説明

耐薬品性難燃樹脂組成物及び電線・ケーブル

【課題】 本発明は、電子機器用の電線・ケーブル、特に車両用の電線・ケーブルにおける被覆材料として有用な耐薬品性難燃樹脂組成物を提供するものである。
【解決手段】 かゝる本発明は、JIS−A硬度(10秒値)が75以下のアクリル系エラストマー60〜100質量部にエチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)を0〜40質量部混合させたベース樹脂100質量部に、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物を40〜120質量部添加した耐薬品性難燃樹脂組成物にあり、これにより、電線・ケーブル用の被覆材料として用いた場合、特に問題のない特性、即ち、耐薬品性、耐油、耐ガソリン性、耐熱性、柔軟性、耐外傷性などの条件を満足させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器用の電線・ケーブル、特に車両用の電線・ケーブルにおける被覆材料として有用な耐薬品性難燃樹脂組成物、及びこれを用いたデータ通信用のインターフェースケーブルや電源コードなどの電線・ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年普及の著しい携帯電話やPDAなどの電子機器において用いられる電線・ケーブルにあっては、束ねられて使用されることが多く、高度の柔軟性が要求される。また、擦れることも多いため、耐外傷性に優れていることも要求される。
【0003】
さらに、これらの電子機器にあっては、最近車内に持ち込まれ、車内で使用したり、車両側の充電器により充電したりすることが増えてきている。このため、優れた難燃性も要求とされる。また、この場合、車両エンジンルーム内ほどの厳しい、耐熱性や耐薬品性、耐油、、耐ガソリン性などは必要とされないが、これらの耐薬品性、耐油、耐ガソリン性について、適度の耐性が求められる。さらにまた、耐熱性にあっても、少なくとも80℃程度の耐性は要求される。勿論、燃焼時有害なガス(ハロゲンガスなど)を発生させないことも要求される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような種々の要求からすると、従来から、優れた電線・ケーブルの被覆材料として使用されてきた、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物にあっては、可塑剤の添加により柔軟性が適宜調整できるというメリットがあるものの、上記のように用途の電線・ケーブルには、不向きと言える。
【0005】
このため、ハロゲンガスなどを発生させない樹脂材料として、ポリプロピレン(PP)などの結晶性樹脂にエチレン・プロピレンゴム(EPゴム)などをブレンドした熱可塑性エラストマーが提案されている(例えば特許文献1)。この熱可塑性エラストマーは、ある程度の耐熱性、柔軟性を有するが、電線・ケーブルの被覆材料として、より高い柔軟性を得るため、EPゴムの配合割合を増やすと、耐熱性や耐油性などが低下し、さらに、耐ブロッキング性が強くなり過ぎて実用性が失われるという問題があった。
【特許文献1】特開2001−288317号公報
【0006】
また、特にガソリンなどの耐ガソリン性が求められる、電線・ケーブルの被覆材料には、ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどが使用される場合もあるが、これらのゴム材料は、特殊用途品として高価であり、また、成形後架橋させる必要があるなどの問題があった。
【0007】
そこで、本出願人は、特定の特性を有する、アクリル系エラストマーに着目し、これに必要により所望量のエチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)を混合してベース樹脂を作り、このベース樹脂にノンハロゲンの難燃剤である、金属水酸化物を所望量添加したところ、後述する実施例などから明らかなように、車両室内で使用される電子機器用の樹脂組成物として、例えば、電線・ケーブル用の被覆材料として用いた場合、特に問題のない特性を有すること、即ち、耐薬品性、耐油、耐ガソリン性、耐熱性、柔軟性、耐外傷性などの条件を満足させることができることを見い出した。
【0008】
本発明は、この点に鑑みてなされたもので、基本的には、アクリル系エラストマーを主成分として、これに所望量の金属水酸化物を添加した耐薬品性難燃樹脂組成物、及びこれを用いたデータ通信用のインターフェースケーブルや電源コードなどの電線・ケーブルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の本発明は、JIS−A硬度(10秒値)が75以下のアクリル系エラストマー60〜100質量部にエチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)を0〜40質量部混合させたベース樹脂100質量部に、金属水酸化物を40〜120質量部添加したことを特徴とする耐薬品性難燃樹脂組成物にある。
【0010】
請求項2記載の本発明は、前記金属水酸化物を水酸化マグネシウムとして、UL94のHBを満足させ、かつ、耐外傷性を向上させたことを特徴とする請求項1記載の耐薬品性難燃樹脂組成物にある。
【0011】
請求項3記載の本発明は、前記請求項1又は2記載の耐薬品性難燃樹脂組成物を用いたことを特徴とする電線・ケーブルにある。
【発明の効果】
【0012】
本発明の耐薬品性難燃樹脂組成物によると、その構成から、特に限定されないが、車両室内で使用される電子機器用の樹脂組成物として、例えば、電線・ケーブル用の被覆材料として用いた場合、特に問題のない特性を呈する。即ち、耐薬品性、耐油、耐ガソリン性、耐熱性、柔軟性、耐外傷性などの条件を満足させることができる。
【0013】
また、本発明の電線・ケーブルによると、上記樹脂組成物を被覆材料として用いてあるため、車両室内で使用される携帯電話やPDAなどの電線・ケーブルとして最適のものが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のベース樹脂の主成分となる、アクリル系エラストマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル類を重合して得られるエラストマーなどを挙げることができる。そして、これらのうちで、JIS−A硬度(10秒値)が75以下の特性のものを使用するものとする。より好ましくは、硬度(10秒値)40〜70のものが望ましい。
【0015】
つまり、弾性に富み、良好な柔軟性を得るには、あまり硬いものの使用は不向きだからである。このようなものの市販品としては、クラレ社製、LAポリマー、LA2250−S9〔JIS−A硬度(10秒値)=60〕、日本油脂社製、TZ330−L〔JIS−A硬度(10秒値)=60〕などが挙げられる。
【0016】
このベース樹脂の主成分である、アクリル系エラストマーに必要により混合されるエチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)としては、通常品であれば、特に限定されない。しかし、アクリル系エラストマーの相溶性からすると、酢酸ビニル(VA)含有量が15質量%以上のものの使用が望ましい。このような市販品としては、三井・デャポン・ポリケミカル社製、EV460(VA含有量19質量%)などが挙げられる。
【0017】
このEVAのアクリル系エラストマーに対する混合割合は、両者の混合ベース樹脂量を100質量部としたとき、40質量部以下の混合が望ましい。もともとこのEVAの混合は、ベース樹脂の強度や流動性の確保、さらには、コストダウンなどの目的で行うものである。しかし、このEVAの混合割合をあまり多くすると、即ち、40質量部を超える量とすると、加熱変形率などの特性が低下するようになる。
【0018】
ベース樹脂に添加される、金属水酸化物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムなどがあげられる。特に、水酸化マグネシウムの使用が望ましく、その市販品としては、協和化学社製、キスマ5(表面処理なしのもの)、キスマ5A(ステアリン酸による表面処理済みのもの)、信越化学社製、X−22−1894(ポリオルガノシロキサンによる表面処理済みのもの)などが挙げられる。
【0019】
そして、その添加量は、ベース樹脂100質量部に対して、40〜120質量部(難燃剤の添加量として比較的少ない量)の範囲で済む。その理由は、ベース樹脂のアクリル系エラストマーの場合、スチレン系エラストマーやオレフィン系エラストマーに比較して、少ない量の添加により所望の難燃性が得られるからである。さらに、良好な耐外傷性も確保される。また、流動性をも良いため、スチレン系エラストマーのようにオイルなどによる改質の必要もなく、オイルの移行、ブロッキングなどの問題が生じることもない。
【0020】
しかし、40質量部未満では、所望の難燃性や耐熱性、即ち、少なくとも80℃程度に対する耐性が得られず、逆に、120質量部を超えると、添加量が多過ぎて、機械的特性などの他の特性が低下するようになるから、上記添加量の範囲とした。勿論、この範囲の添加により、UL94(米国規格)のHB(難燃性の等級で低難燃性レベル)を満足させることが可能となる。
【0021】
なお、耐薬品性難燃樹脂組成物には、必要によりその他の材料も、適宜添加することができる。例えば、老化防止剤、耐光性向上剤、加工助剤、カーボンブラック、着色剤などである。
【0022】
このようにしてなる本発明の耐薬品性難燃樹脂組成物を、携帯電話などの電子機器用の電線・ケーブルの絶縁体やシースなどとして、導体外周や絶縁体外周などに被覆すれば、本発明の電線・ケーブルが得られる。この電線・ケーブルの場合、当然この樹脂組成物により、耐薬品性、耐油、耐ガソリン性、耐熱性、柔軟性、耐外傷性などの条件について、満足すべき特性が得られる。
【0023】
〈実施例・比較例〉
表1〜表2に示した配合条件で、本発明の要件を満たす耐薬品性難燃樹脂組成物(実施例1〜11)と、本発明の要件を欠く樹脂組成物(比較例1〜12)を、サンプルとして、樹脂シートを製造した。具体的には、各表1〜2の配合材料をバンバリー混練機にて一括混練して、押出成形した。なお、配合の数値は質量部である。
【0024】
なお、用いた材料について、アクリル系エラストマーは、上述したクラレ社製、LAポリマー、LA2250−S9〔JIS−A硬度(10秒値)=60〕、日本油脂社製、TZ330−L〔JIS−A硬度(10秒値)=60〕である。エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)は、上述した三井・デャポン・ポリケミカル社製、EV460(VA含有量19質量%)である。金属水酸化物は水酸化マグネシウムで、上述した信越化学社製、X−22−1894(ポリオルガノシロキサンによる表面処理済みのもの)、協和化学社製、キスマ5、キスマ5A(ステアリン酸による表面処理済みのもの)である。
【0025】
上記表1〜表2の配合条件によるサンプルの樹脂シートについて、以下の各種試験を行った。なお、これらの試験結果は、同表1〜表2に併記してある。
【0026】
〈引張り強度試験〉
各サンプルの樹脂シートに対して、JIS−C3005に準拠した引張り強度試験を行い、引張り強度(MPa)と破断伸び(%)を求めた。なお、張り強度では6MPa以上が合格で、6MPa未満が不合格となる。また、破断伸びでは200%以上が合格で、200%未満が不合格となる。
【0027】
〈硬度試験〉
各サンプルの樹脂シートに対して、JIS−A硬度(10秒値)による硬度試験を行い、その値を求めた。なお、合格の目安は80以下で、これを超える場合硬過ぎて不合格と言える。
【0028】
〈耐熱性試験〉
各サンプルの樹脂シートに対して、JIS−C3005に準拠した耐熱性試験、即ち、加熱変形試験を行い、120℃下での加熱変形率(%)を求めた。そして、加熱変形率が40%以下の場合を合格として表示し、40%を超える場合を不合格として表示した。
【0029】
〈耐ブロッキング試験〉
各サンプルの樹脂シートとして、厚さ1mmのものを用意し、これらを重ね合わせ、100g/cm2 の荷重を載せ、40℃で1日放置したものを幅1cmの短冊状にし、常温で90°ピール荷重(引き剥がし荷重)を測定した。そして、引張り速度100mm/minで引っ張り、100g/cm2 以下でピールできるものを合格として表示し、100g/cm2 を超える場合を不合格として表示した。
【0030】
〈耐難燃性試験〉
各サンプルの樹脂シートに対して、UL94に準拠した耐難燃性試験を行い、難燃性の等級を求めた。等級レベルは耐熱性の高い順から、5VA、5VB、V−0、V−1、V−2、HBとなり、HBは最も低い低難燃性レベルである。なお、HBよりもの低いレベルのものは測定不能として「−」で表示した。
【0031】
〈耐ガソリン性試験〉
各サンプルの樹脂シートを、常温下で24時間ガソリン中に浸漬した後、常温下で24時間乾燥させ、この乾燥後の重量残率を求めた。そして、重量残率70%以上の場合を合格として表示し、70%未満の場合を不合格として表示した。
【0032】
〈耐外傷性試験〉
各サンプルの樹脂シートに対して、傷付け白化試験を行い、白化の有無を求めた。なお、白化試験機の傷付け押圧部はR=0.5のダイヤモンド圧指、荷重100g、移動速度100mm/minとした。そして、傷が付かない場合を合格として表示し、傷が付き、白化した場合を不合格として表示した。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
上記表1から、本発明の条件を満たす耐薬品性難燃樹脂組成物(実施例1〜11)では、すべての特性において、良好(合格)であることが分かる。
【0036】
これに対して、本発明の条件を欠く樹脂組成物(比較例1〜12)では、いずれかの特性において、不良(不合格)であることが分かる。つまり、比較例1は水酸化マグネシウムの添加量が少ない場合(20質量部)、比較例2〜3はEVAの添加量が多い場合(50質量部)、比較例4は水酸化マグネシウムの添加量が少ない場合(20質量部)、比較例5〜6はEVAの添加量が多い場合(50質量部)、比較例7は水酸化マグネシウムの添加量が少ない場合(20質量部)、比較例8〜10はベース樹脂がEVAだけの場合、比較例11〜12はEVAの添加量が多い場合(50質量部)である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS−A硬度(10秒値)が75以下のアクリル系エラストマー60〜100質量部にエチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)を0〜40質量部混合させたベース樹脂100質量部に、金属水酸化物を40〜120質量部添加したことを特徴とする耐薬品性難燃樹脂組成物。
【請求項2】
前記金属水酸化物を水酸化マグネシウムとして、UL94のHBを満足させ、かつ、耐外傷性を向上させたことを特徴とする請求項1記載の耐薬品性難燃樹脂組成物。
【請求項3】
前記請求項1又は2記載の耐薬品性難燃樹脂組成物を用いたことを特徴とする電線・ケーブル。


【公開番号】特開2006−232955(P2006−232955A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−48206(P2005−48206)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】