説明

肥満又は痩せの検査方法

肥満又は痩せの検査において、MCP−1遺伝子又はタンパク質の被検組織又は被検細胞における発現レベルや、当該遺伝子における多型等に基づいた検査をする。また、肥満又は痩せの治療薬のスクリーニング等をはじめとする化合物の評価において、MCP−1遺伝子又はタンパク質の性質を利用して当該評価をする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MCP−1(Monocyte chemoatractant protein−1:単球走化性因子)遺伝子又はタンパク質を用いた肥満又は痩せの検査方法、及び、当該遺伝子又はタンパク質を含む検査薬等に関する。また、本発明は、当該遺伝子又はタンパク質を用いた、肥満又は痩せの治療又は予防に有効な化合物の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は、高血圧症、糖尿病、高脂血症、虚血性心疾患等に代表される種々の成人病の危険因子である。また、これらの多くは慢性疾患であることから、将来的には医療費の高騰の原因になると考えられ、社会的にも大きな問題となっている。
【0003】
このような肥満状態を適切に検査し、認定することは、その後の適切な治療にとって必要不可欠であるため、簡便で精度の高い肥満マーカーの出現が常に望まれている。また、近年、投与した薬剤の効果が被投与者の遺伝子多型等の遺伝子型に影響を受けることが見出されつつあり、薬剤の開発段階における臨床試験やいわゆるオーダーメイド医療において、分子レベルでの検査や診断のマーカーが待望されている。
【0004】
このような状況にあって、肥満においては、主にBMI(Body mass index:体重(kg)/身長(m)/身長(m))がそのマーカーとして使用されており、遺伝子やタンパク質のような分子レベルで診断可能なマーカーはほとんど知られていないのが現状であった。
【0005】
一方、MCP−1は、オープンリーディングフレームがアミノ酸99個(ヒトの場合)からなり、CCケモカインサブファミリーに属するタンパク質である(アクセッションナンバー:ヒト NM002982(配列番号9及び10)、マウス NM011333(配列番号11及び12))。MCP−1は、1989年にクローニングされ(Yoshimura T et al.,FEBS Letters,244,487−493(1989);Furutani Y et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.,159,249−255(1989)等)、その後、動脈硬化、慢性関節リウマチ、腎炎との関連が示唆されている(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87,5134−5138(1990);J.Clin.Invest.90,772−779(1992);Kidney Int.44,1036−1047(1993))。
【0006】
ところで、ケモカインは、白血球に対して遊走活性を有する一群のタンパク質であり、炎症の急性期及び慢性期においてその病態の発症、進展、憎悪に関与していることが明らかになっている。中でも、MCP−1は、単球に対して強力な走化性及び活性化作用を有することが知られており、免疫活性化作用や抗腫瘍作用等の用途に使用できるものと考えられている。
【0007】
このように、MCP−1についての知見は数多く報告されており、生体内の多種多様な生命現象に関与していることが知られている。しかしながら、MCP−1と肥満との関係については、特定の細胞に飽食因子として知られるレプチンを投与したところ、MCP−1の発現レベルが上昇したという報告(FASEB J.,13,1231−1238(1999);J.Biol.Chem.,276,25096−25100(2001))や、ケモカインによる刺激が間接的に脂肪の蓄積に関与していることを示唆する報告(Molecular and Cellular Endocrin.,175,81−92(2001))があるに過ぎず、MCP−1と肥満との直接的な関係や、MCP−1の発現レベルと肥満又は体重変化との相関関係については全く知られていなかった。
【発明の開示】
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、分子レベルで判断可能な肥満又は痩せの検査方法及び当該分子を用いた肥満及び痩せの検査薬を提供することを目的とする。また、肥満又は痩せの治療薬のスクリーニング等、化合物の評価方法、及び当該評価方法により肥満又は痩せの治療薬として有効であると評価された化合物を提供することを目的とする。
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、体重変化とMCP−1の発現量又は血中濃度に一定の相関関係があることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の肥満又は痩せの検査方法は、MCP−1遺伝子の被検組織又は被検細胞における発現レベルを測定することを特徴とする。すなわち、MCP−1遺伝子発現レベルに基いて肥満度の検査が可能になる。ここで、前記発現レベルの測定をDNAマイクロアレイにより行うことが好ましい。
【0011】
また、本発明の肥満又は痩せの検査方法は、MCP−1タンパク質の被検組織又は被検細胞における発現レベルを測定することを特徴とする。すなわち、MCP−1タンパク質の発現レベルに基いて肥満度の検査が可能になる。
【0012】
さらに、本発明の肥満又は痩せの検査方法は、MCP−1遺伝子の被検組織又は被検細胞における発現レベルの変化を検出することを特徴とする。すなわち、MCP−1遺伝子の発現レベルの初期値と所定期間後の発現レベルの測定値とを比較する(例えば、初期値と測定値の差又は比)、肥満度の検査又は予測方法が提供される。ここで、前記発現レベルの測定をDNAマイクロアレイにより行うことが好ましい。
【0013】
また、本発明の肥満又は痩せの検査方法は、MCP−1タンパク質の被検組織又は被検細胞における発現レベルの変化を検出することを特徴とする。すなわち、MCP−1タンパク質の発現レベルの初期値と所定期間後の発現レベルの測定値とを比較する(例えば、初期値と測定値の差又は比)、肥満度の検査又は予測方法が提供される。
【0014】
また、本発明の肥満又は痩せの検査方法は、被検組織又は被検細胞におけるMCP−1遺伝子に存在する多型を検出することを特徴とする。すなわち、MCP−1遺伝子多型に基づいて肥満度の検査又は予測をすることが可能となる。
【0015】
さらに、本発明の肥満又は痩せの検査方法は、MCP−1タンパク質と相互作用することによりMCP−1遺伝子の発現量に影響を及ぼすタンパク質の発現量又は活性を検出することを特徴とする。すなわち、MCP−1遺伝子の発現量に影響を及ぼすタンパク質の発現量又は活性に基づいて肥満度の検査又は予測をすることが可能となる。
【0016】
また、本発明の肥満又は痩せの検査薬は、MCP−1タンパク質に対する抗体を有効成分として含むことを特徴とする。
【0017】
さらに、本発明の肥満又は痩せの検査キットは、MCP−1タンパク質に対する抗体を含むことを特徴とする。前記キットは、好ましくは、前記抗体(1次抗体)を検出するための蛍光物質又はラジオアイソトープで標識された2次抗体、抗原抗体反応を行う際に使用する緩衝液を含む。
【0018】
また、本発明の肥満又は痩せの治療又は予防に有効な化合物の評価方法は、被検化合物を、被検動物又は被検細胞に、投与又は接触させる工程と、被検化合物が、被検動物又は被検細胞中でMCP−1遺伝子あるいは当該遺伝子と機能的に等価な遺伝子の発現レベルを調節するか否かを確認する工程と、を含むことを特徴とする。
【0019】
さらに、本発明の肥満又は痩せの治療又は予防に有効な化合物の評価方法は、被検化合物を、被検動物又は被検細胞に、投与又は接触させる工程と、被検化合物が、被検動物又は被検細胞中でMCP−1タンパク質あるいは当該タンパク質と機能的に等価なタンパク質の発現レベルを調節するか否かを確認する工程、を含むことを特徴とする。
【0020】
さらに、本発明の肥満又は痩せの治療又は予防に有効な化合物の評価方法は、被検化合物を、MCP−1タンパク質に接触させる工程と、被検化合物が、前記タンパク質の活性に影響を与えるか否かを確認する工程と、を含むことを特徴とする。
【0021】
また、本発明の化合物は、本発明の化合物の評価方法により、肥満又は痩せの治療又は予防に有効であると評価されたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1は、DIOマウスと対照群とのMCP−1の血中濃度を比較したグラフである。
【0023】
図2は、DIOマウスと対照群との体重を比較したグラフである。
【0024】
図3は、DIOマウスにおける体重とMCP−1の血中濃度との関係を示すグラフである。
【0025】
図4は、食事制限の前後におけるモデルマウスの体重を比較したグラフである。
【0026】
図5は、食事制限の前後におけるモデルマウスの白色脂肪細胞中のMCP−1の発現量を比較したグラフである。
【0027】
図6は、食事制限の前後におけるモデルマウスのMCP−1の血中濃度を比較したグラフである。
【0028】
図7は、DIOマウスにおける肥満抑制化合物の投与とMCP−1の発現量との関係を示すグラフである。
【0029】
図8は、DIOマウスにおける肥満抑制化合物の投与とMCP−1の血中濃度との関係を示すグラフである。
【0030】
図9は、食事制限の前後における肥満抑制化合物の投与とMCP−1の血中濃度との関係を示すグラフである。
【0031】
図10(A)(B)(D)及び(E)は、いずれも各種細胞におけるCD11bの蛍光強度と細胞数との関係を示すグラフである。また、(C)及び(F)は、各種細胞におけるCD11b陽性細胞数を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0033】
本発明における「発現レベル」とは、MCP−1遺伝子の転写産物の絶対量又は相対量をいう。この場合、当該遺伝子は、DNA又はmRNAのいずれをも含む。また、発現の検出対象がタンパク質の場合、その「発現レベル」とは、MCP−1遺伝子の翻訳産物の絶対量又は相対量をいう。
【0034】
本発明における「MCP−1タンパク質」は、シグナルペプチドを有する前駆体タンパク質及びシグナルペプチドを有さない成熟タンパク質のいずれも含むが、好適には成熟タンパク質をさす。例えば、ヒトMCP−1タンパク質は、23アミノ酸(配列番号10の1〜23番目のアミノ酸)からなるシグナルペプチドを有する99アミノ酸(配列番号10)からなる前駆体タンパク質及び当該シグナルペプチドを有さない76アミノ酸(配列番号10の24〜99番目のアミノ酸)からなる成熟タンパク質のいずれであってもよい。また、マウスMCP−1タンパク質は、23アミノ酸(配列番号12の1〜23番目のアミノ酸)からなるシグナルペプチドを有する148アミノ酸(配列番号12)からなる前駆体タンパク質及び当該シグナルペプチドを有さない125アミノ酸(配列番号12の24〜148番目のアミノ酸)からなる成熟タンパク質のいずれであってもよい。
【0035】
また、本発明における「被検組織」とは、肥満又は痩せの検査を行う際に生体から抽出可能な組織であれば、その種類は特に限定されないが、肥満又は痩せの影響が反映されやすいとの観点から、例えば、肝臓組織、脂肪組織、筋肉組織、血液組織であることが好ましい。また、組織の単離が容易であるとの観点から、前記組織の中でも血液組織であることが好ましい。ここで、これらの組織の由来となる動物種については特に制限されないが、本発明の主たる用途がヒトの臨床的使用であることから、ヒトであることが好ましい。
【0036】
また、本発明における「被検細胞」についても、肥満又は痩せの検査を行う際に生体から抽出可能な細胞であれば、その種類は特に限定されないが、肥満又は痩せの影響が反映されやすいとの観点から、例えば、肝細胞、脂肪細胞(白色脂肪細胞、褐色脂肪細胞等)、筋肉細胞(筋芽細胞、骨格筋細胞平滑筋細胞等)、膵細胞(膵島細胞等)、血球細胞であることが好ましい。ここで、かかる組織の由来となる動物種については特に限定されないが、本発明の主たる用途がヒトの臨床的使用であることから、ヒトであることが好ましい。
【0037】
さらに、本発明における「肥満」とは、脂肪組織が過剰に蓄積した状態と定義される一般的な肥満に加え、これに糖尿病や高血圧等の合併症又は内臓脂肪が伴う、いわゆる「肥満症」も含む。また、本発明における「肥満」は、薬物投与等による体重のコントロールを受けた場合に、もとの体重と比較して相対的に体重が増加した状態をも意味する。
【0038】
一方、本発明における「痩せ」とは、前記の肥満とは対立する概念を意味するとともに、薬物投与又はダイエット等による体重のコントロールを受けた場合に、もとの体重と比較して相対的に体重が減少した状態をも意味する。
【0039】
また、本発明における「検査」とは、肥満又は痩せであることを単に判断するのみならず、将来的な肥満又は痩せを「予測」する場合をも含む。
【0040】
(1)本発明の肥満又は痩せの検査方法
【0041】
(A)MCP−1遺伝子の発現レベルを測定することによる肥満又は痩せの検査方法
【0042】
前述した被検組織又は被検細胞におけるMCP−1遺伝子の発現レベルの変化を検出することにより、又は、発現レベルを測定することにより、当該被検組織又は被検細胞を抽出した生体(例えばヒト)が肥満であるか又は痩せであるかを検査・診断することが可能である。また、単に検査時の肥満又は痩せの状態を検査するのみならず、将来的に肥満又は痩せになるか否かを予測することも可能である。
【0043】
以下に、このような検査の具体的な方法について説明する。
【0044】
先ず、検査対象となる生体より被検組織又は被検細胞を抽出する。このような抽出の方法としては特に制限はなく、公知の方法により抽出することができる。
【0045】
次に、抽出された被検組織又は被検細胞から発現レベルの測定の対象となる遺伝子を調製する。
【0046】
MCP−1遺伝子の発現レベルを測定するには、先ず、被検組織又は被検細胞からMCP−1のRNA(total RNA又はmRNA)を調製する必要がある。このようなRNAの調製は、公知の方法によって行うことができるが、例えば、Molecular cloning A LABORATORY MANUAL 2nd EDITION(1989)(T.Maniatis著:Cold Spring Harbor Laboratory Press)7.3−7.36を参照して行うことができる。こうして調製したRNAを用いて、例えば、RT−PCRのような遺伝子増幅法、DNAマイクロアレイ(例えば、Affymetrix社製DNAチップ)を用いる方法、ノーザンハイブリダイゼーション法により、その発現量を測定することができる。また、被検組織又は被検細胞を用いたイン サイチュ ハイブリダイゼーション(in situ hybridization)等により、その発現量を測定することもできる。
【0047】
また、MCP−1遺伝子の発現レベルの変化を検出するには、前記の発現量の測定を当該発現量が変化すると予測される期間の前後(例えば、肥満治療薬の投与の前後)について行い、発現量の差を測定すればよい。
【0048】
具体的には、被検組織又は被検細胞において、前述したMCP−1遺伝子の発現量が変化すると予測される期間の前後で、その発現レベルが有意に上昇した場合に、体重の増加があった又は将来的に増加する可能性があると診断できる。一方、当該発現レベルが有意に減少した場合に、体重の減少があった又は将来的に減少する可能性があると診断することができる。
【0049】
(B)MCP−1タンパク質の発現レベルを測定することによる肥満又は痩せの検査方法
【0050】
被検組織又は被検細胞におけるMCP−1タンパク質の発現レベルの変化を検出することにより、又は、発現レベルを測定することにより、当該被検組織又は被検細胞を抽出した生体(例えばヒト)が肥満であるか又は痩せであるかを検査・診断することが可能である。また、単に検査時の肥満又は痩せの状態を検査するのみならず、将来的に肥満又は痩せになりうるかを予測することも可能である。
【0051】
以下、このような検査の具体的な方法について説明する。
【0052】
タンパク質の発現レベルを測定する方法としては、生体から単離したタンパク質を定量する方法やタンパク質の血中濃度を測定する方法があり、具体的な方法としては特に限定されない。
【0053】
生体から単離したタンパク質を定量する方法の具体例としては、以下のとおりである。先ず、被検組織又は被検細胞からMCP−1タンパク質を調製する。このようなタンパク質の調製は、公知の方法によって行うことができるが、例えば、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86,1850−1854(1989)に記載の方法により、行うことができる。こうして調製したタンパク質から、例えば、プロテインチップ(例えば、CIPHERGEN社製プロテインチップシステム)を用いる方法、免疫学的方法(例えば、ELISA、EIA法、ウエスタンブロッティング法)により、その発現量を測定することができる。また、被検組織又は被検細胞を用いた免疫染色等によって、その発現量を測定することもでできる。一方、タンパク質の血中濃度を測定する方法の具体例としては、生体から採取した血液を用いて、上記免疫学的方法等により、MCP−1タンパク質を定量する方法が挙げられる。
【0054】
以上のようにして、MCP−1の遺伝子又はタンパク質の発現レベルを測定した後、その結果を解析することにより、被検体の肥満又は痩せを検査できる。すなわち、本発明より、MCP−1タンパク質の発現レベルと体重は一定の相関関係を有することが明らかになったため、上記検査結果と対照群(健常人等)におけるMCP−1タンパク質の発現量とを比較することにより、肥満又は痩せの程度を判断することが可能となる。また、本発明の検査方法によれば、単に検査時の肥満又は痩せの状態を検査するのみならず、将来的な肥満又は痩せの可能性の予測も可能となる。これは、MCP−1タンパク質の血中濃度が体重の増減に先だって増減する傾向が見られることによるものであり、特にMCP−1タンパク質の血中濃度の減少と体重の減少との関係において、この傾向が強いことが本発明者らによって見出されている。
【0055】
また、MCP−1タンパク質の発現レベルの変化を検出するには、前記の発現量の測定を当該発現量が変化すると予測される期間の前後(例えば、肥満治療薬の投与の前後)について行い、発現量の差を測定すればよい。
【0056】
具体的には、被検組織又は被検細胞において、前述したMCP−1タンパク質の発現量が変化すると予測される期間の前後で、その発現レベルが有意に上昇した場合に体重の増加があった又は将来的に増加する可能性があると診断できる。一方、当該発現レベルが有意に減少した場合に体重の減少があった又は将来的に減少する可能性があると診断することができる。
【0057】
(C)MCP−1遺伝子の遺伝的多型を検出する肥満又は痩せの検査方法
【0058】
MCP−1遺伝子に遺伝的多型が存在する場合、その多型の有無や種類によりMCP−1遺伝子又はタンパク質の発現レベルが変化したり、当該タンパク質の活性に異常が生じる場合がある。従って、このような遺伝的多型を検出することによりMCP−1の発現や活性に関する知見を得、さらに、被検組織や被検細胞の由来となった被検体の肥満又は痩せの検査を行うことができる。このような遺伝的多型としては、具体的には、例えば、ミニサテライト、マイクロサテライト、SNP(single nucleotide polymorphism:一塩基多型)が挙げられる。
【0059】
MCP−1遺伝子における多型の検出は以下のようにして行うことができる。すなわち、MCP−1遺伝子において、その発現量を制御する領域を検査対象となる肥満又は痩せの被検体を対象として塩基配列を決定し、多型部位を検出する。検出された多型部位の対立遺伝子頻度を算出し、被検体集団において有意に増加又は減少している対立遺伝子を見出すことにより肥満又は痩せと相関する多型を同定する。このようにして検出された遺伝的多型は、例えば、被検体由来のゲノムDNAについて、多型部位の塩基配列の解析、多型部位に存在する塩基の種類に依存して変化するDNAの物理化学的性質の差や制限酵素部位の相違を利用する方法、当該多型部位の検出に適当な検出用プローブを利用する方法及び質量分析法を利用した方法等によって臨床的に検出可能である。
【0060】
(D)MCP−1タンパク質と相互作用することによりMCP−1遺伝子の発現量に影響を及ぼすタンパク質の発現量又は活性を検出することによる肥満又は痩せの検査方法
【0061】
生体内において、多くのタンパク質は他のタンパク質と相互作用することにより、所定の生理機能を発揮する。例えば、MCP−1タンパク質は、血管内皮細胞や平滑筋細胞等で産生され、その受容体であるCCR2を介して単球、リンパ球、好塩基球等の走化を促すことが知られている。従って、MCP−1タンパク質と、当該MCP−1タンパク質と相互作用することによりMCP−1遺伝子の発現量に影響を及ぼすタンパク質の発現量やその活性とは一定の相関関係を有し、いずれか一方の挙動を検出することにより、他方の挙動を推測できる関係にある。
【0062】
ここで、「相互作用」とは、MCP−1タンパク質と別のタンパク質が直接的又は間接的に作用することをいい、例えば、MCP−1タンパク質が別のタンパク質と物理的に接触することによりアミノ酸の修飾等を生じるような作用や、第3のタンパク質を介して相互作用し、間接的にMCP−1タンパク質の発現に影響を及ぼすような作用が挙げられる。このようなタンパク質としては、例えば、MCP−1タンパク質を介するシグナル伝達において、MCP−1タンパク質の上流又は下流で生理的機能を発揮するタンパク質が挙げられ、より具体的には、例えば、MCP−1タンパク質の受容体であるCCR2や、CCR2の下流に位置するシグナル伝達分子が挙げられる。また、MCP−1タンパク質の上流又は下流に位置するタンパク質の発現量又は活性を検出する方法としては、対象となるタンパク質の種類に応じて好適な手段を適宜選択すればよく、具体的な手段としては特に限定されない。
【0063】
以上の(A)〜(D)で説明したような本発明の肥満又は痩せの検査方法によって、分子レベルで肥満又は痩せの診断が可能となるばかりか、将来的に肥満又は痩せになる可能性についても予測できることとなり、従来の診断方法と比較して、より的確な診断が可能となる。
【0064】
(2)肥満又は痩せの検査薬、検査キット
【0065】
MCP−1タンパク質の発現量は、肥満又は痩せに基づく体重変化と相関関係を有する。従って、当該タンパク質に対する抗体を使用して被検細胞や被検組織中のタンパク質量を検出、測定することにより、肥満又は痩せの検査を簡便に行うことができる。ここで、「抗体」とは、抗原であるMCP−1遺伝子産物に結合しうる抗体分子全体又はその断片をいう。このような抗体は、公知の方法によって製造することができ、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体のいずれであってもよい。また、当該抗体を用いた免疫学的測定法としては、公知の方法を使用すればよく、具体的には、例えば、蛍光抗体法、酵素抗体法が挙げられる。
【0066】
また、このような抗体を含んだキットを製造し、本発明を実施することも可能である。キットの構成としては、当該抗体に加え、例えば、抗体を検出するために蛍光標識やラジオアイソトープで標識された2次抗体や抗原抗体反応を行う際に使用する緩衝液を備えていてもよい。
【0067】
このような肥満又は痩せの検査薬を使用することにより、分子レベルで肥満又は痩せの診断が可能となるばかりか、将来的に肥満又は痩せになる可能性についても予測できることとなり、従来の診断方法と比較して、より的確な診断が可能となる。また、本発明の肥満又は痩せの検査キットを使用することにより、前述したような的確な診断を非常に簡便に実施することが可能となる。
【0068】
(3)本発明の肥満又は痩せの治療又は予防に有効な化合物の評価方法
【0069】
被検化合物を被検動物や被検細胞に投与、接触させることにより変動するMCP−1遺伝子又はMCP−1タンパク質の発現量を測定したり、被検化合物をMCP−1タンパク質に接触させて当該タンパク質の活性に及ぼす影響を検討することにより、当該被検化合物の評価を行うことが可能となる。
【0070】
すなわち、このような被検化合物の中には、細胞や組織に作用することにより、MCP−1遺伝子又はMCP−1タンパク質の発現レベルやMCP−1タンパク質の活性を正常化あるいはコントロールし、脂肪の蓄積や食欲のコントロール等、肥満や痩せの原因となるメカニズムの正常化を図ることができるものがあると考えられる。従って、以下に説明するような評価方法により、肥満又は痩せの治療薬又は予防に有効な化合物を評価することが可能となる。ここで、「評価」とは、化合物のスクリーニングのみならず、バリデーションをも含む概念を指す。
【0071】
また、本発明者らは、MCP−1を投与してその血中濃度を高めることにより単球の活性化、すなわちCD11b positive単球の増加が促進されることを見出している。従来は、血管の炎症部分等からMCP−1が血管内に分泌され、その結果、単球の活性化が促進されていると考えられていた。しかし、これに加え、血管外部からのMCP−1によっても単球の活性化が認められる。単球の走化は単球の活性化によって促進され、また、単球の走化に続くマクロファージの産生により動脈硬化が生じることから、肥満によるMCP−1の増加が動脈硬化の一因となる。
【0072】
本発明の化合物の評価方法により、MCP−1遺伝子又はMCP−1タンパク質の発現レベル又はMCP−1タンパク質の活性を指標として肥満又は痩せの治療又は予防に有効な化合物を評価することが可能になるとともに、肥満を介した動脈硬化についても、その治療又は予防に有効な化合物の評価を行うことが可能となる。
【0073】
(A)MCP−1遺伝子の発現レベル調節能を指標とする評価方法
【0074】
被検化合物を被検動物又は被検細胞に投与又は接触させ、当該被検化合物が被検動物又は被検細胞中でMCP−1遺伝子あるいは当該遺伝子と機能的に等価な遺伝子の発現レベルを調節するか否かを確認することにより、肥満又は痩せの治療又は予防に有効な化合物を評価することが可能となる。
【0075】
具体的には、以下の手順で被検化合物の評価を行う。
【0076】
先ず、被検化合物を被検動物又は被検細胞に投与又は接触させる。ここで、被検化合物としては、肥満又は痩せの治療又は予防薬の候補化合物であれば、その構造や性質は問わず、化合物種も限定されない。また、被検動物としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、サルが挙げられる。
【0077】
被検化合物を被検動物に投与する方法としては特に制限はなく、具体的には、例えば、経口投与、非経口投与(例えば、経皮投与、筋肉内注射、静脈内注射、皮下注射)が挙げられる。また、被検化合物を被検細胞に接触させる方法としても特に制限はなく、具体的には、例えば、緩衝液(リン酸緩衝液等)等の溶液中で混合し接触する方法が挙げられる。
【0078】
次に、被検化合物が被検動物又は被検細胞中でMCP−1遺伝子あるいは当該遺伝子と機能的に等価な遺伝子の発現レベルを調節するか否かを確認する。
【0079】
前記遺伝子の発現レベルの調節の有無の確認法としては、特に制限はなく、前述の投与又は接触の前を対照とし、当該遺伝子の発現量の変化をRT−PCRのような遺伝子増幅法、DNAマイクロアレイを用いる方法又はノーザンハイブリダイゼーション法等によって検出することにより実施することができる。また、前記遺伝子の発現調節領域とレポーター遺伝子との融合遺伝子を人為的に導入した動物又は細胞を用いてもよい。この場合、レポーター遺伝子としては、具体的には、例えば、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子又はグリーンフルオレッセンスプロテイン遺伝子が挙げられる。
【0080】
ここで、「MCP−1遺伝子と機能的に等価な遺伝子」とは、MCP−1遺伝子と塩基配列は異なるものの、比較的高い相同性を示し、MCP−1と同じ又は類似の活性を有する遺伝子を示す。ここで、前記相同性は、機能的に等価であれば特に制限はないが、塩基配列の相同性が70〜100%であることが好ましく、80〜100%であることがより好ましく、90〜100%であることが特に好ましい。相同性が前記下限より低い場合には、MCP−1と同じ又は類似の機能を示さない可能性が高い傾向にある。しかしながら、塩基配列の相同性が前記下限未満であっても、MCP−1に特有の機能を有するドメインと、当該ドメインに対応する塩基配列との相同性が高い場合にはMCP−1遺伝子と同様又は類似の機能を有する場合がある。このような遺伝子は、塩基配列の相同性が前記範囲外であっても好適に使用可能である。また、比較的相同性の高い遺伝子とは、MCP−1遺伝子における1又は2以上の塩基が自然若しくは人工的に置換、欠失、付加及び/又は挿入した遺伝子であってもよい。
【0081】
被検化合物を投与又は接触させない場合に比べて、被検化合物を投与又は接触させた場合のMCP−1遺伝子又はMCP−1遺伝子と機能的に等価な遺伝子の発現レベルが5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上低下した場合、当該被検化合物は肥満の治療又は予防に有効な化合物と評価できる。他方、被検化合物を投与又は接触させない場合に比べて、被検化合物を投与又は接触させた場合のMCP−1遺伝子又はMCP−1遺伝子と機能的に等価な遺伝子の発現レベルが5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上上昇した場合、当該被検化合物は痩せの治療又は予防に有効な化合物と評価できる。
【0082】
(B)MCP−1タンパク質の発現レベル調節能を指標とする評価方法
【0083】
被検化合物を被検動物又は被検細胞に投与又は接触させ、当該被検化合物が被検動物又は被検細胞中でMCP−1タンパク質あるいは当該タンパク質と機能的に等価なタンパク質の発現レベルを調節するか否かを確認することにより、肥満又は痩せの治療又は予防に有効な化合物を評価することが可能となる。
【0084】
被検化合物を被検動物又は被検細胞に投与又は接触させる方法等については、上記の(A)MCP−1遺伝子の発現レベル調節能を指標とする評価方法に記載の方法等と同様である。
【0085】
前記タンパク質の発現レベルの調節の有無の確認法としては、特に制限はなく、前述の投与又は接触の前を対照とし、当該タンパク質の発現量の変化を、例えば、プロテインチップ(例えば、CIPHERGEN社製プロテインチップシステム)を用いる方法、免疫学的方法(例えば、ELISA、EIA法、ウエスタンブロッティング法)等によって検出することにより実施することができる。前記タンパク質の発現レベル調節の有無の確認は、MCP−1タンパク質の血中濃度の測定により行うことが好ましい。
【0086】
ここで、「MCP−1タンパク質と機能的に等価なタンパク質」とは、MCP−1タンパク質とアミノ酸配列は異なるものの、比較的高い相同性を示し、MCP−1タンパク質と同じ又は類似の活性を有するタンパク質を示す。ここで、前記相同性は、機能的に等価であれば特に制限はないが、アミノ酸配列の相同性が50〜100%であることが好ましく、60〜100%であることがより好ましく、70〜100%であることが特に好ましい。相同性が前記下限より低い場合には、MCP−1タンパク質と同じ又は類似の機能を示さない可能性が高い傾向にある。しかしながら、タンパク質のアミノ酸配列の相同性が前記下限未満であっても、MCP−1タンパク質に特有の機能を有するドメインのアミノ酸配列と、前記タンパク質の当該ドメインに対応するアミノ酸配列との相同性が高い場合には、前記タンパク質はMCP−1タンパク質と同様又は類似の機能を有する場合がある。このようなタンパク質は、アミノ酸配列の相同性が前記範囲外であっても好適に使用可能である。また、比較的相同性の高いタンパク質とは、MCP−1タンパク質における1又は2以上のアミノ酸残基が自然若しくは人工的に置換、欠失、付加及び/又は挿入したタンパク質であってもよい。
【0087】
被検化合物を投与又は接触させない場合に比べて、被検化合物を投与又は接触させた場合のMCP−1タンパク質又はMCP−1タンパク質と機能的に等価なタンパク質の発現レベルが5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上低下した場合、当該被検化合物は肥満の治療又は予防に有効な化合物と評価できる。他方、被検化合物を投与又は接触させない場合に比べて、被検化合物を投与又は接触させた場合のMCP−1タンパク質又はMCP−1タンパク質と機能的に等価なタンパク質の発現レベルが5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上上昇した場合、当該被検化合物は痩せの治療又は予防に有効な化合物と評価できる。
【0088】
(C)MCP−1タンパク質の活性を指標とする評価方法
【0089】
被検化合物をMCP−1タンパク質に接触させ、被検化合物が当該タンパク質の活性に影響を与えるか否かを確認することにより、肥満又は痩せの治療又は予防に有効な化合物を評価することが可能となる。
【0090】
具体的には、以下の手順で被検化合物の評価を行う。
【0091】
先ず、被検化合物をMCP−1タンパク質に接触させる。
【0092】
このようなタンパク質と被検化合物を接触させる方法は、特に制限はなく、具体的には、例えば、緩衝液(リン酸緩衝液等)等の溶液中で混合し接触させる方法が挙げられる。
【0093】
次に、被検化合物が当該タンパク質の活性に影響を与えるか否かを確認する。タンパク質の活性測定における条件は、使用するタンパク質の性質により適宜設定すればよい。このような条件としては、具体的には、例えば、MCP−1タンパク質の場合には、単球走化性を指標とすることができ、例えば、J.Clin.Invest.90,772−779(1992);Kidney Int.44,1036−1047(1993)(非特許文献4)を参照して行うことができる。
【0094】
被検化合物をMCP−1タンパク質に接触させない場合に比べて、被検化合物をMCP−1タンパク質に接触させた場合のMCP−1タンパク質の活性が5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上低下した場合、当該被検化合物は肥満の治療又は予防に有効な化合物と評価できる。他方、被検化合物をMCP−1タンパク質に接触させない場合に比べて、被検化合物をMCP−1タンパク質に接触させた場合のMCP−1タンパク質の活性が5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上上昇した場合、当該被検化合物は痩せの治療又は予防に有効な化合物と評価できる。
【0095】
以上説明したような本発明の肥満又は痩せの治療又は予防に有効な化合物の評価方法により、肥満又は痩せの治療薬や診断薬のスクリーニングや、これらの薬剤の有効性又は安全性の評価、さらには、オーダーメイド治療における適切な薬剤の選択が可能となる。
【0096】
(4)本発明の肥満又は痩せの治療又は予防に有効な化合物
【0097】
MCP−1が肥満及び体重変化に関与していることが解明されたので、上記の評価方法により有効であると評価された化合物は、肥満又は痩せの治療又は予防剤として極めて有用である。
【実施例】
【0098】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0099】
(肥満モデル動物の作製)
【0100】
製造例1
(ニューロペプチドY(Neuropeptide Y:NPY)Y5アゴニストi.c.v.投与マウス)
【0101】
NPY Y5アゴニストを投与することにより肥満を呈するモデルマウスを以下の要領で作製した。
【0102】
9〜12週齢の雄マウス(C57BL/6J:クレア社製)は、室温23±2℃、湿度55±15%の条件下、1プラスチックゲージに1匹ずつ飼育した。また、飼育時の明暗のサイクルは12時間とし、午前7時に点灯し、午後7時に消灯した。また、マウスは、飼料(CE−2(タンパク質:25.4重量%、炭水化物:50.3重量%、脂質:4.4重量%):クレア社製)と水は自由に摂取させた。
【0103】
マウスは、80mg/kgペントバルビタールナトリウム(ダイナボット社製)で麻酔をかけ、滅菌された28ゲージの脳注入カニューレ(アルゼ(Alzet)社製)を右側脳質へ定位的に移植した。カニューレはブレグマより後方へ0.4mm、側方へ0.8mm、深さ2mmの位置に、頭蓋骨に対し垂直に固定した。カニューレは歯科用セメントで頭蓋骨に固定した。カニューレは、0.05%ウシ血清アルブミン(BSA)を含む10mMのリン酸緩衝液で満たした浸透圧ポンプ(モデルナンバー2002:アルゼ社製)にポリビニルクロライドチューブで接続した。10mM PBS(0.05%BSA含む)にD−Try34NPY(5マイクログラム/日になるように調製)を溶解した溶液をポンプに満たした後、マウスの背中の皮下に埋め込み、抗生物質(50mg/kgのセファメジン(Cefamedine):藤沢薬品社製)を皮下注射した。
【0104】
これらのマウスを平均体重を一致させた3つのグループ(溶媒のみを注入したグループ(vehicle group)、D−Try34NPY(NPY Y5アゴニスト)を注入したグループ(ad lib fed group)、D−Try34NPYを注入しペアフィードとしたグループ(pair−fed group))に分けた。
【0105】
製造例2
(DIO(Diet induced obesity)マウス)
【0106】
18週齢のマウス(C57BL/6J:クレア社製)は、室温23±2℃、湿度55±15%の条件下、1プラスチックゲージに1匹ずつ飼育した。このマウスに高カロリー食であるMHF(タンパク質:18.2重量%、炭水化物:55.6重量%、脂質:15.5重量%)を6ヶ月間に渡って与え、肥満を呈するモデルマウス(DIOマウス)を作製した。なお、実施例中、「established MFD」は、これ以上体重が増えないようになるまでMHFを与えて飼育したマウスを指す。
【0107】
また、前記のマウスにMHFよりさらに高い脂肪を含有する高カロリー食であるHFD(タンパク質:20.8重量%、炭水化物:38.59重量%、脂質:32.88重量%)を与えたDIOマウス(HFD)も作製した。
【0108】
製造例3
(食事制限をしたマウス)
【0109】
マウス(C57BL/6N、17週齢)は1ケージに1匹ずつ個別に飼育した。また、エサは普通食(CA−1、CLEA)を与えた。
【0110】
摂食制限は、以下のようなスケジュールで行った。すなわち、エサ(CA−1)を1日につき3時間(10:00〜13:00)だけ与え、水は自由に摂取できるようにした。摂食時間の前後で餌の重量を測定し、その差を摂食量とした。また、摂食制限をしている期間は、体重、外見の観察等をモニターした。なお、条件付けに失敗したと思われるマウス(短期間に極度な体重減少(例えば20%程度の減少)が見られるマウス)は実験には使用しなかった。かかる条件下でマウスを7日間飼育した後、白色脂肪細胞を摘出した。
【0111】
実施例1〜3及び比較例1
(白色脂肪細胞におけるMCP−1の発現)
【0112】
MCP−1の発現量の定量的な解析は、マウス白色脂肪細胞からRT−PCRによって得たcDNAを用い、TaqMan PCR法により行った。標準曲線はマウスMCP−1 cDNA(アクセッションナンバー:NM011333)断片を用いて作成し、β−actinの発現量に基づいて標準化した。以下に、使用したプライマーの塩基配列を示す。

マウスMCP−1cDNA断片作製用プライマー

【0113】
非処理のC57BL/6Nの白色脂肪細胞におけるMCP−1及びレプチンの発現量を1とした場合の、DIOマウス(DIO)、D−Try34NPY投与マウス(Y5 agonist FF)、D−Try34NPY pair feeding投与群マウス(Y5 agonist PF)及び食事制限をしたマウス(Fasting)におけるこれらの遺伝子の発現量を表1に示す。表1より明らかなように、肥満モデルマウスではMCP−1の発現量が増加し、食事制限をしたマウスでは、その発現量が低下していた。従って、MCP−1の発現量と体重とが相関関係を有していることが明らかとなった。
【0114】

【実施例4】
【0115】
(肥満モデルマウスにおけるMCP−1の血中濃度)
【0116】
DIOマウスにおけるMCP−1の血中濃度の測定を行い、肥満とMCP−1濃度との関係を検討した。各マウスにおけるMCP−1の血中濃度の測定は、以下のようにして行った。
【0117】
8週齢からMHFを与えて飼育したDIOマウス55匹について、15週齢のときに尾静脈より採血を行った。この血漿成分を用いて、MCP−1の血中濃度を測定した。具体的には、先ず、マウス尾静脈よりヘパリン採血を行い、遠心操作により血漿成分を採取した。次に、50マイクロリットルの血漿を抗体固相化プレート中、室温で2時間静置して反応させた。このプレートを緩衝液で洗浄後、酵素標識された抗マウスMCP−1抗体を加え、室温でさらに2時間静置して反応させた。再びこのプレートを緩衝液で洗浄した後、酵素基質溶液を加え、遮光下、室温で30分間静置して反応させた。この反応を塩酸で停止させた後、吸光度を測定した。標準曲線用のMCP−1溶液の吸光度より標準曲線を作製し、血漿中のMCP−1の濃度を求めた(EIAサンドイッチ法(R&Dシステム社製))。
【0118】
図1に示すとおり、DIOマウスでは対照群(C57BL/6N)と比較してMCP−1の血中濃度が著しく上昇していることが分かった。なお、ここで使用したDIOマウスと対照群との体重差を図2に示す。
【0119】
また、DIOマウスにおける体重とMCP−1の血中濃度との関係を図3に示す。図3から明らかなように、肥満モデルマウスにおいて、MCP−1の血中濃度と体重とは一定の相関関係を有することが見出された。
【実施例5】
【0120】
(食事制限モデルマウスの白色脂肪細胞におけるMCP−1の発現)
【0121】
製造例3で作製した食事制限モデルマウスを用い、MCP−1の発現量を測定した。ここで、MCP−1の発現量の測定は、実施例1と同様に実施した。
【0122】
図4にモデルマウスの食事制限の前後における体重変化を示す。なお、図4中、縦軸は、食事制限前の体重に対する食事制限後の体重を%で示す。
【0123】
また、図5にモデルマウスの食事制限の前後におけるMCP−1の発現量を示す。図5から明らかなように、食事制限によりMCP−1の発現量が著しく低下した。なお、図5中、縦軸は食事制限前のMCP−1の発現量を1とした場合のMCP−1の発現量を示す。
【0124】
以上より、体重の減少とMCP−1の発現量との間には密接な相関関係があることが明らかとなった。
【実施例6】
【0125】
(食事制限モデルマウスにおけるMCP−1の血中濃度)
【0126】
製造例3で作製した食事制限モデルマウスを用い、MCP−1の血中濃度の測定を行った。また、MCP−1の血中濃度は実施例4と同様にして測定した。
【0127】
図6から明らかなように、食事制限の前後でMCP−1の血中濃度は著しく減少した。このことから、体重の減少と血中のMCP−1濃度との間には密接な相関関係があることが明らかとなった。
【実施例7〜9】
【0128】
(肥満抑制作用を有する化合物投与によるMCP−1の発現量及び血中濃度の変動)
【0129】
DIOマウス(HFD)にWO01/14376号公報記載の肥満抑制作用を有する化合物(化合物1)を投与した後、当該マウスの白色脂肪細胞におけるMCP−1の発現量を測定した。図7に示すとおり、DIO(HFD)マウスではMCP−1の発現は著しく上昇したが、肥満抑制作用を有する化合物を投与した場合には、その発現は有意に減少した(実施例7)。なお、図7中、RDは普通食を与えたマウス(Regular diet)を示し、縦軸はmRNAの発現量をβ−actinの発現量で補正した値を示す。
【0130】
また、DIOマウスにWO01/14376号公報記載の肥満抑制作用を有する化合物(化合物1)を投与した後、MCP−1の血中濃度を測定した。図8に示すとおり、DIO(MHF)マウスではMCP−1の血中濃度は著しく上昇したが、肥満抑制作用を有する化合物を投与した場合には、その血中濃度は有意に減少した(実施例8)。
【0131】
さらに、DIOマウスに前記化合物を投与後、4日目に採血してMCP−1の血中濃度を測定し、この血中濃度を体重で標準化した。図9より明らかなように、4日目では体重は減少していないにもかかわらず、MCP−1の血中濃度は低下した。これは、体重が減少するのに先だってMCP−1の血中濃度の低下が生じていることを示す(実施例9)。なお、前記化合物投与4日目においては、MCP−1遺伝子の発現は減少したが、レプチン遺伝子の発現には変化はなかった。このことより、MCP−1は、レプチンよりも先に体重変化に反応することが明らかとなった。
【実施例10】
【0132】
(フローサイトメトリーによるCD11bの発現解析)
【0133】
マクロファージの表面抗原であるCD11bの数、すなわち、血中単球がMCP−1の投与によりどのように変動するかを調べるため、フローサイトメトリーによる解析を行った。
【0134】
先ず、MCP−1をマウスの皮下に10ng/0.5マイクロリットル/時間の割合でオスモティックポンプを用いて2週間に渡って注入した。次に、コントロールマウス(C57BL/6)、DIOマウス及びMCP−1処理したマウスそれぞれの尾静脈から、ヘパリン処理したキャピラリーを用いて血液を採取した。血球細胞は300×gで5分間遠心分離して採取した後、室温で15分間、FITCラベルした抗マウスCD11b抗体(BD Biosciences社製)とインキュベートした。また、非特異的結合のコントロールとして、前記の試料はIgG2bアイソタイプともインキュベートした。これらの細胞をPBSで洗浄した後、赤血球を、溶解バッファーを用いて、室温で5分間、溶解した。細胞をPBSで洗浄した後、0.5%ホルムアルデヒド入りのPBSに懸濁した。この懸濁液から単球を同定するため、EPICS Elite Flow Cytometer(Beckman Coulter社製)を用いてフローサイトメトリーを行った。ここで、フローサイトメトリーによる解析は、全血球細胞中の単球/マクロファージの集合を決定することにより行った。また、フローサイトメトリーは、蛍光と散乱光を指標にし、各試料につき40,000個の細胞を解析した。
【0135】
フローサイトメトリーの結果を図10(a)〜(f)に示す。ここで、図10(a)はコントロールマウス由来の血球細胞の結果を示し、図10(b)はDIOマウス由来の血球細胞の結果を示す。また、図10(c)はコントロールマウス及びDIOマウスにおけるCD11b陽性の単球数を示す。一方、図10(d)はsaline投与したコントロールマウス由来の血球細胞の結果を示し、図10(e)はMCP−1投与したマウス由来の血球細胞の結果を示す。また、図10(f)はsaline投与コントロールマウス及びMCP−1投与マウスにおけるCD11b陽性の血球数を示す。図10(a)〜(f)より、DIOマウス及び体外からMCP−1を投与したマウスにおいてCD11b陽性の血球数すなわちマクロファージ数の増加が確認できた。ここで、CD11b positive単球の増加は、単球の動脈硬化巣への走化を促進していると考えられる。すなわち、血管内皮から分泌されたMCP−1のみならず、体外から投与したMCP−1によっても単球の走化が起きることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の検査方法によれば、分子レベルで肥満又は痩せの検査・予測が可能となり、従来の診断方法と比較してより的確な診断が可能となる。また、本発明の化合物の評価方法によれば、肥満又は痩せの治療薬や診断薬のスクリーニング等、各種評価が可能となる。
【配列表】





【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
MCP−1遺伝子の被検組織又は被検細胞における発現レベルを測定することを特徴とする肥満又は痩せの検査方法。
【請求項2】
MCP−1タンパク質の被検組織又は被検細胞における発現レベルを測定することを特徴とする肥満又は痩せの検査方法。
【請求項3】
MCP−1遺伝子の被検組織又は被検細胞における発現レベルの変化を検出することを特徴とする肥満又は痩せの検査方法。
【請求項4】
MCP−1タンパク質の被検組織又は被検細胞における発現レベルの変化を検出することを特徴とする肥満又は痩せの検査方法。
【請求項5】
被検組織又は被検細胞におけるMCP−1遺伝子に存在する多型を検出することを特徴とする肥満又は痩せの検査方法。
【請求項6】
MCP−1タンパク質と相互作用することによりMCP−1遺伝子の発現量に影響を及ぼすタンパク質の発現量又は活性を検出することを特徴とする肥満又は痩せの検査方法。
【請求項7】
MCP−1タンパク質に対する抗体を有効成分として含むことを特徴とする肥満又は痩せの検査薬。
【請求項8】
MCP−1タンパク質に対する抗体を含むことを特徴とする肥満又は痩せの検査キット。
【請求項9】
被検化合物を、被検動物又は被検細胞に、投与又は接触させる工程と、被検化合物が、被検動物又は被検細胞中でMCP−1遺伝子あるいは該遺伝子と機能的に等価な遺伝子の発現レベルを調節するか否かを確認する工程、を含むことを特徴とする肥満又は痩せの治療又は予防に有効な化合物の評価方法。
【請求項10】
被検化合物を、被検動物又は被検細胞に、投与又は接触させる工程と、被検化合物が、被検動物又は被検細胞中でMCP−1タンパク質あるいは該タンパク質と機能的に等価なタンパク質の発現レベルを調節するか否かを確認する工程、を含むことを特徴とする肥満又は痩せの治療又は予防に有効な化合物の評価方法。
【請求項11】
被検化合物を、MCP−1タンパク質に接触させる工程と、被検化合物が、前記タンパク質の活性に影響を与えるか否かを確認する工程、を含むことを特徴とする肥満又は痩せの治療又は予防に有効な化合物の評価方法。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか一項に記載の評価方法により、肥満又は痩せの治療又は予防に有効であると評価された化合物。

【国際公開番号】WO2004/092368
【国際公開日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505343(P2005−505343)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003452
【国際出願日】平成16年3月12日(2004.3.12)
【出願人】(000005072)萬有製薬株式会社 (51)
【Fターム(参考)】