説明

育毛剤

【課題】育毛活性を示す活性成分を同定する。
【解決手段】アメリカンアンジェリカ(Angelica atropurpurea)の抽出物に含まれ、育毛活性を示す活性成分を同定した。活性成分は所定の構造を有するアンギュラー型フロクマリン骨格を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物又は植物抽出物に含まれる活性成分を有効成分とする育毛剤に関する。
【背景技術】
【0002】
男性型脱毛症、円形脱毛症などの脱毛症の多くは、未だその発症機序の詳細が不明である。従来これらの脱毛症の治療には、経験的に、血行促進剤、免疫抑制剤、代謝促進剤、ビタミン剤、抗男性ホルモン剤等の薬剤が用いられている。しかしながら、これらの薬剤では、症状や体質によっては効果が異なる場合が多く、その効果も未だ満足出来るものではない。また、多量に使用すると適応部位に不快な刺激臭感覚を与えたり、継続使用により皮膚炎が発生するといった場合がある。
【0003】
アンジェリカ属に属する植物については、その抽出物に育毛、発毛或いは養毛効果が認められるという報告もある(特許文献1〜4)。具体的に特許文献1には、カラトウキ(Angelica sinensis)抽出物を含む養毛・育毛剤が開示されている。特許文献2には、Angelica glaucaの精油を含有する養毛剤が開示されている。特許文献3には、白す(Angelica dahurica Benth. Et Hook.)の抽出物を含有する発毛・育毛促進料が開示されている。特許文献4にはアシタバ(Angelica Keiskei Koidz)の抽出物を含む育毛養毛等美髪料が開示されている。
【0004】
しかしながら、これらアンジェリカ属に属する植物又はその抽出物からの含有成分について、育毛、発毛或いは養毛効果との関連について示唆するものはない。アンジェリカ植物に含まれる成分については、非特許文献1を参照することができる。
【0005】
【特許文献1】特許3527584号
【特許文献2】特開2005-89392号公報
【特許文献3】特開平1-38013号公報
【特許文献4】特開昭63-145216号公報
【非特許文献1】S.D. Sarker and L. Nahar, "Natural Medicine: The Genus Angelica" Current Medicinal Chemistry, 11, 1479-1500, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、症状や体質にかかわらず、育毛・発毛を促進し、種々の脱毛症に有効な育毛剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、アメリカンアンジェリカ(Angelica atropurpurea)の抽出物に含まれ、育毛活性に寄与する活性成分の同定に成功し、本発明を完成するに至った。本発明は以下を包含する。
【0008】
本発明に係る育毛剤は、次の一般式(I):
【化1】

(上記一般式(I)中、R1及びR2は、各々同じであっても異なっていてもよく、水素原子又は一般式(II):
【0009】
【化2】

で示される基(上記一般式(II)中、R3は炭素数1〜20の直鎖又は分枝アルキル基又はアルケニル基を示す)である)で示されるクマリン誘導体及び薬理学的に許容されるそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を有効成分として含有する。
【0010】
ここで、上記一般式(I)中R1がアンゲロイル基、イソバレロイル基及びセネシオイル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基であり、R2はアンゲロイル基、イソバレロイル基、2メチルブチル基及びセネシオイル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基であることが好ましい。
【0011】
さらに上記一般式(I)で表されるクマリン誘導体が、アルカンジェリシン、3’-angeloyloxy-4’-isovaleryloxy-2’,3’-dihydrooroselol、及び3’-hydroxy-4’-angeloyloxy-2’,3’-dihydrooroselolからなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、育毛活性を示すといった新規機能を有する活性成分を含む育毛剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る育毛剤は、アメリカンアンジェリカ植物又は当該植物の抽出物に含まれ、育毛活性を有する活性成分を有効成分としている。ここで、アメリカンアンジェリカとは、学名をAngelica atropurpureaと称し、セリ科に分類される植物である。
【0014】
ここで活性成分とは、次の一般式(I)で示されるクマリン誘導体若しくは薬理学的に許容されるその塩である。一般式(I)に示すように、活性成分は、クマリン誘導体の中でもアンギュラー型クマリン誘導体である。
【0015】
【化3】

【0016】
上記一般式(I)中、R1及びR2は水素原子又は一般式(II):
【化4】

で示される基である。ここで、上記一般式(II)中、R3は炭素数1〜20の直鎖又は分枝アルキル基又はアルケニル基である。なお、R1及びR2は、各々同じであっても異なっていてもよい。
【0017】
すなわち、活性成分として使用できるクマリン誘導体は、上述のように規定したR1、R2及びR3の範囲で種々の化合物を含むことになる。特に、上記R1としては、アンゲロイル基、イソバレロイル基及びセネシオイル基からなる群から選ばれる官能基であることが好ましい。また、上記R2はアンゲロイル基、イソバレロイル基、2メチルブチル基及びセネシオイル基からなる群から官能基であることが好ましい。さらに、上記R2がアンゲロイル基、イソバレロイル基、2メチルブチル基又はセネシオイル基であるクマリン誘導体を、脱アシル化することによってクマリン骨格の3'位をヒドロキシル基(上記R2が水素原子の場合に相当)とすることができる。
【0018】
なかでも、活性成分としては、R1がアンゲロイル基であり、R2がアンゲロイル基であるクマリン誘導体、R1がイソバレロイル基であり、R2がアンゲロイル基であるクマリン誘導体、及びR1がセネシオイル基であり、R2がアンゲロイル基であるクマリン誘導体であることが好ましい。また、活性成分としては、これらクマリン誘導体を脱アシル化して得られるアンギュラー型フロクマリン誘導体も好ましい。
【0019】
特に、R1がアンゲロイル基であり、R2がアンゲロイル基であるクマリン誘導体はアルカンジェリシンとして抗腫瘍、抗炎症作用が知られた化合物である。また、R1がイソバレロイル基であり、R2がアンゲロイル基であるクマリン誘導体、例えば3’-angeloyloxy-4’-isovaleryloxy-2’,3’-dihydrooroselolは、本発明において育毛活性を有することが明らかになった公知化合物である。
【0020】
なお、上述したクマリン誘導体における育毛活性は以下のように測定することができる。育毛活性は、毛伸長促進率を指標として評価することができる。ここで、毛伸長促進率とは、要するに、クマリン誘導体を作用させないときの毛伸長率に対して、クマリン誘導体を作用させたときの当該毛伸長率の促進率を意味している。育毛活性とは、毛包に作用し、毛の伸長の促進、太さの増大、毛周期の休止期から成長期への移行促進、成長期から退行期への移行阻害などを行なうことにより毛の量を増加させることを意味する。従って、育毛には、発毛、養毛及び脱毛予防の概念が包含されるものとする。育毛作用を測定する方法としては、特に限定されないが、例えば単離毛包を器官培養し、培養期間中の毛の伸長量を測定する方法が挙げられる。
【0021】
一方、活性成分であるクマリン誘導体のうち、上述したアルカンジェリシン及び3’-angeloyloxy-4’-isovaleryloxy-2’,3’-dihydrooroselolについては、例えば、アメリカンアンジェリカ植物の植物抽出物から単離することができる。アメリカンアンジェリカ植物の植物抽出物は、アメリカンアンジェリカ植物の全草、葉、茎、花、果実、種子、根茎又は根等から常温又は加温下にて抽出するか又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出することにより得られる。植物抽出物を得るために用いられる抽出溶剤としては、極性溶剤又は非極性溶剤のいずれをも使用することができる。抽出溶剤としては、例えば水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;スクワラン、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;トルエン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;及び二酸化炭素等が挙げられる。あるいは、上記溶剤の2種以上を組み合わせた混合物を、抽出溶剤として用いることができる。
【0022】
特に、上述したアルカンジェリシン及び3’-angeloyloxy-4’-isovaleryloxy-2’,3’-dihydrooroselolは、95%エタノールを使用した植物抽出物から単離することができる。具体的には、上記植物等抽出物をクロマトグラフィー液々分配等の分離技術に供し、当該抽出物から不活性な夾雑物を除去することで単離することができる。また、アルカンジェリシンを脱アシル化することによって3’-hydroxy-4’-angeloyloxy-2’,3’-dihydrooroselolが得られる。
【0023】
ただし、本発明においては、上記化学式(I)で示される化合物であれば、従来公知の化合物を活性成分として使用することができる。上記化学式(I)で示される公知化合物としては、例えば、アサマンチン(Athamantin)、シニフォリンB(Cniforin B)、エデュリシンII(Edulisin II)及びエデュリシンV(Edulisin V)を挙げることができ、活性成分として使用することができる。
【0024】
また、活性成分であるクマリン誘導体は塩にすることにより水溶性を向上させ、生理学的有効性を増大させることができる。これらの塩としては、薬学的に許容される塩であればよい。このような塩形成用の塩基物質としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;水酸化アンモニウム等の無機塩基、アルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等の塩基性アミノ酸;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機塩基が用いられるが、特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物が好ましい。本発明においては、これらの塩を調製してから、その他の成分からなる組成物中に添加したものでもよいし、クロロゲン酸類等と塩形成成分とを別々に該組成物中に添加して、この中で塩を形成せしめたものでもよい。
【0025】
本発明に係る育毛剤を医薬用途として使用する場合、剤形として、特に限定されないが、例えば散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤等の固形製剤、水剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、軟膏剤等が挙げられる。本発明に係る剤を経口投与の医薬用組成物として使用する場合、経口投与剤の形態に応じて一般に用いられる、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、アルコール類、水、水溶性高分子、甘味料、矯味剤、酸味料等を添加し、常法に従って製造することができる。
【0026】
また、本発明に係る育毛剤は、例えば皮膚用の医薬部外品として使用するものであり、使用形態に適した剤形として提供される。具体的に剤形としては、特に限定されるものではないが、例えば、軟膏、水剤、エキス剤、ローション剤、トニック剤、スプレー剤及び乳剤等が挙げられる。当該医薬部外品には、上述した活性成分の他に、助剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、吸収促進剤及び界面活性剤等の薬学的に許容される担体を任意に組合せて配合することができる。また、育毛剤においては、上述した有効成分の他に、通常用いられる養毛薬効剤、例えば、毛包賦活剤、血行促進剤、抗菌剤、抗炎症剤、保湿剤、抗脂漏剤、局所刺激剤、抗男性ホルモン剤、カリウムチャンネルオープナー、抗酸化剤等を必要に応じて適宜配合し、育毛効果の向上を図ることができる。毛包賦活剤としては、フラバノノール類、N -アセチル- L -メチオニン、パントテン酸及びその誘導体、アデノシン及びその誘導体、アスパラギン酸カリウム、ペンタデカン酸グリセリド、6 -ベンジアルアミノプリン、モノニトログアヤコールナトリウム等が挙げられる。血行促進剤としては、二酸化炭素、ニコチン酸アミド、ニコチン酸ベンジル、センブリエキス、ニンジンエキス、塩化カルプロニウム、ビタミンE及びその誘導体等が挙げられる。抗菌剤としては、イソプロピルメチルフェノール、塩化ベンザルコニウム、オクトピロックス、ジンクピリチオン、ヒノキチオール等が挙げられる。抗炎症剤としては、甘草エキス、グリチルリチン酸及びその誘導体、グリチルレチン酸及びその誘導体、アズレン、グアイアズレン、オウゴンエキス、カミツレエキス、クマザサエキス、シラカバエキス、ゼニアオイエキス、桃葉エキス、セイヨウノコギリソウエキス等が挙げられる。保湿剤としては、オトギリソウエキス、オーツ麦エキス、グリセリン、チューベロースポリサッカライド、冬虫夏草エキス、延命草エキス、オオムギエキス、ブドウエキス、プロピレングリコール、桔梗エキス、ヨクイニンエキス等が挙げられる。抗脂漏剤としては、イオウ、レシチン、カシュウエキス、チオキソロン等が挙げられる局所刺激剤としては、カンファー、トウガラシチンキ等が挙げられる。抗男性ホルモン剤としては、サイプロテロンアセテート、1 1α -ハイドロキシプロゲステロン、フルタマイド、3 -デオキシアデノシン、酢酸クロルマジノン、エチニルエストラジオール、スピロノラクトン、エピテステロン、フィナステライド、アロエ、サンショウ、チョウジエキス、クアチャララーテエキス、オタネニンジン等が挙げられる。カリウムチャンネルオープナーとしては、ミノキシジル、クロマカリム、ジアゾキシド及びその誘導体、ピナシジル等が挙げられる。抗酸化剤としては、紅茶エキス、茶エキス、エイジツエキス、黄杞エキス、ビタミンC及びその誘導体、エリソルビン酸、没食子酸プロピル、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。
【0027】
一方、上述した活性成分は化粧料として使用することもできる。この場合には、剤形としては、特に限定されるものではないが、例えば、油中水型又は水中油型の乳化化粧料、クリーム、ローション、ジェル、フォーム、エッセンス、ファンデーション、パック、スティック及びパウダー等が挙げられる。当該化粧料には、上述した活性成分の他に、化粧料成分として一般に使用されている油分、界面活性剤、紫外線吸収剤、アルコール類、キレート剤、pH調整剤、防腐剤、増粘剤、色素類、香料及び各種皮膚栄養剤等を任意に組合せて配合することができる。具体的には、皮膚化粧料に配合される薬効成分、例えば微粒子酸化亜鉛、酸化チタン、パーソールMCX、パーソール1789等の紫外線吸収剤、アスコルビン酸等のビタミン類、ヒアルロン酸ナトリウム、ワセリン、グリセリン、尿素等の保湿剤、ホルモン剤、及びコウジ酸、アルブチン、プラセンタエキス、ルシノール等の他の美白成分、ステロイド剤、アラキドン酸代謝物やヒスタミン等に代表される化学伝達物質産生・放出抑制剤(インドメタシン、イブプロフェン)、レセプター拮抗剤等の抗炎症剤、抗男性ホルモン剤、ビタミンA酸、ローヤルゼリーエキス、ローヤルゼリー酸等の皮脂分泌抑制剤、ニコチン酸トコフェロール、アルプロスタジル、塩酸イソクスプリン、塩酸トラゾリン等の抹消血管拡張剤及び末梢血管拡張作用のある炭酸ガス等、ミノキシジル、塩化カルプロニウム、トウガラシチンキ、ビタミンE誘導体、イチョウエキス、センブリエキス等の血行促進剤、ペンタデカン酸グリセリド、ニコチン酸アミド等の細胞賦活化剤、ヒノキチオール、L-メントール、イソプロピルメチルフェノール等の殺菌剤、グリチルリチン酸およびその誘導体またはその塩等の薬剤、セラミド及びセラミド類似化合物等を添加配合することができる。
【0028】
上述した活性成分を医薬、医薬部外品又は化粧料として使用する場合、配合量は、通常、医薬、医薬部外品又は化粧料の全組成の0.00001〜5重量%、特に0.0001〜0.1重量%とすることが好ましい。また、本発明に係る育毛剤を医薬として用いる場合、上述した活性成分の投与量は、通常の成人で0.01mg〜1g/1日とすることが望ましい。
【0029】
また、上述した活性成分を化粧品、医薬又は医薬部外品として使用する場合、例えばチョーク、タルク、フラー土、カオリン、デンプン、ゴム、コロイドシリカナトリウムポリアクリレート等の粉体;例えば鉱油、植物油、シリコーン油等の油又は油状物質;例えばソルビタントリオレエート、ソルビタントリステアレート、グリセロールモノオレエート、高分子シリコーン界面活性剤等の乳化剤;パラ−ヒドロキシベンゾエートエステル等の防腐剤;ブチルヒドロキシトルエン等の酸化防止剤;グリセロール、ソルビトール、2−ピロリドン−5−カルボキシレート、ジブチルフタレート、ゼラチン、ポリエチレングリコール等の湿潤剤;トリエタノールアミン又は水酸化ナトリウムのような塩基を伴う乳酸等の緩衝剤;グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグルコシド等の界面活性剤;密ろう、オゾケライトワックス、パラフィンワックス等のワックス類;増粘剤;活性増強剤;着色料;香料等、を必要に応じ適宜組合せて用いることができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例にその技術的範囲が限定されるものではない。
〔実施例1〕アメリカンアンジェリカからの活性成分類の単離
(1)図1に示す工程に従って、アメリカンアンジェリカ(Angelica atropurpurea(セリ科)の根茎から本発明の化合物「成分A」及び「成分B」を単離した。
【0031】
(2)アンジェリカ(Angelica atropurpurea)の根茎(160g)を95%エタノール-水(1.6L)に5日間浸漬して抽出し、95%エタノール-水抽出液を得た。この抽出液をろ過後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、固形分14.3gを得た。この濃縮乾固物1gを中圧ODSカラムクロマトグラフィ(内径2.6×30cm)に付し、アセトニトリル-0.1% TFA系で溶出し以下の画分(fr. A〜K)を得た。
fr. A: 0.23 g
fr. B: 0.01 g
fr. C: 0.03 g
fr. D: 0.07 g
fr. E: 0.05 g
fr. F: 0.02 g
fr. G: 0.02 g
fr. H: 0.15 g
fr. I: 0.24 g
fr. J: 0.10 g
fr. K: 0.03 g
【0032】
(3)上記(2)で得られたfr. I(0.24g)を分取高速液体クロマトグラフィ(内径10×250mm)に付し、アセトニトリル-0.1% TFA系(58%)系で溶出し、以下の画分(fr. I-1〜I-8)を得た。
fr. I - 1: 46.5 mg
fr. I - 2: 27.6 mg
fr. I - 3: 3.4 mg
fr. I - 4: 6.3 mg
fr. I - 5: 18.8 mg
fr. I - 6: 84.6 mg
fr. I - 7: 5.4 mg
fr. I - 8: 46.9 mg
本発明の化合物は、分析の結果、fr. I-6(成分A)及びfr. I-8(成分B)にほぼ単一化合物として得られた。
【0033】
〔実施例2〕成分A及び成分Bの同定
(1)実施例1で得られた化合物について、1H NMR解析及び13C NMR解析を行った。
1H NMR(500 MHz, CDCl3)及び13C NMR(125 MHz, CDCl3)解析の結果として得られたデータを表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
(2)表1に示した解析結果より、成分A及び成分Bの化合物は下記構造を有するアンギュラー型フロクマリン誘導体であることが示された。
【0036】
【化5】

【0037】
すなわち、成分A及び成分Bは、それぞれアルカンジェリシン及び3’-angeloyloxy-4’-isovaleryloxy-2’,3’-dihydrooroselolであることが判った。
【0038】
〔実施例3〕成分A(アルカンジェリシン)の脱アシル体の調製
本例では、実施例1及び2で成分Aとして単離したアルカンジェリシンの脱アシル化を行った。まず、成分A(70mg)を7mLのアセトンに溶解後、濃アンモニア水7mLを添加し、室温で一昼夜攪拌した。反応液を濃縮後(75mg)、分取高速液体クロマトグラフィ(内径10×250mm)に付し、0.1%ギ酸-アセトニトリル系で溶出し、主生成物を分取した(17mg)。
【0039】
〔実施例4〕成分A(アルカンジェリシン)の脱アシル体の同定
(1)実施例3で得られた化合物について、1H NMR解析及び13C NMR解析を行った。1H NMR(500 MHz, CDCl3)及び13C NMR(125 MHz, CDCl3)解析の結果として得られたデータを表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
(2)表2に示した解析分析より、実施例3における生成物はアルカンジェリシンの3’位のアンゲロイル基が脱離した、下記構造を有するアンギュラー型フロクマリン誘導体であることが示された。
【0042】
【化6】

【0043】
〔実施例5〕育毛効果
本例では、対象物質の育毛効果を検証できるin vitroの実験系を用いて実施例1で得られた成分A及び成分Bの育毛効果を検証した。
【0044】
ブタ毛包器官培養による毛伸長評価
食肉用豚種の臀部皮膚を適当な大きさに切り分け、余分な脂肪組織を除いた。豚皮は無菌下でヒビテン液(5%ヒビテン液(住友製薬)を水で5〜20倍に希釈)に5分〜10分浸することにより消毒を行った後にD-PBSで数回洗浄した。その後、実体顕微鏡下にて洗浄した豚皮から毛包を単離してWilliam's Medium E培地(Invitrogen)培地中に集めた。
【0045】
単離した毛包は、1ウェルあたり400μlのWilliam's Medium E培地(1% Penicillin-Streptomycin 溶液(Invitrogen)添加)が入った24ウェル培養プレートに1本ずつ入れた。毛包は37℃、5% CO2条件下にて8日間培養し、その間、1日または2日おきに培地の交換を行った。
【0046】
上記の培地に実施例1で得られた成分A、成分Bを添加し、溶媒コントロールであるエタノール添加群とともに8日間培養した。培養を開始日(0日目)および8日目の実体顕微鏡画像をCCDカメラ(pixera model.No.PVC 100C)で撮影し、その画像から毛球部基底部から毛幹先端までの長さを測定した。その後、溶媒コントロール群の培養前後における毛伸長量を100%として実施例1で得られた成分A及び成分Bの毛伸長率を算出した。
【0047】
結果
毛伸長率を算出した結果を図2に示す。図2から判るように、実施例1で得られた成分A及び成分Bの添加群においては、溶媒コントロール群と比較して有意な毛伸長が認められた。この結果から、実施例1で得られた成分A及び成分BCは育毛効果を有することが明らかとなった。すなわち、実施例1で得られた成分A及び成分Bは、育毛効果を示す活性成分であり、育毛剤として、或いは外用剤として使用できることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】アメリカンアンジェリカからの活性成分類の単離する際の溶出画分を示す模式図である。
【図2】実施例1で得られた成分A及び成分Bについて毛伸長率を算出した結果を示す特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(I):
【化1】

(上記一般式(I)中、R1及びR2は、各々同じであっても異なっていてもよく、水素原子又は一般式(II):
【化2】

で示される基(上記一般式(II)中、R3は炭素数1〜20の直鎖又は分枝アルキル基又はアルケニル基を示す)である)で示されるクマリン誘導体及び薬理学的に許容されるそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を有効成分として含有することを特徴とする育毛剤。
【請求項2】
上記一般式(I)中R1がアンゲロイル基、イソバレロイル基及びセネシオイル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基であり、R2はアンゲロイル基、イソバレロイル基、2メチルブチル基及びセネシオイル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基であることを特徴とする請求項1記載の育毛剤。
【請求項3】
上記一般式(I)で表されるクマリン誘導体が、アルカンジェリシン、3’-angeloyloxy-4’-isovaleryloxy-2’,3’-dihydrooroselol、及び3’-hydroxy-4’-angeloyloxy-2’,3’-dihydrooroselolからなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1記載の育毛剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−100536(P2010−100536A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271069(P2008−271069)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】