説明

脂肪族ポリエステルカップ

【課題】脂肪族ポリエステルから形成された二軸延伸成形体において、上記の機械強度の異方性が解消乃至低減された機械的強度特性の安定した脂肪族ポリエステルカップを提供することにある。
【解決手段】脂肪族ポリエステルを主体とする樹脂のシートを、一定の延伸温度下、初期の延伸速度が大きく且つ終期の延伸速度が小さくなるように延伸速度を可変制御して圧空成形乃至プラグアシスト成形してなるカップであって、10%圧縮ひずみに耐え得る強度を有することを特徴とするカップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的強度の異方性を改善した脂肪族ポリエステルカップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、都市が排出する固形廃棄物は、その量が段々膨大となり、廃棄処理能力の限界に近づきつつある。この固形廃棄物の元凶の一つとして、プラスチックがいつも指摘されている。
【0003】
プラスチック廃棄物の理想的解決法として、自然環境で消滅する分解性プラスチックが注目されている。分解性プラスチックには、紫外線によってポリマーの分子鎖が切断される光分解性プラスチックと、バクテリヤや真菌類が体外に放出する酵素の作用で崩壊する生分解性プラスチックとがある。
【0004】
しかしながら、光分解性プラスチックの場合、土中埋没処理では効果が期待できなく、また分解生成物による環境汚染の恐れもあることから、生分解性プラスチックに大きな期待が寄せられている。
【0005】
生分解性プラスチックとしては、従来、脂肪族ポリエステル、例えばポリヒドロキシブチレート(PHA)、3−ヒドロキシブチレート(3HB)と3−ヒドロキシバリレート(3HV)とのランダムコポリマー、ポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネート・アジペート(PBAS)、ポリ乳酸(PLLA)等が知られている。
【0006】
しかしながら、これらの脂肪族ポリエステルは、生分解性など環境との調和の点では優れているものの、成形性の点で未だ解決しなければならない問題点を有している。1例として、脂肪族ポリエステルは、樹脂の溶融物性が劣り、ダイレクトブロー、射出延伸成形、シートのサーモフォーム成形などの成形が困難であるという問題を有している。このため、無機フィラーの添加による溶融張力の向上(特許文献1)やジイソシアネートやジエポキシ化合物、酸無水物を用いた鎖長延伸による高分子量化(特許文献2)が提案されている。又、脂肪族ポリエステルは一般に延伸成形による加工にて材料強度を向上させることができる。
【0007】
【特許文献1】特開平5−289623
【特許文献2】特開平7−205278
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
脂肪族ポリエステルは、通常のプラスチックと同様に、延伸により降伏点強度、弾性率などの機械的強度が向上する。しかし、脂肪族ポリエステルを二軸延伸成形した場合、得られた延伸成形物は機械的強度の異方性が生じる。
【0009】
例えば、芳香族ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)の二軸延伸成形体においては、延伸方向、即ち機械方向(MD)及び横断方向(TD)の降伏点強度と、MD、TDから45度方向の降伏点強度がほぼ等しい強度を示すのに、ポリ乳酸のような脂肪族ポリエステルは、延伸方向、即ち機械方向(MD)及び横断方向(TD)の降伏点強度が、MD及びTD方向から45度の方向の降伏点強度より低下している。
【0010】
このように脂肪族ポリエステルの二軸延伸成形体は機械的強度の異方性が生じており、特に本来強度が増加すべき延伸軸方向で強度が低くなるため、成形体の強度設計が難しいという問題を有している。例えば、ボトルやカップなどの立体成形容器では、延伸方向を容器軸方向と容器周方向にとるのが適している。この場合、延伸軸のなす面の機械的強度を等方的に存することは座屈防止や落下衝撃による割れ防止、膨張、収縮や変形による割れを防止にも重要な要点となっている。ところが、軸方向や周方向の強度が延伸軸と45度方向をなす方向においても機械的強度が異なるため、脂肪族ポリエステルの二軸延伸成形体の強度は所期の目的を達成していない。一方、容器の軸方向や周方向から45度偏った方向に延伸操作を行うことは実際的でない。
【0011】
しかも、上記のように機械的強度の異方性を有する二軸延伸成形体では、比較例に示すとおり、圧縮変形に際し、しばしば割れを発生する傾向もあることが分かった。
【0012】
したがって、本発明の目的は、脂肪族ポリエステルから形成された二軸延伸成形体において、上記の機械強度の異方性が解消乃至低減された機械的強度特性の安定した脂肪族ポリエステルカップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、脂肪族ポリエステルを主体とする樹脂のシートを、一定の延伸温度下、初期の延伸速度が大きく且つ終期の延伸速度が小さくなるように延伸速度を可変制御して圧空成形乃至プラグアシスト成形してなるカップであって、10%圧縮ひずみに耐え得る強度を有することを特徴とするカップが提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、一定の延伸温度下、初期の延伸速度が大きく且つ終期の延伸速度が小さくする延伸速度に負の勾配を設けた二軸延伸操作を行うことにより、脂肪族ポリエステルの延伸成形物の強度特性が前記式(1)を満足する範囲にあって機械的強度の異方性が解消乃至低減され、しかもこの異方性の改善が配向度(Do)が0.15以上という領域で達成される。本発明の延伸成形体からなる容器は、耐座屈性や耐落下衝撃性に優れていると共に、膨張収縮や変形による割れに対しても有効に防止されている利点を有する。更に、この脂肪族ポリエステル延伸成形体に、化学蒸着法(CVD)により硬質炭素膜を形成させることにより、耐気体透過性を向上させ、しかも低分子有機成分の収着をも抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[作用]
本発明は、脂肪族ポリエステル予備成形体の二軸延伸を、初期の延伸速度を大きく且つ終期の延伸速度を小さくした延伸速度に負の勾配を設けた延伸成形にて、延伸成形体の強度の異方性を解消乃至低減させうるという新規知見に基づくものである。
【0016】
即ち、本発明において、初期の延伸速度を大きく且つ終期の延伸速度を小さくする延伸速度に負の勾配を設けた二軸延伸操作を行うことで、脂肪族ポリエステル延伸成形体の機械的強度の異方性を解消乃至低減させるのに重要である。例えば、延伸速度が一定の速度で延伸を行った場合、延伸速度が大きい場合、小さい場合のどちらの場合においても延伸方向の降伏点強度は45度方向(対角方向)の降伏点強度に比して低下している。これに対し、初期の延伸速度を大きくし、且つ終期の延伸速度を小さくする延伸速度に負の勾配を設けた延伸成形を行うことにより、延伸方向の降伏点強度を対角方向の降伏点強度と等しいか、或いはそれよりも大きくすることができる。結果、延伸方向の強度が低下するという不利益を解消することが可能となった。
【0017】
本発明による脂肪族ポリエステル延伸成形体は、前記式(1)を満足する強度特性を示す。このため、本発明の延伸成形体からなる容器は、耐座屈性や耐落下衝撃性に優れていると共に、膨張収縮や変形による割れも有効に防止されているという利点を有する。
本発明による延伸成形体は、前記式(2)で定義される配向結晶化度(Do)が0.15以上、特に0.2以上であることが、機械的特性、透明性、耐熱性の点で好ましい。
【0018】
通常、芳香族カルボン酸を主体とする二塩基酸とグリコールとから誘導された熱可塑性ポリエステルは、配向による結晶化度を密度法にて測定することができ、測定される密度と結晶化度との関係が下記式(3)で表される。
結晶化度X=(ρ/ρ)×{(ρ−ρam)/(ρ−ρam)}×100
‥(3)
式中、ρはn−ヘプタン−四塩化炭素系密度勾配管(池田理化製)で、20℃測定されるサンプルの密度、ρamは非晶密度(1.335g/cm)、ρは結晶密度(1.455g/cm)。
【0019】
ところが、脂肪族ポリエステルの場合、特にポリ乳酸などは非晶試料も高度に配向した試料も密度は殆ど一定であり、密度法を用い配向結晶化度を求めることができない。
本発明者は、脂肪族ポリエステルを13C広幅NMRで測定したときの化学シフト100乃至300ppm(カルボニル炭素領域)のピーク面積が、脂肪族ポリエステルの配向の程度と密接な関係があり、このピーク面積から配向度を測定できることを見出した。即ち、脂肪族ポリエステル延伸成形体について、NMRスペクトルの面積Sを求め、次いでこの試料の非晶質粉末について上記と同様に測定したときのNMRスペクトルのピーク面積Saを求め、前記式(2)から配向結晶化度(Do)を算出する。このように求められた配向結晶化度(Do)と延伸倍率との間には1:1の対応がある。
【0020】
図1は、脂肪族ポリエステルの各種延伸成形体について、延伸倍率(軸方向延伸倍率、面積延伸倍率)と得られた配向結晶化度(Do)との関係を示している。図1によると、延伸倍率が増大するにつれ、配向結晶化度向度が増大していることが解る。
【0021】
本発明によれば、以上説明したとおり、脂肪族ポリエステルを初期の延伸速度を大きく且つ終期の延伸速度を小さくする延伸速度に負の勾配を設けた二軸延伸操作を行うことにより、延伸成形物の強度特性が前記式(1)を満足する範囲にあって機械的強度の異方性解消乃至低減され、しかもこの異方性の改善が配向結晶化度(Do)が0.15以上の領域で達成される点に着目されるべきである。
【0022】
(脂肪族ポリエステル樹脂)
本発明において、脂肪族ポリエステル樹脂としては、ヒドロキシアルカノエート単位を主体とする生分解性脂肪族ポリエステル樹脂の任意のものが使用される。この脂肪族ポリエステル樹脂は、少なくともフィルムを形成し得る分子量を有するべきであり、一般にその数平均分子量は、10000乃至300000、特に20000乃至200000の範囲にあるのがよい。好適な脂肪族ポリエステル樹脂の例は、ポリヒドロキシアルカノエート、或いはこれらの共重合体である。
【0023】
ポリヒドロキシアルカノエートとしては、下記式
【化1】

式中、Rは水素原子、または直鎖或いは分岐鎖のアルキル基であり、nはゼロを含む正の整数である、で表される反復単位、例えば、乳酸[R=CH、n=0、LLA]、3−ヒドロキシブチレート[R=CH、n=1、3HB]、3−ヒドロキシバリレート[R=CHCH、n=1、3HV]、3−ヒドロキシカプロエート[R=(CH
CH、n=1、3HC]、3−ヒドロキシヘプタノエート[R=(CHCH、n=1、3HH]、3−ヒドロキシオクタノエート[R=(CHCHn=1、3HO]、3−ヒドロキシノナノエート[R=(CHCH、n=1、3HN]、3−ヒドロキシデカノエート[R=(CHCH、n=1、3HD]、γ−ブチロラクトン[R=H、n=2、BL]、δ−バレロラクトン[R=H、n=3、VL]、ε−カプロラクトン[R=H、n=4、CL]
等の1種或いは2種以上からなる重合体が挙げられる。
【0024】
このポリヒドロキシアルカノエートは、ポリ乳酸(ポリ乳酸としては、構成単位がL−乳酸のみからなるポリ(L−乳酸)、D−乳酸のみからなるポリ(D−乳酸)およびL−乳酸単位とD−乳酸種任意の割合で存在するポリ(DL−乳酸)を示す。)又、ポリεカプロラクトンのような単独重合体であってもよく、他のヒドロキシアルカリエートとの共重合体でもよい。また3−ヒドロキシブチレートと、他の3−ヒドロキシアルカノエート、特に3−ヒドロキシバリレートとを共重合させた共重合体であってもよい。
【0025】
本発明に用いる脂肪族ポリエステルは、ガラス転移点(Tg)が−60℃以上、特に30℃以上のものが好ましい。これらの脂肪族ポリエステルの内、工業的に量産され入手が容易であり、環境にも優しい脂肪族ポリエステルとして、ポリ乳酸が挙げられる。ポリ乳酸(PLLA)は、トウモロコシなどの穀物デンプンを原料とする樹脂であり、デンプンの乳酸発酵物、L−乳酸をモノマーとする重合体である。一般にそのダイマーであるラクタイドの開環重合法、及び、直接重縮合法により製造される。この重合体は、自然界に存在する微生物により、水と炭酸ガスにより分解され、完全リサイクルシステム型の樹脂として着目されている。また、そのガラス転移点(Tg)も約58℃とPETのTgに近いという利点を有している。
【0026】
本発明の延伸成形体は、上記脂肪族ポリエステル、特にポリ乳酸を単独で使用することもできるし、他の脂肪族ポリエステル或いは他の樹脂とのブレンド物或いは他の樹脂との積層体としても用いることもできる。
【0027】
更に、上記脂肪族ポリエステルとのブレンド物或いは積層体の形で使用可能な他の樹脂としては、バリアー樹脂、例えば酸素に対してバリアー性を示す水酸基含有熱可塑性樹脂、ナイロン樹脂、バリアー性ポリエステル樹脂、ハイニトリル樹脂や、水蒸気に対してバリアー性を示す環状オレフィン系共重合体等を挙げることができる。これらの内でも、生分解性の点では水酸基含有樹脂が好ましく、熱成形が可能である限り、任意の樹脂を用いることができる。この樹脂は、その分子鎖中に、水酸基を有する反復単位と、樹脂に熱成形性を付与する単位とを有している。水酸基含有反復単位はビニルアルコール単位、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート単位であってよいが、生分解性の点ではビニルアルコール単位が好ましい。この水酸基含有樹脂中に含有される他の単位は、エチレン、プロピレン等のオレフィン単位、酢酸ビニル等のビニルエステル単位;アルキル(メタ)アクリレート単位等が挙げられる。又、これらの水酸基含有樹脂は、少なくともフィルムを形成するに足る分子量を有するべきである。
【0028】
好適な水酸基含有樹脂は、10乃至40モル%のエチレン単位と、40乃至88モル%のビニルアルコール単位と、50モル%以下のエステル含有ビニル単位とを含有する共重合体からなる。このような水酸基含有重合体をブレンド物或いは積層体として用いることで、延伸成形体のガスバリアー性を向上させることができ、しかも生分解性を実質上阻害しないという利点が達成される。
【0029】
本発明の延伸成形体には、その用途に応じて、各種着色剤、充填剤、無機系或いは有機系の補強剤、滑剤、可塑剤、レベリング剤、界面活性剤、増粘剤、減粘剤、安定剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、防錆剤等を、公知の処方にしたがって配合することができる。
【0030】
(延伸成形体及びその製法)
本発明の延伸成形体は、脂肪族ポリエステルを主体とする樹脂の予備成形体を、初期の延伸速度を大きく且つ終期の延伸速度を小さくするという延伸速度に負の勾配を設けた二軸延伸を行うことにより製造される。
【0031】
予備成形体(プリフォーム)の製造は、それ自体公知の押出成形法や射出成形法、圧縮成形法で製造することができる。例えば、溶融樹脂をTーダイを通して押し出しすることにより、延伸フィルムの薄肉シート、及び、フィルムや、カップへの圧空成形乃至プラグアシスト成形用のシートが成形される。また、溶融樹脂をリングダイを通して押し出しすることにより、容器成形用のパイプ状プリフォームも成形することができる。更に、溶融樹脂を、スクリュー或いはプランジャーにより、キャビテイ金型とコア金型とからなる金型中に射出することで、ボトルなどの立体容器用のプリフォームが成形される。また、溶融樹脂のパリソンをキャビテイ金型とコア金型で圧縮することでもボトルなどの立体用プリフォームが得られる。
【0032】
脂肪族ポリエステルと他の樹脂、例えば水酸基含有樹脂との積層体から成る予備成形体を製造するには、それ自体公知の積層技術が使用され、例えば押出成形法の場合、樹脂の種類に対応する押出機を用い、多層ダイを用いて共押出することにより、多層の予備成形体を製造する。また、射出成形では、それ自体公知の同時共射出法や逐次共射出法により、多層プリフォームを形成することができる。更に、圧縮成形法でも、共押出などにより多層の溶融樹脂パリソンを形成することで、多層プリフォームを製造することができる。
【0033】
予備成形体の延伸成形は、脂肪族ポリエステルの延伸温度において、延伸速度が前述した方法をとり、且つ得られた成形体の配向結晶化度(Do)が0.15以上となる条件で行う。
【0034】
延伸温度は、脂肪族ポリエステルの種類によっても相違するが、一般的にいって、脂肪族ポリエステルのガラス転移点(Tg)を基準とし、Tg乃至Tg+60℃の温度が適当であり、例えばポリ乳酸の場合、Tg+10℃乃至Tg+20℃の温度が適当である。
【0035】
本発明では、初期の延伸速度を大きく且つ終期の延伸速度を小さくした延伸速度に負の勾配を設けた二軸延伸成形を行うが、第1段の延伸速度(V)と最終段の延伸速度(V)の比(V/V)が、一般に3乃至70の範囲にあることが、強度の異方性を解消乃至低減させる上で好ましい。即ち、V/Vの比が上記範囲を下回ると、前記式(1)を満足するように強度特性を改善することが困難となる傾向があり、一方、この比が上記範囲を上回ると延伸成形の生産性が悪くなるので好ましくない。
【0036】
第1段目における延伸速度は、特に限定されないが、一般に1m/sec乃至50m/secの範囲にあるのが望ましい。延伸速度の変化は、二段或いはそれ以上の多段にわたって段階的に変化させることもできるし、また連続的に変化させることもできる。勿論、これら何れの場合にも、延伸初期から終段に向けて延伸速度が単調に減少するよう延伸速度に勾配を設けなければならない。延伸速度の切り替えは、機械的延伸では延伸棒や把持チャックの移動速度を変化させることにより、また膨張延伸ではブロー圧を変化させることにより行うことができる。
【0037】
延伸倍率は、前記式(2)で定義される配向結晶化度(Do)が0.15以上となるようなものであり、一般的にいって、機械方向(容器軸方向)の延伸倍率が1.4乃至4倍、横断方向(容器周方向)の延伸倍率が1.4乃至4倍で、好適には面積延伸倍率が2乃至16倍となるようなものである。
【0038】
本発明の延伸成形において、延伸速度に負の勾配を設けることにより、強度の異方性が解消乃至低減される理由は未だ解明されるには至っていない。しかしながら、このような延伸条件では、延伸による歪みの緩和と一種の熱固定とが起こっている可能性が否定できない。
【0039】
本発明による脂肪族ポリエステル延伸成形体は、機械的強度の異方性が解消されており、容器としての種々の特性にも優れているが、芳香族ポリエステルに比してガスバリアー性においてやや劣る傾向がある。これを改善するために、延伸成形体の少なくとも一方の表面に硬質炭素膜を化学蒸着法(CVD)で形成することが好ましい。
【0040】
硬質炭素膜とは、一般にDLC(diamond like carbon)膜、iカーボン膜または水素化アモルファスカーボン膜(a−C:H)と呼ばれるものであり、SP結合を主体にしたアモルフアスな炭素膜から成っている。この炭素膜は、香味成分などの低分子有機化合物の収着抑制効果およぴガスバリア性に優れている。炭素膜の厚みは、これらの特性の向上と、プラスチックとの密着性、耐久性および透明性等との見地から、0.05〜5μmの範囲にあることが好ましい。
【0041】
硬質炭素膜の形成は、それ自体公知の化学蒸着法(CVD)、特にプラズマCVDにより行うことができる。プラズマCVDとは、気体プラズマを利用して薄膜成長を行うものであり、基本的には、減圧下において原料ガスを含むガスを高電界による電気的エネルギーで放電させ、分解させ、生成する物質を気相中或いは基板上での化学反応を経て、基板上に堆積させるプロセスから成る。プラズマ状態は、グロー放電をによって実現されるものであり、このグロー放電の方式によって、直流グロー放電を利用する方法、高周波グロー放電を利用する方法、マイクロ波放電を利用する方法などが知られている。
【0042】
プラズマCVDは、(1)高速電子によるガス分子の直接分解を利用しているため、生成エネルギーの大きな原料ガスを容易に解離できる、(2)電子温度とガス分子温度が異なる熱的非平衡状態にあり、低温プロセスが可能となる、(3)基板温度が低くても比較的均一なアモルファス膜を形成できる、という利点を有するものであり、脂肪族ポリエステル延伸成形体にも容易に適用できるものである。
【0043】
膜形成用の原料ガスとしては、常温で気体またば液体の脂肪族炭化水素類,芳香族炭化水素類,含酸素炭化水素類、含窒素炭化水素類などが使用される。この中でも、炭素数が6以上のベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレ、シクロヘキサン等が望ましい。これらの原料は、単独で用いることもできるし、2種以上の混合ガスとして使用してもよく、さらに、これらのガスをアルゴンやヘリウムの様な希ガスで希釈して用いてもよい。
【0044】
硬質炭素膜の形成には、反応容器内に脂肪族ポリエステル延伸成形体を充填し、反応容器内を減圧にする。このときの真空度は一般的に10−2〜10−5torrの範囲が望ましい。次いで、反応容器内に前記原料ガスを供給し、グロー放電を開始して、膜形成を行う。反応容器内の圧力は0.5〜0.001torrの範囲にあることが好ましい。炭素膜と成形体との密着性をさらに向上させるために、炭素膜を形成するに先だって、アルゴンや酸素などの無機ガスによってプラズマ処理を行い、成形体表面を活性化させることもできる。
【0045】
(用途)
本発明の延伸成形体は、各種プラスチック包装容器、例えばボトル、カップ、チューブ、プラスチック缶、パウチ、キャップ等として、またフィルム、トレイ等の包装材料として、更にコンテナー、タンク、篭等の流通用容器として、更にパイプ、ケース等の構造物として有用である。
【実施例】
【0046】
次に、具体的な実施例をもって本発明を説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
(成形)
ボトル成形:重量平均分子量が180000のポリ乳酸を用いた。射出成形機を用い、190〜200℃条件下、口径28mmφのプリフォームを射出成形した。金型温度15℃。次に、プリフォームを赤外線ヒーターにて65〜75℃に再加熱後、金型ブロー成形機を用い、丸形の500ml容金型ブローボトルを作成した。この場合、ブロー圧を圧縮空気圧30Kg/cmとする定圧ブロー成形とした。又、圧縮空気吹き込み口と排気口を併設させ、初期の圧縮空気圧が30Kg/cmとした後、排気バルブを暫時開放し、ブロー時間内に段階的にブロー圧を減少させ、最終的なブロー圧を0.5Kg/cmまで減圧した金型ブローを行った。
【0048】
カップ成形:前記ポリ乳酸を用いた。押し出し機を用い、スクリュー部のC1〜C4を190〜200℃、Tダイ温度を190℃とし、400mm幅、2mm厚のシートを作成した。このシートをサーモフォーム成形機を用い、70℃に再加熱後、円錐型プラグアシストにて縦方向に延伸すると同時に圧縮空気で円柱状カップを成形した。(口径80mmφ,底径50mmφ,高さ90mm)。金型温度15℃。この場合、吹き込みの圧縮空気の圧力を10Kg/cmの定圧とした成形と、吹き込み圧縮空気の圧力を初期空気圧10kg/cmから0.5kg/cmまで変化させた成形を行った。
【0049】
延伸シート成形:前記ポリ乳酸を用いた。射出成形機を用い、190〜200℃条件下、2mm厚の11mm×11mmサイズ平板を射出成形した。金型温度15℃。次に、二軸延伸装置を用い射出成形平板を70℃に再加熱後、延伸速度10m/minにて、2×2倍、2.5×2.5倍、3×3倍の同時二軸延伸した。又、延伸倍率を3×3倍と一定にし、延伸速度を50mm/min、500mm/min、1000mm/minと変化させた同時二軸延伸を行った。同様に、延伸倍率を3×3倍とし、初期延伸速度が1000mm/minであり、二軸延伸時間内に、段階的に500mm/min、50mm/minと延伸速度を減速させた二軸延伸を行った。
【0050】
(評価)
二軸延伸シートの延伸応力:東洋精機社製、二軸延伸装置を用い、二軸延伸時の延伸応力を測定した。この場合、延伸軸は二軸であるが、それぞれの延伸軸の延伸応力は同パターンを示した。このため、一軸方向の延伸応力を示した。
機械的強度:二軸延伸シートを用いた。延伸軸方向(X,Y)を軸とする方向、及び、延伸二軸方向のなす対角方向(45゜方向)を軸とする方向にそれぞれASTMD−1822型ダンベルを切り出し、ORIENTEC社製引っ張り試験機にて引っ張り応力−ひずみ曲線を得た。
圧縮強度:金型ブローボトルとサーモフォーム成形カップを用いた。ボトル、及び、カップの胴部(横方向)に10mmφのジグを用い、ひずみ量10%の圧縮ひずみ試験を行った。ひずみ変形時に胴部方向に割れを生成したボトル、及び、カップを×とし、変形時に割れが生成しないボトル、及び、カップを○とした。
【0051】
13C広幅NMR測定:JEOL 社製 NMR装置を用い、二軸延伸シート、金型ブローボトル、及び、サーモフォームカップから4mm幅に方向をそろえて切り出した切片を用い、切り出し方向をそろえて重ね合わせた後、ダイフロン製ホルダーに充填した。その後、13C広幅NMR測定を行った。又、着目原子核をカルボニル炭素領域に限定した。得られたNMRスペクトルは、無配向成分のみであれば、図1に示す非晶パターンを示す。もし、配向成分が存在していれば、図2R>2に示す非晶パターンに加え、図3,図4に示すような配向成分の配向軸とNMRの静磁場方向のなす角度依存スペクトルパターンを示す(例、X図3→垂直,図4→平行)。このため、実測の13C広幅NMR測定スペクトルから図2に示すパウダーパターンを差し引くことで、配向結晶成分の組成分率を求めることができる。はじめに、溶融試料を急冷した薄肉非晶試料を作成し、細かく裁断後、ダイフロン製試料管にランダム充填し、13C広幅NMR測定した(図1)。次に、二軸延伸シート、金型ブローボトル、並びに、サーモフォームカップから切り出した切片を、切り出し方向をそろえて重ね合わせ、13C広幅NMR測定を行った。それぞれの実測スペクトルをイメージスキャナーで読みとった後、スペクトルのX,Y座標を得た。その後、表計算ソフトウェア(マイクロソフト社製、Excel(登録商標))にて、二軸延伸シート、金型ブローボトル、並びに、サーモフォームカップの切片の13C広幅NMRスペクトルから無配向成分のパウダーパターンを差し引いた。計算前のスペクトルピーク強度をSとした。計算で差し引いた非晶成分をSaとした。この場合、S−Sa=Scが配向結晶成分となる。このため、ここでは、Do=(S−Sa)/Sが配向結晶成分の組成分を示す。ここで示した、13C広幅NMR測定は一般的な分析手法である。
【0052】
[実施例1]
2mm厚の平板を70℃に再加熱後、二軸延伸装置を用い延伸倍率3×3の同時二軸延伸を行った。初期延伸速度を1000mm/minとし、同時二軸延伸時間内に、段階的に延伸速度を500mm/min、50mm/minと低下させた。上記同時二軸延伸試料につき、延伸軸方向とその対角方向(45゜方向)の機械的強度(降伏点強度)、同試料の二軸延伸時の延伸応力パターン、並びに、13C広幅NMR測定から求めた配向結晶化度を表1に示した。
【0053】
[比較例1]
2mm厚の平板を70℃に再加熱後、二軸延伸装置を用い延伸倍率が3×3の同時二軸延伸を行った。延伸速度を1000mm/min、500mm/min、50mm/minのそれぞれの速度にて定速度延伸した。上記同時二軸延伸試料につき、延伸軸方向とその対角方向(45゜方向)の機械的強度(降伏点強度)、同試料の二軸延伸時の延伸応力パターン、並びに、13C広幅NMRから求めた配向結晶化度を表1に示した。
【0054】
[比較例2]
2mm厚の平板を70℃に再加熱後、二軸延伸装置を用い同時二軸延伸を行った。延伸速度を10m/minの定速度とし、延伸倍率を2×2倍、2.5×2.5倍、3×3倍と変化させた。上記同時二軸延伸試料につき、延伸軸方向とその対角方向(45゜方向)の機械的強度(降伏点強度)、同試料の二軸延伸時の延伸応力パターン、並びに、13広幅CNMRから求めた配向結晶化度を表2に示した。
【0055】
[実施例2]
前記ポリ乳酸を用いた。押し出し機を用い、スクリュー部のC1〜C4を190〜200℃、Tダイ温度を190℃とした、400mm幅、2mm厚のシートを作成した。このシートをサーモフォーム成形機を用い、70℃に再加熱後、円錐型のプラグアシストにて縦方向に延伸すると同時に初期圧縮空気圧15Kg/cmから終期に1Kg/cm低圧空気とし円柱状カップを成形した。(口径80mmφ,底径50mmφ,高さ90mm)金型温度15℃。カップ胴部(横方向)に10mmφ平板ジグを用い、ヒズミ量10%の圧縮変形させた。圧縮ひずみ変形時に、胴部に割れが生じないカップを○とし、変形時に胴部に割れが生じたカップ×とした。結果を表3に示した。
【0056】
[比較例3]
前記ポリ乳酸を用いた。押し出し機を用い、スクリュー部温度、C1〜C4を190〜200℃、Tダイ温度を190℃とした、400mm幅で2mm厚のシートを作成した。このシートをサーモフォーム成形機を用い、70℃に加熱後、円錐型プラグアシストにて縦方向に延伸すると同時に圧縮空気で円柱状カップに成形した。(口径80mmφ,底径50mmφ,高さ90mm)金型温度15℃。この場合、吹き込みの圧縮空気の圧力を15Kg/cmとした。カップ胴部(横方向)に10mmφ平板ジグを用い、ひずみ量10%で圧縮ひずみ変形させた。ひずみ変形後、胴部に割れが生じないカップを○とし、変形時に胴部に割れが生じたカップ×とした。結果を表3に示した。
【0057】
[実施例3]
前記ポリ乳酸を用いた。射出成形機を用い、190〜200℃条件下、28mmφのプリフォームを射出成形した。金型温度15℃。プリフォームを赤外線ヒーターを用い70〜75℃に再加熱後、金型ブロー成形機にて丸形の500ml容ブローボトルを作成した。ブロー時のブロー圧力は、圧縮空気吹き込み口と排気口を併設させ、初期に圧縮空気圧を30Kg/cmとした後、排気バルブを暫時開放し、ブロー時間内にブロー圧を段階的に減圧した。最終的に0.5Kg/cmまで減圧し金型ブローをした。上記成形金型ブローボトルの胴部(横方向)を、10mmφ平板ジグを用い、ヒズミ量10%まで圧縮ひずみ変形させた。圧縮ひずみ変形後、胴部に割れが生じないボトルを○とし、ひずみ変形時に胴部に割れが生じたボトル×とした。結果を表3に示した。
【0058】
[比較例4]
前記ポリ乳酸を用いた。射出成形機を用い、190〜200℃条件下、ノズル径28mmφのプリフォームを射出成形した。金型温度15℃。プリフォームを赤外線ヒーターを用い70〜75℃に再加熱後、金型ブロー成形機で500ml容の丸形ブローボトルを作成した。ブロー時の圧縮空気圧を30Kg/cmとする定圧ブロー成形を行った。上記成形金型ブローボトルにつき、胴部(横方向)を10mmφ平板ジグを用い、ヒズミ量10%の圧縮ひずみ変形させた。圧縮ひずみ変形後、胴部に割れが生じないボトルを○とし、ひずみ変形時に胴部に割れが生じたボトル×とした。結果を表3に示した。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
次に硬質炭素膜を形成した脂肪族ポリエステル延伸成形性に関する実施例及び比較例において、試料の調製及び測定を示した。
【0063】
(ボトル成形)
ポリ乳酸を射出成形機を用い、190℃〜200℃条件下、口径28mmφのプリフォームを射出成形した。金型温度15℃。次に、プリフォームを赤外線ヒーターにて65〜75℃に再加熱後、金型ブロー成形機を用い、500ml容の平均肉厚300μmの金型ブローボトルを作成した。この場合、圧縮空気吹き込み口と排気口を併設させ、初期の圧縮空気圧を30Kg/cmとした後、段階的にブロー時間内に減圧した。最終的なブロー圧力を0.5Kg/cmとした金型ブロー成形を行った。又、ブロー圧力を30Kg/cmの定圧とした金型ブロー成形を行った。
【0064】
(シート成形)
ポリ乳酸を押し出し機を用い、スクリュー部のC1〜C4温度を190℃〜200℃、Tダイ温度を190℃とした、200mm幅、2mm厚のシートを成形した。その後、加熱オーブンを用い、65℃〜75℃に再加熱し、改造したテンター式二軸延伸機を用い、3×3倍の二軸延伸を行った(平均肉厚:200μm)。この場合、初期の延伸速度を1m/minとし、所定の延伸倍率に至るまでに延伸速度を0.05m/minに段階的に減速した。又、延伸速度を1m/minとした定速延伸成形を行った。
【0065】
(炭素膜の製膜)
(ボトル)
CVD蒸着装置にて、ボトル形状の電極とボトル内部に設置した電極を用い、ボトル内圧力を真空減圧後、ヘキサン・アルゴン混合ガスを原料ガスとした、成膜圧0.1torr、高周波電力13.56MHzのPE−CVD炭素膜蒸着を行った。成膜温度25℃。
(延伸シート)真空チャンバー内上下に設定した平板電極を用い、ヘキサン・アルゴン混合ガスを原料ガスとした、成膜圧0.1torr、高周波電力13.56MHzのPE−CVD炭素膜蒸着を行った。成膜温度25℃。
【0066】
(酸素ガスバリア性)
(ボトル)
試作ボトルを真空チャンバー内に入れ、真空減圧した後、高純度窒素ガスを流入させ、ボトル内気相を窒素ガス置換した。その後、ゴム栓にて密封した。酸素濃度20.9%の30℃−RH80%条件に保存した。3週間後に、ガスタイトシリンジを用い、ボトル内空気を採取し、GC分析し、BOに換算した。
(延伸シート)
Mocon社製ガス透過試験機を用い、40℃条件下、酸素透過度を測定し、酸素透過係数に換算した。
【0067】
(機械的強度)
(ボトル)
金型ブローボトルと炭素薄膜を蒸着後のボトル胴部(横方向)に10mmφのジグを用い、ひずみ量10%の圧縮ひずみ試験を行った。ひずみ変形時に胴部方向で割れが生成したボトルを×とし、変形時に割れの生じないボトルを○とした。
(延伸シート)
二軸延伸シートを用いた、延伸軸方向(X,Y)を軸とする方向、及び、延伸二軸のなす対角方向(45°)を軸とする方向にそれぞれASTM−1822型ダンベルを切り出し、ORIENTEC社製引っ張り試験機にて引っ張り応力−ひずみ曲線を得た。
【0068】
[実施例4]
ポリ乳酸を射出成形機を用い、190℃〜200℃条件下、口径28mmφのプリフォームを射出成形した。金型温度15℃。次に、プリフォームを赤外線ヒーターにて65℃〜75℃に再加熱後、金型ブロー成形機を用い、500ml容の平均肉厚300μmの金型ブローボトルを作成した。この場合、圧縮空気吹き込み口と排気口を併設させ、初期の圧縮空気圧を30Kg/cmとした後、段階的にブロー時間内に減圧した。最終的なブロー圧力を0.5Kg/cmとした金型ブロー成形を行った。次に、CVD蒸着装置にて、ボトル形状の電極とボトル内部に設置した電極を用い、ボトル内圧力を真空減圧後、ヘキサン・アルゴン混合ガスを原料ガスとする、成膜圧0.1torr、高周波電力13.56MHzのPE−CVD炭素膜蒸着を行った。成膜温度25℃。炭素膜を蒸着後のボトルを酸素濃度20.9%の40℃−RH80%に保存して得たBOを得た。更に、ボトル胴部(横方向)に10mmφのジグを用い、ひずみ量10%の圧縮ひずみ試験を行った。ひずみ変形時に胴部方向で割れが生成したボトルを×とし、変形時に割れの生じないボトルを○とした。得られた結果を表4に示した。
【0069】
[比較例5]
ポリ乳酸を射出成形機を用い、190℃〜200℃条件下、口径28mmφのプリフォームを射出成形した。金型温度15℃。次に、プリフォームを赤外線ヒーターにて65℃〜75℃に再加熱後、金型ブロー成形機を用い、500ml容の平均肉厚300μmの金型ブローボトルを作成した。この場合、圧縮空気吹き込み口と排気口を併設させ、初期の圧縮空気圧を30Kg/cmとした後、段階的にブロー時間内に減圧した。最終的なブロー圧力を0.5Kg/cmとした金型ブロー成形を行った。上記ボトルを窒素置換後、酸素濃度20.9%の30℃−RH80%に保存して得たボトルのBOを得た。更に、ボトル胴部(横方向)に10mmφのジグを用い、ひずみ量10%の圧縮ひずみ試験を行った。ひずみ変形時に胴部方向で割れが生成したボトルを×とし、変形時に割れの生じないボトルを○とした。得られた結果を表4に示した。
【0070】
[比較例6]
ポリ乳酸を射出成形機を用い、190℃〜200℃条件下、口径28mmφのプリフォームを射出成形した。金型温度15℃。次に、プリフォームを赤外線ヒーターにて65℃〜75℃に再加熱後、金型ブロー成形機を用い、500ml容の平均肉厚300μmの金型ブローボトルを作成した。この場合、圧縮空気圧力を30Kg/cmの一定圧とした金型ブロー成形を行った。次に、CVD蒸着装置にて、ボトル形状の電極とボトル内部に設置した電極を用い、ボトル内圧力を真空減圧後、ヘキサン・アルゴン混合ガスを原料ガスとする、成膜圧0.1torr、高周波電力13.56MHzのPE−CVD炭素膜蒸着を行った。成膜温度25℃。炭素膜を蒸着後のボトルを酸素濃度20.9%の30℃−RH80%に保存して得たボトルのBOを得た。更に、ボトル胴部(横方向)に10mmφのジグを用い、ひずみ量10%の圧縮ひずみ試験を行った。ひずみ変形時に胴部方向で割れが生成したボトルを×とし、変形時に割れの生じないボトルを○とした。得られた結果を表4に示した。
【0071】
[実施例5]
ポリ乳酸を押し出し機を用い、スクリュー部のC1〜C4温度を190℃〜200℃、Tダイ温度を190℃とした、200mm幅、2mm厚のシートを成形した。その後、加熱オーブンを用い、65℃〜75℃に再加熱し、改造したテンター式二軸延伸機を用い、3×3倍の二軸延伸を行った(平均肉厚:200μm)。この場合、初期の延伸速度を10m/minとし、所定の延伸倍率に至るまでに延伸速度を0.05m/minに段階的に減速した。次に、真空チャンバー内上下に設定した平板電極を用い、ヘキサン・アルゴン混合ガスを原料ガスとした、成膜圧0.1torr、高周波電力13.56MHzのPE−CVD炭素膜蒸着を行った。成膜温度25℃。更に、Mocon社製ガス透過試験機を用い、40℃条件下、酸素透過度を測定し、酸素透過係数に換算した。更に、延伸軸方向(X,Y)を軸とする方向、及び、延伸二軸のなす対角方向(45°)を軸とする方向にそれぞれASTM−1822型ダンベルを切り出し、ORIENTEC社製引っ張り試験機にて引っ張り応力−ひずみ曲線を得た。得られた結果を表5に示した。
【0072】
[比較例7]
ポリ乳酸を押し出し機を用い、スクリュー部のC1〜C4温度を190℃〜200℃、Tダイ温度を190℃とした、200mm幅、2mm厚のシートを成形した。その後、加熱オーブンを用い、65℃〜75℃に再加熱し、改造したテンター式二軸延伸機を用い、3×3倍の二軸延伸を行った(平均肉厚:200μm)。この場合、初期の延伸速度を10m/minとし、所定の延伸倍率に至るまで延伸速度を0.05m/minに段階的に減速した。上記延伸シートを用い、Mocon社製ガス透過試験機を用い、40℃条件下、酸素透係数を測定し、酸素透過係数に換算した。更に、延伸軸方向(X,Y)を軸とする方向、及び、延伸二軸のなす対角方向(45°)を軸とする方向にそれぞれASTM−1822型ダンベルを切り出し、ORIENTEC社製引っ張り試験機にて引っ張り応力−ひずみ曲線を得た。得られた結果を表5に示した。
【0073】
[比較例8]
ポリ乳酸を射出成形機を用い、スクリュー部のC1〜C4温度を190℃〜200℃、Tダイ温度を190℃とした、200mm幅、2mm厚のシートを成形した。その後、加熱オーブンを用い、65℃〜75℃に再加熱し、改造したテンター式二軸延伸機を用い、3×3倍の二軸延伸を行った(平均肉厚:200μm)。
この場合、延伸速度を10m/minの一定延伸速度とした。次に、CVD蒸着装置にて、ボトル形状の電極とボトル内部に設置した電極を用い、ボトル内圧力を真空減圧後、ヘキサン・アルゴン混合ガスを原料ガスとする、成膜圧0.1torr、高周波電力13.56MHzのPE−CVD炭素膜蒸着を行った。成膜温度25℃。上記延伸シートを用い、Mocon社製ガス透過試験機を用い、40℃条件下、酸素透過係数を測定し、素透過係数に換算した。更に、延伸軸方向(X,Y)を軸とする方向、及び、延伸二軸のなす対角方向(45°)を軸とする方向にそれぞれASTM−1822型ダンベルを切り出し、ORIENTEC社製引っ張り試験機にて引っ張り応力−ひずみ曲線を得た。得られた結果を表5に示した。
【0074】
【表4】

【0075】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】脂肪族ポリエステル延伸成形体についての各種延伸成形品について得られた延伸倍率(軸方向延伸倍率、面積延伸倍率)と配向結晶化度(Do)との関係を示すグラフである。
【図2】無配向の脂肪族ポリエステルの13C広幅NMRスペクトルパターンを示した。
【図3】配向軸とNMRの静磁場方向とが直角方向になる場合の脂肪族ポリエステルの13C広幅NMRスペクトルパターンを示した。
【図4】配向軸とNMRの静磁場方向とが平行方向にした場合の脂肪族ポリエステルの13C広幅NMRスペクトルパターンを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステルを主体とする樹脂のシートを、一定の延伸温度下、初期の延伸速度が大きく且つ終期の延伸速度が小さくなるように延伸速度を可変制御して圧空成形乃至プラグアシスト成形してなるカップであって、10%圧縮ひずみに耐え得る強度を有することを特徴とするカップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−82562(P2006−82562A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−340090(P2005−340090)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【分割の表示】特願平11−193585の分割
【原出願日】平成11年7月7日(1999.7.7)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】