説明

胸部圧迫アーチファクトを除去するための生理学的信号処理への胸部速度の使用

胸部圧迫適用中の生理学的信号(例えばECG)を解析する方法。この方法は、胸部圧迫適用中の生理学的信号を取得し、そこから胸部圧迫の速度に関する情報を決定可能なセンサーの出力を取得し、前記胸部圧迫に起因する前記生理学的信号中の少なくとも一つの信号アーチファクトを低減するために前記速度に関する前記情報を使用することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、参照によってここに組み込まれた2003年11月6日に出願した米国出願番号10/704366の一部継続出願であり、その出願の優先権を主張する。
本発明は心臓蘇生を支援する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
心拍停止した患者の蘇生処置には、患者の気道確保、患者に対する人工呼吸、患者の心臓、脳およびその他の生命維持に必要な器官への血流確保のための胸部圧迫が含まれる。患者がショックの効く心拍リズム(shockable heart rhythm)を有する場合には、蘇生として除細動治療が含まれることもある。一次救命処置(BLS)という用語には次に挙げる要素のすべてが含まれる。初期診断、気道確保、呼気換気(人工呼吸)、胸部圧迫。これら3つの処置(気道による呼吸、および胸部圧迫を含む循環)の組み合わせには、心肺蘇生術(CPR)という用語が使われる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
現在行われている自動化BCG拍動分析法では、心肺蘇生(CPR)を中断することにより、胸部の圧迫に由来するアーチファクトがECGに混入することを回避している。しかしCPRを長時間中断すると蘇生成功率が低下することが明らかにされている。前胸部圧迫を中断すると自発循環回復率および24時間生存率がいちじるしく低下するという研究が報告されている。Y.Sato、MH.Weil、S.Sun、W.Tang、J.Xie、M.Noc、およびJ.Bisera、心肺蘇生術時における前胸部圧迫中断の及ぼす悪影響について、Critical Care Medicine、25巻(5)、733〜736(1997年)。Yuほか、2002年。Circulation、106、363372(2002年)、T.Eftestol、K.Sunde、およびP.A.Steen、院外心拍停止時における除細動成功の確率試算に対し前胸部圧迫中断の与える影響、Circulation、105、2270〜2273、(2002年)。
【0004】
CPR処置の別の重要問題に呼吸管理がある。呼吸モニタリングの典型的な方法としては、患者の経胸インピーダンスの変化を測定し追跡するインピーダンス呼吸曲線記録法が使用されている。しかし現在では、インピーダンスによる呼吸曲線記録法は、胸部を圧迫するとインピーダンス信号にいちじるしいアーチファクトが生じるため、胸部圧迫適用中の肺容量の指標としては信頼性に欠けている。
【0005】
胸部圧迫に起因してECGに現れるアーチファクトを除去する手段として適応フィルタの使用が試みられている。SO.Asse、T.Effestol、JH.Husoy、K.Sunde、および、PA.Steen、管内蘇生中の心室細動時におけるCPRアーチファクトの提言について、IEEE Transactions on Biomedical Engineering、47巻、1440〜1449(2000年)。A.Langhelle、T.Eftestol、H.Myklebust、M.Eriksen、MT.Holten、PA.Steen、最適多チャンネルフィルタを用いた心電図からのCPRアーチファクト除去、Mar;48(3):27991(2001年)。JH.Husoy、J.Eilevstjonn、T.Eftestol、SO.Asse、H.Myklebust、および、P.A.Steen、効率的に適合する追跡的アルゴリズムを用いた心電図からの心肺蘇生術アーチファクトの除去、IEEE Transactions on Biomedical Engineering、49巻、1287〜1298(2002年)。HR.Halperiin、および、RD.Berger、CPR Chest Compression Monitor、米国特許第6,390,996号(2002年)。Asseほか(2002年)、および、Langhelleほか(2001年)は適応フィルタに対する基準信号として圧迫深さおよび胸部インピーダンスを使用した。Husoyほか(2002年)は、計算の複雑さを軽減するためマッチング追跡反復法を使ってこの研究を展開した。しかし、彼らが得た結果は、例えば高次の逆フィルタの計算を含むようなたいていが計算に集中したものである。Halperinら(2002年)は、信号の自動スペクトルおよび交差スペクトルを使う周波数ドメイン法と、ECG信号の適応フィルタリングに対して回帰最小二条法を使う時間ドメイン法を提案した。両者とも大量の計算を必要とする。
【0006】
適応フィルタに関しては多くの文献がある。例えば、Hykin,Adaptive Filter Theory、第3版、Upper Saddle River、NJ,USA.Prentice−Hall、1996年。
【課題を解決するための手段】
【0007】
概して本発明は胸部圧迫適用中の生理学的信号(例えばECG)を解析する方法に関する。その方法は、胸部圧迫適用中の生理学的信号を取得し、そこから胸部圧迫の速度に関する情報を決定可能なセンサーの出力を取得し、胸部圧迫に起因する生理学的信号中の少なくとも一つの信号アーチファクトを低減するために速度に関する情報を使用することを含む。
【0008】
本発明の好ましい実施例には以下の一つ以上を組み込むことができる。生理学的信号は、ECG信号、IPG信号、ICG信号またはパルス酸素濃度信号などの各種生理学的信号のいずれであってもよい。センサーには速度センサーを使用することができ、速度に関する情報は速度センサーから決定することができる。センサーには加速度計を使用することもでき、速度情報は、加速度計の出力積分から決定してもよい。生理学的信号中の少なくとも一つの信号アーチファクトを低減するために速度に関する情報を使用することには、生理学的信号と速度との時間整合を含めることができる。生理学的信号中の少なくとも一つの信号アーチファクトを低減するために速度に関する情報を使用することは、胸部圧迫アーチファクトを低減するように調節された適応フィルタを使用することを含めることができる。その方法は、アーチファクトの低減された生理学的信号を処理して心室細動が存在するか否かを判定する心室細動検出アルゴリズムを含むことができる。その方法は、胸部圧迫が行われた時を検出し自動的に適応フィルタを始動する前処理工程を含むことができる。その方法は、アルゴリズムが心室細動の存在を推定した場合に除細動ショックの伝達を可能にすることを含むことができる。適応フィルタに供給した生理学的信号と、適応フィルタによるアーチファクト低減後の生理学的信号との差を表す差分信号を生成することができる。差分信号は生理学的信号中のアーチファクト量を表す測度とすることができる。生理学的信号の以後の処理の修正に差分信号を使用することができる。アーチファクト量が第一の閾値を超えていることを差分信号が示す場合、アーチファクトの影響に対する耐性を高めるように心室細動検出アルゴリズムを修正することができる。アーチファクト量が第一の閾値より高い第二の閾値を超えていることを差分信号が示す場合、心室細動検出アルゴリズムの使用を中止することができる。差分信号に対するスペクトル解析を行い、スペクトル解析の結果に基づいて生理学的信号のフィルタリングを調整することができる。適応フィルタに供給するに先立ち、速度信号に正規化前処理を行うことができる。適応フィルタはFIRフィルタを含むことができる。適応フィルタはゼロ次フィルタを含むことができる。適応フィルタは生理学的信号の推定値によって動的に制御される係数を備えることができる。適応フィルタはフィルタ出力と測定された生理学的信号との差が閾値を超えているときに自動的にリセットされる機能を備えることができる。自動的なリセットはステップサイズを動的に変更してフィルタの収束と安定性との関係を改善する機能を備えることができる。生理学的信号と速度信号に対して行われ、これら二つの信号を圧迫に対して整合させる時間整合処理を更に備えてもよい。その方法は、時間整合処理の出力に対して、生理学的信号と速度信号との間の誤差を低減させる適応フィルタ処理を行うことを含むことができる。適応フィルタはカルマンフィルタを含むことができる。適応フィルタは適応等化を用いることがえきる。
【0009】
本発明の多くの利点(その一部は、本発明のさまざまな実施例のいくつかでのみ達成することができよう)のうちの一部は以下のとおりである。
本発明は、優れた技術、具体的には(a)蘇生術の実施によって誘発されるECG信号中のアーチファクトを適応処理によって除去する技術、(b)モニタリングするECG信号を増幅する技術、および(c)ECGのリズムアドバイザリアルゴリズムの信頼性を高める技術を提供する。
【0010】
リズムアドバイザリアルゴリズムの一部として、本発明のさまざまな実施例をECGモニター、外部除細動器、ECGリズム分類器、または心室不整脈検出器の中に組み込むことができる。
【0011】
本発明は、リズムアドバイザリアルゴリズムのためにECGデータを収集しながらCPRを続行することができる。これによりCPRの成績が向上し、ひいては例えば生存率が向上する。
【0012】
さらに本発明は「浄化した」ECG信号出力を除細動器の使用者への表示に提供することができる。
さらに本発明は、インピーダンス法によって胸部圧迫適用中の肺容積を測定する手段を初めて提供する。本発明は圧迫に由来するアーチファクトによって改悪された、例えばインピーダンス心拍記録やパルス酸素濃度計のような別の生理学的信号のフィルタリングに使用することができる
本発明は、ゼロ次FIRフィルタを使ったCPRアーチファクトの除去に優れた性能を示す。これにより、本発明のいくつかの実施例は、従来技術で提案された適応フィルタの構造よりはるかに簡単かつ迅速なものになる。
【0013】
本発明のいくつかの実施例では、基準信号の前処理と自動リセット機能の特徴によって、比較的大きなステップサイズを適応に使用することが可能であるため、収束がより速くより安定して実行される。
【0014】
本発明のいくつかの実施例は、計算上のコストを低減しCPRアーチファクトの除去に優れた性能を発揮する。
本発明のその他の特徴および利点は、本発明の詳細な説明、図面および特許請求の範囲に記載されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の可能な実施例の数はあまりにも多く、そのすべてを本明細書に記載することができない。そこで、以下には現時点で好ましい若干の可能な実施例を記載する。しかし、これらは、本発明の実施例の記述であって、この章に記載した詳細な実施例に限定するものではなく、特許請求の範囲に広義の用語で記載した本発明を記載したものであることを強調しておく。
【0016】
一つの可能な実施例を図1のフローチャートに示す。AEDのフロントエンドはECG信号と、胸部圧迫速度に相当するCPR信号との両方を取得する。胸部の速度の代わりに胸部の変位や加速度が測定される場合には、測定信号から一以上の積分または微分操作を経て数学的に速度を求めてもよい。
【0017】
速度信号は前処理されてから適応フィルタに供給される。好ましい実施例では、前処理は、適応フィルタに供給される信号を0と1の範囲内に限定するように測定信号を正規化することである。しかし、正規化を行わなくてもよい。別の実施例では、相互相関などの方法によってECG信号と基準信号に対する時間整合処理が行われる。これによって、圧迫に関して2つの信号が整合され、その結果、適応フィルタの入力信号はよりよく整合される。しかしこの整合処理を行わなくてもよい。速度信号に別の前処理を行って適応フィルタの性能を上げることもできる。
【0018】
図1において、x(n)およびy(n)は適応フィルタの入力および出力であり、適応フィルタとしてはFIRフィルタ、IIRフィルタ、その他のタイプのフィルタが使用できる。好ましい実施例では、フィルタの係数は、推定ECG信号によって動的制御される。h(n)=h(n−1)+m×e(n)×X(n)
式中、h(n)はフィルタ係数を含むベクトル、mは各フィルタのステップサイズを含むベクトル、c(n)は推定ECG信号、そしてX(n)は入力データを含むベクトルである。推定ECGは、(アーチファクトを含む)実測ECG信号からフィルタ出力y(n)を減算して得られる。
【0019】
いくつかの実施例では、自動化リセット機構が設けられる。フィルタ出力y(n)と測定ECG s(n)の間の差が閾値を超えると、適応フィルタが、その係数をリセットするため、系が不安定になることは避けられる。
【0020】
図1に示した以外のフィルタ構造や、フィルタリングの別の数学的表現が可能である。
図2は、正常洞調律に応答する図1に示した適応フィルタの性能を示す例である。(a)の信号は、CPRアーチファクトを含むECG信号である。(b)の信号は基準信号として使用した圧迫速度である。(c)の信号は適応フィルタの出力である。
【0021】
図3は、心室細動中における図1に示した適応フィルタの性能を示す例である。(a)の信号は、CPRアーチファクトを含むECG信号である。(b)の信号は基準信号として使用した圧迫速度である。(c)の信号は適応フィルタの出力である。
【0022】
図2と図3の両方に示すように、図1の実施例は、実測ECG信号(a)に混入したCPRアーチファクトを低減することができる。推定ECG信号(c)では、CPRアーチファクトは完全ではないがほとんど除去されている。基準信号として使用した速度信号(b)は、実測ECG信号(a)に混入したCPRアーチファクトと明らかに相関性を有している。
【0023】
適応フィルタは、信号中のアーチファクトが基準信号と相関性を有するが、所要の信号(推定ECG)とは相関性を有さないことを前提としており、それゆえ、基準信号を使ってアーチファクトを順応して推定し、実測ECG信号からその推定したアーチファクトを減算する。
【0024】
図2に示す結果は、0次FIRフィルタに基づいたものであり、そのFIRフィルタは単にECG信号の電流サンプルのスケールを適応的に変更するものである。CPRアーチファクトは、完全ではないにしても、かなり除去された。このように、この実施例は簡便さと性能の効率とを両立している。
【0025】
適応フィルタを使用した場合、適応収束の速度は、通常、ステップサイズ変数によって制御される。速い収束は大きなステップサイズを必要とし、それはフィルタの安定性を損なわせる傾向がある。いくつかの実施例の自動リセット機構は、ステップサイズを動的に変更することができ、ひいては収束と安定性の関係を改善することができる。
【0026】
フィルタ係数はサンプルごとに更新される。係数の変化すなわちh(n)−h(n−1)は、ステップサイズと基準信号の積に比例する。それゆえ、基準信号の振幅はフィルタの安定性と収束性に影響し得る。したがって、基準信号の前処理は、基準信号の調節によってフィルタの性能を高めることができる。
【0027】
別の実施例では、相互相関法のような方法によってECG信号と速度信号に時間整合処理が行われる。この処理によって、前記2つの信号を圧迫に対して整合させることができる。好ましくは、その後、例えば、ECGと速度との間の平均二乗誤差を最小にする方法に含まれる適応フィルタリング法が使用される。
【0028】
圧迫が加えられているときを検出し、自動的に適応フィルタを作動させるための処理ユニットを設けることができる。適応フィルタの出力(すなわち、アーチファクトの低減されたECG信号)は、自動体外式除細動器(AED)の心室細動(VF)検出アルゴリズム(例えば、ショックアドバイザリーアルゴリズム)に供給することができる。
【0029】
適応フィルタのECG入力とECG出力の間の差を表すエラー信号を生成することができる。このエラー信号は信号中に含まれるCPRアーチファクトの量を表す測度を与えることができ、ECGの以後の処理を修正する手段として有用である。例えば、アーチファクトのレベルがかなり高く(例えば第一の閾値より高く)なった場合、VF検出アルゴリズムの閾値を高くして、ECG信号に依然として残留する任意のCPRアーチファクトに対する耐性を高めてもよい。そのレベルがさらに高く(例えば第二の閾値より高く)なると、VF検出を完全に中止してもよい。
【0030】
好ましい実施例では、フィルタ出力は、除細動器や心電図記録機能を備えたその他の医療装置の画面にグラフ表示される。フィルタ出力は、医療機器の帯状記録紙レコーダに印刷されてもよい。あるいは、フィルタ出力は、処理手段によって行われる以後の信号処理のための入力信号として使用されてもよい。このような信号処理の目的は、QSR検出、ペース調整中におけるペース調整された心拍の検出、不整脈分析、および心室細動や他のショックの効くリズムの検出である。
【0031】
エラー信号に対してスペクトル解析を行ってもよい。エラー信号の周波数成分の主要バンドに基づいてECG信号の予備フィルタリングをVF検出に先だって調整することができる。例えば、エラー信号が主として3〜5Hz帯に見られる場合、VF検出(または他のECG処理)アルゴリズムへの入力に先だって、追加のフィルタリングをこの帯域に設けることができる。
【0032】
上記以外に他の多くの本発明の実施例が特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲に含まれる。
例えば、同期化および速度波形における位相エラーの両者を改善するには、適応チャンネル等化法を採用することができる。胸部圧迫による救命士の救命成績は時間とともに変化し、非定常処理としてモデル化する方がよい場合は、フィルタ性能を高めるために、カルマンフィルタ法を使用することもできる。
【0033】
ECG信号と速度信号の時間整合も、当業者によく知られている相互相関法のような方法によって実施可能である。これは圧迫に関する両信号の整合を実現する。好ましくは、適応フィルタリング法、例えばECGと速度との間の平均二乗誤差を最小化する場合に使用される方法が使われる。
【0034】
さらに別の実施例では、CPR胸部圧迫に起因して誘発されるBCGアーチファクトをできるだけ抑制するために、より精密な信号処理法を使うことができる。例えば、フィードフォワード能動型雑音消去(FANC)の名で知られる方法を使用できる。図4は、WidrowとBurgessによって開発されたフィルタX平均最小二乗法(FXLMS ANC)アルゴリズムのブロック図である。P(z)は未知のプラントを表し、そこを通過することで信号x(n)はフィルタ処理される。デジタルフィルタW(z)は、エラー信号e(n)をできるだけ小さくするように適応的に調整される。一実施例では、図5に示すように、x(n)はフィルタ処理前のECG信号を表し、P(z)は図から省略してあり、d(n)は圧迫速度信号v(n)で近似されている。LMSアルゴリズムでは、平均二乗コスト関数ξ(n)=E[e2(n)]としたとき、適応フィルタは、ステップサイズμで係数ベクトルを負の勾配方向に更新する最急降下アルゴリズムを使って、瞬間二乗誤差ξ(n)=e2(n)を最小化する。
w(n+1)=w(n)−μ/2*N~ξ(n)
式中、N~ξ(n)は、nが−2v(n)e(n)に等しい時における平均二乗誤差(MSE)勾配の瞬間推定値である。(上記のN~は、本願の国際公報パンフレット中のティルデ付きNを指す。)FXLMS ANCアルゴリズムの安定性と精度は、可変カットオフローパスフィルタH(z)を追加し、胸部圧迫アーチファクトに関係しない、ECG中の周波数成分を消去することで改善することができる。一般に、胸部圧迫アーチファクトのスペクトルエネルギーは、ECGのそれより圧倒的に低い。カットオフ周波数は、多くの場合約3Hzで十分であるが、患者毎および胸部圧迫を行う救命士に応じて変化する。この難点を解消するため、v(n)と、ローパスフィルタに対する最適カットオフ周波数fCを決めるカットオフ周波数推定(CFE)法の入力に対してFFTを行う。好ましい実施例では、その決定は、5Hzを超えない、それ以下に波形エネルギーの80%が存在する周波数の計算に基づいて行われるが、このパーセンテージは変更してもよく、追加の決定論理を採用してもよい。例えば、x(n)についてFFTを計算してもよく、また、CFE法に入力してもよい。圧迫アーチファクトの周波数スペクトルX(z)の振幅ピークの振幅をまず初めに正規化し、その後、正規化した入力値X’(z)から速度スペクトルV(z)を減算することにより差スペクトルΔX’(z)=X’(z)−V’(z)が計算される。次に、スペクトルエネルギーの大部分(この実施例では97%)がその中に入るように、V(z)およびΔX’(z)についての周波数すなわち図6にそれぞれfCVおよびfCXで示す周波数を決定する。次に、fCVとfCXのいずれか低い方にfCを設定する。あるいはfCVとfCXの間の中間周波数にfCを設定することができる。
【0035】
特に、センサーが、速度信号が取り出される運動センサーの近くの胸郭上にある場合、フィルタによって、他の生理学的信号、例えば当業者によく知られているインピーダンス心拍記録信号(ICG)、インピーダンス呼吸曲線記録信号(IPG)またはパルス酸素濃度信号の質を高めることもできる。インピーダンス呼吸曲線記録信号における圧迫アーチファクトの最小化は、前記方法のどれを使っても行うことができる。
【0036】
適応フィルタは、適応フィルタ出力と基準信号との相互相関または適応フィルタ出力と実測ECG信号との相互相関を最小化するために使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施例のブロック図。
【図2】正常洞調律に応答するECG信号、CPR基準信号、および適応フィルタの出力プロットを示す。
【図3】心室細動中におけるECG信号、CPR基準信号、および適応フィルタの出力プロットを示す。
【図4】フィルタX平均最小二乗(FXLMSANC)アルゴリズムのブロック図。
【図5】図4のアルゴリズムを使った実施例のブロック図。
【図6】図5の実施例に関係する2つのスペクトル出力の分布を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胸部圧迫適用中の生理学的信号を取得し、
そこから胸部圧迫の速度に関する情報を決定可能なセンサーの出力を取得し、
前記胸部圧迫に起因する前記生理学的信号中の少なくとも一つの信号アーチファクトを低減するために前記速度に関する前記情報を使用することを備える、胸部圧迫適用中の生理学的信号を解析する方法。
【請求項2】
前記生理学的信号はECG信号である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生理学的信号はIPGである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記生理学的信号はICG信号である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記生理学的信号はパルス酸素濃度信号である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記センサーは速度センサーであり、前記速度に関する前記情報は前記速度センサーから決定される請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記センサーは加速度計であり、前記速度に関する前記情報は前記加速度計の出力の積分から決定される請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
前記生理学的信号中の少なくとも一つの信号アーチファクトを低減するために前記速度に関する前記情報を使用することは、前記生理学的信号と前記速度との時間整合を含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
前記生理学的信号中の少なくとも一つの信号アーチファクトを低減するために前記速度に関する前記情報を使用することは、胸部圧迫アーチファクトを低減するように調節された適応フィルタを使用することを含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
アーチファクトの低減された前記生理学的信号を処理して心室細動が存在するか否かを判定する心室細動検出アルゴリズムを更に備える請求項1または2に記載の方法。
【請求項11】
胸部圧迫が行われた時を検出し自動的に前記適応フィルタを始動する前処理工程を更に備える請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記アルゴリズムが心室細動の存在を推定した場合に除細動ショックの伝達を可能にすることを更に備える請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記適応フィルタに供給した生理学的信号と、前記適応フィルタによるアーチファクト低減後の生理学的信号との差を表す差分信号が生成される、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記差分信号は前記生理学的信号中のアーチファクト量を表す測度となる請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記生理学的信号の以後の処理の修正に前記差分信号を使用する工程を更に備える請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記アーチファクト量が第一の閾値を超えていることを前記差分信号が示す場合、前記心室細動検出アルゴリズムは、アーチファクトの影響に対する耐性を高めるように修正される請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記アーチファクト量が前記第一の閾値より高い第二の閾値を超えていることを前記差分信号が示す場合、前記心室細動検出アルゴリズムの使用は停止される請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記差分信号に対するスペクトル解析を行い、前記スペクトル解析の結果に基づいて前記生理学的信号のフィルタリングを調整する請求項15に記載の方法。
【請求項19】
適応フィルタに供給するに先立ち、前記速度信号は正規化前処理を受ける請求項9に記載の方法。
【請求項20】
前記適応フィルタはFIRフィルタを含む請求項90に記載の方法。
【請求項21】
前記適応フィルタはゼロ次フィルタを含む請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記適応フィルタは前記生理学的信号の推定値によって動的に制御される係数を備える請求項9に記載の方法。
【請求項23】
前記適応フィルタはフィルタ出力と測定された生理学的信号との差が閾値を超えているときに自動的にリセットされる機能を備える請求項9に記載の方法。
【請求項24】
自動的なリセットはステップサイズを動的に変更してフィルタの収束と安定性との関係を改善する機能を備える請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記生理学的信号と前記速度信号に対して行われ、これら二つの信号を圧迫に対して整合させる時間整合処理を更に備える請求項1または2に記載の方法。
【請求項26】
前記時間整合処理の出力に対して、前記生理学的信号と前記速度信号との間の誤差を低減させる適応フィルタ処理を行うことを更に備え請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記適応フィルタはカルマンフィルタを含む請求項9に記載の方法。
【請求項28】
前記適応フィルタは適応等化を用いる請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−512043(P2007−512043A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−539552(P2006−539552)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【国際出願番号】PCT/US2004/035568
【国際公開番号】WO2005/046431
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(504242032)ゾール メディカル コーポレイション (42)
【氏名又は名称原語表記】ZOLL Medical Corporation
【Fターム(参考)】