説明

脂肪酸の除去方法

【課題】脂肪酸を含む試料から脂肪酸を効率良く除去することができ、なお且つ簡便な脂肪酸の除去方法を提供する。
【解決手段】脂肪酸を含む試料をγ−Alに接触させることによって、脂肪酸をγ−Alに吸着させて試料中から除去する。このような方法を用いることにより、試料中に含まれる脂肪酸を効率良くなお且つ簡便な方法で除去することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ−Al(γ−酸化アルミニウム、γ−アルミナ)を用いた脂肪酸の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸は、油脂の構成成分であり、多くの生体内でエネルギー源として代謝されている。そのため、残留農薬分析や環境ホルモンなどの分析対象物質の分析において、特に生体試料中に多種存在している。しかしながら、試料中に脂肪酸が存在すると、農薬や環境ホルモンの測定、特に定量分析に与える影響が大きく、微量分析や高感度分析においては、前処理により脂肪酸と分析対象物を分離する必要がある。
【0003】
現在、分析対象物質と脂肪酸とを分離する方法としては、イオン交換樹脂を用いる方法が知られている。しかしながら、分析対象物質がカルボキシル基を有する場合は、分析対象物質も脂肪酸と同様にイオン交換樹脂に吸着してしまうため、うまく分離することができない。
【0004】
例えば、下記非特許文献1では、残留農薬分析における脂肪酸除去方法について開示されている。この方法は、弱塩基性イオン交換樹脂を用いて、試料中の脂肪酸を吸着・除去するものである。弱塩基性イオン交換樹脂としては、例えばバリアン社のボンドエルートPSAなどを使用することができる。
【非特許文献1】J. Assoc. of Anal. Chem., 1988 Sep-Oct 71(5) 875-92
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる状況に鑑みてなされたものであり、目的物質(分析対象物質)と脂肪酸とを含む試料から障害物質である脂肪酸を効率良く除去することができ、なお且つ簡便な脂肪酸の除去方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、そのような脂肪酸の除去方法を用いることによって、試料中に含まれる脂肪酸を除去し、目的物質を効率良く抽出することができる目的物質の抽出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、脂肪酸を含む試料をγ−Alに接触させることによって試料中の脂肪酸を効率良く除去することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の手段を提供する。
(1) 脂肪酸を含む試料をγ−Alに接触させることによって、前記脂肪酸を前記γ−Alに吸着させて前記試料中から除去することを特徴とする脂肪酸の除去方法。
(2) 前記脂肪酸が、カルニチン酸、デカン酸、ドデカン酸、リノール酸、リノレイン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸の何れかであることを特徴とする前項(1)に記載の脂肪酸の除去方法。
(3) 少なくとも目的物質及び脂肪酸を含む試料を、少なくともγ−Alが充填された抽出用具に流通させることによって、前記脂肪酸を前記γ−Alに吸着させると共に、前記目的物質を前記抽出用具から流出させることを特徴とする目的物質の抽出方法。
(4) 前記抽出用具が、カラム、カートリッジ、ディスク、フィルター、プレート又はキャピラリーの何れかの形態を有することを特徴とする前項(3)に記載の目的物質の抽出方法。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明では、脂肪酸を含む試料をγ−Alに吸着させることによって、試料中に含まれる脂肪酸を効率良くなお且つ簡便な方法で除去することが可能である。
また、本発明では、そのような脂肪酸の除去方法を用いることによって、試料中に含まれる脂肪酸を除去し、目的物質を効率良く抽出することができる目的物質の抽出方法を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(脂肪酸の除去)
本発明を適用した脂肪酸の除去方法は、脂肪酸を含む試料をγ−Alに接触させることにより、脂肪酸をγ−Alに吸着させて試料中から除去することを特徴としている。
【0010】
この脂肪酸の除去方法では、疎水性が高く、比表面積の大きい多孔質なγ−Alを好適に用いている。Alには、α−、δ−、γ−等の結晶系が存在する。このうち、γ−Alは、低温アルミナとも言われ、正方晶系をなしており、例えばAl(OH)(水酸化アルミニウム)を比較的低温度(例えば500℃)で焼成することによって得ることができる。
【0011】
本発明を適用した脂肪酸の除去方法は、例えば残留農薬の分析における脂肪酸の除去に好適に用いることができる。

また、除去すべき脂肪酸としては、長鎖炭化水素のカルボン酸を挙げることができ、例えば飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸などを挙げることができる。飽和脂肪酸としては、例えば、カプロン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、デカン酸、ドデカン酸、カルニチン酸などを挙げることができる。また、不飽和脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などを挙げることができる。
【0012】
本発明では、脂肪酸を含有する試料をγ−Alと接触させる方法について特に制限はなく、例えば、粒状又は球状のγ−Alを充填したカラムに試料を流通させることにより、接触させることができる。また、試料に粉末のγ−Alを混合撹拌して接触させた後に、このγ−Alを濾別することもできる。
【0013】
また、γ−Alによる脂肪酸の除去は、吸着によって行われるが、吸着処理後の分離は、例えば、カラム法、遠心分離法、濾過法等自体公知の分離手段を利用し、脂肪酸が吸着したγ−Alを試料中から分離除去することにより行うことができる。
【0014】
(目的物質の抽出方法)
本発明を適用した目的物質の抽出方法は、少なくとも目的物質及び脂肪酸が含有された試料を、少なくともγ−Alが充填された抽出用具に流通させることによって、脂肪酸をγ−Alに吸着させると共に、目的物質を抽出用具から流出させることを特徴とする。また、このような方法を用いることによって、目的物質の精製・濃縮・分離・分取・分析・定量・測定など行うことができる。
【0015】
ここで、目的物質とは、このような精製・濃縮・分離・分取・分析・定量・測定などを対象となる物質のことを言い、このような目的物質として、例えば、環境水、底質又は大気中に存在するダイオキシン類や、環境ホルモン、生物毒素、農薬など、動植物の体液又は組織中に存在する化合物である医薬や、農薬、界面活性剤、ホルモン、神経伝達物質、ビタミン及びそれらの代謝物など、また、天然物に含まれている化合物である天然薬物や、天然色素、天然香料、天然調味料などを挙げることができる。
【0016】
また、このような目的物質を含む試料としては、例えば、雨水、河川水、湖沼水、上水、下水、工場廃水、海水のような環境水を挙げることができる。また、尿、血液などの体液又はそれらからの分離液や抽出液や、植物又は動物の組織からの抽出液などを挙げることができる。また、焼却炉排気ガス、各種製造設備排気ガス、室内空気、自動車排気ガス、幹線道路上空捕集大気のような環境大気又はそれらを通気させて得られる吸収液などを挙げることができる。
【0017】
本発明を適用した目的物質の抽出方法に用いられる抽出用具は、例えば図1に示すようなカラム1であり、このカラム1は、脂肪酸を除去する除去用剤2aとしてγ−Alを含む充填剤2が容器本体2である注射筒型容器(リザーバー)に充填されることにより構成されている。また、充填剤2の上下には、図示略のフィルターが取り付けられている。また、充填剤2は、この除去用剤2aと共に、目的物質の抽出を阻害する別の物質を吸着する吸着剤が含有されたものであってもよい。
【0018】
容器本体3は、その形状に特に制限はなく、処理量に応じて適切な大きさのものを使用することができる。通常は、容積0.1〜100ml、好ましくは3〜6ml程度のものがハンドリングの面で好適である。また、容器本体3の材質としては、ガラス製、ステンレス製、樹脂製(たとえばポリプロピレン、ポリエチレン)のものが好ましく、使用する溶媒に不溶性で、充填剤2が試料の流通作業中に容器本体3から流出しなければよく、その材質、形は特に制限されるものではない。また、抽出用具は、このようなカラム1の他にも、カートリッジ、ディスク、フィルター、プレート又はキャピラリーなどの何れの形態を有するものであってもよい。
【0019】
さらに、充填剤2の形状は、ロッド状(充填剤が一つの塊として容器本体3の内部とほぼ同じサイズとなっている)、バルク状(1mm〜5cm程度の塊)、粒子状、繊維状の何れであってもよいが、その中でもロッド状又は粒子状が好ましい。粒子状の場合は、破砕型粒子でも球状粒子でもよい。粒子状とする場合の数平均粒子径は、10μm以上1000μm以下の範囲が好ましく、30μm以上700μm以下の範囲がより好ましく、50μm以上500μm以下の範囲が最も好ましい。平均粒子径が10μm未満になると、カラム1に流通させる試料の流速を上げた場合に、充填剤2の前後の静圧の差(圧力損失)が大きくなり、高流速で試料を流すことができない。また、平均粒子径が1000μmを越えると、吸着効率が悪くなるので好ましくない。なお、系充填剤2の平均粒子径は、JIS Z 8801に定める試験用ふるいを用いて、JIS Z8815ふるいわけ試験方法通則に準拠して測定する。また、充填剤2は、上記の形状のものを組み合わせて使用することもできる。例えば、バルク状充填剤の隙間に粒子状又は繊維状のものを詰めて使用することも可能である。
【0020】
充填剤2の比表面積は、50m/g以上であることが好ましく、100m/g以上がより好ましい。比表面積が50m/g未満だと吸着効率が悪くなるので好ましくない。なお、比表面積はBET法により測定されたものである。
【0021】
本発明を適用した目的物質の抽出方法では、例えば図2に示すように、上記カラム1を用意し、このカラム1に対して目的物質11及び脂肪酸12を含む試料13を流通(流下)させる。すると、試料13中の脂肪酸12が充填剤2(γ−Al)2aに吸着される一方、目的物質11は充填剤2に吸着されずに、そのままカラム1から流出される。これにより、試料中13中に含まれる脂肪酸12を除去しながら、目的物質11を抽出することができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
(実施例1)
γ−Al粉末(関東化学社製)50mgを1mlの注射筒に充填してミニカラムとしたものに、オレイン酸を100ppm含有する酢酸エチル溶液を2ml通液した。ミニカラムから流出した液をGC-Massで測定したところ、液の中のオレイン酸の濃度は9ppmであった。このことから、91%のオレイン酸がミニカラム中に保持された。オレイン酸の代わりにリノレイン酸とパルミチン酸についても同様にして保持率を測定した。
(比較例1)
また、比較例1として、γ−Alの代わりにα−Alを用いた以外は、実施例1と同様の操作により脂肪酸の保持率を測定した。
そして、これら実施例1及び比較例1の測定結果をまとめたものを表1に示す。なお、GC-Massによる測定条件は以下のとおりである。
カラム:ZB−1 長さ30m×径0.32mm×膜厚0.25μm
昇温条件:50℃(1min)→25℃/min→125℃(0min)→10℃/min→280℃
キャリアーガス:ヘリウム
注入口温度:280℃
【0023】
【表1】

【0024】
表1に示すように、実施例1のγ−Alを用いたカラムでは、試料中の脂肪酸を効率よく除去できたのに対し、比較例1のα−Alを用いたカラムでは、試料中の脂肪酸を効率よく除去することができなかった。このことから、脂肪酸の除去する手段としてγ−Alが非常に有効であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明を適用したカラムの一例を模式的に示す断面図である。
【図2】図2は、図1に示すカラムを用いた抽出方法を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0026】
1…カラム 2…充填剤 2a…除去用剤(γ−Al) 3…容器本体 11…目的物質 12…脂肪酸 13…試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸を含む試料をγ−Alに接触させることによって、前記脂肪酸を前記γ−Alに吸着させて前記試料中から除去することを特徴とする脂肪酸の除去方法。
【請求項2】
前記脂肪酸が、カルニチン酸、デカン酸、ドデカン酸、リノール酸、リノレイン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸の何れかであることを特徴とする請求項1に記載の脂肪酸の除去方法。
【請求項3】
少なくとも目的物質及び脂肪酸を含む試料を、少なくともγ−Alが充填された抽出用具に流通させることによって、前記脂肪酸を前記γ−Alに吸着させると共に、前記目的物質を前記抽出用具から流出させることを特徴とする目的物質の抽出方法。
【請求項4】
前記抽出用具が、カラム、カートリッジ、ディスク、フィルター、プレート又はキャピラリーの何れかの形態を有することを特徴とする請求項3に記載の目的物質の抽出方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−64489(P2008−64489A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−240002(P2006−240002)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】