説明

耐錆性能に優れた軽量気泡コンクリートパネル

【課題】 補強筋の錆の発生を抑制でき、屋上緑化用基盤や壁面緑化用基盤のように水に常時接する部位にも使用することができる、優れた耐錆性能を有する軽量気泡コンクリート(ALC)パネルを提供する。
【解決手段】 ALCパネルに埋設されている補強筋が、0〜100℃の平均熱線膨張係数が9.0×10−6以上14.0×10−6未満のステンレス鋼、例えば、マルテンサイト系の13クロムステンレン鋼、あるいはフェライト系の18クロムステンレス鋼からなる。これらのステンレス鋼は、潜在欠陥が無く、優れた耐錆性能を有すると共に、平均熱線膨張係数がALC生ケーキと同程度であるから、オートクレーブ養生の過程でALCに亀裂が発生しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築材として使用される軽量気泡コンクリート(ALC)のパネルに関し、特に内部に埋設された補強筋に対する錆の進行を抑制させることができる耐錆性能に優れたALCパネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ALCパネルの製造は、珪石などの珪酸質原料と、セメントや生石灰などの石灰質原料からなる主原料に、石こう、オートクレーブ前のALC切断屑、ALC廃材の粉砕粉などの副原料と水を加え、混合撹拌して原料スラリーとする。この原料スラリーに発泡剤としてアルミニウム粉末を混練し、補強筋を配した型枠に流し込んで発泡させ、所定時間を経てケーキ状の半硬化体とする。その後、半硬化体をピアノ線で所定寸法に切断し、オートクレーブで高温高圧の水蒸気養生を行い、切削加工を施してALCパネルが製造される。
【0003】
このようにして製造されたALCパネルは、軽量であり、耐火性及び断熱性に優れ、施工性にも優れているため、建築材料として広く使用されている。しかしながら、ALCパネル内部には強度を補強するために補強筋が埋設されているため、この補強筋に錆が発生してALCパネルが劣化するという問題があった。即ち、一般的に補強筋としては、普通鉄線を格子状に溶接したマットをカゴ状にした物やラス金網が使用されているが、これらの補強筋は耐食性に欠けるため、弱アルカリ性のALC中で錆を発生することが避けられない。
【0004】
そこで、従来から、補強筋の表面に各種の防錆処理を施すことが行われている。例えば、主成分がSBR樹脂、アスファルトエマルジョン、炭酸カルシウムからなる防錆剤に補強筋を浸漬し、表面に防錆被膜を形成することが一般に行われている。しかし、防錆被膜を施した補強筋は耐錆性能が大幅に向上するが、ALCパネルの高含水状態が続くと防錆処理した補強筋でも錆が発生しやすくなるために、屋上緑化用基盤や壁面緑化用基盤のように水に常時接する部位に使用することは困難であった。
【0005】
また、特開2001−278678号公報には、表面に防錆被膜を施した補強筋として、熱線膨張係数の大きいオーステナイト系ステンレス鋼を使用することにより、オートクレーブ養生後にALCパネルにプレストレスを作用させて、曲げ強度を大幅に向上させる技術が開示されている。しかし、熱線膨張係数が大きいオーステナイト系ステンレス鋼の補強筋はオートクレーブ養生初期における伸びが著しいため、ALCに亀裂が生じやすいという欠点があった。
【0006】
【特許文献1】特開2001−278678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題を解決するため、防錆処理を施さなくても補強筋の錆の発生を抑制でき、屋上緑化用基盤や壁面緑化用基盤のように水に常時接する部位にも使用することができる、優れた耐錆性能を有するALCパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明が提供する軽量気泡コンクリートパネルは、補強筋を埋設した軽量気泡コンクリートパネルであって、該補強筋が0〜100℃の平均熱線膨張係数が9.0×10−6以上14.0×10−6未満のステンレス鋼からなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、補強筋として熱線膨張係数が適正な範囲のステンレス鋼を使用することによって、オートクレーブ養生の過程でALCに亀裂が発生しないだけでなく、防錆処理を施さなくても補強筋の錆の発生を抑制することが可能な優れた耐錆性能を有するALCパネルを提供することができる。従って、本発明が提供するALCパネルは、従来使用できなかった水に常時接する部位への使用も可能であるため、屋上緑化用基盤や壁面緑化用基盤などの用途にも用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明においては、補強筋の材質として、0〜100℃の平均熱線膨張係数が9.0×10−6以上14.0×10−6未満のステンレス鋼を使用する。このような平均熱線膨張係数を有するステンレス鋼としては、マルテンサイト系の13クロムステンレン鋼又はフェライト系の18クロムステンレス鋼があり、潜在欠陥が無く、優れた耐錆性能を有していることが分かった。また、上記ステンレス鋼の平均熱線膨張係数は、ALC生ケーキの平均熱線膨張係数と同程度であるから、オートクレーブ養生の過程でALCに亀裂が発生することを防止することもできる。
【0011】
なお、上記0〜100℃の平均熱線膨張係数が14.0×10−6以上のステンレス鋼、例えばオーステナイト系の18−8ステンレス鋼の場合、補強筋として使用すると、オートクレーブ養生初期における補強筋の伸びが著しいために、ALCの生ケーキに亀裂が生ずることが避けられない。また、上記平均熱線膨張係数が9.0×10−6未満のステンレス鋼は、特殊品となるため高価であり、ALCパネル用の補強筋としては使用することができない。
【0012】
本発明では、上記した平均熱線膨張係数を有するステンレス鋼からなる線材を用い、従来と同様に格子状に溶接したマットあるいは更にカゴ状にした物などを補強筋とする。このステンレス鋼からなる補強筋を型枠内に配置し、この型枠内に通常のALC原料スラリーを流し込んで発泡させ、その後は通常のALC生産工程と同様にして、本発明のALCパネルを作製することができる。
【0013】
本発明における上記ステンレス鋼からなる補強筋は、予め表面に通常の防錆処理を施すことにより防錆被膜を設けても良いが、防錆被膜のない無処理の状態であっても良好な耐錆性能を有する。そのため、上記ステンレス鋼の補強筋弱は、表面に防錆被膜がない状態であっても、弱アルカリ性のALC中で錆を発生することがなく、またALCパネルが吸水した状態においても優れた耐錆性能を発揮することができる。
【0014】
従って、本発明のALCパネルは、従来使用できなかった水に常時接する部位への使用も可能である。例えば、屋上防水層の押さえ、屋上緑化用基盤、壁面緑化用基盤、植栽用コンテナなどの用途に使用しても発錆し難く、長期の耐久性を有している。また、水に接する機会の多い、風呂、トイレ、台所などの水周りに使用することも可能である。
【実施例】
【0015】
[実施例1]
ALCの補強筋として、マルテンサイト系ステンレス鋼のSUS410(0〜100℃の平均熱線膨張係数が10.4×10−6)からなる線材を用い、通常のごとく格子状に溶接してカゴ型になした補強マットを作製した。この補強マット(防錆被膜無し)をセットした型枠内にALC原料スラリーを流し込み、通常の工程に従って、本発明による試料1のALCパネルを製造した。
【0016】
即ち、珪酸質原料として珪石40重量%、石灰質原料としてセメント30重量%と生石灰5重量%、及び石膏5重量%、繰り返し原料20重量%からなる粉末原料を、水固体比0.65で混練して原料スラリーとした。更に発泡剤のアルミニウム粉末を加え、得られたスラリーを上記補強マットが配置された型枠内に流し込んで発泡させ、所定時間を経てケーキ状半硬化体を得た。この半硬化体をピアノ線で所定の寸法に切断した後、180℃、10気圧のオートクレーブにて10時間の水蒸気養生を施して、厚さ100mm、幅600mm、長さ1000mmのALCパネルを得た。
【0017】
また、上記マルテンサイト系ステンレス鋼のSUS410からなる補強マットの代わりに、フェライト系ステンレス鋼のSUS430(0〜100℃の平均熱線膨張係数が9.8×10−6)の線材で製作した補強用マット(防錆被膜無し)を使用した以外は上記試料1の場合と同様にして、本発明による試料2のALCパネルを製造した。
【0018】
このようにして製作された上記試料1〜2の各ALCパネルについて、外観を目視確認し、亀裂の有無を判定した。また、JIS A5416の規定に従って、ALCパネルの曲げ試験並びに防錆試験を行い、ALCパネルの曲げひび割れ安全率と補強筋の錆面積比を求めた。得られた結果を下記表1に示した。
【0019】
なお、上記ALCパネルの曲げひび割れ安全率は、曲げ試験により求めた曲げひび割れ荷重をALCパネル設計時の曲げひび割れ荷重の下限値で割った値であり、この値が1未満のパネルは設計荷重を満たしていないことになる。尚、上記実施例1における厚さ100mm×幅600mm×長さ1000mmで設計荷重が1600N/mmのALCパネルは、JIS A5416の規定によれば、設計時の曲げひび割れ荷重の下限値は734Nとなる。
【0020】
また、補強筋の錆面積比は、対象部分の補強筋表面積に対する錆発生面積の比率(%)として算出する。具体的には、JIS A5416のパネルの防錆試験方法に従って、断面の中央にパネル長さ方向の補強筋が入るようにALCパネルから40mm×40mm×160mmの試験体を切出し、補強筋が露出する両断面を被覆する。この試験体を相対湿度95%以上の雰囲気中に置き、温度25±5℃から試験を開始し、温度55±5℃との間の温度変化を1日4サイクルの割合で112サイクル行う防錆試験の後、試験体を割って補強筋を取り出し、補強筋の両端から10mmを除いた対象部分に発生した錆の面積を求める。この錆面積比は、JIS A5416により5%以下と規定されている。
【0021】
[比較例1]
上記実施例1と同様に実施したが、ALCの補強筋として、オーステナイト系ステンレス鋼のSUS309(0〜100℃の平均熱線膨張係数が14.9×10−6)からなる線材で製作した補強用マット(防錆被膜無し)を使用することにより、比較例である試料3のALCパネルを作製した。
【0022】
また、上記実施例1と同様に実施したが、ALCの補強筋として、従来から一般的に使用されている普通鉄線(0〜100℃の平均熱線膨張係数が11.7×10−6)で製作した補強用マット(防錆被膜無し)を使用することにより、比較例である試料4のALCパネルを作製した。
【0023】
このようにして製作された比較例である試料3〜4の各ALCパネルについても、上記実施例1と同様に、亀裂の有無を判定すると共に、ALCパネルの曲げ試験並びに防錆試験によりALCパネルの安全率と補強筋の錆面積比を求めた。得られた結果を下記表1に併せて示した。
【0024】
【表1】

【0025】
上記の結果から分かるように、本発明の実施例1による試料1〜2のALCパネルは、外観に亀裂の発生はなく、ALCパネルの曲げひび割れ安全率は1以上であり、且つ補強筋の錆面積比は防錆被膜なしで2.0%以下であるため、総合判定として何ら問題はなく良好(○)であった。
【0026】
一方、比較例1における試料3のALCパネルは、0〜100℃の平均熱線膨張係数が14.9×10−6と大きいオーステナイト系ステンレス鋼の補強筋を用いているため、錆面積比は低いが、表面に亀裂が発生し且つ曲げひび割れ安全率も1.0未満で設計荷重を満たしておらず、総合判定は不良(×)であった。また、比較例1における試料4のALCパネルは、補強筋として普通鉄線を用いているため、防錆被膜のない状態では錆面積比が極めて高くなり、総合判定は不良(×)であった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強筋を埋設した軽量気泡コンクリートパネルであって、該補強筋が0〜100℃の平均熱線膨張係数が9.0×10−6以上14.0×10−6未満のステンレス鋼からなることを特徴とする耐錆性能に優れた軽量気泡コンクリートパネル。
【請求項2】
前記ステンレス鋼からなる補強筋は表面に防錆被膜が形成されていないことを特徴とする、請求項1に記載の軽量気泡コンクリートパネル。



【公開番号】特開2007−8109(P2007−8109A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−194705(P2005−194705)
【出願日】平成17年7月4日(2005.7.4)
【出願人】(399117730)住友金属鉱山シポレックス株式会社 (195)
【Fターム(参考)】