説明

肝癌、肝芽腫及び膵癌の治療剤

【課題】肝癌、肝芽腫及び膵癌に有効な癌の治療剤を提供する。
【解決手段】frizzled-2の発現及び/又は機能を抑制する作用を有する化合物を含有する。frizzled-2の発現及び/又は機能を抑制する作用を有する化合物は、frizzled-2に対するsiRNAである。また、frizzled-2の発現及び/又は機能を抑制する作用を有する化合物は、frizzled-2に対するshRNAである。肝癌、膵癌細胞株としてHep3B、MIA-Paca2を選択し、Cyclin D1の発現量を解析したところ各細胞株ともにCyclin D1の発現量が減少した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種類の癌に有効な癌の治療剤に関し、より具体的には肝癌、肝芽腫及び膵癌に有効な癌の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
原発性重複癌は1889年にBillrothらにより初めて報告された。診断技術の進歩、治療成績の向上、平均寿命の延長等に伴って、近年では原発性多重癌はまれなものとはいえなくなってきている。例えば、肝癌及び膵癌は高齢化社会を迎え増加傾向にあり、両者の原発性重複癌の症例が散見される。
【0003】
また、肝芽腫は小児の肝臓に発生する悪性腫瘍であり、肝臓の発生過程の異常が原因と考えられる。肝癌はB型又はC型肝炎ウイルスの持続感染が原因と考えられる。このように肝芽腫と肝癌とは発生原因が異なるものであるが、肝芽腫と肝癌とは類似するため鑑別診断が困難なことがある。
【0004】
受容体frizzled(以下、Fzと略称する。)は、構造及び機能の相同性に基づいてヒトで10種類のメンバーが存在する。Fzは細胞表面受容体であり、Wntリガンドの作用を媒介する。Fzは発癌及び胚発生に関与することが知られている。その発現は例えば大腸癌、胃癌及び腎細胞癌で増強している。このことからFzが発癌に関連する可能性が高いことが示唆される。
【0005】
Fzの発現を抑制することにより腫瘍増殖が抑制されたことが報告されている。例えば、特許文献1には、Fz10に対するsiRNAを用いた滑膜肉腫の治療方法が記載されている。また、非特許文献1には、Fz7に対するsiRNAを大腸癌に導入することにより大腸癌の増殖を抑制する方法が報告されている。また、特許文献2には、Wntリガンドを過剰発現する癌細胞を、WntリガンドとFzの結合を阻害する作用物質と接触させることにより、その増殖を抑制する方法が記載されている。
【0006】
非特許文献2では、肝細胞癌において、その周囲の非腫瘍組織と比較して、Fz3、Fz6、Fz7の発現増強が報告されている。また、非特許文献3では、Fz7トランスジェニックマウスの肝臓では肝細胞癌が発生することが報告されている。
【0007】
また、特許文献3には、膵臓癌細胞の成長を阻害するのに有効な量のFz4、Fz5、又はFz8を含む可溶性受容体を被検体に投与する膵癌の処置方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2008−509076号公報
【特許文献2】特表2006−516259号公報
【特許文献3】特表2009−515513号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ウエノ(Ueno K.)ら、「Frizzled-7 as a potential therapeutic target in colorectal cancer」、ネオプラジア(Neoplasia)、2008年、第10巻、p.697-705
【非特許文献2】ベンゴキア(Bengochea A.)ら、「Common dysregulation of Wnt/Frizzled receptor elements in humanhepatocellular carcinoma」、ブリティッシュ ジャーナル オブ キャンサー(British Journal of Cancer)、2008年、第99巻、p.143-150
【非特許文献3】マール(Merle P.)ら、「Functional consequences of frizzled-7 receptor overexpression in human hepatocellular carcinoma」、ガストロエンテロロジー、2004年、第127巻、p.1110-1122
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上述の腫瘍増殖の抑制手法は、肝癌及び膵癌の原発性重複癌の症例に有効なものではない。また肝芽腫に対しても有効なものではない。
【0011】
本発明は斯かる問題点に鑑みてなされたものであって、肝癌、肝芽腫及び膵癌に有効な癌の治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の肝癌、肝芽腫及び膵癌の治療剤は、frizzled-2の発現及び/又は機能を抑制する作用を有する化合物を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、肝癌及び膵癌に共通の治療方法が得られるので、患者の精神的及び肉体的負担を軽減させてこれらの原発性重複癌の症例を改善することができる。また、肝芽腫と肝癌との鑑別診断が困難な症例であっても、肝芽腫及び肝癌に共通の治療方法が得られるので、的確な腫瘍治療が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1におけるRT-PCRの結果を示す図であり、そのうち(a)は肝癌及び肝芽腫の結果であり、(b)は膵癌の結果である。
【図2】実施例2におけるMTSアッセイの結果を示す図であり、そのうち(a)はHep3Bの結果であり、(b)はHuh-6の結果であり、(c)はMIA-Paca2の結果である。
【図3】実施例3におけるCyclin D1の発現量解析結果を示す図であり、そのうち(a)はHep3Bの結果であり、(b)はMIA-Paca2の結果である。
【図4】実施例4におけるMIA-Paca2のルシフェラーゼ・アッセイの結果を示す図である。
【図5】実施例5におけるMTSアッセイの結果を示す図であり、そのうち(a)はHep3Bの結果であり、(b)はHuh-6の結果であり、(c)はMIA-Paca2の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0016】
本発明に斯かる肝癌、肝芽腫及び膵癌の治療剤は、frizzled-2の発現及び/又は機能を抑制する作用を有する化合物を含有する。Fz2として、配列番号1に記載の塩基配列で表されるヒト由来のDNAによりコードされるタンパク質を例示できる。Fz2は、配列番号1に記載の塩基配列で表されるヒト由来のDNAによりコードされるタンパク質に制限されず、このDNAと配列相同性を有するDNAによりコードされるタンパク質であって、Fz2と同様の生物学的機能を有するタンパク質も含まれる。塩基配列の配列相同性は、塩基配列全体のうち少なくとも80%である。好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上である。
【0017】
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAと配列相同性を有するDNAには、塩基配列において、1個以上、例えば1〜300個、好ましくは1〜60個、更に好ましくは1〜30個、特に好ましくは1〜10個のヌクレオチドの欠失、置換、付加又は挿入といった変異がある塩基配列で表されるDNAが含まれる。変異の程度及び位置は、変異を有するDNAによりコードされるタンパク質が、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされるタンパク質と同様の配列相同性及び生物学的機能を有するものである限り特に限定されない。
【0018】
また、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNA、本DNAと配列相同性を有するDNA、及び本DNAの塩基配列において変異が存する塩基配列で表されるDNAからなる群より選ばれるDNAを含むDNAについても、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAと相同性を有するDNAに含まれる。
【0019】
Fz2の発現とは、Fz2をコードするDNAの遺伝子情報がFz2 mRNAに転写されること、又は、mRNAに転写され、且つFz2のアミノ酸配列として翻訳されることを意味する。
【0020】
Fz2の発現を抑制するとは、Fz2をコードするDNAの遺伝子情報がmRNAに転写される過程、又は、mRNAに転写され、且つFz2のアミノ酸配列として翻訳される過程で生じる反応を妨げることにより、Fz2をコードする遺伝子の転写・翻訳によるFz2の生成を低減させることを意味する。
【0021】
Fz2の発現の抑制は、Fz2の発現を抑制する作用を有する化合物を用いて実施できる。例えば、Fz2の発現を特異的に抑制する作用を有する低分子量化合物である。Fz2の発現を特異的に抑制するとは、Fz2の発現を強く抑制するが、他のタンパク質の発現は抑制しないか、弱く抑制することを意味する。低分子量化合物は、ペプチド、ポリペプチド、核酸、有機化合物及び無機化合物である。この低分子量化合物の分子量は、例えば7000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは500以下の化合物である。
【0022】
Fz2の発現を抑制する作用を有する化合物として、例えばFz2の発現をRNA干渉の手法により低下又は消失させる作用を有するsiRNA(small interfering RNA)を例示できる。siRNAは標的遺伝子のmRNAを分解してその発現を抑制する短鎖二重鎖RNAである。
【0023】
Fz2の発現を抑制する作用を有するsiRNAは、Fz2遺伝子の部分配列からなるRNA(センス鎖)と該RNAの塩基配列に相補的な塩基配列からなるRNA(アンチセンス鎖)とを、該遺伝子のmRNAの配列に基づいて設計し、化学合成法により合成し、得られた両RNAをアニーリングさせることで製造することができる。siRNAを構成するセンスRNA及びアンチセンスRNAは、各々20個から30個のヌクレオチドからなることが好ましい。また、各々3'末端に、オーバーハング配列と呼ばれるヌクレオチドを結合させることが好ましい。オーバーハング配列はRNAをヌクレアーゼから保護する作用を有する。
【0024】
Fz2の発現を抑制する作用を有するsiRNAとして、該siRNAの二重鎖RNA部分が配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなるsiRNAがあげられる。Fz2に対するsiRNAはFz2の発現を低下させるので、細胞外ドメインでいかなるligandとの結合も起きず、Fz2以下の細胞内刺激伝達系は不活性のままである。siRNAを用いるとFz2の発現が低下するので、これら細胞外ドメインとの相互作用も抑制される。即ちsiRNAを用いるとWntとの結合が阻害されることはもとより、その他のタンパク質との結合、相互作用が阻害される。このようにFz2の特定の作用点を阻害するのではなく、Fz2そのものの発現を消失させてしまうので、Fz2の発現抑制が効果的に行われる。後述のshRNAは細胞内で代謝されてから作用するので効果が発現するのが遅いが、siRNAは効果の発現が比較的早いという利点がある。
【0025】
また、Fz2の発現を抑制する作用を有する化合物として、shRNAを例示できる。shRNAは、ヘアピン構造を有する短鎖二重鎖RNAであり、siRNAと同様、RNA干渉により遺伝子の発現を抑制する。shRNAは、センスRNAとアンチセンスRNAとが例えばオリゴヌクレオチド等により連結され、センスRNA由来部分とアンチセンスRNA由来部分が二重鎖を形成するため、ヘアピン様構造を有する。shRNAは、センスRNAとアンチセンスRNAに加え、これら2つのRNAを連結し且つループ構造を形成するようなオリゴヌクレオチドを含むRNAを、Fz2をコードする遺伝子のmRNAの塩基配列に基づいて設計して製造できる。好ましくは、センスRNAの3'末端とループ構造を形成するオリゴヌクレオチドの5'末端とが結合し、更にループ構造を形成するオリゴヌクレオチドの3'末端とアンチセンスRNAの5'末端とが結合したオリゴヌクレオチドである。ループ構造を形成するオリゴヌクレオチドとは、センスRNAとアンチセンスRNAの間に存在して両RNAを連結でき、それ自体がループ構造を形成するものを意味する。ヘアピン構造を有する二重鎖は、センスRNA由来部分とアンチセンスRNA由来部分とをアニーリングすることにより形成できる。
【0026】
Fz2の発現を抑制する作用を有するshRNAとして、該shRNAの二重鎖RNA部分が配列番号3記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなるshRNAがあげられる。shRNAは細胞内で転写された後に代謝され、最終的にsiRNAになるので、上述したsiRNAと同様の理由によりFz2の発現を低下させる。また、shRNAはプラスミドであるため比較的容易に増殖させやすく、また安定性を有しているため取り扱いが容易であるという利点がある。
【0027】
siRNAを高効率で長期に細胞中で発現させるには、siRNAを含む発現ベクターを用いて細胞内に導入する方法が好ましい。Fz2の発現を抑制する作用を有するsiRNAを処置対象内で発現可能な発現ベクターは、Fz2の発現を抑制する作用を有する化合物として好ましく使用できる。一般的には、U6プロモータを使用したヘアピン型RNA発現ベクターがよく用いられている。
【0028】
Fz2の発現を抑制する作用を有するsiRNAを処置対象内で発現可能な発現ベクターは、具体的には、発現ベクターのプロモータの下流に、少なくとも、ライゲーション用制限酵素サイト、配列番号2に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに転写されるDNA塩基配列、ループ配列、配列番号2に記載の塩基配列の相補的塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに転写されるDNA塩基配列、ターミネータ配列、及びライゲーション用制限酵素サイトをこの順序で含む合成DNAが挿入された発現ベクターである。
【0029】
また、shRNAを高効率で長期に細胞中で発現させるには、shRNAを含む発現ベクターを用いて細胞内に導入する方法が好ましい。Fz2の発現を抑制する作用を有するshRNAを処置対象内で発現可能な発現ベクターは、Fz2の発現を抑制する作用を有する化合物として好ましく使用できる。
【0030】
Fz2の機能とは、Fz2が備えている生物学的機能を意味する。Fz2の生物学的機能として、Wntリガンドの受容体としての機能、即ち、Wntリガンドと結合する機能、Wntリガンドの結合による刺激を細胞内に伝達する機能、及び、その結果Wntリガンドの作用により生理機能を発現させる機能を例示できる。
【0031】
Fz2の機能を抑制するとは、Fz2が備えている生物学的機能を低減又は消失させることを意味する。具体的には、Fz2の機能を抑制するとは、例えばFz2とWntリガンドとの結合機能及び/又はFz2の細胞内刺激伝達機能を抑制することを意味する。
【0032】
Fz2の機能の抑制は、Fz2の機能を抑制する作用を有する化合物を用いて実施できる。例えば、Fz2の発現を特異的に抑制する作用を有する低分子量化合物である。Fz2の機能を特異的に抑制するとは、Fz2の機能を強く抑制するが、他のタンパク質の機能は抑制しないか、弱く抑制することを意味する。
【0033】
Fz2の機能を抑制する作用を有する化合物として、例えば、Fz2とWntリガンドとの結合を阻害する作用を有する化合物がある。具体的には、Fz2とWntリガンドとが結合する部位のアミノ酸配列からなるポリペプチドを例示できる。このようなポリペプチドは、Fz2又はWntリガンドのアミノ酸配列から設計し、公知のペプチド合成法により合成したものから、Fz2とWntリガンドとの結合を阻害するものを選択することにより取得できる。
【0034】
Fz2とWntリガンドとの結合を阻害する作用を有する化合物として、Fz2又はWntリガンドを認識する抗体であってFz2とWntリガンドとの結合を阻害する抗体及び該抗体のフラグメントを例示できる。
【0035】
Fz2とWntリガンドとの結合を阻害する作用を有する化合物として、Fz2又はWntリガンドを特異的に認識するアプタマーであって、Fz2とWntリガンドの結合を抑制するアプタマーを例示できる。
【0036】
Fz2の発現及び/又は機能を抑制することにより、肝癌及び膵癌の原発性重複癌の症例を改善できる。ここで重複癌とは、同一人に2つ以上の独立した原発腫瘍が発生した場合を意味する。肝癌及び膵癌の原発性重複癌の症例を改善できるとは、肝癌及び膵癌の細胞増殖を抑制することができることを意味する。
【0037】
本発明に係る治療剤は、医薬組成物として調製できる。この場合、有効成分に加えて1種又は2種以上の医薬用担体を含むことが好ましい。医薬組成物中に含まれる有効成分は、例えば0.00001〜80重量%、好ましくは0.0001〜8重量%である。医薬用担体は、製剤の使用形態に応じて使用され、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤及び賦形剤を例示できる。
【0038】
また、所望により安定化剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、界面活性剤等を適宜使用することもできる。
【0039】
安定化剤は、ヒト血清アルブミンや通常のL−アミノ酸、糖類、セルロース誘導体を例示できる。L−アミノ酸は、例えばグリシン、システイン等である。糖類は例えばグルコース、マンノース等の単糖類、マンニトール、イノシトール等の糖アルコール、ショ糖、マルトース等の二糖類、デキストラン、ヒドロキシプロピルスターチ等の多糖類等である。セルロース誘導体は、例えばメチルセルロース、エチルセルロース等である。
【0040】
緩衝剤は、例えばホウ酸、リン酸、酢酸等である。等張化剤は、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム等である。キレート剤は、例えばエデト酸ナトリウム等である。界面活性剤は、イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤のいずれも使用できる。界面活性剤には、例えばポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系等が包含される。
【0041】
医薬組成物の用量範囲は特に限定されず、含有される成分の有効性、投与経路、投与形態、疾患の種類等に応じて選択される。一般的には適当な用量は、例えば対象の体重1kgあたり0.01μg〜100mg程度、好ましくは0.1μg〜1mg程度の範囲である。投与量は1日1回〜数回に分けて投与することができ、数日又は数週間に1回の割合で間欠的に投与してもよい。
【0042】
投与経路は、全身投与又は局所投与のいずれも可能である。非経口経路として、通常の静脈内投与、動脈内投与の他、皮下、筋肉内等への投与を挙げることができる。また経口経路で投与することもできる。更に、経粘膜投与又は経皮投与も可能である。
【0043】
投与形態は、各種の形態が可能である。例えば錠剤、丸剤、散剤、カプセル剤等の固体投与形態や、水溶液製剤、エタノール溶液製剤、懸濁剤、脂肪乳剤、シクロデキストリン等の包接体、シロップ、エリキシル等の液剤投与形態が含まれる。
【0044】
本実施形態に係る治療剤を体内に導入する手法は、特に限定されるものではないが、例えば超音波による導入法を利用することができる。超音波による導入法によれば、細胞組織に対して超音波を照射する際に発生するキャビテーションによって細胞膜に一時的な孔が生成され(sonoporation現象)、この孔を介して導入できる。なお、導入効率を高めるため、マイクロバブルから構成される超音波造影剤を投与して、超音波造影剤が破砕する際に発生するマイクロジェットのsonoporation現象によって遺伝子導入を行なうことが好ましい。更に、好ましくは、リアルタイムに照射野を確認することができる超音波診断装置を使用して導入する。超音波診断装置は、超音波を送信すると共に、反射した超音波を受信する役割を持つプローブと、受信した信号に様々な処理をする処理部と、リアルタイムに画像を表示するディスプレイ部と、を備えて構成される。このような超音波診断装置を使用することにより照射野をモニターしながら導入できるため、目的とする領域のみに本実施形態に係る治療剤を効率的に導入することができる。
【0045】
Fz2の発現を抑制する作用を有する化合物が核酸や発現ベクターである場合、これらのうち少なくとも1つを有効成分として含む遺伝子治療剤を調製することができる。遺伝子治療剤が、遺伝子が導入された細胞を含む形態に調製される場合は、該細胞をリン酸緩衝化生理食塩水、リンゲル液、細胞内組成液用注射剤中に配合した形態等に調製することもできる。遺伝子治療剤は、また、プロタミン等の遺伝子導入効率を高める物質と共に投与されるような形態に調製することもできる。所望の遺伝子を含有するウイルスベクターの投与量は、例えばレトロウイルスベクターであれば1日あたり体重1kgあたりレトロウイルスの力価として約1×103pfuから1×1015pfuである。
【0046】
遺伝子治療剤を用いる治療法は、上記遺伝子を直接体内に導入するインビボ法と、患者の体内より標的とする細胞を一旦取り出して体外で遺伝子を導入して、その後、該細胞を体内に戻すエクスビボ法の両方の方法を包含する。遺伝子の体内又は細胞内への導入法として、非ウイルス性のトランスフェクション法、あるいはウイルスベクターを利用したトランスフェクション方法をいずれも適用できる。
【実施例】
【0047】
(実施例1)
実施例1では各種細胞におけるFz2の発現量の解析を行った。ヒト正常胎児肝、成人肝、膵臓(これらはLonza社がインフォームド・コンセントを得て採取したものを購入した。)と、肝癌細胞株(HLE、HLF、PLC、Huh-7、Hep3B)と、肝芽腫細胞株(Huh-6、HepG2)と、膵癌細胞株(MIA-Paca2、PANC-1、NOR-P1、PK-45H、PK-1、PK-59、KP-4)とを準備し、10%仔牛血清添加DMEM(Sigma社製)に浮遊させ10cm培養皿に播種し、37℃、5%炭酸ガス緩衝下にてインキュベーター内で培養した。RNAを抽出し1×TE緩衝液(Tris-HCl(pH7.5) 10mM, EDTA 1mM)に溶解し、吸光度計を用いて濃度を測定した。そして逆転写酵素(Superscript3 first-strand synthesis system for PCR, Invitrogen社製)を用いてcDNAを作成した。50pgのcDNAを用い、upper primer: 5'-CAA GGT GCC ATC CTA TCT CAG C(配列番号4),lower primer: 5'-GTA GCA GCC CGA CAG AAA AT(配列番号5)なるプライマーにてAmpliTaq DNA polymerase(Applied Biosystems社)を用いてRT-PCRを行った。内部コントロールとして、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)を解析した。
【0048】
結果を図1(a)及び(b)に示す。図1(a)は、肝癌及び肝芽腫RT-PCRの結果である。図1(b)は、膵癌のRT-PCRの結果である。図1に示されるように、多くの細胞株で正常組織よりもFz2の発現が増強している。
【0049】
(実施例2)
実施例2では、肝癌、肝芽腫、膵癌細胞株として、Hep3B、Huh-6、MIA-Paca2を選択し、MTSアッセイ(Promega社)を行った。各細胞株を10%仔牛血清添加DMEMに浮遊させ10cm 培養皿に播種し、37℃、5%炭酸ガス緩衝下にてインキュベーター内で培養した。トランスフェクション前日、0.25% Trypsin-0.53M EDTAを用いて細胞を培養皿からはがし、10%仔牛血清添加DMEMに浮遊させ、Neubauer血球計算板(ミナトメディカル社製)を用いて細胞数を計測し、96孔プレートに、1孔あたり1000個の細胞を100μlに浮遊して播種した。24時間後、siRNAをトランスフェクションした。即ち、siRNAをOpti-MEMに各濃度で溶解したもの100μlと、Lipofectamine2000をOpti-MEMに50倍希釈したもの100μlとを混合し、30分室温で静置し、培地に添加した。72時間後生細胞数をMTSアッセイにより測定した。
3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルフォフェニル)-2H-テトラゾリウム インナー ソルト(3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-5-(3-carboxymethoxyphenyl)-2-(4-sulfophenyl)-2H-tetrazolium inner salt :以下、MTSと称する)を各孔に10μlずつ添加し、更に2時間培養した。490nmの波長を用いた吸光度測定を行った。また、統計解析は一元配置分散分析法(one factor ANOVA)により行った。用いたsiRNAの塩基配列は、ヒトFz2 siRNA : AAACUUGUAGCUGAGAUAGGAUGGC(配列番号2)であった。陰性コントロールとしてのsiRNAは、インビトロージェン社製のステルス性RNAiネガティブコントロールキット メディウムGCを用いた。
【0050】
結果を図2(a)、(b)及び(c)に示す。図2(a)はHep3BのMTSアッセイの結果である。図2(b)はHuh-6のMTSアッセイの結果である。図2(c)はMIA-Paca2のMTSアッセイの結果である。図2に示されるように、各細胞株ともに細胞増殖が抑制されており、特に200nMの濃度で細胞増殖が抑制されている。ここで、MockはsiRNAを添加しない群であり、negaは陰性コントロールのsiRNAであり、A11-20nMはFz2のsiRNA(A11)が20nMの群であり、A11-200nMはFz2のsiRNA(A11)が200nMの群である。
【0051】
(実施例3)
実施例3では、肝癌、膵癌細胞株として、Hep3B、MIA-Paca2を選択し、各種細胞においてCyclin D1の発現量を解析した。Hep3B、MIA-Paca2の培地にFz2のsiRNAを添加し、48時間後にRNAを抽出し、実施例1の手法に準じてcDNAを合成した。SYBR Green Master Mixを用いてリアルタイム定量PCRを行った。内部コントロールとして、ribosomal related protein 19(RLP19)を解析した。Cyclin D1の発現量を解析した。結果を図3(a)及び(b)に示す。図3(a)はHep3Bの解析結果である。図3(b)はMIA-Paca2の解析結果である。図3に示されるように、各細胞株ともにCyclin D1の発現量が減少しており、特に200nMの濃度でCyclin D1の発現量が減少している。ここで、MockはsiRNAを添加しない群であり、negaは陰性コントロールのsiRNAであり、A11-20nMはFz2のsiRNA(A11)が20nMの群であり、A11-200nMはFz2のsiRNA(A11)が200nMの群である。
【0052】
(実施例4)
実施例4では、膵癌細胞株としてMIA-Paca2を選択し、ルシフェラーゼ・アッセイを試みた。MIA-Paca2を24孔プレートに播種し、24時間後、定法によりTOP flash(Millipore社)、FOP flash(Millipore社)を導入した。更に3時間後、定法によりFz2のsiRNAを導入後48時間後にルシフェラーゼ・アッセイ(Promega社)を行った。結果を図4に示す。図4に示されるように、特に200nMでTOP/FOPの低下がみられた。なお、FOPは、TCF/LEF binding siteに変異を入れたTOPであり、Wnt経路を活性化してもFOPでは転写誘導が生じない。
【0053】
(実施例5)
実施例5では、肝癌、肝芽腫、膵癌細胞株として、Hep3B、Huh-6、MIA-Paca2を選択し、MTSアッセイ(Promega社)を行った。各細胞株を10%仔牛血清添加DMEMに浮遊させ10cm 培養皿に播種し、37℃、5%炭酸ガス緩衝下にてインキュベーター内で培養した。トランスフェクション前日、0.25% Trypsin-0.53M EDTAを用いて細胞を培養皿からはがし、10%仔牛血清添加DMEMに浮遊させ、Neubauer血球計算板(ミナトメディカル社製)を用いて細胞数を計測し、96孔プレートに、1孔あたり1000個の細胞を100μlに浮遊して播種した。24時間後、shRNAをトランスフェクションした。即ち、shRNAをOpti-MEMに各濃度で溶解したもの100μlと、Lipofectamine LTXをOpti-MEMに50倍希釈したもの100μlとを混合し、30分室温で静置し、培地に添加した。72時間後生細胞数をMTSアッセイにより測定した。
3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルフォフェニル)-2H-テトラゾリウム インナー ソルト(3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-5-(3-carboxymethoxyphenyl)-2-(4-sulfophenyl)-2H-tetrazolium inner salt :以下、MTSと称する)を各孔に10μlずつ添加し、更に2時間培養した。490nmの波長を用いた吸光度測定を行った。また、統計解析は一元配置分散分析法(one factor ANOVA)により行った。用いたshRNAの塩基配列は、ヒトFz2 shRNA : ACGGACATCGCCTACAACCAGACCATCAT(配列番号3)であった。陰性コントロールとしてのshRNAは、オリジーン(OriGene, Rockville, MD)社製のNon-effective 29-mer scrambled shRNA cassette in pGFP-V-RS Vectorを用いた。
【0054】
結果を図5(a)、(b)及び(c)に示す。図5(a)はHep3BのMTSアッセイの結果である。図5(b)はHuh-6のMTSアッセイの結果である。図5(c)はMIA-Paca2のMTSアッセイの結果である。図5に示されるように、各細胞株ともに細胞増殖が抑制されており、特に1孔あたり100ngの濃度で細胞増殖が抑制されている。ここで、MockはshRNAを添加しない群であり、negaは陰性コントロールのshRNAであり、29-10ngはFz2のshRNA(GI351529)が一孔あたり10ngの群であり、29-100ngはFz2のshRNA(GI351529)が100ngの群である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
肝癌、肝芽腫及び膵癌の治療に有益である。
【配列表フリーテキスト】
【0056】
配列番号2〜3:オリゴヌクレオチド
配列番号4〜5:プライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
frizzled-2の発現及び/又は機能を抑制する作用を有する化合物を含有する肝癌、肝芽腫及び膵癌の治療剤。
【請求項2】
frizzled-2の発現を抑制する作用を有する化合物が、frizzled-2の発現を抑制するsiRNA又はshRNAを有効成分として含有することを特徴とする請求項1に記載の肝癌、肝芽腫及び膵癌の治療剤。
【請求項3】
frizzled-2の発現を抑制する作用を有する化合物が、frizzled-2に対するsiRNAであり、ここで該siRNAの二重鎖RNA部分が配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる請求項2に記載の肝癌、肝芽腫及び膵癌の治療剤。
【請求項4】
frizzled-2の発現を抑制する作用を有する化合物が、frizzled-2に対するshRNAであり、ここで該shRNAの二重鎖RNA部分が配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる請求項2に記載の肝癌、肝芽腫及び膵癌の治療剤。
【請求項5】
frizzled-2の発現を抑制する作用を有する化合物が、frizzled-2に対するsiRNA又はshRNAを処置対象内で発現可能な発現ベクターであることを特徴とする請求項1に記載の肝癌、肝芽腫及び膵癌の治療剤。
【請求項6】
frizzled-2の発現を抑制する作用を有する化合物が、frizzled-2に対するsiRNAを処置対象内で発現可能な発現ベクターであり、ここで該siRNAの二重鎖RNA部分が配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる請求項5に記載の肝癌、肝芽腫及び膵癌の治療剤。
【請求項7】
frizzled-2の発現を抑制する作用を有する化合物が、frizzled-2に対するshRNAを処置対象内で発現可能な発現ベクターであり、ここで該shRNAの二重鎖RNA部分が配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる請求項5に記載の肝癌、肝芽腫及び膵癌の治療剤。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−53114(P2013−53114A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193878(P2011−193878)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】