説明

耐磨耗性に優れた銅合金すずめっき条

【課題】 コネクタ、端子、リレ−、スイッチ等の導電性ばね材として好適な、耐磨耗性に優れたすずめっき条。
【解決手段】 銅合金条の表面に、下地めっき、Snめっきの順で電気めっきを施し、その後リフロー処理を施しためっき条であり、Cu−Sn合金層の平均窒素濃度が0.01〜0.1質量%、Cu−Sn合金層の厚みが0.4〜2.0μm、純Sn厚みが0.5μm以上であり、かつ母材のビッカース硬さ、リフロー後に得られるCu−Sn合金層の厚み(μm)、及びCu−Sn合金層の平均窒素濃度(質量%)が下記の関係にある耐磨耗性に優れる銅合金すずめっき条であり、下地がCuの場合、Sn層厚み0.5〜1.5μmかつCu層厚み0〜0.8μmであり、Niの場合、Sn層厚み0.5〜1.5μmかつNi層厚み0.1〜0.8μmであることが好ましい。
(Cu−Sn合金層厚み)>2.63−0.0080×(母材のビッカース硬さ)−9×(平均窒素濃度)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタ、端子、リレ−、スイッチ等の導電性ばね材として好適な、耐磨耗性に優れたすずめっき条に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用及び民生用のコネクタ、端子、リレ−、スイッチ等の導電性ばね材には、Snの優れた半田濡れ性、耐食性、電気接続性という特性を生かし、Snめっきが施された銅または銅合金条が使用されている。
ばね材の接点は、エンジンの振動、車載走行による振動、端子材料の熱膨張・収縮等により摺動する。摺動によりSnめっきが磨耗すると、Snの特徴である優れた半田濡れ性、耐食性、電気接続性という特性が劣化する。例えば、オス・メス端子が嵌合され、接触部に往復移動が繰り返された際に、磨耗によって発生したSnめっき材料の酸化物が堆積し、この酸化物が絶縁に近い特性であるため接触不良(接触抵抗の増大)が生じる。
近年の自動車の高性能化により、端子のおかれている環境はますます厳しくなってきており、より高温や高振動下でも信頼性、耐久性のある端子が求められている。
上記Snめっき条は、連続めっきラインにおいて、脱脂及び酸洗の後、電気めっき法により下地めっき層を形成し、次に電気めっき法によりSnめっき層を形成し、最後にリフロー処理を施しSnめっき層を溶融させる工程で製造される。
Snめっき条の下地めっきとしては、Cu下地めっきが一般的であり、耐熱性が求められる用途に対してはCu/Ni二層下地めっきが施されることもある。ここで、Cu/Ni二層下地めっきとは、Ni下地めっき、Cu下地めっき、Snめっきの順に電気めっきを行なった後にリフロー処理を施しためっきであり、リフロー後のめっき皮膜層の構成は表面からSnめっき層、Cu−Snめっき層、Niめっき層、母材となる。この技術の詳細は特許文献1、特許文献2、特許文献3等に開示されている。
【特許文献1】特開平6−196349号公報
【特許文献2】特開2003−293187号公報
【特許文献3】特開2004−68026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来使用されてきている銅合金のリフローSnめっき条では、高温、高振動の条件において接点部のSnめっきが磨耗し、Snの特徴である優れた耐食性、電気接続性を享受することが困難になる。
本発明の目的は、すずめっきの耐磨耗性を改善したすずめっき条を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、リフローSnめっき条の耐磨耗性を改善する方策を鋭意研究し、その結果、母材のビッカース硬さ、リフロー後に得られるCu−Sn合金層の厚み(μm)、Cu−Sn合金層の平均窒素濃度およびこれら3つのパラメータの相互関係を調整することにより、Snめっき条の耐磨耗性を大幅に改善できることを見出した。本発明は、この発見に基づき成されたものであり、下記構成を有する。
(1)銅合金条の表面に、下地めっき、Snめっきの順で電気めっきを施し、その後、リフロー処理を施しためっき条であり、リフロー後に得られるCu−Sn合金層の平均窒素濃度が0.01〜0.1質量%で、Cu−Sn合金層の厚みが0.4〜2.0μm、純Sn厚みが0.5μm以上であり、かつ母材のビッカース硬さ、Cu−Sn合金層の厚み(μm)、及びCu−Sn合金層の平均窒素濃度(質量%)が下記の関係にあることを特徴とする耐磨耗性に優れる銅合金すずめっき条。
(Cu−Sn合金層の厚み)>2.63−0.0080×(母材のビッカース硬さ)−9×(平均窒素濃度)
(2)表面から母材にかけて、Sn層、Cu−Sn合金層、Cu層の各層でめっき皮膜が構成され、Sn層の厚みが0.5〜1.5μm、Cu−Sn合金層の厚みが0.4〜2.0μm、Cu層の厚みが0〜0.8μmであることを特徴とする上記(1)の耐磨耗性に優れる銅合金すずめっき条。
(3)表面から母材にかけて、Sn層、Cu−Sn合金層、Ni層の各層でめっき皮膜が構成され、Sn層の厚みが0.5〜1.5μm、Cu−Sn合金層の厚みが0.4〜2.0μm、Ni層の厚みが0.1〜0.8μmであることを特徴とする上記(1)の耐磨耗性に優れる銅合金すずめっき条。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、母材のビッカース硬さ、Cu−Sn合金層の厚み及び平均窒素濃度、並びに純Sn厚みを調節するという工業的に容易な作業により、耐磨耗性を大幅に改善したSnめっき材を提供できる。本発明により、とりわけ繰り返し挿抜する必要があるコネクタや、嵌合後、振動などで接点部が摺動することにより耐磨耗性が要求されるコネクタ等の電子部品の素材としての使用に好適な、耐磨耗性が改良されたSnめっき材並びに前記Snめっき材を用いた伸銅品及び電子部品を提供することが可能となる。一般的に母材が軟らかい場合には耐磨耗性が悪いが、本発明によると、母材が軟らかい場合でも、Cu−Sn合金層中の窒素濃度を高くし、Cu−Sn合金層の硬さを上げる又は、Cu−Sn合金層の厚みを厚くすることで、高い耐磨耗性を容易に安定して達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の構成要件を満足するSnめっき材の耐磨耗性が向上する理由及び各構成要件限定の理由を、本発明の実施形態と共に下記に説明する。
【0007】
(a)各めっき層の厚さ:
(a−1)Cu下地めっきの場合;
母材上に、電気めっきによりCuめっき層及びSnめっき層を順次形成し、その後リフロー処理を行う。このリフロー処理により、Cuめっき層とSnめっき層が反応して拡散し、Cu−Sn合金層が形成され、めっき層構造は、表面側よりSn層、Cu−Sn合金層、Cu層となる。ここで、Sn層、Cu−Sn合金層、Cu層の各層の厚さは電解式膜厚計を用いてその厚みを測定できる。
このめっき層の構造の中で、最も硬い層はCu−Sn合金層のため、Cu−Sn合金層の厚さを厚くすることにより、耐磨耗性が向上する。しかし、Cu−Sn合金層の厚さが2.0μmを超えると、曲げ加工時に硬いCu−Sn合金層が割れ、この割れが起点となり母材まで割れが到達するため曲げ加工性が悪くなる。一方、Cu−Sn合金層の厚さが0.4μm未満では、耐磨耗性向上の効果が得られない。従って、Cu−Sn合金層の厚みは0.4〜2.0μm、好ましい厚みは0.5〜1.5μmである。
【0008】
リフロー後のSnめっき層の厚みが0.5μm未満になると半田濡れ性が低下し、さらに、150℃で300時間加熱後の接触抵抗が増大する。1.5μmを超えると、めっきされた銅又は銅合金条が加熱された際にめっき層内部に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進される。従って、Snめっき層の厚みの好ましい範囲は0.5μm〜1.5μm、最も好ましくは0.6μm〜1.0μmである。
【0009】
Cuめっき層の厚みは、リフロー後の状態で0.8μm以下が好ましい。0.8μmを超えると、加熱された際にめっき層内部に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進される。より好ましいCuめっき層の厚みは0.4μm以下である。
このCu下地めっきは、リフロー時にCu−Sn合金層形成に消費され消失しても良い。すなわち、リフロー後のCuめっき層厚みの下限値は規制されず、厚みがゼロになってもよい。
【0010】
電気めっき条件を、Snめっき層厚みは0.6〜2.0μmの範囲、Cuめっき層厚みは0.1〜1.5μmの範囲で形成されるように適宜調整して上記厚みの各層を形成し、その後230℃〜600℃、3〜50秒間の範囲の適当な条件でリフロー処理を行うことにより、上記本発明のめっき構造が得られる。
【0011】
(a−2)Cu/Ni下地めっきの場合;
母材上に、電気めっきによりNiめっき層、Cuめっき層及びSnめっき層を順次形成し、その後リフロー処理を行う。このリフロー処理により、めっき層間のCuとSnが反応してCu−Sn合金層が形成される。一方Niめっき層は、ほぼ電気めっき上がりの状態(厚み)で残留する。
リフロー処理後のめっき層の構造は、表面側よりSnめっき層、Cu−Sn合金層、Niめっき層となる。
Cu/Ni下地めっきの場合においてもめっき層の構造の中で、最も硬い層はCu−Sn合金層で、Cu−Sn合金層の厚さを厚くすることにより、耐磨耗性が向上し、その厚さもCu下地めっきの場合と同様である。
Snめっき層の厚さに関しては、Cu下地めっきの場合と同様である。
【0012】
Ni層の厚みは0.1〜0.8μmが好ましい。Ni層の厚みが0.1μm未満ではめっきの耐食性や耐熱性が低下する。Ni層の厚みが0.8μmを超えると加熱した際にめっき層内部に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進される。より好ましいNi層の厚みは0.1〜0.3μmである。
【0013】
それぞれの電気めっき条件を、Snめっき層厚みは0.6〜2.0μmの範囲、Cuめっき層厚みは0.1〜1.5μm、Niめっき層厚みは0.1〜0.8μmの範囲で形成されるように適宜調整して上記厚みの各層を形成し、その後230〜600℃、3〜50秒間の範囲のなかの適当な条件でリフロー処理を行うことにより、上記本発明のめっき構造が得られる。
【0014】
(b)Cu−Sn合金層の平均窒素濃度:
本発明の銅合金すずめっき条は、リフロー後に得られるCu−Sn合金層の平均窒素濃度が0.01〜0.1質量%である。一般的に、ある金属中に侵入型原子として窒素原子が存在すると、金属は硬くなる。よってCu−Sn合金層中の平均窒素濃度を高くするとCu−Sn合金層はより硬くなる。平均窒素濃度が0.01質量%未満であるとCu−Sn合金層の硬さが不足し、十分な耐磨耗性が得られない。一方、0.1質量%を超えるとCu−Sn合金層が靭性を失いもろくなり、耐磨耗性が却って悪化する。
【0015】
本発明のCu−Sn合金層中の平均窒素濃度は、GDS(グロー放電発光分光分析装置)により、リフロー後のSnめっき材のSn、Cu、Ni、窒素の深さ方向の濃度プロファイルから下記の手順で求められる。
GDSによる代表的な濃度プロファイルとして後述する実施例中の発明例4(Cu下地めっき)のデータを図1に示す。表面から深さ方向へSn、窒素、Cuの分析を行ったデータである。
(i−1)Cu下地でCuめっき層が残存していない場合、図1のグラフに示されるとおり濃度プロファイル中の母材から表層に向かうに従いCu濃度が低下し、あるところでゼロとなる。このCu濃度が低下し始める点(母材のCu平均濃度を100%として、98%濃度となった点)からゼロ(Cu濃度が母材のCu平均濃度の1%以下となった点)に至るまでの区間に相当する範囲の窒素濃度の平均値を求めて平均濃度とする。
(i−2)Cu下地でCuめっき層が残存している場合も、(i−1)と同様に、Cu濃度が低下し始める点(Cu下地のCu平均濃度を100%として、98%濃度となった点)からゼロ(Cu濃度が母材のCu平均濃度の1%以下となった点)に至るまでの区間に相当する範囲の窒素濃度の平均値を求めて平均濃度とする。
【0016】
(ii)Cu/Ni下地の場合も、(i−1)と同様に、Cu濃度が低下し始める点(Cu−Sn合金層中のCu濃度の最大ピークを100%として、98%濃度となった点)からゼロ(Cu濃度が最大ピークの0.1%以下となった点)に至るまでの区間に相当する範囲の濃度の平均値を求めて平均窒素濃度とした。
【0017】
本発明のCu−Sn合金層中の窒素濃度は、Snめっきを行う際に使用する界面活性剤その他の添加剤の種類、量、めっき処理条件、リフロー処理条件等を制御することにより調整できる。
一般的にSn電解めっき浴の調製には界面活性剤やその他の添加剤が使用されている。そして、窒素成分を含む界面活性剤等を使用すると、その一部がめっきに取り込まれ、リフロー処理中に分解して窒素がCu−Sn合金層中に残存する。
上記窒素成分を含む界面活性剤、添加剤としてはDUIT(商品名、石原薬品株式会社製)等のイミダゾール類、アルキルピリジニウム等のピリジニウム系、アルキルトリメチル塩化アンモニウム等のアンモニウム系化合物が挙げられる。
【0018】
(c)母材:
本発明では、銅合金の表面に電気めっきを施すが、Cu−Sn合金層の厚さ、Cu−Sn合金層の平均窒素濃度を本発明の範囲内に調整すれば、Snめっき母材の種類に関わらず、所望の耐磨耗性を得ることが出来る。めっき母材として、例えば、Cu−Zn−Sn合金、Cu−Ni−Si−Mg合金やCu−Ni−Si−Sn−Zn合金に代表されるコルソン合金、チタン銅などが挙げられる。
【0019】
母材のビッカース硬さは、例えば明石製作所社製、商品名「マイクロビッカース硬さ試験機 MVK−E型」によりJIS Z 2244に準拠して測定できる。
【0020】
(d)Cu−Sn合金層の厚み、Cu−Sn合金層の平均窒素濃度および母材のビッカース硬さの関係:
これまで、Cu−Sn合金層の厚み、Cu−Sn合金層の平均窒素濃度および母材のビッカース硬さについてそれぞれ述べてきた。この規定に加え、良好な耐磨耗性を安定して得るためには、Cu−Sn合金層の厚み、Cu−Sn合金層の平均窒素濃度および母材のビッカース硬さと耐磨耗性を次式の関係に調整する必要がある。この式は本発明者らが実験を繰り返すことで経験的に求めたものである。
(Cu−Sn合金層の厚み)>2.63−0.0080×(母材のビッカース硬さ)−9×(平均窒素濃度)
母材が硬いか平均窒素濃度が本発明の範囲内で大きい場合にはCu−Sn合金層の厚みは薄くても良いが、母材が柔らかいか平均窒素濃度が本発明の範囲内で低い場合にはCu−Sn合金層は厚い必要がある。
母材が軟らかい、つまり母材のビッカース硬さが小さく、上記式を満たさない場合、磨耗時の表面垂直方向にかかる荷重を母材が支えきれずに母材が変形するため、耐磨耗性に優れる銅合金すずめっき条が得難い。
一方、平均窒素濃度が低く、上記式を満たさない場合、Cu−Sn合金層の硬さが不十分で、磨耗時の荷重をCu−Sn合金層が支えきれず母材が変形するため、耐磨耗性に優れる銅合金すずめっき条が得難い。
また、Cu−Sn合金層の平均窒素濃度が高く、上記式を満たさない場合、Cu−Sn合金層が靭性を失いもろくなるため、耐磨耗性に優れる銅合金すずめっき条が得難い。
なお、本発明で「耐磨耗性に優れた」とは、一定の負荷をかけてSnめっき材を摺動させた後の磨耗により生じた深さが浅いことをいい、具体的には後述する耐磨耗性試験において摺動痕の深さが3μm以下を示す特性を有することをいう。
【0021】
以上、本発明に係るSnめっき材について説明してきたが、本発明に係るSnめっき材はとりわけ耐磨耗性が要求されるコネクタ、端子、ピン、リレー、リードフレーム、リード端子及びスイッチ等の電子部品用Snめっき材として好適に使用できる。
【実施例】
【0022】
下記に本発明に係るSnめっき材の製造例及びその特性試験の結果を示すが、これらは本発明及びその利点をより良く理解するために提供するのであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
(a)母材
下記表1の6種類の銅合金(厚み:0.32mm)に、下記の手順でNiめっき、銅下地めっき、Snめっきを施し、リフロー処理を施した。
【0023】
【表1】

【0024】
(電解脱脂手順)
アルカリ水溶液中で試料をカソードとして電解脱脂を行う。
10質量%硫酸水溶液を用いて酸洗する。
(Ni下地めっき条件)
・めっき浴組成:硫酸ニッケル250g/L、塩化ニッケル45g/L、ホウ酸30g/L
・めっき浴温度:50℃
・電流密度:5A/dm2
・Niめっき厚みは、電着時間により調整
【0025】
(Cu下地めっき条件)
・めっき浴組成:硫酸銅200g/L、硫酸60g/L
・めっき浴温度:25℃
・電流密度:5A/dm2
・攪拌速度:5m/分
・Cuめっき厚みは、電着時間により調整
【0026】
(Snめっき条件)
・めっき浴組成:メタンスルホン酸錫400g/L、メタンスルホン酸97g/L、
・界面活性剤(第一工業製薬社製 商品名「EN25」:成分C96O(CH2CH2O)nH,濃度1.2容量%):10g/L
・光沢剤(石原薬品株式会社製 商品名「DUIT」:成分C32(C1123)(CH2233(NH2) 濃度0.6容量%):3g/L
・めっき浴温度:20℃
・電流密度:6A/dm2
・攪拌速度:5m/分
・Snめっき厚みは、電着時間により調整
【0027】
(リフロー処理)
温度を500℃、雰囲気ガスを窒素(酸素1vol%以下)に調整した加熱炉中に、試料を3〜10秒間挿入し、その後60℃の水中に投入した。
上記で作製した試料について、次の評価を行った。
【0028】
(a)電解式膜厚計によるめっき厚測定
CT−1型電解式膜厚計(株式会社電測製)を用い、リフロー後の試料に対し、JIS H8501に従い、Snめっき層、Cu−Sn合金層、Cu/Ni下地めっき層の場合はNiめっき層の厚みを測定した。測定条件は下記の通りである。
電解液
(1)Snめっき層及びCu−Sn合金層:コクール社製電解液 R−50
(2)Niめっき層:コクール社製電解液 R−54
Cu下地Snめっきの場合、電解液R−50で電解を行うと、始めSnめっき層を電解してCu−Sn合金層の手前で電解がとまり、ここでの装置の表示値がSnめっき層厚となる。ついで再度電解をスタートさせて次に装置が止まるまでの間にCu−Sn合金層が電解され、終了時点での表示値がCu−Sn合金層の厚みに相当する。
Cu/Ni下地めっき層の場合のNiめっき層の厚みは、はじめに電解液R−50を使用して上記のようにSnめっき層及びCu−Sn合金層の厚みを測定した後、スポイトで電解液R−50を吸い取りだし、純水で入念に水洗いしてから電解液R−54に交換し、Niめっき層の厚みを測定する。
【0029】
(b)めっき層断面観察によるCuめっき層厚の測定
上記電解式膜厚計では銅合金上のCuめっき厚を測定できないことから、めっき層の断面をSEMで観察することによりCuめっき層の厚さを求めた。
圧延方向に対して平行方向の断面が観察できるように試料を樹脂埋めし、観察面を機械研磨にて鏡面に仕上げた後、SEMにて倍率2000倍で反射電子像、母材成分とめっき成分の特性X線像を撮影する。反射電子像では各めっき層、例えばCu下地Snめっきの場合はめっき表層からSnめっき層、Cu−Sn合金層、Cuめっき層、母材の順に色調のコントラストがつく。また、特性X線像では、Snめっき層はSnのみ、Cu−Sn合金層はSnとCu、母材はその含有成分が検出されることから、Cuのみが検出されている層がCuめっき層であることがわかる。よって、特性X線像ではCuのみが検出されている層であり、かつ、他とは色調のコントラストが異なる層の厚みを反射電子像で測ることによりCuめっき層の厚みを求めることが出来る。厚みは反射電子像上で任意に5箇所の厚みを測定しその平均値をCuめっき層厚とする。
ただし、この方法では電解式膜厚法に比べ極狭い範囲の厚みしか求めることが出来ない。そこで、この観察を10断面行い、その平均値をCuめっき厚とした。
【0030】
(c)GDSによる平均窒素濃度測定
リフロー後の試料をアセトン中で超音波脱脂した後、GDS(グロー放電発光分光分析装置)により、窒素濃度の平均値を求めた。測定条件は次の通りである。
・装置:JOBIN YBON社製 JY5000RF−PSS型
・Current Method Program:CNBinteel−12aa−0
・モード:定常電圧=40W
・Ar圧:775Pa
・電流値:40mA(700V)
・フラッシュ時間:20秒
・予備加熱時間:2秒
・測定(分析)時間=30秒、Sampling Time=0.020sec/point
【0031】
(d)耐熱性(加熱後の接触抵抗)
耐熱性の評価として、150℃で300h加熱した後の接触抵抗を測定した。接触抵抗は、山崎精機研究所製電気接点シュミレータCRS−113−Au型を用い、四端子法により、電圧200mV、電流10mA、摺動荷重0.49Nで測定した。加熱後の接触抵抗が10mΩ以下であると、通常の導電性ばね材として好適に使用できる。
【0032】
(e)半田濡れ性
JIS−C0053の半田付け試験方法(平衡法)に準じ、リフロー後の材料と鉛フリー半田との濡れ性を評価した。試験はレスカ社製SAT−2000 ソルダーチェッカーを用い、下記条件で行った。得られた荷重/時間曲線より、浸漬開始から表面張力による浮力がゼロ(即ち半田とサンプルの接触角が90°)になるまでの時間をはんだ濡れ時間(t2)(秒)として求めた。t2が3秒以下であると、通常の導電性ばね材として好適に使用できる。
【0033】
試験条件の詳細は以下の通りである。
(フラックス塗布)
・フラックス:25%ロジン−エタノール
・フラックス温度:室温
・フラックス深さ:20mm
・フラックス浸漬時間:5秒
・たれ切り方法:ろ紙にエッジを5秒当ててフラックスを除去し、装置に固定して30秒保持。
(はんだ付け)
・はんだ組成:千住金属工業株式会社製、商品名H60A(60Sn−40Pb)
・はんだ温度:235℃
・はんだ浸漬速さ:25±2.5mm/s
・はんだ浸漬深さ:2mm
・はんだ浸漬時間:10秒
【0034】
(f)耐磨耗性
板厚0.2mmの黄銅−Snめっき材を準備した。Snめっきは電着時の厚みがそれぞれSn=1.2μm、Cu=0.6μmのリフローSnめっき材である。この黄銅−Snめっき材に対し、高さ0.2mm、半径0.6mmの張り出し(エンボス)加工を行い、半球状の突起を施した端子を作成する。この端子と本発明のSnめっき材を図2に示すように配置し、端子に荷重300gを負荷しながら、速度5mm/secの速さで本発明のSnめっき材を150回往復させる。摺動後の本発明Snめっき材の外観を観察するとともに、摺動部の最大深さ(μm)を表面粗さ計(株式会社小坂研究所製、サーフコーダーSE1600)を用いて測定した。摺動痕の最大深さが3μm以下の場合に良好な耐磨耗性が得られたと判断した。
【0035】
(g)曲げ加工性
試験片の長手方向が圧延方向と平行となるように、幅10mm、長さ30mmの短冊形状の試験片を作製し、JISH3110に規定されたW曲げ試験を実施した。曲げ半径は、板厚値とした。曲げ後の試料につき、曲げ部の断面のSEM観察から亀裂の有無を観察し、母材まで亀裂が入っていない場合を○とし、母材まで亀裂が入っている場合を×と評価した。
【0036】
(h)めっき剥離
幅10mm、長さ50mmに切り出した試料を145℃で1000時間加熱した後、その一端を万力に固定し、90°曲げ(曲げ半径r=0mm)を行ってから、元の位置に戻すことを一回行った。次に、曲げ外周にテープ(Scotch Brand Tape;3M製)を貼り付け、剥がした後、テープおよび曲げ外周を光学顕微鏡で観察し、めっき剥離の有無を調べた。めっき剥離がない場合を○とし、めっき剥離がある場合を×とした。
【0037】
表2及び表3にめっき各層の厚み、リフロー条件、母材の硬さが耐磨耗性に及ぼす影響を示す結果を示す。
【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
(a)Cu下地の場合
本発明の発明例1〜4は、Cu−Sn合金層の平均窒素濃度、Cu−Sn合金層の厚み及び純Sn厚みが本発明の範囲内であり、かつ本発明の式を満たしたため、耐磨耗性に優れ、耐熱性、半田濡れ性、曲げ加工性にも優れていた。
比較例1〜5は本発明の式を満たさないため、耐磨耗性が悪かった。
比較例6はリフロー時間を長くすることで、Cu−Sn合金層の厚みを厚くしたため、本発明の式は満たすが、純Sn層の厚みが薄いため、接触抵抗および半田濡れ時間が増加している。
比較例7はCu−Sn合金層の平均窒素濃度、Cu−Sn合金層の厚みが本発明の範囲内であり、かつ本発明の式を満たしているが、純Sn厚みが1.59μmと厚いため、めっきが剥離した。
【0041】
(b)Cu/Ni下地めっきの場合
本発明の発明例5〜16は、Cu−Sn合金層の平均窒素濃度、Cu−Sn合金層の厚み及び純Sn厚みが本発明の範囲内であり、かつ本発明の式を満たしたため、耐磨耗性に優れ、耐熱性、半田濡れ性、曲げ加工性にも優れていた。
特に発明例11は、平均窒素濃度が、0.092質量%と比較的高いが本発明の範囲内の濃度であるため、比較例14とは異なり、Cu−Sn合金層が0.76μmと比較的薄くかつ母材ビッカース硬さが150と比較的低くても耐磨耗性が良好であった。
発明例14は、母材のビッカース硬さが304と高いため、平均窒素濃度が0.012質量%と比較的低く、Cu−Sn合金層が0.42μmと薄くても、耐磨耗性が良好であった。
【0042】
比較例8ではリフロー時間が短いためCu−Sn合金層の厚みが薄く、上記式を満たさないため、耐磨耗性が悪かった。
比較例9、10、12、13ではリフロー時間を長くし、Cu−Sn合金層の厚みを厚くしているが、純Sn層の厚みが薄いため、接触抵抗及び半田濡れ時間が増加している。
比較例11は、電気めっき時のSn厚みを2.0μmと厚くし比較例10と同じリフロー条件でリフローしたものである。Cu−Sn合金層が2.46μmと厚すぎるため、比較例10と同様に耐磨耗性には優れているものの、曲げ加工性が悪かった。
【0043】
比較例14はCu−Sn合金層中の平均窒素濃度が0.1質量%を超えているため、磨耗試験後の摺動痕の深さが3μmを超え、耐磨耗性が悪かった。従って、Cu−Sn合金層中の平均窒素濃度が高すぎると耐磨耗性が悪化することがわかる。
比較例15は、Cu−Sn合金層中の平均窒素濃度が0.009質量%と低いため、Cu−Sn合金層の硬さが不足し、十分な耐磨耗性が得られなかった。
比較例16は、リフロー時間が短いため、Cu−Sn合金層の厚みが0.38μmと薄くなり、耐磨耗性が悪かった。
比較例17は、純Sn厚みが1.62μmと厚いため、めっきが剥離した。
【0044】
実施例の中から平均窒素濃度が0.020%である例を抽出し、母材のビッカース硬さとCu−Sn合金層の厚みの関係をプロットし、耐磨耗性を評価した結果を図3に示す。図中の●が耐磨耗試験後の磨耗痕の深さが3μm以下となったプロットで、×が深さが3μmより大きくなったプロットである。●と×の境目となる直線を引くと、その傾きは−0.008であり、本発明の式中の母材のビッカース硬さの係数と同じとなり、その妥当性が示されている。
同様にして、実施例の中から母材のビッカース硬さがHv150である例を抽出し、Cu−Sn合金層中の平均窒素濃度とCu−Sn合金層厚みの関係をプロットし、耐磨耗性を評価した結果が図4である。●と×の境目となる直線を引くと、傾きとして−9が得られ、本発明の式中の平均窒素濃度の係数と同じとなり、その妥当性が示されている。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】発明例4(Cu下地めっき)のGDS分析結果である。
【図2】めっき耐磨耗性試験の説明図である。
【図3】JIS Z 2244に準拠した母材のビッカース硬さとCu−Sn合金層の厚みと耐磨耗性の関係を示すグラフである。
【図4】Cu−Sn合金層中の平均窒素濃度とCu−Sn合金層厚みと耐磨耗性の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅合金条の表面に、下地めっき、Snめっきの順で電気めっきを施し、その後、リフロー処理を施しためっき条であり、リフロー後に得られるCu−Sn合金層の平均窒素濃度が0.01〜0.1質量%で、Cu−Sn合金層の厚みが0.4〜2.0μm、純Sn厚みが0.5μm以上であり、かつ母材のビッカース硬さ、Cu−Sn合金層の厚み(μm)、及びCu−Sn合金層の平均窒素濃度(質量%)が下記の関係にあることを特徴とする耐磨耗性に優れた銅合金すずめっき条。
(Cu−Sn合金層の厚み)>2.63−0.0080×(母材のビッカース硬さ)−9×(平均窒素濃度)
【請求項2】
表面から母材にかけて、Sn層、Cu−Sn合金層、Cu層の各層でめっき皮膜が構成され、Sn層の厚みが0.5〜1.5μm、Cu−Sn合金層の厚みが0.4〜2.0μm、Cu層の厚みが0〜0.8μmであることを特徴とする請求項1の耐磨耗性に優れた銅合金すずめっき条。
【請求項3】
表面から母材にかけて、Sn層、Cu−Sn合金層、Ni層の各層でめっき皮膜が構成され、Sn層の厚みが0.5〜1.5μm、Cu−Sn合金層の厚みが0.4〜2.0μm、Ni層の厚みが0.1〜0.8μmであることを特徴とする請求項1の耐磨耗性に優れた銅合金すずめっき条。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−173989(P2009−173989A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−12811(P2008−12811)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】