説明

脂肪族ポリエステルの製造方法

【課題】品質の良い脂肪族ポリエステルの効率的な連続製造するための方法を提供する。
【解決手段】脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールを含むスラリーの調製工程、エステル化反応工程、重縮合反応工程を経てポリエステルを得る脂肪族ポリエステルの連続製造方法において、該調製工程中のスラリーの温度範囲が脂肪族ジオールの凝固点〜80℃で、かつスラリー中の水分量が0.01〜10重量%とすることに係わる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脂肪族ポリエステルの製造方法に関する。詳細には品質の良い脂肪族ポリエステルの効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年環境問題が重視されてきており、プラスチックの原料となる化石燃料原料の枯渇問題、大気中の二酸化炭素増加という地球規模での環境負荷の問題に対する対策が必要となっている。
こうした背景のもと、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールからなる脂肪族ポリエステルは、原料の脂肪族ジカルボン酸、例えばコハク酸、アジピン酸は植物由来のグルコースから発酵法を用いて製造でき、また脂肪族ジオール、例えばエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオールなども植物由来原料から製造出来るので、原料供給が化石燃料原料の枯渇とは無関係になるとともに、植物の育成により二酸化炭素が吸収される為二酸化炭素排出削減に大きく貢献することができ、又、生分解性プラスチックとしても期待されているポリマーである。
【0003】
脂肪族ポリエステルは、通常、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを、エステル化反応と溶融重縮合反応を行って得られる。これらの反応は通常、回分法、連続法、或いは回分法と連続法とを組み合わせた方法で行われる。これらの中で工業的に大量生産する場合は、生産性、品質安定性、経済性などの面から連続法が有利であり、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなど大量生産されているものでは連続方法によるものが圧倒的に多い。
【0004】
脂肪族ポリエステルを連続法で製造する場合、通常エステル化反応原料として、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとからなるスラリーを用い、これを反応工程に連続的に供給してエステル化反応を進める。このときスラリーを安定して反応工程に供給することが重要であるが、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとからなるスラリーは脂肪族ジカルボン酸の沈降、スラリー粘度などにおいて、不安定であることが多いという問題がある。
【0005】
特許文献1には、芳香族ジカルボン酸であるテレフタル酸と1,4-ブタンジオール(
以下BGと表すことがある)とのスラリーの性状について、また特許文献2にはテレフタル酸とエチレングリコールとのスラリーの性状について記載があるが、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとからなるスラリーについての記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3755426号公報
【特許文献2】特開2007−9154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを含むスラリーの性状を安定にすることにより脂肪族ポリエステルの製造時における安定な生産を可能にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとからなるスラリーに比べて、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとからなるスラリーは脂肪族ジカルボン酸の沈降が起き易く、スラリー粘度、移送性などが不安定になり易いが、本発明者はスラリーの温度、水分を特定の範囲に保つことにより、安定で操業性の良いスラリーを得ることを見出し、本発明に到達した。即ち本発明の要旨は以下である。
【0009】
脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールを含むスラリーの調製工程、エステル化反応工程、重縮合反応工程を経てポリエステルを得る脂肪族ポリエステルの連続製造方法において、該調製工程中のスラリーの温度範囲が脂肪族ジオールの凝固点以上80℃以下で、かつスラリー中の水分量が0.01〜10重量%であることを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0010】
この時、スラリー中の脂肪族ジカルボン酸に対する脂肪族ジオールのモル比が0.8〜2.0であることが好ましい。
更に、この時、スラリー原料としての脂肪族ジカルボン酸が粒子であり、その平均粒径D(50)及び粒径の累積体積百分率曲線の90%における粒径D(90)が、下記式(1)及び(2)を満足することが好ましい。
1≦D(50)≦500・・・・・・・(1)
D(90)/D(50)≦2.5・・・(2)
該粒径の単位はμmを示す。
【0011】
更に、この時、脂肪族ジオールの主成分が1,4-ブタンジオール、脂肪族ジカルボン
酸の主成分がコハク酸であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを含むスラリーの性状を安定にすることができ、脂肪族ポリエステルの連続製造時における安定な生産を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明に係る脂肪族ポリエステルの製造方法におけるスラリー調製工程の一実施形態を示す概略図である。
【図2】図2は、本発明に係る脂肪族ポリエステルの製造方法におけるエステル化反応工程の一実施形態を示す概略図である。
【図3】図3は、本発明に係る脂肪族ポリエステルの製造方法における溶融重縮合反応工程の一実施形態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0014】
1 原料供給ライン
2 原料供給ライン
3 原料供給ライン
4 スラリー抜き出しライン
5 スラリー循環ライン
6 スラリー供給ライン
7 スラリー抜き出しライン
8 スラリー循環ライン
9 スラリー供給ライン
10 原料供給ライン
A スラリー調製槽
B スラリー貯槽
C ポンプ
D ポンプ
11 触媒供給ライン
12 エステル化反応物の抜き出しライン
13 留出ライン
14 ガス抜き出しライン
15 ベントライン
16 凝縮液ライン
17 抜き出しライン
18 循環ライン
19 抜き出しライン
20 抜き出しライン
21 循環ライン
22 BG再循環ライン
23 抜き出しライン
24 BG及び触媒供給ライン
E エステル化反応槽
F 精留塔
G コンデンサ
H タンク
I 抜き出しポンプ
J、K ポンプ
25、26、27 ベントライン
28 供給ライン
29 触媒供給ライン
30、31、32 重縮合反応物抜き出しライン
L 第一重縮合反応槽
M 第二重縮合反応槽
N 第三重縮合反応槽
O、P、Q 抜き出しギヤポンプ
R、S,T,U フィルター
V ダイスヘッド
W 回転式カッター
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の構成要件等について詳細に説明するが、これらは本発明の実施態様の一例であり、これらの内容に限定されるものではない。
本発明は、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールを含むスラリーの調製工程、エステル化反応工程、重縮合反応工程を経てポリエステルを得る脂肪族ポリエステルの連続製造方法である。各工程は、特に本発明の効果を損なわず連続的に脂肪族ポリエステルを製造できれば、連続した工程ではなくてもよい。好ましくは、前の工程に異なる工程をはさむことなく続けて次の工程を行なうことである(本明細書では連続製造方法ともいう)。脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオールはそれぞれ主成分であることが好ましく本発明のポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分の85モル%以上が脂肪族ジカルボン酸であること及び、本発明のポリエステルを構成する全ジオール成分の85モル%以上が脂肪族ジオールであることが好ましい。
【0016】
<脂肪族ジカルボン酸成分>
その脂肪族ジカルボン酸成分としては、具体的には、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、無水コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸、ダイマー酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、などが挙げられ、これらの中で、得られるポリエステルの物性の面から、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、セバシン酸が好ましい。特にはコハク酸、無水コハク酸が好ましい。尚、これらは2種以上が併用されていてもよい。コハク酸は得られる脂肪族ポリエステルの融点(耐熱性)、生分解性、力学特性の観点から全脂肪族ジカルボン酸に対して50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上がより好ましく、特に好ましくは90モル%以上である。
【0017】
又、脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸を併用してもよい。芳香族ジカルボン酸の具体的な例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸及びジフェニルジカルボン酸等が挙げられる。これらは、単独でも2種以上の混合物として上記脂肪族ジカルボン酸に加えて使用してもよい。
又、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸などは、公知の技術を利用してバイオマス資源から得られたものを使用することもできる。
【0018】
<脂肪族ジオール成分>
脂肪族ジオール成分としては、具体的には、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられ、これらの中で得られるポリエステルの物性の面から、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が好ましい。尚、これらは2種以上が併用されていてもよい。1,4−ブタンジオールは得られる脂肪族ポリエステルの融点(耐熱性)、生分解性、力学特性の観点から全脂肪族ジオールに対して50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上がより好ましく、特に好ましくは90モル%以上である。又、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールなどは植物原料由来のモノを使用することができる。
【0019】
<その他の共重合成分>
本発明のポリエステルのその他の構成成分となる共重合成分としては、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシ3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、クエン酸、フマル酸等のオキシカルボン酸、及びこれらオキシカルボン酸のエステルやラクトン、オキシカルボン酸重合体等、或いはグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の3官能以上の多価アルコール、或いは、プロパントリカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸ベンゾフェノンテトラカルボン酸及びこれらの無水物などの3官能以上の多価カルボン酸又はその無水物等が挙げられる。また、3官能以上のオキシカルボン酸、3官能以上のアルコール、3官能以上のカルボン酸などは少量加えることにより高粘度のポリエステルを得やすい。中でも、リンゴ酸、クエン酸、フマル酸などのオキシカルボン酸が好ましく、特にはリンゴ酸が好ましく用いられる。 3官能以上の多官能化合物は全ジカルボン酸成分に対して、0.001〜5モル%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.5モル%である。この範囲の上限超過ではゲル(未溶融物)が生成しやすく、下限未満では粘度上昇の効果が得にくい。また、イソシアネート化合物やカーボネート等の鎖延長剤を更に高分子量化させる目的等で含有させても良い。
【0020】
<脂肪族ポリエステルの製造>
以下に、本発明における脂肪族ポリエステルの製造方法として脂肪族ポリエステルの連続製造方法を例にとり説明するがこれに限定されるものではない。
本発明の脂肪族ポリエステルの製造方法は、脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとを連続する複数の反応槽において、スラリー調製工程、エステル化反応工程、溶融重縮合反応工程を経て連続的にポリエステルを得るにおいて、スラリー調製工程におけるスラリーの温度、スラリー中の水分を特定の範囲にする以外は従来公知のポリエステルの製造方法を採用出来る。尚、本発明によりスラリーの性状が安定し、反応系へのスラリーの連続的な安定供給が可能であり、連続製造方法においてその効果を充分発揮する。
【0021】
本発明において、スラリー調製工程とは主として脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオール、必要に応じて多官能化合物などを混合してスラリーを得、これをエステル化反応工程に移送するまで(例として図1における調製槽(A)からスラリー供給ライン(9)まで)をいう。
<スラリー調製工程>
スラリー調製工程中のスラリーの温度の制御は、温水や熱媒等流通可能なジャケット式の加熱器を用いることが出来、電熱ヒーターを用いることも出来る。スラリー調製工程中のスラリーの温度は、攪拌混合槽下部及びスラリー循環ライン、スラリー供給ライン等の配管に設けた温度センサで計測した温度をスラリー温度とした。
【0022】
スラリー温度は、設定温度となるように、ジャケット式の場合、温水もしくは熱媒の流量を調整して温度制御を行うことが出来る。
スラリー温度は、下限が通常脂肪族ジオールの凝固点以上であり、上限が80℃以下、好ましくは70℃以下、更に好ましくは60℃以下、特に好ましくは50℃以下である。スラリー温度が下限未満であると、脂肪族ジオールが凝固し、安定したスラリー供給が出来なくなる。一方、スラリー温度が上限を超えると、スラリーの粘度が低下することによりスラリー粒子の沈降速度が大きくなり、槽内で固液の沈降分離が促進され、安定したスラリー供給が困難となる。また、エステル化反応が進行することによるスラリーモル比、粘性の経時変化により、安定したスラリー供給が困難となり、製品品質の振れも大きくなる傾向にある。
【0023】
スラリー中の水分量は、下限が通常0.01%以上、好ましくは0.05%以上、更に好ましくは0.1%以上であり、上限が10%以下、好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下、特に好ましくは1.5%以下、最も好ましくは1%以下である。スラリー中の水分量を下限以下に管理しようとすると、吸着法などの水分の除去設備が必要となり、経済的に不利となる。一方、スラリー中の水分量が上限を超えると、エステル化反応工程への持ち込み水分量が多くなり、エステル化反応槽内での飛散物が増え、スラリー供給口付近で固着が生じ、安定したスラリー供給を困難とするばかりでなく、飛散物や長期滞留物の層壁面からの剥離、落下等により製品中異物発生の原因となる場合がある。ここで、スラリー中の水分量は、原料ジカルボン酸及びジオールが持ち込む水分と、スラリー調製工程中のスラリー温度が高い、或いは滞留時間が長いことによるエステル化反応の進行に伴う副生水によるので、原料水分管理と、スラリー調製工程の温度と滞留時間で調整を行うことができる。スラリー温度が80℃以下程度でエステル化反応が進行するのは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとのスラリーではほとんど見られず、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとのスラリーにおいて特徴的である。
【0024】
スラリー中の脂肪族ジカルボン酸成分に対する脂肪族ジオール成分のモル比は、下限が0.8であり、好ましくは0.9、更に好ましくは1.0である。上限は、2.0であり、好ましくは1.8、更に好ましくは1.5、特に好ましくは1.3、最も好ましくは1.2である。下限より少ないと、スラリーの粘性が高くなり、安定したスラリー供給ができなくなる場合がある。一方、上限を超えると、スラリーの沈降速度が大きくなり、槽内で固液の沈降分離が促進され、安定したスラリー供給が困難となる。
【0025】
スラリー原料として脂肪族ジカルボン酸粒子の平均粒径D(50)は下限が1μm以上であり、好ましくは10μm以上、更に好ましくは30μm以上であり、上限は500μm以下、好ましくは400μm以下、更に好ましくは200μm以下、特に好ましくは100μ以下である。下限より小さいと、スラリーの粘性が著しく増大し、安定したスラリー供給が出来なくなるだけでなく、脂肪族ジカルボン酸取り扱い時の微粉の舞いや粉塵爆発の危険性があり、取り扱いに困難を伴う。上限超過ではスラリー粒子の沈降速度が大きくなり、槽内で固液の沈降分離が促進され、安定したスラリー供給が困難となる。
【0026】
スラリー原料として脂肪族ジカルボン酸粒子の累積体積百分率曲線の90%における粒径D(90)は、固体中に含まれている大粒径部分の割合を示す指標として用いることができ、平均粒径D(50)に対するD(90)の比が大きいと粒径分布が広く、平均粒径D(50)に対するD(90)の比が小さいと粒径分布が狭くなる傾向にある。スラリー原料として脂肪族ジカルボン酸の平均粒径D(50)ならびに累積体積百分率曲線の90%における粒径D(90)の比で表されるD(90)/D(50)は上限が2.5以下であり、好ましくは2.3以下、更に好ましくは2.0以下、特に好ましくは1.8以下である。上限を超えると、スラリー粒子の沈降速度が大きくなり、槽内で固液の沈降分離が促進され、安定したスラリー供給が困難となる。D(90)/D(50)の最小値は理論上は1.0であるが下限は通常1.2である。なお、本明細書では、それぞれの平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置マスターサイザー2000(シスメックス株式会社製)を用いて乾式法により測定し、試料をサンプルトレイにおいた後、1サンプルにつき2秒間の測定を3回実施し、この平均値を平均粒径D(50)と定義し、また、平均粒径測定時に得られる粒子サイズ分布より、累積体積百分率曲線の90%における粒径、即ち小粒径サイズのほうから累積したときの全体積のうち90%に相当する粒径をD(90)と定義する。
【0027】
<エステル化反応工程>
ジカルボン酸成分とジオール成分とのエステル化反応は連続する複数の反応槽で行うことが出来るが、一槽でも行うことが出来る(エステル化反応工程)。反応温度は、下限が通常200℃、好ましくは210℃、より好ましくは215℃、更に好ましくは218℃、特に好ましくは233℃である。上限は通常250℃、好ましくは245℃、より好ましくは240℃、特に好ましくは235℃である。下限未満であるとエステル化反応速度が遅く反応時間を長時間必要とし、脂肪族ジオールの脱水分解など好ましくない反応が多くなる。上限超過では脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸の分解が多くなり、また反応槽内に飛散物が増加し異物発生原因となりやすく反応物に濁り(ヘーズ)を生じやすくなる。又、エステル化温度は一定温度であることが好ましい。一定温度であることによりエステル化率が安定する。一定温度は設定温度±5℃、好ましくは±2℃である。反応雰囲気は、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下である。反応圧力は、50kPa〜200kPaであり下限は好ましくは60kPa、更に好ましくは70kPa、上限は好ましくは130kPa、更に好ましくは110kPaである。下限未満では反応槽内に飛散物が増加し反応物のヘーズが高くなり異物増加の原因となりやすく、又脂肪族ジオールの反応系外への留出が多くなり重縮合反応速度の低下を招きやすい。上限超過では脂肪族ジオールの脱水分解が多くなり、重縮合速度の低下を招きやすい。反応時間は、通常1時間以上であり、上限が通常10時間以下、好ましくは、4時間以下である。エステル化反応を行う脂肪族ジカルボン酸成分に対する脂肪族ジオール成分のモル比は、エステル化反応槽の気相及び反応液相に存在する、脂肪族ジカルボン酸及びエステル化された脂肪族ジカルボン酸に対する、脂肪族ジオール及びエステル化された脂肪族ジオールとのモル比を表し、反応系で分解されエステル化反応に寄与しない脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオール及びそれらの分解物は含まれない。分解されてエステル化反応に寄与しないとは、例えば、脂肪族ジオールである1,4−ブタンジオールが分解してテトラヒドロフランになったものはこのモル比には含めない。本発明において、上記モル比は下限が1.10であり、好ましくは1.12、更に好ましくは1.15、特に好ましくは1.20である。上限は2.00、好ましくは1.80、更に好ましくは1.60、特に好ましくは1.55である。下限未満ではエステル化反応が不十分になりやすく後工程の反応である重縮合反応が進みにくく高重合度のポリエステルが得にくい。上限超過では脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸の分解量が多くなり、好ましくない。このモル比を好ましい範囲に保つ為にエステル化反応系に脂肪族ジオールを適宜補給するのは好ましい方法である。本発明においては、エステル化率80%以上のエステル化反応物を重縮合反応に供する。本発明において、重縮合反応とは反応圧力50kPa以下で行うポリエステルの高分子量化反応をいい、エステル化反応は50〜200kPaで、通常エステル化反応槽で行い、重縮合反応は50kPa以下、好ましくは10kPa以下で重縮合反応槽で行う。本発明でエステル化率とはエステル化反応物試料中の全酸成分に対するエステル化された酸成分の割合を示すものであり次式で表される。
エステル化率(%)=(ケン化価−酸価)/ケン化価)×100
エステル化反応物のエステル化率は、好ましくは85%以上、更に好ましくは88%以上、特に好ましくは90%以上である。下限以下であると後工程の反応である重縮合反応性が悪くなる。また、重縮合反応時の飛散物増え、壁面に付着して固化し、更にこの飛散物が反応物内に落下し、ヘーズの悪化、(異物発生)の要因となる。上限は後工程の反応である重縮合反応の為には高いほうが良いが、通常99%である。
【0028】
エステル化反応物の末端カルボキシル基濃度は500〜2500当量/トンが好ましい。下限は更に好ましくは600当量/トン、特に好ましくは700当量/トンである。上限は更に好ましくは2000当量/トン、特に好ましくは1800当量/トンである。下限未満では、脂肪族ジオールの分解が多くなり、上限超過では後工程の反応である重縮合反応性が悪くなる。また、重縮合反応時の飛散物増え、壁面に付着して固化し、更にこの飛散物が反応物内に落下し、ヘーズの悪化(異物発生)の要因となる。
【0029】
本発明において、エステル化反応におけるジカルボン酸とジオールとのモル比、反応温度、反応圧力及び反応率とを上記範囲にして連続反応を行い、連続的に重縮合反応に供することにより、ヘーズが低く異物が少ない高品質の脂肪族ポリエステルを効率的に得ることが出来る。
<重縮合反応工程>
重縮合反応は連続する複数の反応槽を用い減圧下で行うことが出来る(重縮合反応工程)。最終重縮合反応槽の反応圧力は、下限が通常0.01kPa以上、好ましくは0.03kPa以上であり、上限が通常1.4kPa以下、好ましくは0.4kPa以下として行う。重縮合反応時の圧力が高すぎると、重縮合時間が長くなり、それに伴いポリエステルの熱分解による分子量低下や着色が引き起こされ、実用上充分な特性を示すポリエステルの製造が難しくなる傾向がある。一方、超高真空重縮合設備を用いて製造する手法は重縮合反応速度を向上させる観点からは好ましい態様であるが、極めて高額な設備投資が必要となる為、経済的には不利である。反応温度は、下限が通常215℃、好ましくは220℃であり、上限が通常270℃、好ましくは260℃の範囲である。下限未満であると、重縮合反応速度が遅く、高重合度のポリエステル製造に長時間を要するばかりでなく、高動力の撹拌機も必要となる為、経済的に不利である。一方、上限超過であると製造時のポリエステルの熱分解が引き起こされやすく、高重合度のポリエステルの製造が難しくなる傾向がある。反応時間は、下限が通常1時間以上であり、上限が通常15時間以下、好ましくは10時間以下、より好ましくは8時間以下である。反応時間が短すぎると反応が不充分で高重合度のポリエステルが得にくく、その成形品の機械物性が劣る傾向となる。一方、反応時間が長すぎると、ポリエステルの熱分解による分子量低下が顕著となり、その成形品の機械物性が劣る傾向となるばかりでなく、ポリエステルの耐久性に悪影響を与えるカルボキシル基末端量が熱分解により増加する場合がある。
【0030】
<触媒>
エステル化反応及び重縮合反応は反応触媒を使用することにより、反応が促進される。エステル化反応においてはエステル化反応触媒が無くても十分な反応速度を得ることが出来る。又エステル化反応時にエステル化反応触媒が存在するとエステル化反応によって生じる水により触媒が反応物に不溶の析出物を生じ、得られるポリエステルの透明性を損なう(即ちヘーズが高くなる)ことがあり、又異物化することがあるので、反応触媒はエステル化反応中には添加使用しないことが好ましい。また、触媒を反応槽の気相部に添加するとヘーズか高くなることがあり、又触媒が異物化することがあるので反応液中に添加することが好ましい。
【0031】
重縮合反応においては無触媒では反応が進みにくく、触媒を用いることが好ましい。重縮合反応触媒としては、一般には、周期表1〜14族の金属元素のうち少なくとも1種を含む化合物が用いられる。金属元素としては、具体的には、スカンジウム、イットリウム、サマリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、錫、アンチモン、セリウム、ゲルマニウム、亜鉛、コバルト、マンガン、鉄、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ナトリウム及びカリウム等が挙げられる。その中では、スカンジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、モリブデン、タングステン、亜鉛、鉄、ゲルマニウムが好ましく、特に、チタン、ジルコニウム、タングステン、鉄、ゲルマニウムが好ましい。更に、ポリエステルの熱安定性に影響を与えるポリエステル末端濃度を低減させる為には、上記金属の中では、ルイス酸性を示す周期表3〜6族の金属元素が好ましい。具体的には、スカンジウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、モリブデン、タングステンであり、特に、入手のし易さからチタン、ジルコニウムが好ましく、更には反応活性の点からチタンが好ましい。
【0032】
本発明においては、触媒として、これらの金属元素を含むカルボン酸塩、アルコキシ塩、有機スルホン酸塩又はβ―ジケトナート塩等の有機基を含む化合物、更には前記した金属の酸化物、ハロゲン化物等の無機化合物及びそれらの混合物が好ましく用いられる。
本発明においては、触媒は、重合時に溶融或いは溶解した状態であると重合速度が高くなる理由から、重合時に液状であるか、エステル低重合体やポリエステルに溶解する化合物が好ましい。また、重縮合は無溶媒で行うことが好ましいが、これとは別に、触媒を溶解させる為に少量の溶媒を使用しても良い。この触媒溶解用の溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール類、エチレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオールなどの前述のジオール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ヘプタン、トルエン等の炭化水素化合物、水ならびにそれらの混合物等が挙げられ、その使用量は、触媒濃度が、通常0.0001重量%以上、99重量%以下となるように使用する。
【0033】
チタン化合物としては、テトラアルキルチタネート及びその加水分解物が好ましく、具体的には、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラベンジルチタネート及びこれらの混合チタネート、及びこれらの加水分解物が挙げられる。また、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタン(ジイソプロキシド)アセチルアセトネート、チタンビス(アンモニウムラクテイト)ジヒドロキシド、チタンビス(エチルアセトアセテート)ジイソプロポキシド、チタン(トリエタノールアミネート)イソプロポキシド、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、ブチルチタネートダイマー等も好んで用いられる。又、アルコール、アルカリ土類金属化合物、リン酸エステル化合物、及びチタン化合物を混合することにより得られる液状物も用いられる。これらの中では、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート及びテトラ−n−ブチルチタネート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンビス(アンモニウムラクテイト)ジヒドロキシド、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、ブチルチタネートダイマー及び、アルコール、アルカリ土類金属化合物、リン酸エステル化合物、及びチタン化合物を混合することにより得られる液状物、が好ましく、テトラ−n−ブチルチタネート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、ブチルチタネートダイマー及び、アルコール、アルカリ土類金属化合物、リン酸エステル化合物、及びチタン化合物を混合することにより得られる液状物がより好ましく、特に、テトラ−n−ブチルチタネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート及び、アルコール、アルカリ土類金属化合物、リン酸エステル化合物、及びチタン化合物を混合することにより得られる液状物が好ましい。
【0034】
ジルコニウム化合物としては、具体的には、ジルコニウムテトラアセテイト、ジルコニウムアセテイトヒドロキシド、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、ジルコニルジアセテイト、シュウ酸ジルコニウム、シュウ酸ジルコニル、シュウ酸ジルコニウムカリウム、ポリヒドロキシジルコニウムステアレート、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウムテトラ−t−ブトキシド、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネートならびにそれらの混合物が例示される。これらの中では、ジルコニルジアセテイト、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、ジルコニウムテトラアセテイト、ジルコニウムアセテイトヒドロキシド、シュウ酸ジルコニウムアンモニウム、シュウ酸ジルコニウムカリウム、ポリヒドロキシジルコニウムステアレート、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウムテトラ−t−ブトキシドが好ましく、ジルコニルジアセテイト、ジルコニウムテトラアセテイト、ジルコニウムアセテイトヒドロキシド、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、シュウ酸ジルコニウムアンモニウム、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシドがより好ましく、特にジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレートが着色のない高重合度のポリエステルが容易に得られる理由から好ましい。
【0035】
ゲルマニウム化合物としては、具体的には、酸化ゲルマニウムや塩化ゲルマニウム等の無機ゲルマニウム化合物、テトラアルコキシゲルマニウムなどの有機ゲルマニウム化合物が挙げられる。価格や入手の容易さなどから、酸化ゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム及びテトラブトキシゲルマニウムなどが好ましく、特に、酸化ゲルマニウムが好ましい。
【0036】
その他の金属含有化合物としては、炭酸スカンジウム、スカンジウムアセテート、スカンジウムクロリド、スカンジウムアセチルアセトネート等のスカンジウム化合物、炭酸イットリウム、イットリウムクロリド、イットリウムアセテート、イットリウムアセチルアセトネート等のイットリウム化合物、バナジウムクロリド、三塩化バナジウムオキシド、バナジウムアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネートオキシド等のバナジウム化合物、モリブデンクロリド、モリブデンアセテート等のモリブデン化合物、タングステンクロリド、タングステンアセテート、タングステン酸等のタングステン化合物、セリウムクロリド、サマリウムクロリド、イッテルビウムクロリド等のランタノイド化合物等が挙げられる。
【0037】
これらの重縮合触媒として金属化合物を用いる場合の触媒添加量は、生成するポリエステルに対する金属量として、下限値が通常、0.1重量ppm以上、好ましくは0.5重量ppm以上、より好ましくは1重量ppm以上であり、上限値が通常、3000重量ppm以下、好ましくは1000重量ppm以下、より好ましくは250重量ppm以下、特に好ましくは130重量ppm以下である。使用する触媒量が多すぎると、経済的に不利であるばかりでなく、理由は未だ詳らかには明らかではないが、ポリエステル中のカルボキシル基末端濃度が多くなる場合がある為、カルボキシル基末端量ならびに残留触媒濃度の増大によりポリエステルの熱安定性や耐加水分解性が低下する場合がある。逆に少なすぎると重合活性が低くなり、それに伴いポリエステル製造中にポリエステルの熱分解が誘発され、実用上有用な物性を示すポリエステルが得られにくくなる。
【0038】
触媒の反応系への添加位置は、重縮合反応工程以前であれば特に限定されず、原料仕込み時に添加しておいてもよいが、水が多く存在、もしくは発生している状況下で触媒が共存すると触媒が失活し、異物が析出する原因となり製品の品質を損なう場合がある為、エステル化反応工程以後に添加するのが好ましい。
<スラリー調製槽、反応槽>
本発明に用いるスラリー調製工程における調製装置及び貯槽装置の型式に特に制限は無く、公知のものが使用出来、例えば、縦型攪拌混合槽、縦型熱対流式混合槽などを挙げることが出来る。スラリー調製工程は、スラリー調製槽1基とすることもできるし、図1のように同種又は異種の複数基の槽を直列させた複数槽とすることも出来るが、複数槽とすることが好ましく、攪拌装置と循環ラインが具備された装置であることが好ましい。
【0039】
本発明で用いる攪拌装置の型式としては、往復回転式攪拌機、ジェット式攪拌機、プロペラ式攪拌機、タービン式攪拌機、パドル式攪拌機などを挙げることが出来る。攪拌翼としては、アンカー翼、タービン翼、パドル翼、プロペラ翼などを挙げることが出来る。また、循環ラインには、循環ポンプが具備されており、噴流ノズルが具備されていてもよい。
【0040】
本発明に用いるエステル化反応槽としては、公知のものが使用でき、縦型攪拌完全混合槽、縦型熱対流式混合槽、塔型連続反応槽等の型式のいずれであってもよく、又、単数槽としても、同種又は異種の槽を直列させた複数槽としてもよい。中でも攪拌装置を有する反応槽が好ましく、攪拌装置としては、動力部及び軸受、軸、攪拌翼からなる通常のタイプの他、タービンステーター型高速回転式攪拌機、ディスクミル型攪拌機、ローターミル型攪拌機等の高速回転するタイプも用いることが出来る。
【0041】
攪拌の形態にも制限はなく、反応槽中の反応液を反応槽の上部、下部、横部等から直接攪拌する通常の攪拌方法の他、反応液の一部を反応槽の外部に配管等で持ち出してラインミキサ−等で攪拌し、反応液を循環させる方法もとることが出来る。
攪拌翼の種類も公知のものが選択でき、具体的にはプロペラ翼、スクリュー翼、タービン翼、ファンタービン翼、デイスクタービン翼、ファウドラー翼、フルゾーン翼、マックスブレンド翼等が挙げられる。
【0042】
本発明に用いる重縮合反応槽の型式に特に制限はなく、例えば、縦型攪拌重合槽、横型攪拌重合槽、薄膜蒸発式重合槽などを挙げることが出来る。重縮合反応槽は、1基とすることができ、或いは、同種又は異種の複数基の槽を直列させた複数槽とすることも出来るが、反応液の粘度が上昇する重縮合の後期は界面更新性とプラグフロー性、セルフクリーニング性に優れた薄膜蒸発機能を有した横型攪拌重合機を選定することが好ましい。
【0043】
<製造ライン例>
以下に、脂肪族ジカルボン酸としてコハク酸、脂肪族ジオールとして1,4−ブタンジオール(以下BGと表すことがある)、多官能化合物としてリンゴ酸を原料とした、本発明にかかる脂肪族ポリエステルの製造方法の好ましい実施態様について、添付図面の参照符号を付記しつつ説明するが、本発明は図示の形態に限定されるものではない。
【0044】
図1は、本発明におけるスラリー調製工程の一実施形態を示す概略図、図2は、エステル化反応工程の一実施形態を示す概略図、図3は、本発明における重縮合反応工程の一実施形態を示す概略図である。
図1において、原料のコハク酸を原料供給ライン(1)を通じて攪拌機を有するスラリー調製槽に供給する。1,4−ブタンジオールを原料供給ライン(2)より、リンゴ酸を原料供給ライン(3)より、スラリー調製槽(A)へ供給する。ポンプ(C)を使用して、スラリー抜き出しライン(4)、循環ライン(5)を通じてスラリーを循環させながら攪拌混合を行い、スラリーを調製する。調製したスラリーは、スラリー移送ライン(6)を通じ、攪拌機を有するスラリー貯槽(B)へ移送する。移送されたスラリーは、ポンプ(D)を使用して、スラリー抜き出しライン(7)、循環ライン(8)を通じてスラリーを循環させながら攪拌混合を行いつつ、貯槽(B)よりスラリー供給ライン(9)を通じてエステル化反応槽(E)に連続的に供給される。また、原料のリンゴ酸は原料供給ライン(3)より、スラリー調製槽へ固体として添加することも出来るし、原料供給ライン(10)よりBG溶液もしくは、BGスラリーとしてスラリー供給ライン(9)に添加することも出来る。
【0045】
図2において、原料のコハク酸及びリンゴ酸は、図1のスラリー調製工程で1,4−ブタンジオールと混合されスラリーとなり、スラリー供給ライン(9)からエステル化反応槽(E)に供給される。また、エステル化反応時に触媒添加する場合は、触媒調整槽(図示せず)でBGの溶液とした後、BG供給ライン(11)より供給することも出来るし、BG及び触媒供給ライン(24)から再循環BGの再循環ライン(22)に供給し、両者を混合した後、エステル化反応槽(E)の液相部に供給することも出来る。
【0046】
エステル化反応槽(E)から留出するガスは、留出ライン(13)を経て精留塔(F)で高沸成分と低沸成分とに分離される。通常、高沸成分の主成分はBGであり、低沸成分の主成分は、水及びBGの分解物であるテトラヒドロフラン(THFと表すことがある)である。
精留塔(F)で分離された高沸成分は抜出ライン(20)から抜き出され、ポンプ(J)を経て、一部はBG再循環ライン(22)からエステル化反応槽(E)に循環され、一部は循環ライン(21)から精留塔(F)に戻される。また、余剰分は抜出ライン(23)から外部に抜き出される。一方、精留塔(F)で分離された軽沸成分はガス抜出ライン(14)から抜き出され、コンデンサ(G)で凝縮され、凝縮液ライン(16)を経てタンク(H)に一時溜められる。タンク(H)に集められた軽沸成分の一部は、抜出ライン(17)、ポンプ(K)及び循環ライン(18)を経て精留塔(F)に戻され、残部は、抜出ライン(19)を経て外部に抜き出される。コンデンサ(G)はベントライン(15)を経て排気装置(図示せず)に接続されている。エステル化反応槽(E)内で生成したエステル化反応物は、抜出ポンプ(I)及びエステル化反応物の抜出ライン(12)を経て第1重縮合反応槽(L)に供される。
【0047】
図2に示す工程においては、再循環ライン(22)にBG供給ライン(24)が連結されているが、両者は独立してエステル化反応槽(E)の気相部に接続されていてもよい。また、図1の原料供給ライン(10)はエステル化反応槽(E)の液相部に接続されていてもよいし、気相部に接続されていてもよい。
重縮合槽前のエステル化反応物に触媒を添加する場合は、触媒調製槽(図示せず)で所定濃度に調製した後、図3における触媒供給ライン(29)を経て、BG供給ライン(28)に連結され、BGで更に希釈された後、前述の図2に示すエステル化反応物の抜出ライン(12)に供給される。
【0048】
次に、エステル化反応物の抜出ライン(12)からフィルター(R)を経て第1重縮合反応槽(L)に供給されたエステル化反応物は、減圧下に重縮合されてポリエステル低重合体となり、その後、抜出用ギヤポンプ(O)及び出口流路である抜出ライン(30)、フィルター(S)を経て第2重縮合反応槽(M)に供給される。第2重縮合反応槽(M)では、通常、第1重縮合反応槽(L)よりも低い圧力で更に重縮合反応が進む。得られた重縮合反応物は、抜出用ギヤポンプ(P)及び出口流路である抜出ライン(31)、フィルター(T)を経て、第3重縮合槽(N)に供給される。第3重縮合反応槽(N)は、複数個の攪拌翼ブロックで構成され、2軸のセルフクリーニングタイプの攪拌翼を具備した横型の反応槽である。抜出ライン(31)を通じて第2重縮合反応槽(M)から第3重縮合反応槽(N)に導入された重縮合反応物は、ここで更に重縮合反応が進められた後、抜出用ギヤポンプ(Q)、フィルター(U)及び出口流路である抜出ライン(32)を経てダイスヘッド(V)から溶融したストランドの形態で抜き出され、水などで冷却された後、回転式カッター(W)で切断されてポリエステルペレットとなる。符号(25)、(26)、(27)は、それぞれ、第1重縮合反応槽(L)、第2重縮合反応槽(M)、第3重縮合反応槽(N)のベントラインである。フィルターR、S、T、Uは必ずしも全部設置する必要は無く、異物除去効果と運転安定性とを考慮して適宜設置することが出来る。
【0049】
<脂肪族ポリエステルの物性>
本発明の脂肪族ポリエステルの固有粘度(〔η〕dL/g)は、下限が1.3dL/gであることが好ましく、特に好ましくは、1.6である。上限は2.8dL/gが好ましく、更に好ましくは2.5であり特に好ましくは2.3である。固有粘度が下限未満であると、成形品にしたとき十分な機械強度が得にくい。固有粘度が上限超過であると、成形時に溶融粘度が高く成形しにくい。本発明の脂肪族ポリエステルの末端カルボキシル基濃度(当量/トン)は5〜30であることが好ましい。下限は低いほど熱安定性、耐加水分解性がよいが、通常5である。上限は更に好ましくは25である。上限超過では熱安定性が悪く成形時などに熱分解が多くなる。
【0050】
また、上記製造方法により製造された脂肪族ポリエステルのペレットのハンター色座標におけるカラーb値は、0.0〜3.0であることが好ましい。上限は更に好ましくは2.5以下である。上限超過では成形品にしたとき黄色味があり好ましくないことがある。本発明の脂肪族ポリエステルの溶液ヘーズは0.01〜2.5%であることが好ましい。下限は低いほど透明な製品が得られてよいが通常0.01%である。上限は更に好ましくは2.2%であり上限超過では成形品に濁りが生じまた、異物が多くなり好ましくない。ここで溶液ヘーズとは、フェノール/テトラクロロエタン=3/2(重量比)の混合液を溶媒として、試料濃度10重量%の溶液の光路長10mmにおける濁度をいい%で表す。
【0051】
本発明の脂肪族ポリエステルは、固有粘度が1.3〜2.5dL/g、かつ末端カルボキシ基濃度が5〜30当量/トン、かつb値が0.0〜3.0、かつ溶液ヘーズが0.01〜2.5%であることにより成形性、熱安定性、色調、透明性のバランスの取れた良好なポリエステル成形品の原料となることが出来る。
<脂肪族ポリエステル組成物>
本発明の脂肪族ポリエステルに、芳香族−脂肪族共重合ポリエステル、及び脂肪族オキシカルボン酸等を配合させてもよい。更に必要に応じて用いられるカルボジイミド化合物、充填材、可塑剤以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で他の生分解性樹脂、例えば、ポリカプロラクトン、ポリアミド、ポリビニルアルコール、セルロースエステル等や、澱粉、セルロース、紙、木粉、キチン及び/またはキトサン質、椰子殻粉末、クルミ殻粉末等の動物/植物物質微粉末、或いはこれらの混合物を配合することが出来る。更に、成形体の物性や加工性を調整する目的で、熱安定剤、可塑剤、滑剤、ブロッキング防止剤、核剤、無機フィラー、着色剤、顔料、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加剤、改質剤、架橋剤等を含有させてもよい。これらは、当業者の技術常識の範囲で本発明の効果が損なわれない使用範囲で用いればよい。
【0052】
本発明の脂肪族ポリエステル組成物の製造方法は、特に限定されないが、ブレンドした脂肪族ポリエステルの原料チップを同一の押出機で溶融混合する方法、各々別々の押出機で溶融させた後に混合する方法、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ブラベンダープラストグラフ、ニーダーブレンダー等の通常の混練機を用いて混練することによって混合する等が挙げられる。また、各々の原料チップを直接成形機に供給して組成物を調製すると同時に、その成形体を得ることも可能である。
【0053】
<脂肪族ポリエステルの用途>
本発明の脂肪族ポリエステル及びその組成物は、熱安定性、引張強度、引張伸び等の実用物性を有するので射出成形法、中空成形法、及び押出成形法等の汎用プラスチック成形法等により、フィルム、ラミネートフィルム、シート、板、延伸シート、モノフィラメント、マルチフィラメント、不織布、フラットヤーン、ステープル、捲縮繊維、筋付きテープ、スプリットヤーン、複合繊維、ブローボトル、発泡体等の成形品に利用可能である。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。尚、以下の諸例で採用した物性及び評価項目の測定方法は次の通りである。
<平均粒径D(50)μm>
レーザー回折式粒度分布測定装置マスターサイザー2000(シスメックス株式会社製)を用いて乾式法により測定した。試料をサンプルトレイにおいた後、1サンプルにつき2秒間の測定を3回実施し、この平均値を平均粒径とした。
【0055】
<D(90)μm>
平均粒径測定時に得られる粒子サイズ分布より、累積体積百分率曲線の90%における粒径、即ち小粒径サイズのほうから累積したときの全体積のうち90%に相当する粒径をD(90)とした。
<スラリー沈降速度>
スラリー調製工程より抜き出したスラリーを内径28mmの100mLメスシリンダーに100mL入れ、室温20℃の室内に10分間静置した。10分後、メスシリンダー内のスラリーが固体と液体に分離した様子を観察した。透明な液体部分の体積をシリンダー目盛りで計測し、これを静置時間で除した値をスラリー沈降速度とした。値が小さいほうが沈降しにくく良好なスラリーである。
【0056】
<スラリー中水分濃度 重量ppm>
5mL容器にスラリー2g、水分量の分かっているテトラヒドロフラン(THF)2gを秤量し、1分間振とうした後、静置分離して固液分離を行った。上澄み液をマイクロシリンジで採取し、カールフィッシャー水分計にて水分濃度を測定した。得られた水分濃度からTHF中の水分量を差し引いた値を、スラリー重量に対する水分濃度(重量ppm)とした。
【0057】
<エステル化反応物の末端カルボキシル基濃度 (AV) 当量/トン>
試料0.3gをベンジルアルコール40mLに入れ、180℃で20分間加熱し、10分間冷却した後、0.1mol・L−1のKOH/メタノール溶液で滴定して求めた値を当量/トンで表した。
<固有粘度(IV) dL/g>
ウベローデ型粘度計を使用し次の要領で求めた。すなわち、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を使用し、30℃において、濃度0.5g/dLの試料溶液及び溶媒のみの落下秒数を測定し、以下の式(3)より求めた。
IV=((1+4Kηsp0.5−1)/(2KC)・・・(3)
(ただし、ηsp=η/η−1であり、ηは試料溶液落下秒数、ηは溶媒の落下秒数、Cは試料溶液濃度(g/dL)、Kはハギンズ定数である。Kは0.33を採用した。)
<滞留時間>
スラリー工程における滞留時間は、スラリー調製槽(A)およびスラリー貯槽(B)におけるそれぞれの滞留時間の和で表され、スラリー調製槽における滞留時間とは、スラリー調製槽で攪拌混合に要した時間であり、また、スラリー貯槽における滞留時間とは、スラリー貯槽内のスラリー量(スラリー調製槽に供給された全原料量)をエステル化反応槽(E)への連続供給量で除した値である。
【0058】
(実施例1)
[重合用触媒の調製]
撹拌装置付きのガラス製ナス型フラスコに、酢酸マグネシウム・4水和物を100重量部入れ、更に1500重量部の無水エタノール(純度99重量%以上)を加えた。更にエチルアシッドホスフェート(モノエステル体とジエステル体の混合重量比は45:55)を65.3重量部加え、23℃で撹拌を行った。15分後に酢酸マグネシウムが完全に溶解したことを確認後、テトラ−n−ブチルチタネートを122重量部添加した。更に10分間撹拌を継続し、均一混合溶液を得た。この混合溶液を、ナス型フラスコに移し、60℃のオイルバス中でエバポレーターによって減圧下で濃縮を行った。1時間後に殆どのエタノールが留去され、半透明の粘稠な液体を得た。オイルバスの温度を更に80℃まで上昇させ、5Torrの減圧下で更に濃縮を行い粘稠な液体を得た。この液体状の触媒を、BGに溶解させ、チタン原子含有量が3.36重量%となるよう調製した。この触媒溶液のBG中における保存安定性は良好であり、窒素雰囲気下40℃で保存した触媒溶液は少なくとも40日間析出物の生成が認められなかった。また、この触媒溶液のpHは6.3であった。
【0059】
[脂肪族ポリエステルの製造方法]
図1に示すスラリー調製工程と図2に示すエステル化工程及び図3に示す重縮合工程により、次の要領で脂肪族ポリエステル樹脂の製造を行った。先ず、平均粒径が330μm、D(90)/D(50)が1.9を示す、リンゴ酸を0.15重量%含有したコハク酸を原料供給ライン(1)を通じて攪拌機を有するスラリー調製槽(A)に供給した。続いて、コハク酸1.00モルに対して、1,4−ブタンジオールが1.30モル、リンゴ酸が総量0.0033モルの割合となるように1,4−ブタンジオールを原料供給ライン(2)より、リンゴ酸を原料供給ライン(3)より、スラリー調製槽(A)へ供給した。このとき、原料から持ち込まれた水分量は、スラリー重量当たり300質量ppmであった。ポンプ(C)を使用して、スラリー抜き出しライン(4)、スラリー循環ライン(5)を通じてスラリーを循環させながら攪拌混合を1時間以上行い、スラリーを調製した。調製したスラリーは、スラリー供給ライン(6)を通じ、攪拌機を有するスラリー貯槽(B)へ全量移送した。移送されたスラリーは、ポンプ(D)を使用して、スラリー抜き出しライン(7)、スラリー循環ライン(8)を通じてスラリーを循環させながら攪拌混合を行い、また、スラリー供給ライン(9)を通じ、予め、窒素雰囲気下エステル化率97重量%の脂肪族ポリエステル低分子量体(エステル化反応物)を充填した攪拌機を有するエステル化反応槽(E)に、45.5kg/hとなるように40℃のスラリーを連続的に供給した。このとき、スラリー調製工程中のスラリー温度は、ジャケットに温水を流して40℃となるように調整した。スラリー中の水分量は、スラリー調製工程におけるスラリー滞留時間を、スラリー調製槽、スラリー貯槽併せて24時間以内とすることで調整を行った。スラリー調製槽におけるスラリーの調製は、スラリー貯槽内のスラリーが枯渇しない範囲で、原料供給、攪拌混合およびスラリー貯槽への移送を定期的に行った。供給したスラリー中の水分量、スラリーの沈降速度を表1に示す。
【0060】
エステル化反応槽(E)の内温は230℃、圧力は101kPaとし、生成する水とテトラヒドロフラン及び余剰のBGを、留出ライン(13)から留出させ、精留塔(F)で高沸成分と低沸成分とに分離した。系が安定した後の塔底の高沸成分は精留塔(F)の液面が一定になるように、抜出ライン(23)を通じて、その一部を外部に抜き出した。一方、水とTHFを主体とする低沸成分は塔頂よりガスの形態で抜き出し、コンデンサ(G)で凝縮させ、タンク(H)の液面が一定になるように、抜出ライン(19)より外部に抜き出した。同時に、BG再循環ライン(22)より100℃の精留塔(F)の塔底成分(98重量%以上がBG)全量を、また、原料供給ライン(24)より、エステル化反応槽で発生したテトラヒドロフランと等モルのBGを併せて供給し、エステル化反応槽内のコハク酸に対するBGのモル比が1.30となるように調整した。
【0061】
エステル化反応槽(E)で生成したエステル化反応物は、抜き出しポンプ(I)を使用し、エステル化反応物の抜出ライン(12)から連続的に抜き出し、エステル化反応槽(E)内液のコハク酸ユニット換算での平均滞留時間が3時間になるように液面を制御した。抜出ライン(12)から抜き出したエステル化反応物は、第1重縮合反応槽(L)に連続的に供給した。系が安定した後、8時間毎にエステル化反応槽(E)の出口で採取したエステル化反応物サンプル18点の末端カルボキシル濃度(AV)の平均値及び触れ幅を表1に示す。
【0062】
予め前述手法で調製した触媒溶液を、触媒調製槽において、チタン原子としての濃度が0.12重量%となるようにBGで希釈した触媒溶液を調製した後、触媒供給ライン(29)及び供給ライン(28)を通じて、1.4kg/hで連続的にエステル化反応物の抜出ライン(12)に供給した(触媒は反応液の液相に添加された)。供給量は運転期間中安定していた。
【0063】
第1重縮合反応槽(L)の内温を240℃、圧力を2.67kPaとし、滞留時間が120分になるように液面制御を行った。減圧機(図示せず)に接続されたベントライン(25)から、水、テトラヒドロフラン、BGを抜き出しながら、初期重縮合反応を行った。抜き出した反応液は第2重縮合反応器(M)に連続的に供給した。
第2重縮合反応槽(M)の内温を240℃、圧力を0.67kPaとし、滞留時間が120分になるように液面制御を行い、減圧機(図示せず)に接続されたベントライン(26)から、水、テトラヒドロフラン、BGを抜き出しながら、更に重縮合反応を進めた。得られたポリエステルは、抜き出しギヤポンプ(P)により抜出ライン(31)を経由し、第3重縮合反応器(N)に連続的に供給した。第3重縮合反応器(N)の内温は240℃、圧力は130Pa、滞留時間は120分間とし、更に、重縮合反応を進めた。得られたポリエステルは、ダイスヘッド(V)からストランド状に連続的に抜き出し、回転式カッター(W)でカッティングしペレットとした。スラリー調製及びエステル化反応、重縮合反応は連続7日間行い、反応スタート後16時間経過してから8時間毎にサンプリングして得られた脂肪族ポリエステルサンプル18点の固有粘度を測定した。その平均値と触れ幅を表1に示す。
【0064】
(実施例2)
平均粒径が74μm、D(90)/D(50)が2.0のコハク酸を使用した以外は、実施例1と同様にしてポリエステルを得た。表1に得られた結果を示す。
(実施例3)
平均粒径が158μm、D(90)/D(50)が1.8のコハク酸を使用し、スラリー調製工程中のスラリーの温度を70℃とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステルを得た。表1に得られた結果を示す。
【0065】
(実施例4)
コハク酸1.00モルに対して、BGが1.50モルとなるようにスラリーを調製した以外は、実施例1と同様にしてポリエステルを得た。表1に得られた結果を示す。
(実施例5)
D(90)/D(50)が2.7のコハク酸を使用し、スラリー調製工程中のスラリーの温度を45℃とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステルを得た。表1に得られた結果を示す。
【0066】
(比較例1)
スラリー調製工程中のスラリー温度を65℃、かつ調製槽での滞留時間を30時間とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステルを得た。スラリー中の水分量は11.3重量%であった。表1に得られた結果を示す。スラリー中の水分が高く反応系へのスラリーの安定な供給がしにくく反応物の末端カルボキシル基濃度(AV)のばらつきが大きかった。
【0067】
(比較例2)
スラリー調製工程中のスラリー温度を10℃とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステルを得た。表1に得られた結果を示す。BGが凝固して反応系へのスラリー供給が出来なかった。
(比較例3)
スラリー調製工程中のスラリー温度を85℃とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステルを得た。表1に得られた結果を示す。スラリーの沈降速度が大きく、反応系へのスラリーの供給が出来なかった。
【0068】
(比較例4)
平均粒径が75μm、D(90)/D(50)が1.60を示すテレフタル酸を、原料供給ライン(1)を通じて攪拌機を有するスラリー調製槽(A)に供給した。続いて、テレフタル酸1.00モルに対して、BGが1.60モルとなるようにBGを原料供給ライン(2)よりスラリー調製槽(A)へ供給した。このとき、原料から持ち込まれた水分量は、スラリー重量当たり300重量ppmであった。ポンプ(C)を使用して、スラリー抜き出しライン(4)、スラリー循環ライン(5)を通じてスラリーを循環させながら攪拌混合を2時間以上行い、スラリーを調製した。調製したスラリーは、スラリー供給ライン(6)を通じ、攪拌機を有するスラリー貯槽(B)へ全量移送した。移送されたスラリーは、ポンプ(D)を使用して、スラリー抜き出しライン(7)、スラリー循環ライン(8)を通じてスラリーを循環させながら攪拌混合を行い、また、スラリー供給ライン(9)を通じ、予め、窒素雰囲気下エステル化率99重量%の芳香族ポリエステル低分子量体(エステル化反応物)を充填した攪拌機を有するエステル化反応槽(E)に、41kg/hとなる様に30℃のスラリーを連続的に供給した。同時に、BG再循環ライン(22)から185℃の精留塔(F)の塔底成分(98重量%以上がBG)を19kg/hで供給し、触媒供給ライン(24)から触媒として65℃のテトラブチルチタネートの6.0重量%BG溶液を130g/hで供給した(理論ポリマー収量に対し40重量ppm)。
【0069】
スラリー調製工程中のスラリー温度はジャケットに温水を流して30℃となるように調整した。スラリー調製槽におけるスラリーの調製は、スラリー貯槽内のスラリーが枯渇しない範囲で、原料供給、攪拌混合およびスラリー貯槽への移送を定期的に行った。供給したスラリー中の水分量、スラリーの沈降速度を表1に示す。
エステル化反応槽(E)の内温は230℃、圧力は78kPaとし、生成する水とテトラヒドロフラン及び余剰のBGを、留出ライン(13)から留出させ、精留塔(F)で高沸点成分と低沸点成分とに分離した。系が安定した後の塔底の高沸成分は精留塔(F)の液面が一定になる様に、抜出ライン(23)を通じてその一部を外部に抜き出した。一方、水とTHFを主体とする低沸点成分は塔頂よりガスの形態で抜き出し、コンデンサ(G)で凝縮させ、タンク(H)の液面が一定になる様に、抜出ライン(19)より外部に抜き出した。同時に、BG再循環ライン(22)より100℃の精留塔(F)の塔底成分(98重量%以上がBG)全量を、また、BG供給ライン(24)より、エステル化反応槽で発生したテトラヒドロフランと等モルのBGを併せて供給し、エステル化反応槽内のテレフタル酸に対するBGのモル比が3.50となるように調整した。
【0070】
エステル化反応槽(E)で生成したエステル化反応物は、抜き出しポンプ(I)を使用し、エステル化反応物の抜出ライン(12)から連続的に抜き出し、エステル化反応槽(E)内液のテレフタル酸ユニット換算での平均滞留時間が3.2hrになる様に液面を制御した。抜出ライン(12)から抜き出したエステル化反応物は、第1重縮合反応槽(L)に連続的に供給した。系が安定した後、エステル化反応槽(E)の出口で採取したエステル化反応物サンプル18点の末端カルボキシル濃度(AV)の平均値及び触れ幅を表1に示す。
【0071】
第1重縮合反応槽(L)の内温は240℃、圧力2.1kPaとし、滞留時間が120分になる様に液面制御を行った。減圧機(図示せず)に接続されたベントライン(25)から、水、テトラヒドロフラン、BGを抜き出しながら、初期重縮合反応を行った。抜き出した反応液は第2重縮合反応槽(M)に連続的に供給した。
第2重縮合反応槽(M)の内温は240℃、圧力0.4kPaとし、滞留時間が85分になる様に液面制御を行い、減圧機(図示せず)に接続されたベントライン(26)から、水、テトラヒドロフラン、BGを抜き出しながら、更に重縮合反応を進めた。得られたポリエステルは、抜き出しギヤポンプ(P)により抜出ライン(31)を経由し、第3重縮合反応器(N)に連続的に供給した。第3重縮合反応器(N)の内温は240℃、圧力は130Pa、滞留時間は60分間とし、更に、重縮合反応を進めた。得られたポリエステルは、ダイスヘッド(V)からストランド状に連続的に抜き出し、回転式カッター(W)でカッティングしペレットとした。スラリー調製及びエステル化反応、重縮合反応は連続7日間行い、反応スタート後16時間経過してから8時間毎にサンプリングして得られた脂肪族ポリエステルサンプル18点の固有粘度を測定した。その平均値と触れ幅を表1に示す。
【0072】
(比較例5)
スラリー調製工程中のスラリーの温度を85℃とした以外は、比較例4と同様にしてポリエステルを得た。表1に得られた結果を示す。
比較例4,5においては、芳香族カルボン酸(テレフタル酸)とBGとのスラリーは沈降速度が小さく、反応系へのスラリーの安定な供給が容易であった。
【0073】
【表1】

【0074】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2008年3月28日出願の日本特許出願(特願2008−088314)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明により、脂肪族ポリエステルの製造時における安定な生産が可能になり、品質のばらつきが少ない製品を得ることが出来る。これにより脂肪族ポリエステルの利用拡大が期待できる。よって、本発明の工業的価値は顕著である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールを含むスラリーの調製工程、エステル化反応工程、重縮合反応工程を経てポリエステルを得る脂肪族ポリエステルの製造方法において、該調製工程中のスラリーの温度範囲が脂肪族ジオールの凝固点以上80℃以下で、かつスラリー中の水分量が0.01〜10重量%であることを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
スラリー中の脂肪族ジカルボン酸に対する脂肪族ジオールのモル比が0.8〜2.0であることを特徴とする請求項1に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項3】
スラリー原料としての脂肪族ジカルボン酸が粒子であり、その平均粒径D(50)及び粒径の累積体積百分率曲線の90%における粒径D(90)が、下記式(1)及び(2)を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
1≦D(50)≦500・・・・・・・(1)
D(90)/D(50)≦2.5・・・(2)
該粒径の単位はμmを示す。
【請求項4】
脂肪族ジオールの主成分が1,4-ブタンジオール、脂肪族ジカルボン酸の主成分がコ
ハク酸であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−256643(P2009−256643A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71230(P2009−71230)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】