説明

脈動波形の制御方法を備えた湿式比重選別機

【課題】従来の湿式比重選別機は、低比重域帯かつ、比重差が小さな多岐にわたるプラスチックの選別性能に問題が多く、特にプラスチック廃材を新原料の材料として再利用することが出来なかった。
【解決手段】混合プラスチック粒子を湿式比重選別機で選別する場合、混合プラスチック粒子中の比重の最も重い組成物質の水中での流動化開始速度に相当する上昇流速度を与えると、最も高い選別精度が得られることを見出した。そこで、網下に脈動を発生する気室を持つ湿式比重選別機において、脈動水の上昇速度を水の表面又は水中に没した液面計により測定し、この測定値を上昇速度演算機能制御器に入力し、変動可能な入気制御弁の開閉速度を任意に設定して脈動波形を制御する方法、および上昇速度を任意に設定できる機能を持つ変動可能な入気制御弁と適正速度の下降流を与えるため開閉速度を任意に変動可能な排気制御弁とを有する脈動波形制御方法を備えた湿式比重選別機を開発した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
複合廃材、例えば素材の異なるプラスチック混合廃材等において、湿式選別機を用いて素材毎に回収することにより、廃材プラスチックは再度原料として利用出来る。即ち複合廃材を素材別に単体分離させた後、高品質なプラスチックに選別する技術であり、低比重域素材、例えば、比重1.0以上1.8以下の範囲で異なる比重の素材を比重差0.03でも選別可能な技術である。
【背景技術】
【0002】
湿式比重選別機は、従来主に原炭から良質の石炭を選択的に回収する装置として広く使用されていた。また近年、コンクリート廃材から高品質の骨材を回収する装置としても利用されている。即ち比重差を利用して、前者では、低い比重物質例えば比重1.3から1.8の石炭を比重1.8以上の岩石から分離選別回収し、後者では重い比重物質の比重2.5以上の骨材をモルタル分から分離選別回収していた。
【0003】
最近では、素材が異なる混合プラスチック粒子を選別する必要が増してきている。例えば、プラスチックは自動車、家電、様々な機器類、容器などに使われており、いまや現代生活はプラスチックなしでは成り立たなくなっている。その使用量は年々増えつづけており、それにともない発生する廃プラスチック量も膨大なものであり、循環型社会を形成していく上で、この廃プラスチックの活用が重要な課題となっている。
【0004】
廃プラスチックの資源化を進めるためには、素材別に選別して資源として再利用する技術を確立する必要がある。しかし、プラスチックの材質は多岐にわたっており、かつ低比重で相互の比重差が小さく、粉砕時には細片が発生するので、既存の湿式比重選別方法の技術では限界がある。
【特許文献1】特開昭64−43355号公報
【特許文献2】特開2000−185241号公報
【特許文献3】特開2004−34674号公報
【非特許文献1】Masami Tsunekawa,et al,“Jig Separation Of Plastics from Scrapped Copy Machines”,International Journal of Mineral Processing,Vol.76,p.67−74(2005)
【非特許文献2】恒川昌美等著 資源・素材2001、Cl、P37〜40
【非特許文献3】伊藤正澄著 資源・素材2000、Cl、P30〜35
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の湿式比重選別機の技術では、上下に脈動する水中での粒子の動きが比重により異なることを利用しており、定常的な加圧空気により発生させた脈動定常波形を粒子群に与えている。そのため、細粒で比重差が小さい物質相互を比重選別するには限界がある。
【0006】
しかし、近年、廃家電、使用済み自動車などからのシュレッダーダスト中の有用物回収や、各種プラスチック系廃棄物を再資源材料とする過程で、細粒で低比重の物質相互の選別が出来る比重選別機の開発が重要な課題となってきている。本発明により、これらの廃棄物の資源材料としての有効利用が可能になり、例えばプラスチックの場合、粒径3〜0.5mmで比重差0.03の物質同士でも高精度で選別できることから、廃材プラスチックが新原料の資源材料として使用されることになる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に関連して、湿式の網下気室型比重選別機は、従来知見していた高比重域の選別性能から判断して、低比重域でかつ比重差の小さな物質の選別にも適性があることが予想されていた。但し、種々のプラスチックの破砕物を比重選別するにあたり、選別対象の性状からその最適条件を予測することは困難であり、従来は選別条件を逐一変えながら試験を繰り返してようやく最適条件を探り当てていたが、低比重で細粒のプラスチックを試料として用い、その選別性と上昇流中での試料の流動性との関係について系統的な研究を行った結果、上昇水流に基づく試料の流動性に着目すると最適条件の探索は容易になることが実験により証明された。
【0008】
試料として用いた破砕された非球状の2種類の耐熱性ポリエチレン(PE)とポリ塩化ビニル(PVC)の比重を測定した結果を表1に示し、またふるいわけ法で粒度分布を測定し重量頻度分布で表した結果を図1に示す。比重選別実験の試料として前述の3種のプラスチックから2種づつを選んで混合した合計3種類の混合試料を実験試料とした。
(表1)
試験試料の密度とその標準偏差の表である。
【表1】

【0009】
前述の実験試料を試験機の選別槽内に層厚10cmになるように入れ、所定のサイクル数、波高、波形の条件の下で試験機を運転し選別試験を行った。実験は高比重産物層の下層と低比重産物層の上層が成層し、選別がそれ以上進行しなくなった時点で終了させ、試験機から取り外し、出した実験後の試料を最上部と最下部からそれぞれ厚さ2cmづつ取出し、その品位を測定した。また、上述の選別試験と同様に、試料を試験機の選別槽内に層厚10cmになるように入れ、最適選別条件で選別して、選別が修了した時点でジグの運転を止め、そのままの状態においた。つぎに波高を1〜15cmの間で種々設定し、液面上昇速度が一様で一定な上昇水流を5秒間発生させて、成層した上層と下層の層厚の膨張、粒子層の流動、また上昇流発生後の分離線の乱れを選別槽の側面から計測した。
【0010】
サイクル数を10、20、30、40、60サイクル/minと変化させ、また波高を1、3、5cmにそれぞれ設定して、PE1とPVCの混合試料について選別試験した結果を実験条件と最上層産物のPE1品位との関係として図2に示す。
【0011】
図3は、図2の実験において得られた最上層産物のPE1品位、最下層産物のPVC品位と液面上昇速度との関係を示している。最下層産物のPVC品位が最大になるときの液面上昇速度は1.33cm/secであった。又、この液面上昇速度の時、最上層産物のPE1品位も最大になった。
【0012】
図4は、図2の実験と同じ試料を使い、同じ選別条件で得られた成層産物について液面上昇速度とその上昇流中で膨張した試料の層厚との関係を示している。液面上昇速度は波高から算出した。PE1は液面上昇速度0.5cm/sec付近で、PVCは1.3cm/sec付近で、それぞれの層厚の膨張が極大となっている。層厚の膨張が極大となる点は粒子層の流動化開始点であり、即ちこの極大点より液面上昇速度が遅ければ粒子層は固定層であり、速ければ流動層であることは周知されていることである。
【0013】
従って、図3と図4から最適選別条件のときには液面上昇速度が重比重産物の流動化開始点付近にあることが分かる。同様なことが、他の混合試料についての選別でも認められた。これは液面上昇速度が流動化開始点より遅い領域では重比重粒子の層は固定層となり、取り込んでいる軽比重粒子を層から放出出来ないため選別が進みにくく、逆に液面上昇速度が流動化開始点より速い領域では重比重粒子の層は流動層となり、液面上昇速度が速くなるにしたがい巻き上がりにより一度分離した層を再び混合する作用が激しく生じるようになるので選別が阻害されるようになることによる。上述の結果は、選別に際して重比重側の粒子の流動化開始点を調べ、流動化開始点での液面上昇速度と同じ速度の上昇流を使うことで最適な選別が出来ることを示している。
【0014】
図5は脈動が1サイクルの波形を示すものであるが、本発明によれば、入気速度勾配を調整することで図5の実線のような脈動水の上昇速度勾配を点線に示すように任意に変更することが出来る。そのため選別する物質中で最も重い比重の物質の流動化開始速度を既知していれば、図5の点線に示すように1サイクル中の入気速度勾配を制御して、脈動水に流動化開始速度と同一の上昇速度を生じさせることにより、最適な選別条件を与えることが出来る。図6では図5において入気量を調整すると上昇速度が変わるのと同様に、排気の速度勾配を変えて点線のように脈動水の下降速度を変えることも出来ることを示す。即ち本発明においては、対象試料を高精度に選別するのに適した最適な脈動波形を発生できる装置、またこの脈動波形を制御できる機能を持つ脈動波形制御方法を備えた湿式比重選別機を開発した。
【発明の効果】
【0015】
廃棄物中の有価物回収、未利用資源の活用などのプロセスにおいて、従来利用されてこなかった細粒で低比重の有価物を効率的に選別回収出来るようになる。廃材プラスチックの場合を例にとると、低比重域かつ比重差が小さな廃材プラスチック材料は、現在、高品質な素材として回収が出来ないため、そのほとんどは価値がないとして燃料に利用、又は廃棄処分している。
【0016】
しかし、本発明により混在材料である廃プラスチックから99%以上の品質のプラスチックが回収出来るようになると素材としての再生利用の価値が生じ、資源物として利用が可能になる。又、総合的な見地から資源の確保、不法投棄の防止、CO発生の抑制などの環境対策に貢献し新産業として新たな雇用を生むことになる。
【0017】
廃家電、使用済み自動車などのシュレッダーダスト中の有用物回収、他の廃棄物処理、未利用資源の活用などの分野において、対象物が細粒で低比重域にあり、かつ相互の比重差が小さいために資源材料として再利用されてない物質は多い。本発明は、これらの物質を有用物として回収することにより、循環型社会形成に向けて再資源化分野で大きく貢献する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
選別対象物の比重が異なることに着目して、脈動する水中でこれらを比重選別する場合、既存の湿式比重選別機では、低比重で細粒な粒子相互を選別するに適した脈動波形を与えることが困難であった。本発明では最良の分離成績が得られる最適脈動条件を容易に見出すとともにその脈動波形条件を高い精度で制御することができるので、既存の技術では選別が困難な比重範囲もしくは比重差の試料に対しても本発明の利用により選別が可能となる。
【実施例1】
【0019】
本発明は、低比重域帯の物質相互の選別、例えば種々のプラスチックの選別プロセスに適用されることが多いが、図7は網下気室型湿式比重選別機2における脈動空気の入排気制御図面である。入気制御弁10と排気制御弁9は完全に独立している。加圧空気12を定圧状態にして送るためのレシーバタンク17とその加圧空気12を与える空気ブロワ18は、入気制御弁10を通して網下気室型湿式比重選別機2に設置されている気室3に空気を送るための装置である。
【0020】
水位5又は水中で水の動作を測定する液位計15からの信号を上昇速度演算機能制御器14に速度のデータ信号として与え、入気制御弁10と排気制御弁9により、入気量及び排気量を調整して、制御された水の脈動波形を生じさせ、またそれにともない混合プラスチック粒子1に対しても上下脈動動作を与える。入気制御弁10で最適上昇流を与えるため,選別対象物の混合プラスチック粒子1の中で比重の最も重いプラスチックの既知されている流動化開始点の流速を持つ上昇流を生じさせられるように、入気制御弁10の弁の開度を上昇速度演算機能制御器14に組まれたプログラムによって可変することが出来る。
【0021】
図7において網下気室型湿式比重選別機2を構成する名称に対して説明する。網下気室型湿式比重選別機2には、網の下に位置する気室3があり、気室3において脈動空気と水の境界面4が加圧空気の入排気にともない移動し、それに連動して選別室6にある水が上下動する機能構造をもっている。この脈動空気の入排気は、レシーバタンク17からの加圧空気が定圧状態で分岐管8を経て、脈動取入口7から入排気されることによる。この湿式の比重選別機では、混合プラスチック粒子1は網下気室型湿式比重選別機2の端部からフィードされ、水の脈動による上下作動を受けながら比重差により成層分離され、比重の最も重いプラスチックが排出装置16から定量的に排出され、一方最も軽いプラスチックはオーバフロープラスチック20として排出される。
【実施例2】
【0022】
図8は、図7の入排気制御方法に対して、入排気システムが異なる制御方法を示す。入気制御弁10、入気微調整制御弁11は2個または複数個設置されていて、例えば入気制御弁10は定量の加圧空気を気室3に送り、最適上昇速度を既知していない場合でも、入気微調整制御弁11により微量の空気量を調整することにより、最適上昇速度を検知することが可能となる方法である。一般的には、比重の最も重い物質19の最適な流動化開始速度は概略知りえていても不明なことが多い。従って、微調整弁11を設けて脈動水上昇速度を微調整し、最も重いアンダーフロープラスチック19の流動化開始点を見出すことは重要である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
湿式比重選別機は、その構造から多岐の物質を選別対象としているが、特に廃材プラスチックの素材毎の選別に適用する場合、選別精度が問題となっている。本発明は脈動波形を自由に制御できる手段を講じることにより、選別精度の問題を解決した。従って、本発明により自動車、家電、様々な機器類、容器等の複合廃材プラスチックから素材毎に高品質なものが選別回収され再度新原料として利用できるので、循環型社会を形成していく上で不可欠な廃棄物の新原料化技術として活用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】試験試料の粒度構成である。
【図2】PE1とPVCの混合試料についての選別試験結果とサイクル数、波高との関係図である。
【図3】PE1とPVCの混合試料についての選別試験結果と液面上昇速度との関係図である。
【図4】試験試料PE1とPVCの上昇流中での最大層厚と液面上昇速度との関係図である。
【図5】脈動1サイクルの入気速度を可変した場合の脈動水制御の説明図である。
【図6】脈動1サイクルの排気速度を可変した場合の脈動水制御の説明図である。
【図7】本実施形態の入排気、上昇、下降速度自動制御システムのフロー図である。
【図8】本実施形態の入排気、上昇、下降速度微調整自動制御システムのフロー図である。
【符号の説明】
【0025】
1 混合プラスチック粒子
2 網下気室型湿式比重選別機
3 気室
4 脈動空気と水の境界面
5 水位
6 選別室
7 脈動取入口
8 分岐管
9 排気制御弁
10 入気制御弁
11 入気微調整制御弁
12 加圧空気
13 排気
14 上昇速度演算機能制御器
15 液位計
16 排出装置
17 レシーバタンク
18 空気ブロワ
19 アンダーフロープラスチック
20 オーバフロープラスチック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合プラスチック粒子からプラスチックの素材毎に選別する湿式比重選別機において、プラスチック相互の比重の差を利用して媒体物の水の脈動により各素材の混合プラスチック粒子にそれぞれ選別する方法であり、混合プラスチック粒子は水の上昇過程又は下降過程で水中での上昇速度又は下降速度の差により選別されるが、混合プラスチック粒子を水の上昇過程で選別を行う際に、混合プラスチック粒子中の比重の最も重い組成物質の水中での流動化開始速度に相当する上昇流速度を与え、かつ水の脈動波形を任意に可変することが出来る湿式の比重選別機。
【請求項2】
請求項1に記載の湿式比重選別機において、混合プラスチック粒子中の比重の最も重い組成物質の水中での流動化開始速度に相当する上昇速度を上昇水に与えるために、水の脈動水の上昇速度を水の表面又は水中に没した液面計により測定し、この測定値を上昇速度演算機能制御器に入力し、変動可能な入気制御弁の開閉速度を任意に設定して脈動波形を制御する方法を備えた湿式比重選別機。
【請求項3】
さらに上昇速度を任意に設定できる機能を持つ変動可能な入気制御弁と、適正速度の下降流を与えるため開閉速度を任意に変動可能な排気制御弁も有する脈動波形制御方法を備えた請求項2に記載の湿式比重選別機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−320881(P2006−320881A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174222(P2005−174222)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年3月28日から30日 社団法人資源・素材学会主催の「社団法人 資源・素材学会 2005年 春季大会」において文書をもって発表
【出願人】(500144491)アグロ技術株式会社 (6)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】