説明

肺気腫および結腸直腸癌に対して活性な薬剤の選択および確認用の動物モデル

本発明は、1つまたはそれ以上の機能性セストリンを産生しないかあるいは最適以下の量でのみ産生し、かつまた潜在型トランスフォーミング増殖因子β結合タンパク質4(ltbp4)を産生しないかあるいは最適以下の量でのみ産生する非ヒト動物モデル、それ由来の細胞および組織培養物に関する。また、本発明は、本発明の動物モデル、細胞または組織培養物を利用することによって示される肺気腫および/または結腸直腸癌を治療するための薬剤を選択する方法に関する。動物モデル、細胞または組織培養物は、可能性のある薬剤の効果、毒性および生物学的利用能の前臨床試験に適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1種またはそれ以上の機能性セストリンを産生しないかあるいは最適以下の量でのみ産生し、かつまた潜在性トランスフォーミング増殖因子β結合タンパク質4(ltbp4)を産生しないかあるいは最適以下の量でのみ産生する非ヒト動物モデル、それ由来の細胞および組織培養物に関する。また、本発明は、本発明の動物モデル、細胞または組織培養物を利用することによって示される肺気腫および/または結腸直腸癌を治療するための薬剤を選択する方法に関する。動物モデル、細胞または組織培養物は、潜在的因子(potential agent)の効果、毒性および生物学的利用能の前臨床試験に適している。
【0002】
発明の背景
肺気腫を伴う慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、患者およびその家族の生活の質に大きな影響を及ぼし、かつ世界中で何百万という人々を死に至らしめる広く蔓延している疾患である。COPDの主な危険因子は、主としてタバコの煙の中に生じるがそれに限らない有毒ガスおよび粒子の吸入であるが、喫煙者のごく一部だけがCOPDを発症することから、原発性(遺伝的)気道異常も関与する。COPDは、主として長期の酸素療法および入院などの費用のかかる治療、並びに作業能力の損失を含む間接費用のせいで、大きな医療費を伴う。また、COPDの治療は、薬理学的介入が疾患の自然な経過を変えることがこれまでに明らかにされていないことから、症状に限定される(Vestbo J. and Hogg, J.C. Thorax. 61:86-8, 2006;Fabbri L.M., et al. Am J Respir Crit Care Med. 173:1056-65, 2006)。
【0003】
結腸直腸癌は、西半球では最も一般的な新生物の一つであり、発見および療法の進歩にも関わらず主要な公衆衛生の課題である。その5年での全死亡率は、約40%である。早期の疾患は、外科手術によって治療することができるが、生存率が7〜24ヶ月である切除できない転移性癌を有する患者については対症療法が利用できるのみである(Shaheen N.J., et al. Am J Gastroenterol. 2006)。
【0004】
上記から、上記の両方の疾患を治療するための新規な医薬化合物が強く望まれていること、かつセストリン2遺伝子および潜在型トランスフォーミング増殖因子β結合タンパク質4遺伝子の機能損失型変異の結果として肺気腫および結腸癌の両方を示す本発明の動物モデルを用いて同定し得ることが明らかになる。
【0005】
トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)類は、タンパク質スーパーファミリーに属し、そのメンバーは種々様々な成体組織において細胞の増殖と分化を調節し、かつ広範な免疫応答および炎症反応に関与する(Shi Y. and Massague, J. Cell. 113:685-700, 2003;Sheppard D. Proc Am Thorac Soc. 3:413-7, 2006)。大半の細胞は、タンパク分解性切断による活性化の後にのみその受容体と相互作用するその潜伏関連プロペプチド(LAP)に複合した機能的に不活性な潜在型サイトカインとしてTGF−βを分泌する。TGF−βの2つの公知の構造的に異なる潜在型複合体が存在する。小さい潜在型複合体は、TGF−β−LAPプロペプチドのN末端部に結合された成熟TGF−β二量体からなる。大きい潜在型複合体は、TGF−β−LAPの他に、3つの潜在型TGF−β結合タンパク質(ltbp1、ltbp3およびltbp4)のうちの1つを含有する。分泌後に該ltbp類から置換される(displaced)にもかかわらず、TGF−βは、通常は、ltbpおよびLAPとの高分子量複合体として細胞外マトリックス(ECM)に沈着する(Annes J.P., et al. J Cell Sci. 116:217-24, 2003)。ltbpの4つの存在するイソ型(ltbp1〜4)全部が、マウスにおいて変異によって不活性化されている(Dabovic B., et al. J Cell Biol. 56:227-232, 2002;Sterner-Kock A., et al., Genes Dev. 16:2264-2273, 2002;Shipley J.M., et al. Mol Cell Biol. 20:4879-87, 2000)。ノックアウトマウスの表現型はイソ型の間で変化しているが、ltbp3変異体およびltbp4変異体の両方は、TGF−βシグナル伝達の欠陥により肺気腫を発症する。しかし、比較的軽度であり、かつ厳密にいえば発生性である(Dabovic B., et al. J Cell Biol. 56:227-232, 2002)肺気腫を発症する変異ltbp3マウスとは対照的に、変異ltbp4(ltbp4−/−)マウスの肺気腫は、年齢と共に悪化し、ヒトのCOPDとの関連で発症する遅発性肺気腫の特徴を漸次獲得する(Sterner-Kock A., et al. Genes Dev. 16:2264-2273, 2002;国際公開第WO03/015505号明細書)。COPDの発症におけるltbp4の潜在的関連性が、最近、具体的なCOPDの症状とltbp4の一塩基変異多型(SNP)との間の極めて重要な相関関係を報告する臨床研究によって強調されている(Hersh C. P., et al. Am J Respir Crit Care Med. 173:977-84, 2006)。肺気腫の他に、変異ltbp4マウスは、浸潤性結腸直腸癌を発症する(Sterner-Kock A., et al. Gene Dev. 16:2264-2273, 2002;国際公開第WO03/015505号明細書)。ltbp4発現と癌進行との間の関連もまた、最近、大腸癌を有する患者の臨床研究において報告されている(Bertucci F., et al. Oncogene. 23:1377-91, 2004)。
【0006】
セストリン2は、p53誘導タンパク質として最初に発見された高度に保存されたタンパク質のファミリーに属する(Velasco-Miguel S., et al. Oncogene. 18:127-37, 1999;Peeters H., et al. Hum Genet. 112:573-80, 2003;Budanov A.V., et al. Oncogene. 21:6017-31, 2002;国際公開第WO00/12525号明細書;米国特許出願公開第2002/0103353号明細書)。哺乳動物細胞は、セストリン1(セストリン1;PA26としても公知である)、セストリン2(セストリン2;Hi95としても公知である)およびセストリン3と呼ばれる3つのイソ型を発現する(図1)。該セストリン類の中の2つ(セストリン1およびセストリン2)は、最近、細胞内過酸化物(ROS)量を調節することが明らかにされている(Budanov A.V., et al. Science. 304:596-600, 2004;Sablina A.A., et al. Nat Med. 11:1306-13, 2005)。さらに詳しくは、セストリン類は、高度に保存され、かつ偏在的に発現されるペルオキシレドキシン(Prx)類、すなわち抗酸化タンパク質を再生する(還元する)と考えられる(Georgiou G. and Masip, L. Science. 300:592-4, 2003;Wood Z.A., et al. Trends Biochem Sci. 28:32-40, 2003に概説されている)。HをHOに還元する間に、Prx類は、そのいわゆる過酸化システイン(Cys−SH)において酸化され、過酸化システイン(Cys−SH)はスルフェン酸に転化される(Cys−SOH)(図2)。細菌において、Prx AhpCが一次Hスカベンジャーである場合には、酸化されたAhpCは、その後にその専用レダクターゼAhpFによって還元される。しかし、AhpCとは異なり、哺乳動物のPrxは、高い過酸化物濃度の存在下でスルフィン酸(CyS−SOH)を生成する過剰酸化に極めて感受性である(図2)。タンパク質スルフィン酸は、典型的な細胞還元剤、例えばグルタチオンおよびチオレドキシンによって還元することができず、従ってその形成は不可逆プロセスであると考えられている。Prxは、スルフィン酸に転化されると、酸化ストレスにさらされた細胞においてもはや酵素的に活性なおよび不活性な酵素蓄積体ではない(Wood Z.A., et al. Trends Biochem Sci. 28:32-40, 2003)。しかし、最近になって、Prx類の穏やかな回復が、真核細胞における初期の酸化的不活性化の後に観察されており(Mitsumoto A., et al. Free Radic Biol Med. 30:625-35, 2001;Woo H.A., et al. Science. 300:653-6, 2003)、またセストリンは、AhpC Prxを再生する細菌セストリンホモローグ −AhpD−とのその相同性によりおよびその細胞内ROS量を還元する能力により触媒性酵素として提案されている(Budanov A. V., et al. Science. 304:596-600, 2004)。
【0007】
真核細胞において、Prx類は、ストレスから保護する抗酸化剤およびROS介在シグナル伝達の調節剤の両方であると考えられる(Wood Z. A., et al. Science. 300:650-3, 2003)。受容体/リガンド相互作用は、シグナル伝達経路、例えばTGF−β経路において二次メッセンジャーとして働くROSのバーストを生じることが少し前から知られている(Bae Y.S., et al. J Biol Chem. 272:217-21, 1997;Lo Y.Y. and Cruz, T.F. J Biol Chem. 270:11727-30, 1995;Mills E.M., et al. J Biol Chem. 273:22165-8, 1998;Sundaresan M., et al. Science. 270:296-9, 1995;Thannickal V.J., et al. J Biol Chem. 273:23611-5, 1998;Thannickal V.J, et al. Faseb J. 14:1741-8, 2000)。欠陥のあるTGF−βシグナル伝達は、動物モデル(例えば、国際公開第WO03/015505A3号明細書)および人間の両方において肺気腫および結腸直腸癌の病態に関与していることが明らかにされている(Morris D.G., et al. Nature. 422:169-73, 2003;Neptune E.R., et al. Nat Genet. 33:407-11, 2003;Sterner-Kock A., et al. Genes Dev. 16:2264-2273, 2002;Massague J., et al. Cell. 103:295-309. 2000;Zhu Y., et al. Cell. 94:703-14, 1998)。
【0008】
ROSとTGF−βの間の会合は、複雑であり、シグナル伝達カスケードの種々のレベルで生じる。第一に、ROSは、潜在型TGF−β1を生体外および生体内の両方で活性化させることが明らかにされている(Annes J.P., et al. J Cell Sci. 116:217-24, 2003;Barcellos-Hoff M.H. and Dix, T.A. Mol Endocrinol. 10:1077-83, 1996)。これに従って、Fatmaらは、最近、Prx6ノックアウトマウスから誘導された水晶体上皮細胞が酸化ストレスに極めて感受性であり、TGF−β刺激と区別ができない表現型を発現することを報告している。彼らは、この表現型を、抗酸化剤によって容易に逆転可能(reversible)であった潜在型TGF−βのROS介在性活性化に帰することができた(Fatma N., et al. Cell Death Differ. 12:734-50, 2005)。第二に、TGF−βは、種々の標的遺伝子、例えばPAI−1、CTGFおよび細胞外マトリックス遺伝子の誘導にROSを必要とする(Jiang Z., et al. Biochem Biophys Res Commun. 309:961-6, 2003;Park S.K., et al. Biochem Biophys Res Commun. 284:966-71, 2001)。最近の研究は、TGF−β誘導smad2,3リン酸化もまた、部分的にROSに依存し(Cucoranu I., et al. Circ Res. 97:900-7, 2005)、おそらくは専用ホスファターゼの不活性化によると思われることを明らかにしている。ホスファターゼがROSによる不活性化に感受性であることが少し前から知られており(Seo J. H., et al. Mol Biol Cell. 16:348-57, 2005;Chiarugi P. and Cirri, P. Trends Biochem Sci. 28:509-14, 2003)、またTGF−βシグナル伝達を終結させることができるsmad2,3ホスファターゼ(PPM1A)が、最近発見されている(Lin X., et al. Cell. 125:915-28, 2006)。第三に、TGF−βそれ自体は、おそらくはNox4の転写アップレギュレーションによると思われるNADPHオキシダーゼを活性化することによってスーパーオキシドの産生を誘導する(Sturrock A., et al. Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol. 290:L661-L673, 2006)。
【0009】
発明の詳細
今般、国際公開第WO03/015505号明細書に記載されている動物モデル(ltbp4−/−マウスモデル)由来のセストリン、特にセストリン2の遺伝子除去が病状の著しい回復をもたらし(実施例参照)、このファミリーのタンパク質がCOPDおよび結腸直腸癌の治療のための分子標的を提供できることを示すことがわかった。国際公開第WO03/015505号明細書の動物モデルにおけるセストリン2の除去は、おそらくは細胞内二次メッセンジャーROS量を増加させることによって、TGF−βシグナル伝達を再活性化したと考えられる。これは、次に、実施例によって例証されるように両方の病態を有意に改善し、肺気腫および大腸癌がセストリン機能を拮抗することによって治療できることを示唆する。従って、本発明は、
(1)1つまたはそれ以上の機能性セストリンを産生しないかあるいは1つまたはそれ以上のセストリンを最適以下の量で産生し、かつ潜在型トランスフォーミング増殖因子β結合タンパク質4(以下「ltbp4」という)を産生しないかあるいはltbp4を最適以下の量で産生する非ヒト動物モデル;
(2)1つまたはそれ以上の機能性セストリンを発現しないかあるいは1つまたはそれ以上のセストリンを最適以下の量で発現する非ヒト動物モデル;
(3)上記の(1)または(2)に定義したような動物モデルから単離される細胞または組織培養物;
(4)出発非ヒト動物の生殖細胞においてセストリンおよび/またはltbp4遺伝子を破壊することを含む、上記(1)の非ヒト動物モデルの調製方法;
(5)上記(1)の非ヒト動物モデルにおいて生じる症状を治療するための薬剤を選択する方法であって、
(i)試験すべき1つまたはそれ以上の薬剤を該動物モデルに施用し、
(ii)該動物モデルに生じる1つまたはそれ以上の症状が該薬剤の施用の結果として変化しているかどうかを調べる
ことを含む、前記方法;
(6)ROS産生およびTGF−βシグナル伝達を妨害する薬剤を選択する方法であって、
(i)試験すべき1つまたはそれ以上の薬剤を上記(3)の細胞または組織培養物に施用し、
(ii)細胞ROS量およびTGF−βシグナル伝達が該薬剤の施用の結果として変化しているかどうかを調べる
ことを含む、前記方法;
(7)癌および/または肺気腫が差次的ltbp4およびセストリン遺伝子またはタンパク質の発現または発現量によって引き起こされるかあるいはltbp4およびセストリン遺伝子の欠陥によって引き起こされるかどうかを解析する方法であって、
(i)癌または肺気腫を有する個体のltbp4およびセストリン遺伝子またはタンパク質の発現または発現量あるいはltbp4およびセストリン遺伝子の対立遺伝子状態を特定し、
(ii)対照個体のltbp4およびセストリン遺伝子またはタンパク質の発現または発現量あるいはltbp4およびセストリン遺伝子の対立遺伝子状態、すなわち癌および/または肺気腫および/または心筋症が差次的ltbp4およびセストリン遺伝子またはタンパク質の発現または発現量あるいはltbp4およびセストリン遺伝子の欠陥に関連付けられることを示すltbp4およびセストリン遺伝子またはタンパク質の発現または発現量あるいはltbp4およびセストリン遺伝子の対立遺伝子状態の相違を特定する、
ことを含む、前記方法;
(8)癌および/または肺気腫および/または心筋症の診断方法であって、
(i)個体のltbp4およびセストリン遺伝子またはタンパク質の発現または発現量あるいはltbp4およびセストリン遺伝子の対立遺伝子状態を特定し、
(ii)対照個体のltbp4およびセストリン遺伝子またはタンパク質の発現または発現量あるいはltbp4およびセストリン遺伝子の対立遺伝子状態、すなわち該個体の癌および/または肺気腫および/または心筋症の存在を示すLTBP−4遺伝子またはタンパク質の発現または発現量あるいはltbp4およびセストリン遺伝子の対立遺伝子状態の相違を特定する、
ことを含む、前記方法;
(9)個体および対照のltbp4およびセストリン遺伝子またはタンパク質の発現または発現量あるいはltbp4およびセストリン遺伝子の対立遺伝子状態を検出する手段を含有する、肺気腫および/または癌の診断用キット;並びに
(10)上記(6)の方法を実施するためのキットであって、上記(3)の細胞または組織培養物を含有する、前記キット
に関する。
【0010】
上記(9)および(10)のキットは、さらに、該方法を実施するための説明書、特にltbp4およびセストリン遺伝子またはタンパク質の発現または発現量あるいはltbp4およびセストリン遺伝子の対立遺伝子状態を検出するための説明書を含有していてもよい。
【0011】
要するに、本発明は、セストリンタンパク質の幾つかの重要な機能を明らかにするヒトの疾患の動物モデルを提供する。これらの機能に照らして、本発明の動物モデルは、セストリンタンパク質並びにROS代謝およびTGF−βシグナル伝達におけるその役割を標的とする肺気腫および癌の新規な治療法を開発するのに使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】マウスセストリン類のアミノ酸配列およびイソ型同士の間の相同性を表す。各イソ型の配列をさらに配列番号1〜3に示す。
【図2】スーパーオキシドによるペルオキシレドキシン(Prx)類の過酸化システインの酸化を表す。還元されたPrx類は、ジスルフィド結合(1)によって2量体を形成する。酸化されたPrx類は、スルフェン酸(2)を形成し、これは逆反応(1)においてチオレドキシンまたはグルタチオンによって還元される。過酸化されたPrx類はスルフィン酸を形成し、これはチオレドキシンまたはグルタチオンでは還元できない(3)。セストリン類は、過酸化されたPrx類を生成すると考えられる。さらなる説明については、本文参照。
【図3】セストリン2遺伝子(Ensembl Id:ENSMUSG00000028893)の最後のイントロンへのpT1βgeo遺伝子トラップの挿入および対立遺伝子特異的プライマーの位置(矢印)を表す。得られる融合タンパク質は、セストリン2の27aaを欠く。
【図4】X−GaIで染色されるホールマウントE7.5胚を表す。
【図5】W077E04変異マウスにおけるセストリン2遺伝子発現の分析を表す。Aは、野生型(WT)マウス、ヘテロ接合(+/−)マウスおよびホモ接合(−/−)マウスの肺から抽出した全RNAのqRT−PCRを表す。Bは、ポリクロナール抗マウスセストリン2(PTG Inc.,Chicago,IL)および抗チューブリン抗体を使用する単離されたマウスの結腸(レーン1、2)および肺(レーン3、4)の線維芽細胞におけるセストリン2タンパク質発現のウェスタンブロット分析を表す。ポリクロナール抗セストリン2抗体と反応する小さいバンドは、おそらくは非特異的である思われる。
【図6】5.5月齢の老いた野生型の単一ltbp4変異マウスおよび二重ltbp4/sesn2変異マウスの気管支シリコーンキャストを表す。
【図7】年齢に適合した単一ltbp4変異マウスおよび二重ltbp4/sesn2変異マウスの肺気腫を表す。倍率40倍でのHE染色。
【図8】単一ltbp4変異および二重ltbp4/sesn2変異肺のエラスチンおよびコラーゲン含有量を表す。Aは、倍率200でのレゾルシン−フクシン法で染色されたエラスチン(黒色)を表す。Bは、倍率200でのMassonのトリクローム染色法で染色されたコラーゲン(青色)を表す。
【図9】sesn2ヌル対立遺伝子についてヘテロ接合のltbp4−/−肺の気管支シリコーンキャストを表す。
【図10】sesn2ヌル対立遺伝子についてヘテロ接合(sesn+/−)およびホモ接合(sesn−/−)のltbp4変異肺のコラーゲン沈着を表す。倍率200でのMassonのトリクローム染色法で染色されたコラーゲン(青色)を表す。
【図11】年齢に適合した単一(ltbp4−/−)変異マウスおよび二重(ltbp4−/−sesn2−/−)変異マウスの結腸直腸腺腫を表す。
【図12】年齢に適合した単一(ltbp4−/−)変異マウスおよび二重(ltbp4−/−sesn2−/−)変異マウスの結腸のP−smad2量を表す。陽性細胞は赤褐色である。
【図13】sesn2変異体の肺のP−smad2量を表す。肺の切片は、ポリクロナール抗P−smad2抗体で染色された。陽性細胞は赤褐色である。
【図14】変異sesn2肺の増加した結合組織沈着を表す。200倍(上部)および400倍(下部)のHE染色。
【図15】MLFにおけるROS量を表す。Aは、DCF処理後にFACS(530nm)で測定したBasalおよびH誘導(200μM、3時間)ROS量を表す。FLl−H、蛍光強度。Bは、Aに示した2つの独立した実験の平均細胞蛍光強度±SDとして表したMLFに蓄積するBasalおよびH誘導ROS量を表す。
【0013】
発明の詳細な説明
本発明を定義するために利用される個々の用語および略語を、以下においてさらに定義する。
【0014】
「機能性セストリンを産生しない」および「機能性ltbp4を産生しない」という用語は、それぞれ、有効なセストリンおよびltbp4の発現がないことを表す。「有効なセストリンおよびltbp4の発現がない」とは、天然タンパク質の機能を発揮しない非機能性(すなわち切断された)セストリンおよびltbp4タンパク質の発現も包含する。
【0015】
「セストリンを最適以下の量で産生する」および「ltbp4を最適以下の量で産生する」という用語は、その機能を発揮するのに十分でない翻訳量のセストリンおよびltbp4タンパク質を包含する。好ましくは、その量は、少なくとも50%まで、さらに好ましくは70%まで、最も好ましくは100%まで減らされる。
【0016】
「ホモ接合破壊」という用語は、遺伝子の二つの対立遺伝子における同一の変異に関する。
【0017】
「ヘテロ接合破壊」という用語は、遺伝子の1個の対立遺伝子だけにおける変異に関する。「変異」という用語は、DNA分子の1個またはそれ以上のヌクレオチド対の変化を指す。
【0018】
「挿入」という用語は、DNA中の1つまたはそれ以上の追加的な塩基対の存在によって同定される変異に関する。「欠失」という用語は、DNAの配列(1つまたはそれ以上の塩基対)の除去によって生じる変異に関し、いずれかの側の領域は一緒に結合される。「置換変異」とは、ヌクレオチドの交換に関する。置換変異は、アミノ酸変化をもたらすかまたは早期翻訳終止コドンを誘導することができる。また、置換変異は、スプライシングまたは遺伝子調節に必要な部位で生じる場合には、遺伝子のスプライシングまたは発現に影響を及ぼすことができる。
【0019】
「遺伝子ターゲッティング」という用語は、ゲノムDNAの断片が細胞中に導入される場合に生じる相同的組換えおよび断片がゲノム中の相同配列と再結合する相同的組換えの一つの型に関する。「遺伝子トラップの組み込み」という用語は、レポーター遺伝子を含有し、かつゲノムの活性転写単位への挿入の際に活性化されるベクターの挿入に関する。「変異誘発」とは、生物のゲノム中のヌクレオチドを変化させる化学的または物理的処理を表す。化学的変異誘発の例は、N−エチル−N−ニトロソウレア(ENU)変異誘発である。
【0020】
「エキソン」という用語は、mRNA産物を得るために解読される遺伝子のセグメントを包含する。個々のエキソンは、タンパク質コードDNAおよび/または非コードDNAを含有していてもよい。「イントロン」という用語は、遺伝子中の隣接エキソン同士を隔てる非コードDNAを表す。遺伝子の発現中に、イントロンはエキソンのようにRNAに転写されるが、転写されたイントロン配列はその後にRNAスプライシングによって除去され、mRNA中に存在しない。「調節領域」とは、遺伝子転写の調節に必要である領域を含有するヌクレオチド配列に関する。これらの領域は、例えばプロモーターおよびエンハンサーを含有し、これらの領域は、5’非翻訳領域、エキソン、イントロンおよび3’UTRに配置されることができる。「スプライス部位」という用語は、機能性mRNAへの一次転写産物プロセシング中に挿入イントロンを除去することによる2つのエキソンの結合に必要とされるイントロンの先端および末端のヌクレオチドを包含する。
【0021】
「肺気腫」という用語は、終末細気管支よりも末梢の気腔の、正常なサイズを越えるサイズの増大および炎症性浸潤物によって特徴付けられる慢性閉塞性肺疾患(COPD)の症状を表す。
【0022】
「心筋症」という用語は、COPDを悪化させる肺高血圧症の結果である心筋の原発性非炎症性疾患をいう。「癌」という用語は、結腸陰窩の内側を覆う上皮細胞の制御されない増殖を指す。
【0023】
「ROS代謝」とは、細胞内活性酸素種、例えば過酸化水素アニオンおよび酸素アニオンの産生および中和(還元)を指す。「線維化誘導性変化」という用語は、線維芽細胞の増殖に付随するコラーゲンの増大した組織沈着を指す。
【0024】
「症状を治療するための薬剤を選択する」という用語は、状態の管理のための組成物を選択することを包含する。
【0025】
「1つまたはそれ以上の薬剤の施用」という用語は、単一の化合物または化合物の組み合わせを、経口的に、吸入によって、非経口的に、例えば静脈内に、皮下に、腹腔内にまたは筋肉内に、あるいは局所的に、例えば眼に、膣に、直腸にまたは鼻腔内に投与することに関する。
【0026】
本発明を、添付の図面および実施例を参照することによって以下でさらに詳しく説明する。
【0027】
本発明の態様(1)の好ましい実施形態において、動物のゲノムは、sesn2およびltbp4遺伝子のホモ接合破壊を含有する。好ましくは、このホモ接合破壊は、変異によって生じており、この変異は、挿入、欠失または置換変異であることができる。また、好ましくは、該変異は、遺伝子ターゲッティング、遺伝子トラッピングまたは化学的変異誘発によって生じ、かつセストリン2遺伝子のエキソン、イントロン、調節領域またはスプライス部位に、好ましくはセストリン2遺伝子の最終イントロン(すなわち、第9イントロン)に生じており、およびltbp4遺伝子のエキソン、イントロン、調節領域またはスプライス部位に、好ましくはltbp4の第5イントロンに生じている。変異の部位が、検出可能なレポーター遺伝子、例えば蛍光タンパク質(例えば、GFPおよびその誘導体)、酵素(例えば、LacZ)または選択マーカー(例えば、βgeo)などを発現することも好ましい。特に好ましいのは、
(i)セストリン2遺伝子が、第9イントロンにおいて遺伝子トラップベクター、好ましくはpT1βgeo(配列番号10)を挿入することによって破壊されることである;および/または
(ii)ltbp4遺伝子が第5イントロンにおいて遺伝子トラップベクター、好ましくはU3Cre(配列番号16)を挿入することによって破壊されることである。
【0028】
さらに好ましい実施形態において、該動物は、セストリン2遺伝子のヘテロ接合破壊と、ltbp4遺伝子のホモ接合破壊またはセストリン2遺伝子のホモ接合破壊と、ltbp4遺伝子のヘテロ接合破壊とを含有する。
【0029】
本発明の別の態様において、動物モデルは、肺気腫および/または心筋症および/または結腸直腸癌を示す。また、非ヒト動物は、好ましくは非ヒト哺乳動物であり、さらに好ましくは齧歯類、例えばマウスおよびラットである。
【0030】
別の好ましい実施形態において、動物モデルは、ROS代謝の欠陥を示すおよび/または1つまたはそれ以上の主要臓器、好ましくは肺または結腸において線維化誘導性変化を示す。
【0031】
別の好ましい実施形態において、動物モデルは、国際公開第WO03/015505A3号明細書に開示されている動物モデルによって示される症状よりも軽い症状を起こす。
【0032】
本発明の実施形態(3)は、非ヒト動物モデル(1)または(2)から単離される細胞または組織培養物に関する。好ましくは、細胞は肺または結腸由来である。
【0033】
本実施形態の好ましい態様において、細胞または組織培養物は、非ヒト動物モデルであってそのゲノムが、1つまたはそれ以上のセストリン遺伝子のホモ接合破壊を、該遺伝子が機能性セストリン、好ましくはセストリン2を産生しないように含有し、かつltbp4遺伝子のホモ接合破壊を、該遺伝子が機能性ltbp4を産生しないように含有する非ヒト動物モデルから単離される。
【0034】
本実施形態の別の好ましい態様において、細胞または組織培養物は、非ヒト動物モデルであってそのゲノムが、1つまたはそれ以上のセストリン遺伝子のヘテロ接合破壊を、該遺伝子が機能性セストリン、好ましくはセストリン2をわずか50%以下に産生するように含有し、かつltbp4遺伝子のホモ接合破壊を、該遺伝子が機能性ltbp4を産生しないように含有する非ヒト動物モデルから単離される。
【0035】
本実施形態の別の好ましい態様において、細胞または組織培養物は、非ヒト動物モデルであってそのゲノムが、1つまたはそれ以上のセストリン遺伝子、好ましくはセストリン2のホモ接合破壊を含有し、かつltbp4遺伝子のヘテロ接合破壊を該遺伝子が機能性ltbp4をわずか50%以下に産生するように含有する非ヒト動物モデルから単離される。細胞または組織培養物が肺または結腸由来であることが特に好ましい。
【0036】
本発明の実施形態(4)は、出発非ヒト動物の生殖細胞においてセストリンおよび/またはltbp4遺伝子を破壊することを含む、実施形態(1)および(2)の非ヒト動物モデルの調製方法に関する。本実施形態の好ましい態様において、非ヒト動物および出発非ヒト動物は非ヒト哺乳動物であり、かつ生殖細胞はES細胞である。この方法は、さらに、得られるES細胞を胚盤胞に導入し、得られる胚盤胞をそれぞれの非ヒト養母に注入し、得られるキメラを異種交配することを含み得る。
【0037】
本発明の実施形態(5)は、本発明の動物モデルに生じる症状を治療するための1つまたはそれ以上の薬剤を選択する方法であって、(i)試験すべき1つまたはそれ以上の薬剤を本発明の動物モデルに施用し;(ii)本発明の動物モデルに生じる1つまたはそれ以上の症状が該1つまたはそれ以上の薬剤の施用の結果として変化しているかどうかを調べることを含む、前記方法に関する。好ましい実施形態において、症状は、肺気腫、心筋症および癌からなる群より選択される。本発明の別の態様において、本発明の動物モデルに生じる症状を治療するのに適する薬剤は、医薬である。また、本発明は、肺気腫の治療用の医薬組成物を製造するための本発明の動物モデルに生じる症状を治療するのに適している薬剤の使用に関する。また、本発明は、本発明の動物モデルに生じる症状を治療するのに適している薬剤を使用する癌および肺気腫の治療方法に関する。
【0038】
本発明の実施形態(6)は、ROS産生およびTGF−βシグナル伝達を妨害する薬剤を選択する方法であって、
(i)試験すべき1つまたはそれ以上の薬剤を上記(3)の細胞または組織培養物に施用し、
(ii)細胞ROS量およびTGF−βシグナル伝達が該薬剤の施用の結果として変化しているかどうかを調べる
ことを含む、前記方法に関する。該方法において、細胞または組織培養物は肺または結腸由来のものであることが特に好ましい。
【0039】
本発明の実施形態(7)は、肺気腫および/または癌が差次的ltbp4およびセストリン遺伝子またはタンパク質の発現または発現量によって引き起こされるかどうか、あるいはltbp4およびセストリン遺伝子の欠陥によって引き起こされるかどうかを解析する方法であって、(i)ltbp4およびセストリン遺伝子またはタンパク質の発現または発現量あるいは肺気腫および/または癌を有する個体のltbp4およびセストリン遺伝子の対立遺伝子状態を特定し、(ii)対照個体のltbp4およびセストリン遺伝子またはタンパク質の発現または発現量あるいはltbp4およびセストリン遺伝子の対立遺伝子状態を特定することを含む、前記方法である。ltbp4およびセストリン遺伝子またはタンパク質の発現または発現量の相違またはltbp4およびセストリン遺伝子の対立遺伝子状態の相違は、ltbp4およびセストリン遺伝子の欠陥が肺気腫および/または癌の発病に関与することを示す。
【0040】
本発明の実施形態(8)は、肺気腫または癌の診断方法であって、(i)個体のltbp4およびセストリン遺伝子またはタンパク質の発現または発現量あるいはltbp4およびセストリン遺伝子の対立遺伝子状態を特定し、(ii)対照個体のltbp4遺伝子またはタンパク質の発現または発現量あるいはltbp4およびセストリン遺伝子の対立遺伝子状態を特定することを含む、前記方法に関する。ltbp4およびセストリン遺伝子またはタンパク質の発現または発現量の相違あるいはltbp4およびセストリン遺伝子の対立遺伝子状態の相違は、該個体において肺気腫および/または癌が存在することを示す。測定された発現量の中で、ltbp4発現量は、肺気腫または癌の重症度の指標であり、これに対してセストリン発現量は、低い発現量が疾患の進行に役立つような疾患の進行のマーカーである。
【0041】
実施形態(7)および(8)に関連して使用される「個体」とは、異常が疑われるltbp4およびセストリン遺伝子対立遺伝子状態を有する個体、すなわち患者に関する。「対照個体」とは、正常なltbp4およびセストリン対立遺伝子状態を有する健常な個人を指す。
【0042】
肺気腫および/または癌がltbp4およびセストリンに関連しているかどうかを解析する方法、および肺気腫および癌を診断する方法の好ましい実施形態において、ltbp4およびセストリン遺伝子の対立遺伝子状態並びにltbp4およびセストリンの発現または発現量は、ゲノムPCR、RT−PCR、ノーザン分析、マイクロアレイ(DNAチップ)分析またはltbp4およびセストリンタンパク質抗体に対する抗体によって検出される。
【0043】
実施形態(5)〜(8)の方法は、in vivoおよびin vitroで実施するのに適している。
【0044】
本発明の動物モデルは、セストリン/TGF−β経路を制御する分子機構を精査するのに使用することができ、かつ本発明の動物モデルに生じる肺気腫および癌またはその他の疾患に関連する表現型を変更するか、悪化させるか、減らすかまたは阻害することができる変更遺伝子の同定およびクローニングに使用することができる。また、動物モデルは、本発明の動物モデルに生じる癌および/または肺気腫またはその他の疾患用の早期診断マーカーの同定に使用することができる。また、本発明の動物モデルは、本発明の動物モデルに生じる癌および/または肺気腫またはその他の疾患の予防または治療に有用な薬剤の活性の監視に使用でき、かつ本発明の動物モデルにおいて生じる癌および/または肺気腫またはその他の疾患を進行させるかまたは悪化させると疑われる薬剤の試験モデル系として使用できる。
【0045】
本発明を、以下の実施例においてさらに説明するが、実施例は本発明を限定すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0046】
方法
細胞培養:[129/SvPas]株由来ES細胞を、記載のとおりに(De-ZoIt S., et al., Nucleic Acids Res. 34:e25, 2006)して、15%(v/v)の予め選択し、加熱不活性化させたウシ胎児血清(FCS)(Linaris、Bettingen、Germany)、100mM非必須アミノ酸類(Gibco)、0.1mMメルカプトエタノール(Sigma)、1000 U/mlの白血病抑制因子(LIF)(Esgro(登録商標);Gibco/BRL)を添加したDMEM中で、放射線照射(32Gy)MEF支持細胞層上で増殖させた。成体野生型およびsens-/-マウス由来の肺および結腸線維芽細胞培養物を、既に記載されているような標準プロトコル(Koli K., et al. J Cell Biol., 167:123-33, 2004)に従って確立し、10%ウシ胎児血清(Life Technologies)、100 IU/mlのペニシリンおよび50μg/mlのストレプトマイシンを添加したダルベッコの修飾イーグル培地(DMEM)で増殖させた。最初の2週間の間に、培養物において、自然発生的な不死化が生成細胞株で生じた。
【0047】
5’RACEおよび配列決定:遺伝子トラップ発現ES細胞株由来のcDNAを、ポリアデニル化RNAから、96試料/日の処理能力を有するRoboAmpロボット装置(MWG Biotech,Ebersberg,Germany)を使用して調製した。2×10個の細胞の試料を、100mMのトリス/HCl(pH8.0)、500mM LiCl、10mM EDTA、1%LiDSおよび5mM DTTを含有する溶解緩衝液1mlに溶解した。ポリアデニル化RNAを、溶解液から、製造業者の使用説明書(Roche Diagnostics Corp.,Indianapolis,IN,USA)に従ってビオチン標識オリゴ−d(T)プライマーで捕捉し、ストレプトアビジン被覆96ウエルプレート(AB Gene,Surrey,UK)上に置いた。洗浄後に、固相cDNA合成を、ランダムヘキサマーおよびSuper-script II RT(Invitrogen,Karlsruhe,Germany)を使用してその場で行った。過剰のプライマーを除去するために、cDNAsをMultiscreen PCRプレート(Millipore Corp.Bedford,MA,USA)で濾過した。精製cDNAの5’末端を、dCTP類を用いて、製造業者の使用説明書に従ってターミナルトランスフェラーゼ−TdT−(Invitrogen,Karlsruhe,Germany)を使用してつなぎ合わせた。遺伝子トラップ転写物に付加された細胞配列のPCR増幅のために、次のベクター特異的プライマー:5’−CTA CTA CTA CTA GGC CAC GCG TCG ACT AGT ACG GGI IGG GII GGG IIG−3’(配列番号4)および5’−GCC AGG GTT TTC CCA GTC ACG A−3’(配列番号5);並びにネステッドPCRについては、5’−CTA CTA CTA CTA GGC CAC GCG TCG ACT AGT AC−3’(配列番号6)および5’−TGT AAA ACG ACG GCC AGT GTG AAG GCT GTG CGA GGC CG−3’(配列番号7)を使用した。増幅生成物は、AB377またはABI3700配列決定装置(Applied Biosystems ABI,Foster City,USA)を使用して直接に配列決定した。
【0048】
ES細胞注入、増殖および遺伝子型決定:W077E06(TBV−2;129SvPas)ES細胞由来キメラを、C57BI/6胚盤胞を注入することによって生じさせた。得られた雄性キメラをC57BI/6雌性に交配させ、破壊された導入遺伝子を含有するF1アグーチ子孫を異種交配させてホモ接合F2マウスを得た。遺伝子型決定を、マウス尾部DNAについて、インバースPCRおよび配列決定によってES細胞において先に同定された遺伝子トラップ挿入に隣接する配列に対してプライマーを使用するゲノムPCRで行った。
【0049】
組織学的検査、組織化学的検査および免疫組織化学的検査:マウス組織のパラフィン切片を調製し、標準組織学的手法を使用して染色した。エラスチンおよびコラーゲン線維を視覚化するために、顕微鏡スライドを、以前に記載のようにして(Sterner-Kock A., et al., Gene Dev., 16:2264-2273, 2002)ワイゲルトのレゾルシン−フクシン染色法またはMassonのトリクローム染色法で染色した。ウサギポリクロナール抗P−Smad2抗体を使用する免疫染色を、Sterner−Kockら(Sterner-Kock A., et al., Genes Dev. 16:2264-2273, 2002)に記載のとおりにして行った。
【0050】
プラスチネーション:野生型マウスおよび変異マウスから調製した肺の気管に、室温で、2ml注射器を使用して1〜2mlのE RTVシリコーン(Dow Corning,Midland,MI,USA)を注入した。注入の直前に、硬化剤をシリコーンポリマーに1:10の比率で加えた。シリコーンが両方の肺の表面下で目に見えた時に注入を止めた。注入後に、シリコーンを24〜48時間硬化させ、その後に標本を10%水酸化カリウム溶液に5〜7日間入れて置き、次いで沸騰水中に8〜12時間放置して組織をポリマーから切り離した。沸騰水中で浸軟後に、標本を5%過酸化水素中に約2時間入れておき残存組織の除去を終えた。次いで、キャストを流水で一夜洗浄した。
【0051】
RNA単離、RT−PCRおよびタンパク質分析:全細胞RNAを、RNeasy Miniキット(Qiagen)を使用して製造業者の使用説明書に従って単離した。RNA濃度および純度を、分光光度分析(UltROSpec 3000、Amersham)およびアガロースゲル電気泳動、次いで臭化エチジウム染色によって調べた。RT−PCRを、標準プロトコルに従って全用量50μl中に75ngの逆転写された全RNAを使用することによって行った。ES細胞におけるセストリン2遺伝子の発現のリアルタイムRT−PCR分析を、SYBRグリーンケミストリー(ABgene,Epsom,UK)およびiCycler(Biorad)装置を使用して行った。cDNAを、全RNAからランダムプライミングおよびSuper-script II(Invitrogen)逆転写酵素を使用して合成した。PCR反応を、96ウエルプレートで、25μl容量で三重反復として行い、それぞれの反応は、15ngの全RNAから誘導されたcDNA、1×ABsolute SYBRフルオレセインミックス(ABGene)およびそれぞれ5ピコモルの次のプライマー:5’−CCTGGAACGGAACCTCAAAATC−3’(配列番号8)および5’−GGGCTTCAAGGAGCAGCAAG−3’(配列番号9)を含有する。増幅反応を、94℃で15秒間、61℃で30秒間、および72℃で30秒間で、35サイクルについて進行させた。ウェスタンブロッティングについて、肺および結腸線維芽細胞の溶解液を、SDS−PAGEで再溶解し、ニトロセルロース膜に移し、ウサギ抗セストリン2ポリクロナール抗体(PTG Inc.,Chicago,IL)と反応させた。
【0052】
細胞内過酸化物量の測定:1日前に6cmペトリ皿に移植した野生型マウスおよびsesn2−/−マウス由来の3×10個の肺または結腸線維芽細胞を、トリプシン処理し、血清無含有DMEM中で洗浄し、5mlの血清無含有DMEMに再懸濁した。幾つかの培養物に、Hを最終濃度200μMまで加えた。3時間インキュベートした後に、細胞にジクロロジヒドロフルオレセイン(DCF)を30μMの最終濃度で加え、さらに1時間インキュベートした。その後に、細胞をPBS中で洗浄し、トリプシン処理し、300μlのPBSに再懸濁し、これをFACS分析に供した。
【0053】
実施例1:セストリン2遺伝子中へのpT1βgeo遺伝子トラップの挿入は、トランジェニックマウスにおいてヌル変異を誘導する。
W077E06遺伝子トラップES細胞株を、配列番号10に示すpT1βgeo遺伝子トラップベクターをTBV−2(129SvPas)ES細胞に以前に記載のようにして(Floss, T. & Wurst, W. Methods Mol Biol 185, 347-79, 2002)電子穿孔することによって得た。遺伝子トラップ発現ES細胞クローンを、200μg/mlのG418(Gibco/BRL)中で選択し、手で採取し、拡大し、液体窒素中で凍結保存した。セストリン2(sesn2)遺伝子の第9イントロン中への遺伝子トラップの挿入を、回収したクローンの中から、方法の部に記載の5’RACEによっておよびBlastNアルゴリズムを使用する配列データベース分析(http://www.ncbi.nlm.nih.govのGenbank)によって同定した。W077E06細胞株への遺伝子トラップの挿入は、遺伝子トラップおよび隣接上流イントロン配列に相補的な次のプライマー:5’−CAGCCTTGAGCCTCTGGAGC−3’(配列番号11)および5’−CTACCCTGAGAAGACGACCCG−3’(配列番号12)を使用してゲノムPCR(方法を参照)で精査した。次いで、精査したW077E06ES細胞を、胚盤胞注入によってマウスに転換させた。遺伝子トラップ対立遺伝子を有するF1マウスを異種交配し、F2子孫をltbp4−/−マウス(国際公開第WO03/015505A3号明細書)に交配させて二重ノックアウトマウスを得た。
【0054】
図3は、W077E06(sesn2)マウスについての遺伝子型決定法を表す。尾部DNAを、第9エキソンにおいてフォワードプライマー(5’−CTACCCTGAGAAGACGACCCG−3’;配列番号13)を使用しておよび2つのリバースプライマー;野生型対立遺伝子を検出するための第9イントロンに一方のプライマー(5’−GGACAAATCAAGGTTACACAGAAAAAAGTC−3’;配列番号14)および遺伝子トラップ対立遺伝子を検出するための遺伝子トラップのスプライスアクセプター部位に他方のプライマー(5’−CAGCCTTGAGCCTCTGGAGC−3’;配列番号15)使用して並行反応でPCR増幅した。増幅反応を、94℃で15秒間、61℃で30秒間、および72℃で30秒間を、30サイクルで進行させた。
【0055】
F1ヘテロ接合子孫を異種交配させると、破壊された導入遺伝子のメンデル遺伝パターンと一致した頻度でホモ接合子孫を生じ、sesn2が発生に必要とされないことを示す。変異マウスは出生後正常に発育し、その野生型およびヘテロ接合同腹子と大きく区別ができなかった。
【0056】
sesn2遺伝子の第9イントロンへの遺伝子トラップの挿入は、挿入の上流のエキソンがβgeoに枠内でスプライスされている融合転写物を誘導する。転写は遺伝子トラップのポリアデニル化部位で終結するので、プロセス融合転写物は、sesn2の切断バージョンおよびβgeoリポーターをコードする(図3)。図4は、X−GaIで染色された初期ヘテロ接合胚におけるこのタンパク質のわずかな発現を表す。
【0057】
野生型sesn2転写物は、ホモ接合W077E06マウスの肺から完全に失われており、これに対してヘテロ接合肺は野生型量の約50%を発現した(図5A)。また、単離された肺(MLF)および結腸(CLF)線維芽細胞(両方が多量のsesn2を発現する(図5B))において、タンパク質はホモ接合W077E06マウス由来の細胞において検出されず、遺伝子トラップの挿入がヌル変異を誘発することを示唆している(図5B)。初期肺におけるわずかなβ-ガラクトシダーゼ発現と一致して(図4)、変異体MLFは、極微量のsesn2/βgeo融合タンパク質を発現し、比較的多くのタンパク質が不安定であることを暗示している(図5B)。その低い発現を仮定すれば、このタンパク質は、たとえ切断タンパク質が若干の残存機能を保持していたとしても優性阻害効果を有するとは思われない。
【0058】
実施例2:sesn2ヌル対立遺伝子は、ltbp4−/−マウスの肺気腫を改善する。
ltbp4遺伝子の第5イントロンへのU3Cre遺伝子トラップベクター(配列番号16)の挿入を有する129/Sv(D3)ES細胞を、以前に記載のようにC57BL/6胚盤胞に注入した(国際公開第WO03/015505号明細書、Thorey, I.S. et al. Mol Cell Biol 18, 3081-3088, 1998)。得られる雄性キメラをC57BL/6雌性に交配し、アグーチ子孫を尾部ブロッティングによって導入遺伝子伝達について試験した。マウス尾部DNAを、プロウイルスを切断しないBglIIを用いて切断した。DNAを、1%アガロースゲル上で分画し、Hybondナイロンフィルター(Amersham/Pharmacia、Piscataway、NJ)上にブロットし、32P標識プロウイルスフランキング配列プローブにハイブリダイズした。遺伝子トラップの挿入についてヘテロ接合の動物を、ヘテロ接合およびホモ接合子孫における表現型を分析する前に、少なくとも6世代にわたってC57BL/6マウスに戻し交配した。二重変異株を得るために、ヘテロ接合ltbp4+/−マウスをホモ接合sesn2−/−マウスに交配し、その子孫を、以下の対立遺伝子特異的プライマー:ltbp4野生型対立遺伝子=5’−CCAATCTTGCTTCTTTGCTGAGC−3’(配列番号17)および5’−GGCTCATGCTTGAATGTTTCAG−3’(配列番号18);ltbp4遺伝子トラップ(変異対立遺伝子)=5’−CCAATCTTGCTTCTTTGCTGAGC−3’(配列番号19)および5’−ATCATGCAAGCTGGTGGCTG−3’(配列番号20);sesn2野生型対立遺伝子=5’−CTACCCTGAGAAGACGACCCG−3’(配列番号21)および5’−GGACAAATCAAGGTTACACAGAAAAAAGTC−3’(配列番号22);sesn2遺伝子トラップ(変異対立遺伝子)=5’−CTACCCTGAGAAGACGACCCG−3’(配列番号23)および5’−CAGCCTTGAGCCTCTGGAGC−3’(配列番号24)を使用して実施例1に記載のとおりに尾部DNAのPCRにより表現型を決定した。
【0059】
図6Bは、成体ltbp4−/−マウス(国際公開第WO03/015505号明細書)の典型的な気腫性肺を表す。それは、薄くて異形異常で、かつ頻繁に破壊された隔壁によって取り囲まれた大量の拡張肺胞を示す。小葉結合組織が有意に減少し、肺は多病巣性無気性領域を示す。部分回復と一致して、二重変異ltbp4−/−sesn−/−同腹子における肺胞空間は、より多く、サイズが減少し、より厚い壁で隔てられていた(図6D)。
【0060】
細気管支、肺胞管および肺胞に対する損傷の程度を検出するために、本発明者らは、これらの動物の気管気管支樹をプラスチネーションによって視覚化した。プラスチネーションは、単離された肺の気管内へのシリコーンの点滴注入を伴う。肺胞管はシリコーンが肺胞嚢に入るのを妨げることから、この方法は、情報を与える気管気管支樹の三次元画像を提供する(Perry S. F., et al. Exp Lung Res. 26:27-39, 2000)。図7(左側のパネル)は、終末細気管支および肺胞管に至る分岐を有する2匹の5.5月齢の老化野生型マウスの気管気管支樹を表す。変異ltbp4同腹子においては、これらの分岐は、シリコーンで満たされた拡張気腔によってほぼ完全に覆い隠され、終末細気管支および肺胞管が拡張され、漏出することを示唆する(図7、中央のパネル)。しかし、気管支構造の劇的な改善が、2つのsesn2ヌル対立遺伝子(ltbp4−/−sesn2−/−)を有するltbp4−/−マウスにおいて観察された(図7右側のパネル)。ltbp4−/−マウスのほぼ目に見えない気管支構造とは異なり、二重変異気管気管支樹は、この場合も正常に近く、終末細気管支および肺胞管の再生を示唆する。これらの一次的変化(modification)は、おそらくは肺ECMの主成分であるコラーゲン繊維およびエラスチン線維の不規則な再生を反映する実質性変化よりもはるかに劇的であった(Suki B., et al. J Appl Physiol. 98:1892-9, 2005)。コラーゲン繊維およびエラスチン線維の両方は肺全体に密集した線維ネットワークを形成するが、エラスチン線維は均一に分布しており、これに対してコラーゲン線維は、終末細気管支および肺胞管の周りに集まる傾向がある(Toshima M., et al. Arch Histol Cytol. 67:31-40, 2004)。これに基づいて、本発明者らは、ltbp4−/−sesn2−/−マウスの気管気管支樹の優先的な回復は肺ECM内への過剰のコラーゲン沈着の結果であり得ると推測した。
【0061】
これを試験するために、本発明者らは、特異的な組織化学的染色を使用して肺組織切片のエラスチンおよびコラーゲンを視覚化した。図8Aは、両方において断片化され、途切れ途切れであり、かつ密集していると思われるltbp4−/−およびltbp4−/−sesn2−/−の肺のエラスチンネットワークを表す。これに対し、コラーゲン沈着は二重変異肺で劇的に増加した(図8B)。TGF−βは最も効力あるコラーゲン誘導物質の一つであるので、コラーゲンの過剰沈着は、ltbp4−/−sesn2+/−の肺におけるTGF−βシグナル伝達の再活性化を示唆した。気管気管支回復およびコラーゲン沈着の増加が、sesn2(ltbp4−/−sesn2+/−)に対してヘテロ接合のltbp4−/−マウスにおいても認められた(図9、10)ことから、sesn2変異は、ハプロ不全であり得る。
【0062】
実施例3:sesn2ヌル対立遺伝子は、ltbp4−/−マウスにおいて直腸脱および結腸直腸腺腫を改善する。
図13は、3月齢の老化ltbp4−/−(国際公開第WO03/015505A3号明細書)マウスの典型的な結腸直腸腺腫を表す。顕微鏡によって、この領域は、再生しつつある上皮細胞および増大した数の杯細胞を含有する大腸異常陰窩巣を示した。二重変異ltbp4−/−sesn2−/−同腹子も腺腫を示したが、これらは、大きさが顕著に小さく、かつ少ない杯細胞を含有しており(図11)、部分表現型救済を示唆する。ltbp4−/−表現型は、本質的に欠陥のあるTGF−β活性化によって引き起こされる(Sterner-Kock A., et al. Genes Dev. 16:2264-2273, 2002)ことから、本発明者らは部分的レスキューがTGF−βシグナル伝達の再活性化に関連するかを試験した。この目的に向けて、本発明者らは、免疫組織化学によって組織切片中のリン酸化されたsmad2の量を調べた。ltbp4−/−sesn2+/−マウスにおけるTGF−βシグナル伝達の活性化と一致して、p−smad2量は、その結腸に検出可能なP−smad2を有していない単一の変異ltbp4−/−マウスと比べて極めて高かった(図12)。
【0063】
実施例4:sesn2−/−肺は高められたTGF−βシグナル伝達を示す。
肺の増大したコラーゲン沈着およびltbp4−/−sesn2−/−マウスの結腸の増大したP−smad2量は、TGF−β経路がsesn2−/−マウスにおいてその有意に正常な表現型にかかわらず同様に活性化され得ることを示唆した。これを試験するために、本発明者らは、上記のようにして肺組織切片のP−smad2を視覚化した。予備実験において、本発明者らは、sesn−/−肺のP−smad2量が野生型の量を有意に上回り、セストリン2の喪失がTGF−βを活性化することを示唆することを見出した(図13)。また、本発明者らはMassonのトリクローム染色法では増大したコラーゲン沈着を発見できなかった(データは示さない)が、sesn2−/−肺は、より豊富な結合組織、より小さい気腔およびより厚い肺胞間壁を示し、これらは全て初期のTGF−β誘発線維症と一致する(図14)(Sime P.J., et al. J Clin Invest. 100:768-76, 1997;Lee M.S., et al. Am J Pathol. 147:42-52, 1995;Sanderson N., et al. Proc Natl Acad Sci USA. 92:2572-6, 1995)。
【0064】
実施例5:sesn−/−マウスから誘導されたマウス肺線維芽細胞(MLF)における増大した過酸化物の蓄積
最近公表された実験は、shRNAによるsesn2発現の阻害はROS蓄積および酸化ストレスを招くROSを処理することができる細胞の能力を損なうことを明らかにしている(Budanov A.V., et al. Science. 304:596-600, 2004)。これに沿って、本発明者らは、抗酸化機能がsesn2ノックアウトマウスから誘導された細胞において同様に損なわれることを予測した。これを試験するために、本発明者らは、ジクロロジヒドロフルオレセイン(DCF)蛍光法を使用してMLFにおける基礎およびH誘導ROS量を定量した。図15は、sesn−/−MLFが200mMのHによる予備処理にかかわらず、対応する野生型細胞よりも有意に多いROSを蓄積したことを表す。結果は、該のshRNAノックダウン実験で得られる結果に相当し、変異体MLFにおけるsesn2機能損失と一致する。
【0065】
配列表フリーテキスト
配列番号1−9 プライマー
配列番号10 遺伝子トラップベクターpTβgeo
プラスミド要素:
− En−2スプライスアクセプター 2284−4163
− βGeo 4164−8053
− SV40 pA 8054−8496
− プラスミド主鎖 8497−2283
配列番号11−15 プライマー
配列番号16 遺伝子トラップベクターU3Cre
プラスミド要素:
− LTRs1−1475および3046−4520
− Cre 3−1090および3074−4133
− gag/env:1475−3045
配列番号17−24 プライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたはそれ以上の機能性セストリンを発現しないかあるいは1つまたはそれ以上のセストリンを最適以下の量で発現し、かつ潜在型トランスフォーミング増殖因子β結合タンパク質4(ltbp4)を発現しないかあるいはltbp4を最適以下の量で発現する非ヒト動物モデル。
【請求項2】
(i)動物のゲノムがセストリン遺伝子のホモ接合破壊またはヘテロ接合破壊を含有し、好ましくは破壊されたセストリン遺伝子がセストリン1、セストリン2、およびセストリン3から選択され、最も好ましくはセストリン2である;および/または
(ii)動物のゲノムがltbp4遺伝子のホモ接合破壊またはヘテロ接合破壊を含有する、請求項1に記載の動物モデル。
【請求項3】
前記破壊が変異によって生じるものであり、好ましくは前記変異が、
(i)挿入、欠失または置換変異である;および/または
(ii)遺伝子ターゲッティング、遺伝子トラッピングまたは化学的変異誘発によって生じる;および/または
(iii)セストリン遺伝子およびltbp4遺伝子のエキソン、イントロン、調節領域またはスプライス部位に生じている;および/または
(iv)レポーター遺伝子の発現を生じさせる;および/または
(v)セストリン2遺伝子の第9イントロンに生じている;および/または
(vi)ltpb4遺伝子の第5イントロンに生じている;
請求項2に記載の動物モデル。
【請求項4】
(i)セストリン2遺伝子が、遺伝子トラップベクター、好ましくはpT1βgeo(配列番号10)を挿入することによって第9イントロンにおいて破壊される;および/または
(ii)ltbp4遺伝子が、遺伝子トラップベクター、好ましくはU3Cre(配列番号16)を挿入することによって第5イントロンにおいて破壊される;
請求項2または3に記載の動物モデル。
【請求項5】
(i)前記非ヒト動物が非ヒト哺乳動物であり、好ましくは前記非ヒト哺乳動物が齧歯類、例えばマウスおよびラットである;および/または
(ii)前記動物が肺気腫および癌を示し、好ましくは癌が結腸癌である;
請求項1から4のいずれか1項に記載の動物モデル。
【請求項6】
1つまたはそれ以上の機能性セストリンを発現しないかあるいは1つまたはそれ以上のセストリンを最適以下の量で発現する非ヒト動物モデルであり、好ましくは前記動物モデルが請求項1から5に定義されるものである非ヒト動物モデル。
【請求項7】
請求項1から6に記載の動物モデルから単離される細胞または組織培養物。
【請求項8】
細胞または組織培養物が肺または結腸由来のものである、請求項7に記載の細胞または組織培養物。
【請求項9】
出発非ヒト動物の生殖細胞においてセストリンおよび/またはltbp4遺伝子を破壊することを含む、請求項1から6に記載の非ヒト動物モデルの調製方法。
【請求項10】
非ヒト動物が非ヒト哺乳動物であり、および生殖細胞がES細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1に記載の非ヒト動物モデルにおいて生じる症状を治療するための薬剤を選択する方法であって、
(i)試験すべき1つまたはそれ以上の薬剤を前記動物モデルに施用し、
(ii)前記動物モデルにおいて生じる1つまたはそれ以上の症状が前記薬剤の施用の結果として変化しているかどうかを調べる
ことを含む、前記方法。
【請求項12】
症状が癌および肺気腫からなる群より選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ROS産生およびTGF−βシグナル伝達を妨害する薬剤を選択する方法であって、
(i)試験すべき1つまたはそれ以上の薬剤を請求項7に記載の細胞または組織培養物に施用し、
(ii)細胞ROS量およびTGF−βシグナル伝達が前記薬剤の施用の結果として変化しているかどうかを調べる、
ことを含む、前記方法。
【請求項14】
細胞または組織培養物が肺または結腸由来のものである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
癌および/または肺気腫が差次的ltbp4およびセストリン遺伝子またはタンパク質の発現または発現量によって引きこされるかまたはltbp4およびセストリン遺伝子の欠陥によって引き起こされるかどうかを解析する方法であって、
(i)癌または肺気腫を有する個体のltbp4およびセストリン遺伝子またはタンパク質の発現または発現量あるいはltbp4およびセストリン遺伝子の対立遺伝子状態を特定し、
(ii)対照個体のltbp4およびセストリン遺伝子またはタンパク質の発現または発現量あるいはltbp4およびセストリン遺伝子の対立遺伝子状態、すなわち癌および/または肺気腫および/または心筋症が差次的ltbp4およびセストリン遺伝子またはタンパク質の発現または発現量あるいはltbp4およびセストリン遺伝子の欠陥に関連付けられることを示すltbp4およびセストリン遺伝子またはタンパク質の発現または発現量あるいはltbp4およびセストリン遺伝子の対立遺伝子状態の相違を特定する、
ことを含む、前記方法。
【請求項16】
癌および/または肺気腫および/または心筋症の診断方法であって、
(i)個体のltbp4およびセストリン遺伝子またはタンパク質の発現または発現量あるいはltbp4およびセストリン遺伝子の対立遺伝子状態を特定し、
(ii)対照個体のltbp4およびセストリン遺伝子またはタンパク質の発現または発現量あるいはltbp4およびセストリン遺伝子の対立遺伝子状態、すなわち前記個体の癌および/または肺気腫および/または心筋症の存在を示すLTBP−4遺伝子またはタンパク質の発現または発現量あるいはltbp4およびセストリン遺伝子の対立遺伝子状態の相違を特定する、
ことを含む、前記方法。
【請求項17】
(i)ltbp4およびセストリンの発現または発現量を、RT−PCR、ノーザン分析、マイクロアレイ分析またはltbp4およびセストリンタンパク質に対する抗体によって検出する;および/または
(ii)ltbp4およびセストリンの遺伝子の発現または発現量を、RT−PCR、ノーザン分析、マイクロアレイ分析またはltbp4およびセストリンタンパク質に対する抗体によって検出する;および/または
(iii)ltbp4およびセストリン遺伝子の対立遺伝子状態を、変異スクリーニングによって検出する、
請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
個体および対照のltbp4およびセストリン遺伝子またはタンパク質の発現または発現量あるいはltbp4およびセストリン遺伝子の対立遺伝子状態を検出する手段を含有する、癌および/または肺気腫および/または心筋症の診断用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2010−503389(P2010−503389A)
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527781(P2009−527781)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【国際出願番号】PCT/EP2007/059227
【国際公開番号】WO2008/031746
【国際公開日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【出願人】(509075240)フランクゲン バイオテクノロジー アーゲー (1)
【Fターム(参考)】