説明

肝繊維化防止組成物

【目的】肝臓における繊維化進行におけるコラーゲン産生の詳細なメカニズムは解析されておらず、その防止に関する医薬品等も開発されていなかった。本発明者らは、これら肝臓の繊維化に関し星細胞によるコラーゲンの産生に着目し、亜鉛の欠乏といくつかの化学物質がトリガーとなって、星細胞におけるコラーゲンの産生が開始されることを突き止めるに到った。そこで、このメカニズムを活用し、肝繊維化の防止効果を有する物質を提供することを目的とする。
【構成】請求項1においては野生スイカ(Citrullus lanatus)抽出物を含有する肝繊維化防止組成物を提示する。請求項2においてはシトルリンが含まれる野生スイカ(Citrullus lanatus)抽出物を提示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝臓の繊維化(肝硬変化)を防護する物質に関し、より詳しくは肝臓の病変や肝硬変化を予防する健康食品・医薬品等に用いられる組成物を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
肝硬変化を防ぐ組成物としてコラーゲンの産生を抑制する組成物が特許文献1に記載されている。又、特許文献2にはピラゾロン誘導体を有効成分として含む肝繊維化抑制剤が提示されている。
【特許文献1】特開2007−231005号公報
【特許文献2】特開2006−96664号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
肝臓の病変は以下のような過程を辿るといわれている。
【0004】
急性の肝細胞壊死に始まり、慢性的に肝細胞壊死が進行、星細胞からコラーゲンが産生され、グリソン鞘の周辺結合組織が肥大化することによりグリソン鞘を圧迫し、肝硬変に到る。
【0005】
つまり、肝硬変は星細胞からの異常なコラーゲン繊維の産生によるものと考えられている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ところが、肝臓における繊維化進行におけるコラーゲン産生の詳細なメカニズムは解析されておらず、その防止に関する医薬品等も開発されていない。
【0007】
本発明者らはこれら肝臓の繊維化に関し、星細胞によるコラーゲンの産生に着目し、そのメカニズムの解明に尽力してきた。その結果、亜鉛の欠乏と、いくつかの化学物質がトリガーとなって、星細胞におけるコラーゲンの産生が開始されることを突き止めるに到った。1)
そこで、このメカニズムを活用し、肝繊維化の防止効果を有する物質の探索を鋭意進めた結果、野生スイカ(Citrullus lanatus)がその効果を有することを見出した。
【0008】
又、野生スイカは乾燥ストレス等によりシトルリンを多量に蓄積する。このスイカに特徴的なアミノ酸であるシトルリンにも肝繊維化防止効果があることを見出した。
【0009】
1)Role of reactive oxygon species in Zinc deficiency-induced hepatic stellate cell activation;
Akiko kojima-Yuasa, Kanako Umeda, Tomoko Ohkita, David Opare kennedy, Shuhei nishiguchi,
Isao Matsui-Yuasa: Free Radical Biology & medicine 39,631-640 (2005)
【発明の効果】
【0010】
発明者らは、ラットの肝星細胞の培養系を用い、これにエタノールを添加することによりコラーゲンの産生が誘起されることを見出し、これをアルコール性肝硬変モデルとして用いる手法を確立した。又、この培養細胞系に、適量のグルコースを添加することにより誘起されるコラーゲン産生を、脂肪肝性肝硬変モデルとして用いる手法を確立した。
【0011】
以下、係るモデルを用いて野生スイカの肝繊維化防止効果を立証する実験を詳細に示す。
【0012】
肝星細胞の培養系及び産生されるコラーゲンの検出は、以下のように作成し、実施した。
【0013】
分離肝星細胞は13週齢のWistar系雄性ラットの肝臓をプロナーゼ、コラゲナーゼ液で灌流した後、Nycodenz溶液を用いた密度勾配遠心法によって得た。
【0014】
肝星細胞は直径35 mmのプラスチックシャーレ上で10%FBSを含むDMEM培地で2日間前培養した後、FBS−freeのDMEM培地で1日間培養することによって細胞周期をあわせた。
【0015】
次に、本培養として、NASHモデルでは、DMEM培地のグルコール濃度が200〜600 mg/dlになるようにグルコースを添加、アルコール性肝繊維化・肝硬変モデルでは100 mM EtOHを添加してそれぞれ24時間培養した。
【0016】
なお、通常DMEM培地中に含まれるグルコース濃度は100mg/dlである。(図1参照)。図1は脂肪肝性肝硬変モデルにおける培養星細胞におけるコラーゲンの産生を示すものである。培地グルコール量を増加することにより、染色されているコラーゲンが増加していることが認められる。
【0017】
一方、コラーゲンの検出法は表1の通りである。
【0018】
【表1】

【0019】
脂肪肝モデルを用いた実験では、高濃度グルコース(400又は600 mg/dl)を培地に添加して24時間培養した後、実験に供した。
【0020】
アルコール性肝繊維化・肝硬変モデルを用いた実験では、100 mM EtOHを添加、24時間培養した後、実験に供した。
【0021】
防護物質評価には、上記とともに野生スイカ抽出物(50μg/ml又は500μg/ml)を添加して実験に供した。野生スイカ抽出物は搾汁した後、凍結乾燥したものを用いた。
【0022】
上述の実験の結果、図2乃至図4に示されるような顕著な効果が認められた。
【0023】
すなわち野生スイカ果汁は、肝繊維化に関し、アルコール性肝硬変モデル(図2)、脂肪肝性肝硬変モデル(図3)において顕著なコラーゲン産生抑制が認められ(染色されたコラーゲンが著しく減少している)、肝硬変の予防に有効な組成物であることが認められた。
【0024】
又、スイカに特徴的なアミノ酸であるシトルリンにおいても、図4に示したごとく、脂肪肝性繊維化モデルにおいて、繊維化の抑制が認められた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の好ましい一実施形態につき述べる。但し、本発明の実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0026】
本発明にいう「野生スイカ」とはカラハリ砂漠に自生する野生種のスイカ(Citrullus lanatus)及びその栽培物をさす。同じく「野生スイカ抽出物」とは野生種のスイカ(Citrullus lanatus)から抽出されるものをいい、野生種スイカの果実を磨り潰したもの、野生種スイカ果実の果汁、果実を磨り潰したものをろ過したろ液もしくは遠心分離した上清を含む。又、極性あるいは非極性の溶媒等で抽出した抽出物も含まれる。抽出溶媒や抽出手段は特に限定されず、野生種スイカ由来の成分を抽出したものであればいかなる溶媒や手段を用いてもよい。得られた抽出液は、そのまま用いるか、または濃縮ないしは乾燥して用いても良い。又、濃縮ないし乾燥物をさらに適当な溶剤に溶解または懸濁して用いることもできる。
【0027】
本発明に係る肝繊維化防止組成物は、野生種スイカの抽出物を含有するものである。より詳しくは、野生種スイカ抽出物を肝繊維化防止のための有効成分として含有するものである。肝繊維化防止組成物に含まれる野生種スイカ抽出物の含有量はその用途に応じて適宜変更することができる。
【0028】
本発明にかかる野生スイカ抽出物を含有する組成物としては、例えば、医薬部外品、医薬品、飲食物等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】脂肪肝性肝硬変モデルにおける培養星細胞におけるコラーゲンの産生
【図2】アルコール性肝硬変モデルにおける野生スイカ抽出物のコラーゲン産生抑制
【図3】高濃度グルコースによって誘導された肝星細胞のコラーゲン合成能亢進に及 ぼす野生スイカの効果
【図4】シトルリンの脂肪肝性肝硬変モデルにおける繊維化抑制作用

【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生スイカ(Citrullus lanatus)抽出物を含有する肝繊維化防止組成物。
【請求項2】
野生スイカ(Citrullus lanatus)抽出物にシトルリンが含まれることを特徴とする請求項1記載の肝繊維化防止組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−6755(P2010−6755A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168644(P2008−168644)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(508195349)株式会社植物ハイテック研究所 (1)
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【Fターム(参考)】