説明

耐薬品性熱交換器

【発明の詳細な説明】
【0001】本発明は、熱交換器若しくは液体温度調節器に関するものであり、特に、その耐薬品性シートに関するものである。
【0002】
【従来の技術】薬液の反応速度はほとんどの場合温度に依存する。したがって、反応性が高い薬液の反応を正確に制御するには、特に精密な液温制御を必要とし、そのため熱交換器の伝熱基板の熱伝導率の高いことが要求される。これらの薬液は、腐食性が極めて高い場合が多く、また半導体ウェーハの処理液として使用する場合は、ごく微量の金属イオンもウェーハ表面を汚染することになるため、特に不純物溶出が非常に少ない事が要求される。この種の薬液の温度調節器としては、例えば図3R>3に示すようなものが用いられている。(特開平4−356695号公報参照)。
【0003】この温度調節器100は、熱良導性素材からなる一対の伝熱基板101、101を所定の間隔を隔てて対面状態で配接し、この一対の伝熱基板間に、耐薬品性素材、例えばフッ素樹脂により形成した側壁体103を介装して、一対の伝熱基板101、101により挟まれた空間を液密に囲んで、熱交換室104を形成する。
【0004】側壁体103には、薬液の入口105と出口106が設けられる。伝熱基板101の外面には、熱伝変換素子107、…の一側を熱授受可能に密接し、該素子107、…の他側には、熱良導性素材からなる板状ブロック中に冷却水が通過する流路109を備える放熱体108が熱授受可能に密接状態で設けられている。熱交換室104には、薬液、例えば、半導体のエッチング液などが入口105から導入され、所定温度に調節されて出口106から薬液槽へと送られる。
【0005】このような熱交換室104は、耐薬品性を高めるためと、薬液中に不純物の溶出を防ぐために、接液部には全てフッ素樹脂を用いている。伝熱基板101、101は熱良導性と対薬品性を両立するためにアルミニウムやステンレススチール、アルミナ或いはグラファイトなどのような熱良導性素材ので構成され、対向面102、102に、フッ素樹脂で対薬品性被覆をして伝熱基板が侵食されるのを防ぐとともに薬液中に不純物が溶出するのを防いでいる。
【0006】この伝熱基板に求められる基本的条件であるところの熱交換効率を高めるためには、フッ素樹脂の被覆は出来得る限り薄い方が良い。しかしながら、フッ素樹脂も他のプラスチックと同様にガスの透過があり、被覆と伝熱基板との間に気泡を発生し隙間を生じさせて、かえって熱伝導の妨げになったり、伝熱基板を腐食するため、熱交換効率と耐透過性の妥協する被覆厚さを選定していた。
【0007】そして、このような対薬品性被覆としては、ETFE(四フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂)やPFA(四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂)等のフッ素樹脂をシート状に加工して用いている。
【0008】ETFEは図4(a)に示す様な分子構造になっており、分子構造内には炭素原子(C)、フッ素原子(F)、水素原子(H)しか存在しないが、実際上は製造工程上分子内部に微量の金属イオンが存在する。炭素の鎖に結合しておおっているF原子の代わりにH原子がCに結合している部分が存在するが、このC−H結合のエネルギは、C−F結合に比べて弱く、薬液に接すると分子状態が不安定となり、このとき製造工程上分子内に含まれる微量の金属イオンが接液面より溶出しやすくなる。
【0009】またPFAの場合には、同様に、炭素の鎖に結合しておおっているF原子の代わりにO原子が結合し、ここにパーフルオロアルキル基が結合しておりこの部分が不純物と結合してしまう場合もあり、薬液と接する部分では不安定状態となり製造工程上分子内にある微量の金属イオンが溶出し易くなる。
【0010】
【解決すべき課題】本発明の目的は、薬液中に不純物溶出が少なく、かつ熱交換効率および熱交換器の耐食性がよい耐薬品性熱交換器を開示することにある。
【0011】
【課題の解決手段】本発明の第一要旨は、熱良導性素材から成り所定の間隔を隔てて対向して配設された一対の伝熱基板と、耐薬品性素材から成り前記一対の伝熱基板間に介在して該伝熱基板と共に熱交換室を液密に囲む側壁体と、該熱交換室を外部に開放する薬液出入口とを備えた熱交換器において、前記一対の伝熱基板の接液部をPTFEで被覆すると共に、伝熱基板の厚さ方向にPTFEの被覆の接着面側と非対向面側との間を貫通する小孔を設けたことを特徴とする耐薬品性熱交換器にある。
【0012】熱良導性素材としては、銅、アルミニウム或いはこれらの合金、ステンレススチール、アルミナなどの金属酸化物、グラファイトなどの非金属素材など、成形が容易なものが好ましく、表面をPTFEシート(フィルム)により被覆して用いるか、表面にPTFE皮膜を形成して用い、必要な剛性を備えていれば、自由に選択できる。
【0013】側壁体を構成する素材としては、その外面をPTFE素材で被覆したものでも良いが、製造の容易性及び信頼性の点で、それ自体がPTFEであることが望ましい。
【0014】PTFEは図2に示すように、炭素原子(C)とフッ素原子(F)とから成り、重合度が1万〜10万と非常に長い直鎖状高分子である。C−F結合は有機結合の中で最も強く、結合エネルギは110〜116kcal/molであり、C−C結合も強い結合である。そしてフッ素原子が炭素鎖を緊密に覆ってC−C結合を保護しており、分子内の原子の配列が緊密で対称的であるため電荷の分極が極めて小さい。このため、実質的にすべての工業用薬品に対して不活性である。
【0015】上記第一要旨にかかる熱交換器は、熱良導性素材から成り所定の間隔を隔てて対向して配設された一対の伝熱基板の対向面に、PTFE製シートで被覆、又はPTFE皮膜を形成し、該伝熱基板と共に、少なくとも表面がPTFEで形成された側壁体とで液密に囲むことによって熱交換室を形成する。従って、薬液が接する部分はすべてPTFEで覆われることとなり、極めて高度な対薬品性が獲得できると共に、長期の使用にわたって高い熱交換効率を維持でき、また薬液中への金属イオン溶出を殆ど無くすことが出来る。
【0016】本発明第二の要旨は、上記第一要旨において規定される熱交換器において、前記伝熱基板を被覆するPTFEの比重が2.18以上であることを特徴とする耐薬品性熱交換器にある。これまで用いられていたPTFEの比重は2.15〜2.17であった。これをPTFEの比重の理論値である2.14〜2.20の上限に近づけた、2.18以上の高密度PTFEとし、PTFEの鎖状分子の体積密度を高めてボイドを極力減らすことにより、ガスの透過を極めて少なくすることができる。薬液ガスの透過を極力少なくすることによって、伝熱基板の腐食を防ぐと共に、更にPTFE被覆を薄くして熱交換効率を向上することができる。
【0017】
【発明の実施形態】図1は本発明の実施形態を示すもので、半導体製造用薬液温度調節器を示すものである。薬液温度調節器Yは、耐薬品性熱交換器1と、熱電変換素子(ペルチェ素子)を用いた電子式冷凍器3、3と、放熱ブロック6、6とにより構成されている。熱交換器1は、アルミニウムやグラファイトなどのような熱良導体に高密度PTFEシート4によって被覆を施した一対の伝熱基板2、2と、該伝熱基板2、2間に介装されて共に熱交換室Rを液密に構成するPTFE製の側壁体5を有している。
【0018】PTFEシート4は出来得る限り高密度で、強度と薬液ガスに対する耐透過性を考慮した上で、でき得る限り薄いものが熱交換効率を高める上で好ましい。伝熱基板の対向面とPTFEシートとの接合は熱良導性の接着剤によって接着されている。また、長期にわたる使用において、ごく微量の薬液ガスがPTFEシート4を透過することがあっても、伝熱基板の厚さ方向にPTFEシートの接着面側と非対向面側との間を貫通する小孔21、…を設けることによって、耐薬品性をより万全のものとすることができる。
【0019】伝熱基板2、2の外面(非対向面)には、電子式冷凍機3、3の一側(主として冷却面として作用する)が熱授受可能に圧接しており、該電子式冷凍機の他側には、同様に熱良導性素材からなる放熱ブロック6、6が熱授受可能に接触している。該放熱ブロック6、6には、夫々一対の冷却水導管6a、6aが接続されており、該放熱ブロック中を冷却水を通過させることにより、放熱ブロックを冷却する。また熱交換室Rも、側壁体を貫通する一対の薬液導管に接続する薬液の出入口5a、5bが設けられており、熱交換室R内はPTFEからなる仕切板7によって区画されて熱交換流路r1、r2、r3を形成している。
【0020】熱交換流路r1、r2、r3を流れる半導体処理薬液は伝熱基板2、2と熱交換し、伝熱基板の外側にそれぞれ接合させた電子式冷凍機3、3によって冷却または加熱せしめられ、放熱ブロック6、6に、冷却パイプを介して導入される冷却水に熱交換せしめられている。半導体処理薬液は、薬液入口5aから上記熱交換流路r1内に導入されると、薬液入口からの流れによる攪拌作用を受けて伝熱基板と熱交換されながら仕切板により蛇行して伝熱基板との接触性を良好なものとしている。そして、薬液は熱交換流路r1,r2,r3において順次、同様に熱交換されながら流れ、最後に薬液出口5bから流出して半導体の処理に供せられる。
【0021】
【効果】本願熱交換器は上記実施形態で例示したように、伝熱基板の対向面に、PTFE製シートで被覆、又はPTFE皮膜を形成したことによって、極めて高度な耐薬品性が獲得でき、長期の使用にわたって高い熱交換効率を維持できると共に、薬液中への金属イオン溶出を殆ど無くすことが出来る。
【0022】更にPTFEの比重の理論値である2.14〜2.20の上限に近づけた、2.18以上の高密度PTFEとし、PTFEの鎖状分子の体積密度を高めてボイドを極力減らすことにより、薬液ガスの透過を極力少なくして、伝熱基板の腐食を防ぐと共に、更にPTFE被覆を薄くでき熱交換効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる熱交換器を組み込んだ薬液温度調節器を示す断面図である。
【図2】本発明のに用いるPTFEの分子構造図である。
【図3】従来の薬液温度調節器を示す図である。
【図4】従来の伝熱基板の被覆に用いるフッ素樹脂の分子構造図である。
【符号の説明】
Y 薬液温度調節器
1 耐薬品性熱交換器
2、2 伝熱基板
3、3 電子式冷凍機
4、4 PTFEシート
5 側壁体
5a 薬液入口
5b 薬液出口
6、6 放熱ブロック
6a、6a 冷却水導管
7 仕切板
R 熱交換室
r1、r2、r3 熱交換流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】 熱良導性素材から成り所定の間隔を隔てて対向して配設された一対の伝熱基板と、耐薬品性素材から成り前記一対の伝熱基板間に介在して該伝熱基板と共に熱交換室を液密に囲む側壁体と、該熱交換室を外部に開放する薬液出入口とを備えた熱交換器において、前記一対の伝熱基板の接液部をPTFEで被覆すると共に、伝熱基板の厚さ方向にPTFEの被覆の接着面側と非対向面側との間を貫通する小孔を設けたことを特徴とする耐薬品性熱交換器。
【請求項2】 前記PTFEの比重が2.18以上であることを特徴とする請求項1記載の耐薬品性熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【特許番号】特許第3308816号(P3308816)
【登録日】平成14年5月17日(2002.5.17)
【発行日】平成14年7月29日(2002.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−179037
【出願日】平成8年7月9日(1996.7.9)
【公開番号】特開平10−26492
【公開日】平成10年1月27日(1998.1.27)
【審査請求日】平成12年6月19日(2000.6.19)
【出願人】(000103921)オリオン機械株式会社 (450)
【参考文献】
【文献】特開 平7−224999(JP,A)
【文献】特開 平7−273179(JP,A)
【文献】実公 昭62−5575(JP,Y1)