説明

耐騒音マイク

【課題】 簡単な構造でありながら、高騒音下の通信を高品質で確保することができ、受音部に突出部が存在しないために音圧型の接話マイクとしても併用できる骨伝導マイクを提供する。
【解決手段】 空気、及び人体よりも高い音響インピーダンスを有し、かつ音声振動を伝搬しにくい機械インピーダンスを発揮する重量、剛性を有した材料から成る中空のケース2と、ケースの対向する2つの壁部2、3により夫々支持されることにより密閉空間を挟んで対向配置された薄膜ピエゾフィルム素子から成る2枚の受音板11、12と、を備えた耐騒音マイクにおいて、一方の受音板は、外周縁をケースの一方の壁部により支持されると共に外部に露出した外面を有し、該外面のほぼ全面を受音対象物と接触させた状態で音声振動を受音する音声ピックアップ用の受音板であり、他方の受音板は、他方の壁部の内壁に外面をほぼ全面的に密着支持されたタッチノイズキャンセル用の受音板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高騒音環境(120dB以上)において通話手段を用いて送信する際の高品質通信を確保するマイクロフォンに関し、特にタッチノイズキャンセル機能を有する骨伝導マイクの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
無線機、電話等の通話手段として、さまざまなマイクロフォンが存在するが、例えば、120dB以上の高騒音環境における通話では、使用者の発する音声が騒音に紛れてしまい、送話内容を受話者が聞き取ることができず、会話が欠落する事態が多々生じている。周囲の騒音により通話内容が欠落することにより、特に緊急を要する状況下、人命、その他の安全に関わる状況下、及び人命を預かる業務等に於いては最悪の事故を招く恐れがある。
このような通話内容の欠落を解消、緩和するために、従来から、高騒音環境においても品質の高い通話を可能とする耐騒音マイクが種々提案されている。耐騒音マイクとしては、骨伝導マイク(耳骨マイク、頭骨マイク、鼻骨マイク等)、振動型の咽喉マイク、音圧型の接話マイク等があり、この種のマイクは、騒音の激しい環境(空港滑走路近傍、サーキット場、コンサートホール、イベント会場、船舶等の機関室、工事現場、事故現場等)において、外来騒音を除去し、送話者の音声のみを拾うことによって、品質の高い通話を実現することを目的としている。
振動型の咽頭マイクは、咽頭部の振動を拾って電気信号に変換する手段であり、音圧型の接話マイクは、使用者の口腔等から発せられる音圧を空気伝搬により受音部で直接拾いこれを電気信号に変換する。また、骨伝導マイクは、発声に伴う咽喉部からの骨伝導による振動を直接又は間接的に拾い電気信号に変換するものである。
特開昭63−10998号公報には、小型の圧電素子をオイルが充填された金属容器内に封じ込んだ構造の音声ピックアップ部(加速度センサー方式)を機械インピーダンスの小さいプラスチック等から成る平板に固定し、この平板を通して音声振動をピックアップ部に伝える耐騒音マイクが開示されている。この耐騒音マイクでは、小型の圧電素子をオイル中に浸漬しているため、周囲からの空気伝搬による騒音には圧電素子が反応しにくいという好結果が得られている。
しかしながら、特開昭63−10998号公報に記載の耐騒音マイクは、音声ピックアップ部の構造が精密、複雑であるために製造コストが増大するばかりでなく、ピックアップ部内の圧電素子が小型で薄いため、機械的衝撃を与えないようにする等、取扱いに注意が必要である。また、ピックアップ部を支持する平板は咽喉部の振動に応じて自由に振動、変形する必要があり、音声帯域の振動に対し機械インピーダンスの低い材料で構成する必要がある。このようにピックアップを支持する部材として機械インピーダンスの低い材料を選定せざるを得ないため、マイク本体のどこかに襟、指等の異物が触れて振動が与えられた場合は、これが騒音となってピックアップ部に伝わりやすいという欠点を持っている。
【0003】
さらに、特開平8−33073号公報には、ケース内に平行且つ離間した状態で配置された2枚の圧電素子に伝搬されたタッチノイズ信号出力を逆相接続して、タッチノイズのみをキャンセルさせる方式の振動ピックアップマイクロホンが開示されているが、どちらの圧電素子も浮いた状態で支持されている為、音声もタッチノイズ等の騒音もほとんど同レベルで圧電素子を振動させることになる。しかし、このままの構成で両圧電素子を逆相接続した場合には、騒音のみならず、ピックアップしたい音声信号もキャンセルされてしまうので、片方の圧電素子に適当な重量のおもりを付けて、音声帯域の振動周波数には反応しにくくし、タッチノイズなどパルス性の振動には反応しやすくして解決している。しかしながらこの方式では、音声帯域内に広く分布しているジェット音等のホワイトノイズ性の騒音に対しては効果が低い。
また、特開平10−79999号公報には、圧電素子の振動板に咽頭当て片を設け、その当て片を通して咽喉部からの振動をピックアップする圧電型咽喉マイクが開示されている。同公報には、耐騒音性について言及されていないが、音圧型マイクとしても転用できる可能性がある。しかし、この圧電型咽頭マイクを音圧型マイクとして転用する場合、当て片が突出しているため咽喉マイクとして使用した時、咽喉部との間に隙間ができ周囲の騒音、風切り音を拾ってしまう欠点を持っている。
【特許文献1】特開昭63−10998号公報
【特許文献2】特開平8−33073号公報
【特許文献3】特開平10−79999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、簡単な構造でありながら、高騒音下の通信を高品質で確保することができ、受音部に突出部が存在しないために音圧型の接話マイクとしても併用できる骨伝導マイクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、空気、及び人体よりも高い音響インピーダンスを有し、かつ音声振動を伝搬しにくい機械インピーダンスを発揮する重量、剛性を有した材料から成る中空のケースと、該ケースの対向する2つの壁部により夫々支持されることにより密閉空間を挟んで対向配置された薄膜ピエゾフィルム素子から成る2枚の受音板と、を備えた耐騒音マイクにおいて、一方の受音板は、外周縁をケースの一方の壁部により支持されると共に外部に露出した外面を有し、該外面のほぼ全面を受音対象物と接触させた状態で音声振動を受音する音声ピックアップ用の受音板であり、他方の受音板は、他方の壁部の内壁に外面をほぼ全面的に密着支持されたタッチノイズキャンセル用の受音板であることを特徴とする。
請求項2の発明は、前記2枚の受音板からの各出力を直列接続して各出力中に含まれる騒音成分のみを減算させた上で、インピーダンス変換回路に入力する構成を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の耐騒音マイクは、空気中からの音声帯域信号の伝搬に対し充分大きな音響インピーダンスを持ち、かつ人体が動くことにより生ずる生活振動や音声帯域の振動に追従しにくい重量(機械インピーダンス)を持った金属等の材質で構成されたマイク素子収納部とし、またマイク素子(受音板)として薄膜ピエゾフィルム素子2枚を使用し、1枚の素子全面で音声の振動と騒音を、片方の素子でケース本体に伝搬した騒音成分のみを夫々ピックアップするように配置した構造を特徴とする。
更に、各マイク素子からの出力中の騒音成分のみを減算することにより、騒音信号を低減し音声信号のみを取り出す。
マイク素子収納部としてのケースの材料及び構造による耐騒音性強化とマイク素子の電気的な耐騒音性強化により、120dBを超える騒音下でも高品質の通話を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態を図1、図2に基づいて説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る耐騒音マイクの使用状態を示す縦断面図であり、図2は耐騒音マイクを受音面側から見た横断面図である。
この耐騒音マイク1は、空気、及び人体よりも高い音響インピーダンスを有し、かつ音声帯域の振動を伝搬しにくい高い機械インピーダンスを発揮する重量、剛性を有した材料から成る中空のケース2と、中空のケース2の対向する2つの壁部3、4により夫々支持されることにより密閉空間S(幅1.5mm程度)を挟んで対向配置された薄膜ピエゾフィルム素子から成る2枚の受音板11、12と、を備えている。
耐騒音マイク1は、マイク保持部(ネックストラップ等)、15によって支持されている。
ケース2の中空内部は、略中央部に設けた隔壁5によって2つの空所S1、S2に区画されている。空所S2内には、インピーダンス変換回路20が収容されており、各受音板11、12の出力は、インピーダンス変換回路20に入力されるようにリード線21によって結線されている。
【0008】
受音板11、12の大半の部分は、何れも主として密閉された空所S1側に位置しており、夫々の一端部が他方の空所S2側に延長されてインピーダンス変換回路20と電気的に接続されている。
ケース2の一方の壁部3により支持された受音板11は、その外周縁を壁部3により支持されており、外面のほぼ全体は外部に露出している。受音板11の中心部を含んだ広い領域は自由振動できるように構成されている。この受音板11は、その外面を咽頭部等の人体皮膚(受音対象物)30に密着させることにより音声振動を受音する音声ピックアップ用の受音板である。
他方の受音板12は、他方の厚肉の壁部4の内壁に外面をほぼ全面的に密着支持されたタッチノイズキャンセル用の受音板であり、保持具15、ケース2に伝搬した騒音をピックアップする。
薄膜ピエゾフィルム素子から成る受音板11及び12を収容、支持するケース2は、人体が動くことにより生ずる生活振動(タッチノイズ)から音声帯域(5Hz〜4kHz程度)に至る範囲の帯域の振動に対して充分に高い機械インピーダンスを発揮し得る重量(30〜40g程度)を有し、かつ空気(0.0004kg×10/m・S)、及び人体に対して充分大きな音響インピーダンスを有する真鍮(40.4kg×10/m・S)等の金属材料から構成されている。
ケース2を構成する材料は、人体30よりも音響インピーダンスが大きくなるように設定されているため、人体30からの生活振動はケース2に伝わりにくい。一方、壁部2と接触する外周縁部を介して僅かに受音板11に伝搬した生活振動成分は、受音板11が薄膜ピエゾフィルム素子であるため、人体の音声インピーダンスに近く、また受音板全面が人体に密着しているため、人体側に吸収されやすくなる。なお、空間に浮いている状態にある受音板11の受音面は、人体から発せられた音声により自由に振動することができる。
【0009】
他方の受音板12は、その外面のほぼ全体が他方の壁部4に密着固定されており、さらに受音板11との間には空間S1が存在するために、受音板11からの振動は受音板12には伝わりにくい。
一方、外部空気中から伝搬する音声帯域の外来振動は、音響インピーダンスが充分大きい物質であるケース2に到達すると反射、或いは減衰し、ケースを構成する壁部4に取り付けられた受音板12は振動しにくくなる。また、ケース2、マイク保持具15に衣類等が触れた時の振動は、ケース2の重量を重くすることにより減衰でき、受音板12を振動させにくくなる。
さらに薄膜ピエゾフィルム素子から成る各受音板から出力される電気信号を適当な信号量にして電気的に減算することにより、騒音のみが低減され音声信号のみが出力される。
このように本発明によれば、空気中からの音声帯域振動の伝搬に対し充分大きな音響インピーダンスを持ち、かつ人体が動くことにより生ずる生活振動や音声帯域の振動に追従しにくい重量(機械インピーダンス)を持った金属等の材質で構成されたケースにより受音板を支持、収納し、また受音板として薄膜ピエゾフィルム素子2枚を使用し、1枚の素子全面で音声の振動と騒音を、片方の素子で収納部本体に伝搬した騒音のみを夫々ピックアップするように配置したので、充分な耐騒音性を得ることができる。即ち、単に、各受音板11、12からの出力を夫々インピーダンス変換回路に出力することにより音声ピックアップ用の受音板11からの音声信号を得ることができる。
【0010】
次に、本発明の他の実施形態では、更に耐騒音性を上げるために、受音板11と受音板12からの各出力信号を直列に接続して減算させた上でインピーダンス変換回路20に入力する。
人体30から発せられるほとんどの音声振動は、受音板11により受音されるため、両受音板11、12により夫々ピックアップされた騒音のみがキャンセルされ、マイク出力25には通話に必要な人体30からの音声信号のみが出力されることとなる。
ここで、両受音板11、12からの各出力信号を直列に接続して騒音のみを減算させる点について説明する。
即ち、受音板12はその周縁部が壁部4に固定され、その中央部分は壁部4の内部底面に密着している。これに対して、受音板11は周縁部が壁部3に固定され、自由に振動できる中央部分は人体30に密着固定された状態にある。ここで、外部からケース2に対して騒音が伝搬したとき、受音板11の人体30に密着している中央部分が騒音により振動した場合の振動成分は人体30に吸収され、密着していない周縁部の一部が主に振動する。同様に外部から騒音が伝搬したとき、受音板12の壁部4に密着している素子膜の動きは制限され、密着していない周縁部の一部が主に振動する。
従って、両受音板11、12の騒音に対する振動量は同程度になるので、両受音板11、12を構成する薄膜ピエゾフィルム素子の+極、−極のいずれかの同極同士を直列接続すれば、騒音成分のみを減算できることになり、別に加減算回路を設ける必要はなく、インピーダンス変換のみの簡単な回路20で通常の騒音のみならず、ジェット音等のホワイトノイズ性の騒音に対してもこれをキャンセルする機能を実現することができる。
【0011】
以上の如き構成を備えた本発明の耐騒音マイクによれば、以下の如き効果を奏することができる。
(1)簡単な構造でありながら、120dBを超える騒音の激しい場所(空港滑走路近傍、ジェットエンジン近傍、サーキット場、コンサートホール、イベント会場、船舶等の機関室、工事現場等)での使用に際しても、品質の高い通信が確保できる。
(2)突出物のない薄型のケース内に素子を収容したシンプルな外観形状であるため、マイクロフォン全体を薄いゴム材等でコーティングすることも容易であり、高い防水性を確保することができる。
(3)使用時は受音部11が人体30により完全に覆われるため、風切り音が発生しにくい。
(4)音声帯域の振動に対し機械インピーダンスの大きな材質から成るケースにより素子を支持、収納するように構成したので、使用者が被着する衣類の襟等による摩擦音が伝搬しにくいため、動きの激しい作業環境でも高品質の通話が確保できる。
(5)音声信号(振動)の受音板を薄膜ピエゾフィルム素子全面(平面)としたことで、音圧型の接話マイクとしても併用できる。
(6)耐騒音性を有しない通常のマイクロフォン並の薄さにすることが可能なため、装着性に違和感が少なくなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態を示す耐騒音マイクの縦断面図。
【図2】耐騒音マイクの受音面から見た横断面図。
【符号の説明】
【0013】
1 耐騒音マイク、2 ケース、3、4 壁部、5 隔壁、S 密閉空間、11、12 受音板、15 マイク保持具(ネックストラップ等)、 20 インピーダンス変換回路(電子回路)、30 人体(受音対象物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気、及び人体よりも高い音響インピーダンスを有し、かつ音声振動を伝搬しにくい機械インピーダンスを発揮する重量、剛性を有した材料から成る中空のケースと、該ケースの対向する2つの壁部により夫々支持されることにより密閉空間を挟んで対向配置された薄膜ピエゾフィルム素子から成る2枚の受音板と、を備えた耐騒音マイクにおいて、
一方の受音板は、外周縁をケースの一方の壁部により支持されると共に外部に露出した外面を有し、該外面のほぼ全面を受音対象物と接触させた状態で音声振動を受音する音声ピックアップ用の受音板であり、
他方の受音板は、他方の壁部の内壁に外面をほぼ全面的に密着支持されたタッチノイズキャンセル用の受音板であることを特徴とする耐騒音マイク。
【請求項2】
前記2枚の受音板からの各出力を直列接続して各出力中に含まれる騒音成分のみを減算させた上で、インピーダンス変換回路に入力する構成を備えたことを特徴とする請求項1に記載の耐騒音マイク。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−20247(P2006−20247A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−198453(P2004−198453)
【出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【出願人】(391004012)東通電子株式会社 (3)
【Fターム(参考)】