説明

肝障害抑制剤、この肝障害抑制剤を含有する飲食品及び飼料

【課題】赤ワインやハイビスカス由来のアントシアニン色素より強い肝障害抑制効果を有し、かつ大量に入手可能な、アントシアニン色素を提供する。
【解決手段】アントシアニン色素を含む馬鈴薯から抽出された水溶性成分を活性成分とし含有する肝障害抑制剤。アントシアニン色素を含む馬鈴薯は、ソラニウム・チューベロサムssp.アンディゲナL(Solanum tuberosum ssp. Andjgena L)またはソラニウム・フレハJuz. Et Buk.(S. phureja Juz. Et Buk.)のようなソラニウム属(Solanum)に属する馬鈴薯である。この肝障害抑制剤を含有する飲食品及び飼料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アントシアニン色素を含む馬鈴薯から抽出された成分を活性成分とする肝障害抑制剤、並びにこの肝障害抑制剤を含有する飲食品及び飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
アントシアニン色素は種々の植物に含まれることが知られており、代表的なものとしてブルーベリーがある。ブルーベリー以外にも赤ワイン(Mitcheva et al. Cellular and Molecular Biology, 39, 443-448 (1993)(非特許文献1))やハイビスカス(Obi et al., Toxicology, 131, 93-98(1998) (非特許文献2), Wang et al., Food and Chemical Toxicology, 38, 411-416 (2000) (非特許文献3))にもアントシアニン色素が含まれている。
アントシアニン色素は、種々の生体調節機能を有することが知られており、例えば、抗酸化能、活性酸素消去能、抗変異原・抗腫瘍効果、動脈硬化予防効果、糖尿病予防効果、肝障害抑制効果、視機能改善効果などが主なものである。最近、生活習慣病予防の面から、このような生体調節機能を有するアントシアニンが注目を集めている。
【0003】
馬鈴薯にもアントシアニン色素を含むものが知られている。例えば、「インカレッド」及び「インカパープル」である。「インカレッド」は、ペラニンを主成分とするアントシアニン色素を含有し、肉色が赤色である。「インカパープル」は、ペタニンを主成分とするアントシアニン色素を含有し、肉色が紫色である。
【0004】
馬鈴薯の原産地の南米アンデス地域には、アントシアニンで赤〜紫色に着色した近縁栽培種が存在している。これらは、普通栽培種の祖先や同一起源の近縁種で、4倍体のソラニウム・チューベロサムssp.アンディゲナL (Solanum tuberosum ssp. Andjgena L)や2倍体のソラニウム・フレハJuz. Et Buk (S. phureja Juz. Et Buk.)などがある。このような近縁種は、普通栽培種と直接ないしは倍数性操作により交雑可能である。ソラニウム・チューベロサムssp.アンディゲナ(Solanum tuberosum ssp. Andjgena)に由来する赤肉及び紫肉の亜種間雑種系統と「根室紫」に由来する紫肉の「島系284号」を1990年に交配し、この交雑後代から「インカレッド」及び「インカパープル」は育成された。
【0005】
馬鈴薯に含まれるアントシアニンには、馬鈴薯以外の植物由来のアントシアニンと同様に抗酸化能や活性酸素消去能などが認められている。しかし、それ以外に、他の植物由来のアントシアニンでは一般には見いだされない抗インフルエンザウイルス活性を有することやアポトーシス誘導作用を有することも明らかとなっている(特開2001-316399号公報、特開2004-91472号公報)。
【非特許文献1】Mitcheva et al. Cellular and Molecular Biology, 39, 443-448 (1993)
【非特許文献2】Obi et al., Toxicology, 131, 93-98(1998)
【非特許文献3】Wang et al., Food and Chemical Toxicology, 38, 411-416 (2000)
【特許文献1】特開2001-316399号公報
【特許文献2】特開2004-91472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、アントシアニン色素を含有する赤肉及び紫肉の馬鈴薯である「インカレッド」及び「インカパープル」は、育種されて間もないため、馬鈴薯アントシアニンの生体調節作用に関しては、未知の部分が多い。
一方、アントシアニン色素には、上述のように、種々の生体調節機能があることが知られているが、由来する植物によって生体調節機能の活性に強弱がある。
【0007】
例えば、前述の赤ワインやハイビスカスにもアントシアニン色素が含まれており、これらは、肝障害抑制効果を有することが知られている(非特許文献1及び2参照)。しかし、赤ワインやハイビスカス由来のアントシアニン色素が有する肝障害抑制効果は、それほど強いものではない。また、アントシアニン色素の他の食品への応用を考えると、赤ワインやハイビスカスから抽出できるアントシアニン色素には限りがある、という問題もある。
【0008】
そこで本発明の目的は、赤ワインやハイビスカス由来のアントシアニン色素より強い肝障害抑制効果を有し、かつ大量に入手可能な、アントシアニン色素を提供することにある。
さらに本発明は、そのようなアントシアニン色素を応用した飲食物や飼料等の製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、赤肉及び紫肉の馬鈴薯から抽出した水溶性画分に、強い肝障害抑制効果があることを見いだして本発明に至った。
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、以下の通りである。
(1)アントシアニン色素を含む馬鈴薯から抽出された水溶性成分を活性成分とし含有する肝障害抑制剤。
(2)アントシアニン色素を含む馬鈴薯が、ソラニウム属(Solanum)に属する馬鈴薯である(1)に記載の肝障害抑制剤。
(3)ソラニウム属(Solanum)に属する馬鈴薯が、ソラニウム・チューベロサムssp.アンディゲナL(Solanum tuberosum ssp. Andjgena L)またはソラニウム・フレハJuz. Et Buk.(S. phureja Juz. Et Buk.)である(2)に記載の肝障害抑制剤。
(4)アントシアニン色素を含む馬鈴薯が、ソラニウム属(Solanum)に属する馬鈴薯の普通栽培種、異種栽培種及びそれらを実用形質改良のために交配育種した品種から成る群から選ばれる少なくとも1種である(1)〜(3)のいずれかに記載の肝障害抑制剤。
(5)アントシアニン色素を含む馬鈴薯が、紫肉品種「キタムラサキ」、または紫肉品種「キタムラサキ」を実用形質改良のために交配育種した品種である(1)に記載の肝障害抑制剤。
(6)アントシアニン色素を含む馬鈴薯が、赤肉系統「北海91号」、または赤肉系統「北海91号」を実用形質改良のために交配育種した品種である(1)に記載の肝障害抑制剤。
(7)アントシアニン色素を含む馬鈴薯が、紫肉系統「北海92号」、または紫肉系統「北海92号」を実用形質改良のために交配育種した品種である(1)に記載の肝障害抑制剤。
(8)前記水溶性成分は、アントシアニン色素を含む馬鈴薯からの絞り汁に含まれる成分、または水を含んだ溶媒若しくは水溶性有機溶媒で抽出することで得られる成分である(1)〜(7)のいずれかに記載の肝障害抑制剤。
(9)前記水を含んだ溶媒が、(1)水、(2)水と水溶性有機溶媒との混合溶媒、(3)酸、(4)水と酸との混合溶媒、(5)塩類を含む水溶液のいずれかである(8)に記載の肝障害抑制剤。
(10)前記水溶性有機溶媒が炭素数1〜6の低級アルコールである(9)に記載の肝障害抑制剤。
(11)前記酸が、蟻酸、乳酸、酢酸、クエン酸、トリフルオロ酢酸、塩酸、及び硫酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の酸である(9)に記載の肝障害抑制剤。
(12)(1)〜(11)のいずれかに記載の肝障害抑制剤を含有する飲食品。
(13)(1)〜(11)のいずれかに記載の肝障害抑制剤を含有する飼料。
(14)アントシアニン色素を含む馬鈴薯から抽出された水溶性成分を含有し、肝障害抑制作用を有するものであって、肝障害の抑制、防止または改善のために用いられるものである旨の表示を付した飲食品。
(15)アントシアニン色素を含む馬鈴薯から抽出された水溶性成分を含有し、肝障害抑制作用を有するものであって、肝障害の抑制、防止または改善のために用いられるものである旨の表示を付した飼料。
【発明の効果】
【0011】
本発明の肝障害抑制剤は、従来、肝障害抑制効果を有することが知られている赤ワインやハイビスカス由来のアントシアニン色素に比べて、より高い肝障害抑制効果を有するものである。そして、原料となるアントシアニン色素を含む馬鈴薯は入手が容易で、しかも低コストであることから、食品等の製品への応用も容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の肝障害抑制剤は、アントシアニン色素を含む馬鈴薯から抽出された水溶性成分を活性成分とし含有する。
本発明において、「アントシアニン色素を含む馬鈴薯」は、皮部・肉部にアントシアニン色素を含む馬鈴薯であり、例えば、ソラニウム属(Solanum)に属する馬鈴薯であることができる。さらに、ソラニウム属(Solanum)に属する馬鈴薯は、ソラニウム・チューベロサムssp.アンディゲナL(Solanum tuberosum ssp. Andjgena L)またはソラニウム・フレハJuz. Et Buk.(S. phureja Juz. Et Buk.)であることができる。
【0013】
さらに、アントシアニン色素を含む馬鈴薯は、ソラニウム属(Solanum)に属する馬鈴薯の普通栽培種、異種栽培種及びそれらを実用形質改良のために交配育種した品種から成る群から選ばれる少なくとも1種であることができる。
ソラニウム属(Solanum)に属する馬鈴薯の普通栽培種とは、ソラニウム・チューベロサム・チューベロサム(Solanum tuberosum ssp. tuberosum L)であり、前述の「インカレッド」及び「インカパープル」は、この普通栽培種に含まれる。
ソラニウム属(Solanum)に属する馬鈴薯の異種栽培種とは、例えば、ソラニウム・フレハJuz. Et Buk.(S. phureja Juz. Et Buk.)やソラニウム・ステノトナム(S. stenotomum)やソラニウム・アヤンフィリ(S. ajanhuiri)である。
【0014】
それらを実用形質改良のために交配育種した品種とは、上記普通栽培種及び異種栽培種を基に交配育種し、色素濃度、耐病性、収量性等の実用形質改良を進めた品種を意味する。実用形質改良を進めた品種の具体例として、例えば、紫肉品種「キタムラサキ」、赤肉系統「北海91号」、紫肉系統「北海92号」を挙げることができる。
【0015】
「インカレッド」及び「インカパープル」は色素量が少なく、栽培が難しい、という課題があった。そこで、1994年以降、実用性に優れた品種改良がその後も続けられ、その結果、2003年にシスト線虫抵抗性や多収性を付与した紫肉品種「キタムラサキ」が育成された。さらに、赤肉系統「北海91号」は、「インカレッド」の栽培・利用上の実用性を改良した系統として育成された。「北海91号」は、「キタムラサキ」の自然結実種子から育成された系統である。
【0016】
また、紫肉系統「北海92号」は、有色甘藷の「山川紫」並の色素含量を有する系統として育成された。「北海92号」も「キタムラサキ」の自然結実種子から育成された系統である。
【0017】
赤肉の「インカレッド」、「北海91号」の品種・系統間の色素成分の構成比率については大差がないことが確認されている。同様に、紫肉の「インカパープル」、「キタムラサキ」、「北海92号」の品種・系統間の色素成分の構成比率についても大差がないことが確認されている。
【0018】
さらに本発明では、紫肉品種「キタムラサキ」を実用形質改良のために交配育種した品種、赤肉系統「北海91号」を実用形質改良のために交配育種した品種、及び紫肉系統「北海92号」を実用形質改良のために交配育種した品種も、「アントシアニン色素を含む馬鈴薯」に含まれる。
【0019】
本発明の肝障害抑制剤は、「アントシアニン色素を含む馬鈴薯」から抽出された水溶性成分を活性成分とし含有するものであり、「水溶性成分」について以下に説明する。本発明において、「水溶性成分」とは、アントシアニン色素を含む馬鈴薯からの絞り汁に含まれる成分であることができる。馬鈴薯からの絞り汁は、溶媒として水を含有することから、本発明においては、この絞り汁に含まれる成分も、「水溶性成分」である。絞り汁の場合の抽出は、所謂、圧搾抽出である。また、「水溶性成分」とは、水を含んだ溶媒または水溶性有機溶媒で抽出することで得られる成分であることもできる。ここで、「水を含んだ溶媒」とは、例えば、(1)水、(2)水と水溶性有機溶媒との混合溶媒、(3)酸、(4)水と酸との混合溶媒、(5)塩類を含む水溶液のいずれかである。
【0020】
水溶性有機溶媒は、例えば、炭素数1〜6の低級アルコールであり、メタノール、エタノールなどを例示できる。水と水溶性有機溶媒との混合溶媒における混合比は、水5〜80%に対して水溶性有機溶媒95〜20%であることができる。
【0021】
酸としては、例えば、蟻酸、乳酸、酢酸、クエン酸、トリフルオロ酢酸、塩酸、及び硫酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の酸を挙げることができる。水と酸との混合溶媒、即ち、酸性水溶液における酸の含有量は0.5〜5%の範囲であることができる。
【0022】
塩類を含む水溶液における塩類としては、例えば、上記酸のナトリウム塩及びカリウム塩を挙げることができる。塩類を含む水溶液における塩類の含有量は0.5〜5%の範囲であることができる。
【0023】
本発明における「水溶性成分」は、例えば、「アントシアニン色素を含む馬鈴薯」の塊茎をスライスし、ジューサー、ミキサー等にかけて粉砕、搾汁し、さらに遠心分離、或いは濾過法によって不溶物を除いて得られた、即ち、圧搾抽出により得られた、「絞り汁」に含まれる成分である。あるいは、「水溶性成分」は、「アントシアニン色素を含む馬鈴薯」の塊茎をスライスしたものを前記「水を含んだ溶媒」により抽出することで得られる成分であることもできる。
【0024】
「水を含んだ溶媒」として水と酸との混合溶媒(酸性水溶液)用いて、「水溶性成分」を調製する方法について説明する。「アントシアニン色素を含む馬鈴薯」をスライスして、すぐに酸性水溶液に浸たす。酸性水溶液については、pH2.0-5.0の有機酸水溶液であることが望ましい。例として、乳酸、酢酸、クエン酸などがあげられるが、抽出効率や色素安定性の良い蟻酸、トリフルオロ酢酸を用いてもよい。また、塩酸、硫酸などの鉱酸、酸性アルコール、水を抽出溶媒として用いることも可能である。さらに、馬鈴薯塊茎にはポリフェノールを褐変させるポリフェノールオキシダーゼのような酸化酵素が存在しているため、好ましくは、抽出温度は酸化酵素が働かない4℃で行う。次いで、色素抽出液を遠心分離ないし濾過等で固形分を除去する。これにより、アントシアニン色素由来の色調を損なうことなく、「水溶性成分」を含む画分が得られる。
【0025】
本発明では、上記「絞り汁」または「水溶性成分」を含む画分をそのまま、肝障害抑制剤として用いることができるが、これら水溶性画分を凍結乾燥した後、粉末化することもできる。肝障害抑制剤として使用する場合、残存する酸は中和し、塩類は必要により少なくとも一部を除去して、用いることが適当である。
【0026】
このようにして得られる本発明の肝障害抑制剤は、赤ワインやハイビスカス由来のアントシアニン色素に比べて格段に優れた肝障害抑制作用を有する。
従来から、パラコート、四塩化炭素、アセトアミノフェン、ガラクトサミン、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどの薬剤を腹腔に注入することにより生体内で酸化ストレスを受け過酸化脂質生成や肝毒性を引き起こすことが知られており、様々な機能性成分の肝毒性抑制効果モデルとして用いられてきている。今回はその肝毒性モデルの一つとしてガラクトサミンを用いた動物実験の結果、本発明の馬鈴薯水溶性画分投与による肝障害抑制効果が認められた(実施例3)。すなわち、一方のラットにガラクトサミンを含んだ飼料を与え、もう一方のラットにはガラクトサミン飼料のほかに馬鈴薯水溶性粗画分を与えて8日間飼育した後に採血してみると、水溶性粗画分を与えたラットの肝機能指標酵素活性値(GOT、GPT、ALP、LDH)は、与えないものと比べ上昇が押さえられた。また、水溶性粗画分を与えたラットの血清コレステロール値は、与えないもののような異常な低下がみられなかった。
【0027】
アントシアニンが肝障害抑制効果を有することはすでに知られている。本発明に係る馬鈴薯水溶性粗画分はアントシアニンを含有することから、肝障害抑制効果を有する点については、少なくとも現時点においては、アントシアニンが最大限の効果を発揮しているのではないかと推測される。その一方で、水溶性粗画分にはクロロゲン酸をはじめとしたポリフェノールも含まれることから、アントシアニンとポリフェノールが単独または複合的に作用して、上記の健康機能性が発揮されたことも推定できる。したがって、詳細については、今後の研究を待たなければならない。
【0028】
本発明の肝障害抑制剤は、肝障害抑制効果を有する有効(活性)成分を含む薬剤として使用できる。薬剤として利用する場合、摂取方法は特に限定されないが、経口投与、直腸投与、静脈注射等の方法で投与可能である。経口投与の場合は、粗抽出画分物自体を投与する以外に、粗抽出画分に結合剤、賦形剤、希釈剤などとともに混合し、常法により錠剤、顆粒剤、カプセル剤、トローチ剤等として用いて良い。
【0029】
さらに、本発明の肝障害抑制剤は、飲食品、飼料等の形態でも利用される。この場合も、粉末のまま利用しても、または溶液のままで利用しても良い。飲食品としては、例えば、飲料類(ドリンク剤、ジュース等)、菓子類(クッキー、スナック菓子、ビスケット等)、調味料類、サプリメントなどが例示できる。特に、飲食品では、アントシアニン色素の赤色や紫色の色調を活かした製品開発が可能となる点から有用である。飼料としては、ペットフード(ドッグフード、キャットフード等)、家畜用飼料、養殖魚介用飼料が挙げられる。
【0030】
飲食品及び飼料におけるアントシアニン色素を含む馬鈴薯から抽出された水溶性成分の含有量は、水溶性成分の含有目的に応じて適宜決定することができる。例えば、水溶性成分の含有量は、0.1〜10%の範囲とすることができる。但し、この範囲に限定されるものではなく、適宜決定できる。
【0031】
特に、本発明は、アントシアニン色素を含む馬鈴薯から抽出された水溶性成分を含有し、肝障害抑制作用を有するものであって、肝障害の抑制、防止または改善のために用いられるものである旨の表示を付した飲食品及び飼料を包含する。
【0032】
アントシアニン色素を含む馬鈴薯から抽出された水溶性成分は、上記本発明の肝障害抑制剤において説明したものと同様のものである。また、肝障害抑制作用も、上記肝障害抑制剤についての説明と同様である。
【0033】
本発明の上記飲食品及び飼料は、「肝障害の抑制、防止または改善のために用いられるである旨の表示」を付した飲食品及び飼料である。さらに、この表示には、「肝障害の抑制、防止または改善」と、同義の意味の表示も含む。
【0034】
ここで「表示」とは、例えば、飲食品及び飼料の容器や取り扱い説明書における表示のみならず、紙媒体上及びウエブ上に掲載された飲食品及び飼料についての広告文や音声による広告等も包含する。
【0035】
また、「表示を付した飲食品」とは、飲食品の容器や取り扱い説明書に表示を付した飲食品のみならず、容器や取り扱い説明書に表示を付していなくても、この飲食品の紙媒体上及びウエブ上に掲載された飲食品についての広告文や音声による広告等により、同様の表示をしている場合も含む。同様に、「表示を付した飼料」とは、飼料の容器や取り扱い説明書に表示を付した飼料のみならず、容器や取り扱い説明書に表示を付していなくても、この飼料の紙媒体上及びウエブ上に掲載された飼料についての広告文や音声による広告等により、同様の表示をしている場合も含む。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
実施例1 (馬鈴薯水溶性画分の調整法)
赤肉系統「北海91号」及び紫肉系統「北海92号」それぞれ10kgをミキサーで粉砕後、等量の5%蟻酸を加え4℃で24時間静置した。その後3000rpm、20分間、4℃で遠心分離を行い、上澄み液を回収し、粗抽出液とした。粗抽出液は凍結し、その後凍結乾燥を行い、それぞれアントシアニン色素由来の色調が損なわれていない赤色及び紫色の粗抽出粉末を得た(赤色粗抽出物112.5g/10kg、紫色粗抽出物218.2g/10kg)。この粗抽出粉末中のポリフェノールをFuleki, Francisの方法 (Fuleki and Francis, J. Food Sci., 33, 72-77, 1968)により測定したところ、5%含まれていた(図1)。
【0037】
実施例2(馬鈴薯水溶性画分のアントシアニン量及び抗酸化作用)
粗抽出液からのアントシアニン定量法は、Fuleki, Francisの方法に従った(J. Food Sci., 33, 72-77, (1968))。この定量法では、代表的なアントシアニン色素が535nmにおける平均的な吸光係数(E1%)が982であることが報告されており、この計算方法は、最近の論文においても使用されている(例えば、Jeppsson, Scientia Horticulturae, 83, 127-137, (2000))。
【0038】
サンプル0.03mLを1.5 N塩酸の95%エタノール溶液で3mLに希釈し、1.5 N塩酸の95%エタノール溶液に対する吸光度を測定した。その結果、紫肉系統「北海92号」では1.824、赤肉系統「北海91号」では 0.370の吸光度を与え、抽出液中の濃度はそれぞれ、1.875および0.376mg/mLと算出された。
【0039】
赤色粗抽出物及び紫色粗抽出物中に含まれるポリフェノール量は、それぞれの有色芋可食部に対して、56.0mg/100g及び109.1mg/100gであった。また上記アントシアニン色素測定法により、それぞれの粗抽出物(赤56.0mg、紫109.1mg)に対してアントシアニン色素成分は、15.6mg/56.0mg及び84.4mg/109.1mgであった。よって、ポリフェノール量に対するアントシアニン色素量(割合)は、赤肉系統「北海91号」では27.9%であり、紫肉系統「北海92号」では77.3%であった。
【0040】
抗酸化作用は、MillerらによるABTS (2,2'-Azino-di-[3-ethylbenzothiazoline sulfonate])がラジカルによって酸化されることによる青緑色発色(600 nm)をどれだけ抑制するかを指標に実験を行なった(Miller et al., Clinical Science, 84, 407-412, (1993))。ポジチブコントロールに用いた物質(TROLOX)は九州農試等でDPPHラジカル消去活性に使用されているもの(沖ら、食科工, 48, 926-932, (2001))と同一である。
【0041】
粗抽出液を水にて10倍希釈した物、標準品(TROLOX)もしくは水2.5μL、6.1μM metmyoglobin、610 μM ABTSの80mM PBS(phosphate buffer saline) (pH7.4) 125 μLの600nmにおける吸光度を測定する(A1)。
その溶液に250 μM H2O2の 80mM PBS (pH7.4) 25 μLを加え3分後に600nmにおける吸光度を測定する(A2)。
各物質における吸光度の変化ΔA = A2 - A1 を計算する。
抗酸化物質のTROLOX相当量は次式であらわされる。
(使用したTROLOX濃度)X[ΔA(水)-ΔA(抽出物)]/[ΔA(水)-ΔA(TROLOX)]
アントシアニンの標準品として 1 mM Keracyanine, Malvinについても抽出物と同様の操作を行なった。
その結果TROLOX相当量として(モル濃度)紫肉系統「北海92号」抽出液は1.863、赤肉系統「北海91号」抽出液は2.194、 1 mM Keracyaninは0.8568、1 mM Malvinは0.6210の抗酸化物質が存在することが判明した(図2)。
【0042】
実施例3(馬鈴薯水溶性画分の投与がもたらす肝機能障害抑制効果)
[方法]
実験動物は7週齢Fisher系雄ラットを日本チャールズリバー株式会社から購入した。ラットはプラスチックケージを用いて個別に飼育し、室温を23±1℃、湿度60±5%、明暗周期を12時間(明08:00、暗20:00)とした。
実験食はオリエンタル酵母株式会社で調製したものを使用した(表1)。
【0043】
【表1】

【0044】
[投与実験]
7週齢のラット30匹を1週間、市販の粉末飼料を与えて馴化を行い、各投与群で体重に有意差がないように3つの投与群に群分けを行った。その後、5%蟻酸で抽出して得られた紫肉系統「北海92号」抽出物(PP)及び赤肉系統「北海91号」抽出物(RP)を超純水で400mg/0.5mL濃度に調製して2実験群(PPとRP)に毎日1回8日間強制経口投与した。基本食給与群(CON)には0.5mLの超純水を同様に投与した。投与8日目頸静脈から採血した血清中の肝機能指標酵素活性(GOT、GPT、ALP、LDH)を調べ馬鈴薯水溶性画分の毒性有無を確認した後、3群を更に体重に有意差の無いように任意にそれぞれ半分に分け、各々の半分の群にガラクトサミン(D-GalN)を体重kg当り250mg/1mL濃度で復腔内注射した。非投与群には超純水を同様に注射した(図3)。22時間後、6群(表2、CON、PP、RP、G-CON、G-PP、G-RP)のラットをネンブタール腹部注射、頚椎脱臼後、迅速に解剖し血液と肝臓を採集した。摘出した臓器は冷生理食塩水(8.5g NaCl/l)で洗浄し、乾燥した濾紙で水分を除去し、重量を測定した。その後、液体窒素で急速冷凍し、-80℃でそれぞれ分析まで保存した。
【0045】
【表2】

【0046】
[分析項目]
体重および摂食量の計測は毎日行った。摂食量は給餌量と残量の差から算出した。採血は実験開始前、投与7日後、ガラクトサミン投与22時間後に行い、頚静脈より採取した。血液は1.5mlのエッペンドルフチューブに移し、室温で3時間放置した後に6000rpmで10分間遠心分離(岩城硝子社製 CFA12型)を行い、上澄みを血清とした。得られた血清は生化学分析に用いるまで-30℃で保存した。
【0047】
血清中のグルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT)活性はカルメン法に代表される共役酵素法(IFCC法)に準じて測定した。グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT)はカルメン法に代表される共役酵素法に準じて測定した。アルカリフォスファターゼ(ALP)活性はp-ニトロフェニルリン酸基質法に準じて測定した。乳酸脱水素酵素(LDH)活性はWrOblewski-La Due法に準じて測定した。総コレステロール(T-CHOL)及び高密度リポ蛋白コレステロール(HDL-CHOL)濃度はコレステロールオキシダーゼ・DAOS法に準じて測定した。T-COHL濃度とHDL-CHOL濃度の差を、超低密度リポ蛋白コレステロール+中密度リポ蛋白コレステロール+低密度リポ蛋白コレステロール(VLDL+IDL+LDL-CHOL)濃度とした。
【0048】
[統計処理]
すべての値は平均値±標準偏差で表した。統計処理はダンカンの多重検定を用いて危険率5%以内を有意な差とした。
【0049】
[結果]
体重及び摂取量は各投与群間で有意差は見られなかった。肝臓重量はCON群でD-GalN投与群(G-CON、G-PP、G-RP)に比べに有意に増加していたが、D-GalN投与群間でのG-PP群とG-RP群がG-CON群に比べ上昇する傾向が見られた(表3)。D-GalNは生体内に入ると肝毒性を起こさせる薬物として通常用いられている。そこで今回、急性肝炎や肝硬変などの疾病の診断要因であるGPT、GOT、ALP、LDHについて検討した。D-GalN投与前、馬鈴薯水溶性画分の投与は血清中GPT、GOT、ALP及びLDHの活性に影響を与えなかった。D-GalN投与後、D-GalN投与により非投与群に比べ有意に増加したGPT、GPT、ALP及びLDHの活性は、馬鈴薯水溶性画分(G-PP、G-RP)によりその上昇が有意に抑えられた(表4)。また、慢性肝炎や肝硬変より血清コレステロールが異常に低下することが知られているが、今回血清T-CHOL、HDL-CHOL及びVLDL+IDL+LDL-CHOL濃度はG-CON群で有意に低下しており(表5)、従来からの報告と一致していたが、G-PP群やG-RP群のように馬鈴薯水溶性画分を投与することにより血清コレステロールの異常な低下がみられず、GalN非投与群の値と近い値を示していた。
【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
【表5】

【0053】
急性肝毒性に対するアントシアニンの低減効果について、ラットを用いて調べたこれまでの研究(Mitcheva et al., Cellular and Molecular Biology, 39, 443-448 (1993); Obi et al., Toxicology, 131, 93-98 (1998); Wang et al., Food and Chemical Toxicology, 38, 411-416 (2000)) と本研究の肝機能指標酵素(GOT、GPT)の実験値から、毒性軽減効果指標値を下記の式により算出した。
【0054】
【数1】

【0055】
【表6】

【0056】
表6から明らかなように、本研究のPPの肝毒性軽減効果指標値は、GOTで94.5%、GPTで96.7%、RPにおいては、GOTで81.5%、GPTで85.4%であった。これまでの研究での肝毒性軽減効果指標値は、GOTで40.7-75.9%、GPTで43.6-53.8%であったことを考慮すると、本研究のアントシアニンを含有する紫色及び赤色馬鈴薯水溶性粗画分は、急性肝毒性に対する抑制効果の大きいことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の肝障害抑制剤は、薬剤としてそのまま利用できる他、飲料品や飼料への添加剤としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明における馬鈴薯水溶性粗画分の調整方法を示す図である。
【図2】本発明におけるABTS法(ラジカル消去能法)による馬鈴薯水溶性粗画分の抗酸化活性試験の結果である。
【図3】本発明における動物実験のスケジュールについて示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アントシアニン色素を含む馬鈴薯から抽出された水溶性成分を活性成分とし含有する肝障害抑制剤。
【請求項2】
アントシアニン色素を含む馬鈴薯が、ソラニウム属(Solanum)に属する馬鈴薯である請求項1に記載の肝障害抑制剤。
【請求項3】
ソラニウム属(Solanum)に属する馬鈴薯が、ソラニウム・チューベロサムssp.アンディゲナL(Solanum tuberosum ssp. Andjgena L)またはソラニウム・フレハJuz. Et Buk.(S. phureja Juz. Et Buk.)である請求項2に記載の肝障害抑制剤。
【請求項4】
アントシアニン色素を含む馬鈴薯が、ソラニウム属(Solanum)に属する馬鈴薯の普通栽培種、異種栽培種及びそれらを実用形質改良のために交配育種した品種から成る群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の肝障害抑制剤。
【請求項5】
アントシアニン色素を含む馬鈴薯が、紫肉品種「キタムラサキ」、または紫肉品種「キタムラサキ」を実用形質改良のために交配育種した品種である請求項1に記載の肝障害抑制剤。
【請求項6】
アントシアニン色素を含む馬鈴薯が、赤肉系統「北海91号」、または赤肉系統「北海91号」を実用形質改良のために交配育種した品種である請求項1に記載の肝障害抑制剤。
【請求項7】
アントシアニン色素を含む馬鈴薯が、紫肉系統「北海92号」、または紫肉系統「北海92号」を実用形質改良のために交配育種した品種である請求項1に記載の肝障害抑制剤。
【請求項8】
前記水溶性成分は、アントシアニン色素を含む馬鈴薯からの絞り汁に含まれる成分、または水を含んだ溶媒若しくは水溶性有機溶媒で抽出することで得られる成分である請求項1〜7のいずれか1項に記載の肝障害抑制剤。
【請求項9】
前記水を含んだ溶媒が、(1)水、(2)水と水溶性有機溶媒との混合溶媒、(3)酸、(4)水と酸との混合溶媒、(5)塩類を含む水溶液のいずれかである請求項8に記載の肝障害抑制剤。
【請求項10】
前記水溶性有機溶媒が炭素数1〜6の低級アルコールである請求項9に記載の肝障害抑制剤。
【請求項11】
前記酸が、蟻酸、乳酸、酢酸、クエン酸、トリフルオロ酢酸、塩酸、及び硫酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の酸である請求項9に記載の肝障害抑制剤。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の肝障害抑制剤を含有する飲食品。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の肝障害抑制剤を含有する飼料。
【請求項14】
アントシアニン色素を含む馬鈴薯から抽出された水溶性成分を含有し、肝障害抑制作用を有するものであって、肝障害の抑制、防止または改善のために用いられるものである旨の表示を付した飲食品。
【請求項15】
アントシアニン色素を含む馬鈴薯から抽出された水溶性成分を含有し、肝障害抑制作用を有するものであって、肝障害の抑制、防止または改善のために用いられるものである旨の表示を付した飼料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−45130(P2006−45130A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−229110(P2004−229110)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年4月1日 日本栄養・食糧学会発行の「第58回 日本栄養・食糧学会大会 講演要旨集」に発表
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 (827)
【出願人】(504300088)国立大学法人帯広畜産大学 (96)
【Fターム(参考)】