説明

耐震補強方法

【課題】既存建物の外側に広い敷地を特に必要とすることなく、既存建物の耐震性を向上させ易くする。
【解決手段】既存建物Aの耐震補強方法であって、既存建物の外側において支持される梁構造部1と、既存建物の横揺れに伴って既存建物の外側において上下方向に変位可能で、かつ、その既存建物と一体の架構2とを設けて、横揺れに伴う架構の上下方向に沿う変位で梁構造部を変形させて、その梁構造部の変形により地震エネルギーを吸収させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建物の耐震補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存建物の使用に特に支障を来さないように、その既存建物の耐震性を補強する方法として、従来、制振装置を組み込んである制震架構を既存建物の外側敷地に構築して、その制震架構の側部と既存建物の側部とを連結部材で連結する方法や、耐震架構を既存建物の外側敷地に構築して、その耐震架構の側部と既存建物の側部とを制震装置を介して連結する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開平9−235890号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来方法は、既存建物の横揺れに伴う水平方向の変位を制震架構で受け止めることにより、或いは、制震装置を介して耐震架構で受け止めることにより、地震エネルギーを吸収して既存建物の耐震性を向上させる方法であり、既存建物の横揺れに伴って、制震架構や耐震架構には大きな転倒モーメントが発生し易いので、制震架構や耐震架構の基礎工事が大掛かりになるとともに、既存建物の外側に広い敷地が必要となる。
このため、既存建物の外側に障害物が既に存在している場合や、既存建物の外側に通路用の空間や空き地などを確保したい場合など、既存建物の外側に制震架構や耐震架構の構築用の広い敷地を確保できない場合には、既存建物の耐震性を向上させ難い欠点がある。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、既存建物の外側に広い敷地を特に必要とすることなく、既存建物の耐震性を向上させ易くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1特徴構成は、既存建物の耐震補強方法であって、
既存建物の外側において支持される梁構造部と、前記既存建物の横揺れに伴って既存建物の外側において上下方向に変位可能で、かつ、その既存建物と一体の架構とを設けて、前記横揺れに伴う前記架構の上下方向に沿う変位で前記梁構造部を変形させて、その梁構造部の変形により地震エネルギーを吸収させる点にある。
【0006】
〔作用及び効果〕
既存建物は横揺れの強さに応じた撓み角で地盤側を支点にした片持ちの振り子状に変形し易く、既存建物の側面部分がその横揺れに伴って撓み角に応じた角度で上下方向に傾動するので、横揺れに伴って既存建物の側面部分と一体に上下方向に傾動する架構を設けて、その架構の上下方向の動きを規制することで、既存建物に作用する地震エネルギーを吸収できる点に着目し、
既存建物の横揺れに伴ってその既存建物の外側において上下方向に変位可能で、かつ、その既存建物と一体の架構を設けて、既存建物の横揺れに伴う架構の上下方向に沿う変位で梁構造部を変形させて、その梁構造部の変形により地震エネルギーを吸収させるのである。
また、架構の上下方向に沿う変位で構造物を変形させて地震エネルギーを吸収させるにあたって、既存建物の外側において支持される梁構造部、つまり、架構の上下方向に沿う変位に伴って作用する外力を軸力として敷地側に伝達し易い梁構造部を設けて、その梁構造部の変形により地震エネルギーを吸収させるのである。
従って、従来のような、既存建物の横揺れに伴って大きな転倒モーメントが発生し易い制震架構や耐震架構を設けることなく、架構の上下方向に沿う変位に伴って作用する外力を軸力として敷地側に伝達し易い梁構造部を設けて地震エネルギーを吸収することができるようになり、梁構造部を支持する支持部自身及び支持部の基礎工事を、従来の制震架構や耐震架構の基礎工事に比べて簡略化して、既存建物の外側に広い敷地を特に必要とすることなく、既存建物の耐震性を向上させ易い。
【0007】
本発明の第2特徴構成は、前記梁構造部の両端部を固定し、前記架構の下端部を前記梁構造部の長手方向中間位置に連結する点にある。
【0008】
〔作用及び効果〕
梁構造部の両端部を固定し、架構の下端部を梁構造部の長手方向中間位置に連結するので、梁構造部を距離が長い支点間に亘って大きく変形させることができ、大きな地震エネルギーを吸収し易い。
【0009】
本発明の第3特徴構成は、前記梁構造部に、その変形量を減衰させるダンパーを設ける点にある。
【0010】
〔作用及び効果〕
梁構造部の変形量を減衰させるダンパーを設けるので、既存建物の横揺れを抑制できると共に、吸収可能な地震エネルギーの大きさを大きく設定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明による耐震補強方法で補強してある既存建物Aを示し、既存建物Aの外側において支持される立体トラスからなる梁構造部1と、既存建物Aの横揺れに伴って既存建物Aの外側において上下方向に変位可能で、かつ、その既存建物Aと一体の立体トラスからなる架構2とを設けてある。
【0012】
前記既存建物Aは鉄筋コンクリート造りや鉄骨造りの複数階からなる建物であって、その既存建物Aと一体の架構2は、架構トラス部材3を既存建物Aの上層の各階を構成している鋼製床強度部材や鋼製梁強度部材などの略水平方向に沿って設けられている水平強度部材4に対して溶接などで一体に剛連結して、既存建物Aに対してその外側方に突出する片持ち状に構築してある。
【0013】
前記梁構造部1は、梁トラス部材5の一端側を既存建物Aの下層の複数階を構成している水平強度部材4に対して溶接などで一体に剛連結するとともに、梁トラス部材5の他端側を既存建物Aの外側に立設した複数の鋼製支柱6などに対して溶接などで一体に剛連結して、通路Bや障害物Cを跨いで、その両端部を固定してある。
【0014】
そして、架構2の遊端側における下端部位7を、梁構造部1の長手方向、つまり、支点間に沿う方向の略中央位置における縦トラス部材5aの上方箇所に剛連結して、地震による横揺れに伴う架構2の上下方向に沿う変位、つまり、図2(a)に示すような上向き変位と、図2(b)に示すような下向き変位とで梁構造部1を上向き及び下向きに弾性的に撓み変形させて、地震エネルギーを吸収させるようにしてある。
【0015】
〔第2実施形態〕
図3は、本発明による耐震補強方法で補強してある既存建物の別実施形態を示し、梁構造部1の左右夫々を、既存建物Aとは別の複数の鋼製支柱6などに対して溶接などで一体に剛連結して、梁構造部1の左右両端部を固定し、架構2の遊端側における下端部位7を、梁構造部1の支点間に沿う方向の略中央位置に連結してある。
その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0016】
〔第3実施形態〕
図4は、本発明による耐震補強方法で補強してある既存建物の別実施形態を示し、梁構造部1の支点間に沿う方向の略中央位置における縦トラス部材5aの下方箇所に、梁構造部1よりも下方に突出するダンパー固定用フレーム8を一体に固定し、そのダンパー固定用フレーム8と、梁構造部1におけるダンパー固定用フレーム8を挟む左右両端部との夫々とに亘って、梁構造部1の撓み変形量を減衰させるダンパー9を筋交い状に設けて、既存建物Aの横揺れを抑制できるようにしてある。
その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0017】
〔その他の実施形態〕
1.本発明による耐震補強方法は、木造の既存建物の耐震補強に使用しても良い。
2.本発明による耐震補強方法は、梁構造部の弾性的な変形に加えて、その塑性変形で地震エネルギーを吸収させても良い。
3.本発明による耐震補強方法は、横揺れに伴う架構の下向き変位のみで梁構造部を下向きに変形させて、地震エネルギーを吸収させても良い。
4.本発明による耐震補強方法は、横揺れに伴う架構の上向き変位のみで梁構造部を上向きに変形させて、地震エネルギーを吸収させても良い。
5.本発明による耐震補強方法は、架構の下端部を梁構造部の長手方向中間位置に対して上下方向に係合して、横揺れに伴う架構の上下方向に沿う変位で梁構造部を上下に変形させて、地震エネルギーを吸収させても良い。
この場合、横揺れに伴う架構の遊端側における下端部位と梁構造部との水平方向の相対変位を許容できるように、遊転ローラを介して上下方向に係合しても良い。
6.本発明による耐震補強方法は、梁構造部の端部をピン支持しても良い。
7.本発明による耐震補強方法は、梁構造部が、トラスではなく、単材で構成されたものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)第1実施形態の耐震補強方法を示す概略側面図,(b)第1実施形態の耐震補強方法を示す概略平面図
【図2】(a)耐震補強方法の作用説明図,(b)耐震補強方法の作用説明図
【図3】第2実施形態の耐震補強方法を示す概略側面図
【図4】第3実施形態の耐震補強方法を示す概略側面図
【符号の説明】
【0019】
A 既存建物
1 梁構造部
2 架構
9 ダンパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建物の耐震補強方法であって、
既存建物の外側において支持される梁構造部と、前記既存建物の横揺れに伴って既存建物の外側において上下方向に変位可能で、かつ、その既存建物と一体の架構とを設けて、
前記横揺れに伴う前記架構の上下方向に沿う変位で前記梁構造部を変形させて、その梁構造部の変形により地震エネルギーを吸収させる耐震補強方法。
【請求項2】
前記梁構造部の両端部を固定し、前記架構の下端部を前記梁構造部の長手方向中間位置に連結する請求項1記載の耐震補強方法。
【請求項3】
前記梁構造部に、その変形量を減衰させるダンパーを設ける請求項1又は2記載の耐震補強方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−174282(P2009−174282A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16957(P2008−16957)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】