説明

耐疵付き性に優れた樹脂塗装鋼板

【課題】樹脂塗装鋼板製造工程、プレス加工工程、加工後の組み立て工程、製品となってからの移送工程等のいずれの工程においても疵がつきにくく、厳しいレベルの耐疵付き性に適合し得る樹脂塗装鋼板を提供する。
【解決手段】冷延鋼板または合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面に厚さ12μm以下の樹脂皮膜が形成されており、該皮膜のTgが−10℃〜32℃であることを特徴とする耐疵付き性に優れた樹脂塗装鋼板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、家電製品、建材等に用いられる樹脂塗装鋼板に関し、詳しくは、樹脂塗装鋼板製造工程、プレス加工工程、加工後の組み立て工程、製品となってからの移送工程等のいずれの工程においても、疵がつきにくい樹脂塗装鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、意匠性や耐食性を高めるために金属板表面に樹脂皮膜を形成する方法が知られている。樹脂皮膜は、加工性、耐食性、耐疵付き性等が良好であることが求められ、これらの特性を改良するために、様々な検討が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ガラス転移温度(Tg)が10〜50℃の樹脂中にTgが70〜120℃の樹脂粒子を含有させた上塗り塗膜を配した加工性に優れた塗装鋼板が記載されている。また、特許文献2には、Tgが20〜80℃のポリエステル樹脂を主成分とする1コート塗膜によって、絞り加工のような厳しい成形加工にも耐えられるプレコート鋼板が示されている。さらに、特許文献3には、Tgが−25〜35℃のポリエステル樹脂を主成分とする樹脂塗膜によって、加工性を高める技術が開示されている。
【0004】
しかし、これらの従来技術では、最近の厳しいレベルの耐疵付き性に適合するような努力はなされていない。例えば、金属板のエッジ等で樹脂皮膜に疵が付きやすいかどうかを端的に評価する方法として、鉛筆硬度試験が知られているが、特許文献1では鉛筆硬度自体が評価されていない。また特許文献2や3では鉛筆硬度の評価が行われているが、せいぜいH止まりであり、さらなる硬さの鉛筆にも耐えられるような樹脂皮膜構成にはなっていない。すなわち、絞りや曲げ等の加工の際に追随できるような軟らかい樹脂を選択すると、耐疵付き性は悪くなりがちである。
【0005】
金属板のエッジ等が触れることで、樹脂皮膜に切り裂いたような疵ができてしまうと、品質外観が著しく劣り、不良品となってしまうため、コストに直結する。このため、耐疵付き性の改善が求められており、そのレベルは年々厳しくなっている。
【0006】
耐疵付き性に着目した技術として例えば特許文献4には、加工性と耐傷付き性とが相反する性質であることを認識した上で([0009])、両特性の両立を図るため、軟らかいベース塗膜の上に硬質の島状の上塗り塗膜を形成する技術が記載されている。しかし、硬質上塗り塗膜が形成されていない部分の耐疵付き性は劣ったままである上に、上記の構造の塗膜を形成するには工程が煩雑となり、コスト高につながる。
【特許文献1】特開2007−168273号公報
【特許文献2】特開2001−9366号公報
【特許文献3】特開平9−111183号公報
【特許文献4】特開2007−230099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明では、上記諸事情を考慮して、樹脂塗装鋼板製造工程、プレス加工工程、加工後の組み立て工程、製品となってからの移送工程等のいずれの工程においても疵がつきにくく、厳しいレベルの耐疵付き性に適合し得る樹脂塗装鋼板を提供することを課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、冷延鋼板または合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面に厚さ12μm以下の樹脂皮膜が形成されており、該皮膜のTgが−10℃〜32℃であるところに要旨を有する。
【0009】
樹脂皮膜が有機溶剤可溶型ポリエステル樹脂を含む原料組成物から得られるものであること、原料組成物にメラミン系架橋剤が含まれていることは、いずれも本発明の好ましい実施態様である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂塗装鋼板は、硬度の大きい冷延鋼板または合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面に、特定のTgを有する薄い樹脂皮膜を設けたので、3H以上の鉛筆硬度を有する耐疵付き性に優れた樹脂塗装鋼板を提供することができた。また、本発明の樹脂塗装鋼板は、各種工程において疵が付きにくいことから、不良品の発生が低減し、コストダウンにも寄与する。よって、本発明の樹脂塗装鋼板は、自動車、家電製品、建材等に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る樹脂塗装鋼板においては、原板(樹脂皮膜が形成される前の板)が冷延鋼板または合金化溶融亜鉛めっき鋼板(以下、両者を併せて原板ということがある)でなければならない。これらはビッカース硬度が大であり、この原板の硬さが耐疵付き性に影響を及ぼすことが本発明者等によって見出されたからである。従来多用されている溶融亜鉛めっき鋼板では亜鉛めっき層が軟らかいため、この上に、本発明の鋼板と同じ樹脂皮膜を形成しても、充分な耐疵付き性は得られない。このように、耐疵付き性と原板の硬度を考慮した上で、樹脂皮膜のTgと膜厚を原板の硬度に適したものとするような技術思想は本発明独自のものであり、この技術思想により3H以上の極めてハイレベルな耐疵付き性を達成することができた。なお、本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、亜鉛と鉄とを合金化しためっき層を有する鋼板(GA鋼板)のことである。
【0012】
冷延鋼板または合金化溶融亜鉛めっき鋼板の硬度は、ビッカース硬度で100Hv以上であることが好ましい。冷延鋼板の硬度は、少なくともFeのビッカース硬度よりも大きいと考えられるため、100Hv以上となる。合金化溶融亜鉛めっき鋼板の硬度は、めっき層が通常δ1相が主体であることから、δ1相のビッカース硬度とほぼ同じであると考えられ、284〜300Hvである。合金化溶融亜鉛めっき層の付着量は特に限定されないが、曲げ加工時のめっき層の剥離を防止するためには、50g/m2以下とすることが好ましく、40g/m2以下がより好ましい。原板の厚みは用途に応じて適宜決定すればよい。なお、原板の表面に凹凸を設けておくと疵が目立ちにくくなるため、本発明の好ましい実施態様である。
【0013】
樹脂皮膜の膜厚は、12μm以下とする。12μmを超えると、原板の硬さが皮膜特性に反映されず、鉛筆硬度が低下してしまうからである。より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは8μm以下である。膜厚の下限は特に限定されないが、耐食性や潤滑性を考慮すれば、膜厚を0.3μm以上にすることが好ましい。
【0014】
なお、樹脂皮膜のうち、原板側および/または皮膜表面側に、本発明のTgの規定範囲を満たさない樹脂皮膜(他の樹脂皮膜)が、厚み2μm以下であれば形成されていてもよい。例えば、12μmの樹脂皮膜であれば、そのうち10μmが本発明の規定範囲を満たす樹脂皮膜であればよい。2μm以下の他の樹脂皮膜が、本発明の規定範囲を満たす樹脂皮膜の下側および/または上側に形成されていても、本発明の効果が発現し、良好な耐疵付き性を示すからである。
【0015】
本発明では上記樹脂皮膜のTgを−10℃〜+32℃に設定する。本発明では、原板は応力が負荷されても塑性変形しない硬さを有し、樹脂皮膜は応力を分散・緩和させることのできる程度の軟らかさを有していることが、原板の硬さを耐疵付き性に反映させるために有効であるとの考え方で、Tgをこの範囲に設定した。従来は、耐疵付き性の改良のためには樹脂皮膜を硬くすることが有効であると考えられており、Tgの高い樹脂が利用されてきたが、樹脂のTgを上げていくと、塗装鋼板として必要な加工性が劣化してしまい、また、Tgを上げても耐疵付き性はそれほど向上しなかった。本発明では、上記考え方で、樹脂皮膜のTgを比較的低めに設定して、疵に至るような局部的な応力の集中を防いだことが、耐疵付き性の飛躍的な向上につながったものと推測される。
【0016】
ただし、樹脂皮膜のTgが−10℃より低いと、通常の使用環境下では樹脂皮膜が軟らかくなり過ぎて、逆に疵が発生し易くなるため好ましくない。樹脂皮膜のTgは、0℃以上がより好ましく、5℃以上がさらに好ましい。Tgが32℃を超えると鉛筆硬度が低下する傾向にあるため、Tgは32℃以下とする。Tgは25℃以下がより好ましく、19℃以下がさらに好ましい。
【0017】
樹脂皮膜のTgを測定するには、例えば、鋼板から樹脂皮膜を削り取って、示差走査熱量計(DSC)で、窒素雰囲気下、温度範囲−100℃〜180℃、昇温速度20℃/minで行えばよい。樹脂皮膜には、樹脂成分(樹脂+架橋剤の場合も有り得る)のほか、防錆剤、艶消し剤、充填剤、顔料等の公知の添加剤が含まれ得るが、Tgは分散された固体添加物の影響を受けないため、上記方法で樹脂皮膜のTgを測定することができる。
【0018】
樹脂皮膜を形成するために用いることのできる樹脂としては、樹脂皮膜のTgが上記範囲を満たせば特に限定されず、汎用の樹脂を用いることができる。例えば、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、およびこれら樹脂の混合物または変性した樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂の原料として用いると、得られる硬化塗膜は硬くなりすぎて変形能の小さいものとなってしまうので、本発明においては好ましくない。樹脂塗装鋼板には、曲げ加工性、皮膜密着性、耐食性等の特性が要求されることを考慮すると、有機溶剤可溶型(非晶性)のポリエステル樹脂が好ましい。
【0019】
有機溶剤可溶型のポリエステル樹脂としては、東洋紡績社製の「バイロン(登録商標)」シリーズが、豊富な種類のものを入手することができる点で好適である。ポリエステル樹脂は、メラミン樹脂等で架橋してもよい。メラミン樹脂としては、住友化学社製の「スミマール(登録商標)」シリーズや、三井サイテック社製の「サイメル(登録商標)」シリーズがある。なお、樹脂と架橋剤の比率は、加工性等と耐久性とのバランスの観点から、乾燥後の樹脂皮膜中に架橋剤(反応後)が5〜30質量%となるように配合することが好ましい。
【0020】
前記した東洋紡績社製のバイロン(登録商標)シリーズのTgを示せば以下の通りである。バイロン103(47℃)、バイロン200(67℃)、バイロン220(53℃)、バイロン226(65℃)、バイロン240(60℃)、バイロン245(60℃)、バイロン270(67℃)、バイロン280(68℃)、バイロン290(72℃)、バイロン296(71℃)、バイロン300(7℃)、バイロン500(4℃)、バイロン516(−17℃)、バイロン550(−15℃)、バイロン560(7℃)、バイロン600(47℃)、バイロン630(7℃)、バイロン650(10℃)、バイロンGK110(50℃)、バイロンGK130(15℃)、バイロンGK140(20℃)、バイロンGK150(20℃)、バイロンGK180(0℃)、バイロンGK190(11℃)、バイロンGK250(60℃)、バイロンGK330(16℃)、バイロンGK360(56℃)、バイロンGK590(15℃)、バイロンGK640(79℃)、バイロンGK680(10℃)、バイロンGK780(36℃)、バイロンGK810(46℃)、バイロンGK880(84℃)、バイロンGK890(17℃)、バイロンBX1001(−18℃)等が挙げられる。これらのTgは、ホームページに記載された温度である。また、これらの分子量(Mn)は3×103〜30×103の範囲である。
【0021】
本発明の樹脂皮膜には、導電性を付与するための導電性粒子が含まれていてもよい。導電性粒子としては、金属粒子か、無機または有機ポリマー粒子表面に金属等の導電性層を設けたもの等が挙げられる。金属粒子としては、磁性粉、ニッケル、リン化鉄等が、導電性、耐食性の観点から、好適に使用可能である。樹脂塗装鋼板に、さらに電磁波シールド性能を付与する必要性がある場合には、良好な導電性を有し、かつ、電磁波吸収性を兼備する磁性金属粉末を、導電性粒子として用いるとよい。このような磁性金属粉末としては、パーマロイ(Ni−Fe系合金でNi含有量が35質量%以上のもの)やセンダスト(Si−Al−Fe系合金)、カルボニル鉄等が好適である。導電性粒子の平均粒径は、大体3〜30μm程度が好ましい。なお、この平均粒径rは、レーザー回折法(散乱式)による50%体積平均粒子径である。
【0022】
本発明の樹脂塗装鋼板を製造するには、樹脂皮膜の原料組成物を調製し、これを前記原板に塗布・乾燥する方法を採用するのが好ましい。原料組成物は、樹脂、必要により添加される架橋剤等を、有機溶剤等で希釈して塗工に適した粘度にしたものを用いる。有機溶剤としては特に限定されないが、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類;シクロヘキサン等の脂環族炭化水素類;ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素類等;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類等が挙げられる。原料組成物の固形分濃度は5〜60質量%程度が好ましい。
【0023】
上記原料組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲で、艶消し剤、体質顔料、防錆剤、沈降防止剤、ワックス等、樹脂塗装鋼板分野で用いられる各種公知の添加剤を添加してもよい。また、カーボンブラック等の放熱性付与のための添加剤を添加してもよい。
【0024】
上記原料組成物を原板に塗布する方法は特に限定されず、バーコーター法、ロールコーター法、スプレー法、カーテンフローコーター法等が採用可能である。塗布後には乾燥を行うが、架橋剤添加系においては、架橋剤が反応し得る温度で加熱乾燥を行うことが好ましい。具体的には、100〜250℃で、1〜5分程度加熱乾燥を行うとよい。なお、冷延鋼板や合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、耐食性向上、樹脂皮膜との密着性向上等を目的として、予め、クロメート処理、ノンクロメート処理、リン酸塩処理等の公知の表面処理(下地処理)を施したものであってもよい。
【実施例】
【0025】
以下実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更実施は本発明に含まれる。なお以下特にことわりのない場合、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ示すものとする。
【0026】
〔原板〕
用いた原板とその略称を以下に示す。なお、めっきは金属板の両面に行った。またこれらの原板は、日本パーカライジング社製「CTE−213」で、下地処理を施したものである。乾燥温度は到達板温で100℃とし、1分間乾燥した。付着量は100mg/m2であった。
GA:合金化溶融亜鉛めっき鋼板…板厚;0.5mm、めっき付着量;片面40g/m2ずつ、めっき中のFe量;8.6%
CR:冷延鋼板…板厚0.5mm
EG:電気亜鉛めっき鋼板…板厚;0.5mm、めっき付着量;片面20g/m2ずつ
GI:溶融亜鉛めっき鋼板…板厚;0.5mm、めっき付着量;片面40g/m2ずつ
【0027】
〔樹脂〕
東洋紡績社製の有機溶剤可溶型ポリエステル樹脂バイロン(登録商標)シリーズを用いた。用いた種類とTgを示す。なお、所定のTgにするために2種以上のポリエステルをブレンドして用いた。
【0028】
バイロンBX1001(Tg:−18℃)、バイロンGK180(Tg:0℃)、バイロン500(Tg:4℃)、バイロンGK680(Tg:10℃)、バイロンGK590(Tg:15℃)、バイロンGK140(Tg:20℃)、バイロンGK780(Tg:36℃)、バイロンGK840(Tg:46℃)、バイロンGK360(Tg:56℃)、バイロンGK250(Tg:60℃)、バイロン200(Tg:67℃)、バイロン296(Tg:71℃)
【0029】
〔架橋剤〕
メラミン樹脂(「スミマール(登録商標)M−40ST」:住友化学社製)を用いた。
【0030】
〔導電性粒子〕
ニッケル粉(日興リカ社製「CNS−10」;平均粒径6.3μm;表ではNiと省略)と、Fe−Ni合金磁性粉(三菱製鋼製パーマロイ:78Ni−1Mo−FP;平均粒径7.6μm;表ではFe−Niと省略)を用いた。なお、これらの平均粒径は、Leeds&Northrup社製のマイクロトラックFRA9220を用いて、レーザー回折法(散乱式)により測定した50%体積平均粒子径である。
【0031】
〔放熱性付与剤〕
カーボンブラック(三菱化学社製「三菱カーボンブラックMA100」;平均粒径24nm)を用いた。表ではCBと省略した。
【0032】
〔樹脂皮膜用原料組成物の調製〕
ポリエステル樹脂と上記架橋剤(固形分80%)を、塗膜固形分100%中、ポリエステル樹脂が80%、架橋剤(ドライ)が20%となるように両者を混合した。原料組成物の固形分濃度が10〜30%となるように、キシレン/シクロヘキサノン混合溶剤(キシレン:シクロヘキサノン=1:1)で希釈して、ハンドホモジナイザで10000rpmで10分撹拌し、原料組成物を調製した。なお、実験4では、導電性粒子および/またはカーボンブラックを添加した原料組成物を用いた。表中の添加量(%)は、上記ポリエステル樹脂と架橋剤(ドライ)と添加剤との合計100質量%に対する百分率である。
【0033】
〔樹脂塗装鋼板の作製〕
樹脂皮膜用原料組成物を、表に示した膜厚となるように、各種原板にバーコーターで塗工し、熱風乾燥炉内にて到達板温230℃で2分間焼き付けして、樹脂塗装鋼板を作製した。付着量はバーコーターの番手を変えることにより調整した。表の樹脂皮膜の厚みは、付着量と樹脂の比重から算出した値である。
【0034】
〔Tgの測定〕
JIS K 7121に基づき、示差走査熱量計(商品名:Thermo Plus DSC8230:リガク社製)を用いて測定した。具体的には、上記のようにして作製した樹脂塗装鋼板から、カッターナイフで樹脂皮膜を削り取り、サンプルを採取した。このサンプルを示差走査熱量計にセットし、−100℃に冷却し、安定したところで、20℃/分の速さで、180℃まで昇温し、得られたDSC曲線からガラス転移温度(Tg)を求めた。
【0035】
〔耐疵付き性(鉛筆硬度)〕
JIS K5600−5−4に準拠した鉛筆硬度試験を行った。判定基準は以下の通りとした。
◎:4H以上の鉛筆で疵付きなし
○:4Hでは疵付き有り、3Hでは疵なし
△:3Hでは疵付き有り、2Hでは疵なし
×:疵なしとなるのがH以下
【0036】
実験1
樹脂皮膜のTgと耐疵付き性を検討した。原板は、表1では合金化溶融亜鉛めっき鋼板、表2では冷延鋼板である。結果を表1および2に示した。樹脂皮膜のTgが−10℃〜+32℃の範囲にあれば、耐疵付き性が優れていることがわかる。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
実験2
樹脂皮膜の膜厚が、本発明の規定範囲を超える例について検討した(表3)。Tgが本発明の規定範囲内でも、膜厚が13μmになると、耐疵付き性が低下してくることがわかる。
【0040】
【表3】

【0041】
実験3
導電性粒子および/またはカーボンブラックを添加した場合の耐疵付き性について検討した。表4にその結果を示した。樹脂皮膜のTgが本発明の範囲外の場合は、耐疵付き性が低下した。
【0042】
【表4】

【0043】
実験4
原板が、本発明の規定外の電気亜鉛めっき鋼板(EG)と溶融亜鉛めっき鋼板(GI)の場合の耐疵付き性について検討した。結果を表5に示した。原板の硬度不足により、耐疵付き性が劣っていた。
【0044】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の樹脂塗装鋼板は、自動車、家電製品、家具、建材等に用いることができ、これらの分野以外にも、高いレベルの耐疵付き性が要求される用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷延鋼板または合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面に厚さ12μm以下の樹脂皮膜が形成されており、該皮膜のTgが−10℃〜32℃であることを特徴とする耐疵付き性に優れた樹脂塗装鋼板。
【請求項2】
樹脂皮膜が有機溶剤可溶型ポリエステル樹脂を含む原料組成物から得られるものである請求項1に記載の樹脂塗装鋼板。
【請求項3】
上記原料組成物には、メラミン系架橋剤が含まれている請求項1または2に記載の樹脂塗装鋼板。









【公開番号】特開2009−202487(P2009−202487A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48516(P2008−48516)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】