説明

脱水素シリル化反応用触媒、及び有機ケイ素化合物の製造方法

【解決手段】式(1)で示される遷移金属錯体化合物からなる脂肪族又は脂環式不飽和結合を有するシロキサンの不飽和炭素へのケイ素導入反応用触媒。
t−M−R1s(Yu) (1)
(Mは遷移金属原子、R1はH、アルキル基、アリール基、又はSiR3基。RはH、1価炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、又はシロキサン残基。Xは脂肪族不飽和基を有する環状体、トリスピラゾリルボレート、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ポルフィン、又はフタロシアニン。Yはアンモニア分子、カルボニル分子、酸素原子、酸素分子、アミン分子、ホスフィン分子、又はホスファイト分子。0<s≦3、0≦t<2、0≦u≦12、s、tは遷移金属原子の酸化数がII価又はIV価となるような数。)
【効果】本発明の触媒を用いて不飽和結合含有シロキサンと≡Si−H基を反応させると、炭素炭素二重結合を有する有機ケイ素化合物が合成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルケニル基等の脂肪族又は脂環式不飽和結合を有するシロキサンの不飽和炭素へのケイ素導入反応用触媒としての脱水素シリル化反応用触媒、及び同触媒を用いた有機ケイ素化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機能性化合物には様々な結合形式が用いられているが、特にケイ素炭素結合を有する化合物が多く使用されている。例として、シランカップリング剤、ゴム、剥離紙、接着剤、型取り剤、LIMS成形剤などが挙げられる。一般にケイ素炭素結合形成には副生成物が少なく、反応も容易であることから遷移金属触媒による水素化ケイ素化合物と不飽和化合物のヒドロシリル化反応が工業的大量生産に利用されている(非特許文献1:J. Org. Chem. 1987. 52. 4118.、非特許文献2:Org. Lett. 2005. 7. 5625.)。
【0003】
ヒドロシリル化反応は炭素炭素二重結合とSi−H基の反応例が大部分を占めるが、反応機構上ケイ素炭素結合が得られ、結合様式からその後の有機反応は行えない状況であった。そこで、炭素炭素二重結合を有する有機化合物又はSi−H基を有する化合物に反応性官能基を導入し、ヒドロシリル化反応後に、反応性官能基による変換反応を行えばよいと考えられる(特許文献1:国際公開第2007/66594号パンフレット)。しかし、このような反応性官能基は遷移金属触媒の触媒毒となり、ヒドロシリル化反応を著しく阻害することが知られている。そこでケイ素炭素結合を有し、また有機反応が可能な官能基を形成できる有機化合物の製造方法が存在すれば、より高機能な有機化合物が製造できるため非常に有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/66594号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. Org. Chem. 1987. 52. 4118.
【非特許文献2】Org. Lett. 2005. 7. 5625.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、新規な遷移金属錯体化合物触媒を用いて、Si−H基をアルケニル基等の脂肪族又は脂環式不飽和結合を有するシロキサンの不飽和炭素へ反応させ、β位にケイ素原子を有するような炭素炭素二重結合を形成させることができる脱水素シリル化反応用触媒及びこれを用いた上記二重結合を有する有機ケイ素化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、触媒として下記の特定の遷移金属錯体化合物を用いて≡Si−H基をアルケニル基等の脂肪族又は脂環式不飽和結合を有するシロキサンと反応させると、β位にケイ素原子を有するような炭素炭素二重結合を形成させる新規方法を見出した。
【0008】
即ち、下記一般式(1)
t−M−R1s(Yu) (1)
(式中、Mは3〜12族の遷移金属原子である。R1は水素原子、非置換もしくは置換の炭素数1〜10のアルキル基もしくはアリール基、又はSiR3基から形成される上記遷移金属原子の酸化数に影響を与える配位子である。Rは水素原子、非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、又はシロキサン残基を示す。Xは非置換又は置換の炭素数4〜10の脂肪族不飽和基を有する環状体、トリスピラゾリルボレート、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ポルフィン、又はフタロシアニンから形成される上記遷移金属原子の酸化数に影響を与える配位子である。Yはアンモニア分子、カルボニル分子、酸素原子、酸素分子、アミン分子、ホスフィン分子、又はホスファイト分子から形成される上記遷移金属原子の酸化数に影響を与えない配位子である。s、t、uは、0<s≦3、0≦t<2、0≦u≦12であるが、金属塩全体が中性となるような数で、更にs、tは遷移金属原子の酸化数がII価又はIV価となるような数である。)
で示される遷移金属錯体化合物を用いると、Si−H基をアルケニル基等の脂肪族又は脂環式不飽和結合を有するシロキサンの当該不飽和炭素へ反応させ、脱水素シリル化反応が進行し、β位にケイ素原子を有するような炭素炭素二重結合が形成される。特に遷移金属が8族であるようなジカルボニルシクロペンタジエニルメチル金属[以下、C55−M’’−CH3(CO)2と記載]のような遷移金属(II)触媒を用いると、β位にケイ素原子を有するような炭素炭素二重結合が容易に形成することを見出した。本反応では、以下の理論に拘束されるものではないが、遷移金属錯体化合物が加熱されることにより、遷移金属錯体に結合した配位子が脱離するか、あるいはCO挿入反応が起こり、遷移金属錯体に空配位座が発生する。この空配位座にシロキサンの炭素−炭素多重結合基もしくはSi−H基が配位し、上記の反応が進行すると考えられる。
【0009】
本発明により、β位にケイ素原子を有するような炭素炭素二重結合を有する有機ケイ素化合物が合成でき、酸化、付加反応等の二重結合由来の反応が可能であり、様々な官能基の導入が可能となる。ここで、本発明において、ケイ素についている炭素炭素二重結合の根本がα位、その先をβ位と定義する。本発明の反応ではβ位の炭素についているHがシリル基に置換する。
【0010】
従って、本発明は、下記遷移金属錯体化合物からなるケイ素導入反応用触媒及びこの触媒による脱水素シリル化反応を用いた有機ケイ素化合物の製造方法を提供する。
請求項1:
下記一般式(1)で示される遷移金属錯体化合物からなる脂肪族又は脂環式不飽和結合を有するシロキサンの不飽和炭素へのケイ素導入反応用触媒。
t−M−R1s(Yu) (1)
(式中、Mは3〜12族の遷移金属原子である。R1は水素原子、非置換もしくは置換の炭素数1〜10のアルキル基もしくはアリール基、又はSiR3基から形成される上記遷移金属原子の酸化数に影響を与える配位子である。Rは水素原子、非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、又はシロキサン残基を示す。Xは非置換又は置換の炭素数4〜10の脂肪族不飽和基を有する環状体、トリスピラゾリルボレート、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ポルフィン、又はフタロシアニンから形成される上記遷移金属原子の酸化数に影響を与える配位子である。Yはアンモニア分子、カルボニル分子、酸素原子、酸素分子、アミン分子、ホスフィン分子、又はホスファイト分子から形成される上記遷移金属原子の酸化数に影響を与えない配位子である。s、t、uは、0<s≦3、0≦t<2、0≦u≦12であるが、金属塩全体が中性となるような数で、更にs、tは遷移金属原子の酸化数がII価又はIV価となるような数である。)
請求項2:
上記遷移金属錯体化合物が、下記一般式(2)で表される化合物である請求項1に記載の遷移金属錯体化合物。
525−M’−R3s(CO)u (2)
(式中、M’は6〜11族の遷移金属であり、R2は水素原子、炭素数1〜6の炭化水素基又はSiR3基(Rは上記の通り)であり、R3は水素原子、炭素数1〜8のアルキル基もしくはアリール基、又はSiR3基(Rは上記の通り)である。s、uは上記の通りである。)
請求項3:
遷移金属錯体化合物が、下記一般式(3)で表される化合物である請求項2に記載の遷移金属錯体化合物。
55−M’’−CH3(CO)2 (3)
(式中、M’’は8族の遷移金属である。)
請求項4:
脂肪族又は脂環式不飽和結合を有するシロキサンと≡Si−H基を持つケイ素化合物を原料とし、請求項1〜3のいずれか1項に記載の遷移金属錯体化合物からなるケイ素導入反応用触媒の存在下、有機溶媒の存在あるいは非存在の条件で、脱水素シリル化反応を行って、β位にケイ素原子を有する炭素炭素二重結合を持つ有機化合物を得ることを特徴とする炭素炭素二重結合を有する有機ケイ素化合物の製造方法。
請求項5:
不飽和結合を有するシロキサンが、下記平均組成式(4)で示される分子末端及び/又は側鎖に脂肪族又は脂環式不飽和結合を含有するオルガノシロキサンから選択されることを特徴とする請求項4に記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
【化1】


(式中、R4は非置換又は置換の炭素数1〜10の脂肪族又は脂環式不飽和結合を含んでもよい1価炭化水素基であり、R5は非置換又は置換の炭素数1〜10の脂肪族又は脂環式不飽和結合を含まない1価炭化水素基である。また、オルガノシロキサン分子中の脂肪族又は脂環式不飽和結合を有する1価炭化水素基の数は2個以上であり、a、b、c、dは0又は正の数であるが、a、b、cのいずれか1つ以上は正の数である。)
請求項6:
≡Si−H基を持つケイ素化合物が、シラン化合物又はシロキサン化合物であることを特徴とする請求項4又は5に記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の遷移金属錯体化合物を用いて上記不飽和結合含有シロキサンと≡Si−H基を反応させると、炭素炭素二重結合を有する有機ケイ素化合物が合成でき、酸化、付加反応等の二重結合由来の反応が可能であり、様々な官能基の導入が可能となる。従って、本発明により、機能性化合物である耐熱材料、電子材料、あるいはゴム材料等の前駆体として有用であるβ位にケイ素原子を有するような炭素炭素二重結合を有する化合物を製造することができる。これにより機能性化合物として有用なシロキサン又はシラン化合物を高収率で製造することができ、かつβ位にケイ素原子を有するような炭素炭素二重結合を有する有用な有機ケイ素化合物が合成でき、酸化、付加反応等の二重結合由来の反応が可能であるため、様々な官能基の導入が可能となり、応用分野が広がる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の脱水素シリル化反応用触媒、及び同触媒を用いた有機ケイ素化合物の製造方法は下記成分から構成される。以下、個々の成分に関して詳しく説明する。
【0013】
脱水素シリル化反応による有機ケイ素化合物の製造方法に使用する新規な触媒は、下記一般式(1)で示される遷移金属錯体化合物である。
t−M−R1s(Yu) (1)
【0014】
Mはスカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛等の3〜12族の遷移金属である。
【0015】
1は独立に水素原子、又はメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、フェニル基、ピリジル基等のアリール基、又はこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部(1個又は2個以上)又は全部をヒドロキシ基、シアノ基、ハロゲン原子などで置換したヒドロキシプロピル基、シアノエチル基、1−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などから選択される非置換又は置換の炭素数1〜10のアルキル基、又はアリール基、又はSiR3で示される基である。Rは独立に水素原子、非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基又はアルコキシ基、ハロゲン原子、又はシロキサン残基を示す。この場合、非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子としては後述する式(5)のR8と同様のものが例示される。シロキサン残基としては、後述する式(4)において、これからケイ素原子に結合する水素原子が1個脱離した基を挙げることができる。Rとしてはアルキル基、とりわけメチル基が好ましい。
【0016】
Xはシクロペンタジエニル基、シクロヘキサジエニル基、シクロオクタテトラエニル基又はこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部(1個又は2個以上)又は全部をヒドロキシ基、シアノ基、ハロゲン原子などで置換したヒドロキシプロピル基、シアノエチル基、1−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などから選択される基で置換した又は非置換の炭素数4〜10の脂肪族不飽和基を有する環状体、トリスピラゾリルボレート、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェートなどの塩を形成する陰イオン、ポルフィン、フタロシアニンから形成される配位子である。中でもシクロペンタジエニル陰イオンが好ましい。Yはアンモニア分子、カルボニル分子、酸素原子、酸素分子、アミン分子、トリフェニルホスフィンなどのホスフィン分子、トリエチルホスファイト、トリフェニルホスファイトなどのホスファイト分子から選択される遷移金属の酸化数に影響を与えない配位子である。
【0017】
s、t、uは0<s≦3、0≦t<2、0≦u≦12である。sは0より大きく、t、uは0以上であるが、s、t、uは金属塩全体が中性となるような数で、更にs、tは遷移金属の酸化数がII価又はIV価となるような数である。好ましくはR1が水素原子又はメチル基、エチル基、フェニル基、ピリジル基などの炭素数1〜8のアルキル基又はアリール基、XはC525で表記され、R2は水素原子、メチル基、エチル基等の炭素数1〜6の炭化水素基、Yはカルボニル分子、トリフェニルホスフィンなどのホスフィン分子である。
【0018】
遷移金属錯体化合物として、下記一般式(2)
525−M’−R3s(CO)u (2)
(式中、M’は6〜11族の遷移金属であり、R2、s、uは上記の通り、R3は水素原子、炭素数1〜8のアルキル基もしくはアリール基、又はSiR3(Rは上記の通り)を示す。)
で示されるものが特に好ましく、更に好ましくは、下記一般式(3)
55−M’’−CH3(CO)2 (3)
(式中、M’’は8族の遷移金属である。)
で示されるジカルボニルシクロペンタジエニルメチル金属(II)である。
【0019】
あるいは、下記一般式(3’)
55−M’’−(SiR32(H)(CO) (3’)
(式中、M’’、Rは上記の通りであるが、特にSiR3はトリアルキルシリル基、とりわけトリメチルシリル基が好ましい。)
で示されるものである。
【0020】
即ち、下記式(A)、(C)で示されるものが特に有効に用いられる。
【化2】

【0021】
ここで、以下の理論に限定されるものではないが、(A)は触媒前駆体であり、実際の触媒活性種は(B)であると思われる。(A)を出発錯体としてこれとヒドロシランが反応して(B)が生成し、これにオレフィンとヒドロシランが順次反応してヒドロシリル化反応が起こっていると考えられる。一方、(A)に例えばヒドロシランを2当量反応させると錯体(C)が生成し、この錯体は溶液中で加熱すると遷移金属原子上からシリル基とヒドリドが還元的脱離して(B)を生じるもので、従って(C)もアルケニル基含有シロキサンの不飽和炭素へのケイ素導入反応の触媒前駆体となり、錯体(C)はIV価遷移金属錯体である。
【0022】
本発明に係る脱水素シリル化反応によるβ位にケイ素原子を有するような炭素炭素二重結合を有する有機化合物の製造においては、脂肪族又は脂環式不飽和結合を有するシロキサン、特にアルケニル基含有シロキサン、≡Si−H基を持つケイ素化合物、一般式(1)で示される遷移金属錯体化合物を用い、有機溶媒を任意成分とすると、β位にケイ素原子を有するような炭素炭素二重結合を有する有機化合物の製造が可能である。より好適に脱水素シリル化反応によりβ位にケイ素原子を有するような炭素炭素二重結合を有する有機化合物を製造するための各成分を下記に記載する。
【0023】
アルケニル基等の脂肪族又は脂環式不飽和結合を有するシロキサンとしては、以下に示す成分(D)を例示することができる。
成分(D)は、下記平均組成式(4)で示される分子末端及び/又は側鎖にアルケニル基等の脂肪族又は脂環式不飽和結合を有するオルガノポリシロキサンである。
【0024】
【化3】


(式中、R4は非置換又は置換の炭素数1〜10の脂肪族又は脂環式不飽和結合を含んでもよい1価炭化水素基であり、R5は非置換又は置換の炭素数1〜10の脂肪族又は脂環式不飽和結合を含まない1価炭化水素基である。また、オルガノシロキサン分子中の脂肪族又は脂環式不飽和結合を有する1価炭化水素基の数は2個以上であり、a、b、c、dは0又は正の数であるが、a、b、cのいずれか1つ以上は正の数である。)
【0025】
ここで、脂肪族又は脂環式不飽和結合を有する1価炭化水素基は、直鎖状又は分岐鎖状のエーテル基(−O−)又はエステル基(−COO−)を有していてもよい脂肪族炭化水素基中に炭素−炭素多重結合を有する基、又は環状のエーテル基(−O−)又はエステル基(−COO−)を有していてもよい脂肪族炭化水素基(脂環式炭化水素基)の脂環中に炭素−炭素多重結合を有する基を示し、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基等が挙げられ、ビニル基、アリル基、ヘキセニル基等の−(CH2i−CH=CH2(iは0〜6)で表される基や、シクロセキセニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等が例示される。
【0026】
上記式(4)において、R4は上記不飽和結合を有する基のほか、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基、トリル基などのアリール基、又はこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部(1個又は2個以上)又は全部をヒドロキシ基、シアノ基、ハロゲン原子などで置換したヒドロキシプロピル基、シアノエチル基、1−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などから選択される非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基である。R5はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基、トリル基などのアリール基、又はこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部(1個又は2個以上)又は全部をヒドロキシ基、シアノ基、ハロゲン原子などで置換したヒドロキシプロピル基、シアノエチル基、1−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などから選択される非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基である。
【0027】
オルガノシロキサン分子中のアルケニル基等の上記不飽和結合を有する1価炭化水素基の数は2個以上であればよく、入手の容易さや経済面からはアルケニル基としてビニル基を有するものが好ましい。具体的には、末端にビニル基を有するオルガノポリシロキサン、側鎖にビニル基を有するオルガノポリシロキサン、末端及び側鎖にビニル基を有するオルガノポリシロキサン、末端にトリビニルシロキシ単位を有するオルガノポリシロキサン、末端にトリビニルシロキシ単位を有し側鎖にビニル基を有するオルガノポリシロキサンなどが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
式(4)において、a、b、c、dは0又は正の数であるが、a、b、cのいずれかは必ず正の数で、a+b+c+d≧2となる正の数である。好ましくは2≦a+b+c+d≦2,000、より好ましくは2≦a+b+c+d≦500、更に好ましくは2≦a+b+c+d≦50である。また、aは正の数であり、更にbも正の数であることが好ましい。
【0029】
≡Si−H基を持つケイ素化合物としては、以下に示す成分(E)、(F)を例示することができる。
【0030】
成分(E)は、下記平均組成式(5)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサンである。
【化4】

【0031】
6は水素原子、又は非置換もしくは置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基であり、脂肪族不飽和結合を有さない、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基などが挙げられる。R7は非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基であり、脂肪族不飽和結合を有さない。かかる1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基などが挙げられる。また、e、f、g、hは0又は正の数であるが、e、f、gのいずれかは必ず正の数で、e+f+g+h≧2かつSi−H基を1分子中に1個以上有するものである。より好ましくは2≦e+f+g+h≦1,000であり、更に好ましくは2≦e+f+g+h≦100であり、Si数は2〜1,000、特に2〜100であることが好ましく、またSi−H数は1以上、特に1〜100であることが好ましい。
【0032】
このハイドロジェンシロキサンの配合量は、ケイ素原子に結合した水素原子のモル数がアルケニル基等の上記不飽和基含有シロキサンのアルケニル基等の不飽和基の総数に対して0.3〜10倍モルに相当する質量部になるようにすればよく、好ましくは0.5〜5倍モルに相当する質量部であればよい。配合量が0.3倍モル未満では、アルケニル基等の不飽和基含有シロキサンの不飽和炭素へのケイ素導入反応のもう一方の反応原料である炭素−炭素多重結合基を持つ有機化合物の残存量が多くなるため実用的ではなく、また10倍モルを超えて用いても、アルケニル基等の不飽和基含有シロキサンの不飽和炭素へのケイ素導入反応の収率は向上しない。
【0033】
成分(F)は、下記一般式(6)で示される≡Si−H基を持つシラン化合物である。
【化5】

【0034】
8は水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基、ビフェニル基などのアリール基、又はこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部(1個又は2個以上)又は全部をヒドロキシ基、シアノ基、ハロゲン原子などで置換したトリフルオロメチル基、ヒドロキシプロピル基、シアノエチル基などから選択される非置換又は置換の炭素数1〜10の炭化水素基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基などの非置換又は置換の炭素数1〜10のアルコキシ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子などが挙げられる。反応性の面からアルキル基、アリール基、アルコキシ基が好ましく、更に好ましくはアルキル基、アルコキシ基である。
【0035】
このシラン化合物の使用量は、ケイ素原子に結合した水素原子のモル数が上記ポリシロキサンのアルケニル基等の不飽和基の総数に対して0.3〜10倍モルに相当する質量部になるようにすればよく、好ましくは0.5〜5倍モルに相当する質量部であればよい。配合量が0.3倍モル未満では、アルケニル基等の不飽和基含有シロキサンの不飽和炭素へのケイ素導入反応のもう一方の反応原料である炭素−炭素多重結合基を持つ有機化合物の残存量が多くなるため実用的ではなく、また10倍モルを超えて用いても、アルケニル基等の不飽和基含有シロキサンの不飽和炭素へのケイ素導入反応の収率は向上しない。
【0036】
成分(G)は、アルケニル基等の不飽和基含有シロキサンの不飽和炭素へのケイ素導入反応用触媒であり、一般式(1)で示される遷移金属錯体化合物である。
上記の遷移金属錯体化合物は、成分(D)中のアルケニル基等の不飽和基の総数に対して0.0001〜10倍モル、好ましくは0.001〜1倍モルが好適に使用できる。
【0037】
また、炭素炭素二重結合を有する有機化合物の製造に関しては、任意で有機溶剤を使用することができる。有機溶剤としては脱水素シリル化反応に関与しない有機溶剤、好ましくは炭化水素系、更に好ましくはヘプタン、オクタン、トルエンである。
【0038】
上記の脱水素シリル化反応による炭素炭素二重結合を有する有機化合物の製造は、反応温度として20〜150℃、好ましくは50〜120℃である。
なお、上記有機ケイ素化合物を得る反応式の一例を挙げると、下記の通りである。
【0039】
【化6】

【実施例】
【0040】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0041】
[脱水素化シリル化反応を用いた有機ケイ素化合物の製造]
下記には、新規なヒドロシリル化反応用触媒を用いた有機ケイ素化合物の製造について記載する。
ここで、下記に示すMeはメチル基、Phはフェニル基を表す。
【0042】
[実施例1]
窒素で置換したシュレンク管に、C55Fe(CO)2CH3[ジカルボニルシクロペンタジエニルメチル鉄(II)]192mg(1.0mmol)、ペンタメチルジシロキサン912μL(4.0mmol)をトルエン5mLに溶解させ、光照射を5℃で2時間行った。減圧下で過剰量のシランと溶媒を留去した後、ヘキサン1mLに溶解させ、ろ過し、再度、減圧下で溶媒を留去することにより、目的とする鉄(IV)錯体C55FeH(SiMe2OSiMe32(CO)(7)を355mg得た。
【0043】
【化7】

【0044】
収率:80%
元素分析:C16363Si4Fe、理論値(%) C:43.22%,H:8.16%、実測値(%) C:42.82%,H:7.84%.
1HNMR(400MHz,C66,rt)δ=−13.72(s,1H,Fe−H)、0.18(s,18H,SiMe3)、0.64(s,6H,SiMe2)、0.69(s,6H,SiMe2)、4.25(s,5H,C55).
13C{1H}NMR(100.4MHz,C66,rt)δ=2.43(s,SiMe3)、13.11(s,SiMe2)、13.32(s,SiMe2)、84.00(s,C55)、213.15(CO).
【0045】
[実施例2]
窒素で置換したシュレンク管に、C55(CO)FeH(SiMe2OSiMe32、45mg(0.1mmol,4mol%)、ペンタメチルジシロキサン1.47mL(7.5mmol)、1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン0.57mL(2.5mmol)及びトルエン1.0mLを加え、80℃で24時間攪拌した。冷却後、反応混合物を減圧濃縮した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(充填剤:アルミナ、展開溶媒:ヘキサン)で精製し、E構造体である生成物2,2,4,4,7,7,9,9−オクタメチル−3,8−ジオキサ−2,4,7,9−テトラシラウンデカ−5−エン生成物(8)を定量的に得た。
【0046】
【化8】

【0047】
元素分析値:C13342Si4、理論値(%) C:46.64%,H:10.24%、実測値(%) C:46.99%,H:10.37%.
質量分析値(EI):C13342Si4:334.1635、実測値:334.1636.
1HNMR(400MHz,CDCl3)δ=0.06(s,6H,OSi(C32CH2)、0.08(s,9H,Si(C33)、0.13(s,12H,(C32SiCH=CHSi(C32)、0.51(q,3HH=8Hz,2H,C2CH3)、0.90(t,3HH=8Hz,3H,CH23)、6.59(s,2H,C=C).
13CNMR(100.4MHz,CDCl3)δ=−0.08(q,1CH=117.4Hz,OSi(32CH2)、0.36(q,1CH=117.7Hz,(32SiCH=CHSi(32)、2.08(q,1CH=117.7Hz,Si(33)、6.87(qt,1CH=126.0Hz,2CH=4.9Hz,CH23)、10.14(tm,1CH=116.9Hz,2CH3)、150.40(dm,1CH=139.3Hz,H=H).
29SiNMR(79.3MHz,CDCl3)δ=−5.07,−4.82,8.26,9.52.
【0048】
[実施例3]
窒素で置換したシュレンク管に、C55Fe(CO)2CH3[ジカルボニルシクロペンタジエニルメチル鉄(II)]17.6mg(0.091mmol)、1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン0.501mL(2.18mmol)、ペンタメチルジシロキサン1.29mL(6.55mmol)にトルエン1mLを添加し、80℃で24時間攪拌した。冷却後、反応混合物を減圧濃縮した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(充填剤:シリカゲル、展開溶媒:ヘキサン)で精製し、E構造体である生成物2,2,4,4,7,7,9,9−オクタメチル−3,8−ジオキサ−2,4,7,9−テトラシラウンデカ−5−エン(8)を590mg得た。収率84%。
【0049】
[実施例4]
窒素で置換したシュレンク管に、C55Fe(CO)2CH3[ジカルボニルシクロペンタジエニルメチル鉄(II)]20.7mg(0.107mmol)、1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン0.601mL(2.67mmol)、ジフェニルメチルシラン1.56mL(7.86mmol)にトルエン1mLを添加し、80℃で48時間攪拌した。冷却後、反応混合物を減圧濃縮した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(充填剤:シリカゲル、展開溶媒:ヘキサン)で精製し、E構造体である生成物5,5,7,7−テトラメチル−2,2−ジフェニル−6−オキサ−2,5,7−トリシラノナ−3−エン(9)を728mg得た。
【0050】
【化9】

【0051】
収率72%
元素分析値:C2132OSi3、理論値(%) C:65.56%,H:8.38%、実測値(%) C:65.98%,H:8.25%.
質量分析値(EI):C2132OSi3:384.1761、実測値:384.1759.
1HNMR(400MHz,CDCl3)δ=0.05(s,6H,OSi(C32CH2)、0.16(s,6H,O(C32SiCH=CH)、0.50(q,3HH=8Hz,2H,C2CH3)、0.64(s,3H,C3SiPh2)、0.92(t,3HH=8Hz,3H,CH23)、6.71(d,3HH=22.4Hz,1H,CH=CH)、6.95(d,3HH=22.4Hz,1H,CH=CH)、7.36−7.52(m,10H,Ph).
13CNMR(100.4MHz,CDCl3)δ=−3.91(q,1CH=120.0Hz,3SiPh2)、−0.07(q,1CH=117.6Hz,OSi(32CH2)、0.61(q,1CH=118.4Hz,O(32SiCH=CH)、7.03(qt,1CH=125.8Hz,2CH=4.9Hz,CH23)、10.26(tm,1CH=116.7Hz,2CH3)、127.88(dd,1CH=159.8Hz,2CH=5.0Hz,ortho−C in Ph)、129.31(dt,1CH=159.0Hz,2CH=7.4Hz,para−C in Ph)、134.96(ddd,1CH=158.2Hz,2CH=7.4Hz,meta−C in Ph)、136.47(s,ipso−C in Ph)、146.05(d,1CH=135.0Hz,CH=CH)、154.71(d,1CH=135.0Hz,CH=CH).
29SiNMR(79.3MHz,CDCl3)δ=−15.15,−5.17,−4.01.
【0052】
[実施例5]
窒素で置換したシュレンク管に、C55Fe(CO)2CH3[ジカルボニルシクロペンタジエニルメチル鉄(II)]26.1mg(0.135mmol)、1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン0.308mL(1.35mmol)、ベンジルジメチルシラン0.639mL(4.03mmol)にトルエン1mLを混合し、80℃で48時間攪拌した。冷却後、反応混合物を減圧濃縮した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(充填剤:シリカゲル、展開溶媒:ヘキサン)で精製し、E構造体である2,2,5,5,7,7−ヘキサメチル−1−フェニル−6−オキサ−2,5,7−トリシラノナ−3−エン(10)を213mg得た。
【0053】
【化10】

【0054】
収率46%
元素分析値:C1732OSi3、理論値(%) C:60.64%,H:9.58%、実測値(%) C:61.31%,H:9.83%.
1HNMR(400MHz,CDCl3)δ=0.04(s,12H,(C32SiOSi(C32)、0.09(s,6H,PhCH2Si(C32)、0.49(qt,3HH=7.8Hz,2H,C2CH3)、0.92(t,3HH=7.8Hz,3H,CH23)、2.13(s,2H,PhC2Si(CH32)、6.56(d,3HH=22.4Hz,1H,CH=CH)、6.59(d,3HH=22.4Hz,1H,CH=CH)、6.77(d,3HH=7.3Hz,2H,ortho−H in Ph)、7.03(t,3HH=7.3Hz,1H,para−H in Ph)、7.19(t,3HH=7.3Hz,2H,meta−H in Ph).
13CNMR(100.4MHz,CDCl3)δ=−3.59(q,1CH=118.4Hz,PhCH3Si(32)、−0.09(q,1CH=117.6Hz,OSi(32CH2)、0.58(q,1CH=118.4Hz,O(32SiCH=CH)、7.03(qt,1CH=125.8Hz,3CH=4.9Hz,2CH3)、10.26(tm,1CH=118.4Hz,2CH3)、25.93(t,1CH=120.0Hz,Ph2Si(CH32)、124.00(dt,1CH=160.6Hz,2CH=7.4Hz,para−C in Ph)、127.39−129.01(dm,overlapped ortho− and meta−C in Ph)、140.03(t,2CH=6.5Hz,ipso−C in Ph)、148.93(dm,1CH=140.0Hz,CH=CH)、151.61(dm,1CH=139.9Hz,CH=CH).
【0055】
[実施例6]
窒素で置換したシュレンク管に、C55Fe(CO)2CH3[ジカルボニルシクロペンタジエニルメチル鉄(II)]22.8mg(0.118mmol)、1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン0.675mL(2.95mmol)、2−ハイドロジェンヘプタメチルトリシロキサン2.39mL(8.83mmol)にトルエン1mLを混合し、80℃で96時間攪拌した。冷却後、反応混合物を減圧濃縮した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(充填剤:シリカゲル、展開溶媒:ヘキサン)で精製し、E構造体である5,5,7,7−テトラメチル−2,2−ビス(トリメチルシロキシ)−6−オキサ−2,5,7−トリシラノナ−3−エン(11)を1.20g得た。
【0056】
【化11】

【0057】
収率:79%
元素分析値:C15403Si5、理論値(%) C:44.06%,H:9.86%、実測値(%) C:43.83%,H:9.74%.
1HNMR(400MHz,CDCl3)δ=0.04(s,6H,OSi(C32CH2)、0.10(s,18H,OSi(C33)、0.12(s,O(C32SiCH=CH overlapped with C3Si(OSiMe32)、0.50(q,3HH=7.8Hz,2H,C2CH3)、0.92(t,3HH=7.8Hz,3H,CH23)、6.43(d,1H,3HH=22.4Hz,CH=CHA)、6.62(d,1H,3HH=22.4Hz,CH=CHA').
13CNMR(100.4MHz,CDCl3)δ=−0.07(q,1CH=118.4Hz,O2Si3)、−0.03(q,1CH=117.5Hz,OSi(32CH2)、0.45(q,1CH=118.4Hz,O(32SiCH=CH)、2.10(q,1CH=117.5Hz,Si(33)、7.00(qt,1CH=125.8Hz,2CH=4.9Hz,CH23)、10.23(tm,1CH=114.9Hz,2CH3)、148.12(dm,1CH=132.5Hz,CH=CH)、151.61(dm,1CH=130.8Hz,CH=CH).
29SiNMR(79.3MHz,CDCl3)δ=−35.81,−4.56,8.11,9.73.
【0058】
[実施例7]
窒素で置換したシュレンク管に、C55Fe(CO)2CH3[ジカルボニルシクロペンタジエニルメチル鉄(II)]22.8mg(0.118mmol)、1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン0.675mL(2.95mmol)、ジメチルフェニルシラン1.34mL(8.80mmol)にトルエン1mLを混合し、80℃で24時間加熱した。反応混合物を減圧乾固し、得られた残渣をヘキサンに溶解し、カラムクロマトグラフィー(充填剤:シリカゲル、展開溶媒:ヘキサン)で精製した。流出液を集め、溶媒を除去して、E構造体である無色油状の2,5,5,7,7−ペンタメチル−2−フェニル−6−オキサ−2,5,7−トリシラノナ−3−エン(12)を128mg(0.396mmol)得た。収率13%。
【0059】
【化12】

【0060】
1HNMR(400MHz,CDCl3):δ=0.04(s,6H,OSi(C32CH2)、0.14(s,6H,O(C32SiCH=CH)、0.31(s,6H,(C32SiPh)、0.49(q,3HH=8.0Hz,2H,C2CH3)、0.92(t,3HH=8.0Hz,3H,CH23)、6.71(d,3HH=22.4Hz,1H,CH=CH)、6.95(d,3HH=22.4Hz,1H,CH=CH)、7.36−7.53(m,5H,Ph).
【0061】
[実施例8]
窒素で置換したシュレンク管に、C55Fe(CO)2CH3[ジカルボニルシクロペンタジエニルメチル鉄(II)]20.0mg(0.104mmol)、1,3−ジビニルテトラフェニルジシロキサン1.13g(2.60mmol)、ペンタメチルジシロキサン1.52mL(7.55mmol)にトルエン1mLを混合し、80℃で72時間加熱した。反応混合物を減圧乾固し、得られた残渣をヘキサンに溶解し、カラムクロマトグラフィー(充填剤:シリカゲル、展開溶媒:ヘキサン)で精製した。流出液を集め、溶媒を除去して、E構造体である無色油状の2,2,4,4−テトラメチル−7,7,9,9−テトラフェニル−3,8−ジオキサ−2,4,7,9−テトラシラウンデカ−5−エン(13)を218mg(0.373mmol)得た。収率14%。
【0062】
【化13】

【0063】
1HNMR(400MHz,CDCl3):δ=−0.04(s,9H,Si(C33)、0.05(s,6H,Si(C32)、0.92(m,3H,CH23)、1.03(m,2H,C2CH3)、6.66(d,3HH=22.0Hz,1H,CH=CH)、6.80(d,3HH=22.4Hz,1H,CH=CH)、7.26−7.48(m,20H,Ph).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される遷移金属錯体化合物からなる脂肪族又は脂環式不飽和結合を有するシロキサンの不飽和炭素へのケイ素導入反応用触媒。
t−M−R1s(Yu) (1)
(式中、Mは3〜12族の遷移金属原子である。R1は水素原子、非置換もしくは置換の炭素数1〜10のアルキル基もしくはアリール基、又はSiR3基から形成される上記遷移金属原子の酸化数に影響を与える配位子である。Rは水素原子、非置換又は置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、又はシロキサン残基を示す。Xは非置換又は置換の炭素数4〜10の脂肪族不飽和基を有する環状体、トリスピラゾリルボレート、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ポルフィン、又はフタロシアニンから形成される上記遷移金属原子の酸化数に影響を与える配位子である。Yはアンモニア分子、カルボニル分子、酸素原子、酸素分子、アミン分子、ホスフィン分子、又はホスファイト分子から形成される上記遷移金属原子の酸化数に影響を与えない配位子である。s、t、uは、0<s≦3、0≦t<2、0≦u≦12であるが、金属塩全体が中性となるような数で、更にs、tは遷移金属原子の酸化数がII価又はIV価となるような数である。)
【請求項2】
上記遷移金属錯体化合物が、下記一般式(2)で表される化合物である請求項1に記載の遷移金属錯体化合物。
525−M’−R3s(CO)u (2)
(式中、M’は6〜11族の遷移金属であり、R2は水素原子、炭素数1〜6の炭化水素基又はSiR3基(Rは上記の通り)であり、R3は水素原子、炭素数1〜8のアルキル基もしくはアリール基、又はSiR3基(Rは上記の通り)である。s、uは上記の通りである。)
【請求項3】
遷移金属錯体化合物が、下記一般式(3)で表される化合物である請求項2に記載の遷移金属錯体化合物。
55−M’’−CH3(CO)2 (3)
(式中、M’’は8族の遷移金属である。)
【請求項4】
脂肪族又は脂環式不飽和結合を有するシロキサンと≡Si−H基を持つケイ素化合物を原料とし、請求項1〜3のいずれか1項に記載の遷移金属錯体化合物からなるケイ素導入反応用触媒の存在下、有機溶媒の存在あるいは非存在の条件で、脱水素シリル化反応を行って、β位にケイ素原子を有する炭素炭素二重結合を持つ有機化合物を得ることを特徴とする炭素炭素二重結合を有する有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項5】
不飽和結合を有するシロキサンが、下記平均組成式(4)で示される分子末端及び/又は側鎖に脂肪族又は脂環式不飽和結合を含有するオルガノシロキサンから選択されることを特徴とする請求項4に記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
【化1】


(式中、R4は非置換又は置換の炭素数1〜10の脂肪族又は脂環式不飽和結合を含んでもよい1価炭化水素基であり、R5は非置換又は置換の炭素数1〜10の脂肪族又は脂環式不飽和結合を含まない1価炭化水素基である。また、オルガノシロキサン分子中の脂肪族又は脂環式不飽和結合を有する1価炭化水素基の数は2個以上であり、a、b、c、dは0又は正の数であるが、a、b、cのいずれか1つ以上は正の数である。)
【請求項6】
≡Si−H基を持つケイ素化合物が、シラン化合物又はシロキサン化合物であることを特徴とする請求項4又は5に記載の有機ケイ素化合物の製造方法。

【公開番号】特開2011−45798(P2011−45798A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193964(P2009−193964)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】