耐熱電子放出源

【課題】六ホウ化ランタンなどの希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバを耐熱金属支持針に接合して熱陰極電子放出源として使用しようとすると、高温使用過程で生じる、希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバと耐熱金属支持針との接合面における高温化学反応により損傷・劣化を起こして、耐久性・長期間使用可能性の面で問題を引き起こす恐れがある。
【解決手段】少なくとも耐熱金属支持針の希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバとの接合箇所が当該ナノファイバに対して高温でも化学反応しない耐熱材料よりなる熱陰極電子放出源を構成することにより、上記問題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバを耐熱性支持針に接合した構成の熱陰極電子放出源に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類六ホウ化物は、仕事関数が低い、高融点で高硬度など、電子放出源として極めて優れている。最近、この希土類六ホウ化物の六ホウ化ランタン(非特許文献1,2)、六ホウ化セリウム(非特許文献3)および六ホウ化ガドリウム(非特許文献4)について、気相成長法により、単結晶ナノファイバとし、電子放出源とすることに成功している(特許文献1)。
【0003】
この電子放出源は、熱陰極電子源として使用される場合は、1400℃以上に加熱されて使用される。電子源は、希土類六ホウ化物ナノファイバを電子放出源とし、耐熱金属支持針に接合して作製されるが、このような高温に長時間曝されると、希土類六ホウ化物ナノファイバと耐熱金属支持針とが反応して、ナノファイバが損傷を受け、電子放出源として使用できなくなる恐れがある。
【0004】
従来、希土類六ホウ化物は、マイクロメータオーダーのコーン型の単結晶バルク(特許文献2,3)や粉状にして、フィラメントや耐熱金属針に被覆されて(特許文献4,5)電子放出源として用いられてきた。単結晶バルクとして用いられる場合は、電子放出源となる部分は、他材料と直接接触することはなく、電子放出源自身が致命的な損傷を受けることはない。また、粉状にして用いる場合は、希土類六ホウ化物が粉末被覆層から電子放出源先端に拡散して、常に補給されるので、この粉末電子源の劣化・損傷は問題にならない。従って、希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバと耐熱金属支持針との界面における高温化学反応による損傷・劣化は、これまでには顕在化していなかった新たな問題であり、ナノファイバ電子放出源にとっては、損傷が微小であっても、ナノファイバ自体が微小であるため、致命的となり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバを支持針に接合した熱陰極電子放出源を具体化するに当たって、高温使用過程で生じる、希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバと耐熱金属支持針との接合面における高温化学反応による損傷・劣化を防ぎ、耐久性に優れ、長期間使用可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明により、耐熱性支持針に希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバが接合されるとともに、少なくとも前記支持針の前記ナノファイバとの接合箇所が前記希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバに対して高温でも化学反応しない耐熱材料よりなる熱陰極電子放出源が与えられる。
前記支持針はレニウム、オスニウム、白金又はイリジウムからなっていてよい。
前記支持針の前記接合箇所が前記耐熱材料の被覆であり、前記支持針の前記被覆以外の箇所は耐熱性金属であってよい。
前記被覆は蒸着によって形成されたものであってよい。
前記被覆はカーボン、白金、オスニウム、イリジウムまたはレニウムであってよい。
前記被覆は前記耐熱金属とカーボンまたはボロンとの反応で生成されたカーバイドまたはホウ化物であってよい。
前記耐熱金属がタンタル、チタン、ジルコニウム、ハフニウムまたはニッケルであってよい。
前記支持針先端部に針の軸方向と平行にテラス状の平坦部を設け、前記平坦部に前記ナノファイバを軸方向と平行に配置してよい。
前記支持針と前記希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバとの接合は、耐熱導電性材料を蒸着して行ってよい。
前記耐熱導電性材料はカーボンまたは白金であってよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、熱陰極電子放出源の使用時における高温化でも希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバと支持針との接合面における反応等による損傷・劣化を防止し、これにより、長寿命かつ高性能の熱陰極電子放出源を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバを電子放出源とする電子源の基本構造を示す概略図。
【図2】白金、オスニウム、レニウムまたはイリジウムを用いる電子源の耐熱金属支持針を電解加工で作製する形状。(a)側面図、(b)正面図、(c)上面図。
【図3】電解加工により作製した耐熱金属支持針の集束イオンビーム装置による加工、テラス状平坦部の加工。(a)側面図、(b)正面図、(c)上面図。
【図4】耐熱金属支持針のテラス状平坦部への六ホウ化ランタン(LaB)ナノファイバの針中心線に沿った配置を示す走査型電子顕微鏡写真。(a)上面からの写真、(b)側面からの写真。
【図5】白金、オスニウム、イリジウム、カーボン又はレニウムをバリアー層とするタングステン支持針の電解加工による作製形状。(a)側面図、(b)正面図、(c)上面図。
【図6】タングステン支持針先端部を集束イオンビーム装置により加工し、作製したテラス状平坦部。(a)側面図、(b)正面図、(c)上面図。
【図7】タングステン支持針と希土類六ホウ化物ナノファイバとの反応を防ぐためのタングステン支持針上の白金等のバリアー層のコーティング。(a)側面図、(b)正面図、(c)上面図。
【図8】タンタル、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウムまたはニッケルを用いる耐熱金属支持針の電解加工による作製形状。(a)側面図、(b)正面図、(c)上面図。
【図9】電解加工により作製したタンタル等の耐熱金属支持針先端部の集束イオンビーム装置による加工、テラス状平坦部の加工。(a)側面図、(b)正面図、(c)上面図。
【図10】タンタル等の耐熱金属支持針のテラス状平坦部へのカーボンまたはボロンの蒸着。(a)側面図、(b)正面図、(c)上面図。
【図11】図10のカーボンまたはボロンを蒸着した耐熱金属支持針を加熱し、下地の耐熱金属と反応させて、作製したそれぞれのカーバイドまたはホウ化物のバリアー層。(a)側面図、(b)正面図、(c)上面図。
【図12】タングステン支持針に、直接、六ホウ化ランタン(LaB)ナノファイバを接合させ、900℃に加熱した時の反応層とナノファイバの痩せ細り。左図は加熱前の写真、右図は加熱後の写真。
【図13】カーボン蒸着層をバリアーとし、さらに、カーボン蒸着により接合させたタングステン支持針と六ホウ化ランタンナノファイバの電子放出源先端部の走査型電子顕微鏡写真。
【図14】図14に示すカーボン蒸着バリアー層をもつタングステン支持針と六ホウ化ランタンナノファイバの900℃加熱前後の走査型電子顕微鏡写真。左図は加熱前、右図は加熱後の写真で、加熱前後において、ほとんど変化がないことが示されている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバを電子放出源とする利点
希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバは、特許文献1に、さらには、非特許文献1〜4に示されているように、仕事関数が低く、電子放出が容易で、高輝度の電子ビーム電子放出源となり、また、高硬度で耐久性もよい。上記文献に示されるように、希土類六ホウ化物の六ホウ化ランタン、六ホウ化セリウムおよび六ホウ化ガドリウムの単結晶ナノファイバ化が実現されている。希土類六ホウ化物の単結晶ナノファイバがもつ、元々の仕事関数が低い等の材料特性に加え、ナノファイバ先端での電界集中による高電界化により、希土類六ホウ化物ナノファイバ電子放出源は、電子放出が極めて優れた電子源となる。
【0010】
希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバ電子源の基本構造
希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバを電子放出源とする電子源の基本構造を図1に示す。支持針の先端部にナノファイバを接合させている。ナノファイバはたとえば気相成長法によって作製することができる。また、支持針およびナノファイバは、電子を放出するため、1400℃以上に加熱される。そのため、支持針は高温に耐えるだけでなく、六ホウ化物単結晶ナノファイバとの高温下での化学反応により損傷・劣化を生じない材料、または構造とする必要がある。
【0011】
以下の実施例では、図1の希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバ熱陰極電子放出源を実現し、かつ高性能化と耐久性を合わせもたせるための、ナノファイバ電子放出源を組み込んだ支持針のより具体的な構成例を与えるが、当然ながら、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0012】
ナノファイバを損傷・劣化させない支持針の構造と材料
図1に示すように、希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバを耐熱金属支持針に接合させた電子放出源としたことにより、高温長期間使用によっても希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバを損傷・劣化させないようにするという新たな課題が生じた。また、希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバを組み込んだ熱陰極電子方出現を実際に構成するに当たっては、当該ナノファイバの高アスペクト構造と接触面積が微小であることを考慮し、支持針に対して、力学的にも、電気的にも、連続的に整合させて接合させることが望ましい。
【0013】
希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバの高温使用に伴う損傷・劣化を防ぐため、ナノファイバとの接合面で反応を生じない、また、ナノファイバ中に拡散侵入して、劣化相を生じない耐熱金属材料を選択して支持針の材料として用いた。
【0014】
また、このような反応や劣化層の生成は、希土類六ホウ化物と支持針との接合部で起こるものであるから、支持針全体ではなく当該接合部付近だけをこのような現象を生じない材料(金属あるいは非金属)で構成することもできる。従って、一部の実施例では、ナノファイバと接合する支持針の表面に高温で反応や劣化相を生じない被覆層を設けた。
【0015】
支持針と希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバの接合に関しては、支持針の先端部に、針の軸方向と平行に、平坦部を集束イオンビームで加工し、そのテラス状の平滑な平坦部にナノファイバの取り付けを可能とした。このテラス状平坦部に、希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバを、軸を揃えて配置し、その上からカーボン又は白金を蒸着し、力学的にも、電気的にも連続した接合とすることに成功した。
【0016】
これらの構成により、希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバを支持針に接合させて構成した熱陰極電子放出源を、高温で長期間使用しても損傷・劣化を生じない、安定で耐久性があり長寿命の熱陰極電子方出源とすることができた。
【0017】
なお、本願で言う「耐熱」とは、漠然と高温に耐えるという一般的な性質のことを指すのではなく、熱陰極電子源としての現実の使用の際の温度に耐える、すなわちそのような温度にさらされても短時間のうちに溶解・蒸発はもとより、長期間使用に伴う酸化・還元反応や残留ガス吸着による劣化、さらには、その他の損傷をこうむって熱陰極電子源としての機能を失なうことがない、という使用に伴う温度における「耐えること」の具体的な態様を示す、特定的・具体的な性質であることに注意されたい。
【0018】
以下の実施例で具体的に説明する。
【実施例1】
【0019】
耐熱金属支持針の材料および構造とナノファイバ電子放出源の作製方法
白金、オスニウム、レニウム又はイリジウムを用い、電解加工により、図2に示す形状とする。図2の(a)は耐熱金属支持針の側面図、(b)は正面図、(c)は上面図である。図2の形状の耐熱金属支持針をナノファイバ電子放出源に密着・接合させるために、図3に示すように、耐熱金属支持針の先端部分を切り落とし、その内側にテラス状の平坦部を加工・作製する。平坦部は幅1−20μm、長さ1−100μmとし、集束イオンビーム装置で加工する。
【0020】
希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバと耐熱金属支持針からなる電子放出部を作製するため、レニウムを用いて、図3の形状の耐熱金属支持針を作製し、テラス状平坦部にナノファイバを配置させた。希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバとして、六ホウ化ランタン(LaB)を用い、化学気相堆積(CVD)法により合成・成長させた基板から直径20nm程度の六ホウ化ランタンのナノファイバをピックアップし、テラス状平坦部に耐熱金属支持針の軸の中心方向に沿って配置した。図4の(a)は配置させた後の上面から撮った走査型電子顕微鏡写真、(b)は側面からの写真である。
【0021】
六ホウ化ランタン単結晶ナノファイバをレニウムの耐熱金属支持針に接合するため、カーボンまたは白金をナノファイバの上から電子ビームまたはイオンビームを用いて、フイルム状に蒸着し、接合用パッチとする。ここでは、カーボンを用いて、蒸着した。このようにして、希土類六ホウ化物ナノファイバ電子源の電子放出部が完成した。この電子放出部を既存のフィラメント、電極に組み込めば、熱陰極(熱電子放出型)電子放出源が得られる。
このようにして構成された熱陰極電子放出源においては、ナノファイバを取り付ける支持針全体が上述した好ましくない反応や劣化相生成を起こさない白金、オスニウム、レニウム、イリジウムなどの金属のうちのひとつであるレニウムで作成された、耐熱金属支持針を使用しているので、長時間使用しても上述したような損傷・劣化を生じない。
【実施例2】
【0022】
タングステンを耐熱金属支持針に用いるナノファイバ電子放出源先端部の構造と作製方法
タングステンは電子放出源として、よく使用されるが、ここでは希土類ホウ化物ナノファイバを支持する耐熱金属支持針として用いる。タングステン線の電解加工により、図5の形状、すなわち円錐状に加工する。図中の(a),(b)および(c)は電解加工後の側面図、正面図および上面図である。図5の形状のタングステン針を、集束イオンビーム装置を用いて、先端部を切り取り、その内側に、テラス状の平坦部を加工・作製する。図6にその形状が示されているテラス状平坦部の幅は1−20μm、長さは1−100μmである。このテラス状平坦部上に、タングステンと希土類ホウ化物ナノファイバとの反応を防ぐ目的で、図7に示すように、白金、オスニウム、イリジウム、カーボンまたはレニウムを蒸着させ、被覆層を作製する。実施例2と同様にして、被覆層上に希土類六ホウ化物ナノファイバを配置し、カーボンまたは白金をパッチ状に蒸着し、電子放出源先端部を作製する。この電子放出源先端部を既存のフィラメント、電極に組み込めば、熱陰極電子放出源が得られる。
本実施例における熱陰極電子放出源では、支持針全体ではなく、支持針のうちのナノファイバとの接合部分の近傍だけを上述した問題を起こさない材料の被覆層として構成することにより、やはり長時間使用しても上述したような損傷・劣化を生じないようにしている。
【実施例3】
【0023】
カーバイドまたはホウ化物をバリアー層とする耐熱金属支持針およびナノファイバ電子放出源先端部の構造と作製方法
耐熱金属支持針として、より安価で一般的なタンタル、チタニウム、ジルコニウムまたはニッケルを用い、希土類ホウ化物ナノファイバとの間にそれらの炭化物またはホウ化物を生成させ、バリアー層とする構造および作製方法である。タンタル、チタニウム、ジルコニウムまたはニッケルを電解加工により、図8に示す形状に加工する。この形状の耐熱金属支持針を集束イオンビーム装置により、図9のように加工し、先端部を切り落とし、その内側にテラス状平坦部を加工する。
【0024】
加工は、集束イオンビーム装置で行う。テラス状平坦部の幅は1−20μmで、長さは1−100μmである。このテラス状平坦部上にカーボンまたはボロンを蒸着する。図10はカーボンまたはボロンを蒸着した耐熱金属支持針を示す。カーボンまたはボロンを蒸着した耐熱金属支持針を加熱すると、カーボンまたはボロンは下地のタンタル、チタニウム、ジルコニウム、またはニッケルと反応し、それぞれのカーバイドまたはホウ化物となる。図11にカーバイドまたはホウ化物生成とバリアー層形成を示す。実施例2と同様にして、希土類ホウ化物ナノファイバを配置し、カーボンまたは白金をパッチ状に蒸着して、電子放出源先端部を作製する。
【実施例4】
【0025】
耐熱金属支持針上に生成したバリアー層の反応阻止効果
タングステンはフィラメントや電子放出源として広く使用されており、タングステンを耐熱金属支持針とする経済上、生産上のメリットは大きい。しかし、タングステンは、本発明で用いる希土類ホウ化物と反応を生じる可能性があり、希土類六ホウ化物はナノファイバであるので、この反応は、致命的な損傷を希土類ホウ化物ナノファイバに与える恐れがある。そこで、タングステンと六ホウ化ランタン単結晶ナノファイバとの反応およびここで開発したバリアー層の効果を確認した。
【0026】
タングステン耐熱金属支持針に六ホウ化ランタンナノファイバを接合させた電子源先端部を900℃で加熱した。ナノファイバはタングステン支持針と反応し、六ホウ化ランタンナノファイバは反応層により劣化、痩せ細ってくる。このタングステン支持針と六ホウ化ランタン単結晶ナノファイバの接合部の反応層の走査型電子顕微鏡写真を図12に示す。タングステン支持針に接しているナノファイバ部分に反応層が生成し、ナノファイバが劣化・損傷しているのがみられる。この反応を防ぐ目的で、タングステン支持針の上にカーボンを蒸着し、その上に六ホウ化ランタン単結晶ナノファイバを接合させた電子放出源先端部の走査型電子顕微鏡写真を図13に示す。このカーボン層のバリアーをもつタングステン支持針と六ホウ化ランタン単結晶ナノファイバ電子放出源先端部を900℃で加熱した後のカーボンバリアー層の部分を加熱前と比較した走査型電子顕微鏡写真を図13に示す。カーボンバリアー層がある場合は加熱前と変わらず、反応が阻止されていることが分かる。
【実施例5】
【0027】
耐熱金属支持針、およびバリアー層に適合する材料の選択
本実施例等における耐熱金属支持針と希土類六ホウ化物の六ホウ化ランタンとの高温での反応の有無の実験結果を表1に示す。タングステン支持針(実験番号1から3)は、希土類六ホウ化物ナノファイバと、900℃以下でも反応し、ナノファイバに損傷を生じさせる。タングステン支持針表面をカーボンで被覆させたもの(実験番号4)やタンタルを耐熱金属支持針に用いたもの(実験番号5,6)は損傷を生じさせていない。
【表1】

【0028】
表1は一部の材料に留まるので、耐熱金属支持針や被覆層の対象となる主要な材料について、文献やデータベースから得られたデータおよび物理的・化学的特性データを分析・解析し、LaB6に高温で反応しない材料を理論的に導き出した結果を表2に示す。これらのデータにより、適切な耐熱金属支持針材料の選択、被覆層やバリアー層材料の選択が可能となり、耐久寿命が長く、信頼性の高い希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバ電子放出源とすることができる。
【表2】

【0029】
以上、詳細に説明したように、希土類六ホウ化物のナノファイバを熱陰極電子放出源として用いることにより、新たな問題を生じた。すなわち、耐熱金属支持針との接合の問題、より具体的には高温使用過程での耐熱金属支持針や接合材料との高温化学反応によるナノファイバの損傷・劣化の問題である。これらは、ナノファイバ電子放出源が微小であるため、致命的となり得る。
【0030】
耐熱金属支持針の材料として、レニウム等の高温において安定で、希土類六ホウ化物と反応しない耐熱金属で支持針を作製すること、耐熱金属支持針とナノファイバとの接合面のみをレニウム等の高温で反応しない耐熱金属で被覆すること、さらには、接合面のみにカーバイドやホウ化物で被覆することにより、ナノファイバとの損傷・劣化を防ぐことができた。
【0031】
更には、上述の実施例において、希土類六ホウ化物ナノファイバと耐熱金属支持針との接合に関しては、耐熱金属支持針の先端部に接合のためのテラス状の平滑かつ平坦面を加工し、ナノファイバを支持針の中心軸に合わせて配置後、ナノファイバの上から耐熱導電性のカーボン又は白金でパッチ状に蒸着した。このことにより、ナノファイバの正確な位置制御・固定を可能にし、力学的にも電気的にも連続した強固な接合とすることができた。カーボンおよび白金は高温で化学的に安定なため、ナノファイバを劣化させることはない。
【0032】
これらの構成により、電子放出源として高温での使用に伴う損傷・劣化の問題、及び希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバを耐熱金属支持針に適切に接合する問題を解決でき、長期間安定して使用可能な熱陰極電子源を提供することができた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバを支持針に接合した熱陰極電子放出源は、高輝度で細く絞れた電子ビームの照射を可能とする高性能の電子源であり、本発明の電子放出源構造および支持針の材料・構造により、長期間使用可能で高信頼性の電子源とすることができる。このことにより、本発明の熱陰極電子放出源を組み込むことで、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、電子線描画装置等の性能を飛躍的に向上させるとともに、操作性、耐久性を格段に向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0034】
【特許文献1】特開2008−262794号公報
【特許文献2】USP4055780号公報
【特許文献3】USP4468586号公報
【特許文献4】USP3631291号公報
【特許文献5】USP3312856号公報
【非特許文献】
【0035】
【非特許文献1】J.AM.CHEM.SOC,2005,127,2862−2863,02/11/2005,H.Zhang,Q.Zhang,J.Tang,L−C.Qin,(図2)
【非特許文献2】Adv.Mater.,2006,18,87−91,H.Zhang,J.Tang,Q.Zhang,G.Zhao,G.Yang,J.Zhang,O.Zhou,L−C.Qin,(図1−4)
【非特許文献3】J.AM.CHEM.SOC.,2005,127,8002−8003,05/12/2005,H.Zhang,Q.Zhang,J.Tang,L−C.Qin,(図1−2)
【非特許文献4】J.AM.CHEM.SOC.,2005,27,13120−13121,09/03/2005,H.Zhang,Q.Zhang,G.Zhao,J.Tang,L−C.Qin,(図1−2)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持針に希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバが接合されるとともに、
少なくとも前記支持針の前記ナノファイバとの接合箇所が前記希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバに対して高温でも化学反応しない耐熱材料よりなる
熱陰極電子放出源。
【請求項2】
前記支持針がレニウム、オスニウム、白金又はイリジウムからなる、請求項1に記載の熱陰極電子放出源。
【請求項3】
前記支持針の前記接合箇所が前記耐熱材料の被覆であり、
前記支持針の前記被覆以外の箇所は耐熱性金属である
請求項1に記載の熱陰極電子放出源。
【請求項4】
前記被覆は蒸着によって形成されたものである、請求項3に記載の熱陰極電子放出源。
【請求項5】
前記被覆はカーボン、白金、オスニウム、イリジウムまたはレニウムである、請求項4に記載の熱陰極電子放出源。
【請求項6】
前記被覆は前記耐熱金属とカーボンまたはボロンとの反応で生成されたカーバイドまたはホウ化物である、請求項3に記載の熱陰極電子放出源。
【請求項7】
前記耐熱金属がタンタル、チタン、ジルコニウム、ハフニウムまたはニッケルである、請求項6に記載の熱陰極電子放出源。
【請求項8】
前記支持針先端部に針の軸方向と平行にテラス状の平坦部を設け、
前記平坦部に前記ナノファイバを軸方向と平行に配置した、
請求項1から7の何れかに記載の熱陰極電子放出源。
【請求項9】
前記支持針と前記希土類六ホウ化物単結晶ナノファイバとの接合は、耐熱導電性材料を蒸着して行われる、請求項1から8の何れかに記載の熱陰極電子放出源。
【請求項10】
前記耐熱導電性材料はカーボンまたは白金である、請求項9に記載の熱陰極電子放出源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−14531(P2011−14531A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113904(P2010−113904)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、科学技術振興機構、先端計測分析技術・機器開発委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】