胆管癌特異的糖鎖エピトープを認識するモノクローナル抗体
【課題】ムチンMUC5ACにおける胆管癌特異的な糖鎖エピトープを認識し、胆管癌患者の血清において胆管癌特異的にMUC5ACを検出することができる新規なモノクローナル抗体を提供すること。
【解決手段】胆管癌細胞におけるムチンMUC5ACの胆管癌特異的糖鎖エピトープを認識するモノクローナル抗体。
【解決手段】胆管癌細胞におけるムチンMUC5ACの胆管癌特異的糖鎖エピトープを認識するモノクローナル抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胆管癌特異的糖鎖エピトープを認識するモノクローナル抗体に関する。より詳細には、本発明は、患者血清を用いて胆管癌を診断することができ、かつ胆管癌細胞の増殖を阻害できることを特徴とする、胆管癌特異的糖鎖エピトープを認識するモノクローナル抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
モノクローナル抗体 は、癌の早期診断、特異的診断、スクリーニング、及び癌治療の分子標的の同定のために広く使用されている。最近、モノクローナル抗体のヒト化が実現可能となり、各種のヒト化モノクローナル抗体が、悪性腫瘍や自己免疫疾患の治療において使用されている(例えば、CD3 (Orthoclone OKT3)、糖タンパクIIb/IIIa受容体 (ReoPro), ERBB2 (Herceptin), CD20 (Rituxan), CD25 (Zenapax and Simulect), RSVgpF (Synagis), TNF-α(Remicade), 及びIL-6Rなど)。モノクローナル抗体の応用のためには、各種腫瘍の癌特異的抗原を特異的に認識するモノクローナル抗体を樹立することが必要である。抗体の特異性は、モノクローナル抗体の臨床応用にとって重要な問題である。癌細胞の表面や癌患者の血清中に特異的に発現する新規分子を同定するために多くの研究がなされているが、それらの多くは、癌特異的マーカーと思われる分子やエピトープを効率的に同定するものではない(非特許文献1)
【0003】
プロテオミクス研究により、癌細胞では糖タンパク質の糖鎖の発現に変動が生じ、糖鎖領域上のエピトープが臨床診断や薬剤治療の分子標的の候補となり得ることが示されている(非特許文献2)。モノクローナル抗体は糖タンパク質上の任意のエピトープを認識できるが、免疫応答は、ハプテン−キャリアモデルで提唱されているようにT細胞とB細胞の共同によって末梢リンパ器官で増強される(非特許文献3)。抗原は、末梢リンパ器官(即ち、脾臓、リンパ節、及びパイアー斑)の胚中心領域において抗原特異的B細胞の増殖を誘導する。抗原誘導されたB細胞は細胞分裂を経て、特異的に活性化されて胚中心領域を包囲しているT細胞との相互作用を通じて活性化誘導シチジンデアミナーゼAIDを誘導する(非特許文献4)。B細胞は、シトシン(C)からウリジン(U)、及びグアニン(G)からアデニン(A)への転位変異を起こすAIDの作用により免疫グロブリンV領域(Ig-V)遺伝子の体細胞超変異(SHM)を受け、その後、ウラシルDNAグリコシラーゼ(UNG)と変異性(error-prone)DNAポリメラーゼによって、GからA、及びAからGへのトランスバーション変異を受ける(非特許文献5)。Ig-V領域のSHMを誘導するこのプロセスは、T細胞依存性免疫応答においてIgV領域の親和性成熟としてT細胞に依存している(非特許文献6)。T細胞の活性化には、樹状細胞やマクロファージのような抗原提示細胞が必要である。これらの細胞は、外来抗原の食細胞作用を有し、抗原を処理して小さなペプチド片(10〜12アミノ酸)に切断し、それらは最終的に、抗原特異的T細胞のα及びβ鎖のT細胞抗原受容体に対する主要組織適合性抗原複合体(MHC)のクラスII分子の割れ目に存在する。最も効率的なT細胞とB細胞の共同がB細胞抗原受容体のエピトープを有する抗原に対して起こり、T細胞抗原受容体が認識できるようになる。しかし、特に非常に大きな糖鎖部分を有する糖タンパク質抗原の場合、抗原提示細胞は、MHCクラスII分子上に糖エピトープを提示しない。従って、そのような抗原はT細胞の十分な活性化を喚起せず、T細胞に依存しない免疫応答として知られる抗原反応性B細胞クローンを活性化できない。従って、非常に大きな糖鎖部分を有する糖タンパク質は、通常の方法では優れたモノクローナル抗体を作ることは非常に困難であることが予想される。
【0004】
以前に、本発明者らは、免疫応答中にGCのB細胞で選択的に上昇するGC関連核タンパク質(GANP)を命名される分子を同定した(非特許文献7)。GANPは210-kDaの核タンパク質であり、Saccharomyces mRNA輸送分子SAC3(非特許文献8)、MCM3-相互作用/アセチル化領域(非特許文献9)、及びRNAプライマーゼ領域(非特許文献10)と構造が類似している。GANPの欠損により、T細胞依存性抗原(TD-Ag)で免疫した際、Ig-V領域のSHMの生成に重大な欠損が生じた (非特許文献11)。対照的に、マウスでGANPを過剰発現すると (GANPTGマウス)、抗体のSHMと親和性成熟の増大が誘導された(非特許文献12)。GANPTG マウスは、モデルハプテン抗原エピトープであるニトロフェニル(非特許文献13)、及びHIVのV3ループ上のNL4-3ペプチドエピトープ(非特許文献14)に対する親和性が2倍高いモノクローナル抗体(KD = 1.1 x 10-11 M)を生成した。GANPの作用は、ニワトリDT40細胞及びDaudiヒトB細胞株でインビトロで培養した細胞株によって確認した。GANPTG マウスは、T細胞依存性免疫応答の下でペプチド抗原に対する高親和性モノクローナル抗体を作成するためのシステムとして有用である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Cho, W.C. & Cheng, C.H. Oncoproteomics: current trends and future perspectives. Expert Rev. Proteomics 4(3):401-410, 2007
【非特許文献2】Slovin, S.F., Keding, S.J. & Ragupathi, G. Carbohydrate vaccines as immunotherapy for cancer. Immunol. Cell Biol. 83(4):418-428, 2005
【非特許文献3】MacLennan, I.C. Germinal centers. Annu. Rev. Immunol. 12:117-139, 1994
【非特許文献4】Wolniak, K.L., Shinall, S.M. & Waldschmidt, T.J. The germinal center response. Crit. Rev. Immunol. 24(1):39-65, 2004。
【非特許文献5】Di Noia, J.M. & Neuberber, M.S. Molecular mechanisms of antibody somatic hypermutation. Annu. Rev. Biochem. 76:1-22, 2007
【非特許文献6】Peled, J.U., Kuang, F.L., Iglesias-Ussel, M.D., Roa, S. Kalis, S.L., Goodman, M.F. & Scharff, M.D. The biochemistry of somatic hypermutation. Annu. Rev. Immunol. 26:481-511, 2008
【非特許文献7】Kuwahara, K., Yoshida, M., Kondo, E., Sakata, A., Watanabe, Y., Abe, E., Kouno, Y., Tomiyasu, S., Fujimura, S., Tokuhisa, T., Kimura, H., Ezaki, T. & Sakaguchi, N. A novel nuclear phosphoprotein, GANP, is up-regulated in centrocytes of the germinal center and associated with MCM3, a protein essential for DNA replication. Blood 95(7):2321-2328, 2000
【非特許文献8】Fischer, T., Straser, K., Racz, A., Rodriguez-Navarro, S., Oppizzi, M., Ihrig, P., Lechner, J. & Hurt, E. The mRNA export machinery requires the novel Sac3p-Thp1p complex to dock at the nucleoplasmic entrance of the nuclear pores. EMBO J. 21(21):5843-5852, 2002
【非特許文献9】Takei, Y., Swietlik, M., Tanoue, A., Tsujimoto, G., Kouzarides, T. & Laskey, R. MCM3AP, a novel acetyltransferase that acetylates replication protein MCM3. EMBO Rep. 2(2):119-123, 2001
【非特許文献10】Kuwahara, K., Tomiyasu, S., Fujimura, S., Nomura, K., Xing, Y., Nishiyama, N., Ogawa, M., Imajoh-Ohmi, S., Izuta, S. & Sakaguchi, N. Germinal center-associated nuclear protein (GANP) has a phosphorylation-dependent DNA-primase activity that is up-regulated in germinal center regions. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 98(18):10279-10283, 2001
【非特許文献11】Kuwahara, K., Fujimura, S., Takahashi, Y., Nakagata, N., Takemori, T., Aizawa, S. & Sakaguchi, N. Germinal center-associated nuclear protein contributes to affinity maturation of B cell antigen receptor in T cell-dependent responses. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 101(4):1010-1015, 2004
【非特許文献12】Sakaguchi, N., Kimura, T., Matsushita, S., Fujimura, S., Shibata, J., Araki, M., Sakamoto, T., Minoda, C. & Kuwahara, K. Generation of high-affinity antibody against T cell-dependent antigen in ganp gene-transgenic mouse. J. Immunol. 174(8):4485-4494, 2005
【非特許文献13】Allen, D., Simon, T., Sablitzky, F., Rajewsky, K. & Cumano, A. Antibody engineering for the analysis of affinity maturation of an anti-hapten response. EMBO J. 7(7):1995-2001, 1988
【非特許文献14】Matsushita, S., Robert-Guroff, M., Rusche, J., Koito, A., Hattori, T., Hoshino, H., Javaherian, K., Takatsuki, K. & Putney, S. Characterization of a human immunodeficiency virus neutralizing monoclonal antibody and mapping of the neutralizing epitope. J. Virol. 62(6):2107-2114, 1988
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ムチンMUC5ACにおける胆管癌特異的な糖鎖エピトープを認識し、胆管癌患者の血清において胆管癌特異的にMUC5ACを検出することができる新規なモノクローナル抗体を提供することを解決すべき課題とした。本発明はさらに、上記モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、上記モノクローナル抗体の製造方法、上記モノクローナル抗体を含む胆管癌の診断薬、上記モノクローナル抗体を含む胆管癌を抑制及び/又は治療するための医薬、並びに上記モノクローナル抗体を用いた胆管癌の検出方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らはGANPトランスジェニックマウス(GANPTG マウス)を用いて、大きな糖鎖領域を有する糖タンパク質上に現れる糖鎖エピトープを認識する効率的かつ特異的なモノクローナル抗体を得た。GANPTGマウスを胆管癌(CCA)で免疫し、医薬目的に適用可能なMUC5ACの糖鎖エピトープを認識するモノクローナル抗体を取得した。胆管癌(CCA)は、タイ北東部で肝臓ジストマ病の後に発症すること、そして硬化性胆管炎による長期の炎症後にも発症することが知られている(Sripa, B., Kaewkes, S., Sithithaworn, P., Mairiang, E., Laha, T., Smout, M., Pairojkul, C., Bhudhisawasdi, V., Tesana, S., Thinkamrop, B., Bethony, J.M., Loukas, A., Brindley, P.J. Liver fluke induces cholangiocarcinoma. PLoS Med. 4(7):e201, 2007)。MUC5AC は、CCA患者の血清中で増加することが知られているが、多くの抗MUC5ACモノクローナル抗体はMUC5ACのポリペプチド部分に特異的であり、その親和性は、血清のELISAで癌患者を高い感度と特異性で見つけるためには不十分である。従って、CCA患者の血清で癌特異的MUC5ACのレベルを検出する高親和性モノクローナル抗体を入手する必要があった。スクリーニング後、本発明者らは、CCA細胞の糖タンパク質に対する複数のモノクローナル抗体を取得した。これらの抗体は、AS1及びAS2と命名した2つのエピトープに特異的であった。AS1及びAS2エピトープは、CCA症例の大部分から分泌・発現される大きな糖鎖領域を有する糖タンパク質上に検出された。AS1及びAS2エピトープの発現は、CCAに特異的である。AS1及びAS2に対するモノクローナル抗体は、CCA細胞の増殖をインビトロで阻害した。AS1及びAS2エピトープは、患者血清を用いた確定臨床診断に有用であり、抗体療法に適用可能である。AS1及びAS2エピトープはまた、薬剤設計のための分子標的としても有用である。本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
【0008】
即ち、本発明によれば以下の発明が提供される。
(1) 胆管癌細胞におけるムチンMUC5ACの胆管癌特異的糖鎖エピトープを認識するモノクローナル抗体。
(2) 胆管癌患者の血清中のムチンMUC5ACを認識するが、健常者、胃癌患者、膵臓癌患者、結腸癌患者及び肺癌患者の血清中のムチンMUC5ACを認識しない、(1)に記載のモノクローナル抗体。
(3) 胆管癌細胞の増殖阻害作用を有する、(1)又は(2)に記載のモノクローナル抗体。
【0009】
(4) 胆管癌の腫瘍組織又はその抽出物を投与したGANP遺伝子導入トランスジェニック非ヒト哺乳動物から抗体産生細胞を回収し、胆管癌の腫瘍組織又はその抽出物と反応性を有する抗体を産生する抗体産生細胞を選別し、選別された抗体産生細胞に抗体を産生させることにより得られる、(1)から(3)の何れかに記載のモノクローナル抗体。
(5) 受領番号FERM AP−21750(受託番号FERM P−21750)又は受領番号FERM AP−21751(受託番号FERM P−21751)を有するハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体。
【0010】
(6) 受領番号FERM AP−21750(受託番号FERM P−21750)又は受領番号FERM AP−21751(受託番号FERM P−21751)を有するハイブリドーマ。
(7) 胆管癌の腫瘍組織の抽出物を投与したGANP遺伝子導入トランスジェニック非ヒト哺乳動物から抗体産生細胞を回収し、胆管癌の腫瘍組織と反応性を有する抗体を産生する抗体産生細胞を選別し、選別された抗体産生細胞に抗体を産生させることを含む、(1)から(5)の何れかに記載のモノクローナル抗体の製造方法。
【0011】
(8) (1)から(5)の何れかに記載のモノクローナル抗体を含む、胆管癌の診断薬。
(9) (1)から(5)の何れかに記載のモノクローナル抗体を含む、胆管癌を抑制及び/又は治療するための医薬。
【0012】
(10) (1)から(5)の何れかに記載のモノクローナル抗体と被験者由来の試料とを接触させて、該試料中におけるムチンMUC5ACの胆管癌特異的糖鎖エピトープの存在の有無を検出することを含む、胆管癌の検出方法。
(11) 被験者由来の試料が血清又は血漿である、(10)に記載の胆管癌の検出方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のモノクローナル抗体は、ムチンMUC5ACにおける胆管癌特異的な糖鎖エピトープを認識し、胆管癌患者の血清において胆管癌特異的にMUC5ACを検出することができる。本発明のモノクローナル抗体は、胆管癌の診断薬、並びに胆管癌を抑制及び/又は治療するための医薬として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、CCA細胞に対するモノクローナル抗体の樹立の概要を示す。
【図2】図2は、モノクローナル抗体を用いた患者試料中の腫瘍関連抗原の検出を示す。
【図3】図3は、抗体の典型的スクリーニングの概要を示す。
【図4】図4は、糖タンパク質上の癌特異的エピトープを同定するためのサンドイッチELISAの概要を示す。
【図5】図5は、サンドイッチELISAの結果を示す。
【図6】図6は、CCAと他の癌を比較するサンドイッチELISAの結果を示す。
【図7】図7は、個々の血清試料との反応性をサンドイッチELISAで調べた結果を示す。
【図8】図8は、モノクローナル抗体の特異性をCCA腫瘍臨床試料を用いて免疫組織化学により調べた結果を示す。
【図9】図9は、モノクローナル抗体の特異性をCCA腫瘍臨床試料を用いて免疫組織化学により調べた結果を示す。
【図10】図10は、CCA患者のプールした血清中のAS1及びAS2抗原の分子の大きさを通常血清と比較して調べた結果を示す。
【図11】図11は、Alb/IgG除去血清を用いてAS1及びAS2を同定した結果を示す。
【図12】図12は、免疫沈降法を用いてAS1及びAS2を同定した結果を示す。
【図13】図13は、イムノクロマトグラフィー法を用いてAS1及びAS2を同定した結果を示す。
【図14】図14は、AS1−CCA質量分析の結果を示す。
【図15】図15は、AS1−CCA質量分析の結果を示す。
【図16】図16は、AS2−CCA質量分析の結果を示す。
【図17】図17は、AS2−CCA質量分析の結果を示す。
【図18】図18は、AS2−CCA質量分析の結果を示す。
【図19】図19は、イムノクロマトグラフィー法を用いてAS1及びAS2を同定した結果を示す。
【図20】図20は、AS1、AS2、MUC5ACの免疫沈降の概要を示す。
【図21】図21は、AS1で検出されるAS1、AS2、及びMUC5ACの免疫沈降を示す。
【図22】図22は、AS1及びAS2の特性決定(エピトープ)を示す。
【図23】図23は、AS1で処理した患者血清の酵素によるデグリコシレーションを示す。
【図24】図24は、AS1で処理した、酵素によるデグリコシル化したM213A SFMを示す。
【図25】図25は、AS1の抗原の位置の予想を示す。
【図26】図26は、AS1の抗原の位置の予想を示す。
【図27】図27は、コアO−結合型グリカンの構造を示す。
【図28】図28は、M055 CCA 細胞株の増殖に及ぼすAS1及びAS2のインビトロでの効果を示す。
【図29】図29は、M055 CCA 細胞株の増殖に及ぼすAS1及びAS2のインビトロでの効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明においては、T細胞依存性抗原(TD-Ag)に対する高親和性モノクローナル抗体を産生するganp遺伝子トランスジェニックマウス(GANPTG mice: PCT/JP2003/014221(WO2004/040971号公報))を用いて、胆管癌における糖タンパク質の糖鎖成分上の癌特異的エピトープを認識するモノクローナル抗体を樹立することに成功した。外科的に切除したCCA試料の抽出物をGANPTGマウスに免疫し、脾臓細胞をポリエチレングリコールを用いてX63ミエローマ細胞と融合し、96ウエル培養プレートでIL−6の存在下で胸腺フィーダー細胞と一緒に培地中でインキュベートした。IMDM培地のHAT(ヒポキサンチン/アミノプテリン/チミジン)による選択後、増殖するクローンの上清をCCA抽出物を用いてELISAによりスクリーニングした。陽性クローンは、細胞株上での免疫染色により更にスクリーニングした。再度クローニングした後、AS1及びAS2と命名したモノクローナル抗体を、CCA細胞に対する特異的モノクローナル抗体として選択した。臨床CCA腫瘍試料上で免疫組織化学染色により、モノクローナル抗体の特異性を更に調べた。モノクローナル抗体AS1は腫瘍細胞の全体を特異的かつ強く染色し、モノクローナル抗体AS2は腫瘍細胞の先端領域を選択的に染色した。両抗体とも、周囲の非腫瘍細胞や、試験したCCA患者の組織は染色しなかった。糖タンパク質を捕捉するプレートを用いたELISAでは、モノクローナル抗体AS1及びAS2は、CCA患者のプールした血清中の抗原を認識したが、健常者、胃癌、膵臓癌、結腸癌及び肺癌のプールした血清中の抗原は認識しなかった。AS1抗原はCCA症例の約54%で陽性であり、AS2抗原はCCA症例の約27%で陽性であるが、他の悪性腫瘍や健常者の症例では陽性率は非常に低い。CCA患者の血清を用いたウエスタンブロット分析により、モノクローナル抗体AS1及びAS2は共に約220-kDaのブロードバンドを認識することが分かった。プロテオミクス分析により、MUC5AC のペプチド骨格を含む標的分子を決定した。複数の糖鎖切断酵素での処理により更に分析した結果、モノクローナル抗体AS1及びAS2はCCA細胞から分泌されるMUC5ACの糖鎖の異なる部分を認識することが分かった。CCA細胞株の増殖に及ぼすモノクローナル抗体AS1及びAS2の影響をインビトロで調べた結果、両方のモノクローナル抗体は、MUC5AC上にAS1及びAS2エピトープを発現するCCA細胞株の細胞増殖を阻害することを見出した。これらの知見は、CCA細胞ではMUC5ACの糖鎖成分に腫瘍特異的な修飾が生じ、本発明の2種のモノクローナル抗体AS1及びAS2はこれらのエピトープを認識することを示している。本発明の腫瘍特異的モノクローナル抗体は、腫瘍特異的抗原エピトープの解明及び抗体医薬として癌治療の応用に有用である。
【0016】
(1)本発明のモノクローナル抗体及びその製造方法
本発明のモノクローナル抗体を作成するための抗原としては、胆管癌の腫瘍組織又はその抽出物を用いる。胆管癌の腫瘍組織は、胆管癌患者から外科的に切除した組織を用いることができ、抽出物としては、例えば、採取した腫瘍組織をPBSなどの緩衝液中でホモジネートして得られた上清を用いることができる。
【0017】
本発明のモノクローナル抗体は、胆管癌細胞におけるムチンMUC5ACの胆管癌特異的糖鎖エピトープを認識して結合し得る抗体分子全体またはその断片(例えば、Fab又はF(ab')2断片)を意味する。本発明のモノクローナル抗体は、種々の方法で製造することができる。このような抗体の製造法は当該分野で周知である[例えばSambrook, J et al., Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)を参照]。また、本発明のモノクローナル抗体は、ヒト型抗体又はヒト抗体であってもよい。ヒト型抗体は、例えば、マウス-ヒトキメラ抗体であれば、本発明のモノクローナル抗体を産生するマウス細胞から抗体遺伝子を単離し、そのH鎖定常部をヒトIgE H鎖定常部遺伝子に組換え、マウス骨髄腫細胞に導入することにより調製できる。また、ヒト抗体は、免疫系をヒトと入れ換えたマウスに抗原である胆管癌の腫瘍組織又はその抽出物を免疫することにより調製することが可能である。
【0018】
モノクローナル抗体を作製するためには、先ず、胆管癌の腫瘍組織又はその抽出物を抗原として、哺乳動物、例えばラット、マウス、ウサギなどに投与する。本発明では、好ましくは、GANP遺伝子を導入したトランスジェニック非ヒト哺乳動物(例えば、GANP遺伝子を導入したトランスジェニックマウスなど)に、上記抗原を投与することができる。本発明では、T細胞依存性抗原(TD-Ag)に対する高親和性モノクローナル抗体を産生することができることから、免疫動物としてGANP遺伝子を導入したトランスジェニック非ヒト哺乳動物を用いることが好ましい。なお、ganp遺伝子トランスジェニックマウスは公知であり、例えば、PCT/JP2003/014221(WO2004/040971号公報)に記載の方法により作製することができる。
【0019】
抗原の動物1匹当たりの投与量は、アジュバントを用いないときは0.1〜100mgであり、アジュバントを用いるときは1〜100mgである。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(CFA)、フロイント不完全アジュバント(IFA)、水酸化アルミニウムアジュバント等が挙げられる。抗原投与の好ましい例の一つとしては、完全フロイントアジュバンド(CFA)を用いて一次免疫を行い、不完全フロイントアジュバンド(IFA)を用いて追加免疫を行うことができる。免疫は、主として静脈内、皮下、腹腔内に注入することにより行われる。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔、好ましくは2〜5週間間隔で、1〜10回、好ましくは2〜5回免疫を行う。そして、最終の免疫日から1〜60日後、好ましくは1〜14日後に抗体産生細胞を採集する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾臓細胞又は局所リンパ節細胞が好ましい。
【0020】
細胞融合ハイブリドーマを得るため、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞として、マウスなどの動物の一般に入手可能な株化細胞を使用することができる。使用する細胞株としては、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを含む)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。ミエローマ細胞としては、例えば P3X63-Ag.8.U1(P3U1)、NS-Iなどのマウスミエローマ細胞株が挙げられる。
【0021】
次に、上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを細胞融合させる。細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI-1640培地などの動物細胞培養用培地中で、1x106〜1x107個/mlの抗体産生細胞と2x105〜2×106個/mlのミエローマ細胞とを混合し(抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞比5:1が好ましい)、細胞融合促進剤存在のもとで融合反応を行う。細胞融合促進剤として、平均分子量1000〜6000ダルトンのポリエチレングリコール等を使用することができる。また、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることもできる。
【0022】
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。その方法として、細胞懸濁液を例えばウシ胎児血清含有RPMI-1640培地などで適当に希釈後、マイクロタイタープレート上に3x105個/well程度まき、各ウエルに選択培地を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行う。その結果、選択培地で培養開始後、14日前後から生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
【0023】
次に、増殖してきたハイブリドーマの培養上清中に、目的とする抗体が存在するか否かをスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、特に限定されるものではない。例えば、ハイブリドーマとして生育したウエルに含まれる培養上清の一部を採集し、酵素免疫測定法(ELISAなど)、放射性免疫測定法、免疫組織化学分析など等によってスクリーニングすることができる。融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行い、最終的にモノクローナル抗体産生細胞であるハイブリドーマを樹立することができる。
【0024】
本発明のモノクローナル抗体AS1及びAS2を産生するハイブリドーマとしては、ハイブリドーマAS1及びAS2が得られている。ハイブリドーマAS1(識別のための表示:Mouse-mouse hybridomas AS1)及びハイブリドーマAS2(識別のための表示:Mouse-mouse hybridomas AS2)はそれぞれ、受領番号FERM AP−21750(受託番号FERM P−21750)及び受領番号FERM AP−21751(受託番号FERM P−21751)として、2008年(平成20年)12月17日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東一丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566))に寄託されている。
【0025】
樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法又は腹水形成法等を採用することができる。細胞培養法においては、ハイブリドーマを10%ウシ胎児血清含有RPMI-1640培地、MEM培地又は無血清培地等の動物細胞培養培地中で、通常の培養条件(例えば37°C、5% CO2濃度)で7〜14日間培養し、その培養上清から抗体を取得することができる。
【0026】
腹水形成法の場合は、ミエローマ細胞由来の哺乳動物と同種系動物の腹腔内にハイブリドーマを約1x107個投与し、ハイブリドーマを大量に増殖させる。そして、1〜2週間後に腹水を採集する。上記抗体の採取方法において抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
【0027】
(2)本発明のモノクローナル抗体を含む、胆管癌の診断薬、並びに胆管癌を抑制及び/又は治療するための医薬
本発明のモノクローナル抗体は、胆管癌の診断薬、並びに胆管癌を抑制及び/又は治療するための医薬として使用することができる。
【0028】
本発明の診断薬及び医薬には、胆管癌細胞におけるムチンMUC5ACの胆管癌特異的糖鎖エピトープを認識する本発明のモノクローナル抗体の他に、必要に応じて薬学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤などを適宜含有させることができる。胆管癌を抑制及び/又は治療するための医薬としては例えば注射剤として製剤することができる。胆管癌を抑制及び/又は治療するための医薬の投与量は、患者の症状の程度、年令及び体重、投与方法などに依存し、有効成分である抗体の重量としては通常、約10ng〜約100mg/kg体重の範囲である。
【0029】
(3)本発明のモノクローナル抗体を用いた胆管癌の検出方法
本発明によれば、胆管癌細胞におけるムチンMUC5ACの胆管癌特異的糖鎖エピトープを認識する本発明のモノクローナル抗体と被験者由来の試料とを接触させて、該試料中におけるムチンMUC5ACの胆管癌特異的糖鎖エピトープの存在の有無を検出することによって、胆管癌を検出することができる。
【0030】
本発明において用いる被験者由来の試料としては、被験者から得られる組織、血清、血漿、唾液、尿等が挙げられるが、特に好ましくは血清又は血漿である。被験者由来の試料と上記抗体との接触は、当分野において通常行われている方法に基づいて行えばよく、特に限定するものではない。検出は、例えば試料と上記抗体との接触の後、試料中に存在し得るムチンMUC5ACの胆管癌特異的糖鎖エピトープに対する抗体との特異的結合を、蛍光物質や発光物質、酵素等で標識した二次抗体等を使用して定量的に検出することにより行うことができる。また、検出・診断のための反応をウェル等の液相中で行ってもよく、あるいは抗体を固定した固相支持体上で行ってもよい。この場合、胆管癌に罹患していない正常な試料、あるいは胆管癌であることが判明している試料を用いて予め作製した標準値と比較することによって、測定された値が胆管癌として陽性であるか否かを判定することができる。また、診断の際には、多数の胆管癌の患者と健常人の血清又は血漿中のムチンMUC5ACの胆管癌特異的糖鎖エピトープの量を測定して、カットオフ値を設定することができる。
【0031】
本発明のモノクローナル抗体を用いて、試料中におけるムチンMUC5ACの胆管癌特異的糖鎖エピトープの存在の有無を検出する方法の具体例としては、サンドイッチELISA等の酵素免疫測定法(EIA)、又は放射性免疫測定法(RIA)などがあり、これらの技術は当業者に周知である。用いる標識物質は、上記測定法に応じて、酵素、放射性同位体、蛍光化合物、および化学発光化合物等を適宜選択すればよい。前記酵素としては、例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、酸性ホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ等を挙げることができる。上記標識物質はアビジン−ビオチン複合体を用いることにより、標識物質の検出感度を向上させることも可能である。また、放射性同位体としては、主に125Iが、蛍光化合物としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)やテトラメチルローダミンイソチオシアネート(RITC)等が挙げられる。化学発光化合物としては、ロフィン、ルミノール、ルシゲニン等が挙げられる。上記標識物質による抗体の標識は、常法に従って行うことができる。以下、標識抗体を用いた標識免疫測定法及びELISA法について説明する。
【0032】
(a)標識免疫測定法
標識免疫測定法による、本発明の抗体を検出する測定系は、非競合反応系あるいは競合反応系を用いて構築することができる。非競合反応系においては、固相が必要である(固相法)。競合反応系においては、必ずしも固相を必要としない(液相法)が、固相を用いた方が、測定操作が簡便になるため好ましい。固相の材質としては、例えば、ポリスチレン、ナイロン、ガラス、シリコンラバー、セルロース等が挙げられ、固相の形状としては、球状、ウェル状、チューブ状、シート状等が挙げられるが、これらに限定されず、標識免疫測定法に用いられる公知のものを任意に用いることができる。
【0033】
測定操作は、非競合反応系であれば、例えば、検出すべき抗原(ムチンMUC5ACの胆管癌特異的糖鎖エピトープを含む可能性のある試料)を固相化した後、本発明の抗体と反応させ、次いであらかじめ標識しておいた抗免疫グロブリン抗体(二次抗体)を加えて固相化した抗原と反応している抗体と反応させる。この二次抗体の標識により、抗原に結合した抗体量を検出することができる。検出された標識量は、検出すべき抗原量と正相関するので、これにより抗原量を求めることができる。
【0034】
抗原または抗体の固相化法としては、物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法、架橋法等、公知の方法を使用できる。特に、物理的吸着法が簡便という点で好ましい。また、抗免疫グロブリン抗体(二次抗体)としては、例えば、抗IgG抗体、抗IgM抗体等を用いることができる。これらの抗体は、抗体分子をそのまま使用してもよいし、あるいは抗体を酵素処理して得られる抗原結合部位を含む抗体フラグメントであるFab、Fab'、F(ab')2を使用してもよい。さらに、標識した抗免疫グロブリン抗体の代わりに、抗体分子に特異的な親和性をもつ物質、例えばIgGに特異的な親和性をもつプロテインA等を標識して使用してもよい。
【0035】
(b)ELISA法
前記標識免疫測定法の好適な例として、酵素を標識とした免疫測定法、ELISA法を挙げることができる。ELISA法は、例えば、96穴プレートに検体またはその希釈液を入れて、4℃〜室温で一晩、または37℃で1〜3時間程度静置して検出すべき試料を吸着させて固相化する。次に、本発明の抗体を反応させ、次いであらかじめ酵素を結合させた抗免疫グロブリン抗体(二次抗体)を反応させる。最後に酵素と反応する適当な発色性の基質(例えば、酵素がホスファターゼならp−ニトロフェニルリン酸等)を加え、この発色によって抗体を検出することができる。
【0036】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
(A)材料と方法
(1)胆管癌(CCA)試料
外科的に切除した試料を、タイのKhon Kaen大学のSrinagarind病院で承認された肝内CCAを有する100人の患者から得た。インフォームド・コンセントは、Khon Kaen大学のヒト研究倫理委員会で承認されたプロジェクトに参加した全患者から得た。年齢、性別、組織学的等級、及びリンパ節、血管及びペリニューロンの関与を含むデータを、Khon Kaen大学の肝臓ジストマ症及び胆管癌研究センターの医療記録及び病理記録に基づいて過去に遡って調べた。
【0038】
(2)細胞株及び細胞培養
ヒトCCA細胞株(M213A, M055及びKKU-100) は、10%熱不活化ウシ胎児血清(FCS; Sigma, St. Louis, MO)、2 mM L-グルタミン(Cambrex, Baltimore, MD)、100μg/ml ストレプトマイシン、100 U/ml ペニシリン及び50 μM 2-メルカプトエタノールを補充したHam-F12 (Invitrogen, Carlsbad, CA) で培養した。不死化したヒト胆管細胞MMNK-1 (Maruyama, M., Kobayashi, N., Westerman, K.A., Sakaguchi, M., Allain, J.E., Totsugawa, T., Okitsu, T., Fukazawa, T., Weber, A., Stolz, D.B., Leboulch, P. & Tanaka, N. Establishment of a highly differentiated immortalized human cholangiocyte cell line with SV40T and hTERT. Transplantation 77(3):446-451, 2004)は、補充したダルベッコ改変イーグル培地で37 oCで5% CO2で培養した。乳癌細胞株MCF7はRPMI-1640で維持した。
【0039】
(3)モノクローナル抗体の樹立
各種のCCA (n=5)からの腫瘍組織をPBS中でホモジネートし、得られた上清をBalb/c-GANPTGマウスに腹腔内注入した。抗原投与は、完全フロイントアジュバンド(CFA)を用いて一次免疫として行い、不完全フロイントアジュバンド(IFA)を用いて追加免疫を行った(Kuwahara, K., Yoshida, M., Kondo, E., Sakata, A., Watanabe, Y., Abe, E., Kouno, Y., Tomiyasu, S., Fujimura, S., Tokuhisa, T., Kimura, H., Ezaki, T. & Sakaguchi, N. A novel nuclear phosphoprotein, GANP, is up-regulated in centrocytes of the germinal center and associated with MCM3, a protein essential for DNA replication. Blood 95(7):2321-2328, 2000)。より高い抗体価を有するマウスを更に免疫し、3日後、脾臓細胞を採取し、標準手法のポリエチレングリコール法によりマウスミエローマ細胞株X63と細胞融合させた(Kuwahara, K., Tomiyasu, S., Fujimura, S., Nomura, K., Xing, Y., Nishiyama, N., Ogawa, M., Imajoh-Ohmi, S., Izuta, S. & Sakaguchi, N. Germinal center-associated nuclear protein (GANP) has a phosphorylation-dependent DNA-primase activity that is up-regulated in germinal center regions. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 98(18):10279-10283, 2001)。融合細胞は、IL-6 (5 units/ml)の存在下で2 x 104 細胞/ウエルの濃度でマイクロ培養プレート上でHAT培地により選択した。スクリーニングは、間接EISAと免疫組織化学の組み合わせで行った。最終的に、モノクローナル抗体AS1及びAS2を樹立した。
【0040】
(4)ELISA
96ウエル平底プレートを、炭酸バッファーpH9.6 (0.15 M Na2CO3 and 0.35 M NaHCO3)中で4℃で40 μg/mlの大豆アグルチニン(SBA; Sigma, St. Louis, MO)で被覆した。プレートは、0.9% NaCl中の0.05% Tween-20(NSST)で5回洗浄した。ブロッキングは、PBS/0.05% Tween-20 (PBS-T)中の2% BSAを用いて行った。NSSTで5回洗浄した後、患者の血清の適当な希釈物50μlを各ウエルに添加し、プレートを37℃で1時間インキュベートした。プレートをNSSTで5回洗浄した。樹立したモノクローナル抗体の適当な希釈物50μlを各ウエルに添加した。37℃で1時間インキュベートし、NSSTで洗浄した後、プレートを、西洋サワビペルオキシダーゼ(HRP)結合ヤギ抗マウス(Southern Biotechnology Associates, Birmingham, AL)とともに37℃で1時間さらにインキュベートした。3,3',5,5'-テトラメチル−ベンジジン (TMB)基質の添加によって発色させた。1N H2SO4 (50 μl)を各ウエルに添加して、反応を停止させた。ELISAリーダーで450nmでプレートを測定した。間接ELISAでは、5μg/mのCCA抽出物を96ウエルに被覆した。CCAに対する樹立したモノクローナル抗体及びHRP結合ヤギ抗マウスIgMをそれぞれ、一次抗体及び二次抗体としてそれぞれ使用した。
【0041】
(5)免疫組織化学
パラフィン切片 (4μm) をキシレンで脱パラフィン化し、続いて、再水和し、クエン酸バッファー(pH 6.0)中でマイクロ波で処理した。0.3% H2O2で内因性のペルオキシダーゼをブロックし、スライドを5%正常ウマ血清で予めインキュベートした後、モノクローナル抗体で4℃で一晩インキュベートし、次いで、ビオチン化抗マウスIg抗体とベクタスタチン(Vectastain) ABC 複合体(Vector Laboratories, Burlingame, CA)で増幅し、シグナルを3,3'-ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライド(Sigma)で可視化した。
【0042】
(6)モノクローナル抗体の精製
選択したハイブリドーマ(AS1及びAS2)をPBSで3回洗浄し、血清を含まない培地中で7日間培養した。培養上清をローディングバッファー(0.05 M リン酸ナトリウム, pH7.0)に対して透析した。KAPTIV-M樹脂(Tecnogen S.C.p.A., Piana di Monte Verna, Italy)を5ベッド体積のローディングバッファーで平衡化した後、透析した上清を樹脂を含むカラムに適用し、ローディングバッファーで十分に洗浄した。保持されたタンパク質を溶出バッファー(0.1 M 酢酸)で溶出し、回収した画分を1 M Tris-HCl (pH9.0)で直ちに中和し、pHを7.0付近にした。
【0043】
(7)免疫沈降
精製したモノクローナル抗体AS1及びAS2は、CNBrで活性化したセファロース(GE Healthcare, Buckinghamshire, UK) に取扱説明書に従って結合した。抗原抗体複合体をセファロース上に捕捉し、SDS-PAGEで分離し、ウエスタンブロット及び免疫検出によって検出した。
【0044】
(8)ウエスタンブロット分析
培養デッィシュ中のCCA細胞株はPBSで洗浄し、150 mM NaCl、50 mM Tris-HCl (pH7.4)、1% Tween-20、1%デオキシコール酸ナトリウム、0.1% SDS 及び1x プロテアーゼ・インヒビター・カクテル(Roche Molecular Biochemicals, Mannheim, Germany)を含む溶解バッファーで溶解した。細胞溶解物を10,000 x gで30分間4℃で遠心した。上清のタンパク質濃度をLowry法を用いて測定した。タンパク質をマイクロスラブSDS-PAGEで分離した後、ゲルをトランスファーバッファー[40 mM Tris-HCl (pH7.4), 20 mM 酢酸ナトリウム, 2 mM EDTA, 20% (v/v) メタノール及び0.05% SDS]中で15分間予め平衡化してから、ゲル中のタンパク質をニトロセルロース膜に電気トランスファーした。膜は、1% (w/v) 非脂肪ドライミルク(PBS-T )で4℃で一晩ブロッキングした。ブロットは、一次抗体(樹立したモノクローナル抗体)と一緒に室温で1時間インキュベートした。HRP結合ヤギ抗マウスIgMを二次抗体として使用した。タンパク質の発現は、Enhanced ChemiLuminescenceキット (GE Healthcare)で検出した。
【0045】
(9)標的分子のプロテオミクス分析
CCA患者又は正常ボランティアからのアルブミン/IgG-枯渇血清を、モノクローナル抗体AS1又はAS2を結合させたセファロースを用いた免疫アフィニティーカラムに適用した。溶出した試料はSDS-PAGEで分離し、ゲルを深紫色で染色するか、又は免疫検出した。免疫反応性を有するスポットをゲルから切り出し、マイクロチューブに別々に移した。ゲル粒子を乾燥した後、還元及びアルキル化を行った。ゲル内消化を標準的な手法で行った簡単に言うと、ゲル内のタンパク質をトリプシンで一晩消化した。分解したペプチドを乾燥し、2%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸で分割し、ZipTip (Millipore, Billerica, MA)で脱塩した。試料は繰り返し乾燥し、2%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸で分割し、液体クロマトグラフィー・タンデムマススペクトロメトリー(LC/MS/MS)に供した。 ケラチンなどの既知のコンタミネーションピーク、自己光分解ピークは除去した。LC/MS/MS の結果を、NCBI データベースと比較した。
【0046】
(10)標的糖タンパク質の酵素処理
標的糖タンパク質のグリコシル化を評価するために、Glyko enzymatic deglycosylationキット(Glyko, Inc., Novato, CA)を用いた。M213A 細胞は、各種の酵素の組み合わせの存在下において血清を含まない培地中で37℃で一晩培養した。培養上清を回収し、Centricon (Millipore)を用いて濃縮した。幾つかの実験では、CCA血清は、 デグリコシダーゼで処理した。酵素消化後の試料は、上記の通り、SDS-PAGE及びイムノブロットに用いた。
【0047】
(11)インビトロでのCCA細胞株の増殖におけるモノクローナル抗体の影響
CCA細胞株は、コラーゲンI型で被覆したプレート(和光純薬工業、大阪、日本)上で培養した。FCSを含む培地で洗浄した後、モノクローナル抗AS1又はAS2、又は対照IgMを最終濃度1 μg/mlで培地に添加した。画像は、経時的顕微鏡(IX81; オリンパス、東京、日本)を用いて10分毎に48時間取得した。
【0048】
(B)結果
(1)CCA細胞に対するモノクローナル抗体の樹立
GANPTG マウスに、ヒトCCA組織のプールした細胞溶解物をCFAと一緒に免疫し、IFA中の溶解物で追加免疫した。脾臓細胞を単離し、既報の標準法で(Kuwahara, K., Tomiyasu, S., Fujimura, S., Nomura, K., Xing, Y., Nishiyama, N., Ogawa, M., Imajoh-Ohmi, S., Izuta, S. & Sakaguchi, N. Germinal center-associated nuclear protein (GANP) has a phosphorylation-dependent DNA-primase activity that is up-regulated in germinal center regions. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 98(18):10279-10283, 2001)でポリエチレングリコールを用いてミエローマ細胞株X63と融合した。HAT培地での選択後、CCA細胞に対するモノクローナル抗体を、CCA抽出物で予め処理した96ウエルのマイクロ培養プレートを用いた間接ELISAによって先ず選択した(図1)。ミエローマ細胞株による3回の独立した融合により、患者血清を用いたELISAと組織切片における免疫組織化学分析によりさらにスクリーニングを行い、図2に示す戦略により、癌に特異的又は選択的なモノクローナル抗体を見出した。特異性は、肝癌、膵臓癌及び胃癌のような他の癌細胞を用いて確認した。図3に示す典型的スクリーニングにおいて、細胞ELISAでCCA細胞を選択的に認識する複数のモノクローナル抗体を得た。代表的モノクローナル抗体は2群に分類され、モノクローナル抗体AS1及びAS2と命名した。何れのモノクローナル抗体ともIgM/κであった。モノクローナル抗体AS1及びAS2を産生するハイブリドーマAS1(識別のための表示:Mouse-mouse hybridomas AS1)及びハイブリドーマAS2(識別のための表示:Mouse-mouse hybridomas AS2)はそれぞれ、受領番号FERM AP−21750(受託番号FERM P−21750)及び受領番号FERM AP−21751(受託番号FERM P−21751)として、2008年(平成20年)12月17日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東一丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566))に寄託されている。
【0049】
糖タンパク質上の癌特異的エピトープを同定するために、図4に示すようなサンドイッチELISAを使用した。マイクロタイタープレートを大豆アグルチニンで被覆し、CCA患者のプールした血清を適用した。モノクローナル抗体は、HRP結合ヤギ抗マウスIg抗体の二次抗体試薬を用いて、患者血清中に抗原が存在するかどうかを検出してスクリーニングした。反応性は、450nmにおける光学濃度(光学密度:OD)によって測定した。バックグラウンドODを差し引いて、特異性を測定した。プールした血清との反応性を図5に示す。モノクローナル抗体AS1は、CCA患者のプールした血清と特異的に反応したが、正常血清とは反応しなかった。モノクローナル抗体AS2は、正常血清及びブランク試料に対するバックグラウンド反応性がより高かったが、CCA血清に対する反応性はより強かった。モノクローナル抗体AS1及びAS2の反応性を、正常、CCA、肝癌、膵臓、胃、結腸及び良性の腫瘍を用いて調べた(図6)。モノクローナル抗体AS1はCCA血清に対して非常に特異的であった。大豆アグルチニンで被覆したプレートを用いたELISAアッセイでは、他の血清試料とより高いバックグラウンドを示す一方で、モノクローナル抗体AS2は、CCA血清に選択的である。個々の血清試料との反応性を調べた結果の一部を図7に示す。100個のCCA血清試料との全体的反応性としては、AS1はCCA血清の54%で陽性であり、AS2は27%で陽性であった。これら2種の抗体を組み合わせると、60%近くが、モノクローナル抗体AS1又はAS2の何れかで陽性であった。モノクローナル抗体AS1及びAS2の特異性を、CCA腫瘍臨床試料を用いて免疫組織化学によりさらに調べた(図8)。モノクローナル抗体AS1及びAS2は、腺癌の腫瘍細胞と明確に反応したが、周囲の細胞又は組織とは反応しなかった。図9に示す通り、AS1は管状表面の細胞及び周辺に現れ、この傾向はAS2ではより顕著になり、AS2は腫瘍細胞の先端周辺において強く陽性であった。即ち、この2種のモノクローナル抗体は同様の糖タンパク質と反応するが、腫瘍細胞における局在は異なっている。
【0050】
(2)AS1及びAS2の分子研究
CCA患者のプールした血清中のAS1及びAS2抗原の分子の大きさを、通常血清と比較して調べた(図10)。幅広いバンドがプールしたCCA血清中でのみ見られ、正常血清では見られなかった。抗原構造を決定するために、アルブミン/IgG除去可能カラムにプールした血清を通し、Microcon YM-30で濃縮して標的糖タンパク質を濃縮した(図11)。モノクローナル抗体AS1及びAS2で検出された抗原は、SDS-PAGE上で推定~220-kDaのブロードなバンドであった。CCA血清中に存在する220-kDa近傍の大きなタンパク質をQstar (LC/MS/MS)を用いたMass分析により直接解析したところ、α2-マクログロブリンが同定された。しかし、AS1とAS2の発現パターンはα2-マクログロブリンとは明らかに相関しないため、この方法では目的の分子を同定することは困難であると判断した。そこでモノクローナル抗体AS1及びAS2を無血清培地から精製し、IgM精製キットで濃縮した。精製したモノクローナル抗体はセファロースビーズと結合させ、それを用いた免疫沈降法とウェスタンブロット解析により、AS1とAS2は~220-kDaのブロードなバンドを特異的に検出した(図12)。次にAS1及びAS2結合セファロースビーズを用いてアフィニティークロマトグラフィーカラムを作成した。CCA患者血清中のAS1及びAS2抗原を2段階で精製した後、抗原を質量分析に供した(図13)。AS1はMUC5AC糖タンパク質のペプチド配列とヒットした(図14及び15)。AS2はMUC5ACのペプチド配列と複数のペプチド配列と高いスコアでヒットした(図16、17及び18)。これらの結果は、AS1及びAS2が220-kDaの大きな分子サイズの糖タンパク質の異なるエピトープを認識することを示す。この糖タンパク質は、質量分析によりMUC5AC及びMUC6と決定された(図19)。
【0051】
(3)MUC5ACに対するモノクローナル抗体AS1及びAS2の反応性
免疫沈降及びウエスタンブロット解析によりMUC5ACに対するモノクローナル抗体AS1及びAS2の反応性を調べた(図20)。モノクローナル抗体AS1 (IgM,κ)は、ウエスタンブロット解析では220-kDaのバンドと強く反応した。モノクローナル抗体AS1及びAS2は、大きなサイズの糖タンパク質を免疫沈降させた(図21)。モノクローナル抗体AS1は、M213A CCA細胞株における糖タンパク質を認識したが、正常胆管細胞株MNNK1及び乳癌細胞株MCF7における糖タンパク質は認識しなかった。M213Aの培養上清は、モノクローナル抗体AS1に対する反応性が低かった。これは、M213A細胞の免疫沈降及びウエスタンブロット解析により確認された。モノクローナル抗体AS1は、M213 CCA腫瘍細胞に特異的であった。モノクローナル抗体AS2は、モノクローナル抗体AS1と反応させた場合と同様のウエスタンブロットプロフィールを示したことにより、モノクローナル抗体AS1は、AS2抗原、即ちMUC5ACの異なるエピトープを認識することが示された。市販の抗MUC5AC抗体を用いて同様の実験を試みた。市販の抗MUC5AC抗体の多くは、モノクローナル抗体AS1及びAS2と比べて、ウエスタンブロット分析において反応性が比較的弱かったことから、本発明の2種類のモノクローナル抗体は、免疫沈降、ウエスタンブロット分析及びELISAにおいてMUC5AC抗原に対する反応性が強いことが示された。
【0052】
(4)AS1及びAS2抗原の糖特性の研究
AS1及びAS2エピトープが大きなサイズの糖タンパク質の糖成分上に存在するかどうかを調べてみることにした(図22)。CCAのプールした血清を、シアリダーゼ(2)、O-グリカナーゼ(3)、シアリダーゼ + O-グリカナーゼ(4)、N-グリカナーゼ(5)、N-グリカナーゼ + シアリダーゼ(6)、シアリダーゼ + O-グリカナーゼ+ シアリダーゼ (7)、及び0.1 M NaOHで処理した。AS1は、シアリダーゼによる処理後に、鋭いより高い分子サイズのバンドに移動し、NaOH処理によりウエスタンブロット上のシグナルを消失さえた。これらの結果は、AS1の抗原エピトープはシアル酸で僅かにマスクされており、シアリダーゼ処理後に鋭いバンドになることを示している。O-結合型糖成分は、0.1 M NaOH処理に感受性である。即ち、AS1エピトープは、MUC5AC糖タンパク質 の糖成分上にある(図23)。M213A細胞を無血清培地で培養した上清を用いたAS1エピトープの解析結果は、CCAのプール血清を用いた場合と同様であった(図24)。糖タンパク質の酵素によるデグリコシレーションにより、シアリダーゼの処理によりAS1の反応性が増大することが判明したが、これは、シアル酸が抗原エピトープを被覆していることを示唆している。β-ガラクトシダーゼ、N-アセチルグルコサミダーゼ及びO-グリカナーゼによる処理により、AS1の反応性は減少した。N-グリカナーゼの処理は、AS1反応性に影響しない。これを考慮すると、AS1の抗原エピトープは、シアル酸により被覆されている糖構造であり、この糖構造の一部はβ-ガラクトシダーゼ、N-アセチルグルコサミダーゼ、及びO-グリカナーゼで切断できる(図25)。AS1の抗原エピトープは糖領域であり、そのうちの一部はGal β(1-4)結合に連結している。GlcNAcβ(1-6)は、O−結合によって高分子量糖タンパク質(MUC5AC)のタンパク質中心に連結している前者を有する(図27を参照)。同様に、AS2の抗原エピトープは、糖成分にあると推定され、その大部分はGalβ(1-4)結合に連結し、これは高分子量糖タンパク質(MUC5AC)のポリペプチド骨格にO−結合によって連結している(図26、図27)。
【0053】
(5)CCA癌細胞の増殖におけるAS1及びAS2エピトープの効果
AS1及びAS2エピトープはCCA細胞で発現しているので、本発明のモノクローナル抗体がCCA細胞株の増殖に影響を及ぼすかどうかを調べた。モノクローナル抗体AS1及びAS2は、複数のCCA細胞株を阻害した。図28では、M055細胞は、AS1 (1μg/ml), AS2 (1μg/ml), 対照IgM (1μg/ml), 又は未処理の培地の存在下で培養した。経時的顕微鏡観察により、DNAの染色によって確認される通り、モノクローナル抗体AS1及びAS2の存在下で細胞増殖の阻害が示された(図29)。この実験により、モノクローナル抗体AS1及びAS2が、CCA癌細胞の腫瘍特異的阻害に有用であることが示された。
【0054】
(C)考察
上記の結果から、本発明のモノクローナル抗体で認識される癌特異的エピトープは、CCA癌細胞に分泌・発現するMUC5ACの糖タンパク質に存在することが示された。エピトープが糖鎖領域に存在することは、癌細胞ではグリコシレーションパターンの変化が生じていることを示唆している。
【0055】
糖タンパク質の糖鎖における癌に特異的又は選択的なエピトープは、薬物送達及び抗体療法の標的として有用である。図28及び図29に示すように、モノクローナル抗体AS1及びAS2は、CCA細胞株の増殖をインビトロで阻害した。この結果は、この糖鎖エピトープが、医療治療のための標的となりうることを示している。
【0056】
また、本発明のモノクロナール抗体の製造方法は、従来の技術では作成するのが困難であった糖鎖エピトープに対する特異的モノクローナル抗体を製造するための効率的な方法である。糖タンパク質に対するモノクローナル抗体の樹立に焦点をあててスクリーニングを行った結果、特異的エピトープの大部分がMUC5ACの糖鎖領域であることが判明した。GANPTG マウスは、高い効率で、癌特異的糖鎖エピトープに対する抗体を産生することができた。
【0057】
モノクローナル抗体AS1及びAS2は、癌特異的エピトープの研究に有用であり、各種の糖タンパク質における癌特異的エピトープの同定のための優れたプローブである。また、本発明のモノクローナル抗体の情報は、重鎖及び軽鎖のIg-V領域によって作成される抗原結合部位の結晶情報に基づく3次構造の分子プローブを設計するのに適用可能である。
【受託番号】
【0058】
FERM P−21750
FERM P−21751
【技術分野】
【0001】
本発明は、胆管癌特異的糖鎖エピトープを認識するモノクローナル抗体に関する。より詳細には、本発明は、患者血清を用いて胆管癌を診断することができ、かつ胆管癌細胞の増殖を阻害できることを特徴とする、胆管癌特異的糖鎖エピトープを認識するモノクローナル抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
モノクローナル抗体 は、癌の早期診断、特異的診断、スクリーニング、及び癌治療の分子標的の同定のために広く使用されている。最近、モノクローナル抗体のヒト化が実現可能となり、各種のヒト化モノクローナル抗体が、悪性腫瘍や自己免疫疾患の治療において使用されている(例えば、CD3 (Orthoclone OKT3)、糖タンパクIIb/IIIa受容体 (ReoPro), ERBB2 (Herceptin), CD20 (Rituxan), CD25 (Zenapax and Simulect), RSVgpF (Synagis), TNF-α(Remicade), 及びIL-6Rなど)。モノクローナル抗体の応用のためには、各種腫瘍の癌特異的抗原を特異的に認識するモノクローナル抗体を樹立することが必要である。抗体の特異性は、モノクローナル抗体の臨床応用にとって重要な問題である。癌細胞の表面や癌患者の血清中に特異的に発現する新規分子を同定するために多くの研究がなされているが、それらの多くは、癌特異的マーカーと思われる分子やエピトープを効率的に同定するものではない(非特許文献1)
【0003】
プロテオミクス研究により、癌細胞では糖タンパク質の糖鎖の発現に変動が生じ、糖鎖領域上のエピトープが臨床診断や薬剤治療の分子標的の候補となり得ることが示されている(非特許文献2)。モノクローナル抗体は糖タンパク質上の任意のエピトープを認識できるが、免疫応答は、ハプテン−キャリアモデルで提唱されているようにT細胞とB細胞の共同によって末梢リンパ器官で増強される(非特許文献3)。抗原は、末梢リンパ器官(即ち、脾臓、リンパ節、及びパイアー斑)の胚中心領域において抗原特異的B細胞の増殖を誘導する。抗原誘導されたB細胞は細胞分裂を経て、特異的に活性化されて胚中心領域を包囲しているT細胞との相互作用を通じて活性化誘導シチジンデアミナーゼAIDを誘導する(非特許文献4)。B細胞は、シトシン(C)からウリジン(U)、及びグアニン(G)からアデニン(A)への転位変異を起こすAIDの作用により免疫グロブリンV領域(Ig-V)遺伝子の体細胞超変異(SHM)を受け、その後、ウラシルDNAグリコシラーゼ(UNG)と変異性(error-prone)DNAポリメラーゼによって、GからA、及びAからGへのトランスバーション変異を受ける(非特許文献5)。Ig-V領域のSHMを誘導するこのプロセスは、T細胞依存性免疫応答においてIgV領域の親和性成熟としてT細胞に依存している(非特許文献6)。T細胞の活性化には、樹状細胞やマクロファージのような抗原提示細胞が必要である。これらの細胞は、外来抗原の食細胞作用を有し、抗原を処理して小さなペプチド片(10〜12アミノ酸)に切断し、それらは最終的に、抗原特異的T細胞のα及びβ鎖のT細胞抗原受容体に対する主要組織適合性抗原複合体(MHC)のクラスII分子の割れ目に存在する。最も効率的なT細胞とB細胞の共同がB細胞抗原受容体のエピトープを有する抗原に対して起こり、T細胞抗原受容体が認識できるようになる。しかし、特に非常に大きな糖鎖部分を有する糖タンパク質抗原の場合、抗原提示細胞は、MHCクラスII分子上に糖エピトープを提示しない。従って、そのような抗原はT細胞の十分な活性化を喚起せず、T細胞に依存しない免疫応答として知られる抗原反応性B細胞クローンを活性化できない。従って、非常に大きな糖鎖部分を有する糖タンパク質は、通常の方法では優れたモノクローナル抗体を作ることは非常に困難であることが予想される。
【0004】
以前に、本発明者らは、免疫応答中にGCのB細胞で選択的に上昇するGC関連核タンパク質(GANP)を命名される分子を同定した(非特許文献7)。GANPは210-kDaの核タンパク質であり、Saccharomyces mRNA輸送分子SAC3(非特許文献8)、MCM3-相互作用/アセチル化領域(非特許文献9)、及びRNAプライマーゼ領域(非特許文献10)と構造が類似している。GANPの欠損により、T細胞依存性抗原(TD-Ag)で免疫した際、Ig-V領域のSHMの生成に重大な欠損が生じた (非特許文献11)。対照的に、マウスでGANPを過剰発現すると (GANPTGマウス)、抗体のSHMと親和性成熟の増大が誘導された(非特許文献12)。GANPTG マウスは、モデルハプテン抗原エピトープであるニトロフェニル(非特許文献13)、及びHIVのV3ループ上のNL4-3ペプチドエピトープ(非特許文献14)に対する親和性が2倍高いモノクローナル抗体(KD = 1.1 x 10-11 M)を生成した。GANPの作用は、ニワトリDT40細胞及びDaudiヒトB細胞株でインビトロで培養した細胞株によって確認した。GANPTG マウスは、T細胞依存性免疫応答の下でペプチド抗原に対する高親和性モノクローナル抗体を作成するためのシステムとして有用である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Cho, W.C. & Cheng, C.H. Oncoproteomics: current trends and future perspectives. Expert Rev. Proteomics 4(3):401-410, 2007
【非特許文献2】Slovin, S.F., Keding, S.J. & Ragupathi, G. Carbohydrate vaccines as immunotherapy for cancer. Immunol. Cell Biol. 83(4):418-428, 2005
【非特許文献3】MacLennan, I.C. Germinal centers. Annu. Rev. Immunol. 12:117-139, 1994
【非特許文献4】Wolniak, K.L., Shinall, S.M. & Waldschmidt, T.J. The germinal center response. Crit. Rev. Immunol. 24(1):39-65, 2004。
【非特許文献5】Di Noia, J.M. & Neuberber, M.S. Molecular mechanisms of antibody somatic hypermutation. Annu. Rev. Biochem. 76:1-22, 2007
【非特許文献6】Peled, J.U., Kuang, F.L., Iglesias-Ussel, M.D., Roa, S. Kalis, S.L., Goodman, M.F. & Scharff, M.D. The biochemistry of somatic hypermutation. Annu. Rev. Immunol. 26:481-511, 2008
【非特許文献7】Kuwahara, K., Yoshida, M., Kondo, E., Sakata, A., Watanabe, Y., Abe, E., Kouno, Y., Tomiyasu, S., Fujimura, S., Tokuhisa, T., Kimura, H., Ezaki, T. & Sakaguchi, N. A novel nuclear phosphoprotein, GANP, is up-regulated in centrocytes of the germinal center and associated with MCM3, a protein essential for DNA replication. Blood 95(7):2321-2328, 2000
【非特許文献8】Fischer, T., Straser, K., Racz, A., Rodriguez-Navarro, S., Oppizzi, M., Ihrig, P., Lechner, J. & Hurt, E. The mRNA export machinery requires the novel Sac3p-Thp1p complex to dock at the nucleoplasmic entrance of the nuclear pores. EMBO J. 21(21):5843-5852, 2002
【非特許文献9】Takei, Y., Swietlik, M., Tanoue, A., Tsujimoto, G., Kouzarides, T. & Laskey, R. MCM3AP, a novel acetyltransferase that acetylates replication protein MCM3. EMBO Rep. 2(2):119-123, 2001
【非特許文献10】Kuwahara, K., Tomiyasu, S., Fujimura, S., Nomura, K., Xing, Y., Nishiyama, N., Ogawa, M., Imajoh-Ohmi, S., Izuta, S. & Sakaguchi, N. Germinal center-associated nuclear protein (GANP) has a phosphorylation-dependent DNA-primase activity that is up-regulated in germinal center regions. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 98(18):10279-10283, 2001
【非特許文献11】Kuwahara, K., Fujimura, S., Takahashi, Y., Nakagata, N., Takemori, T., Aizawa, S. & Sakaguchi, N. Germinal center-associated nuclear protein contributes to affinity maturation of B cell antigen receptor in T cell-dependent responses. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 101(4):1010-1015, 2004
【非特許文献12】Sakaguchi, N., Kimura, T., Matsushita, S., Fujimura, S., Shibata, J., Araki, M., Sakamoto, T., Minoda, C. & Kuwahara, K. Generation of high-affinity antibody against T cell-dependent antigen in ganp gene-transgenic mouse. J. Immunol. 174(8):4485-4494, 2005
【非特許文献13】Allen, D., Simon, T., Sablitzky, F., Rajewsky, K. & Cumano, A. Antibody engineering for the analysis of affinity maturation of an anti-hapten response. EMBO J. 7(7):1995-2001, 1988
【非特許文献14】Matsushita, S., Robert-Guroff, M., Rusche, J., Koito, A., Hattori, T., Hoshino, H., Javaherian, K., Takatsuki, K. & Putney, S. Characterization of a human immunodeficiency virus neutralizing monoclonal antibody and mapping of the neutralizing epitope. J. Virol. 62(6):2107-2114, 1988
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ムチンMUC5ACにおける胆管癌特異的な糖鎖エピトープを認識し、胆管癌患者の血清において胆管癌特異的にMUC5ACを検出することができる新規なモノクローナル抗体を提供することを解決すべき課題とした。本発明はさらに、上記モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、上記モノクローナル抗体の製造方法、上記モノクローナル抗体を含む胆管癌の診断薬、上記モノクローナル抗体を含む胆管癌を抑制及び/又は治療するための医薬、並びに上記モノクローナル抗体を用いた胆管癌の検出方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らはGANPトランスジェニックマウス(GANPTG マウス)を用いて、大きな糖鎖領域を有する糖タンパク質上に現れる糖鎖エピトープを認識する効率的かつ特異的なモノクローナル抗体を得た。GANPTGマウスを胆管癌(CCA)で免疫し、医薬目的に適用可能なMUC5ACの糖鎖エピトープを認識するモノクローナル抗体を取得した。胆管癌(CCA)は、タイ北東部で肝臓ジストマ病の後に発症すること、そして硬化性胆管炎による長期の炎症後にも発症することが知られている(Sripa, B., Kaewkes, S., Sithithaworn, P., Mairiang, E., Laha, T., Smout, M., Pairojkul, C., Bhudhisawasdi, V., Tesana, S., Thinkamrop, B., Bethony, J.M., Loukas, A., Brindley, P.J. Liver fluke induces cholangiocarcinoma. PLoS Med. 4(7):e201, 2007)。MUC5AC は、CCA患者の血清中で増加することが知られているが、多くの抗MUC5ACモノクローナル抗体はMUC5ACのポリペプチド部分に特異的であり、その親和性は、血清のELISAで癌患者を高い感度と特異性で見つけるためには不十分である。従って、CCA患者の血清で癌特異的MUC5ACのレベルを検出する高親和性モノクローナル抗体を入手する必要があった。スクリーニング後、本発明者らは、CCA細胞の糖タンパク質に対する複数のモノクローナル抗体を取得した。これらの抗体は、AS1及びAS2と命名した2つのエピトープに特異的であった。AS1及びAS2エピトープは、CCA症例の大部分から分泌・発現される大きな糖鎖領域を有する糖タンパク質上に検出された。AS1及びAS2エピトープの発現は、CCAに特異的である。AS1及びAS2に対するモノクローナル抗体は、CCA細胞の増殖をインビトロで阻害した。AS1及びAS2エピトープは、患者血清を用いた確定臨床診断に有用であり、抗体療法に適用可能である。AS1及びAS2エピトープはまた、薬剤設計のための分子標的としても有用である。本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
【0008】
即ち、本発明によれば以下の発明が提供される。
(1) 胆管癌細胞におけるムチンMUC5ACの胆管癌特異的糖鎖エピトープを認識するモノクローナル抗体。
(2) 胆管癌患者の血清中のムチンMUC5ACを認識するが、健常者、胃癌患者、膵臓癌患者、結腸癌患者及び肺癌患者の血清中のムチンMUC5ACを認識しない、(1)に記載のモノクローナル抗体。
(3) 胆管癌細胞の増殖阻害作用を有する、(1)又は(2)に記載のモノクローナル抗体。
【0009】
(4) 胆管癌の腫瘍組織又はその抽出物を投与したGANP遺伝子導入トランスジェニック非ヒト哺乳動物から抗体産生細胞を回収し、胆管癌の腫瘍組織又はその抽出物と反応性を有する抗体を産生する抗体産生細胞を選別し、選別された抗体産生細胞に抗体を産生させることにより得られる、(1)から(3)の何れかに記載のモノクローナル抗体。
(5) 受領番号FERM AP−21750(受託番号FERM P−21750)又は受領番号FERM AP−21751(受託番号FERM P−21751)を有するハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体。
【0010】
(6) 受領番号FERM AP−21750(受託番号FERM P−21750)又は受領番号FERM AP−21751(受託番号FERM P−21751)を有するハイブリドーマ。
(7) 胆管癌の腫瘍組織の抽出物を投与したGANP遺伝子導入トランスジェニック非ヒト哺乳動物から抗体産生細胞を回収し、胆管癌の腫瘍組織と反応性を有する抗体を産生する抗体産生細胞を選別し、選別された抗体産生細胞に抗体を産生させることを含む、(1)から(5)の何れかに記載のモノクローナル抗体の製造方法。
【0011】
(8) (1)から(5)の何れかに記載のモノクローナル抗体を含む、胆管癌の診断薬。
(9) (1)から(5)の何れかに記載のモノクローナル抗体を含む、胆管癌を抑制及び/又は治療するための医薬。
【0012】
(10) (1)から(5)の何れかに記載のモノクローナル抗体と被験者由来の試料とを接触させて、該試料中におけるムチンMUC5ACの胆管癌特異的糖鎖エピトープの存在の有無を検出することを含む、胆管癌の検出方法。
(11) 被験者由来の試料が血清又は血漿である、(10)に記載の胆管癌の検出方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のモノクローナル抗体は、ムチンMUC5ACにおける胆管癌特異的な糖鎖エピトープを認識し、胆管癌患者の血清において胆管癌特異的にMUC5ACを検出することができる。本発明のモノクローナル抗体は、胆管癌の診断薬、並びに胆管癌を抑制及び/又は治療するための医薬として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、CCA細胞に対するモノクローナル抗体の樹立の概要を示す。
【図2】図2は、モノクローナル抗体を用いた患者試料中の腫瘍関連抗原の検出を示す。
【図3】図3は、抗体の典型的スクリーニングの概要を示す。
【図4】図4は、糖タンパク質上の癌特異的エピトープを同定するためのサンドイッチELISAの概要を示す。
【図5】図5は、サンドイッチELISAの結果を示す。
【図6】図6は、CCAと他の癌を比較するサンドイッチELISAの結果を示す。
【図7】図7は、個々の血清試料との反応性をサンドイッチELISAで調べた結果を示す。
【図8】図8は、モノクローナル抗体の特異性をCCA腫瘍臨床試料を用いて免疫組織化学により調べた結果を示す。
【図9】図9は、モノクローナル抗体の特異性をCCA腫瘍臨床試料を用いて免疫組織化学により調べた結果を示す。
【図10】図10は、CCA患者のプールした血清中のAS1及びAS2抗原の分子の大きさを通常血清と比較して調べた結果を示す。
【図11】図11は、Alb/IgG除去血清を用いてAS1及びAS2を同定した結果を示す。
【図12】図12は、免疫沈降法を用いてAS1及びAS2を同定した結果を示す。
【図13】図13は、イムノクロマトグラフィー法を用いてAS1及びAS2を同定した結果を示す。
【図14】図14は、AS1−CCA質量分析の結果を示す。
【図15】図15は、AS1−CCA質量分析の結果を示す。
【図16】図16は、AS2−CCA質量分析の結果を示す。
【図17】図17は、AS2−CCA質量分析の結果を示す。
【図18】図18は、AS2−CCA質量分析の結果を示す。
【図19】図19は、イムノクロマトグラフィー法を用いてAS1及びAS2を同定した結果を示す。
【図20】図20は、AS1、AS2、MUC5ACの免疫沈降の概要を示す。
【図21】図21は、AS1で検出されるAS1、AS2、及びMUC5ACの免疫沈降を示す。
【図22】図22は、AS1及びAS2の特性決定(エピトープ)を示す。
【図23】図23は、AS1で処理した患者血清の酵素によるデグリコシレーションを示す。
【図24】図24は、AS1で処理した、酵素によるデグリコシル化したM213A SFMを示す。
【図25】図25は、AS1の抗原の位置の予想を示す。
【図26】図26は、AS1の抗原の位置の予想を示す。
【図27】図27は、コアO−結合型グリカンの構造を示す。
【図28】図28は、M055 CCA 細胞株の増殖に及ぼすAS1及びAS2のインビトロでの効果を示す。
【図29】図29は、M055 CCA 細胞株の増殖に及ぼすAS1及びAS2のインビトロでの効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明においては、T細胞依存性抗原(TD-Ag)に対する高親和性モノクローナル抗体を産生するganp遺伝子トランスジェニックマウス(GANPTG mice: PCT/JP2003/014221(WO2004/040971号公報))を用いて、胆管癌における糖タンパク質の糖鎖成分上の癌特異的エピトープを認識するモノクローナル抗体を樹立することに成功した。外科的に切除したCCA試料の抽出物をGANPTGマウスに免疫し、脾臓細胞をポリエチレングリコールを用いてX63ミエローマ細胞と融合し、96ウエル培養プレートでIL−6の存在下で胸腺フィーダー細胞と一緒に培地中でインキュベートした。IMDM培地のHAT(ヒポキサンチン/アミノプテリン/チミジン)による選択後、増殖するクローンの上清をCCA抽出物を用いてELISAによりスクリーニングした。陽性クローンは、細胞株上での免疫染色により更にスクリーニングした。再度クローニングした後、AS1及びAS2と命名したモノクローナル抗体を、CCA細胞に対する特異的モノクローナル抗体として選択した。臨床CCA腫瘍試料上で免疫組織化学染色により、モノクローナル抗体の特異性を更に調べた。モノクローナル抗体AS1は腫瘍細胞の全体を特異的かつ強く染色し、モノクローナル抗体AS2は腫瘍細胞の先端領域を選択的に染色した。両抗体とも、周囲の非腫瘍細胞や、試験したCCA患者の組織は染色しなかった。糖タンパク質を捕捉するプレートを用いたELISAでは、モノクローナル抗体AS1及びAS2は、CCA患者のプールした血清中の抗原を認識したが、健常者、胃癌、膵臓癌、結腸癌及び肺癌のプールした血清中の抗原は認識しなかった。AS1抗原はCCA症例の約54%で陽性であり、AS2抗原はCCA症例の約27%で陽性であるが、他の悪性腫瘍や健常者の症例では陽性率は非常に低い。CCA患者の血清を用いたウエスタンブロット分析により、モノクローナル抗体AS1及びAS2は共に約220-kDaのブロードバンドを認識することが分かった。プロテオミクス分析により、MUC5AC のペプチド骨格を含む標的分子を決定した。複数の糖鎖切断酵素での処理により更に分析した結果、モノクローナル抗体AS1及びAS2はCCA細胞から分泌されるMUC5ACの糖鎖の異なる部分を認識することが分かった。CCA細胞株の増殖に及ぼすモノクローナル抗体AS1及びAS2の影響をインビトロで調べた結果、両方のモノクローナル抗体は、MUC5AC上にAS1及びAS2エピトープを発現するCCA細胞株の細胞増殖を阻害することを見出した。これらの知見は、CCA細胞ではMUC5ACの糖鎖成分に腫瘍特異的な修飾が生じ、本発明の2種のモノクローナル抗体AS1及びAS2はこれらのエピトープを認識することを示している。本発明の腫瘍特異的モノクローナル抗体は、腫瘍特異的抗原エピトープの解明及び抗体医薬として癌治療の応用に有用である。
【0016】
(1)本発明のモノクローナル抗体及びその製造方法
本発明のモノクローナル抗体を作成するための抗原としては、胆管癌の腫瘍組織又はその抽出物を用いる。胆管癌の腫瘍組織は、胆管癌患者から外科的に切除した組織を用いることができ、抽出物としては、例えば、採取した腫瘍組織をPBSなどの緩衝液中でホモジネートして得られた上清を用いることができる。
【0017】
本発明のモノクローナル抗体は、胆管癌細胞におけるムチンMUC5ACの胆管癌特異的糖鎖エピトープを認識して結合し得る抗体分子全体またはその断片(例えば、Fab又はF(ab')2断片)を意味する。本発明のモノクローナル抗体は、種々の方法で製造することができる。このような抗体の製造法は当該分野で周知である[例えばSambrook, J et al., Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)を参照]。また、本発明のモノクローナル抗体は、ヒト型抗体又はヒト抗体であってもよい。ヒト型抗体は、例えば、マウス-ヒトキメラ抗体であれば、本発明のモノクローナル抗体を産生するマウス細胞から抗体遺伝子を単離し、そのH鎖定常部をヒトIgE H鎖定常部遺伝子に組換え、マウス骨髄腫細胞に導入することにより調製できる。また、ヒト抗体は、免疫系をヒトと入れ換えたマウスに抗原である胆管癌の腫瘍組織又はその抽出物を免疫することにより調製することが可能である。
【0018】
モノクローナル抗体を作製するためには、先ず、胆管癌の腫瘍組織又はその抽出物を抗原として、哺乳動物、例えばラット、マウス、ウサギなどに投与する。本発明では、好ましくは、GANP遺伝子を導入したトランスジェニック非ヒト哺乳動物(例えば、GANP遺伝子を導入したトランスジェニックマウスなど)に、上記抗原を投与することができる。本発明では、T細胞依存性抗原(TD-Ag)に対する高親和性モノクローナル抗体を産生することができることから、免疫動物としてGANP遺伝子を導入したトランスジェニック非ヒト哺乳動物を用いることが好ましい。なお、ganp遺伝子トランスジェニックマウスは公知であり、例えば、PCT/JP2003/014221(WO2004/040971号公報)に記載の方法により作製することができる。
【0019】
抗原の動物1匹当たりの投与量は、アジュバントを用いないときは0.1〜100mgであり、アジュバントを用いるときは1〜100mgである。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(CFA)、フロイント不完全アジュバント(IFA)、水酸化アルミニウムアジュバント等が挙げられる。抗原投与の好ましい例の一つとしては、完全フロイントアジュバンド(CFA)を用いて一次免疫を行い、不完全フロイントアジュバンド(IFA)を用いて追加免疫を行うことができる。免疫は、主として静脈内、皮下、腹腔内に注入することにより行われる。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔、好ましくは2〜5週間間隔で、1〜10回、好ましくは2〜5回免疫を行う。そして、最終の免疫日から1〜60日後、好ましくは1〜14日後に抗体産生細胞を採集する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾臓細胞又は局所リンパ節細胞が好ましい。
【0020】
細胞融合ハイブリドーマを得るため、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞として、マウスなどの動物の一般に入手可能な株化細胞を使用することができる。使用する細胞株としては、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを含む)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。ミエローマ細胞としては、例えば P3X63-Ag.8.U1(P3U1)、NS-Iなどのマウスミエローマ細胞株が挙げられる。
【0021】
次に、上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを細胞融合させる。細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI-1640培地などの動物細胞培養用培地中で、1x106〜1x107個/mlの抗体産生細胞と2x105〜2×106個/mlのミエローマ細胞とを混合し(抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞比5:1が好ましい)、細胞融合促進剤存在のもとで融合反応を行う。細胞融合促進剤として、平均分子量1000〜6000ダルトンのポリエチレングリコール等を使用することができる。また、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることもできる。
【0022】
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。その方法として、細胞懸濁液を例えばウシ胎児血清含有RPMI-1640培地などで適当に希釈後、マイクロタイタープレート上に3x105個/well程度まき、各ウエルに選択培地を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行う。その結果、選択培地で培養開始後、14日前後から生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
【0023】
次に、増殖してきたハイブリドーマの培養上清中に、目的とする抗体が存在するか否かをスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、特に限定されるものではない。例えば、ハイブリドーマとして生育したウエルに含まれる培養上清の一部を採集し、酵素免疫測定法(ELISAなど)、放射性免疫測定法、免疫組織化学分析など等によってスクリーニングすることができる。融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行い、最終的にモノクローナル抗体産生細胞であるハイブリドーマを樹立することができる。
【0024】
本発明のモノクローナル抗体AS1及びAS2を産生するハイブリドーマとしては、ハイブリドーマAS1及びAS2が得られている。ハイブリドーマAS1(識別のための表示:Mouse-mouse hybridomas AS1)及びハイブリドーマAS2(識別のための表示:Mouse-mouse hybridomas AS2)はそれぞれ、受領番号FERM AP−21750(受託番号FERM P−21750)及び受領番号FERM AP−21751(受託番号FERM P−21751)として、2008年(平成20年)12月17日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東一丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566))に寄託されている。
【0025】
樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法又は腹水形成法等を採用することができる。細胞培養法においては、ハイブリドーマを10%ウシ胎児血清含有RPMI-1640培地、MEM培地又は無血清培地等の動物細胞培養培地中で、通常の培養条件(例えば37°C、5% CO2濃度)で7〜14日間培養し、その培養上清から抗体を取得することができる。
【0026】
腹水形成法の場合は、ミエローマ細胞由来の哺乳動物と同種系動物の腹腔内にハイブリドーマを約1x107個投与し、ハイブリドーマを大量に増殖させる。そして、1〜2週間後に腹水を採集する。上記抗体の採取方法において抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
【0027】
(2)本発明のモノクローナル抗体を含む、胆管癌の診断薬、並びに胆管癌を抑制及び/又は治療するための医薬
本発明のモノクローナル抗体は、胆管癌の診断薬、並びに胆管癌を抑制及び/又は治療するための医薬として使用することができる。
【0028】
本発明の診断薬及び医薬には、胆管癌細胞におけるムチンMUC5ACの胆管癌特異的糖鎖エピトープを認識する本発明のモノクローナル抗体の他に、必要に応じて薬学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤などを適宜含有させることができる。胆管癌を抑制及び/又は治療するための医薬としては例えば注射剤として製剤することができる。胆管癌を抑制及び/又は治療するための医薬の投与量は、患者の症状の程度、年令及び体重、投与方法などに依存し、有効成分である抗体の重量としては通常、約10ng〜約100mg/kg体重の範囲である。
【0029】
(3)本発明のモノクローナル抗体を用いた胆管癌の検出方法
本発明によれば、胆管癌細胞におけるムチンMUC5ACの胆管癌特異的糖鎖エピトープを認識する本発明のモノクローナル抗体と被験者由来の試料とを接触させて、該試料中におけるムチンMUC5ACの胆管癌特異的糖鎖エピトープの存在の有無を検出することによって、胆管癌を検出することができる。
【0030】
本発明において用いる被験者由来の試料としては、被験者から得られる組織、血清、血漿、唾液、尿等が挙げられるが、特に好ましくは血清又は血漿である。被験者由来の試料と上記抗体との接触は、当分野において通常行われている方法に基づいて行えばよく、特に限定するものではない。検出は、例えば試料と上記抗体との接触の後、試料中に存在し得るムチンMUC5ACの胆管癌特異的糖鎖エピトープに対する抗体との特異的結合を、蛍光物質や発光物質、酵素等で標識した二次抗体等を使用して定量的に検出することにより行うことができる。また、検出・診断のための反応をウェル等の液相中で行ってもよく、あるいは抗体を固定した固相支持体上で行ってもよい。この場合、胆管癌に罹患していない正常な試料、あるいは胆管癌であることが判明している試料を用いて予め作製した標準値と比較することによって、測定された値が胆管癌として陽性であるか否かを判定することができる。また、診断の際には、多数の胆管癌の患者と健常人の血清又は血漿中のムチンMUC5ACの胆管癌特異的糖鎖エピトープの量を測定して、カットオフ値を設定することができる。
【0031】
本発明のモノクローナル抗体を用いて、試料中におけるムチンMUC5ACの胆管癌特異的糖鎖エピトープの存在の有無を検出する方法の具体例としては、サンドイッチELISA等の酵素免疫測定法(EIA)、又は放射性免疫測定法(RIA)などがあり、これらの技術は当業者に周知である。用いる標識物質は、上記測定法に応じて、酵素、放射性同位体、蛍光化合物、および化学発光化合物等を適宜選択すればよい。前記酵素としては、例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、酸性ホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ等を挙げることができる。上記標識物質はアビジン−ビオチン複合体を用いることにより、標識物質の検出感度を向上させることも可能である。また、放射性同位体としては、主に125Iが、蛍光化合物としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)やテトラメチルローダミンイソチオシアネート(RITC)等が挙げられる。化学発光化合物としては、ロフィン、ルミノール、ルシゲニン等が挙げられる。上記標識物質による抗体の標識は、常法に従って行うことができる。以下、標識抗体を用いた標識免疫測定法及びELISA法について説明する。
【0032】
(a)標識免疫測定法
標識免疫測定法による、本発明の抗体を検出する測定系は、非競合反応系あるいは競合反応系を用いて構築することができる。非競合反応系においては、固相が必要である(固相法)。競合反応系においては、必ずしも固相を必要としない(液相法)が、固相を用いた方が、測定操作が簡便になるため好ましい。固相の材質としては、例えば、ポリスチレン、ナイロン、ガラス、シリコンラバー、セルロース等が挙げられ、固相の形状としては、球状、ウェル状、チューブ状、シート状等が挙げられるが、これらに限定されず、標識免疫測定法に用いられる公知のものを任意に用いることができる。
【0033】
測定操作は、非競合反応系であれば、例えば、検出すべき抗原(ムチンMUC5ACの胆管癌特異的糖鎖エピトープを含む可能性のある試料)を固相化した後、本発明の抗体と反応させ、次いであらかじめ標識しておいた抗免疫グロブリン抗体(二次抗体)を加えて固相化した抗原と反応している抗体と反応させる。この二次抗体の標識により、抗原に結合した抗体量を検出することができる。検出された標識量は、検出すべき抗原量と正相関するので、これにより抗原量を求めることができる。
【0034】
抗原または抗体の固相化法としては、物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法、架橋法等、公知の方法を使用できる。特に、物理的吸着法が簡便という点で好ましい。また、抗免疫グロブリン抗体(二次抗体)としては、例えば、抗IgG抗体、抗IgM抗体等を用いることができる。これらの抗体は、抗体分子をそのまま使用してもよいし、あるいは抗体を酵素処理して得られる抗原結合部位を含む抗体フラグメントであるFab、Fab'、F(ab')2を使用してもよい。さらに、標識した抗免疫グロブリン抗体の代わりに、抗体分子に特異的な親和性をもつ物質、例えばIgGに特異的な親和性をもつプロテインA等を標識して使用してもよい。
【0035】
(b)ELISA法
前記標識免疫測定法の好適な例として、酵素を標識とした免疫測定法、ELISA法を挙げることができる。ELISA法は、例えば、96穴プレートに検体またはその希釈液を入れて、4℃〜室温で一晩、または37℃で1〜3時間程度静置して検出すべき試料を吸着させて固相化する。次に、本発明の抗体を反応させ、次いであらかじめ酵素を結合させた抗免疫グロブリン抗体(二次抗体)を反応させる。最後に酵素と反応する適当な発色性の基質(例えば、酵素がホスファターゼならp−ニトロフェニルリン酸等)を加え、この発色によって抗体を検出することができる。
【0036】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
(A)材料と方法
(1)胆管癌(CCA)試料
外科的に切除した試料を、タイのKhon Kaen大学のSrinagarind病院で承認された肝内CCAを有する100人の患者から得た。インフォームド・コンセントは、Khon Kaen大学のヒト研究倫理委員会で承認されたプロジェクトに参加した全患者から得た。年齢、性別、組織学的等級、及びリンパ節、血管及びペリニューロンの関与を含むデータを、Khon Kaen大学の肝臓ジストマ症及び胆管癌研究センターの医療記録及び病理記録に基づいて過去に遡って調べた。
【0038】
(2)細胞株及び細胞培養
ヒトCCA細胞株(M213A, M055及びKKU-100) は、10%熱不活化ウシ胎児血清(FCS; Sigma, St. Louis, MO)、2 mM L-グルタミン(Cambrex, Baltimore, MD)、100μg/ml ストレプトマイシン、100 U/ml ペニシリン及び50 μM 2-メルカプトエタノールを補充したHam-F12 (Invitrogen, Carlsbad, CA) で培養した。不死化したヒト胆管細胞MMNK-1 (Maruyama, M., Kobayashi, N., Westerman, K.A., Sakaguchi, M., Allain, J.E., Totsugawa, T., Okitsu, T., Fukazawa, T., Weber, A., Stolz, D.B., Leboulch, P. & Tanaka, N. Establishment of a highly differentiated immortalized human cholangiocyte cell line with SV40T and hTERT. Transplantation 77(3):446-451, 2004)は、補充したダルベッコ改変イーグル培地で37 oCで5% CO2で培養した。乳癌細胞株MCF7はRPMI-1640で維持した。
【0039】
(3)モノクローナル抗体の樹立
各種のCCA (n=5)からの腫瘍組織をPBS中でホモジネートし、得られた上清をBalb/c-GANPTGマウスに腹腔内注入した。抗原投与は、完全フロイントアジュバンド(CFA)を用いて一次免疫として行い、不完全フロイントアジュバンド(IFA)を用いて追加免疫を行った(Kuwahara, K., Yoshida, M., Kondo, E., Sakata, A., Watanabe, Y., Abe, E., Kouno, Y., Tomiyasu, S., Fujimura, S., Tokuhisa, T., Kimura, H., Ezaki, T. & Sakaguchi, N. A novel nuclear phosphoprotein, GANP, is up-regulated in centrocytes of the germinal center and associated with MCM3, a protein essential for DNA replication. Blood 95(7):2321-2328, 2000)。より高い抗体価を有するマウスを更に免疫し、3日後、脾臓細胞を採取し、標準手法のポリエチレングリコール法によりマウスミエローマ細胞株X63と細胞融合させた(Kuwahara, K., Tomiyasu, S., Fujimura, S., Nomura, K., Xing, Y., Nishiyama, N., Ogawa, M., Imajoh-Ohmi, S., Izuta, S. & Sakaguchi, N. Germinal center-associated nuclear protein (GANP) has a phosphorylation-dependent DNA-primase activity that is up-regulated in germinal center regions. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 98(18):10279-10283, 2001)。融合細胞は、IL-6 (5 units/ml)の存在下で2 x 104 細胞/ウエルの濃度でマイクロ培養プレート上でHAT培地により選択した。スクリーニングは、間接EISAと免疫組織化学の組み合わせで行った。最終的に、モノクローナル抗体AS1及びAS2を樹立した。
【0040】
(4)ELISA
96ウエル平底プレートを、炭酸バッファーpH9.6 (0.15 M Na2CO3 and 0.35 M NaHCO3)中で4℃で40 μg/mlの大豆アグルチニン(SBA; Sigma, St. Louis, MO)で被覆した。プレートは、0.9% NaCl中の0.05% Tween-20(NSST)で5回洗浄した。ブロッキングは、PBS/0.05% Tween-20 (PBS-T)中の2% BSAを用いて行った。NSSTで5回洗浄した後、患者の血清の適当な希釈物50μlを各ウエルに添加し、プレートを37℃で1時間インキュベートした。プレートをNSSTで5回洗浄した。樹立したモノクローナル抗体の適当な希釈物50μlを各ウエルに添加した。37℃で1時間インキュベートし、NSSTで洗浄した後、プレートを、西洋サワビペルオキシダーゼ(HRP)結合ヤギ抗マウス(Southern Biotechnology Associates, Birmingham, AL)とともに37℃で1時間さらにインキュベートした。3,3',5,5'-テトラメチル−ベンジジン (TMB)基質の添加によって発色させた。1N H2SO4 (50 μl)を各ウエルに添加して、反応を停止させた。ELISAリーダーで450nmでプレートを測定した。間接ELISAでは、5μg/mのCCA抽出物を96ウエルに被覆した。CCAに対する樹立したモノクローナル抗体及びHRP結合ヤギ抗マウスIgMをそれぞれ、一次抗体及び二次抗体としてそれぞれ使用した。
【0041】
(5)免疫組織化学
パラフィン切片 (4μm) をキシレンで脱パラフィン化し、続いて、再水和し、クエン酸バッファー(pH 6.0)中でマイクロ波で処理した。0.3% H2O2で内因性のペルオキシダーゼをブロックし、スライドを5%正常ウマ血清で予めインキュベートした後、モノクローナル抗体で4℃で一晩インキュベートし、次いで、ビオチン化抗マウスIg抗体とベクタスタチン(Vectastain) ABC 複合体(Vector Laboratories, Burlingame, CA)で増幅し、シグナルを3,3'-ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライド(Sigma)で可視化した。
【0042】
(6)モノクローナル抗体の精製
選択したハイブリドーマ(AS1及びAS2)をPBSで3回洗浄し、血清を含まない培地中で7日間培養した。培養上清をローディングバッファー(0.05 M リン酸ナトリウム, pH7.0)に対して透析した。KAPTIV-M樹脂(Tecnogen S.C.p.A., Piana di Monte Verna, Italy)を5ベッド体積のローディングバッファーで平衡化した後、透析した上清を樹脂を含むカラムに適用し、ローディングバッファーで十分に洗浄した。保持されたタンパク質を溶出バッファー(0.1 M 酢酸)で溶出し、回収した画分を1 M Tris-HCl (pH9.0)で直ちに中和し、pHを7.0付近にした。
【0043】
(7)免疫沈降
精製したモノクローナル抗体AS1及びAS2は、CNBrで活性化したセファロース(GE Healthcare, Buckinghamshire, UK) に取扱説明書に従って結合した。抗原抗体複合体をセファロース上に捕捉し、SDS-PAGEで分離し、ウエスタンブロット及び免疫検出によって検出した。
【0044】
(8)ウエスタンブロット分析
培養デッィシュ中のCCA細胞株はPBSで洗浄し、150 mM NaCl、50 mM Tris-HCl (pH7.4)、1% Tween-20、1%デオキシコール酸ナトリウム、0.1% SDS 及び1x プロテアーゼ・インヒビター・カクテル(Roche Molecular Biochemicals, Mannheim, Germany)を含む溶解バッファーで溶解した。細胞溶解物を10,000 x gで30分間4℃で遠心した。上清のタンパク質濃度をLowry法を用いて測定した。タンパク質をマイクロスラブSDS-PAGEで分離した後、ゲルをトランスファーバッファー[40 mM Tris-HCl (pH7.4), 20 mM 酢酸ナトリウム, 2 mM EDTA, 20% (v/v) メタノール及び0.05% SDS]中で15分間予め平衡化してから、ゲル中のタンパク質をニトロセルロース膜に電気トランスファーした。膜は、1% (w/v) 非脂肪ドライミルク(PBS-T )で4℃で一晩ブロッキングした。ブロットは、一次抗体(樹立したモノクローナル抗体)と一緒に室温で1時間インキュベートした。HRP結合ヤギ抗マウスIgMを二次抗体として使用した。タンパク質の発現は、Enhanced ChemiLuminescenceキット (GE Healthcare)で検出した。
【0045】
(9)標的分子のプロテオミクス分析
CCA患者又は正常ボランティアからのアルブミン/IgG-枯渇血清を、モノクローナル抗体AS1又はAS2を結合させたセファロースを用いた免疫アフィニティーカラムに適用した。溶出した試料はSDS-PAGEで分離し、ゲルを深紫色で染色するか、又は免疫検出した。免疫反応性を有するスポットをゲルから切り出し、マイクロチューブに別々に移した。ゲル粒子を乾燥した後、還元及びアルキル化を行った。ゲル内消化を標準的な手法で行った簡単に言うと、ゲル内のタンパク質をトリプシンで一晩消化した。分解したペプチドを乾燥し、2%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸で分割し、ZipTip (Millipore, Billerica, MA)で脱塩した。試料は繰り返し乾燥し、2%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸で分割し、液体クロマトグラフィー・タンデムマススペクトロメトリー(LC/MS/MS)に供した。 ケラチンなどの既知のコンタミネーションピーク、自己光分解ピークは除去した。LC/MS/MS の結果を、NCBI データベースと比較した。
【0046】
(10)標的糖タンパク質の酵素処理
標的糖タンパク質のグリコシル化を評価するために、Glyko enzymatic deglycosylationキット(Glyko, Inc., Novato, CA)を用いた。M213A 細胞は、各種の酵素の組み合わせの存在下において血清を含まない培地中で37℃で一晩培養した。培養上清を回収し、Centricon (Millipore)を用いて濃縮した。幾つかの実験では、CCA血清は、 デグリコシダーゼで処理した。酵素消化後の試料は、上記の通り、SDS-PAGE及びイムノブロットに用いた。
【0047】
(11)インビトロでのCCA細胞株の増殖におけるモノクローナル抗体の影響
CCA細胞株は、コラーゲンI型で被覆したプレート(和光純薬工業、大阪、日本)上で培養した。FCSを含む培地で洗浄した後、モノクローナル抗AS1又はAS2、又は対照IgMを最終濃度1 μg/mlで培地に添加した。画像は、経時的顕微鏡(IX81; オリンパス、東京、日本)を用いて10分毎に48時間取得した。
【0048】
(B)結果
(1)CCA細胞に対するモノクローナル抗体の樹立
GANPTG マウスに、ヒトCCA組織のプールした細胞溶解物をCFAと一緒に免疫し、IFA中の溶解物で追加免疫した。脾臓細胞を単離し、既報の標準法で(Kuwahara, K., Tomiyasu, S., Fujimura, S., Nomura, K., Xing, Y., Nishiyama, N., Ogawa, M., Imajoh-Ohmi, S., Izuta, S. & Sakaguchi, N. Germinal center-associated nuclear protein (GANP) has a phosphorylation-dependent DNA-primase activity that is up-regulated in germinal center regions. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 98(18):10279-10283, 2001)でポリエチレングリコールを用いてミエローマ細胞株X63と融合した。HAT培地での選択後、CCA細胞に対するモノクローナル抗体を、CCA抽出物で予め処理した96ウエルのマイクロ培養プレートを用いた間接ELISAによって先ず選択した(図1)。ミエローマ細胞株による3回の独立した融合により、患者血清を用いたELISAと組織切片における免疫組織化学分析によりさらにスクリーニングを行い、図2に示す戦略により、癌に特異的又は選択的なモノクローナル抗体を見出した。特異性は、肝癌、膵臓癌及び胃癌のような他の癌細胞を用いて確認した。図3に示す典型的スクリーニングにおいて、細胞ELISAでCCA細胞を選択的に認識する複数のモノクローナル抗体を得た。代表的モノクローナル抗体は2群に分類され、モノクローナル抗体AS1及びAS2と命名した。何れのモノクローナル抗体ともIgM/κであった。モノクローナル抗体AS1及びAS2を産生するハイブリドーマAS1(識別のための表示:Mouse-mouse hybridomas AS1)及びハイブリドーマAS2(識別のための表示:Mouse-mouse hybridomas AS2)はそれぞれ、受領番号FERM AP−21750(受託番号FERM P−21750)及び受領番号FERM AP−21751(受託番号FERM P−21751)として、2008年(平成20年)12月17日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東一丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566))に寄託されている。
【0049】
糖タンパク質上の癌特異的エピトープを同定するために、図4に示すようなサンドイッチELISAを使用した。マイクロタイタープレートを大豆アグルチニンで被覆し、CCA患者のプールした血清を適用した。モノクローナル抗体は、HRP結合ヤギ抗マウスIg抗体の二次抗体試薬を用いて、患者血清中に抗原が存在するかどうかを検出してスクリーニングした。反応性は、450nmにおける光学濃度(光学密度:OD)によって測定した。バックグラウンドODを差し引いて、特異性を測定した。プールした血清との反応性を図5に示す。モノクローナル抗体AS1は、CCA患者のプールした血清と特異的に反応したが、正常血清とは反応しなかった。モノクローナル抗体AS2は、正常血清及びブランク試料に対するバックグラウンド反応性がより高かったが、CCA血清に対する反応性はより強かった。モノクローナル抗体AS1及びAS2の反応性を、正常、CCA、肝癌、膵臓、胃、結腸及び良性の腫瘍を用いて調べた(図6)。モノクローナル抗体AS1はCCA血清に対して非常に特異的であった。大豆アグルチニンで被覆したプレートを用いたELISAアッセイでは、他の血清試料とより高いバックグラウンドを示す一方で、モノクローナル抗体AS2は、CCA血清に選択的である。個々の血清試料との反応性を調べた結果の一部を図7に示す。100個のCCA血清試料との全体的反応性としては、AS1はCCA血清の54%で陽性であり、AS2は27%で陽性であった。これら2種の抗体を組み合わせると、60%近くが、モノクローナル抗体AS1又はAS2の何れかで陽性であった。モノクローナル抗体AS1及びAS2の特異性を、CCA腫瘍臨床試料を用いて免疫組織化学によりさらに調べた(図8)。モノクローナル抗体AS1及びAS2は、腺癌の腫瘍細胞と明確に反応したが、周囲の細胞又は組織とは反応しなかった。図9に示す通り、AS1は管状表面の細胞及び周辺に現れ、この傾向はAS2ではより顕著になり、AS2は腫瘍細胞の先端周辺において強く陽性であった。即ち、この2種のモノクローナル抗体は同様の糖タンパク質と反応するが、腫瘍細胞における局在は異なっている。
【0050】
(2)AS1及びAS2の分子研究
CCA患者のプールした血清中のAS1及びAS2抗原の分子の大きさを、通常血清と比較して調べた(図10)。幅広いバンドがプールしたCCA血清中でのみ見られ、正常血清では見られなかった。抗原構造を決定するために、アルブミン/IgG除去可能カラムにプールした血清を通し、Microcon YM-30で濃縮して標的糖タンパク質を濃縮した(図11)。モノクローナル抗体AS1及びAS2で検出された抗原は、SDS-PAGE上で推定~220-kDaのブロードなバンドであった。CCA血清中に存在する220-kDa近傍の大きなタンパク質をQstar (LC/MS/MS)を用いたMass分析により直接解析したところ、α2-マクログロブリンが同定された。しかし、AS1とAS2の発現パターンはα2-マクログロブリンとは明らかに相関しないため、この方法では目的の分子を同定することは困難であると判断した。そこでモノクローナル抗体AS1及びAS2を無血清培地から精製し、IgM精製キットで濃縮した。精製したモノクローナル抗体はセファロースビーズと結合させ、それを用いた免疫沈降法とウェスタンブロット解析により、AS1とAS2は~220-kDaのブロードなバンドを特異的に検出した(図12)。次にAS1及びAS2結合セファロースビーズを用いてアフィニティークロマトグラフィーカラムを作成した。CCA患者血清中のAS1及びAS2抗原を2段階で精製した後、抗原を質量分析に供した(図13)。AS1はMUC5AC糖タンパク質のペプチド配列とヒットした(図14及び15)。AS2はMUC5ACのペプチド配列と複数のペプチド配列と高いスコアでヒットした(図16、17及び18)。これらの結果は、AS1及びAS2が220-kDaの大きな分子サイズの糖タンパク質の異なるエピトープを認識することを示す。この糖タンパク質は、質量分析によりMUC5AC及びMUC6と決定された(図19)。
【0051】
(3)MUC5ACに対するモノクローナル抗体AS1及びAS2の反応性
免疫沈降及びウエスタンブロット解析によりMUC5ACに対するモノクローナル抗体AS1及びAS2の反応性を調べた(図20)。モノクローナル抗体AS1 (IgM,κ)は、ウエスタンブロット解析では220-kDaのバンドと強く反応した。モノクローナル抗体AS1及びAS2は、大きなサイズの糖タンパク質を免疫沈降させた(図21)。モノクローナル抗体AS1は、M213A CCA細胞株における糖タンパク質を認識したが、正常胆管細胞株MNNK1及び乳癌細胞株MCF7における糖タンパク質は認識しなかった。M213Aの培養上清は、モノクローナル抗体AS1に対する反応性が低かった。これは、M213A細胞の免疫沈降及びウエスタンブロット解析により確認された。モノクローナル抗体AS1は、M213 CCA腫瘍細胞に特異的であった。モノクローナル抗体AS2は、モノクローナル抗体AS1と反応させた場合と同様のウエスタンブロットプロフィールを示したことにより、モノクローナル抗体AS1は、AS2抗原、即ちMUC5ACの異なるエピトープを認識することが示された。市販の抗MUC5AC抗体を用いて同様の実験を試みた。市販の抗MUC5AC抗体の多くは、モノクローナル抗体AS1及びAS2と比べて、ウエスタンブロット分析において反応性が比較的弱かったことから、本発明の2種類のモノクローナル抗体は、免疫沈降、ウエスタンブロット分析及びELISAにおいてMUC5AC抗原に対する反応性が強いことが示された。
【0052】
(4)AS1及びAS2抗原の糖特性の研究
AS1及びAS2エピトープが大きなサイズの糖タンパク質の糖成分上に存在するかどうかを調べてみることにした(図22)。CCAのプールした血清を、シアリダーゼ(2)、O-グリカナーゼ(3)、シアリダーゼ + O-グリカナーゼ(4)、N-グリカナーゼ(5)、N-グリカナーゼ + シアリダーゼ(6)、シアリダーゼ + O-グリカナーゼ+ シアリダーゼ (7)、及び0.1 M NaOHで処理した。AS1は、シアリダーゼによる処理後に、鋭いより高い分子サイズのバンドに移動し、NaOH処理によりウエスタンブロット上のシグナルを消失さえた。これらの結果は、AS1の抗原エピトープはシアル酸で僅かにマスクされており、シアリダーゼ処理後に鋭いバンドになることを示している。O-結合型糖成分は、0.1 M NaOH処理に感受性である。即ち、AS1エピトープは、MUC5AC糖タンパク質 の糖成分上にある(図23)。M213A細胞を無血清培地で培養した上清を用いたAS1エピトープの解析結果は、CCAのプール血清を用いた場合と同様であった(図24)。糖タンパク質の酵素によるデグリコシレーションにより、シアリダーゼの処理によりAS1の反応性が増大することが判明したが、これは、シアル酸が抗原エピトープを被覆していることを示唆している。β-ガラクトシダーゼ、N-アセチルグルコサミダーゼ及びO-グリカナーゼによる処理により、AS1の反応性は減少した。N-グリカナーゼの処理は、AS1反応性に影響しない。これを考慮すると、AS1の抗原エピトープは、シアル酸により被覆されている糖構造であり、この糖構造の一部はβ-ガラクトシダーゼ、N-アセチルグルコサミダーゼ、及びO-グリカナーゼで切断できる(図25)。AS1の抗原エピトープは糖領域であり、そのうちの一部はGal β(1-4)結合に連結している。GlcNAcβ(1-6)は、O−結合によって高分子量糖タンパク質(MUC5AC)のタンパク質中心に連結している前者を有する(図27を参照)。同様に、AS2の抗原エピトープは、糖成分にあると推定され、その大部分はGalβ(1-4)結合に連結し、これは高分子量糖タンパク質(MUC5AC)のポリペプチド骨格にO−結合によって連結している(図26、図27)。
【0053】
(5)CCA癌細胞の増殖におけるAS1及びAS2エピトープの効果
AS1及びAS2エピトープはCCA細胞で発現しているので、本発明のモノクローナル抗体がCCA細胞株の増殖に影響を及ぼすかどうかを調べた。モノクローナル抗体AS1及びAS2は、複数のCCA細胞株を阻害した。図28では、M055細胞は、AS1 (1μg/ml), AS2 (1μg/ml), 対照IgM (1μg/ml), 又は未処理の培地の存在下で培養した。経時的顕微鏡観察により、DNAの染色によって確認される通り、モノクローナル抗体AS1及びAS2の存在下で細胞増殖の阻害が示された(図29)。この実験により、モノクローナル抗体AS1及びAS2が、CCA癌細胞の腫瘍特異的阻害に有用であることが示された。
【0054】
(C)考察
上記の結果から、本発明のモノクローナル抗体で認識される癌特異的エピトープは、CCA癌細胞に分泌・発現するMUC5ACの糖タンパク質に存在することが示された。エピトープが糖鎖領域に存在することは、癌細胞ではグリコシレーションパターンの変化が生じていることを示唆している。
【0055】
糖タンパク質の糖鎖における癌に特異的又は選択的なエピトープは、薬物送達及び抗体療法の標的として有用である。図28及び図29に示すように、モノクローナル抗体AS1及びAS2は、CCA細胞株の増殖をインビトロで阻害した。この結果は、この糖鎖エピトープが、医療治療のための標的となりうることを示している。
【0056】
また、本発明のモノクロナール抗体の製造方法は、従来の技術では作成するのが困難であった糖鎖エピトープに対する特異的モノクローナル抗体を製造するための効率的な方法である。糖タンパク質に対するモノクローナル抗体の樹立に焦点をあててスクリーニングを行った結果、特異的エピトープの大部分がMUC5ACの糖鎖領域であることが判明した。GANPTG マウスは、高い効率で、癌特異的糖鎖エピトープに対する抗体を産生することができた。
【0057】
モノクローナル抗体AS1及びAS2は、癌特異的エピトープの研究に有用であり、各種の糖タンパク質における癌特異的エピトープの同定のための優れたプローブである。また、本発明のモノクローナル抗体の情報は、重鎖及び軽鎖のIg-V領域によって作成される抗原結合部位の結晶情報に基づく3次構造の分子プローブを設計するのに適用可能である。
【受託番号】
【0058】
FERM P−21750
FERM P−21751
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胆管癌細胞におけるムチンMUC5ACの胆管癌特異的糖鎖エピトープを認識するモノクローナル抗体。
【請求項2】
胆管癌患者の血清中のムチンMUC5ACを認識するが、健常者、胃癌患者、膵臓癌患者、結腸癌患者及び肺癌患者の血清中のムチンMUC5ACを認識しない、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
胆管癌細胞の増殖阻害作用を有する、請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体。
【請求項4】
胆管癌の腫瘍組織又はその抽出物を投与したGANP遺伝子導入トランスジェニック非ヒト哺乳動物から抗体産生細胞を回収し、胆管癌の腫瘍組織又はその抽出物と反応性を有する抗体を産生する抗体産生細胞を選別し、選別された抗体産生細胞に抗体を産生させることにより得られる、請求項1から3の何れかに記載のモノクローナル抗体。
【請求項5】
受領番号FERM AP−21750(受託番号FERM P−21750)又は受領番号FERM AP−21751(受託番号FERM P−21751)を有するハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体。
【請求項6】
受領番号FERM AP−21750(受託番号FERM P−21750)又は受領番号FERM AP−21751(受託番号FERM P−21751)を有するハイブリドーマ。
【請求項7】
胆管癌の腫瘍組織の抽出物を投与したGANP遺伝子導入トランスジェニック非ヒト哺乳動物から抗体産生細胞を回収し、胆管癌の腫瘍組織と反応性を有する抗体を産生する抗体産生細胞を選別し、選別された抗体産生細胞に抗体を産生させることを含む、請求項1から5の何れかに記載のモノクローナル抗体の製造方法。
【請求項8】
請求項1から5の何れかに記載のモノクローナル抗体を含む、胆管癌の診断薬。
【請求項9】
請求項1から5の何れかに記載のモノクローナル抗体を含む、胆管癌を抑制及び/又は治療するための医薬。
【請求項10】
請求項1から5の何れかに記載のモノクローナル抗体と被験者由来の試料とを接触させて、該試料中におけるムチンMUC5ACの胆管癌特異的糖鎖エピトープの存在の有無を検出することを含む、胆管癌の検出方法。
【請求項11】
被験者由来の試料が血清又は血漿である、請求項10に記載の胆管癌の検出方法。
【請求項1】
胆管癌細胞におけるムチンMUC5ACの胆管癌特異的糖鎖エピトープを認識するモノクローナル抗体。
【請求項2】
胆管癌患者の血清中のムチンMUC5ACを認識するが、健常者、胃癌患者、膵臓癌患者、結腸癌患者及び肺癌患者の血清中のムチンMUC5ACを認識しない、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
胆管癌細胞の増殖阻害作用を有する、請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体。
【請求項4】
胆管癌の腫瘍組織又はその抽出物を投与したGANP遺伝子導入トランスジェニック非ヒト哺乳動物から抗体産生細胞を回収し、胆管癌の腫瘍組織又はその抽出物と反応性を有する抗体を産生する抗体産生細胞を選別し、選別された抗体産生細胞に抗体を産生させることにより得られる、請求項1から3の何れかに記載のモノクローナル抗体。
【請求項5】
受領番号FERM AP−21750(受託番号FERM P−21750)又は受領番号FERM AP−21751(受託番号FERM P−21751)を有するハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体。
【請求項6】
受領番号FERM AP−21750(受託番号FERM P−21750)又は受領番号FERM AP−21751(受託番号FERM P−21751)を有するハイブリドーマ。
【請求項7】
胆管癌の腫瘍組織の抽出物を投与したGANP遺伝子導入トランスジェニック非ヒト哺乳動物から抗体産生細胞を回収し、胆管癌の腫瘍組織と反応性を有する抗体を産生する抗体産生細胞を選別し、選別された抗体産生細胞に抗体を産生させることを含む、請求項1から5の何れかに記載のモノクローナル抗体の製造方法。
【請求項8】
請求項1から5の何れかに記載のモノクローナル抗体を含む、胆管癌の診断薬。
【請求項9】
請求項1から5の何れかに記載のモノクローナル抗体を含む、胆管癌を抑制及び/又は治療するための医薬。
【請求項10】
請求項1から5の何れかに記載のモノクローナル抗体と被験者由来の試料とを接触させて、該試料中におけるムチンMUC5ACの胆管癌特異的糖鎖エピトープの存在の有無を検出することを含む、胆管癌の検出方法。
【請求項11】
被験者由来の試料が血清又は血漿である、請求項10に記載の胆管癌の検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図2】
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【図4】
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【図10】
【図11】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【公開番号】特開2010−180168(P2010−180168A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25607(P2009−25607)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【出願人】(598081621)株式会社トランスジェニック (15)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【出願人】(598081621)株式会社トランスジェニック (15)
【Fターム(参考)】
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