説明

耐食性に優れたプレートフィン

【課題】アルミニウムまたはアルミニウム合金製の耐食性に優れた熱交換器用プレートフィンを提供する。
【解決手段】アルミニウムまたはアルミニウム合金製の熱交換器用プレートフィン1、2であって、その表面に無電解ニッケルめっき層が形成されているプレートフィン1、2である。ニッケルめっき層の厚さは10μm以上が望ましい。このプレートフィン1、2が、車両用のプレートフィン型冷却器の構成部材として使用されるものであれば、車両洗浄時における腐食性の強い洗浄剤の飛散等に対して優れた耐食性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業機械、鉄道車両、電力設備、その他広範囲の産業分野で使用されているプレートフィン型熱交換器のプレートフィンに関し、特に、酸性またはアルカリ性の洗浄剤の飛散などに対しても優れた耐食性を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金製のプレートフィンに関する。
【背景技術】
【0002】
プレートフィン型熱交換器は、小型軽量で熱交換効率に優れた熱交換器として、産業機械、鉄道車両、電力設備、その他広範囲の産業分野で使用されている。例えば、高速走行が要求される鉄道車両等では、軽量で、成形性にも優れているアルミニウムまたはアルミニウム合金製のプレートフィン型熱交換器が多用されている。また、腐食性の強い流体を扱うことが多い化学プラント等では、耐食性に優れたステンレス鋼製のプレートフィン型熱交換器が使用されることが多いが、空気中や中性付近の水中では、表面に保護性の高い酸化皮膜(Al23)が形成されることから、アルミニウムまたはアルミニウム合金製のプレートフィン型熱交換器も使用されている。
【0003】
図1はプレートフィン型熱交換器におけるコア部の構成を説明する図であり、同(a)はコア部の分解斜視図、同(b)はコア部の組立斜視図である。熱交換器の心臓部であるコア部4は、低温流体通路と高温流体通路を仕切る板状のチューブプレート1と、伝熱促進用のコルゲート型や各種の形状からなるフィン2が交互に積層され、また、チューブプレート1同士の間隔を保ち、流路を密封するためのスペーサーバー3が両側面に並べられた基本構造で構成されている。
【0004】
コア部の組み立てに際しては、チューブプレート1とフィン2との間やチューブプレート1とスペーサーバー3との間にシート状または粉状のろう材が配され、積層組立されたコア部4は、雰囲気調整された加熱炉に装入され、加圧されながらろう材の融点まで加熱され、ろう付け処理が行われて一体のコア部となる。
【0005】
低温流体と高温流体のコア部内の流動方法は、基本的には向流型と直向流型に区分されるが、これらを組み合わせて種々の流動方法が構成される。図1(a)で示す矢印は、低温流体と高温流体が直交流する直向流型の流動を示し、図1(b)で示す矢印は、両流体が向流する流動を示している。
【0006】
アルミニウムまたはアルミニウム合金製のプレートフィンを用いて構成された熱交換器においては、熱媒体として熱油、高温水などの液状物質、空気などのガス状物質を使用する場合が多く、これらの熱媒体を低温流体通路内または高温流体通路内に流通させる。
【0007】
アルミニウムまたはアルミニウム合金は活性な金属であるが、前述の酸化皮膜(Al23)が安定して存在する環境下においては優れた耐食性を示す。しかし、この酸化皮膜を局部的に破壊する塩素イオンなどが存在する場合は、孔食状に腐食が進行しやすい。また、銅や銅合金と接触している場合は接触腐食が生ずる。溶存銅イオンも同様に腐食を促進する。
【0008】
また、アルミニウムまたはアルミニウム合金製のプレートフィンを有する熱交換器は、非酸化性の酸やアルカリ中では酸化皮膜が溶解するので、通常はそのような環境下で使用されることはないが、当該熱交換器が配置された装置、設備の使用の態様、あるいは保守管理の如何によっては、比較的短期間に熱交換器のコア部を構成するプレートやフィンが激しく腐食するという事態が発生する。
【0009】
例えば、鉄道車両、特に新幹線用の車両では、軽量化のため、主変換器用冷却器や主変圧器用冷却器としてアルミニウムまたはアルミニウム合金製のプレートフィン型冷却器が使用されている。ところで、一般に、車両の定期メンテナンスにおける車体洗浄作業においては、冷却器に空気を送る送風ファンを運転したままの状態であることが多いため、洗浄剤、特に洗浄効果の大きいpH1程度の強酸系洗浄剤(酸の種類は主として蓚酸)が用いられると、これが冷却器空気通路内部に飛散残留することがあり、これによる腐食の発生進行が生じ、条件によっては短期間で漏洩が生じることがある。
【0010】
その他にも、通常の使用状態においては異常ない場合であっても、プレートフィン型熱交換器が他の装置、設備の一環として配置され、使用等される関係上、表面の酸化皮膜(Al23)が安定に存在し得ない状態におかれることがあり、プレートフィンの防食対策が必要となる場合がある。
【0011】
アルミニウムまたはアルミニウム合金の耐食性の向上対策としては、従来から陽極酸化処理(アルマイト法)が広く行われている。この方法は、硫酸中での陽極酸化により保護性の高い酸化皮膜(Al23)を形成させる方法で、厚い皮膜を形成させることができる。さらに、皮膜形成後に熱水で煮沸するか、熱水蒸気にさらす封孔処理を行うと、皮膜が部分的に膨潤し(これにより細孔がふさがる)、孔食に対する抵抗性が増大する。しかし、前記酸化皮膜は塩酸や硫酸などの非酸化性の酸、またアルカリには溶解する。
【0012】
化成皮膜処理も、塗装下地処理(塗装の密着性向上と防錆のための前処理)、防食、潤滑等を目的として行われている。例えば、クロム酸塩、フッ化物などを含む水溶液中に所定時間浸漬するクロメート法、燐酸二水素塩(酸性燐酸亜鉛など)、燐酸などを含む水溶液中に浸漬する燐酸塩法などが用いられ、いずれも難溶性の皮膜が形成される。しかし、皮膜は薄くて硬度も低いので、これらの皮膜のみで十分な耐食性をもたせることはできず、通常は、さらに塗装などの処理が施されることが多い。
【0013】
また、特許文献1には、表層部にフッ化物層が形成されたアルミニウム合金製のフィン、プレートを有する熱交換器が記載されている。このフッ化物層は、塩酸、硫酸等の混酸(pH=1.3)を使用した150サイクルの乾湿繰り返し試験で優れた耐食性を有し、蒸発器、凝縮器、ラジエータ、オイルクーラとして用いられる熱交換器に適用され、特に燃料電池に用いられる熱交換器に好適であるとしている。
【0014】
【特許文献1】国際公開番号WO2003/036216
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、このような状況に鑑みなされたもので、その目的は、耐食性に優れたアルミニウムまたはアルミニウム合金製の熱交換器用プレートフィンを提供することにある。具体的には、一時的に酸性またはアルカリ性の環境下に曝されても、優れた耐食性を有し、特に、前述の新幹線用車両の主変換器や主変圧器に取り付けられているプレートフィン型冷却器において、車両洗浄時における強酸などの洗浄剤の飛散等に対して優れた耐食性を有するプレートフィンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記の目的を達成するために検討を重ね、プレートフィンの素材であるアルミニウムまたはアルミニウム合金の表面にニッケルめっき処理を施したプレートフィンを使用することを試みた。
【0017】
ニッケルは、塩酸などの非酸化性酸に対し耐食性があり、アルカリに対する耐食性が大きい。硝酸には0.5%以下の希薄な酸であれば、耐食性がある。また、ニッケルは、耐候性にも優れ、海水に対する耐食性があり、高温純水によく耐えるとされている。したがって、ニッケルめっきは、上記本発明の目的(すなわち、優れた耐食性、特に、酸などの飛散等に対する優れた耐食性を有するプレートフィンの提供)を達成するにあたっての有力な手段となり得るものである。
【0018】
しかし、プレートフィンにニッケルめっき処理を施すに際し、通常用いられている電気めっき法は適用できない。プレートフィン型熱交換器の特にコア部は、前記図1に示したように、複雑な形状を有しており、伝熱面積が大きく、均一なメッキが難しいからである。
【0019】
そこで、アルミニウムまたはアルミニウム合金製のプレートフィンを用い、ろう付け処理を行って作製したコア部に、無電解ニッケルめっきを施すこととした。
【0020】
無電解ニッケルめっきは、例えば、硫酸ニッケルと次亜燐酸ナトリウム(還元剤)を主成分とするめっき浴中に被めっき材を浸漬して、次亜燐酸塩ナトリウムの酸化反応により生じる電子によって浴中のニッケルイオンを還元し、被めっき材の表面に金属皮膜として析出させる方法である。化学反応により被めっき材の表面にニッケルを析出させるので、電気めっきに比較すると、析出速度(皮膜形成速度)は遅いが、緻密なめっき層が得られやすい。
【0021】
この無電解ニッケルめっきは、電子工業の分野においては、優れたハンダ付け性や、ボンディング性を与えるため、あるいは接点の導電性を確保するため(金めっきの下地処理)、そのほか多様な目的で、広く行われている。また、航空機産業、さらには自動車工業においても、軽量化のために部分的にアルミニウムまたはアルミニウム合金を使用し、耐摩耗性、耐食性を向上させる目的で無電解ニッケルめっきが行われている。
【0022】
しかし、比較的大型の機械器具や装置の主要構成材料として用いられているアルミニウムまたはアルミニウム合金の表面に、耐食性の向上を目的として、ニッケルめっき、とりわけ無電解ニッケルめっきを施すことは行われていない。前述のように、アルミニウムは酸素との親和力が大きく、空気中や中性付近の水中では、表面に保護性の高い酸化皮膜(Al23)が形成されるので、アルミニウムまたはアルミニウム合金は、この酸化被膜が安定して存在する大気中や中性付近の水、水溶液の環境下で、軽量の材料として広く使用されてきたことによるものと考えられる。
【0023】
前掲の特許文献1に記載の、表層部にフッ化物層が形成されたアルミニウム合金製のフィン、プレートを有する熱交換器において、無電解ニッケルメッキ層を形成させることが記載されているが、素地面とフッ化物層との中間層として形成させており、めっき層自体による耐食性の向上を意図したものではない。
【0024】
本発明者らは、この無電解ニッケルめっき層の耐食性について、実際に試験を行って調査した。その結果、無電解ニッケルめっきを施したアルミニウム試験片を蓚酸水溶液(pH=1)に浸漬し、試験片の質量変化の測定および腐食状況の観察を行ったところ、腐食量は極めて小さく、ニッケルめっき層はアルミニウムの腐食に対し、バリア層として機能していることが確認できた。
【0025】
本発明は、このような検討結果に基づきなされたもので、その要旨は、下記のプレートフィンにある。
【0026】
すなわち、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の熱交換器用プレートフィンであって、その表面に無電解ニッケルめっき層が形成されていることを特徴とする耐食性に優れたプレートフィンである。
【0027】
ここで、「アルミニウムまたはアルミニウム合金」とは、Al系(JISの合金番号1050、1100などの工業用純アルミニウム)、Al−Mn系(同3003など)、Al−Mg−Si系(同6063など)、その他プレートフィン型冷却器の構成材料として使用されるアルミニウム合金をいう。
【0028】
このプレートフィンにおいて、無電解ニッケルめっき層の厚さが10μm以上であれば、良好な耐食性が得られる。
【0029】
前記プレートフィンの表面が、亜鉛拡散処理が施された後の表面であれば、ニッケルめっき層の密着性の向上に有効である。
【0030】
また、前記プレートフィンが、鉄道車両用のプレートフィン型冷却器の構成部材として使用されるものであれば、車両を洗浄する際におけるプレートフィンへの洗浄剤の飛散などに対し、良好な耐食性が発揮される。
【発明の効果】
【0031】
本発明のプレートフィンは、素地のアルミニウムまたはアルミニウム合金がニッケルめっき層により外部環境から隔てられているので、一時的に通常の使用状態とは異なる酸性またはアルカリ性の環境下におかれた場合でも、優れた耐食性を発揮する。
【0032】
特に、本発明のプレートフィンが、前述の新幹線用車両の主変換器や主変圧器に取り付けられている冷却器のプレートフィンとして使用されている場合において、車両洗浄時における蓚酸などの洗浄剤の飛散等に対しても優れた耐食性を示すことが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明のプレートフィンは、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の熱交換器用プレートフィンであって、その表面に無電解ニッケルめっき層が形成されている耐食性に優れたプレートフィンである。
【0034】
プレートフィンの表面に無電解ニッケルめっき層を形成させるのは、表面の酸化皮膜(Al23)が安定に存在し得ない酸性またはアルカリ性の環境下におかれた場合においても、プレートフィンに優れた耐食性を持たせるためである。
【0035】
前記ニッケルめっき層の厚さは、特に限定されない。プレートフィンの表面にニッケルめっき層を形成させることによる耐食性の向上効果は、アルミニウムまたはアルミニウム合金と環境(例えば、前記の酸性の強い洗浄剤)との接触を遮断することによるもので、ニッケルめっき層の厚さが厚いほど、長期間にわたって完全な遮断が可能となるので、望ましい。
【0036】
後述する実施例から、めっき層の厚さは10μm以上が望ましい。めっき層の膜厚がこの範囲であれば、良好な耐食性が得られる。
【0037】
めっき処理は、従来行われている方法に準じて実施すればよい。必要な前処理を行った後、例えば、硫酸ニッケル、還元剤としての次亜燐酸塩を主成分とし、めっき液のpHを所定範囲内に維持する緩衝剤、ニッケルの可溶性錯体を形成してニッケルイオンの沈殿を防止する錯化剤等を含むめっき液に所定時間浸漬する。
【0038】
めっき処理を行うに際し、被めっき材の表面にあらかじめ亜鉛拡散処理を施すことが望ましい。アルミニウムは著しく卑な金属であり、これをそのままめっき液に浸漬すると、アルミニウムが溶解してニッケルイオンが析出する置換反応が起こって被めっき材とめっき層との密着性に問題が生じやすい。そこで、被めっき材の表面にあらかじめ亜鉛拡散処理を施しておけば、表面の亜鉛とめっき液中のニッケルイオンとの間で比較的緩やかに置換反応が起こり、ニッケルめっき層の密着性が向上する。さらに、アルミニウムまたはアルミニウム合金に対する亜鉛の犠牲防食作用も期待できる。
【0039】
前記プレートフィンが、鉄道車両(新幹線車両を含む)用のプレートフィン型冷却器の構成部材として使用されるものであれば、車両を洗浄する際に、腐食性の洗浄剤がこの冷却器のプレートやフィンに飛散して飛沫が付着した場合、あるいは、一時的に通常の使用状態とは異なる酸性またはアルカリ性の環境下におかれた場合でも、プレートフィンの素地を表面のニッケルめっき層によってそれら腐食性の環境から遮断し、腐食の進行を十分防止できる。
【0040】
特に、前記プレートフィンが、新幹線車両用のプレートフィン型冷却器の構成部材として使用され、蓚酸に対する耐食性を有しているものであれば、ニッケルめっき層の効果が顕著に認められる。新幹線用の車両では、主変換器用冷却器や主変圧器用冷却器としてアルミニウムまたはアルミニウム合金製のプレートフィン型冷却器が取り付けられており、車両の洗浄には、洗浄効果の大きいpHが1程度の蓚酸が主として使用されることがあるが、表面に無電解ニッケルめっき層が形成されている本発明のプレートフィンであれば、車両の洗浄時にプレートやフィンに腐食性の強い洗浄剤の飛沫が付着しても、それによる腐食の進行を十分に阻止できるからである。
【0041】
以上述べたように、本発明のプレートフィンは、その表面に無電解ニッケルめっき層が形成されているプレートフィンであり、そのニッケルめっき層によりプレートフィンの表面が外部環境から隔てられているので、一時的に通常の使用状態とは異なる酸性またはアルカリ性の環境下におかれた場合でも、優れた耐食性を有している。
【実施例】
【0042】
銅片20mgを含む1.8%蓚酸水溶液(pH=1)をビーカーに入れ、70℃に加熱した状態で試験片を浸漬し、試験片の質量変化の測定および腐食状況の観察を行った。
【0043】
試験片は実際の冷却器の空気側通路構造と等しくするために、A1100材のフィンとBAS231P材のブレージングシートをろう付したものとした。すなわち、(a)ろう付したままのもの、(b)ろう付後、亜鉛拡散処理を行ったもの、(c)ろう付後、無電解ニッケルめっき処理をしたもの、および(d)ろう付後、亜鉛拡散処理を行った後、無電解ニッケルめっき処理をしたもの、の合計4種類である。なお、いずれの試験片についても、ろう付しているのは、ろう付した部分におけるめっき層の密着性を考慮して、実際の使用形態に即した試験を行うためである。
【0044】
図2に、めっき層の膜厚を25μmとした各試験片における腐食量の経時変化を示す。腐食量は、試験の前後における試験片の質量差を試験片の表面積で除した、単位面積当たりの腐食減量で表示している。また、同図で用いた○印、●印などの符号の説明の中の、例えば、「ろう付+Ni」は、前記(c)のろう付後、無電解ニッケルめっき処理をした試験片であることを、また「ろう付+Zn+Ni」は、前記(d)のろう付後、亜鉛拡散処理を行った後、無電解ニッケルめっき処理をした試験片であることを表す。
【0045】
図2に示した結果から明らかなように、ニッケルめっき処理をした試験片(同図中の△印、▲印)の腐食量は、めっき処理をしていない試験片(同図中の○印、●印)に比べて著しく小さくなっている。また、試験に用いた水溶液に含まれる成分を分析した結果、アルミニウムまたは亜鉛の溶出は認められず、試験片の質量減少は、ニッケルめっき層の溶出によるものであった。このことから、ニッケルめっき層はアルミニウム(亜鉛拡散処理を行った場合は、亜鉛)の腐食に対しバリア層として機能していることが確認できた。
【0046】
なお、この試験では、亜鉛拡散処理を行った場合と行わなかった場合の差が認められず、亜鉛拡散処理によるニッケルめっき層の密着性の向上などの耐食性への影響(腐食量の減少)は確認できなかった。
【0047】
図3は、ニッケルめっき層の膜厚と腐食量の関係を示す図である。前記と同様、銅片20mgを含む1.8%蓚酸水溶液(pH=1)をビーカーに入れ、70℃に加熱した状態で、前記(c)の、ろう付後、無電解ニッケルめっき処理をした試験片を24時間浸漬し、試験片の質量変化を測定して得られた結果である。
【0048】
めっき層の膜厚が5μmの場合、試験片を浸漬後、ニッケルめっき層はかなりの量残存していたが、局所的に腐食によるめっき層の消耗、剥離が認められ、その部位で素地のアルミニウムが著しく侵食されていた。
【0049】
図3に示した結果から、めっき層の膜厚が5μmの場合の試験片全体の質量減少量は0.03mg/mm2であった。一方、めっき層の膜厚が25μmの場合の質量減少量は0.008mg/mm2で、前記図2に示したように、試験片の質量減少は、ニッケルめっき層の溶出によるものである(図3に、白抜き棒グラフで表示)。
【0050】
めっき層の膜厚が5μmの場合も、これと同量(すなわち、0.008mg/mm2)のニッケルめっき層が溶出していると考えられるので、試験片全体の質量減少量(0.03mg/mm2)からニッケルめっき層の溶出による減少量(図3の白抜き部)を差し引くと、めっき層の膜厚が5μmの場合のアルミニウムの腐食量(すなわち、前記めっき層の消耗、剥離部における素地のアルミニウムの腐食量)は0.022mg/mm2(図3の斜線部)と推定される。
【0051】
さらに、前記図2に示した結果から、アルミニウムの腐食量が0.022mg/mm2となる浸漬時間は4時間程度で(図2の−○−あるいは−●−の曲線参照)、試験片全面が腐食する場合であってもかなりの時間を要していること、および前記の腐食形態(局部的な著しい侵食)を併せ考えると、めっき層の膜厚が5μmの場合は、何らかの理由でめっき層の一部が局所的に消耗された後、その消耗部で極めて短時間の間に素地のアルミニウムが腐食されたと推察される。
【0052】
ニッケルめっき層の膜厚は、その目的にもよるが、腐食も含めた部材表面の保護という点からは、数μm程度とするのが一般的である。しかし、上記試験の結果、ここで用いた条件(腐食環境)の下では、5μm程度の膜厚では十分な防食効果は期待できないことが明らかとなった。
【0053】
ところで、ニッケルめっきには本検討で用いた無電解法以外に通電によるめっき法があるが、通電によるめっきの場合、特に耐食性を重視する場合の適正めっき厚さはおよそ15μmといわれている。一方、無電解法の場合、形成されるめっき層の緻密性は通電法の場合に比べて非常によいことが知られており、今回の実験結果を考慮すると、無電解めっきにおいては、少なくとも10μmのめっき層厚さがあれば十分な耐食性を有すると判断できる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のプレートフィンは、その表面に無電解ニッケルめっき層が形成されているアルミニウムまたはアルミニウム合金製の熱交換器用プレートフィンで、素地のアルミニウムまたはアルミニウム合金がめっき層により外部環境から隔てられているので、一時的に酸性またはアルカリ性の環境下におかれた場合でも優れた耐食性を有している。
【0055】
特に、本発明のプレートフィンが、前述の新幹線用車両の主変換器や主変圧器に取り付けられている冷却器のプレートフィンとして使用されている場合において、車両洗浄時における強酸性の洗浄剤の飛散等に対しても優れた耐食性を示す。
【0056】
したがって、本発明のプレートフィンは、プレートフィン型熱交換器の製造分野において、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の熱交換器の耐久性の向上ならびに適用範囲の拡大に、大いに貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】プレートフィン型熱交換器におけるコア部の構成を説明する図であり、同(a)はコア部の分解斜視図、同(b)はコア部の組立斜視図である。
【図2】本発明の実施例の結果を示す図で、アルミニウム素地の表面にニッケルめっき層(膜厚25μm)を有する試験片の蓚酸水溶液中における腐食量の経時変化を示す図である。
【図3】本発明の実施例の結果を示す図で、ニッケルめっき層の膜厚と蓚酸水溶液中における腐食量の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1:チューブプレート
2:フィン
3:スペーサーバー
4:コア部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金製の熱交換器用プレートフィンであって、
その表面に無電解ニッケルめっき層が形成されていることを特徴とする耐食性に優れたプレートフィン。
【請求項2】
無電解ニッケルめっき層の厚さが10μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の耐食性に優れたプレートフィン。
【請求項3】
前記プレートフィンの表面が、亜鉛拡散処理が施された後の表面であることを特徴とする請求項1または2に記載の耐食性に優れたプレートフィン。
【請求項4】
前記プレートフィンが、鉄道車両用のプレートフィン型冷却器の構成部材として使用されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の耐食性に優れたプレートフィン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−190771(P2008−190771A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−25389(P2007−25389)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【出願人】(000183369)住友精密工業株式会社 (336)
【Fターム(参考)】