説明

胴部が円筒状に薄肉化された缶の製造方法

【課題】胴部が円筒状に薄肉化された缶の製造方法で、真空吸引力によりコンベア上に缶体を保持した状態で搬送しながら熱処理するような工程を備えた缶の製造方法について、充分な真空吸引力により缶体をコンベア上に確実に保持した状態で高温の熱処理を施しても、円筒状に薄肉化された缶体の胴部の変形を抑えることができるようにする。
【解決手段】缶体を真空コンベア上に載置して搬送しながら熱処理する工程(ネジ・カール成形工程の前の非晶質化工程)で、開口端側を下にして真空吸引力によりコンベア上に缶体を保持しているのに対して、該熱処理工程の前に、缶体の胴部と連続する円筒状の開口端部を、コンベアと面接触する水平フランジ部を形成しない補強用の拡径部に成形しておき、該熱処理工程の後で、該補強用の拡径部を切除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絞り・しごき加工等により胴部が円筒状に薄肉化されたシームレス缶(胴部に継ぎ目がない2ピース缶)の製造方法に関し、特に、アルミ系のシームレス缶で、真空吸引力によりコンベア上に缶体を保持した状態で搬送しながら高温で熱処理するような工程を備えた缶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
絞り・しごき加工等により胴部が円筒状に薄肉化されたシームレス缶(胴部に継ぎ目がない2ピース缶)の一つとして、近年、ボトル型の缶が飲料用の缶容器として一般的に広く使用されているが、そのようなボトル型缶を製造する場合、例えば、JIS3004,JIS3104等のアルミ合金板の表面(少なくとも缶内面となる面)に熱可塑性樹脂の樹脂層が被覆されたアルミ系の樹脂被覆金属板を材料として、先ず、予め潤滑剤が塗布された樹脂被覆金属板のブランクを打ち抜いてカップ状に成形してから、絞り・しごき加工等を施すことにより胴部が引き延ばされて薄肉化された細長い有底円筒状の缶体(中間成形品)に成形している。
【0003】
次いで、有底円筒状の缶体の少なくとも外面から潤滑剤を除去し、缶体の開口端側をトリミングして高さを揃えてから、缶体の胴部に印刷・塗装を施した後、再び潤滑剤を塗布してから、トップドーム成形工程で、缶体の底部側を小径有底円筒状の口頸部と傾斜した肩部に成形している。そして、口頸部が小径有底円筒状でボトル形状に成形された缶体(中間成形品)に対して、ネジ・カール成形工程で、口頸部の上端を開口させて、口頸部の周壁にネジ部を形成すると共に開口縁にカール部を成形してから、ネック・フランジ成形工程で、胴部の下端開口部にネック部とフランジ部を成形した後、底蓋巻締工程で、缶体の胴部の下端開口部に底蓋を巻締め固着している。
【0004】
そのようなボトル型缶の製造において、トップドーム成形工程で缶体をボトル形状に成形した後、口頸部を開口させてネジ部やカール部を成形するネジ・カール成形工程に入る前に、缶体に熱処理を施すことによって、トップドーム成形の前に塗布された潤滑剤を除去すると共に、被覆樹脂の密着性を向上させ、且つ、胴部の成形時に配向結晶化した被覆樹脂を改めて非晶質化しなおすことで、過酷なネジ・カール成形に対応できるようにしておく、ということが下記の特許文献1等により従来公知となっている。
【0005】
また、そのように非晶質化する際の熱処理において、熱処理用のオーブン装置の内部に缶体を通過させる際に、真空吸引力によりコンベア上に缶体を正立に保持させた状態で搬送させる、ということが下記の特許文献2等により従来公知となっている。
【0006】
一方、DI(絞り・しごき)加工等により胴部が円筒状に薄肉化されるボトル缶(ボトル型缶)の材料として使用するアルミニウム合金冷延板について、缶の製造工程で高温の熱処理が施されても、胴部の真円度が高いボトル缶を得られるように、高温特性に優れたボトル缶用アルミニウム合金冷延板を提供することを目的とする発明が、下記の特許文献3により従来公知となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−114245号公報
【特許文献2】特開2001−276946号公報
【特許文献3】特開2006−265702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、絞り・しごき加工等により胴部が円筒状に薄肉化されるシームレス缶では、アルミ缶の場合、200℃以上の温度まで加熱されるように熱処理が施されると、210℃あたりから熱軟化に伴う強度低下が現れはじめ、更に熱処理の温度が上がるにつれて、強度低下量が増大する傾向が見られる。このように熱軟化による強度低下は、缶体の胴部の円周方向で不均一であることから、缶体の胴部が開口部で略真円に近い断面形状となるような円筒状に成形されていても、熱処理によって缶体の胴部の断面形状が変形してしまう現象が起きることがある。
【0009】
具体的には、アルミ系の樹脂被覆金属板から成形されるボトル型アルミ缶の場合、220〜230℃を超えたあたりからアルミ基材が軟化し始める傾向があって、そのような高温の熱処理によってアルミ基材の強度(引張り強度と耐力)を低下させる軟化が発生してしまい、特に、缶の生産性を上げるため熱処理を高温・短時間で行う場合には、その傾向が更に強くなっている。
【0010】
さらに、絞り・しごき加工等により胴部が薄肉化されるボトル型アルミ缶では、コスト削減のため、原材料のアルミ基材を削減して缶の軽量化を進めた結果、現在では缶体の胴部の最薄肉部の金属壁厚(被覆樹脂を除いた金属部分の厚さ)として、それまで0.118mm程度、開口端部の金属壁厚として0.172mmであったものを、胴部の最薄肉部の金属壁厚を0.110mm以下のレベルまで軽量化する開発が進められていることから、そのようにアルミ基材の削減のために缶体の胴部が薄肉化された分だけ、缶体の胴部はより一層変形し易くなっている。
【0011】
なお、高温の熱処理による缶体の胴部の変形に対応するために、上記の特許文献3にも記載されているように、高温特性に優れたボトル缶用の原材料が提供されているものの、それにしても、ボトル型缶の製造の途中で改めて被覆樹脂を非晶質化するための熱処理において、オーブン装置の内部に缶体を通過させた場合に、缶体の開口部の断面形状が真円状から楕円状に変形してしまうことがある。そして、そのようにオーブン装置の内部で缶体の胴部が一旦変形してしまうと、弾性域内の変形であっても熱処理によって変形が固定され、オーブン装置を通過した後も、その変形が残った状態のオーバル缶となって次工程に搬送されることになる。
【0012】
そのため、オーブン装置の出口のシュート内で、缶体がスムーズに転がり難くなってシュート内で缶詰まりを起こしたり、また、ネジ・カール成形工程やネック・フランジ成形工程で、ターレットのポケットに缶体が安定して収まらなかったり、或いは、底蓋巻締工程で、底蓋巻締め側の開口端部をネッキング加工するためのネッキングツールへ缶体をスムーズに挿入できなくなって加工不良を起こしたり、といったような搬送上のトラブルが頻発することとなる。
【0013】
そこで、上記のような非晶質化のための熱処理用オーブン装置の内部での缶体の変形の原因について詳細に検討した結果、アルミ基材の熱軟化が主要因となっていることは明らかではあるが、今まで考えられていない要因として、オーブン装置の内部でのコンベアによる缶体の搬送の構造に深く関係しているということが判った。
【0014】
すなわち、オーブン装置の内部で230℃以上の温度に缶体を熱処理しながら、ベルトコンベアにより缶体を搬送してオーブン装置の内部を通過させる際に、缶体は、胴部の開口部を下向きにした正立状態でコンベア上に載置されて搬送されながら、上方から熱風や冷風が吹き付けられて熱処理されるが、その際、正立状態の缶体が搬送途中で転倒しないように、コンベア下方からの真空吸引により缶体をコンベア上に保持していることから、熱軟化に伴って缶体が変形し易くなっているのと合わせて、缶体をコンベア面に吸着させるための負圧力が缶内に作用することで、缶体の胴部の変形が助長されているということが判った。
【0015】
これに対して、そのような問題を解決するための手段として、真空吸引力を下げて缶体の変形量を少なくすることも考えられるが、そうすると、オーブン装置の内部での搬送途中に熱処理用の熱風や冷風で缶体が転倒してしまう虞があって、缶の製造を高速化するために熱風を吹き付けて高温で短時間に熱処理を行うのに不利となってしまうという問題がある。
【0016】
本発明は、上記のような問題の解消を課題とするものであり、具体的には、胴部が円筒状に薄肉化された缶の製造方法で、真空吸引力によりコンベア上に缶体を保持した状態で搬送しながら熱処理するような工程を備えた缶の製造方法について、充分な真空吸引力により缶体をコンベア上に確実に保持した状態で高温の熱処理を施しても、円筒状に薄肉化された缶体の胴部の変形を抑えることができるようにすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記のような課題を解決するために、アルミ系の樹脂被覆金属板から絞り・しごき加工を経て胴部と底部が一体成形された有底円筒状の缶体を得て、缶体の開口端側をトリミングしてから印刷・塗装を施した後で、缶体の開口端側にネック・フランジ加工を施すよりも前に、缶体を真空コンベア上に載置して搬送しながら熱処理することで、缶体の被覆樹脂を改めて非晶質化するような缶の製造方法において、缶体を真空コンベア上に載置して搬送しながら熱処理する工程で、開口端側を下にして真空吸引力によりコンベア上に缶体を保持しているのに対して、該熱処理工程の前に、缶体の胴部と連続する円筒状の開口端部を、コンベアと面接触する水平フランジ部を形成しない補強用の拡径部に成形しておき、該熱処理工程の後で、該補強用の拡径部を切除するようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
上記のような本発明の胴部が薄肉化された缶の製造方法によれば、缶体を真空コンベア上に載置して搬送しながら熱処理する工程において、充分な真空吸引力によりコンベア上に缶体を確実に保持した状態で熱風や冷風を吹き付けることにより、熱軟化した缶体に対して、更に、真空吸引による負圧力が作用したとしても、熱処理が施されている間は、缶体の開口端部が補強用の拡径部により充分に補強されていることから、缶体の胴部の円筒形状が変形するのを充分に抑制することができる。
また、補強用の拡径部は、コンベアと面接触する水平フランジ部を形成しない形状(例えば、ラッパ状や段状)に成形されていて、缶体をコンベア上に載置した状態で、缶体の被覆樹脂がコンベアと面接触しないことから、熱処理工程で缶体の被覆樹脂が高温に加熱されても、被覆樹脂がコンベア面に融着して缶体がコンベア上に接着されるようなことはない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例について、胴部が円筒状に薄肉化された缶の一例であるボトル型アルミ缶の製造工程を概略的に示す説明図である。
【図2】本発明の一実施例について、開口端部が補強用の拡径部に成形された缶体(胴部に施された印刷の表示は省略)を示す側面図である。
【図3】円筒状の開口端部を補強用の拡径部に成形するための具体的な手段の一例を示す説明図である。
【図4】補強用の拡径部の各実施例(A)、(B)と比較例(C)とをそれぞれ示す部分拡大断面図である。
【図5】真空吸引力によりコンベア上に缶体が保持されて搬送されている状態を示す説明図である。
【図6】補強用の拡径部が成形されていない(開口端部がストレートな円筒状のままの)缶体で、熱軟化した缶体の胴部が真空吸引力により開口部で楕円状となるように変形した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
胴部が円筒状に薄肉化された缶の製造方法で、真空吸引力によりコンベア上に缶体を保持した状態で搬送しながら熱処理するような工程を備えた缶の製造方法について、充分な真空吸引力により缶体をコンベア上に確実に保持した状態で高温の熱処理を施しても、円筒状に薄肉化された缶体の胴部の変形を抑えることができるようにするという目的を、以下の実施例に具体的に示すように、缶体を真空コンベア上に載置して搬送しながら熱処理する工程で、開口端側を下にして真空吸引力によりコンベア上に缶体を保持しているのに対して、該熱処理工程の前に、缶体の胴部と連続する円筒状の開口端部を、コンベアと面接触する水平フランジ部を形成しない補強用の拡径部に成形しておき、該熱処理工程の後で、該補強用の拡径部を切除する、ということで実現した。
【実施例】
【0021】
本実施例は、胴部が円筒状に薄肉化されたシームレス缶(胴部に継ぎ目がない2ピース缶)の一つであるボトル型アルミ缶の製造方法に関するものであって、ボトル型アルミ缶を製造する場合、JIS3004,JIS3104等のアルミ合金からなる金属板の表面(少なくとも缶内面となる面)が熱可塑性樹脂の樹脂層で被覆されたアルミ系の樹脂被覆金属板を材料として、図1に示すように、先ず、予め潤滑剤が塗布された樹脂被覆金属板のブランクを打ち抜いてカップ状に成形してから、絞り・しごき加工により胴部が引き延ばされて薄肉化された細長い有底円筒状の缶体(第一中間成形品)に成形している。
【0022】
次いで、有底円筒状の缶体の少なくとも外面から潤滑剤を除去し、開口端側をトリミングして各缶体の高さを一定に揃えた後で、ストレートな円筒状である缶体の胴部に対して、印刷・塗装(塗装だけの場合もある)を施して乾燥させる。そして、胴部に印刷・塗装が施された缶体に対して、トップドーム成形工程で、再び胴部に潤滑剤を塗布してから、缶体の底部側を小径有底円筒状の口頸部と傾斜した肩部に成形している。
【0023】
そして、口頸部が小径有底円筒状でボトル形状に成形された缶体(第二中間成形品)に対して、ネジ・カール成形工程で、口頸部の上端を開口させて、口頸部の周壁にネジ部を形成すると共に開口縁にカール部を成形してから、ネック・フランジ成形工程で、胴部の下端開口部にネック部とフランジ部を成形した後、底蓋巻締工程で、缶体の胴部の下端開口部に底蓋を巻締め固着している。
【0024】
そのようなボトル型アルミ缶の製造方法において、トップドーム成形工程で缶体をボトル形状に成形した後、口頸部を開口させてネジ部やカール部を成形するネジ・カール成形工程や、胴部の下端開口部にネック部とフランジ部を成形するネック・フランジ成形工程などに入る前に、缶体に熱処理を施すことによって、トップドーム成形の前に塗布された潤滑剤を除去すると共に、被覆樹脂の密着性を向上させ、且つ、胴部のトップドーム成形時に配向結晶化した被覆樹脂を改めて非晶質化しなおすことで、過酷なネジ・カール成形やネック・フランジ成形などに対応できるようにしている。
【0025】
そのような非晶質化(及び、潤滑剤除去)のための熱処理工程では、缶の製造の高速化に対応できるように、多数の缶体を連続的に搬送しながら熱処理用のオーブン装置内を通過させて、先ず、熱風を吹き付けることで、缶体を短時間で200〜300℃(好ましくは255〜300℃)の高温に加熱して、缶体に塗布されている潤滑剤を除去すると共に、更に、冷風(20℃以下、好ましくは15℃以下)を吹き付けることで、缶体の温度を急冷させて、缶体に被覆されている熱可塑性樹脂を非晶質状態としている。
【0026】
そのような熱処理工程において、オーブン装置内を通過する缶体は、熱風や冷風の吹き付けにより缶体が転倒しないように、図5に示すように、真空吸引力により缶体1が正立に保持された状態でコンベア2の上に載置されている。そのため、熱風の吹き付けで高温に加熱される缶体1は、缶体の温度が220〜230℃を超えたあたりからアルミ基材が軟化し始め、この軟化によってアルミ基材の強度(引張り強度と耐力)が低下された状態で、更に真空吸引による負圧力を受けることとなる。
【0027】
そのように、熱軟化により強度が低下して変形し易くなった缶体1の胴部に対して、更に真空吸引による負圧力が作用することで、図6に示すように、缶体1の胴部は、開口部で真円状から楕円状となるように変形してしまう。そのような現象は、缶体1の胴部の薄肉化に伴って顕著に現れることが分かってきた。その理由の一つとして、印刷・塗装工程の前に、缶体1の開口端側をトリミングしていることで、胴部(及び、その下端に連続する開口端部)がストレートな円筒状となっているためと考えられる。
【0028】
具体的には、厚さが0.285mmのアルミ基材(3004−H19材)による樹脂被覆金属板を用いて、胴部の高さが88mm、胴部の最薄肉部の金属壁厚が0.102mm、開口端部の金属壁厚が0.160mmに薄肉化されて軽量化された内容量290mlのボトル型アルミ缶を製造する場合に、オーブン装置内の加熱(缶体の温度が255℃)での軟化によるアルミ基材の強度低下に伴い、コンベア搬送でのバキューム圧(コンベア本体のダクト圧が約−200Pa)によって、オーブン装置を通過した後は、図6に示すように、缶体1の胴部が開口部で楕円状となるように変形し、このときの変形量(開口部の最大外径と最小外径との差)は、最大で4.2mmあった。
【0029】
上記のような缶体の胴部の変形については、開口部の変形量が4.0mmを超えると、後の工程で種々の搬送トラブルを起こすことが過去の諸テストからみて判っているため、その対策が求められていたが、これに対して、そのような缶体の胴部の変形を防ぐために、本実施例では、オーブン装置による熱処理工程の前に、缶体の胴部と連続する円筒状の開口端部を、コンベアと面接触する水平フランジ部を形成しない補強用の拡径部に成形しておき、オーブン装置による熱処理工程の後で、この補強用の拡径部を切除するようにしている。
【0030】
すなわち、本実施例では、具体的には、図1に示すように、有底円筒状の缶体をボトル形状に成形するトップドーム成形工程において、印刷・塗装が施された缶体の底部側を口頸部と肩部に成形する複数回の絞り工程のうちの何れかの工程で、缶体の円筒状の開口端部に対して半径方向に拡げる拡径部成形を施すことにより、図2及び図4(A)に示すような補強用の拡径部1aを成形しており、また、オーブン装置による熱処理で改めて非晶質化した後、ネジ・カール成形工程やネック・フランジ成形工程などに入る前に、缶体の胴部の開口端側を再度トリミングして、補強用の拡径部1aを切除することで、缶体を規格された高さに揃えるようにしている。
【0031】
補強用の拡径部1aの成形については、後の工程にあるネック・フランジ成形工程での缶体蓋巻締め用のフランジ部の成形とは異質なものであって、本実施例では、図3に示すように、拡径部成形用ダイ3を使用して、小さな曲率半径(例えば、R=1.78mm)の拡径部成形部分3aにより、拡径部の張り出し幅(拡径部の下端での半径方向の張り出し長さ)が0.5〜2.5mm(好ましくは、0.5〜1.5mm)となるような微小なラッパ状の拡径部1aを成形している。
【0032】
ラッパ状に成形された補強用の拡径部1aの張り出し幅については、缶体1の胴部の金属壁厚や真空コンベアのバキューム圧などから適宜決定されるものであるが、本実施例のボトル型アルミ缶の製造において、缶体の胴部の最薄肉部の金属壁厚が0.102mmで、バキューム圧が約−200Paの場合では、拡径部1aの張り出し幅が0.5mmよりも小さいと、缶体1の胴部の変形量(拡径部を切除した後の開口部の最大外径と最小外径との差)が4mmを超えてしまう虞があり、一方、拡径部1aの張り出し幅を必要以上に大きくすると、拡径部1aを切除する際にトリミングして廃棄する部分の量が多くなることから、拡径部1aの張り出し幅は0.5〜2.5mm(好ましくは、0.5〜1.5mm)となるようにしている。
【0033】
なお、図3に示すような拡径部成形用ダイ3により補強用の拡径部1aをラッパ状に成形する際に、拡径部成形部分3aの曲率半径(R)を小さくすることで、拡径部1aの張り出し幅を小さくしてトリミング量を抑えられることから、この曲率半径(R)はできるだけ小さくするのが好ましいが、小さくし過ぎると、拡径部1aを成形するときに缶体1の胴部が座屈し易くなるため、加工性を考慮して、R=1.0〜2.5mmの範囲とするのが好ましい。
【0034】
上記のような補強用の拡径部1aの効果について、本実施例では、軽量化により胴部の金属壁厚を0.102mmとしたボトル型アルミ缶を、約−200Paのバキューム圧でコンベア上に載置して搬送しながら、オーブン装置内で缶体の温度が255℃となるように加熱しているが、その場合に、オーブン装置を通過した後で補強用の拡径部1aを切除した缶体1の胴部の変形量(拡径部を切除した後の開口部の最大外径と最小外径との差)を測定すると、拡径部1aの張り出し幅が0.59mmの場合には、変形量を最大でも2.73mmに抑えることができた。また、拡径部1aの張り出し幅が0.95mmの場合には、変形量を最大でも2.67mmに抑えることができて、何れの場合でも、開口端部をラッパ状の拡径部1aにすることなくストレートな円筒状のままの缶体の変形量(最大で4.2mm)と比べて、変形量を大幅に減少させることができた。また、コンベヤに載置した缶体の開口端部が被覆樹脂の融着によりコンベア上に接着されるようなこともなかった。
【0035】
上記のような効果に関して、缶体の胴部の変形については、胴部を薄肉化した缶体(胴部の最薄肉部の金属壁厚が0.102mm、開口端部の金属壁厚が0.160mm)で、開口端部がラッパ状の拡径部(張り出し幅が0.59mm)に成形された実施例の缶体と、開口端部がストレートな円筒状(拡径部を成形しない)のままの比較例の缶体とについて、島津製作所のオートグラフAGS−Xにロードセル500Nを組み込み、押し込み速度V=10mm/分で胴部の反発力を測定するような荷重試験装置を用いて、熱処理前の缶体と、缶体の到達温度が255℃となるように熱処理した後の缶体の押し込み時の荷重とストロークの関係を開口端部の位置でそれぞれ測定することにより、熱軟化による変形抵抗力の変化を調べた。
【0036】
その結果、測定から得られた荷重・ストローク線図から見て、実施例の缶体では、熱処理前後でストローク2.0mmまでは変形抵抗力(荷重)の低下は見られなかったが、比較例の缶体では、熱軟化の影響でストロークが増加するに従って変形抵抗力(荷重)が低下していることが判った。また、熱処理工程に供給される缶体の開口端部の強度については、0.25N/mm以上の変形抵抗力(荷重)を持つように拡径部を成形すれば良いことが判った。即ち、金属壁厚を薄くした軽量缶に対して、缶型や缶の高さが変わっても、熱処理工程前で缶体の開口端部の直径方向での変形抵抗力(荷重)が0.25N/mm以上となるように拡径部を成形しておくことで、缶体の開口端部の変形を充分に抑制できることが判った。
【0037】
缶体のコンベヤ上への接着については、図4(C)に示すような、下端に水平フランジ部が形成された拡径部を形成した場合、缶内面側にラミネートされている被覆樹脂が水平フランジ部の下面側に存在していて、この水平フランジ部の下面側がコンベアと面接触することから、熱処理工程で缶体の被覆樹脂が高温に加熱されたときに、水平フランジ部の下面側の被覆樹脂がコンベア面に融着することで缶体がコンベヤ上に接着される虞がある。これに対して、図2及び図4(A)に示すような本実施例のラッパ状の拡径部1aでは、コンベアと面接触するような水平フランジ部が形成されていないことから、熱処理工程で缶体が高温に加熱されて被覆樹脂が溶融しても、被覆樹脂がコンベヤ面に融着して缶体がコンベヤ上に接着されるような虞はない。
【0038】
なお、図4(A)に示すようなラッパ状の拡径部1aでは、拡径部1aの接地部分の水平面に対する接線角が0°以上(接地部分が水平面ではなく傾斜面)となっていれば、コンベヤ上に面接触しないはずであるが、必要以上に拡径部1aの張り出し幅を大きくすると、バキューム圧により拡径部1aが撓んで接地部分がコンベヤに面接触してしまうような虞が生じる。これに対して、図3に示すような拡径部成形用ダイ3により拡径部1aをラッパ状に成形するのに際し、既に述べたように、拡径部成形部分3aの曲率半径(R)をR=1.0〜2.5mmの範囲として、拡径部1aの張り出し幅を0.5〜2.5mm(好ましくは、0.5〜1.5mm)の範囲とするように成形すれば、前記のような虞が生じることはない。
【0039】
以上、本発明の胴部が薄肉化された缶の製造方法の一実施例について説明したが、本発明は、上記のような実施例にのみ限定されるものではなく、例えば、対象となる容器については、上記の実施例に示したようなボトル型アルミ缶に限らず、円筒状の2ピースアルミ缶であっても良いものである。また、適用される熱処理工程については、上記の実施例に示した被覆樹脂の融点以上の温度で完全に非晶質化するような熱処理工程に限らず、被覆樹脂が軟化する程度の融点近傍に加熱するような熱処理工程であっても良いものである。さらに、補強用の拡径部1aについては、上記の実施例ではラッパ状に成形しているが、そのような形状に限られるものではなく、コンベアと面接触する水平フランジ部を形成しないものである限りにおいて、図4(B)に示すような段状に成形しても良い等、適宜に変更可能なものであることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0040】
1 缶体
1a 補強用の拡径部
2 コンベア
3 拡径部成形用ダイ
3a 拡径部成形部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミ系の樹脂被覆金属板から絞り・しごき加工を経て胴部と底部が一体成形された有底円筒状の缶体を得て、缶体の開口端側をトリミングしてから印刷・塗装を施した後で、缶体の開口端側にネック・フランジ加工を施すよりも前に、缶体を真空コンベア上に載置して搬送しながら熱処理することで、缶体の被覆樹脂を改めて非晶質化するような缶の製造方法において、缶体を真空コンベア上に載置して搬送しながら熱処理する工程で、開口端側を下にして真空吸引力によりコンベア上に缶体を保持しているのに対して、該熱処理工程の前に、缶体の胴部と連続する円筒状の開口端部を、コンベアと面接触する水平フランジ部を形成しない補強用の拡径部に成形しておき、該熱処理工程の後で、該補強用の拡径部を切除するようにしたことを特徴とする胴部が円筒状に薄肉化された缶の製造方法。
【請求項2】
製造される缶がボトル型アルミ缶であり、その製造工程において、トップドーム成形工程で有底円筒状の缶体をボトル形状に成形した後、口頸部を開口させてネジ部やカール部を成形するネジ・カール成形工程に入る前に、被覆樹脂を改めて非晶質化するために缶体に熱処理を施しているのに対して、該熱処理工程の前に補強用の拡径部に成形し、該熱処理工程の後で補強用の拡径部を切除するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の胴部が円筒状に薄肉化された缶の製造方法。
【請求項3】
胴部の最薄肉部の金属壁厚が0.110mm以下で、開口端部の金属壁厚が0.170mm以下の缶体について、開口端部の直径方向での変形抵抗力が、熱処理工程の前で0.25N/mm以上となるように、補強用の拡径部が成形されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の胴部が円筒状に薄肉化された缶の製造方法。
【請求項4】
補強用の拡径部が、半径方向で外方に張り出す幅が0.5〜2.5mmのラッパ状に成形されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の胴部が円筒状に薄肉化された缶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−110906(P2012−110906A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259903(P2010−259903)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000208455)大和製罐株式会社 (309)
【Fターム(参考)】