耐熱管構造物の解体方法
【課題】多層耐火物構造を有する耐熱管構造物の解体において、アスベスト処理費用を含む解体費用を低減できるとともに、解体期間を短縮できる耐熱管構造物の解体方法を提供すること。
【解決手段】外皮と、前記外皮の内側を覆いかつアスベストを含有する含有耐火物で形成された含有層と、前記含有層の内側を覆いかつアスベストを含有しない非含有耐火物で多層に形成された非含有層とを含む多層耐火物構造の管壁を有する耐熱管構造物の解体方法であって、一次解体工程S11として前記非含有層の少なくとも最外側の一層と前記含有層とを残部として残して前記非含有層を炉芯側から解体する残部形成工程S111を行った後、二次解体工程S12としてアスベスト対策のもとで前記残部を解体する残部解体工程S122を行う。
【解決手段】外皮と、前記外皮の内側を覆いかつアスベストを含有する含有耐火物で形成された含有層と、前記含有層の内側を覆いかつアスベストを含有しない非含有耐火物で多層に形成された非含有層とを含む多層耐火物構造の管壁を有する耐熱管構造物の解体方法であって、一次解体工程S11として前記非含有層の少なくとも最外側の一層と前記含有層とを残部として残して前記非含有層を炉芯側から解体する残部形成工程S111を行った後、二次解体工程S12としてアスベスト対策のもとで前記残部を解体する残部解体工程S122を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱管構造物の解体方法に関し、管路内壁の一部がアスベストを含有する耐火物で形成された多層耐火物構造である耐熱管構造物の解体方法として利用できる。
【背景技術】
【0002】
従来、高炉に熱風を供給する環状管、熱風炉からの熱風管、あるいは他の高温を要する炉に熱風を供給する管路などには、内部を流通する熱風等の高熱に耐えられるような耐熱管構造物が用いられている(特許文献1および特許文献2など参照)。
このような耐熱管構造物は、内部の高温に耐えられるように、管壁が鉄製の外皮(鉄皮)の内側に耐火物を多層に張った多層耐火物構造で構成される。
【0003】
管壁を構成する多層耐火物構造は、断熱煉瓦および耐火煉瓦を多層に重ねて厚みを稼ぎ、必要な耐熱性能を確保している。さらに、積層される耐火物としては、断熱煉瓦および耐火煉瓦のほか、断熱煉瓦と鉄皮との間に張られた断熱性の煉瓦やボード、鉄皮内面に吹き付けられた断熱性の被覆材が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−220612号公報
【特許文献2】特開2007−314821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した耐熱管構造物は、数十年に及ぶ耐久性を有するものであるが、稼働に伴って内部の耐火物が劣化し、その更新のために炉内の古い耐火物の解体が必要となる。このような解体にあたって、一部の耐熱管構造物では耐火物の取り扱いに十分な注意が必要である。
数十年前に構築された古い耐熱管構造物では、特に鉄皮に近い部分の耐火物として、安価で断熱性が優れたアスベストが利用されている。例えば、アスベストは鉄皮の内側に吹き付け被覆されたり、ボード状の断熱材中に含有されていたりする。
【0006】
アスベスト(石綿)とは、岩石を形成する鉱物のうち、蛇紋石の群に属する繊維状のケイ酸塩鉱物、すなわちクリソタイル(白石綿)および角閃石の群に属する繊維状ケイ酸塩鉱物、すなわち、アクチノライト、アモサイト(茶石綿)アンソフィライト、クロシドライト(青石綿)、トレモライト又は、これらの一又は二以上を含有する混合物をいう。
近年、アスベストは人体に対する危険性が問題となり、アスベストを使用した建物等の解体には「石綿障害予防規則」等により飛散防止を含む厳重なアスベスト対策が要求されている。具体的には、第1に、作業場所の隔離・負圧化、セキュリティーゾーンの設置、第2に、湿潤剤を散布しての解体作業、第3に、アスベスト解体屑の二重袋詰め、第4に、特別管理産業廃棄物としての運搬・処分など、厳重な管理の下で作業に従事しなければならない。
【0007】
従来の解体方法では、管路の一方側から数mずつ前進しながら、機械または手作業により周囲の耐火物を解体してゆく。この際、炉壁および炉内の耐火物は、アスベスト含有耐火物も非含有耐火物も一括解体され、混合した状態で廃棄物となる。
このような廃棄物は、元のアスベスト含有耐火物は半分以下であっても、一括解体した結果、全体にアスベスト含有成分が混入してしまうため、その全量に対してアスベスト対策が必要となっていた。
このような多量の廃棄物に対してアスベスト対策を実施する必要があると、熱風炉の解体における作業負荷が膨大なものになり、期間および費用の面でも大きな負担となっていた。
【0008】
本発明の主な目的は、多層耐火物構造を有する耐熱管構造物の解体において、アスベスト処理費用を含む解体費用を低減できるとともに、解体期間を短縮できる耐熱管構造物の解体方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、外皮と、前記外皮の内側を覆いかつアスベストを含有する含有耐火物で形成された含有層と、前記含有層の内側を覆いかつアスベストを含有しない非含有耐火物で多層に形成された非含有層とを含む多層耐火物構造の管壁を有する耐熱管構造物の解体方法であって、
一次解体工程として前記非含有層の少なくとも最外側の一層と前記含有層とを残部として残して前記非含有層を炉芯側から解体する残部形成工程を行った後、二次解体工程としてアスベスト対策のもとで前記残部を解体する残部解体工程を行うことを特徴とする。
【0010】
このような本発明では、一次解体工程において、残部形成工程により前記残部以外の解体が行われる。つまり、外皮(一般に鉄皮)の内側に設置された耐火物(炉壁耐火物)のうち残部を除く部分の解体(残部形成)を行うことができる。一次解体工程ではアスベストを含む残部の解体を行わないため、アスベスト対策の必要はなく、アスベスト対策を行う場合に比べて作業負荷を大幅に低減できる。
次に、二次解体工程において、残部解体工程により残部の解体が行われる。残部解体工程はアスベスト対策のもとで行われるため、残部に含まれるアスベストに対する安全性を確保できる。この際、先に実施された一次解体工程により、耐熱管構造物全体の耐火物に対して残部が十分に少なくできるため、アスベスト含有耐火物に対するアスベスト処理のための作業負荷を低減することができる。
【0011】
本発明において、前記一次解体工程は、前記残部を前記外皮に固定する残部固定工程を含むことが望ましい。
このような本発明では、一次解体工程で残部を薄く残した場合でも、これを固定することでその剥落を防止することができ、残部を最小限にしてアスベスト対策のための作業負荷を軽減しつつ、安全性を確保できる。
【0012】
本発明において、前記耐熱管構造物は横方向に延びており、前記残部固定工程では前記管壁のうち上部に対して前記残部の固定を実施することが望ましい。
このような本発明では、管壁のうち上部(例えば上半分の領域)に残部固定を行うことで、残部の剥離を確実に防止できるとともに、剥落の可能性が低い下部(例えば下半分の領域)の残部固定を省略でき、作業負荷を軽減しかつ作業期間を短縮できる。
【0013】
本発明において、前記残部形成の後、前記管壁の下部に形成された前記残部の上に脱落防止枠を組み立て、この脱落防止枠で前記管壁の上部に形成された前記残部を固定することが望ましい。
このような本発明では、管壁下部に形成された残部の上に組み立てられる脱落防止枠により管壁上部の残部固定を行うことで、残部を貫通する棒材等で固定を行う場合に比べて安定した脱落防止が可能となる。
【0014】
本発明において、前記耐熱管構造物を複数の区画に区分しておき、前記区画の各々に対して前記残部形成および前記残部形成を順次行うことが望ましい。
残部形成は専ら管壁上部から下部へと行う必要があり、管壁下部が残部形成されるのは該当部分の管壁上部の残部形成の後になる。このため、管壁下部に形成された残部の上に脱落防止枠を組み立てる場合、脱落防止枠の組み立てまで管壁上部の残部が外皮に固定されない状態とされる。
これに対し、前記耐熱管構造物の連続方向へ短い区画ずつ管壁上部から下部へと残部形成を行い、管壁下部の残部に脱落防止枠を建てて上部の残部を固定し、その区画の施工ができたら次の区画に移る、という手順を採用することで、管壁上部の残部が外皮に固定されない期間を最小とすることができる。
【0015】
本発明において、前記耐熱管構造物は横方向に延びており、前記管壁のうち上部が前記含有層および前記非含有層で形成され、前記管壁のうち下部は前記非含有層だけで形成されており、前記管壁の上部に対して前記一次解体工程および前記二次解体工程を行った後、前記管壁の下部に対して前記非含有層を一括解体するとしてもよい。
耐熱管構造物が横方向に延びている場合、高温となった耐火物の熱膨張量を上部に吸収させるため、上部にのみアスベスト含有層を形成し、下部にはアスベスト含有層を含まないようにした構成が採用されることがある。
このような構成に対しては、上部にのみ前述した一次解体および二次解体を実施するとともに、下部については同一次解体および二次解体の対象から除外することで、作業負荷をさらに軽減しかつ作業期間をさらに短縮できる。
【0016】
本発明において、前記管壁の上部に対する前記二次解体工程の開始前に、前記管壁の下部を養生シートで覆い、この養生シートの上面側で前記アスベスト対策を実施するとともに、前記二次解体工程の後、前記アスベスト対策を解除するとともに前記養生シートを除去し、前記管壁の下部の前記非含有層の一括解体を行うことが望ましい。
このような本発明では、管壁の上部のみで一次解体および二次解体を行う場合に、養生シートにより管壁の下部を保護することができ、下部の非含有層に対するアスベスト混入を回避することができる。
なお、二次解体工程では、残部解体に伴ってアスベスト粉塵が発生し、この粉塵が管路の上部内側に付着している可能性がある。従って、前記アスベスト対策を解除する際には、養生シートの除去に先立って飛散防止剤の噴霧等を行い、アスベストの再飛散を防止するための処理を実施する。
【0017】
本発明において、前記二次解体を行う前に、前記養生シートの上に脱落防止枠を組み立て、この脱落防止枠で前記管壁の上部の前記残部を固定することが望ましい。
このような本発明では、養生シートの上に組み立てられる脱落防止枠により上部の残部固定を行うことで、残部を貫通する棒材等で固定を行う場合に比べて安定した脱落防止が可能となる。
この際、脱落防止枠の組み立てに先立って、少なくとも養生シートの設置を先行しておくことにより、脱落防止枠が養生シート設置のじゃまになる等の問題を回避することができる。
【0018】
本発明において、前記二次解体工程では、前記残部の解体で生じた解体屑を耐熱管構造物の内部で更に破砕することが望ましい。
このような本発明では、二次解体工程において解体する残部が、アスベストを含む前記含有耐火物とともに前記非含有層の少なくとも最外側の一層を含むため、解体屑の概略直径が100〜400mmと大きく、アスベスト廃棄専用袋への袋詰めに際し、充填効率が低い。そこで、耐熱管構造物の内部で補助的な破砕を行うことで、作業効率の向上および処分体積の低減を図ることができる。
なお、耐熱管構造物の内部での追加的な破砕および袋詰めは、従来の耐熱管構造物の外部に設置された気密設備における破砕および袋詰めと併用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態の解体作業手順を示すフローチャート。
【図2】前記第1実施形態の解体作業状態を示す管路連続方向の断面図。
【図3】前記第1実施形態の準備段階を示す管路横断方向の断面図。
【図4】前記第1実施形態の一次解体工程における残部形成段階を示す断面図。
【図5】前記第1実施形態の一次解体工程における残部固定段階を示す断面図。
【図6】前記第1実施形態の二次解体工程におけるアスベスト対策段階を示す断面図。
【図7】前記第1実施形態の二次解体工程における残部解体段階を示す断面図。
【図8】前記第1実施形態の二次解体工程におけるアスベスト対策解除段階を示す断面図。
【図9】本発明の第2実施形態の解体作業手順を示すフローチャート。
【図10】前記第2実施形態の準備段階を示す断面図。
【図11】前記第2実施形態の一次解体工程における残部形成段階を示す断面図。
【図12】前記第2実施形態の一次解体工程における残部固定段階の養生シート設置を示す断面図。
【図13】前記第2実施形態の一次解体工程における残部固定段階の脱落防止枠設置を示す断面図。
【図14】前記第2実施形態の二次解体工程におけるアスベスト対策段階を示す断面図。
【図15】前記第2実施形態の二次解体工程における残部解体段階を示す断面図。
【図16】前記第2実施形態の二次解体工程におけるアスベスト対策解除段階を示す断面図。
【図17】前記第2実施形態の下部解体工程を示す断面図。
【図18】本発明の他の実施形態における解体屑の内部破砕を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1から図8には、本発明の第1実施形態が示されている。
図1には、本発明に基づく耐熱管構造物の解体方法の具体的手順が示され、図2から図8には、各段階における耐熱管構造物の状態が模式的に示されている。
【0021】
図2に示すように、本実施形態で解体を行う耐熱管構造物1は、熱風炉から高炉に熱風を供給する熱風管あるいは高炉の周囲に設置されて羽口に熱風を供給する環状管などであり、その管路は水平に設置されている。
図3に示すように、耐熱管構造物1の管壁2は多層耐火物構造とされ、この多層耐火物構造は、外皮である鉄皮3と、外皮の内側を覆いかつアスベストを含有する含有耐火物で形成された含有層4と、含有層の内側を覆いかつアスベストを含有しない非含有耐火物で形成された複数の非含有層5,6とを含む。
【0022】
図2に戻って、このような耐熱管構造物1の解体は、作業者が管路内に入り、管路に沿って所定長さの一区画分ずつ進行しながら、破砕工具を用いて管壁2の耐火物を破砕してゆく。
従来の解体では、鉄皮3の内側の耐火物(含有層4および非含有層5,6)を一括して破砕するため、アスベストを含む含有層4がある場合、含有層4および非含有層5,6の全てを一括して破砕でき反面、その全量をアスベスト処理する必要があった。
【0023】
これに対し、本実施形態では、本発明に基づいて、まず一次解体工程(図1の手順S11)として、内側の非含有層6を解体することにより非含有層5と含有層4とを残部7として残し、この残部7を脱落防止枠8で固定してゆく。続いて、二次解体工程(図1の手順S12)として、アスベスト対策のもとで残部7を解体してゆき、鉄皮3の内側を空にする。
このような本実施形態では、作業は一次解体工程と二次解体工程との2パスになるが、アスベスト処理は残部7となる非含有層5と含有層4とだけでよく、非含有層6に対するアスベスト処理を省略できる。
以下、本実施形態における解体作業の具体的手順について説明する。
【0024】
図1に戻って、本実施形態では、準備工程S10、一次解体工程S11、二次解体工程S12を順次実施する。
準備工程S10は、一次解体工程S11および二次解体工程S12において必要となる準備を行うものである。具体的には、耐熱管構造物1の内部への作業員の出入口の形成、作業器具や資材の搬入、解体屑の排出口の形成などを含む。
【0025】
一次解体工程S11は、残部形成工程S111および残部固定工程S112を含むとともに、これらの完了を確認する確認工程S113を含む。
図2で説明したように、一次解体工程S11は、作業者が管路内において、所定長さの一区画分ずつ進めてゆく。
本実施形態においては、先行する区画で残部形成工程S111を実施しつつ、後続の区画で残部固定工程S112を実施することで、残部7の固定が速やかに行われるようにする。但し、全区画にわたって残部形成工程S111を実施し終えてから、残部固定工程S112を全区画にわたって実施するようにしてもよい。
【0026】
残部形成工程S111は、管壁2の内側の非含有層6を解体することにより非含有層5と含有層4とを残部7として残す工程である。
具体的には、図3に示すように、先ず非含有層6の最上部に切り込み61を形成し、図4に示すように、切り込み61から両側の側面62にかけて、それぞれ非含有層6を解体してゆく。この際、残部7とすべき非含有層5ないし含有層4までが解体されないように留意する。解体により発生する耐火物屑は、管路内部で更に破砕処理等を行い、管路外へと搬出する。この段階で発生する耐火物屑は、アスベストを含有しないため、管路外への排出時にアスベスト特有の処理を行う必要はない。
該当区画の非含有層6が両側から下面側まで全周にわたって解体できたら、作業者は管路に沿って次の区画に進み、同様の作業を繰り返してゆく。これにより、作業が済んだ区画においては、管壁2から非含有層6が除去され、管壁2には非含有層5および含有層4からなる残部7が形成される。
【0027】
残部固定工程S112は、先に残部形成工程S111で形成された残部7を脱落防止枠8で固定してゆく工程である。
具体的には、図5に示すように、先に形成された残部7の下部(下半分)の上に脱落防止枠8を構築し、残部7の上部(上半分)を脱落防止枠8で押さえてその脱落を防止する。
この際、脱落防止枠8は残部7の上部に沿って延びる円弧状の部分を含み、残部7の上部の表面をなるべく連続的に押さえることが望ましい。一方、脱落防止枠8の下部は、残部7の上部の表面に支持されるが、荷重を分散するため、なるべく多点または広い面積で接するように構成することが望ましい。
【0028】
確認工程S113において、前述した残部形成工程S111および残部固定工程S112が解体すべき全領域にわたって済んだことが確認できれば、一次解体工程S11が終了となる。
【0029】
二次解体工程S12は、アスベスト対策工程S121および残部解体工程S122を含むとともに、これらの完了を確認する確認工程S123、完了確認の後に行われるアスベスト対策解除工程S124を含む。
二次解体工程S12においては、先ずアスベスト対策工程S121を行い、最後にアスベスト対策解除工程S124を行うことで、全ての区画の残部解体がアスベスト対策のもとで実施されるようにする。
【0030】
アスベスト対策工程S121は、次の残部解体工程S122で残部7の解体作業を行った際に発生するアスベスト粉塵等が耐熱管構造物1の外部に漏洩しないようにするものである。
具体的には、図6に示すように、管壁2の外部に連なる全ての開口部を封止(図示省略)することで、いわば耐熱管構造物1を全周にわたって封止する封止構造9を形成する。耐熱管構造物1が小規模であれば、実際に耐熱管構造物1の全体を覆うようにしてもよい。
【0031】
残部解体工程S122は、管壁2の内側の残部7を解体する工程である。
具体的には、図7に示すように、先ず残部7の最上部に切り込みを形成し、両側の側面にかけて解体してゆく。この際、解体は残部7である非含有層5ないし含有層4を一括して行う。解体により発生する耐火物屑は、管路内部で更に破砕処理等を行い、管路外へと搬出する。この段階で発生する耐火物屑は、アスベストを含有するため、管路外への排出時には密封等のアスベスト特有の処理を行う。
該当区画の残部7が両側から下面側まで全周にわたって解体できたら、作業者は管路に沿って次の区画に進み、同様の作業を繰り返してゆく。これにより、作業が済んだ区画においては、残部7が除去され、管壁2は鉄皮3だけの状態とされる。
【0032】
確認工程S123において、前述した残部解体工程S122が解体すべき全領域にわたって済んだことが確認できれば、次のアスベスト対策解除工程S124へと進む。
【0033】
アスベスト対策解除工程S124は、先にアスベスト対策工程S121で実施したアスベスト対策を解除するものである。
具体的には、図8に示すように、管壁2の全ての開口部の封止(図示省略)を解除し、あるいは耐熱管構造物1を全周にわたって封止する封止構造9を解除する。この際、耐熱管構造物1の内側においては、残された鉄皮3の内側にアスベスト粉塵等が付着している可能性があるため、封止構造9の解除に先立って飛散防止剤等の噴霧等を実施する。
【0034】
アスベスト対策解除工程S124が完了すれば、二次解体工程S12の完了となり、その結果、耐熱管構造物1の管壁2からは全ての耐火物が除去され、鉄皮3だけが残った状態となる。
本実施形態では、一次解体工程S11により残部7を残して非含有層6を解体し、二次解体工程S12で残部7として残された非含有層5ないし含有層4を解体するという二段階の作業を行うことで、含有層4との混合が生じない非含有層6についてはアスベスト処理が不要にできる。
そして、アスベスト処理は、残部7として残す含有層4および少なくとも一層の非含有層5のみでよく、アスベスト対策を最小限にすることができ、作業負荷および作業コストの低減が可能である。
さらに、本実施形態では、脱落防止枠8で残部7を保持するようにしたため、残部7の脱落を防止して円滑な作業が行えるとともに、残部7として残す非含有層を最小限にすることができる。
【0035】
〔第2実施形態〕
図9から図17には、本発明の第2実施形態が示されている。
本実施形態は、前述した第1実施形態と同様な水平な耐熱管構造物1に適用されるものである。
図10に示すように、耐熱管構造物1の管壁2は多層耐火物構造とされ、この多層耐火物構造は、外皮である鉄皮3と、外皮の内側を覆いかつアスベストを含有する含有耐火物で形成された含有層4と、含有層の内側を覆いかつアスベストを含有しない非含有耐火物で形成された複数の非含有層A,5,6とを含む。
【0036】
但し、前述した第1実施形態では含有層4が鉄皮3の内側に全周にわたって形成されていたのに対し、本実施形態では鉄皮3の内側には非含有層Aが全周に形成され、その上部(上半分)の内側に含有層4が形成されている。これらの含有層4および非含有層Aの内面に、前述した第1実施形態と同様な非含有層5,6が形成されている。
従って、本実施形態において、管壁2の上部では非含有層Aと非含有層5との間に含有層4が設置されているが、管壁2の下部には含有層4が存在せず非含有層A,5,6だけである。
【0037】
本実施形態の耐熱管構造物1の解体は、前述した第1実施形態と同様、図2に示すように、作業者が管路内に入り、管路に沿って所定長さの一区画分ずつ進行しながら、破砕工具を用いて管壁2の耐火物を破砕してゆく。
前述した第1実施形態では、区画毎の耐火物の解体を行うために、先ず残部7を残す一次解体工程S11を実施し、次にアスベスト対策のもとで残部7を解体する二次解体工程S12を実施するという2パスの作業を、管壁2の全周にわたって行った。
これに対し、本実施形態では、先ず管壁2の上部(含有層4がある上半分の領域)に対して同様な一次解体工程および二次解体工程の2パスを実施し、その後、管壁2の下部(含有層4がない下半分の領域)に対して、非含有層A,5,6を一括して解体する下部解体工程を行うことで、アスベスト対策を更に縮小できるようにする。
以下、本実施形態における解体作業の具体的手順について説明する。
【0038】
図9に示すように、本実施形態では、準備工程S20、上部一次解体工程S21、上部二次解体工程S22、下部解体工程S23を順次実施する。
準備工程S20は、後続の各工程において必要となる準備を行うものである。具体的には、耐熱管構造物1の内部への作業員の出入口の形成、作業器具や資材の搬入、解体屑の排出口の形成などを含む。
【0039】
上部一次解体工程S21は、残部形成工程S211および残部固定工程S212を含むとともに、これらの完了を確認する確認工程S213を含む。
上部一次解体工程S21は、前述した第1実施形態の一次解体工程S11と同様に、作業者が管路内において、所定長さの一区画分ずつ進めてゆく。
本実施形態においても、先行する区画で残部形成工程S211を実施しつつ、後続の区画で残部固定工程S212を実施することで、残部7の固定が速やかに行われるようにする。但し、全区画にわたって残部形成工程S211を実施し終えてから、残部固定工程S212を全区画にわたって実施するようにしてもよい。
【0040】
残部形成工程S211は、管壁2の上部において、その内側の非含有層6を解体することにより非含有層5,Aおよび含有層4を残部7として残す工程である。
具体的には、図11に示すように、管壁2の上部において、先ず非含有層6の最上部に切り込みを形成し、この切り込みから両側の側面にかけて、それぞれ非含有層6を解体してゆく。この際、残部7とすべき非含有層5、含有層4、非含有層Aまでが解体されないように留意する。解体により発生する耐火物屑は、管路内部で更に破砕処理等を行い、管路外へと搬出する。この段階で発生する耐火物屑は、アスベストを含有しないため、管路外への排出時にアスベスト特有の処理を行う必要はない。
該当区画の非含有層6の上半分が解体できたら、作業者は管路に沿って次の区画に進み、同様の作業を繰り返してゆく。これにより、作業が済んだ区画においては、管壁2の上部から非含有層6が除去され、管壁2の上部には非含有層5、含有層4、非含有層Aからなる残部7が形成される。なお、管壁2の下部には、非含有層A,5,6がそのまま維持されている。
【0041】
残部固定工程S212は、先に残部形成工程S211で形成された残部7を脱落防止枠8で固定してゆく工程である。
具体的には、図12に示すように、先ず管壁2の下部に維持されている非含有層6の表面を覆う養生シートBを設置する。
この養生シートBは、管壁2の下部に維持されている非含有層A,5,6を、後続の上部二次解体工程S22により発生するアスベスト破砕屑から保護するために、脱落防止枠8の設置に先立って設置される。
次に、図13に示すように、養生シートBの上に脱落防止枠8を構築し、管壁2の上部の残部7を脱落防止枠8で押さえてその脱落を防止する。
この際、脱落防止枠8は残部7に沿って延びる円弧状の部分を含み、残部7の表面をなるべく連続的に押さえることが望ましい。一方、脱落防止枠8の下部は、養生シートBを介して非含有層6に支持されるが、荷重を分散するため、なるべく多点または広い面積で接するように構成することが望ましい。
【0042】
確認工程S213において、前述した残部形成工程S211および残部固定工程S212が解体すべき全領域にわたって済んだことが確認できれば、一次解体工程S21が終了となる。
【0043】
上部二次解体工程S22は、アスベスト対策工程S221および残部解体工程S222を含むとともに、これらの完了を確認する確認工程S223、完了確認の後に行われるアスベスト対策解除工程S224を含む。
上部二次解体工程S22においては、先ずアスベスト対策工程S221を行い、最後にアスベスト対策解除工程S224を行うことで、全ての区画の残部解体がアスベスト対策のもとで実施されるようにする。
【0044】
アスベスト対策工程S221は、次の残部解体工程S222で残部7の解体作業を行った際に発生するアスベスト粉塵等が耐熱管構造物1の外部に漏洩しないようにするものである。
具体的には、図14に示すように、管壁2の外部に連なる全ての開口部を封止(図示省略)することで、いわば耐熱管構造物1を全周にわたって封止する封止構造9を形成する。耐熱管構造物1が小規模であれば、実際に耐熱管構造物1の全体を覆うようにしてもよい。
【0045】
残部解体工程S222は、管壁2の上部に形成された残部7を解体する工程である。
具体的には、図15に示すように、先ず残部7の最上部に切り込みを形成し、両側の側面にかけて解体してゆく。この際、解体は残部7である非含有層5、含有層4および非含有層Aを一括して行う。解体により発生する耐火物屑は、管路内部で更に破砕処理等を行い、管路外へと搬出する。この段階で発生する耐火物屑は、アスベストを含有するため、管路外への排出時には密封等のアスベスト特有の処理を行う。
該当区画の残部7が全て解体できたら、作業者は管路に沿って次の区画に進み、同様の作業を繰り返してゆく。これにより、作業が済んだ区画においては、残部7が除去され、管壁2の上部は鉄皮3だけの状態とされる。なお、管壁2の下部には、非含有層A,5,6がそのまま維持されている。
【0046】
確認工程S223において、前述した残部解体工程S222が解体すべき管壁2の上部の全領域にわたって済んだことが確認できれば、次のアスベスト対策解除工程S224へと進む。
【0047】
アスベスト対策解除工程S224は、先にアスベスト対策工程S221で実施したアスベスト対策を解除するものである。
具体的には、図16に示すように、管壁2の全ての開口部の封止(図示省略)を解除し、あるいは耐熱管構造物1を全周にわたって封止する封止構造9を解除する。さらに、先に設置した管壁2の下半分の非含有層5の表面を覆う養生シートBもこの段階で除去する。
この際、耐熱管構造物1の内側においては、残された鉄皮3の内側および養生シートBの表面にアスベスト粉塵等が付着している可能性があるため、封止構造9の解除および養生シートBの除去に先立って飛散抑制剤等の噴霧等を実施する。
【0048】
アスベスト対策解除工程S224が完了すれば、上部二次解体工程S22の完了となる。その結果、耐熱管構造物1の管壁2の上部においては、全ての耐火物が除去され、鉄皮3だけが残った状態となる。なお、図17に示すように、管壁2の下部には、非含有層A,5,6がそのまま維持されている。
【0049】
下部解体工程S23は、管壁2の下部に維持されている非含有層A,5,6を解体するものである。
図17において、これらの非含有層A,5,6にはアスベストが含有されておらず、アスベスト対策を行う必要はなく、これらの非含有層A,5,6は一括して破砕してゆけばよい。
【0050】
本実施形態では、管壁2の上部については、上部一次解体工程S21により残部7を残して非含有層6を解体し、上部二次解体工程S22で残部7として残された非含有層5、含有層4、非含有層Aを解体するという二段階の作業を行うことで、含有層4との混合が生じない非含有層6についてはアスベスト処理が不要にできる。そして、アスベスト処理は、残部7として残す含有層4、非含有層5,Aのみでよく、アスベスト対策を最小限にすることができ、作業負荷および作業コストの低減が可能である。
【0051】
一方、管壁2の下部については、一切のアスベスト処理を行うことなく、非含有層A,5,6は一括して破砕することができ、従来通りの著しく簡単な作業で済ませることができる。
これらにより、本実施形態では、アスベスト処理は管壁2の上部のうち限定的な残部7だけで済ますことができる。
さらに、本実施形態では、脱落防止枠8で残部7を保持するようにしたため、残部7の脱落を防止して円滑な作業が行えるとともに、残部7として残す非含有層を最小限にすることができる。
【0052】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、以下のような変形も本発明に含まれるものである。
前記実施形態では、管路の進行方向に作業者が進行しながら、区画毎に残部形成工程S111,S211および残部固定工程S112,S212を順次実施するようにしたが、全区画の残部形成工程S111,S211を行ってから残部固定工程S112,S212を実施し、これらの各工程を完全に分離してもよい。
一方、前記実施形態では、アスベスト対策が必要な二次解体工程S12あるいは上部二次解体工程S22は、他の一次解体工程S11、上部一次解体工程S21、下部解体工程S23と完全に分離したが、区画毎のアスベスト対策が行える状況であれば、区画毎に並行させてもよい。
このように、本発明における各工程は、複数区画で重複または並行して行ってもよい。
【0053】
前記各実施形態では、耐熱管構造物1の管壁2を形成する多層耐火物構造として、外皮である鉄皮3と、外皮の内側を覆いかつアスベストを含有する含有耐火物で形成された含有層4と、含有層の内側を覆いかつアスベストを含有しない非含有耐火物で形成された複数の非含有層A,5,6とを含むものとしたが、各々の積層状態は適宜変更しうるものである。
例えば、含有層4は2層以上であってもよく、含有層4の内側にある非含有層5,6もさらに多層であってもよい。この場合、残部7として残されるのは含有層4に隣接する少なくとも1層であればよい。なお、2層以上の非含有層を残部7として残してもよい。
【0054】
脱落防止枠8は前記実施形態の形態に限らず、他の枠組み構成であってもよく、例えば管壁2の上半分と下半分との両方に接する円形の枠体を並べたものでよい。あるいは、管路内部に設置される枠体に限らず、残部7自体に固定される板材等を用いてもよい。この場合、ボルト止めのために孔開け等を行う場合には、残部7の含有層4に含まれるアスベスト成分が漏れ出さないように、孔に固定用の飛散防止剤等を注入するなど十分注意する必要がある。
【0055】
前記各実施形態では、残部形成工程S111,S211および残部解体工程S122,S222において、非含有層A,5,6および含有層4を解体し、外部へ排出した。この際、解体により生じた耐火物の解体屑を、耐熱管構造物1の内部で更に破砕し、外部に排出するようにしてもよい。
図18に示す他の実施形態では、耐熱管構造物1の内部にコンベア1Aが設置され、コンベア1Aの端部に破砕機1Bが設置されている。破砕機1Bの近傍の管壁2には、排出用のシュート1Cが設置されている。なお、残部解体工程S122,S222に適用する場合、管壁2には防護シートの覆いなどの封止構造9を設置しておく。これは残部形成工程S111,S211では不要である。
本実施形態では、図中左の区画で残部形成あるいは残部解体を行い、その解体屑7Aをコンベア1Aで搬送し、破砕機1Bで寄り細かい解体屑7Bへと粉砕し、これを袋詰め7Cとしてシュート1Cから排出し、トラック等に載せて搬出する。
このように、耐熱管構造物1の内部で補助的な破砕を行うことで、作業効率の向上および処分体積の低減を図ることができる。特に、残部解体に利用することで、アスベスト対策を耐熱管構造物1に集約化することができ、外部でのアスベスト対策のための気密構造等を簡略化することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、耐熱管構造物の解体方法に関し、管路内壁の一部がアスベストを含有する耐火物で形成された多層耐火物構造である耐熱管構造物の解体方法として利用できる。
【符号の説明】
【0057】
1…耐熱管構造物
2…管壁
3…鉄皮
4…含有層
5,6,A…非含有層
7…残部
8…脱落防止枠
9…封止構造
B…養生シート
S10,S20…準備工程
S11…一次解体工程
S111,S211…残部形成工程
S112,S212…残部固定工程
S113,S213…確認工程
S12…二次解体工程
S121,S221…アスベスト対策工程
S122,S222…残部解体工程
S123,S223…確認工程
S124,S224…アスベスト対策解除工程
S21…上部一次解体工程
S22…上部二次解体工程
S23…下部解体工程
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱管構造物の解体方法に関し、管路内壁の一部がアスベストを含有する耐火物で形成された多層耐火物構造である耐熱管構造物の解体方法として利用できる。
【背景技術】
【0002】
従来、高炉に熱風を供給する環状管、熱風炉からの熱風管、あるいは他の高温を要する炉に熱風を供給する管路などには、内部を流通する熱風等の高熱に耐えられるような耐熱管構造物が用いられている(特許文献1および特許文献2など参照)。
このような耐熱管構造物は、内部の高温に耐えられるように、管壁が鉄製の外皮(鉄皮)の内側に耐火物を多層に張った多層耐火物構造で構成される。
【0003】
管壁を構成する多層耐火物構造は、断熱煉瓦および耐火煉瓦を多層に重ねて厚みを稼ぎ、必要な耐熱性能を確保している。さらに、積層される耐火物としては、断熱煉瓦および耐火煉瓦のほか、断熱煉瓦と鉄皮との間に張られた断熱性の煉瓦やボード、鉄皮内面に吹き付けられた断熱性の被覆材が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−220612号公報
【特許文献2】特開2007−314821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した耐熱管構造物は、数十年に及ぶ耐久性を有するものであるが、稼働に伴って内部の耐火物が劣化し、その更新のために炉内の古い耐火物の解体が必要となる。このような解体にあたって、一部の耐熱管構造物では耐火物の取り扱いに十分な注意が必要である。
数十年前に構築された古い耐熱管構造物では、特に鉄皮に近い部分の耐火物として、安価で断熱性が優れたアスベストが利用されている。例えば、アスベストは鉄皮の内側に吹き付け被覆されたり、ボード状の断熱材中に含有されていたりする。
【0006】
アスベスト(石綿)とは、岩石を形成する鉱物のうち、蛇紋石の群に属する繊維状のケイ酸塩鉱物、すなわちクリソタイル(白石綿)および角閃石の群に属する繊維状ケイ酸塩鉱物、すなわち、アクチノライト、アモサイト(茶石綿)アンソフィライト、クロシドライト(青石綿)、トレモライト又は、これらの一又は二以上を含有する混合物をいう。
近年、アスベストは人体に対する危険性が問題となり、アスベストを使用した建物等の解体には「石綿障害予防規則」等により飛散防止を含む厳重なアスベスト対策が要求されている。具体的には、第1に、作業場所の隔離・負圧化、セキュリティーゾーンの設置、第2に、湿潤剤を散布しての解体作業、第3に、アスベスト解体屑の二重袋詰め、第4に、特別管理産業廃棄物としての運搬・処分など、厳重な管理の下で作業に従事しなければならない。
【0007】
従来の解体方法では、管路の一方側から数mずつ前進しながら、機械または手作業により周囲の耐火物を解体してゆく。この際、炉壁および炉内の耐火物は、アスベスト含有耐火物も非含有耐火物も一括解体され、混合した状態で廃棄物となる。
このような廃棄物は、元のアスベスト含有耐火物は半分以下であっても、一括解体した結果、全体にアスベスト含有成分が混入してしまうため、その全量に対してアスベスト対策が必要となっていた。
このような多量の廃棄物に対してアスベスト対策を実施する必要があると、熱風炉の解体における作業負荷が膨大なものになり、期間および費用の面でも大きな負担となっていた。
【0008】
本発明の主な目的は、多層耐火物構造を有する耐熱管構造物の解体において、アスベスト処理費用を含む解体費用を低減できるとともに、解体期間を短縮できる耐熱管構造物の解体方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、外皮と、前記外皮の内側を覆いかつアスベストを含有する含有耐火物で形成された含有層と、前記含有層の内側を覆いかつアスベストを含有しない非含有耐火物で多層に形成された非含有層とを含む多層耐火物構造の管壁を有する耐熱管構造物の解体方法であって、
一次解体工程として前記非含有層の少なくとも最外側の一層と前記含有層とを残部として残して前記非含有層を炉芯側から解体する残部形成工程を行った後、二次解体工程としてアスベスト対策のもとで前記残部を解体する残部解体工程を行うことを特徴とする。
【0010】
このような本発明では、一次解体工程において、残部形成工程により前記残部以外の解体が行われる。つまり、外皮(一般に鉄皮)の内側に設置された耐火物(炉壁耐火物)のうち残部を除く部分の解体(残部形成)を行うことができる。一次解体工程ではアスベストを含む残部の解体を行わないため、アスベスト対策の必要はなく、アスベスト対策を行う場合に比べて作業負荷を大幅に低減できる。
次に、二次解体工程において、残部解体工程により残部の解体が行われる。残部解体工程はアスベスト対策のもとで行われるため、残部に含まれるアスベストに対する安全性を確保できる。この際、先に実施された一次解体工程により、耐熱管構造物全体の耐火物に対して残部が十分に少なくできるため、アスベスト含有耐火物に対するアスベスト処理のための作業負荷を低減することができる。
【0011】
本発明において、前記一次解体工程は、前記残部を前記外皮に固定する残部固定工程を含むことが望ましい。
このような本発明では、一次解体工程で残部を薄く残した場合でも、これを固定することでその剥落を防止することができ、残部を最小限にしてアスベスト対策のための作業負荷を軽減しつつ、安全性を確保できる。
【0012】
本発明において、前記耐熱管構造物は横方向に延びており、前記残部固定工程では前記管壁のうち上部に対して前記残部の固定を実施することが望ましい。
このような本発明では、管壁のうち上部(例えば上半分の領域)に残部固定を行うことで、残部の剥離を確実に防止できるとともに、剥落の可能性が低い下部(例えば下半分の領域)の残部固定を省略でき、作業負荷を軽減しかつ作業期間を短縮できる。
【0013】
本発明において、前記残部形成の後、前記管壁の下部に形成された前記残部の上に脱落防止枠を組み立て、この脱落防止枠で前記管壁の上部に形成された前記残部を固定することが望ましい。
このような本発明では、管壁下部に形成された残部の上に組み立てられる脱落防止枠により管壁上部の残部固定を行うことで、残部を貫通する棒材等で固定を行う場合に比べて安定した脱落防止が可能となる。
【0014】
本発明において、前記耐熱管構造物を複数の区画に区分しておき、前記区画の各々に対して前記残部形成および前記残部形成を順次行うことが望ましい。
残部形成は専ら管壁上部から下部へと行う必要があり、管壁下部が残部形成されるのは該当部分の管壁上部の残部形成の後になる。このため、管壁下部に形成された残部の上に脱落防止枠を組み立てる場合、脱落防止枠の組み立てまで管壁上部の残部が外皮に固定されない状態とされる。
これに対し、前記耐熱管構造物の連続方向へ短い区画ずつ管壁上部から下部へと残部形成を行い、管壁下部の残部に脱落防止枠を建てて上部の残部を固定し、その区画の施工ができたら次の区画に移る、という手順を採用することで、管壁上部の残部が外皮に固定されない期間を最小とすることができる。
【0015】
本発明において、前記耐熱管構造物は横方向に延びており、前記管壁のうち上部が前記含有層および前記非含有層で形成され、前記管壁のうち下部は前記非含有層だけで形成されており、前記管壁の上部に対して前記一次解体工程および前記二次解体工程を行った後、前記管壁の下部に対して前記非含有層を一括解体するとしてもよい。
耐熱管構造物が横方向に延びている場合、高温となった耐火物の熱膨張量を上部に吸収させるため、上部にのみアスベスト含有層を形成し、下部にはアスベスト含有層を含まないようにした構成が採用されることがある。
このような構成に対しては、上部にのみ前述した一次解体および二次解体を実施するとともに、下部については同一次解体および二次解体の対象から除外することで、作業負荷をさらに軽減しかつ作業期間をさらに短縮できる。
【0016】
本発明において、前記管壁の上部に対する前記二次解体工程の開始前に、前記管壁の下部を養生シートで覆い、この養生シートの上面側で前記アスベスト対策を実施するとともに、前記二次解体工程の後、前記アスベスト対策を解除するとともに前記養生シートを除去し、前記管壁の下部の前記非含有層の一括解体を行うことが望ましい。
このような本発明では、管壁の上部のみで一次解体および二次解体を行う場合に、養生シートにより管壁の下部を保護することができ、下部の非含有層に対するアスベスト混入を回避することができる。
なお、二次解体工程では、残部解体に伴ってアスベスト粉塵が発生し、この粉塵が管路の上部内側に付着している可能性がある。従って、前記アスベスト対策を解除する際には、養生シートの除去に先立って飛散防止剤の噴霧等を行い、アスベストの再飛散を防止するための処理を実施する。
【0017】
本発明において、前記二次解体を行う前に、前記養生シートの上に脱落防止枠を組み立て、この脱落防止枠で前記管壁の上部の前記残部を固定することが望ましい。
このような本発明では、養生シートの上に組み立てられる脱落防止枠により上部の残部固定を行うことで、残部を貫通する棒材等で固定を行う場合に比べて安定した脱落防止が可能となる。
この際、脱落防止枠の組み立てに先立って、少なくとも養生シートの設置を先行しておくことにより、脱落防止枠が養生シート設置のじゃまになる等の問題を回避することができる。
【0018】
本発明において、前記二次解体工程では、前記残部の解体で生じた解体屑を耐熱管構造物の内部で更に破砕することが望ましい。
このような本発明では、二次解体工程において解体する残部が、アスベストを含む前記含有耐火物とともに前記非含有層の少なくとも最外側の一層を含むため、解体屑の概略直径が100〜400mmと大きく、アスベスト廃棄専用袋への袋詰めに際し、充填効率が低い。そこで、耐熱管構造物の内部で補助的な破砕を行うことで、作業効率の向上および処分体積の低減を図ることができる。
なお、耐熱管構造物の内部での追加的な破砕および袋詰めは、従来の耐熱管構造物の外部に設置された気密設備における破砕および袋詰めと併用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態の解体作業手順を示すフローチャート。
【図2】前記第1実施形態の解体作業状態を示す管路連続方向の断面図。
【図3】前記第1実施形態の準備段階を示す管路横断方向の断面図。
【図4】前記第1実施形態の一次解体工程における残部形成段階を示す断面図。
【図5】前記第1実施形態の一次解体工程における残部固定段階を示す断面図。
【図6】前記第1実施形態の二次解体工程におけるアスベスト対策段階を示す断面図。
【図7】前記第1実施形態の二次解体工程における残部解体段階を示す断面図。
【図8】前記第1実施形態の二次解体工程におけるアスベスト対策解除段階を示す断面図。
【図9】本発明の第2実施形態の解体作業手順を示すフローチャート。
【図10】前記第2実施形態の準備段階を示す断面図。
【図11】前記第2実施形態の一次解体工程における残部形成段階を示す断面図。
【図12】前記第2実施形態の一次解体工程における残部固定段階の養生シート設置を示す断面図。
【図13】前記第2実施形態の一次解体工程における残部固定段階の脱落防止枠設置を示す断面図。
【図14】前記第2実施形態の二次解体工程におけるアスベスト対策段階を示す断面図。
【図15】前記第2実施形態の二次解体工程における残部解体段階を示す断面図。
【図16】前記第2実施形態の二次解体工程におけるアスベスト対策解除段階を示す断面図。
【図17】前記第2実施形態の下部解体工程を示す断面図。
【図18】本発明の他の実施形態における解体屑の内部破砕を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1から図8には、本発明の第1実施形態が示されている。
図1には、本発明に基づく耐熱管構造物の解体方法の具体的手順が示され、図2から図8には、各段階における耐熱管構造物の状態が模式的に示されている。
【0021】
図2に示すように、本実施形態で解体を行う耐熱管構造物1は、熱風炉から高炉に熱風を供給する熱風管あるいは高炉の周囲に設置されて羽口に熱風を供給する環状管などであり、その管路は水平に設置されている。
図3に示すように、耐熱管構造物1の管壁2は多層耐火物構造とされ、この多層耐火物構造は、外皮である鉄皮3と、外皮の内側を覆いかつアスベストを含有する含有耐火物で形成された含有層4と、含有層の内側を覆いかつアスベストを含有しない非含有耐火物で形成された複数の非含有層5,6とを含む。
【0022】
図2に戻って、このような耐熱管構造物1の解体は、作業者が管路内に入り、管路に沿って所定長さの一区画分ずつ進行しながら、破砕工具を用いて管壁2の耐火物を破砕してゆく。
従来の解体では、鉄皮3の内側の耐火物(含有層4および非含有層5,6)を一括して破砕するため、アスベストを含む含有層4がある場合、含有層4および非含有層5,6の全てを一括して破砕でき反面、その全量をアスベスト処理する必要があった。
【0023】
これに対し、本実施形態では、本発明に基づいて、まず一次解体工程(図1の手順S11)として、内側の非含有層6を解体することにより非含有層5と含有層4とを残部7として残し、この残部7を脱落防止枠8で固定してゆく。続いて、二次解体工程(図1の手順S12)として、アスベスト対策のもとで残部7を解体してゆき、鉄皮3の内側を空にする。
このような本実施形態では、作業は一次解体工程と二次解体工程との2パスになるが、アスベスト処理は残部7となる非含有層5と含有層4とだけでよく、非含有層6に対するアスベスト処理を省略できる。
以下、本実施形態における解体作業の具体的手順について説明する。
【0024】
図1に戻って、本実施形態では、準備工程S10、一次解体工程S11、二次解体工程S12を順次実施する。
準備工程S10は、一次解体工程S11および二次解体工程S12において必要となる準備を行うものである。具体的には、耐熱管構造物1の内部への作業員の出入口の形成、作業器具や資材の搬入、解体屑の排出口の形成などを含む。
【0025】
一次解体工程S11は、残部形成工程S111および残部固定工程S112を含むとともに、これらの完了を確認する確認工程S113を含む。
図2で説明したように、一次解体工程S11は、作業者が管路内において、所定長さの一区画分ずつ進めてゆく。
本実施形態においては、先行する区画で残部形成工程S111を実施しつつ、後続の区画で残部固定工程S112を実施することで、残部7の固定が速やかに行われるようにする。但し、全区画にわたって残部形成工程S111を実施し終えてから、残部固定工程S112を全区画にわたって実施するようにしてもよい。
【0026】
残部形成工程S111は、管壁2の内側の非含有層6を解体することにより非含有層5と含有層4とを残部7として残す工程である。
具体的には、図3に示すように、先ず非含有層6の最上部に切り込み61を形成し、図4に示すように、切り込み61から両側の側面62にかけて、それぞれ非含有層6を解体してゆく。この際、残部7とすべき非含有層5ないし含有層4までが解体されないように留意する。解体により発生する耐火物屑は、管路内部で更に破砕処理等を行い、管路外へと搬出する。この段階で発生する耐火物屑は、アスベストを含有しないため、管路外への排出時にアスベスト特有の処理を行う必要はない。
該当区画の非含有層6が両側から下面側まで全周にわたって解体できたら、作業者は管路に沿って次の区画に進み、同様の作業を繰り返してゆく。これにより、作業が済んだ区画においては、管壁2から非含有層6が除去され、管壁2には非含有層5および含有層4からなる残部7が形成される。
【0027】
残部固定工程S112は、先に残部形成工程S111で形成された残部7を脱落防止枠8で固定してゆく工程である。
具体的には、図5に示すように、先に形成された残部7の下部(下半分)の上に脱落防止枠8を構築し、残部7の上部(上半分)を脱落防止枠8で押さえてその脱落を防止する。
この際、脱落防止枠8は残部7の上部に沿って延びる円弧状の部分を含み、残部7の上部の表面をなるべく連続的に押さえることが望ましい。一方、脱落防止枠8の下部は、残部7の上部の表面に支持されるが、荷重を分散するため、なるべく多点または広い面積で接するように構成することが望ましい。
【0028】
確認工程S113において、前述した残部形成工程S111および残部固定工程S112が解体すべき全領域にわたって済んだことが確認できれば、一次解体工程S11が終了となる。
【0029】
二次解体工程S12は、アスベスト対策工程S121および残部解体工程S122を含むとともに、これらの完了を確認する確認工程S123、完了確認の後に行われるアスベスト対策解除工程S124を含む。
二次解体工程S12においては、先ずアスベスト対策工程S121を行い、最後にアスベスト対策解除工程S124を行うことで、全ての区画の残部解体がアスベスト対策のもとで実施されるようにする。
【0030】
アスベスト対策工程S121は、次の残部解体工程S122で残部7の解体作業を行った際に発生するアスベスト粉塵等が耐熱管構造物1の外部に漏洩しないようにするものである。
具体的には、図6に示すように、管壁2の外部に連なる全ての開口部を封止(図示省略)することで、いわば耐熱管構造物1を全周にわたって封止する封止構造9を形成する。耐熱管構造物1が小規模であれば、実際に耐熱管構造物1の全体を覆うようにしてもよい。
【0031】
残部解体工程S122は、管壁2の内側の残部7を解体する工程である。
具体的には、図7に示すように、先ず残部7の最上部に切り込みを形成し、両側の側面にかけて解体してゆく。この際、解体は残部7である非含有層5ないし含有層4を一括して行う。解体により発生する耐火物屑は、管路内部で更に破砕処理等を行い、管路外へと搬出する。この段階で発生する耐火物屑は、アスベストを含有するため、管路外への排出時には密封等のアスベスト特有の処理を行う。
該当区画の残部7が両側から下面側まで全周にわたって解体できたら、作業者は管路に沿って次の区画に進み、同様の作業を繰り返してゆく。これにより、作業が済んだ区画においては、残部7が除去され、管壁2は鉄皮3だけの状態とされる。
【0032】
確認工程S123において、前述した残部解体工程S122が解体すべき全領域にわたって済んだことが確認できれば、次のアスベスト対策解除工程S124へと進む。
【0033】
アスベスト対策解除工程S124は、先にアスベスト対策工程S121で実施したアスベスト対策を解除するものである。
具体的には、図8に示すように、管壁2の全ての開口部の封止(図示省略)を解除し、あるいは耐熱管構造物1を全周にわたって封止する封止構造9を解除する。この際、耐熱管構造物1の内側においては、残された鉄皮3の内側にアスベスト粉塵等が付着している可能性があるため、封止構造9の解除に先立って飛散防止剤等の噴霧等を実施する。
【0034】
アスベスト対策解除工程S124が完了すれば、二次解体工程S12の完了となり、その結果、耐熱管構造物1の管壁2からは全ての耐火物が除去され、鉄皮3だけが残った状態となる。
本実施形態では、一次解体工程S11により残部7を残して非含有層6を解体し、二次解体工程S12で残部7として残された非含有層5ないし含有層4を解体するという二段階の作業を行うことで、含有層4との混合が生じない非含有層6についてはアスベスト処理が不要にできる。
そして、アスベスト処理は、残部7として残す含有層4および少なくとも一層の非含有層5のみでよく、アスベスト対策を最小限にすることができ、作業負荷および作業コストの低減が可能である。
さらに、本実施形態では、脱落防止枠8で残部7を保持するようにしたため、残部7の脱落を防止して円滑な作業が行えるとともに、残部7として残す非含有層を最小限にすることができる。
【0035】
〔第2実施形態〕
図9から図17には、本発明の第2実施形態が示されている。
本実施形態は、前述した第1実施形態と同様な水平な耐熱管構造物1に適用されるものである。
図10に示すように、耐熱管構造物1の管壁2は多層耐火物構造とされ、この多層耐火物構造は、外皮である鉄皮3と、外皮の内側を覆いかつアスベストを含有する含有耐火物で形成された含有層4と、含有層の内側を覆いかつアスベストを含有しない非含有耐火物で形成された複数の非含有層A,5,6とを含む。
【0036】
但し、前述した第1実施形態では含有層4が鉄皮3の内側に全周にわたって形成されていたのに対し、本実施形態では鉄皮3の内側には非含有層Aが全周に形成され、その上部(上半分)の内側に含有層4が形成されている。これらの含有層4および非含有層Aの内面に、前述した第1実施形態と同様な非含有層5,6が形成されている。
従って、本実施形態において、管壁2の上部では非含有層Aと非含有層5との間に含有層4が設置されているが、管壁2の下部には含有層4が存在せず非含有層A,5,6だけである。
【0037】
本実施形態の耐熱管構造物1の解体は、前述した第1実施形態と同様、図2に示すように、作業者が管路内に入り、管路に沿って所定長さの一区画分ずつ進行しながら、破砕工具を用いて管壁2の耐火物を破砕してゆく。
前述した第1実施形態では、区画毎の耐火物の解体を行うために、先ず残部7を残す一次解体工程S11を実施し、次にアスベスト対策のもとで残部7を解体する二次解体工程S12を実施するという2パスの作業を、管壁2の全周にわたって行った。
これに対し、本実施形態では、先ず管壁2の上部(含有層4がある上半分の領域)に対して同様な一次解体工程および二次解体工程の2パスを実施し、その後、管壁2の下部(含有層4がない下半分の領域)に対して、非含有層A,5,6を一括して解体する下部解体工程を行うことで、アスベスト対策を更に縮小できるようにする。
以下、本実施形態における解体作業の具体的手順について説明する。
【0038】
図9に示すように、本実施形態では、準備工程S20、上部一次解体工程S21、上部二次解体工程S22、下部解体工程S23を順次実施する。
準備工程S20は、後続の各工程において必要となる準備を行うものである。具体的には、耐熱管構造物1の内部への作業員の出入口の形成、作業器具や資材の搬入、解体屑の排出口の形成などを含む。
【0039】
上部一次解体工程S21は、残部形成工程S211および残部固定工程S212を含むとともに、これらの完了を確認する確認工程S213を含む。
上部一次解体工程S21は、前述した第1実施形態の一次解体工程S11と同様に、作業者が管路内において、所定長さの一区画分ずつ進めてゆく。
本実施形態においても、先行する区画で残部形成工程S211を実施しつつ、後続の区画で残部固定工程S212を実施することで、残部7の固定が速やかに行われるようにする。但し、全区画にわたって残部形成工程S211を実施し終えてから、残部固定工程S212を全区画にわたって実施するようにしてもよい。
【0040】
残部形成工程S211は、管壁2の上部において、その内側の非含有層6を解体することにより非含有層5,Aおよび含有層4を残部7として残す工程である。
具体的には、図11に示すように、管壁2の上部において、先ず非含有層6の最上部に切り込みを形成し、この切り込みから両側の側面にかけて、それぞれ非含有層6を解体してゆく。この際、残部7とすべき非含有層5、含有層4、非含有層Aまでが解体されないように留意する。解体により発生する耐火物屑は、管路内部で更に破砕処理等を行い、管路外へと搬出する。この段階で発生する耐火物屑は、アスベストを含有しないため、管路外への排出時にアスベスト特有の処理を行う必要はない。
該当区画の非含有層6の上半分が解体できたら、作業者は管路に沿って次の区画に進み、同様の作業を繰り返してゆく。これにより、作業が済んだ区画においては、管壁2の上部から非含有層6が除去され、管壁2の上部には非含有層5、含有層4、非含有層Aからなる残部7が形成される。なお、管壁2の下部には、非含有層A,5,6がそのまま維持されている。
【0041】
残部固定工程S212は、先に残部形成工程S211で形成された残部7を脱落防止枠8で固定してゆく工程である。
具体的には、図12に示すように、先ず管壁2の下部に維持されている非含有層6の表面を覆う養生シートBを設置する。
この養生シートBは、管壁2の下部に維持されている非含有層A,5,6を、後続の上部二次解体工程S22により発生するアスベスト破砕屑から保護するために、脱落防止枠8の設置に先立って設置される。
次に、図13に示すように、養生シートBの上に脱落防止枠8を構築し、管壁2の上部の残部7を脱落防止枠8で押さえてその脱落を防止する。
この際、脱落防止枠8は残部7に沿って延びる円弧状の部分を含み、残部7の表面をなるべく連続的に押さえることが望ましい。一方、脱落防止枠8の下部は、養生シートBを介して非含有層6に支持されるが、荷重を分散するため、なるべく多点または広い面積で接するように構成することが望ましい。
【0042】
確認工程S213において、前述した残部形成工程S211および残部固定工程S212が解体すべき全領域にわたって済んだことが確認できれば、一次解体工程S21が終了となる。
【0043】
上部二次解体工程S22は、アスベスト対策工程S221および残部解体工程S222を含むとともに、これらの完了を確認する確認工程S223、完了確認の後に行われるアスベスト対策解除工程S224を含む。
上部二次解体工程S22においては、先ずアスベスト対策工程S221を行い、最後にアスベスト対策解除工程S224を行うことで、全ての区画の残部解体がアスベスト対策のもとで実施されるようにする。
【0044】
アスベスト対策工程S221は、次の残部解体工程S222で残部7の解体作業を行った際に発生するアスベスト粉塵等が耐熱管構造物1の外部に漏洩しないようにするものである。
具体的には、図14に示すように、管壁2の外部に連なる全ての開口部を封止(図示省略)することで、いわば耐熱管構造物1を全周にわたって封止する封止構造9を形成する。耐熱管構造物1が小規模であれば、実際に耐熱管構造物1の全体を覆うようにしてもよい。
【0045】
残部解体工程S222は、管壁2の上部に形成された残部7を解体する工程である。
具体的には、図15に示すように、先ず残部7の最上部に切り込みを形成し、両側の側面にかけて解体してゆく。この際、解体は残部7である非含有層5、含有層4および非含有層Aを一括して行う。解体により発生する耐火物屑は、管路内部で更に破砕処理等を行い、管路外へと搬出する。この段階で発生する耐火物屑は、アスベストを含有するため、管路外への排出時には密封等のアスベスト特有の処理を行う。
該当区画の残部7が全て解体できたら、作業者は管路に沿って次の区画に進み、同様の作業を繰り返してゆく。これにより、作業が済んだ区画においては、残部7が除去され、管壁2の上部は鉄皮3だけの状態とされる。なお、管壁2の下部には、非含有層A,5,6がそのまま維持されている。
【0046】
確認工程S223において、前述した残部解体工程S222が解体すべき管壁2の上部の全領域にわたって済んだことが確認できれば、次のアスベスト対策解除工程S224へと進む。
【0047】
アスベスト対策解除工程S224は、先にアスベスト対策工程S221で実施したアスベスト対策を解除するものである。
具体的には、図16に示すように、管壁2の全ての開口部の封止(図示省略)を解除し、あるいは耐熱管構造物1を全周にわたって封止する封止構造9を解除する。さらに、先に設置した管壁2の下半分の非含有層5の表面を覆う養生シートBもこの段階で除去する。
この際、耐熱管構造物1の内側においては、残された鉄皮3の内側および養生シートBの表面にアスベスト粉塵等が付着している可能性があるため、封止構造9の解除および養生シートBの除去に先立って飛散抑制剤等の噴霧等を実施する。
【0048】
アスベスト対策解除工程S224が完了すれば、上部二次解体工程S22の完了となる。その結果、耐熱管構造物1の管壁2の上部においては、全ての耐火物が除去され、鉄皮3だけが残った状態となる。なお、図17に示すように、管壁2の下部には、非含有層A,5,6がそのまま維持されている。
【0049】
下部解体工程S23は、管壁2の下部に維持されている非含有層A,5,6を解体するものである。
図17において、これらの非含有層A,5,6にはアスベストが含有されておらず、アスベスト対策を行う必要はなく、これらの非含有層A,5,6は一括して破砕してゆけばよい。
【0050】
本実施形態では、管壁2の上部については、上部一次解体工程S21により残部7を残して非含有層6を解体し、上部二次解体工程S22で残部7として残された非含有層5、含有層4、非含有層Aを解体するという二段階の作業を行うことで、含有層4との混合が生じない非含有層6についてはアスベスト処理が不要にできる。そして、アスベスト処理は、残部7として残す含有層4、非含有層5,Aのみでよく、アスベスト対策を最小限にすることができ、作業負荷および作業コストの低減が可能である。
【0051】
一方、管壁2の下部については、一切のアスベスト処理を行うことなく、非含有層A,5,6は一括して破砕することができ、従来通りの著しく簡単な作業で済ませることができる。
これらにより、本実施形態では、アスベスト処理は管壁2の上部のうち限定的な残部7だけで済ますことができる。
さらに、本実施形態では、脱落防止枠8で残部7を保持するようにしたため、残部7の脱落を防止して円滑な作業が行えるとともに、残部7として残す非含有層を最小限にすることができる。
【0052】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、以下のような変形も本発明に含まれるものである。
前記実施形態では、管路の進行方向に作業者が進行しながら、区画毎に残部形成工程S111,S211および残部固定工程S112,S212を順次実施するようにしたが、全区画の残部形成工程S111,S211を行ってから残部固定工程S112,S212を実施し、これらの各工程を完全に分離してもよい。
一方、前記実施形態では、アスベスト対策が必要な二次解体工程S12あるいは上部二次解体工程S22は、他の一次解体工程S11、上部一次解体工程S21、下部解体工程S23と完全に分離したが、区画毎のアスベスト対策が行える状況であれば、区画毎に並行させてもよい。
このように、本発明における各工程は、複数区画で重複または並行して行ってもよい。
【0053】
前記各実施形態では、耐熱管構造物1の管壁2を形成する多層耐火物構造として、外皮である鉄皮3と、外皮の内側を覆いかつアスベストを含有する含有耐火物で形成された含有層4と、含有層の内側を覆いかつアスベストを含有しない非含有耐火物で形成された複数の非含有層A,5,6とを含むものとしたが、各々の積層状態は適宜変更しうるものである。
例えば、含有層4は2層以上であってもよく、含有層4の内側にある非含有層5,6もさらに多層であってもよい。この場合、残部7として残されるのは含有層4に隣接する少なくとも1層であればよい。なお、2層以上の非含有層を残部7として残してもよい。
【0054】
脱落防止枠8は前記実施形態の形態に限らず、他の枠組み構成であってもよく、例えば管壁2の上半分と下半分との両方に接する円形の枠体を並べたものでよい。あるいは、管路内部に設置される枠体に限らず、残部7自体に固定される板材等を用いてもよい。この場合、ボルト止めのために孔開け等を行う場合には、残部7の含有層4に含まれるアスベスト成分が漏れ出さないように、孔に固定用の飛散防止剤等を注入するなど十分注意する必要がある。
【0055】
前記各実施形態では、残部形成工程S111,S211および残部解体工程S122,S222において、非含有層A,5,6および含有層4を解体し、外部へ排出した。この際、解体により生じた耐火物の解体屑を、耐熱管構造物1の内部で更に破砕し、外部に排出するようにしてもよい。
図18に示す他の実施形態では、耐熱管構造物1の内部にコンベア1Aが設置され、コンベア1Aの端部に破砕機1Bが設置されている。破砕機1Bの近傍の管壁2には、排出用のシュート1Cが設置されている。なお、残部解体工程S122,S222に適用する場合、管壁2には防護シートの覆いなどの封止構造9を設置しておく。これは残部形成工程S111,S211では不要である。
本実施形態では、図中左の区画で残部形成あるいは残部解体を行い、その解体屑7Aをコンベア1Aで搬送し、破砕機1Bで寄り細かい解体屑7Bへと粉砕し、これを袋詰め7Cとしてシュート1Cから排出し、トラック等に載せて搬出する。
このように、耐熱管構造物1の内部で補助的な破砕を行うことで、作業効率の向上および処分体積の低減を図ることができる。特に、残部解体に利用することで、アスベスト対策を耐熱管構造物1に集約化することができ、外部でのアスベスト対策のための気密構造等を簡略化することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、耐熱管構造物の解体方法に関し、管路内壁の一部がアスベストを含有する耐火物で形成された多層耐火物構造である耐熱管構造物の解体方法として利用できる。
【符号の説明】
【0057】
1…耐熱管構造物
2…管壁
3…鉄皮
4…含有層
5,6,A…非含有層
7…残部
8…脱落防止枠
9…封止構造
B…養生シート
S10,S20…準備工程
S11…一次解体工程
S111,S211…残部形成工程
S112,S212…残部固定工程
S113,S213…確認工程
S12…二次解体工程
S121,S221…アスベスト対策工程
S122,S222…残部解体工程
S123,S223…確認工程
S124,S224…アスベスト対策解除工程
S21…上部一次解体工程
S22…上部二次解体工程
S23…下部解体工程
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外皮と、前記外皮の内側を覆いかつアスベストを含有する含有耐火物で形成された含有層と、前記含有層の内側を覆いかつアスベストを含有しない非含有耐火物で多層に形成された非含有層とを含む多層耐火物構造の管壁を有する耐熱管構造物の解体方法であって、
一次解体工程として前記非含有層の少なくとも最外側の一層と前記含有層とを残部として残して前記非含有層を炉芯側から解体する残部形成工程を行った後、二次解体工程としてアスベスト対策のもとで前記残部を解体する残部解体工程を行うことを特徴とする耐熱管構造物の解体方法。
【請求項2】
請求項1に記載された耐熱管構造物の解体方法において、
前記一次解体工程は、前記残部を前記外皮に固定する残部固定工程を含むことを特徴とする耐熱管構造物の解体方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された耐熱管構造物の解体方法において、
前記耐熱管構造物は横方向に延びており、前記残部固定工程では前記管壁のうち上部に対して前記残部の固定を実施することを特徴とする耐熱管構造物の解体方法。
【請求項4】
請求項3に記載された耐熱管構造物の解体方法において、
前記残部形成の後、前記管壁の下部に形成された前記残部の上に脱落防止枠を組み立て、この脱落防止枠で前記管壁の上部に形成された前記残部を固定することを特徴とする耐熱管構造物の解体方法。
【請求項5】
請求項4に記載された耐熱管構造物の解体方法において、
前記耐熱管構造物を複数の区画に区分しておき、前記区画の各々に対して前記残部形成および前記残部形成を順次行うことを特徴とする耐熱管構造物の解体方法。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載された耐熱管構造物の解体方法において、
前記耐熱管構造物は横方向に延びており、前記管壁のうち上部が前記含有層および前記非含有層で形成され、前記管壁のうち下部は前記非含有層だけで形成されており、前記管壁の上部対して前記一次解体工程および前記二次解体工程を行った後、前記管壁の下部に対して前記非含有層を一括解体することを特徴とする耐熱管構造物の解体方法。
【請求項7】
請求項6に記載された耐熱管構造物の解体方法において、
前記管壁の上部に対する前記二次解体工程の開始前に、前記管壁の下部を養生シートで覆い、この養生シートの上面側で前記アスベスト対策を実施するとともに、前記二次解体工程の後、前記アスベスト対策を解除するとともに前記養生シートを除去し、前記管壁の下部の前記非含有層の一括解体を行うことを特徴とする耐熱管構造物の解体方法。
【請求項8】
請求項7に記載された耐熱管構造物の解体方法において、
前記二次解体を行う前に、前記養生シートの上に脱落防止枠を組み立て、この脱落防止枠で前記管壁の上部の前記残部を固定することを特徴とする耐熱管構造物の解体方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8の何れかに記載された耐熱管構造物の解体方法において、
前記二次解体工程では、前記残部の解体で生じた解体屑を耐熱管構造物の内部で更に破砕することを特徴とする耐熱管構造物の解体方法。
【請求項1】
外皮と、前記外皮の内側を覆いかつアスベストを含有する含有耐火物で形成された含有層と、前記含有層の内側を覆いかつアスベストを含有しない非含有耐火物で多層に形成された非含有層とを含む多層耐火物構造の管壁を有する耐熱管構造物の解体方法であって、
一次解体工程として前記非含有層の少なくとも最外側の一層と前記含有層とを残部として残して前記非含有層を炉芯側から解体する残部形成工程を行った後、二次解体工程としてアスベスト対策のもとで前記残部を解体する残部解体工程を行うことを特徴とする耐熱管構造物の解体方法。
【請求項2】
請求項1に記載された耐熱管構造物の解体方法において、
前記一次解体工程は、前記残部を前記外皮に固定する残部固定工程を含むことを特徴とする耐熱管構造物の解体方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された耐熱管構造物の解体方法において、
前記耐熱管構造物は横方向に延びており、前記残部固定工程では前記管壁のうち上部に対して前記残部の固定を実施することを特徴とする耐熱管構造物の解体方法。
【請求項4】
請求項3に記載された耐熱管構造物の解体方法において、
前記残部形成の後、前記管壁の下部に形成された前記残部の上に脱落防止枠を組み立て、この脱落防止枠で前記管壁の上部に形成された前記残部を固定することを特徴とする耐熱管構造物の解体方法。
【請求項5】
請求項4に記載された耐熱管構造物の解体方法において、
前記耐熱管構造物を複数の区画に区分しておき、前記区画の各々に対して前記残部形成および前記残部形成を順次行うことを特徴とする耐熱管構造物の解体方法。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載された耐熱管構造物の解体方法において、
前記耐熱管構造物は横方向に延びており、前記管壁のうち上部が前記含有層および前記非含有層で形成され、前記管壁のうち下部は前記非含有層だけで形成されており、前記管壁の上部対して前記一次解体工程および前記二次解体工程を行った後、前記管壁の下部に対して前記非含有層を一括解体することを特徴とする耐熱管構造物の解体方法。
【請求項7】
請求項6に記載された耐熱管構造物の解体方法において、
前記管壁の上部に対する前記二次解体工程の開始前に、前記管壁の下部を養生シートで覆い、この養生シートの上面側で前記アスベスト対策を実施するとともに、前記二次解体工程の後、前記アスベスト対策を解除するとともに前記養生シートを除去し、前記管壁の下部の前記非含有層の一括解体を行うことを特徴とする耐熱管構造物の解体方法。
【請求項8】
請求項7に記載された耐熱管構造物の解体方法において、
前記二次解体を行う前に、前記養生シートの上に脱落防止枠を組み立て、この脱落防止枠で前記管壁の上部の前記残部を固定することを特徴とする耐熱管構造物の解体方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8の何れかに記載された耐熱管構造物の解体方法において、
前記二次解体工程では、前記残部の解体で生じた解体屑を耐熱管構造物の内部で更に破砕することを特徴とする耐熱管構造物の解体方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−64346(P2011−64346A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212990(P2009−212990)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】
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