説明

脂肪酸組成物、即ち、DHA誘導体の医薬としての使用

式(I)で示される化合物、
【化18】


(RおよびRの一方はメチル基を、RおよびRの他の一方は水素原子であり、Xはカルボン酸基、カルボキシル基、またはカルボキサミド基を表す。)
または、前記化合物のいずれかの医薬的に許容可能な塩、溶媒化合物、複合体またはプロドラッグを医薬品として使用することを開示する。式(I)の化合物を含む医薬組成物および脂肪酸組成物も開示する。医薬を製造するための式(I)の化合物の使用、特にII型糖尿病の治療についても開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式(I)の化合物を医薬として、特にII型糖尿病の治療、およびその前段階に使用することに関する。また、本発明は、式(I)の化合物を含む医薬組成物および式(I)の化合物を含む脂肪酸組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的に増加するII型糖尿病の発生率に対し、良好な結果を示す予防および治療戦略の実行のための多くの公衆衛生および医療的挑戦が行われている。体重超過と肥満の同時発症は、II型糖尿病に非常に関連しており、糖尿病治療を妨害し、高血圧、脂質異常症およびアテローム硬化症に関連した疾患の発症可能性を増加させる。
【0003】
II型糖尿病の発症の前兆である生理的異常状態は、インスリン耐性と呼ばれる、末梢組織におけるインスリンの効果を減少させることに関連する。これらの組織は、主に筋肉、脂肪および肝臓に存在する。筋肉組織は、II型糖尿病におけるインスリン耐性に関与する主要な組織である。インスリン耐性、高血圧、脂質異常症および全身炎症性状態を特徴とする症候群は、メタボリック症候群と呼ばれる。先進国における成人人口にメタボリック症候群の占める有病率は、22〜39%である(非特許文献6)。
【0004】
現在メタボリック症候群を緩和し、抑止する有望な方策は、適切な医薬治療と組み合わせて、体重減少、飽和脂肪酸の摂取減量、身体的運動の増加の生活習慣に介入するものである。過剰なエネルギー摂取を避ける健康的な食事は、飽和脂肪酸をモノおよびポリ不飽和脂肪酸と置き換えることが含まれる。特に、脂肪を含む魚由来の長鎖オメガ−3−脂肪酸、即ち、エイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)がII型糖尿病の予防に有益であることが判明している。
【0005】
EPAおよびDHAは、細胞質脂質濃度、心臓血管および免疫機能、インスリン作用、神経発達および視覚機能の制御等の健常および慢性疾患に影響を与える広範囲な生理学的プロセスへの作用を有している。冠状動脈心疾患、脂質異常症、II型糖尿病、インスリン耐性、および高血圧の予防および管理に有益な役割を有するという確固たる事実がある(非特許文献1〜3)。
【0006】
最近の研究によるとオメガ−3−脂肪酸が遺伝子発現の重要なメディエイタとして作用し、脂質およびグルコースの代謝並びに脂肪生成に関与する遺伝子の発現を制御して、ペロキシソーム増殖活性化レセプター(PPAR)の様な核レセプターを介して機能することが示された(非特許文献4)。PPARは、高脂血症、インスリン耐性、冠状動脈心疾患のような肥満関連メタボリック疾患において重要な役割を果たすことに関連がある核脂肪酸レセプターである。
【0007】
3つのサブタイプであるα、γ、δは、異なる発現パターンを有し、異なるリポタンパク質の知覚成分に発展し、特定の組織の必要に基づいた脂質のホメオスタシスを制御する。PPARαは、肝臓における脂肪酸の異化を増進し、また脂質低下フィブリン酸の分子ターゲットである。他方、PPARγは、脂肪細胞の分化に必須であり、完全には解明されていないメカニズムを通じてインスリン感受性チアゾリジンジオン(グリタゾン類)の活性を媒介する(非特許文献16、9)。
【0008】
最近、II型糖尿病の治療としてPPARγレセプターに対するリガンドとして作用する医薬品が導入された(非特許文献9)。チアゾリジンジオンまたはグリタゾンと呼ばれるこれらの化合物は、メタボリック症候群およびII型糖尿病の進展に対する病理生理学に基づいてインスリン耐性を戻す薬剤である。これらの化合物の中で、ロシグリタゾンとピオグリタゾンは医薬品として発売されており、絶食や食後のグルコース濃度を低下させ、(このことは病理学的グルコーストレランステストにより明らかにされている)、また細胞質インスリンおよび遊離脂肪酸濃度を低下させる。この知見から、グリタゾンはインスリン感受剤として作用する。
【0009】
しかし、これらの改善は、一般的に体重増加と皮下脂肪組織量の増加を伴う(非特許文献10)。チアゾリジオンは体重増加に関連するのみならず、患者のサブグループにおいて体液の滞留や細胞質の体積増加にも関連し、末梢浮腫をもたらす。体重の増加と浮腫は、心不全の発症の増加とも関連し、この理由により米国食品医薬品局がロシグリタゾン(アバン社より提供)およびピオグリタゾン(武田薬品より提供)の処方情報に警告を入れたのである。これらの悪い作用は、グリタゾンの使用、特に冠状心疾患の患者への使用が制限させる。明らかに、インスリン耐性に良好な作用を有し、体重減少活性を有し、体液の滞留傾向のない新たな薬剤の必要性がある。
【0010】
ポリ不飽和脂肪酸(PUFA)のPPARへの作用は、脂肪酸構造の結果のみではなく、レセプターへのアフィニティにもある。細胞内非エステル化脂肪酸(NEFA)組成物濃度に寄与する因子も、重要である。このNEFAプールは、細胞に進入する外因性の脂肪酸濃度と内因性の合成された脂肪酸および脂質に取り込まれることによる除去並びに酸化経路により影響される(非特許文献5)。
【0011】
オメガ−3−脂肪酸はPPARの弱いアゴニストであるが、チオグリタゾンのような薬学的アゴニストと比較した場合、これらの脂肪酸は、グルコースの取り込みとインスリン感受性の改善を示す(非特許文献7)。食物中の飽和脂肪酸に対するポリ不飽和脂肪酸の割合が増加すると、脂肪細胞はよりインスリン感受性となり、より多くのグルコースを輸送すると言われている(非特許文献8)。総じて、これらのデータは、20および22個の炭素原子を有する脂肪酸、即ちEPAおよびDHAは、インスリン耐性の進展を予防する役割を果たせる。
【0012】
in vivoにおける限定された安定性およびその生物学的特性の欠如により、PUFAは、治療薬として幅広く用いることができない。3−ポリ不飽和脂肪酸の化学修飾が、その代謝作用を変更または増加させるために、いくつかの研究グループによって行われてきた。
【0013】
例えば、EPAの低脂血症作用は、EPAのαまたはβ位にメチルまたはエチルを導入することにより強化された(非特許文献12)。この化合物はまた、EPA EEが作用を示さない一方細胞質遊離脂肪酸を減少させた。
【0014】
L.Larsenによって公開された最近の研究において(非特許文献13)、著者は、EPAとDHAのα−メチル誘導体が核レセプターPPARαの活性を増やし、それによってEPA/DHAと比較してL−FABPの発現を増加させたことを示した。α位にエチル基を有するEPAは、α−メチルEPAと同等の強さでPPARを活性化した。これらのα−メチル脂肪酸の異化が遅れることは、ペルオキシソームによる酸化を行うミトコンドリアにおけるβ酸化の減少により、その作用の増加に寄与しているのであろうと、この著者は示唆している。
【0015】
α−メチルEPAは、in vitro(非特許文献15)およびin vivo(非特許文献17)の両方において、EPAよりも血小板凝集の強力な阻害剤であることが示された。
【0016】
特許文献1の要約書には、アルファ位がOH基に置換されたDHAが開示されているが、中間体に過ぎない。本化合物の医薬的効果の可能性についての実施例は、何ら開示されていない。
【0017】
ラクスダール社は、EPAのアルファ置換誘導体の精神医学または中枢神経障害の治療への使用についても開示している(特許文献2)。
【0018】
【化16】

【0019】
置換脂肪酸の分野における広範囲の研究は、適切な医薬的および薬学的応用への非常に興味深い発見を示している。しかし、実用的な応用はほとんどなく、このため脂肪酸誘導体について有用な応用範囲の継続的な発見が必要となる。
【0020】
【特許文献1】特開平05−00974号公報
【特許文献2】US6689812
【非特許文献1】Simonopoulos AP. Essential fatty acids in health and chronic disease. Am J Clin Nutr 1999;70 (Suppl):560S-569S
【非特許文献2】Geleijnse JM, Giltay EJ, Grobbee DE, et al. Blood pressure response to fish oil supplementation: metaregression analysis of randomized trials. J Hypertension 2002;20:1493-1499
【非特許文献3】Storlien LH, Hulbert AJ, and Else PL. Polyunsaturated fatty acids, membrane function and metabolic diseases such as diabetes and obesity. Curr Opin Clin Nutr Metab Care 1998;1:559-563
【非特許文献4】Jump DB. The biochemistry of n-3 polyunsaturated fatty acids. J Biol Chem 2002;277:8755-8758
【非特許文献5】Pawar A and Jump D. Unsaturated fatty acid regulation of peroxisomes proliferator-activated receptor alfa activity in rat primary hepatocytes. J Biol Chem 2003;278:35931-35939
【非特許文献6】Meigs JB, Wilson PWF, Nathan DM, et al. Prevalence and characteristics of the metabolic syndrome in the San Antonio Heart and Framingham offspring studies. Diabetes 2003;52:2160-2167
【非特許文献7】Storlien LH, KraegenWE, Chisholm DJ, et al. Fish oil prevents insulin resistance induced by high fat feeding in rats. Science 1987;237:885-888
【非特許文献8】Field CJ, Ryan EA, Thomson ABR, et al. Diet fat composition alters membrane phospholipid composition, insulin binding and glucose metabolism in adipocytes from control and diabetic animals. J Biol Chemistry 1990;265:11143-11150
【非特許文献9】Yki-Jarvinen, H. Thiazolidinediones. NEJM 2004;351:1106-1118
【非特許文献10】Adams M, Montague CT, Prins JB, et al. Activators of peroxisomes proliferator-activated receptor gamma have depot-specific effects on human preadipocyte differentiation. J Clin Invest 1997;100:3149-3153
【非特許文献11】Ruzickovaj, Rossmeisl M, Prazak T, et al. Omega-3 PUFA of marine origin limit diet-induced obesity in mice by reducing cellularity of adipose tissue, Lipids 2004; 39: 1177-1185
【非特許文献12】Vaagenes H, Madsen L, Dyroy E, et al. The hypolipidaemic effect of EPA is potentiated by 2- and 3-methylation. Biochim Pharmacol 1999;58:1133-1143
【非特許文献13】Larsen L, Granslund L,Holmeide AK, et al. Sulfur-substituted and α-methylated fatty acids as peroxisome proliferator-activated receptor activators. Lipids 2005;40:49-57
【非特許文献14】Larsen L, Horvik K, Sorensen HIN, et al. Polyunsaturated thia- and oxa-fatty acids: incorporation into cell-lipids and their effects on arachidonic acid- and eikosanoids synthesis. Biochim et Biophys Acta 1997;1348:346-354
【非特許文献15】Larsen, et.al Biochemical Pharmacology 1998; 55, 405
【非特許文献16】Chih-Hao L, Olson P, and Evans RM. Lipid metabolism, metabolic diseases, and peroxisome proliferator-activated receptors. Endocrinology 2003;144:2201-2207
【非特許文献17】Willumsen N, Waagenes H, Holmsen H, et al. On the effect of 2-deuterium- and 2- methyl-eicosapentaenoic acid derivatives on triglycerides, peroxisomal beta-oxidation and platelet aggregation in rats. Biochim Biophys Acta 1998;1369:193-203
【非特許文献18】Mitsunobu O, Synthesis 1981;1
【非特許文献19】Ager DJ, Prakash I, and Schaad DR. 1,2-amino alcohols and their heterocyclic derivatives as chiral auxiliaries in asymmetric synthesis Chem Rev 1996;96:835-876
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の1つの目的は、DHA誘導体の有用な医薬用途を提供することにある。従って、本発明は、式(I)の化合物を提供する。
【0022】
【化17】

【0023】
ここで、RおよびRの一方はメチル基を、RおよびRの他の一方は水素原子であり、Xはカルボン酸基、カルボキシル基、またはカルボキサミド基を表し、または、前記化合物のいずれかの医薬的に許容可能な塩、溶媒化合物、複合体またはプロドラッグであって、医薬として使用される。本発明のアルファ置換DHA誘導体は、非常に驚くべきことに、薬学活性においてすばらしい結果を示した。特に、本発明の脂肪酸誘導体は、糖尿病およびその前段階の治療および/または予防への使用において多大な可能性を有している。
【0024】
カルボキシル基は、エチルカルボキシレート、メチルカルボキシレート、n−プロピルカルボキシレート、イソプロピルカルボキシレート、n−ブチルカルボキシレート、sec−ブチルカルボキシレートおよびn−ヘキシルカルボキシレートからなる群より選択することができる。好ましくは、カルボキシル基は、エチルカルボキシレートである。
【0025】
カルボキサミド基は、第一カルボキサミド、N−メチルカルボキサミド、N,N−ジメチルカルボキサミド、N−エチルカルボキサミド、およびN,N−ジエチルカルボキサミドからなる群より選択することができる。
【0026】
式(I)の化合物は、立体異性体が存在してもよい。本発明は、医薬として使用する式(I)の化合物のすべての光学異性体およびラセミ体等のそれらの混合物を包含することを理解すべきである。
【0027】
式(I)の化合物は、リン脂質、トリグリセリド、ジグリセリド若しくはモノグリセリドまたは遊離酸の形体として存在しうる。
【0028】
本発明の他の見地は、式(I)の化合物を有効成分として含有する医薬組成物に関する。医薬組成物は、さらに医薬的に許容されるキャリアを含んでもよい。好ましくは、本発明の医薬組成物は、経口投与、例えばカプセルやサシェットの形体で処方される。本発明の式(I)の化合物の好ましい1日の投与量は、前記化合物を24時間で10mgから10gであり、特に100mgから1gがよい。
【0029】
さらに、本発明は、式(I)の化合物を含む脂肪酸組成物に関する。少なくとも60重量%、または少なくとも90重量%が上記化合物を含む脂肪酸組成物が好ましい。脂肪酸組成物は、さらに、(全−Z)−5,8,11,14,17−エイコサペンタエン酸(EPA)、(全−Z)−4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサンエン酸(DHA)、(全−Z)−6,9,12,15,18−ヘンエイコサペンタエン酸(HPA)、および/または(全−Z)−7,10,13,16,19−ドコサペンタエン酸(DPA)を含んでもよい。脂肪酸は、誘導体の形体で存在してもよい。本発明の脂肪酸組成物は、さらに医薬的に許容可能な抗酸化剤、例えばトコフェロールを含んでもよい。本発明の範囲には、医薬として使用する上記の脂肪酸組成物も含まれる。
【0030】
更なる見地において、本発明は、体重減少を制御するため、および/または体重増加を予防するための医薬の製造、肥満または体重超過状態を治療および/または予防するための医薬の製造、動物における糖尿病、とくにII型糖尿病を予防するための医薬の製造、アミロイド関連疾患を治療および/または予防するための医薬の製造、心臓血管疾患、好ましくは上昇した血液脂質の治療の複数のリスク要因の治療または予防のための、いくつかの動脈のアテローム硬化症に関連した脳卒中、大脳の、または一過性虚血発作を予防するための医薬の製造のための使用に関する。
【0031】
さらに、本発明は、体重減少を制御するおよび/または体重増加を予防する方法、肥満や体重超過状態を治療および/または予防する方法、糖尿病、特にII型糖尿病を予防および/または治療する方法、アミロイド関連疾患を治療および/または予防する方法、心臓血管疾患の複数のリスク要因を治療または予防する方法、いくつかの動脈のアテローム硬化症に関連する脳卒中、大脳の、または一過性虚血発作を予防する方法に関し、ここで薬学的に有効な量の式(I)の化合物をヒトまたは動物に投与する。好ましくは、式(I)の化合物は、経口によりヒトまたは動物に経口投与される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明に導いた研究活動において、アルファ−メチル−DHAが優れた医薬活性を示すことが見出された。
【0033】
脂肪酸は、受動的に、または脂肪酸輸送タンパク質のようなG−タンパク質結合輸送システムを通じて細胞に入る。細胞のより内側で、結合タンパク質(脂肪酸結合タンパク質、FABP)によって一時的に結合し、この結合タンパク質は、代謝および遺伝子発現の細胞内の種々の区画に脂肪酸を方向付ける重要な役割を果たす(非特許文献5)(図2肝臓細胞)。
【0034】
脂肪酸をトリグリセリド、極性脂質およびコレステロールエステルに、並びにそのベータ酸化(ミトコンドリアやペルオキシソーム)にてエステル化するには、脂肪酸をアシルCoAチオエステルに変換することが必要となる。他の経路としては、ミクロソームNADPH依存性のモノ酸化およびエイコサノイド合成のように、基質として非エステル化脂肪酸を用いるものがある。これらの反応のすべては、遊離脂肪酸(非エステル体)の細胞濃度に影響し、それによって核レセプターに対するリガンドとして使用できる脂肪酸の量と型に影響を与える。PPARが非エステル化脂肪酸に結合することが知られているので、遊離脂肪酸をプールする組成物がPPAR活性の制御に重要な決定因子であることが理論的に予期される。
【0035】
遊離脂肪酸プールの組成物は、細胞に入る外因性の脂肪酸の濃度に影響し、上記の経路を介して除去される割合に影響する。短鎖および中鎖脂肪酸はこれらの経路に効果的にリクルートされるので、実際は、長鎖ポリ不飽和脂肪酸のみが核レセプターに対するリガンドとして利用できる。さらに、脂肪酸の構造も重要な決定因子であろう。モノおよびポリ不飽和脂肪酸がPPARαレセプターに対して親和性を示したとしても、EPAとDHAは、ラットの肝臓細胞による実験で最も高い結合を示した(非特許文献5)。
【0036】
PPARの様な核レセプターとの相互作用によりタンパク質の遺伝子的修飾が可能な脂肪酸の候補を探す場合、それぞれの脂肪酸が遊離脂肪酸プールに豊富化されることを確認することが重要である。
【0037】
細胞に入ったDHAは、脂肪酸アシルCoAチオエステルにすぐに変換されてリン脂質内に取り込まれ、このために、細胞内DHA濃度は、相対的に低い。これらのDHA−CoAは、始めにDHAからEPAへの逆変換を誘導するペルオキシソーム内でのβ酸化のための基質でもある(図2を参照)。中性脂肪への迅速な取り込みと酸化経路のために、DHAは、遊離脂肪酸プールに長時間とどまらないであろう。これによって、DHAの遺伝子発現に対する効果はおそらく限られる。
【0038】
本発明は、リン脂質に取り込まれるものよりも、むしろ遊離脂肪酸プール中の脂肪酸誘導体の蓄積をなすことを目的としている。本発明では、驚くべきことにDHAのα位にメチル置換基を導入することにより、酸化速度がゆっくりとなり、また中性脂質への取り込みが少なくなることを発見した。DHA誘導体が組織、とくに肝臓、筋肉、および脂肪細胞内に蓄積し、DHAよりも大きな度合いで部分的な核レセプターのトリガーとなるので、このことは遺伝子発現の増加を導くであろう。
【0039】
EPA((全−Z)−5,8,11,14,17−エイコサペンタエン酸)は、早い段階でαおよびβ位をアルキル化し、ミトコンドリアでのβ酸化を阻害した。DHAは、ミトコンドリアでは酸化されず、むしろリン脂質に取り込まれる。ペルオキシソーム内では、少量のDHAがEPAに逆変換させる。EPAおよびDHAのα位の置換は、異なる代謝経路により影響されることによるであろう。α−メチルEPAおよびβ−メチルEPAがリン脂質およびトリグリセリドに取り込まれるが、α−エチルEPAは取り込まれないことは、早くから知られていた(非特許文献16)。本研究では、エイコサノイドカスケードに関与する酵素の基質および/または阻害剤として誘導体を試験した。これらの酵素の基質のほとんどはリン脂質から放出された脂肪酸であるので、誘導体がリン脂質内に取り込まれることが望ましい。これとは反対に、前述したように、本発明は、脂質には取り込まれないが、NAFAプールに蓄積される誘導体を提供することを目的としている。
【0040】
本発明は、すべての可能な、式(I)の化合物の医薬的に許容可能な塩、溶媒化合物、複合体またはプロドラッグを包含することが理解されるべきである。
【0041】
「プロドラッグ」は、それ自体医薬的活性を有しても有さなくてもよいが、(経口や非経口のような)投与された後に体内で生物学的活性化(例えば代謝)を受け、医薬的に活性な本発明の薬剤を形成する。
【0042】
Xはカルボン酸であり、本発明ではカルボン酸の塩も含まれる。カルボキシル基の医薬的に許容可能な好ましい塩としては、例えばアルミニウムなどの金属塩、リチウム、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属、カルシウムやマグネシウムのようなアルカリ金属塩、アンモニウムや置換されたアンモニウム塩が挙げられる。
【0043】
「治療的に有効な量」は、その意図した目的を達成するための作用のある薬剤量を示す。個々の患者の必要量は変化しうるが、各々の窒素酸化付加物の有効量の最適な範囲の決定は、当業者が分かっている。本発明の化合物および/または組成物により症状を治療するための一般的な投与量は、型、年齢、体重、性別、食事および患者の健康状態などの様々要因によって選択される。
【0044】
「医薬」は、式(I)の化合物を意味し、医薬目的として使用するのに適した形体、例えば医薬製品、医薬処方または製品、食料製品、食料品または補助食品などである。
【0045】
本明細書の記載では、特に記載のない限り「治療」の用語には「予防」をも含まれる。「治療の」および「治療的な」の用語は、それに応じて解釈されるべきである。
【0046】
治療には、ヒトや非ヒト動物に有益となるすべての治療的適用を含む。哺乳動物の治療が特に好ましい。ヒトおよび動物の両者の治療は本発明の範囲にある。治療は、存在する状態に応じ、または予防的な場合もある。また、対象は、成人、未成年、幼児、胎児、または前述のいずれかの部分(例えば器官、組織、細胞、または核酸分子)でもよい。「慢性治療」は、数週間から数年間に及ぶ治療を意味する。
【0047】
「治療的または医薬的に有効な量」は、望まれる医薬的および/または治療的効果に導く量と関係する。
【0048】
本発明の化合物は、例えば食料品、補助食品、栄養補助食品、または食事製品に含まれる。
【0049】
アルファ−置換DHA誘導体およびEPA(またはDHAそのもの)は、一緒に結合して、アルファ−置換体、EPAおよびグリセロールのノボザイム(Novozym)435触媒(カナダ国アンタークティック社より固定化したリパーゼから商業的に入手可能である)によるエステル化工程においてトリグリセリドと組み合わされる。
【0050】
式(I)の化合物は、医薬品としての活性を有し、特に核レセプター活性のトリガーとなる。従って、本発明は、上記で定義したように式(I)の化合物、または前記化合物の医薬的に許容可能な塩、溶媒化合物、複合体またはプロドラッグの、薬剤としての使用および/または治療における使用に関する。好ましくは、本発明の式(I)の化合物、またはその化合物の医薬的に許容可能な塩、溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグは、以下の用途に使用してもよい。
・ヒトまたは動物の糖尿病の予防および/または治療。
・体重減少の制御および/または体重増加の予防。
・ヒトまたは動物の肥満または体重超過状態の予防および/または治療。
・アミロイド関連疾患の治療および/または予防。
・心臓血管疾患の複数のリスク因子の治療または予防。
・いくつかの動脈のアテローム硬化症に関連した脳卒中、大脳の、または一過性の虚血の予防。
・TBCまたはHIVの治療。
【0051】
糖尿病には2つの大きな形体がある。1つはI型糖尿病であり、インスリン依存性糖尿病(IDDM)として知られるものであり、もう1つは、II型糖尿病であり、インスリン非依存性糖尿病(NIDDM)として知られている。II型糖尿病は、肥満/体重増加および運動量の減少に関連し、通常大人ではしばしば徐々に発症し、末梢インスリン耐性と呼ばれる、インスリン感受性の低下により起こる。これは、インスリン産生の代償的増加を導く。完全なII型糖尿病になる前のこの段階は、メタボリック症候群と呼ばれ、また、高インスリン血症、インスリン耐性、肥満、グルコースイントレランス、高血圧、血液脂質異常、高血液凝固症、脂質異常症、および炎症を特徴とし、しばしば動脈のアテローム硬化症に発展する。後者は、インスリン産生が起こると、II型糖尿病に発展する。
【0052】
好ましい態様において、式(I)の化合物は、II型糖尿病の治療に用いることができる。式(I)の化合物は、メタボリック症候群、脾臓、脾臓外/内分泌または脂肪性のような二次性糖尿病、または薬剤誘導型糖尿病、筋無緊張性若しくはインスリンレセプターの異常による疾患のような特別の形体の糖尿病からなる群より選択される他の型の糖尿病の治療にも用いることができる。本発明は、また、II型糖尿病の治療を含む。好ましくは、上記のように式(I)の化合物は核レセプター、好ましくはPPAR(ペロシキシソーム増殖活性化レセプター)αおよび/またはγを活性化しうる。
【0053】
式(I)の化合物は肥満の治療および/または予防にも用いることができる。肥満は、通常インスリン耐性の増加と関連しており、肥満の人は、心臓血管疾患が発症する主要なリスク因子であるII型糖尿病を発症する高いリスクを有する。肥満は慢性疾患であり、西洋社会において人口に比例して増加して苦しめるものであり、社会的汚名のみならず寿命を短くし、例えば糖尿病、インスリン耐性および高血圧などの多くの問題となる。従って本発明は、昔から必要と思われていた、全体重または脂肪組織量を減少させる薬剤であり、好ましくは肥満のヒトを対象とし、顕著な悪い副作用なしに理想的な身体に導くものである。
【0054】
式(I)の化合物はまた、アミロイド関連疾患の予防および/または治療に用いてもよい。アミロイド関連状態若しくは疾患は、アミロイドの沈着と関連しており、好ましくは原線維若しくはプラーク形成の結果であり、アルツハイマー病若しくは痴呆症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、クロイツフェルトヤコブ病のような海綿状脳障害、嚢胞性線維症、第一および第二腎アミロイドーシス、IgA腎症、動脈、心臓および中枢組織へのアミロイド沈着を挙げることができる。これらの疾患は、散発性の、遺伝的なまたはTBCやHIVの様な感染にも関連し、遺伝的な形体では非常に早期に発症するとしても、人生の後半のみにしばしば発症する。それぞれの疾患は、特定のタンパク質に関連しており、または、これらのタンパク質の凝集は、その疾患に関連した病理学的状態の直接の要因で有るとも考えられる。アミロイド関連疾患の治療は、急性のものでも慢性のものでも行うことができる。
【0055】
式(I)の化合物は、アミロイドの凝集の減少、原線維またはプラークと呼ばれるものの形成を導くであろうタンパク質のミスフォールディングを予防し、Aβタンパク質(アミロイドベータタンパク質)のような前駆体タンパク質の産生を低下させることにより治療し、タンパク質原線維、凝集物、またはプラークの形成を阻害または低下させることにより予防および/または治療される。原線維の蓄積または形成の予防は、上記の式(I)の化合物を投与することも含まれる。1つの態様においては、上述した式(I)の化合物、またはその化合物の医薬的に許容可能な塩、溶媒化合物、複合体またはプロドラッグは、TBC(ヒト型結核菌)やHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の治療に用いられる。
【0056】
さらに式(I)の化合物は、更なるおそらく致命的な発作のリスクを低減するために、脳に供給する動脈のアテローム硬化症の症状、例えば、脳卒中または一過性虚血発作などを有する患者に投与してもよい。
【0057】
式(I)の化合物は、ヒトにおける上昇した血液脂質の治療にも用いられる。
【0058】
さらに、上述の式(I)の化合物は、高血圧、高トリグリセリド血症、高凝集ファクターVIIリン脂質複合体の活性などの心臓血管の疾患として知られる複数のリスク因子の治療および予防に有用である。好ましくは式(I)の化合物はヒトにおける上昇した血液脂質の治療に用いられる。
【0059】
式(I)の化合物および、その化合物の医薬的に許容可能な塩、溶媒化合物、複合体またはプロドラッグはそれ自体でも用いることができるが、一般的には、式(I)の化合物(有効成分)が医薬的に許容可能なアジュバント、希釈剤またはキャリアと関連した医薬組成物の形体で投与される。
【0060】
従って、本発明は、治療的に有効量の本発明の式(I)の化合物と医薬的に許容可能なキャリア、希釈剤、または賦形剤(これらの組み合わせを含む)を含む医薬組成物を提供する。
【0061】
これは、医薬的に有効な成分の治療的に有効な量を含む、または、これらからなる組成物である。これは、好ましくは医薬的に許容可能なキャリア、希釈剤または賦形剤(これらの組み合わせを含む)を含む。治療的に許容可能なキャリアまたは希釈剤の使用は、医薬分野では周知である。医薬キャリア、賦形剤または希釈剤の選択は、意図する投与経路および標準的な医薬の慣例によりなされる。医薬組成物は、キャリア、賦形剤または希釈剤、すべての適切なバインダ、滑剤、懸濁剤、コーティング剤、溶解剤を含む、または、これらを追加する。
【0062】
本発明の範囲に含まれる医薬組成物には次の1以上のものを含んでもよい:防腐剤、可溶化剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、甘味剤、色材、香料、オドアラント、本発明の化合物の塩それ自体は医薬的に許容される塩の形体として提供されうる、バッファー、コーティング剤、抗酸化剤、懸濁剤、アジュバント、賦形剤および希釈剤である。
【0063】
本発明の医薬組成物は、好ましくはヒトまたは動物に経口投与されるよう処方される。医薬組成物は、有効性分が効果的に吸収および利用されるような他のすべてのルート、例えば、静脈内、皮下、筋肉内、鼻腔内、直腸内、膣内、または局所的に、投与されるよう処方されてもよい。
【0064】
本発明の特定の態様では、医薬組成物は、カプセルの形体にされ、また粉末やサシェットを形成するマイクロカプセルでもよい。カプセルを賦香してもよい。この態様には、カプセルとカプセル化された本発明の脂肪酸組成物が賦香される。カプセルを賦香することにより、使用者により好まれるものになる。上記の治療的な使用において、投与量は、使用される化合物、投与の様式、要望される治療および顕在化した障害に応じてもちろん変化する。
【0065】
医薬組成物は、1日の投与用として10mg〜10gを提供するように処方してもよい。好ましくは、医薬組成物は、1日の投与量として前記化合物を50mg〜5g提供するように処方される。最も好ましくは、医薬組成物は、1日の投与量として前記化合物を100mg〜1g提供するように処方される。1日の投与量とは、24時間当たりの投与量を意味する。
【0066】
投与量は、使用される化合物、投与の様式、要望される治療および顕在化した障害に応じてもちろん変化する。典型的には、個々の患者に応じて最も好ましいように実際の投与量を医師が決定することになる。いずれかの特定の患者に対する特定の投与量レベルおよび投与回数は、変化しても良く、使用される特定の化合物の活性、代謝安定性、その化合物の活性の長さ、年齢、体重、一般的な健康状態、性別、食事、投与の様式と時間、排泄の割合、薬剤の組み合わせ、特定の状態の重篤度、および個々が受けている治療等の様々な要因に依存しうる。本発明の薬剤および/または医薬組成物は、1日1回や2回など、1日当たり1〜10回治療計画に従って投与できる。ヒト患者への経口および非経口投与の場合、薬剤の1日当たりの投与レベルは1回で、または分割して投与される。
【0067】
本発明の更なる見地は、式(I)の化合物を含む脂肪酸組成物に関する。式(I)の化合物を含む脂肪酸組成物は、遺伝子発現の制御の結果DHAの天然の生物学的効果を増加させ、本発明の誘導体は遊離脂肪酸プールに蓄積されることとなる。
【0068】
脂肪酸組成物は、式(I)の化合物を60から100重量%の範囲で含み、すべての重量%は、脂肪酸組成物の全重量に基づいている。本発明の好ましい態様において、脂肪酸組成物の少なくとも80重量%が式(I)の化合物を含む。より好ましくは、式(I)の化合物は脂肪酸組成物の少なくとも90重量%から構成される。最も好ましくは、式(I)の化合物は、脂肪酸組成物の95重量%以上から構成される。脂肪酸組成物は、(全−Z)5,8,11,14,17−エイコサペンタエン酸(EPA),(全−Z)−4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸(DHA)、(全−Z)−6,9,12,15,18エイコサペンタエン酸、および(全−Z)−7,10,13,16,19−ドコサペンタエン酸(DPAn−3)、(全−Z)−8,11,14,17−エイコサテトラエン酸(ETAn−3)、またはこれらの組み合わせの少なくとも1種をさらに含んでもよい。さらに、脂肪酸組成物は、(全−Z)−4,7,10,13,16−ドコサペンタエン酸(DPAn−6)および/または(全−Z)5,8,11,14−エイコサテトラエン酸(ARA)またはこれらの誘導体を含んでもよい。脂肪酸組成物は、少なくともこれらの脂肪酸、またはこれらの組み合わせを誘導体の形体で含んでもよい。誘導体は、上述した式(I)のDHA誘導体と同様の方法で適切に、置換される。
【0069】
本発明の脂肪酸組成物は、(全Z−オメガ−3)−6,9,12,15,18−ヘンエイコサペンタエン酸(HPA)またはその誘導体を少なくとも1重量%の量または1〜4重量%を、含んでもよい。
【0070】
さらに、本発明の脂肪酸組成物は、20、21、または22個の炭素原子を有するEPAおよびDHA以外のオメガ−3−脂肪酸を、少なくとも1.5重量%、または少なくとも3重量%含んでもよい。
【0071】
本発明の特定の態様では、脂肪酸組成物は、医薬組成物、栄養組成物または食品組成物である。
【0072】
脂肪酸組成物はさらに、医薬的に許容される抗酸化剤を有効量含んでもよい。好ましくは、抗酸化剤は、トコフェロールまたはトコフェロール混合物である。好ましい態様では、脂肪酸組成物は、さらにトコフェロール、またはトコフェロール混合物を、脂肪酸組成物全重量につき4mgまでの量をさらに含んでもよい。好ましくは、脂肪酸組成物は、脂肪酸生物全量に対して、0.2〜0.4mgの量のトコフェロールを含む。
【0073】
本発明の他の見地は、上記の式(I)の化合物を医薬品および/または治療に用いるための脂肪酸組成物、またはその化合物の医薬的に許容可能な塩、溶媒化合物、複合体またはプロドラッグを提供する。このような脂肪酸組成物は、上記の式(I)の化合物について概説したのと同様の予防および/または治療に用いてもよい。
【0074】
脂肪酸組成物を医薬品として用いる場合、治療的にまたは医薬的に活性な量が投与される。
【0075】
好ましい態様では、脂肪酸組成物はヒトまたは動物に経口投与される。
【0076】
本発明はまた、体重減少の制御および/または体重増加の予防のための医薬の製造のため、肥満や体重超過状態の治療および/または予防のための医薬の製造のため、ヒトまたは動物における糖尿病の予防および/または治療のための医薬の製造のため、アミロイド関連疾患の治療および/または予防のための医薬の製造のため、高血圧、高トリグリセリド血症、高凝集ファクターVIIリン脂質複合体活性のような心臓血管疾患として知られる複数のリスク因子の治療および予防のための医薬の製造のため、TBCやHIVの治療のための医薬の製造のため、いくつかの動脈のアテローム硬化症に関連する脳卒中、大脳の、または一過性虚血発作の予防のための医薬の製造のため、哺乳動物の血液中のトリグリセリドを低下させるためおよび/またはヒト患者の血漿中のHDLコレステロールレベルを上げるための医薬の製造のため、「メタボリック症候群」とよばれる複数のメタボリック症候群の治療および/または予防のための医薬の製造のため、上記の式(I)の化合物またはその化合物の医薬的に許容可能な塩、溶媒化合物、複合体またはプロドラッグを提供する。これらすべての態様はまた、上述した脂肪酸組成物の使用も含み、上記に概説した医薬の製造のための式(I)の化合物を含む。
【0077】
本発明は、また、体重減少の制御および体重増加の予防のための方法にも関連し、ここで、上述の式(I)の化合物を少なくとも含む脂肪酸組成物がヒトまたは動物に投与される。
【0078】
さらに、本発明は、肥満や体調超過状態を治療および/または予防する方法に関連し、ここで、上述の式(I)の化合物を少なくとも含む脂肪酸組成物がヒトまたは動物に投与される。
【0079】
本発明の好ましい態様では、本発明は、糖尿病の予防および/または治療のための方法に関連し、ここで、上述の式(I)の化合物を少なくとも含む脂肪酸組成物がヒトまたは動物に投与される。好ましくは、糖尿病は、II型糖尿病である。
【0080】
本発明の他の見地は、
・アミロイド関連疾患の治療および/または予防のための方法、
・心臓血管疾患の複数のリスク因子の治療または予防のための方法、
・いくつかの動脈のアテローム硬化症に関連した脳卒中、大脳のまたは一過性虚血発作の予防方法、
に関連し、ここで、上述の式(I)の化合物を少なくとも含む脂肪酸組成物がヒトまたは動物に投与される。
【0081】
式(I)の脂肪酸誘導体は、DHAから最も効率的に製造される。出発物質が純粋なDHAではない場合(即ち、DHA100%ではない場合)、最終脂肪酸組成物は、上述のDHA誘導体の混合物を含み、DHAのほかに他の脂肪酸を含む。ここで、これらの脂肪酸は、式(I)の新規な脂肪酸類似体として同様に置換される。このような態様も本発明に含まれる。
【0082】
本発明の他の態様では、式(I)の化合物は(全−Z)−4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸(DHA)から製造され、ここで、前記DHAは、植物、微生物および/または動物、またはこれらの組み合わせから得られる。好ましくは、前記DHAは、魚油のような海洋性油から得られる。
【0083】
組成物中の脂肪酸は、植物、微生物または動物資源またはこれらの組み合わせからも得られる。従って、本発明は、微生物油から得られる脂肪酸組成物も含む。
【0084】
DHAは、海洋性、微生物性または植物性の脂肪のような生物学的資源から得られる。すべての可能性のある原料物質は、DHAが脂肪酸のほんの一分画を構成するようなトリグリセリドの形体の脂肪酸混合物である。典型的なDHAの濃度は、微生物脂肪では40%、海洋性脂肪では10−25%である。DHA含有植物性脂肪は、開発途上にあり高DHA濃度を含む脂肪が将来期待される。
【0085】
最初の工程は、いつもトリグリセリドを遊離脂肪酸とモノエステルに変換することである。好ましいエステルは、メチルまたはエチルエステルであるが、他のエステルでも可能である。この方法で、トリグリセリドに3つ一緒になって結合している脂肪酸は、互いに分離され、このため分離することが可能となる。他の脂肪酸からDHAを分離するいくつかの方法が利用でき、最も一般的なのは、揮発性により脂肪酸を分離するショートパス蒸留および不飽和の度合いにより脂肪酸を分離する尿素沈殿がある。報告されている他の方法は、不飽和の度合いにより脂肪酸を分離する硝酸銀複合体化、ショートパス蒸留との組み合わせで、脂肪酸選択性リパーゼにより触媒されたエステル化反応、および超臨界二酸化炭素による向流抽出がある。
【0086】
純粋なDHAを製造するために最も重要な難題は、すべての利用可能な資源において、他のC20〜22の高不飽和脂肪酸をDHAと分離することである。これらの脂肪酸はDHAと似ているので、上述した方法では、充分な分離度合いのものを提供できない。いくつかの微生物高DHA脂肪は、C20〜22の高い不飽和脂肪酸濃度が非常に低く、ショートパス蒸留単独か、上述した他の方法と組み合わせて90%以上の純度のものが得られる。
【0087】
最もDHAを含む脂肪はまた、かなりの量のC20〜22の高不飽和脂肪酸、例えば、EPA(20:5n−3)、n−3DPA(22:5n−3)、HPA(21:5n−3)等を含む。このような脂肪酸からDHAを分離する唯一の利用可能な方法は、分取高性能液体クロマトグラフィーであり、固定相にシリカゲルまたは硝酸銀を含浸させたシリカゲルを用い、移動相としては有機溶剤や超臨界二酸化炭素が選ばれる。この方法により、DHAは97%以上の純度のものが得られる。しかし、濃度とともに製造コストが非常に増大することを知る必要がある。例えば、97%DHAの製造コストは、90%DHAの5倍高くなる。
【0088】
90、95、97%の純度を有するDHAは、少量の他の脂肪酸を含んでいる。例えば、97%の純度のDHAは、n−3DPA(22:5n−3)を含んでいるが、例えばEPA(20:5n−3)、HPA(21:5n−3)など長鎖脂肪酸も含んでいる。しかし、他の脂肪酸は、DHAと同様の様式で反応し、アルファ−置換体を提供する。
【0089】
DHAおよびn−6DPA(および通常非常に低い濃度で存在する22:5n−6)は、第一の二重結合を環化してガンマラクトンを提供できる唯一の公知の脂肪酸であるので、有機合成は、精製方法を提供できうる。ラクトン化につづき、精製とDHAにもどす加水分解は可能であるが、この方法はHPLCよりも高額となると予想される。
【実施例】
【0090】
本発明は、以下の実施例に基づいてより詳細に記述するが、本発明を限定するように解釈してはならない。
合成プロトコル
α−メチルDHA EE(PRB−1)の製造
【0091】
ブチルリチウム(228ml,0.37mol,ヘキサン中1.6M)を、乾燥THF(800ml)中で攪拌したジイソプロピルアミン溶液(59.5ml,0.42mol)にN下、0℃で滴下した。得られた液を0℃で30分間攪拌し、−78℃に冷却してさらに30分間攪拌し、乾燥THF(500ml)中でDHA EE(100g,0.28mol)を2時間滴下した。濃緑食の溶液を−78℃で30分間攪拌し、MeI(28ml,0.45mol)を添加した。溶液を1.5時間で−20℃にし、水(1.5L)に注ぎ、ヘプタン(2×800ml)で抽出した。合わせた有機相を1MHCl(1L)で洗浄し、乾燥(NaSO)し、フィルターにかけて、真空にてエバポレートした。産物をシリカゲルにて、ヘプタン/EtOAc(99:1)で溶出させてドライフラッシュクロマトグラフィーで精製し、わずかに黄色の油として標記の化合物50g(48%)を得た。
H−NMR(200MHz,CDCl)δ1.02(t,J7.5Hz,3H),1.20(d,J6.8Hz,3H),1.29(t,J7.1Hz,3H),2.0−2.6(m,5H),2.8−3.0(m,10H),4.17(t,J7.1Hz,2H),5.3−5.5(m,12H);
MS(エレクトロスプレイ);393[M+Na]
【0092】
エナンチオマーの純粋な化合物を、上述した式(I)のラセミ化合物を溶解することにより調製できる。式(I)の化合物の溶液は、公知の分離工程、例えば式(I)の化合物をエナンチオマー的に純粋な補助剤と反応させ、クロマトグラフィーで分離可能なジアステレオマーの混合物を得ることができる。その後、化合物(I)の2つのエナンチオマーを、加水分解のような一般的な方法でジアステレオマーから分離することにより製造できる。
【0093】
化学量論的にキラルな補助剤を用いて、上述のDHAのα位に置換基の不斉を導入する効果の可能性もある。キラルオキサゾリジン−2−オンを用いて、特に効果的な方法が提供される。キラルN−アシルオキサゾリジン由来のエノラートは、高度にステレオギュレートされた方法により種々の求電子剤をもちいて、クエンチできる(非特許文献19)。
【0094】
実験
本発明の化合物が特に糖尿病の治療および/または予防に効果的であることを示すために、多くの実験を行った。
【0095】
以下の実験において、アルファ−メチル−DHA EEを「PRB−1」と記す。
【0096】
<実施例1>肝臓細胞の細胞内遊離脂肪酸(エステル化されていない脂肪酸)の分析
・背景
PRB−1を与えた動物からの肝臓細胞を、遊離非エステル化脂肪酸について分析した。動物は実験4(メタボリック症候群の動物モデルにおいてDHA誘導体の薬力学的な作用)からリクルートした。動物は、DHA(食餌中の脂肪分の15%)または、DHA−誘導体(食餌中の脂肪分の1.5%)を8週間与えられ、細胞内のDHAおよびDHA−誘導体の安定した濃度の固定された状態になるようにした。肝臓組織は、肝臓において代謝速度が非常に速いという事実のため選択した。
【0097】
・方法
肝臓サンプルは、冷PBSバッファ中でホモジナイズし、0.2mMのブチルヒドロキシトルエン(BHT)を含むクロロホルム:メタノール(2:1)で、内標としてcis−10−ヘプタデセン酸を用いて、すぐに抽出した。有機相は、窒素下で乾燥させ、RP−HPLC MS/MS分析のため、0.1%酢酸および10μMのBHTを含むアセトニトリル中に再溶解した。全タンパク質含量は、ホモジナイズ後Bio−Rad法を用いて測定した。
【0098】
アジレント1100システムを用いて逆相カラム(Supelco Ascentis C18カラム、25cm×4.6mm、i.d.5μm)で、22分間分離した。移動相は、0.1%酢酸を含むイソ−グラジエントアセトニトリル−HO(87+13,v/v)を用いた。カラムオーブンの温度は、35℃にセットした。カラム溶出物は、3重タンデム4極MS/MS(ABI Qtrap−4000)により多重反応モニターモードでネガティブエレクトロスプレイイオン化により、同定および定量を行った。ペアレント−ドーターペアは、単位レゾリューション下で、341.3/341.0(PRB−1)であった。シグナル採取休止時間は、200msecに設定したFA17:1を除き、すべて100msecで行った。アイソマーPRB化合物の正確な確認は、保持時間とMS/チャージ比の特徴により行った。2次回帰分析標準曲線を用いて、内標検定の後、定量を行った。
【0099】
・結果
本発明のDHA誘導体の濃度は、肝臓細胞中の総タンパク質量1g当たり約10μgであった。これは、PRB−1が核レセプターに対するリガンドとして利用可能であり、血液グルコースと血液脂質を扱う場合に治療効果のあるものに翻訳できるパターンであることを意味する。
【0100】
<実施例2> コンピュータに基づいたアフィニティテスト
・背景
PPARおよびグルコースと脂肪の遺伝子的制御に関連した他の等価なレセプターの核レセプターの配列がシーケンスされ、アミノ酸配列がわかっている。PPARレセプターのX線結晶解析およびNMRスペクトロスコピーが利用可能で、レセプターにリガンドする脂肪酸のコンピュータ化されたアフィニティテストが、結合力学を評価するのに用いることができる。結合ジオメトリクスは、しばしば結合モードや結合ポーズと呼ばれ、レセプターと比較したリガンドの位置と、リガンドおよびレセプターのコンフォメーションの状態の両方が含まれる。よって、効果的なリガンドのドッキングを分析できる。
【0101】
レセプターに対するリガンドのアフィニティは、レセプターの結合部位へのリガンド(DHA誘導体)のドッキングと、脂肪酸の頭部におけるレセプターの特定のアミノ酸とカルボキシル基若しくは側鎖との静電的結合の2つの異なるパラメータで定義される(Krumrine)。
【0102】
既に知られているように、PPARαレセプターは、PPARγよりも乱雑であり、これは、リガンドとしてRRARαがPPARγに比べてより多くの脂肪酸を受け入れるであろうことを意味する。しかし、メタボリック症候群やII型糖尿病の患者は、通常肥満または体重超過であり、病理的な血液脂質を有しているので、PPARαレセプターの主に上昇したトリグリセリドと低い高密度コレステロール(HDL−chol)活性が重要である。メタボリック症候群やII型糖尿病の治療のための理想的な薬剤は、これらのレセプターの両方にリガンドとして作用するべきであり、好ましくは、PPARγレセプターに最も高いアフィニティを有するものである。
【0103】
・方法
その結合アフィニティによるPRB−1のランキングが計算され、最低結合アフィニティ(LBA)と平均結合アフィニティ(ABE)を得た。
【0104】
PRB−1は、コンピュータに基づいたドッキング方法(rおよびsの両方のエナンチオマー)によりテストした。PPARγリガンドのロシグリタゾンおよびピオグリタゾンは、両方ともrおよびsの形体であり、比較のためにテストした。これらの化合物は、糖尿病の治療薬として登録されている。
【0105】
・結果
表1に結果を示し、テストした化合物の、単一コンフォメーションの最低結合エネルギー(LBE)、正しく位置したコンフォメーション平均結合エネルギー(ABE)およびICM−saved20最低エネルギーコンフォメーションの正しく位置したコンフォメーションのフラクション(fbound)を示す。RXRαへのアフィニティは、同様のセッティングでテストした。RXRαレセプターは、PPARレセプターと相互作用し、脂肪酸のリガンド化によりヘテロダイマーを形成する。
【0106】
【表1】

NDは検出せず、cは全−cis形体の二重結合、rはRエナンチオマー、sはSエナンチオマー、ROSIはロシグリタゾン、PIOはピオグリタゾンを示す。
【0107】
PRB−1は、母化合物DHAと比較して、PPARαとPPARγについて高いLBEとABEスコアであるだけでなく、PPARγリガンドのロシグリタゾンとピオグリタゾンが、ともにrおよびsの形体であった。これは、PRB−1が確立した抗糖尿病剤のロシグリタゾンおよびピオグリタゾンに匹敵する見込みがあるという興味深い結果を示している。
【0108】
結論として、本発明のDHA誘導体は、ロシグリタゾンおよびピオグリタゾンよりも結合アフィニティが高い点で、PPARαおよびPPARγに対し、興味深いアフィニティを示す。
【0109】
<実施例3> トランスフェクト細胞におけるアフィニティテスト
・背景
ルシフェラーゼの放出は、遺伝子の転写に比例する。PPARγのような核レセプターへのリガンドの結合は、それぞれの遺伝子の転写を誘発し、それによりルシフェラーゼが放出される。したがって、この技術はレセプターに対するリガンドのアフィニティと発現すべき遺伝子の活性化の測定を提供する。
【0110】
・方法
COS−1の一時的なトランスフェクションをGrahamとvan der Eb(Graham)に記載されたように6ウェルプレート中で行った。完全長PPARトランスフェクションの研究のために、それぞれのウェルに5μgのレポーターコンストラクト、内標として2.5μgのpSV−β−ガラクトシダーゼ、0.4μgのpSG−5−PPARγ2を入れた。細胞は72時間後に採取し、プロトコル(Promega)に従ってルシフェラーゼ活性を測定した。ルシフェラーゼ活性は、β−ガラクトシダーゼ活性に対して規格化した。脂肪細胞は、16μlのLipofectamin Plus試薬を用いてD11において差別化してトランスフェクトし、4μlのLipofectamin(ライフテクノロジー社)、0.2μgのpSG−5−PPARγおよび100ngのpTKレニーラルシフェラーゼをトランスフェクションの効率の指標とした。トランスフェクションの3時間後、培地を含む血清中で細胞を培養し、適切な試薬を含む同様の培地中で48時間インキュベートした。ルシフェラーゼ活性は、製造者(デュアルルシフェラーゼアッセイ、Promega)の推奨により測定した。すべてのトランスフェクションは、3回行った。
【0111】
脂肪酸(BRLまたはDHA)およびPRB−1(保存溶液)をDMSO中に最終濃度が0.1Mになるように溶解した。その後、脂肪をDMSO中に10mM溶解し、1.5ml管(ホモプライマー、プラスチックチューブ)に保持し、アルゴンを通し、−20℃で保存した。10μMのPRB−1または脂肪酸およびDMSO(対照)をトランスフェクションの5時間後に培地に添加した。トランスフェクトした細胞を、24時間維持し、レポーター分解バッファにて分解した。PRB−1または脂肪酸のPPARのLBDへの結合は、UASに結合しているGAL4を活性化した。ここで、UASはtkプロモーターを次に刺激し、ルシフェラーゼ発現をもたらす。ルシフェラーゼ活性は、ルミノメーター(TD−20/20luminometer、Turner Designs,サニークべイル、カリフォルニア)を用いて測定し、タンパク質量に対して規格化した。
【0112】
・結果
図3に、PRB−1で処理されたトランスフェクト細胞からのルシフェラーゼの放出を示す。この結果は、PRB−1が高いルシフェラーゼ放出能を有していることを示す。
【0113】
<実施例4> メタボリック症候群の動物モデルにおけるDHA誘導体の薬力学的効果
・背景
C57BL/6J株の肥満になりやすいマウスを用いてメタボリック症候群の動物モデルを用いた典型的な実験で効果、およびメタボリック症候群に共通する病理学的解剖学的特徴を検証した。約60%の脂肪を含む高脂肪食餌を与えると、動物は高い血漿インスリン濃度となり、病理学的グルコーストレランステストにおいて、上昇した血清トリグリセリドと非エステル化脂肪酸と脂肪肝臓となって太る。
【0114】
<実施例4a> 本発明のDHA誘導体の肥満になりやすいマウスにおける4ヶ月の食餌試験の効果
・方法
すべての実験はオスC57BL/6マウスで、亜株C57BL/N(ドイツ国チャールスリバー社提供、n=160、実験A〜C、下記参照)または、亜株C57BL/6J(ジャクソンラボラトリー社提供、バーハーバー、メーン州USA、n=32、実験D)のいずれかを用いた。淘汰のため、用いた動物の総数は、もっと多く(それぞれn=170および36)であった。後者の場合は、動物は生理学研究所にて数代(<20)に渡って繁殖させた。治療の初期では、動物は、14週齢で体重の範囲は、23.6〜27.1gであった。研究を開始する1週間前に、動物を体重に従って並べ、同様の平均体重となるようにサブグループ(n=8)に割り当てた。この方法により最低および最高の体重を示したそれぞれ約5−10%の動物を淘汰した。この段階で研究から除外された動物は、頸椎脱臼により犠牲死させた。マウスの完全な健康チェックは、提供者のチャールスリバーによって行われ、研究の開始時において血清学的試験をANLAB(プラハ、チェコ共和国)によって行った。さらに、定期的な健康チェックは、動物舎において、3ヶ月の間隔で歩哨マウスと血清学的試験で行った(ANLAB)。すべての試験において、特定の病原体のない状態とした。
【0115】
・食餌
動物には、実験食餌として3タイプを与えた。
(i)タンパク質、脂肪および炭水化物をそれぞれ33、9、58エネルギー%有する通常食餌(Chow diet)(ドイツ国ゼーストSSNIFFズペチアルデーテン社から入手したssniff R/M、http://ssniff.deも参照のこと)
(ii)タンパク質、脂肪および炭水化物をそれぞれ15、59、26エネルギー%で、良く特徴づけられた脂肪酸組成物(脂質のほとんどがコーン油由来である。非特許文献11参照)を有する研究室で調製された高脂肪食餌(cHF食餌)
(iii)0.15、0.5、1.5%の脂肪(特にコーン油からなる)を有するcHF食餌において種々のPRB化合物を置き換え、主にPRB1、PRB2、PRB5、PRB7およびPRB8またはDHAに置き換えた。これらのすべての化合物は、プロノバアイオケアから供給されたエチルエステル体で、密閉容器に入っていた。PRB化合物の化学組成は実験を行った研究所には不知とした(チェコ共和国、プラハ、生理学研究所アカデミーオブサイエンス)。
【0116】
到着後、PRB化合物は、専用容器の冷蔵庫に保管された。容器は、実験食餌を調製する直前に開封された。窒素を通したプラスチックバッグに入れ、1週間に渡って動物に餌を与えるのに充分な量のアリコートを−70℃で保存した。新たなものを2日間の間隔または毎日与えた。
【0117】
・研究の概要
研究は4つの異なる実験に基づいている。それぞれの実験において、cHF食餌に3つの異なる濃度のPRB−1(またはDHA)を混合し(脂肪含量の0.15、0.5および1.5%)、試験した。各々の実験では、普通のcHF食餌を与えたマウスのサブグループも含まれ、対照として用いた。マウスが4つのグループでかごに入れられ、標準の通常食を3月齢まで与え、動物(n=8〜13)を、異なる食餌にランダムに割り当てた。この新しい食餌を与えてから2ヶ月後(5月齢)、動物を1晩絶食させ、朝に腹腔内グルコーストレランステスト(GTT)を実施した。動物は、実験食餌を与えた4ヶ月後、即ち7月齢に犠牲死させ、終点分析を実施した。
【0118】
・研究パラメータ
研究に用いたパラメータは、体重増加(グラム)、腹腔内グルコーストレランステスト(mMol×180分)から得た曲線(AUC)のエリア、血漿インスリン(ng/ml)、血清トリグリセリド(TAG,mmol/l)および非エステル化脂肪酸(NEFA,mmol/l)であった。
【0119】
・結果
結果を以下の表2、3、および4に示す(*はcHF食餌と比較した優位差(P<0.05))。
【0120】
表2は、標準食餌(STD)、高脂肪食餌組成(cHF)または97%DHAを与えられた動物と比較した、PRB試験化合物を1.5%濃度で与えた動物の効果を示す。AUCグルコーストレランステストにおいて、PRB−1を与えられた動物が明白な減少を示した。血漿インスリンは、PRB−1で処理した動物において低かった。
【0121】
表3は、標準食餌(STD)、高脂肪食餌組成(cHF)または97%DHAを与えられた動物と比較した、PRB試験化合物をより低い0.5%濃度で与えた動物の効果を示す。
【0122】
表4は、最も低いPRB濃度0.15%を与えた結果を示す。ここでは、その差は小さい。体重増加が幾分PRB−1群で低い。血漿インスリンは、PRB−1で最も低かった。
【0123】
【表2】

【0124】
【表3】

【0125】
【表4】

【0126】
結論として、4ヶ月に渡るインスリン耐性およびメタボリック症候群肥満になりやすい動物におけるPRB−1の試験は、インスリン耐性および体重減少、腹腔内グルコーストレランステストで減少したAUC、低いインスリン/血漿濃度、減少したトリグリセリドおよび非エステル化遊離脂肪酸のようなメタボリック症候群の症状に明白で疑いのない効果が得られることが示された。1.5%および0.5%の投与量の群において、効果が観察された。最も低い0.15%の濃度群でも幾分かの効果が得られた。
【0127】
<実施例4b>肝臓脂肪に対するDHA誘導体の試験
・方法
DHA誘導体で実験した動物の組織サンプルを組織学的に分析した。パラフィン化の後、肝臓、脂肪組織、骨格筋、膵臓、および腎臓由来の組織サンプルをエオシンヘマトキシリンで染色した。
【0128】
・結果
肝臓を除き、試験された組織には、病理学的知見は見いだせなかった。高脂肪食餌を与えられた対照動物は、進展した脂肪肝臓(脂肪肝)であった。肝臓内の脂肪滴は正常肝臓細胞と容易に識別できる。PRB−1によって処理された動物は、脂肪肝臓の度合いが低かった。
【0129】
これは、非常に重要な発見であり、インスリン耐性、肥満およびII型糖尿病の患者の治療と非常に関連する。脂肪肝は、脂肪酸やトリグリセリドの過剰、インスリン耐性およびメタボリック症候群の進展において生物学的マーカーとして現れることに通常関連した患者において共通して見られるものである。DHA誘導体は脂肪肝を減少させる。
【0130】
考察および結論
本出願は、アルファ−メチル−DHAが核レセプター、特にPPARγおよびPPARαを活性化し、それによりインスリン耐性、メタボリック症候群、II型糖尿尿、心臓血管疾患および他のアテローム硬化症に関連した疾患の治療において、治療的に効果のある一連のものを提供する。
【0131】
コンピュータによるドッキング技術を用いたPPARγおよびPPARαに対するアフィニティ試験において、本発明のDHA誘導体は、両方のレセプターとアフィニティを示し、特にPPARγは、おそらく血液グルコースの代謝に重要な遺伝子の活性化に関連した、最も重要な核レセプターである。アルファ−メチルDHAは、r型とs型の2つの立体異性体を有する。ドッキング技術を用いて両方の立体異性体がPPARγおよびPPARαにほぼ同様のアフィニティを有し、このことは、r型またはs型のいずれもラセミ体と比較して優位ではないことを意味する。事実、ラセミ体は、立体異性体の各々のひとつに優位性を有するであろう。核レセプターとそれに続くDNA反応性エレメントを有しているトランスフェクトされた細胞においてアフィニティを試験した場合、本発明の化合物がルシフェラーゼの放出の測定において良好なアフィニティを示した。
【0132】
本発明のDHA誘導体は、高脂肪食餌を与えられた場合に、インスリン耐性およびメタボリック症候群を起こすC57BL/6マウスにおいて試験された。この誘導体は、有意な生物学的効果を示した。純粋なDHAと比較して、アルファ−メチルDHA(PRB−1)は、DHAよりも高い能力を有するように見える。これらの発見と母分子のDHAと比較した能力は、予期できるものではなく、また非常に予測不可能である。
【0133】
アルファ−メチルDHA(PRB−1)は、核レセプターPPARαおよびPPARγに同時にリガンドすることにより作用するように見えるため、この化合物は、グルコースおよび脂質代謝、特にインスリン耐性、メタボリック症候群およびII型糖尿病の患者に治療的な興味有る効果を有するのみならず、体重減少および一般的な抗炎症作用を有する。リスク因子に対して直接的にあるいは、ポジティブな媒介を通じてアルファ−メチルDHA(PRB−1)は、心筋梗塞などの心臓血管疾患および脳卒中の進展に予防的効果を有し、並びに心臓血管による死亡率に予防的な効果を有する。
【0134】
PPARγリガンドとして作用する医薬は既に市場にあるが、これらの化合物がグルコース代謝に有効であるとしても、トリグリセリドの上昇、体重増加、浮腫などの副作用のために使用しにくい。本願に示したアルファ置換DHA誘導体は、インスリン耐性、メタボリック症候群およびII型糖尿病の患者に関連し有益となるであろうPPARγおよびPPARαの組み合わせた効果を有する。さらに、これらの組み合わせの効果は、血液脂質、炎症、アテローム硬化症および心臓血管疾患にも重要な項を有する。
【0135】
本発明は、上記の態様や実施例に限定されるべきものではない。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】図1は、アルファ−メチルDHAエチルエステルの構造式である。
【図2】図2は、遊離脂肪酸プール理論の概念図である。
【図3】図3は、本発明の化合物で処理されたトランスフェクトされた細胞からのルシフェラーゼの放出を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で示される化合物、
【化1】

(RおよびRの一方はメチル基を、RおよびRの他の一方は水素原子であり、Xはカルボン酸基、カルボキシル基、またはカルボキサミド基を表す。)
または、前記化合物のいずれかの医薬的に許容可能な塩、溶媒化合物、複合体またはプロドラッグであって、医薬として使用する化合物。
【請求項2】
前記カルボキシル基が、エチルカルボキシレート、メチルカルボキシレート、n−プロピルカルボキシレート、イソプロピルカルボキシレート、n−ブチルカルボキシレート、sec−ブチルカルボキシレート、およびn−ヘキシルカルボキシレートからなる群より選択される請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記カルボキシル基がエチルカルボキシレートである、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
前記カルボキサミド基が、第一カルボキサミド、N−メチルカルボキサミド、N,N−ジメチルカルボキサミド、N−エチルカルボキサミド、およびN,N−ジエチルカルボキサミドからなる群より選択される請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
リン脂質、トリグリセリド、ジグリセリド、若しくはモノグリセリドの形体、または遊離酸の形体である、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
ラセミ体である請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
R−立体異性体の形体である請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
S−立体異性体の形体である請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
式(I)で示される化合物、
【化2】

(RおよびRの一方はメチル基を、RおよびRの他の一方は水素原子であり、Xはカルボン酸基、カルボキシル基、またはカルボキサミド基を表す。)
または、前記化合物のいずれかの医薬的に許容可能な塩、溶媒化合物、複合体またはプロドラッグを含むことを特徴とする脂肪酸組成物。
【請求項10】
脂肪酸組成物の少なくとも60重量%が前記化合物を含む、請求項9に記載の脂肪酸組成物。
【請求項11】
脂肪酸組成物の少なくとも90重量%が前記化合物を含む、請求項10に記載の脂肪酸組成物。
【請求項12】
(全−Z)−5,8,11,14,17−エイコサペンタエン酸(EPA)、(全−Z)−4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸(DHA)、(全−Z)−6,9,12,15,18ヘンエイコサペンタエン酸(HPA)、および/または(全−Z)−7,10,13,16,19ドコサペンタエン酸(DPA)から選択される脂肪酸をさらに含むことを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の脂肪酸組成物。
【請求項13】
前記脂肪酸が誘導体の形体で存在する、請求項12に記載の脂肪酸組成物。
【請求項14】
医薬的に許容される抗酸化剤をさらに含む、請求項9〜13のいずれかに記載の脂肪酸組成物。
【請求項15】
前記抗酸化剤がトコフェロールである、請求項14に記載の脂肪酸組成物。
【請求項16】
医薬品として使用する請求項9〜15のいずれかに記載の脂肪酸組成物。
【請求項17】
有効成分として、
式(I)で示される化合物、
【化3】

(RおよびRの一方はメチル基を、RおよびRの他の一方は水素原子であり、Xはカルボン酸基、カルボキシル基、またはカルボキサミド基を表す。)
または、前記化合物のいずれかの医薬的に許容可能な塩、溶媒化合物、複合体またはプロドラッグを含む医薬組成物。
【請求項18】
医薬的に許容可能なキャリアをさらに含む、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
経口投与用に処方された、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
カプセルまたはサシェットの形体である、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記化合物を1日当たり10mg〜10gの容量で提供されるように処方された請求項17〜20のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記化合物を1日当たり100mg〜1gの容量で提供されるように処方された請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
式(I)で示される化合物、
【化4】

(RおよびRの一方はメチル基を、RおよびRの他の一方は水素原子であり、Xはカルボン酸基、カルボキシル基、またはカルボキサミド基を表す。)
または、前記化合物のいずれかの医薬的に許容可能な塩、溶媒化合物、複合体またはプロドラッグの使用であって、体重減少を制御するため、および/または体重増加を予防するための使用。
【請求項24】
式(I)で示される化合物、
【化5】

(RおよびRの一方はメチル基を、RおよびRの他の一方は水素原子であり、Xはカルボン酸基、カルボキシル基、またはカルボキサミド基を表す。)
または、前記化合物のいずれかの医薬的に許容可能な塩、溶媒化合物、複合体またはプロドラッグの使用であって、肥満または体重超過状態を治療および/または予防するための使用。
【請求項25】
式(I)で示される化合物、
【化6】

(RおよびRの一方はメチル基を、RおよびRの他の一方は水素原子であり、Xはカルボン酸基、カルボキシル基、またはカルボキサミド基を表す。)
または、前記化合物のいずれかの医薬的に許容可能な塩、溶媒化合物、複合体またはプロドラッグの使用であって、糖尿病を予防および/または治療するための使用。
【請求項26】
糖尿病がII型糖尿病である請求項25に記載の使用。
【請求項27】
式(I)で示される化合物、
【化7】

(RおよびRの一方はメチル基を、RおよびRの他の一方は水素原子であり、Xはカルボン酸基、カルボキシル基、またはカルボキサミド基を表す。)
または、前記化合物のいずれかの医薬的に許容可能な塩、溶媒化合物、複合体またはプロドラッグの使用であって、アミロイド関連疾患を治療および/または予防するための使用。
【請求項28】
式(I)で示される化合物、
【化8】

(RおよびRの一方はメチル基を、RおよびRの他の一方は水素原子であり、Xはカルボン酸基、カルボキシル基、またはカルボキサミド基を表す。)
または、前記化合物のいずれかの医薬的に許容可能な塩、溶媒化合物、複合体またはプロドラッグの使用であって、心臓血管疾患の複数のリスク因子を治療または予防するため、好ましくは上昇した血液脂質を治療するための使用。
【請求項29】
式(I)で示される化合物、
【化9】

(RおよびRの一方はメチル基を、RおよびRの他の一方は水素原子であり、Xはカルボン酸基、カルボキシル基、またはカルボキサミド基を表す。)
または、前記化合物のいずれかの医薬的に許容可能な塩、溶媒化合物、複合体またはプロドラッグの使用であって、複数の動脈のアテローム硬化症に関連した脳卒中、大脳の、または一過性虚血発作を予防するための使用。
【請求項30】
体重減少を制御するため、および/または体重増加を予防するための方法であって、
薬学的に有効な量の式(I)で示される化合物、
【化10】

(RおよびRの一方はメチル基を、RおよびRの他の一方は水素原子であり、Xはカルボン酸基、カルボキシル基、またはカルボキサミド基を表す。)
または、前記化合物のいずれかの医薬的に許容可能な塩、溶媒化合物、複合体またはプロドラッグを、ヒトまたは動物に投与する方法。
【請求項31】
肥満または体重超過状態を治療および/または予防する方法であって、
薬学的に有効な量の式(I)で示される化合物、
【化11】

(RおよびRの一方はメチル基を、RおよびRの他の一方は水素原子であり、Xはカルボン酸基、カルボキシル基、またはカルボキサミド基を表す。)
または、前記化合物のいずれかの医薬的に許容可能な塩、溶媒化合物、複合体またはプロドラッグを、ヒトまたは動物に投与する方法。
【請求項32】
糖尿病を予防および/または治療する方法であって、
薬学的に有効な量の式(I)で示される化合物、
【化12】

(RおよびRの一方はメチル基を、RおよびRの他の一方は水素原子であり、Xはカルボン酸基、カルボキシル基、またはカルボキサミド基を表す。)
または、前記化合物のいずれかの医薬的に許容可能な塩、溶媒化合物、複合体またはプロドラッグを、ヒトまたは動物に投与する方法。
【請求項33】
糖尿病がII型糖尿病である請求項32に記載の方法。
【請求項34】
アミロイド関連疾患を治療および/または予防する方法であって、
薬学的に有効な量の式(I)で示される化合物、
【化13】

(RおよびRの一方はメチル基を、RおよびRの他の一方は水素原子であり、Xはカルボン酸基、カルボキシル基、またはカルボキサミド基を表す。)
または、前記化合物のいずれかの医薬的に許容可能な塩、溶媒化合物、複合体またはプロドラッグを、ヒトまたは動物に投与する方法。
【請求項35】
心臓血管疾患の複数のリスク因子を治療または予防する方法であって、
薬学的に有効な量の式(I)で示される化合物、
【化14】

(RおよびRの一方はメチル基を、RおよびRの他の一方は水素原子であり、Xはカルボン酸基、カルボキシル基、またはカルボキサミド基を表す。)
または、前記化合物のいずれかの医薬的に許容可能な塩、溶媒化合物、複合体またはプロドラッグを、ヒトまたは動物に投与する方法。
【請求項36】
複数の動脈のアテローム硬化症に関連した脳卒中、大脳の、または一過性虚血発作を予防する方法であって、
薬学的に有効な量の式(I)で示される化合物、
【化15】

(RおよびRの一方はメチル基を、RおよびRの他の一方は水素原子であり、Xはカルボン酸基、カルボキシル基、またはカルボキサミド基を表す。)
または、前記化合物のいずれかの医薬的に許容可能な塩、溶媒化合物、複合体またはプロドラッグを、ヒトまたは動物に投与する方法。
【請求項37】
式(I)の化合物をヒトまたは動物に経口投与する、請求項30〜36のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−540394(P2008−540394A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−509529(P2008−509529)
【出願日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【国際出願番号】PCT/IB2006/001164
【国際公開番号】WO2006/117668
【国際公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(506209798)プロノヴァ バイオファーマ ノルゲ アクティーゼルスカブ (4)
【Fターム(参考)】