説明

肌特徴判別システム、肌特徴判別方法及び肌特徴判別プログラム

【課題】一般化された特徴量に基づいて比較的容易に被験者の人体的な特徴判別を行うことが可能であって、正確にフラクタル次元を算出し、かつ、その結果、被験者の年齢(肌年齢)、性別及び肌の異常状態の有無など被験者の人体的な特徴判別を的確に行うことができる肌特徴判別システム及び肌特徴判別方法を提供すること。
【解決手段】肌特徴判別システムSは、被験者の肌領域Aの画像におけるフラクタル次元を算出することによって比較的容易に肌の特徴を定量的な特徴量として抽出することができるとともに、取得した被験者の肌領域Aにおける複数の原画像と当該原画像を分割した分割画像を用いて統計的な処理を行って肌画像上に存在するアーチファクトの影響を排除するための演算を行うようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌画像を用いて年齢又は性別などの被験者の人体的な特徴を判別する肌特徴判別システム及び肌特徴判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セキュリティの観点から被験者の人体的な特徴を定量化し、被験者の人体的な特徴の判別及び人体の識別を行うための方法又はシステムは種々提案されており、例えば、指紋、声紋、角膜又は静脈などの人体に関する固有の情報(以下、単に「固有情報」という。)を取得し、当該取得した固有情報に基づく個人認証システムが実用化されている。このような個人認証システムは、個々人をその他の人間と識別することができる高いセキュリティ能力を発揮する一方で、個々人の固有情報を予め登録しなければならず、かつ、当該固有情報を簡易な装置又は方法によって登録することが難しいとともにその登録された情報に関しても厳重な管理が求められている。
【0003】
一方、近年の美容への関心が高まる中で、人体の皮膚の表面画像を用いた肌診断システムが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、肌診断に関しては、肌年齢又は肌の状態との相関が高いため、比較的容易に測定できる特徴量が確立していない。
【0004】
このような状況において、発明者らは、セキュリティの分野又は医療及び美容の分野において利用可能であって、個人の固有情報を予め登録することなく、一般化された特徴量に基づいて比較的容易に被験者の人体的な特徴判別を行うことが可能な装置(以下、「肌特徴判別システム」という。)を発明した。
【0005】
この肌特徴判別システムは、被験者の複数の肌画像に基づいてフラクタル次元を算出し、算出されたフラクタル次元と標準的なフラクタル次元とを比較し、比較結果に基づいて被験者の年齢(肌年齢)又は性別を推定するようになっている(特許文献1)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】竹前嘉修,斎藤英雄,小沢慎治:“皮膚表面画像を用いた肌診断システム”,計測自動制御学会論文集,Vol.37,No.11,pp.1097−1103(2001)
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−50158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の肌特徴判別システムにあっては、ボックスカウンティング法を用いて肌画像に基づくフラクタル次元を算出しており、被験者の年齢(肌年齢)を的確に推定することができない場合がある。すなわち、この肌特徴判別システムにあっては、算出の基礎となる肌画像において、撮像部分の体毛又はゴミその他に起因する肌画像上に存在するアーチファクトが多くなると、的確にフラクタル次元を算出することが難しくなり、推定された被験者の年齢(肌年齢)又は性別が実際のものと乖離する場合もある。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、その目的は、フラクタル次元という一般化された特徴量に基づいて比較的容易に被験者の人体的な特徴判別を行うことが可能であって、当該フラクタル次元を的確に算出し、かつ、その結果、被験者の年齢(肌年齢)、性別及び肌の異常状態の有無など被験者の人体的な特徴判別を正確に行うことができる肌特徴判別システム、肌特徴判別方法及び肌特徴判別プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記課題を解決するため、本発明は、被験者の肌における所定領域の複数の画像を肌画像データとして取得する取得手段と、前記取得した肌画像データによって形成される各原画像の画像領域を複数に分割し、複数の部分画像から形成される分割画像を生成する分割手段と、前記各原画像及び前記各部分画像のフラクタル次元をそれぞれ算出するフラクタル次元算出手段と、演算に用いる原画像のデータ数を変化させ、当該データ数毎に、前記算出された各原画像におけるフラクタル次元に基づいて、前記原画像におけるフラクタル次元の代表値を第1代表値として算出する第1代表値算出手段と、演算に用いる分割画像のデータ数を変化させ、当該データ数毎に、前記分割数毎の前記算出された各部分画像におけるフラクタル次元に基づいて前記分割画像におけるフラクタル次元の代表値を第2代表値として算出する第2代表値算出手段と、前記算出された各第1代表値と前記算出された前記分割数毎の各第2代表値に基づいて、前記データ数及び第1代表値を変数とした第1関数と前記データ数及び第2代表値を変数とした前記分割数毎の各第2関数を算出する関数算出手段と、前記算出された第1関数及び前記各第2関数に基づいて定まる一のフラクタル次元を特定値として特定する特定手段と、基準値としての標準的な人体の特徴を示す所定のフラクタル次元が予め記憶されたデータベースと、前記特定された特定値と前記基準値を比較する比較手段と、前記比較した結果に基づいて前記肌画像データを取得した被験者の人体的な特徴を判別する判別手段と、を備える構成を有している。
【0011】
通常、被験者の肌においては、その特性上、所定の領域の一部分とその全体の領域について自己相似性を有している。また、フラクタル次元の概念を用いることによって、すなわち、所定の領域の形状におけるフラクタル次元を算出することによって特徴的な長さを持たないような形状(図形)であっても、自己相似性を有する形状(図形)にあっては、定量的にその特徴量を解析することが可能である。一方、被験者の肌の所定領域をフラクタル次元によって画像解析をする場合においては、体毛、皮脂又は付着したゴミその他に起因するアーチファクトによって的確にフラクタル次元を算出することが難しい。
【0012】
したがって、上述の構成により、本発明は、被験者の肌の所定領域の画像におけるフラクタル次元を算出することによって当該被験者の肌の特徴を定量的な特徴量として抽出して特徴判別を行う場合に、取得した被験者の肌における複数の原画像と当該原画像を分割した分割画像を用いて統計的に肌画像上に存在するアーチファクトの影響を排除しつつ、肌画像のフラクタル次元を算出することができるので、被験者の年齢(肌年齢)、性別及び肌の異常状態の有無など肌画像に基づく被験者の人体的な特徴判別を的確に行うことができる。
【0013】
(2)また、本発明においては、前記判別手段が、前記比較した結果に基づいて年齢または性別の少なくともいずれか一方の前記肌画像データを取得した被験者の人体的な特徴を判別する構成を有するのが好ましい。
【0014】
この構成により、本発明は、複数の原画像とそれを分割した分割画像を用いて統計的に画像上に生じるアーチファクトの影響を排除しつつ、肌画像のフラクタル次元を的確に算出することができるので、被験者の年齢(肌年齢)及び性別を正確に判別することができる。
【0015】
(3)また、本発明においては、前記判別手段が、前記比較した結果に基づいて前記肌画像データを取得した被験者の人体的な特徴として前記肌の正常状態の有無を判別する構成を有するのが好ましい。
【0016】
この構成により、本発明は、複数の原画像とそれを分割した分割画像を用いて統計的に画像上に生じるアーチファクトの影響を排除しつつ、肌画像のフラクタル次元を的確に算出することができるので、肌の異常状態の有無を正確に判別することができる。
【0017】
(4)また、本発明においては、前記分割手段が、分割に用いる分割領域の大きさを変化させた異なる分割数によって前記各原画像を複数に分割した複数の分割画像を生成する構成を有するのが好ましい。
【0018】
アーチファクトが原画像上に存在する場合に、分割数を変化させると分割数が多くなるに従ってアーチファクトの影響がない部分画像も出現することになる。また、当然にアーチファクトの影響がない画像のフラクタル次元は、被験者の肌の特徴量を的確に示すことになる。
【0019】
したがって、本発明は、上記構成により、複数の原画像とそれを分割した分割画像を用いることによってアーチファクトを排除し、的確な被験者の肌におけるフラクタル次元を算出することができる。
【0020】
(5)また、本発明においては、前記取得手段が、異なる肌領域の複数の肌画像を肌画像データとして取得する構成を有するのが好ましい。
【0021】
この構成により、本発明は、種々の肌領域におけるフラクタル次元を算出することができるので、各肌領域における固有のアーチファクトの影響を排除することができるとともに、被験者の肌におけるフラクタル次元を的確に算出することができる。
【0022】
(6)また、本発明においては、前記取得手段が、同一の肌領域の複数の肌画像を肌画像データとして取得する構成を有するのが好ましい。
【0023】
この構成により、本発明は、肌領域に存在する時間的な変化を伴うアーチファクト又は撮像時に発生したアーチファクトの影響を排除することができるので、されたフラクタル次元を算出することができるので、被験者の肌におけるフラクタル次元を的確に算出することができる。
【0024】
(7)また、本発明においては、前記フラクタル次元算出手段が、前記原画像領域内及び前記分割画像領域内の形状及びグレースケールに基づいて前記各原画像及び前記各部分画像のフラクタル次元をそれぞれ算出する構成を有するのが好ましい。
【0025】
この構成により、本発明は、原画像領域内及び分割画像領域内の形状及びグレースケールを用いた3次元解析を行うことによってフラクタル次元を算出することができるので、各原画像及び各部分画像のフラクタル次元の算出精度を向上させることができる。
【0026】
(8)また、本発明においては、前記フラクタル次元算出手段が、前記パワースペクトル法によって前記各原画像及び前記各部分画像のフラクタル次元をそれぞれ算出する構成を有するのが好ましい。
【0027】
この構成により、本発明は、原画像領域内及び分割画像領域内の形状及びグレースケールの3次元解析を単純な公式を使用して演算負荷を小さくすることができるので、各原画像及び各部分画像におけるフラクタル次元を的確にかつ高速にそれぞれ算出することができる。
【0028】
(9)また、本発明においては、前記被験者の肌における所定の領域を撮像する撮像手段を更に備え、前記取得手段が、撮像された所定の領域の画像を肌画像データとして取得する構成を有するのが好ましい。
【0029】
この構成により、本発明は、撮像手段を有しているので、肌画像の取得から人体特徴を判別するまで一体型の装置によって各処理を行うことができるので、他の装置との接続などの複雑な操作を行うことなく、被験者の年齢(肌年齢)、性別及び肌の異常状態の有無など被験者の人体的な特徴判別を的確に行うことができる。
【0030】
(10)また、本発明においては、前記データベースと公衆網回線を介して接続される通信手段を更に備え、前記データベースが、肌特徴判別システムが使用される場所と異なる場所に固定設置されている構成を有するのが好ましい。
【0031】
この構成より、本発明は、被験者の画像データを取得する場所から遠隔に固定設置されたデータベースを用いて被験者の人体的な特徴判別を行うことができるので、基準値を他の肌特徴判別システムと共有することができるとともに、データベースにある基準値のみ更新すれば複数の肌特徴判別システムにおいて最新のデータを各特徴判別装置に提供することができる。したがって、本発明は、簡易にかつ低コストによって実現することができる。
【0032】
(11)上記課題を解決するため、本発明は、被験者の肌における所定領域の複数の画像を肌画像データとして取得する取得工程と、前記取得した肌画像データによって形成される各原画像の画像領域を複数に分割し、複数の部分画像から形成される分割画像を生成する分割工程と、前記各原画像及び前記各部分画像のフラクタル次元をそれぞれ算出するフラクタル次元算出工程と、演算に用いる原画像のデータ数を変化させ、当該データ数毎に、前記算出された各原画像におけるフラクタル次元に基づいて、前記原画像におけるフラクタル次元の代表値を第1代表値として算出する第1代表値算出工程と、演算に用いる分割画像のデータ数を変化させ、当該データ数毎に、前記分割数毎の前記算出された各部分画像におけるフラクタル次元に基づいて前記分割画像におけるフラクタル次元の代表値を第2代表値として算出する第2代表値算出工程と、前記算出された各第1代表値と前記算出された前記分割数毎の各第2代表値に基づいて、前記データ数及び第1代表値を変数とした第1関数と前記データ数及び第2代表値を変数とした前記分割数毎の各第2関数を算出する関数算出工程と、前記算出された第1関数及び前記各第2関数に基づいて定まる一のフラクタル次元を特定値として特定する特定工程と、前記特定された特定値と予め記憶された基準値としてのフラクタル次元とを比較する比較工程と、前記比較した結果に基づいて前記肌画像データを取得した被験者の人体的な特徴を判別する判別工程と、を含む構成を有している。
【0033】
この構成により、本発明は、被験者の肌の所定領域の画像におけるフラクタル次元を算出することによって当該被験者の肌の特徴を定量的な特徴量として抽出して特徴判別を行う場合に、取得した被験者の肌における複数の原画像と当該原画像を分割した分割画像を用いて統計的に肌画像上に存在するアーチファクトの影響を排除しつつ、肌画像のフラクタル次元を算出することができるので、被験者の年齢(肌年齢)、性別及び肌の異常状態の有無など肌画像に基づく被験者の人体的な特徴判別を的確に行うことができる。
【0034】
(12)上記課題を解決するため、本発明は、コンピュータが、被験者の肌における所定領域を撮像することによって得られた複数の画像を肌画像データに基づいて当該被験者の人体的な特徴を判別する判別プログラムであって、前記コンピュータを、前記取得した肌画像データによって形成される各原画像の画像領域を複数に分割し、複数の部分画像から形成される分割画像を生成する分割手段、前記各原画像及び前記各部分画像のフラクタル次元をそれぞれ算出するフラクタル次元算出手段、演算に用いる原画像のデータ数を変化させ、当該データ数毎に、前記算出された各原画像におけるフラクタル次元に基づいて、前記原画像におけるフラクタル次元の代表値を第1代表値として算出する第1代表値算出手段、演算に用いる分割画像のデータ数を変化させ、当該データ数毎に、前記分割数毎の前記算出された各部分画像におけるフラクタル次元に基づいて前記分割画像におけるフラクタル次元の代表値を第2代表値として算出する第2代表値算出手段、前記算出された各第1代表値と前記算出された前記分割数毎の各第2代表値に基づいて、前記データ数及び第1代表値を変数とした第1関数と前記データ数及び第2代表値を変数とした前記分割数毎の各第2関数を算出する関数算出手段、前記算出された第1関数及び前記各第2関数に基づいて定まる一のフラクタル次元を特定値として特定する特定手段、前記特定された特定値と予め記憶された基準値としてのフラクタル次元とを比較する比較手段、前記比較した結果に基づいて前記肌画像データを取得した被験者の人体的な特徴を判別する判別手段、として機能させる構成を有している。
【0035】
この構成により、本発明は、被験者の肌の所定領域の画像におけるフラクタル次元を算出することによって当該被験者の肌の特徴を定量的な特徴量として抽出して特徴判別を行う場合に、取得した被験者の肌における複数の原画像と当該原画像を分割した分割画像を用いて統計的に肌画像上に存在するアーチファクトの影響を排除しつつ、肌画像のフラクタル次元を算出することができるので、被験者の年齢(肌年齢)、性別及び肌の異常状態の有無など肌画像に基づく被験者の人体的な特徴判別を的確に行うことができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明は、被験者の肌の所定領域の画像におけるフラクタル次元を算出することによって当該被験者の肌の特徴を定量的な特徴量として抽出して特徴判別を行う場合に、取得した被験者の肌における複数の原画像と当該原画像を分割した分割画像を用いて統計的に肌画像上に存在するアーチファクトの影響を排除しつつ、肌画像のフラクタル次元を算出することができるので、被験者の年齢(肌年齢)、性別及び肌の異常状態の有無など肌画像に基づく被験者の人体的な特徴判別を的確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る肌診断装置の第1実施形態における構成を示すブロック図である。
【図2】被験者の人体的な特徴を判別する際に用いる肌画像(原画像)の例である。
【図3】第1実施形態のデータベースに記憶されている基準値としての標準的なフラクタル次元の一覧の例である。
【図4】第1実施形態における分割画像の一例である。
【図5】第1実施形態における八分割画像における各部分画像の算出されたフラクタル次元の一覧を示す例である。
【図6】第1実施形態における代表値の算出を説明するための図である。
【図7】第1実施形態における特定値の算出を説明するための図である。
【図8】第1実施形態のフラクタル次元を演算する演算処理を含む被験者の年齢及び性別又は性別のみを判定する判定処理を示すフローチャートである。
【図9】第1実施形態におけるフラクタル次元を演算する演算処理を含む肌異常の有無を判定する判定処理を示すフローチャートである。
【図10】本発明に係る肌診断装置の第2実施形態における構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、被験者の肌の画像に基づいて当該被験者の人体的な特徴を判別する肌診断装置について本発明の肌特徴判別システム、肌特徴判別方法及び肌特徴判別プログラムを適用したものである。
【0039】
[第1実施形態]
はじめに、図1〜図9の各図を用いて本発明に係る肌特徴判別システムSの第1実施形態について説明する。
【0040】
(システム構成)
まず、図1〜図3の各図を用いて本実施形態の肌特徴判別システムSの構成について説明する。なお、図1は、本実施形態における肌特徴判別システムSの構成を示すブロック図であり、図2は、被験者の人体的な特徴を判別する際に用いる肌画像(原画像)の例である。図3は、本実施形態のデータベース200に記憶されている基準値としての標準的なフラクタル次元の一例である。
【0041】
本実施形態の肌特徴判別システムSは、図1に示すように、被験者の肌の所定領域(以下、「肌領域」ともいう。)Aを撮像する撮像カメラ装置100と、被験者の人体的な特徴を判別する際に用いるデータ(後述する基準値としてのフラクタル次元)が記憶されているデータベース200と、撮像カメラ装置100によって撮像された肌領域Aの画像データ(以下、「肌画像データ」という。)におけるフラクタル次元を算出し、当該算出されたフラクタル次元に基づいて被験者の年齢(肌年齢)、性別及び肌の異常状態の有無など被験者の人体的な特徴を判別する判別装置300と、判別装置300によって判別された判別結果を表示する表示装置400と、撮像カメラ装置100その他の操作を行う操作部500と、から構成される。
【0042】
この肌特徴判別システムSは、特徴的な長さを持たない図形、現象又は状態の「複雑さ」を定量的に表せる数値的な指標を示すフラクタル次元を、各肌画像データによって形成される画像から算出し、当該算出されたフラクタル次元を標準的な値、すなわち、基準値となる標準的なフラクタル次元と比較することによって被験者の年齢(肌年齢)、性別及び肌の異常状態の有無など被験者の人体的な特徴を判別するようになっている。
【0043】
通常、被験者などの人間の肌においては、予め定められた領域内の一部分に形成される形状とその領域全体によって形成される形状ついては相似となる自己相似性という特性を有している。また、フラクタル次元の概念を用いることによって、すなわち、フラクタル次元を算出することによって特徴的な長さを持たないような図形であっても、自己相似性を有する図形にあっては、定量的にその特徴量を解析することが可能である。一方、被験者の肌をフラクタル次元によって画像解析する場合においては、体毛、皮脂又は付着したゴミその他に起因するアーチファクトによって正確にフラクタル次元を算出することが難しい。すなわち、例えば、図2(a)に示すように撮像されたアーチファクトがない肌画像が理想ではあるが、このような肌画像を得られることが少なく、通常は、図2(b)に示すような体毛Hなどによって画像内の自己相似性が乱されるので、正確にフラクタル次元を算出することが難しい。
【0044】
そこで、本実施形態の肌特徴判別システムSは、被験者の肌領域Aの画像におけるフラクタル次元を算出することによって比較的容易に肌の特徴を定量的な特徴量として抽出することができるとともに、取得した被験者の肌領域Aにおける複数の原画像と当該原画像を分割した分割画像を用いて統計的な処理を行って肌画像上に存在するアーチファクトの影響を排除するための演算を行うようになっている。したがって、本実施形態の肌特徴判別システムSは、肌画像のフラクタル次元を的確に特定することができるので、被験者の年齢(肌年齢)、性別及び肌の異常状態の有無など肌画像に基づく被験者の人体的な特徴判別を的確に行うことができるようになっている。
【0045】
具体的には、本実施形態の撮像カメラ装置100は、CCD(Charge Coupled Device Image Sensor)などの所定の撮像素子を有し、可動可能にまたは固定されて設置され、被験者の所定の部位の肌における所定の領域を複数回撮像するために用いられる。また、この撮像カメラ装置100は、ズーム、ピント及び撮像位置の調整並びに撮像回数など判別装置300によって駆動制御され、撮像した肌画像を所定の形式の肌画像データに変換して判別装置300に出力するようになっている。特に、撮像カメラ装置100は、同一の肌領域Aを複数回撮像し又は異なる部位の異なる肌領域Aを複数回撮像し、当該撮像したそれぞれの肌画像を肌画像データとして判別装置300に出力するようになっている。
【0046】
本実施形態のデータベース200には、基準値としての標準的な人体Pの特徴を示す所定のフラクタル次元が予め記憶されている。具体的には、このデータベース200には、被験者の年齢が判定対象の際に用いる各年代別かつ男女別の標準的なフラクタル次元、被験者の性別が判定対象の際に用いる年代に関係なく男性及び女性の標準的なフラクタル次元、並びに、被験者の肌の異常状態の有無が判定対象の際に用いる標準的なフラクタル次元が記憶されている。例えば、このデータベース200には、図3に示すように、20代から40代までの男性及び女性における基準値としての標準的なフラクタル次元が記憶されている。
【0047】
なお、データベース200に記憶されている基準値においては、図3に示すように、予め定められた範囲についても記憶されており、特定値Xが当該範囲内に属すれば、当該範囲を示す年代及び性別であると判定されるようになっている。また、男性又は女性の性別のみを判別する際に用いる基準値としてのフラクタル次元としては、例えば、男性「1.3408±0.11」及び女性「1.4758±0.18」のフラクタル次元がデータベース200に記憶されている。本実施形態において、これらのデータベース200に記憶される基準値としてのフラクタル次元は、予め実験その他の方法において求められた値を用いるようになっている。
【0048】
本実施形態の判別装置300は、主に中央演算処理装置(CPU)によって構成されており、肌特徴判別システムSの全般的な機能を総括的に制御するようになっている。特に、この判別装置300は、撮像カメラ装置100を制御するとともに、撮像カメラ装置100から出力された肌画像データを受信するようになっている。そして、この判別装置300は、入力された複数の肌画像データによって形成される各画像(以下、「原画像」という。)のフラクタル次元及び当該原画像を所定領域に分割した複数の部分画像から構成される分割画像のそれぞれの画像についてフラクタル次元を算出するようになっている。また、この判別装置300は、当該算出されたフラクタル次元と、データベース200に予め記憶された判別すべき被験者の人体的な特徴を示す基準値としてのフラクタル次元とを比較し、その比較結果に基づいて被験者の人体的な特徴を判別するようになっている。
【0049】
具体的には、この判別装置300は、図1に示すように、撮像された肌画像データに対して所定の処理を行う入力インターフェース310と、各肌画像データによって形成される原画像の分割を行う分割処理部320と、複数の原画像及び原画像が分割された画像における各フラクタル次元を算出して被験者におけるフラクタル次元を特定するフラクタル次元演算部330と、標準的な基準値としてのフラクタル次元と比較して被験者の人体的な特徴を判定する比較判定部340と、を有している。
【0050】
さらに、この判別装置300は、操作部500の操作に基づいて撮像カメラ装置100を制御するカメラ制御部350と、表示装置400を制御する表示制御部360と、被験者におけるフラクタル次元を演算する演算処理、被験者の人体的な特徴を判定する判定処理及びその他の制御処理によって各部を制御する統括制御部370と、所定のデータが記憶されるROM/RAM380と、から構成されている。なお、本実施形態の判別装置300の各部の動作の詳細については後述する。
【0051】
本実施形態の表示装置400は、CRT(Cathode Ray Tube)液晶素子またはEL(Electro Luminescence)素子によって構成される。この表示装置400は、判別装置300の制御によって、具体的には、表示制御部360にて生成された表示データに基づいて所定の画像を表示するようになっている。例えば、この表示装置400は、撮像カメラ装置100の操作に関する表示、撮像される肌画像、撮像された肌画像データ、被験者の年齢(肌年齢)、性別及び肌の異常状態の有無など被験者における人体的な特徴の判別結果など判別装置300が上記動作を行う上で必要な所定の画像を表示するようになっている。
【0052】
本実施形態の操作部500は、各操作指令を入力する操作ボタン、テンキーおよびその他の数字キーなど、多数のキーにより構成されている。この操作部500は、判定処理の種別の決定、カメラ制御部350を介して撮像カメラ装置100の操作、人体的な特徴を表示装置400に表示させるための操作及びその他の入力操作を行う際に用いられるようになっている。
【0053】
(判別装置)
次に、上述した図1及び図4を用いて本実施形態の判別装置300の各部の詳細について説明する。なお、図4は、本実施形態における分割画像の一例である。
【0054】
判別装置300は、上述のように、図1に示すように、入力インターフェース310と、分割処理部320と、フラクタル次元演算部330と、比較判定部340と、表示制御部360と、カメラ制御部350と、ROM/RAM380と、統括制御部370と、から構成されている。
【0055】
入力インターフェース310は、撮像カメラ装置100から出力された複数の肌画像データを受信し、受信したそれぞれの肌画像データに対して所定の処理を実行するようになっている。例えば、この入力インターフェース310は、受信した肌画像データに対してデータ名の付与、撮像日時、撮像順、データ形式の変換、画像の拡大、縮小又は回転などの加工及びその他のフラクタル次元を算出するために必要な処理を統括制御部370の制御下に選択的にかつ自動的に実行するようになっている。
【0056】
分割処理部320は、入力インターフェース310によって所定の処理が為された各肌画像データによって形成される肌画像(原画像)の画像領域を、均等にn個の画像領域(以下、「部分画像領域」)に分割するようになっている。また、この分割処理部320は、複数の部分画像領域(すなわち、部分画像)から形成される画像(以下、「分割画像」という。)を、それぞれの原画像毎に分割する数を変化させて(例えば、分割数を2から8まで変化させて)生成するようになっている。すなわち、この分割処理部320は、原画像毎に、各原画像の画像領域が均等に二分割、三分割、四分割、....及びn分割された各分割画像(nは整数)それぞれを生成するようになっている。例えば、本実施形態の分割処理部320は、二分割から八分割の各分割画像を生成するようになっており、具体的には、八分割画像を生成する場合には、分割処理部320は、図2(b)に示す一の画像を図4に示すように所定の領域毎に均等八分割するようになっている。
【0057】
フラクタル次元演算部330は、例えば、パワースペクトル法を用いて各原画像のフラクタル次元及び各分割画像を構成する各部分画像のフラクタル次元をそれぞれ算出するようになっている。そして、このフラクタル次元演算部330は、予め定められた演算処理によって画像数(すなわちデータ数)を変化させてデータ数毎にかつ分割数毎に(原画像を分割数1として)原画像及び各分割画像におけるフラクタル次元を算出し、当該算出されたデータ数及び分割数毎のフラクタル次元(以下、「代表値」という。)Vに基づいて定まる一のフラクタル次元を特定値Xとして特定するようになっている。
なお、本実施形態におけるフラクタル次元演算部330のフラクタル次元の演算の詳細については後述する。
【0058】
比較判定部340は、被験者の年齢の判定(以下、単に「年齢判定」という。)又は被験者の性別の判定(以下、単に「性別判定」という。)の何れかの判定処理が実行される際に、該当するフラクタル次元(基準値)をデータベース200から読み出すようになっている。また、この比較判定部340は、読み出した複数の又は一のフラクタル次元(基準値)と、演算部によって演算されたフラクタル次元の特定値Xと、を比較し、特定値Xが読み出した基準値を中心とした所定の範囲内に含まれる場合に、その基準値が有する特徴、すなわち、その基準値が属する年代及び性別又は性別のみを判定結果とし判別するようになっている。そして、この比較判定部340は、判別した判定結果を、表示制御部360を介して表示装置400に出力するようになっている。
【0059】
一方、この比較判定部340は、被験者の肌の異常状態の有無の判定(以下、単に「肌異常判定」という。)を行う場合には、予め操作部500を介して入力された被験者の年齢及び性別に一致するフラクタル次元をデータベース200から読み出して特定値Xと比較し、特定値Xが基準値の50%未満または150%以上の場合には、肌に異常があると判定し、特定値が基準値の50%以上であって150%以下の場合には、肌に異常がないと判定するようになっている。そして、この比較判定部340は、この肌異常判定についても、その判定した判定結果を、表示制御部360を介して表示装置400に出力するようになっている。
【0060】
なお、本実施形態の比較判定部340は、上記の判定方法に限らず、例えば、特定値Xが基準値を中心としてデータベース200に予め記憶された範囲内(例えば、20代男性であれば、13408±0.11)であるか範囲外であるか判定し、この範囲外の場合には、肌に異常があると判定し、当該範囲内の場合には、肌に異常がないと判定するようにしてもよい。
【0061】
カメラ制御部350は、操作部500の入力操作に従って撮像カメラ装置100を制御するようになっている。例えば、このカメラ制御部350は、上述したように、操作部500の入力操作に従って撮像カメラ装置100が被験者の所定の部位の肌を撮像する際に、ズーム調整、ピント調整、撮像位置の調整及び撮像回数の設定などの各種の動作を制御するようになっている。
【0062】
表示制御部360は、統括制御部370の下、撮像カメラ装置100の操作に関する表示、撮像された肌画像、当該撮像された肌画像データに関する所定の画像、人体的な特徴の判別結果など判別装置300が上記動作を行う上で必要な所定の画像を表示装置400に表示するための表示データを生成するようになっている。
【0063】
統括制御部370は、バスBによって各部と接続されており、上記の各フラクタル次元を算出する演算処理を含む被験者の人体的な特徴を判定する判定処理及び各種の制御処理によって各部を制御し、肌特徴判別システムSを機能的に動作させる。
【0064】
ROM/RAM380には、上記の演算処理を実行する各種のプログラム、上記の判定処理を実行するプログラム及び各種の制御プログラムが記憶されるとともに、各種のプログラムの動作中に所定のデータを一時的に保持される。
【0065】
(フラクタル次元演算部)
次に、図5〜図7の各図を用いて本実施形態のフラクタル次元演算部330の詳細について説明する。なお、図5は、第1実施形態における八分割画像における各部分画像の算出されたフラクタル次元の一覧を示す例であり、図6は、本実施形態における代表値Vの算出を説明するための図である。また、図7は、本実施形態における特定値Xの算出を説明するための図である。
【0066】
本実施形態のフラクタル次元演算部330は、上述したようにパワースペクトル法をフラクタル次元の算出方法として用いている。通常、パワースペクトル法を画像について適用する場合に、対象となる2次元平面の画像について2次元フーリエ変換を行い、パワースペクトルS(f)を求めると、このスペクトルS(f)は、フーリエ変換して求められた結果の絶対値の2乗となる。そして、このスペクトルS(f)が累乗の形になっている場合には、その累乗の指数(β)とフラクタル次元(D)は、(式1)の関係が成立する。
【0067】
【数1】

【0068】
したがって、本実施形態のフラクタル次元演算部330は、各原画像及び各分割画像における各部分画像についてパワースペクトルS(f)を算出し、各パワースペクトルS(f)に対して(式1)を用いて各原画像及び各分割画像における各部分画像におけるフラクタル次元を演算するようになっている。
【0069】
なお、本実施形態において算出されるフラクタル次元は、1次元以上及び2次元以下の次元である。また、パワースペクトル法については、例えば、A.P.Araghy、M.Sato及びM.Kasuga著「EFEEICIENT FRANCTAL DIMENSION CALCULATION METHOD FOR FEATUE EXTRCTION OF SKIN IMAGE」(KEAS’ 08,THE 2nd INTERNATIONAL CONFERENCE ON KANSAI ENGINNERING AND AFFECTIVE SYSTEMS, 207−212(2008))にその詳細が記載されている。
【0070】
一方、フラクタル次元演算部330は、各原画像のフラクタル次元が算出されると、データ数を変化させてデータ数毎に一のフラクタル次元(代表値V)を算出するようになっている。例えば、フラクタル次元演算部330は、入力インターフェース310部において付与された撮像順に、最初に撮像された肌画像データによって形成される原画像(以下、「第1原画像」といい、以降2番目からn番目に撮像された肌画像データによって形成される原画像を「第n原画像」という。)について算出されたフラクタル次元をデータ数が「1」のときのフラクタル次元の代表値Vとして設定(算出)するようになっている。また、このフラクタル次元演算部330は、第1原画像及び第2原画像について算出されたフラクタル次元の平均をデータ数が「2」のときの代表値Vとして算出するようになっている。そして、このフラクタル次元演算部330は、データ数が「3」以降については、データ数が「2」のときと同様に、第1原画像から第n原画像までについて算出された各フラクタル次元の平均を算出し、当該算出された平均をそのデータ数におけるフラクタル次元の代表値Vとして算出するようになっている。なお、本実施形態のフラクタル次元演算部330は、例えば、データ数「8」までフラクタル次元の代表値Vをそれぞれ算出するようになっている。
【0071】
他方、フラクタル次元演算部330は、各分割画像における各部分画像のフラクタル次元が算出されると、分割数毎にかつデータ数毎に一のフラクタル次元を算出するようになっている。具体的には、フラクタル次元演算部330は、算出するフラクタル次元におけるデータ数が「n」で分割数が「m」の場合には、(a)第1原画像におけるm分割画像(以下、「第1m分割画像」という。以下、第n原画像におけるm分割された画像を「第nm分割画像」という。)について算出された各部分画像(すなわち、第1部分画像または第2部分画像など)における各フラクタル次元と、(b)第2m分割画像について算出された各部分画像における各フラクタル次元と、(c)第3m分割画像について算出された各部分画像における各フラクタル次元、....及び(d)第nm分割画像について算出された各部分画像における各フラクタル次元を比較し、各分割画像において他の分割画像におけるフラクタル次元と、近似可能なもの(例えば、第1二分割画像については第1部分画像のフラクタル次元、第2二分割画像については第2部分画像のフラクタル次元など)をそれぞれ第1から第nまでの各分割画像について抽出し、当該抽出した各分割画像の各フラクタル次元の平均をデータ数nにおけるm分割画像のフラクタル次元の代表値Vとして設定するようになっている。
【0072】
例えば、このフラクタル次元演算部330は、データ数が「6」で分割数が「8」の場合には、図5及び図6に示すように、各8分割画像における各部分画像のフラクタル次元に基づいて他の分割画像と近似可能なフラクタル次元をそれぞれの分割画像において抽出し、すなわち、
(a)第1八分割画像においては第6部分画像、
(b)第2八分割画像においては第1部分画像、
(c)第3八分割画像においては第5部分画像、
(d)第4八分割画像においては第1部分画像、
(e)第5八分割画像においては第6部分画像、及び
(f)第6八分割画像においては第5部分画像のフラクタル次元を抽出し、当該抽出した各八分割画像におけるフラクタル次元の平均をデータ数が「6」で分割数が「8」のときの代表値V(フラクタル次元)として算出するようになっている。
【0073】
なお、データ数が「1」の場合には、例えば、第1m分割画像における各フラクタル次元の平均を代表値Vに設定するようになっている。また、この代表値Vの算出において、各分割画像の近似可能なフラクタル次元の抽出に関しては、他の分割画像の各フラクタル次元と近似可能なものを分割画像毎に個々に抽出できればよく、種々の演算処理によって算出される。
【0074】
また、本実施形態のフラクタル次元演算部330は、データ数毎にかつ分割数毎に算出された代表値Vが算出されると、これらの代表値Vに基づいて、データ数及び代表値Vを変数とした関数を算出し、算出された各関数に基づいて定まる一のフラクタル次元を最終的な特定値Xとしてフラクタル次元として特定するようになっている。具体的には、このフラクタル次元演算部330は、図7に示すように、分割数「1〜8」までの分割数毎に、データ数毎に算出された代表値Vにおけるフラクタル次元の関数をそれぞれ算出し、各分割数の関数がグラフ上に交わる交点のフラクタル次元を特定値Xとして特定するようになっている。
【0075】
このように本実施形態の演算部は、統計的に肌画像上に存在するアーチファクトの影響を排除しつつ、肌画像のフラクタル次元を的確に特定するために、取得した被験者の肌における複数の原画像と当該原画像を分割した分割画像を用いて被験者の肌画像データにおける一のフラクタル次元を特定するようになっている。
【0076】
(判定処理(I))
次に、図8を用いて本実施形態において、撮像して取得した肌画像データに基づいてフラクタル次元を演算する演算処理を含む被験者の年齢及び性別又は性別のみを判定する判定処理について説明する。なお、図8は、本実施形態におけるフラクタル次元を演算する演算処理を含む被験者の年齢及び性別又は性別のみを判定する判定処理を示すフローチャートである。
【0077】
本動作においては、データベース200に既に被験者の年齢が判定対象の際に用いる各年代別かつ男女別の標準的なフラクタル次元及び被験者の性別が判定対象の際に用いる年代に関係なく男性及び女性の標準的なフラクタル次元が予め記憶されているものとする。また、既に撮像カメラ装置100によって被験者における肌の所定領域が撮像され、肌画像データが取得されているものとする。
【0078】
まず、操作部500のユーザ操作によって被験者の年代及び性別又は性別のみを被験者の人体的な特徴として判定することが設定されると(ステップS101)、統括制御部370は、分割処理部320に分割数を変化させて肌画像データによって形成される原画像を均等に2分割からn分割までの複数の分割画像を生成させる(ステップS102)。例えば、上述のように分割処理部320は、2分割から8分割までのそれぞれの分割画像を生成する。
【0079】
次いで、統括制御部370は、フラクタル次元演算部330に原画像及び各分割画像における各部分画像のフラクタル次元を算出し、データ数毎に且つ分割数毎にフラクタル次元の代表値Vを算出させる(ステップS103)。
【0080】
次いで、統括制御部370は、フラクタル次元演算部330にデータ数毎にかつ分割数毎に算出されたフラクタル次元の代表値Vに基づいて分割数毎にデータ数を変数としたフラクタル次元の関数を生成させる(ステップS104)。
【0081】
次いで、統括制御部370は、フラクタル次元演算部330に各分割数のフラクタル次元の関数に基づいて各関数におけるグラフ上の交点を特定値Xとして算出させる(ステップS105)。なお、このとき、フラクタル次元の関数が一点で交わらない場合には、交点において関数が最大数となるものを特定値Xとして算出する。
【0082】
次いで、統括制御部370は、比較判定部340にデータベース200から記憶されている年代別及び性別毎のフラクタル次元の基準値を読み出して比較判定部340に算出された特定値Xと比較させ、特定値Xと一致する又は当該特定値Xが基準値とともに記憶された予め定められた範囲内に属するかを判定させる(ステップS106)。このとき、比較判定部340は、特定値Xと一致する基準値又は当該特定値Xが基準値とともに記憶された予め定められた範囲内に属する基準値における年代及び性別を、被験者の年代及び性別と判定する。
【0083】
最後に、統括制御部370は、表示制御部360を制御して表示装置400に判定結果を出力して(ステップS107)本動作を終了させる。
【0084】
(判定処理(II))
次に、図8を用いて本実施形態において、撮像して取得した肌画像データに基づいてフラクタル次元を演算する演算処理を含む肌異常の有無を判定する判定処理について説明する。なお、図8は、本実施形態におけるフラクタル次元を演算する演算処理を含む肌異常の有無を判定する判定処理を示すフローチャートである。
【0085】
本動作においては、データベース200に既に被験者の年齢が判定対象の際に用いる各年代別かつ男女別の標準的なフラクタル次元が予め記憶されているものとする。また、既に撮像カメラ装置100によって被験者における肌の所定領域が撮像され、肌画像データが取得されているものとする。
【0086】
まず、操作部500のユーザ操作によって被験者の肌異常の有無を被験者の人体的な特徴として判定することが設定されると(ステップS201)、統括制御部370は、表示装置400及び操作部500によって被験者の性別及び年代を入力させる(ステップS202)。
【0087】
次いで、統括制御部370は、分割処理部320に分割数を変化させて肌画像データによって形成される原画像を均等に2分割からn分割までの複数の分割画像を生成させる(ステップS203)。例えば、上述のように分割処理部320は、2分割から8分割までのそれぞれの分割画像を生成する。
【0088】
次いで、統括制御部370は、フラクタル次元演算部330に原画像及び各分割画像における各部分画像におけるフラクタル次元を算出し、データ数毎に且つ分割数毎にフラクタル次元の代表値Vを算出させる(ステップS204)。
【0089】
次いで、統括制御部370は、フラクタル次元演算部330にデータ数毎にかつ分割数毎に算出されたフラクタル次元の代表値Vに基づいて分割数毎にデータ数を変数としたフラクタル次元の関数を生成させる(ステップS205)。
【0090】
次いで、統括制御部370は、フラクタル次元演算部330に各分割数のフラクタル次元の関数に基づいて各関数におけるグラフ上の交点を特定値Xとして算出させる(ステップS206)。なお、このとき、フラクタル次元の関数が一点で交わらない場合には、交点において関数が最大数となるものを特定値Xとして算出する。
【0091】
次いで、統括制御部370は、比較判定部340にデータベース200からステップSS201によって入力された年代及び性別に一致するフラクタル次元の基準値を読み出して比較判定部340に算出された特定値Xと比較させ、特定値Xと一致する又は当該特定値Xが基準値とともに記憶された予め定められた範囲内に属するかを判定させる(ステップS207)。このとき、比較判定部340は、特定値Xと一致する又は当該特定値Xが基準値とともに記憶された予め定められた範囲内に属する場合には、被験者の肌には異常が無いと判定し、特定値Xが基準値とともに記憶された予め定められた範囲内に属しない場合には、被験者の肌に異常があると判定する。
【0092】
最後に、統括制御部370は、表示制御部360を制御して表示装置400に判定結果を出力して(ステップS208)本動作を終了させる。
【0093】
[第1実施形態の作用及び効果]
以上の構成により、本実施形態の肌特徴判別システムSは、被験者の肌の所定領域の画像におけるフラクタル次元を算出することによって比較的容易に肌の特徴を定量的な特徴量として抽出することができるとともに、取得した被験者の肌における複数の原画像と当該原画像を分割した分割画像を用いて統計的に肌画像上に存在するアーチファクトの影響を排除しつつ、肌画像のフラクタル次元を的確に特定することができるので、被験者の年齢(肌年齢)、性別及び肌の異常状態の有無など肌画像に基づく被験者の人体的な特徴判別を的確に行うことができる。
【0094】
また、本実施形態の肌特徴判別システムSは、上記構成により、複数の原画像とそれを分割した分割画像を用いることによってアーチファクトを排除し、的確な被験者の肌におけるフラクタル次元を算出することができる。
【0095】
また、本実施形態の肌特徴判別システムSは、異なる肌領域Aを肌画像データとして取得することによって種々の肌領域Aにおけるフラクタル次元を算出することができるので、特定される特定値Xの精度を向上させることができる。
【0096】
また、本実施形態の肌特徴判別システムSは、同一の肌領域Aを複数回撮像して取得した肌画像データによって、肌領域Aに存在するアーチファクトの影響が排除されたフラクタル次元を算出することができるので、特定される特定値Xの精度を向上させることができる。
【0097】
また、本実施形態の肌特徴判別システムSは、原画像領域内及び分割画像領域内の形状及びグレースケールの3次元解析を行うことによってフラクタル次元を算出することができるので、各原画像及び各部分画像の的確にフラクタル次元をそれぞれ算出することができる。
【0098】
また、本実施形態の肌特徴判別システムSは、各原画像及び各分割画像の部分画像におけるフラクタル次元を算出する際に、パワースペクトル法を用いることによって、原画像領域内及び分割画像領域内の形状及びグレースケールの3次元解析を単純な公式を使用して演算負荷を小さくすることができるので、各原画像及び各部分画像におけるフラクタル次元を的確にかつ高速にそれぞれ算出することができる。
【0099】
また、本実施形態の肌特徴判別システムSは、撮像手段を有しているので、肌画像の取得から人体P特徴を判別するまで一体型の装置によって各処理を行うことができるので、他の装置との接続などの複雑な操作を行うことなく、被験者の年齢(肌年齢)、性別及び肌の異常状態の有無など被験者の人体的な特徴判別を的確に行うことができる。
【0100】
(変形例)
なお、本実施形態では、ROM/RAM380に記憶されたプログラムに従って統括制御部370が各部を制御しつつ演算処理又はその他の処理の行うようになっているが、コンピュータを用いて各プログラムを実行し、撮像した原画像に基づいて被験者のフラクタル次元を算出して(すなわち、特定値Xを算出して)被験者の人体的な特徴を判定し、当該判定結果を表示装置400に表示するようにしてもよい。
【0101】
[第2実施形態]
次に、図10を用いて本発明に係る肌特徴判別システムSの第2実施形態について説明する。なお、図10は、第2実施形態における肌特徴判別システムSの構成を示すブロック図である。
【0102】
本実施形態は、第1実施形態において、データベース200を人体的な特徴の判別を行う場所とは異なる場所に固定設置され、公衆網回線Lを介して特徴判別装置300にデータが供給される点に特徴があり、そのほかの点は、第1実施形態と同様であって同一部材には、同一符号を付してその説明を省略する。
【0103】
本実施形態の判別装置300は、図10に示すように、入力インターフェース310と、分割処理部320と、フラクタル次元演算部330と、比較判定部340と、操作部500と、表示制御部360と、カメラ制御部350と、通信制御部390と、ROM/RAM380と、統括制御部370と、から構成されている。
【0104】
また、通信制御部390は、電話公衆網又はインターネットなどの公衆網回線Lを介して有線又は無線に判別装置300と離隔した位置に固定設置されたデータベース200と通信回線を確立してデータの授受を行うようになっている。
【0105】
以上本実施形態の肌特徴判別システムSは、第1実施形態と同様の効果に加えて、被験者の画像データを取得する場所から遠隔に固定設置されたデータベース200を用いて被験者の人体的な特徴判別を行うことができ、基準値を他の肌特徴判別システムSと共有することができるので、簡易にかつ低コストによって実現することができるとともに、データベース200にある基準値のみ更新すれば複数の肌特徴判別システムSにおいて最新の状態にて人体Pの特徴判別を行うことができる。
【符号の説明】
【0106】
A … 肌領域
S … 肌特徴判別システム
V … 代表値
X … 特定値
100 … 撮像カメラ装置
200 … データベース
300 … 判別装置
310 … 入力インターフェース
320 … 分割処理部
330 … フラクタル次元演算部
340 … 比較判定部
350 … カメラ制御部
360 … 表示制御部
370 … 統括制御部
380 … ROM/RAM
390 … 通信制御部
400 … 表示装置
500 … 操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の肌における所定領域の複数の画像を肌画像データとして取得する取得手段と、
前記取得した肌画像データによって形成される各原画像の画像領域を複数に分割し、複数の部分画像から形成される分割画像を生成する分割手段と、
前記各原画像及び前記各部分画像のフラクタル次元をそれぞれ算出するフラクタル次元算出手段と、
演算に用いる原画像のデータ数を変化させ、当該データ数毎に、前記算出された各原画像におけるフラクタル次元に基づいて、前記原画像におけるフラクタル次元の代表値を第1代表値として算出する第1代表値算出手段と、
演算に用いる分割画像のデータ数を変化させ、当該データ数毎に、前記分割数毎の前記算出された各部分画像におけるフラクタル次元に基づいて前記分割画像におけるフラクタル次元の代表値を第2代表値として算出する第2代表値算出手段と、
前記算出された各第1代表値と前記算出された前記分割数毎の各第2代表値に基づいて、前記データ数及び第1代表値を変数とした第1関数と前記データ数及び第2代表値を変数とした前記分割数毎の各第2関数を算出する関数算出手段と、
前記算出された第1関数及び前記各第2関数に基づいて定まる一のフラクタル次元を特定値として特定する特定手段と、
前記特定された特定値と予め記憶された基準値としてのフラクタル次元とを比較する比較手段と、
前記比較した結果に基づいて前記肌画像データを取得した被験者の人体的な特徴を判別する判別手段と、
を備えることを特徴とする肌特徴判別システム。
【請求項2】
請求項1に記載の肌特徴判別システムにおいて、
前記判別手段が、前記比較した結果に基づいて年齢または性別の少なくともいずれか一方の前記肌画像データを取得した被験者の人体的な特徴を判別することを特徴とする肌特徴判別システム。
【請求項3】
請求項1に記載の肌特徴判別システムにおいて、
前記判別手段が、前記比較した結果に基づいて前記肌画像データを取得した被験者の人体的な特徴として前記肌の正常状態の有無を判別することを特徴とする肌特徴判別システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の肌特徴判別システムにおいて、
前記分割手段が、分割に用いる分割領域の大きさを変化させた異なる分割数によって前記各原画像を複数に分割した複数の分割画像を生成することを特徴とする肌特徴判別システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の肌特徴判別システムにおいて、
前記取得手段が、異なる肌領域の複数の肌画像を肌画像データとして取得することを特徴とする肌特徴判別システム。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の肌特徴判別システムにおいて、
前記取得手段が、同一の肌領域の複数の肌画像を肌画像データとして取得することを特徴とする肌特徴判別システム。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の肌特徴判別システムにおいて、
前記フラクタル次元算出手段が、前記原画像領域内及び前記分割画像領域内の形状及びグレースケールに基づいて前記各原画像及び前記各部分画像のフラクタル次元をそれぞれ算出することを特徴とする肌特徴判別システム。
【請求項8】
請求項7に記載の肌特徴判別システムにおいて、
前記フラクタル次元算出手段が、前記パワースペクトル法によって前記各原画像及び前記各部分画像のフラクタル次元をそれぞれ算出することを特徴とする肌特徴判別システム。
【請求項9】
被験者の肌における所定領域の複数の画像を肌画像データとして取得する取得工程と、
前記取得した肌画像データによって形成される各原画像の画像領域を複数に分割し、複数の部分画像から形成される分割画像を生成する分割工程と、
前記各原画像及び前記各部分画像のフラクタル次元をそれぞれ算出するフラクタル次元算出工程と、
演算に用いる原画像のデータ数を変化させ、当該データ数毎に、前記算出された各原画像におけるフラクタル次元に基づいて、前記原画像におけるフラクタル次元の代表値を第1代表値として算出する第1代表値算出工程と、
演算に用いる分割画像のデータ数を変化させ、当該データ数毎に、前記分割数毎の前記算出された各部分画像におけるフラクタル次元に基づいて前記分割画像におけるフラクタル次元の代表値を第2代表値として算出する第2代表値算出工程と、
前記算出された各第1代表値と前記算出された前記分割数毎の各第2代表値に基づいて、前記データ数及び第1代表値を変数とした第1関数と前記データ数及び第2代表値を変数とした前記分割数毎の各第2関数を算出する関数算出工程と、
前記算出された第1関数及び前記各第2関数に基づいて定まる一のフラクタル次元を特定値として特定する特定工程と、
前記特定された特定値と予め記憶された基準値としてのフラクタル次元とを比較する比較工程と、
前記比較した結果に基づいて前記肌画像データを取得した被験者の人体的な特徴を判別する判別工程と、
を含むことを特徴とする肌特徴判別方法。
【請求項10】
コンピュータが、
被験者の肌における所定領域を撮像することによって得られた複数の画像を肌画像データに基づいて当該被験者の人体的な特徴を判別する肌特徴判別プログラムであって、
前記コンピュータを、
前記取得した肌画像データによって形成される各原画像の画像領域を複数に分割し、複数の部分画像から形成される分割画像を生成する分割手段、
前記各原画像及び前記各部分画像のフラクタル次元をそれぞれ算出するフラクタル次元算出手段、
演算に用いる原画像のデータ数を変化させ、当該データ数毎に、前記算出された各原画像におけるフラクタル次元に基づいて、前記原画像におけるフラクタル次元の代表値を第1代表値として算出する第1代表値算出手段、
演算に用いる分割画像のデータ数を変化させ、当該データ数毎に、前記分割数毎の前記算出された各部分画像におけるフラクタル次元に基づいて前記分割画像におけるフラクタル次元の代表値を第2代表値として算出する第2代表値算出手段、
前記算出された各第1代表値と前記算出された前記分割数毎の各第2代表値に基づいて、前記データ数及び第1代表値を変数とした第1関数と前記データ数及び第2代表値を変数とした前記分割数毎の各第2関数を算出する関数算出手段、
前記算出された第1関数及び前記各第2関数に基づいて定まる一のフラクタル次元を特定値として特定する特定手段、
前記特定された特定値と予め記憶された基準値としてのフラクタル次元とを比較する比較手段、
前記比較した結果に基づいて前記肌画像データを取得した被験者の人体的な特徴を判別する判別手段、
として機能させることを特徴とする肌特徴判別プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−115393(P2011−115393A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275702(P2009−275702)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(304036743)国立大学法人宇都宮大学 (209)
【Fターム(参考)】