説明

肺疾患の治療および/または予防剤

7−[2−(3,5−ジクロロ−4−ピリジル)−1−オキソエチル]−4−メトキシ−スピロ[1,3−ベンゾジオキソール−2,1’−シクロペンタン]またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する好中球性炎症を呈する肺疾患、例えば慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺気腫、慢性気管支炎、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺損傷(ALI)などの治療および/または予防剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、好中球性炎症を呈する肺疾患の治療および/または予防剤に関する。
【背景技術】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺気腫、慢性気管支炎、慢性急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺損傷(ALI)などは、慢性的な好中球性炎症を発症することを特徴とする肺疾患である[アメリカン・レビュー・オブ・レスピラトリー・ディジィズ(Am.Rev.Respir.Dis.)、1989年、第140巻、p.1527;アメリカン・ジャーナル・オブ・レスピラトリー・アンド・クリティカル・ケア・メディシン(Am.J.Respir.Crit.Care Med.)、1996年、第153巻、p.530;カレント・オピニオン・イン・クリティカル・ケア(Curr.Opin.Crit.Care)、2001年、第7巻、p.1]。このうち、COPDの薬物療法には、β刺激剤、抗コリン剤、テオフィリンなどの気管支拡張剤などが用いられているが抜本的な治療には繋がっていない[アメリカン・ジャーナル・オブ・レスピラトリー・アンド・クリティカル・ケア・メディシン(Am.J.Respir.Crit.Care Med.)、2001年、第163巻、p.1256]。近年、ホスホジエステラーゼ(PDE)−IV阻害剤によるCOPDの薬物療法が注目されている[クリニカル・アンド・エクスペリメンタル・アレルギー(Clin.Exp.Allergy)、1999年、第29巻、p.99;ランセット(Lancet)、2001年、第358巻、p.265]。
一方、ARDSおよびALIは、肺毛細血管、肺胞などの損傷に基づく、炎症病変として捉えられており、その治療法としてはもっぱら原因療法と呼吸不全対策、その他ステロイド投与などの対症療法が用いられている[アメリカン・ジャーナル・オブ・レスピラトリー・アンド・クリティカル・ケア・メディシン(Am.J.Respir.Crit.Care Med.)、1994年、第149巻、p.818;ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(N.Engl.J.Med.)、2000年、第342巻、p.1334]。
従来、7−[2−(3,5−ジクロロ−4−ピリジル)−1−オキソエチル]−4−メトキシ−スピロ[1,3−ベンゾジオキソール−2,1’−シクロペンタン]またはその薬理学的に許容される塩をホスホジエステラーゼIV阻害剤として用いることが知られている(WO96/36624号)。
【発明の開示】
本発明の目的は、7−[2−(3,5−ジクロロ−4−ピリジル)−1−オキソエチル]−4−メトキシ−スピロ[1,3−ベンゾジオキソール−2,1’−シクロペンタン]またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する好中球性炎症を呈する肺疾患、例えばCOPD、肺気腫、慢性気管支炎、ARDS、ALIなどの治療および/または予防剤を提供することにある。
本発明は、以下の(1)〜(9)に関する。
(1) 式(I)

で表される7−[2−(3,5−ジクロロ−4−ピリジル)−1−オキソエチル]−4−メトキシ−スピロ[1,3−ベンゾジオキソール−2,1’−シクロペンタン]またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する好中球性炎症を呈する肺疾患の治療および/または予防剤。
(2) 好中球性炎症を呈する肺疾患が、COPD、肺気腫および慢性気管支炎からなる群より選ばれる疾患である(1)記載の好中球性炎症を呈する肺疾患の治療および/または予防剤。
(3) 好中球性炎症を呈する肺疾患が、ARDSまたはALIである(1)記載の好中球性炎症を呈する肺疾患の治療および/または予防剤。
(4) 式(I)

で表される7−[2−(3,5−ジクロロ−4−ピリジル)−1−オキソエチル]−4−メトキシ−スピロ[1,3−ベンゾジオキソール−2,1’−シクロペンタン]またはその薬理学的に許容される塩の有効量を投与することを特徴とする好中球性炎症を呈する肺疾患の治療および/または予防方法。
(5) 好中球性炎症を呈する肺疾患がCOPD、肺気腫および慢性気管支炎からなる群より選ばれる疾患である(4)記載の肺疾患の治療および/または予防方法。
(6) 好中球性炎症を呈する肺疾患がARDSまたはALIである(4)記載の肺疾患の治療および/または予防方法。
(7) 好中球性炎症を呈する肺疾患の治療および/または予防剤の製造のための式(I)

で表される7−[2−(3,5−ジクロロ−4−ピリジル)−1−オキソエチル]−4−メトキシ−スピロ[1,3−ベンゾジオキソール−2,1’−シクロペンタン]またはその薬理学的に許容される塩の使用。
(8) 好中球性炎症を呈する肺疾患が、COPD、肺気腫および慢性気管支炎からなる群より選ばれる疾患である(7)記載の7−[2−(3,5−ジクロロ−4−ピリジル)−1−オキソエチル]−4−メトキシ−スピロ[1,3−ベンゾジオキソール−2,1’−シクロペンタン]またはその薬理学的に許容される塩の使用。
(9) 好中球性炎症を呈する肺疾患が、ARDSまたはALIである(7)記載の7−[2−(3,5−ジクロロ−4−ピリジル)−1−オキソエチル]−4−メトキシ−スピロ[1,3−ベンゾジオキソール−2,1’−シクロペンタン]またはその薬理学的に許容される塩の使用。
以下、式(I)で表される化合物を化合物(I)という。
化合物(I)の薬理学的に許容される塩は、薬理学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩などを包含する。
化合物(I)の薬理学的に許容される酸付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩などの無機酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩などの有機酸塩があげられ、薬理学的に許容される金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩などがあげられ、薬理学的に許容されるアンモニウム塩としては、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩などの塩があげられ、薬理学的に許容される有機アミン付加塩としては、モルホリン、ピペリジンなどの付加塩があげられ、薬理学的に許容されるアミノ酸付加塩としては、グリシン、フェニルアラニン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸などの付加塩があげられる。
次に、化合物(I)の製造方法について説明する。
化合物(I)は、WO96/36624号に記載の方法により製造することができる。
化合物(I)には、互変異性体などの立体異性体が存在し得るが、本発明の肺疾患の治療および/または予防剤には、これらを含め、全ての可能な異性体およびそれらの混合物を使用することができる。
化合物(I)の塩を取得したいとき、化合物(I)が塩の形で得られるときはそのまま精製すればよく、また、遊離の形で得られるときは、化合物(I)を適当な溶媒に溶解または懸濁し、酸または塩基を加えて単離、精製すればよい。
また、化合物(I)およびその薬理学的に許容される塩は、水または各種溶媒との付加物の形で存在することもあるが、これらの付加物も本発明の肺疾患の治療および/または予防剤に使用することができる。
次に、化合物(I)の薬理作用について試験例により具体的に説明する。
試験例1:リポポリサッカライド(LPS)誘発肺障害モデルにおける好中球の増加抑制作用
9週齢の雄性BALB/cマウス(日本チャールズ・リバー社,神奈川)に、呼吸器官用吸入剤アレベール(登録商標:株式会社アズウェル,大阪)を25%含む生理食塩水溶液(投与溶媒)または投与溶媒に溶解した300ng/mLのLPS(Sigma−Aldrich,MO,USA) 0.1mLを気管内投与し、気管内投与から6時間後に気管支肺胞洗浄(BAL)を行った(それぞれ溶媒投与群、LPS投与群とする)。一方、化合物(I)およびLPSをそれぞれ1mg/mLおよび300ng/mLの濃度になるように投与溶媒に懸濁し(化合物(I)投与用懸濁液)、該投与用懸濁液0.1mLを気管内に投与し、気管内投与から6時間後にBALを行った[化合物(I)投与群]。
回収した気管支肺胞洗浄液(BALF)を、それぞれ570×g、10分間、4℃で遠心分離した後、上清を除き、ペレットを得た。ペレットを0.1mLの生理食塩液に再懸濁し、全自動血球計数器セルタックα(日本光電,東京)を用いて総白血球細胞数を計数した。計数した後、残ったペレット約0.05mLに生理食塩液を0.2mL加え、サイトスピン3(Shandon,Pittsburgh,PA,USA)を用いて塗沫標本を作成した。塗沫標本を自動染色装置(オムロン,京都)でライト染色(MICROX用染色液,オムロン)した後、顕微鏡下(400倍)で細胞数を計数した。
細胞数は、マクロファージ、好中球およびリンパ球を区別して合計300個まで計数し、それぞれの細胞の割合を算出した(式1)。好中球数は、上記で算出した好中球の割合と総白血球細胞数から求めた(式2)。化合物(I)による好中球数の増加抑制率は、式3により求めた。なお、本試験での全ての個体においてBALF中の細胞は、ほぼマクロファージ、好中球およびリンパ球で構成されており、好酸球、好塩基球およびその他の細胞はほとんど観察されなかった。
好中球数に関する結果を第1表に示す。


溶媒投与群と比較してLPS投与群では、BALF中の好中球数が顕著に増加した。一方、化合物(I)投与群では、LPS投与群と比較して好中球数の増加は小さく、化合物(I)の投与によりLPSによる好中球数の増加が抑制された。すなわち、化合物(I)を投与することにより肺への好中球の浸潤を抑制できることが示された。
LPSを気管内投与することで、肺における好中球浸潤、炎症性サイトカインである腫瘍壊死因子(TNF−α)や強力な好中球遊走因子であるマクロファージ炎症蛋白質(MIP−2)などの増加などが観察されている[アメリカン・ジャーナル・オブ・フィジオロジー(Am.J.Physiol.)、1999年、276巻、p.L736]。これらの症状は、COPD患者で見られる症状と同様の症状である[トレンズ・イン・ファルマコロジカル・サイエンシス(Trends in Pharmacol.Sci.)、1998年、19巻、p.415]。従って、LPS誘発肺障害モデルはCOPDの動物モデルとして有効であると考えられている。
COPD患者のBALFや喀痰中には、多くの好中球が認められ、喀痰中または気管支粘膜中の好中球数が多い患者ほど気道閉塞は悪化している[アメリカン・レビュー・オブ・レスピラトリー・ディジィズ(Am.Rev.Respir.Dis.)、1989年、140巻、p.1527;アメリカン・ジャーナル・オブ・レスピラトリー・アンド・クリティカル・ケア・メディシン(Am.J.Respir.Crit.Care Med.)、1996年、153巻、p.530;アメリカン・ジャーナル・オブ・レスピラトリー・アンド・クリティカル・ケア・メディシン(Am.J.Respir.Crit.Care Med.)、1998年、158巻、p.1277]。また、好中球が放出するエラスターゼを動物に投与すると肺気腫様の症状を誘導する[ユーロピアン・レスピラトリー・ジャーナル(Eur.Respir.J.)、1985年、132巻、p.1155]。これらのことから、好中球の肺への浸潤を抑制することにより、例えばCOPD、肺気腫、慢性気管支炎などの治療が可能であると考えられる。
また、LPS誘発肺障害モデルは好中球性の炎症を呈することからARDSまたはALIの動物モデルとしても有効であると考えられている[ラボラトリー・アニマルズ(Lab.Anim.)、1992年、26巻、p.29;アメリカン・ジャーナル・オブ・レスピラトリー・セル・アンド・モレキュラー・バイオロジー(Am.J.Respir.Cell Mol.Biol.)、1997年、16巻、p.267;インフラメーション(Inflammation)、1999年、23巻、p.263]。
試験例2:タバコ主流煙誘発肺障害モデルにおける好中球の増加抑制作用
化合物(I)は、呼吸器官用吸入剤アレベール(登録商標:株式会社アズウェル,大阪)を25%含む生理食塩水溶液(投与溶媒)に懸濁して、0.6mg/mLの濃度で調製し(化合物(I)投与用懸濁液)、試験に用いた。
6〜7週齢の雄性CDラット(日本チャールス・リバー、神奈川)に、投与溶媒または化合物(I)投与用懸濁液を体重1kgあたり0.5mL経口投与した。10〜12時間後、喫煙曝露システム(M・I・P・S、大阪)を用いてタバコ(ハイライト、日本たばこ産業、東京)主流煙を全身曝露した。曝露は、5分間のタバコ主流煙の曝露とそれに続く10分間の大気曝露を連続して8回繰り返すことにより行った。
投与溶媒を投与しタバコ主流煙の曝露の代わりに大気曝露した群を溶媒投与群、投与溶媒を投与しタバコ主流煙を曝露した群を喫煙群、化合物(I)投与用懸濁液を投与しタバコ主流煙を曝露した群を化合物(I)投与群とした。
曝露終了6時間後にハンクス液[Hanks’Balanced Salt Solution(Invitrogen Corporation、CA、USA)]でBALを行った(4mLx3回)。BALFを全量回収し、試験例1と同様に処理し、好中球数を求めた。結果を第2表に示す。なお、本試験でも、全ての個体において、BALF中の細胞は、マクロファージ、好中球およびリンパ球で構成されており、好酸球、好塩基球およびその他の細胞はほとんど観察されなかった。

本試験の結果、溶媒投与群と比較して喫煙群では、BALF中の好中球数が顕著に増加し、化合物(I)投与群では、喫煙群における好中球数の増加が抑制された。すなわち、化合物(I)を投与することにより、気管支肺胞への好中球の浸潤を抑制できることが示された。
COPDが喫煙によって引き起こされることが指摘されており[アメリカン・ジャーナル・オブ・レスピラトリー・アンド・クリティカル・ケア・メディシン(Am.J.Respir.Crit.Care Med.)、2001年、163巻、p.1256]、タバコの煙に含有されているLPSが、COPD発症に関与していることも示唆されている[チェスト(Chest)、1999年、115巻、p.829]。タバコ主流煙曝露により気道への好中球浸潤を惹起する上記の様な肺障害モデルは、COPD治療薬の評価に有用であると考えられている[レスピラトリー・リサーチ(Respir.Res.)、2001年、第2巻、p.E003]、[チェスト(Chest)、2002年、第121巻、p.192S]。従って、化合物(I)はCOPDに対する治療および/または予防薬として有用であると考えられる。
以上のことから、化合物(I)またはその薬理学的に許容される塩は、例えばCOPD、肺気腫、慢性気管支炎、ARDS、ALIなどの治療および/または予防剤として有効であると考えられる。
化合物(I)またはその薬理学的に許容される塩は、そのまま単独で投与することも可能であるが、通常各種の医薬製剤として提供するのが望ましい。また、それら医薬製剤は、動物および人に使用されるものである。
本発明に係わる医薬製剤は、活性成分として化合物(I)またはその薬理学的に許容される塩を単独で、あるいは任意の他の治療のための有効成分との混合物として含有することができる。また、それら医薬製剤は、活性成分を薬理学的に許容される一種もしくはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られている任意の方法により製造される。
投与経路としては、治療に際し最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口または、例えば静脈内、気管内、経皮などの非経口をあげることができる。
投与形態としては、例えば錠剤、注射剤、吸入剤、外用剤などがあげられる。
経口投与に適当な、例えば錠剤などは、乳糖、マンニットなどの賦形剤、澱粉などの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤、ヒドロキシプロピルセルロースなどの結合剤、脂肪酸エステルなどの界面活性剤、グリセリンなどの可塑剤、安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤などを用いて製造できる。
非経口投与に適当な、例えば注射剤は、好ましくは受容者の血液と等張である活性化合物を含む滅菌水性剤からなる。例えば、塩溶液、ブドウ糖溶液または塩水とブドウ糖溶液の混合物からなる担体などを用いて注射用の溶液を調製することができる。
吸入剤は、活性成分を粉末または液状にして、吸入噴霧剤または担体中に配合し、例えば、定量噴霧式吸入器、ドライパウダー吸入器などの適当な吸入容器に充填することにより製造される。上記活性成分が粉末の場合は、通常の機械的粉末吸入器を、液状の場合はネブライザーなどの吸入器をそれぞれ使用することもできる。吸入噴射剤としては、従来公知のものを広く使用することができ、例えばフロン−11、フロン−12、フロン−21、フロン−22、フロン−113、フロン−114、フロン−123、フロン−142c、フロン−134a、フロン−227、フロン−C318、1,1,1,2−テトラフルオロエタンなどのフロン系ガス、HFA−227、HFA−134aなどの代替フロンガス、プロパン、イソブタン、n−ブタンなどの炭化水素系ガス、ジエチルエーテル、窒素ガス、炭酸ガスなどがあげられる。担体としては、従来公知のものを広く使用でき、例えば糖類、糖アルコール類、アミノ酸類などがあげられ、乳糖、D−マンニトールなどが好ましい。
外用剤に適当な剤型としては、特に限定されるものではなく、基剤に活性成分を溶解または混合分散しクリーム状、ペースト状、ゼリー状、ゲル状、乳液状、液状などの形状になされたもの(軟膏剤、リニメント剤、ローション剤など)、基剤に活性成分および経皮吸収促進剤を溶解または混合分散させたものを、例えばポリエチレン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレートなどの支持体上に展延したもの(パップ剤、テープ剤など)などがあげられる。上記基剤としては、薬理学的に許容しうるものであればいずれでもよく、軟膏剤、リニメント剤、ローション剤などの基剤として従来公知のものを用いることができ、例えばアルギン酸ナトリウム;ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、デキストリン、カルボキシメチルデンプン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、メトキシエチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドンなどのポリマー;ミツロウ、オリーブ油、カカオ油、ゴマ油、ダイズ油、ツバキ油、ラッカセイ油、牛油、豚油、ラノリンなどの油脂類;白色ワセリン、黄色ワセリンなどのワセリン類;パラフィン;ハイドロカーボンゲル軟膏(例えば、商品名プラスチベース、大正製薬社製);ステアリン酸などの高級脂肪酸;セチルアルコール、ステアリルアルコールなどの高級アルコール;ポリエチレングリコール;水などがあげられる。上記経皮吸収促進剤としては、薬理学的に許容しうるものであればいずれでもよく、例えばメタノール、エタノール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類;ジメチルスルホキシド、ドデシルピロリドンなどの極性溶剤;尿素;ラウリル酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、オクタン酸セチルなどのエステル類;エイゾン;オリーブ油などがあげられる。さらに必要に応じて、カオリン、ベントナイト、酸化亜鉛、酸化チタンなどの無機充填剤;粘度調節剤;老化防止剤;pH調節剤;グリセリン、プロピレングリコールなどの保湿剤などを添加してもよい。
また、これら非経口剤においても、希釈剤、フレーバー類、および経口剤で例示した賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、界面活性剤、可塑剤、防腐剤などから選択される1種もしくはそれ以上の補助成分を添加することもできる。
化合物(I)またはその薬理学的に許容される塩の投与量および投与回数は、投与形態、患者の年齢、体重、治療すべき症状の性質もしくは重篤度などにより異なるが、通常、経口投与の場合、成人一人当り0.01mg〜1g、好ましくは0.5〜100mgを一日一回ないし数回投与する。吸入の場合、成人一人当り1μg〜1000mg、好ましくは0.01〜100mg、より好ましくは0.05〜20mgを一日一回ないし数回投与する。静脈内投与などの非経口投与の場合、成人一人当り1μg〜100mg、好ましくは0.01〜10mgを一日一回ないし数回投与する。しかしながら、これら投与量および投与回数に関しては、前述の種々の条件により変動する。
以下に、本発明の態様を実施例で説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
実施例1:錠剤
常法により、次の組成からなる錠剤を調製する。化合物(I)40g、乳糖286.8gおよび馬鈴薯澱粉60gを混合し、これにヒドロキシプロピルセルロースの10%水溶液120gを加える。この混合物を常法により練合し、造粒して乾燥させた後、整粒し打錠用顆粒とする。これにステアリン酸マグネシウム1.2gを加えて混合し、径8mmの杵をもった打錠機(菊水社製RT−15型)で打錠を行って、錠剤(1錠あたり活性成分20mgを含有する)を得る。
処方 化合物(I) 20 mg
乳糖 143.4 mg
馬鈴薯澱粉 30 mg
ヒドロキシプロピルセルロース 6 mg
ステアリン酸マグネシウム 0.6 mg
200 mg
実施例2:注射剤
常法により、次の組成からなる注射剤を調製する。化合物(I)1gを精製大豆油に溶解させ、精製卵黄レシチン12gおよび注射用グリセリン25gを加える。この混合物を常法により注射用蒸留水で1000mlとして練合・乳化する。得られた分散液を0.2μmのディスポーザブル型メンブランフィルターを用いて無菌濾過後、ガラスバイアルに2mlずつ無菌的に充填して、注射剤(1バイアルあたり活性成分2mgを含有する)を得る。
処方 化合物(I) 2 mg
精製大豆油 200 mg
精製卵黄レシチン 24 mg
注射用グリセリン 50 mg
注射用蒸留水 1.72 ml
2.00 ml
実施例3:ドライパウダー吸入剤
ジェットミル(A−0 JET、セイシン企業)を用いて、化合物(I) 10gを空気圧5kg/cmで1.5g/分間の送り速度で粉砕した(体積平均粒子径:5.7μm)。得られた化合物(I)の粉砕物と乳糖(Pharmatose 325M:登録商標、DMV社製)とを重量比1:5で混合し、ドライパウダー製剤を得る。該製剤は、慣用のドライパウダー吸入器により、投与可能である。
処方 化合物(I) 16.7 mg
乳糖 83.3 mg
100 mg
【産業上の利用可能性】
本発明により、7−[2−(3,5−ジクロロ−4−ピリジル)−1−オキソエチル]−4−メトキシ−スピロ[1,3−ベンゾジオキソール−2,1’−シクロペンタン]またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する好中球性炎症を呈する肺疾患、例えばCOPD、肺気腫、慢性気管支炎、ARDS、ALIなどの治療および/または予防剤が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)

で表される7−[2−(3,5−ジクロロ−4−ピリジル)−1−オキソエチル]−4−メトキシ−スピロ[1,3−ベンゾジオキソール−2,1’−シクロペンタン]またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する好中球性炎症を呈する肺疾患の治療および/または予防剤。
【請求項2】
好中球性炎症を呈する肺疾患が慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺気腫および慢性気管支炎からなる群より選ばれる疾患である請求の範囲第1項記載の好中球性炎症を呈する肺疾患の治療および/または予防剤。
【請求項3】
好中球性炎症を呈する肺疾患が急性呼吸窮迫症候群(ARDS)または急性肺損傷(ALI)である請求の範囲第1項記載の好中球性炎症を呈する肺疾患の治療および/または予防剤。
【請求項4】
式(I)

で表される7−[2−(3,5−ジクロロ−4−ピリジル)−1−オキソエチル]−4−メトキシ−スピロ[1,3−ベンゾジオキソール−2,1’−シクロペンタン]またはその薬理学的に許容される塩の有効量を投与することを特徴とする好中球性炎症を呈する肺疾患の治療および/または予防方法。
【請求項5】
好中球性炎症を呈する肺疾患がCOPD、肺気腫および慢性気管支炎からなる群より選ばれる疾患である請求の範囲第4項記載の肺疾患の治療および/または予防方法。
【請求項6】
好中球性炎症を呈する肺疾患がARDSまたはALIである請求の範囲第4項記載の肺疾患の治療および/または予防方法。
【請求項7】
好中球性炎症を呈する肺疾患の治療および/または予防剤の製造のための式(I)

で表される7−[2−(3,5−ジクロロ−4−ピリジル)−1−オキソエチル]−4−メトキシ−スピロ[1,3−ベンゾジオキソール−2,1’−シクロペンタン]またはその薬理学的に許容される塩の使用。
【請求項8】
好中球性炎症を呈する肺疾患がCOPD、肺気腫および慢性気管支炎からなる群より選ばれる疾患である請求の範囲第7項記載の7−[2−(3,5−ジクロロ−4−ピリジル)−1−オキソエチル]−4−メトキシ−スピロ[1,3−ベンゾジオキソール−2,1’−シクロペンタン]またはその薬理学的に許容される塩の使用。
【請求項9】
好中球性炎症を呈する肺疾患がARDSまたはALIである請求の範囲第7項記載の7−[2−(3,5−ジクロロ−4−ピリジル)−1−オキソエチル]−4−メトキシ−スピロ[1,3−ベンゾジオキソール−2,1’−シクロペンタン]またはその薬理学的に許容される塩の使用。

【国際公開番号】WO2004/087148
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【発行日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504263(P2005−504263)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004611
【国際出願日】平成16年3月31日(2004.3.31)
【出願人】(000001029)協和醗酵工業株式会社 (276)
【Fターム(参考)】