説明

耐箔バリ性に優れた転写材の製造方法と転写材

【課題】より一層耐箔バリ性と耐磨耗性に優れ、また、被転写物曲面部において追随性に優れた保護層を備えた転写材を得る。
【解決手段】離型性を有する基材シート11上に転写層20が設けられた転写材1において、転写層20に含まれる保護層21が、(メタ)アクリル当量100〜300g/eq、水酸基価20〜500、重量平均分子量5000〜50000のポリマーAと多官能イソシアネートからなる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物と、粒子表面に遊離シラノール基を有するコロイダルシリカ粒子を混合した保護層材料を用いて作製された熱架橋前保護層を加熱して生成された、ポリマーA、多官能イソシアネートとコロイダルシリカ粒子との熱架橋反応生成物を含む保護層21である転写材1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プラスチック製品や金属製品などの被転写物に転写層を転移させて加飾するための転写材に関する。より詳しくは、基材フィルムを剥離する際に、転写領域以外の転写層が被転写物の表面に残留しないようにした箔バリ防止転写材であって、また、耐摩耗性に優れた転写領域を有する転写材に関するものである。転写領域とは、転写材に形成された転写層のうち被転写物への転移が必要な領域をいう。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂成形品、内装材、建具、家具、雑貨等の各種物品の表面加飾の為に、転写材が使用されている。
【0003】
転写材の基材フィルム上に形成された転写層は、保護層(剥離層と呼ばれる場合もある)、絵柄層、接着層などを有するのが一般的である。転写層の面積と被転写物の被転写面の面積とを完全一致させることは、見当合わせなどの点で現実的でないため、転写材の転写層の面積が被転写物の被転写面の面積より大きくなるように設定される。このため、転写材の転写層は、被転写面に接した転写領域と被転写面に接しない非転写領域に区分され、この間に境界(当該境界線を仕切り線と呼ぶ場合がある)ができる。被転写物に転写層を接着させた後、基材フィルムを剥離する際、仕切り線において転写層が奇麗に剪断され、転写領域の転写層は被転写物に転写し、非転写領域の転写層は基材フィルムと共に除去されれば問題は生じない。
【0004】
しかし、被転写物に転写層を接着させた後、基材フィルムを剥離すると、前記仕切り線付近の非転写領域の転写層は、転写領域の転写層に引っ張られて、被転写物の表面にベロ状となって残留してしまう。これが、いわゆる「箔バリ」である。
【0005】
図5は、従来の転写材101を使用して転写層20を被転写物31に転写後に、基材シート11を剥離している状態を示した説明図である。破線142が仕切り線である。線分141で示す箔バリが生じている。
【0006】
この箔バリを除去するためには、吸引装置などの箔バリ除去装置で除去するか、手作業で地道に取り去るなどの作業を必要としている。箔バリが多いと箔バリ除去作業に時間や手間がかかり、転写物品の製造コストが押し上げられたり、転写加工時や成形同時転写加工時に転写器具や金型を汚したりなどの不具合が生じる。このため、転写材の基本的性能として箔バリ低減(耐箔バリ性と呼ばれる場合もある)が求められる。
【0007】
また、被転写物の被転写面の耐久性を増すために、転写材の基本的性能として、保護層の耐磨耗性も求められる。
【0008】
転写材は転写シートと呼ばれる場合もある。
【0009】
従来の転写シートは、耐磨耗性と耐箔バリ性を良くするために、離型性を有する支持体シート上に設けられた転写層のうち、支持体シートに近い少なくとも1層を、樹脂バインダー中に該樹脂バインダーより高硬度で立方体状の無機物粒子を含有する硬質膜層としたものがある。(例えば、特許文献1参照。)。
【0010】
また、従来の他の転写シートは、耐磨耗性と耐箔バリ性を良くするために、離型性を有する基材シート上に設けられた層のうち基材シート面に近い少なくとも一層を、平均粒径が0.01〜15μmの金属酸化物球粒体を10〜90重量%含む硬質膜層としたものがある。(例えば、特許文献2参照。)。
【0011】
さらに、従来転写材の保護層に、(メタ)アクリル当量100〜300g/eq、水酸基価20〜500、重量平均分子量5000〜50000のポリマーと多官能イソシアネートとを有効成分として含有する、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を使用している。当該組成物を用いると、耐磨耗性および耐薬品性に優れた成形品を低コストで得ることができる。(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開2001−232994号公報
【特許文献2】特開平5−139093号公報
【特許文献3】特開10−58895号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1と特許文献2に記載された転写材は、樹脂と無機物粒子を混合した硬質膜層を採用している。ここで無機物粒子は単に樹脂と混合されているのみである。このため、期待するほどの強固な膜は得られにくく、保護層の飛躍的な耐磨耗性の向上にはつながらない。また、耐箔バリ性の向上には、無機物粒子を高濃度で添加する必要がある。
【0013】
特許文献1及び特許文献2に開示された硬質膜層をより一層耐磨耗性と耐箔バリ性に優れたものにするために、無機物粒子の混合割合を増加させることが考えられるが、無機物粒子が大きいなどの理由から、混合割合を増加させると硬質膜層の透明性が悪くなり、硬質膜層の可撓性が低下するなどの弊害が生じる。
【0014】
特許文献3に開示された樹脂組成物を使用した保護層は、転写加工時に柔軟性を有する膜であり、成形品曲面部においてクラックの発生が抑制される特性を有する。しかし、転写加工の条件下で、粘性が高く、他の樹脂組成物に比較して箔バリが発生しやすい。
【0015】
そこで、本発明は、より一層耐箔バリ性と耐磨耗性に優れた保護層を備えた転写材の製造方法を得ることを課題とする。また、本発明は、被転写物曲面部においてクラックの発生が抑制される転写材の製造方法を得ることを課題とする。
【0016】
さらに、本発明は、より一層耐箔バリ性と耐磨耗性に優れた保護層を備えた転写材を得ることを課題とする。また、本発明は、被転写物曲面部においてクラックの発生が抑制される転写材を得ることを課題とする。
【0017】
本発明のその他の課題は、本発明の説明により明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の一の態様にかかる転写材の製造方法は、以下の工程からなる。
イ.(メタ)アクリル当量100〜300g/eq,水酸基価20〜500、重量平均分子量5000〜50000のポリマーAと多官能イソシアネートからなる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物と、粒子表面に遊離シラノール基を有するコロイダルシリカ粒子を混合し、保護層材料を製造する工程。
ロ.離型性を有する基材シート上に、前記保護層材料を付着して、熱架橋前保護層を形成する工程。
ハ.前記熱架橋前保護層を加熱して、ポリマーA、多官能イソシアネートとコロイダルシリカ粒子との熱架橋反応生成物を生成し、保護層を形成する工程。
【0019】
本発明において、(メタ)アクリル当量は、アクリル当量とメタクリル当量の和を意味する。
【0020】
本発明の好ましい実施態様において、前記コロイダルシリカ粒子の一次粒子径が1〜200nmであってもよい。
【0021】
本発明の他の好ましい実施態様において、前記保護層材料における、コロイダルシリカ粒子/ポリマーAの固形分重量比が0.2〜1.0であってもよい。
【0022】
本発明の他の態様にかかる転写材は、離型性を有する基材シート上に転写層が設けられた転写材において、前記転写層に含まれる保護層が、(メタ)アクリル当量100〜300g/eq、水酸基価20〜500、重量平均分子量5000〜50000のポリマーAと多官能イソシアネートからなる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物と、粒子表面に遊離シラノール基を有するコロイダルシリカ粒子を混合した保護層材料を用いて作製された熱架橋前保護層を加熱して生成された、ポリマーA、多官能イソシアネートとコロイダルシリカ粒子との熱架橋反応生成物を含む保護層である。
【0023】
本発明の好ましい実施態様において、前記コロイダルシリカ粒子は、一次粒子径が1〜200nmであってもよい。
【0024】
本発明の他の好ましい実施態様において、前記保護層材料における、コロイダルシリカ粒子/ポリマーAの固形分重量比が0.2〜1.0であってもよい。
【0025】
以上説明した本発明、本発明の好ましい実施態様、これらに含まれる構成要素は可能な限り組み合わせて実施することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明にかかる転写材の製造方法は、その他の構成とともに、ポリマーA、多官能イソシアネートとコロイダルシリカ粒子との熱架橋反応生成物を含む保護層を有する転写材を提供する方法である。また、本発明の他の態様にかかる転写材は、その他の構成とともに、ポリマーA、多官能イソシアネートとコロイダルシリカ粒子との熱架橋反応生成物を含む保護層を有する。
【0027】
熱架橋反応では、コロイダルシリカ粒子の遊離シラノール基とポリマーAの水酸基がイソシアネートと反応して、熱架橋反応生成物(以下「Si熱架橋反応生成物」と呼ぶ場合がある)となる。対して従来のポリマーAと多官能イソシアネートとの熱架橋反応生成物を「NonSi熱架橋反応生成物」と呼ぶ場合がある。
【0028】
転写材を使用する転写加工工程は、転写過程と剥離過程を含む。転写過程は転写材中の転写層が被転写物に移行する過程であり、剥離過程は被転写物から転写材(基材シート)が剥がされる過程である。転写過程の温度領域(転写温度領域と呼ぶ場合がある)は、剥離過程の温度領域(剥離温度領域と呼ぶ場合がある)よりも高い。
【0029】
Si熱架橋反応生成物は、NonSi熱架橋反応生成物に比較してガラス転移点が高温度側に移動する。また、Si熱架橋反応生成物は、NonSi熱架橋反応生成物に比較して、剥離温度領域において粘性が低下する。換言すれば、Si熱架橋反応生成物よりなる膜は、高温時は当該樹脂本来の伸びやすい性質を示し、低温時はガラスに類似する脆い性質を示す膜となる。
【0030】
つまり、本発明にかかる転写材中の保護層は、剥離温度領域において、粘性が低くなるために、仕切り線において転写層が奇麗に剪断される。このため、耐箔バリ性が向上する。
【0031】
同時に、本発明にかかる転写材中の保護層は、転写温度領域において、粘性が十分に高く被転写物の曲面に保護層などの転写層が追随するので、被転写物曲面部においてクラックの発生が抑制される。
【0032】
また、ポリマーAと多官能イソシアネートは、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物であり、保護層を構成している。被転写物に転写された保護層に活性エネルギー線を照射すれば、ポリマーAに含まれるエチレン性不飽和基がラジカル重合により架橋反応し、架橋硬化物を生成する。そして硬質のシリカ粒子が架橋硬化物の中に取り込まれている。このため、被転写物上に転写された保護層の耐摩耗性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面を参照して本発明の実施例にかかる転写材の製造方法と転写材をさらに説明する。本発明の実施例に記載した部材や部分の寸法、材質、形状、その相対位置などは、とくに特定的な記載のない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例にすぎない。特に、転写材の断面図は、転写材の層構成を明確にする観点から上下縮尺と左右縮尺を変更して描かれている。
【0034】
図1は本発明にかかる転写材の断面説明図である。転写材1は、基材シート11の一方面に保護層21、絵柄層22、接着層23を順に形成したものである。図1中にはまた、被転写物31を破線で示している。保護層21、絵柄層22、接着層23は、被転写物31に転写される層であり、転写層20と総称する。
【0035】
保護層21は、転写後または成形同時転写後に基材シート11を剥離した際に基材シート11または離型層から剥離して転写物の最外層となり、薬品や摩擦から被転写物31や絵柄層22を保護するための層である。保護層21を形成するための保護層材料は、熱架橋反応と活性エネルギー線硬化反応を生じる樹脂組成物と、粒子表面に遊離シラノール基を有するコロイダルシリカ粒子の混合物である。
【0036】
上記樹脂組成物は、(メタ)アクリル当量100〜300g/eq、水酸基価20〜500、重量平均分子量5000〜50000のポリマーAと多官能イソシアネートからなる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物である。その詳細は、特開平10−58895号公報に詳述されている。以下、ポリマーAと多官能イソシアネートからなる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を簡単に説明する。
【0037】
ポリマーAは、活性エネルギー線照射時の硬化性の点から、(メタ)アクリル当量は100〜300g/eq、好ましくは150〜300g/eqとされる。また、併用する多官能イソシアネートとの反応性の点から、ポリマーAの水酸基価は20〜500、好ましくは100〜300とされる。ポリマーAの重量平均分子量は、5000〜50000、好ましくは8000〜40000である。
【0038】
ポリマーAの製造方法としては、特に限定はなく、従来公知の方法を採用できる。例えば、(1)水酸基を含有する重合体の側鎖の一部に(メタ)アクリロイル基を導入する方法、(2)カルボキシル基を含有する共重合体に水酸基を含有するα,β−不飽和単量体を縮合反応させる方法、(3)カルボキシル基を含有する共重合体にエポキシ基を含有するα,β−不飽和単量体を付加反応させる方法、(4)エポキシ基含有重合体にα,β−不飽和カルボン酸を反応させる方法などがある。
【0039】
方法(4)を例にとり、ポリマーAの製造方法をより具体的に説明する。例えば、グリシジル基を有するポリマーにアクリル酸などのα,β−不飽和カルボン酸を反応させる方法により本発明で用いるポリマーAを得ることができる。グリシジル基を有するポリマーとして好ましいのは、例えば、グリシジル(メタ)アクリレートの単独重合体、およびグリシジル(メタ)アクリレートとカルボキシル基を含有しないα,β−不飽和単量体との共重合体等が挙げられる。このカルボキシル基を含有しないα,β−不飽和単量体としては、各種の(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、酢酸ビニル、アクリロニトリルなどが例示できる。
【0040】
ポリマーAと併用する多官能イソシアネートとしては、格別の限定はなく、公知の各種を使用できる。たとえば、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニールメタンジイソシアネート、1,6−ヘキサンジイソシアネート、上記の3量体、多価アルコールと上記ジイソシアネートを反応させたプレポリマーなどを用いることができる。ポリマーAと多官能イソシアネートの使用割合は、ポリマーA中の水酸基数とイソシアネート基数との割合が1/0.01〜1/1、好ましくは1/0.05〜1/0.8となるように決定される。
【0041】
コロイダルシリカ粒子は遊離シラノール基の量が1〜50(counts/nm)である。遊離シラノール基の量が上記範囲であると反応性に富み、好ましい。コロイダルシリカ粒子は、一次粒子径が、通常1〜200nm、好ましくは10〜50nmである。この範囲にあると、箔バリ抑制の効果が発揮され、また、保護膜に透明性が失われることがない。また、粒子径が10〜20nm範囲のコロイダルシリカが市販されており、容易かつ安価に入手可能である。
【0042】
コロイダルシリカ粒子とポリマーAの混合割合は、コロイダルシリカ粒子/ポリマーA=0.2〜1.0(固形分重量比)である。当該割合が少なすぎると箔バリ抑制の効果がなく、多すぎると転写時あるいは成形同時転写時にクラックが起こりやすくなる。また、コロイダルシリカ粒子/ポリマーA=0.4〜1.0、より好ましくは0.8〜1.0(固形分重量比)にすれば、保護層の耐磨耗性が一層向上する。
【0043】
保護層21に用いる保護層材料は、ポリマーA、多官能イソシアネート、コロイダルシリカ粒子以外に、必要に応じて以下のような成分を含有することができる。すなわち、反応性希釈モノマー、溶剤、着色剤などである。また、活性エネルギー線照射に際して電子線を用いる場合には、光重合開始剤を用いることなく充分な効果を発揮することができるが、紫外線を用いる場合には、公知各種の光重合開始剤を添加する必要がある。
【0044】
保護層材料は、エチレン性不飽和基と水酸基とイソシアネート基と、コロイダルシリカの粒子表面にあるシラノール基を含む。この活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を加熱すると水酸基、シラノール基とイソシアネート基とが反応し、樹脂が架橋される。また、この活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を活性エネルギー線に露出するとエチレン性不飽和基が重合する。つまり、保護層21を形成する保護層材料は、熱および活性エネルギー線の両方により架橋される。
【0045】
保護層21の付着方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、リップコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。一般に、保護層21は0.5〜30μm、好ましくは2〜15μmの厚さに形成する。この範囲とすれば、耐摩耗性を発揮することができる。また、より一層耐箔バリ性が向上する。
【0046】
上記保護層を付着した後、例えば、150℃で1分間加熱し、熱架橋反応を行う。
【0047】
<剥離温度領域の測定>
剥離温度領域の概略値を知るために、成形同時転写加工直後に金型キャビティに残った成形品の見切り部(輪郭部))の温度を測定した。図2は温度測定を行った部位を示す金型などの断面説明図である。図2中、51はA金型、52はB金型、53は射出口、54は成形品、20は転写層、55は転写材連続シート、61は見切り部を示す矢印である。
【0048】
(結果)
表1に温度測定結果を示す。
【0049】
【表1】

【0050】
樹脂温度は溶融樹脂を金型内に射出した時の樹脂の温度である。見切り部温度は、成形同時転写加工直後に測定した値である。金型温度は金型温度調節機構の設定温度である。金型の温度は、樹脂射出時には一旦上昇するが、金型が金属であるなどの理由から急速に冷えて設定温度に戻る。金型は冷却機構を備えるものと、備えないものがあるが、上述した温度変化、つまり、一旦上昇と急速な設定温度復帰はどちらも同様である。
【0051】
箔バリは成形同時転写後、あるいは転写後、基材シートから転写層がはがされるときの見切り部分において転写層(転写膜)がせん断破壊されるか、されないかという現象であり、その時の見切り部分の膜の状態(粘性)がせん断破壊されるかどうかを決定する。温度測定結果から、剥離領域の温度は、中央値が81℃〜98℃、温度範囲として70℃付近〜110℃付近の温度領域であることが推定される。
【0052】
また、転写温度領域は285℃又は250℃以下であり、さらに金型の冷却を考慮すれば、200℃付近を中央値とする温度領域であると推定される。
【0053】
<粘性測定>
ポリマーA、多官能イソシアネートからなる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物にコロイダルシリカ粒子を混合し、加熱してSi熱架橋反応生成物からなる塗膜を作成し、温度を変更して塗膜の粘性を測定した。また、対照としてポリマーA、多官能イソシアネートからなる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を加熱してNonSi熱架橋反応生成物からなる塗膜を作成し、同様に粘性を測定した。
【0054】
(測定装置と方法)
測定装置は剛体振り子型物性試験器(株式会社エー・アンド・デイ:RPT-3000W)を使用した。本試験機は塗膜の表面を支点として振り子を振動させ、その減衰から動的な粘性測定を行う装置である。対数減衰率の値は粘性を表し、その値が大きいほど粘性が高いこと示す。昇温速度:12℃/分で温度を上げながら測定を行い、対数減衰率と温度の関係をグラフにした。測定結果グラフにおいて、山のピークにあたる温度が塗膜のガラス転移温度(Tg)に相当する。
【0055】
(樹脂組成物の組成と塗膜の作成方法)
下記のポリマーA(a)200部(固形分100部)、多官能イソシアネート(b)5部、光開始剤(d)5部に
・コロイダルシリカ粒子を入れないもの、
・コロイダルシリカ粒子(c)を133部入れたもの(固形分重量比でコロイダルシリカ粒子/ポリマーA=0.4であった)、
・コロイダルシリカ粒子(c)を267部入れたもの(固形分重量比でコロイダルシリカ粒子/ポリマーA=0.8であった)、
としたコーティング液を厚さ20μmになるように測定用基板にアプリケーターでコートし、150℃で1分間加熱した。
【0056】
生じたSi熱架橋反応生成物をP1(固形分重量比0.4)、P2(固形分重量比0.8)、NonSi熱架橋反応生成物をQ1とした。
【0057】
○ポリマーA(a)
グリシジルメタアクリレート、メチルメタアクリレート、アゾビスイソブチロニトリルを主成分とするポリマーであり、
主たる物性は、
アクリル当量 270g/eq
水酸基価 204
重量平均分子量 18,000
固形分 50%
分散媒 酢酸エチル
であった。
○多官能イソシアネート(b):1,6−ヘキサンジイソシアネート(商品名コロネートHX、日本ポリウレタン工業株式会社製)
○コロイダルシリカ粒子(c):(商品名オルガノシリカゾルMEK−ST、一次粒子径10〜20nm、日産化学工業株式会社製、遊離シラノール基は、1〜50(counts/nm)、固形分30%)
○光開始剤(d):商品名イルガキュアー184、チバガイギー社製
【0058】
(結果)
測定結果グラフを図3に示した。
【0059】
75℃付近から110℃付近の温度範囲において、P1、P2はQ1に比較して小さい対数減衰率(すなわち小さい粘性値)を示した。上記の温度測定結果で示したように、75℃付近から110℃付近の温度範囲は、剥離温度領域であり、この温度領域において粘性が小さいことは、耐箔バリ性が良好であることを示している。また、75℃付近から110℃付近の温度範囲において、P2はP1よりも小さい対数減衰率(すなわち小さい粘性値)を示しており、コロイダルシリカ粒子の混合割合が大きいほうが、粘性値が小さくなる傾向にあった。
【0060】
また、ガラス転移点温度は、低い方から順にQ1、P1、P2であった。
【0061】
さらに、200℃付近では、P1、P2とQ1の対数減衰率(すなわち粘性値)は略同一であった。上記の温度測定結果から類推されるように、200℃付近は転写温度領域である。そして、対照に選定したQ1は、従来、被転写物曲面部においてクラックの発生抑制に優れる保護層部材である。よって、本発明にかかるP1、P2は、被転写物曲面部においてクラックの発生抑制が、従来のQ1と同程度に優れていることが明らかになった。
【0062】
離型性を有する基材シート11としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂などの樹脂シートなど、通常の転写材の基材シートとして用いられるものを使用することができる。
【0063】
基材シート11からの転写層20の剥離性が良い場合には、基材シート11上に転写層20を直接設ければよい。基材シート11からの転写層20の剥離性を改善するためには、基材シート11上に転写層20を設ける前に、離型層を全面的に形成してもよい。離型層は、転写後または成形同時転写後に基材シート11を剥離した際に、基材シート11とともに転写層20から離型する。離型層の材質としては、メラミン樹脂系離型剤、シリコーン樹脂系離型剤、フッ素樹脂系離型剤、セルロース誘導体系離型剤、尿素樹脂系離型剤、ポリオレフィン樹脂系離型剤、パラフィン系離型剤およびこれらの複合型離型剤などを用いることができる。離型層の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、スプレーコート法、リップコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0064】
絵柄層22は、保護層21の上に、通常は印刷層として形成する。印刷層の材質としては、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド樹脂などの樹脂をバインダーとし、適切な色の顔料または染料を着色剤として含有する着色インキを用いるとよい。絵柄層22の形成方法としては、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの通常の印刷法などを用いるとよい。特に、多色刷りや階調表現を行うには、オフセット印刷法やグラビア印刷法が適している。また、単色の場合には、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、リップコート法などのコート法を採用することもできる。絵柄層22は、表現したい絵柄に応じて、全面的に設ける場合や部分的に設ける場合もある。また、絵柄層22は、金属蒸着層からなるもの、あるいは印刷層と金属蒸着層との組み合わせからなるものでもよい。
【0065】
接着層23は、被転写物31表面に上記の各層を接着するものである。接着層23は、保護層21または絵柄層22上の、接着させたい部分に形成する。すなわち、接着させたい部分が全面的なら、接着層23を全面的に形成する。また、接着させたい部分が部分的なら、接着層23を部分的に形成する。接着層23としては、被転写物31の素材に適した感熱性あるいは感圧性の樹脂を適宜使用する。たとえば、被転写物31の材質がポリアクリル系樹脂の場合はポリアクリル系樹脂を用いるとよい。また、被転写物31の材質がポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン共重合体系樹脂、ポリスチレン系ブレンド樹脂の場合は、これらの樹脂と親和性のあるポリアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを使用すればよい。さらに、被転写物31の材質がポリプロピレン樹脂の場合は、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂が使用可能である。接着層23の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。なお、保護層21や絵柄層22が被転写物31に対して充分接着性を有する場合には、接着層23を設けなくてもよい。
【0066】
また、転写層20の構成は、上記した態様に限定されるものではなく、たとえば、被転写物31の地模様や透明性を生かし、表面保護処理だけを目的とした転写材を用いる場合には、基材シート11の上に保護層21、および接着層23を上述のように順次形成して転写層20より絵柄層22を省略することができる
【0067】
以下、前記した層構成の転写材1を用いる成形品の製造方法について説明する。まず、接着層23側を下にして、被転写物31上に転写材1を配置する。次に、耐熱ゴム状弾性体、例えばシリコンラバーを備えたロール転写機、アップダウン転写機などの転写機を用い、耐熱ゴム状弾性体を介して転写材1の基材シート11側から熱または/および圧力を加える。これにより、接着層23が被転写物31表面に接着する。冷却後に基材シート11を剥がすと、基材シート11と保護層21との境界面で剥離が起こる。また、基材シート11上に離型層を設けた場合は、基材シート11を剥がすと、離型層と保護層21との境界面で剥離が起こる。図4は、転写層20を被転写物31に転写後に、基材シート11を剥離している状態を示した説明図である。
【0068】
最後に、活性エネルギー線を照射することにより、被転写物31に転写された保護層21を完全に架橋硬化させる。活性エネルギー線としては、電子線、紫外線、γ線などを挙げることができる。照射条件は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に応じて定められる。
【0069】
被転写物31としては、材質を限定されることはないが、特に樹脂成形品、木工製品もしくはこれらの複合製品などを挙げることができる。これらは、透明、半透明、不透明のいずれでもよい。また、被転写物31は、着色されていても、着色されていなくてもよい。樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AN樹脂などの汎用樹脂を挙げることができる。また、ポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂などの汎用エンジニアリング樹脂やポリスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリアリル系耐熱樹脂などのスーパーエンジニアリング樹脂を使用することもできる。さらに、ガラス繊維や無機フィラーなどの補強材を添加した複合樹脂も使用できる。
【0070】
次に、転写材1を用い、射出成形による成形同時転写法を利用して樹脂成形品表面に耐磨耗性および耐薬品性を付与する方法について説明する。まず、A金型とB金型とからなる成形用金型内に転写層20を内側にして、転写材1を送り込む。この際、枚葉の転写材1を1枚づつ送り込んでもよいし、長尺の転写材1の必要部分を間欠的に送り込んでもよい。長尺の転写材1を使用する場合、位置決め機構を有する送り装置を使用して、転写材1の絵柄層22と成形用金型との見当が一致するようにするとよい。成形用金型を閉じた後、B金型に設けたゲートより溶融樹脂を金型内に射出充満させ、被転写物31を形成するのと同時にその面に転写材1を接着させる。樹脂成形品を冷却した後、成形用金型を開いて樹脂成形品を取り出す。基材シート11を剥がした後、活性エネルギー線を照射することにより保護層21を完全に架橋硬化させる。
【実施例1】
【0071】
<テーバー磨耗評価試験>
保護層材料中のコロイダルシリカ粒子の濃度を変えて(4種類)転写材を作成し、これを転写した成形品を作成し、転写後保護層のテーバー磨耗評価試験を行った。同時に目視による箔バリ評価も行った。
【0072】
(測定装置及び方法)
測定装置はテーバー磨耗試験機(テスター産業株式会社製)を使用した。その他の試験条件等は以下のとおりであった。
試験方法:ISO9352およびJIS K7204に準拠
磨耗輪:CS−10
荷重:500g
【0073】
(成形品の作成)
離型処理がなされた基材シート上に保護層塗膜/プライマー層/柄インク層/接着層を順次形成した成形同時転写材を作製し、ポリメチルメタクリレート成形樹脂を用いて成形同時転写加工により、100mm角の板状成形品を得て、これをテーバー磨耗試験に用いた。評価は柄が剥がれて下地が露出するまでの磨耗回数をカウントした。
【0074】
(樹脂組成物の組成と塗膜の作成方法)
ポリマーA(a)200部(固形分100部)、多官能イソシアネート(b)5部、光開始剤(d)5部に
・コロイダルシリカ粒子を入れないもの
・コロイダルシリカ粒子(c)を66部入れたもの(固形分重量比でコロイダルシリカ粒子/ポリマーA=0.2であった)、
・コロイダルシリカ粒子(c)を133部入れたもの(固形分重量比でコロイダルシリカ粒子/ポリマーA=0.4であった)、
・コロイダルシリカ粒子(c)を267部入れたもの(固形分重量比でコロイダルシリカ粒子/ポリマーA=0.8であった)、
としたコーティング液を固形分30%になるようにメチルエチルケトンで希釈して#18バーでバーコートし、150℃、30秒加熱し、以降プライマー層、柄インク層、接着層と順次バーコーターにより形成した。
【0075】
使用したポリマーA(a)、多官能イソシアネート(b)、コロイダルシリカ粒子(c)と光開始剤(d)は、上述の粘性測定に使用した材料と同一であった。成形同時転写後、基材シートを剥がし、照射量920mJのUV照射を行った。
【0076】
表2に評価試験結果を掲げた。
【0077】
【表2】

【0078】
(結果)
保護層材料にコロイダルシリカ粒子を加えた転写材は耐箔バリ性が良好であった。保護層材料にコロイダルシリカ粒子を加えた転写材を使用して作成した成形品は、下地が露出するまでの磨耗回数が多くなった。つまり耐磨耗性の向上が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】転写材1の断面説明図である。
【図2】温度測定を行った部位を示す金型などの断面説明図である。
【図3】対数減衰率(粘性値)と温度の関係を示すグラフである。
【図4】転写層20を被転写物31に転写後に、基材シート11を剥離している状態を示した説明図である。
【図5】従来の転写材101を使用し、転写層20を被転写物31に転写後に、基材シート11を剥離している状態を示した説明図である。
【符号の説明】
【0080】
1 転写材
11 基材シート
20 転写層
21 保護層
22 絵柄層
23 接着層
31 被転写物
51 A金型
52 B金型
53 射出口
54 成形品
55 転写材連続シート
61 見切り部分を示す矢印
101 従来の転写材
141 箔バリを示す線分
142 仕切り線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程からなる転写材の製造方法。
イ.(メタ)アクリル当量100〜300g/eq,水酸基価20〜500、重量平均分子量5000〜50000のポリマーAと多官能イソシアネートからなる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物と、粒子表面に遊離シラノール基を有するコロイダルシリカ粒子を混合し、保護層材料を製造する工程。
ロ.離型性を有する基材シート上に、前記保護層材料を付着して、熱架橋前保護層を形成する工程。
ハ.前記熱架橋前保護層を加熱して、ポリマーA、多官能イソシアネートとコロイダルシリカ粒子との熱架橋反応生成物を生成し、保護層を形成する工程。
【請求項2】
前記コロイダルシリカ粒子の一次粒子径が1〜200nmである請求項1に記載した転写材の製造方法。
【請求項3】
前記保護層材料において、コロイダルシリカ粒子/ポリマーAの固形分重量比が0.2〜1.0であることを特徴とする請求項1乃至2いずれか記載の転写材の製造方法。
【請求項4】
離型性を有する基材シート上に転写層が設けられた転写材において、
前記転写層に含まれる保護層が、
(メタ)アクリル当量100〜300g/eq、水酸基価20〜500、重量平均分子量5000〜50000のポリマーAと多官能イソシアネートからなる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物と、粒子表面に遊離シラノール基を有するコロイダルシリカ粒子を混合した保護層材料を用いて作製された熱架橋前保護層を加熱して生成された、
ポリマーA、多官能イソシアネートとコロイダルシリカ粒子との熱架橋反応生成物を含む保護層である転写材。
【請求項5】
前記コロイダルシリカ粒子は、一次粒子径が1〜200nmであることを特徴とする請求項4に記載した転写材。
【請求項6】
前記保護層材料において、コロイダルシリカ粒子/ポリマーAの固形分重量比が0.2〜1.0であることを特徴とする請求項4乃至5いずれか記載の転写材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−137219(P2009−137219A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−317801(P2007−317801)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】