐熱性ポリエステル(III)を構成するジカルボン酸成分(II)としては、必ずしも両末端ジカルボン酸のみに限られず、これらの誘導体(エステル化物、酸ハライド、酸無水物など)も含まれる。具体例としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、およびナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、レパルギン酸、およびセバシン酸等のアルカンジカルボン酸;ドデセニルコハク酸等のアルケニルコハク酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、およびグルタコン酸等のアルケンジカルボン酸;および前記のカルボン酸類の炭素数2〜4の1価または2価のアルコールとのエステル化物、前記のカルボン酸類のハロゲン化物;酸無水物などが挙げられる。
【0019】
上に記載のジカルボン酸成分のうち、カルボン酸類の2価のアルコールとのエステル化物で、エステル化反応によりエステル結合を形成して、ポリエステル骨格に組み込まれる2価アルコールは、請求項1で定義するジオール成分(I)に含めるものとする。
【0020】
本発明の耐熱性ポリエステル(III)には、必要に応じて、3価以上の多価カルボン酸を一部併用してもよい。
多価カルボン酸としては、炭素数9〜20の芳香族ポリカルボン酸(トリメリット酸、ピロメリット酸など)、不飽和カルボン酸のビニル重合物(スチレン/マレイン酸共重合物、スチレン/アクリル酸共重合物、α−オレフィン/マレイン酸共重合物、スチレン/フマル酸共重合物など)などが挙げられる。
【0021】
これらのジカルボン酸(II)のうち、耐熱性、耐衝撃性を向上させることができる点で、好ましいものは芳香族ジカルボン酸である。
【0022】
さらに、芳香族ジカルボン酸のうち、テレフタル酸を用いた場合が耐熱性ポリエステル(III)としては最も好ましい。
テレフタル酸を用いた場合の本発明のポリエステル樹脂は、ASTM D3418−82に規定の方法(DSC法)で測定されるガラス転移点が通常73〜150℃である。好ましくは75〜150℃である。
【0023】
本発明により得られたポリエステル樹脂(III)は、通常の方法、例えば、2軸延伸法で加工され、耐熱性、耐衝撃性に優れるフィルムとして有用である。
【0024】
本発明により得られたポリエステル樹脂(III)は、通常の方法、例えば、溶融紡糸法で紡糸され、耐熱性、耐衝撃性に優れる繊維として有用である。
【0025】
本発明により得られたポリエステル樹脂(III)は、通常の方法、例えば、射出成型法で成型され、耐熱性、耐衝撃性に優れる成型品として有用である。
【0026】
本発明のポリエステル樹脂(III)を構成するビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(A)中の(A1)、(A2)、(A3)の含有比率は、シリル化剤で前処理した上でガスクロマトグラフ(GC)によって確認できる。一例として、測定条件は次の通りであった。
【0027】
<試料の予備調製方法>
試料1gを採取し、次いでアセトン19gを加えて溶解させる。この試料にTMS−H1(Trimethylchlorosilaneのシリル化剤、東京化成製)を0.1ml加え、2〜3分間、50〜70℃に温めシリル化反応を完結させる。この上澄み液を1μl採取し、ガスクロマトグラフで測定を行う。
【0028】
<GCの測定条件>
GC機種 :GC−14B(島津製作所製)
充填剤 :シリコンGE−SE−52(4%)、担体CromosorbG(AW−DM CS);150〜180μm(和光純薬製パックドカラム)
カラム温度 :250〜350℃(昇温速度10℃/分)
検出器 :FID
キャリアガス :窒素 流量50ml/分
【実施例】
【0029】
以下、製造例、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0030】
製造例
内容量1100mlのガラス製オートクレーブに、ビスフェノールA228.0g(1.0mol)と水228.0gを仕込み、窒素置換を行った後、90℃まで昇温し、ビスフェノールAを水に分散させた。ここに水酸化カリウム(KOH)を3.0g(0.054mol)を添加した。再度窒素置換を行い、EO88.0g(2.0mol)を90℃、反応圧0.2MPa以下の範囲で滴下反応させた。滴下開始から4時間後に、リン酸を1.4g(0.014mol)加え、さらにEO22.0g(0.5mol)を90℃、反応圧0.2MPa以下の範囲で滴下反応させた。滴下2時間後に反応を終了させ、反応物を4つ口フラスコに移した。
90℃に加温して分液により水を除去した。さらに、系中に副生成したエチレングリコールやジエチレングリコールが含有されているので、これを除去するために、水300gを加えて90℃で1時間攪拌し洗浄した。その後、分液により水を除去し活性白土処理してろ過した。これを130℃で減圧脱水し、本発明のビスフェノールAジオキシエチレンエーテル(A−1)を265g(収率84%)得た。
この(A−1)をGCにて分析したところ、ビスフェノールAは検出されず(以下、「ND」と略称する。、EO1モル付加物ND、EO2モル付加物97.3%、EO3モル付加物2.7%、EO4モル以上付加物NDであった。
【0031】
比較製造例
内容量1100mlのガラス製オートクレーブに、ビスフェノールA228.0g(1.0mol)と製造例で得た(A−1)72.0gを仕込み、窒素置換を行った後、90℃まで冷却し、ビスフェノールAを(A−1)に分散させた。ここにKOHを3.0g(0.054mol)を添加した。再度窒素置換を行い、EO101.2g(2.3mol)を90℃、反応圧0.2MPa以下の範囲で滴下反応させた。滴下開始から6時間後に反応を終了させ、反応物を4つ口フラスコに移した。90℃に加温して活性白土処理してろ過し、比較のためのビスフェノールAジオキシエチレンエーテル(A’−1)を312g(収率95%)得た。
この(A’−1)をGCにて分析したところ、ビスフェノールAはND、EO1モル付加物ND、EO2モル付加物80.5%、EO3モル付加物17.3%、EO4モル以上付加物2.2%であった。
【0032】
実施例1
内容量1300mlの反応容器に、テレフタル酸332g(2.0mol)とエチレングリコール211g(3.4mol)と、製造例で得た(A−1)190g(0.6mol)およびエステル化触媒としてテトライソプロポキシチタン0.03gを仕込み、220℃に昇温した。縮合水を除去しながら反応を進め、常圧で縮合水の留出がなくなったところで、230℃に昇温し、徐々に系内を減圧にした。エチレングリコールを除去しながら反応を進め、GPCで分子量を追跡した。数平均分子量が18000となったところで内容物を取り出し、本発明のポリエステル樹脂(C−1)を得た。除去されたエチレングリコールは124g(2.0mol)であった。
【0033】
実施例2
実施例1の(A−1)の量を316g(1.0mol)とした以外は、実施例1と同様にして反応を進め、本発明のポリエステル樹脂(C−2)を得た。除去されたエチレングリコールは148g(2.4mol)であった。
【0034】
実施例3
実施例1の(A−1)の量を442g(1.4mol)とした以外は、実施例1と同様にして反応を進め、本発明のポリエステル樹脂(C−3)を得た。除去されたエチレングリコールは173g(2.8mol)であった。
【0035】
比較例1
内容量1300mlのセパラブルコルベンに、ビス−2−ヒドロキシエチルテレフタレート508g(2.0mol)とエステル化触媒としてテトライソプロポキシチタン0.03gを仕込み、230℃に昇温し、徐々に系内を減圧にした。エチレングリコールを除去しながら反応を進め、GPCで分子量を追跡した。数平均分子量が18000となったところで、内容物を取り出し比較のポリエステル樹脂(C’−1)を得た。
【0036】
比較例2
実施例1の(A−1)の代わりに比較製造例で得た(A’−1)を324g(1.0mol)とした以外は、実施例1と同様にして反応を進め、比較のポリエステル樹脂(C’−2)を得た。除去されたエチレングリコールは148g(2.4mol)であった。
【0037】
比較例3
テレフタル酸166g(1mol)と比較製造例で得た(A’−1)を324g(1.0mol)とエステル化触媒としてテトライソプロポキシチタン0.03gを仕込み、220℃に昇温した。縮合水を除去しながら反応を進め、常圧で縮合水の留出がなくなったところで、230℃に昇温し、徐々に系内を減圧にした。反応を進めても数平均分子量が13000から上昇しなかったため、取り出し、比較のポリエステル樹脂(C’−3)を得た。
【0038】
ポリエステル樹脂の分子量の測定はGPCで行い以下の条件で行った。
【0039】
GPCによる分子量測定
装置 : 東ソー(株)製 HLC−8120
カラム : TSK GEL GMH6 2本 (東ソー(株)製)
測定温度 : 25℃
試料溶液 : 0.25重量%のテトラヒドロフラン(THF)溶液
溶液注入量: 200μl
検出装置 : 屈折率検出器
なお、分子量校正曲線は標準ポリスチレンを用いて作成した。
【0040】
以上の実施例1〜3および比較例1〜3で得られたポリエステル樹脂の耐熱性と耐衝撃性を以下の方法で測定し、判定した。その測定結果を表1に示す。
【0041】
<耐熱性の評価>
ポリエステル樹脂の耐熱性は、ASTM D3418−82に規定の方法(DSC法)で、ガラス転移点を測定することにより行い、その測定結果を以下の判定基準で評価した。
測定装置には、セイコー電子工業製のDSC20,SSC/580を使用した。
◎・・・80℃以上、150℃未満
○・・・75℃以上、80℃未満
△・・・70℃以上、75℃未満
×・・・70℃未満
【0042】
<耐衝撃性の評価>
ポリエステル樹脂の耐衝撃性は、ASTM D256に規定の方法による、アイゾット衝撃試験を行い、測定結果を以下の判定基準で評価した。
測定装置には、安田精機製作所製のD型衝撃試験器NO.258−Dを使用した。
◎・・・50J/m以上
○・・・40J/m以上、50J/m未満
△・・・35J/m以上、40J/m未満
×・・・35J/m未満
【0043】
【表1】

【0044】
本発明のポリエステル樹脂は、従来法により得られるビスフェノールAジオキシエチレンエーテルを使用したポリエステル樹脂に比べ、ガラス転移点が極めて大きくなり、かつ耐衝撃性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の耐熱性ポリエステル樹脂は、ジオール成分としてビスフェノールAエチレンオキサイドの付加モル分布を特定の範囲のものを共重合することで、耐熱性、耐衝撃性に優れるるため、フィルム、繊維、成型品として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオール成分(I)とジカルボン酸成分(II)から構成されるポリエステル樹脂(III)であって、該ジオール成分(I)の5〜99モル%が下記のビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(A)であることを特徴とする耐熱性ポリエステル樹脂(III)。
ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(A):
(i)ビスフェノールAエチレンオキサイド1モル付加物(A1)の含有量が0〜1モル%、(ii)ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物(A2)の含有量がが92〜100モル%、
(iii)ビスフェノールAエチレンオキサイド3モル以上の付加物(A3)の含有量がが0〜7モル%である反応混合物。
【請求項2】
該ジオール成分(I)中の該ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(A)の含有量が、10〜80モル%である請求項1記載の耐熱性ポリエステル樹脂。
【請求項3】
該ジカルボン酸成分(II)が芳香族ジカルボン酸である請求項1または2記載の耐熱性ポリエステル樹脂。
【請求項4】
該ジカルボン酸成分(II)がテレフタル酸であり、ASTM D3418−82に規定の方法(DSC法)で測定されるガラス転移点が73〜150℃である請求項1〜3いずれか記載の耐熱性ポリエステル樹脂。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載のポリエステル樹脂(III)を加工してなる耐熱性フィルム。
【請求項6】
請求項1〜4いずれかに記載のポリエステル樹脂(III)を紡糸してなる耐熱性繊維。
【請求項7】
請求項1〜4いずれかに記載のポリエステル樹脂(III)を成型してなる耐熱性成型品。

【公開番号】特開2008−291151(P2008−291151A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−139466(P2007−139466)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】