説明

耐熱性Al基合金

【課題】 軽量であり、耐熱強度、耐磨耗性に優れている耐熱性Al基合金を提供することを目的とする。
【解決手段】 Zr :5〜15%、Fe:1〜8%、Cr:1〜8%、Mn:1〜8%、Ti:0.5〜5%、Ni:0.5〜5%、Si:0.5〜5%、V:0.5〜5%を各々含み、かつ、これらの元素の含有量の総和が15〜35%であり、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl基合金であって、このAl基合金組織が体積分率で35〜80%の金属間化合物相と残部がAlマトリックスとで構成され、前記金属間化合物相組織中に、Al−Zr系の金属間化合物相を有するとともに、このAl−Zr系の金属間化合物相に前記Fe、Cr、Mn、Ti、Ni、Si、V、の1種以上が固溶しており、これら固溶した元素の総和が7質量%以上とし、耐熱強度、耐磨耗性とを向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐磨耗性、剛性とに優れたAl基合金であって、自動車や航空機などのエンジン部品(ピストン、コンロッド)などの用途の内、300〜400℃程度までの耐熱強度(高温強度とも言う)と軽量性を要求される機械部品に用いて好適な、耐熱性Al基合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の溶解鋳造合金では、Al−Cu系合金(2618などの2000系Al合金)を始め、種々の耐熱合金が開発されているが、使用温度が150℃を超える高温下では、十分な耐熱強度を得ることができなかった。Al−Cu系合金では時効硬化による微細析出物で強度を確保しているため、使用温度が150℃を超えると、この析出物相が粗大化し、著しく強度が低下するからである。
【0003】
そこで、従来から、急冷凝固法を適用したAl基合金が開発されてきた。急冷凝固法の一つである急冷粉末冶金法によれば、Fe、Cr、Mn、Ni、Ti、Zrなどの合金元素の添加量を、前記溶解鋳造Al合金よりも増すことができる。したがって、これら合金元素を多量に添加したAl合金を急冷凝固によって粉末化し、これを固化成型することで、使用温度が150℃を超える高温下でも、耐熱強度に優れたAl基合金を得ることができる(特許文献1、2参照)。これは、前記合金元素によって、高温でも安定なAlとの金属間化合物を組織中に分散させて、耐熱強度を高くしている。
【0004】
更に、前記金属間化合物の微細化により、金属間化合物の分率を増加させ、高強度化を図る技術も提案されている(特許文献3参照)。
【0005】
また、急冷凝固法の一つであるスプレイフォーミング法による、Fe、V、Mo、Zr、Tiなどの合金元素を添加し、これら合金元素とAlとの金属間化合物を微細化させた、軽量化耐熱Al基合金も開発されており、過剰のSiを添加し、初晶のSiを微細化させて、耐磨耗性を兼備させた高強度Al基合金も開発されている(特許文献4参照)。
【0006】
更に、上記以外の種々の合金元素を添加して非晶質化させた耐熱Al基合金(特許文献5参照)や、2種以上の遷移元素を添加した過飽和固溶体からなるマトリックス中に準結晶を均一分散させた耐熱Al基合金(特許文献6参照)や、Al−Fe系急冷凝固Al基合金を熱間押出加工し、更に熱間鍛造加工した羽根車なども提案されている(特許文献7参照)。
【特許文献1】特許2911708号公報(全文)
【特許文献2】特公平7−62189号公報(全文)
【特許文献3】特開平5−195130号公報(全文)
【特許文献4】特開平9−125180号公報(全文)
【特許文献5】特公平6−21326号公報(全文)
【特許文献6】特許第3142659号公報(全文)
【特許文献7】特開平10−26002号公報(全文)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1〜7などの急冷粉末冶金法によれば、合金元素の添加量を増せば、Al基合金の耐熱強度を高くできる(約300℃で300MPaレベル)。しかし、合金元素の添加量を増加し過ぎると、金属間化合物サイズの粗大化を招くため、耐摩耗性が必要な構造材においては、この粗大な化合物から、チッピングを起こし、耐摩耗性を低下させる。
【0008】
また、これらAl基合金は、金属Alマトリックスと金属間化合物相とで構成され、軟らかい金属Alマトリックス中に、硬い金属間化合物相が分散した、分散強化型組織となっている。
【0009】
このような分散強化型組織においては、金属Alマトリックスの強度が比較的低いために、耐熱強度と軽量性を要求される機械部品に使用された場合、硬い金属間化合物相を表面に保持できず、耐摩耗性や剛性が低下するという問題もある。
【0010】
本発明は、かかる問題に鑑みなされたもので、耐熱強度と耐磨耗性とに優れた耐熱性Al基合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するために、本発明の耐磨耗性と剛性とに優れた耐熱性Al基合金の要旨は、質量%にて、Zr :5〜15%、Fe:1〜8%、Cr:1〜8%、Mn:1〜8%、Ti:0.5〜5%、Ni:0.5〜5%、Si:0.5〜5%、V:0.5〜5%を各々含み、かつ、これらの元素の含有量の総和が15〜35%であり、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl基合金であって、このAl基合金組織が体積分率で35〜80%の金属間化合物相と残部が金属Alマトリックスとで構成され、前記金属間化合物相組織中に、Al−Zr系の金属間化合物相を有するとともに、このAl−Zr系の金属間化合物相に前記Fe、Cr、Mn、Ti、Ni、Si、V、の1種以上が固溶しており、これら固溶した元素の総和が7質量%以上であることとする。
【0012】
なお、本発明では、個々の金属間化合物粒子を金属間化合物と称し、これら個々の金属間化合物粒子が複数個互いに隣接した集合体(連続体)を金属間化合物相と言う。また、本発明で言う、Al−Zr系の金属間化合物とは、後述する分析方法によって、Zrを含む金属間化合物の構成元素(分析元素)の内、Alを除いて、Zrの含有量が最も高い値を示す金属間化合物を指す。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るAl基合金は、金属Alマトリックス(金属のAlからなる母相、以下、単にAlマトリックス、Al母相とも言う)と上記多量の金属間化合物相とで構成され、軟らかいAlマトリックス中に、硬い金属間化合物相が分散した、分散強化型組織となっている。このような分散強化型組織においては、前記した通り、Alマトリックスの強度が比較的低いために、耐熱強度と軽量性を要求される機械部品に使用された場合、硬い金属間化合物相を表面に保持できず、耐摩耗性や剛性が低下するという問題がある。
【0014】
更に、本発明のように、合金元素の添加量が多くなり、金属間化合物相が多くなると、Al基合金の耐摩耗性は、Alマトリックスの強度がより律速するようになる。即ち、前記耐熱機械部品に使用された場合に、硬い金属間化合物相を表面に保持できるだけのAlマトリックスの強度がより必要となる課題もある。
【0015】
このようなAl基合金において、本発明者らは、耐熱性向上のための合金元素として汎用されるZr を必須に含むAl基合金の場合、合金元素の組み合わせによって、耐熱強度と耐磨耗性とが大きく異なることを知見した。
【0016】
即ち、Zr を必須に含むAl基合金の場合、Zr 単独は勿論、Zr に合金元素を更に加えた、Zr −Fe−V系や、Zr −Fe−V−Si系などの組み合わせでは、耐熱強度と耐磨耗性との向上効果が少ない。これに対して、合金元素の数を更に増して、Fe、Cr、Mn、Ti、Ni、Si、V、などの特定の合金元素7種を、Zr とともに含有した場合に、始めて、実用的な意味での耐熱強度と耐磨耗性との向上効果が見られた。
【0017】
これらFe、Cr、Mn、Ti、Ni、Si、V、などの特定の合金元素7種は、Al基合金を急冷凝固法により製造した場合に、Zr とともにL12型Al3 Zr の安定な金属間化合物を形成する。また、これら特定の合金元素7種は、Al基合金を急冷凝固法により製造した場合に、更に、このAl−Zr系の金属間化合物相に1種以上固溶する。
【0018】
この結果、本発明Al基合金は、上記Zr の安定な金属間化合物を形成しない場合や、上記Zr の安定な金属間化合物相に前記元素が更に固溶しない場合に比して、耐熱性、耐摩耗性とを著しく向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(Al基合金組成)
本発明Al基合金の化学成分組成(単位:質量%)について、各元素の限定理由を含めて、以下に説明する。
【0020】
本発明Al基合金の基本的な化学成分組成は、前記した通り、質量%にて、Zr :5〜15%、Fe:1〜8%、Cr:1〜8%、Mn:1〜8%、Ti:0.5〜5%、Ni:0.5〜5%、Si:0.5〜5%、V:0.5〜5%を各々含み、かつ、これらの元素の含有量の総和が15〜35%であり、残部がAlおよび不可避的不純物からなるものとする。
【0021】
本発明Al基合金では、これらの基本的な化学成分組成に加えて、更に、Cu:0.5〜5%、Mg:0.5〜3%の1種または2種、および/または、更にNd:0.2〜2%、Sc:0.1〜2%、Ag:0.1〜2%の1種または2種以上を選択的に含んでも良い。
【0022】
(Zr)
Zr は、Fe、Cr、Mn、Ti、Ni、Si、V、などの特定の合金元素7種とともに、Al基合金を急冷凝固法により製造した場合に、Zr とともにL12型Al3 Zr などの安定な金属間化合物を形成する。そして、Alマトリックス中にも固溶し、耐熱強度と耐磨耗性とを向上させる。これらの効果を発揮させるため、Zr 含有量の範囲は5〜15%とする。5%の下限未満では、十分な金属間化合物量(数)やAlマトリックス中への固溶量が得られず、上記耐熱強度、耐磨耗性などの特性を向上できない。一方、15 %の上限を超えると、粗大な化合物を形成して、却って、これらの特性を阻害する。したがって、Zr 含有量の範囲は5〜15%とする。
【0023】
(Fe)
Feは、Zr や他の特定の合金元素6種とともに、L12型Al3 Zr などの安定な金属間化合物を形成する。そして、この金属間化合物やAlマトリックス中にも固溶し、耐熱強度と耐磨耗性とを向上させる。1%の下限未満では、十分な金属間化合物量(数)や、金属間化合物乃至Alマトリックス中への固溶量が得られず、上記耐熱強度、耐磨耗性などの特性を向上できない。一方、8%の上限を超えると、粗大な化合物を形成して、却って、これらの特性を阻害する。したがって、Fe含有量の範囲は1〜8%とする。
【0024】
(Cr)
Crは、Zr や他の特定の合金元素6種とともに、L12型Al3 Zr などの安定な金属間化合物を形成する。そして、この金属間化合物やAlマトリックス中にも固溶し、耐熱強度と耐磨耗性とを向上させる。1%の下限未満では、十分な金属間化合物量(数)や、金属間化合物乃至Alマトリックス中への固溶量が得られず、上記耐熱強度、耐磨耗性などの特性を向上できない。一方、8%の上限を超えると、粗大な化合物を形成して、却って、これらの特性を阻害する。したがって、Cr含有量の範囲は1〜8%とする。
【0025】
(Mn)
Mnは、Zr や他の特定の合金元素6種とともに、L12型Al3 Zr などの安定な金属間化合物を形成する。そして、この金属間化合物やAlマトリックス中にも固溶し、耐熱強度と耐磨耗性とを向上させる。1%の下限未満では、十分な金属間化合物量(数)や、金属間化合物乃至Alマトリックス中への固溶量が得られず、上記耐熱強度、耐磨耗性などの特性を向上できない。一方、8%の上限を超えると、粗大な化合物を形成して、却って、これらの特性を阻害する。したがって、Mn含有量の範囲は1〜8%とする。
【0026】
(Ti)
Tiは、Zr や他の特定の合金元素6種とともに、L12型Al3 Zr などの安定な金属間化合物を形成する。そして、この金属間化合物やAlマトリックス中にも固溶し、耐熱強度と耐磨耗性とを向上させる。0.5%の下限未満では、十分な金属間化合物量(数)や、金属間化合物乃至Alマトリックス中への固溶量が得られず、上記耐熱強度、耐磨耗性などの特性を向上できない。一方、5%の上限を超えると、粗大な化合物を形成して、却って、これらの特性を阻害する。したがって、Ti含有量の範囲は0.5〜5%とする。
【0027】
(Ni)
Niは、Zr や他の特定の合金元素6種とともに、L12型Al3 Zr などの安定な金属間化合物を形成する。そして、この金属間化合物やAlマトリックス中にも固溶し、耐熱強度と耐磨耗性とを向上させる。0.5%の下限未満では、十分な金属間化合物量(数)や、金属間化合物乃至Alマトリックス中への固溶量が得られず、上記耐熱強度、耐磨耗性などの特性を向上できない。一方、5%の上限を超えると、粗大な化合物を形成して、却って、これらの特性を阻害する。したがって、Ni含有量の範囲は0.5〜5%とする。
【0028】
(Si)
Siは、Zr や他の特定の合金元素6種とともに、L12型Al3 Zr などの安定な金属間化合物を形成する。そして、この金属間化合物やAlマトリックス中にも固溶し、耐熱強度と耐磨耗性とを向上させる。0.5%の下限未満では、十分な金属間化合物量(数)や、金属間化合物乃至Alマトリックス中への固溶量が得られず、上記耐熱強度、耐磨耗性などの特性を向上できない。一方、5%の上限を超えると、粗大な化合物を形成して、却って、これらの特性を阻害する。したがって、Si含有量の範囲は0.5〜5%とする。
【0029】
(V)
Vは、Zr や他の特定の合金元素6種とともに、L12型Al3 Zr などの安定な金属間化合物を形成する。そして、この金属間化合物やAlマトリックス中にも固溶し、耐熱強度と耐磨耗性とを向上させる。0.5%の下限未満では、十分な金属間化合物量(数)や、金属間化合物乃至Alマトリックス中への固溶量が得られず、上記耐熱強度、耐磨耗性などの特性を向上できない。一方、5%の上限を超えると、粗大な化合物を形成して、却って、これらの特性を阻害する。したがって、V含有量の範囲は0.5〜5%とする。
【0030】
(8種の元素の総和)
本発明では、L12型Al3 Zr などの安定な金属間化合物形成量や、この金属間化合物やAlマトリックス中への合金元素の固溶量を確保し、耐熱性、耐摩耗性向上を確実なものとするために、更に、これらZr 、Fe、Cr、Mn、Ti、Ni、Si、V、などの8種の合金元素の総和でも規定する。即ち、これら8種の元素含有量の総和(これら8種の元素の合計含有量)を15〜35%と規定する。
【0031】
金属Alマトリックスと金属間化合物相とで構成されている本発明Al基合金において、金属Alマトリックスは軟らかく、金属間化合物相は硬い。したがって、本発明Al基合金では、このような、軟らかい金属Alマトリックス中に、硬い金属間化合物相が分散した組織となっている。そして、この硬い金属間化合物相が、Al基合金に、耐熱性と耐磨耗性を持たせる主相となる。一方、軟らかい金属Alマトリックスは、これら硬い金属間化合物相のバインダーあるいは、これら硬い土台となって、金属間化合物相の機能を発揮させる役割を担う。
【0032】
これらの金属間化合物相や金属Alマトリックスの機能は、金属間化合物相やAl母相中へ、合金元素が固溶することによって、より発揮される。したがって、上記8種の元素含有量の総和が下限15%未満では、金属間化合物相およびAl母相中への合金元素の固溶量が各々不足する。
【0033】
一方、上記8種の元素の総和が35%の上限を超えた場合、金属間化合物相と、この金属間化合物相やAl母相中にいずれかの合金元素が固溶した組織が例え得られたとしても、靭性が低下して、Al基合金の耐熱強度を却って低下させる。
【0034】
以下、これ以外の選択的な添加元素について説明する。
(Cu、Mgの1種または2種)
Cu、Mgはともに、上記8種の元素とともに金属間化合物を形成し、また、金属間化合物相やAl母相中へ固溶することによって、耐熱性と耐磨耗性を向上させる。Cu、Mgは0.5%以上の含有でこれらの効果がある。しかし、Cuが5%、Mgが3%を超えると、粗大な化合物を形成して、却って耐熱強度が低下する。したがって、Cu、Mgの1種または2種を選択的に含有させる場合の含有量の範囲はCu:0.5〜5%、Mg:0.5〜3%の範囲とする。
【0035】
(Nd、Sc、Agの1種または2種以上)
Nd、Sc、Agはともに、上記8種の元素とともに、金属間化合物を形成し、耐熱強度(耐熱性)を向上させる。Ndは0.2%以上の含有で、Sc、Agは各々0.1%以上の含有でこの効果がある。しかし、Nd、Sc、Agが各々2%を超えると、却って耐熱強度や靱性が低下する。したがって、これらの1種または2種以上を選択的に含有させる場合の含有量の範囲は各々、Nd:0.2〜2%、Sc:0.1〜2%、Ag:の0.1〜2%範囲とする。
【0036】
(金属間化合物相の体積分率)
図1は、本発明Al基合金(後述する実施例の発明例1)の2000倍のSEMによる組織写真である。図1において、多数の白い粒子部分が金属間化合物であり、これらの集合体が金属間化合物相である。一方、黒い(模様)部分が、金属Alのマトリックス(母相)部分である。
【0037】
図1の通り、本発明Al基合金では、金属間化合物相の体積分率を35%以上と多くしているので、複数の(個々の)金属間化合物(粒子)が互いに隣接して集合体(連続体)、即ち、金属間化合物相を形成しているのが分かる。言い換えると、Alのマトリックス部分が、細かく、金属間化合物相によって区切られている(仕切られている)ことが分かる。このような組織状態が、Al基合金の耐熱強度と耐磨耗性を保障する。
【0038】
Al基合金において、上記合金元素によって形成される金属間化合物相の体積分率が少な過ぎると、これら金属間化合物相が不足する一方で、Alのマトリックス部分の体積分率が大きくなり、Al基合金の耐熱性、耐摩耗性が低下する。これに対して、これら金属間化合物相の体積分率が多過ぎると、粗大な化合物を形成して、却って耐熱性、耐摩耗性が低下する。また、Alのマトリックス部分の量が少なくなりすぎ、Al基合金の靱性が低下して脆くなる。このため、耐熱Al基合金として使用できなくなる。したがって、これら金属間化合物相は、Al基合金組織中に、体積分率で35〜80%、好ましくは40〜75%を占めるように存在させる。
【0039】
(金属間化合物の平均サイズ)
本発明では、Al基合金の耐熱性、耐摩耗性を向上させるために、好ましくは、Al基合金組織中に存在する、上記金属間化合物の平均サイズを7μm以下に微細化させる。このように上記金属間化合物の平均サイズを微細化した場合、Al基合金の靱性も向上する。より好ましくは、4.5μm以下である。
【0040】
本発明では、各合金元素の含有量や金属間化合物の量が多くなるほど、耐熱強度は向上する。しかし、一方で、合金元素量や金属間化合物量が少ないAl基合金に比して、金属間化合物の平均サイズの靱性への影響が大きくなる。この点、金属間化合物の平均サイズが7μmを超えて大きくなった場合には、前記各要件を満足しても、Al基合金の諸特性や靱性が低下する可能性がある。
【0041】
(金属間化合物平均サイズの測定)
金属間化合物(金属間化合物粒子)の平均サイズの測定は、5000〜15000倍のTEM(透過型電子顕微鏡)によりEDXを併用して行なった。即ち、TEMの視野内の観察組織像から、金属間化合物をトレースし、画像解析のソフトウエアとして、MEDIACYBERNETICS社製のImage-ProPlus を用いて、各金属間化合物の重心直径を求め、平均化して求めた。測定対象視野数は10とし、各視野の平均サイズを更に平均化して、金属間化合物の平均サイズとした。
【0042】
(Al−Zr系金属間化合物相)
本発明では、急冷凝固法により製造した場合に、Al基合金の金属組織中に、L12型Al3 Zr などの安定なAl−Zr系の金属間化合物相を形成する。このAl−Zr系の金属間化合物は、具体的に、例えば、L12型(fcc 構造)のAl3 Zr 、D023 型(tetragonal構造)のAl3 Zr 、Al2 Zr 、Al3 Zr2、AlZr 、Al4 Zr5、Al2 Zr3、AlZr2、AlZr3などの金属間化合物を形成する。本発明では、これらAl−Zr系の金属間化合物を、後述する分析方法によって、金属間化合物の構成元素(分析元素)の内、Alを除いて、Zrの含有量が最も高い値を示す金属間化合物をAl−Zr系金属間化合物と規定する。
【0043】
このようなAl−Zr系金属間化合物を主相とすることにより、Al基合金の耐熱性、耐摩耗性を向上させる。
【0044】
(Al−Zr系金属間化合物相への固溶)
そして、本発明では、このAl−Zr系金属間化合物相に、合金元素としてのFe、Cr、Mn、Ti、Ni、Si、V、の1種以上が固溶しており、これら固溶した元素の総和が7質量%以上であることとする。
【0045】
Al−Zr系金属間化合物相に、合金元素としてのFe、Cr、Mn、Ti、Ni、Si、V、の1種以上が固溶した場合、金属間化合物相にこれら元素が固溶しない場合に比して、Al−Zr系金属間化合物およびAl基合金の強度、靭性、硬さ(耐熱強度、耐摩耗性)を著しく向上させることができる。
【0046】
この効果を発揮するためには、Al−Zr系の金属間化合物相における、固溶したFe、Cr、Mn、Ti、Ni、Si、V、の固溶量の総和が7質量%以上、好ましくは10質量%以上であることが必要である。固溶したこれら合金元素の総和が下限7質量%未満では、Al基合金の強度、靭性、硬さ(耐熱強度、耐摩耗性)の向上効果が十分ではない。なお、固溶量の上限はこれら合金元素の固溶限界から定まり、特に規定しない。
【0047】
Al基合金が、Fe、Cr、Mn、Ti、Ni、Si、V、の他に、更に、Cu、Mgの1種または2種を含む場合には、各合金元素の固溶量の総和とは、これらCu、Mgを加えた、Fe、Cr、Mn、Ti、Ni、Si、Vの合金元素の固溶量の総和となる。この場合、固溶したこれら合金元素の総和は9質量%以上とする。
【0048】
また、Al基合金が、Fe、Cr、Mn、Ti、Ni、Si、V、の他に、更に、Nd、Sc、Agの1種または2種以上を含む場合には、これらNd、Sc、Agを加えた、Fe、Cr、Mn、Ti、Ni、Si、Vの合金元素の固溶量の総和、または、Fe、Cr、Mn、Ti、Ni、Si、V、Cu、Mgの合金元素の固溶量の総和となる。この場合、固溶したこれら合金元素の総和は10質量%以上とする。
【0049】
(Al−Zr系金属間化合物相への固溶量測定方法)
Al−Zr系金属間化合物相への合金元素の固溶量測定は、5000〜15000倍のTEM(透過型電子顕微鏡)および、このTEMに付随の45000倍のEDX(Kevex社製、Sigmaエネルギー分散型X線検出器:energy dispersive X- ray spectrometer)を用いる。即ち、これらの分析機器によって、前記TEM視野内の、Zrを含む金属間化合物の内、Alを除いて、Zrの含有量が最も高い値を示す金属間化合物をAl−Zr系金属間化合物と特定する。そして、これら特定されたAl−Zr系金属間化合物を例えば各々10点任意に選択し、これらAl−Zr系金属間化合物中の、前記した元素の固溶量の総和を各々測定して、それを平均化する。
【0050】
(金属Al中への各元素の固溶)
上記したAl−Zr系金属間化合物相への固溶に加えて、金属Alマトリックス中にも、各固溶合金元素の総和で0.5〜15質量%固溶することによって、金属Alマトリックスの強度が上昇し、耐熱機械部品に使用された場合でも、金属Alマトリックスが硬い金属間化合物相を表面に保持でき、Al基合金の耐摩耗性を向上させることができる。
【0051】
各固溶合金元素の固溶量の総和が0.5%質量未満では、金属Alマトリックスの強度が、耐熱機械部品に使用された場合に、硬い金属間化合物相を表面に保持できる程度に上昇しない。一方、各合金添加元素の固溶量の総和が15質量%を超えた場合、却って、金属Alマトリックスが脆くなって、靱性が低下し、耐熱機械部品として使用できなくなる。
【0052】
Al基合金が、Fe、Cr、Mn、Ti、Ni、Si、V、の他に、更に、Cu、Mgの1種または2種を含む場合には、各合金元素の固溶量の総和とは、これらCu、Mgを加えた、Fe、Cr、Mn、Ti、Ni、Si、Vの合金元素の固溶量の総和となる。この場合、固溶したこれら合金元素の総和は0.5〜20質量%とする。
【0053】
また、Al基合金が、Fe、Cr、Mn、Ti、Ni、Si、V、の他に、更に、Nd、Sc、Agの1種または2種以上を含む場合には、これらNd、Sc、Agを加えた、Fe、Cr、Mn、Ti、Ni、Si、Vの合金元素の固溶量の総和、または、Cu、Mg、Fe、Cr、Mn、Ti、Ni、Si、Vの合金元素の固溶量の総和となる。この場合、固溶したこれら合金元素の総和は0.5〜22質量%以上とする。
【0054】
(Al母相への固溶量の評価方法)
金属Alマトリックスへの合金添加元素の固溶量測定は、前記Al−Zr系金属間化合物相への合金添加元素の固溶量測定と同じく、5000〜15000倍のTEM(透過型電子顕微鏡)および、このTEMに付随の45000倍のEDX(Kevex社製、Sigmaエネルギー分散型X線検出器:energy
dispersive X- ray spectrometer)を用いる。そして、これらの機器により、前記TEM視野内の金属Alマトリックスを例えば各々10点任意に選択して、前記した元素の固溶量の総和を各々測定し、平均化する。
【0055】
(製造方法)
以下に、本発明Al基合金の製造方法を説明する。
【0056】
本発明Al基合金は、合金元素量が多く、金属間化合物相を多く析出させるために、通常の溶解鋳造方法 (インゴットメイキング) では制作が困難である。このため、本発明Al基合金は急冷凝固法により得る。急冷凝固法としては、急冷粉末冶金法、スプレイフォーミング法、双ロール法などの公知の方法が適宜選択される。
【0057】
急冷粉末冶金法では、急冷凝固により得られたAl合金粉末を、CIPやHIP処理にて、緻密化した後、鍛造、押出、圧延などの熱間加工(塑性加工)して得られる。スプレイフォーミング法では、急冷凝固により得られたプリフォーム体を、そのまま、あるいは、一旦CIPやHIP処理にて緻密化した後、鍛造、押出、圧延などの熱間加工して得られる。双ロール法では、急冷凝固により得られた板状鋳塊を、そのまま、あるいは、更に、冷間圧延などの加工をして得られる。
【0058】
これら急冷凝固法によれば、通常の溶解鋳造法よりも、格段に速い冷却・凝固速度を有する。このため、これら急冷凝固法によって、Al基合金組織を、合金元素が固溶した微細なAl−Zr系金属間化合物相や、合金元素が固溶した金属Alマトリックスとすることができる。
【0059】
いずれの急冷凝固法においても、溶解条件、冷却・凝固速度の最適化は必要である。好ましい形態は、上記本発明成分組成のAl合金を、溶解温度1250〜1600℃で溶製した後、この溶湯を、スプレイあるいは双ロール間への供給などの急冷凝固開始温度まで、200℃/h以上の冷却速度で冷却し、その後、900〜1200℃で、この溶湯をスプレイあるいは双ロール間への供給などの急冷凝固を開始して、急冷粉末(急冷粉末冶金法)または、プリフォーム体(スプレイフォーミング法)、薄板状鋳塊(双ロール法)を作製する。
【0060】
(溶解温度)
前記溶解温度を1250℃以上としたのは、上記本発明成分組成のAl合金において、各金属間化合物相を一旦完全に溶解させるためである。また、各合金元素の含有量が多いほど、各金属間化合物相を完全に溶解させるためには、溶解温度を1250℃℃以上のより高い温度とすることが好ましいが、1600℃を超える温度とする必要は無い。
【0061】
(急冷凝固開始温度)
溶湯の急冷凝固を開始する際、好ましくは、前記溶湯を、急冷凝固開始温度まで200℃/h以上の冷却速度で冷却し、その後900〜1200℃でこの溶湯の急冷凝固を開始する。前記高温で溶解するのは、金属間化合物相を完全に溶解させるためであるが、ここで一旦溶湯を冷却してから急冷凝固を開始するのは、金属間化合物をある程度晶出させることや、晶出した金属間化合物を核として、急冷凝固中に、他の金属間化合物を微細に晶出させる効果があるためである。また、低温から急冷凝固を開始すると、急冷凝固の冷却速度を上げ、晶出する金属間化合物が更に微細化される効果がある。
【0062】
より具体的には、上記溶湯を急冷凝固開始温度まで200℃/h以上の冷却速度で冷却するパターン制御によって、先ず、急冷凝固開始までに、金属間化合物の微細化に効果のあるAl−Cr、Al−Fe金属間化合物をある程度晶出させ、これを核として、急冷凝固中に、Al−Zr系の金属間化合物を微細に晶出させる。このパターン制御を行なわないと、晶出する金属間化合物を微細化できない可能性がある。
【0063】
また、溶湯の急冷凝固開始温度までの前記冷却速度が200℃/h未満では、上記した、金属間化合物を微細に晶出させることができず、晶出する金属間化合物を微細化できない可能性が高い。
【0064】
溶湯の急冷凝固開始温度は、急冷凝固過程における、冷却・晶出速度に影響する。即ち、溶湯の急冷凝固開始温度は、低温の方が冷却速度を速くしやすい。しかし、急冷凝固開始温度が900℃未満では、急冷凝固過程前に、溶湯中に金属間化合物が晶出してしまい、ノズルなどの溶湯供給手段が閉塞しやすくなる。一方、急冷凝固開始温度が1200℃を超えると、急冷凝固過程中での冷却速度が遅くなり、金属間化合物が粗大化しやすい。
【0065】
急冷凝固過程では、冷却速度を十分に速くすることが重要となる。冷却速度を十分に速くすると、金属間化合物の晶出核生成頻度が多くなるために金属間化合物粒子の粗大化を防止でき、金属間化合物相を微細化できる。また、金属間化合物粒子が微細かされるために、隣接粒と接触する頻度も小さくなり、金属間化合物相の外郭寸法も小さくできる。
【0066】
(双ロールの冷却条件)
前記双ロール法により、薄板状鋳塊を得る場合では、回転する一対のロール鋳型からなる双ロールの冷却能が重要となる。このため、鋼製やステンレス製などの水冷ロール鋳型よりも、熱伝達率の大きな銅製の水冷ロール鋳型などを用いるなどして、双ロールによる鋳造際の冷却速度50℃/s以上を確保することが好ましい。
【0067】
(ガスによる冷却条件)
急冷粉末冶金法のアトマイズまたはスプレイフォーミング法におけるスプレイによる、急冷凝固過程の冷却速度は、例えば、ガス(気体)による急冷の場合、ガス/メタル比(G/M比:単位質量あたりの溶湯に吹き付けるガスの量)によって制御できる。このG/M比が高いほど、冷却速度を速くでき、本発明で規定するような微細な金属間化合物相が得られ、金属Alマトリックス中に、各元素を所定量固溶させることができる。また、金属間化合物相に、前記した金属間化合物を構成する以外の元素を強制固溶させることができる。
【0068】
G/M比が低過ぎると、冷却速度が不足し、金属Alマトリックス中に、各元素を所定量固溶させることができなくなる。また、金属間化合物相に、前記した金属間化合物を構成する以外の元素を強制固溶させられなくなる。また、金属間化合物相も粗大となる。但し、G/M比が高過ぎると歩留まりが低下する。これらの条件を満足するG/M比の下限は6Nm 3/kg以上、G/M比の上限は20Nm3 /kg以下とすることが推奨される。
【0069】
急冷粉末冶金法によって、本発明Al基合金を製造する場合、上記本発明成分組成のAl合金のアトマイズ粉末の内、平均粒径が20μm以下、好ましくは10μm以下の微粒粉を分級して使用することが好ましい。平均粒径が20μmを越えるアトマイズ粉末は、冷却速度が遅いため、金属間化合物相が粗大化する。このため、平均粒径が20μmを越えるアトマイズ粉末を使用した場合、本発明Al基合金を製造できない可能性が高い。このため、平均粒径が20μm以下の微粒粉のみを、CIP処理あるいはHIP処理、更にはCIP後HIP処理などにて、固化成型することで、前記Al合金プリフォーム体が得られる。
【0070】
(熱間加工)
このように制作された急冷粉末のAl合金プリフォーム体、またはスプレイフォーミングされたAl合金プリフォーム体は、更なる緻密化や製品形状にされるためにも、鍛造、押出、圧延などの熱間加工されることが好ましい。
【0071】
これらの熱間加工(塑性加工)によって、Al基合金組織における、金属間化合物相がより微細均一に分散されるとともに、金属Alマトリックスへの各元素の固溶量がより確保される。これらの鍛造、押出、圧延の熱間加工における加工温度は、500〜620℃の範囲とする。但し、金属Alマトリックスへの固溶量確保のためには、比較的低くすることが好ましい。このような加工温度範囲において熱間加工すると、金属間化合物相がより微細化されるとともに、より均一に分散される。また、Alマトリックス中の固溶量がより確保される。
【0072】
熱間加工における加工温度が620℃を超えて高くなると、金属間化合物相が析出して、Alマトリックス中の固溶量が確保できなくなるとともに、金属間化合物相が粗大化する可能性が高い。一方、加工温度が500℃未満では、熱間加工による上記金属間化合物微細化効果が達成できない。
【0073】
同様の主旨で、これらの熱間加工における歪み速度は10-4〜10-1 (1/s) と比較的低くすることが好ましい。歪み速度がこれより大き過ぎると、熱間加工による上記効果が達成できない。また、歪み速度がこれより小さ過ぎると、金属間化合物相が析出して、Alマトリックス中に固溶する前記添加元素の固溶量が確保できなくなるとともに、金属間化合物相が粗大化する可能性が高い。
【0074】
このように熱間加工されたAl基合金は、そのまま、あるいは、機械加工など適宜の処理が施されて、製品Al基合金とされる。
【0075】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0076】
下記表1に示す各成分組成のAl合金の溶湯を、共通して、1300〜1600℃の各溶解温度で溶解し、この溶湯をガスアトマイズ開始温度まで100℃/h以上の冷却速度で冷却し、その後900〜1400℃でこの溶湯のN2 ガスアトマイズを開始して、各G/M比2〜15でAl合金粉末を作製した。発明例、比較例の各例における、これらガスアトマイズ条件(溶解温度、アトマイズ開始温度、平均G/M比:単位はNm 3/kg)も表2に示す。
【0077】
これら得られた各Al合金粉末の内、平均粒径が20μm以下の微粒粉を分級して、SUS製の缶に装填し、13KPa(100Torr)以下に減圧した状態で、温度400℃で2時間保持して脱気し、缶を密封してカプセルを形成した。得られたカプセルをCIP処理[温度:常温、圧力:100MPa(1000気圧)、保持時間:2時間]して、プリフォーム体を得た。これらのプリフォーム体を、表2に示す各条件で、熱間鍛造して、丸棒状のAl基合金(試験材)を得た。
【0078】
これらAl基合金(試験材)の組織と特性を、以下のようにして測定評価した。これらの結果を各々表3に示す。
【0079】
(金属間化合物相の体積分率)
Al基合金組織の金属間化合物相の体積分率は、2000倍のSEMにより、約60μm×約40μmの大きさの各10視野のAl基合金を組織観察した。そして、反射電子像により、写真撮影なり画像処理した視野内の組織の、金属Al相と金属間化合物相との区別をEDXによって行った上で、各視野内の金属間化合物相の体積分率を測定し、10視野で平均化した。
【0080】
(金属間化合物の平均サイズ)
金属間化合物(金属間化合物粒子)の平均サイズの測定は、5000〜15000倍のTEM(透過型電子顕微鏡)によりEDXを併用して行なった。即ち、TEMの視野内の観察組織像から、金属間化合物をトレースし、画像解析のソフトウエアとして、MEDIACYBERNETICS社製のImage-ProPlus を用いて、各金属間化合物の重心直径を求め、平均化して求めた。測定対象視野数は10とし、各視野の平均サイズを更に平均化して、金属間化合物の平均サイズとした。
【0081】
(Al−Zr系金属間化合物相への元素固溶量)
前記視野内の各金属間化合物相を、X線回折およびTEMの電子線回折パターンから、金属間化合物相内の金属間化合物の結晶構造を解析し、その内、Zrの含有量がAlを除き他元素に比較して最も高いAl−Zr系金属間化合物相を特定し、他の金属間化合物と識別した。
【0082】
その上で、15000倍の組織のFE−TEM(日立製作所製、HF−2000電界放射型透過電子顕微鏡)および、このTEMに付随の、45000倍のEDX(Kevex社製、Sigmaエネルギー分散型X線検出器:energy dispersive X- ray spectrometer)により、前記視野内のAl−Zr系金属間化合物相を各々10点測定した。そして、Fe、Cr、Mn、Ti、Ni、Si、V、Cu、Mg、Nd、Sc、Ag、の金属間化合物相への固溶量の総和を求め、平均化した。なお、各例とも、これらの元素の内で各規定範囲で含有している元素は全てAl−Zr系金属間化合物相へ固溶していた。
【0083】
(Al母相中への元素固溶量)
前記したTEM−EDXによる固溶量測定方法により、各例とも、金属Al中へのZr、Fe、Cr、Mn、Ti、Ni、Si、V、Cu、Mg、Nd、Sc、Ag、の固溶量の総和を求めた。なお、各例とも、これらの元素の内で各規定範囲で含有している元素は全てAl母相中へ固溶していた。
【0084】
(強度)
Al基合金の耐熱性を評価するため、室温と高温の強度を測定した。平行部Φ4×15mmLとした各Al基合金の試験片を、室温(15℃)で、高温強度は300℃および400℃に加熱して15分この温度に保持後、試験片を前記各温度で引張試験を行なった。引張速度は0.5mm/minとし、歪み速度5×10-4(1/s)とした。高温引張強度は、300℃で280MPa以上、400℃で200MPa以上、のものを高温強度乃至耐熱性が合格として評価した。
【0085】
(強靱性)
材料の強靱性は、一般にビッカース硬さと相関があるため、ビッカース硬さによって材料の室温強度および高温強度を評価した。すなわち、室温と、温度300℃および400℃の高温におけるビッカース硬さを、荷重5kgf(室温の場合)および荷重1kgf(高温の場合)の条件で測定した。ビッカース硬さは、温度300℃におけるビッカース硬さが180HV以上、温度400℃におけるビッカース硬さが100HV以上、のものを耐熱性ありとして評価した。
【0086】
更に、400℃におけるビッカース硬さを測定した材料の、永久くぼみ(圧痕)をSEM観察(倍率:500倍)し、硬さを測定した圧痕(打痕)周囲の割れ発生の有無を調べ、材料の強靱性(耐熱性)を評価した。即ち、割れ発生がないものを強靱性(耐熱性)ありとして○と評価した。一方、割れ発生が有るものを強靱性(耐熱性)無しとして×と評価した。
【0087】
(耐磨耗性)
Al基合金の高温での耐磨耗性試験は、ピンオンディスク磨耗試験で行なった。ピン材(Φ7mm×15mm長さ、約1g)に各試験材をセットし、磨耗相手側である試験ディスク材はFC200(鋳鉄)とした。試験温度は200℃とし、荷重10kgf、ピンの回転半径0.02mで、回転する前記試験ディスク材に、試験材を、潤滑無しで10分間接触させた。この際の各試験材の摩耗による質量減少率、(試験前質量−試験後質量)/試験材の試験前質量で評価した。この質量の摩耗減少率が0.2g以下のものを高温での耐磨耗性が合格として、○と評価し、摩耗減少率が0.2gを越えるものを高温での耐磨耗性が不合格として×と評価した。
【0088】
表1〜3から明らかなように、発明例1〜12は、本発明で規定する各合金元素量範囲と、これら各合金元素量の総和の範囲をともに満足する。また、組織的にも、Al−Zr系の金属間化合物相を有し、金属間化合物相の体積分率規定を満足する。更に、このAl−Zr系の金属間化合物相に、Fe、Cr、Mn、Ti、Ni、Si、V、Cu、Mg、Nd、Sc、Agの1種以上が固溶しており、これら固溶した元素の総和が7%以上である。
【0089】
また、発明例3を除いて、Al母相中へのZr、Fe、Cr、Mn、Ti、Ni、Si、V、Cu、Mg、Nd、Sc、Agの元素固溶量の総和が0.5〜15%の範囲である。更に、発明例2を除いて、金属間化合物の平均サイズが好ましい上限7μm 以内である。
【0090】
このため、発明例1〜12は、発明例2、3を除いて、表3から明らかなように、高温強度、高温耐摩耗性に優れている。
【0091】
発明例2は、金属間化合物の平均サイズが好ましい上限を超えて粗大化している。この結果、発明例2は、他の発明例に比して、高温強度、高温耐摩耗性が比較的低い。
【0092】
発明例3は、Al母相中への合金元素固溶量の総和が好ましい下限5%未満である。この結果、発明例3は、他の発明例に比して、高温強度、高温耐摩耗性が比較的低い。
【0093】
一方、比較例13〜24は、本発明で規定する各合金元素量範囲、これら各合金元素量の総和の範囲、金属間化合物相の体積分率規定、このAl−Zr系の金属間化合物相への合金元素固溶量総和のいずれかが外れている。
【0094】
このため、比較例13〜24は、発明例に比して、高温強度、高温耐摩耗性が低い。
【0095】
比較例16〜24は、好ましい製造条件で製造されているものの、本発明で規定する合金元素量範囲から外れている。
比較例16は、表1の合金例IのZr含有量が下限を下回る。
比較例17は、表1の合金例JのZr含有量が上限を上回る。
比較例18は、表1の合金例Kが必須のFeを含んでいない(Feレス)。
比較例19は、表1の合金例Lが必須のCrを含んでいない(Crレス)。
比較例20は、表1の合金例Mが必須のMnを含んでいない(Mnレス)。
比較例21は、表1の合金例Nが必須のTiを含んでいない(Tiレス)。
比較例22は、表1の合金例Oが必須のNiを含んでいない(Niレス)。
比較例23は、表1の合金例Pが必須のSiを含んでいない(Siレス)。
比較例24は、表1の合金例Qが必須のVを含んでいない(Vレス)。
【0096】
以上の結果から、高温強度、高温耐摩耗性を向上させるための、本発明の各要件、好ましい要件の臨界的な意義が裏付けられる。
【0097】
【表1】

【0098】
【表2】

【0099】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0100】
以上説明したように、本発明は、軽量であり、300〜400℃付近における耐熱強度、耐磨耗性が高い耐熱性Al基合金を提供できる。したがって、自動車や航空機などのエンジン部品(ピストン、コンロッド)などの耐熱特性が求められる種々の部品に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明Al基合金の組織を示す、図面代用写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%にて、Zr :5〜15%、Fe:1〜8%、Cr:1〜8%、Mn:1〜8%、Ti:0.5〜5%、Ni:0.5〜5%、Si:0.5〜5%、V:0.5〜5%を各々含み、かつ、これらの元素の含有量の総和が15〜35%であり、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl基合金であって、このAl基合金組織が体積分率で35〜80%の金属間化合物相と残部が金属Alマトリックスとで構成され、前記金属間化合物相組織中に、Al−Zr系の金属間化合物相を有するとともに、このAl−Zr系の金属間化合物相に前記Fe、Cr、Mn、Ti、Ni、Si、V、の1種以上が固溶しており、これら固溶した元素の総和が7質量%以上であることを特徴とする耐熱性Al基合金。
【請求項2】
前記金属Alマトリックス中に、前記Zr 、Fe、Cr、Mn、Ti、Ni、Si、V、の元素の内の1種以上が、これらの総和で0.5〜15質量%固溶している請求項1に記載の耐熱性Al基合金。
【請求項3】
前記Al基合金組織中に存在する金属間化合物の平均サイズが7μm以下である請求項1または2に記載の耐熱性Al基合金。
【請求項4】
前記Al基合金が、更に、Cu:0.5〜5%、Mg:0.5〜3%の1種または2種を含む、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の耐熱性Al基合金。
【請求項5】
前記Al−Zr系の金属間化合物相に、Cu、Mgの1種または2種が更に固溶しており、これらCu、Mgを加えた前記固溶した元素の総和が9質量%以上である請求項4に記載の耐熱性Al基合金。
【請求項6】
前記金属Alマトリックス中に、更に、Cu、Mgの1種または2 種が、これらCu、Mgを加えた前記固溶した元素の総和で0.5〜20質量%固溶している請求項4または5に記載の耐熱性Al基合金。
【請求項7】
前記Al基合金が、更に、Nd:0.2〜2%、Sc:0.1〜2%、Ag:0.1〜2%の1種または2種以上を含む請求項1乃至6のいずれか1項に記載の耐熱性Al基合金。
【請求項8】
前記Al−Zr系の金属間化合物相に、Nd、Sc、Agが更に固溶しており、これらNd、Sc、Agを加えた前記固溶した元素の総和が10質量%以上である請求項7に記載の耐熱性Al基合金。
【請求項9】
前記金属Alマトリックス中に、更に、Nd、Sc、Agの1種または2種以上が、これらNd、Sc、Agを加えた前記固溶した元素の総和で0.5〜22質量%固溶している請求項7または8に記載の耐熱性Al基合金。

【図1】
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