説明

脊髄疾患、障害、又は症状の治療に好適な組成物

本発明は、椎間板変性のような脊椎疾患、障害、又は症状を治療するための、好適なフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含むウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物(VIPCC)の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、椎間板等の脊髄組織の変性のような、脊髄疾患、障害、又は症状の治療に好適な、フィブリノゲン及びフィブロネクチンの初期相対濃度を含む、ウイルス不活化血漿寒冷沈殿物濃縮物の使用に関する。
【0002】
〔背景技術〕
椎間板は、脊椎の隣接する椎体間に位置する。各板は椎骨のわずかな運動を可能にし、椎骨をともに保持する靱帯として作用し、体重及び筋肉の緊張から生じる圧縮荷重を支持する、軟骨性連結を形成する。
【0003】
軟骨は、大量の細胞外マトリクス(ECM)を産生する軟骨細胞と呼ばれる特殊な細胞で構成される、堅く、弾力のある結合組織である。それは、保護的緩衝を提供し、連結部が毎日の活動を実行するために必要な運動から生じる荷重に耐えることを可能にする。身体は、3種の異なる種類の軟骨:連結部表面を覆う関節軟骨、膝半月板及び椎間板で見られる線維軟骨、並びに外耳で見られる弾性軟骨を含む。異なる軟骨は、その構造、弾性、及び強度により区別される。
【0004】
アオタ(Aota)ら(「椎間板細胞によるプロテオグリカン代謝に対するフィブロネクチン断片の差次的効果:関節軟骨細胞との比較(Differential effects of fibronectin fragment on proteoglycan metabolism by intervertebral disc cells: a comparison with articular chondrocytes)、Spine.2005年;30巻:722〜728ページ)は、椎間板及び関節軟骨細胞の異なる集団における、増殖及びプロテオグリカン代謝に対するフィブロネクチン断片の異なる効果について報告した。これらの結果は、異なる軟骨組織の軟骨細胞が増殖及び組織の機能を維持するためには異なる条件が必要であることを示唆した。
【0005】
椎間板は、3つの基本構造:髄核(NP)と呼ばれる内側ゲル様物質、線維輪(AF)と呼ばれる強靱な線維性外側帯、並びに上及び下軟骨終板から構成され、この軟骨終板は椎間板と椎骨との間の移行を示す。これらの構造は、組織内のプロテオグリカン及びコラーゲンの配置、並びにそれぞれの相対濃度が異なる。
【0006】
胚発生中、3つの胚葉:内胚葉、中胚葉、及び外胚葉が分化することができる。これらの3つの層は、最終的に、それぞれ内臓、筋骨格組織、並びに表皮及び神経組織になる。脊索として知られる、第4の領域は、神経管の、及び椎間板を含む脊柱の、胚発生を導く。間葉細胞は、脊索の周りで遊走及び凝集し始めて、骨椎体及び線維輪を形成する。捕捉された脊索細胞は、髄核の発生の開始において重要な役割を果たす(ウォルムスリー(Walmsley)R.、「椎間板の発生及び成長(The development and growth of the intervertebral disc)」、Edinburgh Med J.、1953年;60巻:341〜364ページ)。したがって、椎間板のこれらの2つの基本構造、線維輪と髄核は、それぞれ、異なる胚起源、つまり間葉及び脊索に由来する。
【0007】
線維輪は、主に、髄核を取り囲む同心円層板を形成し、隣接する椎体の終板に挿入して、補強された構造を形成するI型コラーゲン線維から構成される。
【0008】
髄核は、大部分は、小さな軟骨細胞様細胞、及び大きな高度に空胞化した細胞の第2集団から成り、これらは脊椎及び髄核の形成を導いた胚組織の残遺物であると推定される脊索細胞である(ハンター(Hunter)ら、「髄核中の脊索細胞:組織工学の状況における総説(The notochordal cell in the nucleus pulposus: a review in the context of tissue engineering)、Tissue Eng.、2003年;9巻:667〜677ページ)。これらの脊索細胞が脊椎及び髄核の形成において重要な役割を果たしているようであるという事実により、それらが損傷した板及び脊椎の再建を促進できると推定される。軟骨細胞様細胞は、II型コラーゲン、プロテオグリカンのアグリカン、及びヒアルロナン長鎖を発現し、このヒアルロナン長鎖は高度に親水性である、分枝側鎖を備える分子を有する。これらの負に帯電している領域は、水分子に対する強い結合活性を有し、浸透圧膨張圧により核又は板の中心を水和させる。環内に収容された水和した核の水力効果は、衝撃吸収材として作用して、筋骨格系に適用される力から脊柱を緩衝する。
【0009】
椎骨終板は、板及び隣接する椎体の両方に付着する。これらの板の化学構造は、プロテオグリカン及びコラーゲン線維から成る。
【0010】
ヒト椎間板の変性は、臨床的な問題であり、脊椎痛及び脊椎の能力障害の主な原因である。世界中で1500万人を超える人が板変性に苦しんでおり、この板変性は典型的にはマトリクス組成の変化及び細胞数の減少を特徴とする。
【0011】
変性板疾患(DDD)は、椎間板がその柔軟性、弾性、及び衝撃吸収特性を失う、望ましくないプロセスである。このプロセスでは、線維輪のコラーゲン構造が弱くなり、脆性になる。弱くなった板に過剰な圧力をかけると、線維輪が裂ける恐れがあり、これは裂け目を通して髄核を脱出又は排出させ、この症状は脱出した板と呼ばれる。脱出した物質は板の周りの神経を圧迫し、痛みを生じさせる場合がある。脱出した板は神経機能に干渉し、弱さ、しびれ、炎症及び痛みを導く。更に、プロテオグリカン含量が減少し、それにより髄核の水分保持能を低下させる。これらの変化は、衝撃吸収材として作用する板の能力を低下させて、それらの柔軟性を低減する。流体の喪失はまた、板をより小さくし、椎骨と板との間の距離をより狭くする。
【0012】
椎間板は非血管環境に位置するため、変性プロセスを遅くする又は逆行させるために板の組織工学を使用することは、それらが限定された修復能力しか有しないため、主要な生物学的挑戦を示す。細胞活性にはグルコース、酸素、及び組織の支持に必要な他の栄養素が必要である。しかしながら、板は体内で最も大きな無血管組織である。板内の細胞は、椎骨終板の多孔質中心凹面を通して板に栄養素が拡散することにより栄養補給される(ルダート(Rudert)M及びティルマン(Tillmann)B、「ヒト椎間板のリンパ及び血液供給、椎間板炎に対する相互関係の死体を用いた研究(Lymph and blood supply of the human intervertebral disc. Cadaver study of correlations to discitis」、Acta Orthop Scand.、1993年;64巻:37〜40ページ)。
【0013】
椎間板の変性又は血腫は、脊髄の圧迫及び脊髄傷害を引き起こす恐れがある。脊髄傷害(SCI)は、通常脊柱管内の神経を傷つける脊椎への外傷から始まる。損傷のよくある原因は、外傷(交通事故、射撃、落下等)、又は疾患(例えば、ポリオ、脊椎披裂、フリードライヒ失調症等)、及び椎間板ヘルニアによる脊椎の圧迫である。脊髄神経の傷害は、運動機能、感覚機能、及び自律機能の喪失又は欠陥をもたらす。一次衝撃に続く二次損傷は、組織の壊死及び細胞死を導く多くの生化学的及び細胞変化を含む。SCIの年間発生率は米国で100万人あたりおよそ40件であり、SCI患者の医療を管理するコストは毎年40億にせまると推定される。現在までに、SCI及び関連する神経学的機能障害の治療は比較的少ししか進歩していない。現在、メチルプレドニゾロンが、唯一許容されているが、承認されていない療法である。傷害後8時間以内に非常に高用量で用いる場合、メチルプレドニゾロンは、SCI後の神経学的転帰を改善する中程度の能力を示した。
【0014】
発生している脊椎動物の神経系では、神経管は中枢神経系(CNS)の前駆体であり、中枢神経系は脳及び脊髄を含む。脊髄は、脳と末梢との間で感覚及び運動情報を移動させる、軸索と呼ばれる通信線維を含む。横断面では、脊髄は、背側部正中索(dorsal median)及び腹側部正中索により対称的に半分に分けられる。神経管の背側部は、主に感覚に関連し、一方腹側部は主に運動(例えば、筋肉)制御に関連する。用語運動ニューロンは、古典的には、CNSに位置して、軸索をCNSの外側に突出させ、直接的に又は間接的に筋肉を制御するニューロンに適用される。この用語は、遠心性ニューロンの同義語である。脊髄に対する傷害は、傷害レベルを下回る感覚又は運動機能の喪失をもたらす壊滅的な意味を有する。CNSに対する傷害後、運動ニューロンは、その軸索が再成長するのを不可能にし、軸索は壊死又はアポトーシスにより死滅する。背側神経管付近の第2脊索を移植し、発現させることにより、正常な脊索の位置の180°反対側で、一般的に感覚細胞を形成する背側管における運動ニューロンの形成を誘導することができることが、公開された調査で示されている。傷害されたCNSは、軸索再生を高度に阻害する環境であり、傷害後の機能回復を厳しく制限する。
【0015】
フィブリングルーは、典型的には、商業的供給元又はいくつかの地域の輸血センターから得られる血液製剤である。フィブリングルーの調製に一般的に用いられる成分は、フィブリノゲン、トロンビン、第VIII因子、第XIII因子、フィブロネクチン、ビトロネクチン、及びフォン・ビルブラント因子(vWF)である。フィブリングルー製剤は、止血のため、及び癒着を防ぐ又は治療するため、縫合糸に添加するにも、最適な創傷一体性を提供するにも有用であるとして、手術で用いられる。いくつかの製造業者は、抗タンパク質分解剤を、フィブリングルー製剤に添加する(国際公開第93/05822A号に記載のように)、又は線維素溶解を遅延させる若しくは停止させるために、特異的にプラスミノーゲンを除去する(米国特許第5,792,835B号及び同第7,125,569B号に記載のように)。
【0016】
典型的には、血漿からの寒冷沈降反応調製は、フィブリンに基づく接着剤のフィブリノゲンの製造における第1段階である。バー(Bar)ら(「フィブリンシーラントのコラーゲンへの結合は、精製方法及び「フィブリノゲン」成分の架橋フィブリノゲン−フィブロネクチン(ヘテロネクチン)含量に影響を受ける(The binding of fibrin sealant to collagen is influenced by the method of purification and the cross-linked fibrinogen-fibronectin (heteronectin) content of the ‘fibrinogen’ component)」、Blood Coagul Fibrinolysis.、2005年;16巻:111〜117ページ)は、寒冷沈降物から調製されたフィブリンゲル製剤は、そのフィブロネクチン及びヘテロネクチン(フィブリノゲン−フィブロネクチンが共有結合した複合体)含量が異なることを報告した。この報告は、製剤中のヘテロネクチン含量がフィブリンに基づくコラーゲンへの接着に影響を与えることを示した。他方、シュワルツ(Schwartz)ら(米国特許第4,377,572B号)の精製手順により、架橋フィブリノゲン−フィブロネクチン分子の大部分が除去され、その後製剤中のフィブロネクチン:フィブリノゲン比は1/14.7と低くなり、形成されるフィブリンのコラーゲン及びゼラチン結合特性が低くなる。他方、マルティーノビッツ(Martinowitz)及びバル(Bal)(欧州特許第691,858B号)により記載された寒冷沈降物製剤は、これらの架橋フィブリノゲン−フィブロネクチン分子を保存し、結果としてシュワルツの精製により得られる製剤により形成されるフィブリンのコラーゲンへの接着力に比べて、産生されたフィブリンのコラーゲンへの接着力上昇と相関する、1/7の上昇したフィブロネクチン/フィブリノゲン比を有する。
【0017】
以下の刊行物は、脊髄疾患における様々なフィブリングルー製剤の使用を開示する。インビトロでの細胞基質として、及び中枢神経系を再建するための橋かけ物質として3次元フィブリンマトリクスが報告されている。ジュ(Ju)ら(「3次元サケフィブリンゲルにおける哺乳類ニューロンの神経突起成長促進(Enhanced neurite growth from mammalian neurons in three-dimensional salmon fibrin gels)」、Biomaterials.、2007年;28巻:2097〜2108ページ)は、サケのフィブリンゲルが、ヒト又はウシ血液タンパク質から調製したフィブリンに比べて、CNS傷害後のニューロンの再成長のための優れたスカフォールドであることを報告した。チェン(Cheng)ら(「成体対麻痺ラットにおける脊髄再建:後肢機能の部分的回復(Spinal cord repair in adult paraplegic rats: partial restoration of hind limb function)」)、Science.、1996年;273巻:510〜513ページ)は、末梢神経移植片を用いた成体ラットにおける脊髄空隙の再建について記載している。移植された領域は、酸性線維芽細胞成長因子を含むフィブリングルーで安定化された。
【0018】
米国特許出願第2004/0121011号は、傷害された神経細胞の再建、再生、及び再成長を促進するための方法について記載している。この出願は、神経傷害部位が中枢又は末梢神経系に存在し得ることを示した。製剤はRho拮抗物質、及び組織接着剤のようなインビボで許容可能なマトリクスを形成できる流動性担体成分を組み合わせる。米国特許出願第2004/0121011号は、コラーゲンゲル、フィブリン組織接着剤、マトリゲル、ラミニンネットワーク、及びコラーゲンを含む基底膜(basment membrane)タンパク質の組成物に基づく接着剤を含む、様々なタンパク質に基づく組織接着剤を開示している。ティッシュコール(Tissucol)(登録商標)/ティッセル(TISSEEL)(登録商標)、ベリプラスト(Beriplast)(登録商標)P、及びヘマシール(Hemaseel)(登録商標)のような種々の市販調製品が開示されている。
【0019】
以下の刊行物は、椎間板におけるフィブリングルー組成物の使用を開示する。
【0020】
米国特許出願第2005/0148512号は、線維化剤の注入、又は瘢痕化を促進し、板の環状輪を支持するために損傷した椎間板に線維化剤を含む組成物に関する。椎間板に送達できる多数の組成物の中でも、ティッセル(TISSEAL)(登録商標)のようなフィブリノゲン含有製剤に言及している。
【0021】
米国特許第6,428,576B号には、インサイチュ硬化シーラントを用いる、線維輪の欠陥を再建する方法が記載されている。この特許は、線維輪の構造、物理的特性、及び生体力学的機能を模倣する粘弾性材料に硬化する製剤を開示する。硬化したポリマーは、合成又は天然由来であってもよい。この特許は、合成ポリマーがより信頼できることを開示している。この特許は、アルブミン、コラーゲン、フィブリノゲン、フィブリン、及びエラスチンのような、いくつかの天然由来タンパク質を開示している。これらのタンパク質は、血液から分画されたタンパク質、又は加工、変性、又は別の方法で修飾されたものを含む、組み換えタンパク質のような、任意の源由来であってもよい。
【0022】
国際公開第07/089942A号は、注入されているフィブリンシーラントの圧力を監視しながら、フィブリンシーラントを板に注入して線維輪の少なくとも1つの欠陥を封止することを含む、板を治療する方法を開示する。フィブリンシーラントは、フィブリノゲン及びトロンビンのような活性化化合物を含む。この記載により、欠陥は線維輪の裂け目若しくは亀裂、又は脊髄連結部の線維性被膜であってもよい。この記載は、人体でフィブリンを形成する、任意のフィブリノゲンの使用を開示している。フィブリノゲンは、フィブリノゲン組成物への多数の可能な添加剤のうちの1つとして言及される。
【0023】
国際公開第06/050268A号は、線維輪の裂け目又は亀裂へのフィブリンシーラントの注入を開示している。シーラントは、フィブリノゲン及びトロンビンのような活性化化合物を含む。この出願によると、フィブリノゲン成分は、自己、ヒト(プールされたヒトフィブリノゲンを含む)、組み換え、及びウシ又は他の非ヒト源であってもよい。フィブリンシーラントで使用できる追加の添加剤としての多くの成分の中でも、フィブリノゲンについて言及されている。
【0024】
また、国際公開第06/050267A号は、裂け目又は亀裂のような、線維輪の欠陥を封止するために、フィブリンシーラント及び麻酔剤を脊髄領域に注入することを開示している。この記載によると、フィブリノゲン成分は、人体でフィブリンを形成する任意のフィブリノゲン成分を含む。この出願は、ティッセル(TISSEEL)(登録商標)のような、バクスター(Baxter)等の製造業者製の市販キットに言及している。国際公開第06/050267A号の記載は、併用成分の密度を変化させるために、代わりの量のフィブリノゲンを用いてもよいことを開示している。
【0025】
国際公開第07/089948A号は、線維輪の少なくとも1つの欠陥内に及び/又は欠陥全体にわたって髄核が漏れている板を治療する方法に関する。この方法は、マルチルーメンカテーテルを用いて、脊髄領域にフィブリノゲン溶液のような生物学的シーラント及び活性化溶液を注入することを含む。この記載はまた、生物学的シーラントと、ヒトの板にフィブリンシーラントを注入するための生物学的シーラント装置と、を含むキットに関する。
【0026】
米国特許第6,468,527B号は、生物又は非生物剤を含む2成分フィブリンシーラントについて記載している。組成物は、体内の特定の重要部位に特定の剤を送達し、かつ長期、持続放出薬効を提供する手段を提供する。腰椎硬膜外腔及び円板内空間にコルチコステロイドを注がれたフィブリングルーの注入が、具体的に開示されている。フィブリンシーラントは、コルチコステロイドの抗炎症反応を長く維持し、環状亀裂を封止するよう作用し、この環状亀裂は、さもなければ、傷害化学物質が板の空間から逃げ、神経根を浸すことを可能にし、化学的神経根炎をもたらす。また、米国特許第7,235,255B号は、フィブリノゲン成分、トロンビン成分、及びコルチコステロイド含有溶液を含む生物学的組織接着剤を送達するシステムを開示している。この記載によると、フィブリンシーラントを用いて、変性板及び無力板疾患を治療することができる。例示されているのは、円板内注入である。送達システムは、露出している神経根を封止し、更なる化学的傷害から保護し、コルチコステロイドの神経根上への持続的堆積を維持するためのビヒクルとして作用する。
【0027】
以下の刊行物は、可能性のある生物学的アプローチとして組織工学を報告し、これは細胞、好適な生化学的及び生理化学的因子、並びにスカフォールドとして使用されるべき随意の多孔質構造と組み合わせた、組織の機能を置換する、再建する、維持する、及び/又は高めるのに役立つ。国際公開第04/093934A号は、幹細胞物質を板に投与することにより、椎間板を増大及び/又は再建する方法を開示している。幹細胞物質は、生物学的に適合性のある格子物質に提供される。好ましい格子物質は、プロテオグリカン、糖タンパク質、ヒアルロニン、フィブロネクチン、コラーゲン(I型、II型、III型、IV型、V型、VI型等)等のような脂肪由来の格子である。国際公開第04/093934A号の記載によると、脂肪由来の格子は細胞成長のための優れた基質として機能する。例示されているのは、コラーゲンに基づく格子物質のみである。
【0028】
国際公開第00/47621A号は、例えば、任意のヒト細胞及びケラチノサイトの成長に好適なフィブリンに基づくバイオマトリクスを産生するために用いることができる、0.02〜0.5の好ましいフィブリノゲン及びフィブロネクチン比を有するウイルス不活化寒冷沈降物を産生する方法を開示しており、線維芽細胞及び軟骨細胞について言及されている。1つの好ましい実施形態では、組成物の粘度を有利に低下させることが示されている、抗線維素溶解剤t−AMCHA(すなわち、トラネキサム酸)を用いる。
【0029】
米国特許出願第06/0275273号は、軟骨細胞を変性椎間板に移植する又は注入する方法を記載している。この特許は、死体から得た軟骨細胞を開示している。この記載によると、軟骨細胞は、椎間板軟骨、又は椎間板組織以外の軟骨性組織に由来する軟骨を含む、軟骨組織から得ることができる。この記載は、ラミニン、キトサン、ヒドロゲル、PEG化ヒドロゲル、I型、II型、III型コラーゲン、フィブリノゲン、フィブリン、トロンビン、フィブロネクチン、及びヒアルロン酸のような、細胞組成物に添加すべきいくつかの生体適合性分子を開示している。開示されているのは、細胞への市販製剤ティッセル(TISSEEL)(登録商標)フィブリングルーの使用である。この例はまた、寒冷沈降したブタのフィブリノゲン及び軟骨細胞−トロンビン溶液の使用を開示している。
【0030】
米国特許出願第07/0093905号は、グリシン、濃縮単球、及びフィブリングルーを含む椎間板の再建及び再生のための混合物を記載している。この特許はまた、板に再挿入するための、切除及び治療された核又は環状組織を開示している。再挿入された板細胞は、ゲル様担体のような担体又は接着剤と随意に組み合わせてもよい。ゲル様担体は、生物学的又は合成ヒドロゲル、ヒアルロン酸、コラーゲンゲル、イガイ(mussel)由来の接着剤、フィブリングルー、フィブリン凝塊、血液、血餅、血液成分、血液成分凝塊等であってもよい。この特許出願は、開示した担体の具体的な組成には言及しておらず、寒冷沈降濃縮物については沈黙を貫いている。
【0031】
欧州特許第1,894,581A号は、軟骨細胞又は軟骨再建移植片として前駆細胞を含むマトリクスゲルを開示している。この記載によると、ゲルマトリクスは、細胞外マトリクス物質の産生を増加させる主な軟骨細胞の単純な希釈液を提供する。好ましい実施形態では、軟骨細胞は関節軟骨から単離される。用いることができる多くのマトリクスゲル物質の中でも、フィブリングルーについて言及している。この出願は、マトリクスゲル物質の具体的な組成には言及しておらず、ゲル成分中の具体的な相対濃度については沈黙を貫いている。
【0032】
単層で成長する板細胞は、線維芽細胞様表現型と見なす。3次元環境では、しかしながら、板細胞は丸みを帯び、コロニーを形成し、より多くの増殖及びプロテオグリカン合成を呈する。複雑な3次元ゲル及び分解性ポリマースカフォールドを含む、種々のインビトロでの培養技術は、その上で板細胞が増殖できる持続可能なフレームを提供することを目的に開発されてきた。ヒアルロン酸、コラーゲン、キトサン及びフィブリンゲルが、細胞を捕捉するための架橋可能なポリマー調製品で用いられている。
【0033】
全ての技術がIVDにおけるフィブリングルーの使用について報告しているにもかかわらず、グルーバー(Gruber)ら(「椎間板用の細胞に基づく組織工学:ヒト板細胞の遺伝子発現及び選択された細胞担体内のマトリクス産生のインビトロ研究(Cell-based tissue engineering for the intervertebral disc: in vitro studies of human disc cell gene expression and matrix production within selected cell carriers)」、Spine J.、2004年;4巻:44〜55ページ)は、フィブリンゲル製剤が増殖、ECM産生及び線維輪細胞の遺伝子発現について質の劣る微環境であることを報告した。用語「細胞外マトリクス」、略して「ECM」は、哺乳類組織の細胞により産生される複雑な構造材料を指す。細胞外マトリクスは、典型的には、結合組織、例えば軟骨細胞の決定的な特徴である。ECMは、インビボでは通常細胞に構造的支持材を提供する。
【0034】
〔発明の概要〕
〔発明が解決しようとする課題〕
椎間板変性のような、脊椎疾患、障害、又は症状を治療するのに好適である、最適なフィブリン組成物に対する要求が存在する。
【0035】
〔課題を解決するための手段〕
フィブリングルーは周知であり、種々の臨床的状況で広く用いられている。このようなグルーは、止血のため、及び癒着を防ぐ又は治療するため、縫合糸に添加するにも、最適な創傷一体性を提供するにも有用であるとして、手術で用いられる。近年、脊髄の椎間板の再構築、線維輪の亀裂の封止、及び中枢神経系の回復のためにフィブリングルーを使用することに関する文献が刊行されている。
【0036】
本発明により、コーティングされた板中のフィブリノゲン濃度の増加は、椎間板の髄核細胞の板への付着を著しく低下させ、一方フィブロネクチン/フィブリノゲン濃度の比の上昇は逆の結果を導くことが見出された。他方、フィブリノゲンを選択的に激減させ、高濃度のフィブロネクチンを含む、寒冷沈降物のようなフィブリングルー組成物は硬化せず、それ故細胞用の支持3次元スカフォールドを形成しない。本発明は、この技術的問題を解決し、椎間板で使用するのに最適なフィブロネクチン及びフィブリノゲン濃度の寒冷沈降物を提供する。
【0037】
本発明により、フィブロネクチン/フィブリノゲン比が、髄核細胞の付着、増殖及び遊走において重要な役割を果たし、絶対的にフィブリノゲンに対して高含量のフィブロネクチンに依存することが見出された。例えば、本発明により、約1/10〜1/5の高いフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含む混合物中で培養された髄核細胞では、低いフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含む混合物中で培養された細胞に比べて、細胞付着及び増殖が増大することが見出された。また、本明細書では、フィブロネクチン/フィブリノゲン比の高い寒冷沈降物は、髄核領域に注入されたとき、板の高さを回復できることが示された。したがって、1/12より高い、及び1/7のような1/10〜1/5の範囲のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含む寒冷沈降物は、髄核細胞用の最適なスカフォールドとして機能しながら、板の高さを回復するための優れたマトリクス成分として用いることができる。
【0038】
研究は、脊索細胞は髄核及びCNS細胞の形成を導くことができ、並びに/又はこのような細胞の前駆細胞として用いることができることを示す。それ故、本発明による寒冷沈降物を用いて、椎間板及び中枢神経系(CNS)の再構築を補助することができる。
【0039】
トラネキサム酸は、合成線維素溶解阻害剤であり、これは恐らくガンマ−アミノ酪酸(GABA)の拮抗物質である結果として、中枢神経系(CNS)に影響を与え、過剰興奮性及びけいれんを引き起こすことが示されている(フルトミュラー(Furtmuller)ら、「トラネキサム酸は、広く用いられている抗線維素溶解剤であり、ガンマ−アミノ酪酸(A)受容体拮抗作用によりけいれんを引き起こす(Tranexamic acid, a widely used antifibrinolytic agent, causes convulsions by a gamma-aminobutyric acid(A)receptor antagonistic effect)」、J Pharmacol Exp Ther.、2002年;301巻:168〜173ページ;ロジャー(Roger)ら、「フィブリンシーラント間の差の評価:病院薬剤師の国際審議会による推奨(Evaluating the differences between fibrin sealants: recommendations from an international advisory panel of hospital pharmacists)」、The European Journal of Hospital Pharmacy Science Volume、12巻、2006年、1号、3〜9ページ)。
【0040】
また、ウシのアプロチニンは、脳及び脊髄において海綿状変性を引き起こす、クロイツフェルトヤコブ病(CJD)と呼ばれる非常に稀で、治療が不可能である変性神経障害を引き起こす恐れがある、免疫原性の高いセリンプロテアーゼ阻害剤であることが示されている。したがって、本発明の方法により、トラネキサム酸及びウシアプロチニンのような物質は、脊椎で用いるべき本発明の寒冷沈降物濃縮物から排除される。
【0041】
それ故、開示した分野では、好適なフィブリノゲン及びフィブロネクチン比を有し、トラネキサム酸及び/又はウシ由来のアプロチニンを含まない寒冷沈降物製剤で調製された、脊椎で用いるための最適なフィブリングルーを開示も示唆もしない。
【0042】
1つの態様では、本発明は、脊索由来細胞を含む細胞組成物と随意に組み合わせた、ウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物(VIPCC)の使用であって、寒冷沈降物が、脊椎疾患、障害、又は症状を治療するために、1/12より高い、又は約1/11〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を含み、但し、トラネキサム酸及びウシアプロチニンが寒冷沈降物濃縮物に含まれない、使用に関する。
【0043】
本発明の1つの実施形態では、VIPCCは約1/10〜約1/5のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含む。
【0044】
本発明の別の実施形態では、VIPCCは活性化されている。
【0045】
本発明の別の実施形態では、VIPCCは造影剤を含む。造影剤はヨウ素であってもよい。
【0046】
本発明の別の更なる実施形態では、椎間板疾患、障害、又は症状の治療のためにVIPCCを用いる。
【0047】
本発明の1つの実施形態では、損傷したIVDの椎間板の高さを少なくとも部分的に回復するためにVIPCCを用いる。
【0048】
本発明の別の実施形態では、更に、椎間板ヘルニアの予防のためにVIPCCを用いる。
【0049】
本発明の別の更なる実施形態では、更に、疾患は早期の椎間変性疾患である。
【0050】
本発明の別の実施形態では、更に、活性化VIPCCは、進行期の椎間板変性疾患で、髄核細胞の再構築のためのスカフォールドとして機能する。
【0051】
本発明の別の更なる実施形態では、活性化VIPCCは、傷害された又は破裂した脊髄の再構築のためのスカフォールドとして機能する。
【0052】
別の態様では、本発明は、キットの使用であって、キットが、1/12より高い、又は約1/11〜約1/5のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を有するウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物(VIPCC)を含む第1容器と、脊椎疾患、傷害、又は症状を治療するためにフィブリノゲンと反応するときにフィブリンを形成できる酵素を含む第2容器と、を含み、但し、トラネキサム酸及びウシアプロチニンがキットに含まれない、使用に関する。
【0053】
本発明の1つの実施形態では、前記VIPCCは約1/10〜約1/5のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含む。
【0054】
本発明の別の実施形態では、椎間板疾患、障害、又は症状の治療のためにキットを用いる。キットは、ヨウ素のような造影剤を更に含んでもよい。
【0055】
更に別の態様では、本発明は、スカフォールドの使用であって、スカフォールドが、脊椎疾患、障害、又は症状を治療するために、1/12より高い、又は約1/11〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を有するウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物(VIPCC)を含み、であるが、但し、トラネキサム酸及びウシアプロチニンが寒冷沈降物濃縮物及びスカフォールドに含まれない、使用に関する。
【0056】
本発明の1つの実施形態では、前記VIPCCは約1/10〜約1/5のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含む。
【0057】
本発明の別の実施形態では、椎間板疾患、障害、又は症状の治療のためにスカフォールドを用いる。
【0058】
別の態様では更に、本発明は、キットであって、1/12より高い、又は約1/11〜約1/5のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を有するウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物(VIPCC)を含む第1容器と、フィブリノゲンと反応するときにフィブリンを形成できる酵素を含む第2容器と、セリンペプチダーゼ、システインペプチダーゼ、アスパラギン酸ペプチダーゼ、メタロペプチダーゼ、ヒアルロニダーゼ、及びこれらの組み合わせから成る群から選択されるタンパク質分解酵素を含む第3容器と、を含む、キットに関する。
【0059】
本発明の別の実施形態では更に、タンパク質分解酵素は、トリプシン、キモトリプシン、膵エラスターゼ、パパインキモパパイン、ペプシン、コラゲナーゼ、ゼラチナーゼ、プロナーゼコンドロイチナーゼ、ヒアルロニダーゼ、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される。キットは、ヨウ素のような造影剤を更に含んでもよい。
【0060】
本発明の別の目的は、損傷した脊椎組織内に細胞の組成物を送達するのに好適なビヒクルであって、1/12より高い、又は約1/11〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を有するウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物(VIPCC)、及び脊索由来細胞を含み、但し、トラネキサム酸及びウシアプロチニンが寒冷沈降物濃縮物に含まれない、ビヒクルを提供することである。
【0061】
本発明の1つの実施形態では、VIPCCは約1/10〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を有する。
【0062】
本発明の別の実施形態では、損傷した脊椎組織は椎間板である。本発明の別の更なる実施形態では、脊索由来細胞は髄核細胞である。
【0063】
本発明の別の態様は、1/12より高い、又は約1/11〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を有する、ウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物(VIPCC)を含む組成物中に脊索由来細胞を含む組織又は細胞銀行に関する。
【0064】
本発明の1つの実施形態では、前記VIPCCは約1/10〜約1/5のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含む。
【0065】
本発明の別の実施形態では、前記細胞は髄核細胞である。
【0066】
本発明の更に別の目的は、ウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物の使用であって、寒冷沈降物が、脊椎疾患、障害、又は症状を治療するために、1/12より高い、又は約1/11〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を含み、但し、ウシアプロチニンが寒冷沈降物濃縮物に含まれない、使用に関する。
【0067】
寒冷沈降物は約1/10〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を含んでもよい。
【0068】
本発明の1つの実施形態では、前記寒冷沈降物は、椎間板疾患、障害、又は症状の治療のために用いられる。
【0069】
本発明により得ることができるキット、組織若しくは細胞銀行由来の細胞、及び/又はビヒクルは、椎間板等の脊髄組織の変性のような、脊椎疾患、障害、又は症状を治療するために用いることができる。
【0070】
本発明の別の態様では、ウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物は、少なくとも部分的に椎間板の高さを増加させる又は回復するために用いられる。寒冷沈降物は、約1/11〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を含み、トラネキサム酸及びウシアプロチニンは寒冷沈降物濃縮物に含まれない。
【0071】
本発明の1つの実施形態では、前記寒冷沈降物は約1/10〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を含む。
【0072】
更なる態様では、本発明は、脊索由来細胞の成長、増殖、分化、維持、修復、及び/又は回復を促進する方法であって、前記細胞の集団を、1/12より高い、又は約1/11〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を有するウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物(VIPCC)と接触させることであって、但し、トラネキサム酸及びウシアプロチニンが前記寒冷沈降物濃縮物に含まれない、寒冷沈降物濃縮物と接触させること、を含む、方法に関する。
【0073】
本発明の1つの実施形態では、前記VIPCCは約1/10〜約1/5のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含む。
【0074】
本発明の別の実施形態では、前記細胞は髄核細胞である。本発明の別の実施形態では、VIPCCは活性化されている。
【0075】
本発明の別の更なる実施形態では、前記接触はエクスビボで実行される。本発明の別の更なる実施形態では、前記接触はインビボで実行される。
【0076】
本発明の1つの目的は、椎間板等の脊髄組織の変性のような、脊椎疾患、障害、又は症状を治療する方法であって、脊索由来細胞を含む細胞組成物と随意に組み合わせた、ウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物(VIPCC)を必要としている被験体の脊椎内に投与することであって、寒冷沈降物が、1/12より高い、又は約1/11〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を含み、但し、トラネキサム酸及びウシアプロチニンが前記寒冷沈降物濃縮物に存在しない、投与することを含む、方法を提供することである。
【0077】
本発明の1つの実施形態では、VIPCCは活性化されている。
【0078】
本発明の別の実施形態では、VIPCCは脊索由来細胞を含む細胞組成物と組み合わせて投与される。本発明の別の更なる実施形態では、前記細胞は髄核細胞である。
【0079】
本発明の別の実施形態では更に、髄核組織の全て又は一部が、VIPCC及び細胞の投与前に切除される。
【0080】
本発明の別の実施形態では更に、細胞の投与前に、細胞は約1/11〜約1/5のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含むVIPCC上で、エクスビボにて培養される。
【0081】
本発明の別の目的は、本発明のキット、組織若しくは細胞銀行に由来する細胞、及び/又はビヒクルを必要としている被験体に投与することを含む、椎間板等の脊髄組織の変性のような脊椎疾患、障害、又は症状を治療する方法を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0082】
本発明の特徴、態様、及び利点は、以下の説明、実施例、請求の範囲、及び以下の図面に関して、更に良く理解されるであろう。
【図1】線維輪細胞の付着及び増殖に対する、トロンビン、ウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物(VIPCC)及びその成分の効果を示す。97mmのプラスチック培養皿の周辺に、VIPCC、トロンビン、アルブミン、及びフィブリノゲンをコーティングした。後に、線維輪細胞懸濁液を皿の中央(源)に播種した。VIPCC、トロンビン、アルブミン、及びフィブリノゲンへの細胞付着を、ヘマトキシリン及びエオシン染色により14日後に測定。
【図2】線維輪細胞の細胞付着及び増殖に対する、トリプシン処理手順及び/又は継代の効果を示す。解離した線維輪細胞を、VIPCC、フィブリノゲン、フィブロネクチン、及び精製したフィブロネクチン/フィブリノゲン混合物(1:10)で周辺をコーティングした97mmプラスチック培養皿の中央に置いた。細胞付着を、ヘマトキシリン及びエオシン染色により9日後に評価。
【図3A】異なるコーティングに対する髄核(A)細胞付着を示す。得られた結果は、同じ実験におけるフィブロネクチンコーティングに対する細胞付着(100%)の倍数として表した。Fnはフィブロネクチン、Fgnはフィブリノゲン。
【図3B】異なるコーティングに対する線維輪(B)細胞付着を示す。得られた結果は、同じ実験におけるフィブロネクチンコーティングに対する細胞付着(100%)の倍数として表した。Fnはフィブロネクチン、Fgnはフィブリノゲン。
【図4】異なるコーティングに対する1日目及び5日目の代謝的に活性のある髄核細胞の割合を示す。結果は、フィブロネクチンコーティングにおける吸光強度(100%)の百分率として提示する。VIPCCはウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物;Fnはフィブロネクチン;Fgnはフィブリノゲン。
【図5A】コーティングマトリクス中の一定量のフィブロネクチン及び増加する量のフィブリノゲンに対する(A)、代謝的に活性のある髄核培養物の割合を示す。
【図5B】コーティングマトリクス中の一定量のフィブリノゲン及び増加する量のフィブロネクチンに対する(B)、代謝的に活性のある髄核培養物の割合。
【図6A−D】付着した(A、C)及び脱離した(B、D)、VIPCCを用いて調製した3次元スカフォールドにおける、線維輪(上方パネル)及び髄核軟骨細胞(下方パネル)の形態及び機能を示す。
【図7】活性化VIPCC中の髄核細胞の遊走を示す。
【図8】椎間板への対照(A;生理食塩水)及び活性化VIPCC(B;VIPCC及びトロンビンで調製した)の注入のフルオログラフィー像を示す。
【図9】図8に記載した注入手順の14日後の、単離した腰椎を示す。
【図10】図8に記載したように生理食塩水(A)及び活性化VIPCC(B)を注入した、脱灰された椎間板(IVD)を示す。
【図11】図8に記載したように生理食塩水(A)及び活性化VIPCC(B)を注入したIVDの髄核領域の組織学的研究を示す。
【図12】図8に記載したように対照(A)及び活性化VIPCC(B)を注入したIVDの髄核の中心領域を示す。
【図13】対照(A)及び活性化VIPCC(B)を注入したIVDの末梢領域における髄核の一群を示す。
【図14】単離した椎間板内の、20倍に希釈したVIPCC及びトロンビンの混合物で形成された3次元スカフォールドに配置された髄核軟骨細胞の形態及びコンドロイチン硫酸産生を示す。注入手順の1時間及び3日後(それぞれA及びB)に、倒立蛍光顕微鏡を用いて、組織学的評価を行った。Nは核、CSはコンドロイチン硫酸。コンドロイチン硫酸の産生は、細胞膜上にはっきりと見える(矢印)。
【図15】未処理の板、空の板、及び再充填した板(PBS又はVIPCC及びトロンビン)の増加する力荷重下における板の圧縮百分率を示す。
【図16】活性化VIPCC又はPBSのいずれかを注入した板の高さ回復を示す。結果は、図15(500Nの圧縮下)で示した測定値に基づいている。結果は、同じ実験における500Nの荷重下での未処理板(100%)の可能な最大圧縮の百分率として表す。
【発明を実施するための形態】
【0083】
本発明は、椎間板(IVD)変性のような脊椎疾患、障害、又は症状を治療するための、好適なフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含むウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物(VIPCC)の使用に関する。
【0084】
本発明により、驚くべきことに、フィブロネクチン/フィブリノゲン比が、髄核細胞付着、増殖、及び遊走において重要な役割を果たしていることが見出された。本発明により、髄核(NP)上の寒冷沈降物の伝導特性は、最適なフィブリノゲンに対するフィブロネクチンの比に絶対的に依存していることが示されている。
【0085】
用語「寒冷沈降物」は、全血から調製した凍結血漿から得られる血液成分を指す。寒冷沈降物は、凍結血漿を冷間で、典型的には0〜4℃の温度で解凍し、例えば遠心分離により沈殿物を回収することにより得ることができる。通常、フィブリノゲン、第VIII因子、フォン・ビルブラント因子、第XIII因子、及びフィブロネクチンに富む寒冷沈降物が形成される。寒冷沈降物成分は、自己血漿、ヒト(プールされた血漿を含む)又は非ヒト源の血漿から調製することができる。
【0086】
本発明により得られた結果は、コーティングされた板におけるフィブリノゲン濃度の上昇が、板への髄核細胞付着を著しく低下させたことを示す。一方、板におけるフィブロネクチン濃度の上昇は、逆の結果をもたらした。しかしながら、フィブリノゲンを選択的に激減させ、高濃度のフィブロネクチンを含む、寒冷沈降物は硬化せず、それ故フィブリノゲン無しでは、3次元組織形成を支持するスカフォールドが形成されない。
【0087】
より具体的には、本発明により、1/10〜1/5の比のフィブロネクチン/フィブリノゲンの精製混合物は、低いフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含む混合物より、髄核細胞の付着及び増殖により好適であることが見出された。驚くべきことに、線維輪とは対称的に、髄核細胞付着は、フィブリノゲンでコーティングされた板におけるフィブリノゲン濃度の上昇により影響を受けることが見出された。実際に、髄核細胞の付着は、用量依存的様式でフィブリノゲン濃度の上昇につれて著しく低下した。対照的に、フィブロネクチン/フィブリノゲン比の上昇は逆の結果を導く。これらの結果は、髄核細胞付着におけるフィブロネクチン/フィブリノゲン比の重要な役割を示し、髄核細胞に対して高い水準のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を用いることの利点を示す。得られた結果は、高い及び同様のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を有するフィブロネクチン/フィブリノゲンの精製混合物中よりも、VIPCCにおける髄核細胞付着がより良好であることを示す。注目すべきは、線維輪軟骨細胞の細胞付着が、両方のコーティングで同等であったことである。
【0088】
髄核及び線維輪細胞の細胞増殖は、精製フィブロネクチン及びフィブリノゲン混合物から構成されるコーティングよりも、VIPCCコーティングにおいてより高かった。しかしながら、髄核軟骨細胞の増殖は、様々なコーティングによる線維輪軟骨細胞の増殖よりも影響を受けた。高フィブロネクチン/フィブリノゲン比のVIPCCコーティング及び精製フィブロネクチン/フィブリノゲン混合物上での髄核細胞の生存率も監視した。結果は、高フィブロネクチン/フィブリノゲン比は、フィブリノゲン単独コーティングで観察された細胞生存率の低下を軽減することができたことを示している。この髄核細胞に対する正の効果は、特にVIPCCコーティングで顕著であった。これらの結果は、純フィブロネクチン/フィブリノゲン混合物の代わりに、髄核細胞用コーティングとして高フィブロネクチン/フィブリノゲン比を有するVIPCCを用いることの利点を示す。髄核軟骨細胞は、種々のVIPCC希釈液の走化性勾配及びこのようなVIPCC勾配の存在下で生じる遊出を感じる。したがって、高フィブロネクチン/フィブリノゲン比を有するVIPCC製剤は、軟骨伝導特性を有することができる。
【0089】
全体で、本発明による結果は、1/12より高い、又は約1/11〜約1/5、又は約1/10〜約1/5、約1/10〜約1/7、又は約1/7のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を有する、本発明によるVIPCCが髄核細胞に使用するのに好適であることを示す。したがって、本発明の活性化VIPCCは、エクスビボで髄核細胞を成長させるためのスカフォールドとして用いることができる、又は椎間板空間に注入して、インビボで髄核細胞用のスカフォールドとして用いられ得る。
【0090】
本発明により、動物モデルの椎間板にVIPCC及びトロンビンを注入してもIVDの構造は変化せず、IVDにおける軟骨細胞組織の典型的な構造が保存されたことが見出された。また、活性化VIPCCは、正常な板の高さを実質的に回復する機能を有することができ、またこのような回復された板は天然髄核組織のように圧縮荷重に耐え得ることが示された。
【0091】
更に、髄核軟骨細胞が注入されたIVDの形態及び機能の維持は、本発明による活性化VIPCCとともに注入されたときに示された。
【0092】
したがって、1/12より高い、又は約1/11〜約1/5、又は約1/10〜約1/5、約1/10〜約1/7、又は約1/7のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を有するウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物(VIPCC)は、有利なことに、髄核組織由来の細胞の付着、増殖及び遊走を可能にするために用いることができる。結果はまた、本発明による活性化VIPCC中で培養された髄核細胞は、形態及びコンドロイチン硫酸の合成を維持することを示す。髄核細胞は脊索領域由来である、及び/又は脊索領域により導かれるため、これらの結果は、その形成が髄核及び中枢神経系からの運動ニューロンのような脊索細胞により導かれた、傷害された脊椎の治療に対する新しいアプローチへの道を開く。それ故、最適なフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含む寒冷沈降物は、脊椎での使用について、フィブロネクチンを含まない寒冷沈降物、又は低いフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含む寒冷沈降物よりも優れている。
【0093】
IVDのヒト髄核組織の細胞は、主に小さな軟骨細胞様細胞であるが、大きな細胞、脊索細胞の第2集団も存在し、これらは神経管及び髄核の胚発生の形成を導いた胚組織の残遺物であると推定される(ハンター(Hunter)ら、2003年)。いくつかの研究が、髄核組織で見られる脊索細胞が髄核及びCNS細胞の形成を導き得ることを示す。それ故、髄核組織を用いて、椎間板及びCNSの再構築を補助することができる。
【0094】
1つの態様では、本発明は、髄核細胞のような脊索由来細胞の成長、増殖、分化、維持、再建、及び/又は回復を促進する方法であって、前記細胞集団を、1/12より高い、又は約1/11〜約1/5、約1/10〜約1/7、又は約1/7の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を有するウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物(VIPCC)と接触させることを含む、方法に関する。本発明の1つの実施形態では、初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度は約1/10〜約1/5である。
【0095】
用語「脊索由来細胞」は、その形成が脊索領域により導かれた細胞を指す。換言すれば、脊索由来細胞は、脊髄髄核細胞及び脊髄神経細胞(つまりCNS細胞)を指す。
【0096】
トラネキサム酸は、合成線維素溶解阻害剤であり、これは恐らくガンマ−アミノ酪酸(GABA)の拮抗物質である結果として、中枢神経系(CNS)に影響を与え、過剰興奮性及びけいれんを引き起こすことが示されている(フルトミュラー(Furtmuller)ら、「トラネキサム酸は、広く用いられている抗線維素溶解剤であり、ガンマ−アミノ酪酸(A)受容体拮抗作用によりけいれんを引き起こす(Tranexamic acid, a widely used antifibrinolytic agent, causes convulsions by a gamma-aminobutyric acid(A)receptor antagonistic effect)」、J Pharmacol Exp Ther.、2002年;301巻:168〜173ページ;ロジャー(Roger)ら、「フィブリンシーラント間の差の評価:病院薬剤師の国際審議会による推奨(Evaluating the differences between fibrin sealants: recommendations from an international advisory panel of hospital pharmacists)」、The European Journal of Hospital Pharmacy Science Volume、12巻、2006年、1号、3〜9ページ)。
【0097】
また、ウシのアプロチニンは、脳及び脊髄において海綿状変性を引き起こす、クロイツフェルトヤコブ病(CJD)と呼ばれる非常に稀で、治療が不可能である変性神経障害を引き起こす恐れがある免疫原性の高いセリンプロテアーゼ阻害剤であることが示されている。
【0098】
したがって、本発明の方法により、トラネキサム酸及び/又はウシアプロチニンのような物質は、脊椎で用いられるべき寒冷沈降物濃縮物から除外される。プラスミノーゲン及びプラスミンの水準が低下したVIPCCにより、これらの物質の使用は不必要になる。本発明の1つの実施形態では、VIPCC中で、プラスミノーゲン及びプラスミンは15μg/mL以下、例えば5μg/mLに低下していた。
【0099】
本発明による血漿寒冷沈降物は、活性化されていても活性化されていなくてもよい。用語「活性化VIPCC」は、フィブリノゲンからフィブリンを形成できる活性化成分と組み合わせた後の寒冷沈降物組成物を指す。組み合わせた混合物は、3次元構造をもたらす。活性化成分は、トロンビン及び/又は蛇毒から得ることができる溶液であってもよい。本発明のVIPCCの細胞との接触は、他の細胞種とともに又は他の細胞種無しでのインビトロ細胞培養を含むエクスビボで、又は傷害部位においてインビボで、実行してもよい。
【0100】
開示した分野は、好ましいフィブリノゲン及びフィブロネクチン比を有し、脊椎で用いるためのトラネキサム酸及びウシ由来アプロチニンを欠く、寒冷沈降物製剤の使用を、開示並びに示唆はしない。
【0101】
1つの態様では、本発明は1/12より高い、約1/11〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン比を有し、但し、トラネキサム酸及びウシアプロチニンは寒冷沈降物濃縮物に含まれないウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物(VIPCC)を、必要としている被験体の脊椎に投与することを含む、椎間板変性のような脊椎疾患、障害、又は症状を治療する方法に関する。本発明によるVIPCC組成物を、髄核細胞のような脊索由来細胞を含む細胞組成物と組み合わせて投与してもよい。
【0102】
本発明の1つの実施形態では、VIPCCは約1/10〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を含む。本発明によると、前記VIPCCは活性化されていてもよく、活性化されていなくてもよい。
【0103】
本明細書で使用するとき、用語「初期」は、寒冷沈降物濃縮物の調製の終わりの変数比を指す。
【0104】
別の態様では、本発明は、1/12より高い、約1/11〜約1/5のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を有するウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物(VIPCC)を、必要としている被験体の傷害又は損傷部位に投与することを含む、中枢神経系(CNS)疾患、障害、又は症状を治療するのに有用な方法を提供する。別の実施形態では、本発明はCNS又は脊髄の傷害を治療するのに有用であり、被験体のCNSの回復及び軸索成長を促進する。
【0105】
用語「脊椎疾患、障害、又は症状」は、椎間板及び/又は中枢神経系の疾患、障害、又は症状を指す。
【0106】
用語「椎間板疾患、障害、又は症状」は、板ヘルニア、亀裂板、亀裂板、脊髄狭窄、黒板、板痛等のような椎間板変性及び/又は傷害を含む、複数の疾患、障害、又は症状を指す。
【0107】
しばしば、用語「椎間板疾患、障害、又は症状」は、用語「変性板疾患(DDD)」との同義語として用いられる。
【0108】
「改良ダラス椎間板造影(modified Dallas Discogram)」命名システムに従って、橈骨環状裂け目の重篤度(等級0〜5)を記載する6つの可能性のある分類が存在する(サックス(Sachs)ら、「ダラス椎間板造影の説明、腰部障害におけるCT/椎間板造影法の新規分類(Dallas discogram description. A new classification of CT/discography in low-back disorders)」、Spine.、1987年;12巻:287〜294ページ)。等級0は、核から造影剤が漏れない、正常な板を説明し、一方等級5は、板の外層が完全に破裂し、板から物質が漏れている裂け目を説明する。
【0109】
不適切な板の栄養、例えば隣接する椎骨からの血液供給が損なわれるとき、板変性が加速する恐れがある。これは、コラーゲン線維の分解を導く髄核脱水により引き起こされる場合がある。このような脱水された板は、MRIスキャンで見ることができ、MRIの色変化のために「黒板」としても知られている。最終的には、板はその衝撃吸収能を失う場合がある。板空間は狭くなり、その衝撃吸収能を失い、その水準における運動が異常になる。これは、神経根の圧迫、脊髄狭窄と呼ばれる疼痛症状を導く、脊椎において隣接する構造を過剰に歪ませる(http://www.saspine.org/conditions/ddd_disease.htm)。
【0110】
脊髄疾患、障害、又は症状のための診断試験としては、X線撮影法、脊髄造影法、コンピュータ断層撮影法、磁気共鳴映像法、陽電子放出断層撮影法、及び当該技術分野において既知である他の診断試験が挙げられるが、これらに限定されない。
【0111】
本明細書で使用するとき、用語「中枢神経系の疾患、障害、又は症状」とは、脳若しくは脊髄の正常な機能又は情報伝達を崩壊させる任意の疾患、障害又は外傷を指す。本発明により治療できるCNS傷害は多様であり、当業者により容易に理解される。制限なく、神経外科、外傷、虚血、低酸素症、神経変性疾患、代謝障害、感染疾患、椎間板の圧迫、腫瘍、及び自己免疫疾患による、脳及び脊髄傷害に言及することができる。
【0112】
椎間板へのVIPCC組成物の投与は、注入により実行できる。このような実施形態では、注入手順は以下のように実行できる。必要としている被験体を、横方向に位置づけ、前方に曲げてもよい。針又はカニューレを、治療すべき板の髄核に挿入できる。中枢神経系の欠陥を治療するとき、針又はカニューレは硬膜に隣接して位置づけてもよい。針又はカニューレをトレーサーの案内の下で挿入してもよい。用語「トレーサー」は、以下に定義するような用語「造影剤」と互換性がある。本発明の方法で用いることができる技術としては、フルオログラフィー、スキャニング、磁気共鳴映像法、断層撮影法、ナノテクノロジー、デジタルビデオ、X線又は当該技術分野において既知である任意の他の技術が挙げられる。トレーサーの非限定的な例は、有機染料、食品用染料及び/又は蛍光染料である。造影剤は、ヨウ素のような種々の非毒性剤から選択することができる。トレーサーのスペクトルが人間の目には見えない場合、トレーサーは適切な機器により検出してもよい。いったん適切な位置に行くと、例えば線維輪を横断した後、針又はカニューレを髄核に挿入することができる。正確な適用部位を確認するために、次いで造影剤を注入する。造影剤は、針又はカニューレの先端の末端に存在することができる。いったん位置を確認すると、VIPCC及び例えば等体積の活性化成分を円板内に注入する。注入手順は、任意の順序であってもよい、例えば、成分は、同時に又は次々に適用され、成分が混合されたときスカフォールドが形成される。
【0113】
用語「活性化成分」は、トロンビン及び/又は蛇毒から得ることができる溶液、を含むフィブリノゲンからフィブリンを形成できる化合物を指す。本発明の実施形態では、トロンビンはヒト又は哺乳類の血漿から単離される。フィブリンを形成できる酵素は組み換え方法により調製することも可能である。
【0114】
活性化VIPCCは、髄核細胞のような脊索由来細胞を含む細胞組成物と組み合わせて注入することができる。
【0115】
活性化VIPCCは、損傷した領域の再構築に好適な量で用いることができ、傷害の程度に依存する。
【0116】
成分は、欠陥の基部に注入することができ、針又はカニューレは抵抗に遭ったとき線維輪から引き抜くことができる。過剰な溶液は注入部位からあふれる場合があり、これが固体ゲル、及び注入後の開口部又は切り込みのふたを形成する。
【0117】
本発明の1つの実施形態では、VIPCCは約1/7のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含む。用語「ウイルス不活化血漿寒冷沈降物」は、例えば欧州特許第534,178B号及び国際公開第9305822A号に記載のように、1/12より高いフィブロネクチン/フィブリノゲン比を有する全血の寒冷沈降物に関し、
− 冷凍ペーストを解凍する、
− pH7.0〜7.2で緩衝剤中に溶解させる、
− 30〜35℃に予熱する、
− pHを7.0〜7.2に調節する、
− 攪拌下で水酸化アルミニウムを添加する、
− 遠心分離し沈殿物を廃棄する、
− CaClを添加する、
− ウイルス不活化する、
− 限外濾過により60〜100mg/mLのタンパク質濃度に濃縮する、ことにより得ることができる。
【0118】
現在、椎間板及び中枢神経系の再生に用いるためのフィブリングルー又はフィブリン製剤が開示されているが、我々は、本発明により、マルティーノビッツ(Martinowitz)及びバル(Bal)法に従って調製したもののような、元の寒冷沈降物の比に近い、高いフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含み、トラネキサム酸及び/又はウシアプロチニンを含まない寒冷沈降物が、低いフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含み、トラネキサム酸及び/又はウシアプロチニンを含む組成物より、髄核組織における細胞の接着、増殖、成長、分化及び/又は維持を促進するのに、より好適であることを見出した。開示した分野は、異常な髄核で用いるための、好ましいフィブリノゲン及びフィブロネクチン比を有し、トラネキサム酸及びウシ由来アプロチニンを欠く、寒冷沈降物製剤の使用を開示も示唆もしない。
【0119】
ティッセル(TISSEEL)(登録商標)、ティッシュコール(Tissucol)(登録商標)のような他の市販製剤は、元の寒冷沈降物より低いフィブロネクチン/フィブリノゲン比を有し、トラネキサム酸及び/又はウシアプロチニンを含むため、1/12より高い、約1/11〜約1/5、約1/10〜約1/5、約1/10〜約1/7、及び約1/7の比を含む本発明の寒冷沈降物、例えば欧州特許第534,178B号に記載のように調製したBAC(オムリックス(Omrix)、イリノイ州)(プラスミン及びプラスミノーゲンが欧州特許第1,390,48B号及び国際公開第02095019A号に記載のように除去されている)は、シュワルツ(Schwartz)らの方法論に基づいた、例えば、元の寒冷沈降物に存在するフィブロネクチン/フィブリノゲン比を保持しない、又は1/12以下の比を有し(バー(Bar)ら、2005年)、かつトラネキサム酸及び/又はウシアプロチニンを含む寒冷沈降物等の任意の他の市販の寒冷沈降物より、椎間板及び中枢神経系の治療により好適である。
【0120】
本発明による寒冷沈降物は、特定の物質及び脊索由来細胞の付着、遊走及び増殖、椎間板変性及び中枢神経系疾患、障害又は症状のような脊椎疾患、障害又は症状の治療を促進できる現象を刺激する特定のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含む。
【0121】
本発明による寒冷沈降物は、安定化剤、例えば、アルギニン若しくはリジン、若しくはアルギニンとリジンとの混合物、又は製薬上許容できる塩類を含んでもよい。寒冷沈降物の溶液は、フィブリノゲン、第VIII因子、第XIII因子、フィブロネクチン、フォン・ビルブラント因子(vWF)、ビトロネクチン等のようなタンパク質の混合物を含む。寒冷沈降物の溶液は、ウシアプロチニン及び/又はトラネキサム酸以外のプロテアーゼ阻害剤を含んでもよい。このような寒冷沈降物は、国際公開第9833533A号及び米国特許第6,121,232B号に記載されており、プラスミン及びプラスミノーゲンは欧州特許第1,390,485B号及び国際公開第02095019A号に記載のように除去されている。ウイルス不活化手順は、ナノ濾過、溶媒/洗剤処理、熱処理(例えば低温殺菌、ガンマ線又はUVC(<280nm)照射等であるがこれらに限定されない)、又は当該技術分野において既知である任意の他の方法により実行できる。用語「感染性粒子」は、微生物又はプリオンのような微細粒子を指し、これらは生物有機体の細胞に感染する又は伝搬し得る。感染性粒子はウイルス粒子であってもよい。
【0122】
ウイルス不活化手順は、精製手順前及び/又は精製手順中、組成物に分子を添加することにより実行できる。添加した分子及びその生成物は、重力、カラムクロマトグラフィー、又は当該技術分野において既知である任意の他の方法により除去できる。
【0123】
感染性粒子の除去は、ナノ濾過により、又はアフィニティ、イオン交換、若しくは疎水性クロマトグラフィーのような選択的吸収法により実行できる。ウイルス不活化手順は、国際公開第9114439A号に記載の手順のように使用することができる。基本原理は、特殊な洗剤で寒冷沈降物を処理し、後に寒冷沈降物から洗剤を除去することである。多段階ウイルス不活化手順を実行してもよい。例えば、組成物は、溶媒/洗剤処理、熱処理、選択的クロマトグラフィー、及びナノ濾過に供してもよい。本発明の1つの実施形態では、寒冷沈降物は二重にウイルス不活化される。本発明によれば、寒冷沈降物は濃縮された寒冷沈降物である。寒冷沈降物は、約2の係数〜約5の係数の範囲で濃縮される。本発明の1つの実施形態では、濃縮係数は約3である。本発明の実施形態では、寒冷沈降物は限外濾過により60〜100mg/mLのタンパク質濃度に濃縮される。VIPCC中のフィブリノゲンの濃度は、非常に高くてもよく、約15〜約150mg/mL、40〜約100mg/mL、又は約40〜約60mg/mLの範囲であってもよい。
【0124】
実施例に示すように、フィブリノゲン水準が高いと、髄核の付着、成長、及び増殖に干渉する。しかしながら、VIPCC中のフィブロネクチン/フィブリノゲンの比が高いことは、VIPCC中に高い水準で存在するフィブリノゲンの望ましくない効果を軽減すると思われる。
【0125】
本発明の1つの実施形態では、血漿寒冷沈降物は活性化されている。本発明の別の更なる実施形態では、寒冷沈降物は活性化されていない。活性化手順は、前記寒冷沈降物を、フィブリノゲンと反応してフィブリンを形成できる等体積の酵素と混合することにより達成できる。本発明の1つの実施形態では、酵素はトロンビン及び/又は蛇毒から得ることができる溶液である。トロンビンは、典型的には、ヒトから単離される。フィブリンを形成できる酵素は組み換え法により調製することも可能である。本発明による寒冷沈降物及び/又は活性化化合物は、溶液として、又は、固体状で、例えば凍結乾燥された粉末として供給できる。溶液は凍結状態であってもよい。
【0126】
髄核の生体力学及び生理学的特性を有する本発明の活性化VIPCCは、髄核の損傷した天然組織を置き換えるために有利に用いることができる。
【0127】
寒冷沈降物は造影剤を含むことができる。「造影剤」は、脊椎の生体構造を可視化することを可能にするトレーサーを指す。本発明の方法で用いてもよい技術としては、スキャニング、磁気共鳴映像法、断層撮影法、ナノテクノロジー、デジタルビデオ、X線又は当該技術分野において既知である任意の他の技術が挙げられる。
【0128】
造影剤の非限定的な例は、有機染料、食品用染料及び/又は蛍光染料である。造影剤は、ヨウ素のような種々の非毒性剤から選択してもよい。造影剤のスペクトルが人間の目には見えない場合、造影剤は適切な機器により検出してもよい。
【0129】
本発明は、脊索由来細胞の成長に好適な2次元マトリクスの形成を開示する。また、インビボにおける組織工学のための生体適合性移植片を含むインビボ及び/又はインビトロ用途のための、並びにインビトロでの細胞培養のための3次元スカフォールドを提供する。用語「組織工学」は、典型的には、組織の機能又は全臓器を回復、置換、維持、及び/又は強化するための、好適な生化学及び生理化学的因子の組み合わせの使用を指す。用語組織工学は、時に、用語再生医療の同義語である。
【0130】
用語「スカフォールド」は、一般に、構造的一体性を提供し、3次元組織形成を支持して、それにより組織の再構築を可能にすることができる3次元マトリクスを指す。
【0131】
本発明のスカフォールドは、以下の特性:非毒性、生体適合性、生分解性を有し、脊索由来細胞の付着及び遊走を可能にし、重要細胞(vital cell)の拡散を可能にする。
【0132】
本発明のスカフォールドはまた、髄核細胞のような脊索由来細胞を含む細胞の組成物を送達及び保持するために用いることもできる。
【0133】
本発明の1つの実施形態では、インビボで3次元スカフォールドを形成できる前記活性化寒冷沈降物を、傷害された脊椎、例えば、必要としている被験体の変性板又は傷害されたCNSの髄核細胞に注入することにより、投与することができる。インビボで活性化された寒冷沈降物は、インサイチュで欠陥のある若しくは傷害された部位に機械的支持、高さの回復、及び/又は細胞固定源を提供するために、及び/又はそこに傷害された部位から細胞が遊走、侵入、成長、増殖、及び/又は分化するマトリクスを提供するために利用できる。
【0134】
インビボで形成するスカフォールドは、カニューレ又は針を通して液体として傷害された脊椎に送達され得る、及び体内で硬化し得る注入可能な材料であってもよい。本発明の1つの実施形態では、インビボで形成するスカフォールドは、空洞の形状に適合でき、板空間を完全に満たし、それにより脊椎分節をより安定にすることができる。
【0135】
寒冷沈降物は、活性化化合物と同時に注入され、インビボで硬化することができる。本発明の1つの実施形態では、活性化成分及びVIPCCは、傷害された脊髄に沿って投与され、活性化VIPCCは、例えば椎間板の圧迫により生じた、傷害された及び/又は破裂した脊髄を再構築するためのスカフォールドとして機能する。
【0136】
VIPCC組成物は、異なる発達段階の疾患、障害、又は症状において、変性椎間板を再構築するために用いることができる。本発明の1つの実施形態では、本発明による方法は椎間板ヘルニアを予防するために用いられる。本発明の別の実施形態では、本発明による方法は、ヘルニアになる前に椎間板疾患の早期に被験体に投与するためのものである。本発明の更なる実施形態では、活性化された寒冷沈降物は、例えば椎間板の圧迫又はヘルニアにより生じる椎間板疾患及び/又は脊髄傷害の進行期で、被験体において髄核を再構築するためのスカフォールドとして機能する。
【0137】
VIPCCを用いて、高さを回復する、及び/又は椎間板起因の痛みを低減する若しくは緩和することができる。骨粗鬆症に罹患している患者のような、変性板疾患を有する危険性の高い個体を、板の高さの変化について監視してもよく、疾患が検出されたとき、本発明のVIPCCを投与して、板の高さを回復又は増加させることができる。
【0138】
あるいは、本発明による方法は、前記寒冷沈降物を投与する前に、髄核の全て又は一部を切除する工程を含む。除去手順は、細胞外マトリクスを崩壊させることにより酵素的に、機械的に、ニュークレオトーム(Nucleotome)プローブを用いることにより、及び/又は当該技術分野において既知である任意の他の方法により、実行できる。
【0139】
例えば、手術は、患者が熟睡している間、又はそれぞれ例えば全身若しくは局所麻酔により無痛である間に実行できる。切開は、正中の変性部位上、典型的には腰部上で実行できる。脊髄(薄層)に沿って曲がり、それを覆う骨を除去してもよく(椎弓切除)、神経又は脊髄に圧力を加えている組織を取り除いてもよい。神経が貫通する穴を拡大して、更に神経に圧力がかかるのを防ぐことができる。時に、骨の小片(骨移植片)、椎体間ケージ(interbody cage)、又は茎スクリュー(pedicle screw)を用いて、手術部位を増強することもできる。本発明の寒冷沈降物は、穴を通して導入することができ、及び/又は、それを用いて手術部位を増強するために用いられる手段をコーティングすることができる。
【0140】
本発明の1つの実施形態では、患者は局所麻酔を受け、手順は最小侵襲手順(MIS)である。
【0141】
機械的分離技術の非限定的な例としては、刻み、細切、薄切り、粉砕、微粉砕、剪断、細砕、刈り込み、剥離、皮剥ぎが挙げられる。板細胞の単離は、濾過、遠心分離、分離カラム、アフィニティーカラムのような他の既知の分離技術を用いて、又は当該技術分野において既知である任意の他の技術により更に促進することができる。
【0142】
軟骨組織を分解することができるタンパク質分解酵素としては、セリンプロテアーゼ、例えば、トリプシン、キモトリプシン、膵エラスターゼ、システインプロテアーゼ、例えばパパインキモパパイン、アスパラギン酸ペプチダーゼ、例えばペプシン、メタロペプチダーゼ、例えばコラゲナーゼ、ゼラチナーゼ、プロナーゼ、コンドロイチナーゼ、ヒアルロニダーゼ、及び/又は同じ若しくは同様の様式で板物質を分解する他の化学物質、並びにこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0143】
哺乳類の板組織の分解に必要な酵素の薬理学的に好適な溶液の量は変動することを理解されたい。
【0144】
用語「薬理学的に好適な溶液」とは、溶液に有効な量のタンパク質分解酵素を溶解させることを指す。溶液のpHは、タンパク質分解酵素を最大に活性化させるために、生理学的に適合性のある約7.40のpHに調節することができる。よりよい結果を得るために、溶液はタンパク質分解酵素を活性化するために必要な全ての成分を含んでもよい。
【0145】
軟骨組織を分解することができるタンパク質分解酵素は、溶液として、及び/又は凍結乾燥した粉末のような固体状で供給することができる。溶液及び/又は粉末は、使用直前まで凍結乾燥された状態で無菌であり、発熱物質を含まない。凍結乾燥した粉末を収容するバイアルは、典型的には、室温に加温され、無菌水性溶液で再構成される。
【0146】
本明細で使用するとき、用語「発熱物質」は、ウイルス、プリオン、内毒素、及び/又は外毒素のような感染性粒子を指し、これらは生物有機体の細胞に感染する又はその細胞中で増殖することができる。
【0147】
患者は、横方向に位置づけ、前方に曲げてもよく、針又はカニューレは、例えば、スキャニング、磁気共鳴映像法、断層撮影法、ナノテクノロジー、デジタルビデオ、及び/若しくはX線の案内の下、又は当該技術分野において既知である任意の他の技術により、髄核中に選択的に位置づけることができる。
【0148】
案内剤(guiding agent)の非限定的な例は、非毒性有機染料、食品用染料及び/又は蛍光染料である。案内剤のスペクトルが人間の目には見えない場合、案内剤は適切な機器により検出してもよい。
【0149】
いったん位置を確認すると、髄核組織の全て又は一部を分解するために、傷害された領域に注入すること等により、タンパク質分解酵素溶液を適用してもよい。消化された組織を吸引し、管内に入れることができる。DMEM/ハムF12培地のような成長培地を懸濁液に添加してもよい。
【0150】
本発明の別の実施形態では、髄核組織はニュークレオトーム(Nucleotome)プローブを用いて切除される。患者を横方向に位置づけ、前方に曲げてもよく、ニュークレオトームプローブを含むカニューレを上述のように案内の下に挿入することができる。ニュークレオトームプローブは、腰板から髄核組織を切り取り、吸引することができる、丸みを帯びた先端を有する。回収された髄核組織を、上述のように軟骨組織を分解することができるタンパク質分解酵素溶液とともに、37℃で部分的に又は完全に消化することができる。
【0151】
インビボで硬化することができる本発明の活性化VIPCCは、収集された髄核細胞に投与し、それにより注入された細胞が3次元モードで成長できる有効な作成物を提供することができる。
【0152】
髄核細胞をタンパク質分解酵素で処理する場合、投与手順前に、有効な量の不活性化剤を添加する、及び/又は遠心分離し、上清相を廃棄することにより、又は当該技術分野において既知である任意の他の方法により、タンパク質分解酵素を除去することにより、解離した髄核細胞及び/又は組織からタンパク質分解酵素溶液を流すことができる。
【0153】
収集した、解離した、髄核細胞を液体窒素で凍結させて、次いで使用まで−80℃で保管することができる。
【0154】
あるいは、本発明による方法は、他の可能性を排除するものではないが、自己、同種、異種、及び/又は組み換えDNAを持つ細胞を含むことができる。
【0155】
用語「自己」細胞は、それが再移植されるのと同じ個体に元々由来する細胞を指す。
【0156】
用語「同種」細胞は、同じ種のドナーの体から得られる細胞を指す。
【0157】
「異種」細胞は、別の種の個体から単離された細胞である。
【0158】
注入された細胞は、脊索由来細胞から選択される細胞を含む細胞の組成物を含んでもよい。
【0159】
したがって、本発明の寒冷沈降物は、随意に髄核細胞のような脊索由来細胞とともに、板に投与してもよい。
【0160】
細胞の集団は、更に、線維輪細胞(例えば、死体の)を更に含んでもよい。
【0161】
本発明の1つの実施形態では、注入された細胞は髄核細胞である。本発明の更なる実施形態では、細胞は自己源由来である。本発明の別の更なる実施形態では、自己髄核の除去、及び細胞送達、又は再移植工程は、同じ手術手順で実施される。
【0162】
傷害された脊椎に送達されるべき細胞は、寒冷沈降物成分中の活性化成分、例えばトロンビンに含まれてもよく、及び/又は別の成分中に存在してもよい。
【0163】
本発明の1つの実施形態によると、傷害された脊椎に投与されるべき細胞は、投与手順前に、1/12より高いフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含む寒冷沈降物上で、エクスビボで培養することができる。本発明の別の実施形態では、比は約1/11〜約1/5である。本発明の別の更なる実施形態では、寒冷沈降物は約1/10〜約1/5のフィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を含む。本発明の別の実施形態では更に、寒冷沈降物は、約1/10〜約1/7のフィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を含む。本発明の別の更なる実施形態では、フィブロネクチン/フィブリノゲン比は約1/7である。
【0164】
エクスビボで培養した細胞は、活性化されている及び/又は活性化されていない寒冷沈降物上で成長することができる。活性化手順は、前記寒冷沈降物を、フィブリノゲンと反応してフィブリンを形成できる酵素と混合することにより達成できる。本発明の1つの実施形態では、酵素はトロンビンであり、寒冷沈降物と等しい量添加される。本発明の別の実施形態では、酵素は蛇毒から得ることができる溶液である。トロンビンは、ヒト若しくは哺乳類の血漿から単離することができる、及び/又は組み換え法により調製することができる。本発明の寒冷沈降物及び/又はフィブリンを形成できる酵素は、溶液として、又は例えば凍結乾燥した粉末のような固体状で供給できる。溶液は凍結状態であってもよい。
【0165】
本明細で使用するとき、「エクスビボ」細胞培養は、体の外側での細胞培養を指す。エクスビボ細胞培養は、インビトロ、例えば懸濁液中、又は単一若しくは複数ウェルプレート中における細胞培養を含む。エクスビボ培養はまた、異なる細胞種とともに細胞を共培養すること、及び2若しくは3次元マトリクス内又は2若しくは3次元マトリクス上で培養することも含む。
【0166】
別の態様では、本発明は、変性椎間板のような、脊椎疾患、障害又は症状を治療するためのキットの使用に関する。キットは、本発明によるVIPCCを含む第1容器と、フィブリノゲンと反応したときフィブリンを形成できる酵素を含む第2容器と、を含む。本発明によると、トラネキサム酸及びウシアプロチニンはキットに含まれない。
【0167】
本発明の1つの実施形態では、プラスミノーゲン及びプラスミンが例えば5μg/mLのように15μg/mL以下に低下しているVIPCCを用いる。
【0168】
本発明の別の実施形態では、キットは、脊椎及び脊髄傷害の救急治療、又は他の傷害された軸索の緩和において、治療溶液を傷害された中枢神経系へ投与することを目的とする。
【0169】
キットはまた、例えば投与部位を突き止め、画像を明瞭にするために、造影剤を含んでもよい。造影剤は、寒冷沈降物成分を含む容器内、酵素成分を含む容器内、及び/又は別の容器に含むことができる。本発明の1つの実施形態では、造影剤は寒冷沈降物に配合される。本発明の別の実施形態では、造影剤はフィブリンを形成できる酵素と配合される。造影剤の例としては、有機染料、食品用染料及び/又は蛍光染料が挙げられるが、これらに限定されない。造影剤は、ヨウ素のような種々の非毒性剤から選択してもよい。造影剤を検出するために用いてもよい技術としては、スキャニング、磁気共鳴映像法、断層撮影法、ナノテクノロジー、デジタルビデオ、X線又は当該技術分野において既知である任意の他の技術が挙げられる。可視化剤のスペクトルが人間の目には見えない場合、可視化剤は適切な機器により検出してもよい。
【0170】
別の態様では、本発明は、キットであって、本発明によるVIPCCを含む第1容器と、フィブリノゲンと反応するときにフィブリンを形成できる酵素を含む第2容器と、セリンペプチダーゼ、システインペプチダーゼ、アスパラギン酸ペプチダーゼ、メタロペプチダーゼ、ヒアルロニダーゼ、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、軟骨細胞を分解できるタンパク質分解酵素のような、細胞外マトリクスを分解できるタンパク質分解酵素を含む第3容器と、を含む、キットに関する。
【0171】
本発明の1つの実施形態では、タンパク質分解酵素としては、トリプシン、キモトリプシン、膵エラスターゼ、パパインキモパパイン、ペプシン、コラゲナーゼ、ゼラチナーゼ、プロナーゼ、コンドロイチナーゼ、ヒアルロニダーゼ、及び/又は同じ若しくは同様の様式で板物質を分解する他の化学物質、並びにこれらの組み合わせから成る群から選択される。キットはまた、上記のように、例えばヨウ素等の造影剤を含んでもよい。
【0172】
寒冷沈降物及び/又はフィブリンを形成できる酵素及び/又はタンパク質分解酵素及び/又は造影剤は、溶液として、及び/又は固体状で、例えば凍結乾燥した粉末として、脊髄椎間及び中枢神経系再構築キットに提供することができる。溶液は凍結状態であってもよい。キットは使用説明書を含んでもよい。キットはまた、例えば湾曲した脊髄用針等を含む脊髄用針等の針を含んでもよい。脊髄用カニューレを代わりに用いてもよい。単、二、若しくは複胴注射器、又は他のフィブリンシーラント送達装置をキットに含んでもよい。
【0173】
本発明の主題は、脊髄椎間板及び中枢神経系の再生のような、脊椎疾患、障害、又は症状の治療に好適なスカフォールドの使用に関する。スカフォールドは、本発明による寒冷沈降物及び活性化化合物を用いて調製される。本発明によると、VIPCC組成物はトラネキサム酸及び/又はウシアプロチニンを含有しない。
【0174】
脊椎再構築キット又は製剤の成分は、任意の順序で適用できる注射器のような、別々のレシピエント内にあってもよく、例えば、成分は同時に又は次々に適用されて、成分が混合されたときスカフォールドが形成される。
【0175】
本発明の1つの実施形態では、別々のレシピエントは、前記寒冷沈降物、フィブリンを形成できる酵素、及び脊索由来細胞を適用するよう構成されていてもよい。本発明の別の実施形態では、脊索由来細胞は、成分を混合する前に、前記寒冷沈降物及び/又はフィブリンを形成できる酵素と組み合わせてもよい。
【0176】
本発明によると、キットの成分は溶液として及び/又は固体状で提供されてもよい。溶液は凍結状態であってもよい。
【0177】
本発明の別の目的は、上述のようにスカフォールド内で成長した脊索由来細胞の組織又は細胞銀行を設立することである。
【0178】
本発明の1つの実施形態では、組織又は細胞銀行は、椎間板の再建及び/又は再生、並びに中枢神経系の再構築に用いることができる。本発明の1つの実施形態では、脊索由来細胞は髄核細胞である。
【0179】
本発明によると、組織又は細胞銀行は、自己、同種、異種、及び/又は組み換えDNAを含む細胞を含み得る。
【0180】
本明細で使用するとき、「組織又は細胞銀行」は、損傷した脊椎、例えば椎間板組織、並びに軸索及び運動ニューロンのような中枢神経系組織を修復、再生、及び/又は置換するのに好適な脊索由来細胞の設立を可能にする方法により創り出された組織又は細胞銀行を指す。前記組織又は細胞銀行の細胞は、その特性、例えば特殊な機能を実行するのに必要な生化学的、形態的、及び/又は物理的特性を維持することができる。有利なことに、細胞は、2次元モード又は3次元作成物上で髄核細胞を増殖させる及び/又は髄核細胞に分化する能力を有する。
【0181】
本発明の別の態様は、ビヒクルであって、本発明による寒冷沈降物が、その上で脊索由来細胞が付着、遊走、成長、分割、機能、形態維持、及び/又は分化できる好適なスカフォールドを提供するため、損傷した椎間板のような損傷した脊椎、及び中枢神経系組織に、脊索由来細胞を含む細胞の組成物を送達するために有利に用いることができるビヒクルに関する。ビヒクル又は作成物は、本発明による寒冷沈降物及び脊索由来細胞を含む。トラネキサム酸及びウシアプロチニンは、寒冷沈降物組成物から除かれる。本発明の1つの実施形態では、脊索由来細胞は髄核細胞である。細胞送達ビヒクルは、線維輪細胞を更に含んでもよい。
【0182】
用語「ビヒクル」は、インビボで特異的な組織に細胞を送達する手段を指す。生存細胞は、本発明による細胞送達ビヒクルに組み込まれ、損傷した椎間板のような脊椎、又は中枢神経系に投与され、損傷した部位の再構成、再建、又は回復を可能にする。細胞送達装置は、液体状態又は硬化した作成物であってもよい。
【0183】
送達される細胞は、自己、同種、異種、及び/又は組み換えDNAを含む細胞であり得る。単層で培養された板細胞は、脱分化し、その典型的な細胞表現型を失う(loose)傾向がある(ベンヤ(Benya)及びシェーファー(Shaffer)、「脱分化した軟骨細胞は、アガロースゲル中で培養したとき、分化したコラーゲンの表現型を再発現する(Dedifferentiated chondrocytes reexpress the differentiated collagen phenotype when cultured in agarose gels)、Cell.、1982年;30巻:215〜224ページ)。本発明によると、線維輪細胞及び脊索由来細胞、例えば本発明の寒冷沈降物中で培養された髄核は、その表現型を維持し、椎間軟骨及び中枢神経系の再構築手術のためのインビトロ及びインビボ容積増大(expansion)で用いることができるマトリクスを提供することが見出されている。本発明により、VIPCCは、VIPCCでコーティングされた培養皿に播種された線維輪及び髄核細胞の細胞付着及び増殖を刺激する軟骨伝導成分を有することが見出された。本発明による所見は、継代培養又はトリプシン処理中、形態的変化又は損傷が検出されなかったことを示す。更に、細胞が培養皿全体に遊走したにもかかわらず、VIPCC及びフィブロネクチンへの差次的付着が観察された。結果は、細胞付着促進剤として認識されているフィブロネクチンが、VIPCCの基本的な成分であり、髄核軟骨細胞の付着及び増殖を促進するためには、フィブリノゲンに対する特定の比が必要であることを示す。
【0184】
したがって、脊索由来細胞の集団を、本発明によるVIPCCと接触させることを含む、脊索由来細胞の成長、増殖、分化、及び/又は維持を促進する方法を提供することも、本発明の主題である。本発明の別の実施形態では更に、脊索由来細胞は髄核細胞である。髄核の寒冷沈降物との接触は、エクスビボ及び/又はインビボで実施してもよい。
【0185】
VIPCCは、活性化されていてもよく、活性化されていなくてもよい。接触する細胞は、自己、同種、異種、及び/又は組み換えDNAを含む細胞であり得る。
【0186】
本発明の寒冷沈降物は、伝導及び誘導能を有してもよい。
【0187】
本発明の前記寒冷沈降物の伝導及び誘導能は、寒冷沈降物の使用後に決定することができ、結果として、培養された線維輪及び脊索由来細胞、例えば髄核細胞の接着、遊走、増殖、及び/又は分化の高まりを評価できる。これらの特性の評価は、当該技術分野において既知である任意の技術、例えば、血球計を用いることにより、又はヘマトキシリン及びエオシン染色により増殖について、コンドロイチン硫酸の発現を測定することにより分化について、以下に例証するような遊走試験を用いることにより遊走について実行される。
【0188】
本明細で使用するとき、用語「伝導性」は、「軟骨伝導性」又は「神経伝導性」等を含む、その上で特定の細胞が付着、成長、遊走、増殖、及び/又は分化できるスカフォールドとして機能するための、活性化された寒冷沈降物の能力を指す。
【0189】
本明細で使用するとき、用語「誘導性」は、「軟骨伝導性」又は「神経伝導性」等を含む、特定の細胞を刺激して、付着、成長、遊走、増殖、及び/又は分化させる、寒冷沈降物の能力を指す。
【0190】
「伝導性」に用いる別の用語は「走化性」である。用語「走化性」は、化学刺激に対する細胞の特徴的運動又は配向をもたらす生理学的反応を指す。
【0191】
円板内又は鞘内注入により、髄核集団の典型的な構造変化、例えば壊死性損傷、濃縮核及び核溶解等をもたらす場合がある。本発明により、この問題は、傷害された脊椎、例えば変性板及び傷害された中枢神経系に投与されるべき製剤中に本発明による寒冷沈降物を含むことにより、解決又は軽減することができることが見出された。
【0192】
本発明によるキット、製剤、スカフォールド、組織若しくは細胞銀行、及び/又はビヒクルは、分化への関連づけ(commitment)を維持しながら細胞の容積増大を支持する生化学的因子、治療剤(抗生物質、抗炎症剤のような)、鎮痛剤、抗腫瘍薬、成長因子、タンパク質、ホルモン、軟骨誘導因子、アグリカンのようなプロテオグリカン、I型及びII型コラーゲン、酸素含有成分、酵素等であるが、これらに限定されない、1種以上の添加剤を含んでもよい。
【0193】
これらの成分のうちの1種以上は、寒冷沈降物成分、活性化成分、例えばトロンビンに含まれてもよく、及び/又は別の成分に存在してもよい。
【0194】
中枢神経系の再構成を必要としている被験体に投与されるべき、キット、製剤、スカフォールド、組織若しくは細胞銀行、及び/又はビヒクルは、例えばセスリン(Cethrin)(登録商標)、Y−27632、C3等のようなRhoキナーゼ阻害剤を含んでもよい。
【0195】
本発明の更に別の目的は、本発明によるキット、VIPCC、組織若しくは細胞銀行に由来する細胞、及び/又はビヒクルを必要としている被験体に投与することを含む、椎間板及び中枢神経系のような脊椎疾患、障害又は症状を治療する方法を提供することにより達成される。
【0196】
本発明の別の態様は、脊椎疾患、障害又は症状を治療するための、本発明によるウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物の使用に関する。本発明によると、ウシアプロチニンは、寒冷沈降物組成物に含まれない。本発明の1つの実施形態では、前記寒冷沈降物は、約1/10〜約1/5、又は約1/10〜約1/7の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を含む。
【0197】
寒冷沈降物は、椎間板疾患、障害又は症状、又は傷害されたCNSを治療するために用いることができる。
【0198】
活性化VIPCCは、PBSを注入された板に比べて、実質的にIVD高さを回復することが、本発明により見出された。したがって、本発明の活性化VIPCCは、有利なことに、実質的に正常の板構造、高さを回復し、荷重下で板空間を保持させるよう機能できる、好適な機械的特性を有するマトリクス又は装置として機能することができる。
【0199】
それ故、別の態様では、本発明は、椎間板の高さを増大させる又は回復するための、本発明によるVIPCCの使用に関する。例えば、本発明による活性化VIPCCは、黒板に注入されて、板の高さを回復することができる。板変性の早期では、髄核細胞が板の中に依然として存在するとき、本発明のVIPCCは有利なことに板の高さを増大させ、残りの髄核細胞用のスカフォールドとして機能する。この場合、トラネキサム酸及びウシアプロチニンは寒冷沈降物濃縮物に含まれない。
【0200】
本発明の1つの実施形態では、前記寒冷沈降物は、約1/7の比のような、約1/10〜約1/5、又は約1/10〜約1/7の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を含む。
【0201】
傷害された脊椎を予防及び/又は治療するための本発明によるキット、製剤、組織若しくは細胞銀行、及び/又はビヒクルは、自己、同種、異種線維輪細胞及び/又は組み換えDNAを含む線維輪細胞を随意に含み得る。
【0202】
本発明の明細書中の範囲の開示は、当業者が容易に理解できる。それは、桁及び値を限定することを含む、範囲の限界間の連続値及び桁の開示を意味する。例えば、1/11〜1/5という範囲が与えられる場合、それは、1/11及び1/10、1/11〜1/9、1/11〜1/8、1/11〜1/7、1/11〜1/6、1/11〜1/5又は1/10〜1/9、1/10〜1/8、1/10〜1/7、1/10〜1/6、1/10〜1/5等のような、中間部分範囲の全ての組み合わせとともに、少なくとも1/11、1/10、1/9、1/8、1/7、1/6及び/又は1/5を意味する。
【0203】
以上又は以下に引用する出願、特許、及び刊行物の開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0204】
以下の例は例示であり、限定するものではない。
【実施例】
【0205】
実施例1:
線維輪及び髄核軟骨細胞の調製
この細胞は、軟骨細胞の細胞培養物の調製を例証する。ブタの腰椎(L1〜L6)を屠殺の12時間後に単離し(4℃に移した)、10分間中隔をひっかくことにより(septal scrab)殺菌し、5分間70%エタノールに浸漬させた。筋肉及び他の結合組織を除去し、単離された椎間板(IVD)が得られるように各椎体の真ん中を切り裂いた。単離したIVDを、次いで、数秒間200μg/mLのアジ化ナトリウムとともにPBSを収容しているメスシリンダーに漬けた。続いて、10U/mLのペニシリン(penecillin)、0.1mg/mLのストレプトマイシン、2.5μg/mLのアンフォテリシン(amphotericin)、50μg/μLのゲンタマイシン、10μg/mLのバンコマイシン、65.6μg/mLのセファロスポリン、及び10%のウシ胎児血清(FBS)を含む無菌PBSに漬けた。標本を、次いで、無菌層流に移し、残りの手順を無菌条件下で行った。
【0206】
各IVDを、外科用メスを用いて半分に切断し、髄核組織を注意深く分離し、97mmの細胞培養皿に置いた。髄核組織を、上述の抗生物質及びFBSを補完したPBSで3回すすいで、残りの残屑を除去した。次いで、髄核組織を、コラゲナーゼ溶液(シグマ(Sigma)カタログ番号C−6885;10U/mLのペニシリン、0.1mg/mLのストレプトマイシン、0.25μg/mLのアンフォテリシン、100μg/μLのゲンタマイシン、10μg/mLのバンコマイシン及び6.56μg/mLのセファロスポリンを補完したDMEM/ハムF12培地(バイオロジカル・インダストリーズ(Biological industries)の1:1混合物中3mg/mL)により、5%COの加湿雰囲気にて、37℃で3時間穏やかに消化した(3時間)。
【0207】
消化手順前に、コラゲナーゼ溶液を0.45μmのフィルタ(ミリポア(Millipore)SLHV033RS)を通して移した。
【0208】
消化した組織を無菌ガーゼで濾過し、800gで5分間遠心分離した。遠心分離後、上清相を廃棄し、細胞を、10U/mLのペニシリン、0.1mg/mLのストレプトマイシン、0.25μg/mLのアンフォテリシン、100μg/μLのゲンタマイシン、10μg/mLのバンコマイシン及び6.56μg/mLのセファロスポリンを補完した2mLのDMEM/ハムF12培地に再懸濁した。
【0209】
線維輪組織を開いたIVDから除去し、97mmの細胞培養皿に置き、10U/mLのペニシリン、0.1mg/mLのストレプトマイシン、0.25μg/mLのアンフォテリシン、50μg/μLのゲンタマイシン、10μg/mLのバンコマイシン、65.6μg/mLのセファロスポリン及び10%のFBSを含むPBSで2回すすいだ。線維輪組織をメスで小片(3〜5mm)に刻んだ。刻んだ組織を、5%COの加湿雰囲気にて、37℃で一晩インキュベートした。インキュベート後、組織を、5時間37℃にて5%CO下で、コラゲナーゼ溶液(上述のように調製した)で消化した。消化が完了した後、細胞懸濁液を、無菌ガーゼを通して移した。その後、懸濁液を800gで5分間遠心分離し、線維輪軟骨細胞を含むペレットを2mLの新鮮なDMEM/ハムF12培地(上述のように補完した)に再懸濁した。
【0210】
実施例2:
トロンビン、ウイルス不活化血漿寒冷沈降物(VIPCC)及びその成分の、線維輪細胞付着及び増殖に対する効果
以下の例は、トロンビン、VIPCC、及びその成分の、線維輪細胞付着、増殖及び走化性に対する効果を調査するために実行した。この目的のために、80μLの以下の溶液:VIPCC(BAC(イリノイ州オムリックス(Omrix);欧州特許第534,178B号に記載のように調製し、プラスミン(プラスミノーゲン)を欧州特許第1,390,485B号に記載のように除去した);精製したヒトフィブリノゲン(エンザイム・リサーチ(Enzyme research);カタログ番号FIB1 2800L);トロンビン(イリノイ州オムリックス;米国特許第5,143,838B号及び欧州特許第378,798B号に記載のように調製した);及びヒト血清アルブミン(シグマ(Sigma);カタログ番号A7030)で97mmのプラスチック培養皿の周辺をコーティングした。図1を参照のこと。各溶液は合計5〜20μg/mLのタンパク質を含んでいた。生理食塩水で希釈した。精製したフィブロネクチンコーティング及びVIPCCコーティング中のフィブリノゲン含量は、約8μgであった。溶液を放置して、無菌条件下の層流中で乾燥させた。その後、成長培地(上述の抗生物質及び10%FBSを補完したDMEM/ハムF12培地)に懸濁した150μLの線維輪細胞(5×10)を皿の中央に置き(図1の源)、皿にふたをし、5%COの加湿雰囲気にて37℃で一晩インキュベートした。インキュベート後、培地を廃棄し、10mLの成長培地(抗生物質及び10%FBSを補完したDMEM/ハムF12培地)に置換し、培養皿を更に14日間インキュベートした。
【0211】
上記2次元培養物の組織学的評価は、ヘマトキシリン及びエオシン染色法により実施した。簡潔に言えば、培養した軟骨細胞を95%のエタノールで15分間固定し、HOで洗浄し、ヘマトキシリン溶液Gill NR1(シグマ(Sigma);カタログ番号GHS116)に3分間曝露した。次いで、培養物をHOで洗浄し、エオシンY(シグマ(Sigma);カタログ番号E4382)で30秒間対比染色し、95%のエタノール及びHOですすいだ。その後、細胞をHOで3回すすぎ、巨視的に及び微視的に分析した。図1に見られるように、培養皿の中央に播種された線維輪細胞は全体に均一に遊走したが、コーティングされていないプレート、又はヒトフィブリノゲン、トロンビン、若しくはヒト血清アルブミンでコーティングされたスポットに比べて、VIPCCから構成される、コーティングされたスポット上により良好な付着及び増殖を示した。結果は、VIPCCが、線維輪細胞付着及び増殖を刺激し、変性椎間板の再構築を促進できる軟骨伝導性成分を有することを示す。
【0212】
実施例3:
VIPCC媒介線維輪細胞付着及び増殖に対するトリプシン処理手順及び/又は継代の効果
継代数は、細胞株の「年齢」又は細胞が継代培養された回数を指す。いくつかの細胞株は、継代後形態的変化を呈する場合がある。更に、トリプシン処理のような継代培養に用いられる細胞培養手順は、細胞膜に損傷を与え、付着の乏しさ、凝集、又は「ざらざらした(ragged)」見た目の膜をもたらす。本研究は、VIPCC媒介線維輪細胞付着及び増殖に対するトリプシン処理手順及び/又は継代の効果を決定することを目的とした。この目的のために、線維輪由来の軟骨細胞(実施例1に記載のような)を単離し、0.625×10個の細胞を含む500μLをコーティングしていない24ウェルプレートのウェルに入れた。培養物を37℃にて5%COの加湿雰囲気で11日間インキュベートした。インキュベート後、37℃で5分間、100μLのトリプシン(トリプシン−EDTAバイオロジカル・インダストリーズ(Biological Industries)、03−050−1A)を各ウェルに添加することにより、細胞を酵素的に解離させた。解離した軟骨細胞を3つのウェルから回収して1本のバイアル瓶に入れ、細胞懸濁液を800gで5分間、遠心分離した。上清相を廃棄し、細胞を200μLのDMEM/ハムF12培地(抗生物質及び10%のFBSを補完した)に再懸濁し、以下の溶液:合計6.4μgのタンパク質(4.7μgがフィブリノゲンである)を含むVIPCC、3μgの精製したヒトフィブリノゲン、0.18μgのフィブロネクチン(ミエッカ(Miekka)ら、「ヒト血漿フィブロネクチンを単離する迅速法(Rapid methods for isolation of human plasma fibronectin)」、Thromb Res.、1982年;27巻:1〜14ページに従って生成した)、及びそれぞれ0.3:2.7μgの濃度の精製したフィブロネクチン/ヒトのフィブリノゲン混合物(およそ1/10の比)を80μL滴下して周辺をコーティングした97mmのプラスチック培養皿の中央に置いた。培養物を24時間37℃にて5%COでインキュベートし、成長培地で2回洗浄して、未付着細胞を除去し、10mLのDMEM/ハムF12培地(抗生物質及び10%のFBSを補完した)を添加した。培養物を更に9日間インキュベートした。形態的評価を、細胞をヘマトキシリン及びエオシン溶液で染色し、続いて巨視的及び微視的に観察することにより実施した。
【0213】
結果は、継代培養又はトリプシン処理は、線維輪細胞の形態的変化を全くもたらさないことを示す。更に、細胞は培養皿全体に遊走したが、VIPCC及びフィブロネクチンコーティングに対しては差次的付着が観察されたことが明らかである(図2)。結果は、細胞付着促進剤として認識されているフィブロネクチンが、VIPCCの基本成分であり、軟骨細胞の付着及び増殖を刺激することを示す。
【0214】
実施例4:
線維輪及び髄核細胞の付着及び増殖に対するフィブリノゲン/フィブロネクチン比の効果
上記例は、線維輪軟骨細胞の遊走、増殖、及び付着の刺激における、VIPCC成分中に存在するフィブロネクチンの役割を例証する。本実験は、髄核及び線維輪軟骨細胞の付着及び増殖に対する、様々なフィブロネクチン/フィブリノゲン混合物の比の効果を調査するために設計した。この目的のために、24ウェルプレートのウェルを、200μLの以下の成分:0.626μgの精製したフィブロネクチン、10μgの精製したヒトのフィブリノゲン(fgn)、又は以下の濃度:0.626μg:3.13μg、0.626μg:6.26μg、若しくは0.626μg:12.52μg(それぞれ1/5、1/10及び1/20の比)のフィブロネクチンとフィブリノゲンの混合物のうち1種でコーティングした。したがって、成分中のフィブロネクチンの量は一定に保たれ、一方フィブロネクチンの量は増加した。
【0215】
溶液を放置して、無菌条件下にて層流中でウェルに付着させた。3時間後、過剰な溶液を除去し、プレートを上下逆さまにして更に2時間インキュベートし、乾燥させた。500μLの新たに単離した髄核又は線維輪細胞を、DMEM/ハムF12培地(上述の抗生物質及び10%のFBSを補完した)に懸濁し、上記コーティングしたウェルに、1ウェルあたり6×10個の細胞という濃度で播種した。培養物を5及び12日間、37℃で5%COの加湿雰囲気にてインキュベートした。
【0216】
上記2次元培養物の組織学的評価を、5日後及び12日後インビトロで実施した。培養した軟骨細胞を固定し、上述のようにヘマトキシリン及びエオシンY溶液に曝露した。その後、培養物をクリスタル・バイオレット(100mLの酢酸中に1g)で10分間染色し、HOで洗浄した。
【0217】
細胞付着の水準を定量化するために、100μLの70%エタノールで10分間、細胞から色を抽出した。75μLのアリコートを96ウェルプレートに移し、590nmの波長で分光光度計により吸光度を測定した。フィブロネクチンでコーティングしたウェルで成長した細胞の吸光度を、細胞付着100%とみなした。
【0218】
様々なコーティング上での培養物について、5日後の髄核及び線維輪細胞付着の結果を、それぞれ図3A及びBに示す。驚くべきことに、線維輪細胞の付着と対称的に、髄核細胞の付着は様々なコーティングにより影響を受けたことが見出された。結果は、フィブリノゲン濃度の増加が、用量依存様式で髄核細胞付着を著しく低下させることを示す。一方フィブロネクチン/フィブリノゲン比の上昇は逆の結果を導き(図3A)、例えば、1/5の比のフィブロネクチン/フィブリノゲンの精製混合物は、1/10及び1/20の比の精製混合物に比べて、髄核細胞付着の速度が速かった(図3A)。これらの結果は、約1/5の比のフィブロネクチン/フィブリノゲンは、低いフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含む混合物より、髄核細胞の付着及び増殖に、より好適であることを示す。
【0219】
これらの結果は、髄核細胞付着においてフィブロネクチン/フィブリノゲン比が重要な役割を果たしており、髄核細胞に高い水準の比のフィブロネクチン/フィブリノゲンを使用することが有利であることを示す。
【0220】
髄核及び線維輪細胞増殖における、1/10〜1/5のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含むVIPCC、及び1/10の比のフィブロネクチン/フィブリノゲンの精製混合物の効果を評価した。細胞増殖は、5日目の付着した細胞の百分率を、12日目の付着した細胞の百分率から減じることにより算出した。結果は、上記実験で実行した測定に基づいている。結果を表1に要約し、培養の5日後及び12日後に付着した細胞の百分率を示す。
【表1】

【0221】
表1の結果は、同じ実験のフィブロネクチンコーティングにおける付着細胞に対する(100%と見なされている)、付着した細胞の百分率として提示された。
【0222】
得られた結果は、5日目の髄核細胞付着は、1/10の比のフィブロネクチン/フィブリノゲンの精製混合物と比べて、VIPCCコーティングでは著しく高いことを示す(それぞれVIPCC及び精製混合物について56%及び22%の細胞付着)(図3A及び表1)。対照的に、線維輪軟骨細胞の細胞付着は、両方のコーティングで類似していた(それぞれVIPCC及び精製混合物に対して62%及び65%の細胞付着)(図3B及び表1)。
【0223】
更に、12日目に得られた結果は、VIPCCコーティング上に播種された線維輪細胞が、精製したフィブロネクチン/フィブリノゲン混合物コーティング(それぞれ5日目及び12日目で65%及び71%;Δ=6%)と比較して、細胞数の著しい増加を示したことを示す(それぞれ5日目及び12日目で62%及び88%;Δ=26%)。髄核細胞培養物は、同様であるが、顕著な効果を示した。VIPCCコーティングにより、細胞数が21%増加し(それぞれ5日目及び12日目で56%及び77%)、一方、フィブロネクチン/フィブリノゲン混合物コーティングによって付着した細胞が減少した(それぞれ5日目及び12日目で22%及び14%;Δ=−8%)。これらの結果は、髄核及び線維輪細胞の細胞増殖は、精製されたフィブロネクチン及びフィブリノゲン混合物から構成されるコーティングより、VIPCCコーティングの方が高く、髄核軟骨細胞は様々なコーティングによってより影響を受けたことを示す。
【0224】
実施例5:
培養した髄核に対する、VIPCC及び精製フィブロネクチン/フィブリノゲンの混合物の効果
様々な濃度のフィブロネクチン及びフィブリノゲン混合物による、髄核細胞付着及び生存率に対する効果を、XTTアッセイを用いて更に評価した。アッセイは、生存細胞の、黄色テトラゾリウム塩から可溶性オレンジホルマザン化合物に、2,3−ビス(2−メトキシ−4−ニトロ−5−スルホフェニル)−2H−テトラゾリウム−5−カルボキサニリド(XTT)を還元する能力に基づいている。
【0225】
髄核細胞は、実施例1に記載のように同じ手順を用いて調製した。平底96ウェルプレートを、30μLの以下の溶液:0.626μgの精製したフィブロネクチン、10μgの精製したヒトのフィブリノゲン、希釈したVIPCC(約1.57μgのフィブロネクチン及び10μgのフィブリノゲンを含む)、及びフィブロネクチン/フィブリノゲン混合物(0.626μg:6.26μg;1/10)のうち1種でコーティングした。溶液を放置して、無菌条件下にて層流中で乾燥させ、次いで100μLの細胞懸濁液を、1ウェルあたり1×10個の細胞という密度で、予めコーティングしたウェルに分配した。未コーティングウェルは、対照群として機能した。4時間インキュベートした後、成長培地(上述の抗生物質及び10%のFBSを補完したDMEM/ハムF12培地)を新しい培地に取り替えて、未付着の細胞を除去した。培養物を24時間、37℃で5%CO及び95%の空気の加湿雰囲気にてインキュベートした。インキュベート期間の最後に、50μLのXTT試薬(XTT−細胞増殖キット;バイオロジカル・インダストリーズ(Biological industries);カタログ番号20−300−1000)を各ウェルに添加し、培養物を37℃で4時間インキュベータに入れた。製造業者のプロトコルに従ってスペクトロELISAリーダーにより発色を読み取った。上清を廃棄し、新鮮な成長培地を添加した。アッセイを5日後に繰り返した。吸光強度は、代謝的に活性のある細胞の量に比例する。結果は、フィブロネクチンコーティング中の代謝的に活性のある細胞(100%)に対する、代謝的に活性のある細胞の百分率として示す。
【0226】
図4に見られるように、フィブリノゲンコーティングは、フィブロネクチンコーティングに比較して、髄核の代謝的に活性のある細胞の水準を著しく低下させた(それぞれ1日目及び5日目で86.4及び19.6%;Δ=−66.8%)。同じフィブリノゲン含量、1/5〜1/10の範囲のフィブロネクチン/フィブリノゲン比、及び1/10の比の精製フィブロネクチン/フィブリノゲン混合物を含む、VIPCCコーティングは、フィブリノゲンコーティングで観察された代謝的に活性のある細胞の低下を軽減することができた。この効果は、特にVIPCCコーティングで顕著であった。これらの結果は、以前の結果を確認し、純フィブロネクチン/フィブリノゲン混合物の代わりに、髄核細胞用のコーティングとしてVIPCCを用いることが有利であることを示す。したがって、活性化VIPCCで調製された髄核の組織工学用スカフォールドは、活性化純フィブロネクチン/フィブリノゲンで調製したものよりも優れている場合がある。
【0227】
実施例6:
代謝的に活性のある髄核及び線維輪細胞の百分率に対する、フィブロネクチン及びフィブリノゲン水準の効果
本研究は、代謝的に活性である培養髄核及び線維輪細胞の百分率に対する、フィブリノゲン及びフィブロネクチン水準の効果を決定することを目的とした。この目的のために、髄核及び線維輪に由来する細胞を、実施例1に記載のように調製した。平底96ウェルプレートを30μLのフィブロネクチン/フィブリノゲンコーティングでコーティングした。コーティングは、一定量のフィブロネクチン(0.626μg)と、以下のような増加する量の精製フィブリノゲン:0、3.13(1/5の比)、6.26(1/10の比)、12.5(1/20の比)、及び146μg(1/233の比)とから構成されていた。別のセットの実験を、一定かつ大量のフィブリノゲン(9.125μg)と、以下のような増加する量の精製フィブロネクチン:0.0313(1/291の比)、0.042(1/217の比)、0.0626(1/145の比)、及び0.125μg(1/73の比)とから構成されるフィブロネクチン/フィブリノゲンコーティング上で行った。
【0228】
溶液を放置して、無菌条件下にて層流中で乾燥させ、100μLの細胞懸濁液(両方の細胞調製品に対して1ウェルあたり1×10個の細胞)をウェルに入れた。
【0229】
培養物を4時間インキュベートし、成長培地(上述の抗生物質及び10%のFBSを補完したDMEM/ハムF12培地)を置換して、付着していない細胞を除去した。培養物を、37℃で、5%CO及び95%空気の加湿雰囲気にて更に24時間インキュベートした。細胞付着に対するフィブリノゲンの効果を、上記のようなXTTアッセイにより7日目、10〜13日目、及び16日目に評価した。吸光強度は、代謝的に活性である細胞の量に比例する。結果は、フィブロネクチンの吸光強度(100%)の百分率として表す。データは、少なくとも3回の別々の実験(各実験において、細胞を3匹の異なるブタの脊椎(vertebrate)から収集した)平均±標準偏差として表す。
【0230】
図5は、コーティングマトリクス中の一定量のフィブロネクチン及び増加する量のフィブリノゲンの代謝的に活性のある髄核細胞(A)、並びにコーティングマトリクス中の一定かつ大量のフィブリノゲン及び増加する量のフィブロネクチンの代謝的に活性のある髄核細胞(B)、の百分率を示す。図5Aの結果は、コーティング中の一定量のフィブロネクチン、増加する量のフィブリノゲンは、髄核の代謝的に活性である細胞の百分率を低下させることを示す。線維輪細胞は、フィブリノゲン添加によってそれ程影響を受けなかった(線維輪軟骨細胞培養物の結果は図示しない)。固定されたフィブリノゲン濃度の存在下で増加する量のフィブロネクチンは、代謝的に活性である髄核細胞の百分率を向上させなかった。更に、結果は、約1/5の比のフィブロネクチン/フィブリノゲンが、他のフィブロネクチン/フィブリノゲン比に比べて髄核軟骨細胞の付着により好適であることを示す、以前の結果と一致する。
【0231】
実施例7:
作成物中で成長した軟骨細胞の形態及び機能に対する、活性化VIPCCで調製した3次元作成物の効果
研究(ハウデンスチャイルド(Haudenschild)ら、「関節軟骨細胞の脱分化中の複数の遺伝子の差次的発現(Differential expression of multiple genes during articular chondrocyte redifferentiation)」、Anat Rec.、2001年;263巻:91〜98ページ;リー(Li)ら、「操作された線維性マトリクス中の軟骨細胞の表現型は線維の寸法により調節される(Chondrocyte phenotype in engineered fibrous matrix is regulated by fiber size)、Tissue Eng.、2006年;12巻:1775〜1785ページ;ペレッティ(Peretti)ら、「軟骨再建のための操作された細胞−スカフォールド移植片の生体力学的分析(A biomechanical analysis of an engineered cell-scaffold implant for cartilage repair)」、Ann Plast Surg.、2001年;46巻:533〜537ページ)は、表現型の変化及びプロテオグリカン合成の低下をもたらす、インビトロでの軟骨細胞の容積増大を示す。以前の例は、約1/5のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を有するVIPCCが、髄核細胞の成長により好適であることを示す。それ故、本実験は、活性化VIPCCから構成される3次元マトリクスで成長した軟骨細胞の形態を決定することを目的とした。この目的のために、750μLの線維輪又は髄核細胞懸濁液を、14mg/mLの凝塊性フィブリノゲンを含む、5倍に希釈されたVIPCCを用いて調製した。VIPCC成分を活性化して凝塊を形成するために、上述の懸濁液を、6ウェルプレート培養皿に等体積のトロンビン溶液(2IU、オムリックス・ファーマシューティカルズ(Omrix biopharmaceuticals LTD)、イリノイ州)と同時に置いた。1ウェルあたり6×10細胞を含む、3次元軟骨細胞作成物を形成した。
【0232】
凝塊の形成後、細胞作成物に、上述の抗生物質及び10%のFBSを含む、0.5mLのDMEM/ハムF12培地を補完した。ウェルプレートを5%COの加湿雰囲気にて、37℃で培養した。12時間後、培地を除去し、緊張状態を低減するために、メスを用いて側壁から作成物のいくつかを切り離した。高い緊張状態下で成長したと考えられる、付着した作成物は、対照群として機能した。
【0233】
作成物を上述の抗生物質及び10%のFBSを含むDMEM/ハムF12培地で成長させ、線維輪又は髄核をそれぞれ更に8日間又は14日間インキュベートした。培地を廃棄し、培養物を10分間、3.7%のパラホルムアルデヒド溶液で固定し、室温で10分間、アルシアンブルー(シグマ(Sigma);カタログ番号A5268)で染色した。アルシアンブルー染色は、ムコ多糖類又はグリコサミノグリカン(GAG)が軟骨細胞により特徴的に産生されることを示すために設計された。GAGファミリーに属するコンドロイチン硫酸は、通常、軟骨組織の細胞外マトリクス中では、基質を含むプロテオグリカンの形で見られる。
【0234】
結果を図6に要約し、線維輪(図6、上方パネル)及び髄核軟骨細胞(図6、下方パネル)の両方に対するアルシアンブルー染色を示す。結果は、線維輪及び髄核軟骨細胞の両方が機能的であり、コンドロイチン硫酸を作製できることを示す。脱離したスカフォールド(図6B及びD)はフィラメント状及び分枝状表現型を呈するが、一方、付着し、より緊張したスカフォールド(図6A及びC)は球体状表現型であると推定された。したがって、結果は、活性化VIPCCの3次元スカフォールドで成長した軟骨細胞は機能的であり、形成されたスカフォールドの緊張が表現型の分化に影響を与えることを示す。
【0235】
実施例8:
VIPCCの軟骨伝導能に対する、活性化VIPCCで調製した様々な3次元製剤の効果
本実験の目的は、VIPCCの軟骨伝導性に対する製剤の効果を調査することであった。単離した髄核軟骨細胞懸濁液を、上述の抗生物質を含むDMEM/ハムF12培地中で、3種のVIPCCの希釈溶液(1:2.5、1:5、1:10、これらはそれぞれ28、14、及び7mg/mLの凝塊性フィブリノゲンの最終濃度を含む)を用いて調製した。その後、上述の懸濁液を、等体積のトロンビン成分(1IU/ml、米国特許第6,121,232号に記載)と混合した。作成物の最終体積は、1:5、1:10、又は1:20の最終VIPCC希釈液及び0.5IU/mLのトロンビンを有し、30、60、又は90μLであった。全ての希釈液は、1.6×10個の髄核細胞を含んでいた。各混合物を、24ウェルプレート培養皿の中央に置いた。凝塊が形成された後、0.5トロンビンIU/mL及び20倍に希釈したVIPCCから構成される200μLの混合物を周辺に添加した。凝塊の形成後(約30分)、0.5mLの成長培地(抗生物質及び10%のFBSを補完したDMEM/ハムF12培地)を添加し、プレートを22日間5%COの加湿雰囲気にて、37℃でインキュベートした。髄核軟骨細胞の中央作成物[(様々なVIPCCの希釈液及び様々な体積(30、60、又は90μL)から構成される]からVIPCCの周辺スカフォールドに移動する能力を評価することにより、VIPCCの軟骨伝導特性を評価した。培養の22日後、培地を廃棄し、培養物を10分間、3.7%のパラホルムアルデヒド溶液で固定し、室温で10分間、アルシアンブルーで染色した。プレート中の細胞の局在化を監視することにより、移動は、60μLの体積の10倍に希釈された活性化VIPCC(7mg/mLの凝塊性フィブリノゲンを含有)のみで生じることが見出された。図7は、移動できない30μLの体積の20倍に希釈された活性化VIPCC中の髄核軟骨細胞(右)と比べて、60μLの体積の10倍に希釈された活性化VIPCC(左のパネル;細胞が整列し、ベルト状構造を形成している)の、100倍の倍率で、顕微鏡下で見たときの髄核軟骨細胞の移動を示す。更に、全ての実験群で軟骨細胞は、中央の作成物を増殖させることができ、コンドロイチン硫酸を産生することができた(結果は示さない)。これらの結果は、髄核軟骨細胞が走化性勾配を感じ、移動が化学勾配の存在下でのみ生じることを示す。
【0236】
実施例9:
椎間板注入におけるVIPCCの生体適合性
以前の例は、VIPCCが髄核細胞に用いるのに好適であることを示す。したがって、VIPCCはエクスビボで髄核細胞を成長させるために用いることができ、インビボで髄核細胞の成長を促進するために椎間板空間に注入することができる。以下の実験は、椎間板空間に注入されたオムリックスから市販されている活性化VIPCCの生体適合性を調査するために設計された。この目的のために、VIPCC及びトロンビンをブタの椎間板に注入した。
【0237】
体重74kg及び月齢6ヶ月の雌ブタ(n=1)を、現在の倫理要件に従って認可された施設で飼育した。ケタミン(10mg/kg)及びキシラジン(2mg/kg)の筋肉内用混合物で麻酔を誘導した。
【0238】
手術処置の前に身体検査を実施した(体重、体温、心拍数及び呼吸数)。ECG、脈拍、及び血圧を処理の間、監視した。
【0239】
手術処置:動物を横向きに位置づけ、前方に曲げた。造影剤が用いられ、フルオログラフィーを用いてIVD空洞の位置を突き止めるための視覚的指針として機能した。用いられた造影剤は、ヨウ素(0.37g/mLヨウ素;テルハショマー(Tel Hashomer)、イリノイ州)であった。注入は、23Gの脊髄用針90mm(「フェニックス(phoenix)」、小林商事株式会社(日本、東京))に接続した注射器を用いて実施した。
【0240】
注入処置を実施するために、IVD胸椎10〜11(T10〜T11)に、希釈したヨウ素(生理食塩水と1:1)を充填した。
【0241】
いったん注入処置がうまくいくと、以下のような順番でIVD注入を行った:
1.IVD L〜L及びL〜Lを〜200〜300μLの生理食塩水とともに注入した。
2.IVD L〜L及びL〜Lを、オムリックス注入装置を用いて同時に適用される(合計体積〜200〜300μLで同様の量)、VIPCC及びトロンビン(米国特許第7,125,569B号に記載のような)とともに注入して、固体ゲルを形成した。
【0242】
各注入前に、正確な適用部位を確認するために(活性化VIPCCを注入するために十分な円板内空間を残すように少量を注入する)、非常に少量の(針の先端に存在する)1:10で希釈した造影剤をIVD空間に注入した。
【0243】
図8は、椎間板に注入された対照(A;生理食塩水)及び活性化VIPCC(B)のフルオログラフィー像を示す。造影剤をIVDに注入された活性化VIPCCにおいて不可視化した。
【0244】
注入処置後、写真及びデジタルビデオで記録した。
【0245】
手術後の介護:手術後の最初の2日間、非ステロイド性鎮痛剤(30mg/kgのジピロン)及び抗生物質(0.02mL/kgのマルボシル(marbocyl))を動物に投与した。動物を14日間入院させ、移動活動(例えば、起立、歩行)、飲食パターン、及び挙動特性の観察を監視した。
【0246】
観察中動物は正常に飲食した。最初の6日間、動物の起床能が向上した。動物は、後足が弱くなり、歩行中、足を交差させているのが見られた。6日目までには、動物は安定して歩くことができた。観察期間中、発熱は検出されなかった。13日目に、動物の体重は77.5kg(4.5kg増えた)であった。
【0247】
試料回収:動物を手術の14日後に屠殺し、組織学的分析のために腰椎を除去した。
【0248】
注入された、単離した腰椎は、その周囲の組織に損傷又は炎症の徴候を示さなかった(図9)。
【0249】
注入されたIVD標本を、上記処置に従って(実施例1)単離し、組織が組織学的評価のために十分柔らかくなるまで8%のギ酸で脱灰した。
【0250】
図10は、対照の生理食塩水を注入した(A)、及び活性化VIPCCを注入した(B)、脱灰したIVD標本を示す。組織学評価は、髄核領域のヘマトキシリン及びエオシン染色により行った。対照の生理食塩水を注入されたIVDは、典型的な壊死的損傷、濃縮核、及び核溶解とともに、軟骨細胞の塊を示した(図11A、13A)。活性化VIPCCを注入したIVDは、典型的には空胞化した細胞質構造とともに、末梢領域で生存可能な軟骨細胞の群を示した(図11B、13B)。髄格の中心領域は、両方の実験群において、末梢領域に比べて強い着色を示した(図12A−対照及びB−活性化VIPCC注入)。対照群では、差がより顕著であった。末梢領域における低強度の着色は、点在する細胞塊を有する正常構造を示し、一方、強い着色は壊死細胞を表す。上記に示した結果は、活性化VIPCCの注入が、構造的変化を全くもたらさず、軟骨細胞組織の典型的な構造を保存することを示す。
【0251】
実施例10:
エクスビボでのIVD器官培養における髄核軟骨細胞の形態及び機能に対する、活性化VIPCCで調製した3次元スカフォールドの効果
本実験の目的は、単離したIVD内のオムリックスから市販されている活性化VIPCC作成物に配置されたときの、髄核軟骨細胞の形態及び機能を決定することであった。
【0252】
2匹のブタの腰椎(L1〜L6)をこの実験で用い、1匹は細胞を収集するため、もう1匹は髄核組織を欠く分離されたIVDを得るためのものであった。
【0253】
第1脊椎を実施例1に記載のように無菌化し、単離した椎間板を得ることができるように椎体の真ん中を切り裂いた。次いで、細胞を以下のように収集した:PBS中に6mg/mLのコラゲナーゼ及び2mg/mLのヒアルロニダーゼ(それぞれシグマ(Sigma)のカタログ番号C−6885及びH−2126)を含む250μLの消化溶液を、16Gの針に接続した1mLの注射器を用いて髄核組織に注入した。消化溶液を含む椎間板を37℃で1時間インキュベートした。インキュベート期間後、消化した髄核組織を抜き出し、生存率を以下のようなトリパンブルー染料排除法を用いて評価した:80μLのトリパンブルー溶液(シグマ(Sigma)カタログ番号T8154;0.15%にPBSで希釈)を20μLの細胞懸濁液と混合し、細胞生存率を、血球計を用いて測定した。細胞生存率は、生存細胞数の総細胞数に対する比により定義した。全ての実験で、生存率は80%を超えていた。
【0254】
第2脊椎は電気骨鋸を用いて椎体の中央を切断し、髄核組織を16Gの針を通して強く吸引し(0.2〜0.5mL)(タンパク質分解酵素を使用せず)、髄核組織を欠く分離されたIVDを得た。上述の収集した細胞(消化溶液により抽出された)を20倍に希釈したVIPCC(上述の抗生物質を補完したDMEMハムF12培地中)成分に懸濁し(1mLあたり5×10個の細胞)、1000IU/mLのトロンビン溶液と同時に(総体積〜200〜500μLで等量)、注入装置(イリノイ州オムリックス)に取り付けた16Gの針を通して髄核組織を欠くIVDに注入した。凝塊を形成した後、注入したIVDを、予め抗生物質(0.2%ペニシリンストレプトマイシン(PenStrep))を含む1cmのPBSを充填した、プラスチックの箱内のプラスチックの台上に置いた。この方法で加湿環境が提供された(IVDはPBSに直接接触しなかった)。
【0255】
細胞を注入したIVDを37℃で2、3又は6日間インキュベートした。1時間インキュベートしたIVDは、対照群として機能した。インキュベート後、メスを用いて板を半分に切断し、髄核領域の内容物を除去し、3.7%のホルムアルデヒド溶液で少なくとも24時間固定した。この工程後、PBSに浸漬した(10分×3回)。試料を、70%、85%、95%と濃度の上昇する一連のアルコール、及び100%のエタノールで3回脱水し(各洗浄は20分間)、続いてヒストクリア(ギャボット・バイオケミカル・インダストリー(Gadot Biochemical Industries Ltd.)、カタログ番号L80033240)で各30分間、3回洗浄した。次いで、試料をヒストクリアとパラフィンの1:1混合物に入れ、60℃のオーブンで1時間×2回加熱した。標本を、次いで、以下のパラフィン浸漬:60℃で2時間、60℃で一晩、及び60℃で2時間を2回、に供した。次いで、組織を熱パラフィンで完全にプラスチックの組織学用カセットに包埋し、放置して4℃で冷却した。
【0256】
パラフィンに包埋された組織から8μmの厚さの連続切片を得て、上述のようにアルシアンブルーを用いてコンドロイチン硫酸を染色した。対比染色のために、製造業者の説明書に従って、ニュークレアファーストレッド(シグマ(Sigma)カタログ番号8002)を用いた。
【0257】
図14は、髄核細胞の形態、及び単離した椎間板内で20倍に希釈したVIPCC及びトロンビン混合物から形成された3次元スカフォールドに配置された軟骨細胞のコンドロイチン硫酸産生を示す。注入処置の1時間、3日後及び6日後に、倒立蛍光顕微鏡を用いて組織学評価を行った。
【0258】
対照群は、細胞の周囲環境でコンドロイチン硫酸の発現を示さなかった(図14A)。コンドロイチン硫酸の発現は、3日目以降に見ることができた。注入の3日後(図14B)及び6日後(図示せず)、コンドロイチン硫酸の著しい発現が、凝塊全体及び細胞周辺にわたって明らかである。6日目、明らかに、タンパク質分解酵素の分泌及び最終的には作成物の溶解を導く(図示せず)、細胞数の増加の結果として、細胞を取り囲む領域に大きな空間が見られた。
【0259】
また、結果は、軟骨細胞が、注入後(図14B)の全ての時点で、活性化VIPCCから形成された3Dスカフォールドでは、典型的な丸みを帯びた表現型であると推定されたことを示す。
【0260】
これらの結果は、活性化VIPCCが椎間板内に注入された髄核細胞の成長及び機能を支持し、細胞がその球体状の野性型の形態を維持し、コンドロイチン硫酸を産生することを可能にすることを示す。
【0261】
実施例11:
注入可能な活性化VIPCCを用いる椎間板の高さの回復
髄核は、圧迫荷重に耐えることができ、線維輪は張力に耐え、機械的強度を与えることができる(レベル(Revell)ら、「注入可能なポリマーを用いた、ブタにおける組織工学による椎間板再建(Tissue engineered intervertebral disc repair in the pig using injectable polymers)」、J Mater Sci Mater Med.、2007年;18巻:303〜308ページ)。以下の例は、オムリックスから市販されている活性化VIPCCを用いて、圧縮荷重に耐え、板の元の高さを実質的に保持する能力を例証する。単離した椎間板を得るために、ブタの腰椎を、電気骨鋸を用いて中央で切断した。その後、単離した椎間板を、電気研磨機を用いて平坦化して、滑らかで平行な対称的上面及び下面を作製した。単離した椎間板を、張力及び圧縮試験機(LFプラス、LLOYDインスツルメンツ(LF plus, LLOYD instruments Ltd)、英国ハンプシャー(Hampshire))に入れ、徐々に荷重を増加させながら(25〜500N)圧縮を測定した。
【0262】
25〜500Nで圧縮測定後、初期試料高さを測定するために、各椎間板を10Nの荷重で測定した。次いで、椎間板を、実施例10に記載のように消化溶液を注入することにより空にした。次に、2本の、16Gの針に接続した注射器を、単離したIVDの両側に適用して、最大2mLのPBSをIVDに注入した。板空間を空にし、数回充填し、次いでIVDの内容物を廃棄した。後者の処置を3回実行した。この処置を、約2mLのEDTA(10mM;リーデル−デ−ヘン(Riedel-de-Haen)カタログ番号34549)を用いて1回繰り返した。その後、空になった板の圧縮を、増加する荷重下で測定した。500Nにおける圧縮が、最大圧縮可能値であると考えられた。空にした板を、16Gの針を用いて2回穿刺し、合計4個の16G穴を得た。
【0263】
穿刺された空の板に、オムリックス注入装置を用いて、PBS又はVIPCC及びトロンビン(等体積で同時に適用された;オムリックス・バイオファーマシューティカルズ(Omrix biopharmaceuticals LTD)、イリノイ州)を注入した。過剰な溶液が注入部位からあふれるまで、存在する穿刺に溶液を注入した。再充填した椎間板を室温で約30分間インキュベートした。インキュベート期間後、充填した板の圧縮測定を、異なる荷重下で実行した。全ての測定を5回繰り返した。
【0264】
図15は、未処理板、空の板、及び再充填した板(PBS又はVIPCC及びトロンビン)の増加する力荷重下における板圧縮の百分率を示す。結果は、以下の式に従って、最大圧縮可能値で除した、特定の荷重における圧縮のδ(10N荷重下の未処理板の圧縮−XN荷重下の再充填した板の圧縮)として表す。
【数1】

【0265】
図16は、活性化VIPCC又はPBSのいずれかを注入した板の高さ回復を示す。結果は、図15に示した測定値に基づく(500N下での圧縮)。結果は、以下の式に従って、同じ実験における500N荷重下の未処理板の最大圧縮可能値(100%)の百分率として表す。
【数2】

【0266】
結果は、全ての試験群で、板に適用された力の増加が板の圧縮増加を導くことを示す。増加する力の関数としての、活性化VIPCCを注入した板の圧縮挙動は、未処理板と類似している。
【0267】
結果はまた、PBSを注入した板に比べて、活性化VIPCCを注入した板は初期高さを回復したことを示す。
【0268】
これは、明らかに、活性化VIPCCが正常な板高さを保存するように機能することができ、天然髄核のように圧縮荷重に耐え得ることを示す。
【0269】
〔実施態様〕
(1) 脊索由来細胞を含む細胞組成物と随意に組み合わせた、ウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物(VIPCC)の使用において、前記寒冷沈降物が、脊椎疾患、障害、又は症状を治療するために、1/12より高い、又は約1/11〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を含み、但し、トラネキサム酸及びウシアプロチニンが前記寒冷沈降物濃縮物に含まれない、使用。
(2) 前記VIPCCが活性化されている、実施態様1に記載の使用。
(3) 前記VIPCCが造影剤を含む、実施態様1又は2に記載の使用。
(4) 前記造影剤がヨウ素である、実施態様3に記載の使用。
(5) 椎間板疾患、障害、又は症状を治療するための、実施態様1〜4のいずれか一項に記載の使用。
(6) 椎間板の高さを回復させるための、実施態様2又は5に記載の使用。
(7) 椎間板ヘルニアを予防するための、実施態様5に記載の使用。
(8) 前記疾患が、早期の椎間変性疾患である、実施態様5又は7に記載の使用。
(9) 前記活性化VIPCCが、進行期の椎間変性板疾患において髄核細胞を再構築するためのスカフォールドとして機能する、実施態様2〜5のいずれか一項に記載の使用。
(10) 前記活性化VIPCCが、傷ついた又は破裂した脊髄を再構築するためのスカフォールドとして機能する、実施態様2〜5のいずれか一項に記載の使用。
【0270】
(11) 前記VIPCCが約1/10〜約1/5のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含む、実施態様1〜10のいずれか一項に記載の使用。
(12) キットの使用において、前記キットが、1/12より高い、又は約1/11〜約1/5のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を有するウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物(VIPCC)を含む第1容器と、脊椎疾患、障害、又は症状を治療するためにフィブリノゲンと反応するときにフィブリンを形成できる酵素を含む第2容器と、を含み、但し、トラネキサム酸及びウシアプロチニンが前記キットに含まれない、使用。
(13) 前記VIPCCが約1/10〜約1/5のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含む、実施態様12に記載の使用。
(14) 椎間板疾患、障害、又は症状を治療するための、実施態様12又は13に記載の使用。
(15) 前記キットが造影剤を更に含む、実施態様12〜14のいずれか一項に記載の使用。
(16) 前記造影剤がヨウ素である、実施態様15に記載の使用。
(17) スカフォールドの使用において、前記スカフォールドが、脊椎疾患、障害、又は症状を治療するために、1/12より高い、又は約1/11〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を有するウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物(VIPCC)を含み、但し、トラネキサム酸及びウシアプロチニンが前記寒冷沈降物濃縮物に含まれない、使用。
(18) 前記VIPCCが約1/10〜約1/5のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含む、実施態様17に記載の使用。
(19) 椎間板疾患、障害、又は症状を治療するための、実施態様17又は18に記載の使用。
(20) キットにおいて、1/12より高い、又は約1/11〜約1/5のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を有するウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物(VIPCC)を含む第1容器と、フィブリノゲンと反応するときにフィブリンを形成できる酵素を含む第2容器と、セリンペプチダーゼ、システインペプチダーゼ、アスパラギン酸ペプチダーゼ、メタロペプチダーゼ、ヒアルロニダーゼ、及びこれらの組み合わせから成る群から選択されるタンパク質分解酵素を含む第3容器と、を含む、キット。
【0271】
(21) 前記タンパク質分解酵素が、トリプシン、キモトリプシン、膵エラスターゼ、パパインキモパパイン、ペプシン、コラゲナーゼ、ゼラチナーゼ、プロナーゼコンドロイチナーゼ、ヒアルロニダーゼ、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、実施態様20に記載のキット。
(22) 前記キットが造影剤を更に含む、実施態様20又は21に記載のキット。
(23) 前記造影剤がヨウ素である、実施態様22に記載のキット。
(24) 損傷した脊椎組織内に細胞の組成物を送達するのに好適なビヒクルにおいて、1/12より高い、又は約1/11〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を有するウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物(VIPCC)、及び脊索由来細胞を含み、但し、トラネキサム酸及びウシアプロチニンが前記寒冷沈降物濃縮物に含まれない、ビヒクル。
(25) 前記VIPCCが、約1/10〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を有する、実施態様24に記載のビヒクル。
(26) 前記損傷した脊椎組織が椎間板である、実施態様24又は25に記載のビヒクル。
(27) 前記脊索由来細胞が髄核細胞である、実施態様24〜26のいずれか一項に記載のビヒクル。
(28) 1/12より高い、又は約1/11〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を有する、ウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物(VIPCC)を含む組成物中に脊索由来細胞を含む、組織又は細胞銀行。
(29) 前記VIPCCが、約1/10〜約1/5のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含む、実施態様28に記載の組織又は細胞銀行。
(30) 前記細胞が髄核細胞である、実施態様28又は29に記載の組織又は細胞銀行。
【0272】
(31) 脊椎疾患、障害、又は症状を治療するための、実施態様20〜23に記載のキット、実施態様28若しくは30に記載の組織若しくは細胞銀行に由来する細胞、及び/又は実施態様24〜27のいずれか一項に記載のビヒクルの使用。
(32) 椎間板疾患、障害、又は症状を治療するための、実施態様31に記載の使用。
(33) ウイルス不活化血漿で活性化される寒冷沈降物濃縮物の使用において、前記寒冷沈降物が、脊椎疾患、障害、又は症状を治療するために、1/12より高い、又は約1/11〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を含み、但し、ウシアプロチニンが前記寒冷沈降物濃縮物に含まれない、使用。
(34) 前記寒冷沈降物が、約1/10〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を含む、実施態様33に記載の使用。
(35) 椎間板疾患、障害、又は症状を治療するための、実施態様33又は34に記載の使用。
(36) ウイルス不活化血漿で活性化される寒冷沈降物濃縮物の使用において、前記寒冷沈降物が、椎間板高さを回復させるために、約1/11〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を含み、但し、トラネキサム酸及びウシアプロチニンが前記寒冷沈降物濃縮物に含まれない、使用。
(37) 前記寒冷沈降物が、約1/10〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を含む、実施態様36に記載の使用。
(38) 脊索由来細胞の成長、増殖、分化、維持、修復、及び/又は回復を促進する方法において、前記細胞の集団を、1/12より高い、又は約1/11〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を有するウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物(VIPCC)と接触させることであって、但し、トラネキサム酸及びウシアプロチニンが前記寒冷沈降物濃縮物に含まれない、寒冷沈降物濃縮物と接触させること、を含む、方法。
(39) 前記VIPCCが、約1/10〜約1/5のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含む、実施態様38に記載の方法。
(40) 前記細胞が髄核細胞である、実施態様38又は39に記載の方法。
【0273】
(41) 前記VIPCCが活性化されている、実施態様38〜40のいずれか一項に記載の方法。
(42) 前記接触がエクスビボで実行される、実施態様38又は41のいずれか一項に記載の方法。
(43) 前記接触がインビボで実行される、実施態様38又は42のいずれか一項に記載の方法。
(44) 脊椎疾患、障害、又は症状を治療する方法において、脊索由来細胞を含む細胞組成物と随意に組み合わせた、ウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物(VIPCC)を必要としている被験体の脊椎内に投与することであって、前記寒冷沈降物が、1/12より高い、又は約1/11〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を含み、但し、トラネキサム酸及びウシアプロチニンが前記寒冷沈降物濃縮物に存在しない、投与することを含む、方法。
(45) 前記VIPCCが活性化されている、実施態様44に記載の方法。
(46) 椎間板疾患、障害、又は症状を治療するための、実施態様44又は45に記載の方法。
(47) 脊索由来細胞を含む細胞組成物と組み合わせて、前記VIPCCを投与することを含む、実施態様44〜46のいずれか一項に記載の方法。
(48) 前記細胞が髄核細胞である、実施態様47に記載の方法。
(49) 前記VIPCC及び前記細胞を投与する前に、椎間板由来の髄核組織の全て又は一部を切除することを含む、実施態様47又は48に記載の方法。
(50) 投与前に、前記細胞を、約1/11〜約1/5のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含むVIPCC上にてエクスビボで培養する、実施態様47〜49のいずれか一項に記載の方法。
【0274】
(51) 実施態様20〜23のいずれか一項に記載のキット、実施態様28又は30に記載の組織若しくは細胞銀行由来の細胞、及び/又は実施態様24〜27のいずれか一項に記載のビヒクルを、必要としている被験体に投与することを含む、脊椎疾患、障害、又は症状を治療する方法。
(52) 椎間板疾患、障害、又は症状を治療するための、実施態様51に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キットにおいて、1/12より高い、又は約1/11〜約1/5のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を有するウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物(VIPCC)を含む第1容器と、フィブリノゲンと反応するときにフィブリンを形成できる酵素を含む第2容器と、セリンペプチダーゼ、システインペプチダーゼ、アスパラギン酸ペプチダーゼ、メタロペプチダーゼ、ヒアルロニダーゼ、及びこれらの組み合わせから成る群から選択されるタンパク質分解酵素を含む第3容器と、を含む、キット。
【請求項2】
前記タンパク質分解酵素が、トリプシン、キモトリプシン、膵エラスターゼ、パパインキモパパイン、ペプシン、コラゲナーゼ、ゼラチナーゼ、プロナーゼコンドロイチナーゼ、ヒアルロニダーゼ、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記キットが造影剤を更に含む、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項4】
前記造影剤がヨウ素である、請求項3に記載のキット。
【請求項5】
損傷した脊椎組織内に細胞の組成物を送達するのに好適なビヒクルにおいて、1/12より高い、又は約1/11〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を有するウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物(VIPCC)、及び脊索由来細胞を含み、但し、トラネキサム酸及びウシアプロチニンが前記寒冷沈降物濃縮物に含まれない、ビヒクル。
【請求項6】
前記VIPCCが、約1/10〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を有する、請求項5に記載のビヒクル。
【請求項7】
前記損傷した脊椎組織が椎間板である、請求項5又は6に記載のビヒクル。
【請求項8】
前記脊索由来細胞が髄核細胞である、請求項5〜7のいずれか一項に記載のビヒクル。
【請求項9】
1/12より高い、又は約1/11〜約1/5の初期フィブロネクチン/フィブリノゲン相対濃度を有する、ウイルス不活化血漿寒冷沈降物濃縮物(VIPCC)を含む組成物中に脊索由来細胞を含む、組織又は細胞銀行。
【請求項10】
前記VIPCCが、約1/10〜約1/5のフィブロネクチン/フィブリノゲン比を含む、請求項9に記載の組織又は細胞銀行。
【請求項11】
前記細胞が髄核細胞である、請求項9又は10に記載の組織又は細胞銀行。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2010−537968(P2010−537968A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−522467(P2010−522467)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【国際出願番号】PCT/IB2008/002259
【国際公開番号】WO2009/027814
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(510003047)オムリックス・バイオファーマシューティカルズ・リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】Omrix Biopharmaceuticals Ltd.
【住所又は居所原語表記】Weizmann Science Park Bld. 14, Nes‐ziona 76106 Rehovot,Israel
【Fターム(参考)】