説明

耐衝撃特性に優れた重量検知センサー基板用高Al含有α系ステンレス鋼板およびその製法並びに重量検知センサー

【課題】 耐衝撃特性に優れた重量検知センサー基板用の高Al含有フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法並びに重量検知センサー
【解決手段】 質量%で、C:0.025%以下、N:0.025%以下、C+N:0.03%以下、Cr:12〜30%、Al:2.5〜8%、Nb:0.3〜0.7、さらにTi:0.02〜0.2%以下、Zr:0.02〜0.2%以下の1種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、金属組織が未再結晶組織である高耐力・高耐衝撃特性の高Al含有フェライト系ステンレス鋼板と重量検知センサー基板用結晶化ガラスの20から900℃までの平均線膨張係数の差が10%未満である。再結晶温度が850℃超、1150℃以下で、800〜900℃で20〜120分のガラス層との焼成熱処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エアバッグの重量検知センサー基板用高Al含有フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法ならびに重量検知センサーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車には乗員の安全を確保するための設備としてシートベルトやエアバッグが備えられる。最近では、シートベルトやエアバッグの性能をより向上させるため、乗員の重量(体重)に合わせてそれらの安全設備の動作をコントロールしようという動向がある。例えば、乗員の体重に合わせて、エアバッグの展開ガス量や展開速度を調整したり、シートベルトのプリテンションを調整したりする。そのためには、シートに座っている乗員の重量を何らかの手段で知る必要がある。そのような手段の一例として、シートレールの4隅に荷重センサー(ロードセル)を配置して、ロードセルにかかる垂直方向荷重を合計することにより乗員の重量を含むシート重量を計測する、との提案がなされている(特許文献1)。
【0003】
荷重、圧力等を検出する力学量センサーは、基板の種類、抵抗素子に用いる感歪み材料の種類によってさまざまなものが提案されている。その代表的なものとして、(1)ポリエステル、エポキシ、ポリイミド等の樹脂からなるフィルムを基板とし、この表面にCu−Ni合金、Ni−Cr合金等からなる薄膜状の抵抗素子を蒸着またはスパッタリングにより形成したもの、(2)上記の樹脂製フィルムの代りにガラスプレートを用いたもの(特許文献2)、および(3)表面を結晶化ガラス層で被覆した金属基材を基板とし、この表面にペーストを塗布、焼成して抵抗素子を形成したもの(特許文献3)が提案されている。
【0004】
力学量の大きさは、次のようにして測定される。外部からの力や荷重が力学量センサーに加わると、基板とともに、その表面に形成された抵抗素子が変形する。抵抗素子の長さおよび断面積の変化による電気抵抗の変化を、抵抗素子に接続して形成された一対の電極間で測定することにより、加わった力学量を検出するものである。表面に結晶化ガラス層を形成した金属基材を基板に用いた力学量センサーは、他の方式と異なり、金属基材と結晶化ガラス層、および結晶化ガラス層と抵抗素子の間でそれぞれの成分元素が相互拡散しているため、それらの間の密着性が強く、過酷な環境条件で使用するセンサーとしては最適である。この種の力学量センサーの抵抗素子として、抵抗材料である酸化ルテニウムを含有する抵抗ペーストを塗布、乾燥・焼成して形成したものが知られている。
【0005】
力学量センサーに用いる金属基材は、ホーロ鋼、ステンレス鋼、珪素鋼、ニッケル−クロム−鉄、ニッケル−鉄、コバール、インバーなどの各種合金材やそれらのクラッド材などが選択される。特許文献4には、金属基材としてステンレス鋼板を使用する技術が開示されている。特許文献5には、金属基材として絶縁ガラス層との密着性の観点よりSUS430を使用する技術が開示されている。特許文献3には、金属基材をガラス層との膨張率を整合させる必要があることから、具体的にはSUS430とする技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、上記従来技術の金属基材では、ガラス密着性および焼成時の高温耐酸化性が不十分であり、実用化されていなかった。センサー基板がステンレス鋼板であり、絶縁ガラス層や抵抗素子、電極の各層が、焼成により固化されていることが好ましい(概念図を図1に示す)。従って、各層を高温で焼成する際にセンサー部材も一緒に焼成することができる高耐熱性でかつガラス密着性の優れたステンレス鋼が強く要望されていた。
【0007】
さらに、重量検知センサーに衝撃が加わった時に、基板のステンレス鋼の耐力が低いと、比較的小さな衝撃荷重で結晶化ガラス層にクラックが発生してしまう問題がある。結晶化ガラス層には殆ど延性が無いため、基板のステンレス鋼の塑性変形に追随することができず、クラックが発生してしまうのである。したがって、基板材のステンレス鋼材の耐力を向上し、衝撃時においても容易に変形しない低歪みを維持する高い耐衝撃特性が基板材の特性として実用上強く要望されていた。
【0008】
【特許文献1】特開平11−304579号公報
【特許文献2】特公平3−20682号公報
【特許文献3】特開平5−93659号公報
【特許文献4】特開2000−180255号公報
【特許文献5】特開平10−38733号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
センサーの基板であるステンレス鋼に、絶縁層である結晶化ガラス層、感歪み抵抗素子および電極の各層の焼成により固化する際に、金属基材とガラス層の密着性を向上するために両者の線膨張係数を整合させる必要がある。焼成は900℃以下で実施されることから、室温近傍の他、20〜900℃の線膨張係数が近似していることが必要である。平均線膨張係数の差が大きいと、金属基材と結晶化ガラス層との密着性が著しく低下するため、抵抗素子の基板として機能しない。一般的に用いられている結晶化ガラスの平均線膨張係数は13〜16×10-6/℃であるのに対し、従来用いられていたステンレス鋼の平均線膨張係数は13×10-6/℃程度であり、ステンレス鋼基材とガラス層との線膨張係数の差が大きすぎ、十分なガラス密着性を実現することができなかった。さらに、重量検知センサーの耐衝撃特性を向上するには、基板のステンレス鋼の高耐力化が不可欠であるが、従来、常温における耐力を著しく向上させる技術は見出されていなかった。
【0010】
本発明は、自動車エアバッグ重量検知センサー基板用の金属基材として最適なステンレス鋼を提供することにより、結晶化ガラス層との焼結時の高温耐酸化性を改善するとともにガラス層との密着性を向上し、さらには高い耐衝撃特性を付与して重量センサー基板材の特性を向上することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明はこの目的のため、成分、金属組織、製造方法、耐力、線膨張係数、高温耐酸化性を検討した結果、完成したものであり、金属基材の高Al含有フェライト系ステンレス鋼板にNbを含有し、さらにTi、Zrを含有する鋼板を適用することが、このような目的に合致することを見出したものである。その要旨とするところは以下の通りである。
【0012】
すなわち、本発明の目的は、下記(1)〜(7)に記載の高Al含有フェライト系ステンレス鋼板、およびその製造方法により達成されるものである。
(1)質量%で、
C:0.025%以下、
N:0.025%以下、
C+N:0.030%以下
Cr:12〜30%、
Al:2.5〜8%、
Nb:0.3〜0.7%
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなるとともに、金属組織が未再結晶組織であることを特徴とする高耐力・高耐衝撃特性の重量検知センサー基板用高Al含有フェライト系ステンレス鋼板。
(2)さらに、Ti:0.02〜0.2質量%、Zr:0.02〜0.2質量%の1種以上を含有することを特徴とする(1)に記載の高耐力・高耐衝撃特性の重量検知センサー基板用高Al含有フェライト系ステンレス鋼板。
(3)再結晶温度が850℃超、1150℃以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載の高耐力・高耐衝撃特性の重量検知センサー基板用高Al含有フェライト系ステンレス鋼板。
(4)20から900℃の平均線膨張係数が、13.5〜15.5×10-6/℃であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の高耐力・高耐衝撃特性の重量検知センサー基板用高Al含有フェライト系ステンレス鋼板。
(5)当該ステンレス鋼板と重量検知センサ−用結晶化ガラスの20から900℃までの平均線膨張係数の差が10%未満であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の高耐力・高耐衝撃特性の重量検知センサー基板用高Al含有フェライト系ステンレス鋼板。
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載の高Al含有フェライト系ステンレス鋼板を所望の形状に打ち抜き加工し、続いて800〜900℃で20〜120分の熱処理を行うことを特徴とする高耐力・高耐衝撃特性の重量検知センサー基板用高Al含有フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
(7)(1)〜(5)のいずれかに記載の高耐力・高耐衝撃特性の高Al含有フェライト系ステンレス鋼板からなる重量検知センサー基板と、前記基板表面に被覆した結晶化ガラス層と、前記結晶化ガラス層の表面に形成された感歪み抵抗素子と、前記感歪み抵抗素子の電気抵抗変化を検出する一対の電極で構成されていることを特徴とする重量検知センサー。
【発明の効果】
【0013】
本発明の高Al含有フェライト系ステンレス鋼板は、ガラス密着性と高温耐酸化性に優れ、さらに耐衝撃特性に優れた自動車エアバッグ重量検知センサー基板用材料であり、絶縁層を密着させるセンサー基板材の製造技術として、さらには高いセンサー基板材としての特性を発現させるための必須の技術であり、その工業的価値は著しく大なるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の限定理由を以下に詳細に説明する。
【0015】
本発明者は、ステンレス鋼の成分、金属組織、製造方法、耐力、線膨張係数および高温耐酸化性を検討した結果完成したものであり、金属基材の高Al含有フェライト系ステンレス鋼板にNbを含有し、さらにTi、Zrを含有する鋼板を適用することにより、ガラス密着性に優れ、かつ耐衝撃特性に優れた自動車エアバッグ重量検知センサー基板用材料を提供するものである。
【0016】
まず、本発明が対象とするステンレス鋼の各成分範囲の限定理由を述べる。
【0017】
C、N:C、Nは0.025%を超えて存在すると、冷間圧延素材である熱間圧延鋼帯の靱性を低下させ材料の製造性、すなわち冷間圧延性を劣化させるため、それぞれ0.025%以下とし、C+Nの総量で、0.03%以下とする。好ましい範囲は、 C,Nそれぞれ0.010%以下、C+Nの総量で、0.010%以下である。
【0018】
Cr:Crはステンレス鋼の耐熱性もしくは高温耐酸化性を確保する最も基本的な元素である。本発明においては、12%未満ではこれらの特性が十分に確保されず、一方30%を超えて含有すると、特に熱間圧延鋼帯の靱性や延性が著しく低下し材料の製造性を劣化させる。従って、Crの成分範囲は12〜30%とした。好ましい範囲は、15〜16%である。
【0019】
Al:Alは、フェライト系ステンレス鋼の高温耐酸化性や電気比抵抗を著しく向上させる元素であると同時に、Al含有量が多くなるに従い線膨張係数が大きくなる。したがって、本発明においては、主にAl質量%を調整した合金設計により、種々の線膨張係数の結晶化ガラス層に対しても線膨張係数を近似・整合させることができる。図2に室温(20℃)〜900℃の平均線膨張係数のCr−Alマップを示す。平均線膨張係数はCr含有量に依存せず、ほぼAl含有量のみに依存することがわかる。図3にAl含有量と平均線膨張係数との関係を示す。室温(20℃)〜900℃の平均線膨張係数/(10-6/℃)の近似式は、8質量%Al以上では12.8+0.28*(Al質量%)で、8質量%Al超では2.9+1.4*(Al質量%)で表現できる。この元素が2.5%以下では高温耐酸化性が不十分である。一方、8%を超えて含有すると平均線膨張係数が急増するとともに、熱間圧延鋼帯の靭性が著しく低下し材料の製造性を劣化させる。従って、Alの成分範囲は2.5〜8%とした。好ましい範囲は、4〜6%である。
【0020】
Nb:Nbは炭窒化物を形成してCr炭化物の粒界析出を防止するとともに、結晶粒の粗大化を抑制し、熱間圧延鋼帯の靱性を改善し材料の製造性を向上する元素である。同時に本発明においては、Nbは冷間圧延後の焼鈍において、再結晶温度を著しく上昇させる元素である。その結果、後述のガラス焼成温度よりも高い温度域における焼鈍においても、再結晶進行を抑制し金属組織を未再結晶組織に制御することが可能となり、常温における耐力を著しく向上させる。すなわち、鋼材の再結晶温度>冷間圧延後の焼鈍温度>ガラス焼成温度、のように成分設計およびプロセス設計することにより、ガラス焼成処理後においても金属組織変化が少なく、高耐力を維持できるのである。この効果は、0.3%未満では十分ではなく、0.7%を超えると冷間での加工性を著しく劣化させる。従って、成分範囲を0.3〜0.7%とした。好ましい範囲は、0.4〜0.6%である。図4にステンレス鋼板のNb含有量と0.2%耐力との関係の一例を示す。熱間圧延鋼帯をデスケーリングの後冷間圧延し、続いて900℃で150s焼鈍したものである。Nb含有量にほぼ比例して0.2%耐力が上昇していることが分かる。図5に冷延板の焼鈍温度と硬さの関係に及ぼすステンレス鋼板のNb含有量の影響を示す。Nb含有量の増加とともにビッカース硬さが増加し、再結晶温度(本発明における定義は後述する。)が上昇していることが分かる。例えば850℃の焼鈍においてはビッカース硬さを200以上とするには、0.3質量%のNbが必要であり、900℃の焼鈍では0.3質量%超のNbが必要となる。
【0021】
Ti:Tiは本発明においては選択的に添加することができる。Tiはフェライト系ステンレス鋼の高温耐酸化性向上に効果的で、酸化皮膜の密着性を向上させる元素である。0.02%以上のTi含有量でこの効果を発揮させることができる。しかし、過剰のTi添加は熱間圧延鋼帯の靱性を低下し、材料の製造性を劣化させる。特に、0.2%を超えると靭性の劣化が著しい。従って、成分範囲を0.02〜0.2%以下とした。好ましい範囲は、0.04〜0.10%である。
【0022】
Zr:Zrは本発明においては選択的に添加することができる。ZrはTiと同様の効果があり、フェライト系ステンレス鋼の高温耐酸化性向上に効果的で、酸化皮膜の密着性を向上させる元素である。0.02%以上のZr添加でこの効果を発揮させることができる。しかし、過剰のZr添加は耐酸化性を劣化させると同時に、熱間圧延鋼帯の靱性を低下し、材料の製造性も劣化させる。特に0.2%を超えると靱性の劣化が著しい。従って、成分範囲を0.2%以下にした。好ましい範囲は、0.05〜0.15%である。
【0023】
次に、本発明が対象とするステンレス鋼について述べる。本発明の高Al含有フェライト系ステンレス鋼板は、熱間圧延鋼帯をデスケーリングの後冷間圧延し、続いて焼鈍およびデスケーリングを施した、冷延焼鈍板である。
【0024】
本発明においては、高Al含有フェライト系ステンレス鋼板の金属組織は未再結晶組織である。冷延焼鈍板を未再結晶組織に制御することで、常温における耐力を著しく向上させることが可能である。図6に金属組織の一例を示す。40%の冷間加工歪みを加えた後、900℃で焼鈍した。a)の0.1質量%Nbの金属組織は再結晶組織である。一方、b)の0.5質量%Nbの場合には、一部に再結晶粒が認められるものの、大部分は未再結晶組織で、加工組織が残存した回復組織である。本発明における未再結晶組織は、再結晶粒が50%未満でかつ1kg荷重で測定したときのビッカース硬さHvが200以上の金属組織のことをいう。
【0025】
本発明においては、再結晶温度は850℃超、1150℃以下である。再結晶温度がガラス焼成熱処理温度よりも高温であることが不可欠である。再結晶温度がガラス焼成温度よりも低いと、仮に冷延後の焼鈍で未再結晶組織を形成しても、ガラス焼成熱処理時に再結晶が進行し、軟質化してしまい高い耐力が維持できない。すなわち再結晶温度が850℃未満の温度では、ガラス焼成熱処理温度(800〜900℃)に比較して同等以下の温度となるので、未再結晶組織を維持できず耐力が低下する。一方、再結晶温度が1150℃超の場合には、Nb含有量が多量になり、熱延板の靱性が劣化し、冷延板の製造性が著しく低下する。以上より、再結晶温度を850℃超、1150℃以下とした。
【0026】
本発明の高Al含有フェライト系ステンレス鋼板と重量検知センサー基板用結晶化ガラスの20から900℃までの平均線膨張係数の差が10%未満である。センサーの基材であるステンレス鋼に、絶縁層である結晶化ガラス層、感歪み抵抗素子および電極の各層を焼成により固化する際に、金属基材とガラス層の密着性を向上するために両者の線膨張係数を整合させる必要がある。焼成は900℃以下で実施されることから、室温近傍の他、20〜900℃の線膨張係数が近似していることが望まれる。平均線膨張係数の差が10%超の場合は、金属基材と結晶化ガラス層との密着性が著しく低下するため、抵抗素子の基板として機能しない。一般的に用いられている結晶化ガラスの平均線膨張係数は13〜16×10-6/℃である。
【0027】
本発明の高Al含有フェライト系ステンレス鋼板の20〜900℃の平均線膨張係数は、13.5〜15.5×10-6/℃であることが好適である。線膨張係数αの定義式はLT=L20(1+αT)である。ここで、L20:20℃での長さ、LT:温度Tでの長さである。本発明の高Al含有フェライト系ステンレス鋼板においては、20〜900℃が13.5×10-6/℃未満および15.5×10-6/℃超では、結晶化ガラス層との密着性が確保されない。
【0028】
本発明の高Al含有フェライト系ステンレス鋼板の冷延焼鈍板を所望の形状に打ち抜き加工した後、ガラス層との焼成が行われる。焼成条件は800〜900℃で20〜120分である。800℃未満ではステンレス鋼板とガラス層との相互拡散不足のため密着性が不十分である。一方900℃超ではガラス層の耐熱性が不足する。なお焼成時間は複数回の熱処理の合計時間である。20分未満では相互拡散不足のため密着性が不十分である。一方120分超では相互拡散が十分に行われる。しかしながら、酸化の進行によりサブミクロン厚さの酸化皮膜が形成されるため、干渉色が形成され、耐テンパーカラー性が劣化する。センサーとしての特性に直接的な影響は無いが、ステンレス鋼表面の金属光沢が消失する。
【0029】
本発明の自動車エアバッグ重量検知センサーは、高Al含有フェライト系ステンレス鋼板の金属基材からなる基板(1)と、前記基板表面に被覆した結晶化ガラス層(2)と、前記結晶化ガラス層の表面に形成された感歪み抵抗素子(4)と、前記感歪み抵抗素子の電気抵抗変化を検出する一対の電極(3)で構成されていることを特徴とする重量検知センサー(図1)である。高Al含有フェライト系ステンレス鋼基板は結晶化ガラス層(2)との密着性が良好であるため、金属基板(1)、結晶化ガラス層(2)、電極(3)および感歪み抵抗素子(4)の焼成処理を同時に行うことができるかまたは焼成処理の回数を減らすことができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例で本発明を具体的に説明する。
【0031】
(実施例1)
転炉AOD法あるいは真空溶解法により表1に示す成分の高Al含有フェライト系ステンレス鋼を溶製した。これらの鋼の表面を手入れした後、熱間圧延終了温度880℃〜900℃で熱間圧延し、熱間圧延巻き取り温度400℃〜750℃で巻き取り、水冷により冷却し、板厚5mmの熱延鋼帯とした。続いてショットおよび酸洗によるデスケーリングの後、冷間圧延して板厚3mmとした。続いて900℃で焼鈍し、さらにソルト処理および酸洗によりデスケーリングして冷延鋼板を製造した。その後、所望の形状に打ち抜き加工し、結晶化ガラスの密着焼成熱処理をシミュレ−トした850℃で40分の熱処理を実施した。結晶化ガラスの平均線膨張係数は14.5×10-6/℃のものを用いた。
【0032】
表1に発明例を示す。なお評価試験は下記の方法で実施した。
【0033】
成分は鋼板から試験片をサンプリングして成分分析を行った。C、S、Nについてはガス分析法(Nは不活性ガス溶融−熱伝導測定法で、C、Sは酸素気流中燃焼−赤外線吸収法)で、その他の元素については蛍光X線分析装置(SHIMADZU、MXF−2100)で実施した。
【0034】
製造性(冷間加工性)の評価は、JIS規格に準拠したサブサイズ(厚み5mm)のVノッチシャルピー試験片を圧延方向と平行に採取し衝撃試験を行い、衝撃値が2kgf/cm2になる温度(vT2:℃)で評価した。vT2が90℃超の場合には、たとえボックス焼鈍炉等の加熱装置で事前に予備加熱を実施しても、冷間圧延を行うと衝撃等による板破断の危険性が極めて高くなり、実質的に冷間圧延不可であるため、×とした。本発明例はいずれも良好な製造性を示した。比較例No.10は、CおよびC+Nが上限を外れ、No.11はCrが上限を外れ、No.13はAlが上限を外れ、No.15はN、C+Nが上限を外れ、No.17はNbが上限を外れNo.18はTiが上限を外れ、No.19はZrが上限を外れ、いずれも製造性が不良であった。
【0035】
高温耐酸化性の評価は、#400の番手で表面研磨したサンプルを用い大気中900℃×120分後の酸化増量で評価した。酸化増量が0.2mg/cm2以下の場合を○、0.2mg/cm2超の場合を×で示した。比較例のNo.12(サンプル記号12)はCrが請求項下限値をはずれ、比較例のNo.14(サンプル記号14)はAlが請求項下限値をはずれ、いずれも耐酸化性が劣っている。
【0036】
線膨張係数は、ISO規格の試験方法で実施し、室温(20℃)〜900℃の温度範囲での平均線膨張係数を評価した。平均線膨張係数が13.5〜15.5×10-6/℃の範囲のものを○、13.5×10-6/℃未満又は15.5×10-6/℃超のものを×で示した。本発明例においては、高Al含有フェライト系ステンレス鋼板と重量検知センサー基板用結晶化ガラスの20から900℃までの平均線膨張係数の差が10%以内である。比較例No.14はAl量が本発明の下限を外れ、室温から900℃の平均線膨張係数が本発明の下限を外れている。
【0037】
ガラス密着性の評価は、テープ引き剥し試験JIS H 8504(めっきの密着性試験方法)で評価した。結晶化ガラス層が剥離したものを×、剥離しなかったものを○で示した。本発明の成分の金属基材は、ガラス密着性が大いに改善されている。比較例のNo.14(サンプル記号14)はAl含有量が本発明範囲下限以下であり、ガラス密着性が不良であった。
【0038】
再結晶温度の評価は、50℃間隔で750℃〜1100℃まで熱処理を施した後、L断面のビッカース硬さ(Hv)を荷重1kgで板厚中央部、1/4厚さ部および1/8厚さ部で測定して評価した。Hv200以下となる温度を再結晶温度とした。表中の○は再結晶温度が900℃以上、×は850℃以下を示す。併せて、L断面を鏡面研磨した後、硝酸電解エッチングを施して金属組織を観察して、再結晶組織、未再結晶組織の判断をした。表中の○は未再結晶組織、×は再結晶組織を示す。本発明の高耐力(450MPa以上)の鋼板の金属組織は未再結晶組織である。比較例のNo.16(サンプル記号16)はNb含有量が請求項下限を外れ、再結晶温度が請求項下限を外れ、金属組織も請求項範囲を外れている。
【0039】
0.2%耐力は冷間圧延後の焼鈍板からJISZ 2201の13B号試験片を作製し、JIS Z 2241の試験方法でインストロン型引張試験機を用いて試験した。L方向(圧延方向に平行)のデータをn=2で測定した。表中の〇×は0.2%耐力が450MPa以上を○、特に500MPa以上を◎で示し、450MPa未満を×で示した。比較例のNo.16(サンプル記号16)はNbが請求項下限値をはずれ、0.2%耐力が劣っている。
【0040】
耐衝撃特性は、作製した重量センサーの両端を金具で固定し、センサーの中央部に1200Gの衝撃を加えた後の結晶化ガラス層のクラック有無および基板のステンレス鋼板の変形の有無を目視で判断した。基板の鋼材の変形がなく、密着されている結晶化ガラス層にクラックがはいった場合には×、クラックの発生が無い場合を○で示した。比較例のNo.16(サンプル記号16)は0.2%耐力が請求項下限値をはずれ、耐衝撃特性が劣っている。
【0041】
【表1】

【0042】
(実施例2)
表1のサンプル記号3(No.1)およびサンプル記号7(No.7)のサンプルについて、表2に示す条件で焼成熱処理を行った。結晶化ガラスの平均線膨張係数は実施例1と同じ14.5×10-6/℃のものを用いた。
【0043】
耐テンパーカラー性は可視光の色の着色有無を目視で判断した。
【0044】
本発明例No.20〜23は本発明の焼成条件を採用したものであり、ガラス密着性、0.2%耐力、耐衝撃特性ともに優れている。比較例No.24は焼成温度が上限を外れ、ガラス密着性、耐テンパーカラー性、金属組織、0.2%耐力、耐衝撃特性のいずれも不良であった。比較例No.25は焼成時間が上限を外れ、耐テンパーカラー性が不良であった。比較例No.26は焼成時間が下限を外れ、ガラス密着性が不良であった。比較例No.27は焼成温度が下限を外れ、ガラス密着性が不良であった。
【0045】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、自動車エアバッグ重量検知センサー基板用材料に適用可能な技術である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の力学量センサーの概念図である。
【図2】室温(20℃)〜900℃における平均線膨張係数のCr−Alマップ
【図3】室温(20℃)〜900℃におけるAl含有量と平均線膨張係数の関係
【図4】ステンレス鋼板のNb含有量と0.2%耐力との関係を示す図
【図5】冷延板の焼鈍温度と硬さの関係に及ぼすステンレス鋼板のNb含有量の影響
【図6】冷延板を900℃で焼鈍後の金属組織写真、a)0.1質量%Nb、b)0.5質量%Nb
【符号の説明】
【0048】
1 高Al含有フェライト系ステンレス鋼板からなる金属基材
2 結晶化ガラス層
3 電極
4 感歪み抵抗素子
5 ボルト孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.025%以下、
N:0.025%以下、
C+N:0.030%以下
Cr:12〜30%、
Al:2.5〜8%、
Nb:0.3〜0.7%
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなるとともに、金属組織が未再結晶組織であることを特徴とする高耐力・高耐衝撃特性の重量検知センサー基板用高Al含有フェライト系ステンレス鋼板。
【請求項2】
さらに、Ti:0.02〜0.2質量%、Zr:0.02〜0.2質量%の1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の高耐力・高耐衝撃特性の重量検知センサー基板用高Al含有フェライト系ステンレス鋼板。
【請求項3】
再結晶温度が850℃超、1150℃以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の高耐力・高耐衝撃特性の重量検知センサー基板用高Al含有フェライト系ステンレス鋼板。
【請求項4】
20から900℃の平均線膨張係数が、13.5〜15.5×10-6/℃であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の高耐力・高耐衝撃特性の重量検知センサー基板用高Al含有フェライト系ステンレス鋼板。
【請求項5】
当該ステンレス鋼板と重量検知センサ−用結晶化ガラスの20から900℃までの平均線膨張係数の差が10%未満であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の高耐力・高耐衝撃特性の重量検知センサー基板用高Al含有フェライト系ステンレス鋼板。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の高Al含有フェライト系ステンレス鋼板を所望の形状に打ち抜き加工し、続いて800〜900℃で20〜120分の熱処理を行うことを特徴とする高耐力・高耐衝撃特性の重量検知センサー基板用高Al含有フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載の高耐力・高耐衝撃特性の高Al含有フェライト系ステンレス鋼板からなる重量検知センサー基板と、前記基板表面に被覆した結晶化ガラス層と、前記結晶化ガラス層の表面に形成された感歪み抵抗素子と、前記感歪み抵抗素子の電気抵抗変化を検出する一対の電極で構成されていることを特徴とする重量検知センサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−63380(P2006−63380A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−246649(P2004−246649)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(503378420)新日鐵住金ステンレス株式会社 (247)
【Fターム(参考)】