説明

耐酸性補修材およびそれを用いた補修方法

【課題】ポリマー系の有機系材料やアルミナセメント等の特殊な材料を使用せず、環境負荷の低減効果が高く、汎用性の高い一般に流通している材料と、加圧流動床複合発電方式の火力発電所の副産物であるPFBC灰との組み合わせにより、耐酸性、施工性に優れ、かつ低コストの補修材およびそれを用いた補修方法を提供する。
【解決手段】PFBC灰100質量部に対して、高炉セメントB種95〜105質量部、フライアッシュ36〜53質量部、細骨材396〜540質量部を混合した耐酸性補修材。また、この耐酸性補修材100質量部に、所要の施工性が得られる範囲で混和剤を適量加えた水10〜12質量部で混練し、補修箇所に施工することを特徴とする耐酸性補修材を用いた補修方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の表面の補修に適した、耐酸性補修材およびそれを用いた補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道や温泉地帯等の設備においては、コンクリートの表面が酸等で腐食されやすい環境にあるので、耐酸性を回復させるために表面の補修が行われる。
このような補修材としては、通常の、セメントを主体とする補修材では耐酸性が不足するために、耐酸性を付与した成分とすることが要求される。
【0003】
特許文献1には、セメント、該セメント100質量部当たり、40〜300質量部の骨材及び20〜70質量部の0〜−45℃の範囲内のガラス転移点を有する合成樹脂を含有し、JASS15M−103に規定されるフロー値が10〜30cmの範囲内に調整された第一のポリマーモルタル組成物を鉄筋コンクリート構造体のコンクリート表面に適用して、厚さ2〜5mmの第一層を形成させ、固化した該第一層の上に、セメント、該セメント100質量部当たり、100〜400質量部の骨材及び2〜30質量部の10〜−15℃の範囲内のガラス転移点を有する合成樹脂を含有して成る第二のモルタル組成物を、厚さ5〜50mmの第二層として積層形成させることを特徴とするかぶり厚不足の鉄筋コンクリート構造体の補修方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、水酸化カルシウム微粉末と、フライアッシュ微粉末とを含む水硬性組成物が開示されている。
【0005】
特許文献3には、高炉スラグ細骨材(A)、並びに高炉スラグ微粉末(B)及びポルトランドセメント(C)を含む結合材(D)を含有するモルタル又はコンクリート用組成物であって、高炉スラグ細骨材(A)は非晶質であり、高炉スラグ微粉末(B)の比表面積がブレーン値で2500〜7000cm2/gであり、かつ、結合材(D)に対するポルトランドセメント(C)の質量比(C/D)が0.3〜0.9であることを特徴とするモルタル又はコンクリート用組成物が開示されている。
【0006】
一方、特許文献4には、高炉スラグ微粉末等の結合材、砂等の細骨材、および水を含むモルタル組成物において、結合材として、セメント全量をPFBC灰に変えるモルタル組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−124232号公報
【特許文献2】特開2009−221038号公報
【特許文献3】特開2010−1208号公報
【特許文献4】特開2007−197263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前掲の特許文献1に開示された鉄筋コンクリート構造体の補修方法では、コンクリートの中性化を抑制し、強度を向上させるためにポリマー系の有機系材料を使用しているが、有機系材料を用いると環境負荷の懸念が大きくなり、また、コストも高くなる。
特許文献2に開示された水硬性組成物は、汎用性のある一般に流通した市販の材料ではなく、アルミナセメントという特殊なセメントを使用するので、一般の補修材料としては品質管理が難しく、またコストも高くなる。
特許文献3に開示されたモルタル又はコンクリート用組成物は、結合材として砂の代わりに特殊材料である高炉スラグ細骨材を使用しており、一般の補修材料としては汎用性に乏しく、また貯蔵管理が難しいためコストも高くなる。
特許文献4に開示されたモルタル組成物では、セメント全量をPFBC灰に置き換えているが、PFBC灰のみでは、酸による侵食には強いが、強度面で下水道基準を満足しないという問題がある。
また、これらの特許文献1〜4に共通することであるが、これらの組成物は、コンクリート補修面に耐酸性は付与できるものの、左官工事による手塗りで補修面を施工する際に、補修材の流動性が低いため、例えば20mm厚の補修層を設けたい場合、一度では塗布できず、二度塗りする必要があった。すなわち、一層目がある程度乾燥してから二層目を塗布する必要があるために、手間と時間がかかるという施工性の問題がある。
【0009】
本発明は、ポリマー系の有機系材料やアルミナセメント等の特殊な材料を使用せず、環境負荷の低減効果が高く、汎用性の高い一般に流通している材料と、産業副産物であるPFBC灰との組み合わせにより、耐酸性、施工性に優れ、かつ低コストの補修材およびそれを用いた補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、補修材の材料および組み合わせについて、種々検討を行った結果、PFBC灰と高炉セメントB種とフライアッシュを適量混合したものが、耐酸性のみならず、施工性にも優れた材料となることを見出した。
【0011】
本発明の耐酸性補修材は、PFBC灰100質量部に対して、高炉セメントB種95〜105質量部、フライアッシュ36〜53質量部、細骨材396〜540質量部を混合したことを特徴とする。
また、本発明の補修方法は、前記の耐酸性補修材100質量部に、混和剤を適量加えた水10〜12質量部で混練し、補修箇所に施工することを特徴とする。
【0012】
加圧流動床複合発電方式(PFBC:Pressurized Fluidized Bed Combustion)の火力発電所の副産物であるPFBC灰は、自硬性を有し、通常のモルタルに比べて優れた耐酸性を期待でき、CO2発生の面でも環境に優しい材料であるが、PFBC灰単体では流動性が低く、施工性が悪い。そこで、これも産業副産物であるフライアッシュを一定量混和し、JIS R 5211に規定する高炉セメントB種(スラグの分量が30%を超え、60%以下)と組み合わせて補修材として使用することで、流動性を改善し、施工性のよい耐酸性補修材とすることができる。
【0013】
混和剤は、単位水量の低減、流動性改善を目的とするものであり、AE減水剤、特に、高性能AE減水剤が好適に使用できる。
【0014】
高炉セメントB種の割合が上記範囲よりも低ければ強度が低下し、高ければ耐酸性が低下するため、上記範囲が適当である。また、フライアッシュが上記範囲よりも低ければ流動性が低下して所定の厚みが得られず、高ければ粘度が高くなって施工性が悪くなるため、上記範囲が適当である。
【0015】
なお、耐酸性補修材としては、細骨材、具体的には砂(川砂、海砂、珪砂等)を予め混入したものを提供することもできる。この場合、使用時には、適量の減水剤と水を加えて混練することで使用できる。
本発明で使用するPFBC灰には、加圧流動床複合発電方式の副産物のみならず、成分と性状、特に比表面積がPFBC灰と同じ範囲である材料を含むものとする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ポリマー系の有機系材料やアルミナセメント等の特殊な材料を使用せず、環境負荷の低減効果が高く、汎用性の高い一般に流通している材料と産業副産物であるPFBC灰との組み合わせにより、耐酸性、施工性に優れ、かつ低コストの補修材およびそれを用いた補修方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)はPFBC灰の顕微鏡写真、(b)は対照のフライアッシュの顕微鏡写真である。
【図2】実施例及び比較例におけるセメントの種類・PFBC灰混合率と圧縮強度試験結果を示すグラフである。
【図3】実施例及び比較例におけるセメントの種類・PFBC灰混合率と曲げ強度試験結果を示すグラフである。
【図4】実施例及び比較例における水結合材比(W/B)と圧縮強度を示すグラフである。
【図5】実施例及び比較例における水結合材比(W/B)と曲げ強度を示すグラフである。
【図6】実施例及び比較例における細骨材セメント比(S/C)と圧縮強度を示すグラフである。
【図7】実施例及び比較例における細骨材セメント比(S/C)と曲げ強度を示すグラフである。
【図8】実施例及び比較例におけるセメントの種類・PFBC灰混合率と耐酸性試験のうち質量変化率結果を示すグラフである。
【図9】実施例及び比較例における耐酸性試験のうち質量変化率結果(S/C、W/Bの条件を変えた)を示すグラフである。
【図10】実施例及び比較例におけるセメントの種類・PFBC灰混合率と耐酸性試験のうち硫酸浸透深さ試験結果を示すグラフである。
【図11】実施例及び比較例における耐酸性試験のうち硫酸浸透深さ試験結果(S/C、W/Bの条件を変えた)を示すグラフである。
【図12】本発明に係るBC−P50のEPMA分析結果を示す断面写真である。
【図13】実施例及び比較例におけるセメントの種類・PFBC灰混合率と細孔径分布試験結果を示すグラフである。
【図14】実施例及び比較例におけるセメントの種類・PFBC灰混合率と総細孔量と硫酸侵食速度係数の関係を示すグラフである。
【図15】実施例及び比較例におけるセメントの種類・PFBC灰混合率と総細孔量と硫酸浸透速度係数の関係を示すグラフである。
【図16】実施例及び比較例における2年塩害環境下での浸漬暴露におけるClイオンの浸透深さに関するEPMA分析結果の写真である。
【図17】実施例及び比較例における実効拡散係数による耐遮塩性効果を示すグラフである。
【図18】実施例及び比較例におけるCO2排出量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
まず、本発明で耐酸性材料として使用するPFBC灰について説明する。
【0019】
PFBC灰は、環境負荷低減やエネルギー問題を考慮した加圧流動床複合発電方式(PFBC:Pressurized Fluidized Bed Combustion)の発電プラントから発生する石炭灰である。PFBC方式の発電所は、燃料である石炭を、圧力容器内に収容した流動床ボイラーで、脱硫剤である石灰石(CaCO3)と流動状態で燃焼させ、発生した高温・高圧の蒸気により蒸気タービンを回して発電するとともに、ボイラーの排ガスによりガスタービンを回して発電する方式である。PFBC灰は、従来のフライアッシュとは性質が異なりCaOが多く、SiO2が少なく、自硬性を有するという特徴がある。
PFBC灰とフライアッシュの成分、比表面積の例を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
PFBC灰の顕微鏡写真を図1(a)に示す。図1(b)は対照のフライアッシュの顕微鏡写真を示す。
【0022】
一方、近年化学的侵食によるコンクリート構造物の性能低下が問題となっており、その対策として、表面保護工法が用いられている。そこで、本実験では、表面被覆材や断面修復材へPFBC灰の適用性を検討するため、強度および耐酸性試験を行った。
【0023】
1.実験概要
1.1 使用材料及び配合
セメントは、普通ポルトランドセメント(略号OPC:密度3.16g/cm3,比表面積3,280cm2/g)、高炉セメントB種(略号BC:密度3.02g,/cm3,比表面積3,920cm2/g)、アルミナセメント(略号AC:密度3.01g/cm3,比表面積4,750cm2/g)を使用した。PFBC灰(略号P:密度2.64g/cm3,比表面積4,250cm2/g)をセメント代替として使用した。フライアッシュは、JISII種(略号FA:密度2.28g/cm3,比表面積4,180cm2/g)を使用した。細骨材に海砂(S:表乾密度2.58g/cm3,吸水率0.96%)を使用した。混和剤は高性能AE減水剤(SP:高性能AE減水剤)を用いた。なお、アルミナセメントは早強性と化学的抵抗性に優れた特長を持っているため、本実験では結合材として使用した。表2に本実験で使用した耐酸性モルタルの配合を示す。表中の配合名P50,P60はPFBC灰のセメントに対しての置換率を示しており、一般的な1:3(質量比)モルタルを基本に、モルタルフロー値は160mmで、水結合材比(W/B)を40%とした8種類の供試体を作製した。
【0024】
【表2】

凡例
OPC :セメント全量を普通ポルトランドセメント
BC :セメント全量を高炉セメントB種
AC :セメント全量をアルミナセメント
P−100:セメント全量をPFBC灰で置換
BC−P50:BCの50%をPFBC灰で置換
W :水
B :結合材
S :細骨材
FA :フライアッシュ(細骨材代替)
SP :高性能AE減水剤
【0025】
1.2 実験方法
耐酸性補修材の試験項目とそれぞれの目標値を表3に示す。圧縮強度試験および曲げ強度試験は、水中養生した4×4×16cmの角柱供試体を用いてJIS R 5201に準拠して材齢7日,28日で行った。耐酸性試験はφ7.5cm×15cmの円柱供試体を用い、質量濃度5%硫酸水溶液に浸漬して行った。なお浸漬試験は、浸漬槽に供試体3本ずつ適宜な間隔を取って供試体全体を浸漬し、溶液の交換周期を7日毎とした。
【0026】
【表3】

【0027】
質量変化率の測定は1,3,7,14,21,28日で行い、硫酸浸透深さの測定は、浸漬終了した供試体の中央部をカッターにより切断し、切断面にフェノールフタレイン1%溶液を噴霧して赤く呈色した範囲をノギスで測定した。
【0028】
2.配合
PFBC灰のモルタルに関して、フライアッシュを置換しない場合、流動性は安定しなく、再現性が難しいため、フライアッシュを細骨材の質量に対して全て10%置換している。PFBC灰は、産業副産物であり、JISで品質規格が設定されておらず、粒径も歪なものが多く流動性改善効果が期待できない可能性が高いことから、利用に当たっては流動性改善を図る必要性が生じた。流動性改善には、PFBC灰と同様の原料で相性的に高いと判断され、コンクリートの流動性改善でも実績のあるフライアッシュをPFBC灰モルタルに適用した結果、流動性の安定が見られ、品質の安定が確認できた。
フライアッシュを細骨材の一部に置換した理由について、図2より、混和したものBC−P50、混和していないものBC−P50(FA0)では、混和したものの方が強度発現性は良好な結果となっている。これは、図1から、PFBC灰は歪な形状のものが多く、フライアッシュを混和しなければ、使用する細骨材の種類によっては強度の安定性を欠き、充填性が悪いと判断された。このため、これら性状の安定を確保するためフライアッシュを利用した。細骨材の比率については後述するが、細骨材とフライアッシュの比率は質量比で9:1が好ましい。これ以上比率が大きいと粘度が高くなって施工性が悪くなる。
【0029】
3.室内試験結果
3.1 圧縮強度及び曲げ強度
図2、図3に圧縮強度試験および曲げ強度試験結果を示す。これらの図より、P100単味で用いた場合は、材齢28日で圧縮強度は3.2N/mm2であり自硬性を有することが確認された。BCにPFBC灰を40%、50%置換したBC−P40とBC−P50の場合、初期材齢の圧縮強度はOPCより小さいが、材齢28日ではほぼ同等になることがわかる。しかし、PFBC灰を60%置換したBC−P60の場合は、高炉セメントの含有量が少ないため、水和反応が疎かになり強度発現が遅延したと考えられる。これより、PFBC灰を用いて汎用性のある材料と組み合わせることで、副産物の有効利用を含めた環境負荷低減を最大限に引き出すことを含めて、目標強度を満足させるためにはPFBC灰の置換率を50%以下とする必要がある。
一方、アルミナセメントを使用した配合では、材齢の経過とともに強度が低下する傾向にあった。この要因としては、結晶転移が生じて結晶粒子間の空隙が増加し硬化体が多孔質となって強度が低下するためと考えられる。また、PFBC灰を置換した配合では、BCと同様、PFBC灰の置換率を増加すると強度が小さくなる傾向にあった。
強度の安定的な伸び、初期強度の確保、基準強度の確保、およびセメントの汎用性、経済性等を考慮すると、強度面ではBC−P40とBC−P50の組合せ(PFBC灰の置換率を40%〜50%)が良好と判断される。
【0030】
図4、図5に水結合材比(W/B)と圧縮強度試験および曲げ強度試験結果を示す。なお、耐酸性モルタルのPFBC灰置換率は50%を基本とした。
水結合材比が45%より大きくなると圧縮強度が目標強度を下回る結果となった。また、42%より小さくなると、強度確保は可能であるものの、粘性が著しく強くなり、目標とするフレッシュ性状でのモルタルフロー値で160mm以上に調整できなかった。このため水結合材比として42%〜45%の範囲が最適となった。
【0031】
図6、図7に細骨材セメント比(S/C)と圧縮強度試験および曲げ強度試験結果を示す。なお、耐酸性モルタルのPFBC灰置換率は50%を基本とした。
細骨材セメント比は、3.0は良好な結果が出ることが確認でき、予備試験でこれより大きくなると目標強度を確保するのが困難であった。このため、良好な強度発現性を期待しつつ、細骨材セメント比で粉体(セメント類)をどの程度まで増やすことが可能か検討した。細骨材セメント比が2.0以下になると、粘性が強く、ミキサ撹拌も容易でなくなる傾向を示し、目標の強度性状を確保でき、ミキサ撹拌が可能な最小値は2.2程度であるが、施工性を勘案すると2.6程度の確保が要求される。このため砂セメント比は2.2〜3.0の範囲であるが好ましくは2.6〜3.0の範囲と判断される。
【0032】
3.2 耐酸性試験のうち質量変化率
図8に5%硫酸水溶液に浸漬した供試体の質量変化率を示す。浸漬期間28日終了時で目標値の質量変化率±10%を満足できたのは、BC−P40、BC−P50、BC−P60、AC、P−100の5配合であった。9配合ともモルタル表面の剥落の程度は異なっており、質量変化率はAC−P60が最も大きく、次いでOPC、AC−P50の順となった。使用したセメントの種類による影響では、高炉セメントB種を使用したBCは目標値を満たせなかったがBC−P40、BC−P50、BC−P60は満足することができた。一般的な硫酸劣化のメカニズムは、セメント水和物であるCa(OH)2と硫酸イオンSO3との反応により石膏CaSO4・2H2Oが生成され、その石膏がセメント化合物のC3A(アルミン酸三カルシウム)と反応し、膨張性のエトリンガイトを生成して破壊に至ると言われている。このため、セメント水和物の生成量が少ないBC−P40、BC−P50、BC−P60は硫酸劣化が抑制されたと考えられる。次に、アルミナセメントを使用した配合では、AC単味では目標値を満足することができたが、ACに対してPFBC灰の置換率が増加すると、質量変化率もそれに伴って減少する結果となった。これは、ACがアルミン酸カルシウムを主要鉱物としていることから、化学抵抗性を有しているためと考えられる。また、PFBC灰はセメントを使用せず、Ca(OH)2生成量も少ないためP−100も目標値を満足したと考えられる。
また、図9に別途実施した砂セメント比と水結合材比を変えた結果も合わせて示す。
砂セメント比2.6〜3.0、水結合材比42%〜45%であれば、ほぼ同様な耐酸性が期待できる結果となった。
【0033】
3.3 耐酸性試験のうち硫酸浸透深さ
図10に耐酸性試験のうち硫酸浸透深さの結果を示す。硫酸浸透深さは、侵食深さと、中性化領域を合わせた深さであり、材齢28日で硫酸浸透深さが、OPCより大きい配合が、P−100とAC−P60となり、AC−P50もOPCと同程度であった。セメント単独使用のBC、ACは、OPCの半分以下程度となり、さらに高炉セメントB種にPFBC灰を置換したBC−P60、BC−P50は硫酸浸透深さが小さく、特にBC−P50は全てのモルタルの中で最も硫酸浸透深さが小さく、OPCの1/5以下となり硫酸劣化に対して高い効果があることが確認された。この結果、耐酸モルタルの条件を満足するモルタル配合は、BC−P50とBC−P60のみであった。
PFBC灰を置換したいずれの配合もセメントの組合せによって侵食と中性化のパターンが異なることが実験的に確認され、この両方のバランスとしてBC−P50が最も硫酸浸透深さを抑制できることが確認された。
図11に別途実施した砂セメント比と水結合材比を変えた結果も合わせて示す。砂セメント比に関わらず水結合材比が45%では目標値を若干外れる結果となった。この結果、水結合材比は42%程度が最も良好であることが確認できる。
【0034】
3.4 PFBC灰の硫酸劣化に対する有効性
(1) EPMA分析
図12にBC−P50のEPMA結果を示す。モルタルの硫酸劣化は水酸化カルシウムCa(OH)2と硫酸イオンSO3の反応で石膏CaSO4・2H2Oを生成し、その石膏がC3A(アルミン酸三カルシウム)と更に反応して膨張性のエトリンガイトを生成し、この膨張圧で硫酸劣化を起こすものである。BC−P50は図12のように石膏が生成したにも関わらず侵食が軽微であった要因としては、水酸化カルシウムがOPC、BCよりも少ないこと、さらにPFBC灰で置換したことでポゾラン反応による水酸化カルシウムが消費することに加えて、後述する細孔構造の結果からBCに比べて細孔空隙量が多いことから、侵食を生じるような膨張圧に至らなかったことが考えられる。
【0035】
(2) 細孔径分布
図13に細孔径分布試験結果を示す。PFBC灰の置換率を大きくするほど細孔容積が大きくなり、PFBC灰の利用・置換によって細孔構造が緻密になるものでなく疎となっている。
この緻密さと硫酸劣化の関係について、図14と図15に総細孔量と硫酸侵食速度の関係、総細孔量と硫酸浸透速度の関係を示す。侵食速度と総細孔量の間には相関は認められず、総細孔量と硫酸浸透速度の係数はPFBC灰を置換していない配合は一次の高相関関係が認められるものの、PFBC灰を置換した配合は明瞭でない。これにより、細孔量は硫酸浸透に及ぼす影響因子の一つである可能性が高いものの、PFBC灰を置換した配合においてはこれに該当しない可能性が高い。PFBC灰のモルタル配合は特有の性質を有しており、最適な置換率が存在する可能性が高く、強度特性、耐酸性等の結果よりBC−P50が現状で最適である結果となった。すなわち、PFBC灰を出来るだけ用いたいという考えの中ではBC−P50が最適となる。
【0036】
4.まとめ
この硫酸劣化(膨張圧)に対応するためには、水酸化カルシウムの生成量だけでなく、細孔構造(細孔空隙量)も影響することが明らかとなった。本実験では汎用性の高いセメントとPFBC灰と組合せることを前提に、表3に示す目標の強度、耐酸性における質量変化率および硫酸浸透深さの条件を満足し、高炉セメントに対してPFBC灰を50%置換し、PFBC灰100質量部に対して、高炉セメントB種95〜105質量部、フライアッシュ36〜53質量部、細骨材396〜540質量部としたものは、耐酸性(ポリマーセメント)モルタルと同等の性能を持った耐酸性補修モルタルといえる。耐酸性モルタルの品質条件に対して、PFBC灰を100%置換したモルタル配合(P−100)は、侵食がほとんどないものの、硫酸浸透深さがOPCよりも大きくなった。高炉セメントB種と組み合わせたBC−P50は侵食深さも小さく、硫酸浸透深さもOPCの1/5以下(硫酸浸漬28日)となり、硫酸劣化に対してPFBC灰を用いたことで高耐久なモルタル配合となった。
【0037】
5.現場施工試験
5.1 施工試験の概要
現場施工試験により、PFBC灰モルタルの「耐酸性補修材」(防食被覆・断面修復材)としての有効性を確保するとともに、良好な施工性を有する配合検討を実施した。その配合を用いて現場施工試験を行い、左官工による作業性の確認等に関する基礎データの収集を行った。
【0038】
5.2 施工試験の結果
BC−P50の配合において、W/B=48%以下では、耐酸性の品質基準を満足する配合になることが確認できた。
室内試験では、W/B40%、モルタルフロー値160mmと設定していたものの、施工試験では良好な施工性が得られないことが確認された。左官工による実作業性を考慮した結果、施工性の面で推奨するW/Bの範囲として46%〜48%の範囲となり、このときのモルタルフロー値は180mm〜200mm程度の範囲となった。
上記について、PFBC灰モルタルは粘性が強く、通常のモルタルのような垂れが少ないため、ある程度フロー値を大きくしても、垂れる心配がない。逆に施工性を向上するための流動性を確保するために、W/B、モルタルフロー値とも大きくする必要がある。
W/B46%〜48%の範囲、モルタルフロー値180mm〜200mmの範囲におけるPFBC灰モルタルは、下水道基準に比して、曲げ強度、圧縮強度、耐酸性、硫酸浸透深さに関して条件をクリアした。
付着強度はポリマーセメントと同程度を確保するとともに、通常の補修材と同様にプライマー処理を実施した方が付着強度も強いことを確認した。
【0039】
5.3 現場施工試験
表4に施工性評価結果を示す。W/B=46%、48%の配合において、現場施工試験を実施した結果、品質、施工および付着性に問題がないことを確認した。
【0040】
【表4】

※1:BCは高炉セメントB種、OPCは普通ポルトランドセメント
※2:品質基準について
○:表3の目標を満足したもの
△:設計基準強度(24N/mm2)以上あり補修材料としての強度を満足するもの
×:表3の目標を満足しないもの
※3:施工性について(左官作業聞き取りを通じて)
○:ポリマーセメントと同等以上の施工性を確保したもの
×:補修材としての施工性が確保できないもの
※4:付着強度について(日本道路公団JHS319参照)
○は1.0N/mm2以上を確保したもの
×は1.0N/mm2以上を確保しないもの
【0041】
試験施工に携わった左官工からは、ポリマーセメントモルタルに比べて適度な粘性で施工がしやすく、また、垂れが少なく厚塗りが可能である等のコメントを得た。(通常20mmの補修厚さでは10mmずつ2回に分けるが1回でできる)
ここで、PFBC灰を基準にして、高炉セメントB種、細骨材、フライアッシュ、水の比率を変えた場合の施工性の評価を表5に示す。
【0042】
【表5】

【0043】
以上の評価から、施工性が良好である範囲は、PFBC灰を100質量部として、高炉セメントB種BCは略等量、細骨材Sは好ましくは396〜540質量部、フライアッシュFAは36〜53質量部、水Wは84〜96質量部という結果が得られた。
【0044】
6.環境負荷低減効果(CO2削減効果)
CO2削減効果について、PFBC灰はフライアッシュと同様の石炭灰であり、CO2排出原単位は表6のフライアッシュと同様である。
PFBC灰モルタルのCO2削減効果について、表7の配合を基に検討した結果を表8と図18に示す。
この結果より、産業副産物であるPFBC灰の利用率が多いほどCO2削減効果が高く、環境負荷低減効果が高い配合となることが確認できる。
【0045】
【表6】

【0046】
【表7】

【0047】
【表8】

【0048】
7.耐遮塩性試験
7.1 耐遮塩性効果の検証試験の概要
室内試験、現地暴露試験により、PFBC灰モルタルの「耐遮塩性補修材」(防食被覆・断面修復材)としての有効性に関する検討を実施した。
【0049】
7.2 室内試験の結果
(1) 試験方法
表9の配合にて試験を実施した。
電気泳動試験は、28日間の水中養生を行ったφ10×5cmの円柱供試体を用いてJSCE−G571に準じて行い実効拡散係数で評価した。
【0050】
【表9】

【0051】
(2)試験の結果
図17の耐久性上問題となる塩化物イオンの移動を示す実効拡散係数は、BC−P50,BC,OPCの順に大きくなる。BC−P50は、OPCの1/2程度、BCの3/4程度を示した。このことから、PFBC灰モルタルは塩害劣化で問題となる自由塩化物イオンに対する抵抗性を有していることが分かった。
【0052】
7.3 現地暴露試験
(1)試験方法
実塩害環境下において2年間浸漬暴露試験を実施した。BC−P50(PFBC灰モルタル配合)と比較として、従来耐遮塩性効果が高いとされるBC(結合材に高炉セメントのみを使用したモルタル配合)と、標準のモルタルOPC(結合材に普通ポルトランドセメントのみを使用したモルタル配合)で実施した。
評価手法としては、EPMA分析による塩素イオン濃度(Cl-)の測定を実施した。
図16に2年間浸漬暴露した試験体のEPMA分析結果を示す。
塩分(Cl)について、BC−P50の浸透深さが7mmであるのに対して、OPCが12mm、BCが10mmまでの深さの範囲で高い濃度の分布が認められた。また、塩分の浸透状況は、BC−P50が2〜3mmの浸透深さの位置を中心に内部方向に向かって濃度が低くなるのに対して、OPC、BCとも1mm程度の浸透深さの位置を中心に濃度が低くなっている。このことから、PFBC灰を用いたBC−P50は他の配合に比べて遮塩性が高く、特に耐遮塩性に効果が高いとされる高炉セメントよりも良好な耐遮塩性効果が認められた。
【0053】
以上の実施例では、加圧流動床燃焼方式の発電設備から排出されるPFBC灰を用いた例を示したが、前掲の表1に示した成分および比表面積がPFBC灰と同じ範囲である材料も、本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、加圧流動床燃焼方式の発電設備から排出されるPFBC灰の有効利用を図り、耐酸性および施工性に優れた補修材として、下水道や温泉地帯等の設備の補修分野に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PFBC灰100質量部に対して、高炉セメントB種95〜105質量部、フライアッシュ36〜53質量部、細骨材396〜540質量部を混合した耐酸性補修材。
【請求項2】
前記PFBC灰には、成分および比表面積がPFBC灰と同じ範囲である材料を含む請求項1記載の耐酸性補修材。
【請求項3】
請求項1または2に記載された耐酸性補修材100質量部に、混和剤を適量加えた水10〜12質量部で混練し、補修箇所に施工することを特徴とする耐酸性補修材を用いた補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−66997(P2012−66997A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181638(P2011−181638)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000164438)九州電力株式会社 (245)
【出願人】(598015084)学校法人福岡大学 (114)
【出願人】(594162308)西日本技術開発株式会社 (16)
【Fターム(参考)】