説明

肝機能亢進剤及び機能性食品

【課題】ムラサキイガイの有効利用を図るべく、ムラサキイガイの医薬品素材や機能性食品素材としての有効性を明らかにし、ムラサキイガイを利用した医薬品や機能性食品を提供。
【解決手段】ムラサキイガイ軟体部及びムラサキイガイエキスの肝機能亢進作用を明らかとし、これらのうちの少なくともいずれかを有効成分として含有する肝機能亢進剤、これらのうちの少なくともいずれかを含有する肝機能亢進作用を有する機能性食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝機能亢進剤及び機能性食品に関する。さらに詳述すると、本発明は、ムラサキイガイを利用した天然物由来の肝機能亢進剤と肝機能亢進作用を有する機能性食品に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所の取水口や復水器などに付着した多量のムラサキイガイは、これらの設備の機能を低下させるものであるため、除去する必要がある。
【0003】
回収されたムラサキイガイは、その90%が埋め立てあるいは焼却処分されている(非特許文献1)。しかしながら、処分場の不足の問題や悪臭の発生の問題から、回収された貝類を埋め立てや焼却処分することなく、何らかの形で有効利用を図ることが提案されている。例えば、貝殻については、セメント原料として使用されている例がある。また、貝汁を含む軟体部(剥き身)については、肥料(コンポスト)としての利用が試みられている。
【0004】
ところで、海洋生物からの医薬品素材や機能性食品素材等の探索は、微生物や海藻類、棘皮動物や軟体動物を対象に広範囲に行われており、30を超える化合物が抗癌剤や抗炎症剤として臨床試験段階にあることが報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】火力原子力発電技術協会 環境対策技術調査委員会(2003):火力発電所における海洋生物対策実態調査報告書、158pp
【非特許文献2】伏谷伸宏監修(2005):海洋生物成分の利用 −マリンバイオのフロンティア−、シーエムシー出版、東京、304pp
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、軟体部を肥料として利用する場合、含有する塩分が障害となるなど問題が多い。そこで、軟体部を別の形で有効利用する方法の確立が望まれる。
【0007】
そこで、ムラサキイガイについても、非特許文献2で報告されているように、医薬品素材や機能性食品素材等としての有効性を明らかにし、医薬品や機能性食品として有効利用を図ることが考えられる。しかしながら、ムラサキイガイの医薬品素材や機能性食品素材としての有効性については全く明らかにされていない。
【0008】
本発明は、ムラサキイガイの有効利用を図るべく、ムラサキイガイの医薬品素材や機能性食品素材としての有効性を明らかにし、ムラサキイガイを利用した医薬品や機能性食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため、本願発明者が鋭意検討を重ねた結果、ムラサキイガイ軟体部及びムラサキイガイエキスに肝機能を亢進する作用があることを見出した。しかも、ムラサキイガイ軟体部及びムラサキイガイエキスは、長期間投与しても健康状態に悪影響が及ぼされず、安全性も非常に高いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の肝機能亢進剤は、ムラサキイガイ軟体部及びムラサキイガイエキスの少なくともいずれかを有効成分として含有するものである。
【0011】
また、本発明の機能性食品は、ムラサキイガイ軟体部及びムラサキイガイエキスの少なくともいずれかを含有する肝機能亢進作用を有するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来、その処分や有効利用に苦慮していたムラサキイガイ軟体部の有効利用を図ることができる。しかも、ムラサキイガイ軟体部及びムラサキイガイエキスによって、肝機能を亢進する作用を有する医薬品や機能性食品を提供できることから、従来、その処分や有効利用に苦慮していたムラサキイガイ軟体部に付加価値を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】自由摂餌下で飼育している雄ラットにムラサキイガイ軟体部ならびにムラサキイガイエキスを投与した際の平均体重の推移を示す図である。
【図2】自由摂餌下で飼育している雄ラットにムラサキイガイ軟体部ならびにムラサキイガイエキスを投与した際の平均摂餌量の推移を示す図である。
【図3】四塩化炭素の投与により急性肝障害を誘発させた雄ラットにムラサキイガイエキスを投与した際の平均体重の推移を示す図である。
【図4】四塩化炭素の投与により急性肝障害を誘発させた雄ラットにムラサキイガイエキスを投与した際の平均摂餌量の推移を示す図である。
【図5】四塩化炭素の投与により急性肝障害を誘発させた雄ラットにムラサキイガイエキスを投与した際の肝臓のCYP2E1陽性面積を示す図である。
【図6】エタノールの投与により慢性肝障害を誘発させた雄ラットにムラサキイガイエキスを投与した際の平均体重の推移を示す図である。
【図7】エタノールの投与により慢性肝障害を誘発させた雄ラットにムラサキイガイエキスを投与した際の平均摂餌量の推移を示す図である。
【図8】エタノールの高濃度投与により慢性肝障害を誘発させた雄ラットにムラサキイガイエキスを投与した際の平均体重の推移を示す図である。
【図9】エタノールの高濃度投与により慢性肝障害を誘発させた雄ラットにムラサキイガイエキスを投与した際の平均摂餌量の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0015】
本発明は、発電所などで発生する廃棄物であるムラサキイガイを用いた医薬品や機能性食品を開発しようとするものである。
【0016】
本発明において、ムラサキイガイは、その軟体部あるいはエキスが用いられる。
【0017】
ムラサキイガイ軟体部は、殻から外した貝汁を含む可食部である。加工性の観点から、乾燥粉末の状態とすることが好適である。例えば、凍結乾燥処理することで、軟体部に含まれる貝汁も無駄なく使用することができる。
【0018】
ムラサキイガイエキスは、原料に含まれる成分を抽出するための慣用手段によって得ることができる。一例を挙げると、殻付きムラサキイガイあるいはムラサキイガイ軟体部を一定期間水に浸けることによって、あるいは熱水でエキスを煮出すことによって得られる。しかしながら、この抽出法に限定されるものではない。また、加工性の観点から、ムラサキイガイエキスを濃縮することが好適である。例えば、Brix値を20%以上とすることが好適である。濃縮は例えば真空濃縮等により行うことができるが、この方法に限定されるものではない。
【0019】
ムラサキイガイ軟体部及びムラサキイガイエキスには、肝機能を亢進する作用がある。また、ASTとALTの値を下げる作用を有することから、肥満を防止する効果も期待される。したがって、近年問題となっているメタボリックシンドロームの改善に貢献できる可能性もある。投与量については、健常者(ヒト)であれば肝機能低下予防・機能促進のため、軟体部乾燥粉末で1日100〜2000mg/kg、エキス(Brix20)で1日1〜10mL/kgとすることが好適であるが、この範囲に限定されるものではない。肝機能が低下している患者等の肝機能の改善・回復あるいは保護(悪化を防ぐ)を図る場合には、適宜増量でき、例えば健常者の通常投与量の2〜5倍量とすることが好適であるが、この範囲に限定されるものではない。また、ヒト以外の動物に投与する場合には、その体重に応じて投与量を適宜決定すればよい。
【0020】
ムラサキイガイ軟体部及びムラサキイガイエキスは、これらのうちの少なくともいずれか一方を有効成分として含有する肝機能亢進剤の形態として供することができる。
【0021】
本発明の肝機能亢進剤の投与形態は、経口投与が一般的であるがこれに限定されるものではない。また、剤形については、製剤の分野における常套手段によって、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤等といった種々の剤形とすることができるが、これらの剤形には限定されない。また、薬学的に許容される種々の担体を含有することもできる。例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着香剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、コーティング剤、抗酸化剤を含有することができるが、これらには限定されない。
【0022】
本発明の肝機能亢進剤は、有効成分としてムラサキイガイ軟体部及びムラサキイガイエキスの少なくともいずれか一方のみを含む医療用製剤として供することもできるが、肝機能亢進作用を失わない限り他の薬効を示す有効成分(動植物由来のものを含む)をさらに配合して供するようにしてもよい。
【0023】
また、ムラサキイガイ軟体部及びムラサキイガイエキスは、これらのうちの少なくともいずれか一方を含有する機能性食品の形態として供することもできる。機能性食品とは、例えば、ムラサキイガイ軟体部及びムラサキイガイエキスの少なくともいずれか一方を含有する食品、飲料、栄養補助食品、サプリメント等である。
【0024】
より具体的には、例えば、ムラサキイガイ軟体部及びムラサキイガイエキスの少なくともいずれか一方を原料に配合する、パン、麺類、キャンディー、ゼリー、クッキー、スープ、健康飲料、ハムやソーセージ等の食肉加工食品、かまぼこやちくわや魚肉ソーセージ等の水産加工食品、オイル、ドレッシング、ふりかけ等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、ムラサキイガイ軟体部及びムラサキイガイエキスの他にも、鉄分やカルシウム等のミネラル類、種々のビタミン類、生薬、漢方薬、コラーゲン、食物繊維等を配合して供することもできる。
【0025】
また、サプリメントとして供する場合には、例えば、ムラサキイガイ軟体部及びムラサキイガイエキスの少なくともいずれか一方を含有し、これらを上述の製剤方法と同様に経口投与し易い形態として供することができる。尚、サプリメントには、肝機能亢進作用を失わない限り、鉄分やカルシウム等のミネラル類、種々のビタミン類、生薬、漢方薬、コラーゲン、食物繊維等を配合して供することもできる。
【0026】
また、本発明の機能性食品は、ムラサキイガイ軟体部及びムラサキイガイエキスの少なくともいずれか一方を含有する、愛玩動物用餌や家畜用飼料とすることもできる。例えば、ムラサキイガイ軟体部及びムラサキイガイエキスの少なくともいずれか一方を餌または飼料に配合することによって、愛玩動物や家畜の肝機能を亢進してその健康状態を良好に維持することのできる餌や飼料を供することができる。また、本発明の機能性食品は、愛玩動物用餌や家畜用飼料に適宜混合ないしは添加可能なオイルやペースト、顆粒等の形態として供することもできる。
【0027】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【実施例】
【0028】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0029】
(実施例1)
ラットを自由摂餌条件下で飼育した場合、体重および肝臓重量が増加するとともに、血漿中脂質の増加ならびにASTおよびALTの増加に示唆される肝障害が誘発されることが知られている(参考文献1、参考文献2)。そこで、ラットを自由摂餌条件下で飼育しながら、被検物質としてムラサキイガイを与えることによって、ムラサキイガイが肝障害の誘発に対しどのように作用するのか検証した。
・参考文献1:S. Kakamu, M. Tachibana, K. Suzuki, K. Oba, D. Mukai and H. Inoue (1999): Effects of twenty percent dietary restriction on body weight, hematology, lood chemistry and organ weight in Crj:CD(SD)IGS rats, CD(SD)IGS-1999, 141-147
・参考文献2:Y. Kuroiwa, K. Hatayama and S. Okazaki (2003): Background data of general toxicology parameters in Crj:CD(SD)IGS rats at 10, 19 and 32 weeks of age, CD(SD)IGS-2002/2003, 61-72.
【0030】
(1)試験用ラット
雄Crl:CD(SD)系ラット(SPF/VAF)8週齢を、日本チャールス・リバー厚木飼育センター(厚木市、神奈川県)より40匹購入し、試験用ラットとした。購入時の体重範囲は256〜287gであった。購入後、7日間の検疫および馴化飼育期間をおいた。一般状態(外観)の観察を毎日実施し、馴化期間中に異常を示さないことを確認した。馴化期間中は基礎飼料を自由摂餌させた。試験開始直前に全ラットの体重を測定し体重の軽い個体を除外した。健康状態の良いラットを対象として、体重層別に乱数表により各試験区に配分した。この時、各試験区間の体重に統計学的有意差のないことを確認した。区分け後、試験から除外されたラットはジエチルエーテル深麻酔下で安楽死処分した。なお、区分け前はラットの腹側面に油性インキで仮番号(1〜40)を記入することによって識別した。試験期間中は背側面に油性インキで個体番号を記入することによって識別した。
【0031】
(2)被検物質
被検物質は、ムラサキイガイ軟体部(以下、単に軟体部と呼ぶこともある)およびムラサキイガイエキス(以下、単にエキスと呼ぶこともある)とした。
【0032】
ムラサキイガイ軟体部は乾燥粉末にしてから使用した。乾燥粉末は以下のようにして得た。即ち、2006年4月に購入したムラサキイガイの市販品(丸宗、中央区、東京)の殻を丁寧に取り除き、体液(貝汁)を含む軟体部を凍結乾燥した後、粉砕して得た。
【0033】
ムラサキイガイエキスは、以下のようにして得た。即ち、2006年4月に購入したムラサキイガイの市販品(丸宗、中央区、東京)の殻を丁寧に取り除き、体液(貝汁)を含む軟体部を−20℃で凍結保存した軟体部ブロック20kgをフローズンカッターで細断した。これに4倍量(重量)の水を加え、50℃で30分間、さらに90℃で30分間エキスを抽出した。次いで、これを35メッシュで濾過し、Brix20まで真空濃縮して−35℃で凍結保存した。因みに、得られたエキスの量は12.3kgであった。
【0034】
(3)基礎飼料
ラット用粉末飼料(CRF−1粉末、オリエンタル酵母工業、板橋区、東京都)を基礎飼料とした。試験に使用する基礎飼料と同一ロットについては、飼料成分、微生物の有無ならびに汚染物質濃度を検査し、これらに起因してラットの健康状態に何らかの影響が及ぼされる可能性を排除した。
【0035】
(4)被検物質の投与方法
ムラサキイガイ軟体部は、基礎飼料に混合してラットに与えた。具体的には、軟体部(乾燥粉末)に対し、最終調製量の1/10〜1/20量の基礎飼料を加え、ミクロ型透視式混合器で10分間混合して予備混合飼料を得た。次に、この予備混合飼料に所定の最終調整濃度のなるように基礎飼料を加え、混合器(NAM−50、愛工舎製作所、前橋市、群馬県)を用いて100回/分の混合速度で30分間混合して混合飼料を得た。得られた混合飼料は各区4等分に小分けして、試験区および調製年月日が表示してあるビニル袋に入れて密封し、使用時まで冷蔵、遮光、密閉条件で保管した。混合飼料は約4週間毎に調製した。
【0036】
ムラサキイガイエキスは、その原液または注射用水(日本薬局方品、大塚薬品工業、鳴門市、徳島県)で所定濃度に希釈したものをラットに定期的に経口投与した。経口投与には胃ゾンデ(経口投与用胃管)を用いた。
【0037】
(5)試験方法
以下の5つの試験区を設定した。試験期間は13週間とした。
・試験区1:対照区
・試験区2:エキス2mL/kg・体重/日投与区
・試験区3:エキス10mL/kg・体重/日投与区
・試験区4:軟体部10000ppm投与区
・試験区5:軟体部50000ppm投与区
【0038】
試験区1(対照区)では、基礎飼料をラットに自由摂餌させた。また、10mL/kg・体重の注射用水を毎日投与した。
【0039】
試験区2(エキス2mL/kg・体重/日投与区)では、基礎飼料をラットに自由摂餌させた。また、エキス原液を注射用水で5倍希釈したエキス希釈溶液を投与毎に毎日調整し、10mL/kg・体重を毎日投与した。投与する時間帯は午前中のほぼ同じ時間帯とした。
【0040】
試験区3(エキス10mL/kg・体重/日投与区)では、基礎飼料をラットに自由摂餌させた。10mL/kg・体重のエキス原液を毎日投与した。投与する時間帯は午前中のほぼ同じ時間帯とした。
【0041】
試験区4(軟体部10000ppm投与区)では、軟体部(乾燥粉末)を基礎飼料に10000ppm混合した混合飼料を自由摂餌させた。
【0042】
試験区5(軟体部50000ppm投与区)では、軟体部(乾燥粉末)を基礎飼料に50000ppm混合した混合飼料を自由摂餌させた。
【0043】
尚、試験区1〜5のいずれにおいても、小分けした飼料を、使用時に専用コンテナに収容して保管室から動物飼育室内に搬入し、給餌器に入れて与えた。また、試験区1〜3におけるエキス(または注射用水)投与量は、投与日の最近時に測定した体重から算出した。
【0044】
試験には9週齢のラットを用いた。ラットの配分は以下の通りとした。また、試験開始時のラットの体重範囲は323〜374gであった。
・試験区1:8匹
・試験区2:8匹
・試験区3:8匹
・試験区4:6匹
・試験区5:6匹
【0045】
試験は、日本生物科学研究所が保有するバリアーシステム下の動物飼育室(4号棟43号室)で実施した。飼育室の室温は20〜25℃、湿度は30〜70%、換気回数は10回転/時以上(オールフレッシュエアー)、照明時間は7〜19時の12時間に設定した。試験期間中、飼育室温度は22℃〜23℃で湿度は37%〜58%であり、設定範囲内にあった。
【0046】
ラットは、幅21cm、奥行き35cm、高さ20cmのステンレス製単線メッシュケージに個別に収容した。飼育期間は13週間(90日間)とした。馴化期間中も同じ飼育環境で飼育した。
【0047】
試験期間中にラットに与えた飲料水は、日本生物科学研究所において原水(井戸水)に次亜塩素酸を0.1〜0.5ppmとなるように添加して消毒したものとし、給水瓶(ポリカーボネート製)に入れて自由に摂取させた。尚、試験前、試験期間中、試験後の飲料水の塩素濃度は0.10〜0.44ppmであった。また、飲料水の混入物および汚染物質については水道法水質基準値の範囲内であることを確認した。
【0048】
試験期間中は、全てのラットについて、午前および午後にそれぞれ1回死亡の有無を確認した。但し、休日は午前の1回のみとした。また、一般状態(外見)を毎日観察した。体重ならびに摂餌量の測定は毎週1回実施した。摂餌量は、測定時前の24時間以内に摂取された量を摂餌量/日として表した。尚、体重測定は13週の試験期間終了後の剖検時にも実施した。
【0049】
剖検直前に全てのラットについて血液を採取し、以下に示す項目を検査した。血液はジエチルエーテル麻酔下で開腹し、腹大動脈から採血した。血液学的検査には抗凝固剤としてEDTA−2Kを使用した。赤血球数(RBC、104/μL)はDC検出法、ヘモグロビン量(HGB、g/dL)はSLSヘモグロビン法、ヘマトクリット値(HCT、%)は赤血球パルス波高値検出法、白血球数(WBC、102/μL)はフローサイトメトリー法によった。測定には多項目自動血球分析装置(SF−3000/SFVU−1、シスメックス、神戸市、兵庫県)を用いた。
【0050】
また、血液学的検査と同時に採取した血液のヘパリンナトリウム加血漿を用い、以下に示す項目を検査した。アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST、IU/L)ならびにアラニントランスフェラーゼ(ALT、IU/L)はJSCC勧告法、総コレステロール(TCHO、mg/dL)はコレステロール/コレステロールオキシダーゼ法、遊離コレステロール(FCHO、mg/dL)はコレステロールオキシダーゼ法、リン脂質(PL、mg/dL)はホスホリパーゼD/コリンオキダーゼ法、中性脂肪(TGL、mg/dL)はリポプロテインリパーゼ/グリセロキナーゼ/グリセロール−3−リン酸オキシダーゼ法、遊離脂肪酸(NEFA、mEq/L)はアシルCoA合成酵素法によった。なお、エステル比(E/T、mg/dL)はTCHO−FCHO)/TCHOで算出した。測定には自動分析装置(7060、日立製作所、千代田区、東京都)を用いた。
【0051】
全てのラットについて、ジエチルエーテルによる麻酔を行い、腹大動脈から採血して安楽死させた後に剖検した。また、肝臓重量を測定し、同時に剖検直前に測定した体重に基づいて体重比を算出した。肝臓は10%中性緩衝ホルマリンで固定し保存した。肝臓は全てパラフィン包埋した後、常法によりヘマトキシリン・エオジン染色標本を作製して、病理組織学的検査を実施した。
【0052】
なお、ASTはGOT(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ)とも呼ばれ、肝細胞をはじめとして赤血球、心筋、骨格筋などに分布する。これらの細胞が破壊された場合に血液中に流出するため、血中濃度を測定することで肝障害などの程度を知ることができる。但し、肝細胞が破壊し尽くされると流出量が低下すること、肝臓以外の障害(心筋梗塞や溶血性貧血)でも上昇することから、肝障害の絶対的なマーカーとは言えない。ALTはGPT(グルタミン酸ピルビン酸転移酵素)とも呼ばれ、ほとんどの組織に含まれているが、肝細胞への分布が圧倒的に多い。そのため肝細胞の破壊(或いは細胞膜の透過性亢進)の際に血中濃度が上昇する。肝障害の程度の指標として利用されるが、肝細胞が破壊し尽くされると流出量は低下する。肝臓の逸脱酵素としてAST(GOT)よりも特異性が高い。
【0053】
(6)検定方法
計量および計数値データで平均値を代表値とするデータ(体重、摂餌量、血液学的検査、血液生化学的検査、器官重量および体重比)はBartlettの等分散性検定(有意水準5%)を行った。その結果、分散が一様の場合には一元配置分散分析(有意水準5%)を行い、有意の場合にはDunnettの多重比較(両側、有意水準5%および1%)により対照区と各実験区との間で検定を行った。分散が一様でない場合には、Kruskal−Wallisの検定(有意水準5%)を行い、有意ならばDunnett型の順位検定(両側、有意水準5%および1%)により対照区と各実験区との間で検定を行った。計数値データで平均値を代表値としないデータ(病理組織学的検査)は、Fisherの直接確率法(片側、有意水準5%および1%)により対照区と各実験区との間で出現率の差の検定を行った。統計解析ソフトはSAS(SAS Institute Inc.、Carry、NC、USA)およびEXSAS(アームシステックス、中央区、大阪市:Microsoft Excel上のデータをSASで解析しExcelシートに結果を出力した)を使用した。
【0054】
(7)試験結果
13週の試験期間中、全ての試験区においてラットの死亡は見られなかった。また、全ての試験区においてラットの外見上の異常は観察されなかった。
【0055】
試験期間中におけるラットの平均体重の推移を図1に示す。試験区5(軟体部50000ppm投与区、図1中の×)の平均体重は他の区よりも明らかに高い傾向にあり、剖検時では試験区1(対照区、図1中の○)の112%となった。
【0056】
試験期間中における平均摂餌量の推移を図2に示す。試験区3(エキス10mL/kg/日投与区、図2中の△)で試験区1(対照区、図2中の○)よりも有意に低い値となり、試験区5(軟体部50000ppm投与区、図2中の×)で高くなった。尚、試験区4(軟体部10000ppm投与区)および試験区5(軟体部50000ppm投与区)のラット1匹当たりの平均被検物質摂取量はそれぞれ568mg/kg/日および2764mg/kg/日であった。
【0057】
血液性状に関する結果を表1に示す。全ての検査項目について、試験区1(対照区)と試験区2〜5(実験区)との間に有意差は見られなかった。
【0058】
【表1】

【0059】
血液生化学的検査結果を表2に示す。試験区2〜5(実験区)のASTが試験区1(対照区)に比較してそれぞれ89%、82%、78%および80%と明らかに低下する傾向が見られ、ALTについても対照区に比較してそれぞれ75%、77%、72%および69%と明らかに低下する傾向が見られた。
【0060】
【表2】

【0061】
肝臓重量および体重比(肝臓重量/体重)に関する結果を表3に示す。試験区5(軟体部50000ppm投与区)において、肝臓重量が試験区1(対照区)の117%と明らかに高くなった。剖検では、肉眼的に、試験区1(対照区)および試験区2〜5(実験区)で異常な所見は観察されなかった。
【0062】
【表3】

【0063】
(8)考察
試験区3(エキス10mL/kg/日投与区)において、平均摂餌量が試験区1(対照区)よりも有意に減少した。しかしながら、体重については増加傾向にあったことから、平均摂餌量の原料による一般状態への影響は無いものと考えられた。一方、試験区5(軟体部50000ppm投与区)では、平均摂餌量が試験区1(対照区)よりも有意に増加し、その結果として体重の明らかな増加が誘発されたものと考えられた。
【0064】
ここで、上記の通り、ラットを自由摂餌条件下で飼育すると、制限給餌したラットと比べて過剰な栄養摂取により体重および肝臓重量が増加するとともに、血漿中脂質の増加、AST、ALTの増加に示唆される肝障害が誘発されることが知られている。
【0065】
本実施例では、試験区5(軟体部50000ppm投与区)において、体重、摂餌量および肝臓重量の増加がみられたにも関わらず、肝障害に関与するASTおよびALTが、ムラサキイガイ軟体部を与えることなく基礎飼料を自由摂餌させた試験区1(対照区)と比較して明らかに低い値を示した。
【0066】
また、本実施例では、ムラサキイガイ軟体部またはムラサキイガイエキスを投与した全ての試験区(試験区2〜5)において、ASTとALTが試験区1(対照区)よりも明らかに減少した。
【0067】
尚、病理組織学的にも肝細胞の脂肪化といった肝障害を示唆する所見は認められなかった。また、試験区5では試験区1と比較して、TGLの増加がみられたものの、TCHO、FCHO、PLおよびNEFAは対照区とほぼ同じ値を示した。
【0068】
以上の結果から、長期自由摂餌下のラットにおいて、基礎飼料にムラサキイガイ軟体部(乾燥粉末)を50000ppmの割合で混合して投与することで、ラットの肝機能を亢進させる作用があり、特に脂質代謝の低下を改善させる作用があることが明らかとなった。
【0069】
同様に、基礎飼料にムラサキイガイ軟体部(乾燥粉末)を10000ppmの割合で混合して投与することで、また、ムラサキイガイエキスを2mL/kg/日および10mL/kg/日経口投与することで、ラットの肝機能を亢進させる作用があることが明らかとなった。
【0070】
尚、試験条件下において、ムラサキイガイ軟体部及びムラサキイガイエキスが毒性を呈することは無かった。このことから、ムラサキイガイ軟体部及びムラサキイガイエキスを長期に亘って投与しても、健康状態に悪影響が及ぼされることなく、安心して服用できることが明らかとなった。
【0071】
(実施例2)
四塩化炭素(CCl)をラットの腹腔内に投与すると、肝細胞の細胞膜が破壊され、ASTやALTの急激な上昇をもたらすことが知られている(参考文献3)。そこで、四塩化炭素を投与することにより急性肝障害を誘発させたラットに対し、ムラサキイガイエキスを与え、肝障害の回復に与える効果を検証した。
・参考文献3:戴威・佐藤茂・浅野伍(2001):四塩化炭素投与によるラットの急性肝障害に対する促肝細胞増殖因子(pHGF)の治療効果 II.細胞膜障害の抑制、J. Nippon Med. Sch., 68,
【0072】
(1)試験用ラット
実施例1と同じ系統で、5週齢の雄を35匹購入し、試験用ラットとした。購入時の体重は120〜137gであった。試験開始までの飼育方法は実施例1と同様とした。
【0073】
(2)被検物質
ムラサキイガイエキスを被検物質とした。但し、ムラサキイガイは2007年4月に実施例1と同様のルートで入手した。因みに、Brix20まで真空濃縮して得られたエキスは、凍結ブロック20kgに対し、8.4kgであった。
【0074】
(3)基礎飼料
実施例1と同様とした。
【0075】
(4)被検物質の投与方法
実施例1と同様とした。
【0076】
(5)試験方法
以下の5つの試験区を設定した。
・試験区1:CCl投与で2週間飼育
・試験区2:CCl投与とエキス投与で2週間飼育
・試験区3:エキス投与で4週間飼育
・試験区4:CCl投与で4週間飼育
・試験区5:CCl投与とエキス投与で4週間飼育
【0077】
試験区1(CCl投与で2週間飼育)では、試験開始当日にCClを1.5mL/kg・体重でラットに腹腔内投与した。その後、自由摂餌条件下で2週間飼育した。
【0078】
試験区2(CCl投与とエキス投与で2週間飼育)では、試験開始当日にCClを1.5mL/kg・体重でラットに腹腔内投与した。その後、自由摂餌条件下で2週間飼育した。また、10mL/kg・体重のエキス原液を実施例1と同様の方法で毎日経口投与した。
【0079】
試験区3(エキス投与で4週間飼育)では、自由摂餌条件下でラットを4週間飼育した。また、10mL/kg・体重のエキス原液を実施例1と同様の方法で毎日経口投与した。
【0080】
試験区4(CCl投与で4週間飼育)では、試験開始当日にCClを1.5mL/kg・体重でラットに腹腔内投与した。その後、自由摂餌条件下で4週間飼育した。
【0081】
試験区5(CCl投与とエキス投与で4週間飼育)では、試験開始当日にCClを1.5mL/kg・体重でラットに腹腔内投与した。その後、自由摂餌条件下で4週間飼育した。また、10mL/kg・体重のエキス原液を実施例1と同様の方法で毎日経口投与した。
【0082】
試験には6週齢のラットを用いた。ラットの配分は以下の通りとした。また、試験開始時のラットの体重範囲は176〜218gであった。
・試験区1:6匹
・試験区2:6匹
・試験区3:6匹
・試験区4:6匹
・試験区5:6匹
【0083】
試験設備、給餌方法および飲料水の供給方法は実施例1と同様とした。
【0084】
死亡の有無の確認、一般状態の観察、体重ならびに摂餌量の測定は、実施例1と同様とした。2週目ならびに4週目の剖検直前に全てのラットについて血液を採取し、ヘパリンナトリウム加血漿を用い、以下に示す項目を検査した。AST、ALTおよびγ−グルタミントランスフェラーゼ(γ−GT、IU/L)はJSCC勧告法、総タンパク質(TP、g/dL)はビュウレット法、アルブミン(ALB、g/dL)はブロムクレゾールグリーン法によった。なお、アルブミン/グロブリン比(A/G)はALB/(TP−ALB)で算出した。測定には自動分析装置(7060、日立製作所、千代田区、東京都)を用いた。
【0085】
全てのラットについて、ジエチルエーテルによる麻酔を行い、腹大動脈から採血して安楽死させた後に剖検した。また、肝臓重量を測定し、同時に剖検直前に測定した体重に基づいて体重比を算出した。剖検動物について、心臓、脾臓、胸腺、肺(含気管支)、肝臓、腎臓(左右)、副腎(左右)、肉眼的病変部を、10%中性緩衝ホルマリンで固定し保存した。肝臓については、各区の任意の2匹について肝臓の一部(内側右葉)を採取し、直ちに液体窒素に浸漬して凍結し、−70℃以下で冷凍保存した。全ての剖検動物について、肝臓(外側左葉2ヶ所、内側右葉1ヶ所、方形葉1ヶ所)をパラフィン包埋した後、常法によりヘマトキシリン・エオジン染色標本を作製して、病理組織学的検査を実施した。肝臓組織について抗ラットCYP2E1抗体(第一化学薬品、中央区、東京都)を用いて免疫染色を実施した。各区の3匹について病理組織学的検査で変化のみられなかった外側左葉の組織写真を撮影後、CYP2E1陽性面積(%)を算出した。
【0086】
なお、γ-GTは、生体内ではそのほとんどが膜結合型酵素として存在し、膜を介したアミノ酸の移動に関与している。ヒトでは腎臓で最も活性が高く、さらに膵臓、肝臓、脾臓、小腸、精巣、前立腺など広く全身に分布する。肝臓では、肝細胞のミクロソーム分画で産生され、細胆管、毛細胆管などの細胞膜に移動して機能している。これが閉塞性黄疸、肝癌、アルコール性肝障害など肝・胆道系の疾患で誘導され、逸脱酵素として血中に流出する。このため血中のγ-GT活性は肝障害の指標として利用される。
【0087】
(6)検定方法
実施例1と同様とした。
【0088】
(7)試験結果
試験区2(CCl投与とエキス投与で2週間飼育)において、試験5日目に1匹の死亡が確認された。また、試験区5(CCl投与とエキス投与で4週間飼育)において、試験2日目に2匹の死亡が確認され、試験6日目に1匹の死亡が確認された。死因はいずれもCCl投与に起因する腹膜炎によるものであった。試験期間終了時の試験区1〜5の累積死亡率はそれぞれ0.0%、0.0%、0.0%、16.7%、50.0%であった。
【0089】
一般状態(外見)観察の結果、試験区1(CCl投与で2週間飼育)では、1匹で鼠径部被毛汚染が試験3日から試験6日に観察された。試験区2(CCl投与とエキス投与で2週間飼育)では、1匹に削痩が試験5日から試験8日に、頻呼吸が試験11日から試験13日に、 鼠径部被毛汚染が試験11日から試験14日に、腹部膨満が試験5日から試験14日に観察された。
【0090】
また、途中死亡ラットについては、試験区2(CCl投与とエキス投与で2週間飼育)で、削痩および肛門周囲被毛汚染が試験4日に1匹に観察された。試験区5(CCl投与とエキス投与で4週間飼育)では、削痩が試験4日から試験5日に1匹、頻呼吸が試験2日に2匹、試験4日から試験5日に1匹、体温下降が試験2日に2匹、眼瞼被毛汚染が試験4日から試験5日に1匹、鼠径部被毛汚染が試験2日に1匹、試験4日から試験5日に1匹、 肛門周囲被毛汚染が試験4日から試験5日に1匹、腹部膨満が試験4日から試験5日に1匹に観察された。
【0091】
4週間試験(試験区3〜5)における平均体重の推移を図3に示す。試験区5(CCl投与とエキス投与で4週間飼育、図3中の×)の試験1日目および試験7日目、試験区4(CCl投与で4週間飼育、図3中の△)の試験1日目、試験7日目、試験14日目、試験21日目および剖検日の体重は、試験区3(エキス投与で4週間飼育、図3中の○)に比較して有意な低値を示した。尚、2週間試験(試験区1および2)では、試験区2(CCl投与とエキス投与で2週間飼育)の試験7日目の体重が、試験区1(CCl投与で2週間飼育)に比較して有意な高い値を示した。
【0092】
4週間試験(試験区3〜5)における平均摂餌量の推移を図4に示す。尚、測定は3週間目まで実施した。試験区5(CCl投与とエキス投与で4週間飼育、図4中の*)の試験22日目の摂餌量が、試験区4(CCl投与で4週間飼育、図4中の△)と比較して有意な低値を示した。尚、2週間試験(試験区1および2)では平均摂餌量に有意な違いはみられなかった。
【0093】
血液生化学的検査結果を表4に示す。2週間試験では、試験区1(CCl投与で2週間飼育)に比べて試験区2(CCl投与とエキス投与で2週間飼育)のASTが95%に低下し、γ−GTが255%に増加した。4週間試験では、試験区5(CCl投与とエキス投与で4週間飼育)のAST、ALTおよびγ−GTが試験区3(エキス投与で4週間飼育)よりもそれぞれ92%、84%、54%と明らかに低下した。
【0094】
【表4】

【0095】
肝臓重量および体重比(肝臓重量/体重)に関する結果を表5に示す。2週間試験(試験区1および2)、4週間試験(試験区3〜5)で違いはみられなかった。
【0096】
【表5】

【0097】
2週間試験の剖検の結果、試験区1(CCl投与で2週間飼育)で、肝臓の灰白色斑が6匹全てに、腹腔癒着が2匹に、脾臓の灰白色斑、回腸の膨満がそれぞれ1匹に観察された。試験区2(CCl投与とエキス投与で2週間飼育)では、肝臓の灰白色斑が2匹に、削痩、腹部膨満、脾臓の腫大、十二指腸、空腸、回腸、盲腸および結腸の膨満、腹水貯留、腹腔癒着が1匹に観察された。
【0098】
2週間試験における途中死亡ラットでは、試験区2(CCl投与とエキス投与で2週間飼育)において、口吻部および肛門周囲被毛汚染、腹部膨満、心臓のうっ血、胸腺の萎縮、十二指腸および空腸の膨満、回腸の粘膜赤色斑、盲腸の流動内容物、肝臓および腎臓の混濁、肝臓の灰白色斑、腹水貯留が1匹に観察された。
【0099】
4週間試験の剖検の結果、試験区4(CCl投与で4週間飼育)で、肝臓の灰白色斑が2匹に、回腸の膨満が1匹に観察された。試験区5(CCl投与とエキス投与で4週間飼育)では、腹腔癒着が1匹に観察された。試験区3(エキス投与で4週間飼育)では、肉眼的異常所見はみられなかった。
【0100】
4週間試験における途中死亡ラットでは、試験区5(CCl投与とエキス投与で4週間飼育)において、鼠径部被毛汚染、心臓のうっ血、胸腺の萎縮、肝臓および腎臓の混濁、肝臓の灰白色斑、腹水貯留が3匹全てに、心臓の右心房拡張、胸腺の赤色斑、十二指腸および空腸の膨満、腎臓のうっ血が2匹に、削痩、眼瞼、口吻部および肛門周囲被毛汚染、腹部膨満、盲腸の流動内容物が1匹に観察された。
【0101】
肝臓の病理組織学的検査結果を表6に示す。
【0102】
【表6】

【0103】
2週間試験では、試験区1(CCl投与で2週間飼育)で、被膜の線維化が6匹全てに、細胞浸潤が5匹に、出血が2匹に、肝細胞の変性、小葉中心性の脂肪変性、石灰沈着、肉芽腫がそれぞれ1匹に観察された。試験区2(CCl投与とエキス投与で2週間飼育)では、被膜の線維化が4匹に、細胞浸潤が3匹に、局所性の脂肪化、石灰沈着、髄外造血が1匹に観察された。
【0104】
2週間試験における途中死亡ラットでは、試験区2(CCl投与とエキス投与で2週間飼育)において、被膜の線維化および細胞浸潤が1匹に観察された。
【0105】
4週間試験では、試験区4(CCl投与で4週間飼育)で、被膜の線維化が4匹に、細胞浸潤が3匹に、小葉中心性の脂肪変性が1匹に観察された。試験区5(CCl投与とエキス投与で4週間飼育)では、被膜の線維化が2匹に、細胞浸潤が1匹に観察された。
【0106】
4週間試験における途中死亡ラットでは、試験区5(CCl投与とエキス投与で4週間飼育)において、被膜の線維化が3匹全てに、小葉中心性の脂肪変性および壊死、細胞浸潤がそれぞれ2匹に、小葉中心性の線維化が1匹に観察された。
【0107】
CYP2E1の免疫組織化学的検査結果を表7及び図5に示す。2週間試験および4週間試験ともに、CClのみを投与した試験区(試験区1および4)と比較して、CClとエキスを投与した試験区(試験区2および5)のCYP2E1陽性面積は明らかに低減し、2週間試験では有意に低くなった。
【0108】
【表7】

【0109】
(8)考察
まず、ラットの試験途中での死亡は、CCl4投与に起因する腹膜炎によるものであり、また、剖検および病理組織学的検査において、CCl投与に起因した炎症性、変性性病変を除くと、エキス投与に関連した変化はみられなかった。このことから、ラットの試験途中での死亡および各種臨床症状の発生は、CCl4投与に起因するものと考えられた。
【0110】
また、試験期間中の平均体重の推移において、4週間試験では試験区4(CCl投与で4週間飼育)の体重が試験期間を通じて試験区3(エキス投与で4週間飼育)より有意に低かった。これに対し、試験区5(CCl投与とエキス投与で4週間飼育)では試験1日目および7日目まで有意に低下したものの、その後は試験区3との間に有意差はみられなかった。この結果から、エキスの投与がCCl投与による体重減少を抑制する効果があることを示唆していると考えられた。
【0111】
さらに、血液生化学的検査において、2週間試験では、試験区1(CCl投与で2週間飼育)に比較して試験区2(CCl投与とエキス投与で2週間飼育)のASTが低く、γ−GTが高かった。4週間試験では、試験区4(CCl投与で4週間飼育)に比較して試験区5(CCl投与とエキス投与で4週間飼育)のAST、ALTおよびγ−GTが低い値となった。これらの結果から、エキス投与によってASTおよびALTを低減できることがわかった。
【0112】
また、CYP2E1免疫組織化学的検査において、2週間試験および4週間試験ともに、CClのみを投与した試験区(試験区1および4)と比較して、CClとエキスを投与した試験区(試験区2および5)のCYP2E1陽性面積は明らかに低減し、2週間試験では有意に低くなった。この結果から、エキス投与によりCYP2E1を減少させる効果があると考えられた。
【0113】
ここで、ラットにCCl4を投与した場合、体重減少、肝臓の線維化および癒着、γ−GTの増加が引き起こされることが知られている(参考文献4、参考文献5)。また、CCl4が肝臓で代謝される際CYP2E1は主要な代謝酵素として働き、生成されたCCl3が肝障害を誘導することが報告されている(参考文献6)。
・参考文献4:R. A. Pierce, M.R. Glauq, R.S. Greco, J.W. Mackenzie, C.D. Boyd and S.B. Deak (1987): Increased procollagen mRNA levels in carbon tetrachloride-induced liver fibrosis in rats, J. Biol. Chem., 262, 1652-1658.
・参考文献5:I. D. Capel., M. Jenner, H.M. Dorrell and D.C. Williams (1979): Hepatic function assessed (in Rats) during chemotherapy with some anti-cancer drugs, Clin. Chem., 25, 1381-1383.
・参考文献6:F. W. Wong, W.Y. Chan and S.S. Lee (1998): Resistance to carbon tetrachloride-induced hepatotoxicity in mice which lack CYP2E1 content, Toxicol. Appl. Pharmacol., 153, 109-118.
【0114】
本実施例では、エキス投与により、体重減少抑制効果がみられ、肝障害マーカーであるASTおよびALTの低下が認められ、4週間経過後にはγ−GTの低下も認められた。また、CCl4が肝障害を発揮する上で重要な因子であるCYP2E1においても早期の減少がみられた。
【0115】
以上の結果から、エキス10mL/kg/日の反復経口投与はCCl4投与による急性肝障害に対し回復を促進する作用があることがわかった。
【0116】
(実施例3)
肝障害をもたらす代表的な物質の一つであり、CClと比較して毒性の低いエタノールを投与して緩やかな慢性肝障害を誘発させたラットに対し、ムラサキイガイエキスを与え、肝障害の回復に与える効果を検証した。
【0117】
(1)試験用ラット
実施例1と同じ系統で、5週齢の雄を35匹購入し、試験用ラットとした。購入時の体重は120〜140gであった。試験開始までの飼育方法は実施例1と同様とした。
【0118】
(2)被検物質
実施例2で用いたムラサキイガイエキスを被検物質とした。
【0119】
(3)基礎飼料
実施例1と同様とした。
【0120】
(4)被検物質の投与方法
実施例1と同様とした。
【0121】
(5)試験方法
以下の5つの試験区を設定した。試験期間は13週間とした。
・試験区1:対照区
・試験区2:エタノール投与区
・試験区3:エタノール+エキス1mL/kg投与区
・試験区4:エタノール+エキス3mL/kg投与区
・試験区5:エタノール+エキス10mL/kg投与区
【0122】
試験区1(対照区)では、自由摂餌条件下とした以外は条件を設定しなかった(無処理)。
【0123】
試験区2(エタノール投与区)では、エタノール(関東化学、特級99.5%品)を注射用水で30%(体積%)に希釈し、1日1回、午前のほぼ同じ時間に経口投与用胃管を用いて10mL/kg・体重を投与した。
【0124】
試験区3(エタノール+エキス1mL/kg投与区)では、エタノールを試験区2と同様の方法で与え、且つエタノール投与約2時間後(午前中)に、1mL/kg・体重のエキス原液を実施例1と同様の方法で投与した。
【0125】
試験区4(エタノール+エキス3mL/kg投与区)では、エタノールを試験区2と同様の方法で与え、且つエタノール投与約2時間後(午前中)に、3mL/kg・体重のエキス原液を実施例1と同様の方法で投与した。
【0126】
試験区5(エタノール+エキス10mL/kg投与区)では、エタノールを試験区2と同様の方法で与え、且つエタノール投与約2時間後(午前中)に、10mL/kg・体重のエキス原液を実施例1と同様の方法で投与した。
【0127】
試験には6週齢のラットを用いた。ラットの配分は以下の通りとした。また、試験開始時のラットの体重範囲は203〜237gであった。
・試験区1:6匹
・試験区2:6匹
・試験区3:6匹
・試験区4:6匹
・試験区5:6匹
【0128】
試験設備、給餌方法および飲料水の供給方法は実施例1と同様とした。但し、試験設備のトラブルにより、7日目以降はセミバリアーシステム下の飼育室(3号棟飼育室31)にラットを移動し飼育した。この飼育室の室温は20〜25℃、湿度は30〜70%、換気回数は8回転/時以上(オールフレッシュエアー)、照明時間は7時〜19時の12時間に設定した。試験期間中、飼育室の温度は21℃〜24℃、湿度は40%〜68%と設定範囲内にあり、飼育室の変更による問題はないものと考えられた。
【0129】
死亡の有無の確認、一般状態の観察、体重ならびに摂餌量の測定は、実施例1と同様とした。
【0130】
13週間経過後、全てのラットについて、ジエチルエーテルによる麻酔を行い、腹大動脈から採血して安楽死させた後に剖検した。また、肝臓重量を測定し、同時に剖検直前に測定した体重に基づいて体重比を算出した。
【0131】
血液の生化学的検査項目、分析方法は実施例2と同様とした。
【0132】
剖検動物について、心臓、脾臓、胸腺、肺(含気管支)、肝臓、腎臓(左右)、副腎(左右)、肉眼的病変部を、10%中性緩衝ホルマリンで固定し保存した。全ての剖検動物について、肝臓の一部(内側右葉)を採取し、直ちに液体窒素に浸漬して凍結し、−70℃以下で冷凍保存した。肝臓(外側左葉2ヶ所、内側右葉1ヶ所、方形葉1ヶ所)をパラフィン包埋した後、常法によりヘマトキシリン・エオジン染色標本を作製して、病理組織学的検査を実施した。肝臓組織については、実施例2と同様に、CYP2E1陽性面積(%)を算出した。
【0133】
(6)検定方法
実施例1と同様とした。
【0134】
(7)試験結果
試験区4(エタノール+エキス3mL/kg投与区)において試験5週目に1匹の死亡が確認された。試験終了時の試験区1〜5の累積死亡率はそれぞれ0.0%、0.0%、0.0%、16.7%および0.0%であった。
【0135】
一般状態(外見)観察の結果、エタノール投与区では、試験13週目に腹部糜爛が1匹で観察されたが、それ以外には試験期間中に異常は観察されなかった。途中死亡ラットについても観察期間中(5週間)に異常は観察されなかった。
【0136】
平均体重の推移を図6に示す。平均体重は、試験期間を通して、試験区3(エタノール+エキス1mL/kg投与区、図6中の△)で低く、試験区1(対照区、図6中の○)で高い傾向がみられた。
【0137】
平均摂餌量の推移を図7に示す。平均体重の推移と同様に、試験区3(エタノール+エキス1mL/kg投与区、図7中の△)で低く、試験区1(対照区、図7中の○)で高い傾向がみられた。また、試験区3の摂餌量は、試験区2(エタノール投与区、図7中の◇)に比べて有意に低い値で推移した。尚、試験区1(対照区、図7中の○)に対し、試験区2(エタノール投与区、図7中の◇)では試験4、6〜9、11および12週目、試験区3(エタノール+エキス1mL/kg投与区、図7中の△)では試験1、4〜13週目、試験区4(エタノール+エキス3mL/kg投与区、図7中の□)では試験7週目、試験区5(エタノール+エキス10mL/kg投与区、図7中の×)では試験6〜9、11、12週目で有意に低い値となった。
【0138】
血液生化学的検査結果を表8に示す。ASTおよびALTは、試験区1(対照区)に比べ試験区2(エタノール投与区)で高くなった。一方、エタノールとエキスを投与した試験区3〜5では、エキスの投与量によらず、試験区2(エタノール投与区)さらには試験区1(対照区)と比べても低い値となった。また、γ−GTは、試験区1(対照区)、試験区2(エタノール投与区)および試験区4(エタノール+エキス3mL/kg投与区)でほぼ同じ値となり、試験区3(エタノール+エキス1mL/kg投与区)および試験区5(エタノール+エキス10mL/kg投与区)では著しく高い値となった。A/Gについても同様の経口が認められ、試験区1(対照区)および試験区2(エタノール投与区)に対し、エタノールとエキスを投与した試験区3〜5では、エキス投与量によらず高くなる傾向があった。TP、ALBとも試験区間でほぼ同等の値となった。
【0139】
【表8】

【0140】
肝臓重量および体重比(肝臓重量/体重)に関する結果を表9に示す。肝臓重量は試験区間で同等の値を示した。体重比については、試験区1(対照区)で試験区2〜5に比べ僅かに低かった。
【0141】
【表9】

【0142】
剖検の結果、試験区1(対照区)において腎臓の一側性の嚢胞が1匹に観察された。試験区2(エタノール投与区)では、肝臓の赤色斑が1匹に、腹部糜爛が1匹に観測された。途中死亡ラットでは、肺のうっ血、肝臓のうっ血および腫大が観察された。
【0143】
肝臓については、試験区1(対照区)において微小肉芽腫が1匹に観察された。試験区2(エタノール投与区)では、血管拡張が1匹に、微小肉芽腫が1匹に観察された。試験区4(エタノール+エキス3mL/kg投与区)では、局所性の壊死が1匹に観察された。試験区5(エタノール+エキス10mL/kg投与区)では、微小肉芽種が1匹に観察された。途中死亡ラットの肝臓については、うっ血、小葉中心性の脂肪化および肝細胞変性が観察された。
【0144】
CYP2E1の免疫組織化学的検査結果を表10に示す。試験区1(対照区)で他より若干低くなる傾向にあり、試験区3(エタノール+エキス1mL/kg投与区)及び試験区4(エタノール+エキス3mL/kg投与区)で試験区2(エタノール投与区)よりも若干増加する傾向が見られたものの、試験区間に有意な違いはなかった。
【0145】
【表10】

【0146】
(8)考察
ラットにおけるエタノール投与の影響については体重減少、AST、ALTおよびγ−GTの増加、肝臓の脂肪化、壊死、炎症および線維化、エタノールの代謝酵素の1種であるCYP2E1タンパクの発現増加が報告されている(参考文献7〜11)。
・参考文献7:J. Wang and R. N. Pierson Jr. (1975): Distribution of zinc in skeletal muscle and liver tissue in normal and dietary controlled alcoholic rats, J. Lab. Clin. Med., 85, 50-58.
・参考文献8:R. Senthilkumar and N. Nalini (2004): Effect of glycine on tissue fatty acid composition in an experimental model of alcohol-induced hepatotoxicity, Clin. Exp. Pharmacol. Physiol., 31, 456-461.
・参考文献9:N. Enomoto, S. Yamashina, H. Kono, P. Schemmer, C.A. Rivera, A. Enomoto, T. Nishiura, T. Nishimura, D.A. Brenner and R.G. Thurman (1999): Development of a new, simple rat model of early alcohol-induced liver injury based on sensitization of Kupffer cells, Hepatology, 29, 1680-1689.
・参考文献10:B. Y. Wang, X.H. Ju, B.Y. Fu, J. Zhang and Y.X. Cao (2005): Effects of ethanol on liver sinusoidal endothelial cells-fenestrae of rats. Hepatobiliary Pancreat, Dis. Int., 4, 422-425.
・参考文献11:A. Zerilli, D. Lucas, Y. Amet, F. Beauge, A. Volant, H.H. Floch, F. Berthou and J.F. Menez (1995): Cytochrome P-450 2E1 in rat liver, kidney and lung microsomes after chronic administration of ethanol either orally or by inhalation. Alcohol and Alcoholism, 30, 357-365.
【0147】
本実施例では、エタノール投与により体重、摂餌量の減少およびAST、ALTの増加、さらにはCYP2E1の僅かな増加が観察された。このことから、エタノール投与による慢性肝障害を生じている可能性が考えられた。
【0148】
平均体重および平均摂餌量の推移については、試験区3(エタノール+エキス1mL/kg投与区)で最も低い値で推移したものの、試験区間において有意差はみられず、エキス投与との関連性は明らかとはならなかった。
【0149】
臨床症状については、試験区2(エタノール投与区)では、1匹で腹部糜爛が試験13週目に観察されたが、この臨床症状とエタノール投与との関連性は低いものと考えられた。途中死亡ラットの1匹では臨床症状は観察されなかった。剖検および病理組織学的検査において、エキス投与に関連した変化はなかったことから、自然発生あるいは偶発的に生じたものであると考えられた。
【0150】
血液生化学的検査では、試験区1(対照区)に比べ試験区2(エタノール投与区)のAST、ALTが著しく高く、また、γ−GTには違いがなかった。一方、エタノールとエキスを投与した試験区3〜5では、AST、ALT何れも試験区1(対照区)よりも低い値となっており、エキスの併用がエタノール投与による肝障害に対して効果があることが示唆された。γ−GTおよびA/Gについては、エキス投与との関連性は不明であった。
【0151】
本実施例では、エタノール投与により体重、摂餌量の減少およびAST、ALTの増加、さらにはCYP2E1の僅かな増加が観察された。エタノールにエキスを併用した場合、体重や摂餌量には影響を与えず、また、CYP2E1およびγ−GTに対する効果は明確にはならなかったものの、肝障害マーカーであるASTおよびALTの顕著な低下が認められた。
【0152】
以上の結果から、エキスの反復経口投与はエタノール投与による慢性肝障害に対し肝機能を保護する作用、改善する作用があることがわかった。
【0153】
(実施例4)
実施例3とはラットに投与するエタノール濃度を変えて試験を実施した。
【0154】
(1)試験用ラット
実施例1と同じ系統で、5週齢の雄を62匹購入し、試験用ラットとした。購入時の体重は121〜151gであった。試験開始までの飼育方法は実施例1と同様とした。
【0155】
(2)被検物質
ムラサキイガイエキスを被検物質とした。但し、ムラサキイガイは2008年5月に実施例1と同様のルートで入手したものを用いた。
【0156】
(3)基礎飼料
実施例1と同様とした。
【0157】
(4)被検物質の投与方法
実施例1と同様とした。
【0158】
(5)試験方法
以下の4つの試験区を設定した。
・試験区1:対照区
・試験区2:エタノール投与区
・試験区3:エタノール+エキス3mL/kg投与区
・試験区4:エタノール+エキス10mL/kg投与区
【0159】
試験区1(対照区)では、自由摂餌条件下とした以外は条件を設定しなかった(無処理)。
【0160】
試験区2(エタノール投与区)では、エタノール(関東化学、特級99.5%品)を注射用水で希釈し、1日1回、午前のほぼ同じ時間に経口投与用胃管を用いて10mL/kg・体重を投与した。尚、エタノールは、最初の4週間では濃度30%(体積%)で投与し、次の4週間では濃度40%(体積%)で投与し、次の4週間では濃度50%(体積%)で投与し、最後の1週間はエタノール投与を行わなかった。
【0161】
試験区3(エタノール+エキス1mL/kg投与区)では、試験区2と同様の方法でエタノールを投与した。また、エタノール投与約2時間後(午前中)に、3mL/kg・体重のエキス原液を実施例1と同様の方法で投与した。但し、最後の1週間はエキス投与を行わなかった。
【0162】
試験区4(エタノール+エキス3mL/kg投与区)では、試験区2と同様の方法でエタノールを投与した。また、エタノール投与約2時間後(午前中)に、10mL/kg・体重のエキス原液を実施例1と同様の方法で投与した。但し、最後の1週間はエキス投与を行わなかった。
【0163】
試験には6週齢のラットを用いた。ラットの配分は以下の通りとした。また、試験開始時のラットの体重範囲は217〜251gであった。
・試験区1:10匹
・試験区2:10匹
・試験区3:10匹
・試験区4:10匹
【0164】
試験設備、給餌方法および飲料水の供給方法は実施例1と同様とした。
【0165】
死亡の有無の確認、一般状態の観察、体重ならびに摂餌量の測定は、実施例1と同様とした。
【0166】
13週間経過後、全てのラットについて、ジエチルエーテルによる麻酔を行い、腹大動脈から採血して安楽死させた後に剖検した。また、肝臓重量を測定し、同時に剖検直前に測定した体重に基づいて体重比を算出した。
【0167】
血液の生化学的検査項目、分析方法は実施例2と同様とした。
【0168】
剖検動物について、心臓、脾臓、胸腺、肺(含気管支)、肝臓、腎臓(左右)、副腎(左右)、肉眼的病変部を、10%中性緩衝ホルマリンで固定し保存した。全ての剖検動物について、肝臓の一部(内側右葉)を採取し、直ちに液体窒素に浸漬して凍結し、−70℃以下で冷凍保存した。肝臓(外側左葉2ヶ所、内側右葉1ヶ所、方形葉1ヶ所)をパラフィン包埋した後、常法によりヘマトキシリン・エオジン染色標本を作製して、病理組織学的検査を実施した。肝臓組織については、実施例2と同様に、CYP2E1陽性面積(%)を算出した。
【0169】
(6)検定方法
実施例1と同様とした。
【0170】
(7)実験結果
試験区1(対照区)において試験期間中に2匹の死亡が確認されたが、他の個体の死亡は確認されなかった。
【0171】
一般状態(外見)観察の結果、試験区2(エタノール投与区)では1匹で口吻部被毛汚染が試験9および10週目に、1匹で局所脱毛が試験12および13週目に観察された。
【0172】
平均体重の推移を図8に示す。試験区1(対照区、図8中の○)と比べて試験区2(エタノール投与区、図8中の◇)えは、試験9、10週目で有意に低い値を示した。また、試験終了時の体重は、試験区2(エタノール投与区、図8中の◇)と比べて、試験区1(対照区、図8中の○)、試験区3(エタノール+エキス3mL/kg投与区、図8中の△)および試験区4(エタノール+エキス10mL/kg投与区、図8中の□)で高い値となった。
【0173】
平均摂餌量の推移を図9に示す。試験区1(対照区、図9中の○)と比べて、試験区2(エタノール投与区、図9中の◇)では、試験1、5〜7、9、12週目で、試験区3(エタノール+エキス3mL/kg投与区、図9中の△)では試験1、6、9、12週目で、試験区3(エタノール+エキス10mL/kg投与区、図9中の□)では試験1、3、5〜12週目で有意に低い摂餌量となった。試験期間中の平均摂餌量は、試験区1(対照区)で他よりも有意に高かった。
【0174】
血液生化学的検査結果を表11に示す。試験区2(エタノール投与区)と比較して、試験区3(エタノール+エキス3mL/kg投与区)のALBは有意に高かった。また、試験区1(対照区)と比べて、試験区2(エタノール投与区)、試験区3および4(エタノール+エキス投与区)のTPは有意に低い値を示した。ASTおよびALTでは、試験区2(エタノール投与区)と比べて、試験区1(対照区)と試験区3および4(エタノール+エキス投与区)で低い値となった。一方、γ−GTは、試験区2(エタノール投与区)が他に比べ低かった。A/Gでも同じ傾向が認められた。
【0175】
【表11】

【0176】
肝臓重量および体重比(肝臓重量/体重)に関する結果を表12に示す。肝臓の重量および体重比には試験区間での有意な違いはなかった。
【0177】
【表12】

【0178】
剖検の結果、試験区1(対照区)において肺の赤色斑が2匹に観察された。試験区2(エタノール投与区)において肝臓の黄色化が2匹に、混濁が1匹に、局所脱毛が1匹に観察された。試験区3(エタノール+エキス3mL/kg投与区)において肝臓の腫大が1匹に観察された。試験区4(エタノール+エキス10mL/kg投与区)において肝臓の黄色化が1匹に、胃の粘膜赤色斑が1匹に観察された。
【0179】
また、肝臓については、微小肉芽腫が試験区1(対照区)において1匹に観察された。小葉周辺性の脂肪化が試験区2(エタノール投与区)において2匹に、試験区3(エタノール+エキス3mL/kg投与区)において2匹に、試験区4(エタノール+エキス10mL/kg投与区)において1匹に観察された。
【0180】
CYP2E1の免疫組織化学的検査結果を表12に示す。試験区1(対照区)と比べて、試験区2(エタノール投与区)、試験区3および4(エタノール+エキス投与区)のCYP2E1陽性面積は明らかな増加がみられた。その他の投与区間で有意な違いはなかったが、エキスの有無に関わらず、エタノールによりCYP2E1陽性面積が増加した。
【0181】
【表13】

【0182】
(8)考察
試験区1(対照区)と比較すると試験区2(エタノール投与区)では体重と摂餌量の減少、ASTおよびALTの増加、γ−GTの減少がみられ、エタノール投与による慢性肝障害を生じている可能性が考えられた。
【0183】
試験区2(エタノール投与区)のラットにおいて観察された口吻部被毛汚染については、エタノール投与との関連性は低いものと考えられた。
【0184】
体重は、試験区2(エタノール投与区)に比べて、試験区1(対照区)や試験区3および4(エタノール+エキス投与区)で高く、エキスの投与がエタノール投与による体重減少を軽減していることを示している。なお、エキス投与は摂餌量には影響を与えなかった。
【0185】
血液生化学的検査では、ASTおよびALTは、試験区2(エタノール投与区)と比べて、試験区1(対照区)および試験区3および4(エタノール+エキス投与区)で低く、γ−GTは逆に試験区2(エタノール投与区)で低くなった。なお、この様な傾向は、別途飼育したラットの5週目、9週目にも認められ、エキスの摂取が、エタノール投与による肝障害に対して保護作用ないしは改善作用があることを示している。ALB、A/Gの変化とエキス投与との関連性は不明であった。
【0186】
剖検および病理組織学的検査においては、エキス投与に関連した変化はなく、エタノール投与、或いは自然発生あるいは偶発的に生じた変化であると考えられた。
【0187】
また、肝臓のCYPE2E1免疫組織化学的検査では、試験区1(対照区)と比較して、試験区2(エタノール投与区)および試験区3および4(エタノール+エキス投与区)のCYP2E1陽性面積が増加する傾向が認められ、エタノールの摂取によりCYP2E1の発現が増加したものと考えられた。
【0188】
以上の結果から、エキスの経口投与はエタノール投与による慢性肝障害に対し肝機能を保護する作用ないしは改善する作用があることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムラサキイガイ軟体部及びムラサキイガイエキスの少なくともいずれかを有効成分として含有することを特徴とする肝機能亢進剤。
【請求項2】
ムラサキイガイ軟体部及びムラサキイガイエキスの少なくともいずれかを含有する肝機能亢進作用を有する機能性食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−37790(P2011−37790A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187852(P2009−187852)
【出願日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】