説明

肺感染の拡大を制限する処方物

【課題】肺感染の拡大を制限する処方物を提供すること。
【解決手段】処方物は、ウイルス感染(特に、ヒトにおける結核菌、SARS、インフルエンザおよびRSウイルス、ならびに動物における口蹄疫)のような疾患の感染性を処置するためまたは軽減するための、肺送達について開発されている。肺投与のための処方物は、肺粘液内層液の表面張力および表面弾性のような物理的特性を有意に変える物質(界面活性剤であり得る)および必要に応じて、キャリアを含み得る。処方物は、粉末で投与され得、この粉末の粒子は、基本的に表面張力を変える物質からなる。キャリアは、アルコールのような溶液であり得るが、水溶液も利用され得るか、または物質は、表面特性を変える物質と混合され、粒子を形成する物質であり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、ウイルスの出芽および他の空気感染性病原体の発生数を低下させる、生物活性分子の肺送達の分野にある。
【0002】
本出願は、米国特許出願第60/377,327号(2002年5月2日出願)に対する優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
ウイルス感染および細菌感染は、頻繁に非常に伝染性であり、特に、呼吸によって拡大する。現在コロナウイルスによって引き起こされることが知られる突発性急性呼吸器症候群(Sudden Acute Respiratory Syndrome)(「SARS」)に関する近年の報告は、空気接触によって伝搬する場合、いかに迅速に感染が拡大し得るかの証明である。インフルエンザのような他の疾患は、空気接触によって拡大し、迅速に流行の比率に達して、高齢者集団および免疫無防備状態の集団において高い致死率を伴う。
【0004】
SARSは、近年アジア、北米、および欧州で報告されている呼吸性疾病である。2003年4月20日時点で、SARSを疑われる約198件の症例およびSARSと推定される38件の症例が、米国で報告されている。一般に、SARSは、100.4°Fを上回る(>38.0℃)発熱で始まる。他の症状としては、頭痛、全身的な不快感、および身体の痛みが挙げられ得る。幾人かの人々はまた、軽度の呼吸系の症状も経験する。2日〜7日後、SARS患者は、乾いた咳を発症し得、呼吸に困難を来たし得る。
【0005】
SARSが拡大すると見られる主な様式は、人と人との密接な接触である。SARSのほとんどの症例は、SARSを有する人を世話していた人々またはSARSを有する人と共に住んでいる人々、またはSARSを有する人間からの感染性物質(例えば、呼吸分泌物)と直接接触を持った人々に関わっている。SARSが拡大し得る可能性のある様式は、感染性小滴で汚染された他の人々または物体との皮膚の接触、次いで自分の目、鼻、または口に触れることを含む。これは、SARSを患う人間が咳をするかまたはくしゃみをして、本人、他人、または近くの表面上に小滴を飛ばしたときに起こり得る。SARSが、空気を介して、または現在未知の他の方法によってもまた、より広範に拡大し得ることもまた可能である。現在、支持療法以外に、SARSの処置または予防手段は存在しない。
【0006】
TB、すなわち結核菌は、Mycobacterium tuberculosisと呼ばれる細菌によって起こる疾患である。この細菌は、身体の任意の部分を攻撃し得るが、通常は肺を攻撃する。TB疾患は、かつて、米国で主要な死因であった。1940年代に、科学者らは、現在TBを処置するために使用される幾つかの薬物の最初の薬物を発見した。結果として、TBは、徐々に米国から姿を消し始めた。しかし、TBは復活した。1985年と1992年との間、TBの症例数が増加した;16,000件を超える症例が、米国で2000年に報告された。
【0007】
TBは、一人の人間から、別の人間へ、空気を介して拡大する。この細菌は、肺または喉のTB疾患を有する人間が、咳またはくしゃみをしたときに、空気中にばらまかれる。近くの人々は、これらの細菌を吸い込み得、そして感染する。人間がTB細菌を吸い込む場合、細菌は肺内に定着し得、そして増殖を始め得る。ここから、これらは血液を通って身体の他の部分(例えば、腎臓、脊柱、および脳)に移動し得る。肺内または喉内のTBは、感染性であり得る。これは、この細菌が、他人に拡大し得ることを意味する。身体の他の部位(例えば、腎臓または脊柱)におけるTBは、通常、感染性ではない。TB疾患を有する人々は、毎日を共に過ごす人々にTB疾患を最も拡大しやすい。これには、家族、友人、および職場の同僚が含まれる。潜伏性TBに感染している人々は、体調不良を感じず、なんら症状はなく、そしてTBを拡大し得ないが、将来、いつか、TB疾患を発症し得る。TB疾患を有する人々は、医学的支援を求めた場合、処置され、治癒し得る。もっとよいことに、潜在性TB感染を有するが、まだ病気ではない人々は、医薬を摂取し得、それにより、将来TB疾患を発症しなくなる。
【0008】
他のヒトウイルスもまた、非常に伝染性であり、そして封じ込め以外に効果的な処置を有さない。例えば、RSウイルス(RSV)は、成人および年長の健康な小児において軽度の風邪のような症状を引き起こす、非常に一般的なウイルスである。RSVは、乳児における最も一般的な呼吸器の病原体である。これは、2歳までに、ほぼ全ての乳児に感染する。これは、心疾患もしくは肺疾患を有するか、または免疫無防備状態の小さな乳児(特に、未熟児)において重篤な呼吸器感染を引き起こし得る。急性呼吸器疾病の季節性の蔓延は、各地域において幾分予測可能なスケジュールで、毎年起こる。この季節は代表的に秋に始まり、春まで続く。RSVは、物理的接触によって容易に拡大する。感染者との接触、接吻、および握手は、RSVを拡大し得る。伝搬は、通常、泡沫(小さな小滴または小滴の接触した物体を含み得る)と呼ばれる汚染された分泌物との接触による。RSVは、手の上で30分以上生存し得る。このウイルスはまた、カウンターの上で5時間まで、使用したティッシュの上で数時間生存可能である。RSVは、人の多い家庭内および託児所内で、しばしば非常に迅速に拡大する。
【0009】
乳幼児において、RSVは、肺炎、気管支炎(肺の細い気道の炎症)、および気管気管支炎(クループ)を引き起こし得る。健康な成人および年長の小児において、RSVは、通常、軽度の呼吸性の疾病である。研究により、人々はこのウイルスに対して抗体を産生し得ることが示されているが、感染は、全ての年代の人々に起こり続ける。毎年、125,000人にのぼる乳児が、重篤なRSV疾患のために入院する;そして、これらの乳児の約1〜2%が死ぬ。未熟児で生まれた乳児、慢性肺疾患を有する乳児、免疫無防備状態の乳児、および特定の形態の心疾患を有する乳児は、重篤なRSV疾患の危険性が高い。煙草の煙に曝される乳児、託児所に預けられる乳児、人の多い状態で生活する乳児、または学童年齢の兄弟姉妹を有する乳児もまた、危険性が高い。
【0010】
近年、RSウイルス気管支炎を有する乳児における外因性の界面活性剤補充が、有益であったことが示されている(Tibbyら,Am J Respir Crit Care Med 2000年10月;162(4 Pt 1):1251)。RSV気管支炎を有する乳児は、量および能力の両方において、界面活性剤が欠乏しており、表面張力が低下する。証拠は、界面活性剤が、誘導気道の開存性を維持する上で役割を果たすことを示唆する。19人の通気した乳児(中央値を4週齢に補正した)は、2用量の界面活性剤(Survanta、100mg/kg)を機械的通気または偽換気(air placebo)の開始の24時間以内および48時間以内に受けた。偽換気処置した群の乳児において測定した、静的肺コンプライアンスおよび静的肺抵抗は、参加後最初の30時間にわたって、徐々に悪化したが、界面活性剤処置した群の乳児においては悪化しなかった。処置の原則的手段は、支持的なままであるが、隔離以外に拡大を制限する手段が存在しない。
【0011】
インフルエンザは、効果的な処置が存在せず、そして封じ込めが疾患の拡大を制限する主要な選択肢である、別の一般的なウイルス感染である。インフルエンザは、3つのウイルス(インフルエンザA、インフルエンザBおよびインフルエンザC)によって起こる。A型は、通常、大規模な蔓延の原因であり、そして、絶えず変化するウイルスである。A型ウイルスの新規の株は、定期的に発生し、そして新しい流行を数年おきに引き起こす。B型は、より小規模な発生を起こし、そしてC型は、通常、軽度の疾病を引き起こす。米国において、インフルエンザAおよびBの感染は、毎年、20,000人の死亡および100,000人を超える人の入院をもたらす。インフルエンザは、誰かがくしゃみまたは咳をしたときに形成される伝染性の小滴を介して、人から人へ伝搬される。特定の個体は、インフルエンザの合併症の危険が高く、従って、これらの危険性の高い群について、ワクチン接種が推奨される。これには、50歳以上の年齢の人々、糖尿病を有する人々、または心臓、肺(すばわち、喘息)もしくは腎臓に影響する医学的状態を有する人々;医療従事者および弱まった免疫機構(HIVなど)を有する者が、含まれる。ワクチンの供給は、毎年限られるが、危険性の高い人々がワクチン接種を受けた後、保護を所望する者は、ワクチン接種を要求し得る。
【0012】
6ヶ月〜17歳までの年齢の約800万人の小児および青年期の人が、インフルエンザ関連合併症の危険性を高くする1つ以上の医学的状態を有する。これらの小児は、入手可能な最初のワクチンを与えられるべきである。このような小児としては、心臓または肺の慢性障害(例えば、喘息および嚢胞性線維症)を有する小児、慢性的代謝疾患(真性糖尿病を含む、腎機能不全、鎌状赤血球貧血または免疫抑制)のために前年に定期的な医学的追跡または入院を必要とした小児が、挙げられる。インフルエンザの季節の間に妊娠第2トリメスターまたは第3トリメスターになる青年期の人は、ワクチン接種を受けるべき、別の考慮下の群である。
【0013】
既知のインフルエンザを有する人々に曝されているワクチン接種を受けていない個体(特に、さらされる個体が危険因子を有する場合)について、2週間より長い抗ウイルス医薬の潜在的な使用およびワクチン接種は、疾病の防止を助け得る。軽度の危険の高くない人々における軽度の疾病については、インフルエンザの処置は、しばしばただ支持的であり、そしてベッドでの休養、筋肉の痛み(ache)および疼痛(pain)への鎮痛剤、ならびに流体摂取の増加を含む。処置は、通常、小児には必要でないが、疾病が早期に診断され、患者がより重篤な疾患に進行する危険が高い場合、処方され得る。危険性の高い群の個体(高齢者、免疫抑制状態、慢性の心臓状態、肺状態または腎臓状態)の間で、インフルエンザは、非常に深刻であり得、かつ合併症をもたらし得る。
【0014】
呼吸器感染の流行は、ヒトに限定されない。口蹄疫ウイルス(FMDV)は、口蹄疫(FMD)(ウシ、ブタ、および他の偶蹄類の動物の疾患)の病因因子である。FMDは、感染した動物の舌、鼻、鼻口部、および蹄冠帯における小胞の形成によって特徴付けられる。このウイルスは、現在の世界でこれをもっとも経済的に壊滅的な疾患の1つにする幾つかの独特の特徴を有する。接触およびエアロゾルによって伝搬し得る容易さと、初期感染の能力の増大と組み合わさって、群れの中の、全てでないにしろ、ほとんどの動物が、FMDに接触することが事実上確実である。感染動物組織内および器官内におけるFMDVの長期の生存は、特に凍結された場合、食物連鎖を介して、国内的な伝搬および国際的な伝搬の機会を提供する。複数の血清型および多くのサブタイプが、ワクチンの有効性および信頼度を低減する。ワクチン接種した動物およびFMDから回復した動物におけるキャリアの潜在的な発達は、新規の蔓延のさらなる潜在的な供給源を提供し得る。これらの特徴は、農家および国家全体に主要な経済的影響を有し得る疾患を生み出す。英国の家畜における口蹄疫(FMD)流行は、未だ罹患していない地域においてさらなる新規症例が発生するという懸念についての、進行中の原因であり続ける(Fergusonら,Nature 2001 414(6861):329)。疫学的分析は、政府への効果的な制御手段についての科学的助言の伝達において重要である。英国内の全ての家畜農園における疾患の抜粋調査データを使用して、流行の空間時間的な進化、およびFMD発生に対する制御的政策の影響の空間時間的な進化を決定する危険因子が、分析された。種の混合、動物数および農園内の別の土地区画の数は、伝搬強度における領域多様性を説明するために、中心的である。疾患拡大の動的モデルにおいて得られたパラメーター推定値は、抜粋プログラムの拡大が達成される流行の程度を制御するため必須であったことを示すが、流行は、最も効率的な方法がかつて使用されたのと同程度に、スケールが実質的に減少し得ていることを実証する。
【0015】
ウイルスの出芽は、感染性病原体を含有する生物エアロゾルが、1つの生物において生成され、外部に送られ、ここで別の動物またはヒトによって吸い込まれ得る、メカニズムであると考えられる。未制御のウイルスの出芽が家畜に対して有し得る壊滅的な結果は、英国で口蹄疫蔓延において見られた。ここでは、2030件の確かめられた症例が、400万頭の動物の強制的な屠殺をもたらした。近年、生物テロリズムの脅威、および米国内の家畜にもたらされる疾患の突然の蔓延の同様の危険に対し、より大きな関心が向けられている。
【0016】
空気伝搬感染は、家畜における病原体伝搬の1つの主要な経路である。肺および鼻腔に由来する粘液小滴からなるエアロゾルは、動物が咳をしたときに生成される。これらの生物エアロゾルは、曝された動物の吸入によって疾患を伝搬する病原体を含み得る。現在、感染した動物による生物エアロゾル生成率を下げることによって感染の迅速な拡大の可能性を改善するために何の手段もとられていない。このような手段は、生理学的メカニズムおよび生物エアロゾル生成の関連性を、注意深く考慮するべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従って、本発明の目的は、肺感染(特にウイルス感染または細菌感染)の拡大の減少または制限における使用のための、方法および処方物を提供することである。
【0018】
本発明の別の目的は、ヒトまたは動物を処置し、感染性を制限するための処方物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
(発明の要旨)
処方物は、ウイルス感染(特に、ヒトにおける結核菌、SARS、インフルエンザ、サイトメガロウイルスおよびRSV、ならびに動物における口蹄疫)のような疾患を処置するかまたは疾患の感染性を低下するための肺送達について開発されている。肺投与のための処方物は、肺粘液内層液(lung mucus lining fluid)の表面張力、表面弾性、および体積弾性のような物理的特性を有意に変える物質(これは、界面活性剤であり得る)および必要に応じてキャリアを含有する。この処方物は、粉末として投与され得、この粒子は、表面特性(例えば、表面張力ならびに/または表面および/もしくは体積弾性)を変える物質から基本的になる。キャリアは、アルコールのような溶液であり得るが、水溶液も利用され得るか、または物質は、表面特性を変える物質と混合され、粒子を形成する物質であり得る。これらとしては、アルブミンのようなタンパク質もしくはデキストラン(これは、界面活性特性もまた有する)のような多糖類、または送達されるべき物質を、カプセル化するかまたは送達するために使用され得るポリエチレンオキシド(PEO)もしくは生分解性合成ポリマーのようなポリマーが挙げられ得る。薬物、特に抗ウイルス剤または抗生物質は、必要に応じて、処方物に含まれ得る。これらは、処方物と共に投与され得るか、または処方物内に混合され得る。
【0020】
好ましい実施形態において、処方物は、粉末またはエアロゾルのどちらかで、好ましくは感染前または感染直後に投与され、感染を軽減するかまたは予防し、これにより、ウイルスの出芽を防ぐ。この処方物は、肺の気道の液体内層(liquid lining)において、表面不安定性を減少させる(すなわち、肺流体からの小滴形成率を弱める)ために十分な量で投与される。表面張力および表面弾性のような物理的特性を有意に変える物質は、好ましくは、肺における表面弾性を増加させ、そして表面張力を変える量において、選択され、そして投与される。
【0021】
1つの例は、エタノールを単独で使用するか、より有意には、エタノールを界面活性剤DPPCと組み合わせて使用し、エアロゾル化の減少を実証する。適切な量およびサイズの高分子(例えば、50K Daのデキストラン)またはPEOを使用して、別の例はまた、エアロゾル化を有意に減少させ得ることを示す。別の例は、添加物(例えば、500K Daのデキストラン)を使用し、これにより、体積流体力学的特性が実質的に変えられ、エアロゾル化の増大をもたらし得ることを示す。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
肺粘膜の表面が刺激されそして該表面が不安定化される肺障害または肺感染の処置のための処方物であって、該処方物は、肺粘液内層液の表面張力および表面弾性のような物理的特性を有意に変えて、ウイルスの出芽の起きた肺の領域内の表面不安定性を減少させる物質の有効量を含む、処方物。
(項目2)
前記物質が、所定の剪断領域における肺粘膜での小滴形成率を有意に減少させるために有効な量である、項目1に記載の処方物。
(項目3)
10μm未満の粒子の乾燥粉末を含有する、項目1に記載の処方物。
(項目4)
溶液である、項目1に記載の処方物。
(項目5)
前記物質が、1つ以上の界面活性剤である、項目1に記載の処方物。
(項目6)
前記界面活性剤が、L−α−ホスファチジルコリンジパルミトイル(「DPPC」)、ジホスファチジルグリセロール(DPPG)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホ−L−セリン(DPPS)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DSPC)、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DSPE)、1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルコリン(POPC)、脂肪アルコール、ポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル、界面活性脂肪酸、ソルビタントリオレエート(Span 85)、グリココレート、サーファクチン、ポロクソマー、ソルビタン脂肪酸エステル、チロキサポール、リン脂質、およびアルキル化糖類からなる群から選択される界面活性剤からなる群から選択される、項目5に記載の処方物。
(項目7)
前記物質が、多糖類または合成ポリマーを含有する、項目1に記載の処方物。
(項目8)
前記溶液が、有機溶媒である、項目4に記載の処方物。
(項目9)
抗ウイルス剤、抗生物質、気管支拡張剤、およびステロイドからなる群から選択される化合物をさらに含有する、項目1に記載の処方物。
(項目10)
ポリマー、多糖類、またはタンパク質をさらに含有する、項目1に記載の処方物。
(項目11)
結核菌、SARS、インフルエンザ、サイトメガロウイルス、RSウイルス、および口蹄疫からなる群から選択される感染因子の感染性を制限するために有効な量である、項目1に記載の処方物。
(項目12)
動物におけるウイルス粒子の出芽を制限するための装置であって、該装置は、
家畜を通過させるテントまたは他の封じ込め設備、および
肺に送達された場合に表面不安定性を減少させるために有効な量の界面活性剤を含有する溶液を撒布する噴霧器であって、該噴霧される溶液が、該家畜が、該封じ込め設備を通過する際に該家畜に投与される、噴霧器、
を備える装置。
(項目13)
肺粘膜の表面が刺激されそして該表面が不安定化される肺障害または肺感染を処置するための方法であって、該方法は、肺粘液内層液の表面張力および表面弾性のような物理的特性を有意に変える物質を、表面不安定性を減少させるために有効な量で、ヒトまたは動物に肺投与する工程を包含する、方法。
(項目14)
前記界面活性剤が、所定の剪断領域における肺粘膜での小滴形成率を有意に減少させるために有効な量である、項目13に記載の方法。
(項目15)
前記処方物が、10μm未満の粒子の乾燥粉末を含有する、項目13に記載の方法。
(項目16)
前記処方物が、溶液である、項目13に記載の方法。
(項目17)
前記溶液が、有機溶媒である、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記処方物とともに、抗ウイルス剤、抗生物質、気管支拡張剤、およびステロイドからなる群から選択される化合物を投与する工程をさらに包含する、項目13に記載の方法。
(項目19)
前記物質が、1つ以上の界面活性剤である、項目13に記載の方法。
(項目20)
前記処方物が、ポリマー、タンパク質、または多糖類をさらに含有する、項目13に記載の方法。
(項目21)
前記溶媒が、エタノール、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、エチルエーテル、およびプロパノールからなる群から選択される、項目17に記載の方法。
(項目22)
前記処方物が、送達されるべき生物活性剤の溶液または懸濁液を含有する、項目17に記載の方法。
(項目23)
前記物質が、L−α−ホスファチジルコリンジパルミトイル(「DPPC」)、ジホスファチジルグリセロール(DPPG)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホ−L−セリン(DPPS)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DSPC)、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DSPE)、1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルコリン(POPC)、脂肪アルコール、ポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル、界面活性脂肪酸、ソルビタントリオレエート(Span 85)、グリココレート、サーファクチン、ポロクソマー、ソルビタン脂肪酸エステル、チロキサポール、リン脂質、およびアルキル化糖類からなる群から選択される界面活性剤である、項目13に記載の方法。
(項目24)
前記処方物が、肺疾患または肺障害の処置のための処方物である、項目13に記載の方法。
(項目25)
前記疾患が、ウイルス感染である、項目24に記載の方法。
(項目26)
前記ウイルスが、SARS、インフルエンザ、口蹄疫、RSVおよびサイトメガロウイルスからなる群から選択される、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記障害が、アレルギーまたは喘息である、項目25に記載の方法。
(項目28)
前記処方物が、乾燥粉末吸入器で投与される、項目13に記載の方法。
(項目29)
前記処方物が、計量吸入器で投与される、項目13に記載の方法。
(項目30)
前記処方物が、噴霧器で投与される、項目13に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、生物エアロゾル生成が正常な呼吸速度では不可能であるが、強い咳の間の上気道においては可能であることを示すグラフである。
【図2】図2は、PEOの溶液の粘性のグラフである。これは、おおきな歪み速度についてのみ考慮される。
【図3】図3は、気道における流体の構成のおおよそのスキームの模式図である。
【図4a】図4aは、生物エアロゾル形成の模式図である。
【図4b】図4bは、生物エアロゾル形成の模式図である。
【図4c】図4cは、生物エアロゾル形成の模式図である。
【図5】図5は、噴霧のための処方および投与方法の模式図である。
【図6】図6は、生物エアロゾル量を測定するための装置の模式図である。
【図7】図7は、水、エタノールおよび界面活性剤(DPPC)含有エタノールのための、8インチチューブを有する装置を介して得られた蛍光の量のグラフである。
【図8】図8は、界面活性剤含有水、PEO、高分子量デキストラン、および比較的低分子量のデキストランのための、8インチチューブを有する装置を介して得られた蛍光の量のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(発明の詳細な説明)
物理的特性(例えば、肺粘液内層液の表面張力および表面弾性)を変える物質を1つ以上含有する処方物の予防的投与は、ウイルスの出芽を減少させ、そして細菌感染の拡大を減少させるために使用される。
【0024】
肺粘液線毛性クリアランスは、主要なメカニズムであり、これにより、気道が、これを覆う液体フィルムに存在する粒子から、清浄に保たれる。誘導気道に、拍動して粘膜層を咽頭に向けて駆動し、気道を24時間最下線毛領域から清浄にする線毛上皮が並んでいる。流体コーティングは、水、糖類、タンパク質、糖タンパク質、および脂質からなる。これは、ヒト、ラット、およびモルモットにおいて、気道上皮および粘膜下腺で生成され、そしてこの層の厚みは、数μm(気管における)〜約1μm(遠位の気道における)の範囲におよぶ。
【0025】
肺を清浄に保つために二番目に重要なメカニズムは、肺を通る空気から粘膜コーティングへの運動量移動を介する。咳は、この運動量移動を増加し、過剰な粘液の除去を助けるために、身体によって使用される。多くの疾患状態に関連した粘液過剰分泌で生じるように、線毛拍動のみでは粘液を十分に除去し得ない場合、これは重要となる。激しい咳の間、200m/sもの速さの空気速度が、生成され得る。このような高空気速度について、粘膜層における不安定なシヌソイド障害(sinusoidal disturbance)の開始が、観察されている。この障害は、空気から粘液への運動移動の増加をもたらし、そしてその結果、肺からの粘液クリアランス速度を加速する。実験は、この妨害が、空気速度が幾つかの臨界値を超えた時に開始されることを示している。この臨界値は、フィルムの厚さ、表面張力、および粘性の関数である(M.Gad−El−Hak,R.F.Blackwelder,J.J.Riley.J.Fluid Mech.(1984)140:257−280)。理論的予測および粘液様フィルムを用いた実験は、肺において波動障害を開始する臨界速度が、5〜30m/sの範囲であることを示唆する。
【0026】
(I.処方物)
処方物は、呼吸系の感染(特に肺のウイルス感染)を制限するために開発されている。この処方物は、原則的な活性成分としての、肺粘液内層液の表面張力および表面弾性のような物理的特性を有意に変える物質、キャリア物質、および必要に応じて、抗ウイルス薬物または細菌薬物を含む。好ましい実施形態において、この処方物は、肺への送達の増大のための有機懸濁液であり、これは、ウイルスの出芽を減少させる高濃度の活性分子(例えば、タンパク質、界面活性剤、および/または生物ポリマー)が充填された直径3〜7μmの液体エアロゾル粒子を形成する。
【0027】
(定義)
本明細書中で使用される場合、用語「低毒性」は、身体の細胞または器官に永続的な長期的損傷を引き起こさない溶媒をいう。
【0028】
本明細書中で使用される場合、用語「エアロゾル」は、微小ミストの粒子(代表的には、直径10μm未満)の任意の調製物であって、溶液中または懸濁液中に存在し得、噴霧剤を使用して、または使用せずに生成される、調製物をいう。エアロゾルは、標準的技術(例えば、超音波処理または高圧処理)を用いて生成され得る。
【0029】
本明細書中で使用される場合、用語「溶液」または「溶解物」は、生物活性剤が、単分子分散として存在する組成物をいう。濃度範囲は、0mg/mlより高くから500mg/mlまでである。医薬品中に残留した溶媒は、薬物物質の合成において、または加工によって完全には除去されない薬物産物の調製において、使用されるかまたは生成される、有機揮発性化学薬品である。
【0030】
「生体適合性」は、身体の組織または細胞に対して、いかなる長期の有害な効果も引き起こさない、3型残留溶媒をいう。これは、米連邦公報第62巻、第85号、24301〜24309頁において、ヒトに対して毒性の可能性が低い溶媒として定義される。;健康に基づく曝露制限は必要でない。3型溶媒は、1日あたり50mg以上のPDEを有する。
【0031】
本明細書中で使用される場合、用語「界面活性剤」は、好ましくは2つの不混和性相の界面(例えば、水と有機ポリマー溶液との間の界面、水/空気界面または有機溶媒/空気界面)に優先的に吸着する、任意の薬剤をいう。本明細書中で使用される場合、界面活性剤は、物理的特性(例えば、肺粘液内層液の表面張力および表面弾性)を有意に変える任意の物質であり得、そして両親媒性物質、ポリマー(例えば、ポリエチレンオキシド)、ならびに特定の多糖類およびタンパク質が、挙げられる。
【0032】
(A.界面活性剤)
界面活性剤は、一般に、親水性部分および親油性部分を有し、それにより、微小粒子に吸着されると、これらは、類似コートされた粒子を誘引しない外部環境に対して部分を提示し、従って、粒子の凝塊形成を減少させる。界面活性剤はまた、薬物の吸収を促進し得、そして薬物のバイオアベイラビリティを増大させ得る。
【0033】
本明細書中で使用される場合、「界面活性剤を組み込んだ」粒子は、少なくとも粒子の表面上に界面活性剤を有する粒子をいう。粒子は、完全に界面活性剤から形成され得るか、あるいは界面活性剤は、粒子全体に組み込まれ得るか、粒子表面に合成の間に組み込まれ得るか、または合成後に粒子上にコートされ得る。界面活性剤は、吸着、イオン結合もしくは共有結合、または周囲のマトリックスによる物理的「カプセル化」によって、粒子表面上にコートされ得る。界面活性剤は、例えば、制御放出粒子(例えば、ポリマーミクロスフェア)中に組み込まれ得る。
【0034】
使用され得る界面活性剤としては、ホスホグリセリドが挙げられる。例示的なホスホグリセリドとしては、ホスファチジルコリン(例えば、天然に存在する肺界面活性剤である、L−α−ホスファチジルコリンジパルミトイル(「DPPC」))が挙げられる。肺に対する内因性の界面活性剤の使用は、非生理学的界面活性剤の使用の必要を避け得る。他の例示的界面活性剤としては、ジホスファチジルグリセロール(DPPG);1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホ−L−セリン(DPPS);1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DSPC);1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DSPE);脂肪アルコール(例えば、ポリエチレングリコール(PEG));ポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル;界面活性脂肪酸(例えば、パルミチン酸またはオレイン酸);ソルビタントリオレエート(Span 85);グリココレート;サーファクチン(surfactin);ポロクソマー(poloxomer);ソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ソルビタントリオレエート);チロキサポールおよびリン脂質が挙げられる。処方物中に含有され得、そのエアロゾル化特性を改善する界面活性剤としては、ホスホグリセリドが挙げられる。
【0035】
界面活性剤は、好ましくは、粘液小滴形成を、特異的に標的化する。幾つかの可撓性ポリマー(例えば、ポリエチレンオキシド(PEO))は、高歪み速度で、粘性を劇的に増加させる。浮遊微小粒子の放出を劇的に減少させる3つの戦略が、調査される。これらのシステムにおいて試験される、アプローチ、動機付けおよび可変性は、以下のようである:高張力調製物(DPPCベースの処方物);低張力調製物(DSPC含有DPPC);および高張力/高弾性調製物(デキストランまたはPEO含有DPPC)。
【0036】
界面活性剤はまた、懸濁剤のための粒子安定剤としても使用され得る。他の添加物(例えば、幾つかの無機塩(10mM〜5M))、ならびに粘性改変剤(例えば、水溶性ポリマーであるポリ(エチレングリコール)およびカルボキシメチルセルロース(0.1%〜10%(w/v)))はまた、溶解度、安定性または吸収性を上げるために使用され得る。
【0037】
抗ウイルス特性を有することが報告されている他の界面活性剤もまた、使用され得る。例えば、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)、硫酸化アニオン性カオトロピック界面活性剤、およびデキストラン硫酸(DS)、ポリ硫酸化炭水化物の、単純ヘルペスウイルス(HSV)感染およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染に対する効力が、培養細胞およびHSV感染の異なったマウスモデルにおいて評価され、報告されている。結果は、SLSおよびDSの両方が、種々のHSV−1株およびHSV−2株の感染性の、強力なインヒビターであることを示した。HIV−1(NL4−3株)のSLSでの前処理もまた、その1G5細胞への感染性を低下させた。DSは、HSVの細胞表面レセプターへの結合を妨げ、従って、その細胞内への進入を妨げた。Piretら,Curr Drug Targets.2002年2月;3(1):17−30。サーファクチンは、Bacillus subtilisに由来する、環状リポペプチド抗生物質かつ生物界面活性剤であり、そして広範なスペクトルの異なったウイルスに対して活性であることが報告されている。これらのウイルスとしては、Vollenbroichら(Biologicals,1997年9月;25(3):289−97)によって報告されているように、セムリキ森林ウイルス(SFV)、単純ヘルペスウイルス(HSV−1、HSV−2)、ブタヘルペスウイルス(SHV−1)、水疱性口炎ウイルス(VSV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ネコカリシウイルス(FCV)、およびマウス脳心筋炎ウイルス(EMCV)が挙げられる。インビトロ実験は、エンベロープウイルスについての、処置の間の二相性ウイルス不活性化動態学を示した。エンベロープに包まれたウイルス(特に、ヘルペスウイルスおよびレトロウイルス)の不活性化は、エンベロープに包まれていないウイルスの不活性化よりずっと効率的である。その作用に感受性のウイルスについて、サーファクチンは、5%ウシ胎仔血清(FCS)含有培地中に25μMで活性であった。サーファクチンの80μMまでの濃度は、HSV−1について15分で、そしてSIVおよびVSVについて60分で、4.410 CCID50/mlを超える力価の減少をもたらした。
【0038】
非イオン性ブロックポリマー界面活性剤(例えば、ポリエチレンオキシド)は、非イオン性ブロックポリマー界面活性剤により、ヒト免疫不全ウイルス1型の複製を阻害することが報告されている(Hirschmanら,J Med Virol.1994年3月;42(3):249−54)。親水性ポリオキシエチレンおよび疎水性ポリオキシプロピレンの8種のブロックコポリマーが、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV−1)のH9細胞中での複製に対するその効果について試験された。これらのポリマーは、細胞性複製を減少させたが、これらは、細胞に対して毒性ではないと考えられた;むしろ、これらは、細胞増殖を阻止すると見られた。3つのトリブロック(triblock)コポリマーは、低濃度で、HIV複製を阻害することが見出された。最高阻害は、感染5日目までに、濃度50μg/mlで達成された。アジドチミジンとHIV−1阻害コポリマーおよびHIV−1非阻害コポリマーの両方との組み合わせは、拮抗性の効果をもたらした。ウイルス複製における増加は、コポリマーまたはアジドチミジンのみでの処理と比較して観察された。これらのコポリマーは、細胞培養物中におけるHIV複製のメカニズムの研究において有用であるべきであり、そして、HIV感染についての併用治療において、臨床的に有用な化合物を生じ得る。
【0039】
Kurashimaら(Arerugi 1991年2月;40(2):160−3)は、界面活性剤吸入は、喘息発作において治療効果を有するか否かを、決定するための研究について報告した。喘息の発作を有する11人の患者であって、研究の前少なくとも6時間は症状が安定していた患者を、偽薬または界面活性剤の吸入にランダムに割り当てた。呼吸機能試験および血中ガス分析を、処置前および処置20分後に行った。偽薬投与後は、肺機能のベースラインからの有意な変化は観察されなかった。界面活性剤投与後(1ml;10mg/ml)は、全ての患者において、呼吸機能が著しく改善された。FVC、FEV1.0、MMF、δN2およびPaO2における変化の平均(+/−SE)は、それぞれ、11.7+/−1.3%の増加(pは、0.001未満)、27.3+/−4.4%の増加(pは、0.05未満)、33.3+/−4.7%の増加(pは、0.05未満)、31+/−8.4%の減少(pは、0.05未満)、および13.4+/−0.8%の増加(pは、0.05未満)であった。PaCO2においては、界面活性剤吸入後、相違が検出されなかった。この研究は、気道界面活性剤は、喘息を有する患者の、気管閉塞の病因に含まれることを示す。
【0040】
さらに、多くの生物ポリマーおよび幾つかの大型タンパク質は、表面弾性を増大するという意味において、または、体積溶液中のその存在が、体積弾性を増大するという点で、界面活性である。
【0041】
(B.投与のためのキャリアおよびエアロゾル)
キャリアは、乾燥粉末処方物のためのキャリアと、溶液としての投与のためのキャリアとに分類され得る。
【0042】
(1.液体処方物)
気道への治療剤の送達のためのエアロゾルが、開発されている。例えば、Adjei,A.およびGarren,J:Pharm.Res.,7:565−569(1990);ならびにZanen,P.およびLamm,J.−W.J.Int.J.Pharm.,114:111−115(1995)を参照のこと。
【0043】
Choiら(2001.Proc.Natl.Acad.Sci..98.11103−11107)は、タンパク質を肺に送達する手段として、エタノール中のタンパク質の噴霧を記載する。エタノールシステムは、多くの潜在的な利益を有する:エタノールの有機的性質は、タンパク質の三次構造および四次構造を、安定化し得る;エタノールは、殺生物剤として作用し得、そして懸濁剤の微生物汚染を制限し得る;懸濁液中の薬物の量は溶解度によって制限されないため、より多くの投薬が達成され得る;エタノールの非極性性質が、親油性薬物の含有を許容する;そして溶液中のエタノールは、経皮送達系と同じく、薬物調製物のエンハンサーとして作用し得る。
【0044】
組成物において有用な溶媒は、低毒性有機(すなわち、非水性)3型残存溶媒(例えば、エタノール、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、エチルエーテル、およびプロパノール)である。溶媒は、この組成物を容易にエアロゾル化する能力に基づいて選択される。溶媒は、活性成分と有害に反応すべきでない。活性成分を溶解するか、または活性成分の懸濁液を形成する、適切な溶媒が、使用されるべきである。懸濁液はまた、本明細書中で、分散液(dispersion)とも呼ばれる。
【0045】
溶媒は、さらに、この溶液または懸濁液のエアロゾルを形成を可能にするために十分に揮発性であるべきである。さらなる溶媒またはエアロゾル化剤(例えば、フレオン)は、溶液または懸濁液の揮発性を上昇させるために所望により添加され得る。
【0046】
エタノール、イソプロパノール、および他のアルコールが、好ましい溶媒である。100mgまでのDPPCが、1mlのエタノール中に懸濁され得る。エタノールの効果は、よく特徴付けられ、そしてその全身的毒性および局所的毒性が、理解される。透過性は、アルコールの鎖の長さに伴って増加すると考えられる。また、水性アルコールの濃度は、これらの系を考慮する場合、重要な因子であると考えられる。一般に、薬物輸送は、エタノール濃度とともに増大した。しかし、その濃度に関して、アルコールの効果の増大に対し、限界が存在する。
【0047】
乾燥脂質粉末は、その疎水性特性のために、エタノール中に、直接分散され得る。有機溶媒(例えば、クロロホルム)中に保存される脂質について、所望の量の溶液をバイアル中に置き、そしてクロロホルムを、窒素の流れの下で気化させ、ガラスバイアル表面上に、乾燥した薄いフィルムを形成する。フィルムは、エタノール中で再構築した場合、容易に膨潤する。脂質分子を有機溶媒中で完全に分散させるため、懸濁液を、超音波処理した。
【0048】
エタノール中でのタンパク質の溶解性は、ほぼ全ての他の有機溶媒と同様に、非常に低く、そして最適な条件下ですら、通常、1mg/mlを大きく下回る。タンパク質溶液は、一旦、エタノールに加えられると、ナノ粒子を形成するような方法において処理され得る。実験は、脂質が、エタノールに非常によく溶けることを確認した。例えば、100mg/mLまでのDPPCを、室温でエタノール中に首尾よく分散させ、その後、凝集体の沈降が起こる。デキストランおよびカラギーナンのような多糖類は、エタノール中で、0.5mg/mLを超える濃度で沈降する。顕微鏡検査法は、このポリマーが、μmサイズのポリマー球を形成したことを示す。界面活性剤を懸濁液へ添加し、ポリマーの分散を試みることは、界面活性剤乳化滴の形成をもたらすが、ポリマー分散に対しては有意の効果を有さなかった。DLSは、エタノール溶液のサイズおよびサイズ分布を測定するために、使用され得る。適切な装置は、ALV DLS/SLS−5000分光計/測角器(ALV−Laser GmbH,Langen,Germany)である。この実験についての光源は、波長514.5nmのアルゴンイオンレーザー(Coherent,CA)である。サンプルによって散乱された光は、90°の角度で透過ビームから検出され、ここで、反射の効果は最小化される。サンプルセルをトルエン浴中に置き、25℃の温度に維持する。
【0049】
脂質の非水溶性懸濁液(6〜100mg/mL)は、無水エタノール中で、再使用可能PARI LC Jet+噴霧器(PARI Respiratory Equipment,Monterey,CA)を使用して調製され得る。初期容量9mlを、レザバに充填し、そしてエアロゾル粒子を生成した。これを、Aerosizer APS 3321粒子サイズ分析システム(TSI,St.Paul,MN)において、分析し得た。一旦形成されると、エアロゾルは、一定の流速で、チャンバー内に注入される。これらの粒子は、鞘エア(sheath air)によって加速流速のセンターラインに閉じ込められ、次いで、2つの広範に収束するレーザービームを通り抜ける。光は、これらの粒子によって散乱され、そして、楕円形の鏡(この役割は、集められた光を固体状態の光検出器上に集中させることである)によって集められる。光パルスは、検出され、そして電気的パルスに置換される。2つのビーム間の分離は90〜100μmのオーダーであり、そして検出チャンバー内の流れの合計は、5L/sであることが公知であるため、これらの粒子の空気力学的半径は、2つのパルスのピーク間の時間およびそれぞれ独立した粒子についての速度から決定され得る。この装置は、約800n秒〜4.1μ秒の範囲の飛行時間(TOF)を有する粒子(0.3μm〜20μmの粒子サイズ)について設計される。
【0050】
(2.乾燥粉末処方物)
気道の形状は、肺内における薬物分散についての主要な障壁である。肺は、吸い込んだ異物(例えば、塵)の粒子を捕捉するように設計されている。3つの基本的沈着メカニズムが存在する:衝突、沈降、およびブラウン運動である(J.M.Padfield.1987.In:D.Ganderton & T.Jones編,Drug Delivery to the Respiratory Tract,Ellis Harwood,Chicherster,U.K.)。衝突は、粒子が、気流中に留まることができないときに、特に気道の枝部で生じる。これらは、気管支壁を覆う粘液層上に吸着され、そして粘膜線毛作用によって除去される。衝突は、大部分は直径が5μmを超える粒子で生じる。より小さな粒子(5μm未満)は、気流中に留まり得、肺の奥深くまで輸送され得る。沈降は、気流がよりゆっくりである、下部呼吸系において頻繁に起こる。非常に小さい粒子(0.6μm未満)は、ブラウン運動によって堆積し得る。この体制は、望ましくない。何故なら、堆積は、肺胞を標的とし得ないからである。N.Worakul & J.R.Robinson.2002.In:Polymeric Biomaterials,第2版,S.Dumitriu編,Marcel Dekker.New Yorkを参照のこと。
【0051】
エアロゾル送達のための粒子を設計するときの、別の考慮は、表面:体積の比であり、これは、高効率堆積に寄与する。大きなサイズと低い質量とを有する粒子は、肺深部の堆積に最も効果的であることが証明されている。この品質は、以下に定義されるような空気力学的直径daerによって特徴付けられ得る:
【0052】
【数1】

ここで、dは、粒子の直径であり、ρは、その密度である(Gonda,I.In Topics in Pharmaceutical Sciences.1991,D.J.A.CrommelinおよびK.K.Midha,編(Medpharm Scientific,Stuttgart,1992)95−115頁を参照のこと)。Heyder J.ら((同書)17,811(1986))、Edwards,D.A.((同書)26,293(1995))による以前の計算は、吸入された粒子の60%の堆積を達成する、粒子についての最適な空気力学的径は、約3μm程度であることを示している。本明細書中で使用される好ましいサイズ範囲は、直径約3μm〜7μmであるが、15μmまでの粒子が使用され得る。
【0053】
吸入による薬物送達は、薬物の一般的な非侵襲性の全身性送達についての約束に従った、種々の肺障害のための、低分子量の医薬品のよく確立された投与様式を代表する。幾つかの生物医薬品会社は、ペプチドおよびタンパク質の肺送達のための方法を開発中であり、1つのこのような製品(小児における嚢胞性線維症の症状を処置するためのGenentech製の酵素DNAse)は、すでに臨床的に使用されている。さらに、自己タンパク質の吸入が有意な免疫の問題を示すという証拠が存在しない。
【0054】
薬物の肺送達のための多くの薬学的調製物が、開発されている。例えば、米国特許第5,230,884号(Evansらに対する)は、タンパク質およびペプチドの肺送達のための逆ミセルの使用を、開示する。逆ミセルは、非極性溶媒(例えば、ヘキサン)へ少量の水を添加し、微小小滴を形成することによって形成される。この媒体内において、界面活性剤(洗剤)は、自身を、その極性頭部を内側に向けることにより水に接し、そして疎水性の尾部を外側に向ける。水の小さな小滴は、界面活性剤によって取り巻かれ、そして、送達されるべきタンパク質は、水層中に溶解される。
【0055】
米国特許第5,654,007号(Johnsonらに対する)は、医薬粉末(例えば、タンパク質、核酸、ペプチドなど)を含有する凝集組成物(agglomerate composition)を作製するための方法を開示し、ここで、非水性溶媒に結合する液体(フルオロカーボン)は、微小粒子を凝集した単位に結合させるために使用される。凝集物組成物は、50μm〜600μmの範囲の平均サイズを有し、吸入による肺薬物送達に有用であるといわれる。
【0056】
PCT/US97/08895(Massachusetts Institute of Technologyによる)は、生分解性物質または薬物で作製された粒子を開示する。この粒子は、0.4g/cm未満のタップ密度および5μm〜30μmの平均直径を有する。
【0057】
PCT/EP97/01560(Glaxo Group Limitedによる)は、肺送達において使用するための球形中空薬物粒子を開示する。
【0058】
これらの物質は、処方物の肺への送達のために使用され得、表面変性剤の正しい用量を、所望の速度で、かつ肺内の好ましい位置に送達するために、必要なように改変される。
【0059】
大きな粒子サイズの乾燥粉末処方物(「DPF」)は、改善された流動性の特性を有し(例えば、凝集がより少ない)(Visser,J.,Powder Technology 58:1−10(1989))、エアロゾル化を容易にし、潜在的に食作用を減らす。Rudt,S.およびR.H.Muller,J.Controlled Release,22:263−272(1992);Tabata,Y.およびY.Ikada,J.Biomed.Mater.Res.,22:837−858(1988)。吸入治療のための乾燥粉末エアロゾルは、一般に、まず平均の直径(5μm未満の範囲で)を使用して生成される。Ganderton,D.,J.Biopharmaceutical Sciences,3:101−105(1992);およびGonda,I.「Physico−Chemical Principles in Aerosol Delivery」,Topics in Pharmaceutical Sciences 1991,Crommelin,D.J.およびK.K.Midha,編,Medpharm Scientific Publishers,Stuttgart,95−115頁,1992。しかし、好ましい範囲は、空気力学的直径1μmと10μmとの間である。大きな「キャリア」粒子(薬物を含まない)が、治療エアロゾルと一緒に送達されており、他の潜在的な利益の中でとりわけ、効率的なエアロゾル形成の達成を助ける。French,D.L.,Edwards,D.A.およびNiven,R.W.,J.Aerosol Sci.,27:769−783(1996)。
【0060】
上述のように、粒子は、表面変性剤単独から形成得るか、または薬物もしくは賦形剤と併用され得る。適切な物質としては、アルブミンのようなタンパク質、デキストランのような多糖類、乳糖のような糖、および合成ポリマーが挙げられる。好ましいポリマーは、生分解性である。最も好ましくは、界面活性特性を有する、ポリエチレンオキシドコポリマーのようなポリマーである。生分解性ポリマー以外の物質を使用して、他のポリマーおよび種々の賦形剤を含む粒子を形成し得る。他の物質としては、ゼラチン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、トレハロース、およびデキストランが挙げられるが、これらに限定されない。秒単位〜月単位の範囲の分解時間および放出時間を有する粒子が、当該分野で確立された方法によって、設計されそして製造され得る。
【0061】
合成ポリマーは、粒子の特性を最適化するために調整され得る。これらの特性としては、以下が挙げられる:i)送達されるべき薬剤と送達の際の薬剤の安定化および活性保持を提供するためのポリマーとの相互作用;ii)ポリマー分解速度、従って薬物放出プロフィール;iii)化学的改変および表面特性を介した標的化能力;ならびにiv)粒子有孔性。
【0062】
ポリマー粒子は、単一乳剤溶媒気化および二重乳剤溶媒気化、噴霧乾燥、溶媒気化、相分離、単一のコアセルベーションおよび複合コアセルベーション、界面重合、および当業者に周知の他の方法を使用して調製され得る。粒子は、当該分野で公知のミクロスフィアまたは微小カプセルを作製するための方法を使用して、作製され得る。好ましい製造方法は、噴霧乾燥および凍結乾燥法により、これらは、界面活性剤を含有する溶液の使用、噴霧による所望のサイズの小滴の形成、および溶媒の除去を必要とする。
【0063】
空気力学的に軽い粒子の、吸入のために好ましい平均直径は、少なくとも約5μm、例えば、5μmと30μmとの間、最も好ましくは直径3μmと7μmとの間の直径である。粒子は、気道の選択された領域(例えば、肺の深部または上気道)への、局在化した送達のために適切な物質、表面の粗さ、直径およびタップ密度を用いて作製され得る。例えば、より高密度またはより大型の粒子が、上気道送達のために使用され得る。同様に、同一の治療剤または異なった治療剤が保証された場合、異なったサイズの粒子の混合物は、1回の投与で、肺の異なった標的領域へ投与され得る。
【0064】
本明細書中で使用される場合、語句「空気力学的に軽い粒子」は、約0.4g/cm未満のタップ密度を有する粒子をいう。乾燥粉末の粒子のタップ密度は、GeoPyc.TM.(Micrometrics Instrument Corp.,Norcross,Ga.30093)を使用して得られ得る。タップ密度は、エンベロープ質量密度の標準的尺度である。等方性粒子のエンベロープ質量密度は、包まれ得る最小の球形膜体積で割った、粒子の質量として定義される。低いタップ密度に寄与する特徴としては、不規則な表面テクスチャおよび多孔性構造が挙げられる。
【0065】
エアロゾルの慢性衝突および重力的な沈殿は、通常の呼吸状態の間の気道および肺細葉における、優勢な堆積メカニズムである。Edwards,D.A.,J.Aerosol Sci.,26:293−317(1995)。両方の堆積メカニズムの重要性は、エアロゾルの質量に比例して増加し、粒子(またはエンベロープ)の体積に比例しない。肺におけるエアロゾル堆積の部位が、エアロゾルの質量(少なくとも平均で約1μmを超える空気力学的直径の粒子)によって決定されるため、タップ密度は、粒子表面の不規則さおよび粒子多孔性の増加によって減少し、より大きな粒子のエンベロープ体積の肺内への送達を許容し、他の全ての物理的パラメーターは、等しい。低いタップ密度粒子は、実際のエンベロープ球直径と比較して、低い空気力学的直径を有する。例えば、米国再審査特許第37,053号(Edwardsらに対する)を参照のこと。
【0066】
(3.活性成分)
本明細書中で開示される処方物は、種々の分子(特に抗ウイルス分子および抗生物質を含む抗感染分子)の送達のために使用され得る。高分子の例としては、治療活性、予防的活性、または診断的活性を有する、タンパク質および大型ペプチド、多糖類およびオリゴ糖、ならびにDNA核酸分子およびRNA核酸分子、ならびにそれらのアナログが挙げられる。核酸分子としては、遺伝子、アンチセンス分子(相補的DNAに結合し、転写を阻害する)およびリボザイムが挙げられる。組み込まれるべき薬剤は、任意の種々の生物学的活性を有し得、例えば、血管作用剤、神経活性剤、ホルモン、抗凝固剤、免疫調節剤、細胞傷害性剤、予防剤、抗生物質、抗ウイルス剤、アンチセンス、抗原、または抗体である。好ましい薬剤は、抗ウイルス剤、ステロイド、気管支拡張剤、および抗生物質である。処方物は、肺内の局部送達または全身処置のための活性成分を含み得る。
【0067】
タンパク質および核酸のような高分子は、特定の重大なガイドラインに従いさえすれば、幾種かの有機溶媒(例えば、エタノール)に、比較的高濃度で溶解され得る。例えば、タンパク質は、好ましくは、タンパク質の等電点と異なるpH(好ましくは、タンパク質の等電点から離れたpH)を有する水溶液から、凍結乾燥される。BrombergおよびKlibanov,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92,1262〜1266(1995)(この開示は、本明細書中で参考として援用される)を参照のこと。高分子の有機溶媒への溶解性は、特定の添加物(例えば、幾つかの無機塩、界面活性剤、ならびにポリ(エチレングリコール)およびカルボキシメチルセルロースのような水溶性ポリマー)によって増大され得る。あるいは、有機溶媒中に懸濁した微結晶粉末または凍結乾燥粉末の形態の生体高分子分散液または生物高分子懸濁液は、肺送達のためのエアロゾルを作製するために使用され得る。このような系において、タンパク質は、通常、不可逆的に損傷を受ける。肺送達のための非水溶性処方物の利点としては、微生物汚染に対する安定性、およびその揮発性による、(水と比較して)大いに容易なエアロゾル形成が挙げられる。
【0068】
(II.界面活性剤処方物の気道への投与)
(A.投与の方法)
気道は、雰囲気と血流との間のガス交換に関連する構造体である。肺は、最終的に肺胞(ここでガス交換が起こる)で終わる、枝分かれ構造である。肺胞表面積は、呼吸系において最大であり、ここで薬物吸収が起こる。肺胞は、線毛も粘液ブランケットもない薄い上皮で覆われ、界面活性剤リン脂質を分泌する。J.S.PattonおよびR.M.Platz.1992.Adv.Drug Del.Rev.8:179〜196。
【0069】
気道は、上気道(口腔咽頭および喉頭を含む)、続く下部気道(気管を含む)、続く気管支および細気管支への分岐を含む。上気道および下部気道は、誘導気道と呼ばれる。次に、末端細気管支は、呼吸細気管支(次に最終的呼吸領域である肺胞に導く)または肺深部へと分岐する(Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems,6:273〜313(1990)におけるGonda,I.「Aerosols for delivery of therapeutic an diagnostic agents to the respiratory tract」)。肺深部または肺胞は、全身的薬物送達のための、吸入する治療エアロゾルの主な標的である。
【0070】
吸入するエアロゾルは、局所肺障害(喘息および嚢胞性線維症)の処置のために使用されており(Andersonら,Am.Rev.Respir.Dis.,140:1317〜1324(1989))、そしてペプチドおよびタンパク質の全身性送達の能力をもまた、有する(PattonおよびPlatz,Advanced Drug Delivery Reviews,8:179〜196(1992))。かなりの注意は、吸入治療の効率を改善するための治療エアロゾル吸入器の設計に向けられている。Timsinaら,Int.J:Pharm.,101:1〜13(1995);およびTansey,I.P.,Spray Technol.Market,4:26〜29(1994)。
【0071】
エアロゾルの投薬、処方物および送達系は、Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems,6:273〜313(1990)中のGonda,I.「Aerosols for delivery of therapeutic and diagnostic agents to the respiratory tract」およびAerosols in Medicine,Principles,Diagnosis and Therapy,Morenら編,Esevier,Amsterdam,1985中のMoren「Aerosol dosage forms and formulations」に記載のように、特定の治療適用について選択され得る。
【0072】
処方物は、単独で投与され得るか,または呼吸系への投与のための任意の適切な薬学的キャリア中で投与され得る。ヒトへの投与のために使用され得る代表的な装置は、計量吸入器(metered dose inhaler)(MDI)、乾燥粉末吸入器(DPI)、および噴霧器が挙げられる。処方物は、感染性を低下させ、そして/または感染症状を現象させるために有効な量で投与される。
【0073】
粒子は、生理食塩水のような液体または粉末であり得、そして直径50〜100μm(治療剤を含まない)のより大型のキャリア粒子と同時送達され得る。
【0074】
送達は,幾つかの方法のうちの1つによって、達成される。例えば、患者は、事前懸濁用タンパク質の乾燥粉末をエタノールと混合し、その後それを噴霧し得る。事前噴霧溶液を使用し、投与する用量を調節して、懸濁の損失を避けることが、より適切であり得る。噴霧の後、エアロゾルを加圧し、そして計量吸入器(MDI)を通して投与することが可能であり得る。噴霧器は、溶液または懸濁液から、患者に吸入される微細なミストを作り出す。米国特許第5,709,202(Lloydらに対する)に記載されるデバイスが、使用され得る。MDIは、代表的に、測量バルブを有する加圧キャニスターを含み、ここで、このキャニスターは、溶液または懸濁液およびプロペラントで満たされる。溶媒自体がプロペラントとして機能し得るか、組成物は、フレオンのようなプロペラントと混合され得る。組成物は、キャニスターから圧力の解放により放出される場合、微細なミストである。プロペラントおよび溶媒は、圧力の低下により、完全にまたは部分的に気化し得る。図5は、噴霧化のための処方および投与方法の模式図である。
【0075】
処方物は、競走馬、繁殖家畜、または絶滅危惧の保護動物のような動物を、ウイルスの出芽による感染から守るために、これらの動物は投与され得る。これは、噴霧器システムを、給水基地の近くに設置し、動物が給水基地に近づくかまたはそこから離れることによってエアロゾルの産生を誘発することによって、達成され得る。処方物は、動物がシュート(chute)または檻を歩くときに動物の上から噴霧され得るか、あるいは噴霧トラックまたは農薬散布型飛行機からすら噴霧され得る。
【0076】
界面活性剤は、ウイルス蔓延の開始時点で、疾患の流行レベルでの拡大を防ぐために投与され得る。FMD蔓延の半径10km以内の動物は、目下感染範囲内である。これらの動物は、その後、屠殺され、消毒される。本エアロゾルシステムは、直ちにこの半径10km領域内の動物に投与され得、そしてさらに、蔓延の封じ込めを確実にするため、この領域の外側の規定の緩衝領域内の動物に投与され得る。次いで、エアロゾルは、成功を確実にするために(すなわち、最初の感染と症状の発現との間の正常な期間を超えて)必要な限り、投与され得る。
【0077】
送達されるべき処方物の有効量は、図1〜図3を参照して、以下のように決定され得る。これは、以下の観察に一部基づく:
円筒型のチューブ内側の液体エンベロープの均一な薄いフィルムの安定性の第一次分析を、行った。無限軸対称シヌソイド摂動(perturbation)は、まず均一なフィルムに与えられ、表面積の最小化が、増殖または崩壊に障害(disturbance)を引き起こすか否かの問いに答える。表面積分を取り、体積を一定に保つことで、摂動が円筒の外周未満の波長について表面積を増大する一方、円筒の外周より長い波長については、表面積が減少することを見出した。従って、所定のチューブ直径について、臨界波長より長い障害波長は、励振(excite)され、シヌソイド障害(sinusoidal disturbance)を開始するように励起されなければならない。このようなシヌソイド障害が、肺内の高速気流によって励起される場合、微小な小滴は剪断され得、粘膜生物エアロゾルを生成し得ると考えられる。生物エアロゾル生成に必要な報告された空気速度(25m/s)およびシヌソイド障害を励起するために必要な空気速度(5〜30m/s)との間の相関は、生物エアロゾル形成条件を支持する。感染生物において、粘膜は、しばしば高濃度の病原体を含み、従って、生物エアロゾルは、病原体の効率的な伝搬ビヒクルとして機能し得る。
【0078】
Weibelのモデル(E.R.Weibel.Morphometry of the Human Lung.Springer,Heidelberg,1963)は、24の気道世代(generation)を含むヒト肺を記載する。これは、気管を(世代0)として、大気管支1、葉気管支2などで始まり、肺胞嚢は、気道世代23として表される。各世代のチューブの独特の直径および数を考慮し、そして呼吸の正常速度を1L/sとして、各世代を通じた平均空気速度を計算し、そして咳によって10L/sで気道から射出される空気によって生じる各世代を通じた平均空気速度と比較した(空気速度=[体積流速]/[総x横断面積/生成)。
【0079】
図1は、特徴的な健康なヒト肺データから計算された気道世代における、空気速度の効果を実証する。1L/sの呼吸流速(正常呼吸流速)について、空気速度は、全ての世代について、25m/sを大いに下回る。10L/sの流速(激しい咳の流速特性)について、世代0〜2における空気速度は、25m/sより大きい。これは、咳をすることは、上気道(気道から葉気管支まで)において、粘膜エアロゾル産生が可能な空気速度を生み出し得ることを示す。これは、上気道のみが粘膜エアロゾル生成に関連することを報告する文献と一貫している。
【0080】
このデータは、生物エアロゾルの射出量を減少させ得、従って、粘液小滴を剪断するために必要な空気速度を増加することによって、病原体の伝搬速度を減少させ得ることを示唆する。例えば、生物エアロゾル形成が、臨界値より大きい空気速度に曝される肺の総表面積に比例すると考えられる場合、臨界空気速度が25m/sから40m/sに増加するように粘液エンベロープの性質を変えることは、生成される生物エアロゾルの量を、75%減少させる(世代1のみが、プロットから示され得るように、咳の間に超臨界空気速度を有する)。
【0081】
生物エアロゾル生成の減少は、従って、粘液の性質を、粘液小滴を剪断するために必要な臨界空気速度を増加するように改変することであると考えられる。臨界空気速度が粘液の粘性、厚み、および表面張力に依存することが公知であるが、関連性の正確な性質は、議論の課題である。インビトロの波形成についての臨界空気速度は、フィルム厚の減少および粘性の増加に従って増加する(C.A.Evrensel,R.U.Khan,S.Elli,P.E.Krumpe.J.Biomech.Eng.(1993)115:262−27)が、なお他の研究者らは、幾つかの表面張力値について、臨界空気速度はフィルム厚の増加と共に増加し、一方、他の表面張力値については、臨界空気速度はフィルム厚の減少と共に増加することを主張する。
【0082】
上気道における粘液の特性の幾つかの改変は、制限された副作用を有する場合のみ可能であり得、粘液エアロゾル生成に関連する表面波障害は、運動量移動を増大し、従って、過剰な粘液の除去を助ける。さらに、粘膜線毛性クリアランスの効力は、慢性気管支炎を有する患者および嚢胞性線維症患者によって証明されたように、粘液粘性の変化に感受性である。上気道における粘液の特性の改変は、粘液クリアランス減少に関連する望ましくない副作用をもたらし得る。しかし、このような介入は、酸素輸送の低下または肺胞の虚脱に関連する毒性を完全に避けるために、上気道においてのみ必要とされるべきである。従って、粘液小滴形成を特異的に標的化し、他の粘液特性を変えないままに留める処置を使用することが好ましい。
【0083】
好ましい実施形態において、この処置は、所望の伸長粘性を有する少量の長鎖ポリマーの配置を含む。伸長粘性は、高い歪み速度での流れに溶液が抵抗する傾向である(V.Bergeron,D.Bonn,J.Y.Martin,L.Vovelle.Nature.(2000)405:772−775)。図2は、歪み速度の関数として、0.25g/Lのポリエチレンオキシド(PEO)の伸長粘性の例を示す(S.W.Clarke,J.G.Jones,D.R.Oliver.J.Appl.Physiol.(1970))。この流体力学的特性は、少量のポリマーの水への添加(このことは、ホースから発される水の噴出の範囲を劇的に増加させる)により、消防において利用される。ポリマーは、一部で、ノズルを離れるときの噴出の崩壊を抑制することにより、この偉業を達成する。この噴出の崩壊についてと同様に、粘液小滴を生成する粘液内層の気流剪断は、非常に高い歪み速度で特徴付けられるプロセスである。従って、少量のポリマー(例えば、PEO)の添加は、生物エアロゾルを生成するために必要とされる有意に高い臨界空気速度に寄与し得る。このようなアプローチの主な利点は、粘液の流体力学的特性を、粘膜線毛性クリアランスおよび波形成に関連する低い歪み速度では変えないままに留めることである。
【0084】
図3は、気道における流体の構成のおおまかなスキームの模式図である。図4aおよび図4bは、いかに流体層が妨害され、そして波を形成するかを示す模式図である。これらの並みの振幅は、感染または炎症において増加し、図4cに示すように、小滴の形成をもたらす。界面活性剤の導入は、表面張力勾配を許容することにより、この不安定性の増大を鈍らせる。粘液層における不安定性の発生および動力学をもたらす変数は、表面張力、弾性、粘性およびフィルム厚である。1つ以上のこれらの変数を改変することにより、粘膜線毛性クリアランスに影響することなく、生物エアロゾル形成を低下させ得る。
【0085】
(生物エアロゾル伝搬のインビトロ試験)
以下のインビトロの方法が、外来性界面活性剤(可撓性ポリマーを含む)の気道内の生物エアロゾル生成における効果を試験するために使用され得る。「咳機械(cough machine)」(M.King,J.M.Zahm,D.Pierrot,S.Vaquez−Girod,E.Puchelle.Biorheology.(1989)26:737−745)は、シミュレーションされた気道の粘液内層によって経験される、空気速度を制御するために使用される。ウイルス粒子をシミュレートする放射性標識ナノ粒子を、流体内に組み込み、そして咳機械の排出口にフィルターを設置し、生成されたエアロゾル小滴を収集する。種々の化合物を、剪断粘性、伸長粘性、および表面張力を変えるために添加し、そして試験を、種々の空気の速度(25m/s未満、25m/sを含むおよび25m/sより上)で繰り返す。
【0086】
処方物は、同時に粘液小滴生成を低下させ、そして変数(例えば、粘液クリアランス)を最小限変化させ、安全性を確実にする。まず、3つの物理的仮説に従って、3つのシステム(A〜C)が、使用される。第1のシステム(A)は、合成ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)(第1の肺界面活性剤構成物)のみから成り、粘液表面張力の増加の効果を試験する。第2のシステム(B)は、DPPCと合成DSPC(天然の肺界面活性剤の第2の構成物)との混合物から成り、粘液表面張力の減少の効果を試験する。第3のシステム(C)は、DPPCと多糖類(デキストラン)から成り、表面弾性の増加の効果を試験する。これらのシステムのそれぞれは、表面不安定性を作り出すために設計された単純なインビトロ装置で試験され、従って、界面活性剤システムの、不安定性を減少する能力を測定する。インビトロシステムは、ミキシングカップとして作り出され、ここから円筒形チューブが下へ垂直に延びる。カップおよびチューブは、固定速度で回転される。所定の流速で水をカップ内に注ぎ、そしてチューブの輪(annulus)の範囲の、所定の厚みの液体のフィルムを作製する。このフィルムは、重力によってチューブの底から落ちる。気流は、チューブから離れるとすぐに水の落下する輪(falling annulus)を壊して小滴にする速度でチューブを吹き抜ける。壊れる前に水フィルムがチューブから落ちる距離を、測定する。界面活性剤システム(A〜C)のそれぞれが、システムの肺液への送達について予測される比率と類似の比率(代表的には、大型哺乳動物肺液体積は、20〜40mLの範囲である)で、ミキシングカップ内で水に加えられる。システムA〜Cの正確な組成は、不安定性がもっとも有意に弱められる(すなわち、壊れるまでにチューブからフィルムが落ちる距離が最大化される)ように変えられる。インビトロモデルにおける、2つの最もよい界面活性剤システムは、生きた動物モデル内に運ばれ、そして同時に毒性も試験される。
【0087】
(毒性研究)
投与されるべき化合物は、非毒性について試験され得る。例えば、予備インビトロ研究が行われ、線維芽細胞の単層に添加する際のエタノール溶液の毒性が試験された。NIH
3T3線維芽細胞を、Lab−TekTMカバーガラスチャンバー(NUNC,Rochester,NY)上にプレート培養し、そしてコンフルーエンスまで増殖させた。次いで細胞を、10%FBS DMEM中の30%エタノールの溶液に10秒間曝し、そして幾度かDMEM中10%FBSで洗浄した後に、インキュベーターに戻した。15分後、細胞を、10μMのCell−TrackerTM Green CMFDA(Molecular Probes,Eugene,OR)に30分間曝した。次いで細胞を、10% FBS DMEMで幾度か洗浄し、そして37℃、5% CO顕微鏡チャンバー中に置いた。CMFDA株は、迅速に細胞に進入し、細胞が生存している場合、酵素学的に改変され、そして離れ得ない。従って、生存可能な細胞は、明るく蛍光を発し、一方、死んだ細胞は発光しない。細胞を倒置型蛍光顕微鏡で画像化した。単層の画像は、明るく染色された細胞を示し、これは、30%エタノールに10秒間程度の細胞の暴露は、細胞死を引き起こすのに不十分であることを表す。
【0088】
インビボ毒性研究は、インビトロ研究で最も効果的な処方物のうちのどれが最も毒性が少ないかを決定する。動物に、エタノール中の調製界面活性剤処方物を投与し、静脈血液サンプルを回収する。血液サンプルを、血中アルコール濃度について分析する。また、気道洗浄は、調製物の投与からもたらされる肺組織への損傷についての情報を提供する。
【0089】
(インビボ実験)
種々の界面活性処方物の、表面張力、弾性、および粘性へのインビトロ効果が、測定され得る。理想的には、界面活性剤は、粘膜層の表面に均一に広がり、例えば、咳によってもたらされるような高い空気速度によって主に生み出されると信じられている、粘液小滴のくびれ(necking)および出芽(budding)を防ぐ(King,M.ら,Biorheology,26;737−745,1989)。粘液層は、肺の微粒子物質(感染性微生物およびウイルス粒子を含む)を含むため、個体の生物エアロゾルへの粘液小滴の添加は、空気伝搬疾患のより迅速な伝搬の原因であり得る。粘膜エアロゾル小滴の形成を防ぐことにより、投与される肺界面活性剤は、疾患の空気伝搬を減少する。試験被験体は、ハムスターおよびブタである。これらのパラダイムの肺システムおよび呼吸パターンは、最もよく知られ、そして生物エアロゾルの研究に最も役立つ(Boren,HG.Arch Intern Med 1970年9月;126(3):491−495)。
【0090】
理想的には、弱毒化インフルエンザウイルスが、界面活性剤の効力を試験するために使用される。呼気フィルターを溶解し、インフルエンザ粒子の存在についての試験のためのアッセイを行うことにより、界面活性剤が被験体から発散される粒子の数を低下させるか否かを見ることができる。他のモデルが、使用され得る。第1は、蛍光色素タグ化バクテリオファージであり、これは、実験室内で行うために、単純かつ安価である。蛍光色素タグ化バクテリオファージを使用する利点は、研究の結果が、容易に定量化されることである。被験体の流出は、フィルター上で収集される;濾紙上での蛍光のレベルを単に測定することにより、バクテリオファージの相対量が、決定され得る。制限は、バクテリオファージは、実際のウイルス粒子と同じように挙動しない場合があることである。遺伝的に改変された、複製不能インフルエンザ(NS2遺伝子を欠く)(Wanatabeら,2002)もまた、使用され得る。非感染性株として、これらのウイルス様粒子(VLP)は、試験被験体の肺内のインフルエンザをモデル化するために理想的である。
【0091】
以下の技術は、界面活性剤を投与するために使用される。ハムスターを、プレキシグラス拘束チューブ内(頭部のみ露出した流動血量計として作用する)に置く(Takebayashiら,J Appl Physiol 85:442−450,1998)。異なったチューブサイズを使用し、動物に合わせる。チューブに、動物の首の周囲にぴったり合うように設計されたシリコンゴムガスケットを取り付け、そして頭を身体の残りから封止する。一旦動物をチューブに入れると、大型のピストンが、動物の後ろの位置に移動する。ピストンは、動物が動くことを防ぎ、そして身体チャンバーを外気から封止するために役立つ。空気は、動物の呼吸に従って体表面で置換され、異なった圧力トランスデューサー(モデル163PC01D75,Omega Engineering,CT)に接続した呼吸気流計(スクリーンフィルターを取り付けた8mm直径)を横切った。生じた流動シグナルを、コンピュータープログラム(BUXCO,Troy,NY)で分析する。このプログラムは、1分間の換気量、1回換気量、呼吸頻度、吸入時間(TI)、および呼出時間(TE)を呼吸ごとのベースで計算し、毎分、それぞれの値の平均を報告する。チューブの頭部末端を、ステンレス鋼チャンバー(体積約145L)のプレキシガラスドア内のポートを通して挿入する。動物を、まず、フィルターを通した空気に25分露出し、動物を血量計に適合させる。その後、ウイルスマーカーを、フィルターを通した空気と共に投与し、30分間肺に堆積させる。1分あたりの体積、チャンバー内のウイルスマーカーの濃度、露出時間、および肺内の推定10%堆積率に基づいて、ウイルスマーカーの量を、被験体の呼吸パターンに従って基準化し得る。次いで、フィルターを通した空気を、さらに60分間追跡し、粘膜層における堆積を確実にする。各被験体について、本発明者らの界面活性剤処方物の1つを、30分間投与する。対照群には、噴霧したエタノールを与える。
【0092】
次いで、投与デバイスは、チューブの頭部末端を覆うフィルターを加えて改変され、そして15分間の間隔で変えられる。チューブから排出される全ての空気は、このフィルターを通る。結果として、被験体から放出される全てのウイルス粒子は、このフィルター上に現れる。フィルターを、ウイルスマーカーの存在についてアッセイする。各被験体について、チューブは、以下の長さの1つのものである:10cm、25cm、50cm、75cm、1m。フィルターを、新規のウイルスマーカーの出現が無視し得るようになるまで変え続ける。実験のこの部分を通じて、被験体の呼吸パターンにおける変化をモニターするための操作で、呼吸気流計測定を続ける。
【0093】
これは、界面活性剤処方物が、呼出されるマーカー粒子の数において、コントロールから、および処方物を比較した場合に、統計的に有意な相違を生じることを示すために使用され得る。異なったチューブの長さの使用は、界面活性剤のみが呼出される粒子の幾つかのサブセットを減少するか否かを示し、ウイルスの出芽のメカニズムについての新規の方向を提供する。さらに、実験を通じた呼吸気流計の使用は、呼吸および咳の速度が界面活性剤の投与によって影響されるか否かの予備的表示を提供する。
【0094】
上記のエアロゾルに曝されたラットを、投薬、期間、および対照に従って群に分ける。ラットを安楽死させた後、気管支細胞洗浄(broncheoalveolar lavage)を行う。洗浄液を、細胞型およびマクロファージ活性化について分析する。他の関連する組織病理学試験を、必要に応じて実行し、気管支狭窄(bronchioconstriction)を調べる。
【0095】
(B.処置されるべき患者)
本処方物は、これを必要とする動物またはヒトに投与され得る。動物またはヒトは、ウイルス疾患に感染し得、またはこれらに曝され得る。例示的なウイルス疾患は、動物における口蹄疫、ならびにヒトにおけるSARS、RSV、サイトメガロウイルス(CMV)およびインフルエンザである。ヒトは、結核菌に感染し得るか、またはアレルゲンに曝され得るか、あるいは喘息を有し得る。
【0096】
一般に、処方物は、エアロゾルまたは噴霧された界面活性剤による処置によって投与される。ヒトは、DPI、MDIまたは噴霧器を用いて、上述のように処置される。動物は、処方物を吸わなければならない閉鎖された領域を歩き抜け得る。これは、感染の可能性を低下させ、そしてウイルス粒子の拡大の減少をもたらす。処方物の投与のためのテントは、スポーツ行事で馬の検疫に使用される現在入手可能な設備を使用して作製され得る。
【0097】
処置は、感染の危険または疾患の拡大が存在する限り続けられ、この処置は、ウイルスの出芽を防ぐかまたは制限するために必要な場合、繰り返される。喘息、アレルギー、および他の肺障害の場合、所望の肺パラメーターを維持するために、処置を続ける。
【0098】
本発明は、以下の非限定的実施例を参照して、さらに理解される。
【実施例】
【0099】
(実施例1:肺から呼出される生物エアロゾルの減少)
(材料および方法)
装置を、表面張力および表面弾性を変え、肺から呼出される生物エアロゾルの量を低下する薬剤の能力を表すように構築した。
【0100】
図6に示すように、Hamilton Gas−Tight 500μLシリンジを、Penn−Century Microsprayer,2インチげっ歯類モデル1A−1Bに取り付け、そしてシリンジの末端を、4インチ、8インチおよび12インチの長さの1インチID PVCチューブ内に設置した。ステンレス鋼メッシュスクリーンによって裏打ちされた0.45ミクロンの孔サイズのMillipore Durapore HVPPフィルターを、PVCチューブの出口に隣接して設置した。シリンジは、呼出した呼気の役割を果たし、微小噴霧器およびPVCチューブを通した空気および液体を流す、圧力滴を提供する。シリンジにおける液体の崩壊は、呼出した呼気の間の上気道における界面活性剤液体の崩壊のモデルとなり、PVCチューブは、上気道における界面活性剤液体崩壊の部位から口への空気経路を模倣する。
【0101】
100μLの3種の溶液(蛍光マーカーとして、それぞれ1.25g/LのローダミンB(Aldrich)を含有し、すなわち、気道流体内に含まれる病原体を模倣する)を、シリンジ内で試験した。第1の溶液は、蒸留水(Millipore Milli−Q蒸留水)であり、第2の溶液は、80/20(v/v)エタノール/水溶液であり、そして第3の溶液は、3.75g/Lのジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)(Genzyme)含有の80/20(v/v)エタノール/水溶液であった。第1の溶液は、「障害を受けない」肺内層液を表し、第2の溶液は、エタノールの存在によって改変された内層液を表し、第3の溶液は、界面活性剤DPPCの存在により改変された内層液を表す。
【0102】
3つの異なったPVCチューブ型(すなわち、4インチチューブ、8インチチューブおよび12インチチューブ)を通ってシリンジから100μLを注入した後にフィルターに達したローダミンの量を、測定した。目的は、エタノールまたはエタノール/DPPC混合物のどちらが、より少ないエアロゾル化したローダミンをフィルターに到達させるかを、このような物質の肺および肺液への送達後に呼出された病原体の量に対するこのような表面張力および弾性の改変物質の効果の代替として、決定することであった。
【0103】
(結果)
溶液の注入およびフィルター上への堆積後、フィルターを除去し、そして25mLフラスコ内で、25mLのメタノール(PharmaCo)で洗浄し、次に、溶液中の蛍光を、フルオロメーター(fluorimeter)で検査した。
【0104】
測定のために十分なエアロゾルがチューブを出るがエアロゾルが過剰には出ず、したがって放出されたエアロゾル粒子サイズに対して、の添加したエタノールおよびDPPCの影響が測定され得ない、最適なチューブ長は、8インチであった。
【0105】
図7は、8インチチューブ実験についての蛍光スペクトル(数/秒、フルオロメーターによって得た、放出光の波長に対して)を示す。フィルターに達した最も多い蛍光は、純水溶液で観察された。対照的に、エタノール溶液は、より少ないフィルター上の堆積を生じ、そしてDPPC/エタノール溶液は、堆積が有意に少なかった。
【0106】
この実施例は、物質(例えば、DPPCおよびエタノール)が、適切な量で適切な頻度で投与された場合、肺液からのより少ないエアロゾル放出をいかにしてもたらし得るかを示す。
【0107】
(実施例2:天然のポリマーおよび合成のポリマーを使用する、生物エアロゾルの減少)
(材料および方法)
実施例1と同じ装置を、試験のために使用した。
【0108】
エアロゾル化されるべき第1の溶液は、3.75g/LのPOPCおよびPEO(Genzyme)を含有する80/20(v/v)エタノール/水溶液であり、他の溶液は、3.75g/Lの50K Daおよび500K Daのデキストランを含有する20/80エタノール/水溶液であった。第1の溶液は、2つの他の界面活性剤(1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルコリン(POPC)およびPEO)の存在によって改変された肺内層液を表す。第2の溶液は、非常に大型の高分子(この液を実質的により高い粘性にする)およびより小さな高分子の存在によって改変された肺内層液を表す。
【0109】
(結果)
8インチPVCチューブを通ってシリンジから100μLを注入した後にフィルターに達したローダミンの量を、実施例1のように測定した。溶液の注入およびフィルター上への堆積後、フィルターを取り出し、そして25mLフラスコ内で、25mLのメタノール(PharmaCo)で洗浄し、次に、溶液中の蛍光を、フルオロメーターで検査した。
【0110】
図8は、8インチチューブ実験についての蛍光スペクトル(数/秒、フルオロメーターによって得た、放出光の波長に対して)を示す。この結果を、図7の結果ともまた比較する。フィルターに達した最も多い蛍光は、大型(500K Da)のデキストラン溶液で観察され、次に多かったのは純水溶液であった。対照的に、POPC、PEOおよび50KDaのデキストランの溶液は、有意により少ない堆積を有した。
【0111】
この実施例は、他の界面活性剤(例えば、PEOおよびPOPCまたは50K Daのデキストランのような適切な高分子)が、適切な量で適切な頻度で投与された場合、肺液からのより少ないエアロゾル放出をいかにしてもたらし得るかを示す。一方、体積溶液特性を劇的に変えすぎる500K Daのデキストランのような物質の添加は、より多いエアロゾル放出をもたらし得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸器障害を処置するかまたはエアロゾル生成を変更するための処方物であって、該処方物は、投与の部位で肺粘液内層液の表面粘性または表面弾性を増加させるのに有効量の非イオン性ポリマーまたは高分子を含む、処方物。
【請求項2】
前記非イオン性ポリマーまたは高分子は、アルブミン、多糖類、糖、合成ポリマー、生分解性ポリマー、ポリエチレンオキシドコポリマー、ゼラチン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、トレハロースおよびデキストランからなる群より選択される、請求項1に記載の処方物。
【請求項3】
前記非イオン性ポリマーまたは高分子は、デキストランである、請求項1に記載の処方物。
【請求項4】
前記非イオン性ポリマーまたは高分子は、ポリエチレンオキシドである、請求項1に記載の処方物。
【請求項5】
前記処方物の使用は、エアロゾル形成を減少させるためのものである、請求項1に記載の処方物。
【請求項6】
前記非イオン性ポリマーまたは高分子は、500,000ダルトン未満の分子量のデキストランである、請求項5に記載の処方物。
【請求項7】
前記非イオン性ポリマーまたは高分子は、ポリエチレンオキシドまたは50,000ダルトンのデキストランである、請求項5に記載の処方物。
【請求項8】
前記非イオン性ポリマーまたは高分子は、体積溶液特性を変更しない、請求項5または7に記載の処方物。
【請求項9】
前記処方物の使用は、エアロゾル生成を増加させるためのものである、請求項1に記載の処方物。
【請求項10】
前記非イオン性ポリマーまたは高分子は、500,000ダルトンのデキストランである、請求項9に記載の処方物。
【請求項11】
前記非イオン性ポリマーまたは高分子は、体積溶液特性を変更する、請求項9または10に記載の処方物。
【請求項12】
前記処方物の投与は、乾燥粉末吸入器によるものである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の処方物。
【請求項13】
前記処方物の投与は、計量吸入器によるものである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の処方物。
【請求項14】
前記処方物の投与は、噴霧器によるものである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の処方物。
【請求項15】
前記処方物は、乾燥粉末を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の処方物。
【請求項16】
前記処方物は、10μm未満の乾燥粉末を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の処方物。
【請求項17】
前記処方物は、溶液である、請求項1〜11または13〜16のいずれか1項に記載の処方物。
【請求項18】
前記溶液は、水溶液である、請求項17に記載の処方物。
【請求項19】
前記処方物は、抗ウイルス剤、抗生物質、気管支拡張剤、およびステロイドからなる群から選択される化合物をさらに含有する、請求項1〜18のいずれか1項に記載の処方物。
【請求項20】
肺粘膜の表面が刺激されそして該表面が不安定化される肺障害または感染を処置するための処方物であって、該処方物は、有効量の非イオン性ポリマーまたは高分子を含み、該非イオン性ポリマーまたは高分子は、肺粘膜内層液の表面張力および表面弾性のような物理的特性を有意に変更して、ウイルスの出芽が生じる肺の領域内での表面不安定性を減少させる、処方物。
【請求項21】
前記非イオン性ポリマーまたは高分子は、アルブミン、多糖類、糖、合成ポリマー、生分解性ポリマー、ポリエチレンオキシドコポリマー、ゼラチン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、トレハロースおよびデキストランからなる群より選択される、請求項20に記載の処方物。
【請求項22】
前記非イオン性ポリマーまたは高分子は、デキストランである、請求項20に記載の処方物。
【請求項23】
前記非イオン性ポリマーまたは高分子は、ポリエチレンオキシドである、請求項20に記載の処方物。
【請求項24】
エアロゾル生成を減少させるための処方物であって、該処方物は、投与の部位で肺粘液内層液の表面粘性または表面弾性を増加させるのに有効量の非イオン性ポリマーまたは高分子を含む、処方物。
【請求項25】
前記非イオン性ポリマーまたは高分子は、500,000ダルトン未満の分子量のデキストランである、請求項24に記載の処方物。
【請求項26】
前記非イオン性ポリマーまたは高分子は、ポリエチレンオキシドまたは50,000ダルトンのデキストランである、請求項24に記載の処方物。
【請求項27】
エアロゾル生成を増加させるための処方物であって、該処方物は、投与の部位で肺粘液内層液の表面粘性または表面弾性を増加させるのに有効量の非イオン性ポリマーまたは高分子を含む、処方物。
【請求項28】
前記非イオン性ポリマーまたは高分子は、500,000ダルトンのデキストランである、請求項27に記載の処方物。
【請求項29】
前記処方物は、乾燥粉末を含む、請求項20〜28のいずれか1項に記載の処方物。
【請求項30】
前記処方物は、10μm未満の乾燥粉末を含む、請求項20〜28のいずれか1項に記載の処方物。
【請求項31】
前記処方物は、溶液である、請求項20〜28のいずれか1項に記載の処方物。
【請求項32】
前記溶液は、水溶液である、請求項31に記載の処方物。
【請求項33】
前記処方物は、抗ウイルス剤、抗生物質、気管支拡張剤、およびステロイドからなる群から選択される化合物をさらに含有する、請求項20〜32のいずれか1項に記載の処方物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−157405(P2011−157405A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−116395(P2011−116395)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【分割の表示】特願2004−500839(P2004−500839)の分割
【原出願日】平成15年5月1日(2003.5.1)
【出願人】(502072134)プレジデント アンド フェロウズ オブ ハーバード カレッジ (92)
【氏名又は名称原語表記】President and Fellows of Harvard College
【Fターム(参考)】