説明

耳栓型個人熱中症警報装置

【課題】防護服着用の有無に関わらず、また作業環境の如何を問わず、誰でも使用できるようにする。また、装置を小型化・軽量化すると共に、信号線の引き回しを無くすか、あるいは最小限に止めることで、各種作業に支障を来さないようにする。更に、使用者個人に向けて直接警報を発するようにし、装置単独で使用できるようにする。
【解決手段】少なくとも使用者の深部体温の変化をモニタリングすることにより使用者個人に向けて熱中症発症の危険性を警報する熱中症警報装置である。外耳道に挿入される耳栓部10と耳介に面して位置する本体ケース12とが一体化され、使用者の外耳道と耳介とで保持可能な外観形状をなし、前記耳栓部には深部体温測定用の鼓膜温センサが組み込まれ、前記本体ケースには、該鼓膜温センサからの深部体温情報に基づき熱ストレインを評価し、その評価に応じて熱中症の警報を発する機器が内蔵されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも深部体温の変化をモニタリングすることにより使用者個人に向けて熱中症発症の危険性を警報する熱中症警報装置に関し、更に詳しく述べると、外耳道に挿入される耳栓部と耳介に面して位置する本体ケースとが一体化され、使用者の外耳道と耳介とで保持可能な外観形状を呈する耳栓型個人熱中症警報装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
労働現場における平成19年度の熱中症による死亡事例は18件もあり、このうち10件が建設現場で発生している。建設現場は、直射日光下での作業も多く、急激に症状が悪化し、最悪の場合、死に至る危険性が非常に高い。気象庁では、夏場における熱中症予防を啓発するため、熱中症危険指数を発表しているが、熱中症危険指数はその作業環境により大きく変化する。そのため、熱中症の根本的な予防には、自己の健康状況を的確に把握し、症状が軽いうちに適切な処置対応を図ることに尽きる。
【0003】
過酷な暑熱環境下での作業における熱中症や過度の疲労を防止する対策としては、予め作業限界に至るまでの時間(作業限界時間)を定めておき、それに基づいて実作業管理を行う方法がある。なお、作業限界時間とは、例えば人工気候室において実作業を模擬した一定強度の作業(踏み台昇降など)を行い、その時の心拍数及び体温を測定し、それらの時間変化を基に予め設定された心拍数及び体温に達する時間を実測または予測することにより設定される時間を言う。しかし、作業限界時間は実験等により求められた平均的な時間であって、作業負荷及び環境並びに個人の身体的特性により変動する。そのため、実作業に当たっては、適時、作業員に対してトランシーバー等を用い、疲労状況等の自覚症状の確認を行うことにより作業管理を行っていた。しかしながら、本人の自己申告に基づく主観的情報だけでは、疲労状況を厳密に捉えることが困難であった。
【0004】
ところで、熱中症発症の未然防止については、作業者の深部体温と心拍数の変化をモニタリングすることにより管理できることは、これまでにも実例(米国のACGIH:American Conference of Governmental Industrial Hygienists )で確認されている。暑熱環境下での作業における管理指数としては、例えば上記ACGIHの作業環境における物理因子のTLVs(Threshold Limit Values)があり、それによれば「深部体温が38.0℃(暑熱環境に馴化している場合は38.5℃)を超える場合」、「心拍数が数分間継続して〔180−年齢〕を超える場合」、「作業強度がピークに達した後1分間経過後の心拍数が110以下に戻らない場合」などの兆候により、熱ストレインが許容限界を超えたことが判断できるとしている。なお、「熱ストレイン」とは、熱ストレス(労働に伴って体内で産生される熱と体外の環境すなわち温度、相対湿度、輻射熱、及び気流、並びに衣服等の複合効果によって決まる、労働者が曝露される正味の熱負荷のこと)によって生じる生理的な反応の総称のことである。
【0005】
このことを利用すると、作業管理を行っている現場責任者が、一人ひとりの作業員の深部体温・心拍数を何らかの手法によりモニタリングし、それらの情報を基に所定の警報値を超えた場合に、トランシーバ等により各作業員に対して作業中断(休息)の指示を行うような熱中症の予防システムが構築できる。しかし、このような集中的な管理では、現場責任者の負担が非常に大きくなる。
【0006】
他方、従来技術として、何らかの行動をとろうとしている者、あるいは何らかの行動をとっている者(それらを「ユーザ」と称する)を支援する「ユーザ支援装置」が提案されている(特許文献1参照)。この装置は、ユーザが知覚している情報であるユーザ外部情報、ユーザ自身の情報であるユーザ内部情報、ユーザ周辺の環境情報を取得し、それらの情報に基づいてユーザの位置、姿勢、身体状態、及び精神状態など含むユーザ状態を判断し、ユーザの行動、記録、及び思考などの支援を行うものである。具体的には、例えばユーザ自身の発汗量や表情、ユーザ周辺の気温や空気中の成分等をセンサやカメラを使って取得し、取得した情報を通信手段を介してコンピュータに送り、所定の処理を行って得られる必要な情報をユーザに知らせることでユーザを支援するように構成されている。このようなユーザ支援の技術は、熱中症予防等の健康管理にも応用できる可能性がある。
【0007】
そこで本発明者等は、先に、深部体温や心拍数の変化をモニタリングすることにより熱中症の危険性を警報する熱中症警報装置を開発した(特願2007−283522号)。この熱中症警告装置は、メモリ、マイクロプロセッサ及び外部との信号送受信用無線モジュールを含む集積回路と、該マイクロプロセッサから与えられる情報を外部に送信すると共に、外部からの情報を作業員に伝えるための手段と、作業員の深部体温を測定するセンサ及び心拍数を測定するセンサと、危険区域の外に置かれた外部コンピュータを備え、前記計測センサによって測定された作業員の深部体温及び心拍数を、アンテナを介して外部コンピュータに送信し、外部コンピュータにおいて予め設定されている深部体温及び心拍数に関する閾値(熱中症警告値)と比較し、熱中症の危険度が高い場合には、外部コンピュータの画面上に警告または警報表示を行い、それを監視している現場責任者を介して作業員に警告等を発するように構成されている。
【0008】
しかし、この熱中症警報装置は防護服の着用を前提としている。従って、核燃料物質の取り扱い、アスベストやダイオキシンなどの有害物質の取り扱い、あるいは消火活動などのように、作業にあたって防護服を着用する必要のある現場での作業員の熱中症予防対策・健康管理には有用であるが、一般の建設現場のように防護服の着用を必要としない場合には対応できない。つまり、汎用性に乏しい。しかも、胸元もしくは背中に装着した本体機能部(データロガー部及び電源部などのユニット)と測定用のセンサとが分離しているため、信号線を長く引き回して相互接続しなければならない。そのため、装置が大型化し装着時に若干の苦痛が伴うばかりでなく、作業内容によっては引き回した信号線が作業の妨げとなったり、作業中に信号線を引っ掛ける等して予期せぬ引っ張り力が加わることで身体に装着していたセンサが脱落する恐れがあった。
【0009】
また、この場合も、各作業員が装着しているセンサから取得した客観的な情報を基に、外部コンピュータで集中的に健康管理(熱中症管理)を行い、作業を管理している現場責任者が各作業員に指示を与える点には変わりはなく、大掛かりなシステムとなることは避けられない。
【0010】
【特許文献1】特開2005−315802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、熱中症警報装置を、防護服着用の有無に関わらず、また作業環境の如何を問わず、誰でも使用できるように(即ち汎用性に富むように)することである。本発明が解決しようとする他の課題は、装置を小型化・軽量化すると共に、信号線の引き回しを無くすか、あるいは最小限に止めることで、各種作業に支障を来さないようにすることである。本発明が解決しようとする更に他の課題は、使用者個人に向けて直接警報を発するようにし、大掛かりなシステムを組むことなく、装置単独で使用できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、少なくとも使用者の深部体温の変化をモニタリングすることにより使用者個人に向けて熱中症発症の危険性を警報する熱中症警報装置であって、外耳道に挿入される耳栓部と耳介に面して位置する本体ケースとが一体化され、使用者の外耳道と耳介とで保持可能な外観形状をなし、前記耳栓部には深部体温測定用の鼓膜温センサが組み込まれ、前記本体ケースには、鼓膜温センサからの深部体温情報に基づき熱ストレインを評価し、その評価に応じて熱中症の警報を発する機器が内蔵されていることを特徴とする耳栓型個人熱中症警報装置である。ここで鼓膜温センサは、例えば赤外放射温度を検知するサーモパイル(熱電錐)であり、外耳道内に臨むように耳栓部の先端に設けられる。
【0013】
また本発明は、使用者の深部体温及び心拍数の変化をモニタリングすることにより使用者個人に向けて熱中症発症の危険性を警報する熱中症警報装置であって、外耳道に挿入される耳栓部と耳介に面して位置する本体ケースとが一体化され、使用者の外耳道と耳介とで保持可能な外観形状をなし、前記耳栓部には深部体温測定用の鼓膜温センサが組み込まれ、該鼓膜温センサの他に心拍数測定用の心拍センサを備え、前記本体ケースには、鼓膜温センサからの深部体温情報と心拍センサからの心拍数情報に基づき熱ストレインを評価し、その評価に応じて熱中症の警報を発する機器が内蔵されていることを特徴とする耳栓型個人熱中症警報装置である。ここでも鼓膜温センサは、例えば赤外放射温度を検知するサーモパイルであり、外耳道内に臨むように耳栓部の先端に設けられる。
【0014】
心拍センサは、赤外光源と赤外フォトセンサとを外耳道面に対面するように耳栓部の側壁に並置し、外耳道面における反射赤外線を捉える構造とするのが好ましい。あるいは、心拍センサは、赤外光源と赤外フォトセンサとを耳朶を挟むように対向配置し、クリップのようにバネで保持して耳朶における透過赤外線を捉える構造とし、該心拍センサが信号線で本体ケース内の機器に接続されている構成としてもよい。
【0015】
また、本体ケース内に加速度センサを組み込み、作業者の歩行量・作業量を含めた情報を取得可能な構成を付加することもできる。
【0016】
本体ケースにはメモリカード挿入口が設けられ、測定データを記録可能で且つ使用者の個別情報(年齢・暑熱環境への馴化情報など)が記録されたメモリカードが装着可能であって、該メモリカードの挿入によって装置電源が投入され、該メモリカードの抜出によって装置電源が遮断されるスイッチ機能を持たせ、本体ケースの外側には電源スイッチを設けない構成が好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の耳栓型個人熱中症警報装置は、耳栓部と本体ケースとを一体化し、使用者の外耳道と耳介とで保持可能な外観形状をなし、前記耳栓部には深部体温測定用の鼓膜温センサが組み込まれ、前記本体ケースには鼓膜温センサからの情報に基づき熱ストレインを評価し、その評価に応じて警報を発する機器が内蔵されている構成なので、小型化・軽量化できるし、それ自体で使用者個人に向けて熱中症発症の危険性を直接警報することができる。本装置は、基本的に単体で使用されるものであるから、無線通信機能などは不要であり、安価に製造できるし、どのような作業現場でも直ちに対応でき動作の信頼性も高く、維持管理も容易である。
【0018】
本発明装置は、防護服の着用を前提としないため、作業にあたって防護服を着用する必要のある現場での作業員の健康管理のみならず、特に炎天下の屋内外(建設現場など)での作業員の健康管理、あるいは屋外で運動する児童生徒なども使用でき、極めて汎用性に富む。本装置の装着に際しては、耳栓部を外耳道に挿入し、外耳道と耳介とで装置を保持するだけなので、誰でも簡単に使用でき、各種作業を行う際に、あるいは運動を行う際に支障を来す恐れもない。
【0019】
本発明装置は、基本的には使用者個人に対して熱中症の危険性を警報するものであるから、計測したデータを集中管理し監視する安全管理者は不要であり、作業責任者の負担を軽減できるし、システム的にも著しく簡素化できる。また、警報の有無を、本体ケースの外側に設けたLEDなどでも表示するように構成すれば、装置を着用した作業員が意図的に警報を無視したとしても周囲の共同作業者が状況を把握することができるため、第三者による注意・指導が可能となる。これにより迅速に適切な処置対応を図ることができ、安全性の更なる向上が期待できる。
【0020】
また、深部体温測定用の鼓膜温センサの他に心拍数測定用の心拍センサを設ける場合でも、該心拍センサを耳栓部に組み込めば、信号線の引き出しを完全に無くすことができ、単一で完結した構造にできる。なお、心拍センサを耳朶に挟んで測定するような方式としても、信号線の引き回しは耳周辺での最小限で済み、作業や運動の邪魔になるようなことは殆どない。
【0021】
更に、装置内に加速度センサを内蔵させれば、作業者の歩行量・作業量などを含めて作業管理に有用な情報が取得可能となる。これによって、作業現場における個人レベルでの作業性・生産性管理を適切に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係る耳栓型個人熱中症警報装置の外観を図1に示す。本装置は、外耳道に挿入される筒状の耳栓部10と耳介に面して位置する膨出した本体ケース12とが連続一体化した構造である。耳栓部10には深部体温測定用の鼓膜温センサと心拍数測定用の心拍センサが組み込まれ、本体ケース12には鼓膜温センサと心拍センサからの情報を処理して高温環境における熱ストレインを評価し、その評価に応じて警報を発する機器が内蔵されている。本装置は、深部体温と心拍数の変化をモニタリングし、熱中症発症の危険性が認められた時に使用者個人に向けて警報を発する。図1において、符号14はメモリカード挿入口、符号16は警報用のLED、符号18は電池交換口を示している。
【0023】
本装置の装着状況を図2に示す。本装置は、耳栓部10を外耳道に挿入し、本体ケース12を耳介に当接させるような状態で使用するものであり、作業者の外耳道と耳介とによって保持される。なお、耳掛け式のような補助的な装着具を併用するような構成も可能である。
【0024】
鼓膜温センサは、赤外放射温度を検知するサーモパイル(熱電錐)であり、外耳道内に臨むように耳栓部の先端に設ける。深部体温については、一般的には直腸温が測定されるが、直腸温の測定にあたっては肛門から直腸にセンサを挿入する必要があり、作業者に対する精神的・肉体的負担は極めて大きい。本装置では、作業者に対する精神的・肉体的負担を限りなく小さくすることにより、作業員が装置を装着することに対する合意(同意)が得られると共に、深部体温を合理的に測定できる手法として鼓膜温を測定することとしている。なお、鼓膜温は、体温の調節中枢である脳の視床下部を灌流する血流温を最も反映すると言われており、外耳道内に向けたサーモパイルで測定することができる。
【0025】
心拍センサは、赤外光源と赤外フォトセンサとを外耳道面に対面するように耳栓部の側壁に並置し、外耳道面における反射赤外線を捉える構造である。血液は波長900nm付近の光は通過させない。血流は心臓の鼓動により体内を巡っており、赤外線を照射したとき、皮膚の表面から反射した赤外線あるいは皮膚を透過した赤外線の強弱は心臓の鼓動に比例する。そこで、ここでは反射赤外線を検知することで心拍数を測定するように構成している。
【実施例】
【0026】
図3は本発明に係る耳栓型個人熱中症警報装置の一実施例を示す説明図であり、(a)〜(c)は、装置の内部構造を示す(d)のA〜C矢視外観図である。本装置は、外耳道に挿入される円筒状の耳栓部10と耳介に面して位置する二つ割り構造の本体ケース12とが連続一体化し、作業者の外耳道と耳介とで保持可能な外観形状をなしている。機能的に、この状態で完結しており、本装置を耳に差し込むだけで、信号線などを引き回すことなく使用できる。
【0027】
耳栓部10には、深部体温測定用の鼓膜温センサ20と心拍数測定用の心拍センサ22が内蔵されている。ここで、鼓膜温センサ20は、赤外放射温度を検知するサーモパイル(熱電錐)であり、耳栓部10の先端に外耳道内を臨むように組み込まれる。また、心拍センサ22は、赤外LED22aと赤外フォトセンサ22bとの組み合わせからなり、耳栓部の側壁に外耳道面24に対向し、互いにやや内向きに傾くように組み込まれ、外耳道面における反射赤外線を捉える構成である。本実施例では、赤外LED22aから外耳道面24に向けて矢印で示すように赤外線を照射し、外耳道面24からの反射赤外線を赤外フォトセンサ22bで検出する反射赤外線法を用いており、それによって心拍センサ22の耳栓部10内への組み込みを可能にしている。更に、耳栓部10の内部には、鼓膜温センサ用のA/D変換器26と心拍センサ用のA/D変換器28も組み込まれる。
【0028】
本体ケース12には、鼓膜温センサと心拍センサからの情報を処理して高温環境における熱ストレインを評価し、その評価に応じて警報を発する機器が内蔵されている。機器類は、基板30に搭載される。基板の詳細を図4に示す。基板に搭載される機器類は、CPUやRTCなどのIC部品の他、電源となるボタン型電池32、作業者の個別情報を記録し着脱自在のメモリカード34、警報用のLED16、警報用の発音体(スピーカあるいはブザー)36などである。ボタン型電池32は、本体ケース12の外側面の電池交換口18を開閉することで脱着交換可能である。警報用のLED16も、本体ケース12の外側面に位置し、やや突出するように設けられる。メモリカード34は、本体ケース12の側面に開口するメモリカード挿入口14から挿入・抜出可能になっている。ここでは、基板30に加速度センサ38も組み込んである。
【0029】
図5は、回路ブロックを簡略化して示している。鼓膜温センサ20による検出出力は、A/D変換器26でデジタル信号に変換され、CPUを含む情報処理部40に送られる。心拍センサ22からの検出出力も、A/D変換器28でデジタル信号に変換され、情報処理部40に送られる。更に加速度センサ38からの検出出力も、A/D変換器42でデジタル信号に変換され、情報処理部40に送られる。情報処理部40では、鼓膜温センサ20からの情報を基に深部体温を算出し、心拍センサ22から得られる情報を基に心拍数を算出する。これら深部体温と心拍数の変化を常時モニタリングし、各センサからの情報を処理して高温環境における熱ストレインを評価する。なお、熱ストレインの評価に際しては、メモリカード34に記録されている作業者の個別情報(年齢や馴化情報など)も参照される。これらの機器は、ボタン型電池32から供給される電力により駆動される。
【0030】
評価の結果、深部体温・心拍数があらかじめ設定されている閾値を超えた場合、作業員に対して、発音体36から警報音やアナウンス(例えば、「体温が上昇しています。休息・飲水してください。」や「熱中症の危険があります。作業を直ちに中断して下さい。」など)を発生させると共に、警報用のLED16を点滅させ、本人及び周囲の共同作業者等に注意勧告を行う。なお、閾値は、前述したACGIH等による暑熱環境下での作業における管理指標などに基づき適宜決定すればよい。勿論、実際の使用環境なども参考にして必要に応じて修正変更してもよい。
【0031】
警報用のLEDの点滅によって、本人以外の第三者(管理者や周囲の共同作業者)に対しても装置を装着している作業者の熱中症発症の危険性を知らせることができる。深部体温や心拍数、加速度などの情報を、経時的にメモリカード34に記録する。作業終了後、メモリカード34に記録されている情報を基に、作業環境の改善(作業改善前後の比較評価)を行うことができ、また、万が一、熱中症に罹患した場合でも、直前の体温や心拍数といった情報を医療機関に提供することが可能となり、適切な応急処置対応に活用することができる。
【0032】
本実施例では、本体ケースには格別の電源スイッチを設けていない。メモリカード34を挿入したときに自動的に電源が投入され、メモリカード34を抜出したときに電源が遮断するように、該メモリカード34の挿入・抜出が装置のスイッチ機能を果たすように構成している。このようにするとスイッチの誤動作を防止でき、信頼性が向上し、小型化にも寄与する。
【0033】
本装置による処理フローの一例を図6に示す。(a)は開始手順、(b)は深部体温チェック手順、(c)は心拍数チェック手順、(d)は終了手順である。この処理フローでは、深部体温と心拍数のチェックを並行して行うように構成している。
【0034】
(a)開始手順
メモリカードへの使用者情報の入力:予め、作業者毎に、作業者の情報(年齢・暑熱環境への馴化情報など)をメモリカードに入力しておく。
メモリカード挿入(電源投入):メモリカードを装置のカード挿入口に挿入することによって、電源が投入される。
装置初期化・自己診断:メモリカードの使用者情報を読み込み、それを基に装置の初期化が行われ、作業者毎に条件設定を行う。また、電源チェックなど自己診断を行う。電源電圧が規定値以下に低下している場合は、LEDを点滅させ、電池交換を促す。
装置装着:装置の耳栓部を作業者の外耳道に挿入し、装置を外耳道と耳介とによって保持する。
モニタリング開始(作業開始):深部体温と心拍数のモニタリングが開始される。この状態で、作業を開始してよい。
【0035】
(b)深部体温チェック手順
作業開始:
鼓膜温>第1閾値で継続性あり?:鼓膜温の第1閾値は37.5℃(暑熱環境に馴化している作業者に対しては38.0℃)に、継続時間は3分間に設定する。鼓膜温が第1閾値を超え、それが3分間継続するか否かをチェックする。その第1基準に達していない間は作業を継続する。第1基準に達した場合には注意勧告を行う。
注意勧告:作業者本人に対する注意勧告としては、例えば「体温が上昇しています。日陰で休息、もしくは水分を補給しましょう。」などの音声指示、あるいはブザー音を発する。また、周囲の作業者に対する注意勧告として、警報用のLEDがゆっくり点滅する。この注意勧告に基づき、自己判断により、作業を中断するか、あるいは作業を継続する。
作業継続:そのまま作業を継続する。
鼓膜温>第2閾値で継続性あり?:鼓膜温の第2閾値は38.0℃(暑熱環境に馴化している作業者に対しては38.5℃)に、継続時間は3分間に設定する。鼓膜温が第2閾値を超え、それが3分間継続するか否かをチェックする。その第2基準に達していなければ作業を継続する。第2基準に達した場合には警報を発する。
警報:作業者本人に対する警報としては、例えば「体温が著しく上昇しています。直ちに作業を中断して下さい。」などの音声指示、あるいはブザー音を発する。周囲の作業者に対する警報としては、警報用のLEDが激しく点滅する。この警報に基づき、直ちに作業を中断する。
上記のステップで作業を中断した場合、そのまま作業を終了するか、もしくは休息に入る。十分な休息をとった後は、再び作業開始のステップに戻ることになる。
【0036】
(c)心拍数チェック手順
作業開始:
心拍数>第1閾値で継続性あり?:心拍数の第1閾値は(180−年齢)×0.9に、継続時間は3分間に設定する。心拍数が第1閾値を超え、それが3分間継続するか否かをチェックする。その第1基準に達していなければ作業を継続する。第1基準に達した場合には注意勧告を行う。
注意勧告:作業者本人に対する注意勧告としては、例えば「心拍数が上昇しています。日陰で休息、もしくは水分を補給しましょう。」などの音声指示、あるいはブザー音を発する。周囲の作業者に対する注意勧告として、警報用のLEDがゆっくり点滅する。この注意勧告に基づき、自己判断により、作業を中断するか、あるいは作業を継続する。
作業継続:そのまま作業を継続する。
心拍数>第2閾値で継続性あり?:心拍数の第2閾値は(180−年齢)に、継続時間は3分間に設定する。心拍数が第2閾値を超え、それが3分間継続するか否かをチェックする。その第2基準に達していなければ作業を継続する。第2基準に達した場合には警報を発する。
警報:作業者本人に対する警報としては、例えば「心拍数が著しく上昇しています。直ちに作業を中断して下さい。」などの音声指示、あるいはブザー音を発する。周囲の作業者に対する警報として、警報用のLEDが激しく点滅する。この警報に基づき、直ちに作業を中断する。
上記のステップで作業を中断した場合、そのまま作業を終了するか、もしくは休息に入る。十分な休息をとった後は、再び作業開始のステップに戻ることになる。
【0037】
(d)終了手順
作業終了:
装置取り外し:装置を作業者の耳から取り外す。深部体温と心拍数のモニタリングが終了する。
メモリカード抜出(電源遮断):装置からメモリカードを抜き出す。これによって電源が遮断される。
作業評価:作業終了後にメモリカードに記録された作業者の深部体温及び心拍数等の情報を吸い上げ、コンピュータによりその経時変化を見ることによって作業内容、作業方法及び作業環境等の課題を事後評価することが可能となる。更に、作業内容、作業方法及び作業環境等の改善前後の効果を定量的に評価することもできる。また、加速度センサを内蔵している場合には、加速度データにより作業内容・作業強度なども同時に評価できる。
【0038】
以上、本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明はかかる構成のみに限定されるものではない。上記実施例のように加速度センサを組み込むと、該加速度センサにより得られた情報は、主として作業管理のために用いることができる。更に、装置内に更に無線ユニットやGPSを組み込むと、熱中症あるいはその他の疾患により倒れてしまい動作が一定時間検知できない場合に、装置から集中管理システム側に異常通知を行うように構成でき、それによって作業者の異常を早期に第三者が検知できるような応用も可能である(誰が何処で動けなくなっているのかを第三者が迅速に検知することができる)。
【0039】
深部体温チェック手順における鼓膜温の判断基準(閾値や継続時間)の設定、及び心拍数チェック手順における心拍数の判断基準(閾値や継続時間)の設定は、上記の値に限られるものではなく、実験的にあるいは経験的に求められた管理指標に基づいて、または実際の作業環境に基づいて、適宜設定してもよい。また、注意勧告と警報の2段階としているが、警報のみの1段階でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る耳栓型個人熱中症警報装置の外観図。
【図2】その装着状況を示す説明図。
【図3】本発明に係る耳栓型個人熱中症警報装置の一実施例を示す説明図。
【図4】それに用いる基板の説明図。
【図5】その装置の簡略化した回路ブロック図。
【図6】その装置の処理フローを示す図。
【符号の説明】
【0041】
10 耳栓部
12 本体ケース
14 メモリカード挿入口
16 警報用のLED
18 電池交換口
20 鼓膜温センサ
22 心拍センサ
30 基板
32 ボタン型電池
34 メモリカード
36 警報用の発音体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも使用者の深部体温の変化をモニタリングすることにより使用者個人に向けて熱中症発症の危険性を警報する熱中症警報装置であって、
外耳道に挿入される耳栓部と耳介に面して位置する本体ケースとが一体化され、使用者の外耳道と耳介とで保持可能な外観形状をなし、前記耳栓部には深部体温測定用の鼓膜温センサが組み込まれ、前記本体ケースには、該鼓膜温センサからの深部体温情報に基づき熱ストレインを評価し、その評価に応じて熱中症の警報を発する機器が内蔵されていることを特徴とする耳栓型個人熱中症警報装置。
【請求項2】
鼓膜温センサは、赤外放射温度を検知するサーモパイルであり、外耳道内に臨むように耳栓部の先端に設けられている請求項1記載の耳栓型個人熱中症警報装置。
【請求項3】
深部体温測定用の鼓膜温センサの他に心拍数測定用の心拍センサを備え、本体ケースには、鼓膜温センサからの深部体温情報と心拍センサからの心拍数情報に基づき熱ストレインを評価し、その評価に応じて熱中症の警報を発する機器が内蔵され、使用者の深部体温と心拍数の変化をモニタリングする請求項1記載の耳栓型個人熱中症警報装置。
【請求項4】
鼓膜温センサは、赤外放射温度を検知するサーモパイルであり、外耳道内に臨むように耳栓部の先端に設けられており、心拍センサは、赤外光源と赤外フォトセンサとを外耳道面に対面するように耳栓部の側壁に並置し、外耳道面における反射赤外線を捉える構造である請求項3記載の耳栓型個人熱中症警報装置。
【請求項5】
鼓膜温センサは、赤外放射温度を検知するサーモパイルであり、外耳道内に臨むように耳栓部の先端に設けられており、心拍センサは、赤外光源と赤外フォトセンサとを耳朶を挟むように対向配置し、耳朶における透過赤外線を捉える構造であり、該心拍センサが信号線で本体ケース内の機器に接続されている請求項3記載の耳栓型個人熱中症警報装置。
【請求項6】
本体ケース内に加速度センサを組み込み、作業者の歩行量・作業量を含めた情報を取得可能とした請求項1乃至5のいずれかに記載の耳栓型個人熱中症警報装置。
【請求項7】
本体ケースにはメモリカード挿入口が設けられ、測定データを記録可能で且つ使用者の個別情報が記録されたメモリカードが装着可能であって、該メモリカードの挿入によって装置電源が投入され、該メモリカードの抜出によって装置電源が遮断されるスイッチ機能を有している請求項1乃至6のいずれかに記載の耳栓型個人熱中症警報装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−131209(P2010−131209A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310160(P2008−310160)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(501489465)ワイマチック株式会社 (8)
【出願人】(000153100)株式会社日本環境調査研究所 (30)
【Fターム(参考)】