説明

耐熱性及び耐流動性に優れた絵柄層を有する成形用加飾シート、及び射出成形体の加飾方法

【課題】成形用加飾シートの絵柄層について、延伸性を維持しながら耐熱性及び耐流動性を向上させること。
【解決手段】基体シート1の面上に加飾層が形成されて成る成形用加飾シートであって、該加飾層は、顔料及びバインダー樹脂を含有する絵柄層3を有し、該バインダー樹脂は、セルロース誘導体に対して(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合させて得られるグラフト共重合体を含む、成形用加飾シート。また、前記顔料が金属薄膜細片を含む成形用加飾シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインモールド射出成形体の表面を加飾するのに適する成形用加飾シートに関し、特に絵柄層が耐熱性及び耐流動性に優れている成形用加飾シートに関する。
【背景技術】
【0002】
加飾シートを用いてプラスチック部品や外装品のような射出成形体の表面を加飾又は保護する方法は従来から知られている。例えば、特許文献1には支持体である基体シートの片面上に加飾層が設けられた成形用加飾シート、及びこの成形用加飾シートを射出成形金型内に挿入し、インモールド射出成形することで、加飾された射出成形体を得ること(射出成形同時加飾)が記載されている。
【0003】
加飾層は、一般に、絵柄、着色剤、接着剤等が層状に積層された積層体である。物品表面に貼着された後は、加飾層は装飾機能や保護機能を奏する被覆を形成する。絵柄及び着色剤等の層は基体シート上にグラビアインキ等の印刷インキ又は塗料を順次印刷又は塗工して形成される。
【0004】
一般に、グラビアインキ、フレキソインキ、スクリーンインキ及び塗料などには、1液型熱可塑性のものと、2液型熱硬化性のものが存在する。例えば、1液型熱可塑性インキはバインダー樹脂としてアクリル樹脂のような熱可塑性樹脂を含有する。これに対し、2液型熱硬化性インキはバインダー樹脂としてポリオール及びポリイソシアネートのような熱硬化性樹脂を含有する。
【0005】
1液型熱可塑性インキを使用して成形用加飾シートの絵柄層や着色層を形成すると、バインダー樹脂である熱可塑性樹脂が射出樹脂の熱によって軟化し、射出樹脂の圧力によって流動して、絵柄の外観不良が生じ易い。特に金属薄膜細片からなる光輝性顔料は顔料の配向が僅かでも変化すると顕著に外観が変化する。そのため、光輝性顔料によって金属調の外観が付与された着色層や絵柄層では、射出樹脂の熱及び圧力による絵柄の外観不良が特に目立ってしまう。射出樹脂の熱及び圧力によってインキが流動して発生する絵柄の外観不良は、特に「インキ流れ」と呼ばれる。
【0006】
他方、2液型熱硬化性インキを使用すると、バインダー樹脂中に3次元網目構造が形成されるために絵柄層の延伸性が低下し、射出成形体の曲面部においてクラックが発生し易くなる。また、射出成形体の立体形状が複雑であったり、深みがある場合、絵柄層が立体形状に対して追随し難くなる。
【0007】
特許文献2には、バインダー樹脂としてアクリル系樹脂、セルロース系樹脂を含む印刷インキが記載されている。この印刷インキは耐ブロッキング性、耐熱性などに優れており、プラスチックラベルの絵柄を印刷するのに適している。しかしながら、この印刷インキは加熱時に流動し易く、射出成形同時加飾を行う成形用加飾シートの絵柄層において、インキ流れを抑制するには、耐熱性及び耐流動性が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−264321
【特許文献2】特開2008−163231
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、成形用加飾シートの絵柄層について、延伸性を維持しながら耐熱性及び耐流動性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基体シートの面上に加飾層が形成されて成る成形用加飾シートであって、
該加飾層は、顔料及びバインダー樹脂を含有する絵柄層を有し、
該バインダー樹脂は、セルロース誘導体に対して(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合させて得られるグラフト共重合体を含む、成形用加飾シートを提供する。
【0011】
ある一形態においては、前記顔料が金属薄膜細片を含む。
【0012】
ある一形態においては、前記(メタ)アクリル酸エステルが、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル及び(メタ)アクリル酸ブチルから成る群から選択される少なくとも一種である。
【0013】
ある一形態においては、前記セルロース誘導体が、ニトロセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート及びエチルセルロースから成る群から選択される少なくとも一種のセルロース樹脂に対し、(メタ)アクリル酸エステルのグラフト重合点を形成したものである。
【0014】
ある一形態においては、前記(メタ)アクリル酸エステルとセルロース誘導体との質量比が固形分を基準にして1/1〜4/1である。
【0015】
ある一形態においては、前記(メタ)アクリル酸エステルのグラフト重合点の量が、グラフト重合させる(メタ)アクリル酸エステル100モル部に対して25〜500モル部である。
【0016】
ある一形態においては、前記(メタ)アクリル酸エステルのグラフト重合点は、セルロース樹脂に含まれる水酸基にイソシアネート基含有ビニルモノマーを反応させることにより形成される。
【0017】
また、本発明は、成形用金型内に、基体シートが金型の内面に接するような向きに上記いずれか記載の成形用加飾シートを送り込む工程;
金型を閉じ、溶融樹脂が加飾シートの接着層側(基体シートの反対側)の面に接するように、溶融樹脂を金型内に充満させる工程;及び
樹脂を冷却し、金型を開いて射出成形体を取り出す工程;
を包含する射出成形体の表面を加飾する方法を提供する。
【0018】
尚、本明細書では、「絵柄層」という文言の意味には、柄を形成しない着色層も含めることとする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の成形用加飾シートの絵柄層を形成するのに用いられるバインダー樹脂は耐熱性及び耐流動性に優れている。それゆえ、本発明の成形用加飾シートでは、射出成形同時加飾を行った場合に絵柄層等にインキ流れが発生しない。また、該バインダー樹脂はアクリル系樹脂との親和性にも優れている。それゆえ、本発明の成形用加飾シートの絵柄層はその上に印刷インキがのり易く、刷り重ね適性が優れている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態である加飾シートの構造を示す断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態である加飾シートの構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
加飾シート
本発明の加飾シートの断面構造の典型例を図1及び図2に示す。図1において、基体シート1の片面に接して加飾層2が設けられている。加飾層2は基体シートの側から順に積層された着色層である絵柄層3及び接着層4を有している。図2では、着色層である絵柄層3の上に、柄を形成する第2絵柄層3’が重ねられている。
【0022】
加飾層を構成する層のうち各樹脂層の形成は、特に断らない限り、従来と同様の方法によって行うことができる。従来の層形成方法の例には、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0023】
基体シート
基体シート1は、絵柄層や着色層をシート上に支持する用途に従来から使用されるシート材料又はフィルム材料から構成される。フィルム材料は合成樹脂からなるシート材料をいう。合成樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂などが使用できる。
【0024】
基体シートは、射出成形同時加飾を行った後も加飾層と接着して射出成形体の最外側層を形成する場合、及び射出成形同時加飾を行った後に加飾層から剥離する場合がある。基体シートが射出成形体の最外側層を形成する場合は、基体シートは絵柄層及び射出成形体などを傷等から保護する。この場合、基体シートは熱延伸性に優れていることが好ましい。成形用加飾シートの立体形状に対する追随性が向上するからである。基体シートとしては、例えばアクリル樹脂フィルム、ポリカーボネート樹脂フィルム、ポリカーボネート樹脂/ポリエステル樹脂アロイフィルムなどが好ましい。
【0025】
かかる材質の場合、基体シートの厚さは70〜200μm、好ましくは80〜160μm、より好ましくは90〜140μm程度である。基体シートの厚さが70μm未満であると強度が不足して射出成形同時加飾を行う際に破損するおそれがあり、200μmを超えると射出樹脂の熱が金型に逃げ難くインキ流れが発生し易くなる。
【0026】
射出成形同時加飾を行った後に、加飾層を残して基体シートを射出成形体から剥離する場合は、基体シートは薄く強靭性に優れていることが好ましい。基体シートとしては、例えば延伸ポリエステル樹脂フィルムなどが好ましい。
【0027】
かかる材質の場合、基体シートの厚さは10〜100μm、好ましくは20〜80μm、より好ましくは30〜70μm程度である。基体シートの厚さが10μm未満であると強度が不足して射出成形同時加飾を行う際に破損するおそれがあり、100μmを超えると成形用加飾シートの立体形状に対する追随性が低下することがある。
【0028】
加飾層
図1に示されるように、加飾層2は基体シートの面上に設けられる。加飾層は基体シートの片面に設けられても両面に設けられてもよい。加飾層は、少なくとも絵柄層3を有する。図2に示されるように、絵柄層は複数積層して形成されてよく、シート面の一部に形成されてもよい。また、加飾層2は、要すれば基体シート1と絵柄層3の間に、ハードコート層(非表示)やアンカー層(非表示)、また絵柄層3の露出表面に隣接して、着色層(非表示)、追加のアンカー層(非表示)や接着層4を有してよい。
【0029】
射出成形同時加飾を行った後に、加飾層2を残して基体シート1が射出成形体から剥離される場合、加飾層2は基体シート1に対して離型性を有する必要がある。かかる場合は、基体シート1と絵柄層3との間に、基体シート1に接するように離型層(非表示)が形成される。
【0030】
剥離層は転写時に基体シートと一緒になって転写層から分離するものであってよく、基体シートから分離して転写層の最外側表面を形成するものであってもよい。離型層の材質としては、メラミン系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、セルロース誘導体、尿素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、パラフィン系樹脂およびこれらの複合物などを用いることができる。
【0031】
接着層4は、必要に応じて、成形用加飾シートの被加飾物、すなわち射出成形体に最も近い面に設けられる。接着層は、射出成形同時加飾の時に、加飾層と射出成形体とを接着するものである。接着層としては、射出成形体に適した感熱性あるいは感圧性の樹脂を適宜使用する。たとえば、射出成形体の材質がアクリル系樹脂の場合はアクリル系樹脂を用いるとよい。
【0032】
また、射出成形体の材質がポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン共重合体系樹脂、ポリスチレン系ブレンド樹脂の場合は、これらの樹脂と親和性のあるアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを使用すればよい。さらに、射出成形体の材質がポリプロピレン樹脂の場合は、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂が使用可能である。
【0033】
絵柄層
絵柄層3は、例えば、インキ又は塗料を基体シート1の表面に展着させて形成する。基体シート1と絵柄層3の間にハードコート層やアンカー層が形成される場合は、インキ又は塗料はこれらの層の表面に展着させる。インキ又は塗料を展着させる方法としては、例えば、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷等の印刷方式;及びグラビアコーター、グラビアリバースコーター、フレキソコーター、ブランケットコーター、ロールコーター、ナイフコーター、エアナイフコーター、キスタッチコーター、キスタッチリバースコーター、コンマコーター、コンマリバースコーター、マイクログラビアコーター等の塗工方式を用いることが出来る。
【0034】
図2の第2絵柄層3’は、絵柄層3の面上に形成すること以外は絵柄層3と実質的に同様にして形成される。
【0035】
これら絵柄層の厚さは特に限定されないが、隠蔽性及び意匠性に優れ、かつ熱成形時に色むらが発生しにくいことから、0.1〜5μmが好ましく、特に好ましくは0.5〜3μmである。基体シートと絵柄層の密着性を制御する目的で、基体シートの表面にはコロナ処理やプライマー塗工等の表面処理を施しても良い。
【0036】
絵柄層を形成するために、金属薄膜細片をバインダー樹脂中に分散した、鏡面状金属光沢を有するインキ(以下、高輝性インキと言う。)からなる高輝性インキ層を用いることができる。金属薄膜細片のインキ中の不揮発分に対する含有量は、3〜60質量%の範囲であることが好ましい。顔料として金属薄膜細片を使用した高輝性インキは、該インキを印刷又は塗布した際に金属薄膜細片が被塗物表面に対して平行方向に配向する結果、従来の金属粉を使用したメタリックインキでは得られない高輝度の鏡面状金属光沢が得られる。
【0037】
該高輝性インキ層に使用する高輝性インキに用いられる金属薄膜細片の金属としては、アルミニウム、金、銀、銅、チタン、クロム、ニッケル、インジウム、モリブデン、タングステン、パラジウム、イリジウム、シリコン、タンタル、ニッケルクロム、クロム銅、アルミニウムシリコン、真鍮、ステンレス等を使用することができる。金属を薄膜にする方法としては、アルミニウムのように融点の低い金属の場合は蒸着、アルミニウム、金、銀、銅など展性を有する場合は箔、融点が高く展性も持たない金属の場合はスパッタリング等を挙げることができる。
【0038】
これらの中でも、蒸着金属薄膜から得た金属薄膜細片が好ましく用いられる。金属薄膜の厚さは、0.01〜0.10μmが好ましく、さらに好ましくは0.02〜0.08μmである。インキ中に分散させる金属薄膜細片の面方向の大きさは、5〜25μmが好ましく、さらに好ましくは10〜15μmである。上記範囲内であると、金属薄膜細片が容易に配向するため十分な輝度が得られるほか、グラビア方式あるいはスクリーン印刷方式でインキを印刷又は塗布する場合に、版の目詰まりの原因とならない。
【0039】
金属薄膜細片は、インキ中における分散性を高めるために表面処理されるのが好ましい。表面処理剤としては、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸等の有機脂肪酸;及びメチルシリルイソシアネート、ニトロセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、エチルセルロース等のセルロース誘導体が挙げられ、公知慣用の方法で金属薄膜細片表面に吸着させる。
【0040】
絵柄層を形成するインキ又は塗料のバインダー樹脂としては、セルロース誘導体に対して(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合させて得られるグラフト共重合体を用いる。絵柄層の耐熱性及び耐流動性が向上してインキ流れが防止されるからである。
【0041】
該グラフト共重合体では、(メタ)アクリル酸エステルが重合して形成されるポリ(メタ)アクリル酸エステルの分子鎖とセルロース誘導体の分子鎖に絡み合いが生じるため、高温下で圧力がかかってもバインダー樹脂のマトリックスが流動し難くなると考えられる。この効果は、特に顔料として金属薄膜細片を含む高輝性インキを用いる場合に顕著に現れる。
【0042】
更に、該グラフト共重合体では、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの分子鎖がセルロース誘導体の分子鎖を取り囲んで固定しており、アクリル系樹脂との親和性が維持される。それゆえ、本発明の成形用加飾シートの絵柄層はその上に印刷インキがのり易く、層を重ねて印刷した場合にも色柄が乱れ難い。尚、一般に、印刷インキ、特にグラビア印刷用印刷インキのバインダー樹脂にはアクリル系樹脂、ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂及びこれらの混合物が含まれている。
【0043】
セルロース誘導体に対してグラフト重合させる(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル及び(メタ)アクリル酸sec−ブチルから成る群から選択される少なくとも一種が好ましい。これらの中でも特に好ましいものは(メタ)アクリル酸エチルであり、最も好ましくはメタクリル酸エチルである。
【0044】
(メタ)アクリル酸エステルとセルロース誘導体との重合割合は、固形分質量を基準にして1/1〜4/1、好ましくは3/2〜5/2、より好ましくは2/1である。両者の割合が1/1未満であるとインキ流れには効果はあるが、印刷適性が悪くなる。即ち、セルロース誘導体の含有量が多すぎるインキは汎用される印刷インキに対する馴染み性が低く、層を重ねて印刷した場合に色柄が乱れ易くなる。両者の割合が4/1を超えるとインキ流れを抑制する効果がほとんど見られなくなる。
【0045】
セルロース誘導体は、分子鎖に(メタ)アクリル酸エステルのグラフト重合点、すなわち(メタ)アクリル酸エステルが重合を開始する重合開始点を有する必要がある。(メタ)アクリル酸エステルのグラフト重合点の好ましい例はビニル基である。例えば、セルロース誘導体の原料であるセルロース樹脂が分子鎖に水酸基を有する場合、水酸基と反応する官能基を含有するビニルモノマーを用いて、セルロース樹脂の分子鎖にビニル基を導入することができ、かかるビニル基は(メタ)アクリル酸エステルのグラフト重合点として機能する。
【0046】
上記ビニルモノマーに含まれるのに好ましい、水酸基と反応する官能基としては、イソシアネート基などが挙げられる。好ましい官能基は、水酸基との反応性に優れ、反応後に新たな官能基を生成しないことから、イソシアネート基である。
【0047】
イソシアネート基含有ビニルモノマーとしては、例えば2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレート(香川ケミカル(有)製「V1−1」や昭和電工(株)製「カレンズMOI」や「カレンズAOI」)やジメチルメタ−イソプロペニルベンジルイソシアネート(香川ケミカル(有)製「V1−2」)などがあげられる。
【0048】
(メタ)アクリル酸エステルのグラフト重合点の量は、セルロース誘導体100モル部に対してメタクリル基が25〜500モル部、好ましくは50〜450モル部、より好ましくは100〜400モル部、更に好ましくは120〜350モル部になる量である。
【0049】
上記グラフト重合点の量が少なすぎるとポリ(メタ)アクリル酸エステルの分子鎖が長くなりすぎて樹脂溶液の粘度が高くなり、印刷が困難になる。上記グラフト重合点の量が多すぎるとポリ(メタ)アクリル酸エステルの分子鎖が短くなり、分子同士の絡み合いが少なくなるため、絵柄層のインキ流れに対する耐性が低くなる。
【0050】
セルロース誘導体にグラフトしたポリ(メタ)アクリル酸エステル鎖の分子量は、質量平均分子量が10〜30万、好ましくは18〜28万、より好ましくは20〜25万程度である。ポリ(メタ)アクリル酸エステル鎖の質量平均分子量が10万未満であると分子鎖が短くなり、分子同士の絡み合いが少なくなるため、インキ流れに対する耐性が低くなる。また、分子量が30万を超えると溶液粘度が高くなり、印刷が困難になる。
【0051】
セルロース誘導体の分子鎖は、ニトロセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート及びエチルセルロースから成る群から選択される少なくとも一種のセルロース樹脂に由来することが好ましい。これらの中でも特に好ましいものはセルロースアセテートプロピオネートである。
【0052】
セルロースアセテートプロピオネートは、主にアセチル基とプロピオニル基とを置換基として有するセルロースエステル樹脂である。セルロースアセテートプロピオネートは印刷インキのバインダーとして用途があり、粉体又は適当な有機溶媒に溶解した溶液の形態で市販されている。この種のセルロースアセテートプロピオネートは、例えば、アセチル基含有量が0.5〜3.0質量%、好ましくは1.5〜2.0質量%、プロピオニル基含有量が40〜50質量%、好ましくは47〜49質量%、水酸基含有量が1.0〜5.0質量%、好ましくは1.5〜2.0質量%、融点が188〜210℃である(ガラス転移温度は140〜160℃)。
【0053】
セルロース誘導体に(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合させる方法としては、セルロース誘導体に(メタ)アクリル酸エステルを加え、重合開始剤の存在下において、例えば60〜90℃、6〜15時間の条件で溶液重合する方法が挙げられる。
【0054】
このとき、分子鎖に水酸基を有するセルロース樹脂(例えば、セルロースアセテートプロピオネート)にイソシアネート基含有ビニルモノマーを反応させてセルロース誘導体を調製し、引き続き、反応液中に(メタ)アクリル酸エステルを加えると、セルロース樹脂に導入されたビニル基がグラフト重合点となり、これに(メタ)アクリル酸エステルがグラフト重合することで、グラフト化の程度の高いグラフト共重合体を得ることができる。
【0055】
また、重合開始剤としては、2,2−アゾビス−イソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)などが適量使用できる。
【0056】
得られるグラフト共重合体の質量平均分子量(Mw)はポリスチレン換算にて、100,000〜300,000、好ましくは120,000〜230,000、より好ましくは150,000〜200,000である。Mwがこのような範囲であると、成形用加飾シートの絵柄層は射出成形同時加飾を行った場合にインキ流れが発生し難くなり、また、刷り重ね適性が向上する。
【0057】
印刷インキには、必要に応じて、意匠性、展延性を阻害しない限り、インキ中に消泡、沈降防止、顔料分散、流動性改質、ブロッキング防止、帯電防止、酸化防止、光安定性、紫外線吸収、内部架橋等を目的として、従来のグラビアインキ、フレキソインキ、スクリーンインキ、あるいは塗料等に使用されている各種添加剤を使用することができる。このような添加剤としては、着色用顔料、染料、ワックス、可塑剤、レベリング剤、界面活性剤、分散剤、消泡剤、キレート化剤、ポリイソシアネート等を挙げることができる。
【0058】
印刷インキに用いられる溶剤としては、従来のグラビアインキ、フレキソインキ、スクリーンインキ、あるいは塗料等に使われている公知慣用の溶剤を使用することができる。具体的にはたとえば、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素;n−ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族または脂環式炭化水素;酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル等を挙げることができる。
【0059】
一般にインキの配合原料を安定して分散させるには、ロールミル、ボールミル、ビーズミル、あるいはサンドミル等を使用して練肉することにより、顔料その他添加剤をサブミクロンまで微粒子化する。しかし、本発明の鮮映性に優れた熱成形用積層シートの高輝性インキ層に使用する高輝性インキに、金属光沢を発現させるために配合する金属薄膜細片は5〜25μmの大きさが好ましい。上記練肉を行った場合は金属薄膜細片が微粒子化してしまい、金属光沢が極端に低下する。したがって、本発明においては練肉は行わず、単に上記配合原料を混合してインキとすることが望ましい。そのためには、分散性を向上させる目的で、前記したように金属薄膜細片を表面処理しておくことが好ましい。
【0060】
物品の加飾方法
本発明の加飾シートを使用して熱ロール転写やインモールド成形などにより、物品を加飾することができる。例えば、熱ロール転写においては、加飾シートの接着層側(基体シートの反対側)の面を被加飾物の表面に重ね、ロール転写機、アップダウン転写機などの転写機を用いて、加飾シートの基体シート側から熱及び圧力をかける。こうすることにより、加飾シートが被加飾物の表面に接着し、物品の表面が加飾される。
【0061】
また、インモールド射出成形においては、まず、成形用金型内に、基体シートが金型の内面に接するような向きに加飾シートを送り込む。次いで、金型を閉じ、溶融樹脂が加飾シートの接着層側(基体シートの反対側)の面に接するように、すなわち、加飾シートが溶融樹脂と金型の内面に挟まれるように、溶融樹脂を金型内に充満させる。その結果、溶融樹脂は成形され、同時に加飾シートは射出成形体の表面に接着される。樹脂を冷却し、金型を開いて射出成形体を取り出すと、加飾層が射出成形体の表面に接着されて、射出成形体の表面が加飾される。
【0062】
基体シートと加飾層の間に離型層が形成されている場合は、最後に基体シートが剥離される。
【0063】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。尚、実施例中「部」又は「%」で表される量は特に断りなき限り質量を基準にして表す。
【実施例】
【0064】
実施例1
(バインダー樹脂の調製)
・CAPの変性
攪拌機、還流冷却器、温度計を備えたフラスコ内にMEK30部及びMIBK30部を入れ、攪拌しながらCAP(イーストマンケミカル製「CAP−482−20」)15部を少量ずつ加えた。60℃に昇温して3時間攪拌を継続し完全に溶解したことを確認した。この溶液に2−メタクロイルオキシエチルイソシアネートを加え5時間攪拌し反応させた。
【0065】
・グラフト化
ついで、この反応液にCAP変性物160部をガラス製反応容器内に仕込み、攪拌しながら80℃に昇温した。エチルメタクリレート95部、ヒドロキシエチルメタクリレート5部、AIBN0.5部の混合液をフラスコに3時間かけて滴下した。80℃で5時間熟成反応を行い、アクリル化合物とCAPの共重合物であるバインダー樹脂溶液を得た。
【0066】
・分析
得られたバインダー樹脂のMnおよびMwを、ゲルパーミエションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定したところ、次の結果が得られた。
【0067】
[表1]

【0068】
(加飾フィルム及び加飾された成形品の製造)
このバインダー樹脂を15部(固形分)、金属薄膜細片としてアルミニウム薄膜細片を5部、酢酸エチル22部、メチルエチルケトン26部、イソプロパノール10部を混合し、不揮発分中のアルミニウム薄膜細片濃度が42質量%である印刷インキ(光輝性インキ)を調製した。
【0069】
基体シートとして厚さ125μmのアクリル系フイルムを準備した。このフィルムの面上に、着色層として得られた印刷インキを乾燥膜厚2μmとなるように塗工した。次いで、この着色層の面上に、アクリル/ビニル系樹脂をバインダー樹脂として含有し、カーボンを着色剤として含有する印刷インキを部分的に塗工して、絵柄層を形成した。着色層の面上に形成された絵柄は鮮明であり、色柄の乱れは認められなかった。
【0070】
更にアクリル系樹脂を含む塗料を塗布乾燥して接着層を形成して、加飾フィルムを得た。上記工程において樹脂層の形成は全てグラビアコート法にて行った。
【0071】
得られた加飾フィルムを金型に入れて、ポリカーボネート/ABSアロイ樹脂のインモールド射出成形を行い、自動車内装用スイッチベースを作成した。
【0072】
得られたスイッチベース成形品の外観は均一な高輝度の鏡面状光沢を有しており、樹脂の射出ノズルに対応する部位にもインキ流れは認められなかった。また、立体形状の曲面部位にもクラックは発生しなかった。
【0073】
実施例2
基体シートとして厚さ50μmのポリエステル系フィルムを準備した。このフィルムの面上に、離型処理層としてエポキシ/メラミン系の印刷インキを乾燥膜厚1μmとなるように塗工した。ついで製品トップ層としてアクリル系の印刷インキ層を乾燥膜厚5μmとなるように塗工した。さらに着色層として得られた印刷インキを乾燥膜厚2μmとなるように塗工した。この着色層の面上に、アクリル/ビニル系樹脂をバインダー樹脂として含有し、カーボンを着色剤として含有する印刷インキを部分的に塗工して、絵柄層を形成した。着色層の面上に形成された絵柄は鮮明であり、色柄の乱れは認められなかった。
【0074】
更にアクリル系樹脂を含む塗料を塗布乾燥して接着層を形成して、加飾フィルムを得た。上記工程において樹脂層の形成は全てグラビアコート法にて行った。
【0075】
得られた加飾フィルムを金型に入れて、ポリカーボネート/ABSアロイ樹脂のインモールド射出成形を行い、自動車内装用スイッチベースを作成した。
【0076】
得られたスイッチベース成形品の外観は均一な高輝度の鏡面状光沢を有しており、樹脂の射出ノズルに対応する部位にもインキ流れは認められなかった。また、立体形状の曲面部位にもクラックは発生しなかった。
【0077】
比較例1
(印刷インキの製造)
固形分として、アクリル系樹脂(三菱レイヨン(株)製、「ダイヤナール BR−90」、重量平均分子量230,000、Tg65℃)10部、ニトロセルロース樹脂(ベルジュラックNC社製、「LIG 1/2」、硝化度10.7〜11.4%、重合度80〜95)5部、アルミニウム薄膜細片5部;溶剤として、メチルエチルケトン24部、メチルイソブチルケトン24部を配合し、ホモディスパーにて分散し、印刷インキ(光輝性インキ)を得た。
【0078】
基体シートとして厚さ125μmのアクリル系フィルムを準備した。このフィルムの面上に、着色層として得られた印刷インキを乾燥膜厚2μmとなるように塗工した。次いで、この着色層の面上に、アクリル系樹脂をバインダー樹脂として含有する印刷インキを部分的に塗工して、絵柄層を形成した。着色層の面上に形成された絵柄はムラ等不鮮明な部分及び色柄の乱れが認められた。
【0079】
更にアクリル系樹脂を含む塗料を塗布乾燥して接着層を形成して、加飾フィルムを得た。上記工程において樹脂層の形成は全てグラビアコート法にて行った。
【0080】
得られた加飾フィルムを金型に入れて、ポリカーボネート/ABSアロイ樹脂のインモールド射出成形を行い、自動車内装用スイッチベースを作成した。
【0081】
得られたスイッチベース成形品の外観は均一な高輝度の鏡面状光沢を有していたが、樹脂の射出ノズルに対応する部位でインキ流れが認められた。
【0082】
比較例2
基体シートとして厚さ50μmのポリエステル系フィルムを準備した。このフィルムの面上に、離型処理層としてエポキシ/メラミン系の印刷インキを乾燥膜厚1μmとなるように塗工した。ついで製品トップ層としてアクリル系の印刷インキ層を乾燥膜厚5μmとなるように塗工した。さらに比較例1で着色層として得られた印刷インキを乾燥膜厚2μmとなるように塗工した。この着色層の面上に、アクリル/ビニル系樹脂をバインダー樹脂として含有し、カーボンを着色剤として含有する印刷インキを部分的に塗工して、絵柄層を形成した。着色層の面上に形成された絵柄はムラ等不鮮明であり、色柄の乱れは認められた。
【0083】
更にアクリル系樹脂を含む塗料を塗布乾燥して接着層を形成して、加飾フィルムを得た。上記工程において樹脂層の形成は全てグラビアコート法にて行った。
【0084】
得られた加飾フィルムを金型に入れて、ポリカーボネート/ABSアロイ樹脂のインモールド射出成形を行い、自動車内装用スイッチベースを作成した。
【0085】
得られたスイッチベース成形品の外観は均一な高輝度の鏡面状光沢を有していたが、樹脂の射出ノズルに対応する部位でインキ流れが認められた。
【符号の説明】
【0086】
1…基体シート、
2…装飾層、
3…絵柄層、
3’…第2絵柄層、
4…接着層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体シートの面上に加飾層が形成されて成る成形用加飾シートであって、
該加飾層は、顔料及びバインダー樹脂を含有する絵柄層を有し、
該バインダー樹脂は、セルロース誘導体に対して(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合させて得られるグラフト共重合体を含む、成形用加飾シート。
【請求項2】
前記顔料が金属薄膜細片を含む請求項1記載の成形用加飾シート。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル酸エステルが、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル及び(メタ)アクリル酸ブチルから成る群から選択される少なくとも一種である請求項1又は2記載の成形用加飾シート。
【請求項4】
前記セルロース誘導体が、ニトロセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート及びエチルセルロースから成る群から選択される少なくとも一種のセルロース樹脂に対し、(メタ)アクリル酸エステルのグラフト重合点を形成したものである請求項1〜3のいずれか記載の成形用加飾シート。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル酸エステルとセルロース誘導体との質量比が固形分を基準にして1/1〜4/1である請求項1〜4のいずれか記載の成形用加飾シート。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル酸エステルのグラフト重合点の量が、グラフト重合させる(メタ)アクリル酸エステル100モル部に対して25〜500モル部である請求項1〜5のいずれか記載の成形用加飾シート。
【請求項7】
前記(メタ)アクリル酸エステルのグラフト重合点は、セルロース樹脂に含まれる水酸基にイソシアネート基含有ビニルモノマーを反応させることにより形成される請求項4〜6のいずれか記載の成形用加飾シート。
【請求項8】
成形用金型内に、基体シートが金型の内面に接するような向きに請求項1〜7のいずれか記載の成形用加飾シートを送り込む工程;
金型を閉じ、溶融樹脂が加飾シートの接着層側(基体シートの反対側)の面に接するように、溶融樹脂を金型内に充満させる工程;及び
樹脂を冷却し、金型を開いて射出成形体を取り出す工程;
を包含する射出成形体の表面を加飾する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−167969(P2011−167969A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34880(P2010−34880)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【出願人】(592002721)山南合成化学株式会社 (1)
【Fターム(参考)】