説明

脂肪細胞分化促進剤

【課題】 本発明は、脂肪細胞の分化を促進する作用を有しながらも、日々安全な食品として摂取することのできる脂肪細胞分化促進剤を提供することを目的とするものである。
【解決手段】 本発明は、3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸、又はその薬理上許容される塩を有効成分とする、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への脂肪細胞分化促進剤と、前記塩を有効成分とする内臓脂肪増加抑制剤と、前記脂肪細胞分化促進剤を含有する食品を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脂肪細胞分化促進剤に関し、詳しくはマティコ(Matico)(Piper sp.)から抽出された特定の成分を有効成分とし、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化促進作用により、肥大化脂肪細胞を減らし、小型脂肪細胞を増やす性質を有する脂肪細胞分化促進剤に関する。特に生活習慣病と関連するアディポサイトカイン類の過剰分泌を引き起こす内臓脂肪の肥大化を抑えることにより、糖尿病、高脂血症、高血圧、動脈硬化、ガン等の生活習慣病を幅広く予防、改善するための健康食品素材、医薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国では食生活が豊かになり、現在では飽食の時代とも呼ばれ、カロリー摂取過剰、運動不足も原因となり、肥満或いは糖尿病が急激に増加している。現在、30歳代の男性は3人に1人が過体重か肥満であり、40〜50歳代では4割近くが肥満である。肥満は合併症として高脂血症や動脈硬化症、糖尿病をもたらすことが知られている。
肥満とは、脂肪細胞に異常に脂肪が蓄積して細胞が肥大した状態である。これまで脂肪細胞は、余剰のエネルギーを貯めるための組織であると考えられてきた。
しかしながら、最近、脂肪細胞はレプチン、アディポネクチン、TNF-α、レジスチン、遊離脂肪酸をはじめとして様々なホルモン、サイトカインを分泌し、生体で最も活発な内分泌臓器であることが分かってきた。特に、内臓脂肪において分泌が盛んであることが知られており、肥大脂肪細胞ではインスリン抵抗性惹起分子といわれるTNF-α、レジスチン、遊離脂肪酸などを過剰分泌するようになる。このことがインスリン抵抗性の原因となり、糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化、ガン等の生活習慣病につながると考えられている。即ち、内臓脂肪の蓄積が生活習慣病と密接に関係している。
【0003】
従って、生活習慣病を予防するためには、肥大した脂肪細胞を小型の脂肪細胞にすることが重要と考えられる。脂肪細胞の分化は、核内受容体型転写因子とよばれるPPARγ(peroxisome proliferator-activated receptor γ)によって主に制御がなされている。
小型の脂肪細胞を増やすためには、PPARγの作用を強めて前駆脂肪細胞から脂肪細胞の分化を促す方法が考えられる。糖尿病治療薬に用いられているチアゾリジン系薬剤は、強力なPPARγアゴニスト(作用薬)であり、小型脂肪細胞への分化と共に、肥満した脂肪細胞をアポトーシスにより減らす作用もあるといわれる。実際に臨床においてインスリン感受性が高まり、血糖降下作用のあることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで生活習慣病の元凶は、正常の小型脂肪細胞が、大型脂肪細胞へと肥大し、これに伴って、インスリン抵抗性或いは病態惹起物質が過剰分泌されるためである。
従って、種々の生活習慣病を予防、改善するためには、小型脂肪細胞から肥大脂肪細胞への進展を止めること、或いは肥大化脂肪細胞を減らすことが必要である。そのためには、そのような大型脂肪細胞を減らし、小型脂肪細胞への分化を促進するような素材を、日々安全な食品として摂取することが重要と考えられる。
しかしながら、食品素材としてそのような観点から研究された例はなく、このような機能性を持つ素材は知られていない。
【0005】
【特許文献1】特許第3176694号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来の課題を解消し、脂肪細胞の分化を促進する作用を有しながらも、日々安全な食品として摂取することのできる脂肪細胞分化促進剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは、肥大化脂肪細胞を減らし、小型脂肪細胞を増加させることを目的としてPPARγアゴニスト様作用をもつ植物を脂肪細胞の分化促進を指標にスクリーニングを行ってきた。
その結果、本発明者らは、マティコ(Matico)(Piper sp.)から抽出される成分が前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化を促進することを見出し、また、実際に遺伝的糖尿病db/dbマウスの糖代謝、脂質代謝を著しく促進することを確認し、既に特許出願を行っている(特願2004−206668)。
本発明者らは、さらに研究を重ねた結果、この成分を単離することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0008】
請求項1に係る本発明は、3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸[3-(4,8-dimethylnona-3,7-dienyl)-5-(methylpenta-3-enyl)-p-hydroxybenzoic acid]、又はその薬理上許容される塩を有効成分とする、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への脂肪細胞分化促進剤を提供するものである。
請求項2に係る本発明は、3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸、又はその薬理上許容される塩を有効成分とする、肥大化脂肪細胞から小型正常脂肪細胞への脂肪細胞分化促進剤を提供するものである。
請求項3に係る本発明は、3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸、又はその薬理上許容される塩を有効成分とする、内臓脂肪増加抑制剤を提供するものである。
請求項4に係る本発明は、3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸、又はその薬理上許容される塩を有効成分とする、アディポサイトカイン分泌異常を伴う生活習慣病の予防、改善剤を提供するものである。
請求項5に係る本発明は、3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸、又はその薬理上許容される塩を有効成分とする、脂肪細胞の分化に関連する転写因子を介した疾病の予防、改善剤を提供するものである。
請求項6に係る本発明は、3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸、又はその薬理上許容される塩を有効成分とする、請求項1記載の脂肪細胞分化促進剤を含有する食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の脂肪細胞分化促進剤は、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化を促進することにより、正常の小型脂肪細胞を増やし、糖及び脂質の代謝を活性化させる。また、肥大化脂肪細胞から脂肪細胞への分化を促進することにより、正常の小型脂肪細胞を増やし、肥大化脂肪細胞を減少させる。従って、肥大化脂肪細胞の増加に伴い引き起こされる糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満、免疫異常、ガン等の生活習慣病に対して、予防及び治療効果を示すものと考えられる。
本発明の脂肪細胞分化促進剤は、低濃度においても強い活性を有しているので、様々な食品や加工食品や医薬品等に添加して利用可能であり、上記のような生活習慣病の予防、改善のための食品として有効に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
請求項1に係る本発明は、3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸[3-(4,8-dimethylnona-3,7-dienyl)-5-(methylpenta-3-enyl)-p-hydroxybenzoic acid]、又はその薬理上許容される塩を有効成分とする、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への脂肪細胞分化促進剤である。
【0011】
請求項1に係る本発明の脂肪細胞分化促進剤の有効成分である3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸は、分子式がC22H30Oで表され、分子量(化学式量)は342.4772である。3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸の化学構造式は、以下に示されるとおりであると推定される。
【0012】
【化1】

【0013】
請求項1に係る本発明における前駆脂肪細胞から脂肪細胞への脂肪細胞分化促進剤は、上記した3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸、又はその薬理上許容される塩を有効成分とするものである。
【0014】
請求項1に係る本発明の脂肪細胞分化促進剤の有効成分である3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸、又はその薬理上許容される塩は、マティコ(Matico)の茎、葉及び根のいずれか1以上から抽出・精製することにより得ることができる。マティコ(Matico)の茎及び/又は葉、特に茎及び葉が好ましい。マティコ(Matico)の茎、葉、根としては、それらの乾燥品を用いることができ、さらに、この乾燥品を粉砕して用いることもできる。
【0015】
ここでマティコ(Matico)とは、コショウ科コショウ属に属する南米原産の植物の総称(Piper sp.)である。本発明においてマティコ(Matico)とは、一般的にマティコ(Matico)と呼ばれている、ピパー・ラクノサム[Piper lacunosum]とピパー・アングスティフォリウム[Piper angustifolium (P. angusitifoliaともいう。)]とピパー・エロンガタム[P. elongatum]の他に、広くピパー・アダンカム[P. aduncum],ピパー・ヒスピディウム[P. hispidium],ピパー・パープラセンス[P. purpurascence],ピパー・アクニュスティフォリウム[P. acnyustifolium]を含む。
マティコ(Matico)は、南米に自生する低木であり、民間療法として皮膚炎の治療その他に利用されており、また、マティコ(Matico)の1つであるピパー・アングスティフォリウム[Piper. angustifolium]の溶剤抽出物は、脂肪組織分解剤として特許されている(特許第1784216号)が、脂肪細胞の分化促進作用を示すことはこれまで全く知られておらず、しかもその有効成分がどのようなものであるかは全く知られていない。
【0016】
請求項1に係る本発明の脂肪細胞分化促進剤の有効成分である3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸、又はその薬理上許容される塩は、マティコに限らず、このものを含む植物類から精製することができる。或いは化学合成することも可能である。
【0017】
請求項1に係る本発明の脂肪細胞分化促進剤の有効成分である3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸、又はその薬理上許容される塩は、例えば、マティコ(Matico)など、このものを含む植物類から、抽出、精製操作により得ることができる。
ここで抽出は、メタノール、エタノール、ブタノール、ジエチルエーテル等の有機溶媒又はこれらの含水物を用いて行うことができ、特にエタノールを用いて行うことが好ましい。エタノール抽出物、特にそのヘキサン可溶性画分を精製することにより、目的とする3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸、又はその薬理上許容される塩を得ることができる。
【0018】
請求項1に係る本発明の脂肪細胞分化促進剤は、このようにして得られた3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸、又はその薬理上許容される塩を機能性食品製剤、医薬品などとして、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤などの各種形態としたものであり、これを経口摂取したり、静脈注射などの方法によって生体内に取り入れることができる。その他、栄養補助剤を本製剤に添加して用いることもできる。なお、各種剤型とするに際し、慣用の賦形剤を用いることもできる。
【0019】
請求項1に係る本発明の脂肪細胞分化促進剤の使用量については、基本的には脂肪細胞への分化を促進するために有効な量であるが、具体的には、成人で1日あたり0.001g〜2g、好ましくは0.01g〜0.5g程度が摂取できるように、1日1回乃至数回に分けて用いると良い。通常、数週間乃至数ヶ月間反復摂取(服用)することが望ましい。
【0020】
請求項2に係る本発明は、請求項1に係る本発明と同じく3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸、又はその薬理上許容される塩を有効成分とするものであるが、請求項1に係る本発明の如き前駆脂肪細胞から脂肪細胞への脂肪細胞分化促進剤ではなく、肥大化脂肪細胞から小型正常脂肪細胞への脂肪細胞分化促進剤である点で異なっている。
請求項2に係る本発明によれば、肥大化脂肪細胞から小型正常脂肪細胞への脂肪細胞分化促進作用により、肥大化脂肪細胞を減らし、小型正常脂肪細胞を増やすことができる。
【0021】
次に、請求項3に係る本発明は、請求項1に係る本発明と同じく3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸、又はその薬理上許容される塩を有効成分とするものであるが、内臓脂肪増加抑制剤である。
請求項3に係る本発明によれば、内臓脂肪の増加、肥大化を抑制することができる。
【0022】
請求項4に係る本発明は、請求項1に係る本発明と同じく3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸、又はその薬理上許容される塩を有効成分とするものであるが、アディポサイトカイン分泌異常を伴う生活習慣病の予防、改善剤である。
請求項4に係る本発明によれば、特に生活習慣病と関連するアディポサイトカインの分泌異常を引き起こす内臓脂肪の肥大化を抑えることにより、脂肪細胞に由来する、糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化、ガン等の生活習慣病を幅広く予防、改善することができる。
【0023】
請求項5に係る本発明は、請求項1に係る本発明と同じく3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸、又はその薬理上許容される塩を有効成分とするものであるが、脂肪細胞の分化に関連する転写因子を介した疾病の予防、改善剤である。脂肪細胞の分化に関連する転写因子を介した疾病としてより具体的には、高血圧、糖尿病、高脂血症、動脈硬化、免疫疾患、ガン、肥満、炎症等を挙げることができ、請求項5に係る本発明は、そのような脂肪細胞の分化に関連する転写因子を介した疾病を幅広く予防、改善することができる。
即ち、3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸は、脂肪細胞分化関連転写因子を介した疾病の予防、改善剤として、或いはPPARγ、PPARα、PPARδを含むPPARs、を介した疾病の予防、改善剤として有効に用いられる。
【0024】
さらに、請求項6に係る本発明は、請求項1記載の脂肪細胞分化促進剤を含有する食品である。
即ち、請求項1記載の脂肪細胞分化促進剤をそのまま、或いはこれに適宜栄養補助剤等を添加し、糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化、ガン等の生活習慣病を幅広く予防、改善するための機能性食品として用いることができる。
また、食品だけでなく、糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化、ガン等の生活習慣病を幅広く予防、改善するための医薬品として用いることもできる。
【0025】
なお、請求項2〜5に係る発明について、請求項1と同様に、上記請求項6の如き限定のされたものとすることができる。
即ち、それぞれ請求項2記載の脂肪細胞分化促進剤を含有する食品、請求項3記載の内臓脂肪増加抑制剤を含有する食品、請求項4記載のアディポサイトカイン分泌異常を伴う生活習慣病の予防、改善剤を含有する食品、請求項5記載の脂肪細胞の分化に関連する転写因子を介した疾病の予防、改善剤を含有する食品、とすることができる。
【0026】
また、請求項1記載の脂肪細胞分化促進剤、請求項2記載の脂肪細胞分化促進剤、請求項3記載の内臓脂肪増加抑制剤、請求項4記載のアディポサイトカイン分泌異常を伴う生活習慣病の予防、改善剤、請求項5記載の脂肪細胞の分化に関連する転写因子を介した疾病の予防、改善剤は、それぞれ飼料中に添加することもでき、上記食品と同様に、それぞれを含有する飼料、とすることができる。ここで飼料としては、例えば、霜降り肉用の飼料等が挙げられる。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
【0028】
製造例1(マティコ(Matico)のエタノール抽出物の製造)
マティコ(Matico)(ピパー・ラクノサム[Piper lacunosum])の乾燥茎葉1kgにエタノールを10リットル加え、加熱還流抽出を行い、得られた抽出液をロータリーエバポレーターで濃縮、乾固した。これにより、マティコ(Matico)のエタノール抽出エキス末85gを得た。
【0029】
製造例2(M−215の製造)
製造例1で得られたマティコ(Matico)のエタノール抽出エキス末85gに、ヘキサン2リットルを加えよく攪拌し、濾液を得た。同様の操作を2回繰り返し、ヘキサン可溶物20gを得た。ヘキサン:エタノール:水(20:20:3)の混液で液々分離を行い、ヘキサン層について濃縮後、シリカゲルカラムで分画を行った。ヘキサン:エタノール93:7で溶出し、3番目に溶出されるピークを採取した。得られた分画物を分取用のHPLCカラムを用いて単一成分にまで精製した。
得られた成分について、NMR分析、質量分析により構造を決定した。
【0030】
その結果、得られたピーク成分(以下、M−215と称する。)は、3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸であることが分かった。
【0031】
実施例1
製造例2で得られた本発明の化合物(M−215)および製造例1で得られたエタノール抽出エキス末(被検物)について、次のようにして脂肪細胞分化促進作用を測定した。
マウス由来の前駆脂肪細胞3T3−L1を、6穴マルチプレートを用いて10%牛胎児血清を含むDME培地(ダルベッコ変法イーグル培地)にて37℃で培養した。なお、培地は2〜3日毎に交換した。細胞が密集状態に達した後、以下の代表的な試薬で分化誘導を行った。即ち、培地にデキサメタゾン,メチルイソブチルキサンチン及びインスリンの3種類の混合液、或いはインスリンを添加することによって、分化誘導処理した。このとき、製造例2で得られたM−215と製造例1で得られたエタノール抽出エキス末(被検物)をそれぞれ10μg/ml添加した。分化誘導処理は2日間行い、その後は元の培地で培養を続けたが、インスリンと各被検物は培地交換のときに添加し続けた。約1週間後、脂肪細胞への分化の指標となる培地中のグリセロール−3−リン酸脱水素酵素活性(以下、GPDH活性と略称する。)を定量した。この酵素は、糖及び脂質代謝における重要な酵素であり、前駆脂肪細胞が分化して脂肪細胞になると、活性が上昇する。従って、この酵素活性が上昇すれば、分化が起こっていることになる。また、脂肪細胞への分化が起こると、細胞内でのトリグリセライド(TG)量が増大するため、同時に細胞内のTG量も測定し、分化の指標とした。
【0032】
結果を表1に示す。表中の数値は、インスリンによる分化誘導処理を行った場合のTG量並びにGPDH活性を基準(100%)として、被検物により生じたTG量並びにGPDH活性を比較した相対活性(%)である。
表1から明らかなように、製造例1で得られたマティコ(Matico)のエタノール抽出エキス末10μg/mlの添加により、細胞内TG量は無添加(インスリンによる分化誘導処理)の153%まで増大し、GPDH活性についても251%まで増大した。
これに対し、本発明の化合物(M−215)10μg/mlの添加時には、TG量、GPDH活性は各々249%、618%まで、さらに大きく増大した。
【0033】
【表1】


それぞれの値は、無添加(インスリンによる分化誘導処理)の場合の測定値に対する相対活性(%)である
【0034】
本発明の脂肪細胞分化促進剤をそのまま、或いはこれに適宜栄養補助剤等を添加し、糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化、ガン等の生活習慣病を幅広く予防、改善するための機能性食品として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸、又はその薬理上許容される塩を有効成分とする、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への脂肪細胞分化促進剤。
【請求項2】
3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸、又はその薬理上許容される塩を有効成分とする、肥大化脂肪細胞から小型正常脂肪細胞への脂肪細胞分化促進剤。
【請求項3】
3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸、又はその薬理上許容される塩を有効成分とする、内臓脂肪増加抑制剤。
【請求項4】
3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸、又はその薬理上許容される塩を有効成分とする、アディポサイトカイン分泌異常を伴う生活習慣病の予防、改善剤。
【請求項5】
3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸、又はその薬理上許容される塩を有効成分とする、脂肪細胞の分化に関連する転写因子を介した疾病の予防、改善剤。
【請求項6】
3-(4,8-ジメチルノナ-3,7-ジエニル)-5-(メチルペンタ-3-エニル)-p-ヒドロキシ安息香酸、又はその薬理上許容される塩を有効成分とする、請求項1記載の脂肪細胞分化促進剤を含有する食品。

【公開番号】特開2007−204430(P2007−204430A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−25554(P2006−25554)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(591046892)富士産業株式会社 (12)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】