脊椎椎間板の回復のための装置及び方法
【課題】椎間板人工器官が椎間板内空間の空洞に導入されたときに、適正な椎間板内空間を維持し且つ強化するための装置の提供。
【解決手段】椎間板の置換又は補強中に適正な椎間板高さを維持するための装置及び方法が提供されている。一つの実施形態においては、カニューレ挿入による伸延器10が、隣接する椎骨を伸延させ且つ適正な椎間板高さを維持するために使用される。カニューレ挿入による伸延器は、流体が流れるように、椎間板空間C内へ注入するための流動性材料の供給源に接続される。伸延部材は、中心内腔と椎間板空間内へ流動性材料を拡散させるために前記中心内腔と連通している複数の孔30,32とを含んでいる椎間板空間内の伸延先端18を含んでいる。
【解決手段】椎間板の置換又は補強中に適正な椎間板高さを維持するための装置及び方法が提供されている。一つの実施形態においては、カニューレ挿入による伸延器10が、隣接する椎骨を伸延させ且つ適正な椎間板高さを維持するために使用される。カニューレ挿入による伸延器は、流体が流れるように、椎間板空間C内へ注入するための流動性材料の供給源に接続される。伸延部材は、中心内腔と椎間板空間内へ流動性材料を拡散させるために前記中心内腔と連通している複数の孔30,32とを含んでいる椎間板空間内の伸延先端18を含んでいる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、脊椎の疾患又は損傷の治療に関し、より特定すると、外科的治療に続いてなされる脊椎椎間板の回復に関する。本発明は、通常の椎間板空間高さを回復し且つ椎間板の修復及び回復において使用するための生体材料の導入を容易にするための装置を及び方法を意図している。
【背景技術】
【0002】
椎間板は、2つの別個の領域、すなわち、髄核と線維輪とに分けられる。髄核は、椎間板の中心に位置し且つ線維輪によって包囲され且つ包含されている。線維輪は、髄核を包囲する同心状の薄板を形成し且つ補強構造を形成するために互いに隣接する椎体の終板間内に挿入される膠原線維を含んでいる。軟骨質の終板は、椎間板と隣接する椎体との間の境界に配置されている。
【0003】
椎間板は、人体における最も大きな無血管構造である。椎間板は、栄養素を受け取り且つ隣接する血管化した終板を介する拡散によって排泄物を排出する。髄核のプロテオグリカン基質の吸湿性は、高い核内圧力を発生するように機能する。椎間板内の水分が増加するにつれて、髄核内圧力が増大し、髄核が膨潤して椎間板の高さを増す。この膨潤は、線維輪の線維を伸長状態に配置する。正常な椎間板は、約10〜15mmの高さを有する。
【0004】
一般的に、機械的、遺伝子的及び生化学的なものに分類することができる椎間板の破壊又は変性の多くの原因が存在する。機械的な損傷としては、髄核の一部分が線維輪の裂け傷又は断裂によって髄核が突出するヘルニア形成がある。遺伝子的及び生化学的な原因は、椎間板の細胞外基質のパターンに変化を生じ且つ椎間板の細胞による細胞外基質成分の生合成の減少を生じ得る。変性は、通常はプロテオグリカン成分の減少による中心の髄核内の細胞外基質の水分と結合する能力の低下と共に始まる進行性の過程である。水分の損失により、髄核は乾燥状態となって、椎間板内の液圧の低下を生じ且つ最終的には椎間板の高さの喪失を生じる。この椎間板の高さの喪失は、線維輪を無荷重状態で座屈させ且つ輪状層板を離層させて、輪状の裂溝を生じさせる。次いで、裂傷が髄核の突出につながると、ヘルニア形成が起こるかも知れない。
【0005】
適正な椎間板の高さは、椎間板及び椎柱の適正な機能を保証するために必要である。椎間板の主たる機能は脊椎の動きを容易にすることであるけれども、椎間板はいくつかの機能を果たす。更に、椎間板は、荷重の担持、荷重の伝達及び脊椎骨の高さ間の衝撃の吸収を提供する。人の体重は、椎間板に圧縮荷重を発生させるが、この荷重は典型的な屈曲動作において均一ではない。前方への屈曲の際には後線維輪の線維が伸張され、一方、前線維輪の線維は圧縮される。更に、髄核の重心が中心からずれて伸長された側へとずれると、髄核の移動が起こる。
【0006】
椎間板の高さの変化は、局部的作用及び全体的作用の両方を有する。局部的な(又は細胞の、高さの)椎間板の高さの低下は、髄核の高い圧力を生じ、これは、細胞基質の合成の減少と細胞の壊死及び枯死の増加につながり得る。更に、椎間板内の圧力の増大は、椎間板への流体の移動のための望ましくない環境を形成し、これは、椎間板の高さを更に減少させる。
【0007】
椎間板の高さの減少はまた、脊椎の全体的な機械的安定性の著しい変化をも生じさせる。椎間板の高さが減少した状態では、小関節面接合部が増大した荷重を担い、肥大及び変性を受けるかも知れず、慢性の痛みの発生源として作用さえもするかも知れない。椎間板の高さの喪失によって椎柱の剛性が低下すること及び動きの範囲が大きくなることは、椎柱の更なる不安定さだけでなく背中の痛みにもつながり得る。外側の線維輪は、伸張荷重状態での安定性を提供し、十分に水和した髄核は、十分な椎間板の高さを維持して線維輪を適正な伸張状態に保つ。椎間板の高さが低くなると、線維輪はもはや同じ安定度を提供することができず、異常な結合動作を生じる。この過剰な動きは、それ自体、筋肉、靱帯及び腱の異常な荷重状態を発現し、これは、最終的に背中の痛みの発生源となり得る。
【0008】
低くなった椎間板の高さによって惹き起こされる小孔体積の減少によって根性の痛みが生じるかも知れない。特に、椎間板の高さが低くなるにつれて、脊髄神経根が通る小孔管の体積が減少する。この減少は、放射痛み及び機能不全を伴う脊髄神経衝突につながるかも知れない。
【0009】
最後に、椎間板の高さが所定のレベルまで低下すると、隣接する区分の荷重が増大する。付加的な荷重を支えなければならない椎間板は、変性の加速及び異形を受け、これは、実際上は不安定になった椎柱に沿って進行するかも知れない。
【0010】
椎間板の高さの変化が徐々に起こる椎間板の高さの低下を伴うこれらの全ての損傷に拘わらず、有害作用の多くは、脊椎に対して“許容可能”であるかも知れず且つ脊椎系が徐々に起こる変化に適合するための時間を許容するかも知れない。しかしながら、椎間板又は椎間板髄核の外科的な除去によって生じる椎間板の体積の突然の減少は、上記した局部的且つ全体的な問題を大きくするかも知れない。椎間板の欠陥の多くは、髄核物質が除去される椎間板切除術のような外科的手術によって治療される。完全椎間板切除術中には、髄核の体積の実質的な量(通常は全て)が除去され、椎間板の高さ及び体積の急速な損失が生じ得る。部分的な椎間板切除術によってさえも、椎間板の高さの損失が結果的に起こり得る。椎間板切除術自体は、椎間板の膨らみによる神経との衝突又は脊椎の神経構造と接触する椎間板のかけらによって生じる根性の痛みを治療するためにしばしば使用される最も一般的な脊椎の外科的治療法である。
【0011】
もう一つ別の一般的な脊椎手術においては、椎間板切除術の後に、髄核が除去されたときに椎間板の隙間に残った空洞内に人工器官を導入する移植手術を行う。これまでのところ最も卓越した人工器官は、適正な椎間板の高さを回復し且つ互いに隣接する椎骨間を固定する構造とされている“ケージ”である。これらの機械的な解決方法は、固化した腎臓形状のインプラント、骨成長物質が充填された中空のブロック、押し込みインプラント及びねじ込み円筒形ケージを含む種々の形態を採用している。
【0012】
より近年においては、注入可能な生体材料が、椎間板切除術に対する増強物であるとより広く考えられてきた。1962年のような初期においては、Alf Nachemsonは、通常の注射器を使用して、変性した椎間板内に室温で加硫するシリコーンを注入することを示唆した。1974年には、Lemaire及びその他の人が、生体内で重合可能な椎間板の人工器官によるSchulmanの臨床経験を報告した。このとき以来、ヒアルロン酸、線維素接着剤、アルギン酸塩、エラスチン状ポリペプチド、膠原ゲル及びその他のような椎間板髄核に対する代用品として、多くの注入可能な生体材料又は骨格が開発されて来た。種々の注入可能な生体材料に関する多くの特許が発行されて来た。これらの特許としては、架橋可能な絹エラスチン共重合体に関して記載されている第6,423,333号(Stedronskyらへの特許)、第6,380,154号(Capelloらへの特許)、第6,355,776号(Ferrariらへの特許)、第6,258,872号(Stedoronskyらへの特許)、第6,184,348号(Ferrariらへの特許)、第6,140,072号(Ferrariらへの特許)、第6,033,654号(Stedronskyらへの特許)、第6,018,030号(Ferrariらへの特許)、第6,015,474号(Stedronskyへの特許)、第5,830,713号(Ferrariらへの特許)、第5,817,303号(Stedronskyへの特許)、第5,808,012号(Donofrioらへの特許)、第5,773,577号(Capelloへの特許)、第5,773,249号(Capelloらへの特許)、第5,770,697号(Ferrariらへの特許)、第5,760,004号(Stedronskyへの特許)、第5,723,588号(Donofrioへの特許)、第5,641,648号(Ferrariへの特許)及び第5,235,041号(Capelloらへの特許)、たんぱくヒドロゲルが記載されている第5,318,524号(Morseらへの特許)、第5,259,971号(Morseらへの特許)、第5,219,328号(Morseらへの特許)及び第5,030,215号、ポリウレタン充填バルーンが記載されている第60/004,710号(Feltら)、第6,306,177号(Feltらへの特許)、第6,248,131号(Feltらへの特許)及び第6,224,630号(Baoらへの特許)、膠原−PEGが記載されている第6,428,978号(Olsenらへの特許)、第6,413,742号(Olsenらへの特許)、第6,323,278号(Rheeらへの特許)、第6,312,725号(Wallaceらへの特許)、第6,277,394号(Sierraへの特許)、第6,166,130号(Rheeらへの特許)、第6,165,489号(Bergらへの特許)、第6,123,687号(Simonyiらへの特許)、第6,111,165号(Bergへの特許)、第6,110,484号(Sierraへの特許)、第6,096,309号(Priorらへの特許)、第6,051,648号(Rheeらへの特許)、第5,997,811号(Espositoらへの特許)、第5,962,648号(Bergへの特許)、第5,936,035号(Rheeらへの特許)及び第5,874,500号(Rheeらへの特許)、キトサンが記載されている米国特許第6,344,488号(Cheniteらへの特許)、種々のポリマーについて記載されている第6,187,048号(Milnerらへの特許)、組換型生体材料が記載されている第60/038,150号(Urry)、第6,004,782号(Daniellらへの特許)、第5,064,430号(Urryへの特許)、第4,898,962号(Urryへの特許)、第4,870,055号(Urryへの特許)、第4,783,523号(Urryらへの特許)、第4,783,523号(Urryらへの特許)、第4,589,882号(Urryへの特許)、第4,500,700号(Urryへの特許)、第4,474,851号(Urryへの特許)、第4,187,852号(Urryらへの特許)及び第4,132,746号(Urryらへの特許)並びに線維輪修復材料について記載されている米国特許第6,428,576号(Haldimannへの特許)がある。
【0013】
これらの参考文献は、強い機械的強度、組織形成の促進、生分解性、生体適合性、滅菌適性、最少硬化又は固化時間、理想的な硬化温度及び椎間板空間内への容易な導入のための低粘度を含む、椎間板の置換に対して重要である1以上の特性を有する生体材料又は注入可能な骨格を開示している。骨格は、必要な機械的特性を呈しなければならないだけではなく物理的支持を提供しなければならない。骨格は、脊椎が受ける多数の荷重サイクルに耐えることができることもまた重要である。材料の生体適合性は最も重要である。初期材料及び劣化製品のいずれもが、分解されなかった免疫性応答又は毒性応答を引き出すべきでなく、免疫抗原性を表すべきでなく、又は細胞障害性を表すべきでない。
【0014】
一般的には、上記の生体材料は、粘性のある流体として注入され、次いで生体内で硬化される。硬化方法としては、感熱架橋、光重合又は固化剤若しくは架橋剤の添加がある。材料の硬化時間は重要であり、過程中に生体材料の正しい配置ができるのに十分な長さで、しかも、手術の長さを長引かせない程十分に短い時間であるべきである。材料が硬化中に温度変化を受ける場合には、温度の増加は小さく無ければならず、発生される熱は周囲の組織に損傷を与えてはならない。材料の粘度又は流動度は、材料が椎間板内への導入部位に留まる必要性と、配置を行う外科医の能力と、椎間板内の空間又はボイドの完全な充填を確保する必要性との釣り合いを取ったものでなければならない。
【0015】
使用されている注入可能な骨格材料に関係なく、完了した手術が椎間板の高さを回復することが重要である。従って、生体材料が椎間板内の空間内へ導入されつつある間適正な椎間板の高さが維持されることが重要である。理想的には、椎間板の高さは、隣接する椎間板の高さに等しく且つ特定の患者の正常な脊椎椎間板高さを示すレベルまで回復されるであろう。
【0016】
しかしながら、椎間板の高さが骨格材料の導入に先立って再度確立されない場合には、失われた椎間板の体積を置換すること及び少なくとも椎間板切除術前の椎間板高さを回復することが不可能となるであろう。生体材料が導入され且つ生体内で硬化されるときに適正な椎間板の高さを保持できないことは、実際上は、椎間板空間の潰れにつながり得る。この現象は、図1aにおける適正な椎間板高さを図1bにおける低くなった椎間板高さと比較することによって示されている。図1bに示した低くなった椎間板の高さは、通常は、隣接する椎骨が伸延されない場合には、実質的に完全な椎間板切除術が施されることにつながる。患者は、特に、椎間板Dの後側において椎間板空間を開くことを意図された位置に配置することができる。しかしながら、脊椎の過屈曲による場合でさえ、椎間板空間は、その適正な体積に達せず、最終的には、図1aに示された適正な椎間板高さに近づかないことが分かっている。
【0017】
硬化可能な椎間板人工器官の従来の移植方法は、ある程度の伸延を得るために、患者の物理的な配置又は生体材料の加圧による注入に依存していた。しかしながら、これらの従来の方法は、外科手術中かその後に、適正な解剖学的な椎間板高さの再現可能な回復を確立しない。結局、椎間板が注入可能な生体材料によって置換されるか又は増強されたときに、適正な椎間板の高さが確立され維持されるであろう。(特許文献1〜58参照)
【特許文献1】米国特許第6,423,333号
【特許文献2】米国特許第6,380,154号
【特許文献3】米国特許第6,355,776号
【特許文献4】米国特許第6,258,872号
【特許文献5】米国特許第6,184,348号
【特許文献6】米国特許第6,140,072号
【特許文献7】米国特許第6,033,654号
【特許文献8】米国特許第6,018,030号
【特許文献9】米国特許第6,015,474号
【特許文献10】米国特許第5,830,713号
【特許文献11】米国特許第5,817,303号
【特許文献12】米国特許第5,808,012号
【特許文献13】米国特許第5,773,577号
【特許文献14】米国特許第5,773,249号
【特許文献15】米国特許第5,770,697号
【特許文献16】米国特許第5,760,004号
【特許文献17】米国特許第5,723,588号
【特許文献18】米国特許第5,641,648号
【特許文献19】米国特許第5,235,041号
【特許文献20】米国特許第5,318,524号
【特許文献21】米国特許第5,259,971号
【特許文献22】米国特許第5,219,328号
【特許文献23】米国特許第5,030,215号
【特許文献24】米国特許出願公開第60/004,710号
【特許文献25】米国特許第6,306,177号
【特許文献26】米国特許第6,248,131号
【特許文献27】米国特許第6,224,630号
【特許文献28】米国特許第6,428,978号
【特許文献29】米国特許第6,413,742号
【特許文献30】米国特許第6,323,278号
【特許文献31】米国特許第6,312,725号
【特許文献32】米国特許第6,277,394号
【特許文献33】米国特許第6,166,130号
【特許文献34】米国特許第6,165,489号
【特許文献35】米国特許第6,123,687号
【特許文献36】米国特許第6,111,165号
【特許文献37】米国特許第6,110,484号
【特許文献38】米国特許第6,096,309号
【特許文献39】米国特許第6,051,648号
【特許文献40】米国特許第5,997,811号
【特許文献41】米国特許第5,962,648号
【特許文献42】米国特許第5,936,035号
【特許文献43】米国特許第5,874,500号
【特許文献44】米国特許第6,344,488号
【特許文献45】米国特許第6,187,048号
【特許文献46】米国特許出願公開第60/038,150号
【特許文献47】米国特許第6,004,782号
【特許文献48】米国特許第5,064,430号
【特許文献49】米国特許第4,898,962号
【特許文献50】米国特許第4,870,055号
【特許文献51】米国特許第4,783,523号
【特許文献52】米国特許第4,783,523号
【特許文献53】米国特許第4,589,882号
【特許文献54】米国特許第4,500,700号
【特許文献55】米国特許第4,474,851号
【特許文献56】米国特許第4,187,852号
【特許文献57】米国特許第4,132,746号
【特許文献58】米国特許第6,428,576号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の一つの目的は、椎間板人工器官が椎間板内空間の空洞に導入されたときに、適正な椎間板内空間を維持し且つ強化するためのシステム及び装置を提供することである。もう一つの目的は、伸延された隣接する椎骨と椎間板の高さの完全性を維持しつつ、流動性材料の椎間板空間内への導入を可能にすることである。
【0019】
本発明は、従来の脊椎手術の未解決な必要性を満たすために、椎間板空間内に流動性材料を注入する方法を意図している。
【0020】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の説明及び添付図面から認識することができる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の方法は、椎間板内の空間とつながっている線維輪に入口を形成するステップと、カニューレ挿入による伸延器を前記入口内に詰め込むステップとを含んでいる。本発明の一つの特徴に従って、伸延器は、椎間板内空間に隣接した椎骨を伸延し且つ互いに隣接する椎骨間に椎間板空間高さを確立するような構造とされている。本発明の方法は、伸延器が確立された椎間板空間高さを維持している間に、カニューレ挿入による伸延器の内腔を介して椎間板内の空間内に流動性材料を導入するステップを更に含んでいる。
【0022】
ある種の実施形態においては、本発明の方法は、入口が形成された後に椎間板切除術を施して伸延器が椎間板内の空間内に空洞を形成するステップを含んでいる。この実施形態においては、カニューレ挿入による伸延器を詰め込むステップは、伸延器内腔が空洞と連通するように伸延器を位置決めするステップを含み、前記流体を導入するステップが流体を前記空洞内へ導入するステップを含んでいる。椎間板切除術は、髄核のほぼ全てを椎間板空間から取り除く完全椎間板切除術とすることができる。
【0023】
本発明の更に別の特徴においては、流動性材料は、椎間板のための置換又は増強材として特に適している硬化可能な生体材料である。この場合には、流動性材料を導入するステップは、生体材料が生体内で硬化するまで伸延器を詰め込まれた位置に維持することを含むことができる。言い換えると、カニューレ挿入による伸延器は、生体材料が硬化するまで、隣接する椎骨をそれらが伸延された状態に維持する。このようにして、ひとたび生体材料が硬化し、伸延器が取り外されると、適切な椎間板高さを維持し且つ保持することができる。
【0024】
ある種の実施形態においては、流動性材料は、圧力をかけて椎間板空間内へ導入することができる。流動性材料に圧力がかけられる場合に特に有用である本発明のもう一つ別の特徴においては、カニューレ挿入による伸延器は、同伸延器が詰め込まれる入口を密封する構造とされている。いくつかの実施形態においては、伸延器は、線維輪入口を実質的に閉塞又は密封する大きさとされた部分を有している。その他の実施形態においては、伸延器は、互いに隣接する椎骨及び/又は入口を取り巻いている線維輪物質を圧迫する密封構造を含んでいる。この密封構造は、カニューレ挿入による伸延器と一体化するか又は伸延器に取り付けられる密封リングのような別個の要素を含むことができる。
【0025】
本発明の更に別の特徴であって、同じく流動性材料に圧力がかけられる場合に特に適しているものにおいては、カニューレ挿入による伸延器内に出口孔(vent)が設けられている。従って、流動性材料は、同流動性材料が出口孔から滲出するまで椎間板内の空間に導入することができる。従って、出口孔は、椎間板の空間が満たされたことの迅速な指示を提供することができる。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態においては、カニューレ挿入による伸延器は、流体注入装置と係合せしめられる。この装置は、ポンプ、注射器及び重力による給送装置を含む種々の形態とすることができる。
【0027】
その他の実施形態においては、流動性材料を導入するステップは、チューブが流動性材料の供給源に流体が流れるように結合された状態で、カニューレ挿入による伸延器の内腔内にチューブを伸長させることを含む。このチューブは、流動性材料を椎間板空洞内の特定の位置へ導くために伸延器によって操作することができる。例えば、チューブは、流動性材料が椎間板空間全体に拡散されるように、徐々に滲み出す動作によって移動させることができる。これと同時に、チューブは、流動性材料が内腔開口部に近づくにつれて、伸延器内腔から徐々に引き抜くことができる。
【0028】
好ましい実施形態においては、チューブと内腔との間に密封部材が設けられる。次いで、内腔とは別個に出口孔を設けて、流動性材料が出口孔から滲出することにより空洞が充填されていることを示すようにすることができる。
【0029】
本発明のもう一つ別の実施形態においては、流動性材料を椎間板空間内へ注入する装置は、互いに隣接する椎骨を椎間板空間距離まで伸延させる構造とされた対向する面を有している伸延部材を含んでいる。この伸延部材は、基端と末端とを有しており、少なくとも末端部分は椎間板空間内に配置される形状とされている。この伸延部材は更に、基端部分と末端部分との間に流体通路を形成しており、この通路は、基端部分及び末端部分に開口部を有している。いくつかの実施形態においては、伸延部材は、同伸延部材を流体が流れるように流動性材料の供給源に接続するために同伸延材料の基端に関連した嵌合部材を含んでいる。
【0030】
本発明のもう一つ別の特徴に従って、この装置は更に、同装置を貫通して内腔を形成している細長いカニューレを含んでいる。このカニューレは、伸延部材の嵌合部に液密結合するような構造とされた第1の嵌合部を第1の端部に有し、流動性材料の供給源に流体が流通可能なように結合する構造とされた第2の嵌合部を反対側の端部に有することができる。特別な実施形態においては、伸延部材はカニューレと一体化されており、第2の嵌合部は、伸延部材の基端に関連する嵌合部とされる。他の実施形態においては、伸延部材は、カニューレから取り外し可能とされる。
【0031】
好ましい実施形態においては、伸延部材の少なくとも末端部分は弾丸形状である。代替的な実施形態においては、末端部分は、対向するほぼ平らな側面を有する楔形状とされたり、十字形状とされたり、I形鋼形状とされたり、C字形状とされたりする。
【0032】
伸延部材の流体通路は、中心内腔を含んでおり、同中心内腔は同内腔と連通している多数の孔を有している。これらの孔は、流動性材料を椎間板空洞内の適当な位置へ導くために、種々の形状の末端部分に配列することができる。伸延部材はまた、流体通路から別個の孔を画成することもできる。ある種の実施形態においては、流体通路は、伸延部材の材料全体に亘って連結された間隙形態とすることができる。
【0033】
好ましい実施形態においては、伸延部材は、ステンレス鋼又はチタンのような生体適合材料によって作られている。代替的な実施形態においては、ポリマー材料のような他の生体適合性材料を使用することができ、生体再吸収材料さえも使用することができる。一つの特徴に従って、伸延部材は、ひとたび流動性材料が椎間板空洞内へ導入され、必要ならば硬化されると、椎間板空間から取り外されるような構造となっている。その他の特徴においては、伸延部材は、最も好ましくは、部材が生体再吸収材料によって作られている場合には、椎間板空間内に留まるような構造とされている。
【0034】
伸延部材は、末端部分の基端部に関連付けられた密封部材を含むことができ、この密封部材は、椎間板空間内に実質的に液密な密封を提供する構造とされている。密封部材は、末端部分に設けられた多数の密封リングを含むことができる。密封リングは、末端部分と一体化するか又は例えば末端部分に取り付けられた弾性リングとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明の原理の理解を高めるために、図面に示され且つ以下の明細書に記載されている実施形態を参照する。本発明の範囲をこれらの実施形態に限定することは意図されていないことは理解されるべきである。更に、本発明は、図示された実施形態に対する多くの代替例及び変形例を含んでおり且つ本発明が属する技術における当業者が通常想到できる本発明の原理の更に別の用途を更に含んでいることも理解されるべきである。
【0036】
本発明は、椎間板の本来の髄核の一部分又はほぼ全てを除去した後に詰め込まれる方法及び装置を意図している。本発明の一つの重要な目的は、除去された髄核物質に置換することを意図されている生体材料の導入中に、適正な椎間板の高さを維持することである。椎間板物質の除去は、キモパパインの使用によるように化学的に達成することができる。しかしながら、より多くの一般的な方法は、顕微鏡補助による視覚化又は経皮的アクセスによる開放外科手術として行うことができる。
【0037】
典型的な経皮による椎間板切除術が図2乃至4に示されている。第1のステップにおいては、ガイドワイヤGが、L2及びL3腰椎椎骨のような2つの椎骨間の罹患した椎間板D内に導かれる。図3に示されているように、ガイドワイヤGは、線維輪A及び髄核Nを貫通し、線維輪Aの両側に固定されるのが好ましい。ガイドワイヤGは、X線透視法のような間接視により、又は定位的に、又はその他の公知の方法を使用して、ガイドワイヤGを椎間板D内に正しく配向させるために配置することができる。図面に示された方法は、本発明の実現のために好ましい後方からのアプローチを使用している。もちろん、公知の外科手術に従って椎間板切除術に対してその他の方法を使用しても良い。更に、アクセス位置は、椎間板の裂溝又はヘルニア形成位置によって指図されても良い。
【0038】
穿孔器Tが、ガイドワイヤの周囲に沿って進入せしめられ且つ線維輪Aの中を駆動され、それによって、椎間板髄核の入口が形成される。図4に示されているように、組織除去装置Rを、穿孔器Tを通して又は椎間板入口に整合された加工チャネルカニューレを通して進入させることができる。次いで、装置Rを使用して、椎間板Dの髄核Nの全て又は一部分を除去することができる。図4において点線で示されているように、椎間板の髄核を完全に除去するのを容易にするために、第2の穿孔器T’を使用して第2の線維輪入口を形成することができる。キモパパインのような化学物質を髄核空間内へ導入するための組織除去装置Rは、骨鉗子、組織切除器、回転及び/又は往復動真空倍力カッター及び化学物質導入器のような種々の型式のものとすることができる。髄核の除去によって、実質的に無傷な線維輪Aによって包囲された空洞Cが残る(図5参照)。
【0039】
本発明は、椎間板の高さ及び好ましくは実質的に正常な椎間板の機能を果たすことができ又は回復する生体材料を椎間板空洞C内へ導入することを意図している。例えば、上記した生体材料のいずれも、新しく形成された空洞に充填することができる。好ましい実施形態によれば、生体材料は、適当な流動性及び/又は粘度を有する流体である。特に、生体材料は、椎間板空洞C内への比較的容易な導入を許容するための十分な流動性と、椎間板内でその形状を保持するのに十分な粘度とを有していなければならない。椎間板空洞Cを充填するために使用されている材料は流体であるので、本発明は、材料が空洞内へ流入したときに適当な椎間板の高さを保持する手段を提供し、それによって、空洞が充填させていること、すなわち、インプラント生体材料の体積が椎間板切除術によって除去された髄核の体積と同じであることを保証する。更に、本発明の方法及び装置は、生体材料が固体状態へと遷移したときに空洞の体積を維持するための手段を提供する。
【0040】
従って、図5乃至8に示されているように、本発明の一つの実施形態に従って、カニューレ挿入による伸延器10が設けられる。伸延器10は、椎間板空洞C内へ伸長している末端12と、椎間板空間内へ生体材料を注入するための装置と係合する構造とされている基端14とを含んでいる。伸延器10は、同装置の末端に設けられた伸延先端18で終端しているカニューレ11を含んでいる。内腔16が、装置の全長に沿って基端14から伸延先端18まで形成されている。伸延先端18は、椎間板の線維輪Aに形成された入口を通って伸長する大きさとされている(図3参照)。伸延器10は、伸延先端18に近接して肩部20を含むことができ、この肩部は、線維輪入口を通るのを阻止する大きさとされている。肩部20は、伸延先端18が椎間板空洞C内へと伸長する距離を制限するように機能することができる。伸延器10には、伸延器を定位置に一時的に固定するか又は隣接する椎骨上に伸延器を支持するための手段を設けることができる。
【0041】
図7に示されているように、伸延先端18は、線維輪入口から挿入されるように意図されており且つ空洞C内の適切な椎間板内高さを回復するような形状とされている。従って、一つの実施形態においては、伸延先端18は、テーパーが付けられた先端部分24を含むことができる。この先端部分24は、空洞C内へ導入することができ、先端が空洞内へと更に進入せしめられ、先端部分24が椎間板の終板Eを圧迫すると、隣接する椎骨を次第に伸延させるであろう。特定の実施形態においては、テーパーが付けられた部分24は、図8に示されているように、ほぼ弾丸形状とすることができる。この形状においては、伸延先端18は、先端が線維輪入口から挿入されるときにいかなる回転の向きを有することもできる。
【0042】
別の方法として、伸延先端は、図9に示されているように、歯先40のような形状とすることができる。この実施形態においては、先端は、互いに対向するほぼ平らな側部50と、楔部分42の中間端縁52と、を含んでいる。先端40は、楔の平らな側部50が椎間板の終板Eに対向する状態で椎間板空間内へ導入することができる。ひとたび先端が椎間板空洞C内へ十分に入ると、先端は、端縁52が終板と接触し且つ同終板を伸延させるように回転させることができる。端縁52自体は、基端が末端よりも大きな幅を有する楔形状とすることができる。
【0043】
再び図6乃至8に戻ると、本発明の一つの特徴に従って、伸延先端18は、全てが中心内腔16と連通している多数の側方孔30と端部孔32とを含んでいる。図7に示されているように、孔30、32は、内腔16を介して注入される流体の流出経路を提供している。これらの孔は、椎骨の終板Eによって妨げられないように配向されるのが好ましい。図9に示された伸延先端40にはまた、平らな側部50に設けられた側方孔46と端部孔48とが設けられている。この実施形態においては、端縁52は、終板と接触することによって閉塞されるので、孔を含んでいる必要はない。
【0044】
流体は伸延先端を介して導入されるように意図されているので、線維輪入口を介する椎間板空間Cへの入口における実質的に液密な密封を保証するためにいくつかの機構が設けられているのが好ましい。従って、本発明の一つの実施形態においては、伸延先端18は、椎間板の終板E及び/又は椎間板線維輪Aに対して密封する関係で圧迫するように意図された環状リング26を含むことができる。リング26は、伸延先端18と一体化することができ又は弾性密封リング形態のように伸延先端に取り付けられる別個の構成要素とすることができる。密封リングは、伸延先端に形成された環状の溝内に取り付けることができる。
【0045】
伸延器10は、カニューレ11の基端14に形成された嵌合部36を含んでいる。嵌合部36は、生体材料を椎間板内へ注入するようになされた装置に対する液密結合を形成するための手段を提供する。一つの例示的な装置70が図10に示されている。注入器70は、生体材料の貯蔵のためのチャンバ72を含んでいる。いくつかの場合には、チャンバ72は、種々の構成成分物質を混合することによって注入可能な生体材料が得られる多数のチャンバを構成していても良い。例えば、ある種の物質は生体内で硬化可能なものであっても良く且つ基材物質と硬化剤とを組み合わせることを必要としても良い。生体材料の構成成分の混合を容易にするために、注入器70は、混合チャンバ74を含むことができる。チャンバ72内の成分を混合チャンバ74内へと押し出す手動コントローラ76を設けることができる。別の方法として、注入器70は、注射器又はポンプのような圧力によって注入器から流体を駆動する機構を組み入れることができる。
【0046】
注入器70は、カニューレ挿入による伸延器10の嵌合部36と液密係合する構造とされた嵌合部80を含んでいる。好ましい実施形態においては、2つの嵌合部36、80は、ルアー(LUER:登録商標)のかみ合い構成要素を表している。注入器は、同注入器70がカニューレ挿入による伸延器と係合したときに、カニューレ11又はより特別には内腔16内へと伸長するノズル78を含むことができる。注入器の手動による安定性を可能にするために、把持部材82を設けることができる。
【0047】
上記したように、本発明のカニューレ挿入による伸延器10は、椎間板切除術の後に利用しても良い。図示の目的のために、図5に示されているように、実質的に骨髄の全てが除去されて椎間板空洞が残される完全椎間板切除術が行われたと仮定した。もちろん、本発明の原理は、髄核の一部分のみが部分的椎間板切除術によって除去される場合にも等しく良好に適用することができる。(第1及び第2の穿孔器T及びT’によって表されている)2つの横からのアプローチが使用された場合には、線維輪入口のうちの一つが椎間板の線維輪と適合する材料によって密封することができる。髄核がきれいされると、ガイドワイヤGを、同じく好ましくは公知の誘導装置並びに位置決め装置及び技術を使用して、椎間板D内に再度配置することができる。次いで、カニューレ挿入による伸延器10を、伸延先端18が骨髄空洞C内に適正に配置されるまで、ガイドワイヤGの周囲に沿って進入させることができる。伸延先端18の適正な深さは、肩部20が外側線維輪Aに接触することによって又は関連する深さの機構が隣接する椎体と接触することによって、決定することができるのが好ましい。
【0048】
伸延先端18においては、テーパーが付けられた部分24は、伸延先端が椎間板空間内へ更に駆動されると、互いに隣接する椎骨の終板Eを徐々に引き離す。テーパーが付けられた部分24を椎間板の線維輪の本来の張力に対して定位置に押し込むために、木づち、衝撃装置又はその他の適当な駆動装置を使用することができる。このステップの目的は、特定の脊椎の高さに対して適当な椎間板高さまで椎骨間の隙間を十分に伸延することであることが理解できる。例えば、L2−L3椎間板空間に対しては、この量の伸延を達成するために伸延先端が空洞C内に配置されるように、適当な椎間板の高さを13〜15mmとすることができる。図5に示されているように、伸延先端18は必ず空洞Cの体積のある部分を占めるので、唯一のカニューレ挿入による伸延器10が使用されるのが好ましい。しかしながら、適正な椎間板の高さを確立するために、(図4に示された第2の線維輪入口によるように)第2のカニューレ挿入による伸延器及び関連する伸延先端が必要であるかも知れない。
【0049】
従って、この方法は、ここでは伸延先端40に対して同様であることが理解されるべきである。しかしながら、テーパーが付けられた伸延先端18と異なり、伸延先端40は、椎間板空間を伸延するために付加的なステップを必要とする。特に、伸延先端40は、最初は、平らな側面50を終板Eに対向させて挿入される。先端は、次いで、端縁52が終板を圧迫し且つ支持するまで回転されなければならない。平らな側面50は、端縁への角度が付けられた遷移部分を含むことができ、又は、端縁52は、伸延先端が生体内で回転されるときに伸延を容易にするために丸くすることができる。
【0050】
先端10のような伸延先端が椎間板の空洞10内への適当な深さまで挿入されたときに、終板E又は線維輪入口の内側との肩部20の接触によるか又はリング26の係合によって、線維輪入口が密封される。この時点で、生体材料流体は、カニューレ挿入による伸延器、特に、内腔16内へ注入することができる。このステップを行うために、注入器70のような注入器を、カニューレ挿入による伸延器の基端14の嵌合部36とかみ合わせることができる。理想的には、ガイドワイヤGが取り外され、注入器の嵌合部80が嵌合部36と係合される。ノズル78は、内腔16内へと伸長している。ノズルは、ノズルの出口端部が伸延先端18の近くか又は同伸延先端18内に位置するような大きさとすることができる。この時点で、注入器70は、その構造に従って起動されて、生体材料流体が伸延器から内腔16内へ移動せしめられる。生体材料は、空洞Cを充填するために、伸延先端18内の孔30、32を通って出て行く。孔30、32は、空洞全体への生体材料の完全で且つ迅速な拡散を達成するような配置及び大きさとされるのが好ましい。このプロセスのこのステップの目的は、同様に、空洞の全体積と置換することである。流体生体材料が生体内で硬化可能か又は固化可能な材料である場合に、ひとたび材料が完全に硬化すると、均一な体積を保証するためには時間もまた必須であるかも知れない。
【0051】
生体材料が注入される間に、伸延先端18、40が適正な椎間板高さを維持することが明らかなはずである。この先端は、注入された材料が硬化又は固化するまで、定位置に保持することができる。ひとたびこの材料が十分に硬化すると、伸延先端18、40は除去することができる。伸延先端はある体積を占めるので、必要ならば抜き取られつつあるときに、付加的な生体材料を先端から注入し、それによって先端によって残された隙間を充填することができる。
【0052】
ある種の実施形態においては、伸延先端18は、図8に示されているように、組み立て部品とされ且つカニューレ11から取り外すことができる。従って、先端18及びカニューレ11には、(図9に示されているような)圧入又は当業者が想到できるようなねじ込み又はルアー(登録商標)のような取り外し可能なかみ合い部材19を設けることができる。取り外し可能な伸延先端は、いくつかの目的を達成することができる。一つの目的においては、注入された生体材料は、長い硬化時間を必要とするかもとれない。材料が硬化しつつある間適正な椎間板高さを維持するために、伸延先端を定位置に維持することがもちろん必要である。しかしながら、注入器70及びカニューレ11のような装置の他の構成要素を定位置に保持することは必要ではないかも知れない。組み立て部品型の伸延先端は、先端が定位置に留まって生体材料が硬化する間椎間板スペーサーとして作用している間は、カニューレ11を取り除いておくことを可能にする。
【0053】
取り外し可能な伸延先端18の隠れたもう一つ別の目的は、先端が椎間板内にレジゼントを維持することができるようにする生体材料によって先端が作られている実施形態によって達成される。この実施形態においては、伸延先端材料は、本来の髄核と置換するために使用される生体材料と互換性がなければならない。例えば、生体材料が、椎間板の高さを回復することのみを意図しているが、本来の髄核の本来の生体力学特性を回復することは意図していない場合には、伸延先端18の材料が、概して堅固な骨格を提供することができる。一方、注入された材料は、脊椎区分をできるだけ正常な脊椎区分に近い状態で機能させるように、椎間板の生体材料の特性と似せて機能させることを意図しているのが最も好ましい。この例においては、堅牢な骨格は、もちろん椎間板の正常な可撓性応答、圧縮応答及び捻れ応答を損なう。従って、先端が生体内に残される実施形態における伸延先端18は、椎間板の髄核を形成している硬化した生体材料の基質内に吸収される生分解性物質によって作ることができる。
【0054】
伸延先端が除去されるか椎間板空間内に留まるかに拘わらず、先端ができるだけ小さい体積を占めることが好ましい。一方、伸延先端は、隣接する椎骨を伸延させている間に椎間板の空間高さを保持するほど十分に強くなければならない。図5及び7に示された特定の実施形態においては、髄核空洞の実質的な部分を横切っている伸延先端18が示されている。別の方法として、伸延先端は、先端が空洞内へ部分的にのみ伸長するように肩部20から短い長さを有することができる。椎間板空間の伸延は、手術台上の患者のある位置によって幇助されることができ、手術台においては、例えば、椎間板空間の前方面が、脊椎の位置によって自然に伸延される。椎間板空間の適正な伸延は、図5及び7に示された後方からのアプローチよりもむしろ前方からのアプローチによってより良好に適応されるかも知れない。
【0055】
代替的な実施形態においては、伸延先端は、広範囲の幾何学的構造をとることができ、いくつかは、椎間板切除術中に形成された線維輪入口によって指図される。図5乃至8の実施形態においては、円形の線維輪入口が形成され、円形の伸延先端18は、入口を密封するために使用される。いくつかの場合には、図9に示された先端40と似た平らか又は楔形状の伸延先端を、線維輪を通る孔が先端自体よりも大きい面積を有する場所で利用することができる。これらの場合には、先端と入口の内側面との間の余分な空間は、直接の視覚化装置のための開口部又はその他の適当な装置を提供することができる。好ましくは、このアプローチは、生体材料が圧力によって注入されない場合、例えば重力による給送装置が採用されている場合(図11及びそれに関連する以下の説明を参照)に、より適している。
【0056】
その他の場合においては、外科医は、椎間板の線維輪に設けられた矩形又は円形の入口を介して椎間板切除術を行う。線維輪入口と合致させ且つ充填するために相補的な形状の伸延先端を使用することができる。例えば、伸延先端は、図12乃至14に示された形状をとることができる。多数の孔57と連通している中心内腔56を備えた十字形形状の先端55が図12に示されている。十字形形状の先端のアームは、それらの適正な伸長位置に隣接する椎骨を支持する程十分に強い場合には、図に示されたものよりも薄い断面を有することができることが理解できる。同様に、孔57は、ハブ及び十字形形状の脚部を介して種々のパターンで分布させることができる。
【0057】
図13には、多数の孔62と連通している中心内腔61を有するI形鋼伸延先端60が示されている。図14に示されている延伸先端63は、C字形状を有し且つ内腔64と孔65とを含んでいる。これらの2つの鋼形状は、必要な伸延のための十分な支持部材を提供する。同様に、この鋼のアームの厚みは、伸延先端60、63の断面を最少にするために、必要に応じて薄くすることができる。
【0058】
伸延先端の全体の形状に関係なく、髄核の空洞C内の先端の体積は最少化されることが最も好ましい。先端40のような楔形は好ましいかも知れないけれども、先端18のような弾丸形状の先端はこの観点からあまり望ましくない。更に、全体形状に関係なく、伸延先端は、内腔と連通しなければならず且つ先端からの排出手段を提供しなければならない。図示された実施形態においては、伸延先端18、40は、各々、対応する内腔と連通しているオリフィス30、31を含んでいる。別の方法として、伸延先端は、開口した骨格又は骨格の骨組の形態とすることができる。同様に、骨格又は骨組は、脊椎空間を適正に伸延させ且つ適当な長さの時間に亘って椎間板の高さを保持するために、十分に強くなければならない。いくつかの実施形態においては、伸延先端は、多孔性材料のような連結された隙間を有する材料の形態とすることができる。多孔性の伸延先端は、材料を通る多数の流体通路を備えた固体の骨格が存在し得る。多孔性材料は、多孔性のチタンのような金属とすることができるが、この過程が完了した後に、脊椎板の空間の視覚化を遮らないように、ポリ乳酸のような多孔質ポリマーが好ましい。
【0059】
上記した方法においては、伸延先端は、椎間板切除術に続いて、生体材料を髄核空洞C内へ注入するための通路を提供するように記載された。本発明の伸延先端は、脊椎板空間への他の流体の導入のための導管として同様に良好に作用する。例えば、伸延先端は、上記した“注入可能な生体材料による椎骨間の椎間板の治療に先立つ軟骨質の終板の前処理”という名称の米国仮出願第60/336,332号に開示された材料のような生体材料を注入するために使用することができ、この出願による開示は参考として本明細書に組み入れられる。この仮出願は、例えば、変性した椎間板の生物学的な機能を改良するために、椎間板の終板の前処理のための材料を開示している。伸延器10のような本発明のカニューレ挿入による伸延器は、上記の仮出願に開示された椎間板の前処理のために最初に使用することができる。ひとたび前処理が完了すると、次いで、カニューレ挿入による伸延器を硬化可能な生体材料の注入のために使用することができる。
【0060】
同様に、本発明は、髄核の空洞C内で生体材料の硬化をさせるための多数回の注入を含む多数回の流体の注入のために使用することができる。例えば、ある種の生体材料は、椎間板空間内へ導入される第1の構成成分を含んでも良く、それに続いて、第2の構成成分又は硬化剤を含んでも良い。第2の構成成分は、結果的に得られた組成物の硬化を開始させることができる。
【0061】
本発明の代替的な実施形態が図11に示されている。この実施形態においては、概して切頭円錐形の伸延先端86と肩部87とを含んでいるカニューレ挿入による伸延器85が設けられている。先端86は、カニューレ挿入による伸延器85が椎間板空間内へ詰め込まれると椎間板空間を伸延させる楔として作用する。肩部87は、先端が椎間板空間内へ駆動される距離を制限するために、隣接する椎体に対するストッパとして作用する。伸延先端86は、椎間板線維輪A内の入口の長さをまたぐのに十分であるが髄核空洞C内への長さを制限する肩部87からその末端までの長さを有しているのが好ましい。この実施形態においては、伸延先端86は、空洞C内のいかなる実質的な体積も変位させない。
【0062】
カニューレ挿入による伸延器85は、伸延器の全長に亘って延びている内腔88を形成している。内腔88は、その中に注入チューブ94を受け入れる大きさとされている。注入チューブ94は、注入装置98と係合するための嵌合部96を含むことができる。嵌合部96は、上記したルアー(登録商標)型の嵌合部のようなあらゆる適切なタイプとすることができる。注入装置は、図10に示されている注入器70と類似したものとすることができ又は椎間板空洞内への流体の導入のための種々の形状をとることができる。本発明の一つの実施形態においては、生体材料流体は、重力による給送によって空洞内へ導入される。この例においては、注入装置98は、単に、生体材料を重力のみによって椎間板空間内へと下方に流れさせるための大気通路を備えたリザーバの形態とすることができる。もちろん、患者は、椎間板空洞Cの重力による充填に適合させるために適正に向けられなければならない。
【0063】
この実施形態においては、カニューレ挿入による伸延器85は、注入チューブ94のための支持部材又はガイドとして機能する。チューブ94は、椎間板空間内への生体材料の理想的な流れに適合する大きさとされた円滑な先端を有する比較的大きなゲージ針の形態とすることができる。チューブ94は、生体材料が空洞C内へ流れるときに、(図11において矢印によって示されているように)カニューレ挿入による伸延器85を通して導入し或いは抜き取ることができる。更に、チューブ94の直径は、チューブ94の排出孔95を空洞C内で掃引動作によって枢動させることができるような内腔88の直径に対する大きさとすることができる。カニューレ挿入による伸延器が上記したような前処理材料を導入するために使用されている場合には、この機構は、前処理材料が必要とされる場所へと前処理材料を導くための排出孔95の位置決めを可能にする。
【0064】
ある種の実施形態においては、内腔88には、弾性密封リングの形態とすることができる密封部材89を設けることができる。密封部材89は、生体材料が圧力下で注入される場合に特に重要である周囲の液密密封を注入チューブ94に形成することができる。更に、密封部材89は、排出孔95が椎間板空洞内で操作されるときに注入チューブ94を支持するための接合部の形態として機能することができる。
【0065】
本発明のもう一つ別の特徴においては、カニューレ挿入による伸延器は、椎間板空洞Cが一杯であるときに過剰の生体材料の排出のための出口孔を提供することができる。出口孔は、生体材料が重力による給送によって導入される場合に特に有用である。一つの特定の実施形態においては、出口孔92が伸延器85に設けられる。椎間板空洞が一杯となったときに、生体材料は、出口孔92を介して滲出して、空洞が一杯であるという視覚による指示を提供する。出口孔92は、生体内での出口孔の視覚性を改良するために、カニューレ挿入による伸延器85から離れる方向に突出しているチューブを含んでいるのが好ましい。別の方法として、出口孔は、密封部材89がない場合に、注入チューブ94と内腔88との直径差によって形成することができる。
【0066】
出口孔92は、椎間板空間内への生体材料の重量による給送を含む方法に適している。しかしながら、出口孔はまた、生体材料が注入チューブ94から空洞C内へ注入されるときに最初から開いた状態で維持することができる。空洞が完全に一杯になると、生体材料は、出口孔92から滲出するであろう。この時点で、出口孔は、閉じることができ且つ空洞C内の圧力を増大させるために付加的な生体材料を椎間板空間内へ注入することができる。出口孔を介するこの注入は、空洞が一杯であるという迅速な指示を提供し且つ適正な空洞圧力を確立するために校正された量の付加的な生体材料の導入のための開始時点を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
これらの実施形態の各々において、生体材料がひとたび硬化しカニューレ挿入による伸延器が取り外されると、椎間板線維輪に設けられた入口には、ヘルニア形成防止のために、新しく形成された人工器官用椎間板材料を充填することができる。線維輪入口は、線維素接着剤又は重合可能な材料等のようなあらゆる適切な材料によって密閉することができる。線維輪を密閉するために使用される材料は、脊椎の水和又は生体力学的な動きによって椎間板内の圧力が増大するときにも損なわれないままとするのに十分な強さであるべきである。
【0068】
ある種の実施形態に従って、カニューレ挿入による伸延器及び特に上記した伸延器先端は、種々の生体材料によって形成することができる。上記したように、伸延器先端は、生体材料が、必要ならば十分に注入され且つ硬化されるまで、椎間板空間の適切な伸延を維持するのに十分な強さでなければならない。ある種の実施形態においては、伸延先端は、ステンレス鋼又はチタンのような生体適合性金属によって形成されている。他の実施形態においては、伸延先端は、構成要素の位置を評価するために生体内での伸延先端の視覚化を可能にするために、放射線透過性であるのが好ましいポリマー又はプラスチックによって形成される。
【0069】
以上、本発明を、図面及び上記の説明によって詳細に図示し説明したけれども、これらは、例示的で且つ限定的ではない性質のものと考えられるべきである。好ましい実施形態のみが提供され、本発明の精神に含まれる全ての変更、変形及び更なる用途が保護されることが望まれていることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1a乃至1bは、適正な椎間板間の高さを示している椎間板と隣接する椎骨との側面図(図1a)及び実質的に完全椎間板切除術が引き続いて行われる低くなった椎間板の高さを示す側面図である。
【図2】図2は、本発明の一つの特徴に従ってガイドワイヤが配置された椎間板及び隣接する椎骨の側面図である。
【図3】図3は、穿孔器が、椎間板の線維輪内に入口を形成している状態の図2に示された椎間板空間の矢状方向図である。
【図4】図4は、組織伸延装置が椎間板の髄核内に配置されている、図3に示された椎間板空間の矢状方向図である。
【図5】図5は、本発明の一つの実施形態によるカニューレ挿入による伸延器を備えた図2乃至4に示された椎間板空間の矢状方向図である。
【図6】図6は、本発明の一つの実施形態によるカニューレ挿入による伸延器の側面図である。
【図7】図7は、椎間板空間内に配置された図6のカニューレ挿入による伸延器を備えた図2乃至5に示された椎間板空間の側面図である。
【図8】図8は、図6及び7に示されたカニューレ挿入による伸延器の伸延先端形成部分の斜視図である。
【図9】図9は、本発明の代替的な実施形態による伸延先端の斜視図である。
【図10】図10は、本発明の一つの実施形態において使用するための注入装置の側面図である。
【図11】図11は、本発明の更に別の実施形態によるカニューレ挿入による伸延器と共に椎間板空間を示した側面図である。
【図12】図12は、本発明のカニューレ挿入による伸延器の一つの実施形態による十字形伸延先端の断面図である。
【図13】図13は、本発明のカニューレ挿入による伸延器のもう一つ別の実施形態によるI形鋼形状の伸延先端の断面図である。
【図14】図14は、本発明のカニューレ挿入による伸延器の更に別の実施形態によるC字形状の伸延先端の断面図である。
【符号の説明】
【0071】
10 伸延器、 11 カニューレ、
12 末端、 14 基端、
16 内腔、 18 伸延先端、
20 肩部、 24 先端部分、
26 環状リング、 30 側方孔、
32 端部孔、 36 嵌合部、
40 伸延先端、 42 楔部分、
46 側方孔、 48 端部孔、
50 側部、 52 中間端縁、
55 先端、 56 中心内腔、
57 孔、 60 伸延先端、
61 中心内腔、 62 孔、
63 延伸先端、 64 内腔、
65 孔、 70 注入器、
72 チャンバ、 74 混合チャンバ、
76 手動コントローラ、 78 ノズル、
80 嵌合部、 82 把持部材、
85 伸延器、 86 伸延先端、
87 肩部、 88 内腔、
89 密封部材、 92 出口孔、
94 注入チューブ、 95 排出孔、
96 嵌合部、 98 注入装置、
A 椎間板線維輪、 C 椎間板空洞、
D 椎間板、 E 椎間板の終板、
G ガイドワイヤ
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、脊椎の疾患又は損傷の治療に関し、より特定すると、外科的治療に続いてなされる脊椎椎間板の回復に関する。本発明は、通常の椎間板空間高さを回復し且つ椎間板の修復及び回復において使用するための生体材料の導入を容易にするための装置を及び方法を意図している。
【背景技術】
【0002】
椎間板は、2つの別個の領域、すなわち、髄核と線維輪とに分けられる。髄核は、椎間板の中心に位置し且つ線維輪によって包囲され且つ包含されている。線維輪は、髄核を包囲する同心状の薄板を形成し且つ補強構造を形成するために互いに隣接する椎体の終板間内に挿入される膠原線維を含んでいる。軟骨質の終板は、椎間板と隣接する椎体との間の境界に配置されている。
【0003】
椎間板は、人体における最も大きな無血管構造である。椎間板は、栄養素を受け取り且つ隣接する血管化した終板を介する拡散によって排泄物を排出する。髄核のプロテオグリカン基質の吸湿性は、高い核内圧力を発生するように機能する。椎間板内の水分が増加するにつれて、髄核内圧力が増大し、髄核が膨潤して椎間板の高さを増す。この膨潤は、線維輪の線維を伸長状態に配置する。正常な椎間板は、約10〜15mmの高さを有する。
【0004】
一般的に、機械的、遺伝子的及び生化学的なものに分類することができる椎間板の破壊又は変性の多くの原因が存在する。機械的な損傷としては、髄核の一部分が線維輪の裂け傷又は断裂によって髄核が突出するヘルニア形成がある。遺伝子的及び生化学的な原因は、椎間板の細胞外基質のパターンに変化を生じ且つ椎間板の細胞による細胞外基質成分の生合成の減少を生じ得る。変性は、通常はプロテオグリカン成分の減少による中心の髄核内の細胞外基質の水分と結合する能力の低下と共に始まる進行性の過程である。水分の損失により、髄核は乾燥状態となって、椎間板内の液圧の低下を生じ且つ最終的には椎間板の高さの喪失を生じる。この椎間板の高さの喪失は、線維輪を無荷重状態で座屈させ且つ輪状層板を離層させて、輪状の裂溝を生じさせる。次いで、裂傷が髄核の突出につながると、ヘルニア形成が起こるかも知れない。
【0005】
適正な椎間板の高さは、椎間板及び椎柱の適正な機能を保証するために必要である。椎間板の主たる機能は脊椎の動きを容易にすることであるけれども、椎間板はいくつかの機能を果たす。更に、椎間板は、荷重の担持、荷重の伝達及び脊椎骨の高さ間の衝撃の吸収を提供する。人の体重は、椎間板に圧縮荷重を発生させるが、この荷重は典型的な屈曲動作において均一ではない。前方への屈曲の際には後線維輪の線維が伸張され、一方、前線維輪の線維は圧縮される。更に、髄核の重心が中心からずれて伸長された側へとずれると、髄核の移動が起こる。
【0006】
椎間板の高さの変化は、局部的作用及び全体的作用の両方を有する。局部的な(又は細胞の、高さの)椎間板の高さの低下は、髄核の高い圧力を生じ、これは、細胞基質の合成の減少と細胞の壊死及び枯死の増加につながり得る。更に、椎間板内の圧力の増大は、椎間板への流体の移動のための望ましくない環境を形成し、これは、椎間板の高さを更に減少させる。
【0007】
椎間板の高さの減少はまた、脊椎の全体的な機械的安定性の著しい変化をも生じさせる。椎間板の高さが減少した状態では、小関節面接合部が増大した荷重を担い、肥大及び変性を受けるかも知れず、慢性の痛みの発生源として作用さえもするかも知れない。椎間板の高さの喪失によって椎柱の剛性が低下すること及び動きの範囲が大きくなることは、椎柱の更なる不安定さだけでなく背中の痛みにもつながり得る。外側の線維輪は、伸張荷重状態での安定性を提供し、十分に水和した髄核は、十分な椎間板の高さを維持して線維輪を適正な伸張状態に保つ。椎間板の高さが低くなると、線維輪はもはや同じ安定度を提供することができず、異常な結合動作を生じる。この過剰な動きは、それ自体、筋肉、靱帯及び腱の異常な荷重状態を発現し、これは、最終的に背中の痛みの発生源となり得る。
【0008】
低くなった椎間板の高さによって惹き起こされる小孔体積の減少によって根性の痛みが生じるかも知れない。特に、椎間板の高さが低くなるにつれて、脊髄神経根が通る小孔管の体積が減少する。この減少は、放射痛み及び機能不全を伴う脊髄神経衝突につながるかも知れない。
【0009】
最後に、椎間板の高さが所定のレベルまで低下すると、隣接する区分の荷重が増大する。付加的な荷重を支えなければならない椎間板は、変性の加速及び異形を受け、これは、実際上は不安定になった椎柱に沿って進行するかも知れない。
【0010】
椎間板の高さの変化が徐々に起こる椎間板の高さの低下を伴うこれらの全ての損傷に拘わらず、有害作用の多くは、脊椎に対して“許容可能”であるかも知れず且つ脊椎系が徐々に起こる変化に適合するための時間を許容するかも知れない。しかしながら、椎間板又は椎間板髄核の外科的な除去によって生じる椎間板の体積の突然の減少は、上記した局部的且つ全体的な問題を大きくするかも知れない。椎間板の欠陥の多くは、髄核物質が除去される椎間板切除術のような外科的手術によって治療される。完全椎間板切除術中には、髄核の体積の実質的な量(通常は全て)が除去され、椎間板の高さ及び体積の急速な損失が生じ得る。部分的な椎間板切除術によってさえも、椎間板の高さの損失が結果的に起こり得る。椎間板切除術自体は、椎間板の膨らみによる神経との衝突又は脊椎の神経構造と接触する椎間板のかけらによって生じる根性の痛みを治療するためにしばしば使用される最も一般的な脊椎の外科的治療法である。
【0011】
もう一つ別の一般的な脊椎手術においては、椎間板切除術の後に、髄核が除去されたときに椎間板の隙間に残った空洞内に人工器官を導入する移植手術を行う。これまでのところ最も卓越した人工器官は、適正な椎間板の高さを回復し且つ互いに隣接する椎骨間を固定する構造とされている“ケージ”である。これらの機械的な解決方法は、固化した腎臓形状のインプラント、骨成長物質が充填された中空のブロック、押し込みインプラント及びねじ込み円筒形ケージを含む種々の形態を採用している。
【0012】
より近年においては、注入可能な生体材料が、椎間板切除術に対する増強物であるとより広く考えられてきた。1962年のような初期においては、Alf Nachemsonは、通常の注射器を使用して、変性した椎間板内に室温で加硫するシリコーンを注入することを示唆した。1974年には、Lemaire及びその他の人が、生体内で重合可能な椎間板の人工器官によるSchulmanの臨床経験を報告した。このとき以来、ヒアルロン酸、線維素接着剤、アルギン酸塩、エラスチン状ポリペプチド、膠原ゲル及びその他のような椎間板髄核に対する代用品として、多くの注入可能な生体材料又は骨格が開発されて来た。種々の注入可能な生体材料に関する多くの特許が発行されて来た。これらの特許としては、架橋可能な絹エラスチン共重合体に関して記載されている第6,423,333号(Stedronskyらへの特許)、第6,380,154号(Capelloらへの特許)、第6,355,776号(Ferrariらへの特許)、第6,258,872号(Stedoronskyらへの特許)、第6,184,348号(Ferrariらへの特許)、第6,140,072号(Ferrariらへの特許)、第6,033,654号(Stedronskyらへの特許)、第6,018,030号(Ferrariらへの特許)、第6,015,474号(Stedronskyへの特許)、第5,830,713号(Ferrariらへの特許)、第5,817,303号(Stedronskyへの特許)、第5,808,012号(Donofrioらへの特許)、第5,773,577号(Capelloへの特許)、第5,773,249号(Capelloらへの特許)、第5,770,697号(Ferrariらへの特許)、第5,760,004号(Stedronskyへの特許)、第5,723,588号(Donofrioへの特許)、第5,641,648号(Ferrariへの特許)及び第5,235,041号(Capelloらへの特許)、たんぱくヒドロゲルが記載されている第5,318,524号(Morseらへの特許)、第5,259,971号(Morseらへの特許)、第5,219,328号(Morseらへの特許)及び第5,030,215号、ポリウレタン充填バルーンが記載されている第60/004,710号(Feltら)、第6,306,177号(Feltらへの特許)、第6,248,131号(Feltらへの特許)及び第6,224,630号(Baoらへの特許)、膠原−PEGが記載されている第6,428,978号(Olsenらへの特許)、第6,413,742号(Olsenらへの特許)、第6,323,278号(Rheeらへの特許)、第6,312,725号(Wallaceらへの特許)、第6,277,394号(Sierraへの特許)、第6,166,130号(Rheeらへの特許)、第6,165,489号(Bergらへの特許)、第6,123,687号(Simonyiらへの特許)、第6,111,165号(Bergへの特許)、第6,110,484号(Sierraへの特許)、第6,096,309号(Priorらへの特許)、第6,051,648号(Rheeらへの特許)、第5,997,811号(Espositoらへの特許)、第5,962,648号(Bergへの特許)、第5,936,035号(Rheeらへの特許)及び第5,874,500号(Rheeらへの特許)、キトサンが記載されている米国特許第6,344,488号(Cheniteらへの特許)、種々のポリマーについて記載されている第6,187,048号(Milnerらへの特許)、組換型生体材料が記載されている第60/038,150号(Urry)、第6,004,782号(Daniellらへの特許)、第5,064,430号(Urryへの特許)、第4,898,962号(Urryへの特許)、第4,870,055号(Urryへの特許)、第4,783,523号(Urryらへの特許)、第4,783,523号(Urryらへの特許)、第4,589,882号(Urryへの特許)、第4,500,700号(Urryへの特許)、第4,474,851号(Urryへの特許)、第4,187,852号(Urryらへの特許)及び第4,132,746号(Urryらへの特許)並びに線維輪修復材料について記載されている米国特許第6,428,576号(Haldimannへの特許)がある。
【0013】
これらの参考文献は、強い機械的強度、組織形成の促進、生分解性、生体適合性、滅菌適性、最少硬化又は固化時間、理想的な硬化温度及び椎間板空間内への容易な導入のための低粘度を含む、椎間板の置換に対して重要である1以上の特性を有する生体材料又は注入可能な骨格を開示している。骨格は、必要な機械的特性を呈しなければならないだけではなく物理的支持を提供しなければならない。骨格は、脊椎が受ける多数の荷重サイクルに耐えることができることもまた重要である。材料の生体適合性は最も重要である。初期材料及び劣化製品のいずれもが、分解されなかった免疫性応答又は毒性応答を引き出すべきでなく、免疫抗原性を表すべきでなく、又は細胞障害性を表すべきでない。
【0014】
一般的には、上記の生体材料は、粘性のある流体として注入され、次いで生体内で硬化される。硬化方法としては、感熱架橋、光重合又は固化剤若しくは架橋剤の添加がある。材料の硬化時間は重要であり、過程中に生体材料の正しい配置ができるのに十分な長さで、しかも、手術の長さを長引かせない程十分に短い時間であるべきである。材料が硬化中に温度変化を受ける場合には、温度の増加は小さく無ければならず、発生される熱は周囲の組織に損傷を与えてはならない。材料の粘度又は流動度は、材料が椎間板内への導入部位に留まる必要性と、配置を行う外科医の能力と、椎間板内の空間又はボイドの完全な充填を確保する必要性との釣り合いを取ったものでなければならない。
【0015】
使用されている注入可能な骨格材料に関係なく、完了した手術が椎間板の高さを回復することが重要である。従って、生体材料が椎間板内の空間内へ導入されつつある間適正な椎間板の高さが維持されることが重要である。理想的には、椎間板の高さは、隣接する椎間板の高さに等しく且つ特定の患者の正常な脊椎椎間板高さを示すレベルまで回復されるであろう。
【0016】
しかしながら、椎間板の高さが骨格材料の導入に先立って再度確立されない場合には、失われた椎間板の体積を置換すること及び少なくとも椎間板切除術前の椎間板高さを回復することが不可能となるであろう。生体材料が導入され且つ生体内で硬化されるときに適正な椎間板の高さを保持できないことは、実際上は、椎間板空間の潰れにつながり得る。この現象は、図1aにおける適正な椎間板高さを図1bにおける低くなった椎間板高さと比較することによって示されている。図1bに示した低くなった椎間板の高さは、通常は、隣接する椎骨が伸延されない場合には、実質的に完全な椎間板切除術が施されることにつながる。患者は、特に、椎間板Dの後側において椎間板空間を開くことを意図された位置に配置することができる。しかしながら、脊椎の過屈曲による場合でさえ、椎間板空間は、その適正な体積に達せず、最終的には、図1aに示された適正な椎間板高さに近づかないことが分かっている。
【0017】
硬化可能な椎間板人工器官の従来の移植方法は、ある程度の伸延を得るために、患者の物理的な配置又は生体材料の加圧による注入に依存していた。しかしながら、これらの従来の方法は、外科手術中かその後に、適正な解剖学的な椎間板高さの再現可能な回復を確立しない。結局、椎間板が注入可能な生体材料によって置換されるか又は増強されたときに、適正な椎間板の高さが確立され維持されるであろう。(特許文献1〜58参照)
【特許文献1】米国特許第6,423,333号
【特許文献2】米国特許第6,380,154号
【特許文献3】米国特許第6,355,776号
【特許文献4】米国特許第6,258,872号
【特許文献5】米国特許第6,184,348号
【特許文献6】米国特許第6,140,072号
【特許文献7】米国特許第6,033,654号
【特許文献8】米国特許第6,018,030号
【特許文献9】米国特許第6,015,474号
【特許文献10】米国特許第5,830,713号
【特許文献11】米国特許第5,817,303号
【特許文献12】米国特許第5,808,012号
【特許文献13】米国特許第5,773,577号
【特許文献14】米国特許第5,773,249号
【特許文献15】米国特許第5,770,697号
【特許文献16】米国特許第5,760,004号
【特許文献17】米国特許第5,723,588号
【特許文献18】米国特許第5,641,648号
【特許文献19】米国特許第5,235,041号
【特許文献20】米国特許第5,318,524号
【特許文献21】米国特許第5,259,971号
【特許文献22】米国特許第5,219,328号
【特許文献23】米国特許第5,030,215号
【特許文献24】米国特許出願公開第60/004,710号
【特許文献25】米国特許第6,306,177号
【特許文献26】米国特許第6,248,131号
【特許文献27】米国特許第6,224,630号
【特許文献28】米国特許第6,428,978号
【特許文献29】米国特許第6,413,742号
【特許文献30】米国特許第6,323,278号
【特許文献31】米国特許第6,312,725号
【特許文献32】米国特許第6,277,394号
【特許文献33】米国特許第6,166,130号
【特許文献34】米国特許第6,165,489号
【特許文献35】米国特許第6,123,687号
【特許文献36】米国特許第6,111,165号
【特許文献37】米国特許第6,110,484号
【特許文献38】米国特許第6,096,309号
【特許文献39】米国特許第6,051,648号
【特許文献40】米国特許第5,997,811号
【特許文献41】米国特許第5,962,648号
【特許文献42】米国特許第5,936,035号
【特許文献43】米国特許第5,874,500号
【特許文献44】米国特許第6,344,488号
【特許文献45】米国特許第6,187,048号
【特許文献46】米国特許出願公開第60/038,150号
【特許文献47】米国特許第6,004,782号
【特許文献48】米国特許第5,064,430号
【特許文献49】米国特許第4,898,962号
【特許文献50】米国特許第4,870,055号
【特許文献51】米国特許第4,783,523号
【特許文献52】米国特許第4,783,523号
【特許文献53】米国特許第4,589,882号
【特許文献54】米国特許第4,500,700号
【特許文献55】米国特許第4,474,851号
【特許文献56】米国特許第4,187,852号
【特許文献57】米国特許第4,132,746号
【特許文献58】米国特許第6,428,576号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の一つの目的は、椎間板人工器官が椎間板内空間の空洞に導入されたときに、適正な椎間板内空間を維持し且つ強化するためのシステム及び装置を提供することである。もう一つの目的は、伸延された隣接する椎骨と椎間板の高さの完全性を維持しつつ、流動性材料の椎間板空間内への導入を可能にすることである。
【0019】
本発明は、従来の脊椎手術の未解決な必要性を満たすために、椎間板空間内に流動性材料を注入する方法を意図している。
【0020】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の説明及び添付図面から認識することができる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の方法は、椎間板内の空間とつながっている線維輪に入口を形成するステップと、カニューレ挿入による伸延器を前記入口内に詰め込むステップとを含んでいる。本発明の一つの特徴に従って、伸延器は、椎間板内空間に隣接した椎骨を伸延し且つ互いに隣接する椎骨間に椎間板空間高さを確立するような構造とされている。本発明の方法は、伸延器が確立された椎間板空間高さを維持している間に、カニューレ挿入による伸延器の内腔を介して椎間板内の空間内に流動性材料を導入するステップを更に含んでいる。
【0022】
ある種の実施形態においては、本発明の方法は、入口が形成された後に椎間板切除術を施して伸延器が椎間板内の空間内に空洞を形成するステップを含んでいる。この実施形態においては、カニューレ挿入による伸延器を詰め込むステップは、伸延器内腔が空洞と連通するように伸延器を位置決めするステップを含み、前記流体を導入するステップが流体を前記空洞内へ導入するステップを含んでいる。椎間板切除術は、髄核のほぼ全てを椎間板空間から取り除く完全椎間板切除術とすることができる。
【0023】
本発明の更に別の特徴においては、流動性材料は、椎間板のための置換又は増強材として特に適している硬化可能な生体材料である。この場合には、流動性材料を導入するステップは、生体材料が生体内で硬化するまで伸延器を詰め込まれた位置に維持することを含むことができる。言い換えると、カニューレ挿入による伸延器は、生体材料が硬化するまで、隣接する椎骨をそれらが伸延された状態に維持する。このようにして、ひとたび生体材料が硬化し、伸延器が取り外されると、適切な椎間板高さを維持し且つ保持することができる。
【0024】
ある種の実施形態においては、流動性材料は、圧力をかけて椎間板空間内へ導入することができる。流動性材料に圧力がかけられる場合に特に有用である本発明のもう一つ別の特徴においては、カニューレ挿入による伸延器は、同伸延器が詰め込まれる入口を密封する構造とされている。いくつかの実施形態においては、伸延器は、線維輪入口を実質的に閉塞又は密封する大きさとされた部分を有している。その他の実施形態においては、伸延器は、互いに隣接する椎骨及び/又は入口を取り巻いている線維輪物質を圧迫する密封構造を含んでいる。この密封構造は、カニューレ挿入による伸延器と一体化するか又は伸延器に取り付けられる密封リングのような別個の要素を含むことができる。
【0025】
本発明の更に別の特徴であって、同じく流動性材料に圧力がかけられる場合に特に適しているものにおいては、カニューレ挿入による伸延器内に出口孔(vent)が設けられている。従って、流動性材料は、同流動性材料が出口孔から滲出するまで椎間板内の空間に導入することができる。従って、出口孔は、椎間板の空間が満たされたことの迅速な指示を提供することができる。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態においては、カニューレ挿入による伸延器は、流体注入装置と係合せしめられる。この装置は、ポンプ、注射器及び重力による給送装置を含む種々の形態とすることができる。
【0027】
その他の実施形態においては、流動性材料を導入するステップは、チューブが流動性材料の供給源に流体が流れるように結合された状態で、カニューレ挿入による伸延器の内腔内にチューブを伸長させることを含む。このチューブは、流動性材料を椎間板空洞内の特定の位置へ導くために伸延器によって操作することができる。例えば、チューブは、流動性材料が椎間板空間全体に拡散されるように、徐々に滲み出す動作によって移動させることができる。これと同時に、チューブは、流動性材料が内腔開口部に近づくにつれて、伸延器内腔から徐々に引き抜くことができる。
【0028】
好ましい実施形態においては、チューブと内腔との間に密封部材が設けられる。次いで、内腔とは別個に出口孔を設けて、流動性材料が出口孔から滲出することにより空洞が充填されていることを示すようにすることができる。
【0029】
本発明のもう一つ別の実施形態においては、流動性材料を椎間板空間内へ注入する装置は、互いに隣接する椎骨を椎間板空間距離まで伸延させる構造とされた対向する面を有している伸延部材を含んでいる。この伸延部材は、基端と末端とを有しており、少なくとも末端部分は椎間板空間内に配置される形状とされている。この伸延部材は更に、基端部分と末端部分との間に流体通路を形成しており、この通路は、基端部分及び末端部分に開口部を有している。いくつかの実施形態においては、伸延部材は、同伸延部材を流体が流れるように流動性材料の供給源に接続するために同伸延材料の基端に関連した嵌合部材を含んでいる。
【0030】
本発明のもう一つ別の特徴に従って、この装置は更に、同装置を貫通して内腔を形成している細長いカニューレを含んでいる。このカニューレは、伸延部材の嵌合部に液密結合するような構造とされた第1の嵌合部を第1の端部に有し、流動性材料の供給源に流体が流通可能なように結合する構造とされた第2の嵌合部を反対側の端部に有することができる。特別な実施形態においては、伸延部材はカニューレと一体化されており、第2の嵌合部は、伸延部材の基端に関連する嵌合部とされる。他の実施形態においては、伸延部材は、カニューレから取り外し可能とされる。
【0031】
好ましい実施形態においては、伸延部材の少なくとも末端部分は弾丸形状である。代替的な実施形態においては、末端部分は、対向するほぼ平らな側面を有する楔形状とされたり、十字形状とされたり、I形鋼形状とされたり、C字形状とされたりする。
【0032】
伸延部材の流体通路は、中心内腔を含んでおり、同中心内腔は同内腔と連通している多数の孔を有している。これらの孔は、流動性材料を椎間板空洞内の適当な位置へ導くために、種々の形状の末端部分に配列することができる。伸延部材はまた、流体通路から別個の孔を画成することもできる。ある種の実施形態においては、流体通路は、伸延部材の材料全体に亘って連結された間隙形態とすることができる。
【0033】
好ましい実施形態においては、伸延部材は、ステンレス鋼又はチタンのような生体適合材料によって作られている。代替的な実施形態においては、ポリマー材料のような他の生体適合性材料を使用することができ、生体再吸収材料さえも使用することができる。一つの特徴に従って、伸延部材は、ひとたび流動性材料が椎間板空洞内へ導入され、必要ならば硬化されると、椎間板空間から取り外されるような構造となっている。その他の特徴においては、伸延部材は、最も好ましくは、部材が生体再吸収材料によって作られている場合には、椎間板空間内に留まるような構造とされている。
【0034】
伸延部材は、末端部分の基端部に関連付けられた密封部材を含むことができ、この密封部材は、椎間板空間内に実質的に液密な密封を提供する構造とされている。密封部材は、末端部分に設けられた多数の密封リングを含むことができる。密封リングは、末端部分と一体化するか又は例えば末端部分に取り付けられた弾性リングとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明の原理の理解を高めるために、図面に示され且つ以下の明細書に記載されている実施形態を参照する。本発明の範囲をこれらの実施形態に限定することは意図されていないことは理解されるべきである。更に、本発明は、図示された実施形態に対する多くの代替例及び変形例を含んでおり且つ本発明が属する技術における当業者が通常想到できる本発明の原理の更に別の用途を更に含んでいることも理解されるべきである。
【0036】
本発明は、椎間板の本来の髄核の一部分又はほぼ全てを除去した後に詰め込まれる方法及び装置を意図している。本発明の一つの重要な目的は、除去された髄核物質に置換することを意図されている生体材料の導入中に、適正な椎間板の高さを維持することである。椎間板物質の除去は、キモパパインの使用によるように化学的に達成することができる。しかしながら、より多くの一般的な方法は、顕微鏡補助による視覚化又は経皮的アクセスによる開放外科手術として行うことができる。
【0037】
典型的な経皮による椎間板切除術が図2乃至4に示されている。第1のステップにおいては、ガイドワイヤGが、L2及びL3腰椎椎骨のような2つの椎骨間の罹患した椎間板D内に導かれる。図3に示されているように、ガイドワイヤGは、線維輪A及び髄核Nを貫通し、線維輪Aの両側に固定されるのが好ましい。ガイドワイヤGは、X線透視法のような間接視により、又は定位的に、又はその他の公知の方法を使用して、ガイドワイヤGを椎間板D内に正しく配向させるために配置することができる。図面に示された方法は、本発明の実現のために好ましい後方からのアプローチを使用している。もちろん、公知の外科手術に従って椎間板切除術に対してその他の方法を使用しても良い。更に、アクセス位置は、椎間板の裂溝又はヘルニア形成位置によって指図されても良い。
【0038】
穿孔器Tが、ガイドワイヤの周囲に沿って進入せしめられ且つ線維輪Aの中を駆動され、それによって、椎間板髄核の入口が形成される。図4に示されているように、組織除去装置Rを、穿孔器Tを通して又は椎間板入口に整合された加工チャネルカニューレを通して進入させることができる。次いで、装置Rを使用して、椎間板Dの髄核Nの全て又は一部分を除去することができる。図4において点線で示されているように、椎間板の髄核を完全に除去するのを容易にするために、第2の穿孔器T’を使用して第2の線維輪入口を形成することができる。キモパパインのような化学物質を髄核空間内へ導入するための組織除去装置Rは、骨鉗子、組織切除器、回転及び/又は往復動真空倍力カッター及び化学物質導入器のような種々の型式のものとすることができる。髄核の除去によって、実質的に無傷な線維輪Aによって包囲された空洞Cが残る(図5参照)。
【0039】
本発明は、椎間板の高さ及び好ましくは実質的に正常な椎間板の機能を果たすことができ又は回復する生体材料を椎間板空洞C内へ導入することを意図している。例えば、上記した生体材料のいずれも、新しく形成された空洞に充填することができる。好ましい実施形態によれば、生体材料は、適当な流動性及び/又は粘度を有する流体である。特に、生体材料は、椎間板空洞C内への比較的容易な導入を許容するための十分な流動性と、椎間板内でその形状を保持するのに十分な粘度とを有していなければならない。椎間板空洞Cを充填するために使用されている材料は流体であるので、本発明は、材料が空洞内へ流入したときに適当な椎間板の高さを保持する手段を提供し、それによって、空洞が充填させていること、すなわち、インプラント生体材料の体積が椎間板切除術によって除去された髄核の体積と同じであることを保証する。更に、本発明の方法及び装置は、生体材料が固体状態へと遷移したときに空洞の体積を維持するための手段を提供する。
【0040】
従って、図5乃至8に示されているように、本発明の一つの実施形態に従って、カニューレ挿入による伸延器10が設けられる。伸延器10は、椎間板空洞C内へ伸長している末端12と、椎間板空間内へ生体材料を注入するための装置と係合する構造とされている基端14とを含んでいる。伸延器10は、同装置の末端に設けられた伸延先端18で終端しているカニューレ11を含んでいる。内腔16が、装置の全長に沿って基端14から伸延先端18まで形成されている。伸延先端18は、椎間板の線維輪Aに形成された入口を通って伸長する大きさとされている(図3参照)。伸延器10は、伸延先端18に近接して肩部20を含むことができ、この肩部は、線維輪入口を通るのを阻止する大きさとされている。肩部20は、伸延先端18が椎間板空洞C内へと伸長する距離を制限するように機能することができる。伸延器10には、伸延器を定位置に一時的に固定するか又は隣接する椎骨上に伸延器を支持するための手段を設けることができる。
【0041】
図7に示されているように、伸延先端18は、線維輪入口から挿入されるように意図されており且つ空洞C内の適切な椎間板内高さを回復するような形状とされている。従って、一つの実施形態においては、伸延先端18は、テーパーが付けられた先端部分24を含むことができる。この先端部分24は、空洞C内へ導入することができ、先端が空洞内へと更に進入せしめられ、先端部分24が椎間板の終板Eを圧迫すると、隣接する椎骨を次第に伸延させるであろう。特定の実施形態においては、テーパーが付けられた部分24は、図8に示されているように、ほぼ弾丸形状とすることができる。この形状においては、伸延先端18は、先端が線維輪入口から挿入されるときにいかなる回転の向きを有することもできる。
【0042】
別の方法として、伸延先端は、図9に示されているように、歯先40のような形状とすることができる。この実施形態においては、先端は、互いに対向するほぼ平らな側部50と、楔部分42の中間端縁52と、を含んでいる。先端40は、楔の平らな側部50が椎間板の終板Eに対向する状態で椎間板空間内へ導入することができる。ひとたび先端が椎間板空洞C内へ十分に入ると、先端は、端縁52が終板と接触し且つ同終板を伸延させるように回転させることができる。端縁52自体は、基端が末端よりも大きな幅を有する楔形状とすることができる。
【0043】
再び図6乃至8に戻ると、本発明の一つの特徴に従って、伸延先端18は、全てが中心内腔16と連通している多数の側方孔30と端部孔32とを含んでいる。図7に示されているように、孔30、32は、内腔16を介して注入される流体の流出経路を提供している。これらの孔は、椎骨の終板Eによって妨げられないように配向されるのが好ましい。図9に示された伸延先端40にはまた、平らな側部50に設けられた側方孔46と端部孔48とが設けられている。この実施形態においては、端縁52は、終板と接触することによって閉塞されるので、孔を含んでいる必要はない。
【0044】
流体は伸延先端を介して導入されるように意図されているので、線維輪入口を介する椎間板空間Cへの入口における実質的に液密な密封を保証するためにいくつかの機構が設けられているのが好ましい。従って、本発明の一つの実施形態においては、伸延先端18は、椎間板の終板E及び/又は椎間板線維輪Aに対して密封する関係で圧迫するように意図された環状リング26を含むことができる。リング26は、伸延先端18と一体化することができ又は弾性密封リング形態のように伸延先端に取り付けられる別個の構成要素とすることができる。密封リングは、伸延先端に形成された環状の溝内に取り付けることができる。
【0045】
伸延器10は、カニューレ11の基端14に形成された嵌合部36を含んでいる。嵌合部36は、生体材料を椎間板内へ注入するようになされた装置に対する液密結合を形成するための手段を提供する。一つの例示的な装置70が図10に示されている。注入器70は、生体材料の貯蔵のためのチャンバ72を含んでいる。いくつかの場合には、チャンバ72は、種々の構成成分物質を混合することによって注入可能な生体材料が得られる多数のチャンバを構成していても良い。例えば、ある種の物質は生体内で硬化可能なものであっても良く且つ基材物質と硬化剤とを組み合わせることを必要としても良い。生体材料の構成成分の混合を容易にするために、注入器70は、混合チャンバ74を含むことができる。チャンバ72内の成分を混合チャンバ74内へと押し出す手動コントローラ76を設けることができる。別の方法として、注入器70は、注射器又はポンプのような圧力によって注入器から流体を駆動する機構を組み入れることができる。
【0046】
注入器70は、カニューレ挿入による伸延器10の嵌合部36と液密係合する構造とされた嵌合部80を含んでいる。好ましい実施形態においては、2つの嵌合部36、80は、ルアー(LUER:登録商標)のかみ合い構成要素を表している。注入器は、同注入器70がカニューレ挿入による伸延器と係合したときに、カニューレ11又はより特別には内腔16内へと伸長するノズル78を含むことができる。注入器の手動による安定性を可能にするために、把持部材82を設けることができる。
【0047】
上記したように、本発明のカニューレ挿入による伸延器10は、椎間板切除術の後に利用しても良い。図示の目的のために、図5に示されているように、実質的に骨髄の全てが除去されて椎間板空洞が残される完全椎間板切除術が行われたと仮定した。もちろん、本発明の原理は、髄核の一部分のみが部分的椎間板切除術によって除去される場合にも等しく良好に適用することができる。(第1及び第2の穿孔器T及びT’によって表されている)2つの横からのアプローチが使用された場合には、線維輪入口のうちの一つが椎間板の線維輪と適合する材料によって密封することができる。髄核がきれいされると、ガイドワイヤGを、同じく好ましくは公知の誘導装置並びに位置決め装置及び技術を使用して、椎間板D内に再度配置することができる。次いで、カニューレ挿入による伸延器10を、伸延先端18が骨髄空洞C内に適正に配置されるまで、ガイドワイヤGの周囲に沿って進入させることができる。伸延先端18の適正な深さは、肩部20が外側線維輪Aに接触することによって又は関連する深さの機構が隣接する椎体と接触することによって、決定することができるのが好ましい。
【0048】
伸延先端18においては、テーパーが付けられた部分24は、伸延先端が椎間板空間内へ更に駆動されると、互いに隣接する椎骨の終板Eを徐々に引き離す。テーパーが付けられた部分24を椎間板の線維輪の本来の張力に対して定位置に押し込むために、木づち、衝撃装置又はその他の適当な駆動装置を使用することができる。このステップの目的は、特定の脊椎の高さに対して適当な椎間板高さまで椎骨間の隙間を十分に伸延することであることが理解できる。例えば、L2−L3椎間板空間に対しては、この量の伸延を達成するために伸延先端が空洞C内に配置されるように、適当な椎間板の高さを13〜15mmとすることができる。図5に示されているように、伸延先端18は必ず空洞Cの体積のある部分を占めるので、唯一のカニューレ挿入による伸延器10が使用されるのが好ましい。しかしながら、適正な椎間板の高さを確立するために、(図4に示された第2の線維輪入口によるように)第2のカニューレ挿入による伸延器及び関連する伸延先端が必要であるかも知れない。
【0049】
従って、この方法は、ここでは伸延先端40に対して同様であることが理解されるべきである。しかしながら、テーパーが付けられた伸延先端18と異なり、伸延先端40は、椎間板空間を伸延するために付加的なステップを必要とする。特に、伸延先端40は、最初は、平らな側面50を終板Eに対向させて挿入される。先端は、次いで、端縁52が終板を圧迫し且つ支持するまで回転されなければならない。平らな側面50は、端縁への角度が付けられた遷移部分を含むことができ、又は、端縁52は、伸延先端が生体内で回転されるときに伸延を容易にするために丸くすることができる。
【0050】
先端10のような伸延先端が椎間板の空洞10内への適当な深さまで挿入されたときに、終板E又は線維輪入口の内側との肩部20の接触によるか又はリング26の係合によって、線維輪入口が密封される。この時点で、生体材料流体は、カニューレ挿入による伸延器、特に、内腔16内へ注入することができる。このステップを行うために、注入器70のような注入器を、カニューレ挿入による伸延器の基端14の嵌合部36とかみ合わせることができる。理想的には、ガイドワイヤGが取り外され、注入器の嵌合部80が嵌合部36と係合される。ノズル78は、内腔16内へと伸長している。ノズルは、ノズルの出口端部が伸延先端18の近くか又は同伸延先端18内に位置するような大きさとすることができる。この時点で、注入器70は、その構造に従って起動されて、生体材料流体が伸延器から内腔16内へ移動せしめられる。生体材料は、空洞Cを充填するために、伸延先端18内の孔30、32を通って出て行く。孔30、32は、空洞全体への生体材料の完全で且つ迅速な拡散を達成するような配置及び大きさとされるのが好ましい。このプロセスのこのステップの目的は、同様に、空洞の全体積と置換することである。流体生体材料が生体内で硬化可能か又は固化可能な材料である場合に、ひとたび材料が完全に硬化すると、均一な体積を保証するためには時間もまた必須であるかも知れない。
【0051】
生体材料が注入される間に、伸延先端18、40が適正な椎間板高さを維持することが明らかなはずである。この先端は、注入された材料が硬化又は固化するまで、定位置に保持することができる。ひとたびこの材料が十分に硬化すると、伸延先端18、40は除去することができる。伸延先端はある体積を占めるので、必要ならば抜き取られつつあるときに、付加的な生体材料を先端から注入し、それによって先端によって残された隙間を充填することができる。
【0052】
ある種の実施形態においては、伸延先端18は、図8に示されているように、組み立て部品とされ且つカニューレ11から取り外すことができる。従って、先端18及びカニューレ11には、(図9に示されているような)圧入又は当業者が想到できるようなねじ込み又はルアー(登録商標)のような取り外し可能なかみ合い部材19を設けることができる。取り外し可能な伸延先端は、いくつかの目的を達成することができる。一つの目的においては、注入された生体材料は、長い硬化時間を必要とするかもとれない。材料が硬化しつつある間適正な椎間板高さを維持するために、伸延先端を定位置に維持することがもちろん必要である。しかしながら、注入器70及びカニューレ11のような装置の他の構成要素を定位置に保持することは必要ではないかも知れない。組み立て部品型の伸延先端は、先端が定位置に留まって生体材料が硬化する間椎間板スペーサーとして作用している間は、カニューレ11を取り除いておくことを可能にする。
【0053】
取り外し可能な伸延先端18の隠れたもう一つ別の目的は、先端が椎間板内にレジゼントを維持することができるようにする生体材料によって先端が作られている実施形態によって達成される。この実施形態においては、伸延先端材料は、本来の髄核と置換するために使用される生体材料と互換性がなければならない。例えば、生体材料が、椎間板の高さを回復することのみを意図しているが、本来の髄核の本来の生体力学特性を回復することは意図していない場合には、伸延先端18の材料が、概して堅固な骨格を提供することができる。一方、注入された材料は、脊椎区分をできるだけ正常な脊椎区分に近い状態で機能させるように、椎間板の生体材料の特性と似せて機能させることを意図しているのが最も好ましい。この例においては、堅牢な骨格は、もちろん椎間板の正常な可撓性応答、圧縮応答及び捻れ応答を損なう。従って、先端が生体内に残される実施形態における伸延先端18は、椎間板の髄核を形成している硬化した生体材料の基質内に吸収される生分解性物質によって作ることができる。
【0054】
伸延先端が除去されるか椎間板空間内に留まるかに拘わらず、先端ができるだけ小さい体積を占めることが好ましい。一方、伸延先端は、隣接する椎骨を伸延させている間に椎間板の空間高さを保持するほど十分に強くなければならない。図5及び7に示された特定の実施形態においては、髄核空洞の実質的な部分を横切っている伸延先端18が示されている。別の方法として、伸延先端は、先端が空洞内へ部分的にのみ伸長するように肩部20から短い長さを有することができる。椎間板空間の伸延は、手術台上の患者のある位置によって幇助されることができ、手術台においては、例えば、椎間板空間の前方面が、脊椎の位置によって自然に伸延される。椎間板空間の適正な伸延は、図5及び7に示された後方からのアプローチよりもむしろ前方からのアプローチによってより良好に適応されるかも知れない。
【0055】
代替的な実施形態においては、伸延先端は、広範囲の幾何学的構造をとることができ、いくつかは、椎間板切除術中に形成された線維輪入口によって指図される。図5乃至8の実施形態においては、円形の線維輪入口が形成され、円形の伸延先端18は、入口を密封するために使用される。いくつかの場合には、図9に示された先端40と似た平らか又は楔形状の伸延先端を、線維輪を通る孔が先端自体よりも大きい面積を有する場所で利用することができる。これらの場合には、先端と入口の内側面との間の余分な空間は、直接の視覚化装置のための開口部又はその他の適当な装置を提供することができる。好ましくは、このアプローチは、生体材料が圧力によって注入されない場合、例えば重力による給送装置が採用されている場合(図11及びそれに関連する以下の説明を参照)に、より適している。
【0056】
その他の場合においては、外科医は、椎間板の線維輪に設けられた矩形又は円形の入口を介して椎間板切除術を行う。線維輪入口と合致させ且つ充填するために相補的な形状の伸延先端を使用することができる。例えば、伸延先端は、図12乃至14に示された形状をとることができる。多数の孔57と連通している中心内腔56を備えた十字形形状の先端55が図12に示されている。十字形形状の先端のアームは、それらの適正な伸長位置に隣接する椎骨を支持する程十分に強い場合には、図に示されたものよりも薄い断面を有することができることが理解できる。同様に、孔57は、ハブ及び十字形形状の脚部を介して種々のパターンで分布させることができる。
【0057】
図13には、多数の孔62と連通している中心内腔61を有するI形鋼伸延先端60が示されている。図14に示されている延伸先端63は、C字形状を有し且つ内腔64と孔65とを含んでいる。これらの2つの鋼形状は、必要な伸延のための十分な支持部材を提供する。同様に、この鋼のアームの厚みは、伸延先端60、63の断面を最少にするために、必要に応じて薄くすることができる。
【0058】
伸延先端の全体の形状に関係なく、髄核の空洞C内の先端の体積は最少化されることが最も好ましい。先端40のような楔形は好ましいかも知れないけれども、先端18のような弾丸形状の先端はこの観点からあまり望ましくない。更に、全体形状に関係なく、伸延先端は、内腔と連通しなければならず且つ先端からの排出手段を提供しなければならない。図示された実施形態においては、伸延先端18、40は、各々、対応する内腔と連通しているオリフィス30、31を含んでいる。別の方法として、伸延先端は、開口した骨格又は骨格の骨組の形態とすることができる。同様に、骨格又は骨組は、脊椎空間を適正に伸延させ且つ適当な長さの時間に亘って椎間板の高さを保持するために、十分に強くなければならない。いくつかの実施形態においては、伸延先端は、多孔性材料のような連結された隙間を有する材料の形態とすることができる。多孔性の伸延先端は、材料を通る多数の流体通路を備えた固体の骨格が存在し得る。多孔性材料は、多孔性のチタンのような金属とすることができるが、この過程が完了した後に、脊椎板の空間の視覚化を遮らないように、ポリ乳酸のような多孔質ポリマーが好ましい。
【0059】
上記した方法においては、伸延先端は、椎間板切除術に続いて、生体材料を髄核空洞C内へ注入するための通路を提供するように記載された。本発明の伸延先端は、脊椎板空間への他の流体の導入のための導管として同様に良好に作用する。例えば、伸延先端は、上記した“注入可能な生体材料による椎骨間の椎間板の治療に先立つ軟骨質の終板の前処理”という名称の米国仮出願第60/336,332号に開示された材料のような生体材料を注入するために使用することができ、この出願による開示は参考として本明細書に組み入れられる。この仮出願は、例えば、変性した椎間板の生物学的な機能を改良するために、椎間板の終板の前処理のための材料を開示している。伸延器10のような本発明のカニューレ挿入による伸延器は、上記の仮出願に開示された椎間板の前処理のために最初に使用することができる。ひとたび前処理が完了すると、次いで、カニューレ挿入による伸延器を硬化可能な生体材料の注入のために使用することができる。
【0060】
同様に、本発明は、髄核の空洞C内で生体材料の硬化をさせるための多数回の注入を含む多数回の流体の注入のために使用することができる。例えば、ある種の生体材料は、椎間板空間内へ導入される第1の構成成分を含んでも良く、それに続いて、第2の構成成分又は硬化剤を含んでも良い。第2の構成成分は、結果的に得られた組成物の硬化を開始させることができる。
【0061】
本発明の代替的な実施形態が図11に示されている。この実施形態においては、概して切頭円錐形の伸延先端86と肩部87とを含んでいるカニューレ挿入による伸延器85が設けられている。先端86は、カニューレ挿入による伸延器85が椎間板空間内へ詰め込まれると椎間板空間を伸延させる楔として作用する。肩部87は、先端が椎間板空間内へ駆動される距離を制限するために、隣接する椎体に対するストッパとして作用する。伸延先端86は、椎間板線維輪A内の入口の長さをまたぐのに十分であるが髄核空洞C内への長さを制限する肩部87からその末端までの長さを有しているのが好ましい。この実施形態においては、伸延先端86は、空洞C内のいかなる実質的な体積も変位させない。
【0062】
カニューレ挿入による伸延器85は、伸延器の全長に亘って延びている内腔88を形成している。内腔88は、その中に注入チューブ94を受け入れる大きさとされている。注入チューブ94は、注入装置98と係合するための嵌合部96を含むことができる。嵌合部96は、上記したルアー(登録商標)型の嵌合部のようなあらゆる適切なタイプとすることができる。注入装置は、図10に示されている注入器70と類似したものとすることができ又は椎間板空洞内への流体の導入のための種々の形状をとることができる。本発明の一つの実施形態においては、生体材料流体は、重力による給送によって空洞内へ導入される。この例においては、注入装置98は、単に、生体材料を重力のみによって椎間板空間内へと下方に流れさせるための大気通路を備えたリザーバの形態とすることができる。もちろん、患者は、椎間板空洞Cの重力による充填に適合させるために適正に向けられなければならない。
【0063】
この実施形態においては、カニューレ挿入による伸延器85は、注入チューブ94のための支持部材又はガイドとして機能する。チューブ94は、椎間板空間内への生体材料の理想的な流れに適合する大きさとされた円滑な先端を有する比較的大きなゲージ針の形態とすることができる。チューブ94は、生体材料が空洞C内へ流れるときに、(図11において矢印によって示されているように)カニューレ挿入による伸延器85を通して導入し或いは抜き取ることができる。更に、チューブ94の直径は、チューブ94の排出孔95を空洞C内で掃引動作によって枢動させることができるような内腔88の直径に対する大きさとすることができる。カニューレ挿入による伸延器が上記したような前処理材料を導入するために使用されている場合には、この機構は、前処理材料が必要とされる場所へと前処理材料を導くための排出孔95の位置決めを可能にする。
【0064】
ある種の実施形態においては、内腔88には、弾性密封リングの形態とすることができる密封部材89を設けることができる。密封部材89は、生体材料が圧力下で注入される場合に特に重要である周囲の液密密封を注入チューブ94に形成することができる。更に、密封部材89は、排出孔95が椎間板空洞内で操作されるときに注入チューブ94を支持するための接合部の形態として機能することができる。
【0065】
本発明のもう一つ別の特徴においては、カニューレ挿入による伸延器は、椎間板空洞Cが一杯であるときに過剰の生体材料の排出のための出口孔を提供することができる。出口孔は、生体材料が重力による給送によって導入される場合に特に有用である。一つの特定の実施形態においては、出口孔92が伸延器85に設けられる。椎間板空洞が一杯となったときに、生体材料は、出口孔92を介して滲出して、空洞が一杯であるという視覚による指示を提供する。出口孔92は、生体内での出口孔の視覚性を改良するために、カニューレ挿入による伸延器85から離れる方向に突出しているチューブを含んでいるのが好ましい。別の方法として、出口孔は、密封部材89がない場合に、注入チューブ94と内腔88との直径差によって形成することができる。
【0066】
出口孔92は、椎間板空間内への生体材料の重量による給送を含む方法に適している。しかしながら、出口孔はまた、生体材料が注入チューブ94から空洞C内へ注入されるときに最初から開いた状態で維持することができる。空洞が完全に一杯になると、生体材料は、出口孔92から滲出するであろう。この時点で、出口孔は、閉じることができ且つ空洞C内の圧力を増大させるために付加的な生体材料を椎間板空間内へ注入することができる。出口孔を介するこの注入は、空洞が一杯であるという迅速な指示を提供し且つ適正な空洞圧力を確立するために校正された量の付加的な生体材料の導入のための開始時点を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
これらの実施形態の各々において、生体材料がひとたび硬化しカニューレ挿入による伸延器が取り外されると、椎間板線維輪に設けられた入口には、ヘルニア形成防止のために、新しく形成された人工器官用椎間板材料を充填することができる。線維輪入口は、線維素接着剤又は重合可能な材料等のようなあらゆる適切な材料によって密閉することができる。線維輪を密閉するために使用される材料は、脊椎の水和又は生体力学的な動きによって椎間板内の圧力が増大するときにも損なわれないままとするのに十分な強さであるべきである。
【0068】
ある種の実施形態に従って、カニューレ挿入による伸延器及び特に上記した伸延器先端は、種々の生体材料によって形成することができる。上記したように、伸延器先端は、生体材料が、必要ならば十分に注入され且つ硬化されるまで、椎間板空間の適切な伸延を維持するのに十分な強さでなければならない。ある種の実施形態においては、伸延先端は、ステンレス鋼又はチタンのような生体適合性金属によって形成されている。他の実施形態においては、伸延先端は、構成要素の位置を評価するために生体内での伸延先端の視覚化を可能にするために、放射線透過性であるのが好ましいポリマー又はプラスチックによって形成される。
【0069】
以上、本発明を、図面及び上記の説明によって詳細に図示し説明したけれども、これらは、例示的で且つ限定的ではない性質のものと考えられるべきである。好ましい実施形態のみが提供され、本発明の精神に含まれる全ての変更、変形及び更なる用途が保護されることが望まれていることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1a乃至1bは、適正な椎間板間の高さを示している椎間板と隣接する椎骨との側面図(図1a)及び実質的に完全椎間板切除術が引き続いて行われる低くなった椎間板の高さを示す側面図である。
【図2】図2は、本発明の一つの特徴に従ってガイドワイヤが配置された椎間板及び隣接する椎骨の側面図である。
【図3】図3は、穿孔器が、椎間板の線維輪内に入口を形成している状態の図2に示された椎間板空間の矢状方向図である。
【図4】図4は、組織伸延装置が椎間板の髄核内に配置されている、図3に示された椎間板空間の矢状方向図である。
【図5】図5は、本発明の一つの実施形態によるカニューレ挿入による伸延器を備えた図2乃至4に示された椎間板空間の矢状方向図である。
【図6】図6は、本発明の一つの実施形態によるカニューレ挿入による伸延器の側面図である。
【図7】図7は、椎間板空間内に配置された図6のカニューレ挿入による伸延器を備えた図2乃至5に示された椎間板空間の側面図である。
【図8】図8は、図6及び7に示されたカニューレ挿入による伸延器の伸延先端形成部分の斜視図である。
【図9】図9は、本発明の代替的な実施形態による伸延先端の斜視図である。
【図10】図10は、本発明の一つの実施形態において使用するための注入装置の側面図である。
【図11】図11は、本発明の更に別の実施形態によるカニューレ挿入による伸延器と共に椎間板空間を示した側面図である。
【図12】図12は、本発明のカニューレ挿入による伸延器の一つの実施形態による十字形伸延先端の断面図である。
【図13】図13は、本発明のカニューレ挿入による伸延器のもう一つ別の実施形態によるI形鋼形状の伸延先端の断面図である。
【図14】図14は、本発明のカニューレ挿入による伸延器の更に別の実施形態によるC字形状の伸延先端の断面図である。
【符号の説明】
【0071】
10 伸延器、 11 カニューレ、
12 末端、 14 基端、
16 内腔、 18 伸延先端、
20 肩部、 24 先端部分、
26 環状リング、 30 側方孔、
32 端部孔、 36 嵌合部、
40 伸延先端、 42 楔部分、
46 側方孔、 48 端部孔、
50 側部、 52 中間端縁、
55 先端、 56 中心内腔、
57 孔、 60 伸延先端、
61 中心内腔、 62 孔、
63 延伸先端、 64 内腔、
65 孔、 70 注入器、
72 チャンバ、 74 混合チャンバ、
76 手動コントローラ、 78 ノズル、
80 嵌合部、 82 把持部材、
85 伸延器、 86 伸延先端、
87 肩部、 88 内腔、
89 密封部材、 92 出口孔、
94 注入チューブ、 95 排出孔、
96 嵌合部、 98 注入装置、
A 椎間板線維輪、 C 椎間板空洞、
D 椎間板、 E 椎間板の終板、
G ガイドワイヤ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
椎間板の線維輪を貫通して形成された穴を介して椎間板空間内へ直に流動性材料を密封可能に導入するための装置であって、
前記流動性材料がその中を流れるための通路を有し且つ前記線維輪を貫通して形成された穴内に受け入れられるようにされた長さを有するチューブであって、前記穴に隣接した前記線維輪と係合し且つ当該線維輪と共に流体密な密封を形成するようになされた密封部材を備えている前記チューブと、
前記チューブに設けられた前記通路を介して前記椎間板空間内へ導入されるようになされた多量の流動性材料と、を含む装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置であって、
前記密封部材が前記チューブと一体化されている装置。
【請求項3】
請求項1に記載の装置であって、
前記密封部材が前記チューブに取り付けられた別個の部品である装置。
【請求項4】
請求項1に記載の装置であって、
前記チューブに隣接して設けられ且つ前記椎間板空間と連通するようになされた出口孔を更に含んでいる装置。
【請求項5】
請求項1に記載の装置であって、
前記流動性材料が硬化可能な生体材料である装置。
【請求項6】
請求項1に記載の装置であって、
前記チューブの長さが当該チューブの末端先端によって規定されており、当該チューブの末端先端は、前記椎間板空間と連通している対向する椎間板の伸延を提供する構造とされている装置。
【請求項7】
請求項6に記載の装置であって、
前記末端先端が、前記椎間板空間内への前記流動性材料の出口通路を提供するために前記通路と連通している少なくとも1つの孔を含んでいる装置。
【請求項8】
請求項6に記載の装置であって、
前記チューブの末端先端が前記チューブから取り外し可能である装置。
【請求項9】
請求項8に記載の装置であって、
各々が異なる大きさである複数の取り外し可能な末端先端が設けられている装置。
【請求項10】
請求項8に記載の装置であって、
前記末端先端が生体再吸収材料によって作られている装置。
【請求項11】
請求項1に記載の装置であって、
前記流動性材料を前記チューブの通路内へ注入するようになされた注射器を更に含んでいる装置。
【請求項12】
請求項1に記載の装置であって、
前記密封部材が、前記線維輪の孔内に位置するようになされている装置。
【請求項1】
椎間板の線維輪を貫通して形成された穴を介して椎間板空間内へ直に流動性材料を密封可能に導入するための装置であって、
前記流動性材料がその中を流れるための通路を有し且つ前記線維輪を貫通して形成された穴内に受け入れられるようにされた長さを有するチューブであって、前記穴に隣接した前記線維輪と係合し且つ当該線維輪と共に流体密な密封を形成するようになされた密封部材を備えている前記チューブと、
前記チューブに設けられた前記通路を介して前記椎間板空間内へ導入されるようになされた多量の流動性材料と、を含む装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置であって、
前記密封部材が前記チューブと一体化されている装置。
【請求項3】
請求項1に記載の装置であって、
前記密封部材が前記チューブに取り付けられた別個の部品である装置。
【請求項4】
請求項1に記載の装置であって、
前記チューブに隣接して設けられ且つ前記椎間板空間と連通するようになされた出口孔を更に含んでいる装置。
【請求項5】
請求項1に記載の装置であって、
前記流動性材料が硬化可能な生体材料である装置。
【請求項6】
請求項1に記載の装置であって、
前記チューブの長さが当該チューブの末端先端によって規定されており、当該チューブの末端先端は、前記椎間板空間と連通している対向する椎間板の伸延を提供する構造とされている装置。
【請求項7】
請求項6に記載の装置であって、
前記末端先端が、前記椎間板空間内への前記流動性材料の出口通路を提供するために前記通路と連通している少なくとも1つの孔を含んでいる装置。
【請求項8】
請求項6に記載の装置であって、
前記チューブの末端先端が前記チューブから取り外し可能である装置。
【請求項9】
請求項8に記載の装置であって、
各々が異なる大きさである複数の取り外し可能な末端先端が設けられている装置。
【請求項10】
請求項8に記載の装置であって、
前記末端先端が生体再吸収材料によって作られている装置。
【請求項11】
請求項1に記載の装置であって、
前記流動性材料を前記チューブの通路内へ注入するようになされた注射器を更に含んでいる装置。
【請求項12】
請求項1に記載の装置であって、
前記密封部材が、前記線維輪の孔内に位置するようになされている装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−181727(P2007−181727A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86265(P2007−86265)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【分割の表示】特願2003−539516(P2003−539516)の分割
【原出願日】平成14年10月29日(2002.10.29)
【出願人】(504168400)スパイン・ウェイブ・インコーポレーテッド (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【分割の表示】特願2003−539516(P2003−539516)の分割
【原出願日】平成14年10月29日(2002.10.29)
【出願人】(504168400)スパイン・ウェイブ・インコーポレーテッド (4)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]