背もたれ付き椅子
【課題】背支柱の前面に背もたれを配置してねじで固定している椅子において、美観の悪化を招来することなく強度アップを図る。
【解決手段】背シェル板は下部背シェル板9と上部背シェル板10とに分離構成されており、下部背シェル板9は座シェル板8にヒンジ部14を介して一体に繋がっている。ベース6に連結された背フレーム7は左右の背支柱29を有しており、背支柱29の上端部に後ろから挿通したねじ31により、上部背シェル板10が背支柱29に固定されている。上部背シェル板10の前面に左右横長の補強板33がされており、ねじ31は補強板33にねじ込まれている。補強板33の連結機能によって強度が格段にアップする。
【解決手段】背シェル板は下部背シェル板9と上部背シェル板10とに分離構成されており、下部背シェル板9は座シェル板8にヒンジ部14を介して一体に繋がっている。ベース6に連結された背フレーム7は左右の背支柱29を有しており、背支柱29の上端部に後ろから挿通したねじ31により、上部背シェル板10が背支柱29に固定されている。上部背シェル板10の前面に左右横長の補強板33がされており、ねじ31は補強板33にねじ込まれている。補強板33の連結機能によって強度が格段にアップする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、背もたれ付き椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
背もたれを有する椅子において、背もたれをその後ろに配置した支持部材で支持しているタイプがある。
【0003】
例えば特許文献1には、座の左右に配置した左右脚を座の上方に突出させてその上端部に内向き突出した左右横長のアームを固定し、アームに背もたれをビスで固定することが記載されている。この特許文献1では、背もたれは樹脂製の背シェル板(芯材)を表裏から表皮材で覆った構造になっており、アームも裏側の表皮材で覆われている。
【0004】
他方、特許文献2には、座シェル板と背シェル板とを一体構造とした椅子において、座の下方に配置したベースから背もたれの左右中間部において立ち上がる背支柱を設け、背支柱に固定した後部横長ブラケットに背シェル板をビスで固定することが記載されている。より正確に述べると、特許文献2では、座及び背もたれはインナーシェル板とこれを支持するアウターシェル板とを有しており、座インナーシェル板及び背インナーシェル板とを一体構造品として製造すると共に、座アウターシェル板及び背アウターシェル板も一体構造品として製造しており、後部横長ブラケットを背アウターシェル板の手前に配置し、後部横長ブラケットに背インナーシェル板を固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−204732号公報
【特許文献2】特許第2592108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
両特許文献は樹脂製の背シェル板をアームや横長ブラケットにビスで直接に固定しているが、樹脂製品は金属に比べて強度が低いため、必要な強度を得るには厚さを厚くする等の対策を講じなければならず、このため設計が厄介になるおそれがある。特に、背もたれの後ろに左右2本の背支柱を配置して、左右背支柱の上端部に背もたれを固定したい場合があるが、美観の点から特許文献1,2のようなアームや横長ブラケットを使用しない場合は、背もたれ全体としてねじれ変形しやすくなるため、背もたれを厚くすることなく強度を確保することは一層厄介になる。
【0007】
さて、特許文献2のように座シェル板と背シェル板との全体を一体構造品として成形すると、全体として高い剛性を確保しやすくなるが、製造するためには大きな金型が必要になるため製造コストは嵩むことになる。従って、シェル板を分離して連結するとコスト面で有利であるが、このように連結方式を採用するとシェル板自体の強度は低くならざるを得ないため、連結方式の場合、背シェル板を左右の背支柱に固定しただけであると強度に関する問題が顕著に表れわれやすいと言える。
【0008】
同様に、背シェル板が座シェル板に対して後傾動する場合も、背シェル板はねじり等の外力に対して弱くなるため、この場合も、背シェル板を左右の背支柱に固定しただけでは強度に関する問題が顕著に表れやすいと言える。
【0009】
本願発明はこのような現状に鑑み成されたものであり、背もたれをその後ろに配置した背支柱に固定して成る椅子において、背もたれの背面部をスッキリとさせつつ高い強度を確保せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明では、背もたれを、背シェル板と少なくとも前面に配置されたクッションとこれらを表裏両側から覆う表皮材とより成る複層構造にしており、前記表皮材で覆われた内部に配置した補強板と前記背シェル板とを、前記背もたれの後ろに配置された背支柱にねじで共締めしている。
【0011】
本願発明は様々に展開することができる。その例を請求項2以下で特定している。このち請求項2の発明は、請求項1において、前記補強板は前記背シェル板の前面に重ね配置されている。請求項3の発明は、請求項1又は2において、前記背支柱は左右に分かれて2本配置されている一方、前記補強板は、正面視で前記左右背支柱の間に延びる左右横長の形態になっている。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1〜3のうちのいずれかにおいて、座シェル板が上部背シェル板と下部背シェル板とに別々に製造されていて両者が連結されており、前記下部背シェル板は、座シェル板にヒンジ部を介して一体に設けられている一方、前記上部背シェル板は前記背支柱に固定されており、更に、前記背支柱は前記座又はその下方に配置したベースに後傾動可能に連結されており、前記背もたれはばね手段に抗してロッキング可能である。
【発明の効果】
【0013】
本願発明では、補強板の存在により、特定部位に応力が集中することを防止できるため、背シェル板が樹脂製であっても、過度に厚くすることなく曲げやねじれに対する強度を確保することができる。また、表皮材で覆われた内部に隠れているため、美観を損なうこともない。従って、美観を悪化させたり過度に厚くしたりすることなく、背もたれに必要な強度を保持せしめることができる。なお、補強板は鋼板のような金属製とするのが好ましい。
【0014】
請求項2の構成を採用すると、背シェル板は補強板と背支柱との間に挟まれるため、特に強度において優れている。更に、請求項3のように構成すると、左右2本の背支柱に背もたれを固定したシンプルな構造でありながら、左右横長の補強板によって強度を確保できるため、特に好適である。
【0015】
ねじ(ビス、ボルト)による締結手段としては、補強板にナットを溶接したり、補強板に単純なタップ穴を空けたりすることも可能であるが、ナットを溶接するのは手間がかかり、他方、単純なタップ穴を開ける方式では、ねじの掛かり代を確保するために補強板が必要以上に厚くなる可能性がある。これに対して、実施形態のようにバーリング部を設けてこれに雌ねじを形成すると、補強板を必要以上に厚くすることなくねじのねじ込み機能を保持できる利点がある。
【0016】
請求項4の構成を採用すると、外観上は座と背もたれとが一体化している椅子でありながら、背シェル板を上下分割方式としたことにより、金型の大型化を回避して製造コストを抑制することができ、かつ、背シェル板は座シェル板に対して後傾動するため、座シェル板は全く又は殆ど後傾することなく背もたれを後傾させることができる。このため、外観上は座と背もたれとが一体化した椅子でありながら、背もたれにロッキング機能を持たせることができる。そして、補強板の存在によって強度も確保されている。従って、請求項4の発明では、ロッキング機能に優れると共に強度も確保した背座一体方式の椅子を、できるだけコストを抑制して製造可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係る椅子の外観を示す図で、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は平面図、(D)は背面図、(E)は部分的な斜視図である。
【図2】(A)は全体の分離斜視図、(B)はベースをひっくり返した状態での分離斜視図である。
【図3】(A)はシェル板及び補強板の分離斜視図、(B)はクッションの分離斜視図である。
【図4】全体の一部破断分離平面図である。
【図5】座を中心にした部分を図4の V-V視方向から見た側断面図である。
【図6】(A)は図5のVIA-VIA 視部分断面図、(B)は図5のVIB-VIB 視部分断面図である。
【図7】図5の VII-VII視部分断面図である。
【図8】(A)は身体受け部を後ろから見た分離斜視図、(B)は下部背シェル板を下方から見た部分斜視図である。
【図9】(A)は上部背シェル板と補強板との分離斜視図、(B)は上部背シェル板の下部を後ろから見た斜視図、(C)は(A)のC−C視断面図である。
【図10】上部背シェル板と補強板と背支柱との分離平断面図である。
【図11】図10の箇所で見た組み立て後の断面図である。
【図12】(A)は背シェル板の分離正面図、(B)は連結状態での(A)のB−B視断面図、(C)は連結状態での(A)のC−C視断面図、(D)は連結状態での(A)のD−D視断面図である。
【図13】シェル板とクッションとの関係を示す縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明では方向を特定するため「前後」「左右」の文言を使用するが、これらの文言は普通に着座した人の向きを基準にしている。但し、正面視は着座した人と対向した方向をいう。「内」「外」の文言も使用するが、正面視で椅子の中心を向いた方向を内向きとし、正面視で椅子の中心から左右外側を向いた方向を外向きとしている。
【0019】
(1).椅子の概要
まず、図1〜図5,図13に基づいて椅子の概要を説明する。本実施形態は回転椅子に適用しており、椅子は、図1に示すように、座1と背もたれ2とが一体に連続した身体受け部3と、脚支柱4を有する脚装置5と、脚支柱4の上端に取り付けたベース6と、ベース6に後傾動自在に連結した背フレーム7とを有している。脚装置5は放射方向に延びる枝足を有しており、各枝足の先端にはキャスタを設けている。ベース6と背フレーム7とはアルミダイキャスト品又は樹脂成形品である。
【0020】
図1(B)に示すように、ベース6の後面とは背フレーム7の下部の前端との間には空間が空いているが、この空間の間隔は、ロッキングによって背フレーム7が傾動した状態であっても一般成人の指よりも大きい寸法が保持されるように設定している。従って、仮に人がベース6と背フレーム7との間の隙間に指先を差し込んでも挟まれることはない。
【0021】
図2,3から理解できるように、身体受け部3はシェル板とこれに一体成形したクッションとを有している。シェル板は、座1を構成する座シェル板8と、座シェル板8の後部に一体に繋がった下部背シェル板9と、下部背シェル板9とは別体の上部背シェル板10とを有しており、上部背シェル板10の下端部が下部背シェル板9の上端部に連結されている。従って、上下の背シェル板9,10によって背もたれ2のシェル板が構成されている。シェル板8,9,10は樹脂の成形品であり、裏面には縦横に延びる多数の補強リブが形成されている。
【0022】
なお、背シェル板について使用する「下部」「上部」の文言は、上下に分かれている2つの要素を特定するために使用しており、高さ位置を特定するために使用しているのではない。従って、本実施形態のように上部背シェル板10で背もたれ2の大部分(70〜80%程度)が構成されている場合もあれば、下部背シェル板9で背もたれ2の大部分が構成されている場合もあり、上下背シェル板9,10が半分ずつ程度の高さになっている場合もある。
【0023】
図3(B)に示すように、クッションは、座シェル板8及び下部背シェル板9に対応した下部クッション11と、上部背シェル板10に対応した上部クッション12とに分離構成されている。これらのクッション11,12はそれぞれシェル板8,9,10にインサート成形されている。図13から理解できるように、下部クッション11は座シェル板8及び下部背シェル板9の表面の全体を覆うと共に、座シェル板8及び下部背シェル板9の終縁部の裏側まで巻き込むように成形されている。他方、上部クッション12は、上部背シェル板10の前面と後面との全体を包むように成形されている。
【0024】
身体受け部3は一体構造の表皮材13を有しており、表皮材13のうち背もたれ2に位置した部位は、背シェル板9,10及びその前後のクッション11,12を上からすっぽり覆う袋状に形成されており、表皮材13のうち座1に対応した部位は、座シェル板8の外周から下方に巻き込まれている。
【0025】
座シェル板8と下部背シェル板9とは、左右両端のヒンジ部14を除いてスリット15で分断されている。換言すると、座シェル板8と下部背シェル板9とは左右両端のヒンジ部14のみで一体に繋がっている。このため、下部背シェル板9は(背もたれ2)は、ヒンジ部14の弾性変形により、座シェル板8に対して(座1に対して)相対的に後傾動し得る。スリット15はその左右両端部が手前に延びる平面視U形に形成されており、このため、ヒンジ部14は座シェル板8の後端よりも手前に位置している。
【0026】
図2,4に示すように、ベース6は概ね平面視四角形状で上下に開口した枠構造になっており、このため、リアメンバー16と左右サイドメンバー17とフロントメンバー18とを有する。リアメンバー16の左右中間部に脚支柱取り付け穴19が空いていると共に、リアメンバー16の後端部に後ろ向き張り出し部20を形成し、この後ろ向き張り出し部20に背フレーム7が左右横長の支軸21で回動可能に連結されている。後ろ向き張り出し部20の左右両側においてベース6と背フレーム7との間に空間が空いているが、この空間が指を挟まない間隔であることは前記したとおりである。
【0027】
図2,4に示すように、ベース6の左右サイドメンバー17には前後長手のレール部材22が前後スライド自在に装着されており、レール部材22に座シェル板8が装着されている。レール部材22はこれに内蔵したばね23に抗して後退動する。
【0028】
例えば図2(A)に示すように、背フレーム7は、その下端を構成する左右横長の基部24を有しており、この基部24の左右中間部が、軸受けブラケット25を介してベース6の後ろ向き張り出し部20に支軸21で連結されている。また、同じく図2(A)から理解できるように、背フレーム7における基部24の左右両端部には、レール部材22の後端に設けた左右軸受け部26の間に位置する上向きの軸受けリブ27が突設されており、レール部材22の軸受け部26と背フレーム7の軸受けリブ27とが左右横長のピン28で連結されている。
【0029】
背フレーム7における基部24の左右両端部には、やや後ろ向きに後退してから上向きに立ち上がった背支柱29が一体に形成されており、背支柱29の上端部に前向き突設したボス部30に上部背シェル板10がねじ(ビス)31で締結されている。
【0030】
上部背シェル板10の前面の下部には前向きに開口した左右横長の凹所32が形成されており、凹所32に金属製(鋼板製)で横長の補強板33が嵌め込まれており、ねじ31は補強板33に形成したバーリング部34にねじ込まれている。従って、背支柱29と上部背シェル板10と補強板33とがねじ31で共締めされている。
【0031】
背支柱29の上端には、左右外向きに曲がってから手前に延びる形状の肘本体36が一体に形成されており、肘本体36には、その上面の全体を覆う肘カバー37が装着されている。肘カバー37に、背支柱29の上部を後ろから覆う下向きの後ろ壁37aが一体に形成されている。
【0032】
(2).支持機構部の補足説明
次に、図6以下の図面も参照して各部位の詳細を説明する。まず、ベース6を中心にした支持機構部を説明する。
【0033】
既述のとおり、背フレーム7はその左右中間部が軸受けブラケット25を介してベース6の後ろ向き張り出し部20に連結されているが、図2(A)や図5に示すように、背フレーム7の基部24には軸受けブラケット25が左右ずれ不能に嵌まる凹所41が形成されており、背フレーム7の基部24に上から挿入したビス42が軸受けブラケット25にねじ込まれている。支軸21はベース6の後ろ向き張り出し部20に設けた側板20aに貫通しており、背フレーム7における基部24の凹所41によって左右抜け不能に保持されている。
【0034】
次に、レール部材22の箇所を説明する。図6〜7に示すように、レール部材22は下向きに開口したチャンネル状(コ字状)の形態であり、座シェル板8にはレール部材22を左右両側から囲う下向き規制リブ43を左右一対ずつ設けている。図6(B)に示すように、下向き規制リブ43にはレール部材22に内外から近接する位置決めリブ44を一体に設けており、かつ、レール部材22に切り起こし形成した前後長手のストッパー45に、下向き規制リブ43に形成した係合爪46を下方から当てている。従って、座シェル板8はレール部材22に対して上向き離脱不能に保持されていると共に、座シェル板8とレール部材22とは若干ながら前後方向に相対動し得る。
【0035】
図5及び図6(A)に示すように、レール部材22の前端部には左右横長のガイドピン47が前後動不能に挿通されており、図6(A)に示すように、ガイドピン47は、ベース6のサイドメンバー17に固定されたガイド体48に形成しているガイド穴49に挿通している。ガイド穴49は前後長手の長穴になっており(図5参照)、このためレール部材22は座シェル板8と一緒に前後スライドし得る。
【0036】
図5,7に示すように、レール部材22のうち概ね前後中間部には、前部ばね受け50が取り付けられており、ばね(圧縮コイルばね)23を手前側から支持している。ばね23の後端は、ベース6のサイドメンバー17に固定された後部ばね受51で支持されている。従って、レール部材22はばね23の弾性に抗して後退動し得る。そして、レール部材22の後端は背フレーム7に連結されているので、着座した人が背もたれ2にもたれ掛かって背フレーム7が後傾すると、レール部材22は後退して背もたれ2が後傾する。
【0037】
この場合、上部背シェル板10は背支柱29の上端部に固定されているので、上部背シェル板10は支軸21を中心にして回動するのに対して、座シェル板8はレール部材22に載っていて水平動するので、仮にシェル板8,9,10の全体が剛体構造であると、座シェル板8の動きと背シェル板9,10の動きとが規制しあってロッキング不能になるが、本実施形態では、座シェル板8と下部背シェル板9とは弾性変形可能なヒンジ部14を介して連結されているため、支障なくロッキングする。なお、図5に示すように、ベース6におけるリアメンバー16の上面にはベースカバー52を装着している。
【0038】
(3).背もたれの構造
次に、背もたれ2の構造を説明する。例えば図8に示すように、下部背シェル板9と上部背シェル板10との背面には縦横に延びる多数の補強リブ54が形成されており、補強リブ54で囲われた多くの部位に窓穴55が空いている。上下の背シェル板9,10にはその前面と裏面との両方にクッション11,12がインサート成形されているが、インサート成形に際して、樹脂材料は窓穴55を通って背シェル板9,10の裏に回り込む。
【0039】
既述のとおり、上部背シェル板10は背もたれ2の全高のうち相当部分(7割程度)を構成している。上部背シェル板10の下面と下部背シェル板9の上面とにはそれぞれ重合部リブ板56,57が形成されており、上部背シェル板10の下面には、左右中間部に位置したセンター係合突起58と、左右両端部に位置したサイド係合突起59と、センター係合突起58とサイド係合突起59との間に位置した中間位置決め突起60とが下向きに突設されている。
【0040】
一方、下部背シェル板9の上部には、センター係合突起58が嵌まるセンターポケット部61と、サイド係合突起59が嵌まるサイドポケット部62と、中間位置決め突起60が嵌まる中間ポケット部63とが上向きに開口した状態に形成されている。図12に示すように、センター係合突起58には斜め上向きに突出した係合爪58aが形成されており、これがセンターポケット部61に設けたセンター係合穴61aに下方から引っ掛かり係合している。
【0041】
同様に、サイド係合突起59には斜め上向きに突出した係合爪59aが形成されており、この係合爪59aが、サイドポケット部62に設けたサイド係合穴62aに下方から引っ掛かり係合している。センター係合突起58は後ろ側に向けて倒れており、サイド係合突起59は手前側に向けて倒れている。また、各突起58,59,60は、サイド係合突起59、センター係合突起58、中間位置決め突起60の順で下部背シェル板9に嵌合する。
【0042】
下部背シェル板9の重合部リブ板57は、正面視でその中間部を含んだ相当範囲が下向きに凹んだ形状になっており、他方、上部背シェル板10の重合部リブ板56はその左右中間部を含んだ相当範囲が下向きに突出した形状になっている。すなわち、上下背シェル板9,10の合わせ面は正面視で凹凸状態になっている。そして、下部背シェル板9における重合部リブ板57の凹部の内側面57aは傾斜しており、中間ポケット部63は凹部の底面と傾斜状内側面57aとに跨がった状態に形成されている。他方、上部背シェル板10における重合部リブ板56の凸部の外側面56aも傾斜しており、中間位置決め突起60は凸部の下面と傾斜面とに跨がった状態に形成されている。
【0043】
例えば図9に示すように、上部背シェル板10の下部は平面視で前向き凹状に曲がっており、そこで、上部背シェル板10の下部に配置された補強板33も平面視で前向き凹状に屈曲している。すなわち、補強板33のうちその中間部を含むかなりの範囲は平面視で左右横長の直線状に延びる基部になっているが、左右両端寄りのある程度の範囲は手前側に曲がった傾斜部33aとなっており、更に、傾斜部33aの先端には平面視で左右横長のエンド部33bが形成されている。そして、エンド部33bにバーリング部34が前向き突設されており、図10,図11に示すように、バーリング部34に形成した雌ねじにねじ31が後ろからねじ込まれている。
【0044】
当然ながら、上部背シェル板10にはねじ挿通穴64が空いている。また、上部背シェル板10には、背支柱29のボス部30が嵌まる受け座65が形成されている。図9(B)に示すように、受け座65はリブ66で囲われた状態に形成されている。また、背支柱29のうちボス部30の箇所の背面には、ねじ31の頭が入り込む座ぐり穴67が形成されている。なお、補強板33には、バーリング部34を形成することに代えてナットを溶接してもよい。
【0045】
補強板33には、エンド部33bを除いて補強のため左右横長のリブ68が膨出形成されている。また、補強板33のうち基部の左右両端部とエンド部33bとには位置決め穴69が空いており、上部背シェル板10には位置決め穴69に嵌まる位置決めピン部70を突設している。エンド部33bには上下一対の位置決め穴69が空いている。また、図9(A)(C)に示すように、上部背シェル板10のうち補強板33における基部の左右両端に対応した部位には、補強板33を上下から抱持する保持爪71を形成している。補強板33を凹所31に強く押し込むと、保持爪71が弾性変形してから元に戻ることにより、補強板33は脱落不能に保持される。
【0046】
図2(A)に示すように、背支柱29の前面のうち上下略中間高さ位置には、側面視で上向き鉤状の下部係合爪72を突設している。他方、図8に示すように、下部背シェル板9の裏面には、下部係合爪72が上から嵌まり込む上向き開口のポケット状の下部受け部73を形成している。従って、下部背シェル板9も背支柱29に前後離反不能に連結されている。下部背シェル板9と背支柱29とはビスで締結することも可能であるが、本実施形態のように係合爪72と受け部73とからなる係合手段を採用すると、組み立てが簡単であると共に背支柱29の背面がすっきりする利点がある。
【0047】
(4).まとめ
以上の構成において、左右の背支柱29は互いに独立しているため、単に上部背シェル板10を背支柱29に固定しただけでは、上部背シェル板10を厚肉にしないとねじれ等の外力に対する強度を確保できないおそれがあるが、本願発明では、補強板33の存在によって左右の背支柱29が一体に連結されていると同じ状態になるため、上部背シェル板10を過度に厚肉化することなく椅子全体の強度を確保できる。
【0048】
そして、補強板33は上部背シェル板10の前面に配置されているため、背もたれ2の後ろに露出するのは背支柱29のみであり、このため椅子背面がスッキリして体裁がよい。また、補強板33は予め上部背シェル板10にセットした状態で椅子の組み立てを行えるため、背もたれ2が表裏から表皮材13で覆われた張りぐるみタイプの椅子であっても、支障なく組み立てを行える。更に、ねじ31は後ろからねじ込むものであるため組み立てが容易であるが、本実施形態では肘カバー37の後ろ壁37aでねじ31の頭が覆われているため、ねじ31の頭が露出することによる外観の悪化も防止できる。
【0049】
また、座シェル板8と背シェル板9,10との全体が一体構造であると、特殊な大型の成形機でないと製造できず、このためコストがアップしたりタイムリーな製造ができなくなるおそれがあるが、本実施形態では背シェル板を上下のシェル板10,9に分離しているため、一般に普及している成形機を使用して製造することができ、このため製造コストの抑制やタイムリーな製造が可能になる。そして、背シェル板を上下に分離したことに起因した強度低下も補強板33によって防止できる。
【0050】
また、本実施形態では、下部背シェル板9がヒンジ部14のみで座シェル板8に繋がっていることにより、ロッキングに際して座1は水平スライドして背もたれ2を後傾動させることができ、従って、着座者の下半身は姿勢変化させずに背もたれ2の後傾角度をできるだけ大きくできる利点がある。そして、上下背シェル板9,10が自由に動くと外力でねじれやすくなり、これを回避するには上下背シェル板9,10や背フレーム7を頑丈な構造にせねばならないが、本実施形態では左右の背支柱29が補強板33で連結されたのと同じ状態になっているため、上下背シェル板9,10を過度に厚肉化することなく必要な強度を確保できる。
【0051】
本実施形態のように、補強板33を上下から抱持する保持爪71を設けると、補強板33が位置決めされるため、ねじ31のねじ込みを正確に行える利点がある。位置決め手段としては他の構造も使用できるし、例えばインサート成形によってシェル板に固定することも可能である。
【0052】
(5).その他
本願発明は、上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば適用対象たる椅子は回転椅子や背座一体方式には限らず、各種の形態の椅子に適用できる。背支柱は左右2本方式に限らず1本方式であってもよい。補強板の形状は必要に応じて任意に設定できる。上下複数本の補強板を使用することも可能である。
【0053】
座と背もたれとが一体化した方式の椅子に適用する場合、座シェル板と背シェル板との全体を一体物に構成することも可能である。また、2パーツ構造とする場合、座シェル板と背シェル板とに分離することも可能である。補強板を背シェル板の後ろに配置したり、背シェル板の前後両側に配置したりすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本願発明は椅子に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0055】
1 座(座部)
2 背もたれ(背部)
3 身体受け部
6 ベース
7 背フレーム
8 座シェル板
9 下部背シェル板
10 上部背シェル板
11,12 クッション
29 背支柱
30 ボス
32 凹所
31 ねじ
33 補強板
37 肘カバー
【技術分野】
【0001】
本願発明は、背もたれ付き椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
背もたれを有する椅子において、背もたれをその後ろに配置した支持部材で支持しているタイプがある。
【0003】
例えば特許文献1には、座の左右に配置した左右脚を座の上方に突出させてその上端部に内向き突出した左右横長のアームを固定し、アームに背もたれをビスで固定することが記載されている。この特許文献1では、背もたれは樹脂製の背シェル板(芯材)を表裏から表皮材で覆った構造になっており、アームも裏側の表皮材で覆われている。
【0004】
他方、特許文献2には、座シェル板と背シェル板とを一体構造とした椅子において、座の下方に配置したベースから背もたれの左右中間部において立ち上がる背支柱を設け、背支柱に固定した後部横長ブラケットに背シェル板をビスで固定することが記載されている。より正確に述べると、特許文献2では、座及び背もたれはインナーシェル板とこれを支持するアウターシェル板とを有しており、座インナーシェル板及び背インナーシェル板とを一体構造品として製造すると共に、座アウターシェル板及び背アウターシェル板も一体構造品として製造しており、後部横長ブラケットを背アウターシェル板の手前に配置し、後部横長ブラケットに背インナーシェル板を固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−204732号公報
【特許文献2】特許第2592108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
両特許文献は樹脂製の背シェル板をアームや横長ブラケットにビスで直接に固定しているが、樹脂製品は金属に比べて強度が低いため、必要な強度を得るには厚さを厚くする等の対策を講じなければならず、このため設計が厄介になるおそれがある。特に、背もたれの後ろに左右2本の背支柱を配置して、左右背支柱の上端部に背もたれを固定したい場合があるが、美観の点から特許文献1,2のようなアームや横長ブラケットを使用しない場合は、背もたれ全体としてねじれ変形しやすくなるため、背もたれを厚くすることなく強度を確保することは一層厄介になる。
【0007】
さて、特許文献2のように座シェル板と背シェル板との全体を一体構造品として成形すると、全体として高い剛性を確保しやすくなるが、製造するためには大きな金型が必要になるため製造コストは嵩むことになる。従って、シェル板を分離して連結するとコスト面で有利であるが、このように連結方式を採用するとシェル板自体の強度は低くならざるを得ないため、連結方式の場合、背シェル板を左右の背支柱に固定しただけであると強度に関する問題が顕著に表れわれやすいと言える。
【0008】
同様に、背シェル板が座シェル板に対して後傾動する場合も、背シェル板はねじり等の外力に対して弱くなるため、この場合も、背シェル板を左右の背支柱に固定しただけでは強度に関する問題が顕著に表れやすいと言える。
【0009】
本願発明はこのような現状に鑑み成されたものであり、背もたれをその後ろに配置した背支柱に固定して成る椅子において、背もたれの背面部をスッキリとさせつつ高い強度を確保せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明では、背もたれを、背シェル板と少なくとも前面に配置されたクッションとこれらを表裏両側から覆う表皮材とより成る複層構造にしており、前記表皮材で覆われた内部に配置した補強板と前記背シェル板とを、前記背もたれの後ろに配置された背支柱にねじで共締めしている。
【0011】
本願発明は様々に展開することができる。その例を請求項2以下で特定している。このち請求項2の発明は、請求項1において、前記補強板は前記背シェル板の前面に重ね配置されている。請求項3の発明は、請求項1又は2において、前記背支柱は左右に分かれて2本配置されている一方、前記補強板は、正面視で前記左右背支柱の間に延びる左右横長の形態になっている。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1〜3のうちのいずれかにおいて、座シェル板が上部背シェル板と下部背シェル板とに別々に製造されていて両者が連結されており、前記下部背シェル板は、座シェル板にヒンジ部を介して一体に設けられている一方、前記上部背シェル板は前記背支柱に固定されており、更に、前記背支柱は前記座又はその下方に配置したベースに後傾動可能に連結されており、前記背もたれはばね手段に抗してロッキング可能である。
【発明の効果】
【0013】
本願発明では、補強板の存在により、特定部位に応力が集中することを防止できるため、背シェル板が樹脂製であっても、過度に厚くすることなく曲げやねじれに対する強度を確保することができる。また、表皮材で覆われた内部に隠れているため、美観を損なうこともない。従って、美観を悪化させたり過度に厚くしたりすることなく、背もたれに必要な強度を保持せしめることができる。なお、補強板は鋼板のような金属製とするのが好ましい。
【0014】
請求項2の構成を採用すると、背シェル板は補強板と背支柱との間に挟まれるため、特に強度において優れている。更に、請求項3のように構成すると、左右2本の背支柱に背もたれを固定したシンプルな構造でありながら、左右横長の補強板によって強度を確保できるため、特に好適である。
【0015】
ねじ(ビス、ボルト)による締結手段としては、補強板にナットを溶接したり、補強板に単純なタップ穴を空けたりすることも可能であるが、ナットを溶接するのは手間がかかり、他方、単純なタップ穴を開ける方式では、ねじの掛かり代を確保するために補強板が必要以上に厚くなる可能性がある。これに対して、実施形態のようにバーリング部を設けてこれに雌ねじを形成すると、補強板を必要以上に厚くすることなくねじのねじ込み機能を保持できる利点がある。
【0016】
請求項4の構成を採用すると、外観上は座と背もたれとが一体化している椅子でありながら、背シェル板を上下分割方式としたことにより、金型の大型化を回避して製造コストを抑制することができ、かつ、背シェル板は座シェル板に対して後傾動するため、座シェル板は全く又は殆ど後傾することなく背もたれを後傾させることができる。このため、外観上は座と背もたれとが一体化した椅子でありながら、背もたれにロッキング機能を持たせることができる。そして、補強板の存在によって強度も確保されている。従って、請求項4の発明では、ロッキング機能に優れると共に強度も確保した背座一体方式の椅子を、できるだけコストを抑制して製造可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係る椅子の外観を示す図で、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は平面図、(D)は背面図、(E)は部分的な斜視図である。
【図2】(A)は全体の分離斜視図、(B)はベースをひっくり返した状態での分離斜視図である。
【図3】(A)はシェル板及び補強板の分離斜視図、(B)はクッションの分離斜視図である。
【図4】全体の一部破断分離平面図である。
【図5】座を中心にした部分を図4の V-V視方向から見た側断面図である。
【図6】(A)は図5のVIA-VIA 視部分断面図、(B)は図5のVIB-VIB 視部分断面図である。
【図7】図5の VII-VII視部分断面図である。
【図8】(A)は身体受け部を後ろから見た分離斜視図、(B)は下部背シェル板を下方から見た部分斜視図である。
【図9】(A)は上部背シェル板と補強板との分離斜視図、(B)は上部背シェル板の下部を後ろから見た斜視図、(C)は(A)のC−C視断面図である。
【図10】上部背シェル板と補強板と背支柱との分離平断面図である。
【図11】図10の箇所で見た組み立て後の断面図である。
【図12】(A)は背シェル板の分離正面図、(B)は連結状態での(A)のB−B視断面図、(C)は連結状態での(A)のC−C視断面図、(D)は連結状態での(A)のD−D視断面図である。
【図13】シェル板とクッションとの関係を示す縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明では方向を特定するため「前後」「左右」の文言を使用するが、これらの文言は普通に着座した人の向きを基準にしている。但し、正面視は着座した人と対向した方向をいう。「内」「外」の文言も使用するが、正面視で椅子の中心を向いた方向を内向きとし、正面視で椅子の中心から左右外側を向いた方向を外向きとしている。
【0019】
(1).椅子の概要
まず、図1〜図5,図13に基づいて椅子の概要を説明する。本実施形態は回転椅子に適用しており、椅子は、図1に示すように、座1と背もたれ2とが一体に連続した身体受け部3と、脚支柱4を有する脚装置5と、脚支柱4の上端に取り付けたベース6と、ベース6に後傾動自在に連結した背フレーム7とを有している。脚装置5は放射方向に延びる枝足を有しており、各枝足の先端にはキャスタを設けている。ベース6と背フレーム7とはアルミダイキャスト品又は樹脂成形品である。
【0020】
図1(B)に示すように、ベース6の後面とは背フレーム7の下部の前端との間には空間が空いているが、この空間の間隔は、ロッキングによって背フレーム7が傾動した状態であっても一般成人の指よりも大きい寸法が保持されるように設定している。従って、仮に人がベース6と背フレーム7との間の隙間に指先を差し込んでも挟まれることはない。
【0021】
図2,3から理解できるように、身体受け部3はシェル板とこれに一体成形したクッションとを有している。シェル板は、座1を構成する座シェル板8と、座シェル板8の後部に一体に繋がった下部背シェル板9と、下部背シェル板9とは別体の上部背シェル板10とを有しており、上部背シェル板10の下端部が下部背シェル板9の上端部に連結されている。従って、上下の背シェル板9,10によって背もたれ2のシェル板が構成されている。シェル板8,9,10は樹脂の成形品であり、裏面には縦横に延びる多数の補強リブが形成されている。
【0022】
なお、背シェル板について使用する「下部」「上部」の文言は、上下に分かれている2つの要素を特定するために使用しており、高さ位置を特定するために使用しているのではない。従って、本実施形態のように上部背シェル板10で背もたれ2の大部分(70〜80%程度)が構成されている場合もあれば、下部背シェル板9で背もたれ2の大部分が構成されている場合もあり、上下背シェル板9,10が半分ずつ程度の高さになっている場合もある。
【0023】
図3(B)に示すように、クッションは、座シェル板8及び下部背シェル板9に対応した下部クッション11と、上部背シェル板10に対応した上部クッション12とに分離構成されている。これらのクッション11,12はそれぞれシェル板8,9,10にインサート成形されている。図13から理解できるように、下部クッション11は座シェル板8及び下部背シェル板9の表面の全体を覆うと共に、座シェル板8及び下部背シェル板9の終縁部の裏側まで巻き込むように成形されている。他方、上部クッション12は、上部背シェル板10の前面と後面との全体を包むように成形されている。
【0024】
身体受け部3は一体構造の表皮材13を有しており、表皮材13のうち背もたれ2に位置した部位は、背シェル板9,10及びその前後のクッション11,12を上からすっぽり覆う袋状に形成されており、表皮材13のうち座1に対応した部位は、座シェル板8の外周から下方に巻き込まれている。
【0025】
座シェル板8と下部背シェル板9とは、左右両端のヒンジ部14を除いてスリット15で分断されている。換言すると、座シェル板8と下部背シェル板9とは左右両端のヒンジ部14のみで一体に繋がっている。このため、下部背シェル板9は(背もたれ2)は、ヒンジ部14の弾性変形により、座シェル板8に対して(座1に対して)相対的に後傾動し得る。スリット15はその左右両端部が手前に延びる平面視U形に形成されており、このため、ヒンジ部14は座シェル板8の後端よりも手前に位置している。
【0026】
図2,4に示すように、ベース6は概ね平面視四角形状で上下に開口した枠構造になっており、このため、リアメンバー16と左右サイドメンバー17とフロントメンバー18とを有する。リアメンバー16の左右中間部に脚支柱取り付け穴19が空いていると共に、リアメンバー16の後端部に後ろ向き張り出し部20を形成し、この後ろ向き張り出し部20に背フレーム7が左右横長の支軸21で回動可能に連結されている。後ろ向き張り出し部20の左右両側においてベース6と背フレーム7との間に空間が空いているが、この空間が指を挟まない間隔であることは前記したとおりである。
【0027】
図2,4に示すように、ベース6の左右サイドメンバー17には前後長手のレール部材22が前後スライド自在に装着されており、レール部材22に座シェル板8が装着されている。レール部材22はこれに内蔵したばね23に抗して後退動する。
【0028】
例えば図2(A)に示すように、背フレーム7は、その下端を構成する左右横長の基部24を有しており、この基部24の左右中間部が、軸受けブラケット25を介してベース6の後ろ向き張り出し部20に支軸21で連結されている。また、同じく図2(A)から理解できるように、背フレーム7における基部24の左右両端部には、レール部材22の後端に設けた左右軸受け部26の間に位置する上向きの軸受けリブ27が突設されており、レール部材22の軸受け部26と背フレーム7の軸受けリブ27とが左右横長のピン28で連結されている。
【0029】
背フレーム7における基部24の左右両端部には、やや後ろ向きに後退してから上向きに立ち上がった背支柱29が一体に形成されており、背支柱29の上端部に前向き突設したボス部30に上部背シェル板10がねじ(ビス)31で締結されている。
【0030】
上部背シェル板10の前面の下部には前向きに開口した左右横長の凹所32が形成されており、凹所32に金属製(鋼板製)で横長の補強板33が嵌め込まれており、ねじ31は補強板33に形成したバーリング部34にねじ込まれている。従って、背支柱29と上部背シェル板10と補強板33とがねじ31で共締めされている。
【0031】
背支柱29の上端には、左右外向きに曲がってから手前に延びる形状の肘本体36が一体に形成されており、肘本体36には、その上面の全体を覆う肘カバー37が装着されている。肘カバー37に、背支柱29の上部を後ろから覆う下向きの後ろ壁37aが一体に形成されている。
【0032】
(2).支持機構部の補足説明
次に、図6以下の図面も参照して各部位の詳細を説明する。まず、ベース6を中心にした支持機構部を説明する。
【0033】
既述のとおり、背フレーム7はその左右中間部が軸受けブラケット25を介してベース6の後ろ向き張り出し部20に連結されているが、図2(A)や図5に示すように、背フレーム7の基部24には軸受けブラケット25が左右ずれ不能に嵌まる凹所41が形成されており、背フレーム7の基部24に上から挿入したビス42が軸受けブラケット25にねじ込まれている。支軸21はベース6の後ろ向き張り出し部20に設けた側板20aに貫通しており、背フレーム7における基部24の凹所41によって左右抜け不能に保持されている。
【0034】
次に、レール部材22の箇所を説明する。図6〜7に示すように、レール部材22は下向きに開口したチャンネル状(コ字状)の形態であり、座シェル板8にはレール部材22を左右両側から囲う下向き規制リブ43を左右一対ずつ設けている。図6(B)に示すように、下向き規制リブ43にはレール部材22に内外から近接する位置決めリブ44を一体に設けており、かつ、レール部材22に切り起こし形成した前後長手のストッパー45に、下向き規制リブ43に形成した係合爪46を下方から当てている。従って、座シェル板8はレール部材22に対して上向き離脱不能に保持されていると共に、座シェル板8とレール部材22とは若干ながら前後方向に相対動し得る。
【0035】
図5及び図6(A)に示すように、レール部材22の前端部には左右横長のガイドピン47が前後動不能に挿通されており、図6(A)に示すように、ガイドピン47は、ベース6のサイドメンバー17に固定されたガイド体48に形成しているガイド穴49に挿通している。ガイド穴49は前後長手の長穴になっており(図5参照)、このためレール部材22は座シェル板8と一緒に前後スライドし得る。
【0036】
図5,7に示すように、レール部材22のうち概ね前後中間部には、前部ばね受け50が取り付けられており、ばね(圧縮コイルばね)23を手前側から支持している。ばね23の後端は、ベース6のサイドメンバー17に固定された後部ばね受51で支持されている。従って、レール部材22はばね23の弾性に抗して後退動し得る。そして、レール部材22の後端は背フレーム7に連結されているので、着座した人が背もたれ2にもたれ掛かって背フレーム7が後傾すると、レール部材22は後退して背もたれ2が後傾する。
【0037】
この場合、上部背シェル板10は背支柱29の上端部に固定されているので、上部背シェル板10は支軸21を中心にして回動するのに対して、座シェル板8はレール部材22に載っていて水平動するので、仮にシェル板8,9,10の全体が剛体構造であると、座シェル板8の動きと背シェル板9,10の動きとが規制しあってロッキング不能になるが、本実施形態では、座シェル板8と下部背シェル板9とは弾性変形可能なヒンジ部14を介して連結されているため、支障なくロッキングする。なお、図5に示すように、ベース6におけるリアメンバー16の上面にはベースカバー52を装着している。
【0038】
(3).背もたれの構造
次に、背もたれ2の構造を説明する。例えば図8に示すように、下部背シェル板9と上部背シェル板10との背面には縦横に延びる多数の補強リブ54が形成されており、補強リブ54で囲われた多くの部位に窓穴55が空いている。上下の背シェル板9,10にはその前面と裏面との両方にクッション11,12がインサート成形されているが、インサート成形に際して、樹脂材料は窓穴55を通って背シェル板9,10の裏に回り込む。
【0039】
既述のとおり、上部背シェル板10は背もたれ2の全高のうち相当部分(7割程度)を構成している。上部背シェル板10の下面と下部背シェル板9の上面とにはそれぞれ重合部リブ板56,57が形成されており、上部背シェル板10の下面には、左右中間部に位置したセンター係合突起58と、左右両端部に位置したサイド係合突起59と、センター係合突起58とサイド係合突起59との間に位置した中間位置決め突起60とが下向きに突設されている。
【0040】
一方、下部背シェル板9の上部には、センター係合突起58が嵌まるセンターポケット部61と、サイド係合突起59が嵌まるサイドポケット部62と、中間位置決め突起60が嵌まる中間ポケット部63とが上向きに開口した状態に形成されている。図12に示すように、センター係合突起58には斜め上向きに突出した係合爪58aが形成されており、これがセンターポケット部61に設けたセンター係合穴61aに下方から引っ掛かり係合している。
【0041】
同様に、サイド係合突起59には斜め上向きに突出した係合爪59aが形成されており、この係合爪59aが、サイドポケット部62に設けたサイド係合穴62aに下方から引っ掛かり係合している。センター係合突起58は後ろ側に向けて倒れており、サイド係合突起59は手前側に向けて倒れている。また、各突起58,59,60は、サイド係合突起59、センター係合突起58、中間位置決め突起60の順で下部背シェル板9に嵌合する。
【0042】
下部背シェル板9の重合部リブ板57は、正面視でその中間部を含んだ相当範囲が下向きに凹んだ形状になっており、他方、上部背シェル板10の重合部リブ板56はその左右中間部を含んだ相当範囲が下向きに突出した形状になっている。すなわち、上下背シェル板9,10の合わせ面は正面視で凹凸状態になっている。そして、下部背シェル板9における重合部リブ板57の凹部の内側面57aは傾斜しており、中間ポケット部63は凹部の底面と傾斜状内側面57aとに跨がった状態に形成されている。他方、上部背シェル板10における重合部リブ板56の凸部の外側面56aも傾斜しており、中間位置決め突起60は凸部の下面と傾斜面とに跨がった状態に形成されている。
【0043】
例えば図9に示すように、上部背シェル板10の下部は平面視で前向き凹状に曲がっており、そこで、上部背シェル板10の下部に配置された補強板33も平面視で前向き凹状に屈曲している。すなわち、補強板33のうちその中間部を含むかなりの範囲は平面視で左右横長の直線状に延びる基部になっているが、左右両端寄りのある程度の範囲は手前側に曲がった傾斜部33aとなっており、更に、傾斜部33aの先端には平面視で左右横長のエンド部33bが形成されている。そして、エンド部33bにバーリング部34が前向き突設されており、図10,図11に示すように、バーリング部34に形成した雌ねじにねじ31が後ろからねじ込まれている。
【0044】
当然ながら、上部背シェル板10にはねじ挿通穴64が空いている。また、上部背シェル板10には、背支柱29のボス部30が嵌まる受け座65が形成されている。図9(B)に示すように、受け座65はリブ66で囲われた状態に形成されている。また、背支柱29のうちボス部30の箇所の背面には、ねじ31の頭が入り込む座ぐり穴67が形成されている。なお、補強板33には、バーリング部34を形成することに代えてナットを溶接してもよい。
【0045】
補強板33には、エンド部33bを除いて補強のため左右横長のリブ68が膨出形成されている。また、補強板33のうち基部の左右両端部とエンド部33bとには位置決め穴69が空いており、上部背シェル板10には位置決め穴69に嵌まる位置決めピン部70を突設している。エンド部33bには上下一対の位置決め穴69が空いている。また、図9(A)(C)に示すように、上部背シェル板10のうち補強板33における基部の左右両端に対応した部位には、補強板33を上下から抱持する保持爪71を形成している。補強板33を凹所31に強く押し込むと、保持爪71が弾性変形してから元に戻ることにより、補強板33は脱落不能に保持される。
【0046】
図2(A)に示すように、背支柱29の前面のうち上下略中間高さ位置には、側面視で上向き鉤状の下部係合爪72を突設している。他方、図8に示すように、下部背シェル板9の裏面には、下部係合爪72が上から嵌まり込む上向き開口のポケット状の下部受け部73を形成している。従って、下部背シェル板9も背支柱29に前後離反不能に連結されている。下部背シェル板9と背支柱29とはビスで締結することも可能であるが、本実施形態のように係合爪72と受け部73とからなる係合手段を採用すると、組み立てが簡単であると共に背支柱29の背面がすっきりする利点がある。
【0047】
(4).まとめ
以上の構成において、左右の背支柱29は互いに独立しているため、単に上部背シェル板10を背支柱29に固定しただけでは、上部背シェル板10を厚肉にしないとねじれ等の外力に対する強度を確保できないおそれがあるが、本願発明では、補強板33の存在によって左右の背支柱29が一体に連結されていると同じ状態になるため、上部背シェル板10を過度に厚肉化することなく椅子全体の強度を確保できる。
【0048】
そして、補強板33は上部背シェル板10の前面に配置されているため、背もたれ2の後ろに露出するのは背支柱29のみであり、このため椅子背面がスッキリして体裁がよい。また、補強板33は予め上部背シェル板10にセットした状態で椅子の組み立てを行えるため、背もたれ2が表裏から表皮材13で覆われた張りぐるみタイプの椅子であっても、支障なく組み立てを行える。更に、ねじ31は後ろからねじ込むものであるため組み立てが容易であるが、本実施形態では肘カバー37の後ろ壁37aでねじ31の頭が覆われているため、ねじ31の頭が露出することによる外観の悪化も防止できる。
【0049】
また、座シェル板8と背シェル板9,10との全体が一体構造であると、特殊な大型の成形機でないと製造できず、このためコストがアップしたりタイムリーな製造ができなくなるおそれがあるが、本実施形態では背シェル板を上下のシェル板10,9に分離しているため、一般に普及している成形機を使用して製造することができ、このため製造コストの抑制やタイムリーな製造が可能になる。そして、背シェル板を上下に分離したことに起因した強度低下も補強板33によって防止できる。
【0050】
また、本実施形態では、下部背シェル板9がヒンジ部14のみで座シェル板8に繋がっていることにより、ロッキングに際して座1は水平スライドして背もたれ2を後傾動させることができ、従って、着座者の下半身は姿勢変化させずに背もたれ2の後傾角度をできるだけ大きくできる利点がある。そして、上下背シェル板9,10が自由に動くと外力でねじれやすくなり、これを回避するには上下背シェル板9,10や背フレーム7を頑丈な構造にせねばならないが、本実施形態では左右の背支柱29が補強板33で連結されたのと同じ状態になっているため、上下背シェル板9,10を過度に厚肉化することなく必要な強度を確保できる。
【0051】
本実施形態のように、補強板33を上下から抱持する保持爪71を設けると、補強板33が位置決めされるため、ねじ31のねじ込みを正確に行える利点がある。位置決め手段としては他の構造も使用できるし、例えばインサート成形によってシェル板に固定することも可能である。
【0052】
(5).その他
本願発明は、上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば適用対象たる椅子は回転椅子や背座一体方式には限らず、各種の形態の椅子に適用できる。背支柱は左右2本方式に限らず1本方式であってもよい。補強板の形状は必要に応じて任意に設定できる。上下複数本の補強板を使用することも可能である。
【0053】
座と背もたれとが一体化した方式の椅子に適用する場合、座シェル板と背シェル板との全体を一体物に構成することも可能である。また、2パーツ構造とする場合、座シェル板と背シェル板とに分離することも可能である。補強板を背シェル板の後ろに配置したり、背シェル板の前後両側に配置したりすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本願発明は椅子に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0055】
1 座(座部)
2 背もたれ(背部)
3 身体受け部
6 ベース
7 背フレーム
8 座シェル板
9 下部背シェル板
10 上部背シェル板
11,12 クッション
29 背支柱
30 ボス
32 凹所
31 ねじ
33 補強板
37 肘カバー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
背もたれを、背シェル板と少なくとも前面に配置されたクッションとこれらを表裏両側から覆う表皮材とより成る複層構造にしており、前記表皮材で覆われた内部に配置した補強板と前記背シェル板とを、前記背もたれの後ろに配置された背支柱にねじで共締めしている、
背もたれ付き椅子。
【請求項2】
前記補強板は前記背シェル板の前面に重ね配置されている、
請求項1に記載した背もたれ付き椅子。
【請求項3】
前記背支柱は左右に分かれて2本配置されている一方、前記補強板は、正面視で前記左右背支柱の間に延びる左右横長の形態になっている、
請求項1又は2に記載した背もたれ付き椅子。
【請求項4】
座シェル板が上部背シェル板と下部背シェル板とに別々に製造されていて両者が連結されており、前記下部背シェル板は、座シェル板にヒンジ部を介して一体に設けられている一方、前記上部背シェル板は前記背支柱に固定されており、更に、前記背支柱は前記座又はその下方に配置したベースに後傾動可能に連結されており、前記背もたれはばね手段に抗してロッキング可能である、
請求項1〜3のうちのいずれかに記載した背もたれ付き椅子。
【請求項1】
背もたれを、背シェル板と少なくとも前面に配置されたクッションとこれらを表裏両側から覆う表皮材とより成る複層構造にしており、前記表皮材で覆われた内部に配置した補強板と前記背シェル板とを、前記背もたれの後ろに配置された背支柱にねじで共締めしている、
背もたれ付き椅子。
【請求項2】
前記補強板は前記背シェル板の前面に重ね配置されている、
請求項1に記載した背もたれ付き椅子。
【請求項3】
前記背支柱は左右に分かれて2本配置されている一方、前記補強板は、正面視で前記左右背支柱の間に延びる左右横長の形態になっている、
請求項1又は2に記載した背もたれ付き椅子。
【請求項4】
座シェル板が上部背シェル板と下部背シェル板とに別々に製造されていて両者が連結されており、前記下部背シェル板は、座シェル板にヒンジ部を介して一体に設けられている一方、前記上部背シェル板は前記背支柱に固定されており、更に、前記背支柱は前記座又はその下方に配置したベースに後傾動可能に連結されており、前記背もたれはばね手段に抗してロッキング可能である、
請求項1〜3のうちのいずれかに記載した背もたれ付き椅子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−70849(P2013−70849A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212140(P2011−212140)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000139780)株式会社イトーキ (833)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000139780)株式会社イトーキ (833)
【Fターム(参考)】
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