説明

肺癌治療用薬学的組成物、肺癌の成長または浸潤を抑制する方法、および肺癌の治療方法

肺癌の細胞表面タンパク質であるL1CAMの活性または発現を抑制する物質を含む、肺癌の成長または転移を抑制する薬学的組成物、およびこれを用いた治療方法が開示される。前記肺癌細胞表面のL1CAMタンパク質を認識し、肺癌の癌組織に特異的に結合するマウスモノクローナル抗体、またはsiRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはshRNAは、肺癌細胞の成長、浸潤または移動を抑制することにより、肺癌の治療に有用に利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺癌の細胞表面に存在するタンパク質であるL1CAMの活性または発現を抑制する物質を含む、肺癌の成長または転移を抑制する薬学的組成物、およびこれを用いた治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肺癌は、主に発癌物質によって誘発され、発生率が全世界的に増加している趨勢にある。現に、肺癌は、韓国における癌死亡の主な原因である。肺癌は、治療と関連しては、小細胞癌(SCLC)と非小細胞癌(NSCLC)の2つに分類される。NSCLCはさらに腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌、腺扁平上皮癌などの組織型に分類される。このような相異なる種類の組織型によって、発病し易い部位、進行形式、速度および症状などの臨床的特徴が様々であり、治療方法もいろいろである(Brambilla et al., Eur Respir J. 18(6):1059-68, 2001)。
【0003】
大部分の肺癌は化学療法と放射線療法によっては治療できない。化学療法および放射線療法は、腫瘍の大きさを縮小させることにより小細胞癌に適用できるが、これによっては癌の完全な治療を期待することができない。非小細胞肺癌は、小細胞肺癌に比べて抗癌剤の効果が少なくて化学療法のみでは治療が殆ど不可能なので、腫瘍を外科的に完全に除去することが唯一の効果的な治療法である。ところが、肺癌患者の30%以下が診断の際に完全には切除し得ない腫瘍を有し、 それらの3分の1以下のみが外科的切除術以後5年間生存する。よって、肺癌の早期診断、癌拡散度のより正確な診断およびより効率的な治療を実現することが可能な方法が大きく求められる。
【0004】
一方、L1CAM(L1 cell adhesion molecule)は、細胞の表面上で細胞間接着(cell-to-cell adhesion)を仲介する免疫グロブリンスーパーファミリー細胞接着分子(immunoglobulin superfamily cell adhesion molecules、CAMs)に属する内在性膜糖タンパク質(integral membrane glycoprotein)の一つであって、その分子量が220kDaにも達する。L1CAMは元々ニューロンなどから発見され(Bateman, et al, EMBO J. 15:6050-6059:1996)、ニューロンの移動、神経突起の成長および細胞移動などの機能を有する。L1CAMは元々脳から発見されるものと知られているが、腎臓小管でも発現し、最近では様々な癌細胞でも発見され始めている(Huszar, M. et al., Expression profile analysis in multiple human tumors identifies L1 (CD171) as a molecular marker for differential diagnosis and targeted therapy. Human Pathology 37, 1000-1008, 2006)。
【0005】
L1CAMと癌との連関性は、L1CAMが黒色腫(melanoma)、神経芽細胞腫(neuroblastoma)、卵素癌および大腸癌などの様々な癌で発現することが報告された(Takeda, et al., J. Neurochem. 66:2338-2349, 1996; Thies et al, Eur. J. Cancer, 38:1708-1716, 2002; Arlt et al., Cancer Res. 66:936-943, 2006; Gavert et al., J. Cell Biol. 168:633-642, 2005)。膜結合型(membrane bound form)の他にも、切断された産物(cleavage product)が細胞外に分泌されることが発見された(Gutwein et al., FASEP J. 17(2):292-4, 2003)。そして、最近、癌細胞の成長に重要な役割を果たす分子の一つとして探索されることにより(Primiano, et al., Cancer Cell. 4(1):41-53 2003)、癌治療の新しいターゲットとして浮上した(US2004/0115206 A1出願2004.6.17)。
【0006】
肺癌、特に小細胞肺癌におけるL1CAMの発現については、L1CAMが小細胞肺癌組織に発現している事実は明らかになったが(Huszar, M. et al., Human Pathology 37, 1000-1008, 2006; Miyahara, R. et al., J. Surg. Oncol. 77,49-54, 2001)、L1CAMの発現は小細胞肺癌細胞の増殖と連関性がないものと報告された(Miyahara, R. et al., J. Surg. Oncol. 77,49-54, 2001)。非小細胞肺癌の場合、10つの扁平上皮癌と5つの腺上皮癌に対してL1CAMの発現有無を試験したが、検出されなくて(Huszar, M. et al. Human Pathology 37, 1000-1008, 2006)、その発現事実は知られていない。よって、L1CAMが肺癌細胞の成長と転移に関連しているという事実は未だ知られておらず、しかもL1CAMに対する抗体が肺癌の増殖および転移を抑制することにより、治療剤として可能性があるという事実は未だ知られていない。
【0007】
米国特許出願US2004/0115206号は、L1CAMに特異的に結合する抗体を用いて癌細胞の死滅を誘導する製剤、および細胞死滅のために前記抗体を使用する手段、およびL1CAM抗体が含まれた薬学的組成物について開示しているとともに、癌細胞で細胞成長を阻害し細胞死を誘導することが可能な有効量の抗L1CAM抗体を細胞に接触させることにより細胞の成長を抑制し細胞死滅を誘導することについて開示している。ところが、この文献も、L1CAMが発現する癌の例として乳癌、大腸癌および子宮頸癌についてのみ言及しており、肺癌との関連性については言及しておらず、抗L1CAM抗体を癌細胞に接触させることにより細胞成長抑制および細胞死滅を誘導することについてのみ開示しており、癌細胞の移動、浸潤および転移を抑制し得ることについては開示していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、癌の診断または治療に使用可能な抗体を開発するために努力したところ、最近確立された胆管癌細胞株(Kim et al, Genes, chromosome & Cancer 30:48-56, 2001)をマウスに免疫注射し、胆管癌の表面上でL1CAMに特異的に結合するモノクローナル抗体を得、これをA10−A3抗体と命名した。L1CAMが肺癌細胞でも発現するかを分析するために、A10−A3抗体を用いて小細胞癌組織を免疫組織化学染色した結果、小細胞肺癌では約85%(陽性49/58組織の数)、非小細胞肺癌では約10%(陽性4/37組織の数)のL1CAM発現率を確認し、また、小細胞肺癌細胞株と非小細胞肺癌細胞株の表面でもL1CAMが発現することを確認した。これまでL1CAMの非小細胞 癌における発現事実は知られておらず、L1CAMが小細胞肺癌で細胞の増殖とは関係ないものと知られているので、本発明者らは、L1CAMが肺癌細胞の成長または転移に作用するかを分析するために、siRNAを用いてL1CAMの発現を抑制させ、あるいはA10−A3抗体を用いてL1CAMの活性を抑制させた結果、肺癌細胞の増殖または移動が減少することを観察した。この結果はL1CAMが肺癌細胞の癌進行に重要に作用することを示唆する。
【0009】
また、本発明者らは、A10−A3抗体が小細胞肺癌細胞の成長または移動を抑制する効果を持つことを確認した。また、ヒト胚芽幹細胞をマウスに免疫注射して得たハイブリドーマ(KCTC10966BP)が生産するモノクローナル抗体4−63と公知のL1CAMに対する抗体UJ127も癌細胞表面のL1CAMを認識し、小細胞肺癌の成長を抑制した。また、公知のL1CAMに対する抗体UJ127も小細胞肺癌細胞に結合してその成長を抑制することを確認した。よって、L1CAMに対する抗体が肺癌の診断および治療、特に死亡率が高い肺癌の転移を早期に診断および治療して治療効果を高めることができることを見出すことにより、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、L1CAMの活性または発現を抑制する物質を含む、肺癌の成長または転移を抑制する薬学的組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記薬学的組成物を用いて肺癌を治療する方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、L1CAMの活性を抑制するL1CAMに対する抗体を提供することにある。
本発明の別の目的は、L1CAMの発現を抑制するオリゴヌクレオチドを提供することにある。
本発明の別の目的は、前記薬学的組成物を用いて肺癌細胞の成長または転移を抑制する方法を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1はマウスモノクローナル抗体A10−A3(A)と4−63(B)、および公知の抗体5G3(C)とUJ127(D)が胆管癌および肺癌などの様々な癌細胞および正常細胞の表面に結合するか否かを蛍光細胞染色およびフローサイトメトリーによって分析した結果を示す図である。
【図2】図2はA10−A3抗体の結合する抗原がL1CAMタンパク質であることを免疫沈降とウエスタンブロット方法によって証明した結果を示す。Aは胆管癌細胞Choi−CK細胞の表面をビオチン化させた後、抗体A10−A3または公知の抗−L1CAMモノクローナル抗体UJ127で免疫沈降させた後、沈降したタンパク質を10%SDS−PAGEとストレプトアビジン−HRPを用いたウエスタンブロットを行った結果である。Bは抗体A10−A3で免疫沈降させたタンパク質を10%SDS−PAGEで公知の抗−L1CAM抗体UJ127を用いたウエスタンブロットを行った結果、L1CAMが検出されることを確認したものであり、ここで、「Preclearing」は抗体を入れずに免疫沈降させた陰性対照群、「IP with A10−A3」は抗体A10−A3で免疫沈降させたもの、「IP with anti−L1CAM」はL1CAMに対する公知のモノクローナル抗体で免疫沈降させたもの、「A10−A3 only」は抗体自体のみをSDS−PAGEしたものをそれぞれ示す。Cは水溶性L1を発現させたHEK293T細胞培養液を公知の抗体UJ127と5G3、A10−A3抗体および4−63抗体を用いてウエスタンブロットした結果であり、ここで、「−」はL1発現ベクターを入れていない細胞培養液、「+」は水溶性L1発現ベクターを入れて培養した細胞培養液をそれぞれ示す。
【図3】図3はQ−TOF分析した結果を示したものである。Choi−CK細胞でA10−A3抗体を用いて免疫沈降させたタンパク質をSDS−PAGEで分離してトリプシンによって切断した後、Q−TOF分析によって、得たペプチドが L1CAMであることを確認した図であって、下側のアミノ酸配列は全長L1AMを示し、上側のアミノ酸配列は全長L1CAM配列の下線部分にそれぞれ相当する、分析されたペプチドのアミノ酸配列を示す。
【図4】図4は肺癌患者組織をA10−A3(AおよびC)と4−63(B)の抗体を用いて免疫組織化学染色した結果であって、正常肺組織には結合せず、非小細胞肺癌(NSCLC)と小細胞肺癌(SCLC)の組織には結合することを示す写真である。
【図5】図5はL1CAMの発現抑制によって小細胞肺癌細胞の活性が減少することを示す。AはDMS114およびDMS53にL1CAMに対するsiRNAまたは非特異的なsiRNAを形質感染させてから、72時間経過の後、フローサイトメトリーによって分析した結果を示す。BおよびCはL1CAMに対するsiRNAを肺癌細胞に形質感染させた後、72時間経過の後、細胞の移動または増殖を分析した結果をそれぞれ示す。
【図6】図6はL1CAMに対する抗体による小細胞肺癌細胞の成長阻害効果を示す。Aは抗体A10−A3によるDMS53細胞の成長抑制効果を分析したもので、抗体の陰性対照群としては抗体を入れないか(mock)、あるいは抗体を沸かして不活性化させた抗体(boiled A10−A3)または正常マウスIgG(normal mouse IgG)使用したものである。Bは抗体A10−A3によるDMS114細胞の成長抑制効果を分析したものである。Cは抗体4−63、公知の抗体UJ127および5G3によるDMS114細胞の成長抑制効果を分析したもので、細胞成長の度合いを、抗体を入れていない対照群(control)に比べて百分率で表現したものである。
【図7】図7は抗体による小細胞肺癌細胞の浸潤および移動が抑制される効果を分析したものである。AはA10−A3抗体によるDMS114、DMS53細胞の浸潤抑制効果を示し、BはA10−A3抗体によるDMS114、DMS53細胞の移動抑制効果を示し、CはUJ127、4−63、5G3抗体によるDMS114、DMS53細胞の浸潤抑制効果を示し、DはUJ27、4−63、5G3抗体によるDMS114、DMS53細胞の移動抑制効果を示すもので、抗体の陰性対照群としては抗体を入れないか(control)、あるいは正常マウスIgG(mIgG)を使用し、細胞の浸潤と移動の度合いを、抗体を入れていない対照群(control)に対する百分率で表現したものである。
【図8】図8はDMS114、DMS53細胞の成長、移動および生存に関与する細胞信号伝達がA10−A3によって抑制されるかを分析した結果を示すもので、前記細胞培地に抗体を添加して30分、60分、120分培養した後、収去した細胞抽出物の量を取ってβ−actinに対する抗体を用いて確認し、phospho−ERK1/2、phospho−AKT、phospho−FAKに対する抗体を用いてウエスタンブロットを行った写真である。
【図9】図9はA10−A3抗体による非小細胞肺癌細胞A549、NCI−H522の成長(A)および移動(B)抑制効果を示す図で、抗体の陰性対照群としては抗体を入れないか(PBS)、あるいは正常マウスIgG(mIgG)を使用したものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一様態において、本発明は、L1CAMの活性または発現を抑制する物質を含む、小細胞肺癌の成長または転移を抑制する薬学的組成物に関する。
具体的な一様態において、本発明の薬学的組成物は、L1CAMの活性を抑制する物質を含むことができる。好ましくは、前記活性抑制物質は肺癌細胞表面抗原または分泌された表面抗原(L1CAM)を特異的に認識する抗体である。このような抗体は、モノクローナル抗体およびこれらのキメラ抗体、ヒト化抗体およびヒト抗体を全て含み、新規の抗体以外に、当該技術分野における公知の抗体も含むことができる。さらに好ましくは、前記抗体は新規のL1CAMに対するモノクローナル抗体A10−A3、4−63、またはL1CAMに対する公知のモノクローナル抗体UJ127、およびこれらのキメラ抗体、ヒト化抗体およびヒト抗体である。これらのA10−A3および4−63抗体はそれぞれ受託番号KCTC10909BPおよびKCTC10966BPによって分泌されて生産される。
【0013】
前記抗体は、L1CAMを特異的に認識する結合の特性を持つ限りは、2つの重鎖と2つの軽鎖の全長を有する完全な形態だけでなく、抗体分子の機能的断片を含む。抗体分子の機能的断片とは、少なくとも抗原結合機能を保有している断片を意味し、例えばFab、F(ab’)、F(ab’)およびFvなどがある。
【0014】
別の様態において、前記薬学的組成物は、L1CAMの発現を抑制する物質を含むことができる。L1CAMを発現する癌細胞においてL1CAMの発現を抑制する物質を用いてL1CAMの発現を抑制させると、癌細胞の成長と転移の役割を果たすL1CAMの作用が減少して癌治療が可能である。好ましくは、前記L1CAMの発現を抑制する物質はsiRNA、shRNA、およびアンチセンスオリゴヌクレオチド(antisense oligonucleotide)よりなる群から選択され、さらに好ましくは5’−TGGTACAGTCTGGGdtdt−3または5’−CAGCAACTTTGCTCAGAGGdtdt−3’の配列を含むsiRNAである。
【0015】
用語「siRNA」は、RNA干渉または遺伝子サイレンシング(silencing)を媒介することが可能な約20ヌクレオチドサイズの小さい核酸分子を意味し、「shRNA」は、siRNAターゲット配列のセンスおよびアンチセンス配列が5〜9個の塩基よりなるループを挟んで位置した短いヘアピンRNA(short hairpin RNA)を意味する。最近、遺伝子水準でタンパク質の発現を調節するための方法として、RNA干渉(RNAi)現象を用いた方法が研究されている。 siRNAは、一般に、相補的な配列を有するmRNAに特異的に結合してタンパク質発現を抑制することが明らかになっている。
【0016】
本発明の組成物に含まれるsiRNAを製造する方法には、siRNAを直接化学的に合成する方法(Sui G et al., (2002) Proc Natl Acad Sci USA 99:5515-5520)や、invitro転写を用いたsiRNAの合成法(Brummelkamp TR et al., (2002) Science296:550-553)などがあるが、これに限定されない。また、shRNAは、siRNAの高価の生合成費用や、低い細胞形質感染効率によるRNA干渉効果の短時間維持などの欠点を克服するためのもので、RNA重合酵素IIIのプロモータからアデノウイルス、レンチウイルスおよびプラスミド発現ベクターシステムを用いてこれを細胞内に導入して発現させることができる。このようなshRNAは、細胞内に存在するsiRNAプロセシング酵素(Dicer or Rnase III)によって、正確な構造を持つsiRNAに転換され、目的遺伝子のサイレンシングを誘導することが広く知られている。
【0017】
用語「アンチセンス」は、アンチセンスオリゴマーがワトソン・クリック塩基対の形成によってRNA内の標的配列と混成化されて、標的配列内における、典型的にmRNAとRNA:オリゴマーへテロ二本鎖の形成を許容する、ヌクレオチド塩基の配列およびサブユニット間のバックボーンを有するオリゴマーを指す。オリゴマーは、標的配列に対する正確な配列相補性または近似相補性を持つことができる。このアンチセンスオリゴマーは、mRNAの翻訳を遮断または阻害し、mRNAのスプライス変異体を生産するmRNAのプロセシング過程を変化させることができる。よって、本発明のアンチセンスオリゴマーは、L1CAM遺伝子のmRNAに相補的なアンチセンスオリゴマーである。
【0018】
好ましくは、本発明の組成物には、公知の治療剤を直接的または間接的に結合させるか、あるいは一緒に含ませることができる。抗体と結合可能な治療剤には放射性核種、薬剤、リンフォカイン、毒素または二重特異的抗体などが含まれる。ところが、本発明の組成物に含まれる治療剤は、これに限定されず、抗体と結合させることができるか、あるいは抗体、siRNA、shRNAおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドと共に投与して癌治療効果を得ることが可能な公知の治療剤であれば可能である。
【0019】
前述した放射線核種には、H、14C、32P、35S、36Cl、51Cr、57Co、58Co、59Fe、90Y、125I、131Iおよび186Reなどがあり、これに限定されない。
【0020】
前述した薬剤および毒素には、エトポシド、テニポシド、アドリアマイシン、ダウノマイシン、カルミノマイシン、アミノプテリン、ダクチノマイシン、マイトマイシン類、シス−白金およびシス−白金同族体、ブレオマイシン類、エスペラマイシン類、5−フルオロウラシル、メルファラン、およびその他の窒素マスタードなどがあり、これに限定されない。
好ましくは、本発明の組成物は投与方式によって許容可能な担体を含むことができる。
【0021】
投与方式に適した製剤は、当該分野に公知になっている。また、本発明の薬学的組成物は癌治療のために薬学的有効量で投与できる。典型的な投与量の水準は標準臨床的技術を用いて最適化することができる。
【0022】
また、本発明は前記薬学的組成物を用いて肺癌を治療する方法に関する。
具体的に、本発明の治療方法は、薬学的組成物を薬学的有効量で人体内に投与することを含む。前記薬学的組成物は、非経口、皮下、腹腔内、肺内、および鼻腔内に投与でき、局部的免疫抑制治療のために、必要であれば病変内投与を含む適切な方法によって投与できる。非経口注入には筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内または皮下投与が含まれる。好ましい投与方式は静脈注射、皮下注射、皮内注射、筋肉注射および点滴注射である。
【0023】
本発明の薬学的組成物を人体内に投与し、これに含まれたL1CAMに特異的な抗体を癌細胞の表面抗原L1CAMに結合させて癌細胞の増殖または転移を抑制させることにより、胆管癌を治療することができる。
【0024】
また、本発明の薬学的組成物を人体内に投与し、抗体を分泌されたL1CAMと結合させて癌細胞の成長および転移を遮断させることにより、肺癌を治療することができるうえ、これを人体内に投与して癌細胞の表面抗原L1CAMに結合させて、これを認知する免疫細胞が肺癌細胞を捕食、自殺および殺害させることにより、小細胞肺癌を治療することができる。
【0025】
また、本発明の薬学的組成物に含まれたL1CAMの発現抑制物質を用いてL1CAMの発現を抑制させると、肺癌細胞の成長および転移の役割を果たすL1CAMの作用が減少して肺癌治療が可能である。
【0026】
別の様態において、本発明は、L1CAMの活性を抑制するL1CAMに対する抗体、またはL1CAMの発現を抑制するL1CAMに対するオリゴヌクレオチドに関する。
具体的な一様態において、前記抗体は、本発明に係る組成物で言及したように、L1CAMに特異的に結合する特性を持つ限りは、2つの重鎖と2つの軽鎖の全長を有する完全な形態だけでなく、抗体分子の機能的断片も含む。抗体分子の機能的断片とは、少なくとも抗原結合機能を保有している断片を意味し、例えばFab、F(ab’)、F(ab’)およびFvなどがある。
【0027】
好ましくは、前記抗体は、肺癌細胞の表面抗原または分泌された表面抗原(L1CAM)を認識する抗体である。前記抗体は、肺癌細胞の表面タンパク質L1CAMと結合してその作用を抑制または中和(neutralization)させ、癌細胞と結合して癌細胞の成長および転移抑制を図り、癌細胞を捕食、自殺または殺害させることができることを特徴とする。
【0028】
前述したUS2004/0115206に開示されているように、L1CAMの抗体はL1CAMの作用を必ずしも抑制するのではない。本発明の抗体は、L1CAMの作用を促進する抗体ではなく、L1CAMの活性を抑制する抗体であることを特徴とする。
さらに好ましくは、前記抗体は新規のモノクローナル抗体A10−A3または4−63である。
【0029】
具体的な別の一様態において、本発明のL1CAMの発現を抑制するL1CAMに対するオリゴヌクレオチドは、本発明の組成物で言及されたL1CAMに対するsiRNA、shRNAおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドから選択される。
【0030】
具体的な一実施例として、本発明者らは、胆管癌細胞を大量培養した後、マウスの足底に前記細胞を注入し、前記マウスのリンパ節(lymph node)からリンパ球を分離して骨髄腫(myeloma)癌細胞と細胞融合させることにより、胆管癌細胞に結合する抗体を生産するマウスハイブリドーマを製造した。
【0031】
より具体的に、本発明者らは、胆管癌細胞SCKとChoi−CKをマウスの足底に注射し、前記マウスのリンパ節からリンパ球を分離した。その後、前記リンパ球とFO骨髄腫細胞株とを細胞融合させた後、抗体が発現するクローンを選別した。前記製造したクローンの中で、比較的安定的にモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ上澄み液の胆管癌と肺癌細胞に対する結合能を調査し、これらのモノクローナル抗体、およびモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマをハイブリドーマA10−A3と命名し、これを2006年2月20日付で韓国生命工学研究院の遺伝子銀行に寄託した(住宅番号:KCTC10909BP)。また、ヒト胚芽幹細胞を注射して得た抗体のうち、L1CAMを認識する抗体4−63を得て、この抗体も胆管癌と肺癌に結合することを確認し、これを2006年7月13日付で韓国生命工学研究院の遺伝子銀行に寄託した(受託番号:KCTC10966BP)。前記モノクローナル抗体は、本発明に係る前記ハイブリドーマによって分泌され、胆管癌または肺癌の癌細胞表面タンパク質としてのL1CAMに特異的に結合した。具体的に、前記モノクローナル抗体が認識する癌細胞は、胆管癌、肺癌などの癌細胞株には結合するが(図1参照)、肝細胞、HUVEC(ヒト由来の臍帯静脈内皮細胞)および抹消血液リンパ球(peripheral blood lymphocyte)などの正常細胞には結合せず(図1参照)、これらの抗体を使用したときに肺癌細胞の成長、移動または浸潤が抑制された。また、公知のL1CAMに対する抗体5G3は、肺癌細胞に結合するが、癌の成長を抑制することはできなかった(図5および図6参照)。別の公知の抗体UJ127は肺癌細胞に結合してそれらの成長を抑制した。これにより、L1CAMの抗体が必ずしもL1CAMの作用を抑制するのではないことが分かった。
【0032】
前述したように、これまではL1CAMが肺癌では発現するが、細胞の増殖とは関係ないものと知られているが、本発明者らは、L1CAMが肺癌で発現するだけでなく、肺癌細胞の成長、転移、増殖および移動に関連し、よってL1CAMが肺癌細胞の癌進行に重要に作用することを最初に確認した。
【0033】
したがって、本発明に係るL1CAMに特異的な抗体、またはsiRNA、shRNAおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドなどのL1CAMの活性または発現を抑制する物質、およびこれらを含む薬学的組成物は、肺癌の診断および治療、特に死亡率の高い肺癌の転移を早期に診断および治療して治療効果を高めることができる。
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、下記実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容を限定するものではない。
【実施例】
【0034】
実施例1:癌細胞の培養
癌細胞株は、全て10%牛胎児血清(Gibco社)を含有する次の培地を用いて、5%の二酸化炭素が維持される37℃の恒温培養器で培養した。SH−J1(hepatocellular carcinoma)、SCK(cholangiocarcinoma)、Choi−CK(cholangiocarcinoma)およびACHN(Renal cell adenocarcinoma)細胞はMEM(Gibco社)培地を用い、SK−OV3(ovary adenocarcinoma)細胞はMcCoy 5A Medium(Gibco社)培地を用いた。A549(non small cell lung carcinoma)はHam’s F12K培地で培養し、NCI−H522(non small cell lung carcinoma)、DMS114(small cell lung carcinoma)、DMS53(small cell lung carcinoma)、NCI−H69(small cell lung carcinoma)はRPMI1640培地で培養した。SH−J1、SCKおよびChoi−CK細胞株はキムデゴン博士(全北大学校医科大学)から得た。その外の癌細胞株はATCCから購入した。
【0035】
正常細胞である肝細胞(hepatocyte)はCambrax社から購入し、HUVEC細胞もCambrax社から購入した後、10%の牛胎児血清(Gibco)を含有するEGM−2(Hyclone社)培地を用いて、5%の二酸化炭素が維持される37℃の恒温培養器で培養した。 抹消血液リンパ球(PBL)は、ヒトの血液からフィコール密度勾配で遠心分離により分離した後で収得した。
【0036】
実施例2:モノクローナル抗体A10−A3の製造
培養した癌細胞Choi−CKとSCKを細胞分離緩衝液(Invitrogen)を用いて取り外し、約5×10の細胞を30μLのPBSに浮遊させた後、細胞をBalb/cマウスの右足底にChoi−CKを注射し、3日後に左足底にはSCKを注射した。これを3〜4日の間隔で6回反復投与し、細胞融合1日の前にさらに注射した。リンパ節細胞と融合させるFO骨髄腫細胞株(ATCC、USA)は、10%の牛胎児血清を含有したDMEM(Gibco社)培地で2週前から培養して準備した。
【0037】
癌細胞Choi−CKとSCKで免疫させたマウスの膝窩リンパ節をそれぞれ取り出してDMEM( Gibco社)培地でよく洗浄し、培養皿でよく粉砕して細胞浮遊物を15mLのチューブに移した。FO骨髄腫細胞を遠心分離して収去し、10mLのDMEM培地に懸濁して前記リンパ節の細胞と共に細胞数を計数した。その後、10個の骨髄腫細胞(FO)と10個のリンパ節細胞を50mLのチューブに移して混ぜた後、200×gで5分間遠心分離して上澄み液を除去し、しかる後に、37℃の水が充填されたビーカーに2分間放置した。チューブを軽く叩いて細胞を柔らかくし、37℃の水に漬浸した状態でゆっくり振とうしながら、1mLのPEG溶液(Gibco社)を1分間徐々に添加した。100×gで2分間遠心分離し、5mLのDMEM培地を3分にわたって徐々に添加し、さらに5mLのDMEM培地を2分間ゆっくり添加した後、200×gで遠心分離して細胞を回収した。そして、細胞融合効率および生存率を高めるために、ハイブリドーマクローニング因子(Hybridoma Cloning Factor)(BioVeris社、USA)を予め10%で正常培地(DMEM+20%の牛胎児血清)で混ぜておいた。回収した細胞を、ハイブリドーマクローニング因子を混ぜた30mLの正常培地(DMEM+20%の牛胎児血清)に丁寧に懸濁した。37℃のCO培養器で30分間放置した後、96ウェルプレートにウェル当り70μLずつ10個の細胞となるように分注して37℃のCO培養器で培養した。翌日70μLのHATを加え、3日間隔でHAT培地で2週以上成長させながら、成長するコロニーを観察した。このようにChoi−CK細胞を免疫注射したリンパ節と、SCK細胞を免疫注射したリンパ節から分離したリンパ球を骨髄腫細胞と融合させて得たハイブリドーマコロニーの上澄み液を用いて次の実験を行った。
【0038】
抗体が発現するクローンを選別するために、サンドイッチELISA(Enzyme Linked Immunosorbent Assay)法を使用した。抗マウスIgGまたはIgM抗体を、2μg/mLでコートしたプレートにハイブリドーマ培養液100μLを添加して37℃で1時間反応させ、さらに抗マウスIgGまたはIgMのHRP(horseradish peroxidase、Sigma社)の1/5000希釈液と1時間さらに反応させた。0.05%のツイン20を添加したリン酸緩衝液によって培養容器を洗浄し、OPD(Sigma社)および過酸化水素(H)の含まれた基質溶液を添加し、波長492nmの吸光分析器で吸光度を測定して抗体を生産するクローンを選別した。
【0039】
これらの製造したクローンの中で、比較的安定的に抗体を分泌するハイブリドーマ上澄み液のSCKおよびChoi−CK細胞に対する結合能を調査した。具体的に、培養されたChoi−CK細胞を細胞分離緩衝液(Gibco)を用いて20分間37℃で処理して単一細胞に分離した後、40μmのストレーナーを通過させて5×10細胞をフローサイトメトリーに使用した。まず、単一細胞化されたSCKおよびChoi−CK細胞をPBA(1%のBSAをPBSに溶解)に浮遊させ、抗体上澄み液を4℃で30分間反応させた。4℃で1200rpmにて5分間遠心分離して上澄み液100μLを除去し、ここに抗マウスIg−FITC(BD)を200倍希釈させて4℃で30分間反応させた後、PBAで2回洗浄し、ヨウ化プロピジウム(Propoidium Iodide、PI)陰性の細胞のみを選んでフローサイトメトリー(FACS caliber)によってSCKおよびChoi−CK細胞に対する結合能を分析した。
【0040】
その結果、SCKおよびChoi−CKに結合する抗体を分泌する様々なハイブリドーマを選別し、持続的な継代培養によって安定化を維持させた後、サブクローニングした。前記サブクローニングによって確実に安定性を維持させたSCKおよびChoi−CK細胞に対する特異性を維持した抗体A10−A3を分泌するハイブリドーマを選別した。
【0041】
前記モノクローナル抗体A10−A3を分泌するハイブリドーマをハイブリドーマA10−A3(受託番号:KCTC10909BP)と命名し、これらを2006年2月20日付でKCTC(Korean Collection for Type Cultures、韓国大田市儒城区魚隠洞52番地に所在する韓国生命工学研究院)に寄託した。
【0042】
実施例3:モノクローナル抗体A10−A3が認識する抗原の分離および同定
実施例3−1:抗原の分離
モノクローナル抗体A10−A3が認識する細胞表面認識因子を分離するために、まず、培養したChoi−CK細胞をPBS緩衝溶液で洗浄し、EZ−Link Sulfo−NHS−LC−Biotin(Pierce、Rockford、IL)でビオチン化させた後、細胞を溶解溶液(25mM Tris−HCl、pH7.5、250mM NaCl、5mM EDTA、1% Nonidet P−40、2μg/mLのアポロチニン、100μg/mLのフェニルメチルスルホニルフッ化物、5μg/mLのロイペプチン)で20分間4℃で反応させた後、細胞残骸(debris)を除去するために遠心分離を行った。上澄み液のみを回収してBCA(bicinchoninic acid)タンパク質検定キット(Pierce)を用いてタンパク質の濃度を決定した。
【0043】
タンパク質Gプラス−セファロース(Santa Cruz Biotechnology;Santa Cruz)に非特異的に結合するタンパク質は、細胞溶解液を20μLのタンパク質Gプラス−セファロースと4℃で2時間反応させた後、遠心分離して上澄み液のみを回収して準備し、回収した上澄み液はさらに約1μgの抗体と4℃で12時間反応させた。ここに20μLのタンパク質Gプラス−セファロースを添加して4℃で2時間反応させた後、遠心分離して沈殿物を回収した。回収した沈殿物を細胞溶解液で10回以上洗浄し、残っているタンパク質を10%SDS−PAGEで分離した。
【0044】
このタンパク質をニトロセルロース膜に移してウエスタンブロットを行った。ニトロセルロース膜を5%脱脂油含有のPBST(PBS+0.1%のTween20)緩衝溶液で1時間反応させてから、前記PBST緩衝溶液で2回以上洗浄した。前記反応されたニトロセルロース膜を、ストレプトアビジン−HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)コンジュゲート(1:1500、Amershambiosciences)を添加して1時間反応させた。前記PBST緩衝溶液で5回洗浄した後、ビオチン化タンパク質をECL検出試薬(Amersham biosciences)で発色させた。
【0045】
その結果、約200kDaサイズのタンパク質にA10−A3抗体が結合することを確認した(図2のパネルA)。抗体A10−A3によって免疫沈降するタンパク質を集めるために、1×10のChoi−CK細胞から得た細胞溶解液を前述の方法で免疫沈降させた後、SDS−PAGEを用いて分離した。このゲルをCoomassie G250(Biorad)で染色した。
【0046】
実施例3−2:質量分析(Mass Spectrometry)による抗原の同定
A10−A3によって免疫沈降したタンパク質を含むSDSゲルを、Coomassie G250(BIO−RAD)で供給者のプロトコール通りに染色した。タンパク質含有部分を切り出し、30%のメタノールで5分間洗浄した後、細かく粉砕した。ゲル切片を30%のメタノールによって染色が完全に脱色するまで反応させてから、100%のアセトニトリルによって10分間水分を除去し、30分間真空遠心分離器によって乾燥させた。乾燥したゲル切片は50mMの重炭酸アンモニウム溶液で300ngのトリプシン(Promega)と16時間37℃で反応させた。切断されたペプチドは3回100μLの50mM重炭酸アンモニウムで抽出し、真空遠心分離器で乾燥させた。ペプチド混合物は、Q−TOF micro(MicroMass)でESI Q−TOF MS/MS(electrospray quadrupole time of flight tandem mass spectrometry)によって分析した。その結果、このタンパク質がL1CAM(L1 Cell Adhesion molecule)であることを確認した(図3)。図3における下線部分は、実際アミノ酸配列がQ−TOFで解明されたことを表示する。よって、実際L1CAMに対する抗モノクローナル抗体UJ27.11をChemicon(USA)社から購入してビオチン標識付きChoi−CK細胞溶解液を用いて実施例4−1のように免疫沈降させ、ECLで確認した。図2のパネルAに示すように、A10−A3と抗−L1CAM抗体が約200kDaの同一位置にタンパク質を免疫沈降させることが分かる。
【0047】
実施例3−3:ウエスタンブロットによるL1CAM抗原の確認
A10−A3抗体が本当にL1CAMを認識するかを再確認するために、Choi−CKの細胞溶解液を用いてこの抗体でまず免疫沈降を行った。タンパク質Gプラス−セファロース(Santa Cruz Biotechnology;Santa Cruz)に非特異的に結合するタンパク質は、細胞溶解液を20μLのタンパク質Gプラス−セファロースと4℃で2時間反応させた後、遠心分離して上澄み液のみを回収して準備し(図2のpreclearing)、回収した上澄み液はさらに約1μgの抗体と4℃で12時間反応させた。ここに20μLのタンパク質Gプラス−セファロースを添加して4℃で2時間反応させた後、遠心分離して沈殿物を回収した。回収した沈殿物を細胞溶解液で10回以上洗浄し、残っているタンパク質を10%のSDS−PAGEで2−メルカプトエタノールなしに分離した。
【0048】
このタンパク質をニトロセルロース膜に移してウエスタンブロットを行った。ニトロセルロース膜を5%脱脂乳含有のPBST(PBS+0.1%Tween20)緩衝溶液で1時間反応させてから、前記PBST緩衝溶液で2回以上洗浄した。前記反応されたニトロセルロース膜を、公知の抗−L1CAM抗体UJ127(Chemicon)を1次抗体として添加して1時間反応させた。前記PBST緩衝溶液で5回洗浄した後、抗−マウスIgGのホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート(1:5000、Sigma)で1時間反応させた。さらにPBST緩衝溶液で5回洗浄した後、ECL検出試薬(Amersham biosciences)で発色させた。その結果、A10−A3によって免疫沈降した約200kDaサイズのタンパク質にL1CAM抗体が結合することを確認した(図2のパネルB)。これはさらにA10−A3抗体がL1CAMを認識することを示す。
【0049】
実施例3−4:水溶性L1CAMの発現
水溶性L1CAMを発現させるための発現ベクターを製作するために、培養された癌細胞Choi−CKからRNA抽出キット(Roche co.)を用いてtotal RNAを分離した。分離されたtotal RNAを鋳型としてRT−PCRキット(Roche co.)を用いて、2つの両末端プライマーIg−dom−F(5’−gAg gAg gAA TTC Cgg CgC Cgg gAA AgA Tgg TCg Tgg Cg−3’、38mer)とL1−Fn−Stop−R(5’−CTC TAg AgT TCT CgA gTC AgA gCC TCA CgC ggC C−3’、34mer)とpfu重合酵素(Solgent co.)を用いて95℃で5分間前処理反応させた後、95℃、30秒/58℃、30秒/72℃、2分間25回連鎖重合反応を行い、72℃で10分間重合反応を行って増幅した。
【0050】
増幅された水溶性L1 DNA断片をpJK−dhfr2発現ベクター(Aprogen)に挿入するために、ベクターと増幅されたDNA断片をEcoRIとXhoI酵素でそれぞれ切断し、1%アガロースゲルに電気泳動して当該断片を切り取った後、Gel purification kit(Intron co.)を用いて回収した。回収された2つのDNA断片をT4 DNAリガーゼ(Roche co.)を用いて16℃で30分間反応させることにより、大腸菌(E.coli DH5α)にヒートショック(heat shock)法によって形質転換させた。形質転換された細胞からプラスミドDNAを分離して塩基配列を分析することにより、水溶性L1CAMのcDNAがクローニングされていることを確認した。製造された発現ベクターはpJK−dhfr2−L1−monomerと命名した。
【0051】
水溶性L1CAMを発現させるために、pJK−dhfr2−L1−monomer DNAをHEK293T(ATCC CRL11268、以下「293T」という)に形質転換してL1−monomerを発現させた。500μLのOpti−MEM培地(Gibco BRL)にリポフェクタミン2000(Invitrogen co.)と前記発現ベクター10μgをそれぞれ混入して5分間常温で反応させる。2つの反応液を合わせた後、15分間常温でさらに反応させる。2つの反応液を常温で反応させる間、293T細胞をPBS緩衝溶液(pH7.4)で丁寧に洗浄して除去し、Opti−MEM培地を入れた後、さらに除去する。リポフェクタミン2000とDNAとを反応させた溶液にOpti−MEM培地4mLを入れて攪拌した後、これを293T細胞のある培養容器に注意深く仕込み、5%の二酸化炭素が維持される37℃の恒温培養器で培養した。6時間の培養後、5mLのOpti−MEM培地をさらに添加し、3日間培養した。
【0052】
実施例3−5:抗体の水溶性L1CAMに対する結合特異性の確認
293T細胞で水溶性L1CAMを発現させた細胞培養液と、水溶性L1CAMを発現させていない細胞培養液に対して10%のSDS−PAGEとウエスタンブロットを行った。ニトロセルロース膜を5%脱脂乳含有のTBST(TBS+0.05%のTween20)緩衝溶液を用いて4℃で12時間反応させてから、前記TBST緩衝溶液で2回以上洗浄した。公知の抗−L1CAM抗体UJ127(Chemicon)および5G3(Pharmingen)と前記A10−A3および4−63抗体を、5%脱脂乳含有のTBST緩衝溶液に1:10000で希釈された1次抗体と1時間反応させた。前記TBST緩衝溶液で5回洗浄した後、抗マウスIgGのホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート(1:5000、Sigma)で1時間反応させた。さらにTBST緩衝溶液で5回洗浄した後、ECL検出試薬(Amersham biosciences)で発色させた。その結果、前記各抗体は約200kDaサイズの水溶性L1CAMに結合することを確認した(図2のパネルC)。また、前記L1発現細胞培養液に対して前記抗体を用いてELISAを行った結果、各抗体は発現した水溶性L1CAMに対する結合特異性があることを確認した。
【0053】
実施例4:L1CAMの肺癌細胞株表面における発現分析
A10−A3ハイブリドーマ細胞株を無血清培地(PFHM、Invitrogen社)で培養した後、培養液からタンパク質G−セファロースカラム(Pharmacia、スウェーデン)を用いて精製した(Fike et al., Focus 12:79, 1990)。精製されたA10−A3抗体の様々な癌細胞に対する結合能を蛍光細胞染色によって実施例2と同様の方法で調査した(図1)。図1において、実線部分はモノクローナル抗体A10−A3、4−63、およびL1CAMに対する公知の抗体5G3(Pharmingen、San Diego、USA)とUJ127(Chemicon)であり、陰影部分は2次抗体のみを含んだものである。様々な癌細胞に対するA10−A3、4−63、5GおよびUJ127の結合能力を測定するために、フローサイトメトリーを用いた。その結果、前記モノクローナル抗体が肺癌細胞NCI−H522、A549、DMS114、DMS53およびNCI−H69に結合することを観察することができた(図1のパネルA、B、CおよびD)。ところが、癌細胞のACHNと、正常細胞の肝細胞、HUVECおよび抹消血液リンパ球(PBL)とは結合しない結果を示した。
【0054】
実施例5:肺癌組織におけるL1CAM発現の分析
免疫組織化学染色のために、それぞれの癌腫から厚さ3μmの切片を準備した。この切片を、それぞれポリ−L−リジンを塗布したスライドに接着させた。まず、60℃のオーブンで3時間乾燥させた後、キシレンによって室温で5分間3回脱パラフィン化させた。100%、90%、80%および70%のアルコールでそれぞれ1分間処理し、抗原性回復のためにtarget retrieval solution(DAKO、Carpinteria、CA)にスライドを浸漬した後、圧力釜を用いて4分間沸かしたTBST緩衝溶液(Tris−buffered saline−Tween20)で水洗した。高感度の免疫組織化学染色のために、Biotin−free Tyramide Signal Amplification SystemであるCSAIIkit(DAKO、Carpinteria、CA)を用いた。非特異抗原を除去するために、3%の過酸化水素に5分間反応させた後、緩衝溶液で5分間2回洗浄し、非特異タンパクの結合を除去するために、十分な無血清タンパク質ブロック(serum-free protein block)で5分間反応させた。1次抗体(A10−A3、4−63、1:50希釈)を塗布して15分間反応させ、抗マウス免疫グロブリン−HRPに15分間処理した。その後、増幅剤に15分間放置した後、抗−フルオレセイン−HRPに15分間反応させた。DABを用いて5分間発色させた後、Meyer’s hematoxylinで対照染色を行った。それぞれの段階が終わると、TBST緩衝溶液で5分間2回洗浄した。陰性対照群は、染色の際に1次抗体を除外して正常羊血清を添加し、あるいは1次抗体の代わりに正常マウスIgG1血清を添加し、残りの全ての過程は同様にした。
【0055】
その結果、A10−A3および4−63抗体は、正常組織には結合せず、非小細胞肺癌の大部分を占める偏平上皮癌(squamous cell carcinoma)、腺状皮癌(adenocarcinoma)および小細胞肺癌の組織によく結合することが分かった(図4のパネルAおよびB)。L1CAMの発現率は、小細胞肺癌患者の85%(陽性49/58組織数)、非小細胞肺癌患者の約10%(陽性4/39組織数)であった。図4のパネルCに示すように、小細胞肺癌の右部分のように高分化型(well-differentiated)SCLCに比べて右部分の低分化型(poorly-differentiated)SCLCでA10−A3抗体が良く結合した。これはL1CAMがSCLCの進行過程で発現することを示唆する。よって、L1CAMに対する抗体が小細胞肺癌の進行を遮断することにより、小細胞肺癌の効果的な治療剤になれることを示唆する。このため、本発明では、L1CAMの発現を抑制させるsiRNAが小細胞肺癌細胞の増殖または移動を減少させるかを分析した。
【0056】
実施例6:L1CAMに対するsiRNAの肺癌細胞阻害効果
実施例6−1:小細胞肺癌細胞におけるsiRNAを用いたL1CAMの発現抑制
L1CAMを細胞の表面で発現する小細胞肺癌細胞DMS114およびDMS53でL1CAMの発現をノックダウンさせるために、L1CAMに対するsiRNAオリゴヌクレオチド(5’−TGGTACAGTCTGGGdtdt−3’および5’−CAGCAACTTTGCTCAGAGGdtdt−3’)および非特異的なオリゴヌクレオチド(5’−CAGTCGCGTTTGCGACTGGdtdt−3’)をそれぞれ形質感染させた後、72時間培養した。L1CAMのノックダウンはA10−A3を用いたフローサイトメトリー、RT−PCRおよびウエスタンブロットによって確認した。L1CAMに対するsiRNAをDMS114およびDMS53に処理した結果を、非特異的なsiRNAを処理した対照群と比較したとき、L1CAMの全体発現量と細胞の表面に存在するL1CAMの量が減少することを確認した(図5のパネルA)。
【0057】
実施例6−2:L1CAM発現抑制後の小細胞肺癌細胞の活性分析
L1CAMに対するsiRNAを形質感染させた肺癌細胞と、非特異的なsiRNAを形質感染させた肺癌細胞の増殖(proliferation)および移動(migration)の度合いを比較した。増殖の度合いはそれぞれ同数の細胞を計数して72時間後の細胞をトリファンブルー(Tryphan Blue)溶液を用いて測定した。移動の度合いは、QCM 24−well cell invasion assay kit(Chemicon)とQCM 24−well colorimetric cell migration assay kit(Chemicon)を用いて分析した。その結果、siRNAによってL1CAMの発現が減少した細胞群は、L1CAMが正常的に発現する細胞群に比べて移動(図5のパネルB)および増殖(図5のパネルC)の度合いが減少することを確認した。これはL1CAMが小細胞肺癌細胞の成長および移動に作用していることを示唆する。
【0058】
実施例7:L1CAM特異的抗体による小細胞肺癌細胞の成長抑制
L1CAMに対する抗体が小細胞肺癌細胞の成長を阻害するかを実験するために、A10−A3抗体が結合するDMS53(図6のパネルA)およびDMS114(図6のパネルB)を用いた。1mLの培地内に1×10cellずつ入れて24ウェルプレートで培養し、A10−A3、4−63、UJ127、または5G3抗体を10μg/mLの濃度で添加した後、細胞を37℃のCO反応器で10日間反応させた。2日間隔で、抗体を含有させた新鮮な培地で取り替えた。2日間隔で細胞を回収して0.2%のトリファンブルー溶液における生存細胞の数を数え、全体細胞中の生存細胞の数を求めた。その結果、A10−A3抗体によってDMS114およびDMS53細胞の成長が約30%程度減少する結果を観察した。
【0059】
L1CAMに特異的に結合するものと知られている4−63抗体と公知の抗体UJ127(Chemicon)および5G3(Pharmingen)をDMS114細胞に処理したとき、4−63抗体とUJ127抗体は前記癌細胞に結合して(図1のパネルBおよびD)細胞の成長を約30%阻害したが、5G3抗体の場合、DMS114に結合したが(図1のパネルC)細胞の成長は阻害しないことを観察した(図6のパネルC)。この結果は、モノクローナル抗体が癌細胞に結合するとしても、必ずしも癌細胞の成長を阻害するのではないことを示唆する。図7のパネルBからも分かるように、5G3抗体はDMS114細胞の浸潤作用を阻害しなかった。
【0060】
実施例8:L1CAM特異的抗体による小細胞肺癌細胞の浸潤および移動の抑制
インベイジョンアッセイ(Invasion assay)を行うために、CHEMICON社のQCM 24−well cell invasion assay kitを使用した。インサート(insert)のECM層を再水和するために、予め温め直した300μLの無血清培地(RPMI、10mM HEPES、pH7.4)をインサートに入れ、常温で30分間放置しておいた。Choi−CK、SCK、SK−OV3、DMS114およびACHNをPBSによって2回洗浄した後、3mLのトリプシン−EDTAを添加し、37℃の培養器に入れた。インベイジョン培地(RPMI、10mM HEPES pH7.4、0.5%BSA)から取り外した細胞を収去し、細胞数を1×10/200μLのインベイジョン培地に合わせた後、それぞれのインサートに細胞を仕込み、抗体A10−A3、4−63または公知の抗体5G3(10μg/mL)と正常マウスIgG(10μg/mL)を処理した。Lower chamberに10%のFBSを入れたインベイジョン培地を仕込み、72時間37℃の培養器で培養した。培養が終わった後、インサートに残った細胞と培地を除去し、インサートを新規のウェルに移した。予め温め直した細胞分離溶液225μLにインサートを乗せ、37℃の培養器で30分間培養した。残った細胞を完全に取り外すためにインサートを振とうし、細胞分離溶液と細胞混入溶液に75μLのLysis buffer/Dye solutionを仕込み、常温で15分間放置した。200μLの溶液を96ウェルに移して480nm/520nmのfluorescenceで読み取った。その結果、A10−A3はDMS114およびDMS53細胞の浸潤を約30%抑制することが分かった(図7のパネルA)。4−63、UJ127抗体も2細胞の浸潤を約30%抑制したが、公知の抗体5G3はDMS114の浸潤を阻害しなかった(図7のパネルC)。
【0061】
マイグレーションアッセイ(Migration assay)の際には、QCM 24−well colorimetric cell migration assay kit(Chemicon)を用いて分析した。実験方法はインベイジョンアッセイと同様であった。その結果、A10−A3がDMS114よびDMS53の移動を約30%抑制することが分かった(図7のパネルB)。4−63、UJ127抗体も2細胞の移動を約20%抑制した(図7のパネルD)。
【0062】
実施例9:A10−A3抗体による小細胞肺癌細胞の信号伝達抑制
実施例9−1:ERKリン酸化の抑制
癌細胞の成長、移動および生存に関与するERK(extracellular signal-regulated kinases)1/2リン酸化がA10−A3抗体によって減少するかをウエスタンブロットで検証するために、DMS114およびDMS53細胞にA10−A3抗体を10μg/mLでそれぞれ30分、60分、120分間それぞれ処理した後、細胞を収去して細胞溶解液に溶かした。BCA(Bicinchoninic acid)のタンパク質検定キット(Pierce)を用いてタンパク質の濃度を決定した後、40μgのタンパク質を12%SDS−PAGEで展開し、ニトロセルロース膜に25Vで90分間ウエスタントランスファーした。膜を5%脱脂乳で一晩4℃でブロッキングし、Rabbit polyclonal anti−phospho ERK1/2(Ab Cam、1:1000)抗体と1%脱脂乳で一晩反応させた。リン酸化していないERK1/2の発現を調査するためには、同量のタンパク質を前述と同様に処理し、ブロッキングしたニトロセルロース膜をanti−ERK1/2(Ab Cam、1:1000)抗体と1時間反応させた。抗−ウサギホースラディシュペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート抗体(Cell Signaling、1:10000)と1時間反応させ、PBSTで洗浄した後、ECL(Amersham Pharmacia Biotech)でphospho ERK1/2とERK1/2を検出した。同一のERK1/2が発現するDMS114、DMS53細胞で抗体A10−A3を処理した細胞でのみphospho−ERK1/2の量が著しく減少することを観察することができた(図8)。
【0063】
実施例9−2:A10−A3抗体によるAKTリン酸化の抑制
癌細胞の生存に関与するAktリン酸化がA10−A3抗体によって減少するかをウエスタンブロットによって検証するために、DMS114、DMS53細胞に10μg/mLの抗体A10−A3 をそれぞれ30分、60分、120分間それぞれ処理した後、細胞を収去して細胞溶解液に溶かした。BCA(bicinchoninic acid)タンパク質検定キット(Pierce)を用いてタンパク質の濃度を決定した後、40μgのタンパク質を12%SDS−PAGEで展開し、ニトロセルロース膜に25Vで90分間ウエスタントランスファーした。膜を5%脱脂乳で一晩4℃でブロッキングし、Rabbit polyclonal anti−phospho Akt(Ab cam、1:1000)抗体およびRabbit polyclonal anti−Akt(Ab cam、1:1000)と1%脱脂乳で一晩反応させ、anti− rabbit IgG HRP(Santa Cruz、1:10000)抗体と1時間反応させた。PBSTで洗浄した後、ECL(enhanced chemiluminescence reagent)(Amersham Pharmacia Biotech)でphospho Aktと全体Aktを検出した。抗体A10−A3を処理した細胞でphospho Aktの量が減少することを観察することができた(図8)。
【0064】
実施例9−3:A10−A3抗体によるFAK活性化の抑制
癌細胞の成長および移動に重要に作用するFAK(focal adhesion kinase)のリン酸化がA10−A3抗体によって減少するかをウエスタンブロットによって分析するために、DMS114、DMS53細胞に抗体A10−A3を30分、60分、120分間それぞれ処理した後、細胞を収去して細胞溶解液に溶かした。BCAタンパク質検定キット(Pierce)を用いてタンパク質の濃度を決定した後、40μgのタンパク質を7.5%SDS−PAGEで展開し、ニトロセルロース膜に25Vで90分間ウエスタントランスファーした。膜を5%脱脂乳で一晩4℃でブロッキングし、rabbit polyclonal anti−phospho FAK(Ab cam、1:1000)抗体と1%脱脂乳で一晩反応させ、anti−β actin(Oncogene、1:4000)抗体と1時間反応させた。そして、抗−ウサギホースラディシュペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート抗体(Cell Signaling、1:10000)と1時間反応させ、PBSTで洗浄した後、ECL(Amersham Pharmacia Biotech)でphospho FAKとβ−actinを検出した。抗体A10−A3を処理したDM114とDMS53でphospho−FAKの量が著しく減少することを観察することができた(図8)。
【0065】
実施例10:L1CAM特異的抗体の非小細胞肺癌細胞の成長抑制
実施例5に示すように非小細胞肺癌でもL1CAMが発現するため、L1CAMに対する抗体が非小細胞肺癌細胞の成長または移動を阻害するかを分析してみた。
【0066】
実施例10−1:L1CAMに対する抗体の非小細胞肺癌細胞の成長抑制効果
L1CAMに対する抗体が非小細胞肺癌細胞の成長を阻害するかを分析するために、A10−A3抗体が結合するA549およびNCI−H522細胞を用いて、実施例7と同様にして細胞増殖抑制実験を行った。A10−A3抗体を10μg/mLの濃度で細胞培養液に添加した後、2日間隔で抗体を含有させた新鮮な培地で取り替えた。2日間隔で細胞を回収して、0.2%トリファンブルー溶液で生きている細胞を計数し、全体細胞中に生きている細胞の細胞数を求めた。その結果、A10−A3抗体によってA549、NCI−H522細胞の成長が減少したが、その抑制効果はA10−A3抗体による他の癌細胞(例えば、胆管癌細胞または小細胞肺癌細胞)の成長抑制効果より低かった(図9のパネルA)。公知の抗体UJ127を使用した結果もほぼ同一であった。
【0067】
実施例10−2:L1CAMに対する抗体の非小細胞肺癌細胞の移動抑制効果
実施例8と同様の方法によってA10−A3がA549、NCI−H522細胞の移動を抑制するかを分析した結果、A10−A3抗体はA549、NCI−H522細胞の移動を著しく減少させた(図9のパネルB)。公知の抗体UJ127を使用した結果もほぼ同一であった。この結果はL1CAMに対する抗体が非小細胞肺癌の転移を抑制することにより、非小細胞肺癌の治療効果を示すことができることを示唆する。
【産業上の利用可能性】
【0068】
上述したように、本発明者らは、L1CAMが周知とは異なり小細胞肺癌の進行に重要に作用することを明らかにした。よって、本発明の小細胞肺癌細胞表面のL1CAMタンパク質を認識しながら、小細胞肺癌の癌組織に特異的に結合する抗体または小細胞肺癌細胞のL1CAMの発現を抑制するsiRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはshRNA、これを含む薬学的組成物は、小細胞肺癌細胞の成長、浸潤および移動を阻害させるので、小さ細胞肺癌の治療に有用に利用できる。また、本発明では、非小細胞肺癌でもL1CAMが発現し、L1CAMに対する抗体が非小細胞肺癌の移動を減少させる作用を解明したので、非小細胞肺癌のL1CAMに特異的に結合してその活性を抑制させる抗体が、非小細胞肺癌の治療に有用に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
L1CAMの活性または発現を抑制する物質を含んでなり、
前記L1CAMの活性を抑制する物質はL1CAMの活性を抑制するL1CAM特異的な抗−L1CAM抗体、該抗−L1CAM抗体の抗原結合断片、および抗−L1CAM抗体またはその抗原結合断片の変異体から選ばれるものであり、前記L1CAMの発現を抑制する物質は前記L1CAMの発現を抑制するオリゴヌクレオチドである、肺癌の成長または転移を抑制する薬学的組成物。
【請求項2】
前記L1CAMの活性を抑制する物質が、細胞膜結合形態または細胞膜から遊離された形態を認識することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
L1CAMの発現を抑制するオリゴヌクレオチドが、L1CAMをコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNAおよびshRNAよりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記抗体が、受託番号KCTC10966BPのハイブリドーマによって分泌される4−63、またはUJ127であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記siRNAが5’−TGGTACAGTCTGGGdtdt−3または5’−CAGCAACTTTGCTCAGAGGdtdt−3’の配列を有することを特徴とする、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1の組成物を投与する段階を含む、肺癌の治療方法。
【請求項7】
L1CAMの発現または活性を抑制することにより肺癌の成長または転移を抑制する方法。
【請求項8】
L1CAMに特異的な抗−L1CAM抗体を用いて肺癌を診断する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−501548(P2010−501548A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−525497(P2009−525497)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際出願番号】PCT/KR2007/004045
【国際公開番号】WO2008/023946
【国際公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(501245997)コリア リサーチ インスティテュート オブ バイオサイエンス アンド バイオテクノロジー (15)
【Fターム(参考)】