説明

肺性炎症または急性呼吸困難症候群を治療または予防するための薬物の調製のための炭水化物組成物およびその使用

本発明の一つの側面は、身体的傷害、菌血症またはウイルス感染から起こる合併症としての肺性炎症を治療または予防する方法に関する。該方法は、少なくとも一以上のグルタチオンプロモーター(以下のものから選択される: 0.3〜20 g、好ましくは0.5〜5 g ピルベート等価物; 0.1〜5 g、好ましくは0.2〜2 g オキサロアセテート等価物;および 0.01〜1 g、好ましくは0.02〜0.5 gリポ酸等価物)と、少なくとも20 gの消化可能な水溶性炭水化物とを、少なくとも10g/Lの前記消化可能な水溶性炭水化物を含む水性液体組成物の形態において経腸的に投与することを含む。本発明の他の側面は、2〜20重量%の消化可能な溶解された炭水化物; 二以上のグルタチオンプロモーター(以下のものから選択される: 0.5〜50 g/L ピルベート等価物; 0.05〜20g/L オキサロアセテート等価物; 0.05〜5g/L システイン等価物); 少なくとも 45重量%の水を含む経腸的投与のために適した水性液体組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一つの側面は、哺乳類における身体的傷害、菌血症またはウイルス感染から起こる合併症としての肺性炎症を治療または予防する方法であって、前記哺乳類に液体栄養組成物を経腸的に投与することを含む方法に関する。
【0002】
本発明の他の側面は、前記方法の使用のための液体栄養組成物に関する。
【発明の背景】
【0003】
肺性疾患は、一般的には気管および肺に影響を与える疾患であり、しばしば肺性炎症プロセスを伴う。ヒトおよび動物の体の空気の通り道は、咽頭、喉頭および気管を含む一連の管および通路からなる。胸腔において、気管は右および左の気管支、または気管支管に分かれ、肺に入る。気管支の枝分かれは、段々と狭くなって細気管支を形成し、さらに狭い管に分かれて肺胞管に至る。各肺胞管の終端は、薄壁で覆われた嚢と呼ばれる肺胞の集団を形成する。
【0004】
炎症性質の肺性疾患、例えば喘息、肺気腫、急性(または成体)呼吸困難症候群(ARDS)、慢性肺性疾患(COPD)、肺炎および気管支炎は、産業先進国における一般的な疾患である。これらの疾患または状態は、有病率、罹患率および死亡率の観点において最近驚くべき率で増加している。それにも関わらず、これらの根底にある原因は、未だにあまり理解されていない。
【0005】
ARDSはまた、硬化肺、ショック肺、ポンプ肺および鬱血性無気肺として医学文献において知られ、その発生率は、100,000人当たり一人である。ARDSは、肺を硬化させる液体の肺内部への蓄積によって特徴づけられる呼吸系の不全によって引き起こされると考えられている。その状態は、肺を傷害する様々なプロセスによって引き起こされる。一般に、ARDSは、医学的緊急事態を発生させる。直接的または間接的に血管が肺に液体を「漏らす」様々な状態によって引き起こされ得る。ARDSでは、膨張する肺の能力が著しく低下し、肺の肺胞および内層(内皮)に対する損傷が拡大する。血中の酸素濃度は、一般に患者に投与される高濃度の補助酸素にも関わらず、非常に低い状態を保つ。肺傷害の全身的原因には、傷害、頭部傷害、ショック、敗血症、多数の輸血および投薬が含まれる。肺性の原因には、肺塞栓症、重症肺炎、煙の吸入、放射線、高い高度、溺水、等々が含まれる。
【0006】
ARDSの症状は、一般的には傷害または疾病の発生から24〜48時間以内に進行する。たばこの煙は危険因子になり得ると考えられている。ARDSの最も一般的な症状には、強制、急性呼吸、鼻の発赤、組織に対する酸素の欠乏によって引き起こされるチアノーゼ青色皮膚、唇および爪、呼吸困難、不安, ストレスおよび緊張がある。 これらの疾患に付随したさらなる症状には、関節の硬直および痛みおよび一時的な呼吸不全がある。ARDSの診断は、一般的には症候的徴候について試験することによって行われる。聴診器での単純な胸部聴診または調査は、例えば状態の症候的徴候である異常呼吸音を明らかにするであろう。ARDSの診断に使用される確証的試験には、胸部X線と動脈血流ガスの測定が含まれる。幾つかのケースにおいて、ARDSは、他の疾患と関係していると思われる(例えば、シトシンアラビノシドでの治療後に急性腫瘍溶解性症候群(ATLS)が進行した、急性骨髄性白血病の患者)。一般的には、しかしながら、ARDSは、外傷性傷害(traumatic injury)、深刻な血液感染、例えば敗血症、または他の全身性疾患、過剰投与の放射線治療および化学療法、および多臓器不全を導く炎症性反応と関係しているように思われる。
【0007】
ARDSの死亡率は50%を超える。多くの生存者は、正常な肺機能を取り戻すが、ある患者は、永続的な肺の損傷(軽度から重度の範囲)を患う。さらに、ARDSの患者は、しばしば合併症、例えば多臓器系不全に苦しめられる。
【0008】
肺性炎症、典型的には喘息に関係するこのタイプの疾患は、気管および気管支の様々な刺激に対する過剰な反応によって特徴づけられる。さらに、偶発性呼吸困難、咳嗽および喘鳴およびこれに伴う患者の衰弱を招く幅広の通空路の狭小化が認められる。実際、重症なケースでは、肺性炎症は死をもたらす。
【0009】
喘息の症状に対する最初の状態は、気管および気管支の通空路の炎症である。これに応じて、喘息の治療には、典型的には抗炎症ステロイドを含むエアゾール処方の治療が含まれる。特に、抗炎症性皮質ステロイドを気管支系に予防的に噴霧するのが有効である。
【0010】
これに応じて、喘息に関係した肺性炎症の予防におけるステロイドおよびホルモン誘導化合物の使用は、医療現場において一般に受け入れられている。しかしながら、これらの化合物の長期間にわたる使用によって副腎機能不全(死に至る)、骨粗鬆症および他の全身性合併症のような問題が生じる。
【0011】
US 5, 998, 363には、約2〜4 g/Lの脂肪、約50〜100 g/L のタンパク質加水分解産物、約160〜250g/Lの炭水化物、および水を含む経腸処方を投与することを含む、重症疾患患者を治療する方法が開示されている。言及された炭水化物の例には、フルクトース、マルトデキストリン、コーンシロップおよび加水分解されたコーンスターチがある。
【0012】
US 2003/0161863には、(a)酸化ストレスに対して(例えばシステイン)、(b)代謝亢進/筋肉疲労の制限のために、(c)創傷治癒のために、(d)後天的呼吸困難症候群(ARDS)および他の急性炎症状態のために、(e)骨の傷害から回復するために、(f)腸内細菌ミクロフローラを再構成するために作用する、物質を含む組成物からなる標準的な経腸処方への添加のための栄養モジュールが開示されている。これらの栄養モジュールは、危篤患者の治療および/または滋養において使用されることを意味する。
【0013】
DE-A 101 51 764には、100 ml当たり以下の物質を含む液体経腸処方が開示されている:
窒素源(タンパク質、オリゴタンパク質およびグルタミンジペプチド) 6 g
脂肪 2.5 g
炭水化物(マルトデキストリン、多糖類、ショ糖) 12 g
充填成分(可溶性および不溶性) 1.5 g
リポ酸 400 mg
ビタミンC 1000 mg
ビタミンE 200 mg
セレン 20 μg
ミネラル、微量元素および他のビタミン RDAに従う
【発明の概要】
【0014】
本発明は、傷害、菌血症またはウイルス感染後の肺性炎症の発生と、傷害、菌血症またはウイルス感染の発生前および/または発生後の短期間における断食または絶食(fasting)の結果として起こる消化可能な炭水化物の取り込みの減少との間に相関関係があることを発見した。さらに、多量の消化可能な水溶性炭水化物をグルタチオンプロモーターと組み合わせて含む水性液体組成物の経腸投与が、哺乳類の肺性炎症に対する耐性、特に、身体的傷害、菌血症またはウイルス感染から起こる合併症としての肺性炎症に対する耐性を維持または回復するのに特に有効であり得ることが予想外にも見出された。本発明に基づいて有利に使用されるグルタチオンプロモーターには、ピルベート、オキサロアセテート、リポ酸、およびこれらの物質の生物学的等価物がある。
【発明の詳細な説明】
【0015】
従って、本発明の一つの側面は、哺乳類における身体的傷害、菌血症またはウイルス感染から起こる合併症としての肺性炎症肺性炎症を治療または予防するための方法に関する。前記方法は、少なくとも一以上のグルタチオンプロモーターと少なくとも 20 gの消化可能な水溶性炭水化物とを、少なくとも10 g/Lの前記消化可能な水溶性炭水化物を含む水性液体組成物の形態において、前記哺乳類に経腸的に投与することを含む。前記少なくとも一以上のグルタチオンプロモーターは、以下のものから選択される。
【0016】
・0.3〜20 g、好ましくは0.5〜5 g ピルベート等価物;
・0.1〜5 g、好ましくは0.2〜2 g オキサロアセテート等価物;
・0.01〜1 g、好ましくは0.02〜0.5 gリポ酸等価物;
指示された量は、一回の投与時に投与される投与量を意味し、このような投与時に投与される液体組成物の量に含まれるピルベート、オキサロアセテートおよび/またはリポ酸 (またはこれらの物質の残基)の量を意味する。
【0017】
本明細書で使用される用語「消化可能な炭水化物」は、胃腸管によってそれ自体吸収されるかまたは胃腸管によって分解されて吸収性成分になり得る炭水化物を意味する。前記分解には、腸内細菌ミクロフローラによる発酵性分解は含まれない。
【0018】
用語「経腸的投与」には、経口投与と、食物を消化できるように異なる経路によって胃腸管内に設置された配管系を介した投与が含まれる。経口投与が最も好ましい。
【0019】
他に指示がない限り、本出願で言及された投与量は、一回の投与時に送達される量を意味する。本発明の組成物をグラスや容器から経口摂取する場合、一回の投与時に送達される量は、典型的には前記グラスや容器の内容量に等しいであろう。
【0020】
好ましい実施形態において、本発明の水性液体組成物は、血漿グルタチオンを、少なくとも生理学的レベル、具体的には少なくとも15μM、好ましくは少なくとも20μMのレベルまで維持または回復させるのに有効な量で投与される。さらにより好ましくは、本発明の水性液体組成物は、肺の生理学的グルタチオンのレベルを維持または回復するために有効な量で投与される。
【0021】
本発明による方法は、肺性炎症(例えば肺炎)、気管支炎、急性(または成体)呼吸困難症候群(ARDS)、および無菌肺感染を治療または予防するために特に適している。この出願をとおして、用語「急性呼吸困難症候群」と「成体呼吸困難症候群」は、同義語であるとみなされる。特に好ましい実施形態において、本発明は、身体的傷害、菌血症またはウイルス感染から起こる急性呼吸困難症候群を治療または予防するために使用される。
【0022】
本発明の特に好ましい実施形態において、前記方法は、傷害の発生から24時間以内に、少なくとも50 g、より好ましくは少なくとも70 gの消化可能な水溶性炭水化物を水性液体組成物の形態において経腸的に投与することを含む。液体組成物は、単一の丸薬として投与されても、24時間の間に二回以上に分けて投与されてもよい。好ましくは、液体組成物は、24時間の間に少なくとも2回別々に投与される。投与は、好ましくは少なくとも1時間の間隔を空ける。特に好ましい手順は、傷害(trauma)の24〜8時間前に少なくとも 40 gの消化可能な炭水化物を送達し、かつ傷害の8〜1時間前に少なくとも 20 gの消化可能な炭水化物を送達するために、十分な量の本発明の液体組成物を投与することを含む。
【0023】
本発明に基づいて使用される消化可能な炭水化物は、適切には単糖類、二糖類および多糖類を含み得る。本発明の特に好ましい実施形態において、消化可能な水溶性炭水化物は大部分がグルコースに基づいている。この実施形態によれば、前記消化可能な水溶性炭水化物には、消化可能な炭水化物の分子量について計算されたグルコース以外の糖類が6%までの量で任意的に含まれる。消化可能なグルコースに基づいた炭水化物中に存在し得る他の糖類の例には、D-フルクトース、D-アラビノース、D-ラムノース、D-リボースおよびD-ガラクトースが含まれる。好ましくは、これらの糖類は、本発明の炭水化物の末端側に位置しない。オリゴ糖類および多糖類のグルコース単位は、好ましくは、消化可能にするためにα1-4またはα1-6結合を介して主に結合する。本発明の消化可能な炭水化物には、直鎖状および枝分かれしたオリゴ糖類および多糖類が含まれる。糖類単位の数は、数nによって示される。オリゴ糖類の数nは、3〜10; 多糖類の数nは、11〜1000および好ましくは11〜60である。
【0024】
好ましくは、本発明の液体組成物は、30〜200g/Lの消化可能な多糖類を含む。単糖類および二糖類と比べて、多糖類はより緩やかに吸収されるからである。他の好ましい実施形態において、本発明の組成物には、多糖類および単糖類および/または二糖類の組み合わせが含まれる。より好ましくは、消化可能な炭水化物には、60〜99重量%の消化可能なオリゴ糖類および/または多糖類ならびに1〜40重量%の消化可能な単糖類および/または二糖類が含まれる。消化可能な水溶性オリゴ糖の適切な例は、グルコースの糖蜜(syrup)である。消化可能な水溶性多糖類の適切な例には、デキストリン、マルトデキストリン、スターチ、デキストランおよびこれらの組み合わせが含まれる。最も好ましい水溶性多糖類には、デキストリン、マルトデキストリン、およびこれらの組み合わせからなる群から選択された少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも80重量%の多糖類が含まれる。このうち、デキストリンが最も好ましい。特に好ましい実施形態において、消化可能な炭水化物は、少なくとも1重量%の単糖類、特に少なくとも 1重量%のフルクトースを含む。典型的には、消化可能な炭水化物には、20重量%以下の単糖類形態のフルクトースが含まれるであろう。
【0025】
日ベースで、グルタチオンプロモーターは、好ましくは以下の量で投与される。
【0026】
0.5〜50 g、好ましくは2〜15 g およびより好ましくは2〜5 gのピルベート等価物;
0.3〜20 g、好ましくは0.5〜10 g オキサロアセテート等価物;および
0.05〜5 g リポ酸等価物。
【0027】
本明細書で使用される用語「ピルベート等価物」には、ピルベートおよびピルベートの塩およびピルベートの前駆体、ならびに、インビボでの転換、例えば前駆体分子の加水分解によってピルベートまたはピルベートの塩を遊離させることができる主要な前駆体が含まれる。ピルベートまたはピルベートの塩を生成するために加水分解され得るピルベート前駆体の典型的な例は、ピルベートのエステルである。
【0028】
用語「オキサロアセテート等価物」、「リポ酸等価物」、および「システイン等価物」も同じように定義される。適切なピルベートおよび/またはオキサロアセテート前駆体の例には、クレブス回路中間物質、例えばクエン酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩およびL-リンゴ酸塩が含まれ、クエン酸塩およびリンゴ酸塩が最も好ましい。また、本発明によって包含されるオキサロアセテート前駆体には、遊離酸アスパルテートおよびアスパラギン(その塩を含む)ならびにオキサロアセテートエステルが含まれる。リポ酸前駆体の好適な例には、リポ酸エステルが含まれる。
【0029】
ピルベートおよびオキサロアセテートの両方は、クレブス回路に関与し、還元等価物(例えばNADH および NADPH)の生成を刺激する。NADPHは、酵素グルタチオンレダクターゼによる、酸化されたグルタチオンのグルタチオンへの細胞内還元のために必要とされる。従って、ピルベートおよび/またはオキサロアセテートの経腸内共投与は、本発明の水性液体組成物の肺性グルタチオンレベルについての正の効果を増強させる。
【0030】
(α-)リポ酸の補充が、グルタチオンのde novo合成を増加させることが明らかになっている。しかしながら、α-リポ酸はグルタチオン合成を増強せず、代わりにグルタチオン合成のための基質であるシステインの量を増加させる。Han D. et al. (リポ酸が、シスチンの利用を向上させることによって細胞性グルタチオンのde novo合成を増加させる。1997,6(3): 321-338)は、リポ酸がシスチンを還元し、その結果としてグルタチオンの前駆体であるシステインの総濃度を増加させることを報告している。従って、生理学的レベルまでの肺性グルタチオンレベルの維持または回復は、リポ酸の共投与によって容易化され得る。
【0031】
グルタチオンは、システイン含有のトリペプチドGlu-Cys-Glyである。システインの利用可能性は、グルタチオンの合成における重要な因子である。従って、システインの経腸的投与は、生理学的な肺性グルタチオンレベルを回復または維持するのを助けるために使用され得る。これに応じて、好ましい実施形態において、本発明の方法は、0.1〜1 g、より好ましくは0.1〜0.5 gのシステイン等価物を共投与することを含む。指示された量は、一回の投与時に投与されるシステインおよび/またはシステイン残基の量を意味する。日ベースで、システイン等価物は、好ましくは0.1〜5 g、より好ましくは0.1〜1 gの量で投与される。システイン前駆体の典型的な例には、タンパク質、タンパク質加水分解産物およびペプチド、例えば乳清、乳清加水分解産物およびシスチンが含まれる。
【0032】
本発明の他の側面は、経腸的投与に適した水溶性液体組成物に関する。前記組成物は以下のものを含む。
【0033】
・2〜20重量%の消化可能な溶解性炭水化物
・二種以上のグルタチオンプロモーター(以下から選択)
0.5〜50g/L、好ましくは2〜30g/Lのピルベート等価物
0.05〜20g/L、好ましくは0.5〜10g/Lのオキサロアセテート等価物
0.05〜5g/L、好ましくは0.2〜4g/Lのシステイン等価物
・少なくとも45重量%の水。
【0034】
特に好ましい実施形態において、液体組成物は、0.05〜5 g/L、より好ましくは0.1〜4 g/L および最も好ましくは0.1〜2 g/Lのリポ酸等価物を含む。また、特に良い結果が、0.1〜30g/Lのピルベート等価物、オキサロアセテート等価物、またはピルベート等価物とオキサロアセテート等価物の混合物を含む場合に得られる。本発明の方法において、ピルベートとオキサロアセテートは、類似の生物学的効果を有する。オキサロアセテートは、ピルベートよりもわずかに高いプログルタチオン活性を有するので、本発明の組成物は、有利には0.1〜10g/Lのオキサロアセテート等価物が含まれる。
【0035】
上述したように、システイン等価物は、本発明の液体組成物中にタンパク質加水分解産物の形態において組み込まれてもよい。好ましくは、本発明の組成物には、5〜100mg/Lのシステイン等価物がタンパク質加水分解産物の形態(好ましくは乳清タンパク質の加水分解産物の形態)において含まれる。
【0036】
飲み込むことが困難な患者や吐き気を訴える患者では、消化可能な炭水化物を濃縮された液体形態において送達できることが重要である。結果として、消化可能な水溶性炭水化物を、少なくとも 50g/L、より好ましくは少なくとも 70g/Lおよびより好ましくは少なくとも 80g/Lの濃度で含むことが好ましい。
【0037】
吐き戻しの危険性を最小化し、また胃内部での残留時間を最小化するために、液体組成物には、3重量%未満の脂質、より好ましくは2重量%未満の脂質、および最も好ましくは1重量%未満の脂質が含まれる。似たような理由から、本発明の組成物のタンパク質のレベルは、好ましくは比較的低く、特に4重量%未満である。
【0038】
本発明の液体組成物は、例えば溶液、懸濁液またはエマルジョンの形態をとり得る。好ましくは、溶液の形態で液体組成物を使用する。溶液は未溶解の成分をほとんど含まない(例えば、液体組成物が透明で透き通っているという事実によって実証される)。
【0039】
また、本発明の他の側面は、水で水性液体組成物に再構成され得る組成物に関する。典型的には、再構成可能な組成物は、液体濃縮物、ペースト、粉末、顆粒、錠剤等の形態をとり得る。好ましくは、これらの再構成可能な組成物は、乾燥生成物、特に10重量%未満、好ましくは7重量%未満の水分含量をもつ乾燥生成物である。
【0040】
本発明は、さらに以下の例によって例証される。
【0041】

例1
200 mlの投与量で投与される水性液体組成物(100 ml当たり以下の成分を含む):
グルコース 1 g
マルトデキストリン DE 5 10g
Ca-ピルベート 1 g
該液体は、肺性炎症に関連した疾患を治療または予防するために一日2回投与されるべきである。
【0042】
例2
200 mlの投与サイズに水で再構成された粉末処方:
マルトース 1 g
グルコースシロップDE 12 10 g
ピベリック酸 1 g
Ca-ピルベート 0.9 g
乳清タンパク質 (4% システイン) 4 g
該液体は、肺性炎症に関連した疾患を治療または予防するために一日4回投与されるべきである。
【0043】
例3
200 mlの投与量で投与される水性液体組成物(100 ml当たり以下の成分を含む):
デキストリン 10 g
フルクトース 2 g
オキサロアセテート 0.5 g
乳清タンパク質(5% システイン) 3 g
該液体は、肺性炎症に関連した疾患を治療または予防するために一日3回投与されるべきである。
【0044】
例4
200 mlの投与量で投与される水性液体組成物(100 ml当たり以下の成分を含む):
デキストリン 11.5 g
フルクトース 1.3 g
クエン酸(オキサロアセテート前駆体) 1 g
N-アセチルシステイン 3 g
該液体は、肺性炎症に関連した疾患を治療または予防するために一日4回投与されるべきである。
【0045】
例5
200 mlの投与量で投与される水性液体組成物(100 ml当たり以下の成分を含む):
グルコース 2 g
グルコースシロップDE 19 15 g
オキサロアセテート 100 mg
リポ酸 50 mg
乳清タンパク質 (>3% システイン) 2 g
10%の程度まで加水分解された
該液体は、肺性炎症に関連した疾患を治療または予防するために一日2回投与されるべきである。
【0046】
例6
125 mlの投与量で投与される水性液体組成物(100 ml当たり以下の成分を含む):
グルコース 2 g
グルコースシロップDE 29 15 g
オキサロアセテート 100 mg
リポ酸 50 mg
乳清タンパク質(>3% システイン) 4 g
10%の程度まで加水分解された
該液体は、肺性炎症に関連した疾患を治療または予防するために一日3回投与されるべきである。
【0047】
例7
500 mlの投与量で投与される水性液体組成物(100 ml当たり以下の成分を含む):
グルコース 2 g
グルコースシロップDE 32 15 g
オキサロアセテート 50 mg
リポ酸 25 mg
乳清タンパク質(>3% システイン); 2 g
カゼイン 3.5 g
10%の程度まで加水分解された
該液体は、肺性炎症に関連した疾患を治療または予防するために一日2〜4回投与されるべきである。
【0048】
例8
ラットで研究を行い、手術後の肺性炎症の確率について、炭水化物を含む餌を手術前に与えた効果を決定した。
【0049】
実験セットアップ手術:
適宜にオートクレーブされた餌を、手術の16時間前までにラットに与えた(表 I)。処置グループには、手術の5日前から手術の当日まで、113 gのデキストリン、12.7 g/Lのフルクトース(プラス 塩の等張性混合物)およびクエン酸を飲み水に入れて与えた。適宜、対照として水を投与した。開腹を行うことによって手術を開示し、60分間にわたって多数の腸間膜動脈をクランプし、180分間にわたって再灌流した。この間の血液を心臓穿刺によって回収した。続いて、動物を犠牲にし、臓器を回収して液体窒素中で直ちに凍結させた。
【0050】
肺性好中球浸潤率:
1.25% 肺ホモジネートを、20 mMリン酸緩衝液 pH = 7.4で調製した。これを3600×g 4℃ 15分間で遠心分離した。ペレットを、0.5 %ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(HETAB)および10 mM EDTAを含む1500 μl 50 mM リン酸緩衝液(pH=6.0)で再均質化した。このサンプルの50μlに対し、450μlの緩衝液A (37℃)を加えた {緩衝液A : 12 mlの水、1.6 mlの1Mリン酸緩衝液pH=5.4、3.2 mlの0.3 g 3,3',5,5'-テトラメチルベンシジンおよび1 mlのHetab(100 ml milliQTM 中10g Hetab)}。 MPO活性を655nmで動態学的に測定した。
【0051】
組織における還元および酸化グルタチオンの決定
約50 mgの組織(±5mg)(−20℃)を、氷冷ガラス皿上で細断し、その後、15 mlのファルコンチューブに移し、化学天秤上で秤量した。50 mgの組織に対し、lOOOμLの0.4 M HClO4 を正確に加え、van Hoorn et al [van Hoorn, 2003 #4916]によって記載されたように処理を行った。13000 rpm および+4℃で遠心分離を行った。50μLの上清を0.5 Mリン酸-EDTA 緩衝液 pH7.5で3回希釈した。
【0052】
酸化されたグルタチオン(GSSG)の測定のために、96ウェルプレート中において40μ1の組織抽出物を5μL 2-ビニルピリジンに加え、室温で一時間にわたって反応させた。その後、20μL 5,5'-ジチオ-ビス(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)を加えた。これは、40 μLのグルタチオン還元酵素(5mg/ml)の添加によって追従された。プレートを混合した後、この反応を100μL NADPH (0.333mg/ml)の添加によって開始した。この反応の速度を、NADPHの添加直後から15秒毎、合計15回にわたって405 nmで測定した。合計のグルタチオン(還元されたものと酸化されたもの)を同じ方法で測定した。2-ビニルピリジンのみを取り除いた。還元されたグルタチオン(GSH)の濃度は、1モルのGSSGがグルタチオン還元酵素によって還元されて2モルの還元されたGSHが生成されるとき、測定された総グルタチオンからGSSGの見積量の2倍を減算することによって算出される。
【0053】
結果
【表1】

【0054】
肺の好中球炎症
A. 手術前に炭水化物を給餌したラットでは、IR絶食(fasted)ラットと比較したときに、好中球の浸潤(ミエロペルオキシダーゼ活性として発現)が著しく低下した(P<0.02)。
【0055】
B. 炭水化物を与えられたラットでは、IR絶食動物と比較したときに、肺のGSH濃度が著しく増加した(P=0.014)。
【0056】
例9
HepG2細胞、ヒト肝臓癌細胞株をATCCから得た。これらの細胞を、10%FCS;1% NEAA;1%ペニシリン/ストレプトマイシン混合物を補充したMEM中に維持した。細胞を約1〜2×106細胞の濃度で初期播種し、70〜90%コンフルエントになったときに分割して新しいフラスコに移した。
【0057】
1ウェル当たり0.35×106細胞を含む96ウェルのマイクロタイタープレート(例えばMicronic, Leylstad, NL. )を、24 時間 37℃;5% CO2でインキュベートした。溶媒を除去し、増加するピルベートまたはオキサロアセテート(oxaloacte)濃度を含む100μLの細胞培養液を各ウェルに加えた。細胞をさらに24時間にわたってインキュベートした。24時間後、溶媒を除去し、ウェルをPBSで2回洗浄し、細胞を1ウェル当たり100μLの脱塩されたH2Oの添加によって溶解した。続いて、30分間、37℃;5%CO2でインキュベートした。
【0058】
グルタチオンの濃度を、Tietze et al. (Anal Bioch (1969) 27, 502-522)の方法に基づいて分光光度的に測定した。該反応を、15秒毎、15回、3分45秒の総反応時間でA405nmを測定する速度試験プロトコルを使用して 405nmで測定した。混合時間は2秒であった。試験希釈液として0.1Mリン酸EDTA緩衝液を使用した。値が試験パラメーターの範囲内にあることを保証するために、細胞溶解物を2つの因子によって希釈した。
【0059】
測定されたグルタチオンの濃度は、加えられたオキサロアセテートおよびピルベート濃度の関数として図1および2に示した。結果は、オキサロアセテートおよびピルベートの両方がHepG2細胞においてグルタチオンのレベルを増加させることを示した。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】オキサロアセテート濃度の関数としてのHepG2細胞のGSHレベルを示すグラフ。
【図2】ピルベート濃度の関数としてのHepG2細胞のGSHレベルを示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類における身体的傷害、菌血症またはウイルス感染から起こる合併症としての肺性炎症を治療または予防する方法において使用するための、水性液体組成物の製造における消化可能な水溶性炭水化物および一以上のグルタチオンプロモーターの使用
(前記方法は、
・0.3〜20 g、好ましくは0.5〜5 g ピルベート等価物;
・0.1〜5 g、好ましくは0.2〜2 g オキサロアセテート等価物;および
・0.01〜1 g、好ましくは0.02〜0.5 gリポ酸等価物;
から選択された少なくとも一以上のグルタチオンプロモーターと、少なくとも20 gの消化可能な水溶性炭水化物とを、少なくとも10g/Lの前記消化可能な水溶性炭水化物を含む水性液体組成物の形態において、前記哺乳類に経腸的に投与することを含む)。
【請求項2】
身体的傷害、菌血症またはウイルス感染から起こる合併症としての肺性炎症を予防する方法における請求項1に記載の使用。
【請求項3】
急性呼吸困難症候群を治療または予防する方法における請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記液体組成物が、傷害をもつ患者に投与される(投与は傷害の発生の24時間以内に行われる)、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記液体組成物が、30〜200g/Lの消化可能な多糖類を含む、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記消化可能な水溶性炭水化物が、デキストリン、マルトデキストリン、スターチ、デキストランおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される請求項1ないし5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記方法が、0.1〜1 g、好ましくは0.1〜0.5 g システイン等価物を共投与することを含む請求項1ないし6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
以下のものを含む、経腸的投与のために適した水性液体組成物:
・2〜20重量%の消化可能な溶解された炭水化物;
・以下のものから選択される二以上のグルタチオンプロモーター:
0.5〜50 g/L、好ましくは2〜30 g/L ピルベート等価物;
0.05〜20g/L、好ましくは0.5〜10g/L オキサロアセテート等価物;
0.05〜5g/L、好ましくは0.2〜4 g/L システイン等価物; および
・少なくとも 45重量%の水。
【請求項9】
前記組成物が、0.05〜5g/L、好ましくは0.1〜2 g/Lのリポ酸等価物を含む請求項8に記載の脂質組成物。
【請求項10】
前記組成物が、0.1〜30 g/Lのピルベート等価物、オキサロアセテート等価物、またはピルベート等価物およびオキサロアセテート等価物の組み合わせを含む請求項8または9に記載の液体組成物。
【請求項11】
前記組成物が、0.1〜10 g/Lのオキサロアセテート等価物を含む請求項10に記載の液体組成物。
【請求項12】
前記組成物が、タンパク質加水分解産物の形態、好ましくは乳清タンパク質加水分解産物の形態において5〜100mg/Lのシステイン等価物を含む請求項8ないし11のいずれか1項に記載の液体組成物。
【請求項13】
前記液体組成物が、透明な水性液体である請求項8ないし12のいずれか1項に記載の液体組成物。
【請求項14】
請求項8ないし13のいずれか1項に記載の液体組成物に水で再構成され得る組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2007−505898(P2007−505898A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526845(P2006−526845)
【出願日】平成16年9月20日(2004.9.20)
【国際出願番号】PCT/NL2004/000649
【国際公開番号】WO2005/027935
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(505296821)エヌ.ブイ.・ヌートリシア (32)
【Fターム(参考)】