説明

脂環式炭化水素ランダム共重合体、その製造方法、樹脂組成物、及び成形物

【課題】耐熱性、低複屈折性、及び耐レーザー性が高度にバランスした脂環式炭化水素ランダム共重合体とその製造方法を提供する。
【解決手段】脂環式構造の繰り返し単位と鎖状構造の繰り返し単位を含有する脂環式炭化水素ランダム共重合体であって、脂環式構造の繰り返し単位が特定の脂環式構造を持つ繰り返し単位であり、鎖状構造の繰り返し単位が特定の繰り返し単位(2)と他の繰り返し単位を有する鎖状構造を持つ繰り返し単位であり、各繰り返し単位の合計含有量が90重量%以上、鎖状構造の繰り返し単位の含有量が1〜15重量%、鎖状構造の繰り返し単位中での繰り返し単位(2)の含有量が40モル%未満、重量平均分子量が10,000〜300,000である脂環式炭化水素ランダム共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、低複屈折性、及び耐レーザー性が高度にバランスした脂環式炭化水素ランダム共重合体に関する。また、本発明は、該脂環式炭化水素ランダム共重合体の製造方法、該脂環式炭化水素ランダム共重合体を樹脂成分として含有する樹脂組成物、及び該脂環式炭化水素ランダム共重合体または該樹脂組成物を成形してなる成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレンなどの芳香族ビニル重合体の芳香環を水素化してなる脂環式炭化水素重合体は、光線透過率が高いことに加えて、複屈折が小さく、光学材料に適した特性を有する樹脂材料として知られている。例えば、特開平1−317728号公報(特許文献1)には、ポリスチレンやスチレン−ブタジエン−スチレン・ブロック共重合体などのスチレン樹脂の芳香環を水素添加してポリビニルシクロヘキサン樹脂とし、次いで、該ポリビニルシクロヘキサン樹脂を射出成形して光ディスク基板を製造する方法が提案されている。
【0003】
芳香族ビニル重合体の芳香環を水素化してなる脂環式炭化水素重合体は、透明性、低複屈折性、低吸水性などに優れているため、光ディスク基板としてだけではなく、光ディスクなどの情報記録媒体の信号を読み取るためのピックアップレンズとしての用途に適用することが提案されている。しかし、ピックアップレンズは、複屈折の小さなことが要求されているにもかかわらず、その形状が複雑なため、従来の脂環式炭化水素重合体を用いて成形した場合、光ディスク基板に比べて、複屈折が大きくなる傾向にある。
【0004】
光学部品の複屈折は、使用する樹脂材料に固有の複屈折と成形時の残留応力の双方により影響を受ける。樹脂材料に固有の複屈折を小さくすることは困難である。成形時の樹脂温度を高くしたり、樹脂材料の分子量を小さくしたりして、成形時の樹脂材料の溶融流動性を向上させると、成形物の残留応力を低減させることができる。しかし、成形時の樹脂温度を高くしすぎると、成形物が熱分解及び/または熱劣化しやすくなる。樹脂材料の分子量を小さくすると、成形物の機械的強度が低下する。
【0005】
特開2001−48924号公報(特許文献2)には、芳香族ビニル単量体、共役ジエン単量体、及び所望により他のビニル単量体をランダム共重合して芳香族ビニル共重合体を合成し、次いで、該芳香族ビニル共重合体の芳香環を含む炭素−炭素不飽和二重結合を水素化した脂環式炭化水素共重合体が提案されている。特許文献2に開示されている脂環式炭化水素共重合体は、透明性と低複屈折性に優れる上、引張強さなどの機械的強度にも優れており、ピックアップレンズなどの光学部品の成形用に適した樹脂材料である。
【0006】
近年、発振波長の短い半導体レーザーの開発が進められ、より短波長のレーザー発振が可能になるに伴って、波長350〜530nmのブルーレーザーを使用した高密度の情報記録・再生媒体の開発が急速に進んでいる。そのため、高密度の情報記録・再生媒体用に適した性能を備えたピックアップレンズが求められている。
【0007】
ブルーレーザーなど発振波長の短い半導体レーザーを使用した情報記録・再生媒体の用途に適用されるピックアップレンズには、透明性に優れ、複屈折が小さく、機械的強度が良好であることに加えて、耐レーザー性と耐熱性に優れることが求められている。
【0008】
発振波長の短い半導体レーザーを照射すると、被照射部分の照射エネルギー密度が高くなるため、樹脂材料から成形されたピックアップレンズが劣化を受けやすい。レーザー照射によって劣化したピックアップレンズは、光線透過率が低下する。ピックアップレンズは、情報記録・再生機器の小型化、配線の高密度化、レーザー発信波長の短波長化などに伴って、高温環境下に曝される傾向にある。ピックアップレンズを構成する樹脂材料の耐熱性が低いと、高温環境下で変形や熱劣化を受けやすくなる。その結果、情報記録・再生機器の使用に伴って、ピックアップレンズの性能が低下する。
【0009】
特許文献2に開示されている脂環式炭化水素共重合体は、ピックアップレンズの用途に適した樹脂材料であり、その共重合組成を選択することによって、耐レーザー性を向上させることができる。しかし、特許文献2の脂環式炭化水素共重合体は、共役ジエン単量体に由来する繰り返し単位の割合を増大させると、耐レーザー性を向上させることができるものの、ガラス転移温度が低下傾向を示すことが判明した。したがって、耐熱性、低複屈折性及び耐レーザー性を高度にバランスさせる上で、該脂環式炭化水素共重合体には、更なる改良の余地が残されている。
【0010】
【特許文献1】特開平1−317728号公報
【特許文献2】特開2001−48924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、耐熱性、低複屈折性及び耐レーザー性が高度にバランスした脂環式炭化水素ランダム共重合体とその製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明の他の課題は、該脂環式炭化水素ランダム共重合体を含有する樹脂組成物を提供することにある。
【0013】
本発明の更なる他の課題は、該脂環式炭化水素ランダム共重合体または該樹脂組成物を用いて成形した光学部品などの成形物を提供することにある。
【0014】
本発明者は、特開2001−48924号公報(特許文献2)の実施例に開示されているスチレンとイソプレンとのランダム共重合体を水素化してなる脂環式炭化水素ランダム共重合体は、イソプレンに由来する繰り返し単位の含有量を増大させるに従って耐レーザー性が向上するものの、ガラス転移温度が低下傾向を示すことを見出した。
【0015】
該特許文献2には、脂環式炭化水素ランダム共重合体の製造方法について広い開示があるものの、イソプレンなどの共役ジエン単量体に由来する繰り返し単位は、実質的に1,4−結合のみであって、ペンダントビニル構造を持たないものである。このことは、特許文献2の請求項1に式3として示されている共役ジエン単量体に由来する繰り返し単位の構造からも明らかである。
【0016】
本発明者は、芳香族ビニル単量体、イソプレン及び1,3−ブタジエンからなる群より選ばれる少なくとも一種の共役ジエン単量体、及び所望によりその他のビニル単量体を、特定の化合物の存在下で重合することにより、共役ジエン単量体の繰り返し単位中での1,4−結合の含有量が40モル%未満のランダム共重合体を合成できることを見出した。該ランダム共重合体は、共役ジエン単量体の繰り返し単位中でのイソプレンの3,4−結合または1,3−ブタジエンの1,2−結合の含有量が60モル%超過となる。
【0017】
該ランダム共重合体の芳香環を含む炭素−炭素不飽和結合を水素化すると、透明性、低複屈折性、機械的強度、及び耐レーザー性に優れる上、ガラス転移温度が高水準にあり、耐熱性にも優れる脂環式炭化水素ランダム共重合体を得ることができる。さらに、該脂環式炭化水素ランダム共重合体は、イソプレンなどの共役ジエン単量体に由来する繰り返し単位の含有量を増大させることにより耐レーザー性を向上させても、ガラス転移温度が高水準に保持されており、複屈折も改良される傾向にあることが見出された。
【0018】
本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体は、芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体との共重合組成が変動するに従って、ガラス転移温度、複屈折、耐レーザー性も変動するが、対応する同じ共重合組成を有する公知の脂環式炭化水素ランダム共重合体(特許文献2)に比べて、ガラス転移温度が高く耐熱性が改良されている上、低複屈折性や耐レーザー性についても向上する傾向にある。
【0019】
本発明者は、芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体との共重合に際し、エチレングリコールジメチルエーテルやエチレングリコールジブチルエーテルなどの電子供与原子を有する化合物をランダム化剤として使用することにより、特許文献2に開示されている脂環式炭化水素ランダム共重合体に比べて、耐熱性、低複屈折性及び耐レーザー性が高度にバランスした脂環式炭化水素ランダム共重合体の得られることを見出し、先に特許出願を行った(特願2007−336300号)。
【0020】
本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体は、この先願に開示されている脂環式炭化水素ランダム共重合体に比べても、耐熱性、低複屈折性及び耐レーザー性が高度にバランスしている上、よりシャープな分子量分布を示すものである。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明によれば、脂環式構造の繰り返し単位〔A〕と鎖状構造の繰り返し単位〔B〕を含有する脂環式炭化水素ランダム共重合体であって、
(1)該脂環式構造の繰り返し単位〔A〕が、下記式1
【0022】
【化5】

【0023】
〔式1中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルカルボニルオキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基、または極性基(ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルカルボニルオキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、若しくはシリル基)で置換された炭素数1〜20の炭化水素基である。nは、0または1〜5の整数である。〕
で表される脂環式構造を持つ繰り返し単位であり、
(2)該鎖状構造の繰り返し単位〔B〕が、下記式2
【0024】
【化6】

【0025】
(式2中、Rは、水素原子またはメチル基である。)
で表わされる繰り返し単位〔B1〕、及び下記式3
【0026】
【化7】

【0027】
(式3中、Rは、水素原子またはメチル基である。)
で表される繰り返し単位〔B2〕を有する鎖状構造を持つ繰り返し単位であり、
(3)脂環式炭化水素ランダム共重合体中の該脂環式構造の繰り返し単位〔A〕と該鎖状構造の繰り返し単位〔B〕の合計含有量が90重量%以上であり、
(4)脂環式炭化水素ランダム共重合体中での該鎖状構造の繰り返し単位〔B〕の含有量が1〜15重量%であり、
(5)該鎖状構造の繰り返し単位〔B〕中の該繰り返し単位〔B1〕の含有量が40モル%未満であり、並びに
(6)ゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定した脂環式炭化水素ランダム共重合体の重量平均分子量(Mw)が10,000〜300,000の範囲である、
ことを特徴とする脂環式炭化水素ランダム共重合体が提供される。
【0028】
また、本発明によれば、 下記工程I及びII:
(I)芳香族ビニル単量体85〜99重量%、イソプレン及び1,3−ブタジエンからなる群より選ばれる少なくとも一種の共役ジエン単量体1〜15重量%、及びその他のビニル単量体0〜10重量%を、下記式9
【0029】
【化8】

【0030】
〔式9中、Aは、−O−または>NR19(R19は、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基)である。p及びqは、1〜4の正数である。R11〜R18は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、炭素数1〜20のシリル基置換炭化水素基、及び炭素数1〜20の炭化水素基置換シリル基から選ばれる原子または基を示す。〕
で表される化合物の存在下で重合し、該共役ジエン単量体の繰り返し単位中での1,4−結合の含有量が40モル%未満のランダム共重合体を合成する工程I;並びに
(II)該ランダム共重合体の主鎖及び芳香環を含む側鎖の炭素−炭素不飽和二重結合を水素化する工程II;
を含む前記脂環式炭化水素ランダム共重合体の製造方法が提供される。
【0031】
さらに、本発明によれば、前記脂環式炭化水素ランダム共重合体と酸化防止剤を含有する樹脂組成物が提供される。
【0032】
さらにまた、本発明によれば、前記の脂環式炭化水素ランダム共重合体または樹脂組成物を成形してなる成形物が提供される。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、耐熱性、低複屈折性、及び耐レーザー性が高度にバランスした脂環式炭化水素ランダム共重合体を提供することができる。本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体または該脂環式炭化水素ランダム共重合体を含む樹脂組成物は、光学部品などの成形物の成形材料として使用することができる。
【0034】
本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体は、共役ジエン単量体に由来する繰り返し単位の含有量を増大させて耐レーザー性を向上させても、耐熱性の低下が抑制されているため、ブルーレーザーなど発振波長の短い半導体レーザーを使用した情報記録・再生媒体の用途に適用されるピックアップレンズの成形材料として好適である。
【0035】
本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体は、分子量分布がシャープであるため、重量平均分子量を下げても強度の低下が少なく、それによって、水素化率を高めることができるので、機械的強度を低下させることなく耐ブルーレーザー性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体は、脂環式構造を持つ繰り返し単位〔A〕と鎖状構造を持つ繰り返し単位〔B〕を含有する脂環式炭化水素ランダム共重合体である。該脂環式構造の繰り返し単位〔A〕は、下記式1
【0037】
【化9】

【0038】
で表される脂環式構造を持つ繰り返し単位である。
【0039】
式1中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルカルボニルオキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基、または極性基で置換された炭素数1〜20の炭化水素基である。極性基とは、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルカルボニルオキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、若しくはシリル基を意味する。nは、0または1〜5の整数である。
【0040】
炭化水素基としては、炭素数1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6のアルキル基;炭素数2〜20、好ましくは2〜10、より好ましくは2〜6のアルケニル基が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子を挙げることができる。
【0041】
炭素数1〜20のアルコキシ基は、炭素数1〜6のアルコキシ基であることが好ましい。炭素数1〜20のアルキルカルボニルオキシ基は、炭素数1〜6のアルキルカルボニルオキシ基であることが好ましい。極性基で置換された炭化水素基としては、例えば、炭素数1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6のハロゲン化アルキル基が挙げられる。R及びRは、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であることが、耐熱性及び低吸水性の観点から好ましい。
【0042】
本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体を構成する鎖状構造(非脂環式構造)の繰り返し単位〔B〕は、下記式2
【0043】
【化10】

【0044】
(式2中、Rは、水素原子またはメチル基である。)
で表わされる繰り返し単位〔B1〕、及び下記式3
【0045】
【化11】

【0046】
(式3中、Rは、水素原子またはメチル基である。)
で表される繰り返し単位〔B2〕の2つの繰り返し単位を有する。
【0047】
繰り返し単位〔B1〕は、イソプレン及び/または1,3−ブタジエンの1,4−付加反応に由来する繰り返し単位である。すなわち、繰り返し単位〔B1〕は、Rがメチル基の場合には、イソプレンの1,4−結合の繰り返し単位の炭素−炭素不飽和二重結合を水素化した繰り返し単位であり、Rが水素原子の場合には、1,3−ブタジエンの1,4−結合の繰り返し単位の炭素−炭素不飽和二重結合を水素化した繰り返し単位である。
【0048】
繰り返し単位〔B2〕は、イソプレンの3,4−付加反応または1,3−ブタジエンの1,2−付加反応に由来する繰り返し単位である。すなわち、繰り返し単位〔B2〕は、イソプレンの3,4−結合または1,3−ブタジエンの1,2−結合により生じたペンダント二重結合を水素化した繰り返し単位である。
【0049】
本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体において、脂環式炭化水素ランダム共重合体中の脂環式構造の繰り返し単位〔A〕と鎖状構造の繰り返し単位〔B〕の合計含有量は、90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは99重量%以上、多くの場合99.9重量%以上である。
【0050】
残余は、下記式4
【0051】
【化12】

【0052】
(式4中のR及びRは、式1におけるのと同じである。)
で表わされる水素化されていない芳香族ビニル単量体の繰り返し単位、下記式5
【0053】
【化13】

【0054】
(式5中、Rは、水素原子またはメチル基である。)
で表わされる水素化されていないイソプレン及び/または1,3−ブタジエンの1,4−付加反応による繰り返し単位、下記式6
【0055】
【化14】

【0056】
(式6中、Rは、水素原子またはメチル基である。)
で表わされる水素化されていないイソプレンの3,4−付加反応及び/または1,3−ブタジエンの1,2−付加反応による繰り返し単位、下記式7
【0057】
【化15】

【0058】
〔式7中、R乃至Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルカルボニルオキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基、または極性基(ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルカルボニルオキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、若しくはシリル基)で置換された炭素数1〜20の炭化水素基である。〕で表わされるその他のビニル単量体の繰り返し単位、またはこれらの2種以上の繰り返し単位の含有量である。
【0059】
本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体中の鎖状構造の繰り返し単位〔B〕の含有量は、1〜15重量%、好ましくは2〜10重量%であり、諸特性のバランス上の観点から3〜6重量%が特に好ましい。鎖状構造の繰り返し単位〔B〕の含有量が少なすぎると、複屈折が上昇傾向を示し、耐レーザー性も低下する。該繰り返し単位〔B〕の含有量が多すぎると、耐熱性が低下する。
【0060】
本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体において、鎖状構造の繰り返し単位〔B〕中での繰り返し単位〔B1〕の含有量は、40モル%未満、好ましくは38モル%以下、より好ましくは36モル%以下である。該繰り返し単位〔B1〕の含有量は、通常20モル%以上、好ましくは25モル%以上、より好ましくは30モル%以上である。
【0061】
該繰り返し単位〔B1〕の含有量は、鎖状構造の繰り返し単位〔B〕中の繰り返し単位〔B1〕と繰り返し単位〔B2〕の合計を100モル%として算出される値である。したがって、繰り返し単位〔B2〕の含有量は、60モル%超過、好ましくは62モル%以上、より好ましくは64モル%以上である。該繰り返し単位〔B2〕の含有量は、通常80モル%以下、好ましくは75モル%以下、より好ましくは70モル%以下である。
【0062】
共役ジエン単量体がイソプレンの場合(繰り返し単位を表わす式2、3、5及び6において、Rがメチル基の場合)、1,4−付加反応と3,4−付加反応が生じるものの、1,2−付加反応は、実質的に起こらない。
【0063】
鎖状構造の繰り返し単位〔B〕中での繰り返し単位〔B1〕の含有量が多すぎると、脂環式炭化水素ランダム共重合体のガラス転移温度が低下する傾向を示し、特に、耐熱性を高度に維持しながら耐レーザー性を向上させることが困難となる。該繰り返し単位〔B1〕の含有量が少なすぎる脂環式炭化水素ランダム共重合体は、合成が困難である。
【0064】
本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定した重量平均分子量(Mw)は、10,000〜300,000、好ましくは30,000〜250,000、より好ましくは50,000〜200,000である。本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体の重量平均分子量が低すぎると、機械的強度が低下する。本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体の重量平均分子量が高すぎると、合成が困難であることに加えて、溶融成形時に成形物の残留応力が大きくなる傾向を示す。成形物の残留応力が大きくなると、複屈折が大きくなりやすい。
【0065】
本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体のGPCにより測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布は、使用目的に応じて適宜選択できるが、好ましくは1.30未満、より好ましくは1.28以下、特に好ましくは1.25以下である。この比(Mw/Mn)の下限値は、1.00であるが、多くの場合1.05または1.10である。
【0066】
比(Mw/Mn)が、前記の範囲にあると、機械的強度と耐熱性が高度にバランスされる。脂環式炭化水素ランダム共重合体の比(Mw/Mn)が大きすぎると、数平均分子量が相対的に低下することを意味し、機械的強度が低下する。また、比(Mw/Mn)が大きい場合に、機械的強度の低下を防ぐために数平均分子量を高くすると、相対的に重量平均分子量も高くなり、合成が困難であることに加えて、水素添加率が低下し、それに伴って耐レーザー性が低下し、さらに、溶融成形時に成形物の残留応力が大きくなる傾向を示す。成形物の残留応力が大きくなると、複屈折が大きくなりやすい。本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体は、分子量分布がシャープであるため、重量平均分子量を下げても強度の低下が少ない。重量平均分子量を下げると水素添加率を高めることができるので、耐ブルーレーザー性を向上させることができる。
【0067】
本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体の示差走査熱量計(DSC)を用いて測定したガラス転移温度は、好ましくは100℃以上、より好ましくは105℃以上、さらに好ましくは110℃以上、特に好ましくは115℃以上である。脂環式炭化水素ランダム共重合体のガラス転移温度は、鎖状構造の繰り返し単位〔B〕の含有量が増大するにつれて低下傾向を示すが、該繰り返し単位〔B〕の含有量を調節することによって、ガラス転移温度が120℃以上、さらには125℃以上の脂環式炭化水素ランダム共重合体を得ることができる。
【0068】
本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体を、例えば、スチレン−イソプレンランダム共重合体の水素化によって合成した場合、対応する同じ共重合組成の公知の脂環式炭化水素ランダム共重合体(特許文献2)に比べて、ガラス転移温度が通常5℃以上、好ましくは6℃以上、多くの場合7℃以上向上している。本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体をスチレン−1,3−ブタジエンランダム共重合体の水素化によって合成した場合も同様の傾向にある。
【0069】
本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体は、耐熱性に優れる上、複屈折が小さく、かつ、ブルーレーザーなど発振波長の短い半導体レーザーに対する耐性に優れている。そのため、本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体は、鎖状構造の繰り返し単位〔B〕の含有量を増大させて耐レーザー性を向上させても、耐熱性を高水準に維持することができ、しかも複屈折を小さくすることができる。
【0070】
本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体は、ランダム共重合体である。このことは、本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体の製造方法自体から明らかである。さらに、本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体は、芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体とのランダム共重合によって得られた芳香族ビニル単量体−共役ジエン単量体共重合体を水素化することによって得ることができるが、該芳香族ビニル単量体−共役ジエン単量体共重合体がランダム共重合体であることは、以下の関係式が成立することから明らかである。
【0071】
芳香族ビニル単量体−共役ジエン単量体共重合体の主鎖中の不飽和二重結合をオゾン付加した後、還元分解し、取り出した芳香族ビニル単量体連鎖の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を測定する。
【0072】
ここで、
D=芳香族ビニル単量体連鎖の重量平均分子量(Mw)、かつ、
E=〔芳香族ビニル単量体−共役ジエン単量体共重合体の重量平均分子量×芳香族ビニル単量体単位由来の繰り返し単位数/芳香族ビニル単量体−共役ジエン単量体共重合体の全繰り返し単位数〕
としたとき、(D/E)×100の値が30%以下であることが、芳香族ビニル単量体−共役ジエン単量体共重合体がランダム共重合体であることの指標として用いることができる。本発明の実施例1〜3で得られたスチレン−イソプレン共重合体は、いずれも(D/E)×100の値が30%以下(5〜20%の範囲内)であり、ランダム共重合体であることが明らかである。
【0073】
本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体は、
(I)芳香族ビニル単量体85〜99重量%、イソプレン及び1,3−ブタジエンからなる群より選ばれる少なくとも一種の共役ジエン単量体1〜15重量%、及びその他のビニル単量体0〜10重量%を、下記式9
【0074】
【化16】

【0075】
〔式9中、Aは、−O−または>NR19(R19は、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基)である。p及びqは、1〜4の正数である。R11〜R18は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、炭素数1〜20のシリル基置換炭化水素基、及び炭素数1〜20の炭化水素基置換シリル基から選ばれる原子または基を示す。〕
で表される化合物の存在下で重合し、該共役ジエン単量体の繰り返し単位中での1,4−結合の含有量が40モル%未満のランダム共重合体を合成する工程I;並びに
(II)該ランダム共重合体の主鎖及び芳香環を含む側鎖の炭素−炭素不飽和二重結合を水素化する工程II;
により得ることができる。
【0076】
芳香族ビニル単量体としては、下記式8
【0077】
【化17】

【0078】
〔式8中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルカルボニルオキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基、または極性基(ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルカルボニルオキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、若しくはシリル基)で置換された炭素数1〜20の炭化水素基である。nは、0または1〜5の整数である。〕
で表わされる芳香族ビニル化合物を用いることができる。
【0079】
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−プロピルスチレン、α−イソプロピルスチレン、α−t−ブチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノフルオロスチレン、及び4−フェニルスチレンが挙げられる。芳香族ビニル単量体の中でも、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、及び4−メチルスチレンが好ましく、スチレンが特に好ましい。
【0080】
その他のビニル単量体としては、前記式7で表わされる繰り返し単位を形成できる化合物が用いられる。ビニル単量体の好ましい具体例としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン等のオレフィンモノマー;1−シアノエチレン(アクリロニトリル)、1−シアノ−1−メチルエチレン(メタアクリロニトリル)、1−シアノ−1−クロロエチレン(α−クロロアクリロニトリル)等のニトリルモノマー;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルモノマー;アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸などの不飽和脂肪酸モノマー;等が挙げられる。
【0081】
これらのビニル単量体の中でも、オレフィンモノマーが好ましく、エチレン、プロピレン、1−ブテンがより好ましい。これらのビニル単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0082】
本発明の製造方法では、工程Iにおいて、芳香族ビニル単量体、イソプレン及び1,3−ブタジエンからなる群より選ばれる少なくとも一種の共役ジエン単量体、及び必要に応じてその他のビニル単量体を、特定の化合物の存在下で重合させることにより、該共役ジエン単量体の繰り返し単位中での1,4−結合の含有量が40モル%未満のランダム共重合体を合成する。
【0083】
本発明者の知見によれば、芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体を、ランダム化剤として電子供与原子を有する化合物の存在下に共重合することにより、共役ジエン単量体の繰り返し単位中での1,4−結合の含有量が少ないランダム共重合体を合成することができる。
【0084】
電子供与原子を有する化合物としては、硫黄(S)、酸素(O)、燐(P)、窒素(N)などの電子供与原子を有する化合物が好ましい。また、電子供与原子を有する化合物としては、電子供与原子を2個以上有するキレート形成可能な構造を持つ化合物が好ましい。電子供与原子を2個以上有するキレート形成可能な構造を持つ化合物としては、硫黄、酸素、燐、窒素などの電子供与原子を2個以上有するキレート形成可能な構造の化合物が好ましい。電子供与原子としては、酸素がより好ましい。
【0085】
電子供与原子を2個以上有するキレート形成可能な構造を持つ化合物として、エーテル化合物、第3級アミン化合物、ホスフィン化合物、アルカリ金属アルコキシド化合物などが挙げられる。これらの化合物の中でも、ランダム共重合体の分子量分布(Mw/Mn)を小さくすることができ、その水素添加反応を阻害しない観点から、エーテル化合物が好ましい。
【0086】
電子供与原子を2個以上有するキレート形成可能な構造を持つエーテル化合物の中でも、ランダム共重合体の分子量分布(Mw/Mn)を小さくすることができ、ランダム共重合体の該共役ジエン単量体の繰り返し単位中での1,4−結合の含有量を40モル%未満にまで低減できる観点から、前記式9で表される化合物が好ましく用いられるい。
【0087】
前記式9中、nは、1〜4の整数であり、好ましくは1〜3の整数であり、より好ましくは1〜2の整数である。mは、1〜4の整数であり、好ましくは1〜3の整数であり、より好ましくは1〜2の整数である。
【0088】
前記式9中、R11〜R18は、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子若しくは炭素数1〜3の炭化水素基であることがより好ましく、水素原子であることが特に好ましい。
【0089】
式9中、Aは、−O−または>NR19(R19は、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基)であり、好ましくは−O−(酸素原子)である。すなわち、前記式9は、下記式10
【0090】
【化18】

【0091】
(式10中、R11〜R18、p及びqは、式9におけるのと同じである。)
で表わされる環状エーテル化合物であることが好ましい。
【0092】
さらに、式10で表わされる化合物の中でも、下記式11
【0093】
【化19】

【0094】
(式11中、R14〜R15、及びqは、式9におけるのと同じである。)
で表わされる環状エーテル化合物が好ましい。
【0095】
前記式9乃至11で表されるエーテル化合物の好ましい具体例としては、1,4−ペンタジエンエポキシド、1,5−ヘキサジエンエポキシド、1,6−ヘプタジエンエポキシド、1,7−オクタジエンエポキシド、ジ(2−テトラヒドロフリル)メタン、2、2′−ジ(2−テトラヒドロフリル)エタン、1,2−ジ(2−テトラヒドロフリル)エタン、2、2′−ジ(2−テトラヒドロフリル)プロパン、1,2−ジ(2−テトラヒドロフリル)プロパン、1,3−ジ(2−テトラヒドロフリル)プロパン、2,2′−ジ(2−テトラヒドロフリル)ブタン、2,3−ジ(2−テトラヒドロフリル)ブタン、2,2′−ジ(2−テトラヒドロフリル)ペンタン、2,3−ジ(2−テトラヒドロフリル)ペンタン、2,4−ジ(2−テトラヒドロフリル)ペンタン、2,2′−ジ(2−テトラヒドロフリル)へキサン、2,3−ジ(2−テトラヒドロフリル)へキサン、2,4−ジ(2−テトラヒドロフリル)へキサン、2,5−ジ(2−テトラヒドロフリル)へキサン、3,3′−ジ(2−テトラヒドロフリル)へキサン、及び3,4−ジ(2−テトラヒドロフリル)へキサンが挙げられる。
【0096】
前記式9で表わされる化合物の存在下に芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体を共重合すると、イソプレンの3,4−付加反応または1,3−ブタジエンの1,2−付加反応が生じやすくなり、1,4−結合の含有量が少ないランダム共重合体を得ることができる。さらに、該化合物を用いると、分子量分布(Mw/Mn)が狭いランダム共重合体を得ることができる。
【0097】
本発明の目的を損なわない範囲内で、前記式9で表わされる化合物と共に他の電子供与原子を有する化合物を併用することができる。他の電子供与原子を有する化合物としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフランなどの単座配位型エーテル化合物;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジイソプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールメチルフェニルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジイソプロピルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールメチルフェニルエーテル、1,1−ジメトキシシクロヘキサンなどの二座配位型エーテル化合物;ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテルなどの三座配位型エーテル化合物;エチレングリコールアルキルエーテル、プロピレングリコールアルキルエーテルを挙げることができる。
【0098】
前記式9で表わされる化合物は、単量体の合計量100重量部に対して、通常0.001〜10重量部、好ましくは0.01〜1重量部の割合で用いられる。
【0099】
重合方法としては、格別制限されないが、一括重合法(バッチ法)、モノマー逐次添加法(モノマーの全使用量の内の一部を用いて重合を開始した後、残りのモノマーを逐次添加して重合を進めていく方法)等が挙げられる。特に、モノマー逐次添加法を用いると、好ましい連鎖構造を有する共重合体が得られやすい。
【0100】
水素化前のランダム共重合体は、前述の(D/E)×100の値が小さくなるほど、よりランダムな連鎖構造を有する。ランダム共重合体がどの程度のランダム性を有しているかは、芳香族ビニル単量体の重合速度と共役ジエン単量体の重合速度との速度比で決まり、この速度比が小さいほど、よりランダムな連鎖構造の共重合体を得ることができる。
【0101】
モノマー逐次添加法によれば、均一に混合されたモノマー混合物が重合系内に逐次的に添加されるため、バッチ法に比べて、共重合体の重合による成長過程においてモノマーの重合選択性を下げることができるので、得られる共重合体がよりランダムな連鎖構造になる。また、モノマー逐次添加法によれば、重合系内での重合反応熱の蓄積が小さくてすむので、重合温度を低く安定に保つことができる。
【0102】
モノマー逐次添加法では、モノマーの全使用量のうち、通常0.01〜60重量%、好ましくは0.02〜20重量%、より好ましくは0.05〜10重量%の割合のモノマーを初期モノマーとして、予め重合反応器内に存在させた状態で開始剤を添加して重合を開始する。初期モノマー量を前記範囲内に調節すると、重合開始後の初期反応において発生する反応熱を容易に除去することができ、得られる共重合体をよりランダムな連鎖構造にすることができる。
【0103】
初期モノマーの重合転化率が通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上になるまで反応を継続すると、得られる共重合体の連鎖構造がよりランダムになる。その後、モノマーの残部を継続的に添加するが、その添加速度は、重合系内のモノマーの消費速度を考慮して決定される。
【0104】
通常は、初期モノマーの重合転化率が90%に達するまでの所要時間をT、初期モノマーの全使用モノマーに対する比率(%)をIとしたとき、関係式[(100−I)×T/I]で与えられる時間の0.5〜3倍、好ましくは0.8〜2倍、より好ましくは1〜1.5倍となる範囲内で残部モノマーの添加が終了するように、モノマーの添加速度が決定される。より具体的には、通常0.1〜30時間、好ましくは0.5〜7時間、より好ましくは1〜5時間の範囲となるように、初期モノマー量と残りのモノマーの添加速度を決定する。モノマー添加終了直後の全モノマー重合転化率は、通常80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上である。モノマー添加終了直後の全モノマー重合転化率を上記の範囲とすると、得られる共重合体の連鎖構造がよりランダムになる。
【0105】
重合反応は、前記特定の化合物の存在下で行うこと以外、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合など任意の重合法を採用することができ、特別な制約はない。しかし、重合操作、後工程での水素化反応の容易さ、最終的に得られる脂環式炭化水素ランダム共重合体の機械的強度などの諸特性を勘案すると、アニオン重合法が好ましい。
【0106】
ラジカル重合の場合は、開始剤と特定の化合物の存在下、通常0〜200℃、好ましくは20〜150℃の反応温度で、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の方法を用いることができる。特に、共重合体中への不純物等の混入を防止する必要のある場合は、塊状重合及び懸濁重合が望ましい。ラジカル開始剤としては、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、t−ブチル−パーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物;アゾイソブチロニトリル、4,4′−アゾビス−4−シアノペンタン酸、アゾジベンゾイル等のアゾ化合物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムに代表される水溶性触媒やレドックス開始剤などを使用することができる。
【0107】
アニオン重合を採用する場合には、開始剤と特定の化合物の存在下、通常0〜200℃、好ましくは20〜100℃、特に好ましくは20〜80℃の重合温度で、塊状重合、溶液重合、スラリー重合等の方法を用いることができる。
【0108】
これらの重合法の中でも、反応熱の除去効率を考慮すると、溶液重合が好ましい。溶液重合では、生成する共重合体及びその水素化物を溶解できる不活性溶媒を用いることが好ましい。溶液重合に用いる不活性溶媒としては、例えば、n−ブタン、n−ペンタン、iso−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、iso−オクタン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、デカリン等の脂環式炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類等が挙げられる。これらの中でも、脂肪族炭化水素類や脂環式炭化水素類を用いると、共重合後の水素化反応においても、これらを不活性な溶媒としてそのまま使用することができる。これらの溶媒は、それぞれ単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。溶媒は、通常、モノマー全量100重量部に対して、通常200〜10,000重量部となる割合で用いられる。
【0109】
アニオン重合の開始剤としては、例えば、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウムなどのモノ有機リチウム;ジリチオメタン、1,4−ジオブタン、1,4−ジリチオ−2−エチルシクロヘキサン等の多官能性有機リチウム化合物;などを使用することができる。重合反応においては、重合促進剤を使用してもよい。
【0110】
水素化前の共重合体の分子量は、GPCにより測定されるポリスチレン(またはポリイソプレン)換算重量平均分子量(Mw)で、10,000〜500,000、好ましくは30,000〜300,000の範囲である。共重合体の重量平均分子量(Mw)が過度に小さいと、その水素化によって得られる脂環式炭化水素ランダム共重合体の重量平均分子量が小さくなりすぎて、成形物の強度特性に劣り、逆に過度に大きいと、水素化反応性に劣る。
【0111】
上記のラジカル重合やアニオン重合により得られたランダム共重合体は、例えば、スチームストリッピング法、直接脱溶媒法、アルコール凝固法等の公知の方法により重合反応系から回収することができる。重合時に、水素化反応に不活性な溶媒を用いた場合には、重合溶液から重合体を回収せず、そのまま水素添加工程に使用することができる。
【0112】
水素化前のランダム共重合体の芳香環や主鎖または側鎖の炭素−炭素不飽和二重結合の水素化反応を行う場合、反応方法及び反応形態に特別な制限はなく、公知の方法に従って行うことができる。これらの中でも、水素添加率を高くすることができ、かつ、水素化反応と同時に起こる重合体鎖切断反応の少ない水素化方法を採用することが好ましい。具体的には、例えば、有機溶媒中、ニッケル、コバルト、鉄、チタン、ロジウム、パラジウム、白金、ルテニウム、及びレニウムから選ばれる少なくとも1つの金属を含む触媒を用いて、水素化を行う方法が挙げられる。水素化触媒は、不均一触媒及び均一触媒のいずれも使用可能である。
【0113】
不均一触媒は、金属または金属化合物のままで、あるいは適当な担体に担持して用いることができる。担体としては、例えば、活性炭、シリカ、アルミナ、炭化カルシウム、チタニア、マグネシア、ジルコニア、ケイソウ土、炭化珪素等が挙げられる。触媒の担持量は、通常0.01〜80重量%、好ましくは0.05〜60重量%の範囲である。
【0114】
均一触媒は、ニッケル、コバルト、チタンまたは鉄化合物と有機金属化合物(例えば、有機アルミニウム化合物、及び有機リチウム化合物)とを組み合わせた触媒;ロジウム、パラジウム、白金、ルテニウム、レニウム等の有機金属錯体触媒;などを用いることができる。ニッケル、コバルト、チタンまたは鉄化合物としては、例えば、各種金属のアセチルアセトン塩、ナフテン塩、シクロペンタジエニル化合物、シクロペンタジエニルジクロロ化合物等が用いられる。有機アルミニウム化合物としては、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等のアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムジクロリド等のハロゲン化アルミニウム、ジイソブチルアルミニウムハイドライド等の水素化アルキルアルミニウム等が好適に用いられる。
【0115】
有機金属錯体触媒の例としては、上記各金属のγ−ジクロロ−π−ベンゼン錯体、ジクロロ−トリス(トリフェニルホスフィン)錯体、ヒドリド−クロロ−トリフェニルホスフィン)錯体等の金属錯体が使用される。
【0116】
これらの水素化触媒は、それぞれ単独で、あるいは2種類以上組み合わせて使用することができる。水素化触媒の使用量は、共重合体100重量部に対して、通常0.01〜50重量部、好ましくは0.05〜25重量部、より好ましくは0.1〜15重量部である。
【0117】
水素化反応は、通常10〜250℃の温度で行う。水素化率を高くすることができ、かつ、水素化反応と同時に起こる重合体鎖切断反応を小さくできるという理由から、好ましくは50〜200℃、より好ましくは80〜180℃の温度で水素化を行うことが望ましい。水素圧力は、通常0.1〜30MPaである。上記理由に加えて、操作性の観点から、水素圧力は、好ましくは1〜20MPa、より好ましくは2〜10MPaとすることが望ましい。
【0118】
このようにして得られた、水素化物の水素化率(水素添加率)は、H−NMRによる測定において、主鎖及び/または側鎖の炭素−炭素不飽和結合、芳香環の炭素−炭素二重結合などが、通常90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、多くの場合99%以上、さらには99.9%以上である。水素化率が低いと、得られる脂環式炭化水素ランダム共重合体の低複屈折性、熱安定性、耐レーザー性などが低下する。
【0119】
本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体の水素化率は、テトラヒドロフラン(THF)を展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定し、紫外可視検出器で検出されるピーク面積(UV)と、示差屈折計で検出されるピーク面積(RI)とから、単位重合体当たりの残留二重結合量=UV/RIを算出することで評価することもできる。この方法によれば、水素化率をより精密に評価することができる。UV(紫外線)の波長は254nmとする。この比(UV/RI)が小さい方が、残留二重結合が少ないので水素化率が高いことを示す。
【0120】
水素化反応終了後に水素化物を回収する方法は、特に限定されない。回収方法としては、通常、濾過、遠心分離等の方法により水素化触媒残渣を除去した後、水素化物の溶液から溶媒を直接乾燥により除去する方法;水素化物の溶液を水素化物にとっての貧溶媒中に注ぎ、水素化物を凝固させる方法;を用いることができる。
【0121】
本発明によれば、脂環式炭化水素ランダム共重合体に酸化防止剤を含有させた樹脂組成物が提供される。酸化防止剤としては、フェノール酸化防止剤、リン酸化防止剤、イオウ酸化防止剤などが挙げられる。これらの中でも、フェノール酸化防止剤が好ましく、アルキル置換フェノール酸化防止剤がより好ましい。脂環式炭化水素ランダム共重合体に酸化防止剤を配合することにより、透明性、低吸水性を低下させることなく、成形時の酸化劣化による成形物の着色や強度低下を防止することができる。
【0122】
フェノール酸化防止剤としては、例えば、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−〔1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル〕フェニルアクリレートなどのアクリレート化合物;オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2′−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス(メチレン−3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニルプロピオネート)メタン[すなわち、ペンタエリスリトール−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕]、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート〕などのアルキル置換フェノール化合物;6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、2−オクチルチオ−4,6−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−オキシアニリノ)−1,3,5−トリアジンなどのトリアジン基含有フェノール化合物;などが挙げられる。
【0123】
リン酸化防止剤としては、一般の樹脂工業で通常使用されるものであれば格別な限定はなく、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドなどのモノホスファイト化合物;4,4′−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、4,4′イソプロピリデン−ビス(フェニル−ジ−アルキル(C12〜C15)ホスファイト)などのジホスファイト化合物などが挙げられる。これらの中でも、モノホスファイト化合物が好ましく、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトなどが特に好ましい。
【0124】
イオウ酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル−3,3−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3′−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3−チオジプロピオネート、ラウリルステアリル−3,3−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス−(β−ラウリル−チオ−プロピオネート、3,9−ビス(2−ドデシルチオエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどが挙げられる。
【0125】
これらの酸化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。酸化防止剤の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、脂環式炭化水素ランダム共重合体100重量部に対して、通常0.001〜5重量部、好ましくは0.01〜1重量部である。
【0126】
本発明においては、脂環式炭化水素ランダム共重合体と、軟質重合体、アルコール性化合物、及び有機または無機フィラーからなる群から選ばれる少なくとも1種の配合剤を含んでなる樹脂組成物が提供される。脂環式炭化水素ランダム共重合体に、これらの配合剤を配合することにより、透明性、低吸水性、機械的強度などの諸特性を低下させることなく、長時間の高温高湿度環境下での白濁を防止することができる。これらの中でも、軟質重合体及びアルコール性化合物が、高温高湿度環境下における白濁防止効果と、得られる樹脂組成物の透明性に優れるので、好ましい。
【0127】
本発明に用いる軟質重合体は、通常30℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する重合体であり、Tgが複数存在する場合には、少なくとも最も低いTgが30℃以下であればよい。
【0128】
軟質重合体の具体例としては、例えば、液状ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、エチレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、エチレン−プロピレン−スチレン共重合体などのオレフィン軟質重合体;ポリイソブチレン、イソブチレン−イソプレンゴム、イソブチレン−スチレン共重合体などのイソブチレン軟質重合体;ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン−スチレン・ランダム共重合体、イソプレン−スチレンランダム共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体などのジエン軟質重合体;ジメチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン、ジヒドロキシポリシロキサンなどのケイ素含有軟質重合体;ポリブチルアクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ブチルアクリレート−スチレン共重合体などのα,β−不飽和酸からなる軟質重合体;ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリステアリン酸ビニル、酢酸ビニル−スチレン共重合体などの不飽和アルコール及びアミンまたはそのアシル誘導体若しくはアセタールからなる軟質重合体;ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エピクロルヒドリンゴムなどのエポキシ軟質重合体;フッ化ビニリデンゴム、四フッ化エチレン−プロピレンゴムなどのフッ素軟質重合体;天然ゴム、ポリペプチド、蛋白質、ポリエステル熱可塑性エラストマー、塩化ビニル熱可塑性エラストマー、ポリアミド熱可塑性エラストマーなどのその他の軟質重合体などが挙げられる。これらの軟質重合体は、架橋構造を有したものであってもよく、また、変性反応により官能基を導入したものでもよい。
【0129】
軟質重合体の中でもジエン軟質重合体が好ましく、特にジエン軟質重合体の炭素−炭素不飽和結合を水素化した水素化物が、ゴム弾性、機械的強度、柔軟性、分散性の点で優れる。
【0130】
アルコール性化合物は、分子内に少なくとも1つの非フェノール性水酸基を有する化合物であり、好適には、少なくとも1つの水酸基と少なくとも1つのエーテル結合またはエステル結合を有する化合物である。このような化合物の具体例としては、例えば、2価以上の多価アルコール、より好ましくは3価以上の多価アルコール、さらに好ましくは3〜8個の水酸基を有する多価アルコールの水酸基の1つがエーテル化またはエステル化されたアルコール性エーテル化合物やアルコール性エステル化合物が挙げられる。
【0131】
2価以上の多価アルコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、トリグリセロール、ジペンタエリスリトール、1,6,7−トリヒドロキシ−2,2−ジ(ヒドロキシメチル)−4−オキソヘプタン、ソルビトール、2−メチル−1,6,7−トリヒドロキシ−2−ヒドロキシメチル−4−オキソヘプタン、1,5,6−トリヒドロキシ−3−オキソヘキサンペンタエリスリトール、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートなどが挙げられるが、特に3価以上の多価アルコール、さらには3〜8個の水酸基を有する多価アルコールが好ましい。
【0132】
アルコール性エステル化合物を得る場合には、α,β−ジオールを含むアルコール性エステル化合物が合成可能なグリセロール、ジグリセロール、トリグリセロールなどが好ましい。このようなアルコール性化合物として、例えば、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノベヘネート、ジグリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリンジラウレート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールモノラウレート、ペンタエリスリトールモノベヘレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールジラウレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ジペンタエリスリトールジステアレートなどの多価アルコール性エステル化物;3−(オクチルオキシ)−1,2−プロパンジオール、3−(デシ
ルオキシ)−1,2−プロパンジオール、3−(ラウリルオキシ)−1,2−プロパンジオール、3−(4−ノニルフェニルオキシ)−1,2−プロパンジオール、1,6−ジヒドロオキシ−2,2−ジ(ヒドロキシメチル)−7−(4−ノニルフェニルオキシ)−4−オキソヘプタン、p−ノニルフェニルエーテルとホルムアルデヒドの縮合体とグリシドールの反応により得られるアルコール性エーテル化合物、p−オクチルフェニルエーテルとホルムアルデヒドの縮合体とグリシドールの反応により得られるアルコール性エーテル化合物、p−オクチルフェニルエーテルとジシクロペンタジエンの縮合体とグリシドールの反応により得られるアルコール性エーテル化合物などが挙げられる。
【0133】
これらの多価アルコール性化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用される。これらの多価アルコール性化合物の分子量は、特に限定されないが、通常500〜2,000、好ましくは800〜1,500であることが、透明性の低下が少ない点で好ましい。
【0134】
有機フィラーとしては、通常の有機重合体粒子または架橋有機重合体粒子を用いることができる。その具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのハロゲン含有ビニル重合体;ポリアリレート、ポリメタクリレートなどのα,β−不飽和酸から誘導された重合体;ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルなどの不飽和アルコールから誘導された重合体;ポリエチレンオキシド、またはビスグリシジルエーテルからから誘導された重合体;ポリフェニレンオキシド、ポリカーボネート、ポリスルフォンなどの芳香族縮合重合体;ポリウレタン;ポリアミド;ポリエステル;アルデヒド−フェノール樹脂;天然高分子化合物などの粒子または架橋粒子を挙げることができる。
【0135】
無機フィラーとしては、例えば、フッ化リチウム、硼砂(硼酸ナトリウム含水塩)などの1A族元素化合物;炭酸マグネシウム、燐酸マグネシウム、炭酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、炭酸バリウムなどの2A族元素化合物;二酸化チタン(チタニア)、一酸化チタンなどの4A族元素化合物;二酸化モリブデン、三酸化モリブデンの6A族元素化合物;塩化マンガン、酢酸マンガンなどの7A族元素化合物;塩化コバルト、酢酸コバルトなどの8族元素化合物;ヨウ化第一銅などの1B族元素化合物;酸化亜鉛、酢酸亜鉛などの2B族元素化合物;酸化アルミニウム(すなわち、アルミナ)、フッ化アルミニウム、アルミノシリケート(珪酸アルミナ、カオリン、カオリナイト)などの3B族元素化合物;酸化珪素(シリカ、シリカゲル)、石墨、カーボン、グラファイト、ガラスなどの4B族元素化合物;カーナル石、カイナイト、雲母(すなわち、マイカ、キンウンモ)、バイロース鉱などの天然鉱物の粒子が挙げられる。
【0136】
軟質重合体、アルコール性化合物、及び有機または無機フィラーからなる群から選ばれる少なくとも1種類の配合剤の配合量は、脂環式炭化水素ランダム共重合体と配合剤の組み合わせによって決まるが、一般に、配合量が多すぎれば、樹脂組成物のガラス転移温度や透明性が大きく低下し、光学材料として使用するのに不適である。配合量が少なすぎれば、高温高湿下において成形物の白濁を生じる場合がある。配合量としては、脂環式炭化水素ランダム共重合体100重量部に対して、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.02〜5重量部、特に好ましくは0.05〜2重量部の割合である。配合量が少なすぎる場合には、高温高湿度環境下における白濁防止効果が得られず、配合量が多すぎる場合は、成形物の耐熱性や透明性が低下する。
【0137】
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、その他の配合剤として、紫外線吸収剤、光安定剤、近赤外線吸収剤、染料や顔料などの着色剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、蛍光増白剤などを配合することができる。これらの配合剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができ、その配合量は、本発明の目的を損ねない範囲で適宜選択される。
【0138】
本発明の樹脂組成物は、上記各成分を適宜混合することにより得ることができる。混合方法としては、脂環式炭化水素ランダム共重合体中に各成分が十分に分散される方法であれば特に限定されず、例えば、ミキサー、二軸混錬機、ロール、ブラベンダー、押出機などで混合物を溶融状態で混練する方法、適当な溶剤に溶解して分散させ凝固する方法などが挙げられる。二軸混練機を用いる場合、混錬後に通常は溶融状態で棒状に押し出し、ストランドカッターで適当な長さに切り、ペレット化した成形材料として用いることが多い。
【0139】
本発明の成形物は、脂環式炭化水素ランダム共重合体または樹脂組成物からなる成形材料を成形して得られる。成形方法としては、格別制限されるものはないが、耐ブルーレーザ性、低複屈折性、機械的強度、寸法精度等の特性に優れた成形物を得るには、溶融成形が好ましい。溶融成形法としては、例えば、プレス成形、押出成形、射出成形等が挙げられる。これらの成形法の中でも、射出成形が成形性及び生産性の観点から好ましい。成形条件は、使用目的または成形方法により適宜選択される。例えば、射出成形における樹脂温度は、通常150〜400℃、好ましくは200〜350℃、より好ましくは230〜330℃の範囲から適宜選択される。樹脂温度が過度に低いと、流動性が悪化し、成形物にヒケやひずみを生じ、樹脂温度が過度に高いと、樹脂の熱分解によるシルバーストリークが発生したり、成形物が黄変するなどの成形不良が発生するおそれがある。
【0140】
本発明の成形物は、球状、棒状、板状、円柱状、筒状、チューブ状、繊維状、フィルムまたはシート形状など種々の形態で使用することができる。本発明の成形物は、耐レーザー性(特に、耐ブルーレーザー性)、低複屈折性、透明性、機械強度、耐熱性、低吸水性に優れるため、種々の用途に使用でき、特に光学部品として好適である。
【0141】
光学部品の具体例としては、以下のものが挙げられる。光学レンズや光学プリズムとしては、カメラの撮像レンズ;顕微鏡、内視鏡、望遠鏡などのレンズ;眼鏡レンズなどの全光線透過型レンズ;CD、CD−ROM、DVD(デジタルビデオディスク)、ブルーレーザー用ディスクなどの光ディスクのピックアップレンズ;レーザービームプリンターのfθレンズ、センサー用レンズなどのレーザー走査レンズ;カメラのファインダーのプリズムレンズなどが挙げられる。
【0142】
その他の光学用途としては、液晶ディスプレイなどの導光板;偏光フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルムなどの光学フィルム;光拡散板;光カード;液晶表示素子基板などが挙げられる。
【0143】
その他の用途としては、医療用の血液検査セル等の各種検査セル、注射器シリンジ、パイプやチューブ、医薬用バイアルや薬液用容器、プリント基板の絶縁膜等が挙げられる。
【0144】
これらの中でも、本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体及び樹脂組成物は、耐ブルーレーザー性と低複屈折性が要求されるピックアップレンズやレーザー走査レンズとして好適であり、ピックアップレンズに最も好適である。
【実施例】
【0145】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。これらの例中の「部」及び「%」は、特に断わりのない限り重量基準である。各種物性の測定は、下記の方法に従って行った。
【0146】
(1)分子量:
ポリマーの分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒にしてGPCで測定し、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0147】
測定装置として、HLG−8120GPC(東ソー社製)、及びUV−8020(東ソー社製)を用いた。標準ポリスチレンとしては、重量平均分子量(Mw)が500、2630、10200、37900、96400、427000、1090000、5480000の計8点の標準ポリスチレン(東ソー社製)を用いた。サンプルは、サンプル濃度が4mg/mlとなるように、測定試料をTHFに溶解後、カートリッジフィルター(PTFE製、孔径0.5μm)で濾過して調製した。
【0148】
測定は、カラムとして、東ソー社製TSKgel SuperH2000、TSKgel SuperH4000、及びTSKgel SuperH5000の各1本を3本直列に連結したものを用い、展開溶媒として特級テトラヒドロフラン(和光純薬製)を用い、流速0.6ml/min、サンプル注入量150μml、及びカラム温度40℃の条件で行った。
【0149】
(2)分子量分布:
ポリマーの分子量分布は、THFを溶媒にしてGPCで測定して、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を求め、これらの測定値から両者の比(Mw/Mn)を算出した。
【0150】
(3)ガラス転移温度(Tg):
ポリマーのガラス転移温度は、示差走査熱量分析(DSC)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で測定した。
【0151】
(4)水素化率:
共重合体の水素添加率は、テトラヒドロフラン(THF)を展開溶媒として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、紫外可視検出器(測定レンジ2.56)で検出されるピーク面積(UV)と示差屈折計(測定レンジ512)で検出されるピーク面積(RI)とから、単位ポリマー当たりの残留二重結合量(UV/RI)を算出した。この比(UV/RI)の値が小さい方が、残留二重結合量が少なく、水素化率が高いことを示す。
【0152】
測定条件は、以下の通りである。
高速GPC装置:東ソー社製「HLC−8120GPC」
紫外可視検出器:東ソー社製「UV−8020」
カラム:東ソー社製「TSKgel SuperH2000」、「TSKgel SuperH4000」、及び「TSKgel SuperH5000」の各1本を3本直列に連結したもの。
展開溶媒:和光純薬製「特級テトラヒドロフラン」
温度:40℃
【0153】
(5)結合様式:
共役ジエン単量体の結合様式は、13C−NMRにより測定した。
【0154】
(6)複屈折:
複屈折は、280℃で射出成形した厚み3mm×縦65mm×横65mmの樹脂成形板を試料として用いて測定した。樹脂成形板の射出成形時のゲートから10mmの位置における複屈折値を、偏光顕微鏡(ニコン社製、546nmセナルモンコンペンセータ)を用いて測定した。複屈折値がゼロに近いほど、低複屈折であることを示す。
【0155】
(7)耐レーザー性:
耐レーザー性は、80℃の環境下で、波長405±10nm、出力400mW/cmのレーザーダイオード(ネオアーク社製、TC35−4030−4.5)からのレーザ光を、厚み3mm×縦65mm×横65mmの樹脂成形板に480時間照射し、レーザー照射後の光線透過率を分光光度計(日本分光社製、V−570)で測定し、照射前後の光線透過率の低下量(%)で評価した。成形板のレーザー照射前後における波長400nmの光線透過率の低下量が小さい(値が0に近い)ほど、耐レーザー性(耐ブルーレーザー性)に優れることを示す。
【0156】
[実施例1]
十分に乾燥し、窒素置換した、電磁攪拌装置を備えたステンレス鋼製オートクレーブに、脱水シクロヘキサン1,286部、電子供与原子を2個以上有するキレート形成可能な構造を持つ化合物として2,2′−ジ(2−テトラヒドロフリル)プロパン1.42部を仕込み、50℃で攪拌しながらn−ブチルリチウム溶液(15%含有ヘキサン溶液)1.97部を添加し、そこに、組成が重量比で〔スチレン(St)/イソプレン(Ip)〕=(96.4/3.6)である混合モノマーを連続的に添加して重合を開始した。4時間かけて混合モノマーを合計500部滴下した。滴下終了後、同条件下で30分間重合を行った後、イソプロピルアルコール0.46部を添加して反応を停止させ、スチレン−イソプレンランダム共重合体を合成した。
【0157】
得られた反応溶液358部、シクロヘキサン96.5部、及び安定化ニッケル水素化触媒E22U(日揮化学工業社製;60%ニッケル担持シリカ−アルミナ担体)8部を添加混合し、水素化反応温度を調節するための電熱加熱装置と電磁攪拌装置を備えたステンレス鋼製オートクレーブに仕込んだ。仕込み終了後、オートクレーブ内部を水素ガスで置換し、攪拌しながら160℃で、オートクレーブ内部の圧力が4.5MPaを保つように水素を供給し、6時間水素化反応を行った。反応終了後、濾過により水素化触媒を除去し、シクロヘキサン1,818部を加えた後、イソプロパノール中に注ぎ、析出した脂環式炭化水素ランダム共重合体を濾過により分離後、減圧乾燥機により乾燥させた。
【0158】
このようにして得られた脂環式炭化水素ランダム共重合体を射出成形して、複屈折測定用試料と光線透過率測定用試料を作製した。結果を表1に示す。
【0159】
[比較例1]
2,2′−ジ(2−テトラヒドロフリル)プロパンに代えて、ランダム化剤としてエチレングリコールジブチルエーテル1.42部を添加したこと以外は、実施例1と同様の手順で重合反応及び水素化反応を行い、次いで、得られた脂環式炭化水素ランダム共重合体を射出成形して、複屈折測定用試料と光線透過率測定用試料を作製した。結果を表1に示す。
【0160】
[比較例2]
2,2′−ジ(2−テトラヒドロフリル)プロパンに代えて、ランダム化剤としてジブチルエーテル1.00部を添加し、60℃で攪拌しながら重合したこと以外は、実施例1と同様の手順で重合反応及び水素化反応を行い、次いで、得られた脂環式炭化水素ランダム共重合体を射出成形して、複屈折測定用試料と光線透過率測定用試料を作製した。結果を表1に示す。
【0161】
[実施例2]
前記混合モノマーを、モノマー組成が重量比で(St/Ip)=(95/5)の混合モノマーに代えたこと以外は、実施例1と同様の手順で重合反応及び水素化反応を行い、次いで、得られた脂環式炭化水素ランダム共重合体を射出成形して、複屈折測定用試料と光線透過率測定用試料を作製した。結果を表1に示す。
【0162】
[比較例3]
2,2′−ジ(2−テトラヒドロフリル)プロパンに代えて、ランダム化剤としてエチレングリコールジブチルエーテル1.34部を添加したこと以外は、実施例2と同様の手順で重合反応及び水素化反応を行い、次いで、得られた脂環式炭化水素ランダム共重合体を射出成形して、複屈折測定用試料と光線透過率測定用試料を作製した。結果を表1に示す。
【0163】
[比較例4]
2,2′−ジ(2−テトラヒドロフリル)プロパンに代えて、ランダム化剤としてエチレングリコールジメチルエーテル0.69部を添加したこと以外は、実施例2と同様の手順で重合反応及び水素化反応を行い、次いで、得られた脂環式炭化水素ランダム共重合体を射出成形して、複屈折測定用試料と光線透過率測定用試料を作製した。結果を表1に示す。
【0164】
[比較例5]
2,2′−ジ(2−テトラヒドロフリル)プロパンに代えて、ランダム化剤としてジブチルエーテル1.00部を添加し、60℃で攪拌しながら重合したこと以外は、実施例2と同様の手順で重合反応及び水素化反応を行い、次いで、得られた脂環式炭化水素ランダム共重合体を射出成形して、複屈折測定用試料と光線透過率測定用試料を作製した。結果を表1に示す。
【0165】
[実施例3]
前記混合モノマーを、モノマー組成が重量比で(St/Ip)=(90/10)の混合モノマーに代えたこと以外は、実施例1と同様の手順で重合反応及び水素化反応を行い、次いで、得られた脂環式炭化水素ランダム共重合体を射出成形して、複屈折測定用試料と光線透過率測定用試料を作製した。結果を表1に示す。
【0166】
[比較例6]
2,2′−ジ(2−テトラヒドロフリル)プロパンに代えて、ランダム化剤としてエチレングリコールジブチルエーテル1.34部を添加したこと以外は、実施例3と同様の手順で重合反応及び水素化反応を行い、次いで、得られた脂環式炭化水素ランダム共重合体を射出成形して、複屈折測定用試料と光線透過率測定用試料を作製した。結果を表1に示す。
【0167】
[比較例7]
2,2′−ジ(2−テトラヒドロフリル)プロパンに代えて、ランダム化剤としてジブチルエーテル1.00部を添加し、60℃で攪拌しながら重合したこと以外は、実施例3と同様の手順で重合反応及び水素化反応を行い、次いで、得られた脂環式炭化水素ランダム共重合体を射出成形して、複屈折測定用試料と光線透過率測定用試料を作製した。結果を表1に示す。
【0168】
【表1】

【0169】
(脚注)
(1)DTHFP:2,2′−ジ(2−テトラヒドロフリル)プロパン
(2)EGDBE:エチレングリコールジブチルエーテル
(3)EGDMA:エチレングリコールジメチルエーテル
(4)n−BuO:ジブチルエーテル
【0170】
<考察>
表1の結果から、以下のことが分かる。
【0171】
(1)実施例1と比較例1及び2、実施例2と比較例3〜5、並びに実施例3と比較例6及び7を対比すると、それぞれの共重合組成が同じでも、前記式9で表される化合物に含まれる2,2′−ジ(2−テトラヒドロフリル)プロパンの存在下に共重合を行った場合(実施例1〜3)には、共役ジエン単量体(イソプレン)の繰り返し単位中の1,4−結合の含有量が40モル%未満(3,4−結合の含有量が60モル%超過)となり、その結果、ガラス転移温度が相対的に高くなり、耐熱性が改善されるとともに、複屈折と耐レーザー性も改良された脂環式炭化水素ランダム共重合体の得られることが分かる。
【0172】
(2)実施例1〜3の結果を見ると、共役ジエン単量体(イソプレン)に由来する繰り返し単位の含有量を大きくするにつれて、耐レーザー性が向上し、しかも比較例1〜7に比べて、耐熱性が高水準で維持されることが分かる。特に、実施例3と比較例6及び7の結果を対比すると、ガラス転移温度を高水準に保持したまま、耐レーザー性を改善できることが明らかである。
【0173】
(3)実施例1〜3と比較例1〜7とを対比すると、本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体は、分子量分布(Mw/Mn)が小さく、重合平均分子量を高くする必要なしに、機械的強度を維持することができ、水素化率も高めることができることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明の脂環式炭化水素ランダム共重合体は、透明性、低複屈折性、機械的強度、耐熱性、低吸水性、耐ブルーレーザー性に優れるため、種々の用途に利用することができ、特に、ピックアップレンズやレーザー走査レンズなどの光学部品の樹脂材料として好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式構造の繰り返し単位〔A〕と鎖状構造の繰り返し単位〔B〕を含有する脂環式炭化水素ランダム共重合体であって、
(1)該脂環式構造の繰り返し単位〔A〕が、下記式1
【化1】

〔式1中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルカルボニルオキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基、または極性基(ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルカルボニルオキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、若しくはシリル基)で置換された炭素数1〜20の炭化水素基である。nは、0または1〜5の整数である。〕
で表される脂環式構造を持つ繰り返し単位であり、
(2)該鎖状構造の繰り返し単位〔B〕が、下記式2
【化2】

(式2中、Rは、水素原子またはメチル基である。)
で表わされる繰り返し単位〔B1〕、及び下記式3
【化3】

(式3中、Rは、水素原子またはメチル基である。)
で表される繰り返し単位〔B2〕を有する鎖状構造を持つ繰り返し単位であり、
(3)脂環式炭化水素ランダム共重合体中の該脂環式構造の繰り返し単位〔A〕と該鎖状構造の繰り返し単位〔B〕の合計含有量が90重量%以上であり、
(4)脂環式炭化水素ランダム共重合体中での該鎖状構造の繰り返し単位〔B〕の含有量が1〜15重量%であり、
(5)該鎖状構造の繰り返し単位〔B〕中の該繰り返し単位〔B1〕の含有量が40モル%未満であり、並びに
(6)ゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定した脂環式炭化水素ランダム共重合体の重量平均分子量(Mw)が10,000〜300,000の範囲である、
ことを特徴とする脂環式炭化水素ランダム共重合体。
【請求項2】
下記工程I及びII:
(I)芳香族ビニル単量体85〜99重量%、イソプレン及び1,3−ブタジエンからなる群より選ばれる少なくとも一種の共役ジエン単量体1〜15重量%、及びその他のビニル単量体0〜10重量%を、下記式9
【化4】

〔式9中、Aは、−O−または>NR19(R19は、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基)である。p及びqは、1〜4の正数である。R11〜R18は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、炭素数1〜20のシリル基置換炭化水素基、及び炭素数1〜20の炭化水素基置換シリル基から選ばれる原子または基を示す。〕
で表される化合物の存在下で重合し、該共役ジエン単量体の繰り返し単位中での1,4−結合の含有量が40モル%未満のランダム共重合体を合成する工程I;並びに
(II)該ランダム共重合体の主鎖及び芳香環を含む側鎖の炭素−炭素不飽和二重結合を水素化する工程II;
を含む請求項1記載の脂環式炭化水素ランダム共重合体の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の脂環式炭化水素ランダム共重合体及び酸化防止剤を含有する樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1記載の脂環式炭化水素ランダム共重合体または該脂環式炭化水素ランダム共重合体及び酸化防止剤を含有する樹脂組成物を成形してなる成形物。
【請求項5】
光学部品である請求項4記載の成形物。

【公開番号】特開2010−143960(P2010−143960A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319512(P2008−319512)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】