説明

耐食性に優れた錫めっき系またはアルミめっき系表面処理鋼材

【課題】両立することが不可能とされてきためっき自体の高耐食性と、露出した地鉄の保護作用とを連続製造プロセスで両立するめっき鋼板を提供する。
【解決手段】鋼材表面の錫系めっき層またはアルミ系めっき層中に、1種以上のIIa族(アルカリ土類金属)元素と1種以上のIVb族元素により構成された金属間化合物を含有する耐食性に優れた錫めっき系またはアルミめっき系表面処理鋼材。錫系めっき層の場合、塊状の金属間化合物の長径は1μm以上、短径の長径に対する比率が0.4以上である。アルミ系めっき層の場合、塊状の金属間化合物の長径は10μm以上、短径の長径に対する比率が0.4以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の外板、排気系部材、ガソリンタンク材、屋根壁等の金属建材、土木用材料、家庭用、産業用電気器具に使用される、耐食性に優れた表面処理鋼材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表面処理鋼板としては、Zn、Zn−Al、Al−Si、Sn、Pb−Sn、Cr、Niめっき等があり、その優れた耐食性や耐熱性、美麗な外観等から、前記したような自動車部材、建材、電気器具、容器材料等に広範に使用されている。この中で最も使用量が多いのはZn、Zn−Al系めっきである。
【0003】
これは、地鉄が露出した際に、露出した鉄を防食する犠牲防食能を有するめっき金属がZnのみのためである。ただし、Znめっき自体の腐食速度は比較的大きいと言う問題点がある。Zn−Al系とすることで、めっきの腐食速度は小さくなるが、逆に、鉄に対する犠牲防食作用は弱まる。
【0004】
一般に、Znめっき自体の耐食性を向上させるような元素は、犠牲防食効果を劣化させる傾向にあり、めっき自体の耐食性と端面の鉄の防食性とは二律背反の関係にある。
【0005】
めっき自体の耐食性に優れるSnめっき、Al−Siめっき等は、いずれも、通常の環境では、露出した地鉄を保護する作用は有していない。
【0006】
これらのめっきで露出した地鉄を保護する例としては、次のものがある。即ち、特許文献1は、めっき層中に25%までのMg2Siを得るため、化学量論的関係でMg及びSiを含有するアルミ浴で鉄製品を加熱浸漬アルミめっきするものである。この特許のように、アルミめっき層中にMg2Siを晶出させることにより、確かに耐食性向上を達成することが可能である。
【0007】
ただし、めっき浴中に10%を超えてMgを添加すると、Mgの酸化によりめっき浴上での酸化膜の生成が非常に多くなり、連続製造に耐えられない。また、本発明者らが検討したところ、Mg2Siをアルミめっき層中に晶出させる場合、その形態は微細なものから粗大なものまで変化し耐食性に大きく影響することを見出した。
【0008】
また、特許文献2は、アルミや亜鉛を主成分とする樹枝状晶を含有するAl−Zn−Si−Mg四元系合金めっきを開示する。アルミや亜鉛を主成分とする樹枝状晶を晶出するめっきにおいては、確かに露出した地鉄を十分に保護することは可能であるが、Znの添加量が25%以上であるため、めっき自体の耐食性が劣ってくる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第3026606号明細書
【特許文献2】特公平03−21627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、これまで両立することが不可能とされてきためっき自体の高耐食性と、露出した地鉄の保護作用とを連続製造プロセスで両立するめっき鋼板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、従来型の犠牲防食作用やめっき基金属の腐食生成物被覆作用による地鉄に対する保護と言う概念でなく、全く異なる概念の表面処理鋼材が完成されたものである。
【0012】
Zn系めっきにMgを添加すると安定化した腐食生成物の被覆作用により耐食性が向上することは従来から知られている。
【0013】
本発明者らは、Zn系以外のAl系やSn系めっきにおいても、Mgの腐食インヒビター効果を発揮させるべく鋭意検討を繰り返した結果、Mgを水に可溶な金属間化合物(Mg2Sn、および、Mg2Si)を、ある一定量の大きさの塊状(massive)としてめっき中に存在させることにより、腐食環境における水との接触でめっき皮膜から前記金属間化合物が溶出し、Mg水酸化物を主体とする防食皮膜を形成するため、めっきの耐食性を著しく向上できることを見出し、本発明に至った。
【0014】
Mg以外についても防食作用を有する元素を探索した結果、Mgと同族の周期律表のIIa族(アルカリ土類金属)が防食効果を発現することを見出した。防食効果は、アルカリ土類金属の中でも、特にMg、Caが著しい。
【0015】
金属間化合物は通常水に溶け難いとされているが、電位陰性度の差の大きな元素の組み合わせとすれば、水に可溶となる。元素の電気陰性度に関する研究は種々されているが、ここでは、Paulingの研究の値に従うこととする。
【0016】
金属間化合物が、電気陰性度の最小値/最大値の比率が0.73以下の元素により構成されていれば、水に溶解する。一般に、アルカリ土類金属の電気陰性度は小さく、これらの元素を含有する金属間化合物は水に溶解し易いが、水への溶解性を検討した結果、アルカリ土類金属とIVb族元素から構成される金属間化合物の水への溶解性が著しく高いことを見出した。
【0017】
Mg、Caと金属間化合物を形成するIVb族元素としては、上記電気陰性度の理由で、Si、Snの組合せが最も好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、従来不可能とされていたSn系めっきとAl系めっき層自体の高耐食性と、端面、疵部の防食作用とを兼備する表面処理鋼板を可能にするものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の耐食性に優れた錫めっき系またはアルミめっき系表面処理鋼材の断面を模式的に示す図である。
【図2】Sn−1%Mg−0.005%Caめっき鋼板のそれぞれ5°傾斜断面組織を示す図である。
【図3】Al−8%Si−6%Mgめっき鋼板の5°傾斜断面組織を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明を詳細に説明する。
【0021】
一般に、溶融めっきにおいては、めっき層と地鉄の界面に合金層と呼ばれるFeとめっき金属とからなる金属間化合物層である合金層が生成する。本発明における金属間化合物は、これとは異なり、めっき層中に存在する金属間化合物を意味するものとする。また、ここ(本件明細書および特許請求の範囲)でいうめっき層とは、めっき層と地鉄の界面に生成する合金層を含まない層を意味し、めっき層と合金層は明確に区別するものとする。
【0022】
本発明では、十分な耐食性を得るために、Snめっき層の場合には、IIa族とIVa族からなる金属間化合物がめっき層中に存在していればよく、さらに、金属間化合物が、特定部位に局在した状態である塊状でめっき層中に存在していることが好ましい。Alめっき層の場合には、IIa族とIVa族からなる金属間化合物が塊状で含有されることが必要である。
【0023】
図1に、本発明の耐食性に優れた錫めっき系またはアルミめっき系表面処理鋼材の断面を模式的に示す。地鉄1の表面に地鉄とめっき金属との合金の層2を介して、錫めっき系またはアルミ系のめっき層3を有し、めっき層3中にIIa族(アルカリ土類金属)とIVb族元素から構成される金属間化合物の塊状物4が分散している。
【0024】
本発明においては、IIa族とIVa族からなる金属間化合物が腐食環境中で水に溶けて溶出し、めっき層あるいは地鉄に防食皮膜を形成する。この防食皮膜が形成されるには、一定量の金属間化合物が腐食環境中に溶解する必要がある。前記金属間化合物が微細に分散しためっき層では、この一定量の金属間化合物が溶解するまでに、めっき層を構成する金属自体もある程度腐食しなければならない。
【0025】
従って、腐食初期における防食皮膜の形成が行われ難い。特に、AlやSnめっきのような、それ自体が耐食性に優れる金属であると、防食皮膜の形成が遅れ、なおかつ、Al、Sn自体が犠牲防食能を有していないため、特に、地鉄に対する防食効果が現れ難くなる。
【0026】
これに対して、金属間化合物を塊状にして、めっき層中に分散させた場合には、めっき表面近傍においても、防食皮膜形成に十分な量の金属間化合物を存在させることができるため、腐食の初期に、防食作用を有するMg、あるいは、Caが環境中に十分に放出され、めっき層、地鉄に防食皮膜を形成させることができる。
【0027】
特に、Alめっきの場合、金属間化合物から供給されるIIa族元素がAlめっき表面にも吸着し易く、めっき表面にもIIa族元素基防錆皮膜が形成される。そのため、地鉄上での防錆皮膜形成に必要なIIa族元素量を確保するためには、めっき表面への吸着が少ないSnめっきの場合より、多くのIIa族元素(金属間化合物として)が必要となる。
【0028】
従って、Alめっきの場合、めっき層中にIIa族とIVa族からなる金属間化合物を塊状で存在させることが必須となる。
【0029】
また、金属間化合物は、一般に、めっき層よりも硬いために、加工が加わると、特に塊状の金属間化合物を起点として、めっき層のクラックが発生し、そこから、金属間化合物の溶解が始まるため、めっき層中に塊状の金属間化合物が存在すれば、加工部の耐食性にも非常に優れる。
【0030】
また、金属間化合物を形成する元素の構成は、1種以上のIIa族(アルカリ土類金属)と1種以上のIVb族元素とする。これは、前述したように、このとき、金属間化合物の水への溶解度が著しく高まるためである。アルカリ土類金属としては、金属に対する腐食インヒビター効果の大きいMg、Caが望ましい。
【0031】
これらと、アルカリ土類金属と水溶性の金属間化合物を形成するIVb族元素としては、Si、Sn等がある。これらの元素間で生成する化合物が、特に推奨される。さらに好ましいのは、Mg2SiあるいはMg2Snである。また、IIa族とIVa族からなる金属間化合物としては、2元素系ばかりでなく、3元素系、それ以上の系も当然あり得る。
【0032】
本発明は、腐食インヒビター効果の大きい金属間化合物が分散しためっき層を有することに特徴があり、その金属間化合物は、少なくとも一部分が塊状であるものとする。塊状とは、比較的粗大で、長径と短径の差が小さいということを意味し、傾斜断面で組織を確認するものとする。
【0033】
本発明では、5°の傾斜断面(鋼板の表面に対して5°の角度での研摩をいう。)で観察したときの金属間化合物の長径がSn系めっきでは、1μm以上であるもの、Al系めっきでは、10μm以上で短径の長径に対する比率が0.4以上であるものを、塊状結晶と定義する。
【0034】
ここでいう短径、長径とは、ある結晶の最も長い寸法(径)、最も短い寸法(径)を意味する。観察に当たっては、研磨のみでエッチングは施さないものとする。これらの金属間化合物は水溶性でエッチング液にも極めて溶け易いためである。
【0035】
金属間化合物は、例えば、X線回折、EPMA分析で同定できるが、これに限定するものではない。断面組織を光学顕微鏡、SEM等で観察することで、組織上金属間化合物を観察することが可能である。金属間化合物の組成はEPMAの特性X線像、あるいは、定量分析により決定される。組織観察では、5°程度の傾斜研磨の適用が望ましく、これにより光学顕微鏡で容易に組織観察が可能である。
【0036】
EPMA分析は、垂直研磨、傾斜研磨ともに可能であるが、エッチングなしで分析する必要がある。また、X線回折により主成分の金属間化合物の同定が可能である。但し、金属間化合物のめっき層に対する量が少ないときには、X線回折では検出感度が低いため、EPMA、組織観察との併用が必要である。
【0037】
なお、光学顕微鏡組織からも、Mg2Si等の金属間化合物の同定は可能である。例えば、「アルミニウムの組織と性質」(軽金属学会編、1991)p15の表4に記載のように、Mg2Siを含む各金属、金属間化合物の各腐食液に対するエッチング特性が明らかとなっているため、各種のエッチング液を使用して組織観察することにより、Mg2Siを同定できる。
【0038】
また、安定した耐食性を得るのに必要な塊状のMg2Siや、Mg2Sn、および、Ca2Si、CaSiを得るためには、製造時のポット立上り部分におけるめっき鋼板の冷却速度を制御する必要がある。従来のAl−Si系めっきでは、耐食性・加工性劣化の原因となるめっき層中針状Si晶の微細化のために、ポット立上り部分における冷却速度が20℃/sec以上が必要である。
【0039】
本発明めっきでは、冷却速度が20℃/sec以上では、塊状のMg2Siや、Mg2Sn、および、Ca2Si、CaSiが微細になり、端面部からの耐食性を十分発揮できない。そのため、冷却条件は20℃/sec未満が望ましく、より望ましくは3〜15℃/secである。
【0040】
特に、塊状のMg2Siは、溶融めっき成分凝固時の初晶として晶出するものであり、Mg2Si晶出温度(めっき浴組成により異なる)から共晶凝固温度付近で徐冷することが重要である。これらの晶出量としては、アルミ系めっきの場合、5°の傾斜断面のめっき幅1mmの視野での長径10μm以上の塊状Mg2Siが5個以上40個以下であることが望ましい。
【0041】
錫系めっきの場合、5°の傾斜断面のめっき幅1mmの視野での長径1μm以上の塊状Mg2SnおよびMg2Siが3個以上50個以下であることが望ましい。晶出量が少なすぎると耐食性への寄与が少なく、多すぎると、加工性に対して悪影響を及ぼし易く、また、この箇所が溶解して、欠陥の多いめっき層となり易いためである。
【0042】
本発明における主めっき金属種は、AlおよびSnで構成されるものとする。本発明は、従来、めっき自体の耐食性には優れるが、地鉄の保護作用がないとされてきたAlおよびSnめっきに、地鉄の保護作用を付与するものである。さらに、長期的な端面防錆を特に必要とする用途については、Znを少量加えためっき種を選ぶことが好ましい。なお、本発明のめっき方法は特に限定しないが、溶融めっき法、真空蒸着法等が使用できる。
【0043】
しかし、本発明は金属間化合物を積極的に活用したものであり、その溶融めっき成分の凝固により金属間化合物を晶出させることを考えると溶融めっき法が最も望ましい。
【0044】
次に、本発明のめっき層成分について以下に説明する。ここで、各元素の濃度は、めっき層およびめっき層中に分散している金属間化合物を含む。
【0045】
主めっき金属としてSnを選択した場合には、めっき層成分が質量%でMg、Caの1種以上をMg:0.2〜10%、Ca:0.01〜10%の範囲内で含有し、あるいは、さらに、Alを0.01〜10%含有し、残部がSn及び不可避的不純物で、かつ、めっき層中に、IIa族元素とIVb族元素から構成される金属間化合物を有するものとする。さらに、Zn:1〜40%および/またはSi:0.1〜0.5%を添加することも有効である。
【0046】
IIa族のMg、Caは、IVb族のSnとMg2Sn、Ca2Snなる金属間化合物を形成し、耐食性に寄与する。その耐食性向上効果は、Mg、Caとも0.2%以上で有効であり、10%超では融点が上昇し、かつ、Mg酸化膜が急激に生成するため操業性が劣化する。
【0047】
Mg2Snは、分散状の化合物形態を取り易いため、Sn系めっきにおいては、金属間化合物の形態は、特に限定しないが、5°の傾斜断面で観察したときの金属間化合物の長径が1μm以上、短径の長径に対する比率は0.4以上であることが望ましい。より好ましくは金属間化合物の長径が3μm以上、短径の長径に対する比率は0.4以上である。
【0048】
Al、Caの添加は、Mgの酸化を抑制し良好な外観を得るために有効であり、そのために、Alは0.01%以上、さらに好ましくは0.2%以上、Caは0.01%以上、さらに、上記記載の耐食性向上も考慮し、より好ましくは0.2%以上が有効量であるが、10%超では、融点が上昇するため、操業性が劣化する。
【0049】
Sn中に、さらにZnを添加すると、Znによる犠牲防食効果がもたらされ、その効果は、1%以上の添加から発揮され、40%超では、めっき層の溶解が大きくなるため、40%を上限とするのが望ましく、20%以下が、より好ましい。また、Siを添加すると、Mg2Si、Ca2Siが生成して耐食性が向上するため、0.1%以上の添加が望ましい、0.5%超では、融点が上昇するため、操業性が劣化する。
【0050】
主めっき金属としてAlを選択した場合には、めっき層中に、IIa族元素とIVb族元素より構成された塊状の金属間化合物を有するものとする。また、この塊状の金属間化合物の長径が10μm以上、短径の長径に対する比率が0.4以上であることが、安定な耐食性を得るのに望ましい。より望ましくは、金属間化合物の長径が15μm以上、短径の長径に対する比率が0.4以上である。
【0051】
さらに、めっき層成分が、質量%で、Mg、Caの1種以上を、Mg:2〜10%、Ca:0.01〜10%、Si:3〜15%、残部がAl及び不可避的不純物であることが望ましい。Siは、Alめっきの合金層の成長を抑制する元素として知られ、3%以上の添加で、その効果を発揮し、望ましくは6%超である。しかし、過剰な添加はめっき浴の融点を上昇させ、結果的に合金層の過大な成長と、それに起因する加工性の低下に繋がるため、Siの上限は15%とする。
【0052】
Mgは、2%以上の添加で耐食性が向上し、望ましくは4%以上である。本発明は、アルミめっき層中に塊状のMg2Siを形成させるものであるが、めっき層のMg/Si比は、Mg2Siの当量値1.73よりも低目にすることが望ましい。Mg/Si比が1.70以下の領域では、めっき層は、Al−Mg2Si−Siの三元共晶組織となり、このとき、最も耐食性に優れる。
【0053】
これは、この領域で最も融点が低下して、合金層成長が抑制され、耐食性に寄与するめっき層の量が実質的に増大するためと推定している。しかし、過剰な添加は、めっき浴の融点を上昇させ、結果的に、合金層の過大な成長と、それに起因する加工性の低下に繋がる、かつ、Mg酸化膜が急激に生成するため、Mgの上限は10%とする。
【0054】
めっき層中には、さらに、0.01%以上のCaを添加することが望ましい。これは、Caが、溶融めっき時の溶融メタル上でのMgの酸化を抑制して、外観上の欠陥が出難くなるためである。Caを添加せずに大気中でめっきを行うと、めっき表面に激しい皺模様が発生して商品価値を低下させるため、溶融メタル部分を低酸素雰囲気に抑制する手法が必要となり設備投資が必須となる。
【0055】
Ca添加によるMgの酸化抑制効果は、0.2%で飽和してくる。また、それ以上添加したCaは、Siとも反応してCa2Si、CaSi等も形成し、Mg2Siと同じような防食作用を及ぼす。Caを添加する場合には、Mg2SiやCa2Si、CaSiをめっき層中に晶出させるために(Ca+Mg)/Siが、質量比で2.8以下であることが望ましい。
【0056】
しかし、Caも過剰な添加はめっき浴の融点を上昇させ、結果的に、合金層の過大な成長と、それに起因する加工性の低下に繋がるため、Caの上限は10%とする。
【0057】
さらに、Znを添加すると、Znによる犠牲防食効果がもたらされる。その効果は、2%以上の添加から発揮され、25%超では、めっき層の溶解が大きくなるため、25%を上限とするのが望ましい。さらに望ましくは、下限が10%、上限が20%である。
【0058】
なお、Mgの酸化を抑制する元素としては、Al系、Sn系のいずれのめっき種においても、CaだけでなくBeも有効であるが、Beは、有毒な元素のため、適用は極力望ましくない。
【0059】
めっき層の厚さは、2〜100μmであることが望ましい。一般に、めっき層の厚みが増大すると、耐食性には有利に、また、加工性、溶接性には不利に働く。用途により、望ましいめっき層の厚みは異なるが、優れた加工性、溶接性が要求される自動車部品としては、めっき層厚は薄い方がよいが、2μm未満では耐食性が十分確保できないため、2μm以上が好ましい。
【0060】
一方、加工性、溶接性があまり問われない建材、家電用途においては、めっき層厚は厚い方が耐食性向上の点でよいが、100μm超では加工性が極端に劣化するため、100μm以下が好ましい。なお、本発明は、自動車の下回り部品としても有効である。
【0061】
一般に、自動車の下回り部品においては、アーク溶接が使用されているが、Zn系のめっきではZnの蒸気圧が高いために、ブローホールが発生し易いという欠点があった。蒸気圧の低いAl系、Sn系のめっきが、本来好ましいが、これらのめっきは、地鉄の保護作用が弱いために適用されてこなかった。
【0062】
本発明により、これらの高耐食めっきであっても、地鉄の保護作用も有し、かつ、アーク溶接時にブローホールができなくなるという利点がある。
【0063】
めっき表面の粗度は、外観、耐食性、溶接性、加工性に影響する。粗度が粗いと、加工性には有利になるが、溶接性、耐食性には不利になる。従って、その最適値は、めっき種、使用用途により異なるが、Raで3μm以下であることが望ましい。
【0064】
Al系、Sn系めっき鋼材では、いずれも、めっき層と地鉄の界面に合金層が生成する。その厚みは、融点の低いSn系では0.1〜1μm程度で、Al系では0.5〜5μmに達する。特に、Al系めっきにおいては、合金層の厚みは、加工性、加工後の耐食性に大きく影響するため、合金層の厚みは5μm以下であることが望ましい。
【0065】
更なる耐食性向上や合金層の薄手化、めっき濡れ性向上のために、めっき前処理としてめっき層と地鉄の界面に、Ni、Co、Zn、Sn、Fe、Cuの1種以上を含有するプレめっきを施すことも可能である。また、プレめっきをした後に、Al系、Sn系を溶融めっきするか、熱処理をした場合、プレめっき層と地鉄、プレめっき層とめっき層との間に合金層が形成される。
【0066】
また、プレめっき層と前記合金層との混合層となることもあり得るが、いずれの状態となってもよく、本発明の趣旨を損なうものではない。プレめっきが、めっき浴中に溶解し、あるいは、拡散によりめっき層や鋼板中にプレめっき成分が含有されることもあるが、これにより、本発明の趣旨を損なうものではない。
【0067】
めっきの構成元素としては、基本的に、主めっき金属及び金属間化合物形成元素、不可避的不純物からなるものとするが、必要に応じ、Bi、Sb、Fe、ミッシュメタル、Be,Cr、Mn等を添加することも可能である。
【0068】
めっき層の最表面に化成処理皮膜、樹脂皮膜等の後処理皮膜を適用すれば、溶接性、塗料密着性、耐食性等の向上効果が期待される。化成処理皮膜としては、クロム酸−シリカ系皮膜、シリカ−リン酸系皮膜、シリカ−樹脂系皮膜等が可能で、樹脂類としても、アクリル系、メラミン系、ポリエチレン系、ポリエステル系、フッ素系、アルキッド系、シリコンポリエステル系、ウレタン系等の汎用樹脂が適用できる。
【0069】
膜厚も特に限定するものではなく、通常の0.2〜20μm程度の処理が可能である。後処理として、クロムを使用しないインヒビターが最近検討されているが、これらの処理の適用も当然可能である。
【0070】
次に、母材の鋼成分について説明する。鋼成分の限定は特に行わず、どのような鋼種に対しても耐食性向上効果を有するが、鋼種としては、例えば、Ti、Nb、B等を添加したIF鋼、Al−k鋼、Cr含有鋼、ステンレス鋼、ハイテンがある。建材用途には、Al−k系あるいはステンレス系が、排気系用途には、Ti−IF鋼が、家電用途には、Al−k系が、燃料タンク用途には、B添加IF鋼が、磁気シールド用途には、電磁鋼板がそれぞれ望ましい。
【実施例】
【0071】
次に、実施例で本発明をより詳細に説明する。
【0072】
〈実施例1〉
通常の熱延、冷延工程を経た、表1に示す鋼成分の冷延鋼材(板厚0.8mm)を材料として、溶融錫めっきを行った。
【0073】
まず、ワット浴を用いた電気めっき法により、Niめっきを約1g/m2施した。その後、フラックス法により錫めっきを行った。めっき後、ガスワイピング法で、めっき付着量を調節した。その後、めっき処理した鋼板を冷却し、巻き取った。
【0074】
めっき浴組成として、Mg、Ca、Alの量を適宜変えて、めっきを行った。これ以外に、浴中のめっき機器やストリップから供給される不可避的不純物として、Fe、Niが、それぞれ、めっき浴中に0.05%以下含有されていた。浴温は260〜300℃とした。
【0075】
めっき外観は、不めっき等なく良好であったが、浴の組成によっては、激しい浴面での酸化が観察された。めっき付着量は、両面均一で、両面で約60g/m2、表面粗度は、Raで0.9〜1.4μmであった。
【0076】
図2に、Sn−1%Mg−0.01%Ca浴でめっきした試料のめっき層の5°傾斜断面組織の写真(200倍)を示す。Mg2Snの粒状相がめっき中に分布していることが示され、X線回折によっても、この化合物の存在が確認された。
【0077】
図2において、下部の灰色部分が地鉄断面、太い線状の模様が付いた上部がめっき層表面(平面写真)であり、これらの中間領域の白色(薄い灰色)部分がめっき層の横断面(5°傾斜断面)である。白色のめっき層の5°傾斜断面中に黒色の連続した点群として存在するのが粒状の金属間化合物(Mg2Sn)である。
【0078】
比較のため、純Snめっき鋼板、Pb−8%Snめっき鋼板も製造した。どちらも、Niプレめっき後にめっきした。これらのめっき鋼板は、めっき層中に金属間化合物を含有しなかった。これらの性能を下に示す試験で評価した。
【0079】
【表1】

【0080】
(1)めっき層分析
(1) めっき層組成分析法
寸法50×50の試料の両面を、5%NaOH溶液(質量%)中で、電流密度10mA/cm2で対極をステンレス鋼として電解剥離した。電位が急に立ち上がったところで、電流密度を順次半分に低下させ、最終的に1mA/cm2まで低下させ、Ni層あるいは合金層の電位を示したところで電解を停止した。鋼板に付着した残滓を脱脂綿で丁寧に拭い、分析液を一緒に採取した。
【0081】
次に、この分析液を濾過し、未溶解残滓は10%塩酸中で溶解させた。濾液と溶解液とをあわせて、定量分析をICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析法で行った。
【0082】
なお、鋼板が化成処理を施されているときは、Cr、Si等に誤差が出得るため、表面を軽くペーパー研磨した後剥離するとよい。
【0083】
(2) めっき組織観察法
めっき層断面の5°傾斜研磨を行い、光学顕微鏡によるめっき組織観察(200〜500倍)を行った。めっき1mm幅(任意)視野中でのめっき層中金属間化合物(長径と短径比が0.4以上)の長径と個数を測定した。
【0084】
(2)耐食性
(1) 塩害耐食性
寸法70×150mmの試料に対して、クロスカットを入れた後、JIS Z 2371に準拠した塩水噴霧試験を行い、赤錆発生までの時間を評価した。
【0085】
(評価基準)
○:赤錆発生20日超
△:赤錆発生10〜20日
×:赤錆発生10日未満
(2) 塗装後耐食性
寸法70×150mmの試料にクロム酸−シリカ系の化成処理を金属Cr換算で約20mg/m2施し、さらに、メラミン系黒色塗装20μmを行い、140℃で20分焼付けた。その後、クロスカットを入れ、塩水噴霧試験に供した。60日後の外観を目視観察した。
【0086】
(評価基準)
◎:赤錆発生無し
○:クロスカット以外からの赤錆発生無し
△:赤錆発生率5%以下
×:赤錆発生率5%超
(3) 燃料に対する耐食性
ガソリンに対する耐食性を評価した。方法は、油圧成形試験機により、フランジ幅20mm、直径50mm、深さ25mmの平底円筒絞り加工を施した試料に、試験液を入れ、シリコンゴム製のリングを介してガラスで蓋をした。この試験後の腐食状況を目視判定した。
【0087】
(試験条件)
試験液:ガソリン+蒸留水10%+蟻酸200ppm
試験期間:40℃で3ヶ月放置
(評価基準)
○:赤錆発生0.1%未満
△:赤錆発生0.1〜5%あるいは白錆あり
×:赤錆発生5%超あるいは白錆顕著
(4) 屋外暴露試験
化成処理後、塗装を行った。塗装は、エポキシ系樹脂(20μm)の2種類とした。寸法50×200mmに剪断し、屋外暴露試験を行った。1ヶ月経過後の端面からの赤錆発生率、表面の変色状況を観察した。
【0088】
(評価基準)
○:端面からの赤錆発生率30%未満
△:端面からの赤錆発生率30〜80%
×:端面からの赤錆発生率80%超
(3)溶接性
下に示す溶接条件でスポット溶接を行い、ナゲット径が4√t(t:板厚)を切った時点までの連続打点数を評価した。
【0089】
(溶接条件)
溶接電流:10kA
加圧力:220kg
溶接時間:12サイクル
電極径:6mm
電極形状:ドーム型、先端6φ−40R
(評価基準)
○:連続打点1000点超
△:連続打点500〜1000点
×:連続打点500点未満
(4)加工性
油圧成形試験機により、直径50mmの円筒ポンチを用いて、絞り比2.25で、カップ成型を行った。試験は塗油して行い、シワ抑え力は500kgとした。加工性の評価は次の指標によった。
【0090】
(評価基準)
○:異常無し △:めっきに亀裂有り ×:めっき剥離有り
評価結果を、表2および表3に示す。
【0091】
【表2】

【0092】
【表3】

【0093】
No15に示した、従来自動車燃料タンク用に広く使用されているPb−8%Snめっき鋼板、No13に示したSnめっき鋼板は、めっき自体の耐食性に優れるが、端面や、不めっきが生じた場合の地鉄の保護作用を有していない。これを改善したのが、No14のSn−8%Znめっき鋼板であるが、なお不十分である。
【0094】
これに対し、No1〜12の発明例は極めて耐食性に優れている。但し、No1は、Mgの量が少ないため、No9は、溶融ポット出側での冷却速度が大きく金属間化合物の粒径が小さいため、その効果が不十分である。
【0095】
実施例の全てで、X線回折、断面傾斜研磨から、Mg2Sn、Ca2Snの生成が認められ、発明例の優れた耐食性は、これら水溶性金属間化合物の溶解によるめっき層、地鉄の不働態化効果のためと推定される。
【0096】
〈実施例2〉
実施例1と同等の鋼成分、板厚の冷延鋼板を材料として、溶融アルミめっきを行った。溶融アルミめっきは、無酸化炉一還元炉タイプのラインを使用し、めっき後ガスワイピング法でめっき付着量を調節し、その後、冷却し、ゼロスパングル処理を施した。めっき浴の組成を種々変えて試料を製造し、その特性を調査した。なお、浴中には、浴中のめっき機器やストリップから供給される不可避的不純物として、Feが1〜2%程度含有されていた。
【0097】
浴温は640〜660℃とした。Mg、Caの酸化は、特に激しくは発生しなかった。但し、一部の条件(Ca添加なし、N2シールBOXなし)で、外観のシワの発生が観察された。侵入板温、めっき後の冷却速度等を工夫して、合金層の厚みは、低めを狙って製造し、1.5〜3μmのものが製造できた。
【0098】
めっき付着量は、両面均一で、両面で約60g/m2とした。また、表面粗度はRaで1.2〜2.2μmであった。
【0099】
めっき層組成がAl−8%Si−6%Mg−0.1%Caであるときの5°傾斜研磨した断面組織を、図3に示す。図3(200倍)において、灰色の下側部分が、地鉄断面、白色に近い中央部分が、めっき層断面(5°傾斜断面)、ピントがずれている上側部分が、めっき層表面である。
【0100】
地鉄とめっき層の界面には、地鉄に近い色をしているので判別は難しいが、薄く合金層が存在する。白色のめっき層断面内に、比較的濃い灰色の3〜6角形をした塊状Mg2Siが認められる。
【0101】
今回製造した試料の塊状Mg2Siの短径は4〜25μm、長径は6〜30μmで、短径の長径に対する比率は0.7〜1であった。Mg2Siは、この塊状組織の他に、微細な粒状相としても存在していた。X線回折、EPMA分析によっても、Mg2Siの存在が確認された。添加したMgは、殆ど全てMg2Siになっており、このめっき層組成で約9%の量と推定される。
【0102】
比較のため従来型のアルミめっき、即ちAl−10%Siめっき、および、ガルバリウム鋼板(Zn−55%Al−1.5%Si)等も製造した。いずれも、付着量は両面60g/m2とした。
【0103】
(1)めっき層分析方法
(1) めっき層組成分析法
寸法50×50の試料の両面を、3%NaOH+1%AlCl3・6H2O溶液(質量%)中で、電流密度20mA/cm2で対極をステンレス鋼として電解剥離した。電位が急に立ち上がったところで、電流密度を順次半分に低下させ、最終的に、1mA/cm2まで低下させ、合金層の電位を示したところで電解を停止した。
【0104】
このようなアルカリ溶液中には、Mg2Si、Ca2Si等は不溶であるため、黒色の残滓が生成した。そこで、次に、5%NaCl中で再度電解剥離を行った。このときの電流密度は10mA/cm2から始め、やはり電位が急に立ち上がったところで電流密度を順次半分に1mA/cm2まで低下させた。なお、不溶の残滓については、鋼板から丁寧に脱脂綿で拭い取り、脱脂綿ごと分析液として採取した。
【0105】
次に、この分析液を濾過し、未溶解残滓は10%塩酸中で溶解させた。濾液と溶解液とをあわせて、定量分析を、ICP(誘導結合プラズマ発光分光分析法)で行った。なお、鋼板が化成処理を施されているときは、Cr、Si等に誤差がで得るため、表面を軽くペーパー研磨した後、剥離するとよい。
【0106】
(2) めっき組織観察法
めっき層断面の5°傾斜研磨を行い、光学顕微鏡によるめっき組織観察(200〜500倍)を行った。めっき1mm幅(任意)視野中でのめっき層中金属間化合物(長径と短径比が0.4以上の塊状Mg2Si)の長径と個数を測定した。
【0107】
(2)耐食性評価
(1) 塩害耐食性
寸法70×150mmの試料に対して、JIS Z 2371に準拠した塩水噴霧試験を30日行い、腐食生成物を剥離して腐食減量を測定した。この腐食減量の表示は、めっき片面に対しての値である。
【0108】
(評価基準)
◎:腐食減量5g/m2以下
○:腐食減量10g/m2未満
△:腐食減量10〜25g/m2
×:腐食減量25g/m2
(2) 塗装後耐食性
まず、化成処理としてクロム酸−シリカ系処理を、金属Cr換算で、片面20mg/m2処理した。次に、寸法70×150mmの試料にメラミン系黒色塗装20μmを行い、140℃で20分焼付けた。その後、クロスカットを入れ、塩水噴霧試験に供した。60日後の外観を目視観察した。
【0109】
(評価基準)
◎:赤錆発生無し
○:クロスカット以外からの赤錆発生無し
△:赤錆発生率5%以下
×:赤錆発生率5%超
(3) 燃料に対する耐食性
ガソリンに対する耐食性を評価した。方法は、油圧成形試験機により、フランジ幅20mm、直径50mm、深さ25mmの平底円筒絞り加工を施した試料に、試験液を入れ、シリコンゴム製のリングを介してガラスで蓋をした。この試験後の腐食状況を目視判定した。
【0110】
(試験条件)
試験液:ガソリン+蒸留水10%+蟻酸200ppm
試験期間:40℃で3ヶ月放置
(評価基準)
○:赤錆発生0.1%未満
△:赤錆発生0.1〜5%あるいは白錆あり
×:赤錆発生5%超あるいは白錆顕著
(4) 排気系凝結水に対する耐食性
寸法25×100mmの試料に対して、自動車技術会規定のJASOM611−92B法に従い、試験を行った。試験期間は4サイクルとした。試験後、腐食生成物を剥離し、腐食深さを測定した。
【0111】
(評価基準)
○:腐食深さ0.05mm未満
△:腐食深さ0.05〜0.2mm
×:腐食深さ0.2mm超
(5) 屋外暴露試験
(2)の項で述べた化成処理の後、塗装を行った。塗装は、ポリエチレンワックス含有アクリル系樹脂(クリア:5μm)、エポキシ系樹脂(20μm)の2種類とした。寸法50×200mmに剪断し、屋外暴露試験を行った。3ヶ月経過後の端面からの赤錆発生率、表面の変色状況を観察した。
【0112】
(評価基準)
○:端面からの赤錆発生率30%未満
△:端面からの赤錆発生率30〜80%
×:端面からの赤錆発生率80%超
(3)溶接性
(2)の項で述べた化成処理の後、下に示す溶接条件でスポット溶接を行い、ナゲット径が4√t(t:板厚)を切った時点までの連続打点数を評価した。
【0113】
(溶接条件)
溶接電流:10kA
加圧力:220kg
溶接時間:12サイクル
電極径:6mm
電極形状:ドーム型、先端6φ−40R
(評価基準)
○:連続打点700点超
△:連続打点400〜700点
×:連続打点400点未満
(4)加工性
油圧成形試験機により、直径50mmの円筒ポンチを用いて、絞り比2.25で、カップ成型を行った。試験は塗油して行い、シワ抑え力は500kgとした。加工性の評価は、次の指標によった。
【0114】
(評価基準)
○:異常無し
△:めっきに亀裂有り
×:めっき剥離有り
(5)外観
めっき後の外観を目視判定した。
【0115】
(評価基準)
○:均一な外観
△:薄いシワ模様発生
×:シワ模様発生
評価結果を表4および表5に示す。
【0116】
【表4】

【0117】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明は、従来不可能とされていたSn系めっきとAl系めっき層自体の高耐食性と、端面、疵部の防食作用とを兼備する表面処理鋼板を可能にするものである。その用途は、従来の表面処理鋼板の殆ど全てに及び得るので、産業上の寄与は極めて大きい。
【符号の説明】
【0119】
1 地鉄
2 合金層
3 めっき層
4 金属間化合物の塊状物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材表面の錫系めっき層中に、IIa族(アルカリ土類金属)元素のMg、Caの1種以上と、IVb族元素のSi、Snの1種以上により構成された金属間化合物を含有することを特徴とする耐食性に優れた錫めっき系表面処理鋼材。
【請求項2】
前記金属間化合物が、長径が1μm以上であり、かつ、短径の長径に対する比率が0.4以上である塊状(massive)であることを特徴とする請求項1に記載の耐食性に優れた錫めっき系表面処理鋼材。
【請求項3】
前記錫系めっき層の成分組成が、質量%で、Mg、Caの1種以上を、Mg:0.2〜10%、Ca:0.01〜10%の範囲内で含有し、残部がSnおよび不可避的不純物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐食性に優れた錫めっき系表面処理鋼材。
【請求項4】
前記錫系めっき層の成分組成が、質量%で、Mg、Caの1種以上を、Mg:0.2〜10%、Ca:0.01〜10%の範囲内で含有し、さらに、Alを0.01〜10%の範囲内で含有し、残部がSnおよび不可避的不純物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐食性に優れた錫めっき系表面処理鋼材。
【請求項5】
前記錫系めっき層中に、さらに、質量%で、Zn:1〜40%および/またはSi:0.1〜0.5%を含有することを特徴とする請求項3または4に記載の耐食性に優れた錫めっき系表面処理鋼材。
【請求項6】
鋼材表面のめっき層が、IIa族(アルカリ土類金属)元素のMg、Caの1種以上と、IVb族元素のSi、Snの1種以上により構成された塊状(massive)の金属間化合物を含有し、前記金属間化合物の長径が10μm以上、短径の長径に対する比率が0.4以上であることを特徴とする耐食性に優れたアルミめっき系表面処理鋼材。
【請求項7】
前記アルミ系めっき層の成分組成が、質量%で、Mg,Caの1種以上を、Mg:2〜10%、Ca:0.01〜10%と、Si:3〜15%を含有し、残部Al及び不可避的不純物であり、かつ、前記アルミ系めっき層成分のMg/Siが、質量比で1.70以下であることを特徴とする請求項5または6に記載の耐食性に優れたアルミめっき系表面処理鋼材。
【請求項8】
前記アルミ系めっき層の成分組成が、質量%で、Mg:4〜10%、Si:6%超〜15%、残部Alおよび不可避的不純物であることを特徴とする請求項5または6に記載の耐食性に優れたアルミめっき系表面処理鋼材。
【請求項9】
前記アルミ系めっき層の成分組成が、質量%で、Mg:4〜10%、Si:6%超〜15%、Ca:0.01〜0.2%、残部Al及び不可避的不純物であることを特徴とする請求項8に記載の耐食性に優れたアルミめっき系表面処理鋼材。
【請求項10】
前記アルミ系めっき層が、さらに、Znを含むことを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の耐食性に優れたアルミめっき系表面処理鋼材。
【請求項11】
前記アルミ系めっき層の成分組成が、質量%で、Mg:1〜10%、Si:3〜15%、Znを2〜25%、残部Al及び不可避的不純物であることを特徴とする請求項6に記載の耐食性に優れたアルミめっき系表面処理鋼材。
【請求項12】
前記アルミ系めっき層の成分組成が、質量%で、Mg:1〜10%、Si:3〜15%、Znを2〜25%、Ca:0.01〜0.2%残部Al及び不可避的不純物であることを特徴とする請求項6に記載の耐食性に優れたアルミめっき系表面処理鋼材。
【請求項13】
前記アルミ系めっき層の成分組成が、質量%で、Mg:4〜10%、Si:6%超〜15%、Znを10〜20%、残部Al及び不可避的不純物であることを特徴とする請求項11に記載の耐食性に優れたアルミめっき系表面処理鋼材。
【請求項14】
前記アルミ系めっき層の成分組成が、質量%で、Mg:4〜10%、Si:6%超〜15%、Znを10〜20%、Ca:0.01〜0.2%、残部Al及び不可避的不純物であることを特徴とする請求項12に記載の耐食性に優れたアルミめっき系表面処理鋼材。
【請求項15】
前記鋼材表面のめっき層の厚みが2〜100μmであることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の耐食性に優れたアルミめっき系または錫めっき系表面処理鋼材。
【請求項16】
前記めっき表面の粗度がRaで3μm以下であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の耐食性に優れたアルミめっき系または錫めっき系表面処理鋼材。
【請求項17】
前記めっき層と鋼材の界面に5μm以下の厚みの合金層が存在することを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の耐食性に優れたアルミめっき系または錫めっき系表面処理鋼材。
【請求項18】
前記めっき層と鋼材の界面に、Ni、Co、Zn、Sn、Fe、Cuの1種以上を含有するプレめっき層、該プレめっき層と地鉄との合金層、該プレめっき層とめっき層との合金層の少なくとも1種を有することを特徴とする請求項1〜17のいずれか1項に記載の耐食性に優れたアルミめっき系または錫めっき系表面処理鋼材。
【請求項19】
前記めっき層成分として、Ni、Co、Zn、Sn、Fe、Cu、Bi、Sb、ミッシュメタル、Fe、Be、Cr、Mnの1種以上からなる添加元素を含有することを特徴とする請求項1〜18のいずれか1項に記載の耐食性に優れたアルミめっき系または錫めっき系表面処理鋼材。
【請求項20】
前記鋼材最表面に、後処理皮膜を有することを特徴とする請求項1〜19のいずれか1項に記載の耐食性に優れたアルミめっき系または錫めっき系表面処理鋼材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−7245(P2012−7245A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225219(P2011−225219)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【分割の表示】特願2000−606803(P2000−606803)の分割
【原出願日】平成12年3月17日(2000.3.17)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】