説明

耐震ブレース取付具及び耐震ブレースの取付構造

【課題】木造軸組みに取付けた耐震ブレースが、地震時の振動が作用しても抜け落ち易くならない。
【解決手段】柱材1や梁2などの軸組みに取付ける取付具Aは、柱材1に固定する固定部6を有する垂直材固定体3と、梁2に固定する固定部6を有する水平材固定体4とから成っており、垂直材固定体3と水平材固定体4は、互いに一部を重ね合わせて角度が自在に可変であるとともに、共にブレース連結部8を備えている。方形軸組みの対角となる隅角部に、それぞれ取付具Aを固定するとともに、対角となる取付具A・Aには、それらブレース連結部8・8の間に引張材10を渡す。軸組みの変形を、固定体3・4の開き角度の変化によって吸収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造家屋において採用することが出来る耐震ブレースの取付具と、その取付具を使用した耐震ブレースの取付構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブレースは、筋交とも呼ばれ、柱などの左右の垂直材と、梁や土台などの上下の水平材によって組んだ方形の軸組みに、対角線上に配置する部材であって、地震時の水平振動力に耐え得るための部材である。
このようなブレースは、木造家屋などの場合、特開2007−262659号に記載された発明のように、筋交の端部を、取付用の金具を使用して、釘やビスなどで柱や土台に固定していた。
【0003】
このようなブレースを取り付けていたとしても、地震などの振動が作用したとき、いわゆる横揺れという振動によって、垂直材と水平材とによって組んだ長方形の軸組みが、僅かながらも平行四辺形に変形する。
このような変形によって、取付具の垂直材への取付け部分と、水平材への取付け部分との角度が大きくなったり小さくなったりする。
つまりは、取付具が垂直材と水平材の角度の変化に追随できず、ブレースによる引張力だけでなく、てこ反力が作用して、取付けのための釘やビスが振動によって釘穴から抜けたり入ったりすることになる。
その結果、釘やビスが釘穴から容易に離脱し易くなってしまい、最終的には釘やビスが抜け落ちて、ブレースとしての機能が著しく低下してしまうことがあった。
【0004】
しかしながら他方、地震時に作用する力を、初動から全て釘やビスなどの固定部分で強固に受けることは、他の部分での破壊に繋がることがある。
つまりは、地震時の初動時の力を釘やビスではなく、別の部材によって吸収できれば、釘やビスへの負担が小さくなり、取付具の柱などからの離脱を避けるのに有効である。
【特許文献1】特開2007−262659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、ブレースを垂直材や水平材へ取り付ける取付具が、容易にそれら部材から離脱させないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる耐震ブレース取付具は、
耐震ブレースを柱や梁に取付ける取付具であって、
垂直材に固定する固定部を有する垂直材固定体と、
水平材に固定する固定部を有する水平材固定体とから成り、
垂直材固定体と水平材固定体の一部は、互いに重ね合わせて角度が自在に可変であるとともに、共にブレース連結部を備えているものである。
【0007】
また、本発明にかかる耐震ブレースの取付構造は、
左右垂直材と上下水平材とによって組まれた方形軸組みに取付けられる耐震ブレースの取付構造であって、
前記耐震ブレース取付具の垂直材固定体と水平材固定体を、
垂直材固定体は固定部を固定部材によって垂直材に固定し、水平材固定体は固定部を固定部材によって水平材に固定して、
前記方形軸組みの対角となる隅角部に、それぞれ耐震ブレース取付具を固定するとともに、
対角となる耐震ブレース取付具には、それらブレース連結部の間に引張材を渡すものである。
また、他の耐震ブレースの取付構造は、
引張材として、初期引張剛性が1MN〜20MNである金属製棒材、繊維帯、若しくはゴム帯を採用するものである。また、引張力に緊張力を導入するkとにより架構の剛性を調整することも出来る。
【発明の効果】
【0008】
本発明は以上のような構成を有し、以下の効果のうち少なくともひとつを達成することが出来る。
<a>取付具は、垂直材に固定する固定部を有する垂直材固定体と、水平材に固定する固定部を有する水平材固定体とから成り、互いに重ね合わせて角度が自在に可変であるため、垂直材と水平材との角度が変わっても、それに追随して垂直材固定体と水平材固定体との開き角度が変わり、固定部を貫通した釘やビスに大きな力が作用せず、垂直材や水平材との固定が緩むようなことがない。
<b>本発明の耐震ブレースの取付構造であると、金属製棒材や、繊維帯や、ゴム帯などを引張材として採用して、安価で地震時の大きな振動に耐え得る構造となる。
【実施例1】
【0009】
<a>軸組み構造
図1に示す実施例では、軸組みとして左右の垂直材である柱材1・1と、上下の水平材である梁2・2によって方形の軸組みが組まれている。
【0010】
<b>ブレース
実施例では、ブレースは、方形の軸組みに対して、その対角線上に取付けられている。
すなわち、右上の隅角部から、左下の隅角部へ、そして、左上の隅角部から右下の隅角部に斜めに架け渡されており、ふたつのブレースがクロスするように取付られている。
しかしながら、ブレースは、必ずしも方形の軸組みにふたつ架ける必要はなく、異なる方形の軸組みの一方に、右上から左下に、他方の軸組みに左上から右下に架け渡すことで、左右の横揺れに耐え得ることが可能なこともある。
【0011】
<c>取付具
ブレースを取り付ける取付具Aは、垂直材固定体3と、水平材固定体4のふたつの金具から成っている。
垂直材固定体3と水平材固定体4は共に扇状を成しており、その扇の開き角度は、直角よりθだけ小さくなっている。θは5〜10度程度である。
垂直材固定体3の左右一方の縁は、90度屈曲された固定部6となっている。
他方、水平材固定体4は、垂直材固定体3が左右のいずれかに固定部6があるとき、その左右の他方側の縁に固定部6が形成されている。
すなわち、水平材固定体4と垂直材固定体3とを重ねたとき、それらの二つの固定体6・6が、扇の左右に離隔して位置することになる。
固定部6には、それぞれ挿通孔7が複数個形成されている。
垂直材固定体3と水平材固定体4は、扇状部分の一部を重ね合わせるものであって、その重ね合った部分に、ブレース連結部である長孔8が重なるように貫通されている。
ブレース連結部としては、長孔8に限らず、リング状の部材を採用して固定体3・4に取付けることも可能である。
【0012】
<d>固定
垂直材固定体3は、その固定部6を柱材1に添わし、固定部材である釘9を挿通孔7に通して、柱材1に打ちつけて固定する。
他方、水平材固定体4は、その固定部6を梁2に添わし、釘9を挿通孔7に通して梁2に打ちつけて固定する。
以上のようにして、軸組みの四つの隅角部に、取付具Aをそれぞれ固定する。
【0013】
<e>引張材
軸組みの対角線上に、引張材10を取り付ける。
引張材10としては、金属製棒材、繊維製の帯材、ゴム製の帯材などが使用可能である。
これら引張材10は、初期引張剛性が1MN〜20MNの範囲であることが好ましい。
引張材10の引張剛性が1MNを下回った場合、終局部材角が地震後復旧できる限界部材角を超える。引張剛性が20MNを上回った場合、軸組みが剛体のごとく振舞いエネルギーを吸収しなくなる。
実施例では繊維製の帯材を採用し、これを対角線上に位置するふたつの取付具Aの長孔8に通して、両端を固定して輪っか状にしてある。帯状材の取付けは、これらに限らず、様々な態様が考えられる。
金属製棒材などの場合は、ターンバックルなどと一緒に、引張材10として使用することも可能である。
以上のようにして、二本の引張材10・10が、ひとつの軸組みにクロスして取付けてある。
【0014】
<f>耐震作用
地震時の横ゆれによって、軸組みが平行四辺形に変形することがある。
図3に示す通常時の軸組み構造が、図4や図5に示す変形をするものである。
図4は、柱材1と梁2の角度が鋭角になったときである。このとき、垂直材固定体3と水平材固定体4は、その開き角度が小さくなって、より重なり合う部分が大きくなる。
しかしながら、垂直材固定体3にも、水平材固定体4にも変形させるような力が作用せず、また、それらの固定部6・6には釘9を引き抜こうとする力は増大するが、想定内に収まる。
つまりは、軸組みの変形による柱材1と梁2の角度変化を、垂直材固定体3と水平材固定体4の開き角度の変化によって吸収してしまうものである。
図5に示すのは、柱材1と梁2の角度が鈍角に変化した場合である。
この場合も、垂直材固定体3と水平材固定体4の開き角度の変化を、ふたつの部材の開き角度の変化によって吸収し、この場合も固定体3・4に無理な力が作用せず、釘9を引き抜こうとする力が増大するが想定内に収まる。
言い換えれば、固定体3・4各々が柱材1や梁2・土台の動きに追随して、てこ反力が作用せず、釘9に均等に力が伝わり、効率的な応力伝達が図れ、釘9が抜けにくくなる。
更には、ブレースにより発生する過大な引張力に対し、金物(垂直材固定体3、水平材固定体4)の両方にブレース用の取付孔8を設ける事で、ブレースによる水平成分・垂直成分が金物に効率良く応力伝達が図れるような工夫となっている。
金物自体は、柱1、梁2や土台の動きに追随できるので、効率的な応力伝達を図れるのはいうまでもない。
【実施例2】
【0015】
図6に示すのは、他の実施例であって、垂直材固定体3と水平材固定体4の重なり合う部分に、両部材3・4の双方に接着するよう減衰ゴム11を固着して両者をつなぎ合わせたものである。
地震の初動のとき、減衰ゴム11によって地震時の変形に耐え得るようにして、ブレースの取付具Aなどが軸組みから離脱するのを有効に防止する。
減衰機構は、減衰ゴム11に限らず様々な形態のものを採用することができ、ブレースとは別個にダンパーなどを軸組みに取付けるなども可能である。
【実施例3】
【0016】
図7に示すのは、引張材10に作用する引張力に対して釘9が抜けにくくするために、引張力に対してより抵抗する向きに斜めに釘9を打った場合である。
固定体6・6には、釘9を斜めに打ち易くするために、テーパー状面を形成してある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】耐震ブレースを取り付けた軸組みの正面図
【図2】取付具の分解斜視図
【図3】取付具の固定状態の正面図
【図4】柱材と梁が鋭角になったときの正面図
【図5】柱材と梁が鈍角になったときの正面図
【図6】他の実施例の正面図
【図7】他の実施例の正面図
【符号の説明】
【0018】
A:取付具
1:柱材
2:梁
3:垂直材固定体
4:水平材固定体
6:固定部
7:挿通孔
8:長孔
9:釘
10:引張材
11:減衰ゴム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐震ブレースを柱や梁などの軸組みに取付ける取付具であって、
垂直材に固定する固定部を有する垂直材固定体と、
水平材に固定する固定部を有する水平材固定体とから成り、
垂直材固定体と水平材固定体の一部は、互いに重ね合わせて角度が自在に可変であるとともに、共にブレース連結部を備えている
耐震ブレース取付具。
【請求項2】
左右垂直材と上下水平材とによって組まれた軸形枠組みに取付けられる耐震ブレースの取付構造であって、
請求項1に記載された耐震ブレース取付具の垂直材固定体と水平材固定体を、
垂直材固定体は固定部を固定部材によって垂直材に固定し、水平材固定体は固定部を固定部材によって水平材に固定して、
前記方形軸組みの対角となる隅角部に、それぞれ耐震ブレース取付具を固定するとともに、
対角となる耐震ブレース取付具には、それらブレース連結部の間に引張材を渡したことを特徴とする耐震ブレースの取付構造。
【請求項3】
引張材は、初期引張剛性が1MN〜20MNである金属製棒材、繊維帯、若しくはゴム帯であることを特徴とする
請求項2記載の耐震ブレースの取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−197432(P2009−197432A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38538(P2008−38538)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000201490)前田工繊株式会社 (118)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】