説明

耐白錆性に優れたノンクロメート化成処理電気Znめっき鋼板

【課題】耐白錆性に優れたノンクロメート化成処理電気Znめっき鋼板を提供する。
【解決手段】ノンクロメート化成処理電気Znめっき鋼板10は、電気Znめっき層2の上にノンクロメート化成処理皮膜3を有しており、電気Znめっき層2とノンクロメート化成処理皮膜3との界面から電気Znめっき層2の深さ方向0.04μmの範囲に含まれるNiは、原子換算で500質量ppm以下に抑制されている、耐白錆性に優れたノンクロメート化成処理電気亜鉛めっき鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐白錆性に優れたノンクロメート化成処理電気Znめっき鋼板に関するものである。本発明の電気Znめっき鋼板は、例えば、家電製品、自動車部品、建材用途などの分野に用いられ、特に、家電やOA機器等のシャーシやケース部品、鋼製家具などのように、主として屋内で使用される用途に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
電気Znめっき鋼板は、ユーザーからの塗装省略の要請によって無塗装で使用されることが多いため、鋼板に対して犠牲防食作用を示すZn自身の錆である白錆の発生が問題になっている。そこで、従来は、耐白錆性向上の目的で、電気Znめっき層の上にクロメート化成処理を施したクロメート化成処理電気Znめっき鋼板が汎用されてきた。しかしながら、近年、地球環境問題および有害物質使用規制の観点から、6価クロム(Cr)を実質的に含まないノンクロメート化成処理を施したノンクロメート化成処理電気Znめっき鋼板の開発が活発に行なわれており、ノンクロメート化成処理電気Znめっき鋼板における白錆発生を防止するための検討が進められている。
【0003】
ところで、電気Znめっき層には、通常、ニッケル(Ni)が微量ではあるが含まれている。実生産において、Niは、電気Znめっき鋼板の製造過程などでめっき層中に不可避的に混入し得る不可避不純物元素だからである。詳細には、Niは、例えば、ハステロイのようなNi合金を使用したコンダクターロールの溶解や、電気Znめっき鋼板からZn―Ni合金めっき鋼板への製造切替時におけるZn−Niめっき液の混入などにより、電気Znめっき層中に含まれるようになる。
【0004】
特許文献1〜3には、Niの添加量を制御してノンクロメート化成処理電気Znめっき鋼板の耐白錆性を高める技術が提案されている。
【0005】
このうち特許文献1には、主に、黒変現象を抑制するため、電気Znめっき層全体のNi量を50〜700ppmの範囲内に制御する方法が記載されている。黒変は、白錆が発生する前の、塩素イオンが存在する湿潤環境の初期段階に見られる腐食現象であり、比較的穏やかな腐食環境下で発生する。黒錆の原因物質は、Znの酸化反応(腐食反応)の際に生成する「Zn1−x」という化学量論組成から外れた不定形酸化物であり、黒変は、Znの酸化反応が中途半端で終了するために生じるといわれている。そこで、特許文献1では、Znの酸化反応を、白錆の発生を招かない限度で適度に促進させる目的で、Znよりも若干貴な元素であるNiなどを所定量添加している。
【0006】
特許文献2には、ノンクロメート化成処理皮膜と電気Znめっき層との界面に形成される反応層に着目し、この反応層の耐アルカリ性を高めればアルカリ脱脂後の耐食性(耐白錆性)も向上するという知見に基づいてなされたものである。具体的には、めっき表面より深さ方向へ1μm以内のめっき表層部に含まれるNiなどの合計量を50〜3000mg/mの範囲に制御することによって耐白錆性の向上を図っている。
【0007】
特許文献3は、特許文献2の出願後に特許文献2と同じ出願人によって提案されたものである。特許文献3では、「特許文献2のようにNiなどを含有する層が厚すぎると、ノンクロメート化成処理皮膜と電気Znめっき層との密着性が低下し、プレス加工を受けた場合に化成処理皮膜の一部が欠落して良好な耐白錆性が得られない」という知見に基づき、めっき表面より50nm以内の範囲に、金属NiではなくNiなどの酸化物を所定量共存させることによって耐白錆性の向上を図っている。
【特許文献1】特開2000−355790号公報
【特許文献2】特開2004−263252号公報
【特許文献3】特開2006−265578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、耐白錆性に優れたノンクロメート化成処理電気Znめっき鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決することのできた本発明の電気Znめっき鋼板は、電気Znめっき層の上にノンクロメート化成処理皮膜を有するノンクロメート化成処理電気Znめっき鋼板であって、前記電気Znめっき層と前記ノンクロメート化成処理皮膜との界面から前記電気Znめっき層の深さ方向0.04μmの範囲に含まれるNiは、原子換算で500ppm以下(ppmは質量ppmの意味、以下、同じ。)に抑制されているところに要旨を有している。
【0010】
好ましい実施形態において、前記電気Znめっき層中のNiは、原子換算で1000ppm以下に抑制されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電気Znめっき鋼板は、上記のように構成されているので、ノンクロメート処理鋼板の耐白錆性が大幅に改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者は、ノンクロメート化成処理電気Znめっき鋼板の耐白錆性を高めるため、電気Znめっき層中に不可避的に含まれ得る元素のなかでも、特に、Niに着目して検討を行なってきた。その結果、
(ア)上記の特許文献1に教示されるように電気Znめっき層全体のNi量を制御するだけでは白錆の発生を充分抑えることができず、特許文献2に教示されるように、ノンクロメート化成処理皮膜と電気Znめっき層との界面に存在するNi量を制御する必要があること、
(イ)特に、耐白錆性向上に大きな影響を及ぼすのは、電気Znめっき層の最表面部分(詳細には、界面からめっき層側に向けて約0.04μmの範囲内の領域)であり、特許文献2のようにめっき層の表面部分(界面からめっき層側に向けて約1μmの範囲)のNi量を制御するだけでは不充分であり、耐白錆性向上効果にバラツキが見られること、
(ウ)上記(イ)のようにめっき層の最表面部分のNi量を適切に制御するためには、特に、めっき液の温度を、通常の範囲(一般に、50〜60℃で行なわれる)よりも低めに設定することが必要であること、を見出し、本発明を完成した。
【0013】
上記について、もう少し詳しく説明する。
【0014】
前述したように、電気Znめっき層には、ノンクロメート化成処理電気Znめっき鋼板の製造過程で、不可避的にNiが含まれている。ここで、電気Znめっき層中のNiは、めっき層全体に均一に分布しているのではなく、めっき層表面側(ノンクロメート化成処理皮膜と接する界面の側)に多く存在しており、特に、本発明で規定する「最表面領域」(界面からめっき層側に向けて約0.04μmの範囲内の領域)には、殆どのNiが金属状態で存在する「Ni濃化層」が見られる(後記する図4を参照)。これは、電気Znめっき層中のZnと、めっき層やめっき液中に微量に存在するNiとの置換反応により、Znが選択的に溶解され、NiがZnと置換して金属Niとして析出(置換析出)するためと考えられる。Niの置換析出によって生じる「Ni濃化層」は、上記の「最表面領域」で見られ、特許文献2に規定する界面活性剤から約1μm付近の「表面領域」では見られなくなる。従って、優れた耐白錆性を確保するためには、Ni濃化層が観察される「最表面領域」の金属Ni量を制御することが重要である、という考えに基づき、本発明に到達した次第である。
【0015】
すなわち、本発明者の検討結果によれば、特許文献2に規定する「表面領域」の金属Ni量と耐白錆性とは、必ずしも高い相関関係が認められず、上記「表面領域」のNi量を制御しても耐白錆性が低下する場合があるなど、特性のばらつきが見られた。これに対し、特許文献2よりももっと界面側の「最表面領域」に存在する金属Ni量は、耐白錆性との間に高い相関関係が見られ、極めて良好な評価指標となり得ることを突き止めた。
【0016】
一方、特許文献3でも、本発明とほぼ同様の「最表面領域」(特許文献3では、界面から0.05μm以内の領域)に着目して耐白錆性の改善を図っている。しかしながら、特許文献3では、上記の「最表面領域」に、もともとは殆ど存在しないNi酸化物を特別なめっき処理(硝酸イオンと硫酸イオンを所定比率で含有するめっき液を使用)によって析出させて耐白錆性の改善を図っている点で、このような特別なめっき処理を行わず、「最表面領域」に極めて多く存在する金属Niの量を制御して耐白錆性の改善を図る本発明とは、手段が相違している。特許文献3では、Niの酸化物に留意しているのみで、本発明のように金属Niについて全く留意しておらず、「最表面領域」に存在する金属Ni量が耐白錆性にどのような影響を及ぼすかについての実験を全く行なっていない。
【0017】
本明細書では、説明の便宜上、「電気Znめっき層」を「Znめっき層」または「めっき層」と略記する場合がある。また、ノンクロメート化成処理電気Znめっき鋼板を「ノンクロメート電気Znめっき鋼板」または「ノンクロ電気Znめっき鋼板」と略記し、ノンクロメート化成処理皮膜を「ノンクロメート皮膜」または「ノンクロ皮膜」と略記する場合がある。また、特許文献2に記載の「界面から約1μm深さの表面層」と区別するため、「界面からめっき層の深さ方向約0.04μmの範囲内の領域」を、特に「最表面層」または「最表面領域」と呼ぶ場合がある。
【0018】
以下、図1および図2を参照しながら、本発明に係るノンクロメート化成処理電気Znめっき鋼板の実施形態を詳しく説明する。
【0019】
図1の全体断面図に示すように、本発明のノンクロメート化成処理電気Znめっき鋼板10は、鋼板1の上に電気Znめっき層2およびノンクロメート化成処理皮膜3が順次施されている。電気Znめっき層2とノンクロメート化成処理皮膜3との界面4を拡大した図2の部分断面図に示すように、界面4から電気Znめっき層2の深さ方向0.04μmの範囲に含まれる領域(図2中、A)に含まれる金属Niは、500ppm以下に抑制されている。
【0020】
図3および図4は、後記する実施例の表1のNo.10(本発明例)およびNo.24(比較例)について、電気Znめっき層のNi量の分布(深さ方向プロファイル)を示すグラフである。図3は、深さ1μmまでのNi量プロファイルを示しており、図4は、図3において、深さ0.1μmまでのNi量プロファイルを拡大して示したものである。図3および図4には、それぞれ、No.10およびNo.24の「1μm深さまでのNi量(平均値)」(図3)および「0.04μm深さまでのNi量(平均値)」(図4)の数値を併記している。
【0021】
これらの図より、No.10(本発明例)およびNo.24(比較例)の最表面領域は、いずれも、界面から約0.01μm付近にNi濃度のピークを有する「Ni濃化層」を有することが分かる。また、No.10およびNo.24の最表面層のNi量および耐食性の結果は、表1に示すとおりであり、界面から0.04μm深さまでの最表面層のNi量が1598ppmと、本発明の上限(500ppm)を遙かに超えるNo.24では、耐白錆性の低下が見られたのに対し、最表面層のNi量が386ppmと、本発明の範囲内に制御されたNo.10は、耐白錆性に優れている。
【0022】
このように本発明では、界面から約0.04μm以内に存在する最表面層の金属Ni量を500ppm以下に抑制したところに特徴がある。本発明において、最表面層のNiは、殆どが金属Niとして存在し、酸化物などの形態で存在することもあり得るが、Niの存在形態にかかわらず最表面層の金属Ni量を制御した次第である。なお、前述した特許文献3では、耐白錆性の向上に有用なNi酸化物を上記の「最表面層」内に析出させるために、硝酸イオンと硫酸イオンを所定比率で存在する酸性めっき液中でめっきを行うことが必要であるが、本発明ではこのような特別な処理は不要であり、めっき温度を適切に調整するだけで、耐白錆性に極めて有用な金属Ni量を制御できる点で、特許文献3に比べてより簡易な耐白錆性向上技術であると位置づけられる。
【0023】
本発明において、界面から約0.04μmの最表面層に含まれるNiの量は、少なければ少ない方が良く、これにより、耐白錆性の向上効果が高められる。最表面層中のNi量は、特に、めっき液の組成や製造ラインなどによる影響を大きく受けるため、所望とする効果が得られるように、これらを適切に制御すれば良いが、おおむね、200ppm以下にすることが好ましい。ただし、前述した特許文献1に示すようにNiは耐黒変防止向上に有用な元素であるから、耐黒変性の向上も図る場合には、最表面層に含まれるNiの量を、おおむね、50ppm以上とすることが好ましい。
【0024】
本発明において、界面から約0.04μmの最表面層に含まれるNi量の測定は、高周波グロー放電発光分光分析装置(GD−OES:Glow Discharge Optical Emission Spectroscopy)を用いて行なった。GD―OES分析は、試料の表面(上層)から、高周波スパッタによって試料を削りながら深さ方向の元素を分析する手法である。具体的には、後記する実施例の欄に詳述するように、ノンクロメート化成処理前の電気Znめっき鋼板を50mm×50mmのサイズに切断した分析用試料を用意し、上記試料のZnめっき表面をArグロー放電領域内で高周波スパッタリングし、スパッタされるNi元素のArプラズマ内における発光線を連続的に分光することにより、界面からZnめっき層深さ方向のNi量分布を測定した。0.04μm深さまでのNi量の合計を0.04μmで除した値(平均値)を「最表面層の金属Ni量」とした。実施例では、リガク製グロー放電発光表面分析装置(GDA750、JY−5000 RF)を用い、以下の条件で分析を行なった。
Arガス圧:2.5hPa、電力30W、周波数50Hz、
デューティーサイクル0.2
【0025】
本発明では、電気Znめっき層中のNiは、原子換算で、1000ppm以下に抑制されていることが好ましい。前述した特許文献1では、耐白錆性向上の目的で、電気Znめっき層中のNi量を低く抑えているが、本発明では、主に、最表面層のNi量を本発明の範囲内に制御するための手段として、Znめっき層のNi量を調整している。Znめっき層のNi量が多すぎると、最表面層のNi量の含有量制御が困難になるほか、めっき層の硬度が上昇してめっき層とノンクロメート化成処理皮膜との密着性が低下するなどの不具合も生じるようになる。また、後記する実施例の欄に示すように、電気Znめっき層中のNi量を低く抑えたとしても、最表面層のNi量が多いと、所望とする耐白錆性を確保することが出来ないことも判明した。以上の観点に基づき、本発明では、めっき層中の好ましいNi量を制御した次第である。
【0026】
なお、電気Znめっき層中のNiの形態は、特に限定されず、前述した最表面層のNiのように金属として存在しても良いし、酸化物などの形態で存在していても良い。本発明では、Niの存在形態にかかわらず、めっき層中のNiが、原子換算で、1000ppm以下に抑制されていれば良い。
【0027】
電気Znめっき層中のNiは、できるだけ少ない方が良く、これにより、最表面層のNi量も、概して、容易に低く抑えることができるようになる。詳細には、めっき液温などのめっき条件によっても相違するが、おおむね、500ppm以下であることが好ましく、200ppm以下であることがより好ましい。
【0028】
電気Znめっき層中に含まれるNiの量は、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP)又は誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)などの方法を用いて分析することができる。分析に当たっては、めっき液中に含まれるZn,Na,S等のマトリックス元素による測定誤差をなくすため、塩酸などを用いてめっき層を希釈してから実施することが好ましい。希釈倍率は、マトリックス元素の濃度や測定対象であるNiの添加量などに応じて、適宜適切な範囲に制御すれば良い。
【0029】
後記する実施例では、2倍希釈した塩酸によりめっき層を希釈してから、めっき層中のNi量を分析している。詳細には、ノンクロメート化成処理電気Znめっき鋼板を50mm×50mmのサイズに切断した分析用試料を用意し、これを2倍に希釈した塩酸液中に入れ、Znの溶解反応が終了するまで浸漬し、浸漬液(1)を得た。本実施例では、いったん溶解したNiが、基材である鋼板表面へ置換析出することによる測定誤差をなくすため、Znの溶解反応終了後、素早く(おおむね、10秒以内)上記の試料を引き上げ、再度、新しく調製した塩酸液(2倍希釈液)に30秒間浸漬し、浸漬液(2)を得た。その後、上記のようにして得られた浸漬液(1)および(2)を併せて定容した後、ICP−MS分析装置(VGI社製PLASMAQUAD型)またはICP分析装置(島津製作所製ICPV−1000)を用い、Niの量を分析した。本実施例では、後者のICP分析装置を用いて分析を行なった。
【0030】
電気Znめっき層2において、めっき付着量は、おおむね、3g/m以上であることが好ましく、これにより、めっきままの状態でも良好な耐食性(特に、耐白錆性)が得られる。耐食性の観点から言えば、めっき付着量は多い程良いが、100g/mを超えると耐食性向上効果が飽和し、経済的に無駄であるため、上限は、おおむね、100g/mであることが好ましい。めっき付着量の好ましい下限は5g/mである。また、好ましい上限は60g/mであり、より好ましい上限は40g/mである。
【0031】
電気Znめっき層2は、基材である鋼板1の所定面に少なくとも設けられていればよく、鋼板1の片面のみに設けられていても良いし、両面に設けられていてもよい。
【0032】
めっき層2の上に被覆されるノンクロメート化成処理皮膜は、Crを実質的に含有していない。ここで、「実質的に含有しない」とは、ノンクロメート皮膜の作製過程で不可避的に混入する程度のCr量は許容し得るという意味である。例えば、本発明では、ノンクロ皮膜に用いられる処理液の調製および塗布の過程で、製造容器、塗布装置などから微量のCr化合物が溶出するような場合、上記皮膜中にCrが混入する可能性がある。このような場合であっても、ノンクロ皮膜中に含まれるCrの量は、おおむね、0.01質量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0033】
ノンクロメート化成処理皮膜3としては、ノンクロメート化成処理電気Znめっき鋼板に通常用いられる皮膜を用いることができ、(1)有機系樹脂を主体とする有機系皮膜、および(2)無機物を主体とする無機系皮膜のいずれも用いることができる。ノンクロメート化成処理皮膜の構成は、本発明の特徴部分ではないからである。
【0034】
以下、これらの皮膜について、詳しく説明する。
【0035】
(1)有機系樹脂を主体とする有機系のノンクロ皮膜
上記の有機系皮膜としては、代表的には、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−アクリル酸共重合体などのオレフィン系樹脂、ポリスチレンなどのスチレン系樹脂、エチレン性不飽和カルボン酸を重合成分として含むエチレン共重合体樹脂のほか、ポリビニル系樹脂,ポリアミド系樹脂,フッ素系樹脂などが挙げられる。また、上記の有機系樹脂のほかに、タンニン酸などのポリフェノール化合物を含有する有機系皮膜を用いることもできる。これらの有機系皮膜は、無塗装使用の電気Znめっき鋼板において特に要求される特性、例えば、耐食性、耐指紋目立ち性、耐疵付き性、導電性等の要求特性を満足させるのに好適である。
【0036】
上述した有機系皮膜は、耐食性、潤滑性、耐疵付き性、加工性、溶接性、電着塗装性、めっき層との密着性などの品質向上を目的として、必要により、シリカなどの各種酸化物粒子や各種りん酸塩などの無機顔料、固体潤滑剤、架橋剤などを含有してもよい。また、ワックス粒子、有機シラン化合物、ナフテン酸塩等を含んでいてもよい。
【0037】
上記の有機系ノンクロ皮膜のなかでも、(a)カルボキシル基含有樹脂の樹脂成分、および(b)Si系無機化合物(代表的には、コロイダルシリカ)を含有している皮膜(以下、特に「樹脂皮膜」と呼ぶ場合がある。)を用いることが好ましい。上記の樹脂皮膜を用いることにより、本発明鋼板による効果(最表面層中のNi量制御による耐白錆性向上効果)が一層有効に発揮され、耐白錆性が著しく向上するほか、耐アルカリ脱脂性や塗装性なども向上するようになる(後記する実施例2をご参照)。この樹脂皮膜については、例えば、特開平2006−43914号公報などに詳しく記載されているが、その概要を説明する。
【0038】
(a)カルボキシル基含有樹脂の樹脂成分
まず、カルボキシル基含有樹脂は、カルボキシル基を有していれば特に限定されず、例えば、不飽和カルボン酸等のカルボキシル基を有する単量体を原料の一部または全部として重合により合成されるポリマー、または、官能基反応を利用してカルボン酸変性された樹脂などが挙げられる。
【0039】
カルボキシル基含有樹脂は、市販品を用いても良く、例えば、ハイテックS3141(東邦化学製)などが挙げられる。樹脂成分は、カルボキシル基含有樹脂以外の有機樹脂を含んでいてもよい。
【0040】
(b)Si系無機化合物
Si系無機化合物としては、例えば、ケイ酸塩および/またはシリカが挙げられる。これらは単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0041】
このうち、ケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムなどが挙げられる。
【0042】
シリカとしては、代表的には、コロイダルシリカ、鱗片状シリカなどが挙げられる。そのほか、粉砕シリカ、気相法シリカ、シリカゾルやヒュームドシリカなどの乾式シリカなどを用いても良い。
【0043】
このうち、特に、コロイダルシリカの使用が好ましい。これにより、樹脂皮膜の強度が高められるほか、腐食環境下では皮膜の疵部にシリカが濃化し、Znの腐食が抑制されて耐食性が一層高められる。コロイダルシリカは、市販品を用いてもよく、例えば、日産化学工業(株)製のスノーテックスシリーズ「ST−40」、「ST−XS」、「ST−N」、「ST−20L」、「ST−UP」、「ST−ZL」、「ST−SS」、「ST−O」、「ST−AK」などが挙げられる。
【0044】
樹脂皮膜を構成する(a)樹脂成分と(b)Si系無機化合物(代表的には、コロイダルシリカ)の質量比率は、おおむね、(a)樹脂成分:(b)Si系無機化合物=5部〜45部:55部〜95部の範囲内であることが好ましい。樹脂成分の含有量が少ないと、耐食性、耐アルカリ脱脂性、塗装性などが低下する傾向にあり、一方、樹脂成分の含有量が多いと、耐アブレージョン性、導電性などが低下するようになる。また、Si系無機化合物の含有量が少ないと、耐アブレージョン性、導電性などが低下する傾向にあり、Si系無機化合物の含有量が多いと、樹脂成分が少なくなるために樹脂皮膜の造膜性が低下し、耐食性が低下するようになる。
【0045】
上記の樹脂皮膜は、更に、シランカップリング剤を含有しても良い。シランカップリング剤の添加により、前述したカルボキシル基含有樹脂とSi系無機化合物との結合が強固になるため、耐白錆性が一層向上するようになる。
【0046】
シランカップリング剤は、例えば、炭素数1〜5のアルキル基、アリル基、アリール基などの低級アルコキシ基を有するものが好ましい。具体的には、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシメチルジメトキシシランなどのグリシドキシ基含有シランカップリング剤;γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシランなどのアミノ基含有シランカップリング剤;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シランなどのビニル基含有シランカップリング剤;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのメタクリロキシ基含有シランカップリング剤;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランなどのメルカプト基含有シランカップリング剤;γ−クロロプロピルメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシランなどのハロゲン基含有シランカップリング剤などが挙げられる。これらのシランカップリング剤は、単独で用いも良いし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
上記のうち、グリシドキシ基含有シランカップリング剤は、特に反応性が高く、耐食性および耐アルカリ性に優れているため、好ましく用いられる。
【0048】
シランカップリング剤は、市販品を用いても良く、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン「KBM403」(信越化学社製)などが挙げられる。
【0049】
シランカップリング剤の含有量は、樹脂成分とSi系無機化合物の合計100質量部に対し、おおむね、5質量部以上25質量部以下の範囲であることが好ましい。シランカップリング剤の含有量が少ないと、耐白錆性改善作用が有効に発揮されないほか、前述したカルボキシル基含有樹脂とSi系無機化合物との反応性が低下し、耐アブレージョン性、塗装性などが低下する。一方、シランカップリング剤の含有量が多いと、樹脂皮膜の作製に用いられる皮膜調製液の安定性が低下し、ゲル化する恐れがある。また、反応に寄与しないシランカップリング剤の量が多くなるため、Znめっき層とノンクロ皮膜との密着性が低下する恐れがある。
【0050】
以下、上記樹皮膜の代表例であるウレタン樹脂改良皮膜の構成および調製方法を、本願出願人によって開示された特開2006−43913号公報の記載(例えば、段落[0020]〜[0071]を参照)に基づき、簡単に説明する。ただし、本発明に用いられる樹脂皮膜は、これに限定する趣旨ではない。
【0051】
樹脂皮膜は、以下の樹脂水性液から得られる。樹脂水性液は、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液とエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液とを不揮発性樹脂成分として5〜45質量部、及び、平均粒子径が4〜20nmのシリカ粒子55〜95質量部を合計で100質量部含有し、合計100質量部に対して、さらにシランカップリング剤を5〜25質量部の比率で含有するとともに、ポリウレタン樹脂水性液の不揮発性樹脂成分(PU)とエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液の不揮発性樹脂成分(EC)との配合比率が質量比でPU:EC=9:1〜2:1である。
【0052】
まず、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液について説明する。
【0053】
カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液としては、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂が水性媒体中に分散した水性分散液、或いは、前記カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂が水性媒体に溶解した水溶液のいずれも使用することができる。前記水性媒体には、水の他、アルコール、N−メチルピロリドン、アセトンなどの親水性の溶媒が微量含まれていても良い。
【0054】
前記カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂は、ウレタンプレポリマーを鎖延長剤で鎖延長反応して得られるものであることが好ましく、前記ウレタンプレポリマーは、例えば、後述するポリイソシアネート成分とポリオール成分とを反応させて得られる。
【0055】
前記ウレタンプレポリマーを構成するポリイソシアネート成分としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)およびジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)よりなる群から選択される少なくとも1種のポリイソシアネートを使用することが好ましい。ここで、ウレタンプレポリマーを構成するポリオール成分としては、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエーテルポリオール、及び、カルボキシル基を有するポリオールの3種類の全てのポリオールを使用し、好ましくは、3種類全てをジオールとする。また、ポリエーテルポリオールは、分子鎖にヒドロキシル基を少なくとも2以上有し、主骨格がアルキレンオキサイド単位によって構成されているものであれば特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコールなどが挙げられる。
【0056】
また、上述したウレタンプレポリマーを鎖延長反応する鎖延長剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリアミン、低分子量のポリオール、アルカノールアミンなどを挙げることができる。
【0057】
カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の水性液の作製は、公知の方法を採用することができ、例えば、カルボキシル基含有ウレタンプレポリマーのカルボキシル基を塩基で中和して、水性媒体中に乳化分散して鎖延長反応させる方法、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂を乳化剤の存在下で、高せん断力で乳化分散して鎖延長反応させる方法などがある。
【0058】
次に、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液について説明する。
【0059】
エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液は、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体が水性媒体中に分散した液であれば、特に限定されず、上記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、エチレンとエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体である。不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられ、これらのうちの1種以上と、エチレンとを、公知の高温高圧重合法等で重合することにより、共重合体を得ることができる。
【0060】
上記のエチレン−不飽和カルボン酸共重合体はカルボキシル基を有しており、このカルボキシル基を有機塩基(例えば、沸点100℃以下のアミン)や、Naなどの1価の金属イオンで中和することにより、水性分散液とすることができる。
【0061】
ここで、1価の金属イオンは、上記のように中和のために用いられるが、耐溶剤性や皮膜硬度の向上に効果的である。1価の金属の化合物としては、ナトリウム、カリウム、リチウムから選ばれる1種または2種以上の金属を含むことが好ましく、これらの金属の水酸化物、炭酸化物または酸化物が好ましい。中でも、NaOH、KOH、LiOH等が好ましく、NaOHが最も性能が良く好ましい。本発明は、このNaOHに由来するしみ汚れ現象を改善するものである。
【0062】
1価の金属の化合物の量は、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体中のカルボキシル基1モルに対して、0.02〜0.4モル(2〜40モル%)の範囲とすることが好ましい。上記金属化合物量が0.02モルより少ないと乳化安定性が不充分となるが、0.4モルを超えると、得られる樹脂皮膜の吸湿性(特にアルカリ性溶液に対して)が増大し、脱脂工程後の耐食性が劣化するため好ましくない。より好ましい金属化合物量の下限は0.03モル、さらに好ましい下限は0.1モルであり、より好ましい金属化合物量の上限は0.2モルである。
【0063】
前述した有機塩基(好ましくは、沸点100℃以下のアミン)と1価の金属化合物の合計量(中和量)が多すぎると、水性分散液の粘度が急激に上昇して固化することがある上に、過剰なアルカリ分は耐食性劣化の原因となるため、揮発させるために多大なエネルギーが必要となるため好ましくない。しかし、中和量が少なすぎると乳化性に劣るため、やはり好ましくない。従って、有機塩基と1価の金属化合物の合計使用量は、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体中のカルボキシル基1モルに対し、0.3〜1.0モルの範囲とすることが好ましい。
【0064】
上記のエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液は、有機塩基と1価の金属イオンとを併用して乳化することにより、平均粒子径が5〜50nmという極めて小さな微粒子(油滴)状態で水性媒体中に分散したものが得られる。このため、得られる樹脂皮膜の造膜性、金属板への密着性、皮膜の緻密化が達成され、耐食性が向上するものと推定される。上記水性媒体には、水の他に、アルコールやエーテル等の親水性溶媒が含まれていても良い。なお、上記水性分散液の樹脂粒子の粒子径は、例えば光散乱光度計(大塚電子社製等)を用いたレーザー回折法によって測定することができる。
【0065】
エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液の調製方法としては、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体を水性媒体と共に、例えば、ホモジナイザー装置等に投入し、必要により70〜250℃の加熱下とし、沸点100℃以下のアミンなどの有機塩基と1価の金属の化合物を適宜水溶液等の形態で添加して(沸点100℃以下のアミンを先に添加するか、沸点100℃以下のアミンと1価の金属の化合物とを略同時に添加する)、高剪断力で撹拌する。
【0066】
次いで、前述した方法によって得られたカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液およびエチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液を、シリカ粒子およびシランカップリング剤と所定量配合し、必要に応じて、ワックス、架橋剤などを配合して所望の樹脂水性液を得る。シリカ粒子、シランカップリング剤、ワックス、及び、架橋剤等はいずれの段階で添加してもよいが、架橋剤及びシランカップリング剤添加後は架橋反応が進行してゲル化しないように、熱を掛けないようにすることが望ましい。
【0067】
以上、本発明に好適に用いられる有機系ノンクロ皮膜(樹脂皮膜)について説明した。
【0068】
(2)無機物を主体とする無機系のノンクロ皮膜
本発明に用いられる無機系皮膜としては、代表的には、りん酸亜鉛、りん酸鉄、りん酸マンガン、りん酸カルシウム、りん酸マグネシウムなどのようなりん酸塩を主体とする皮膜;ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムなどのようなケイ酸塩を主体とする皮膜などが挙げられる。あるいは、モリブデン酸、バナジン酸などの通常用いられる無機系皮膜を用いることもできる。このうち、ケイ酸塩を主体とする無機系皮膜は、特に、プレス加工で強く摺動を受ける用途などに好適に用いられる。
【0069】
上述した無機系皮膜は、耐食性、潤滑性、耐疵付き性、加工性、溶接性、電着塗装性、めっき層との密着性などの品質向上を目的として、必要により、シリカなどの各種酸化物粒子や各種りん酸塩などの無機顔料を含有してもよい。また、ワックス粒子、有機シラン化合物、ナフテン酸塩等を含んでいてもよい。
【0070】
本発明に用いられるノンクロメート化成処理皮膜は、前述した(1)有機系皮膜または(2)無機系皮膜のみからなる1層タイプで構成されていても良いし、これらを組合わせた積層タイプで構成されていても良い。後者の積層タイプの場合、組合わせ順序は特に限定されず、下層を無機系皮膜、上層を有機系皮膜としても良いし、その逆であっても良い。積層の数は2層に限定されず、3層以上であっても良い。
【0071】
本発明に用いられるノンクロメート化成処理皮膜3には、上記成分のほか、本発明の作用を損なわない範囲で、通常含まれる成分(例えば、皮張り防止剤、レベリング剤、消泡剤、浸透剤、乳化剤、造膜補助剤、着色顔料、潤滑剤、界面活性剤、導電性を付与するための導電性添加剤、増粘剤、分散剤、乾燥剤、安定剤、防黴剤、防腐剤、凍結防止剤など)を含有してもよい。
【0072】
ノンクロメート化成処理皮膜3の厚さは、おおむね、0.05〜20μmの範囲内であることが好ましく、0.2〜2.0μmの範囲内であることがより好ましい。樹脂皮膜の厚さが0.05μmを下回ると耐白錆性が低下し、一方、20μmを超えると、耐白錆性向上効果が飽和して経済的に無駄であるほか、導電性や加工性が低下するようになる。
【0073】
なお、前述した図1には、鋼板1の上に電気Znめっき層2とノンクロメート化成処理皮膜3が被覆された電気Znめっき鋼板の例を示しているが、本発明鋼板はこれに限定されず、ノンクロメート化成処理皮膜3の上には、耐食性(特に耐白錆性)や塗装性等の向上を目的として、有機系樹脂皮膜、有機・無機複合皮膜、無機系皮膜、電着塗装膜などの皮膜が設けられていてもよい。
【0074】
ここで、上記の有機樹脂皮膜としては、前述したノンクロメート化成処理皮膜3を構成する有機系皮膜と実質的に同じものが挙げられる。具体的には、例えば、ウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−アクリル酸共重合体などのオレフィン系樹脂、ポリスチレンなどのスチレン系樹脂、ポリエステルあるいはこれらの共重合物や変成物など、塗料用として公知の樹脂に、必要に応じてコロイダルシリカや固体潤滑剤、架橋剤等を組み合わせて形成される皮膜などが挙げられる。
【0075】
また、上記の有機・無機複合皮膜としては、上記有機樹脂と、ケイ酸ナトリウム等の水ガラス形成成分とを組み合わせて形成される皮膜が代表的に挙げられる。
【0076】
また、上記の無機系皮膜としては、水ガラス皮膜や、リチウムシリケートから形成される皮膜が代表的に挙げられる。
【0077】
次に、本発明に係るノンクロメート電気Znめっき鋼板の製造方法について説明する。
【0078】
まず、母材となる下地鋼板(めっき原板)を用意する。下地鋼板としては、電気Znめっき鋼板に通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、普通鋼板、Alキルド鋼板、高張力鋼板などの種々の鋼板を用いることができる。めっき原板は、電気Znめっきを行なう前に、脱脂や酸洗などの前処理を行なうことが好ましい。
【0079】
次に、電気Znめっき法により、下地鋼板の上に電気Znめっき層を形成し、電気Znめっき鋼板を製造する。
【0080】
本発明では、特に、めっき温度を通常よりも低め(おおむね、20〜45℃程度)に制御して最表面層のNi量を適切に調整したところに最大の特徴がある。前述したように、最表面層ではZnとNiとの置換析出反応によってNiが金属として析出するが、このような化学反応は周囲の環境に鋭敏であり、めっき温度の変化に対して析出する金属Ni量も著しく変化する(後記する実施例を参照)。めっき温度は、用いられる鋼板の製造ラインや生産性などとの関係で、実生産では、通常、低くても50℃程度であり、それよりも低い温度、特に室温(おおむね、30℃前後)以下に冷却することはないが、本発明では、最表面領域のNi量を制御するために、従来のめっき温度よりも、あえて低く設定した次第である。後記する実施例に示すように、めっき温度が約50℃以上になると、たとえ、めっき液中のNi濃度を適切に制御するなどしてめっき層全体のNi量を適切に制御したとしても、最表面層のNi量を所定範囲に低く抑えることができないため、所望とする耐白錆性が得られない。耐白錆向上効果や生産性などを考慮すると、めっき温度は低い方が良く、おおむね、30℃以下であることが好ましい。
【0081】
本発明では、前述しためっき温度以外の条件を限定するものではなく、上記以外の他のめっき条件は、本発明の作用を損なわない範囲で、適宜適切に設定することができる。具体的には、以下のようにしてめっきを行うことが好ましい。
【0082】
本発明では、通常、用いられる電気Znめっき液、例えば、硫酸亜鉛と硫酸を含有するめっき液や、硫酸亜鉛と硫酸ナトリウムと硫酸アンモニウムを含有するめっき液などの酸性めっき液を用いることができる。本発明では、特許文献3に記載されている配合量の硝酸を含むめっき液は用いない。
【0083】
上記の酸性めっき液において、Niは、おおむね、400ppm以下に抑制されていることが好ましい。これにより、最表面層のNi量を、本発明の範囲内に比較的容易に制御できるほか、めっき層全体のNi量も好ましい範囲内に制御し易くなる。めっき液中のNi添加量は少ない程良く、おおむね、200ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることが更に好ましい。
【0084】
ここで、「めっき液中のNi量が400ppm以下に抑制されていることが好ましい。」とは、Niが、めっき液中に不可避的不純物元素として混入されるにせよ積極的元素として導入されるにせよ、いずれにおいても、めっき液中のNi量は上記範囲内であることが好ましいという意味である。前述したように、Niは、通常、製造過程で不可避に混入され得る不純物であり、また、黒変防止のためにめっき液中に積極的に添加される場合もある(例えば、前述した特許文献1をご参照)が、本発明は、いずれの態様も含む趣旨であり、裏返せば、いずれかの態様に限定する趣旨ではない、という意味である。
【0085】
また、最表面層のNi量および電気Znめっき層中のNi量を本発明で規定する範囲内に抑制するためには、上記のように酸性液中のNi添加量を制御することに加えて、原料となるZnや電気Znめっきに用いられる陽極材料などにも留意することが好ましい。具体的には、原料となるZn中のNiを、約10ppm以下に制御することが好ましい。また、ハステロイ合金などを陽極材料として使用すると、当該陽極材料の溶出によって電気Znめっき層中のNi量が増加する恐れがあるため、実質的にNiを含まない陽極材料(例えば、Ti電極)を用いることが好ましい。
【0086】
めっき浴中へNiを添加する場合、Niの添加形態は、特に限定されず、原子換算のNi添加量が上記範囲を満足する限り、任意の形態をとることができる。例えば、金属粉末や金属箔などの金属状態でめっき液中に添加しても良いし、硫酸塩、塩化物塩、リン酸塩、炭酸塩、酸化物塩などの金属塩の形態で添加しても良い。金属塩の形態で添加する場合、元素の価数は特に限定されず、通常とり得る値を採用することができる。
【0087】
めっき液中には、上記元素のほか、通常添加される他の成分を添加しても良い。例えば、導電性を高めて電力消費量の低減を図る目的で、NaSO、(NHSO、KCl、NaClなどの導電性補助剤を添加しても良い。
【0088】
めっき液のpHは、電流効率やめっき焼け現象との関係を考慮し、おおむね、0.5〜4.0の範囲内であることが好ましく、1.0〜2.0の範囲内であることがより好ましい。
【0089】
めっき液の相対流速は、おおむね、0.3〜5m/secの範囲内であることが好ましい。ここで、相対流速とは、めっき液の流れ方向速度と、めっき原板である鋼板の通板方向速度との差を意味する。
【0090】
電気めっきに用いられる電極(陽極)の種類は、通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、Pb−Sn電極、Pb−In電極、Pb−Ag電極、Pb−In−Ag電極などの鉛系電極のほか、酸化イリジウム電極、亜鉛電極などが挙げられる。
【0091】
めっきセルは、縦型および横型のいずれのセルを用いることができる。電気Znめっきの方法は、特に限定されず、例えば、定電流めっき法やパルスめっき法などが挙げられる。
【0092】
上記のようにしてめっき層を形成した後、常用の方法に基づき、ノンクロメート化成処理皮膜を形成する。ノンクロメート化成処理皮膜の形成前に、めっき層の表面に、皮膜密着性向上、耐食性改善、外観制御などを目的として、例えば、Co,Ni,Mo,V,りん酸塩,硝酸塩などのアミンなどを用いた公知の前処理を行ってもよい。
【0093】
以下、前述した(1)有機系皮膜のうち好ましく用いられる樹脂皮膜の形成方法について詳しく説明するが、本発明は、これに限定されない。
【0094】
まず、カルボキシル基含有樹脂の樹脂成分およびSi系無機化合物を所定量含有し、好ましくは、シランカップリング剤を所定量含有するクロメートフリー化成処理液(以下、単に「処理液」と呼ぶ場合がある。)を用意する。処理液は、以下の成分を完全に溶解できる水系溶媒(例えば、塩酸や硝酸溶液など)に溶解・分散させたものである。
【0095】
処理液中に含まれる樹脂成分とSi系無機化合物の質量比率は、おおむね、樹脂成分:Si系無機化合物=5部〜45部:55部〜95部の範囲内であることが好ましい。カルボキシル基含有樹脂などの樹脂成分の量が少ないと、耐食性、耐アルカリ脱脂性、塗装性などが低下する傾向にあり、一方、樹脂成分の量が多いと、耐アブレージョン性、導電性などが低下するようになる。また、コロイダルシリカの量が少ないと、耐アブレージョン性、導電性などが低下する傾向にあり、コロイダルシリカの量が多いと、樹脂成分が少なくなるために樹脂皮膜の造膜性が低下し、耐食性が低下するようになる。
【0096】
処理液は、シランカップリング剤を更に含有しても良い。処理液中に含まれるシランカップリング剤の含有量は、後記する実施例に示すように、樹脂成分とSi系無機化合物の合計100質量部に対し、おおむね、5〜25質量部の範囲であることが好ましい。シランカップリング剤の含有量が少ないと、耐しみ汚れ性改善作用が有効に発揮されないほか、カルボキシル基含有樹脂とSi系無機化合物との反応性が低下し、耐アブレージョン性、塗装性、耐食性などが低下する。一方、シランカップリング剤の含有量が多いと、樹脂皮膜の作製に用いられる皮膜調製液の安定性が低下し、ゲル化する恐れがある。また、反応に寄与しないシランカップリング剤の量が多くなるため、Znめっき層と樹脂皮膜との密着性が低下する恐れがある。
【0097】
処理液には、上記成分のほか、必要に応じて、ワックスや架橋剤などを添加してもよい。更に、処理液には、本発明の作用を損なわない範囲で、通常含まれる成分(例えば、皮張り防止剤、レベリング剤、消泡剤、浸透剤、乳化剤、造膜補助剤、着色顔料、潤滑剤、界面活性剤、導電性を付与するための導電性添加剤、増粘剤、分散剤、乾燥剤、安定剤、防黴剤、防腐剤、凍結防止剤など)を含有してもよい。
【0098】
上記の成分を含有する処理液は、公知の方法、例えば、ロールコート法、スプレーコート法、カーテンフローコーター法、ナイフコーター法、バーコート法、浸漬コート法、刷毛塗り法などを用いて、金属板の片面または両面に塗布した後、加熱、乾燥すると、所望とする樹脂皮膜を備えた電気Znめっき鋼板が得られる。
【0099】
加熱・乾燥温度は、使用するカルボキシル基含有樹脂とSi系無機化合物との架橋反応が充分進行する温度(例えば、おおむね、板温90〜100℃)で行なうことが好ましい。また、潤滑剤として、球形のポリエチレンワックスを用いる場合は、球形を維持しておく方が後の加工工程での加工性が良好となるので、約70〜130℃の範囲で乾燥を行うことが望ましい。
【0100】
このようにして得られるノンクロメート電気Znめっき鋼板は、耐白錆性に極めて優れているため、家電製品、自動車部品、建材用途などの分野に用いられ、特に、主として屋内で使用される家電製品やOA機器等のシャーシやケース部品、鋼製家具などの用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0101】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適切に改変を行って実施することも可能であり、そのような態様も、本発明の技術的範囲に含まれる。以下では、特に断らない限り、「%」は質量%を意味する。
【0102】
実施例1
本実施例では、めっき層とノンクロ皮膜との界面からめっき層の深さ方向0.04μmの範囲に含まれるNi量が耐白錆性に及ぼす影響を検討した。実施例1では、ポリオレフィン系樹脂をベースとする有機系のノンクロ皮膜を作製し、実験を行なった。
【0103】
(1)電気Znめっき鋼板の作製
めっき原板として、常法で作製したAlキルド冷延鋼板を用いた。これを脱脂・酸洗後、めっき面積180mm×300mmの循環型めっき装置にて、下記組成のめっき液を用いて電気めっきを施し、電気Znめっき鋼板を得た。
【0104】
(めっき液組成)
以下の成分を含有すると共に、Niを硫酸塩の形態で表1に示す範囲で添加しためっき液を用いた。
ZnSO・7HO 350g/L
NaSO 70g/L
SO 20g/L
FeSO・7HO 9g/L
Fe(SO・nHO(n=9.5) 1.8g/L
NaMoO・2HO 0.03g/L
40%Cr(SO溶液 0.9g/L
Sn標準溶液 0.1mg/L
【0105】
他のめっき条件は、以下のとおりである。
・電流密度 :50A/dm
・めっき液温度:20〜60℃
・めっき液流速:1.5m/sec
・電極(陽極):IrOx電極
・めっき付着量:20g/m
【0106】
(2)ノンクロメート化成処理皮膜を備えた電気Znめっき鋼板の作製
別途、ポリオレフィン系分散液(三井化学社製「ケミパールS100」)に、エポキシ系架橋剤(中央理化工業社製「リカボンドAP355B」)を固形分で5%(上塗り樹脂皮膜形成用組成物の固形分100%としたときの値:以下同じ)、粒子径10〜20nmのシリカ粒子(日産化学工業社製「スノーテックス40」)を固形分で30%、球形ポリエチレンワックス(三井化学社製「ケミパールW700」)を固形分で5%となるように配合して撹拌し、ノンクロメート化成処理皮膜形成用組成物を調製した。
【0107】
電気Znめっき鋼板の上に、上記の組成物をバーコートで塗布し、板温90℃で1分加熱乾燥し、付着量1g/m2の上塗り樹脂皮膜が形成されたノンクロメート化成処理電気Znめっき鋼板を得た。
【0108】
(3)電気Znめっき層中および最表面層中のNi量の分析
このようにして得られたノンクロメート化成処理電気Znめっき鋼板を50mm×50mmサイズに切断した分析用試料を用意し、前述した方法に基づいて、めっき層中および最表面層中のNi量を分析した。本実施例の測定方法によれば、めっき層中のNi量の検出限界は0.02ppmであり、最表面層中のNi量の検出限界は10ppmである。
【0109】
更に、参考のため、特許文献2に規定する「界面から1μm深さまでのNi量」(表面層中のNi量)を、最表面層中のNi量と同様の方法により測定した。これにより、本発明で規定する「最表面層」のNi量と、特許文献2に規定する「表面層中のNi量」のいずれが、耐白錆性の指標として有用かを比較することができる。
【0110】
(4)耐白錆性の評価
上記のようにして得られた各電気Znめっき鋼板について、JIS Z2371に規定する塩水噴霧試験を実施し、96時間経過後の白錆発生面積率を下記基準で判定し、耐白錆性を評価した。本実施例では、評価基準が「◎」または「○」を合格(本発明例)と判定した。
◎:5%未満
○:5%以上10%未満
△:10%以上50%未満
×:50%以上
これらの結果を、表1に併記する。
【0111】
【表1】

【0112】
表1より、以下のように考察することができる。
【0113】
No.1〜15は、めっき液の温度を40℃以下と、本発明で推奨する低温度域に制御してめっきを行なった例であり、最表面層の金属Ni量が本発明の範囲内に抑制されており、且つ、めっき層全体のNi量も好ましい範囲に制御されているため、耐白錆性に優れている。特に、No.1〜10のようにめっき液の温度を約28℃以下と、より低く制御すると、耐白錆性は一層向上した。
【0114】
これに対し、No.16〜25は、めっき液の温度を約50〜60℃と高い温度でめっきした例であり、いずれも、最表面層のNi量が本発明の範囲を超えているため、耐白錆性が低下している。
【0115】
ここで、めっき液温を低めに制御したNo.1〜15と、めっき液温を従来のように高く設定したNo.16〜26とを比較検討すると、めっき液中のNi濃度が同程度である場合、概して、めっき液の温度が低くなるとめっき層全体のNi量も低くなり、それに伴って最表面層中のNi量も低減する、という傾向が全体に見られた。
【0116】
なお、特許文献2で規定する「1.0μm深さまでのNi量」(表面層のNi量)に着目してみると、表面層のNi量と耐白錆性とは、必ずしも高い相関関係が認められなかった。表面層のNi量を、No.5のように322ppmと高くしても、No.6のように12ppmと低くしても、これらはいずれも良好な耐白錆性を発揮した。一方、比較例のなかには、No.18のように表面層のNi量が89ppmと低い例もあったが、耐白錆性に劣っており、表面層のNi量は、耐白錆性評価の良好な指標ではないことが分かった。
【0117】
また、表1より、No.1〜15の本発明例は、特許文献2の鋼板とも異なることが読み取れる。すなわち、前述した特許文献2の請求項3に規定する「表面から1μm以内のNi量:を50〜3000mmg/m」を、Znの比重を7.14g/cmとしてppm換算を行うと、約7100〜46500ppmとなり、特許文献3の表面層のNi量は、本発明例のいずれの鋼板(最大でも、No.11の424ppm)よりも遙かに多くなっている。
【0118】
更に、めっき層全体のNi量も、耐白錆性評価の有用な指標とはならないことが判明した。すなわち、表1のNo.16〜25のうち、No.16〜24は、めっき液中のNi量を適切に制御し、めっき層全体のNi量も1000ppm以下と、本発明の好ましい範囲に制御した例であるが、最表面層の金属Ni量が本発明の範囲を超えているため、所望の耐白錆性が得られなかった。
【0119】
また、めっき液中のNi濃度を同じレベルに制御しても、めっき液の温度によって最表面層のNi量やめっき層全体のNi量は大きく変わることも分かった。表1のうち、No.11(本発明例)とNo.25(比較例)は、いずれも、めっき液中のNi量が400ppmと多い例であるが、No.11では、めっき液の温度を本発明で規定するように低めに制御したため、めっき層全体のNi量のみならず最表面層のNi量も本発明の範囲内に低く抑えられ、耐白錆性も良好である。これに対し、No.25では、めっき液の温度を60℃と、従来レベルに高く設定したため、最表面層およびめっき層全体のNi量の両方が高くなり、耐白錆性が低下した。このように、めっき液中のNi濃度を同じレベルに制御したとしても、めっき液の温度によってZnとNiの置換析出反応の速度は大きく変化するため、最表面層のNi量やめっき層全体のNi量は著しく変化し、これにより、耐白錆性も大きな影響を受けることが確認された。
【0120】
以上の結果より、良好な耐白錆性を確保するためには、めっき層全体のNi量や界面から1μm以内の表面層のNi量を制御するだけでは不充分であり、界面から0.04μm以内の最表面層の金属Ni量を制御することが極めて重要であること、そのためには、めっき液の温度を約40程度以下に制御することが良いことが確認された。
【0121】
実施例2
本実施例では、実施例1と異なるノンクロ皮膜を備えたノンクロメート化成処理電気Znめっき鋼板を用いこと以外は、実施例1と同様にして、最表面層のNi量が耐白錆性に及ぼす影響を調べた。具体的には、本実施例では、特開2006−43913号公報の実施例1に記載の方法に基づいて有機系のノンクロ皮膜(樹脂皮膜)を作製し、めっき液の温度を変えて実験を行なった。
【0122】
(1)樹脂水性液の作製
ここでは、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液、シリカ粒子、およびワックスを含有する樹脂水性液から樹脂皮膜を作製した。具体的な作製方法は、以下のとおりである。
【0123】
(1−1)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液の調製
撹拌機、温度計、温度コントローラを備えた内容量0.8Lの合成装置にポリオール成分として保土ヶ谷化学工業(株)製ポリテトラメチレンエーテルグリコール(平均分子量1000)を60g、1,4−シクロヘキサンジメタノール14g、ジメチロールプロピオン酸20gを仕込み、さらに反応溶媒としてN−メチルピロリドン30.0gを加えた。イソシアネート成分としてトリレンジイソシアネート(以下、単に「TDI」という場合がある)を104g仕込み、80から85℃に昇温し5時間反応させた。得られたプレポリマーのNCO含有量は、8.9%であった。さらにトリエチルアミン16gを加えて中和を行い、エチレンジアミン16gと水480gの混合水溶液を加えて、50℃で4時間乳化し、鎖延長反応させてポリウレタン樹脂水性分散液を得た(不揮発性樹脂成分29.1%、酸価41.4)。
【0124】
(1−2)エチレン−不飽和カルボン酸共重合体水性分散液の調製
撹拌機、温度計、温度コントローラを備えた内容量0.8Lの乳化設備のオートクレイブに、水626質量部、エチレン−アクリル酸共重合体(アクリル酸20質量%、メルトインデックス(MI)300)160質量部を加え、エチレン−アクリル酸共重合体のカルボキシル基1モルに対して、トリエチルアミンを40モル%、水酸化ナトリウムを15モル%加えて、150℃、5Paの雰囲気下で高速撹拌を行い、40℃に冷却してエチレン−アクリル酸共重合体の水性分散液を得た。続いて、前記水性分散液に架橋剤として、4,4'−ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン(日本触媒製、ケミタイトDZ−22E、「ケミタイト」は登録商標)を、エチレン−アクリル酸共重合体の不揮発性樹脂成分100質量部に対して5質量部の比率になるように添加した。
【0125】
(1−3)樹脂水性液の調製
上記で得たカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂水性液、上記エチレン−アクリル酸共重合体水性分散液、コロイダルシリカ(日産化学工業(株)製「ST−XS」、平均粒子径4〜6nm)を5質量部:25質量部:70質量部の配合比率となるように不揮発性成分換算で合計100質量部配合し、この合計100質量部に対して、さらにシランカップリング剤として、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学製「KBM403」)を10質量部添加して樹脂水性液を調製した。
【0126】
このようにして得られた樹脂皮膜は、樹脂成分、コロイダルシリカ、およびシランカップリング剤を質量比率で、おおむね、樹脂成分:コロイダルシリカ:シランカップリング剤=30部:70部:10部含有している。
【0127】
(2)樹脂皮膜を備えた電気Znめっき鋼板の作製
上記(1)で得られた樹脂水性液を、実施例1の(1)で得られた電気Znめっき鋼板上にロール絞り法により塗布(片面塗布)し、実験炉にて、炉温220℃、板温95℃で加熱乾燥し、厚さが0.5μmの樹脂皮膜(ノンクロメート皮膜)を有するノンクロメート化成処理電気Znめっき鋼板を得た。
【0128】
このようにして得られたノンクロメート電気Znめっき鋼板の耐白錆性およびNi量を実施例1と同様に測定した。
【0129】
これらの結果を表2に示す。
【0130】
【表2】

【0131】
No.26〜40は、めっき液の温度を約20〜40℃と、本発明で規定する温度に制御してめっきを行なった例であり、いずれも、最表面層に存在する金属Niの量が本発明の範囲内に抑制されており、且つ、めっき層全体のNi量も好ましい範囲に制御されているため、耐白錆性に優れている。
【0132】
これに対し、No.41〜50は、めっき液の温度を約50〜60℃と、本発明よりも高い温度でめっきした例であり、いずれも、最表面層のNi量が本発明の範囲を超えているため、耐白錆性が低下している。
【0133】
上記のように、ノンクロ皮膜の構成を、実施例1に示す無機系皮膜ではなく、樹脂皮膜に変えた場合であっても、実施例1と同様の効果を確認することができた。
【0134】
実施例3
本実施例では、実施例1と異なるノンクロ皮膜を備えたノンクロメート化成処理電気Znめっき鋼板を用いこと以外は、実施例1と同様にして、最表面層のNi量が耐白錆性に及ぼす影響を調べた。具体的には、本実施例では、以下に示す方法でりん酸塩皮膜を作製し、めっき液の温度を変えて実験を行なった。
【0135】
りん酸塩処理液として、日本パーカライジング社製の浸漬型リン酸亜鉛系処理液「PB−3312」を用いた。上記処理液の遊離酸度(FA)は2.4ポイント、全酸度(TA)は16.9ポイントであった。ここで、FAおよびTAは、以下の意味である。
(a)FA:りん酸塩処理液10mLに対し、指示薬としてブロモフェノールブルー、滴定液として0.1規定水酸化ナトリウム溶液を用いて滴定したとき、処理液の色が黄色から青黄色に変色するまでに要した滴定液のmL数をFAポイントとする。
(b)TA:りん酸塩処理液10mLに対し、指示薬としてフェノールフタレイン、滴定液として0.1規定水酸化ナトリウム溶液を用いて滴定したとき、処理液の色がピンク色に着色するまでに要した滴定液のmL数をTAポイントとする。
【0136】
次に、上記のりん酸塩処理液を用い、下記(1)〜(6)の手順でりん酸塩処理を行った。
(1)酸洗 :0.2%硫酸溶液に5秒間浸漬
(2)水洗 :30秒間
(3)表面調整:室温で浸漬
(4)化成処理:60℃で5秒間、上記のりん酸処理液中に浸漬
(5)水洗 :15秒間
(6)乾燥 :70℃にて、表面が乾燥するまで行なった。
【0137】
このようにして得られたりん酸塩皮膜を備えた電気Znめっき鋼板について、実施例1と同様にして塩水噴霧試験を実施し、24時間経過後の白錆発生面積率を下記基準で判定し、耐白錆性を評価した。本実施例では、評価基準が「◎」または「○」を合格(本発明例)と判定した。
◎:5%未満
○:5%以上10%未満
△:10%以上50%未満
×:50%以上
これらの結果を表3に示す。
【0138】
【表3】

【0139】
No.51〜59は、めっき液の温度を約20〜40℃と、本発明で規定する温度に制御してめっきを行なった例であり、いずれも、最表面層に存在する金属Niの量が本発明の範囲内に抑制されており、且つ、めっき層全体のNi量も好ましい範囲に制御されているため、耐白錆性に優れている。
【0140】
これに対し、No.60〜67は、めっき液の温度を約50〜60℃と、本発明よりも高い温度でめっきした例であり、いずれも、最表面層のNi量が本発明の範囲を超えているため、耐白錆性が低下している。
【0141】
上記のように、ノンクロ皮膜の構成を、実施例1に示す無機系皮膜ではなく、りん酸塩皮膜に変えた場合であっても、実施例1と同様の効果を確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】図1は、本発明の電気Znめっき鋼板の全体を示す概略断面図である。
【図2】図2は、図1において、電気Znめっき層2とノンクロメート化成処理皮膜3との界面4を拡大して示す部分断面図である。
【図3】図3は、実施例の表1のNo.10(本発明例)およびNo.24(比較例)について、電気Znめっき層のNi量の分布(深さ1μmまで)を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例の表1のNo.10(本発明例)およびNo.24(比較例)について、電気Znめっき層のNi量の分布(深さ0.1μmまで)を示すグラフである。
【符号の説明】
【0143】
1 鋼板
2 電気Znめっき層
3 ノンクロメート化成処理皮膜
4 電気Znめっき層とノンクロメート化成処理皮膜との界面
10 ノンクロメート電気Znめっき鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気Znめっき層の上にノンクロメート化成処理皮膜を有するノンクロメート化成処理電気Znめっき鋼板であって、
前記電気Znめっき層と前記ノンクロメート化成処理皮膜との界面から前記電気Znめっき層の深さ方向0.04μmの範囲に含まれるNiは、原子換算で500ppm以下(ppmは質量ppmの意味、以下、同じ。)に抑制されていること特徴とする耐白錆性に優れたノンクロメート化成処理電気Znめっき鋼板。
【請求項2】
前記電気Znめっき層中のNiは、原子換算で1000ppm以下に抑制されている請求項1に記載のノンクロメート化成処理電気Znめっき鋼板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−52088(P2009−52088A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220162(P2007−220162)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】